俺、波成昌也には好きな女子がいる。
その娘は俺と同じ一年の同級生で三組同じクラスの娘。
名前は速水巴、ちょっとしたこのクラスのムードメーカー。
そんな娘。

「速水さん、この本って？」
「ああ、これは……」

そして同じ図書委員、意図してそうなった訳じゃないけども、同じだ。

「ありがとう」
「へへー、良いってことよ〜」
「女の子がそれはどうなんだ？」
「気にしちゃ負け」

こんなおちゃらけた明るい女の子だ。
俺がこの娘を好きになったのはちょっとしたものだ。
初めは同じクラスだったけどもさほど意識はしてなかった。
明るいムードメーカー、ただそれだけの存在だった。
何？早く好きになったときのことを聞かせろって？
ちょっとは待ってくれよ、俺の初恋なんだ、長話くらい良いだろ？
実際はそんなに長くないから、気を長く持てば拍子抜けするほど早い。
……まあ、始まりは委員が決まって図書室で待ってたときだ。










「昌也くん、ごめんね、待たせた？」
「いや、大丈夫、用事の方は？」
「もう終わったよ」

何時ものように明るく、元気な姿だった。
用事とやらが良くわからなかったけど、俺はそれを流して仕方ないよと許した。
許すなんて上から目線なほどでもないけどな。
それが何度かあったんだ、大抵は友達とのや先生とのあれこれ。
友達のことに関してはどうかとも思うかもしれないが、仕事が多いときでもなかったし、それに男だ、気長に待てよって話だ。
精々五分やちょっとなんだから。
人が少なく暇なときは二人で色々話して仲良くなった。
そんなときだ、またその日は何時もよりも遅れて図書室に来たんだ。
そしてどこか悩んでいるかのような、そんな表情で、それを見た俺はつい聞いてしまった。

「何かあったのか？」
「え？……あ、いやね」

何時ものような元気さは少し薄れ歯切れが悪かった。
それが不安になってさらに聞いた。

「本当に大丈夫なのか？」
「……うん、ちょっとね、仲良くしてた先輩にさ、告白されちゃって」
「え……マジ？」
「ま、マジ」

その言葉で俺は驚いた、そんな浮いた話は今まで聞いたことがなかったから。
そんな話を聞いて速水さんを俺はまじまじと見てしまった。
見た目は良く言えば平凡、悪く言えばちょっと暗い、可愛いかと言われれば唸る、そんな女の子。
スタイルもそこまでぱっとはしない、寧ろ少し乏しい、それ以外の部分も。
それでも性格の良さは知っていたし、無くもない話かと俺は思った。
そのときの俺は速水さんのことを好きな人にはなっていなかったからこう言った。

「いい人なのか？」
「いい人……ではあるかな」
「だったら良いんじゃ？そうやって悩んでるってことは断るかってことでしょ？」
「うん……」

俺はそのときなんでそうやって悩んでいるのかわからなかった。
そうしてるときに速水さんは言った。

「断ろうかな」

そう言った。
俺は俺と会って先まで悩んでいた速水さんのその答えの意味を理解してはいなかった。









さて、ここまでは仲良くなるまでの話だ。
次は好きになるに至った理由、それを話す。










そんな風に生活を送っていたときに、ある日テレビであることが流れた。
それは魔物娘と呼ばれるものと同盟を結んだとか言う話だった。
テレビの向こうに現れたのはとても作ったとは思えない。
美少女、美女の姿だった。
そう言った存在が色々と話されるようになったのは直ぐのことだ。
学校の男子たちや友人とも話していた。
その種族の存在はいろんなところで話され、あの見た目の理由やら、女しかいないことやらで、魔物娘と言う種族性から思春期特有の爆発した考察が生まれていたのは有る意味、若さなんだろう。
サキュバスが一番の内容になっていたが。
そう言った存在が出来てからの認知度は圧倒的て、社会に溶け込む速度も驚くべきものだった。
前段階で色々やっていたのか恐ろしい速度だった。
そしてそんな恐ろしさを持って経ったの二ヶ月で、

『今日からお世話になります』

複数の魔物娘とやらが内の学校にやって来た。
さて、そんな魔物娘が来てどうなったかと言うと……内のクラスの光景に変化が現れた。
速水さんと言うムードメーカーが少しばかし、魔物娘の人気に食われた。
無くなった訳じゃないが、それでも前よりは……といった感じだ。
そうなったからかわからないけど、少し速水さんは元気が減っているように見えた。
気のせいかもしれない、でも仲良くしていてそう感じたんだ。
図書館で速水さんは、

「あの子達の人気すごいねー」
「そうだな」
「昌也くんは好きなことかできたのかなぁー？」
「確かに綺麗だけどそれはないな」
「ほんとに？でも男子はああいう綺麗な女の子が好きなんじゃないの？少し普通の人と違うけどさ。それが良い、っていってる男子もいるし」

そうして話していた、でもなんだろう。
どこか速水さんが焦っているかのように感じた。
いや、どこか不安に駈られているかのように。
そうしてその日のその後は、少し駄弁ったくらいだった。
そうして翌日、恋愛面に関するあれこれが昼間に話題に上がっていた。

「おい、昌也」

話しかけてきたのは友人の一人の隼人だった。

「なんだ？隼人」
「お前知ってるか？隣の菊地ってやつの話？」
「どうしたんだ？」
「その菊地が魔物娘の娘と付き合ったんだってよ」
「マジか」
「大マジ大マジ、有名だぜ」

そう言った話だった。
何でも、格好にやって来た魔物娘の白蛇とかいう種族と仲良くなり魔物娘からの猛烈アタックで恋人になったとからしい。

「マジか、さぞかし顔も良くて運動神経も良いんだろうな。はたまたインテリ？」
「いや……そうでもない。寧ろオタクらしい」
「……何があった？」
「魔物娘とやらは物好きなのか、はたまたその魔物娘様が趣味があれだったのか」
「お前ら、情報が古いぜ！」

そうして話してると俺達の間に割り込んできた人間がいた。
そいつは一哉、同じく友人の一人だ。

「その魔物娘の話だ」
「なんだ？」

隼人がそう聞く。

「何でも魔物娘ってのは男に対して外見的なものを持たないらしい」
「……種族的なものか？」

俺はそう言って聞く、あまり魔物娘に興味を持っていなかったから。
そう言ったのを聞いて興味がわいた。

「らしいぞ、何でもどんな男でも見た目の醜悪関係なく好きになるらしい。その上頭の良さも運動神経も甲斐性もだ」
「……都合がよすぎねえか？」

つい俺はそういってしまう。
それに対して、一哉は甘いなと言って、その後この情報は魔物娘であるこのクラスの女子から仕入れたものだといった。

「種族的にそうなんだってさ。しかも浮気が出来ないとか、一度手にしたら逃がさないとか。さながら一途な乙女だ」
「ヤンデレチックじゃね？俺が仕入れたときはそういう事情を知らなかったから面白がったが」

苦笑を浮かべている隼人。
その隼人に対して一哉はオタクとしての何かなのかカッと見開いた。

「因みに魔物娘のその一途性から絶対に近い確率で処女だそうだ」
「「なんだそりゃ」」
「種族特性らしいから何ともだとさ。まあ、無きにしもあらずだろうが」
「ねえよ、ねえ。てかその情報は」
「教えてもらった、直接」

隼人の反論にフフンといった感じて仁王立ちするバカが一名。

「第一それだって人の常識だろ？魔物娘とやらは異世界の住民、その証拠もある。となればどういったものかはわからん。それにだ。地球にだって人間ではないが近いものもある。浮気しないでそのパートナーと一緒に居続ける動物だっているんだぞ。いないなんて証拠こそない」
「……処女厨」
「おおし、喧嘩か？買うぜ隼人」

隼人の発言により二人のバトルが勃発。
結果は隼人の敗けだった、こういうときは一哉が強い。

「いてぇ……つか、それが事実としたらそいつは良い彼女をゲットしたってことか。羨ましいことだ」
「だなぁ、たしか白蛇はその中でも愛が更に重いとか」
「……お前の情報網には脱帽だぜ」
「昌也はどう思うよ。魔物娘って良くねえか？」
「……うーん、そうでも？」
「なんだ、お前、人間で好きなやつでもいるのか？」

一哉がそう言って何かからかえるものを見つけたような悪い笑みを浮かべてる。

「…………」
「お、長いな」
「……いや、別に」
「長いのにそれかよ！」
「あれ、お前、速水さんが好きなんじゃねえの？」
「……何でだ？」

突然に隼人からの言葉に昌也は困惑した。
それに対して一哉が納得といった表情を浮かべる。

「ああ、確かに」
「お前もか……何でそう思うよ」
「「だって話してるとき楽しそうじゃん」」

そう二人がハモって俺に向かっていった。
少し頭が真っ白になって……










そんな感じだ、そんなものだ、その程度でしかない。
でもそのとき初めて友人達から面と向かって教えられ、指摘され気付いた。
ああ、確かに俺は速水さんといるときが楽しかったと。









「あ、速水さん……どうした？」
「ううん……何でも」
「？……それなら良いけど……ああ、これ頼みたいんだけど」
「うん……」

その日の図書館でも速水さんは元気がなかった。
どうしたのだろうと、思いながらも俺は纏めるように頼まれていたものを纏めていく。
そうしていると、速水さんが話しかけてきた。

「そういえば隣のクラスの男子が魔物娘の子と付き合ったってあるけど知ってる？」
「友人から鼻息荒く聞かされたよ」
「どう思う？」
「どうって……そうだなぁ。あんな綺麗なこと付き合えるのは羨ましいとかは思うかな？」
「……そう」

何か速水さんの顔が歪んでいた。
何処か焦っているかのような……

「羨ましいよね。私あんなに綺麗でも可愛くもないから。昌也くんもそう思うでしょ？」
「そんなことはないけど……」
「嘘だよ、自覚あるもん」

何かそういっているときの速水さんはなぜか痛々しかった。
だから俺はつい言った。

「……俺は速水さんのことは好きだよ？」
「嘘でも嬉しいよ」

その瞬間何かを失ったかのように感じた。
妄想なのか現実なのかわからないけど何か失った気がした。
そのときから速水さんとの関係がぎこちなくなったように感じた。










「お前最近元気ねえよなぁ」

それを見た一哉が言った。
あの日からなんとも言えない関係が出来てしまっていた。
少しばかし関係が拗れたと言うか、そんな感じだ。
その事を二人に言うと……

「なんだ、ちゃっかり告白しとる」

隼人はそう俺をからかい、一哉は、

「……」

何故か黙り混んでいた、何かを考えているかのように。

「どうしたんだ隼人」
「……いや、何でもない」
「なんだお前の情報網はいつものことだから何か知ってんのか？」
「おう、知ってるぜ。まあ、問題はないんじゃないのか？それはあれだよ、自分に自信のない乙女ってやつだろ」
「お前昌也の問題軽く見すぎてね」
「お前に言われとうない」

二人して喧嘩を始めていた。
それに対して一哉に違和感を感じたのは間違っているのだろうか。











その日の翌日、速水さんが学校を休んだ。
理由はわからない、ただ一哉は何か知っているのか、大丈夫だって、そう言っていた。
更に翌日、速水さんが学校に来ていた。
……見た目が変化していた、健康的な小麦色の肌をしていたそれは更に黒みを増しており。
何処か地味さのあった顔も前よりも明るく可愛くなっており、スタイルにも少しの変化が。
一言で言えば色気だろうか、それがあった。
その速水さんが……俺のところに歩いてきた。
周りもあまりに変わった速水さんに目を奪われ、俺の方に行くのに目を合わせる。

「ど、どうしたの。その姿……」

見た目から感じたそれは魔物娘のそれだった。
そして今のところ認知されているフーリーと呼ばれたものだ。

「話があるの」

失っているものを取り戻しているかのように感じた。












教室から離れ、誰もいない教室。
そこに二人、俺と速水さんがいた。

「速水さん」
「待って」

聞きたいことが沢山出来た、それを聞こうとして止められた。
これ以上言葉を発することができない、それくらいに真面目な顔だった。

「私ね」
「……」
「昌也くんのことが好き」

俺はその言葉で今までの疑問が消し飛んだ。
なんと今言った？何て言った？









「私はね。あんなに元気におちゃらけてるけど。あれってさ演技に近いんだ」

ポツポツと言い出す、その言葉一つ一つに意識がとられる。

「自分に自信がないって言うかさ。不安なんだ。周りから悪い目で見られるのが」

震えるように言う、全部言い終わった後どうなるかわからないような、その不安に。

「見た目だって特別可愛くない。見た目だってそれだけならたぶん私下のほうかなぁ」

何時ものようないちゃらけたそんなバカを“演じる”ことのない。
そんな本当の臆病者の姿が顔を出す。

「そんなときに先輩に告白されたんだ」

何かを気にしているかのような雰囲気が現れる。
それはたぶん、いや、確実に俺に向けてのものだ。

「でもそのときね、すぐ決められなかった。その理由がわからなかった。でも昌也くんを見たときにわかっちゃった。委員会で仲良くなり始めた。先輩よりも後なのに。私は昌也くんが好きになっちゃってた」

おかしいなと言った感じで、そう言う。

「昌也くんってずるいんだよ。気付いてた？周りはさ、はしゃぐときに私を面白いこや、いいこみたいに見るの。でもね昌也くんはさ。私を女の子としてみてくれるの」

ズルいと、あまりにもズルいと言った。
先輩は告白するでそんな風に見てもらっていたことにすら気づかせなかったのに。
俺はそれを感じさせてしまうくらいに露骨に見てくれていたと。
それが嬉しかったと。

「そんなのさ、好きになっちゃうじゃん。でも、魔物娘って言うあの子達が来てから不安になっちゃった。あんな可愛い子達が来たから。昌也くんもそれに目を向けてたし」

それは物珍しさからだ、そういいたいと思った。
でも駄目だと思って止めた。
今は速水さんの言葉を聞く側だから。
内容は理不尽なものかもしれないけど、でも嬉しさを覚えてる自分がいるのも事実だから。
嫉妬してもらえたと。

「それで怖くなっちゃって逃げちゃった。その間はごめん」

気にしてはいない。
そのときは気にしてたけど今は、そんなことはない。
そんなことを越えるものが目の前に転がっている。
“不安”と言う石ころではなく、“好き”というダイヤモンドが。

「でもそうしてたら一昨日。家に帰る途中あるものが刺さったんだ。胸にグサッてね。なかったんだけど、気のせいかもだけど。確かにそんな感じがしたんだ」

変化したことによって出来た膨らみのある胸元に手を当ててその辺りであろうところを擦る。

「そしたら昨日体が熱くて動けなくて休んじゃったんだ。そしてその翌日。今日だね。朝目を覚ましたらこんな姿になってた」

速水さんの目に熱が籠る。
熱く強い意思が宿るような、火どころか太陽のような熱が。

「そうしたら昌也くんに好きだって気持ち伝えたくて、どうしようもなくなっちゃったんだ。だから、私は今ここに昌也くんを連れてきた」

止めることのない、止めるつもりのない思いが弾けて暴れてる。
そんな強い意思を感じる、今まで見たことのない顔が。

「私はね。昌也くんが……ううん。違う、昌也が好き。だから」

そう一拍溜めて、速水さんが言った。


“私と付き合ってくれますか？”と……











俺はどうしようもなく幸せに包まれていた。
でも俺はその幸せに浸ってる場合じゃないとも。
だから、今まで語ってくれた言葉をしっかり返事して、言わなくちゃいけない。

「俺は速水さんが……」

いや、違う、違うだろ。
速水さんが一歩近付いた、だから俺はそれ以上近寄らなくちゃいけない。
男なんだから。

「俺は巴が好きだ」

速水さんは何も言わない。
だから俺は止まらず言える。

「俺が巴を好きになったのは、多分。委員会が同じになったときからだ」

多分そうなんだ。
そうとしか思えない。
巴が先輩に告白されたそのとき、俺は何も思っていなかった。
好きとは思っていなかった。
でもその前からなんだ。
俺が巴に惚れていたのは。
好きじゃなかったんじゃない、恋に気づけていないバカだっただけだ。

「巴は俺が魔物娘が好きなんじゃと言ってたな。そんなのはあり得ない。だって初めて見たときには既に俺は巴に首ったけだったんだ。そんなのはあり得ない。だから友人と話していても物珍しさしか感じなかった」

そうだ、例え人と違うところがあったとしてもあんなに可愛くて綺麗な子達なんだ。
それなりのものがあったって可笑しくない。
でも俺は巴がそのとき既に好きだったから。
なにも本当にビックリするくらい興味が薄い方だった。

「気づくのは遅かった、友人から指摘されて最近になって気付いたんだから。でも、今思えば前から好きだったんだ」

今だから言えるし、今だから断言できる。

「だからさ……俺も巴が好きだったんだ。いや、巴よりも先に好きになってたんだ。だからそれは俺が言うべきだったんだ。だからさ。言わせてくれよ」

俺は言った、言ってやった。


“俺と付き合ってくれるか？”











その日、俺は巴と恋人になった。
友人にその事を言うと。
隼人は、

「おせえな」

と笑い。
一哉は、

「なるべくしてなったってところだな。俺はオタクだからハッピーエンド至上主義だ。応援するぜ？」

そう二人は言ってくれた。










「巴、一緒に帰ろうか」
「うん！あ、帰る途中でさ寄り道していかない？」
「いいな、どこにいこうか」

俺は今、青春をし始めた。

■作者メッセージ
「一哉、よかったね」
「だな」

一哉に一人の女の子が二人を見ながら言う。
それに対して一哉はその女の子に返す。
それを見ているもう一人の男が一言。

「お前らもお前らだな」
「うるせえ、俺の彼女利用しようとしたくせによ」
「うるせえ、俺たちに知らせもせず魔物娘を恋人にするからだ。それにお前の彼女、キューピットじゃん。こんなこと知ったらやりたくなるのがキューピットだろ？」

その女の子は一哉の恋人、それでいてキューピットの魔物娘
だ。

「間違ってないわね」
「あれ、俺負けてね？」
「それにしちゃ、まさか、フーリーになるとは」
「多分、神様が応援してくれたからだよ」

何処か満足げなキューピットは二人を見ながらそういった。



夢で見て朝目が覚めたらガチ泣きしてたから書いた。






補足、友人の話とか考えてたら止まらなくなって友人の友人やらいろんな関係やらが頭の中でポンポン出て何か鼠算式になって話ができてきたので、前の消して連載にします。