とある織物職人の話
「…つまりはね、
君が僕の代わりに社長をやるか、仕事を失うかの2択だよ」
田舎の織物工房。
道路挟んで向かい側にある事務所に呼び付けられた俺は、社長からとんでもない宣告を受けた。
「わ、わかってないなー、社長も。
俺が現場やった方が早いですよ?」
「だが、社長が居なくては、会社は潰れてしまうんだ。
銀行とやり取りが出来なくなってしまうからね。
誰かが社長をやらなくてはならない。
そこは分かっているよね?」
「だから!
社長の坊やにやらせればいいでしょ!」
「お前が! 僕の弟を追い出したから!
……あいつは会社を継ぎたくないと言っているんだよ」
社長は珍しく俺に対して声を上げた。
歯痒いことに、俺が工房長にいじめ嫌がらせを行った証拠は、社長の息子がしっかり残している。
…勿論、他のやつもやっているため、俺だけが悪いわけではない。
「…君がが社長を継がないなら、今年度から会社を畳む方向で動くことにするよ」
「じ、じゃあ!
ナガトに社長をやらせるのはどうでしょう!
あいつは大卒でしょう!?」
「入社1年目の後輩に社長をやらせる社会人がどこにいるんだい?
それに、ナガト君は個人的な恩義ゆえにここで働いてくれているけど、長居はしないという話だよ。
国立大卒の子をこんな小さな工房に閉じ込めるなんてあまりに可哀想だ」
「ああもう!
社長になっても給料はさほど上がらないんでしょう?
そんなんじゃやる気でないですわ!」
「ではなぜ、僕の弟が去った後、工房長に立候補しなかったんだい?
後輩に押し付けるような真似をしたんだい?
給料は上げると告知していたはずだけど?」
「それは…!
たったの2万円しか給料が上がらないなら、管理職なんてやる意味がないじゃないですか!
この物価高の世の中で管理職をやらせるなら、もっと給料を上げるべきでしょう!?」
「昇給しても給料を上げられずボーナスも出せないのは、君たちが『作れなくなったものを再度作れるようにしろ』『クオリティを元に戻せ』という僕の命令を、6年間ずっと無視し続けているからだね。
商品の種類も質も落ちたとなれば、そりゃあ売り上げも減るさ。
そんな状態で、給料なんて上げられるわけないじゃないか」
はあ!? ふざけるな!
人のせいかよ!?
「どんなにやる気がでなくとも、誰かが管理職をやらなくてはいけないんだよ。
結婚して家庭も持っていた僕とは違い、40歳で独身の君には時間にもお金にも余裕があるだろう?
結婚願望もない君には、うってつけじゃないかな?」
…コイツ。
いつもは俺の言いなりなのに、なんで今日に限ってこんなに喧嘩腰なんだ。
「やりません。
俺は副工房長です。
絶対に、社長なんてやりません!」
そう、いつもなら俺がこう強気に出るだけで、すぐに萎縮するのだ。
それがこの会社の社長なのだ。
「よし分かった。
2年後には会社をたたむことを目処に、今年度からは事業を少しずつ縮小していく方向で経営しよう。
皆にはきっちり退職金を支払いたいからね」
しかし、今日は無駄だったようだ。
「ま、待ってください!
次の社長を探せばいいんでしょう!?」
「だから、君が社長をやるんだ。
それ以外は認めないよ」
ふざけやがって。
ただえさえ不景気でどこも経営の苦しい今の世の中、社長なんて罰ゲーム以外の何者でもないじゃないか。
俺には副工房長として、社長や工房長に「アドバイス」する立場が一番似合っているんだ。
それこそが従業員の中で一番長く勤めている人間の務めだろうがコノヤロー…
「…ところで、前から気になっていたんだけど、副工房長ってなんのことなんだい?
工房長はともかく、副工房長なんてそんな役職はないし、僕も任命した覚えはないよ?」
「俺が今の従業員の中で一番長くこの会社に勤めているからですよ!
管理職なんかやるよりも、俺は現場で働いている方が一番ちょうどいいんです!」
「君って、自分の現場作業ばかりだよね。
備品の購入なり後輩の技術継承なり、先輩らしいことを何か一つでもしているかい?
ここ10年間、いや、下手したらこの会社にやってきた時から仕事内容が全く変わっていないじゃないかい?」
「現場では『神の手』を必要としているんです!
だから仕方ないんです!」
「その技術は、僕の弟から継いだものだよね?
僕の弟が君に教えたのと同じように、他の人に教えることは出来ないかい?」
「ふざけるな!
…クソっ!
社長が馬鹿過ぎて、この会社マジで終わってるわ!」
俺は立ち上がり、客室の扉を蹴り開けた。
「そうかそうか。
ならば今日の夕礼で早速宣言させてもらうよ。
2年後には会社を畳む、とね」
「……ッ!
やってられるか!」
俺は仕事に戻るべく、客室を後にした。
「俺は悪くないからな!」
「……
僕はもうとっくの昔に、この会社に愛想が尽きているんだ。
従業員のためと言いつつ、弟と息子を無碍に扱った報いだね。
つらいよ」
自分の持ち場に戻ろうとした際、社長が何かを言っていたような気がするが、怒りで頭が一杯の俺にはよく聞こえなかった。
――――――
俺の名前は外野ユージ。
田舎の織物工房で副工房長をやっている、40歳の織物職人である。
無能な上司と聞き分けの悪い部下に困らされる、悩める中間管理職である。
田舎住まいだが村祭りなどの催しや消防団には参加しない、3次元に推しを持たない主義の孤高の独身男性である。
今年で入社20年目のベテランだ。
『神の手』を持つとされており、この会社の製品には俺の工程が欠かせない。
ゆえに社長ですら俺には強く出れないし、作業員たちの声を社長に積極的に届けることが出来る。
俺の勤め先である織物会社は、社長である兄と工房長の弟の二人兄弟が30年前に立ち上げたものだ。
10人の老人たちが持っていた伝統的な織物技術を廃れさせるのは忍びないと、2人が酔った勢いで始めた事業らしい。
兄である社長はデパートや百貨店に商談を持ち込み、弟である工房長は老人たちから技術を学びながら織物を作る仕事を行なった。
20年前、ようやく人を雇う余裕ができたため、当時20歳で仕事を失っていた俺が従業員として…いや、織物職人として雇われたというわけである。
老人たちは年齢に勝てず退職してしまい、新しくやってきた従業員たちに技術を伝えたのは工房長である社長の弟の役目だった。
そして社長の息子は、次期社長として、小学校の頃から現場と事務、経理や営業を叩き込まれていた。
給料はあまり高くはない。
今の日本の織物業界ははっきり言ってオワコンであり、この会社の製品も伝統と歴史というブランドだけで成り立っている。
入社してから20年が経つというのに、給料はたったの3万円しか上がっていない。
特にうちの会社のパジャマは、ブランドものでありながら比較的安価で寝心地抜群であり、贈呈用として今に至るまで高い人気を誇っていた。
…というか、それしかなかった。
昔はもっと色々な製品があったのだが、不景気と外国産の安い織物のせいで売れなくなってしまったのだ。
そしてそのパジャマも、大手ブランドが「着る医療機器」と称した高級パジャマを売り出している。
シェアを奪われるのも時間の問題だった。
6年前、工房長が会社から去った。
あいつがSNSで書き込んでいた政治主張が、社長夫人の怒りを買ったのだ。
…いや、俺も加害者の1人だけども、他にもやってる奴は居たさ!
最近でも、もう会社から居なくなって6年経つあいつの連絡板にスパム広告投げ入れたのは俺だけど、「くたばれ」とか「二度と戻ってくるな」とか書き込んだのは俺じゃない。
管理人が管理を放棄していた掲示板で延々とデマと誹謗中傷を書き殴ったのも俺じゃない、別のやつだ。
結果として工房長が離婚したのも、俺だけのせいじゃない。
工房長だって、工房の仕事以外何もできないくせに、ネットで変にイキるからああなったんだ。
しかし、社長の息子は父である社長よりも叔父である工房長に懐いていた。
社長の息子は工房長の待遇に怒り、会社を継がないことを宣言した。
いかなる会社でも、どんなに黒字であっても、社長が居ないと会社は銀行との取引が出来ず潰れてしまう。
社長は仕事中に倒れて救急車で搬送されたこともあり、早めの引退を考えている。
…とはいえ、社長はまだ60歳であり、まだまだ働いてもらわなければ困る。
大手の商社にM&Aされるという話もあったのだが、相手側が「全ての従業員を雇う」という条件をどうしても呑んでくれなかったがために流れてしまった。
…俺は「一部の社員だけ雇用存続」という条件でも構わなかったのだが、社長が首を縦に振らなかった。
技術を持たない後輩なんて知ったことかよ。
自己責任だろ…ふざけやがって。
――
夕礼後、俺を除く従業員たちは皆、社長の元へと押し寄せた。
2年と言わず5年でも10年でも社長を続けてくれと縋りついていた。
入社3ヶ月の新入であるナガトに、大卒のお前が社長をやってくれと縋り付く者もいた。
…俺に社長をやってくれという追求からは避けなければならなかった。
俺はそそくさと逃げるように会社から出ていった。
12年目の軽自動車を走らせ、車で片道15分のあるところに向かった。
ラブホテルである。
やはり溜まったものを発散するには女性の手しかない。
テキトーに車を停め、テキトーに空いている部屋に入り込んだ。
従業員のおっさんとすれ違ったが、どうでもよかった。
田舎のラブホテルで働いている人間など、どうせまともな人間ではないだろう。
スマホを開くも、最近ハマっているソシャゲの課金で金欠だったことを思い出した。
貯金なんてしているわけがない、収入は入り次第使い込んでいる。
元々は実家に住んでいたのだが、両親の介護が嫌で一人暮らしを始めたのだ。
ここで出費してしまったらまた家賃滞納だ。
しかし、もうホテルの部屋を借りてしまった。
この部屋を使わない限りは無駄な出費になってしまう。
今回は格安の店で、フリーで指名することにした。
店の人間の応答にハイハイとテキトーに応え、「ホテル代別で15000円」「30分後に来る」と確認だけした。
値段と時間以外に興味はない。
はやく、この俺のモヤモヤを発散して欲しかった。
コンコンと、扉をノックする音が聞こえる。
…おかしくないか? まだ5分と経ってないぞ?
部屋を間違えたか?
不審に思いながら、俺は扉を開けた。
「お待たせしましたー!
ハルです!」
…明らかに子供だった。
幼女だった。
「ファミリアのハルです!
ファミリーネームはないから、ハルって呼んでね?」
一見人間だが、その造られたかのような肢体の美しさ、危ういにも程がある格好から、彼女が人間ではないことを感じさせる。
これが、巷で話題の魔物娘?
「…なんでこんなところに…魔物娘が?」
「きっと、お兄ちゃんが私のような女の子を心の底で求めていたからだと思うよ!」
魔物娘の女の子は、部屋に入り込み、そして鍵を閉めた。
「えへへ…
お兄ちゃんが呼んだ女の子には、正規の3倍のお金を払って口封じをしておくから安心してね?」
「あ、ああ…」
やはり俺が呼んだ嬢ではなかったようだ。
少女…ハルは俺をベットに座らせ、俺の股の間に座る。
たるんだ腹が彼女の小さな背中に重くのしかかる。
薄くなった頭髪から汗が滴り落ちて彼女の髪を濡らす。
俺よりわずかに高い体温が、目の前に広がる光景が本物だと認識させる。
「えへへ…
お兄ちゃん、期待しちゃってる?」
「あ、ああ…」
これは何かの陰謀か? 美人局か?
それとも、俺をどこか遠い土地へと拉致しようとしているのか?
ベッドがギシッと軋む。ハルの温かいお尻が俺の股間に押し付けられている。
異常な状況なのに、身体は反応していた。
年齢的になかなか立たない俺の一物が隆起し、彼女のお尻に押し当てていた。
「お兄ちゃん、顔赤いね〜?
もしかして緊張してる?」
ハルは首を傾げて俺を見上げる。
無邪気に見えるその仕草が余計に罪悪感を煽った。
「いや……緊張というか……」
ハルはくるりと振り返って膝立ちになり、俺の顔をまじまじと見つめた。
「お兄ちゃん、汗でびちょびちょじゃん?
先にお風呂行く?」
ハルは首をかしげる。
「風呂……?」
「うん!
汗だくのプレイも悪くないけど、せっかくの初めてなんだし、お互い綺麗にしたいなって」
――
おかしい。
なにからなにまでおかしい。
俺は湯船に浸かり、歯を磨いていた。
歯医者に行かなくなって久しい俺の歯は、前歯含めてところどころ抜けている。
歯磨きを諦めておりいつもは適当に磨いていたが、今日はやけに丁寧に磨いている。
湯船の横では、ぱちゃぱちゃと10歳くらいの小さな女の子がローションを泡立てている。
上級国民だってこんな小さな女の子に性奉仕はさせない、だろう、多分。
いや、俺は上級国民ではないし、なんなら金もない。
彼女が俺にここまでしてくれる理由がわからない。
歯を磨き終え、俺は最低限ハルに飛沫がかからないように、ゆっくりと水を吐き出した。
…これは夢だ。
だから、あの幼い少女に手を出したって構わないだろう。
そう思わないと、やっていられない。
「それじゃあお兄ちゃん、お風呂から出てきて?」
手を出すのはアウトかもしれないが…このまま身を委ねるくらいならいいだろう?
湯船から出た俺は、ハルに促されるまま、真ん中が凹んだ椅子に座る。
「それじゃ、洗ってくね?」
ハルがふわっと近づいてきて、小さな手でローションの泡を俺の肩に乗せた。
ふと、浴室の鏡に映る自分の姿が目に入った。
だらしない腹に染みついた黒い汚れ。
薄くなった髪。
くすんだ瞳。
…夢だ夢だと思いながらも、現実を突きつけられた。
これが俺だ。
風俗の女性と戯れるしかない、哀れな中年がそこに居た。
「もう!
なによそ見してるの?」
ハルは、よそ見をしている俺の頬を両手で挟み、俺の視線を強引に彼女の顔に目を向けさせた。
ハルはぷぅっと頬を膨らませると、俺の膝の上に跨るように座り込んで来た。
「えへへへ…♩」
柔らかい感触が、太腿を通して伝わってくる。
毛の生えていない、柔らかい陰部。
この感触は…現実だ。
「ねぇ? お兄ちゃん……気持ちいい?」
耳元で囁かれるとゾクッとした感覚と共に下半身が熱くなってくるのがわかる。
「じゃあ…ここ!
触っちゃおうかな?」
彼女は俺の背中に周り、後ろから俺の一物に触れた。
「っつ…」
熱く、小さな手が、俺の一物を撫で回す。
まるで子供の手遊びのようで、しかし自分の敏感な部分を的確に責め立ててくる。
やはり彼女は魔物だ。
人間ではない。
自分の醜い欲望を純粋なものとして受け止める彼女への罪悪感と、それを愉悦とする自己矛盾。
これが、小さな女の子に遊ばれているということか。
「えへへ…じゃあ、こうしちゃおうかな?」
彼女の片方の手が一物から離れ、椅子の隙間へと伸びる。
そして、俺の尻穴に触れた。
「んっ!?」
「あはは!
お兄ちゃん、すごい反応!」
彼女は俺の一物を撫でまわしながら、尻穴を撫でまわし、くすぐり、そして指を入れた。
「あっ…!」
「えへへ…
お兄ちゃん、ここを触られるのは慣れてない?」
「あ、あぁ……」
思わず声が漏れる。羞恥と快感が混ざり合う奇妙な感覚。それでも彼女は容赦なく責め立ててくる。
「えへへ、お兄ちゃん可愛い」
ハルは片方の手で尻穴を弄り回し、指を折り曲げ、出し入れして、尻穴を執拗にほじくる。
もう片方の手で、まるで牛乳を絞り出すかのような優しく、そして激しい刺激を与えてくる。
「お兄ちゃん、気持ちいい?」
その問いかけに答えられずただ喘ぎ続けるしかなかった。
こんな小さな少女に翻弄されている背徳感と、二度と普通の女性では満足出来ないかのような充実感は、どこか恐ろしいものだった。
「えへへ…おしまい!
まだイっちゃダメだよ!」
しかしハルは手を止め、一物を撫で回していた方の手で根本を握りしめる。
「うっ…うっ…」
男の一物に痛覚はないため痛みはないが、ほと走るものを強引に止める子供とは思えない力に、俺は思わず悶絶した。
「続きはベッドで…ね?」
手を離したハルは、俺の耳元で優しく囁いた。
その囁きは、明らかに人間の子供のする声ではなかった。
――
田舎のデリヘル嬢といえば、
厚化粧がバレないように限界まで部屋を暗くして、
キスは舌まで入れず、
フィニッシュは手で行うものだ。
だが、今回は違う。
「あ、部屋を明るくするね?」
ハルは部屋の照明をマックスにした。
眼鏡がなくとも彼女の顔が、幼い身体がくっきり見える。
小さい背丈、細い手足、わずかに膨らんだお腹。
不気味なまでに美しい身体をした彼女は、俺をゆっくりベッドへと押し倒した。
「えへへ…せっかくの初めてだもん。
お互いの顔が分かるくらいがいいな!」
彼女は俺に覆い被さり、口付けをしてきた。
「あむ…っ…
ちゅ……」
躊躇なく舌を入れてきた。
ダメだろうと心の中で思いながらも、俺も舌を入れて返してしまう。
…そう、俺の体は彼女の下にある。
いざとなったら『彼女に無理矢理やらされました』『彼女が勝手にやりました』でまかり通る。
「えへへ…それじゃ、いれちゃうね?」
言って彼女は俺の下半身に跨がり…その腰を下ろした。
「っ…!」
「あはっ…」
ゴムなどつけてない、そんな余裕は無かったはず。
まさか、この娘は…!?
「お兄ちゃんのおちんちん、入っちゃった…」
彼女の股から自分のふともも、そして布団にかけて、液体が垂れている。
布団に滴り、色を移す。
…赤色?
漫画でしか読んだことはないが、女性が『初めて』を捧げた証だ。
ハルは目尻に涙を浮かべている。
無垢な少女を穢したという事実に、俺は…
…興奮していた。
彼女はゆっくりと上下に動き出す。
その度に結合部からは血と体液が混ざったものが飛び散る。
俺を襲う快感は増していく。
「えへへ…
お兄ちゃん、気持ちいい?」
ハルは苦しそうな声を上げながら、しかし確かに気持ち良さそうな表情をしている。
「ハルちゃん!
ちょ…イっちゃいそう!」
達しそうになって、俺は思わず制止の言葉を口にした。
しかし、彼女は聞き入れなかった。
「あはっ!
お兄ちゃんのおちんちん、私の中でどんどん硬くなっていくのが分かるよ?
そのまま、いっちゃって…!」
そう言ってハルは腰の動きを早める。
…ここで止めてどうする?
挿入までしてるんだ、今更チキったところでもう遅い。
フィニッシュは手でしてもらうつもりだったか?
我慢できない。
俺の中で何かが弾けた。
「あ…あっ……!」
俺は、まだ幼い少女の中に、情けない悲鳴とともに精液を放出した。
幼い女の子を手籠にして傷物にするという、人間社会において最も許されざる罪を犯した瞬間だった。
――――――
あの日のその後のことはあまり覚えていない。
気がつくと俺は、ハルを家に招き入れていた。
40過ぎの貧乏な独身男性が、幼女と二人暮らしをしている。
「いけないことをしている」という背徳感や周囲からの視線に、俺は後ろめたさを感じながらも興奮してしまった。
俺はこれまでずっと真面目に、大人しく生きてきたのだ。
髪を染めたことはないし、おしゃれに気を遣ったこともない。
だから、このくらいの悪さは構わないだろう?
――
「お兄ちゃん…
豚軟骨とか、鶏の足とか、硬くて食べられないんだけど…
半額のお惣菜って、これ賞味期限が3日も前じゃん…
あと、もう少しお野菜を食べよう? ポテチはおかずじゃないよ?
もう少し献立を考えない?
私なら、もっと安くて美味しい料理を作ってあげる」
最初は俺が料理をしていたが、ハルの手料理の方が美味しいと気付いてからはしなくなった。
「はい、お兄ちゃん、あーんして?」
次第に、米研ぎから後片付けの食器洗いまで、全てハルがやるようになった。
――
「お兄ちゃん、郵便受けはちゃんと見よう?
大事なお知らせを見落とすかもしれないよ?
……なにこれ?
赤い封筒っ…!?」
元々掃除などはしなかったが、ハルが家を片付けるようになった。
「お兄ちゃん、お金ないとか言いながら風俗行ってるし、
水やお茶の代わりにゼロコーラ飲んでるし…
そんな生活していたらお金がなくなるに決まってるじゃん…
晴れてるのに浴室乾燥機なんて使ってるしエアコンもかけっぱなしのせいで、月の電気代が7000円とかなってるんだけど?
一人暮らしでこの電気代はおかしくない?」
預金や保険など金銭の管理も、ハルがやるようになった。
「はーい、掃除機かけるからそこどいてねー」
気がつけば、ハルが家事の全てを行うようになった。
――
「織物なら私も出来るよ!」
会社に行きたくないと口にした際、ハルが勢いよく手を上げた。
「私なら、お兄ちゃんの代わりに働けるかも!
お兄ちゃんの代わりに行ってくるね!」
仮病を使って会社を休もうとした俺を尻目に、ハルは勢いよく家を飛び出していった。
…4時間後、中休みだからと帰ってきたハルは、俺の昼食だけ作ってパタパタと会社に戻っていった。
「じゃ、行ってきまーす!」
その日以降、俺は会社に行かなくなった。
俺が2日、3日と休んでも、会社から何の連絡もないのだ。
俺が居ないと回らないはずなのだが…もうどうでもよかった。
「えへへ…お兄ちゃんと一緒!」
それ以降、俺にはずっと日曜日が続いた。
ただハルの帰りを待ち、ハルが帰ってきたら一緒にいる。
仕事をする人間としない人間では、仕事をしている人間の方が幸せだというが…
俺は仕事をせずとも幸福を感じる人間だった。
人生に波も谷も必要なかったのだ。
――
「お兄ちゃんはもうスマホ禁止!」
ある日、ハルは俺のiPhoneを取り上げ、叩き割った。
「お兄ちゃんが会社のネットを使った書き込みで、今会社で大変なことが起きてるんだよ!?
この家にもプロバイダから警告が届いていたよね!?
警告だけだったからまだ良かったけど!
お兄ちゃんは今後スマホを禁止します!」
ハルにしては珍しく、非常に怒っていた。
その場でパソコンを立ち上げられ、俺のアカウントを開かされた。
…小さい女の子におっさんのツイッターアカウントを見せるなんて公開処刑もいいところだが、非常時ゆえに仕方なかった。
「お兄ちゃん!?
工房長さんはネットで過激な人だって言ってたけど、
お兄ちゃんだって芸能人とか、外国の車のメーカーとか、人工音声とか、
気に入らない人やコンテンツに悪口書き殴ってるじゃん!
誰彼構わず噛みつきまくってるじゃん!?
工房長さんのことを全然馬鹿に出来ないよ!?」
「いや、この程度で誹謗中傷になるわけが…」
「そんなの受け取る人次第だからね!?
しかも、たかだかネットで小説を書いている人、生成AIを使っているだけの人に、なんでアカウント複数まで作ってこんなに粘着してるの!?
ご丁寧に自分の書き込みだけ隠したスクリーンショットまで撮って残してるし!?」
「いや、この程度で訴える奴にも問題があるし…」
「もうお兄ちゃんはパソコンも禁止!」
4つあったツイッターアカウントは全て削除され、そのままノートパソコンはハルによってへし折られた。
…会社で起きたという『トラブル』の賠償金は従業員たちのボーナスを削って支払われたとのことで、俺はその待遇を受け入れる以外なかった。
「え?お兄ちゃんが賠償金払ってくれるの?
△△△万円だよ?
貯金が全く無いお兄ちゃんに払えるの?」
「……無理です、ごめんなさい」
スマホもパソコンも失った俺は、ハルが会社に行っている間は中古のPS4のゲームを遊ぶようになった。
…PS4が10年以上前に発売されたゲーム機ってマジか?
時の流れが経つのは早いものだ。
それ以降、俺はハルが居ない間は延々とゲームをし、飽きたらPS4でYouTubeを見るようになった。
…もちろんコメントは出来ない。
――
会社からの給料は、ハルが働くようになっても俺の口座に振り込まれていた。
家賃と光熱費は引き続き俺の口座から下ろされたが、それ以外の食費や娯楽もハルが出していた。
俺の両親の老後施設や介護などの手続きも、全てハルがやってくれた。
…魔物娘が経営する施設?知るかよ。
どのみち俺に両親に対して出せる金など無い。
俺は一日中エアコンの効いた部屋で中古ゲームを遊ぶ日々、まともな出費はない。
ソシャゲの課金をしなくなり、風俗など『ちょっとした贅沢』をしなくなったため、空っぽだった俺の口座には徐々に貯金が積み重ねられた。
――
「えへへ…お兄ちゃん!
いや、今は牛さんだね!」
そして、俺の負担が減り、ハルの負担が増えていくのと比例するように…
夜のハルは積極的に、そして過激に、時にアブノーマルなプレイに及ぶようになった。
「お兄ちゃん、モーって鳴いて?」
「モ゛〜〜ー!!!!」
今日の俺は布団の上でギャグボールをつけられ、四つん這いにされた。
魔法の力か、四肢が全く動かない。
ハルは牛から牛乳を絞るように俺の一物をしごき、尻穴に刺さったアナルバイブを振り回す。
抵抗すら許されない快楽に、俺は無様にも屈服の証である白濁液を散らした。
「あはっ!
出た出た!」
いつしかハルは、俺のことをまるでおもちゃかのように責めるようになった。
俺が責める時も、『彼女を責める許可を貰う』として常に主導権を握られる。
時には出すものがなくなっても責められ続け、気を失うこともあった。
「お兄ちゃん!
一度でもいいから、『浣腸』をやってみたい!」
ハルの目の前で、盛大に排泄をさせられたこともあった。
「お兄ちゃんは、今日はお馬さんだよ!
…ブリッジの姿勢になって?」
無茶苦茶な姿勢で、心身ともに屈服させられたこともあった。
「お兄ちゃん!
えへへ…今日は何発出せるかな?」
身をよじることすら許されないほど拘束され、怪しげな注射を撃たれ、騎乗位で抜かずの10発を強制された。
無理だ無理だと泣け叫んでも、強引に勃起させられて扱かれた。射精させられた。
…『被害者』という立場が、俺には不思議と気持ちよかった。
彼女もそれをわかっていたのかもしれない。
――
毎日が日曜日。
家にいる間はずっとゲームをして、飽きたら徒歩圏内にあるゲーム屋で中古のゲームを買う。
ハルが帰ってきたら、ハルに存分に甘える。
ハルに依存する。
正月も盆もハロウィンもクリスマスもなかった。
ただ、その日のハルの料理が豪華になって、夜のプレイがハルのコスプレになるだけだった。
「えへへ…
サンタさんからのえっちなプレゼントだよー!
……お尻の穴を見せて?」
俺は、40歳を超えて訪れたニート生活に満足していた。
幸せだった。
――――――
ここで終わっていれば、俺の物語はハッピーエンドだった。
心地良い被害者意識に浸っていればそれでよかった。
だが、俺はそれ以上を求めてしまった。
自分が被害者だと思い込んでいたからこそ、加害者と思っていた人間への逆襲を求めてしまったのだ。
ハルがなぜ織物に心得があったかというと、社長の弟から直々に教わったから。
魔物娘たちがこんな小さな田舎の会社に肩入れしていたのは、自分含めた従業員、すなわち『いじめ加害者たち』を工房から追い出すためだった…
このことを知るのは、もう少し先のことだった。
――――――
――――――
3年後。
俺は唐突に、久々に工房に向かいたくなった。
俺が居なくなったらすぐに潰れるだろうと思っていた会社が未だに続いていたため、様子が気になったのだ。
久しぶりに外出した俺は、車検が切れている愛車を安全運転で走らせ、かつての職場へと向かった。
織り機に触らなくなって3年。
指先は鈍り、おそらく技術は完全に錆びついている。
しかし、俺には20年の職人勤めという自負があった。
「どうか戻ってきてください」という声を聞きたかった。
俺を雑に扱うからだと「ザマァ」と罵ってやりたかった。
時刻は午前10時。
従業員が中休みを終える時間である。
工房の扉を開けたら、別の世界が広がっていた。
人間と、魔物娘が、工房の中で肩を並べて働いていた。
そこに俺の見知った顔はなかった。
かつては乱雑にモノも機械も備品も散らかり、人の行き来が困難だった工房内は、体格の大きな魔物娘も不自由なく歩き回れるほど綺麗に整理整頓されていた。
「5S活動なんて意味がない」
「絵に描いた餅、屁理屈、机上の空論、時間の無駄」
「理想と現実の区別がつかない、無能な工房長」
そう口にしていたのは、他でもない俺だ。
単に会社で仕事以外のことをするのが面倒くさかったからだ。
俺がよく扱っていた機械には、体格の大きな魔物娘が扱えるように架台に乗せられて運用されていた。
人間よりも体格の大きなアラクネの魔物娘が、カタカタと織り機を動かしていた。
アラクネが呼ばれて作業を中断した際は、架台を下げて織り機の目線を下ろし、作業の続きは人間の男性が取り掛かった。
体格の異なる種族が、肩を並べて働ける環境がそこにあった。
工房の出入り口は凹凸がなくなっており、スムーズに台車が出し入れできるようになっていた。
10年以上前から工事をしろと俺は社長に何度も言っていたのに、「金がない」「優先度が低い」って却下されたやつだ。
なぜ、魔物娘の提言はすぐに受け入れられたのか?
人間の男性が、エルフ、ゴブリン、キキーモラ…複数の魔物娘に指示を出している。
…ナガトだ。
唯一俺が知っている顔だが、全く安堵出来なかった。
なんで大卒のアイツが、こんな田舎の工房でまだ働いているんだ?
俺の知らない人間の男性がテキパキと梱包作業をこなし、ゴブリンの少女たちに渡していた。
梱包作業なんて雑用だ。手の空いた人間がやるべき作業だろう。
そう言って定時後、社長や後輩に押し付けていたのは俺だ。
しかし、製品の数も種類も増えた今、工程の一つとして組み込まれているようだ。
床にはラインテープが貼られ、モノ一つはみ出ていない。
元工房長が以前貼ったラインテープは、誰も意識せずにはみ出しまくっていたというのに。
人間と魔物娘が、肩を並べて働いている。
素材は魔物娘由来かもしれないが、工房にあったのは人間の技術だけで、そこに魔物娘のファンタジーな力はなかった。
『お金を稼ぐ』という目的のために、足りないものを補い合い、不便なことには手を取り合う、理想的な国際交流の環境がそこにあった。
…違う。
それは俺の役目だったはずだ。
副工房長として、従業員がいかに作業しやすいか、作業性を上げるにはどうすればよいかを考え、工房長と社長にアドバイスするのが俺の役目だったはずだ。
俺の得意分野なのに、なんで俺には声がかけられなかったんだ?
俺は社長に抜擢される人間のはずだぞ?
「うわ…気持ち悪っ。
なんでお前がこんなところにいるんだよ」
ナガトが俺に気づいて、露骨に顔をしかめて吐き捨てた。
挨拶もなしに「気持ち悪い」だと?
「た、たまには顔を出そうと思っただけだよ!
会社の様子が気になって見にきたんだよ!
挨拶もなしに、気持ち悪いだなんて、失礼な奴だな!?」
「様子を見にきたところで、お前に何が出来るんだよ。
何も出来ることなんてないだろ。
来るならせめて始業時刻に来いよ、仕事が始まって2時間も経ってるっつーの」
ナガトはしかめっ面で、俺に対する不快感を隠さない。
俺、そんなに嫌われるようなことをしたか?
「ほ、ほら…
魔物娘と人間が一緒に働くって、なにかと不便とかあるだろ…?
俺なら、そういうのアドバイスできるんだが…」
「『提案』だけして、金勘定も予定も他人に丸投げ。
『それ考えるのがお前の仕事』と他人に全部押し付けていたくせに、今さらアドバイスだと?
お前みたいな口だけの人間は必要ない、AIで十分だ」
ナガトの態度は、とても20年の大ベテランに対してするものではなかった。
「お、お前…
この工房で20年働いた俺に対して、なんていう態度だ!?」
「お前たちのネットストーカーと誹謗中傷のせいで、俺たちはボーナスなくなったんだぞ?
もう忘れたのかよ」
そうだった、そんなこともあった。
……お前『たち』って、他にもやった奴がいたのだろうか…?
「だ、だとしても、だ!
身分も年齢も上の人間に対してその態度はないだろう!?」
「まずは謝罪だろ?
それが出来ないなら、さっさと会社に△△△万円払え。
俺たちにボーナスを寄越せ」
…コイツ、自分が被害者だからと、図に乗りやがって…!
「俺は、副工房長だぞ!?」
「そういえば、そんな話だったな。
今まで『副工房長』という役職は存在しなかったんだが、
管理職として役職が正式に定められたんだよ。
そして、今の副工房長は、俺だ」
は…?
こんなチャラチャラした若者の、入社4年目のコイツが、副工房長だと…!?
「俺は、お前よりもはるかに長くここで働いていたんだぞ…?
社長をやらないかと、声もかけられたんだぞ…?
たかが大卒という理由だけで、お前は…」
「かつて社長がお前に『社長をやれ』って言ったの、会社を潰すためだって知ってるか?
会社が潰れれば、合法的に従業員たちを解雇出来るからな。
お前の無能っぷりは社長が一番よく知ってたからこそ、お前に社長をやらせようとしたんだよ。
俺なんかお前と1年間しか働いてなかったが、1ヶ月もしないうちに分かったわ。
お前が言われたこと『しか』出来ない…いや、言われたこと『すら』まともに出来ない、無能のクズだって」
「つ、都合よく解釈するんじゃねえよ!
俺は、20年もこの工房に居たんだぞ!?
工房のことを、知り尽くしてるんだ!
誰よりもな!」
「じゃあ、なんで社長の弟の工房長がいなくなった後、作れなくなった製品が出てきたんだ?
作れなくなった製品を再度作れるように少しでも努力したか? 何らかのアクションは起こしたか?
お前は何もしなかっただろ」
「やめろ!
本当にお前らしつこいんだよ!
工房長が居なくなったのは、俺だけのせいじゃない!
そして何もしなかったわけじゃない! 日頃の仕事が忙しくて出来なかっただけだ!」
魔物娘たちの目線も集まってくる。
冷や汗が噴き出てくる。
「それに加えてお前…管理職としての仕事は出来るのか?
備品の購入品目をいちいち確認出来るか?
注文実績と照らし合わせてちゃんと安いところで買っているか毎回チェック出来るか?
部下の勤怠管理をして、漏れなく社長に報告出来るか?
自分が今までやっていた仕事を他人に教えて、作業を引き継がせることは出来るか?
無理だろ?
今までずっと現場作業に逃げていたお前には出来ないだろ?」
「で、出来るさ!
勤続20年の大ベテランを舐めるんじゃない!」
…いや、無理だ。出来るわけがない。
俺にパソコンは使えないし、コミュ障だから来客の対応なんて出来ない。
それを理解してか、ナガトは何も言わず、ただ鼻で笑った。
「お…俺は、俺なしでは現場は回らないんだ、俺は、この会社に欠かせない人間でだな…
きっと、みんな俺の帰りを今か今かと待ち続けていたんだ…!」
「それはお前が中間行程を独占した挙句、誰にも作業方法を共有していなかったからだな。
二度とお前のような奴が現れないように、仕事内容を洗い直した上で作業の分業化と作業マニュアルの作成を推し進めているよ」
「ふざけるなよ!?
人の活躍の場を奪っていくんじゃねえよ!」
声が上ずった。
喉が焼けるように痛い。
冷や汗が噴き出て止まらない。
「それだけじゃない。
お前の代わりに出社してるハルさんは、かつてのお前と同じ量の業務抱えながら新人教育から備品の管理までやってる。
お前と違って納期が遅れたことは一度もないし、遅れそうな時は1週間以上前にあらかじめ連絡して応援を募っている。
作業マニュアルの作成にも協力してくれる。
お前の何倍も会社に貢献してるのに、お前と給料は同じなんだぞ」
「ほら! ほら!?
会社は儲かっても給料変わらねえんだろ!?
だったら俺だって頑張らねえよ!
給料を上げてくれたら、頑張るんだけどな!
ハルと同じくらいには…」
「だったらハルさんが働けばいいだけだろ。
この会社の給料は確かに安いかもしれないが、それでも企業規模を考えたらかなり良心的な方だ。
こんな田舎の小さな会社で、お前のような無能に、お前が望むだけの給料が払えるとでも思うか?」
ああ、そうだ。
会社からしたら、俺に高い給料払うよりも、俺と同じ給料のハルが働けば済む話である。
ならばすぐに転職して、ハルに相応しい給料を与えてくれる会社に…
………
俺の価値は?
「お前は、要らない。
予定立てもスケジュール管理も金勘定も出来なくて、現場作業以外の実績はゼロ。
現場作業しか出来ないくせに、その指示された仕事すらまともに完遂しない。
プライドは高いくせに責任は背負わないし、不平不満を叫ぶ声は大きいくせに自分からは絶対動かない。
人間関係でトラブルを起こした前科も一度や二度ではないし、
挙句、△△△万円という大損害を与えて俺たちからボーナスを奪っておきながら謝罪ひとつしない。
これが10代20代ならともかく、もう成長の見込みのない40代のおっさんだろ?
この会社にいるだけでも…いや、どの会社に居たとしてもマイナスにしかならねえよ」
…やめろ、やめてくれ。
分かってはいるが、口にするんじゃない。
「今後もハルさんがこの工房で働くために、名義だけ使わせてくれよ。
魔物娘の人権がまだ認められない以上、会社の名簿も給料明細もお前名義だからな」
…名義だけ?
あ、そうか、一応まだ給料明細はハルじゃなくて俺になってるんだった…
まだこの国では魔物娘の人権やらが認められていないから…
…あれ?
俺の価値って、名義だけ…?
ふと、周囲の冷たい視線を感じた。
人間の男性だけじゃない、魔物娘たちも冷めた目で俺のことを見ていた。
視線が痛い、俺を異物として見做している目だ。
冬だというのに、汗が背中を伝い、シャツがべっとりと張り付く。
胸が締め付けられる。
「お前が社長の弟にやらかしたことは、魔物娘たちは把握しているよ。
そんなお前でも受け入れてくれるハルさんを大切にすることだな」
「お兄ちゃん!?
来てたの?」
ハルが背後から抱きついてきた。
その抱きつき方は、まるで腫れ物を扱うみたいに優しかった。
さっきまで屋外で仕事していたのか、その小さい身体はやけに冷たかった。
でもその冷たさが、俺の熱くなった皮膚に染み込んで、ぞわぞわと震えを呼ぶ。
「ね? 帰ろう?
ここにいい思い出なんて無いでしょ?」
「あ、ああ…」
ハルは俺の手を急いで取って、工房から引きずり出そうとする。
まだ、社長の声を聞いていない。
社長は俺の帰還を待ち望んでいるかもしれない。
あいつの主張は全部あいつの思い込みかもしれない。
しかし、ハルの手を振り払う気力はなかった。
足がもつれて、よろめく。
涙が鼻の奥から溢れて、目元に溜まる。
「ナガトさん!
今日は早退でお願いします!」
「あいよー。
『外野ユージ』は2時間勤務、6時間早退ね」
ナガトの声が、背後から追い討ちをかける。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。
一昨日、△△△万円を私の故郷で用意できる見込みが立ったところなの。
今までお兄ちゃんがやっていた仕事は全部みんなに共有してるし、いつでも辞めることは出来るからね。
今日からでも、仕事を辞めてずっと一緒にいてあげる」
…待てよ、ハル。
俺の仕事をやっていただけでなく、さらに他の人にまで継承させたのか?
たったの3年で?
俺の20年は、それほどまでに軽かったのか?
「お前ってほんと羨ましい価値観をしているよな。
どんなに他人に迷惑をかけても、どんなに人を悲しませても、全部人のせい、政治家のせい、世の中のせいにできるもんな。
娘くらいの見た目の女の子に寄生して、挙句『お兄ちゃん』と呼ばせている姿は、呆れが一周回って笑えてくる。
そのままハルさんに養われていろ。
二度と表社会に出てくるんじゃねえぞ」
背後からのナガトの追及に、俺は惨めにも涙を流す。
嗚咽が漏れる。
足が震えて転びそうになる。
ハルに支えられながら、工房の外へ引きずり出される。
外の空気が冷たく、俺の涙を乾かす。
心の中の熱は、永遠に冷めないまま、ただ重く沈んでいく。
…ハルは今、どんな表情をしているのだろう。
俺は涙を流しながら、どんな表情をしているのかも分からないハルに、手を引かれて歩き出す以外他に道はなかった。
君が僕の代わりに社長をやるか、仕事を失うかの2択だよ」
田舎の織物工房。
道路挟んで向かい側にある事務所に呼び付けられた俺は、社長からとんでもない宣告を受けた。
「わ、わかってないなー、社長も。
俺が現場やった方が早いですよ?」
「だが、社長が居なくては、会社は潰れてしまうんだ。
銀行とやり取りが出来なくなってしまうからね。
誰かが社長をやらなくてはならない。
そこは分かっているよね?」
「だから!
社長の坊やにやらせればいいでしょ!」
「お前が! 僕の弟を追い出したから!
……あいつは会社を継ぎたくないと言っているんだよ」
社長は珍しく俺に対して声を上げた。
歯痒いことに、俺が工房長にいじめ嫌がらせを行った証拠は、社長の息子がしっかり残している。
…勿論、他のやつもやっているため、俺だけが悪いわけではない。
「…君がが社長を継がないなら、今年度から会社を畳む方向で動くことにするよ」
「じ、じゃあ!
ナガトに社長をやらせるのはどうでしょう!
あいつは大卒でしょう!?」
「入社1年目の後輩に社長をやらせる社会人がどこにいるんだい?
それに、ナガト君は個人的な恩義ゆえにここで働いてくれているけど、長居はしないという話だよ。
国立大卒の子をこんな小さな工房に閉じ込めるなんてあまりに可哀想だ」
「ああもう!
社長になっても給料はさほど上がらないんでしょう?
そんなんじゃやる気でないですわ!」
「ではなぜ、僕の弟が去った後、工房長に立候補しなかったんだい?
後輩に押し付けるような真似をしたんだい?
給料は上げると告知していたはずだけど?」
「それは…!
たったの2万円しか給料が上がらないなら、管理職なんてやる意味がないじゃないですか!
この物価高の世の中で管理職をやらせるなら、もっと給料を上げるべきでしょう!?」
「昇給しても給料を上げられずボーナスも出せないのは、君たちが『作れなくなったものを再度作れるようにしろ』『クオリティを元に戻せ』という僕の命令を、6年間ずっと無視し続けているからだね。
商品の種類も質も落ちたとなれば、そりゃあ売り上げも減るさ。
そんな状態で、給料なんて上げられるわけないじゃないか」
はあ!? ふざけるな!
人のせいかよ!?
「どんなにやる気がでなくとも、誰かが管理職をやらなくてはいけないんだよ。
結婚して家庭も持っていた僕とは違い、40歳で独身の君には時間にもお金にも余裕があるだろう?
結婚願望もない君には、うってつけじゃないかな?」
…コイツ。
いつもは俺の言いなりなのに、なんで今日に限ってこんなに喧嘩腰なんだ。
「やりません。
俺は副工房長です。
絶対に、社長なんてやりません!」
そう、いつもなら俺がこう強気に出るだけで、すぐに萎縮するのだ。
それがこの会社の社長なのだ。
「よし分かった。
2年後には会社をたたむことを目処に、今年度からは事業を少しずつ縮小していく方向で経営しよう。
皆にはきっちり退職金を支払いたいからね」
しかし、今日は無駄だったようだ。
「ま、待ってください!
次の社長を探せばいいんでしょう!?」
「だから、君が社長をやるんだ。
それ以外は認めないよ」
ふざけやがって。
ただえさえ不景気でどこも経営の苦しい今の世の中、社長なんて罰ゲーム以外の何者でもないじゃないか。
俺には副工房長として、社長や工房長に「アドバイス」する立場が一番似合っているんだ。
それこそが従業員の中で一番長く勤めている人間の務めだろうがコノヤロー…
「…ところで、前から気になっていたんだけど、副工房長ってなんのことなんだい?
工房長はともかく、副工房長なんてそんな役職はないし、僕も任命した覚えはないよ?」
「俺が今の従業員の中で一番長くこの会社に勤めているからですよ!
管理職なんかやるよりも、俺は現場で働いている方が一番ちょうどいいんです!」
「君って、自分の現場作業ばかりだよね。
備品の購入なり後輩の技術継承なり、先輩らしいことを何か一つでもしているかい?
ここ10年間、いや、下手したらこの会社にやってきた時から仕事内容が全く変わっていないじゃないかい?」
「現場では『神の手』を必要としているんです!
だから仕方ないんです!」
「その技術は、僕の弟から継いだものだよね?
僕の弟が君に教えたのと同じように、他の人に教えることは出来ないかい?」
「ふざけるな!
…クソっ!
社長が馬鹿過ぎて、この会社マジで終わってるわ!」
俺は立ち上がり、客室の扉を蹴り開けた。
「そうかそうか。
ならば今日の夕礼で早速宣言させてもらうよ。
2年後には会社を畳む、とね」
「……ッ!
やってられるか!」
俺は仕事に戻るべく、客室を後にした。
「俺は悪くないからな!」
「……
僕はもうとっくの昔に、この会社に愛想が尽きているんだ。
従業員のためと言いつつ、弟と息子を無碍に扱った報いだね。
つらいよ」
自分の持ち場に戻ろうとした際、社長が何かを言っていたような気がするが、怒りで頭が一杯の俺にはよく聞こえなかった。
――――――
俺の名前は外野ユージ。
田舎の織物工房で副工房長をやっている、40歳の織物職人である。
無能な上司と聞き分けの悪い部下に困らされる、悩める中間管理職である。
田舎住まいだが村祭りなどの催しや消防団には参加しない、3次元に推しを持たない主義の孤高の独身男性である。
今年で入社20年目のベテランだ。
『神の手』を持つとされており、この会社の製品には俺の工程が欠かせない。
ゆえに社長ですら俺には強く出れないし、作業員たちの声を社長に積極的に届けることが出来る。
俺の勤め先である織物会社は、社長である兄と工房長の弟の二人兄弟が30年前に立ち上げたものだ。
10人の老人たちが持っていた伝統的な織物技術を廃れさせるのは忍びないと、2人が酔った勢いで始めた事業らしい。
兄である社長はデパートや百貨店に商談を持ち込み、弟である工房長は老人たちから技術を学びながら織物を作る仕事を行なった。
20年前、ようやく人を雇う余裕ができたため、当時20歳で仕事を失っていた俺が従業員として…いや、織物職人として雇われたというわけである。
老人たちは年齢に勝てず退職してしまい、新しくやってきた従業員たちに技術を伝えたのは工房長である社長の弟の役目だった。
そして社長の息子は、次期社長として、小学校の頃から現場と事務、経理や営業を叩き込まれていた。
給料はあまり高くはない。
今の日本の織物業界ははっきり言ってオワコンであり、この会社の製品も伝統と歴史というブランドだけで成り立っている。
入社してから20年が経つというのに、給料はたったの3万円しか上がっていない。
特にうちの会社のパジャマは、ブランドものでありながら比較的安価で寝心地抜群であり、贈呈用として今に至るまで高い人気を誇っていた。
…というか、それしかなかった。
昔はもっと色々な製品があったのだが、不景気と外国産の安い織物のせいで売れなくなってしまったのだ。
そしてそのパジャマも、大手ブランドが「着る医療機器」と称した高級パジャマを売り出している。
シェアを奪われるのも時間の問題だった。
6年前、工房長が会社から去った。
あいつがSNSで書き込んでいた政治主張が、社長夫人の怒りを買ったのだ。
…いや、俺も加害者の1人だけども、他にもやってる奴は居たさ!
最近でも、もう会社から居なくなって6年経つあいつの連絡板にスパム広告投げ入れたのは俺だけど、「くたばれ」とか「二度と戻ってくるな」とか書き込んだのは俺じゃない。
管理人が管理を放棄していた掲示板で延々とデマと誹謗中傷を書き殴ったのも俺じゃない、別のやつだ。
結果として工房長が離婚したのも、俺だけのせいじゃない。
工房長だって、工房の仕事以外何もできないくせに、ネットで変にイキるからああなったんだ。
しかし、社長の息子は父である社長よりも叔父である工房長に懐いていた。
社長の息子は工房長の待遇に怒り、会社を継がないことを宣言した。
いかなる会社でも、どんなに黒字であっても、社長が居ないと会社は銀行との取引が出来ず潰れてしまう。
社長は仕事中に倒れて救急車で搬送されたこともあり、早めの引退を考えている。
…とはいえ、社長はまだ60歳であり、まだまだ働いてもらわなければ困る。
大手の商社にM&Aされるという話もあったのだが、相手側が「全ての従業員を雇う」という条件をどうしても呑んでくれなかったがために流れてしまった。
…俺は「一部の社員だけ雇用存続」という条件でも構わなかったのだが、社長が首を縦に振らなかった。
技術を持たない後輩なんて知ったことかよ。
自己責任だろ…ふざけやがって。
――
夕礼後、俺を除く従業員たちは皆、社長の元へと押し寄せた。
2年と言わず5年でも10年でも社長を続けてくれと縋りついていた。
入社3ヶ月の新入であるナガトに、大卒のお前が社長をやってくれと縋り付く者もいた。
…俺に社長をやってくれという追求からは避けなければならなかった。
俺はそそくさと逃げるように会社から出ていった。
12年目の軽自動車を走らせ、車で片道15分のあるところに向かった。
ラブホテルである。
やはり溜まったものを発散するには女性の手しかない。
テキトーに車を停め、テキトーに空いている部屋に入り込んだ。
従業員のおっさんとすれ違ったが、どうでもよかった。
田舎のラブホテルで働いている人間など、どうせまともな人間ではないだろう。
スマホを開くも、最近ハマっているソシャゲの課金で金欠だったことを思い出した。
貯金なんてしているわけがない、収入は入り次第使い込んでいる。
元々は実家に住んでいたのだが、両親の介護が嫌で一人暮らしを始めたのだ。
ここで出費してしまったらまた家賃滞納だ。
しかし、もうホテルの部屋を借りてしまった。
この部屋を使わない限りは無駄な出費になってしまう。
今回は格安の店で、フリーで指名することにした。
店の人間の応答にハイハイとテキトーに応え、「ホテル代別で15000円」「30分後に来る」と確認だけした。
値段と時間以外に興味はない。
はやく、この俺のモヤモヤを発散して欲しかった。
コンコンと、扉をノックする音が聞こえる。
…おかしくないか? まだ5分と経ってないぞ?
部屋を間違えたか?
不審に思いながら、俺は扉を開けた。
「お待たせしましたー!
ハルです!」
…明らかに子供だった。
幼女だった。
「ファミリアのハルです!
ファミリーネームはないから、ハルって呼んでね?」
一見人間だが、その造られたかのような肢体の美しさ、危ういにも程がある格好から、彼女が人間ではないことを感じさせる。
これが、巷で話題の魔物娘?
「…なんでこんなところに…魔物娘が?」
「きっと、お兄ちゃんが私のような女の子を心の底で求めていたからだと思うよ!」
魔物娘の女の子は、部屋に入り込み、そして鍵を閉めた。
「えへへ…
お兄ちゃんが呼んだ女の子には、正規の3倍のお金を払って口封じをしておくから安心してね?」
「あ、ああ…」
やはり俺が呼んだ嬢ではなかったようだ。
少女…ハルは俺をベットに座らせ、俺の股の間に座る。
たるんだ腹が彼女の小さな背中に重くのしかかる。
薄くなった頭髪から汗が滴り落ちて彼女の髪を濡らす。
俺よりわずかに高い体温が、目の前に広がる光景が本物だと認識させる。
「えへへ…
お兄ちゃん、期待しちゃってる?」
「あ、ああ…」
これは何かの陰謀か? 美人局か?
それとも、俺をどこか遠い土地へと拉致しようとしているのか?
ベッドがギシッと軋む。ハルの温かいお尻が俺の股間に押し付けられている。
異常な状況なのに、身体は反応していた。
年齢的になかなか立たない俺の一物が隆起し、彼女のお尻に押し当てていた。
「お兄ちゃん、顔赤いね〜?
もしかして緊張してる?」
ハルは首を傾げて俺を見上げる。
無邪気に見えるその仕草が余計に罪悪感を煽った。
「いや……緊張というか……」
ハルはくるりと振り返って膝立ちになり、俺の顔をまじまじと見つめた。
「お兄ちゃん、汗でびちょびちょじゃん?
先にお風呂行く?」
ハルは首をかしげる。
「風呂……?」
「うん!
汗だくのプレイも悪くないけど、せっかくの初めてなんだし、お互い綺麗にしたいなって」
――
おかしい。
なにからなにまでおかしい。
俺は湯船に浸かり、歯を磨いていた。
歯医者に行かなくなって久しい俺の歯は、前歯含めてところどころ抜けている。
歯磨きを諦めておりいつもは適当に磨いていたが、今日はやけに丁寧に磨いている。
湯船の横では、ぱちゃぱちゃと10歳くらいの小さな女の子がローションを泡立てている。
上級国民だってこんな小さな女の子に性奉仕はさせない、だろう、多分。
いや、俺は上級国民ではないし、なんなら金もない。
彼女が俺にここまでしてくれる理由がわからない。
歯を磨き終え、俺は最低限ハルに飛沫がかからないように、ゆっくりと水を吐き出した。
…これは夢だ。
だから、あの幼い少女に手を出したって構わないだろう。
そう思わないと、やっていられない。
「それじゃあお兄ちゃん、お風呂から出てきて?」
手を出すのはアウトかもしれないが…このまま身を委ねるくらいならいいだろう?
湯船から出た俺は、ハルに促されるまま、真ん中が凹んだ椅子に座る。
「それじゃ、洗ってくね?」
ハルがふわっと近づいてきて、小さな手でローションの泡を俺の肩に乗せた。
ふと、浴室の鏡に映る自分の姿が目に入った。
だらしない腹に染みついた黒い汚れ。
薄くなった髪。
くすんだ瞳。
…夢だ夢だと思いながらも、現実を突きつけられた。
これが俺だ。
風俗の女性と戯れるしかない、哀れな中年がそこに居た。
「もう!
なによそ見してるの?」
ハルは、よそ見をしている俺の頬を両手で挟み、俺の視線を強引に彼女の顔に目を向けさせた。
ハルはぷぅっと頬を膨らませると、俺の膝の上に跨るように座り込んで来た。
「えへへへ…♩」
柔らかい感触が、太腿を通して伝わってくる。
毛の生えていない、柔らかい陰部。
この感触は…現実だ。
「ねぇ? お兄ちゃん……気持ちいい?」
耳元で囁かれるとゾクッとした感覚と共に下半身が熱くなってくるのがわかる。
「じゃあ…ここ!
触っちゃおうかな?」
彼女は俺の背中に周り、後ろから俺の一物に触れた。
「っつ…」
熱く、小さな手が、俺の一物を撫で回す。
まるで子供の手遊びのようで、しかし自分の敏感な部分を的確に責め立ててくる。
やはり彼女は魔物だ。
人間ではない。
自分の醜い欲望を純粋なものとして受け止める彼女への罪悪感と、それを愉悦とする自己矛盾。
これが、小さな女の子に遊ばれているということか。
「えへへ…じゃあ、こうしちゃおうかな?」
彼女の片方の手が一物から離れ、椅子の隙間へと伸びる。
そして、俺の尻穴に触れた。
「んっ!?」
「あはは!
お兄ちゃん、すごい反応!」
彼女は俺の一物を撫でまわしながら、尻穴を撫でまわし、くすぐり、そして指を入れた。
「あっ…!」
「えへへ…
お兄ちゃん、ここを触られるのは慣れてない?」
「あ、あぁ……」
思わず声が漏れる。羞恥と快感が混ざり合う奇妙な感覚。それでも彼女は容赦なく責め立ててくる。
「えへへ、お兄ちゃん可愛い」
ハルは片方の手で尻穴を弄り回し、指を折り曲げ、出し入れして、尻穴を執拗にほじくる。
もう片方の手で、まるで牛乳を絞り出すかのような優しく、そして激しい刺激を与えてくる。
「お兄ちゃん、気持ちいい?」
その問いかけに答えられずただ喘ぎ続けるしかなかった。
こんな小さな少女に翻弄されている背徳感と、二度と普通の女性では満足出来ないかのような充実感は、どこか恐ろしいものだった。
「えへへ…おしまい!
まだイっちゃダメだよ!」
しかしハルは手を止め、一物を撫で回していた方の手で根本を握りしめる。
「うっ…うっ…」
男の一物に痛覚はないため痛みはないが、ほと走るものを強引に止める子供とは思えない力に、俺は思わず悶絶した。
「続きはベッドで…ね?」
手を離したハルは、俺の耳元で優しく囁いた。
その囁きは、明らかに人間の子供のする声ではなかった。
――
田舎のデリヘル嬢といえば、
厚化粧がバレないように限界まで部屋を暗くして、
キスは舌まで入れず、
フィニッシュは手で行うものだ。
だが、今回は違う。
「あ、部屋を明るくするね?」
ハルは部屋の照明をマックスにした。
眼鏡がなくとも彼女の顔が、幼い身体がくっきり見える。
小さい背丈、細い手足、わずかに膨らんだお腹。
不気味なまでに美しい身体をした彼女は、俺をゆっくりベッドへと押し倒した。
「えへへ…せっかくの初めてだもん。
お互いの顔が分かるくらいがいいな!」
彼女は俺に覆い被さり、口付けをしてきた。
「あむ…っ…
ちゅ……」
躊躇なく舌を入れてきた。
ダメだろうと心の中で思いながらも、俺も舌を入れて返してしまう。
…そう、俺の体は彼女の下にある。
いざとなったら『彼女に無理矢理やらされました』『彼女が勝手にやりました』でまかり通る。
「えへへ…それじゃ、いれちゃうね?」
言って彼女は俺の下半身に跨がり…その腰を下ろした。
「っ…!」
「あはっ…」
ゴムなどつけてない、そんな余裕は無かったはず。
まさか、この娘は…!?
「お兄ちゃんのおちんちん、入っちゃった…」
彼女の股から自分のふともも、そして布団にかけて、液体が垂れている。
布団に滴り、色を移す。
…赤色?
漫画でしか読んだことはないが、女性が『初めて』を捧げた証だ。
ハルは目尻に涙を浮かべている。
無垢な少女を穢したという事実に、俺は…
…興奮していた。
彼女はゆっくりと上下に動き出す。
その度に結合部からは血と体液が混ざったものが飛び散る。
俺を襲う快感は増していく。
「えへへ…
お兄ちゃん、気持ちいい?」
ハルは苦しそうな声を上げながら、しかし確かに気持ち良さそうな表情をしている。
「ハルちゃん!
ちょ…イっちゃいそう!」
達しそうになって、俺は思わず制止の言葉を口にした。
しかし、彼女は聞き入れなかった。
「あはっ!
お兄ちゃんのおちんちん、私の中でどんどん硬くなっていくのが分かるよ?
そのまま、いっちゃって…!」
そう言ってハルは腰の動きを早める。
…ここで止めてどうする?
挿入までしてるんだ、今更チキったところでもう遅い。
フィニッシュは手でしてもらうつもりだったか?
我慢できない。
俺の中で何かが弾けた。
「あ…あっ……!」
俺は、まだ幼い少女の中に、情けない悲鳴とともに精液を放出した。
幼い女の子を手籠にして傷物にするという、人間社会において最も許されざる罪を犯した瞬間だった。
――――――
あの日のその後のことはあまり覚えていない。
気がつくと俺は、ハルを家に招き入れていた。
40過ぎの貧乏な独身男性が、幼女と二人暮らしをしている。
「いけないことをしている」という背徳感や周囲からの視線に、俺は後ろめたさを感じながらも興奮してしまった。
俺はこれまでずっと真面目に、大人しく生きてきたのだ。
髪を染めたことはないし、おしゃれに気を遣ったこともない。
だから、このくらいの悪さは構わないだろう?
――
「お兄ちゃん…
豚軟骨とか、鶏の足とか、硬くて食べられないんだけど…
半額のお惣菜って、これ賞味期限が3日も前じゃん…
あと、もう少しお野菜を食べよう? ポテチはおかずじゃないよ?
もう少し献立を考えない?
私なら、もっと安くて美味しい料理を作ってあげる」
最初は俺が料理をしていたが、ハルの手料理の方が美味しいと気付いてからはしなくなった。
「はい、お兄ちゃん、あーんして?」
次第に、米研ぎから後片付けの食器洗いまで、全てハルがやるようになった。
――
「お兄ちゃん、郵便受けはちゃんと見よう?
大事なお知らせを見落とすかもしれないよ?
……なにこれ?
赤い封筒っ…!?」
元々掃除などはしなかったが、ハルが家を片付けるようになった。
「お兄ちゃん、お金ないとか言いながら風俗行ってるし、
水やお茶の代わりにゼロコーラ飲んでるし…
そんな生活していたらお金がなくなるに決まってるじゃん…
晴れてるのに浴室乾燥機なんて使ってるしエアコンもかけっぱなしのせいで、月の電気代が7000円とかなってるんだけど?
一人暮らしでこの電気代はおかしくない?」
預金や保険など金銭の管理も、ハルがやるようになった。
「はーい、掃除機かけるからそこどいてねー」
気がつけば、ハルが家事の全てを行うようになった。
――
「織物なら私も出来るよ!」
会社に行きたくないと口にした際、ハルが勢いよく手を上げた。
「私なら、お兄ちゃんの代わりに働けるかも!
お兄ちゃんの代わりに行ってくるね!」
仮病を使って会社を休もうとした俺を尻目に、ハルは勢いよく家を飛び出していった。
…4時間後、中休みだからと帰ってきたハルは、俺の昼食だけ作ってパタパタと会社に戻っていった。
「じゃ、行ってきまーす!」
その日以降、俺は会社に行かなくなった。
俺が2日、3日と休んでも、会社から何の連絡もないのだ。
俺が居ないと回らないはずなのだが…もうどうでもよかった。
「えへへ…お兄ちゃんと一緒!」
それ以降、俺にはずっと日曜日が続いた。
ただハルの帰りを待ち、ハルが帰ってきたら一緒にいる。
仕事をする人間としない人間では、仕事をしている人間の方が幸せだというが…
俺は仕事をせずとも幸福を感じる人間だった。
人生に波も谷も必要なかったのだ。
――
「お兄ちゃんはもうスマホ禁止!」
ある日、ハルは俺のiPhoneを取り上げ、叩き割った。
「お兄ちゃんが会社のネットを使った書き込みで、今会社で大変なことが起きてるんだよ!?
この家にもプロバイダから警告が届いていたよね!?
警告だけだったからまだ良かったけど!
お兄ちゃんは今後スマホを禁止します!」
ハルにしては珍しく、非常に怒っていた。
その場でパソコンを立ち上げられ、俺のアカウントを開かされた。
…小さい女の子におっさんのツイッターアカウントを見せるなんて公開処刑もいいところだが、非常時ゆえに仕方なかった。
「お兄ちゃん!?
工房長さんはネットで過激な人だって言ってたけど、
お兄ちゃんだって芸能人とか、外国の車のメーカーとか、人工音声とか、
気に入らない人やコンテンツに悪口書き殴ってるじゃん!
誰彼構わず噛みつきまくってるじゃん!?
工房長さんのことを全然馬鹿に出来ないよ!?」
「いや、この程度で誹謗中傷になるわけが…」
「そんなの受け取る人次第だからね!?
しかも、たかだかネットで小説を書いている人、生成AIを使っているだけの人に、なんでアカウント複数まで作ってこんなに粘着してるの!?
ご丁寧に自分の書き込みだけ隠したスクリーンショットまで撮って残してるし!?」
「いや、この程度で訴える奴にも問題があるし…」
「もうお兄ちゃんはパソコンも禁止!」
4つあったツイッターアカウントは全て削除され、そのままノートパソコンはハルによってへし折られた。
…会社で起きたという『トラブル』の賠償金は従業員たちのボーナスを削って支払われたとのことで、俺はその待遇を受け入れる以外なかった。
「え?お兄ちゃんが賠償金払ってくれるの?
△△△万円だよ?
貯金が全く無いお兄ちゃんに払えるの?」
「……無理です、ごめんなさい」
スマホもパソコンも失った俺は、ハルが会社に行っている間は中古のPS4のゲームを遊ぶようになった。
…PS4が10年以上前に発売されたゲーム機ってマジか?
時の流れが経つのは早いものだ。
それ以降、俺はハルが居ない間は延々とゲームをし、飽きたらPS4でYouTubeを見るようになった。
…もちろんコメントは出来ない。
――
会社からの給料は、ハルが働くようになっても俺の口座に振り込まれていた。
家賃と光熱費は引き続き俺の口座から下ろされたが、それ以外の食費や娯楽もハルが出していた。
俺の両親の老後施設や介護などの手続きも、全てハルがやってくれた。
…魔物娘が経営する施設?知るかよ。
どのみち俺に両親に対して出せる金など無い。
俺は一日中エアコンの効いた部屋で中古ゲームを遊ぶ日々、まともな出費はない。
ソシャゲの課金をしなくなり、風俗など『ちょっとした贅沢』をしなくなったため、空っぽだった俺の口座には徐々に貯金が積み重ねられた。
――
「えへへ…お兄ちゃん!
いや、今は牛さんだね!」
そして、俺の負担が減り、ハルの負担が増えていくのと比例するように…
夜のハルは積極的に、そして過激に、時にアブノーマルなプレイに及ぶようになった。
「お兄ちゃん、モーって鳴いて?」
「モ゛〜〜ー!!!!」
今日の俺は布団の上でギャグボールをつけられ、四つん這いにされた。
魔法の力か、四肢が全く動かない。
ハルは牛から牛乳を絞るように俺の一物をしごき、尻穴に刺さったアナルバイブを振り回す。
抵抗すら許されない快楽に、俺は無様にも屈服の証である白濁液を散らした。
「あはっ!
出た出た!」
いつしかハルは、俺のことをまるでおもちゃかのように責めるようになった。
俺が責める時も、『彼女を責める許可を貰う』として常に主導権を握られる。
時には出すものがなくなっても責められ続け、気を失うこともあった。
「お兄ちゃん!
一度でもいいから、『浣腸』をやってみたい!」
ハルの目の前で、盛大に排泄をさせられたこともあった。
「お兄ちゃんは、今日はお馬さんだよ!
…ブリッジの姿勢になって?」
無茶苦茶な姿勢で、心身ともに屈服させられたこともあった。
「お兄ちゃん!
えへへ…今日は何発出せるかな?」
身をよじることすら許されないほど拘束され、怪しげな注射を撃たれ、騎乗位で抜かずの10発を強制された。
無理だ無理だと泣け叫んでも、強引に勃起させられて扱かれた。射精させられた。
…『被害者』という立場が、俺には不思議と気持ちよかった。
彼女もそれをわかっていたのかもしれない。
――
毎日が日曜日。
家にいる間はずっとゲームをして、飽きたら徒歩圏内にあるゲーム屋で中古のゲームを買う。
ハルが帰ってきたら、ハルに存分に甘える。
ハルに依存する。
正月も盆もハロウィンもクリスマスもなかった。
ただ、その日のハルの料理が豪華になって、夜のプレイがハルのコスプレになるだけだった。
「えへへ…
サンタさんからのえっちなプレゼントだよー!
……お尻の穴を見せて?」
俺は、40歳を超えて訪れたニート生活に満足していた。
幸せだった。
――――――
ここで終わっていれば、俺の物語はハッピーエンドだった。
心地良い被害者意識に浸っていればそれでよかった。
だが、俺はそれ以上を求めてしまった。
自分が被害者だと思い込んでいたからこそ、加害者と思っていた人間への逆襲を求めてしまったのだ。
ハルがなぜ織物に心得があったかというと、社長の弟から直々に教わったから。
魔物娘たちがこんな小さな田舎の会社に肩入れしていたのは、自分含めた従業員、すなわち『いじめ加害者たち』を工房から追い出すためだった…
このことを知るのは、もう少し先のことだった。
――――――
――――――
3年後。
俺は唐突に、久々に工房に向かいたくなった。
俺が居なくなったらすぐに潰れるだろうと思っていた会社が未だに続いていたため、様子が気になったのだ。
久しぶりに外出した俺は、車検が切れている愛車を安全運転で走らせ、かつての職場へと向かった。
織り機に触らなくなって3年。
指先は鈍り、おそらく技術は完全に錆びついている。
しかし、俺には20年の職人勤めという自負があった。
「どうか戻ってきてください」という声を聞きたかった。
俺を雑に扱うからだと「ザマァ」と罵ってやりたかった。
時刻は午前10時。
従業員が中休みを終える時間である。
工房の扉を開けたら、別の世界が広がっていた。
人間と、魔物娘が、工房の中で肩を並べて働いていた。
そこに俺の見知った顔はなかった。
かつては乱雑にモノも機械も備品も散らかり、人の行き来が困難だった工房内は、体格の大きな魔物娘も不自由なく歩き回れるほど綺麗に整理整頓されていた。
「5S活動なんて意味がない」
「絵に描いた餅、屁理屈、机上の空論、時間の無駄」
「理想と現実の区別がつかない、無能な工房長」
そう口にしていたのは、他でもない俺だ。
単に会社で仕事以外のことをするのが面倒くさかったからだ。
俺がよく扱っていた機械には、体格の大きな魔物娘が扱えるように架台に乗せられて運用されていた。
人間よりも体格の大きなアラクネの魔物娘が、カタカタと織り機を動かしていた。
アラクネが呼ばれて作業を中断した際は、架台を下げて織り機の目線を下ろし、作業の続きは人間の男性が取り掛かった。
体格の異なる種族が、肩を並べて働ける環境がそこにあった。
工房の出入り口は凹凸がなくなっており、スムーズに台車が出し入れできるようになっていた。
10年以上前から工事をしろと俺は社長に何度も言っていたのに、「金がない」「優先度が低い」って却下されたやつだ。
なぜ、魔物娘の提言はすぐに受け入れられたのか?
人間の男性が、エルフ、ゴブリン、キキーモラ…複数の魔物娘に指示を出している。
…ナガトだ。
唯一俺が知っている顔だが、全く安堵出来なかった。
なんで大卒のアイツが、こんな田舎の工房でまだ働いているんだ?
俺の知らない人間の男性がテキパキと梱包作業をこなし、ゴブリンの少女たちに渡していた。
梱包作業なんて雑用だ。手の空いた人間がやるべき作業だろう。
そう言って定時後、社長や後輩に押し付けていたのは俺だ。
しかし、製品の数も種類も増えた今、工程の一つとして組み込まれているようだ。
床にはラインテープが貼られ、モノ一つはみ出ていない。
元工房長が以前貼ったラインテープは、誰も意識せずにはみ出しまくっていたというのに。
人間と魔物娘が、肩を並べて働いている。
素材は魔物娘由来かもしれないが、工房にあったのは人間の技術だけで、そこに魔物娘のファンタジーな力はなかった。
『お金を稼ぐ』という目的のために、足りないものを補い合い、不便なことには手を取り合う、理想的な国際交流の環境がそこにあった。
…違う。
それは俺の役目だったはずだ。
副工房長として、従業員がいかに作業しやすいか、作業性を上げるにはどうすればよいかを考え、工房長と社長にアドバイスするのが俺の役目だったはずだ。
俺の得意分野なのに、なんで俺には声がかけられなかったんだ?
俺は社長に抜擢される人間のはずだぞ?
「うわ…気持ち悪っ。
なんでお前がこんなところにいるんだよ」
ナガトが俺に気づいて、露骨に顔をしかめて吐き捨てた。
挨拶もなしに「気持ち悪い」だと?
「た、たまには顔を出そうと思っただけだよ!
会社の様子が気になって見にきたんだよ!
挨拶もなしに、気持ち悪いだなんて、失礼な奴だな!?」
「様子を見にきたところで、お前に何が出来るんだよ。
何も出来ることなんてないだろ。
来るならせめて始業時刻に来いよ、仕事が始まって2時間も経ってるっつーの」
ナガトはしかめっ面で、俺に対する不快感を隠さない。
俺、そんなに嫌われるようなことをしたか?
「ほ、ほら…
魔物娘と人間が一緒に働くって、なにかと不便とかあるだろ…?
俺なら、そういうのアドバイスできるんだが…」
「『提案』だけして、金勘定も予定も他人に丸投げ。
『それ考えるのがお前の仕事』と他人に全部押し付けていたくせに、今さらアドバイスだと?
お前みたいな口だけの人間は必要ない、AIで十分だ」
ナガトの態度は、とても20年の大ベテランに対してするものではなかった。
「お、お前…
この工房で20年働いた俺に対して、なんていう態度だ!?」
「お前たちのネットストーカーと誹謗中傷のせいで、俺たちはボーナスなくなったんだぞ?
もう忘れたのかよ」
そうだった、そんなこともあった。
……お前『たち』って、他にもやった奴がいたのだろうか…?
「だ、だとしても、だ!
身分も年齢も上の人間に対してその態度はないだろう!?」
「まずは謝罪だろ?
それが出来ないなら、さっさと会社に△△△万円払え。
俺たちにボーナスを寄越せ」
…コイツ、自分が被害者だからと、図に乗りやがって…!
「俺は、副工房長だぞ!?」
「そういえば、そんな話だったな。
今まで『副工房長』という役職は存在しなかったんだが、
管理職として役職が正式に定められたんだよ。
そして、今の副工房長は、俺だ」
は…?
こんなチャラチャラした若者の、入社4年目のコイツが、副工房長だと…!?
「俺は、お前よりもはるかに長くここで働いていたんだぞ…?
社長をやらないかと、声もかけられたんだぞ…?
たかが大卒という理由だけで、お前は…」
「かつて社長がお前に『社長をやれ』って言ったの、会社を潰すためだって知ってるか?
会社が潰れれば、合法的に従業員たちを解雇出来るからな。
お前の無能っぷりは社長が一番よく知ってたからこそ、お前に社長をやらせようとしたんだよ。
俺なんかお前と1年間しか働いてなかったが、1ヶ月もしないうちに分かったわ。
お前が言われたこと『しか』出来ない…いや、言われたこと『すら』まともに出来ない、無能のクズだって」
「つ、都合よく解釈するんじゃねえよ!
俺は、20年もこの工房に居たんだぞ!?
工房のことを、知り尽くしてるんだ!
誰よりもな!」
「じゃあ、なんで社長の弟の工房長がいなくなった後、作れなくなった製品が出てきたんだ?
作れなくなった製品を再度作れるように少しでも努力したか? 何らかのアクションは起こしたか?
お前は何もしなかっただろ」
「やめろ!
本当にお前らしつこいんだよ!
工房長が居なくなったのは、俺だけのせいじゃない!
そして何もしなかったわけじゃない! 日頃の仕事が忙しくて出来なかっただけだ!」
魔物娘たちの目線も集まってくる。
冷や汗が噴き出てくる。
「それに加えてお前…管理職としての仕事は出来るのか?
備品の購入品目をいちいち確認出来るか?
注文実績と照らし合わせてちゃんと安いところで買っているか毎回チェック出来るか?
部下の勤怠管理をして、漏れなく社長に報告出来るか?
自分が今までやっていた仕事を他人に教えて、作業を引き継がせることは出来るか?
無理だろ?
今までずっと現場作業に逃げていたお前には出来ないだろ?」
「で、出来るさ!
勤続20年の大ベテランを舐めるんじゃない!」
…いや、無理だ。出来るわけがない。
俺にパソコンは使えないし、コミュ障だから来客の対応なんて出来ない。
それを理解してか、ナガトは何も言わず、ただ鼻で笑った。
「お…俺は、俺なしでは現場は回らないんだ、俺は、この会社に欠かせない人間でだな…
きっと、みんな俺の帰りを今か今かと待ち続けていたんだ…!」
「それはお前が中間行程を独占した挙句、誰にも作業方法を共有していなかったからだな。
二度とお前のような奴が現れないように、仕事内容を洗い直した上で作業の分業化と作業マニュアルの作成を推し進めているよ」
「ふざけるなよ!?
人の活躍の場を奪っていくんじゃねえよ!」
声が上ずった。
喉が焼けるように痛い。
冷や汗が噴き出て止まらない。
「それだけじゃない。
お前の代わりに出社してるハルさんは、かつてのお前と同じ量の業務抱えながら新人教育から備品の管理までやってる。
お前と違って納期が遅れたことは一度もないし、遅れそうな時は1週間以上前にあらかじめ連絡して応援を募っている。
作業マニュアルの作成にも協力してくれる。
お前の何倍も会社に貢献してるのに、お前と給料は同じなんだぞ」
「ほら! ほら!?
会社は儲かっても給料変わらねえんだろ!?
だったら俺だって頑張らねえよ!
給料を上げてくれたら、頑張るんだけどな!
ハルと同じくらいには…」
「だったらハルさんが働けばいいだけだろ。
この会社の給料は確かに安いかもしれないが、それでも企業規模を考えたらかなり良心的な方だ。
こんな田舎の小さな会社で、お前のような無能に、お前が望むだけの給料が払えるとでも思うか?」
ああ、そうだ。
会社からしたら、俺に高い給料払うよりも、俺と同じ給料のハルが働けば済む話である。
ならばすぐに転職して、ハルに相応しい給料を与えてくれる会社に…
………
俺の価値は?
「お前は、要らない。
予定立てもスケジュール管理も金勘定も出来なくて、現場作業以外の実績はゼロ。
現場作業しか出来ないくせに、その指示された仕事すらまともに完遂しない。
プライドは高いくせに責任は背負わないし、不平不満を叫ぶ声は大きいくせに自分からは絶対動かない。
人間関係でトラブルを起こした前科も一度や二度ではないし、
挙句、△△△万円という大損害を与えて俺たちからボーナスを奪っておきながら謝罪ひとつしない。
これが10代20代ならともかく、もう成長の見込みのない40代のおっさんだろ?
この会社にいるだけでも…いや、どの会社に居たとしてもマイナスにしかならねえよ」
…やめろ、やめてくれ。
分かってはいるが、口にするんじゃない。
「今後もハルさんがこの工房で働くために、名義だけ使わせてくれよ。
魔物娘の人権がまだ認められない以上、会社の名簿も給料明細もお前名義だからな」
…名義だけ?
あ、そうか、一応まだ給料明細はハルじゃなくて俺になってるんだった…
まだこの国では魔物娘の人権やらが認められていないから…
…あれ?
俺の価値って、名義だけ…?
ふと、周囲の冷たい視線を感じた。
人間の男性だけじゃない、魔物娘たちも冷めた目で俺のことを見ていた。
視線が痛い、俺を異物として見做している目だ。
冬だというのに、汗が背中を伝い、シャツがべっとりと張り付く。
胸が締め付けられる。
「お前が社長の弟にやらかしたことは、魔物娘たちは把握しているよ。
そんなお前でも受け入れてくれるハルさんを大切にすることだな」
「お兄ちゃん!?
来てたの?」
ハルが背後から抱きついてきた。
その抱きつき方は、まるで腫れ物を扱うみたいに優しかった。
さっきまで屋外で仕事していたのか、その小さい身体はやけに冷たかった。
でもその冷たさが、俺の熱くなった皮膚に染み込んで、ぞわぞわと震えを呼ぶ。
「ね? 帰ろう?
ここにいい思い出なんて無いでしょ?」
「あ、ああ…」
ハルは俺の手を急いで取って、工房から引きずり出そうとする。
まだ、社長の声を聞いていない。
社長は俺の帰還を待ち望んでいるかもしれない。
あいつの主張は全部あいつの思い込みかもしれない。
しかし、ハルの手を振り払う気力はなかった。
足がもつれて、よろめく。
涙が鼻の奥から溢れて、目元に溜まる。
「ナガトさん!
今日は早退でお願いします!」
「あいよー。
『外野ユージ』は2時間勤務、6時間早退ね」
ナガトの声が、背後から追い討ちをかける。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。
一昨日、△△△万円を私の故郷で用意できる見込みが立ったところなの。
今までお兄ちゃんがやっていた仕事は全部みんなに共有してるし、いつでも辞めることは出来るからね。
今日からでも、仕事を辞めてずっと一緒にいてあげる」
…待てよ、ハル。
俺の仕事をやっていただけでなく、さらに他の人にまで継承させたのか?
たったの3年で?
俺の20年は、それほどまでに軽かったのか?
「お前ってほんと羨ましい価値観をしているよな。
どんなに他人に迷惑をかけても、どんなに人を悲しませても、全部人のせい、政治家のせい、世の中のせいにできるもんな。
娘くらいの見た目の女の子に寄生して、挙句『お兄ちゃん』と呼ばせている姿は、呆れが一周回って笑えてくる。
そのままハルさんに養われていろ。
二度と表社会に出てくるんじゃねえぞ」
背後からのナガトの追及に、俺は惨めにも涙を流す。
嗚咽が漏れる。
足が震えて転びそうになる。
ハルに支えられながら、工房の外へ引きずり出される。
外の空気が冷たく、俺の涙を乾かす。
心の中の熱は、永遠に冷めないまま、ただ重く沈んでいく。
…ハルは今、どんな表情をしているのだろう。
俺は涙を流しながら、どんな表情をしているのかも分からないハルに、手を引かれて歩き出す以外他に道はなかった。
26/01/28 17:54更新 / 網走の塀