筆の行方
「やっほ♡リャナンシーちゃんだよ!今日のお便りはね」
「先生、何やってんですか」
ここはとある四階建てアパートの一室。そのそこが私の住み家&仕事場だ。仕事がひと段落ついたのでわたしがのりのりでDJごっこやってると、生意気にもそれを止めてきたのは助手君。まったく、これからが盛り上がるところなのに、むう。
「先生は作家であってDJじゃないでしょう。ほら、また机の上をこんなに散らかして」
「う、ごめんさい」
助手君のいうとおり私の仕事はもの書きだ。だから部屋にこもって仕事をすることが多いけどうんうんうなってばかりでは気がめいってしまう。だからたまにはふざけて気分を盛り上げるのも必要なのだ。テーブルの上をお菓子やコーヒーでいっぱいにしてしまうのは仕方のないことなのだ。
「先生、またコーヒー牛乳をコーヒーと偽って飲んでるんですか?」
「何で知っているの助手君!」
「全部自分でぶつぶつ言ってましたよ」
そんなことを覚えているなんて恐るべし、助手君。私がせんりつしている間に助手君は手際よく机の上を片付けていた。机はぴっかぴかだ。
「先生、今週の分、もう書き上げてたんですね」
「あ、うん」
「読ませてもらって、いいですか」
「いいよ」
私はそれほどすごい才能をもっているわけでもなく、人気作家で有名ということもない。それでも今日まで書き続けられているのは、いつも読んでくれるファンがいるからだ。ファンは取り巻きのように何でも持ち上げるわけでもなければ評論家気取りであれこれサイズするわけではない。おもしろければ面白かった!と手紙をくれ、誤字や至らない部分はビシバシ指摘してくる。そして、そんなファン第一号が助手君だった。私は熱心に読む助手君の方のところまで飛んで肩に座りながら横顔を眺めた。
もちろん、自分が文章を書くのが大好きだったという事情もある。リャナンシーなかまの中でも分量だけは多かったし、興味を持ったことはなんでも小説の題材にしてしまう。
それでもファンのみんながいつも読んでくれたから。
助手君がいつも叱咤激励してくれたから。
人気に走って苦手なものを書こうとした時も止めてくれたから。
今の私があるんだと思う。
やがて、彼は読み終えると真面目な顔で私の目をそらさずじっと見つめた。
「不必要な性行為のシーンが多いですね。あと、誤字脱字が以前よりも少なくなったとはいえ、あります」
「うぐ……」
「でも」
「とっても面白いです」
彼はそう言ってにっこりと笑った。ああ、このために作家人生を生きている。
おおげさかな?でも、私はそう断言できる。
「最近、魔物娘を隠れ蓑にして自分の不満や主張を叫ぶ人々がいます」
「どうしたの。助手君?」
「ただの愚痴ですよ…もう少しだけ付き合ってください」
助手君は少し陰のある顔で笑った。曰く
たまに教団を極悪非道な集団と描き、主人公が殺しまくる小説がヒットすることがあった。もちろん魔物娘たちも教団と戦ったものは多いが、それは憎しみからではなかった。それを、ほかの人間たちがアレルギー反応して教団以上のふるまいをして逮捕される案件もあった。
また、特定の主義・思想、差別主義者を憎むあまり罵声を浴びせたり暴力で物事を解決をはかり、皮肉にも差別主義者と区別できなくなるものもあらわれたこと。
「魔物娘さんたちを、イデオロギーに利用しようとするなんて間違っている。誰であろうと、そんな権利はないはずだ」
「……助手君」
「うん、魔物娘の役割はエロと幸せを届けることだからね!」
「直球ですね……」
助手君は苦笑しながら、あははと笑った。
世の中、いろんな人間がいる。魔物娘がいる。それでも、何かを成し遂げるために「ヘイト豚」「精神的奇形」と怒鳴り、がなり立てる人がいれば幸せ、そして魔物娘たちが逃げていくだけだ。
世の中にいろんな小説はあれど、自分は人間と魔物娘がともに笑い、試練を乗り越え、幸せに結ばれるような小説を書いていきたい。
そして、なにより。
助手君やファンのみんなを笑わせるような小説を書いていきたいと思う。そして、いつか、助手君と……
「先生、全部声に出てます。それとまずはかたずけをできるようになってください」
「聞かないでよ、もう!」
人間とリャナンシーの執筆の冒険はまだまだ続いていく。
書きたい、見たいという気持ちがある限り、筆は動き続ける。
「先生、何やってんですか」
ここはとある四階建てアパートの一室。そのそこが私の住み家&仕事場だ。仕事がひと段落ついたのでわたしがのりのりでDJごっこやってると、生意気にもそれを止めてきたのは助手君。まったく、これからが盛り上がるところなのに、むう。
「先生は作家であってDJじゃないでしょう。ほら、また机の上をこんなに散らかして」
「う、ごめんさい」
助手君のいうとおり私の仕事はもの書きだ。だから部屋にこもって仕事をすることが多いけどうんうんうなってばかりでは気がめいってしまう。だからたまにはふざけて気分を盛り上げるのも必要なのだ。テーブルの上をお菓子やコーヒーでいっぱいにしてしまうのは仕方のないことなのだ。
「先生、またコーヒー牛乳をコーヒーと偽って飲んでるんですか?」
「何で知っているの助手君!」
「全部自分でぶつぶつ言ってましたよ」
そんなことを覚えているなんて恐るべし、助手君。私がせんりつしている間に助手君は手際よく机の上を片付けていた。机はぴっかぴかだ。
「先生、今週の分、もう書き上げてたんですね」
「あ、うん」
「読ませてもらって、いいですか」
「いいよ」
私はそれほどすごい才能をもっているわけでもなく、人気作家で有名ということもない。それでも今日まで書き続けられているのは、いつも読んでくれるファンがいるからだ。ファンは取り巻きのように何でも持ち上げるわけでもなければ評論家気取りであれこれサイズするわけではない。おもしろければ面白かった!と手紙をくれ、誤字や至らない部分はビシバシ指摘してくる。そして、そんなファン第一号が助手君だった。私は熱心に読む助手君の方のところまで飛んで肩に座りながら横顔を眺めた。
もちろん、自分が文章を書くのが大好きだったという事情もある。リャナンシーなかまの中でも分量だけは多かったし、興味を持ったことはなんでも小説の題材にしてしまう。
それでもファンのみんながいつも読んでくれたから。
助手君がいつも叱咤激励してくれたから。
人気に走って苦手なものを書こうとした時も止めてくれたから。
今の私があるんだと思う。
やがて、彼は読み終えると真面目な顔で私の目をそらさずじっと見つめた。
「不必要な性行為のシーンが多いですね。あと、誤字脱字が以前よりも少なくなったとはいえ、あります」
「うぐ……」
「でも」
「とっても面白いです」
彼はそう言ってにっこりと笑った。ああ、このために作家人生を生きている。
おおげさかな?でも、私はそう断言できる。
「最近、魔物娘を隠れ蓑にして自分の不満や主張を叫ぶ人々がいます」
「どうしたの。助手君?」
「ただの愚痴ですよ…もう少しだけ付き合ってください」
助手君は少し陰のある顔で笑った。曰く
たまに教団を極悪非道な集団と描き、主人公が殺しまくる小説がヒットすることがあった。もちろん魔物娘たちも教団と戦ったものは多いが、それは憎しみからではなかった。それを、ほかの人間たちがアレルギー反応して教団以上のふるまいをして逮捕される案件もあった。
また、特定の主義・思想、差別主義者を憎むあまり罵声を浴びせたり暴力で物事を解決をはかり、皮肉にも差別主義者と区別できなくなるものもあらわれたこと。
「魔物娘さんたちを、イデオロギーに利用しようとするなんて間違っている。誰であろうと、そんな権利はないはずだ」
「……助手君」
「うん、魔物娘の役割はエロと幸せを届けることだからね!」
「直球ですね……」
助手君は苦笑しながら、あははと笑った。
世の中、いろんな人間がいる。魔物娘がいる。それでも、何かを成し遂げるために「ヘイト豚」「精神的奇形」と怒鳴り、がなり立てる人がいれば幸せ、そして魔物娘たちが逃げていくだけだ。
世の中にいろんな小説はあれど、自分は人間と魔物娘がともに笑い、試練を乗り越え、幸せに結ばれるような小説を書いていきたい。
そして、なにより。
助手君やファンのみんなを笑わせるような小説を書いていきたいと思う。そして、いつか、助手君と……
「先生、全部声に出てます。それとまずはかたずけをできるようになってください」
「聞かないでよ、もう!」
人間とリャナンシーの執筆の冒険はまだまだ続いていく。
書きたい、見たいという気持ちがある限り、筆は動き続ける。
17/04/04 18:04更新 / 運庫