読切小説
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新年の出会い

「あー寒っ……」

謹賀新年、元旦。
だというのに、誰も来ない神社。
それもそのはず、謹賀新年と言っても
まだ年が明けて数分。この山奥にある
神社になど、人が来るはずもなく、
親から押し付けられた神社の留守番を
任された俺は、暖房がついているとはいえ
外と部屋とを隔てる壁のない御守り販売の
受付の中で寒さに震えていた。
任せていった両親はといえば親魔物領の
催し物の感じか何かだそうで、
しばらく帰ってこないらしい。
母親が魔物娘、父親が人間の現代では
よくある家族構成の一人息子として
生まれ、父親の家業である神社の手伝いを
高校生とはいえ、子供1人に神社を任せるのは
いかがなものかと抗議したが、努力虚しく
いってしまった。

「…暇だなぁ……」

いっそのことクラスメイトの筋肉バカが、
どこかの除夜の鐘でも打ち鳴らして
ゴーンと響かせてはくれないだろうか。
受付の中、揃えられたお釣り用の小銭が綺麗に
整列し、様々な種類の御守りが揃えられた
机の上に、突っ伏して唸っていた。
誰か来ないことはわかり切っている。
だが、万が一何かの間違いで人が来ても困る。
この寒い中山を歩いてきたのに、
受付の人間が寝ていて買えなかったと
なっては可哀想だろう。

「夜食だけ取りに行こ……」

受付に『すぐ戻ります 0:13』とだけ
伝言と時刻の書き置きをして、席を立つ。
部屋の中に入っても暖房を切ったせいで寒い。
キッチン横の棚からカップ麺を取り出して、
お湯が沸くのを待つ。
ジャンパーを着て受付をしてもいいことに
なっているため、中の着物類にスープが
跳ねることを気にしなくてもいいのは救いだ。

しかし、巫女服というのは女性が着る物だと
思っていたが、男性用もあるとは
自分が神社の家に生まれていなければ
知り得なかっただろう。
そんなことを考えていれば、カチリと
お湯が沸いた合図がした。
カップ麺にお湯を注いで2分半。
固めが好きなのでこれでいい。

「いただきます」

割り箸を割って食べると、スープの温かさが
身に染みる。年明けということで
蕎麦にしてみたがかき揚げが美味い。

「ご馳走様でした」

手早く食べ終わり、片付けを済ませ、
手放しだった受付へと帰る。
戻る頃にはもうスープで戻った体温は
大半奪われていたが、まあいいだろう。
書き置きを下げて、視界をまた誰もいない
神社の境内に戻した……その時だった。

「…は?」

大きなプレゼント。誰もいなかったはずの
砂利の上を雪で覆った境内に、クリスマスに
見かけるようなプレゼントが置かれていた。
周りには足跡もなく、その箱はさも
当然かのように『さっきもありましたよ?』と
言わんばかりにそこにあった。
10歩程度歩けば届く距離だが、なかなか
大きい箱で、両手を広げても抱えられそうに
ないし、高さも俺よりも大きい。
車でも入ってるんじゃなかろうか。

「誰の…忘れ物って話はないよなぁ…」

忘れ物の線を考えたが、これを忘れるとなれば
相当の、超がつくほどの、天文学的なレベルの
おっちょこちょいということになる。
何よりこのサイズのものを持ち運べる人間は
いないだろう。空路からでは音で気がつく
だろうし、狐にでも化かされたか。

「寒さで幻覚でも見てんのか…夢か?」

けれどもまださっき食べた蕎麦のカップ麺の
風味も捨てた書き置きも残っている。
夢のようなものは、非現実的なものは
目の前のあれだけということになる。

「退かさなきゃ来た人驚くよな…でもなぁ…」

境内にあるのは不味いが、何より
動かしようがない。レッカー車でも呼んで
引きずっていってもらおうかと携帯を
取り出し、電話を掛けてみる。

「繋がらねぇな……って圏外?」

携帯は圏外。さっきまでネットで暇を
潰していたのだからあり得ない。
急な電波障害を考えたがこのタイミングで?
何か見落としているような、
テストでケアレスミスをしたような不安感。

「……見るだけ見てみるか…」

御守りの受付から外へ出て、上着を羽織るのも
忘れて着物のままで箱に近寄る。
パッと見ただけならただ丁寧に包装された
プレゼントボックスで、これまた大きな
リボンで包んである。

「んー…親に相談もできねえし……宛先とか…」

大抵箱には宛先があるはずと思ったが、
ハシゴも脚立も無く、上に登れるわけも
なかったために、ぐるっと回ってみたが
それらしいものも無かった。

「ここにあるんだよな…」

そもそも現実にあるのかすら疑い、
箱に触ってみた。サラサラとした上等な箱。
ただ少し押してみてわかった。中身が
大岩か何か入っているかのように重い。

「退かせないなこれは…」

いよいよ頭を抱えて俯いた時、視界の端に
白い封筒が見えた。ロウで封のされた
格式高そうな家で使われそうな
いかにもといったような封筒。
拾い上げ、名前を確認すると、
『魔物交流促進会』と書いてあった。

「母さんたちが世話になったらしい
会社?だかの名前だよな?
てことは親の荷物か」

なんだ、両親の荷物かとホッとしたのも
束の間で、視界の端に映り込んだものに
危うく倒れそうになった。

『宛先:岩宮 裕司様』

おそらくは女性の直筆だろう万年筆を
思わせるようなインクで書かれた美しい字。
そこには慣れ親しんだ自分の名前が
書かれていた。
そう、つまりこのデカブツは。

「…俺の荷物…ってこと?」

素っ頓狂な声を上げるしかなかった。
それから、しばらく時間が経って、
開けるか開けまいかと悩んでいた時だ。
ふとまだ試していないことが思い浮かぶ。

「まさかな」

この巨大な箱。よく考えれば人ひとり余裕で
収まる大きさだ。そして差出人は魔物領の
会社と来ている。中に生物が入っている
可能性は捨て切れないだろう。

「…トットッ」

軽いノック。中は詰まっているのか
籠った音がする。この大きさで中身が
詰まっているとなるとますます
予想がつかない。
体の大きい種類の魔物娘でも
この中でぎゅうぎゅうになっていれば
呼吸がしづらく苦しいだろう。
かれこれ悪戦苦闘して二、三十分は経つ。

「俺の荷物なら開けても問題はないんだけど…
開けるにしても開けようが無いし…」

リボンを切ったとして、蓋を上げるために
クレーン車でも必要になりそうな大きさ。
紙とはいえ、空気抵抗とか考えると
見かけより力はいるだろう。

「ま、物は試しか」

この場合、ただのハサミでちまちま切るよりも
調理に使う長めのナイフのほうが幅広の
リボンには、ある程度使い勝手がいいだろう。
台所からナイフを一本取り出し、上着無しで
外に出ていた寒さも忘れて、
箱にナイフを向ける。

その時だった。

「さて……と?」

切ろうとしたリボン。その視線の隅に
映る妙なシミ。赤のリボンと白の箱に滲んだ
青空のように澄んだ水色。

「濡れた……か?」

雪解け水でこの色になるだろうか?
など悠長に考えている時だった。

「もうっ!聞いていた話と違いますわ!!」
「はぁ!?」

ドパッ!っと粘度の高い音がしたと思えば、
プレゼントの蓋が開いた。開いたというよりは
溶け消えたという表現になるが、何はともあれ
プレゼントの中から、青い半透明な美しい
女性の体が爆発するように溢れ出してきた。

「あの狐…よくも騙してくれましたわね…!!」
「…」

目の前でにちゃにちゃと体を動かしながら、
何か様子を伺いながら愚痴る彼女。
目の前で起きたことに目を白黒させていると、
箱自体が溶け出し、とうとう消えてしまった。

「ここに来ればいい人に会えると聞きましたのに
このままじゃ凍ってしまいますわよ!」
「わぶっ!?」

箱が消えたことで彼女と同じ色をした、
ドロドロとした液体がダムの放水の如く
流れ出し、飲み込まれてしまった。
必死で息を止めもがいたものの、生ぬるい
蜂蜜のような粘度のそれは、動けば動くほど
纏わりつくだけで溺れそうだった。

「危うくアイスクイーンスライムになってしま…
あら?いったい誰ですのあなた」
「ごぼっ…ぶっ……がはっ!?ゲホッゲホッ!」

途端に粘液が周りから離れ、俺を取り囲む
ような形で静止した。雪の溶けた砂利の
上に投げ出され、呼吸することで精一杯で
まだ理解が追いつかない。何があったのか、
何をされたのか分からない。

「ここは神社ですわね?たしかご夫妻も
神社出身で……あ、ということは貴方が
裕司様ですのね!?」
「ゲホッ…ゲホッゲホッ…うぅ…何が……」
「写真と同じ…狐の言うことを聞いて
本当に正解でした!!」
「何…あぁ……裕司は俺だけど…ごふっ…」

まだ咳き込む俺に何かが興奮気味に
語りかけてくる。さっきの水色の女だろうか。
息も絶え絶えに彼女を見上げると、
綺麗な水色の体に、紫の眼。頭にティアラを
載せた美女と言って差し支えないモノと
目が合った。ここまで特徴的な外見。
正体はすぐにわかった。

「ク…クイーンスライム…?なんでここに…」
「あらご存知ですのね、でもお話は
聞いていないようですわ」
「話…?」
「お手紙、一筆添えましたわよ」
「手紙…あ」

そういえばまだ読んでいなかった。手紙は
受付の机の上に置いたままだ。

「まだ…読んでないです」
「そうでしたの、まあいいですわ」
「あの…なんでここに?」
「単刀直入に申し上げますと…」

緊張。クイーンスライムと言えば、ただでさえ
スライムが珍しいこの国ではほぼ見かけない
種類の魔物娘。海外ならよくいるらしいが、
少なくとも今まで生きてきて見たことがない。
それに、海外にいると言っても王家などに
いるのがもっぱらだ。それも、
屈んでなお俺が見上げる、この大きな
こんな巨大なクイーンスライムが、
ただの高校生に何の用だろうか。

「私の伴侶に、なってくださいまし♡」
「…なにて?」

…ゴーン…

どこか遠くで、高らかに寺の鐘の音がする。
煩悩を払う除夜の鐘。
その鐘が鳴り響くと同時、煩悩の塊のような
目をした彼女に舌舐めずりをされ、
時刻は1:00頃。永い夜になりそうだ、と
背中に走る冷たいものを感じた。


約2時間前、両親。

「祐司は大丈夫だろうか…」
「大丈夫ですよ、貴方♡」
「ならいいんだが…」

ここは親魔物領、魔物と人間の交流を
深めるための催し物の幹事に来ていた。

「本日はありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「お元気そうね、ユリ」
「あなたこそね、リーゼロッテ」

リーゼロッテ。私と、可愛い嫁の縁を
作ってくれた人だが、魔物娘の中でも
高位の種族らしく、ツノが生えているのを
見るにサキュバス?とかその辺りだろう。
あまり詳しい方ではないので、
有名な魔物娘しか知らないが。

「あなた♡触りすぎよ♡」
「触り心地が良すぎるのが悪い」

嫁のユリは稲荷という魔物娘で、たまたま
見つけた廃れた神社に居た。
初めは気づかずに、祀られている神様が
可哀想だと簡単な修理、清掃を済ませて
お供物を捧げたところ、
「お供物はお前♡」と襲われた。
そのまま1発で子を孕んだため、結婚した。

「んふっ♡あなた、続きは夜ね♡」
「むぅ…」

名残惜しいが離すしかない。
リーゼロッテさんも何か話があるんだろう。

「ふふ、お熱いわね」
「最高の旦那よ」フンス
「ありがとうね、ところでリーゼロッテさん、
何かお話ですか?」
「そうなのよ、実はかくかくしかじか」

話を聞いてみれば、知り合いのお悩み相談。
ただ問題なのはその悩みだった。

「旦那探し…ですか」
「そうなのよ、あの子、地位もあるし素養も
しっかりあるのに勿体無い」
「クイーンスライムなら王家に嫁ぐことも
できるんじゃないの?」
「それが渋ってるのよ」
「それまたどうして」
「生理的に無理」
「あらシャロ」
「来たわよリーゼ…って誰よこの人間と狐」
「ああ?」
「シャロ、失礼よ」

シャロ、と呼ばれたクイーンスライムが
部屋に帰ってくるなりユリが狐火で威嚇し
始めた。喧嘩は買うタチだがここで
やり合われても困る。ヒトの体は脆いのだ。

「ユリ、抑えて抑えて」
「んん…仕方ないわね」
「…で、まさかこの既婚者さんが私の旦那様とか
言い出さないでしょうね」
「そんなわけ無いわよ、私だって
長生きしたいし」
「ところで、なぜそのお話を私たちに?」
「ああ、実はね、この子人間の『普通の』子が
いいんですって」
「…普通の」

また妙な話になってきた。貴族や王家に嫁げる
クイーンスライムが普通の子を選ぶとは。

「ユリ、何かいい子いない?」
「なんで私なのよ」
「だって、あの地区で一番力が強いの貴女
だもの、ねぇ、土地神様」
「ちょっとリーゼロッテ!」
「え、そうなの?」

初耳だった。

「それはそうと、心当たりは?」
「そうねぇ……あっ」

ユリがこちらを見てくる。
さて、この顔の時のユリと言えば大抵悪い事を
考えている時がもっぱらである。
そしてユリとの付き合いも長いが、
この顔はその中でもとびきりだ。
付き合いのせいか、何を考えているか
ある程度ならわかる。だが嘘だろうユリ、
この予感は外れてくれ。

「ユリ、冗談だよな?」
「あなた」
「はい」
「私、孫っていうものに興味があるの」
「ユリ、それはまずいんじゃ無いか」
「シャロさんこんなのどう?」
「あら誰ですのこれ、結構好みですわ」
「ユリー話聞いてー」
「あらあら」

息子を心配する私をよそに、完全に女子会の
雰囲気になってしまった3人はとんとん
拍子に話を始め、収まる気配はなかった。

「で、どういきますの」
「歩いていけないの?」
「スライムという種族は軒並み
足が遅いんですのよ」
「たしかに粘液の塊だものね」
「私の部下に魔術が得意な子がいるから、
聞いて見ましょうか」
「そうしましょうか」
「じゃあいきましょうか」
「あなた〜お留守番お願いね〜」
「はーい気をつけて〜」

1人取り残されてしまった。
妻との初夜を思い出す。

「……死ぬなよ…裕司…」


時は戻って現在。

「伴侶と言われても…」
「私じゃご不満ですの?」

困った。とても困った。
手元にかろうじてナイフはあるものの、
このナイフで切っても粘液には意味がない。
さてどうしたものか。
伴侶になれと言われても、クイーンスライムと
なれば王家か貴族かと同等の地位を
得ることになる。

「いやぁ……」
「はっきりしない男ですわね…というかその刃物
危ないですから溶かしてしまいますわよ」
「えっ!?」

粘液の塊が手に飛びついたと思えば、
じゅわっと音を立ててナイフが消えた。
手に異常はなく、妙なマジックを見た気分だ。

「うーん…」
「…とりあえず寒いので、暖まらせて
いただきますわ」
「あぁ暖房なrごぶっ!?」
「体温高めですのね…いいですわ…」

確かに外は寒い。暖まりたいのはそうだろうが
まさか俺を取り込んで暖まるとは
思わななかった。こうなるなら高校の
魔物娘の生態の選択科目をとっておくべき
だったか。そう後悔したのも束の間、
今の状況に戦慄した。
言ってしまえば水責めと同義である。

「んごぼぼばぶ……」
「何してますの?」
「ごぼっ…ごぼぼっ……」
「息なら吸えますわよ」
「ぼぼっ?」

頭の中に彼女の声が響く。
体内にいるような状態なのだから、
当然と言えば当然かもしれないが、実際
魔法というのは凄い。
それに彼女は『息はできる』と言ったが
吸えども吸えども水飴が邪魔をして
とても外気など吸えたものではない。

「私の体を多少飲めばいいですわ」
「……んぐっ」

言われたままに飲んでみたが、なかなか
いける味だった。飲んでみると爽やかな味が
して喉をするりと抜けるような、それこそ、
弁当のデザートにちょうどいいゼリーの
ような味わいだった。

「……え?」
「ほら、吸えたでしょう?」
「ほんとだ…それに話せる…」
「その…お味はいかがですの…?」
「美味しかった…ですね…」
「ふふ…ふふふ!そうですの!
そうですわよね!だって私の体ですもの!」

どこかの姫君のような傲慢さかと思えば、
しおらしくなったり、爛漫に笑ったりと
秋頃の山の天気のような人だ。
さっぱり落ち着かない。

「ふふ…美味しいですわよね!」
「え、ええ…美味しいですが…」
「なら、合意と見て構いませんわね!」
「は?」

合意?ただ味を聞かれただけだが。
いや、さっき『私の体』と言ったな。
無我夢中で忘れていたがここは彼女の中だ。
それを食べたとなれば、スライムを食べた
ことになる。当然、理科の実験で作るような
スライムとは違うだろうが、それとはまた
別のベクトルでやらかした気がする。

「何はともあれ、このままの大きさじゃ私も
しづらいですし、小さくなりますわね」
「おわっ…寒っ」

彼女の体から外へ投げ出されたが、その瞬間、
彼女の体内の温もりが離れ、外の刺すような
外気が容赦なく襲ってくる。濡れているわけ
ではないようだが、それでも寒い。

「あっ…私でも寒いんですもの、あなたも
寒いですわよね」

足元の、大きなゼリーの水たまりになった
彼女がそう言うと、シャボン玉のように
薄い膜のようなドーム状に彼女が形を変えた。
外の外気が遮断され、部屋の中が段々と
温もりを取り戻しつつあり、部屋の真ん中には
さっきの姿をそのまま小さくした見た目の
彼女が腕を広げて座っていた。

「さ、旦那様♡」
「だ…旦那様…?」
「はい♡始めましょう?ヒメハジメ、と言う
ものがあるのですよね♡」
「えっと…その…」
「もう♡焦ったいですわね♡」
「えっ?ちょっと!?」

後ろでにゅじゅっと妙な音がしたと思えば、
少し見た目の異なるスライムの女性がいた。
ティアラのない普通のスライムだ。
強いて異なる点と言えば、足元のスライムの
海から生えていることと、どことなく
フリルを思わせるようなスライムのパーツだ。

「私の従者、メイドですわ♡」
「メ…メイド」
「ハーレムも出来ますわよ♡」
「いや、そもそもまだ伴侶になるかも
決めてないんですよ」
「何言ってますの?婚姻届ならここに」
「は!?」

目の前のクイーンスライムが、防水フィルムに
包まれた婚姻届を出してくる。そこには確かに
彼女のものだろうシャロという名前と、
今まで何度も見てきた達筆な字で書かれた
俺の名前があった。
その筆跡は紛れもなく。

「…親父…何してんだ」
「ふふ、ご両親の了解も得てましてよ♡」

シャロがメイドにそれを渡して、メイドは
沈んで溶けていく。
いつの間にか首に後ろから手を回され、
完全に逃げ場を塞がれた。

「ささ…ヒメハジメ…始めましょうか♡」
「えと……あの…シャロさん…どうか優しく…」
「んっ……裕司様♡快楽の沼にどっぷり
沈めて差し上げます♡」

月が雲から顔を覗かせ、輝いている。
それが彼女のコアと重なり、リングを描き、
彼女の中の気泡に反射して煌めいた光が
宝石のように載っている。
まだ除夜の鐘は鳴り響いている。
いつの間にか、服を溶かされ、
豊満な彼女の胸の中に沈められていく。
心地良いぬるい感覚とさっきまで飲んだ
彼女とはまた性質の違う彼女を飲んでいく。
体の中から透けて見える、妖艶に笑う彼女。
シャロと、これからを歩んでいくのだろうと、
俺も心躍らせていた。



終わり。

一方その頃、再び親。

「ねえあなた♡」
「待ちなさいユリ」
「2人目が欲しいの♡」
「待つんだユリ」
「狐火ぽーい♡」
「あっあっあっ」バキバキ
「これからお楽しみみたいだから私は外すわね」

ほんとに終わり。


25/01/05 02:02更新 / ZAKER

■作者メッセージ
書きたいものを書き殴った処女作になります。
何か間違った点などあるかと思いますが、ご容赦ください。

もし感想などお寄せいただきますと中の人が喜びます。

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