図鑑世界童話全集「ヘンゼルとグレーテル」
昔々、ある森にヘンゼルという男の子と、グレーテルという女の子の兄妹が住んでいました。
2人の母親は子供達がまだ小さい頃に、森で倒れてきた大木に押し潰されるという事故で亡くなってしまったため、父親は夏の間は小さな畑で作物を育て、冬には木こりとして森の木を切って男手1つで子供達を育てていました。
そしてヘンゼルが13歳、グレーテルが12歳になった年の春、父親は新しい奥さんを迎えました。
この後妻はヘンゼルやグレーテルより少し背が高い程度の小柄な女性でしたが、すばしっこい足であちこち走り回って懸命に夫の仕事を手伝い、2人の継子達にも優しくしてくれました。しかし、その年の夏は例年と比べて気温が低くて作物が思うように育たず、更には質の悪い害虫が大繁殖して作物の殆どを売る事はおろか自分達で食べる事もできない状態にしてしまいました。一家は以前からの蓄えや木こりとしての収入でどうにか食いつないでいましたが、それもやがて限界が訪れ、冬になる頃にはヘンゼルとグレーテルはすっかり骨と皮しかないほどにやせ細ってしまいました。
そんなある日、あまりもの空腹で夜中に目を覚ましたグレーテルは、せめて台所の樽に溜めてある雪解け水で空腹を紛らわせようと考えて廊下に出ましたが、父親と継母の寝室の前を通りかかった時に、2人が口論しているのを耳にしました。
「このままじゃ駄目だってことは俺だって解っているさ。だからってこんなやり方は」
「じゃあ何? 仲良く揃って飢え死にした方がいいって言うの?」
グレーテルが音を立てないように戸をそっと開けてみると、いつも夫や継子達に穏やかに接していた継母が、いつにない剣幕で父に詰め寄っていました。
「そんなこと言ってないさ。だが、もっと別の解決法があるんじゃないか?」
「あるなら言ってみてよ。ほら、今すぐ。夏に作った作物は残っていない。森の木も今年は育ちが悪くて高く売れるような木材は全然取れない。こんな状況を解決する方法をさあ」
「いや、それは……」
父親は言い淀み、黙って俯いてしまいました。
「じゃあ決まりだね。明日子供達を森の奥へ連れて行って、そこに置いてくるからね」
外の森といえば、狼のような猛獣や、人を殺して食べてしまうという魔物がうじゃうじゃ住んでいるという恐ろしい場所です。そんな場所に子供だけで置き去りにされたらなんて考えたくもありません。継母の言葉を聞いたグレーテルは、慌てて子供達の寝室へと走っていきました。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きてよ」
ヘンゼルは、妹が慌てて自分を呼ぶ声に目を覚まします。
「んぅ、どうしたんだよグレーテル。こんな夜中に」
眠っている間だけは空腹を忘れられるのに。そう思ったヘンゼルは不機嫌な声を出しながらゆっくりと目を開けます。しかし、次に妹が発した言葉に、彼の目は一発で醒めてしまいました。
「私達、捨てられちゃうんだって!」
「そうか。僕たち、口減らしされちゃうんだな」
グレーテルが盗み聞きしたという話を聞かされたヘンゼルは、すぐに状況を理解しました。確かに今のままでは4人揃って冬を越す食べ物もお金もありません。それに、自分達はこんなにやせ細っているというのに、よく考えると父親と継母だけは今も春の頃と変わらずつやつやしています。いつも子供達がなけなしの食糧を口にしている時には、2人ともそれを全く食べようとしていないにもかかわらず。4人全員が食いつなげる食糧は無いとだいぶ前から見切りをつけ、食糧をどこかに隠して2人だけでこっそり食べているのかもしれません。
ヘンゼルは大人達の立場を理解はしましたが、それでも自分が殺されるとなればそれを避けたいと思うのが人情です。ましてやヘンゼルだけでなく、今も縋るような目でこちらを見てくる妹までとなると尚更。とりあえず明日森からどうにかして生きて帰ることができれば、継母を説得して考え直させられるかもしれない。ヘンゼルはそう思うしかありませんでした。
「大丈夫。お兄ちゃんが何とかするから」
そう言ってグレーテルを安心させるために妹の手をそっと握ると、ヘンゼルは小さな袋を手にこっそり庭へと抜けだし、月の光を受けて白く輝く小石を拾って袋に詰め込みました。それから、庭の隅っこにあるお母さんの小さなお墓の前でお祈りします。
「神様。お母さん。どうかグレーテルを守ってあげてください」
翌朝。父親と継母は昨日寝室で話していた通り、ヘンゼルとグレーテルを森の中に連れて行きました。
「私達は森の奥で木を切ってくるから、あんた達はこの辺で焚き木を拾ったり食べられる木の実が無いか探していなさい。昼食はこれを分けて食べるんだよ」
そう言うと、継母はヘンゼルに小さなパンを1つ渡し、渋る父親の腕を引いて子供達のいる場所からどんどん離れて行きます。案の定、どっぷり日が沈んで森が真っ暗になってからも、大人達は迎えに来てくれませんでした。
「お兄ちゃん。私達このまま死んじゃうの?」
「大丈夫。お兄ちゃんが守ってあげるから」
ヘンゼルはグレーテルを安心させるように妹の頭を撫で、何かを待つように周囲を見回しました。やがて森の中に月の光が差し込むと、辺りの地面で何か小さな物が光りはじめます。それはヘンゼルが昨日庭で拾っておいた石でした。
「ここに来るまで、歩きながらあれを道にこっそり落としておいたんだ」
2人は光る石の道しるべを辿り、日の出まで歩き続けてようやく家にたどり着きました。しかし、玄関を開けた継母はヘンゼルとグレーテルの顔を見ると、2人が何かを言っているのにも聞く耳を持たず、子供達を物置に放り込み鍵をかけてしまいます。その間、父親はそれを力無くただ見ている事しかできませんでした。
さらに翌朝。父親と継母は一昨日と同じように子供達を森へ連れて行き、置き去りにしていきました。ヘンゼルは前回のように石を拾ってくる事ができなかったため、朝食として渡されたパンをちぎって石の代わりにするしかありませんでした。しかし、それは落とした傍から風に飛ばされたり小鳥が飛んできて食べてしまったりして、道しるべになる物は何も残りません。ヘンゼルは残ったパンのかけらと昼食分のパンをグレーテルに与え、自分はパンの粉が付いた指を舐めて空腹を紛らわせようとしました。
あれから、ヘンゼルはグレーテルの手を引いて森の中を何時間も歩きました。日も沈みかけ、いつの間にか雪まで降り始めています。握っているグレーテルの手はとても細く冷たく、今にも倒れ込んでしまいそうです。その時、ヘンゼルの鼻が何か甘い匂いを捉えました。近くに花が咲いているのかもしれない。グレーテルに花の蜜を飲ませてあげる事ができるかも。そう考えたヘンゼルは匂いのする方向へと歩いていきました。
すると、森が開けた場所に、なんとお菓子でできた大きな家が建っていました。壁はレープクーヘンでできていて、窓には透き通った砂糖がガラスの代わりにはめ込まれ、屋根にはチョコレートの瓦が張られています。ドアは板チョコで、ドアノブや窓枠、ドアにかかっているリースといった部分はクッキー等の焼き菓子でできていました。不思議な事にこれだけ甘い匂いを強く発しているにもかかわらず、動物や虫が集っている様子もなく、加えて屋根にうっすらと積もる雪までも砂糖に変わっていきます。とにかく、お腹を空かせた兄妹にはこれ以上ないほどの宝の山でした。
「お兄ちゃん。私夢でも見ているのかな?」
「解らない。でも、僕にもグレーテルと同じ物が見えていると思う」
ヘンゼルとグレーテルは花の蜜に誘われた虫のようにお菓子の家にふらふらと近づくと、夢中でそのお菓子を剥がして口にしていきました。お菓子は頬が落ちそうなほどに甘く、食べていると寒さが気にならないほどに身体がぽかぽかしてきます。
「あら。私の家を齧るのは誰かしら」
どっぷりと日が暮れ、2人がお腹いっぱいになった頃。お菓子の家の家主が帰ってきました。それは、腰まで届く紫色の髪をした美しい魔法使いのお姉さんでした。お姉さんは雪が降る森の中を歩いてきたというのに、大きな胸や引き締まったお腹、艶めかしい太ももを見せつけるような布地の少ないローブしか身に付けていません。
ヘンゼルとグレーテルは勝手に家を食べたことを叱られてしまうと思いましたが、お姉さんは優しく2人の手を取るとこう言いました。
「あらあら、こんなにやせ細っているなんて。かわいそうに。よっぽどひもじかったのね。うちのお菓子でいいならいくらでも食べて」
「え、いいの?」
グレーテルの言葉に、お姉さんはゆっくりと首を縦に振ります。
「人の命は壊れたら元に戻せないけど、家は壊れても直せばいいもの。……そうね。2人が元気になったら、代金の代わりとして家を修復するのを手伝ってもらおうかしら」
それから、お姉さんは2人を家の中に案内し、スポンジケーキでできたふかふかのベッドで寝かせてくれました。家にはおいしいお菓子だけでなく、薪をくべなくてもずっと火が燃え盛っている不思議なかまどまであります。お姉さんはその火で井戸水を沸かしたお湯でお菓子に合う紅茶を煎れたり、窓の砂糖や屋根のチョコレートを湯煎で溶かして飴やチョコレート菓子を作ってくれたりもしてくれました。窓を外したら外の冷たい風が入ってくるのではないかと聞くと、家には特別な結界が張られているので大丈夫だとお姉さんは言いました。
それから1週間ほど経ったある寒い夜。グレーテルは真夜中に目を覚ましました。さっきまでお腹いっぱいにお菓子を食べていたというのに、妙にお腹が空いています。それだけではありません。お腹の中で火が燃えているかのように身体が熱く、身体の内側がからからに渇ききっているような不思議な感覚がします。グレーテルは家の側にある井戸で水を汲んで来ました。そのまま口を付けそうになりましたが、井戸水をそのまま飲んだらお腹を壊すので1度沸騰させてから飲むようにというお姉さんの言葉を思い出し、やかんに入れてかまどの火で沸かしてから飲みました。しかし、身体が渇いた感覚は一向に収まらず、それどころかますます酷くなっていきます。グレーテルがもう1度水を汲んできて、台所の入り口まで運んできた時。彼女はいつの間にかお姉さんがかまどの前に立っている事に気づきました。かまどの方に向かって何かを話しかけています。かまどの火を使った魔法で離れた場所にいる相手と話をしているのでしょうか。そして、お姉さんの言葉がグレーテルの耳に届いた時。彼女の心臓は熱くなった身体とは反対に一瞬で凍り付きました。
「そんなの私が1番解っているわよ。でも、せっかく食べるんだったら美味しい形にしてから食べたいでしょ? お菓子も人間も」
なんという事でしょう。お姉さんは人間を食い殺す魔女だったのです(編注:もちろん実際の魔女は幼女しか存在しません。しかし、反魔物領ではダークメイジやダンピールのように人間と変わらない姿をした魔物娘や、人化の術を使って人間のふりをしている魔物娘を含めて「魔女」と呼ぶことがあります。そもそも、そうした種族の違いそのものがよく知られていないというケースもあります)。
どうか聞き間違いでありますように。グレーテルはそう願いながら台所の扉の影に姿を隠し、様子を伺います。しかし、次の言葉は決定的でした。
「最初は骨と皮ばっかりでびっくりしたけど、肉が付いてきて血色もだいぶ良くなってきたものね。ああ、ヘンゼルをおいしくいただくのが待ちきれないわ」
お姉さんはそう言うと、あふれ出す欲望を抑え込もうとするかのように、自分で自分を抱きしめるようにして体をくねらせました。やはり聞き間違いではありません。お姉さんはこれから子供達を殺して食べてしまうつもりなのです。グレーテルの身体が熱いのも、お菓子に毒を混ぜられていたのかもしれません。お菓子に虫や動物が集る様子が無かった事もこれで説明が付きます。
グレーテルは継母と父の話を聞いてしまったの時のように、兄の所に行って叩き起こそうかと考えました。しかし、すぐに思いとどまります。お姉さんは自分の計画を知られてしまった事に気づいたら、2人をすぐに殺してしまうでしょう。外の森に逃げるにしても、相手が森に棲む魔物では、簡単に見つかって追いつかれてしまいます。
相手が油断している今のうちに、なんとかやっつけてしまうしかない。グレーテルはそう考えました。彼女は音を立てないようにお姉さんの背後に忍び寄ると、自分を奮い立たせるために大きな叫び声を上げ、お姉さんに向かって飛び込んでいきます。お姉さんは慌てて背後を振り返りましたが、グレーテルの渾身の体当たりを受けてバランスを崩し、かまどに燃え盛る火に向かって倒れていきます。
耳をつんざくような悲鳴が、台所に響き渡りました。
「お兄ちゃんは、私を、守ってくれた。だから、今度は、私が、守るんだ」
炎に包まれてのたうち回るお姉さんを見下ろしながら、グレーテルはそう呟きました。まるで長い距離を走った後のように、苦しそうに息切れしています。それは渾身の力で体当たりした後だからとか、恐ろしい魔物と戦う緊張が解けたからという理由だけではありませんでした。
身体の焼けるような感覚が、どんどん強くなっているのです。グレーテルの身体には毒が回っていて、もう助からないのかもしれません。それでもヘンゼルだけはこれで助かったかもしれない。そう思うとグレーテルは崩れ落ちるように膝をつきました。その目には涙があふれています。
親に見捨てられ、助けてくれる親切な大人に巡りあえたと思ったら、そのお姉さんも結局は人間の子供の命など平気で奪ってしまう恐ろしい魔物でした。もう、ヘンゼルとグレーテルを助けてくれる大人はどこにもいないのかもしれません。この世界のどこにも。絶望感がグレーテルの心を包みます。魔物の恐ろしい計略からは解放されたとはいえ、ここでグレーテルまで死んでしまったら、ヘンゼルはどうなってしまうのでしょう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
その時。お姉さんが上げていた声が、突然悲鳴から笑い声に変わりました。グレーテルは思わず目を大きく開き、かまどの方を見ます。お姉さんはなんと炎に包まれた状態のまま、何事もなかったかのようにむくりと起き上がってきました。よく見るとその肌や服も一切焼け焦げていません。
「あー、びっくりした。まさか貴女がお兄ちゃんの事をそこまで大好きだったなんてね」
「そんな。炎に包まれても死なないなんて」
グレーテルは慌てて後ずさろうとしましたが、膝をついた姿勢だったため足がもつれ、その場に尻もちをついてしまいました。立ち上がろうにも、足ががくがくと震えて膝に力が入りません。すると、グレーテルの目の前で、お姉さんを包んでいた炎がその身体から離れ、少し離れた空中で渦を作ります。その渦の中に、お姉さんに負けないくらい整ったスタイルをした、裸の女の人のような物が現れました。
実はかまどの火も魔物だったのです。火の元素の精霊に、魔物の魔力が結びついて変化したイグニスという魔物娘です。さっきお姉さんが会話していた相手も、このイグニスでした。
「そういや自己紹介がまだだったな、グレーテル。私はイグニス。そこにいるダークメイジのお友達だ」
そう言いながら、イグニスはグレーテルのすぐ隣の床に降りたちました。ダークメイジの方も、興奮からか顔を真っ赤にさせながらじりじりと近づいてきます。1体でも人間の子供にとっては真正面からの戦いだとどうあがいても勝てそうにない魔物が2体。万事休すです。
「あ、あああ……」
グレーテルは恐怖にがくがくと脚を震わせました。つんとした臭いのする液体がドロワーズやネグリジェを濡らしてそれでも吸いきれず、床に黄色い水たまりが広がっていきます。
「あーあ。せっかくおいしいお菓子で作った床が汚れちゃったよ。だから火遊びしちゃいけないんだ。こいつはおしおきしないとねえ(編注:ジパングでは、『子供が火遊びをするとおねしょをしてしまう』という迷信があります)」
イグニスがにやりと笑うと、それに応えるようにダークメイジはグレーテルに飛びかかりました。グレーテルは慌てて身をよじり、床をはいずって逃げようとしましたが、その前にダークメイジにあっさりと羽交い絞めにされます。ダークメイジが腕でグレーテルを拘束したまま立ち上がると、グレーテルは足で虚しく宙を蹴る事しかできなくなりました。
「嫌! やめて! お兄ちゃん! 助けて!」
「大丈夫。私達は貴女を取って食べたりしないわよ」
「嘘だ! だってさっき、お兄ちゃんを食べるって」
「ああ。それで勘違いしたのね。安心して。私達現代の魔物娘は、貴女達人間を傷つけようとなんてしないわ。むしろとっても気持ちよくて楽しい遊びを教えてあげたいの。本当ならもっとじっくり準備を整えてからにするつもりだったんだけど、貴女が私をイグニスの炎に付き飛ばしてくれたおかげで身体が火照っちゃって火照っちゃって。もう我慢ができないわ。イグニス!」
ダークメイジの声に、イグニスは待ってましたと言わんばかりに飛び上がりました。人間の身体のような部分がかき消すように消え、再び炎だけの姿に戻ります。そして、その炎はグレーテルの身体を包み込みました。たちまちネグリジェが燃え上がります。
「ああ、身体が! 身体が!」
『安心しな。私は自分で決めた物だけを燃やすことができるんだ』
その言葉通り、イグニスの炎はグレーテルの身体を一切焼くこと無く身に付けていた服だけをはぎ取ってしまいました。ダークメイジの身体や衣服、布が燃え落ちた床にも引火する様子はありません。そして、燃える衣服から上がった煙を吸い込むと、これ以上ないと思う程熱く火照っていた身体がさらに熱くなります。女の子の恥ずかしい部分からは、さっきのおしっことは違うぬるぬるした液体が流れ落ちてきました。
「それに、着替えの心配もいらないわよ。貴女とヘンゼルの替えの服はちゃんと預かっているわ」
そういえば、2人は家から着替えを持ち出すことができなかったので困っていたのですが、お菓子の家にはそれとそっくりの衣服が何着も置いてありました。グレーテルはダークメイジが言った意味について考えようとしましたが、頭がぼうっとしてうまく働きません。
「私の服もお願い」
『あいよ』
イグニスがひと声発すると、ダークメイジの服もグレーテルのそれと同じように跡形もなく燃え落ちていきます。ダークメイジは「んっ」と小さく艶めかしい喘ぎ声を上げました。グレーテルは気づいていませんが、ダークメイジの股からもグレーテルと同じようにぬるぬるとした液体が太ももに幾筋もの流れを作って落ちています。
ダークメイジは腕でグレーテルの上半身をがっちり固定した状態のまま、慎ましやかに膨らみ始めたグレーテルの右胸を左手で掴みました。それだけでグレーテルの身体に強い電気のような物が走り、その身体がびくりと跳ねます。何が起きているのか理解できず、グレーテルの顔に戸惑いの表情が浮かびました。
「いい、グレーテル? 女の子の身体はね、こうやって胸を触られると気持ちよくなるようにできているのよ」
ダークメイジは母親が寝る前の子供に絵本を読み聞かせるような口調で話しかけながら、左手に掴んだ右胸を揉みしだき、ぴんと張りつめた乳首を人差し指と中指で挟むようにして器用に捏ね上げます。
「それだけじゃないわ。おまんこをくちゅくちゅされるともっと気持ちいいのよ」
そう言うと、ダークメイジは言葉通り右手をグレーテルのおマンコに伸ばし、赤ちゃんを産む穴に人差し指を差し込みます。そして、ぬるぬるになったその穴の浅い所を擦りあげ、淫らな水音を立てました。
「ああ、やめて。何かが、なにかがはじけちゃう」
グレーテルは最早何も考える事ができませんでした。身体が破裂してしまうのではないかと思う程に体内の焼けるような感覚が膨れ上がり、頭の中までも真っ白に染め上げていたからです。
「あら、もうなの。じゃあイクって言ってごらんなさい。身体が最高にエッチで気持ちよくなる事を、イクって言うのよ」
何も考えられなくなったグレーテルの頭は、耳から入ってくる言葉をそのまま受け止めます。
「い、イク! イクイク! いっちゃううううううう!」
グレーテルはありったけの大声で叫ぶと、ダークメイジの腕の中で陸に打ち上げられた魚のように体を激しく震わせ、荒い息を吐きました。内側をこすられていたおマンコも、ダークメイジの指をきゅうきゅうと締め付けています。ダークメイジはグレーテルの呼吸が整うのを待ってから、その耳に唇を寄せて囁きかけました。
「どう? 気持ちよかったでしょ。でももっと気持ちいい事があるのよ」
そう言うと、ダークメイジはおマンコに差し込んだ人差し指をもう少し深い所まで進めます。グレーテルはイグニスの炎で服を燃やされた時のダークメイジと同じように、小さな喘ぎ声を上げました。
「ねえ、解る? 女の子のおまんこの奥の方にはね、処女膜という物があるの。大好きな男の子の硬くそそり立ったおちんちんでこの処女膜を突き破ってもらって、その奥に精液っていうドロドロした物をびゅーって注ぎ込んでもらうとね、これ以上ないくらい気持ちよくイク事ができるのよ」
「ショジョマク……セーエキ……」
まだイった時の余韻が残っているグレーテルの頭は、耳から入ってくる単語をそのまま記憶に刻み込んでいきます。
「しかもそれだけじゃないの。そうやって精液をおまんこの奥にある子宮にどぷどぷって注ぎ込んでもらうとね、その男の子の赤ちゃんを産むことができるのよ」
「シキュー……あかちゃん……」
そして、ダークメイジはグレーテルの耳に決定的な言葉を注ぎ込みました。
「グレーテル。貴女がいちばん大好きな男の子はだあれ?」
答えはもう決まっています。自分の命と同じくらいかそれ以上にグレーテルを大切に守ってくれた人。そして、グレーテルが自分の命を失う事になっても守りたいと思った人。それは。
「お兄ちゃん!」
グレーテルが叫ぶと同時に、ダークメイジはぱっと両手を放しました。まるで弓から放たれた矢のように、グレーテルは全裸で台所の戸口から駆け出していきます。さっき自分が井戸水を汲んで持ってきたまま戸口に置きっぱなしにしていた桶に足をぶつけ、痛そうな音を立てましたが、グレーテルはそれを気にする余裕さえもなく兄が眠る寝室の方へと走り去っていきました。
『あらら、あんなに慌てて』
イグニスは炎だけの姿で台所の空中に漂いながら、どこか優しげな声で言います。廊下へと消えたグレーテルの頭にはいつの間にか山羊の角を短くしたような物が生え、同じようにお尻からもコウモリのような小さい翼と先がハート型になった短い尻尾が生えていました。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きてよ」
ヘンゼルは、妹が自分を呼ぶ声と脚の圧迫感に目を覚まします。
「んぅ、どうしたんだよグレーテル。こんな夜中に」
おいしいお菓子の夢を見ていたのに。そう思ったヘンゼルは不機嫌な声を出し、目を開けようともしません。
「お兄ちゃん、お腹すいた」
「お腹すいたならそこの壁にかけてあるリースでも齧ったら? 夜中につまみ食いしたらお姉さんに叱られちゃうけど、その時は僕も一緒に謝るから」
「そうじゃないの。胃袋じゃなくてもっと下の方がぺこぺこなの」
「は? 下の方って、一体何の話をして――」
なぞなぞみたいな言葉に戸惑いながら目を開けたヘンゼルは、そこで言葉を失ってしまいました。なぜならグレーテルが一糸まとわぬ姿で自分の脚にのしかかっていたからです。しかもその身体には、胸やお腹など所々に薄い体毛が生えていました。
「おい。寝間着はどうした? それによく見ると頭に……なんだこれ? つの?」
しかし、グレーテルは兄の言葉など聞こえていないかのように続けます。
「お姉さんが教えてくれたの。女の子はいちばん大好きな男の子のおちんちんで、おマンコの奥にあるシキューにセーエキを注ぎ込んでもらうと最高に気持ちよくなるって。それを聞いてから、私のおマンコがお兄ちゃんのおちんちんを欲しいって泣いているの」
グレーテルは夢見心地な顔で、兄のパジャマのズボンに手をかけます。
「あっ、だめ!」
ヘンゼルは慌てて止めようとしましたが間に合わず、はちきれんばかりに膨れ上がったおちんちんが天井に向かってそそり立ちます。
実は、ヘンゼルはお菓子の家のお菓子を初めて食べた次の日辺りから、お腹の下の方がかっと熱くなるのを感じていました。それを意識するとお腹の熱がおちんちんに燃え移っていくように、おちんちんが固くまっすぐになっていきます。ヘンゼルは何か悪い病気なのかと思いましたが他に男の人がいないので誰にも相談できず、とにかく妹を心配させないために必死に隠していました。その感覚はグレーテルの裸を見た時に最高潮になっていたのです。
「お姉さんが言った通りだ。お兄ちゃんのここ、硬くなってる」
グレーテルは誕生日に素敵なプレゼントを貰った時のような声で言いながら、ヘンゼルのおちんちんを掴み、先端を自分のぬるぬるになったおマンコに合わせます。そして、ヘンゼルの腰に向かって一気に体重をかけました。何が起きているのか理解できていないヘンゼルは、それを黙って見ている事しかできません。グレーテルのおマンコのすじが驚くほど大きく広がり、おちんちんを一気に飲みこんだ時。グレーテルの体内にある何かを突き破るような感覚と共に、ヘンゼルの身体を得体のしれない快感が駆け巡り、おちんちんの根元辺りを中心にゾクゾクと甘い痺れが広がりました。
「待って、グレーテル。何かが。何かが出てくる」
「出してお兄ちゃん。いっぱい出して! あっ、イク!」
ヘンゼルもグレーテルも夢中で叫びます。2人の直感通り、ヘンゼルのおちんちんは彼の鼓動に合わせて激しく震えながら、おしっことは違うドロドロとしたものをグレーテルのおマンコの中に噴き出しました。ヘンゼル本人もよく解っていませんが、これが彼の初めての射精、すなわち精通です。グレーテルはその感覚を楽しむように、お腹の下の方を押さえながら、顔を天井に向けています。ヘンゼルの目の前に見える膨らみかけの胸は、興奮からか激しく上下していました。
「お姉さんの、言った、とおりだあ。セーエキをびゅーって、どぷどぷって、注いでもらうの、気持ちいい……」
それからしばらく動かずに息を整えると、グレーテルは顔をヘンゼルの方に向け、情欲に蕩けた目で兄の目をじっと見つめながら言いました。
「お兄ちゃん。魔法使いのお姉さんが教えてくれたの。こうすれば、お兄ちゃんの赤ちゃんを産めるって」
「なんだって?」
ヘンゼルは慌ててグレーテルの両肩に手を添え、妹の身体を引き離そうとしますが、グレーテルがヘンゼルの肩を掴むと全く動かなくなってしまいました。ヘンゼルの知っている妹と同一人物とは全く考えられないほどの力です。
「お兄ちゃん嫌なの? 私がお兄ちゃんの赤ちゃんを産むの、そんなに嫌なの?」
「嫌とか嫌じゃないとかそういう問題じゃない! 昔お父さんが言っていただろ!」
実はヘンゼルは幼い頃、本の挿絵で大人の男女が口づけを交わしている絵に興味を持ち、グレーテルと一緒にそれを真似して遊んでいた事がありました。それを父親に見つかってしまった時、彼は子供達にこう言って叱ったのです。
――いいか? 俺はおまえ達が仲良くするなとは言っていない。俺だって2人が仲良くしてくれるのはとても嬉しいよ。だが、それは兄と妹としてだ。兄妹は結婚する事ができない。大人になったらよそで結婚する相手を見つけてこなきゃいけないんだ。いくらおまえたちの仲が良くても、結婚する相手とするような事だけはやるな。それだけは忘れちゃだめだ。
しかし、グレーテルは納得してくれません。
「そんな事知らないよ。私はお兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいの。お兄ちゃんがいいの。お兄ちゃんじゃなきゃ嫌なの」
そう言いながら涙を流す妹の姿に、ヘンゼルの胸はちくりと痛みます。その時、ヘンゼルの頭の中で、彼の声を借りた何かが語りかけてきました。何を迷う必要がある。目の前に自分の身体を求めてくれる女がいる。自分もその女を愛しいと思っている。それに、さっき思いっ切り精を放った時、頭が真っ白になりそうなほどに気持ちよかったし、グレーテルも気持ちよさそうだったじゃないかと。
確かにその通りだ。ヘンゼルは考えました。グレーテルがどこでどうやってこの怪力を身に付けたのか知りませんが、この力があればヘンゼルの抵抗など無視して強引に続きを行うことだって可能なはずです。なぜそうしないのかなんて、いちいちグレーテルに聞かなくても解ります。こう考えると、妹の必死の願いを踏みにじる事の方が、兄としては罪深い事のように思えてきました。それにグレーテルの話が本当なら、2人は赤ちゃんができてしまうような事を既に1回してしまっているのです。もしこれで赤ちゃんが生まれてしまって、その時に自分が赤ちゃんの父親だと認めなかったら、ますますグレーテルを悲しませてしまうでしょう。そして何より、やっぱりヘンゼルには、自分達が捨てられると知った夜と同じように縋りついてくる妹の目を無碍にすることなどできません。
ヘンゼルはグレーテルの肩から両手を外し、ゆっくりと横に広げました。
「わかった。グレーテル、僕の子供を産んでくれ。一緒に育てよう」
「ありがとうお兄ちゃん。本当にありがとう」
それから、グレーテルは待ちきれなかった気持ちを表すように、激しく腰を上下させ始めました。ヘンゼルはここでようやく、グレーテルのお尻からコウモリの翼と本の挿絵で見た悪魔の尻尾のような物が出てきている事に気づきます。これはレッサーサキュバスという下級の魔物娘の特徴でしたが、そんな事ヘンゼルは知りません。ヘンゼルは妹が魔物になってしまっている事を察しましたが、今の彼にとってはもはや些細な問題でした。グレーテルは魔物になっても人間を殺して食べようとしたりはせず、それどころか人間だった時以上に、妹として兄の愛を求めてくれているのですから。
「お兄ちゃん。私喉も乾いているの。お兄ちゃんのツバが飲みたい」
そう言うと、グレーテルは上半身を屈め、ヘンゼルの唇にキスしました。幼い頃に絵の真似事でやったような、唇で軽く触れるだけのバードキスとは全く違います。グレーテルはヘンゼルと激しく舌を絡め合い、舌で口の内側を擦り、貪欲に兄の唾液をこそぎ取ろうとしました。
さらには、グレーテルは投げ出された兄の左手を掴み、自分の右胸に添えます。ヘンゼルはその意図を察し、右手も同じようにグレーテルの左胸を掴むと、両手で妹の胸を揉みしだきました。
「おにいひゃん。おにいひゃん……!」
ピッタリ合わさった兄妹の唇の隙間からは、歓喜に蕩けた妹の嬌声が漏れてきます。その時、グレーテルは突然唇を離しました。
「あっ。ここ気持ちいいかも」
レッサーサキュバスになったグレーテルは、昨日までオナニーすらした事が無かったにも関わらず、もう自分のおマンコの中でひと際気持ちよく感じる場所を見つけました。早速腰を器用に動かし、ヘンゼルのおちんちんの先でその場所を重点的に擦ります。ヘンゼルの方もおちんちんの先の敏感な部分をグレーテルのおマンコの内側にあるヒダヒダで擦りあげられ、再び甘い痺れが腰に湧き上がってくるのを感じました。
「グレーテル、グレーテルっ!」
ヘンゼルは妹の名を呼びながら、胸に添えていた右手をグレーテルの背中に回し、左手でベッドを突きました。そのまま上半身を起き上がらせます。ヘンゼルは一度手を離し、2人の汗でぐしょぐしょになった上のパジャマを邪魔くさそうに脱ぎ捨てて放り投げました。お互い裸になった上半身で再びグレーテルの身体を抱きしめ、結合がより深くなる方向に力を込めます。ヘンゼルはいちばん大事な瞬間をできるだけグレーテルの奥におちんちんを押し込んだ状態で、そしてできるだけ妹の暖かさを強く感じた状態で迎えたかったのです。
「グレーテル、また出すよ。さっきと同じ物、奥に出すよ」
「お兄ちゃん、私もイク! またイっちゃう」
ヘンゼルがおちんちんをひと際深くグレーテルのおマンコの奥に押し付けた時。視界が真っ白に染まるほどの快感が彼を襲い、おちんちんから最初よりも激しい勢いで精液が吐き出されました。グレーテルのおマンコも、ヘンゼルのおちんちんから少しでも多くの精液を搾り取ろうとするかのように、きゅうきゅうとおちんちんを締め付けます。
ヘンゼルとグレーテルは長い射精が終わり、絶頂の余韻が引くまでの間、ずっと抱き合った姿勢のままぴくりとも動きませんでした。しかし、絶頂の余韻が引き、頭がすっきりしてくると、何も言わなくても2人の身体は示し合わせたように更なる快感を求めて動き始めます。
2人とも気づいていませんでしたが、ヘンゼルもこの時には既に妹と同じように、普通の人間とは異なる肉体になっていました。魔物娘の夫として精を生み出す力を強化された存在、インキュバスに変わっていたのです。
「ああ。ついさっきまで何も知らなかった子供達が、本能に突き動かされて訳も解らずに身体を貪り合う。最っ高にそそるわ。あっ、またイク」
ベッドの上で愛し合う事に夢中になっていたヘンゼルとグレーテルは気づきませんでしたが、寝室の入口ではダークメイジのお姉さんが全裸のままドアに寄りかかり、2人が交わる様子を見ていました。自らも脚をはしたなく広げて右手をおマンコに添え、指を3本も差し込んで淫らな水音を立てながらその内側を掻き回しています。
「ほんと、あんたって随分と大変な趣味をしてるよな」
ダークメイジの隣には、人間の姿を取ったイグニスが立っていました。呆れたように言いながらも、その目はベッドの上で交わる子供達に釘付けになり、おマンコはヘンゼルのおちんちんを欲しがってひくひくと震えながらぬるぬるした液体を垂れ流しています。
「あんただって人の事言えないわよ。ずっと私の計画に乗り気で手伝ってくれたじゃない」
「違いない」
お菓子の家はこの2人が協力して作った物でした。まずダークメイジが自らの魔力を魔法で固めて建材を作り、人間や魔物からだけお菓子として認識されるように幻覚魔法をかけ、イグニスの炎でそれを溶かしてくっつけたりして家を建てたのです。あのお菓子は、実はダークメイジとイグニスの魔力の塊でした。それを食べ、結果的に3つの種族の魔力を溜め込むことになった子供達の肉体は、ヘンゼルの方はインキュバスに、グレーテルの方はレッサーサキュバスへと変化する準備を着実に進めていたのです。後はシャボン玉のようにちょっとした刺激を受けるだけで溜め込んだ魔力を弾けさせ、一気に人ならざる者へとその身を変えてしまう状態でした。
「さて、あの2人にはこの家に来た時の約束をちゃんと果たしてもらわないといけないわね。あれだけたくさんのお菓子をまた魔法で作るとなると、たくさん魔力を溜めこむ必要があるわ」
「ああ。それに私も飲み物や湯煎に使う湯を沸かす時とかに、たっぷり魔力を込めたからな。また家を建て直すためにあれと同じ事をやるんだったら、だいぶ魔力を蓄えておく必要がある。だから――」
「「たっぷり精液を貰わないとね」」
「あっ。グレーテル、また出るっ!」
ヘンゼルの宣言に、ダークメイジとイグニスの目はグレーテルのおマンコに突き刺さった彼のおちんちんに集中しました。既に何回目かの射精にも関わらず、それは力強く震えて妹を孕ませんとその子宮に勢いよく種付けしています。それを見るお姉さん達の目は、森の中でお菓子の家にたどり着いた時の兄妹の目と同じくらい期待に輝いていました。
インキュバスとレッサーサキュバスになったヘンゼルとグレーテルは、もう食べ物を口にしなくてもセックスで精と魔力をやり取りすれば生き長らえる事が可能になります。2人はダークメイジとイグニスのお姉さん達から色々な体位やプレイも含めた性知識を手取り足取りで教わり、その日からお菓子の家は、住人達がお菓子の代わりに魔物娘やインキュバスの肢体を朝から晩まで味わう犯しの家になりました。
厳しい冬が終わり、お菓子の家の修復も完了すると、ヘンゼルとグレーテルは元の家に一旦帰る事にしました。父親の事が心配ですし、まだ生きているなら自分達の結婚をちゃんと報告したいからです。
ダークメイジのお姉さんは家に帰る近道を教えてくれました。途中で大きな川が行く手を阻んでいましたが、親切なハーピーがイグニス以外の3人を順番に、1人ずつ向こう岸へと届けてくれました。
懐かしい家に近づくと、中から何やらごそごそと物音がします。お父さんは無事だったんだ。そう思った兄妹は我先にと家に駆け寄り、玄関を勢いよく開けました。
「ただいまー。……って、お父さん何しているの?」
なんと、2人の父親は玄関で魔物娘と交わっていました。それも2人の魔物娘とです。父親は自らの尻尾をクッションにして仰向けに横たわるラタトスクを正常位で犯しながら、上半身ではスケルトンとしっかり抱き合って熱い口づけを交わしていました。しかも、よく見ると甘い喘ぎ声を上げているラタトスクは、兄妹を森に連れて行った継母です。そしてヘンゼルの声に気付き、彼の父親からゆっくりを顔を離したスケルトンの方はと言うと――
「「お母さん!」」
そう。兄妹が幼い頃に事故で死んでしまったはずの実母だったのです。ヘンゼルとグレーテルは気づいていませんでしたが、ラタトスクの継母がこの家にやってきて兄妹のお父さんと毎晩交わるようになってから、この家には彼女の魔力が少しずつ充満していました。それはヘンゼルとグレーテルの体内にも僅かに蓄積されていたのですが、同時に庭のお墓に埋まっている実母の遺骨にも浸透し、アンデッドの魔物娘へと変化させていたのです。ヘンゼルとグレーテルを2度目に森に連れて行った日の夜、庭で何かが倒れる大きな音がしたかと思うと、様子を見に行った父親にスケルトンが突然襲い掛かったとの話でした。
「誰かがお墓の上から私を呼んだようなした気がして、それから気が付くと何日もかけてお墓から這い上がっていたの。お父さんが来るのが見えた時にはもう魔力が尽きかけて、お父さんを押し倒す事しか考えられなくなっていたんだけどね」
みんなで居間に移動した後、継母はヘンゼルとグレーテルに、これまでの事情を話してくれました。ラタトスクは「情報」を扱う能力に優れた種族で、他の魔物に男性の情報を与えてけしかけたり、男性を魔物の元へ連れ込む事も得意とします。継母はこの能力を使って、性知識の無い子供に1から手ほどきしてみたいと思っていたダークメイジとイグニスに、自分の継子達の情報を流していました。ヘンゼルとグレーテルをインキュバスと魔物娘に変える事で、この兄妹を餓死から救うためです。もちろん森に置き去りにしたのもダークメイジの家に迷い込むようにさせるためで、1度家に戻ってきた時に押し入れに閉じ込めたのも、兄妹が継母を怖がって家に帰ってこれなくなるようにするのが狙いでした。
「私達ラタトスクは、他の種族みたいに特別強い腕力や魔力を持っているわけじゃないの。そういう力を持っていたら、自分の力で貴方達の食い扶持を稼げるのにってずっと悔やんでた。貴方達がやせ細っていくのを見る事しかできない自分が嫌で、お父さんに八つ当たりしてしまった事だって何回もあったわ。貴方達にも怖い思いをさせてしまって、私には貴方達のお母さんを名乗る資格が無いのは解ってる。本当にごめんなさい」
継母の目から、大粒の涙がぼろぼろと流れ落ちてきました。すると、グレーテルは継母をそっと抱きしめました。
「そんなこと無いわ。お義母さんだって私達を助けてくれようとしたんでしょ。それなのにお義母さんを疑ってしまって、謝らなきゃいけないのは私達の方だわ」
「グレーテルの言う通りだよ。お義母さんは自分達の種族の力を使って、僕達を助けてくれようとした。現にグレーテルも僕もこうして元気に生きているし、ダークメイジやイグニスのお姉さんたちとも出会う事ができた。本当のお母さんが帰ってきてくれた事も嬉しいけど、貴女だって僕達の大事なお母さんだ。それを疑ってごめんなさい」
ヘンゼルも妹と同じように継母に抱き付き、3人は固く抱き合ってわんわんと泣き始めました。
「あらあら。すっかり子供達を取られちゃったわね」
スケルトンの実母が拗ねたように言うと、彼女の夫はその肩を抱きしめ、宥めるようにそっと頬にキスしました。
「俺は、2人にこの子達の妹を何人でも産んでほしいと思っている。そして子供達にはどっちが産んだとか関係なく、2人とも自分の母親だと言ってもらえるような家庭を作りたい。それが今の俺の夢だ」
その言葉を聞いたスケルトンのお母さんは、自分の肩を抱きしめる腕に骨と魔力だけでできた手を添え、嬉しそうに夫の腕を撫でました。それから、思い出したように夫の手を取り、彼女の下腹部へと当てます。
「そういえば、前にあの人が言っていたでしょ。私達アンデッドも、夫とたくさん愛し合えば娘を産むことだってできるようになるって」
「確かに言ってたな」
「何日か前くらいからかな。ちょうど子宮の辺りから、私と少し違う魔力の波動を感じるの」
「おい。それって」
驚く夫に、スケルトンのお母さんは頷きました。
「私も、またあの子達の妹を産むのが楽しみになってきたわ」
それからヘンゼルとグレーテルの生みの両親は、身体中で喜びを分かち合い始めました。2人の熱い雰囲気に中てられたダークメイジとイグニスのお姉さん達も、まだ継母と抱き合っていた夫とその小さな第1夫人に後ろから襲い掛かります。こうしてヘンゼルも父親もそれぞれに、愛しい妻たちと濃厚な交わりを楽しみました。その激しさは一通り楽しんで一息ついてからようやく、何日も経過していた事に気づいたほどです。
その年、ある刑部狸が遠くの国からジャガイモという芋を持ち込んできました。寒さに強く、栽培できる時期が長い上に保存もよく効くこの食べ物の話を持ち前の情報力でいち早く聞きつけたラタトスクの継母は、早速その栽培法について書かれた本と種芋の実物を入手し、夫やそのもう1人の妻と一緒にジャガイモの栽培を始めます。
彼女の計画は大成功し、たくさん収穫できたジャガイモで昨年の貧しい生活が嘘だったかのような財産を手にしました。それだけでなく、新しいジャガイモの種芋をこの土地の風土に合わせて独自に改良した栽培法と一緒に広める事で、辺りの地域も不作に悩まされる事が減り、ヘンゼルとグレーテルがかつて恐れたように子供が口減らしされる事もぐんと少なくなったのです。
以前はただ森が広がっていたその地域も、ヘンゼルとグレーテルが大人になる頃には大きな街ができ、2人はダークメイジの奥さんから教わった技術で菓子職人になって家族でお菓子屋さんを開きました。店長の両親が育てたジャガイモと、店長夫人のイグニスやその娘の炎を使って作ったお菓子は大きな評判を呼びました。ヘンゼルはその後、妻達と一緒にその収益を使って、様々な事情で親と一緒に暮らせなくなった子供達を助けたり、年末年始のお祭りの日には孤児院に家の形をしたケーキを寄付したりする活動を行ったそうです(編注:年末の祭りといえば主神教団やサバト、堕落した神の教団、エロス神の祝祭である「クリスマス」が有名ですが、バッカス神の祝祭「ドサクサー」など年末年始には宗教によって異なる祭りが多く開かれているため、最近ではそれを含めて「年末年始の祭り」「楽しい祝日」というようにぼかされた表現が使われる事も増えています)。
・編者あとがき
先代の魔王様の時代、人間社会で飢饉が発生すると、親が自分達だけでも生き残るために子供を捨てたり、人買いに売り払う、あるいは最悪の場合には子供を殺してその人肉で飢えを凌ごうとするといった凄惨な出来事が実際に起きていました。
最近でも魔物の影響が乏しい地域では未だに同様の事態が確認されているという報告もあり、デーモンやデビルのような過激派の魔物娘達の中にはそうした事実を自分達の行動理由として引き合いに出す者も存在します。
このお話も元はそのような時代に書かれた物であり、元のお話では「ヘンゼルとグレーテルの実の両親が口減らしで(あるいはラタトスクに巧みな話術で唆されて)子供達を捨てる」「森に住むダークメイジの老婆がお菓子の幻覚で子供を誘い出し、殺して人肉を食べようとする」「グレーテルが老婆をかまどで焼き殺し、兄と共に老婆の持っていた財宝を持ち帰る」といったように当時の人間や魔物の生活、そしてその関わり方が色濃く反映された内容になっていました。
2人の母親は子供達がまだ小さい頃に、森で倒れてきた大木に押し潰されるという事故で亡くなってしまったため、父親は夏の間は小さな畑で作物を育て、冬には木こりとして森の木を切って男手1つで子供達を育てていました。
そしてヘンゼルが13歳、グレーテルが12歳になった年の春、父親は新しい奥さんを迎えました。
この後妻はヘンゼルやグレーテルより少し背が高い程度の小柄な女性でしたが、すばしっこい足であちこち走り回って懸命に夫の仕事を手伝い、2人の継子達にも優しくしてくれました。しかし、その年の夏は例年と比べて気温が低くて作物が思うように育たず、更には質の悪い害虫が大繁殖して作物の殆どを売る事はおろか自分達で食べる事もできない状態にしてしまいました。一家は以前からの蓄えや木こりとしての収入でどうにか食いつないでいましたが、それもやがて限界が訪れ、冬になる頃にはヘンゼルとグレーテルはすっかり骨と皮しかないほどにやせ細ってしまいました。
そんなある日、あまりもの空腹で夜中に目を覚ましたグレーテルは、せめて台所の樽に溜めてある雪解け水で空腹を紛らわせようと考えて廊下に出ましたが、父親と継母の寝室の前を通りかかった時に、2人が口論しているのを耳にしました。
「このままじゃ駄目だってことは俺だって解っているさ。だからってこんなやり方は」
「じゃあ何? 仲良く揃って飢え死にした方がいいって言うの?」
グレーテルが音を立てないように戸をそっと開けてみると、いつも夫や継子達に穏やかに接していた継母が、いつにない剣幕で父に詰め寄っていました。
「そんなこと言ってないさ。だが、もっと別の解決法があるんじゃないか?」
「あるなら言ってみてよ。ほら、今すぐ。夏に作った作物は残っていない。森の木も今年は育ちが悪くて高く売れるような木材は全然取れない。こんな状況を解決する方法をさあ」
「いや、それは……」
父親は言い淀み、黙って俯いてしまいました。
「じゃあ決まりだね。明日子供達を森の奥へ連れて行って、そこに置いてくるからね」
外の森といえば、狼のような猛獣や、人を殺して食べてしまうという魔物がうじゃうじゃ住んでいるという恐ろしい場所です。そんな場所に子供だけで置き去りにされたらなんて考えたくもありません。継母の言葉を聞いたグレーテルは、慌てて子供達の寝室へと走っていきました。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きてよ」
ヘンゼルは、妹が慌てて自分を呼ぶ声に目を覚まします。
「んぅ、どうしたんだよグレーテル。こんな夜中に」
眠っている間だけは空腹を忘れられるのに。そう思ったヘンゼルは不機嫌な声を出しながらゆっくりと目を開けます。しかし、次に妹が発した言葉に、彼の目は一発で醒めてしまいました。
「私達、捨てられちゃうんだって!」
「そうか。僕たち、口減らしされちゃうんだな」
グレーテルが盗み聞きしたという話を聞かされたヘンゼルは、すぐに状況を理解しました。確かに今のままでは4人揃って冬を越す食べ物もお金もありません。それに、自分達はこんなにやせ細っているというのに、よく考えると父親と継母だけは今も春の頃と変わらずつやつやしています。いつも子供達がなけなしの食糧を口にしている時には、2人ともそれを全く食べようとしていないにもかかわらず。4人全員が食いつなげる食糧は無いとだいぶ前から見切りをつけ、食糧をどこかに隠して2人だけでこっそり食べているのかもしれません。
ヘンゼルは大人達の立場を理解はしましたが、それでも自分が殺されるとなればそれを避けたいと思うのが人情です。ましてやヘンゼルだけでなく、今も縋るような目でこちらを見てくる妹までとなると尚更。とりあえず明日森からどうにかして生きて帰ることができれば、継母を説得して考え直させられるかもしれない。ヘンゼルはそう思うしかありませんでした。
「大丈夫。お兄ちゃんが何とかするから」
そう言ってグレーテルを安心させるために妹の手をそっと握ると、ヘンゼルは小さな袋を手にこっそり庭へと抜けだし、月の光を受けて白く輝く小石を拾って袋に詰め込みました。それから、庭の隅っこにあるお母さんの小さなお墓の前でお祈りします。
「神様。お母さん。どうかグレーテルを守ってあげてください」
翌朝。父親と継母は昨日寝室で話していた通り、ヘンゼルとグレーテルを森の中に連れて行きました。
「私達は森の奥で木を切ってくるから、あんた達はこの辺で焚き木を拾ったり食べられる木の実が無いか探していなさい。昼食はこれを分けて食べるんだよ」
そう言うと、継母はヘンゼルに小さなパンを1つ渡し、渋る父親の腕を引いて子供達のいる場所からどんどん離れて行きます。案の定、どっぷり日が沈んで森が真っ暗になってからも、大人達は迎えに来てくれませんでした。
「お兄ちゃん。私達このまま死んじゃうの?」
「大丈夫。お兄ちゃんが守ってあげるから」
ヘンゼルはグレーテルを安心させるように妹の頭を撫で、何かを待つように周囲を見回しました。やがて森の中に月の光が差し込むと、辺りの地面で何か小さな物が光りはじめます。それはヘンゼルが昨日庭で拾っておいた石でした。
「ここに来るまで、歩きながらあれを道にこっそり落としておいたんだ」
2人は光る石の道しるべを辿り、日の出まで歩き続けてようやく家にたどり着きました。しかし、玄関を開けた継母はヘンゼルとグレーテルの顔を見ると、2人が何かを言っているのにも聞く耳を持たず、子供達を物置に放り込み鍵をかけてしまいます。その間、父親はそれを力無くただ見ている事しかできませんでした。
さらに翌朝。父親と継母は一昨日と同じように子供達を森へ連れて行き、置き去りにしていきました。ヘンゼルは前回のように石を拾ってくる事ができなかったため、朝食として渡されたパンをちぎって石の代わりにするしかありませんでした。しかし、それは落とした傍から風に飛ばされたり小鳥が飛んできて食べてしまったりして、道しるべになる物は何も残りません。ヘンゼルは残ったパンのかけらと昼食分のパンをグレーテルに与え、自分はパンの粉が付いた指を舐めて空腹を紛らわせようとしました。
あれから、ヘンゼルはグレーテルの手を引いて森の中を何時間も歩きました。日も沈みかけ、いつの間にか雪まで降り始めています。握っているグレーテルの手はとても細く冷たく、今にも倒れ込んでしまいそうです。その時、ヘンゼルの鼻が何か甘い匂いを捉えました。近くに花が咲いているのかもしれない。グレーテルに花の蜜を飲ませてあげる事ができるかも。そう考えたヘンゼルは匂いのする方向へと歩いていきました。
すると、森が開けた場所に、なんとお菓子でできた大きな家が建っていました。壁はレープクーヘンでできていて、窓には透き通った砂糖がガラスの代わりにはめ込まれ、屋根にはチョコレートの瓦が張られています。ドアは板チョコで、ドアノブや窓枠、ドアにかかっているリースといった部分はクッキー等の焼き菓子でできていました。不思議な事にこれだけ甘い匂いを強く発しているにもかかわらず、動物や虫が集っている様子もなく、加えて屋根にうっすらと積もる雪までも砂糖に変わっていきます。とにかく、お腹を空かせた兄妹にはこれ以上ないほどの宝の山でした。
「お兄ちゃん。私夢でも見ているのかな?」
「解らない。でも、僕にもグレーテルと同じ物が見えていると思う」
ヘンゼルとグレーテルは花の蜜に誘われた虫のようにお菓子の家にふらふらと近づくと、夢中でそのお菓子を剥がして口にしていきました。お菓子は頬が落ちそうなほどに甘く、食べていると寒さが気にならないほどに身体がぽかぽかしてきます。
「あら。私の家を齧るのは誰かしら」
どっぷりと日が暮れ、2人がお腹いっぱいになった頃。お菓子の家の家主が帰ってきました。それは、腰まで届く紫色の髪をした美しい魔法使いのお姉さんでした。お姉さんは雪が降る森の中を歩いてきたというのに、大きな胸や引き締まったお腹、艶めかしい太ももを見せつけるような布地の少ないローブしか身に付けていません。
ヘンゼルとグレーテルは勝手に家を食べたことを叱られてしまうと思いましたが、お姉さんは優しく2人の手を取るとこう言いました。
「あらあら、こんなにやせ細っているなんて。かわいそうに。よっぽどひもじかったのね。うちのお菓子でいいならいくらでも食べて」
「え、いいの?」
グレーテルの言葉に、お姉さんはゆっくりと首を縦に振ります。
「人の命は壊れたら元に戻せないけど、家は壊れても直せばいいもの。……そうね。2人が元気になったら、代金の代わりとして家を修復するのを手伝ってもらおうかしら」
それから、お姉さんは2人を家の中に案内し、スポンジケーキでできたふかふかのベッドで寝かせてくれました。家にはおいしいお菓子だけでなく、薪をくべなくてもずっと火が燃え盛っている不思議なかまどまであります。お姉さんはその火で井戸水を沸かしたお湯でお菓子に合う紅茶を煎れたり、窓の砂糖や屋根のチョコレートを湯煎で溶かして飴やチョコレート菓子を作ってくれたりもしてくれました。窓を外したら外の冷たい風が入ってくるのではないかと聞くと、家には特別な結界が張られているので大丈夫だとお姉さんは言いました。
それから1週間ほど経ったある寒い夜。グレーテルは真夜中に目を覚ましました。さっきまでお腹いっぱいにお菓子を食べていたというのに、妙にお腹が空いています。それだけではありません。お腹の中で火が燃えているかのように身体が熱く、身体の内側がからからに渇ききっているような不思議な感覚がします。グレーテルは家の側にある井戸で水を汲んで来ました。そのまま口を付けそうになりましたが、井戸水をそのまま飲んだらお腹を壊すので1度沸騰させてから飲むようにというお姉さんの言葉を思い出し、やかんに入れてかまどの火で沸かしてから飲みました。しかし、身体が渇いた感覚は一向に収まらず、それどころかますます酷くなっていきます。グレーテルがもう1度水を汲んできて、台所の入り口まで運んできた時。彼女はいつの間にかお姉さんがかまどの前に立っている事に気づきました。かまどの方に向かって何かを話しかけています。かまどの火を使った魔法で離れた場所にいる相手と話をしているのでしょうか。そして、お姉さんの言葉がグレーテルの耳に届いた時。彼女の心臓は熱くなった身体とは反対に一瞬で凍り付きました。
「そんなの私が1番解っているわよ。でも、せっかく食べるんだったら美味しい形にしてから食べたいでしょ? お菓子も人間も」
なんという事でしょう。お姉さんは人間を食い殺す魔女だったのです(編注:もちろん実際の魔女は幼女しか存在しません。しかし、反魔物領ではダークメイジやダンピールのように人間と変わらない姿をした魔物娘や、人化の術を使って人間のふりをしている魔物娘を含めて「魔女」と呼ぶことがあります。そもそも、そうした種族の違いそのものがよく知られていないというケースもあります)。
どうか聞き間違いでありますように。グレーテルはそう願いながら台所の扉の影に姿を隠し、様子を伺います。しかし、次の言葉は決定的でした。
「最初は骨と皮ばっかりでびっくりしたけど、肉が付いてきて血色もだいぶ良くなってきたものね。ああ、ヘンゼルをおいしくいただくのが待ちきれないわ」
お姉さんはそう言うと、あふれ出す欲望を抑え込もうとするかのように、自分で自分を抱きしめるようにして体をくねらせました。やはり聞き間違いではありません。お姉さんはこれから子供達を殺して食べてしまうつもりなのです。グレーテルの身体が熱いのも、お菓子に毒を混ぜられていたのかもしれません。お菓子に虫や動物が集る様子が無かった事もこれで説明が付きます。
グレーテルは継母と父の話を聞いてしまったの時のように、兄の所に行って叩き起こそうかと考えました。しかし、すぐに思いとどまります。お姉さんは自分の計画を知られてしまった事に気づいたら、2人をすぐに殺してしまうでしょう。外の森に逃げるにしても、相手が森に棲む魔物では、簡単に見つかって追いつかれてしまいます。
相手が油断している今のうちに、なんとかやっつけてしまうしかない。グレーテルはそう考えました。彼女は音を立てないようにお姉さんの背後に忍び寄ると、自分を奮い立たせるために大きな叫び声を上げ、お姉さんに向かって飛び込んでいきます。お姉さんは慌てて背後を振り返りましたが、グレーテルの渾身の体当たりを受けてバランスを崩し、かまどに燃え盛る火に向かって倒れていきます。
耳をつんざくような悲鳴が、台所に響き渡りました。
「お兄ちゃんは、私を、守ってくれた。だから、今度は、私が、守るんだ」
炎に包まれてのたうち回るお姉さんを見下ろしながら、グレーテルはそう呟きました。まるで長い距離を走った後のように、苦しそうに息切れしています。それは渾身の力で体当たりした後だからとか、恐ろしい魔物と戦う緊張が解けたからという理由だけではありませんでした。
身体の焼けるような感覚が、どんどん強くなっているのです。グレーテルの身体には毒が回っていて、もう助からないのかもしれません。それでもヘンゼルだけはこれで助かったかもしれない。そう思うとグレーテルは崩れ落ちるように膝をつきました。その目には涙があふれています。
親に見捨てられ、助けてくれる親切な大人に巡りあえたと思ったら、そのお姉さんも結局は人間の子供の命など平気で奪ってしまう恐ろしい魔物でした。もう、ヘンゼルとグレーテルを助けてくれる大人はどこにもいないのかもしれません。この世界のどこにも。絶望感がグレーテルの心を包みます。魔物の恐ろしい計略からは解放されたとはいえ、ここでグレーテルまで死んでしまったら、ヘンゼルはどうなってしまうのでしょう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
その時。お姉さんが上げていた声が、突然悲鳴から笑い声に変わりました。グレーテルは思わず目を大きく開き、かまどの方を見ます。お姉さんはなんと炎に包まれた状態のまま、何事もなかったかのようにむくりと起き上がってきました。よく見るとその肌や服も一切焼け焦げていません。
「あー、びっくりした。まさか貴女がお兄ちゃんの事をそこまで大好きだったなんてね」
「そんな。炎に包まれても死なないなんて」
グレーテルは慌てて後ずさろうとしましたが、膝をついた姿勢だったため足がもつれ、その場に尻もちをついてしまいました。立ち上がろうにも、足ががくがくと震えて膝に力が入りません。すると、グレーテルの目の前で、お姉さんを包んでいた炎がその身体から離れ、少し離れた空中で渦を作ります。その渦の中に、お姉さんに負けないくらい整ったスタイルをした、裸の女の人のような物が現れました。
実はかまどの火も魔物だったのです。火の元素の精霊に、魔物の魔力が結びついて変化したイグニスという魔物娘です。さっきお姉さんが会話していた相手も、このイグニスでした。
「そういや自己紹介がまだだったな、グレーテル。私はイグニス。そこにいるダークメイジのお友達だ」
そう言いながら、イグニスはグレーテルのすぐ隣の床に降りたちました。ダークメイジの方も、興奮からか顔を真っ赤にさせながらじりじりと近づいてきます。1体でも人間の子供にとっては真正面からの戦いだとどうあがいても勝てそうにない魔物が2体。万事休すです。
「あ、あああ……」
グレーテルは恐怖にがくがくと脚を震わせました。つんとした臭いのする液体がドロワーズやネグリジェを濡らしてそれでも吸いきれず、床に黄色い水たまりが広がっていきます。
「あーあ。せっかくおいしいお菓子で作った床が汚れちゃったよ。だから火遊びしちゃいけないんだ。こいつはおしおきしないとねえ(編注:ジパングでは、『子供が火遊びをするとおねしょをしてしまう』という迷信があります)」
イグニスがにやりと笑うと、それに応えるようにダークメイジはグレーテルに飛びかかりました。グレーテルは慌てて身をよじり、床をはいずって逃げようとしましたが、その前にダークメイジにあっさりと羽交い絞めにされます。ダークメイジが腕でグレーテルを拘束したまま立ち上がると、グレーテルは足で虚しく宙を蹴る事しかできなくなりました。
「嫌! やめて! お兄ちゃん! 助けて!」
「大丈夫。私達は貴女を取って食べたりしないわよ」
「嘘だ! だってさっき、お兄ちゃんを食べるって」
「ああ。それで勘違いしたのね。安心して。私達現代の魔物娘は、貴女達人間を傷つけようとなんてしないわ。むしろとっても気持ちよくて楽しい遊びを教えてあげたいの。本当ならもっとじっくり準備を整えてからにするつもりだったんだけど、貴女が私をイグニスの炎に付き飛ばしてくれたおかげで身体が火照っちゃって火照っちゃって。もう我慢ができないわ。イグニス!」
ダークメイジの声に、イグニスは待ってましたと言わんばかりに飛び上がりました。人間の身体のような部分がかき消すように消え、再び炎だけの姿に戻ります。そして、その炎はグレーテルの身体を包み込みました。たちまちネグリジェが燃え上がります。
「ああ、身体が! 身体が!」
『安心しな。私は自分で決めた物だけを燃やすことができるんだ』
その言葉通り、イグニスの炎はグレーテルの身体を一切焼くこと無く身に付けていた服だけをはぎ取ってしまいました。ダークメイジの身体や衣服、布が燃え落ちた床にも引火する様子はありません。そして、燃える衣服から上がった煙を吸い込むと、これ以上ないと思う程熱く火照っていた身体がさらに熱くなります。女の子の恥ずかしい部分からは、さっきのおしっことは違うぬるぬるした液体が流れ落ちてきました。
「それに、着替えの心配もいらないわよ。貴女とヘンゼルの替えの服はちゃんと預かっているわ」
そういえば、2人は家から着替えを持ち出すことができなかったので困っていたのですが、お菓子の家にはそれとそっくりの衣服が何着も置いてありました。グレーテルはダークメイジが言った意味について考えようとしましたが、頭がぼうっとしてうまく働きません。
「私の服もお願い」
『あいよ』
イグニスがひと声発すると、ダークメイジの服もグレーテルのそれと同じように跡形もなく燃え落ちていきます。ダークメイジは「んっ」と小さく艶めかしい喘ぎ声を上げました。グレーテルは気づいていませんが、ダークメイジの股からもグレーテルと同じようにぬるぬるとした液体が太ももに幾筋もの流れを作って落ちています。
ダークメイジは腕でグレーテルの上半身をがっちり固定した状態のまま、慎ましやかに膨らみ始めたグレーテルの右胸を左手で掴みました。それだけでグレーテルの身体に強い電気のような物が走り、その身体がびくりと跳ねます。何が起きているのか理解できず、グレーテルの顔に戸惑いの表情が浮かびました。
「いい、グレーテル? 女の子の身体はね、こうやって胸を触られると気持ちよくなるようにできているのよ」
ダークメイジは母親が寝る前の子供に絵本を読み聞かせるような口調で話しかけながら、左手に掴んだ右胸を揉みしだき、ぴんと張りつめた乳首を人差し指と中指で挟むようにして器用に捏ね上げます。
「それだけじゃないわ。おまんこをくちゅくちゅされるともっと気持ちいいのよ」
そう言うと、ダークメイジは言葉通り右手をグレーテルのおマンコに伸ばし、赤ちゃんを産む穴に人差し指を差し込みます。そして、ぬるぬるになったその穴の浅い所を擦りあげ、淫らな水音を立てました。
「ああ、やめて。何かが、なにかがはじけちゃう」
グレーテルは最早何も考える事ができませんでした。身体が破裂してしまうのではないかと思う程に体内の焼けるような感覚が膨れ上がり、頭の中までも真っ白に染め上げていたからです。
「あら、もうなの。じゃあイクって言ってごらんなさい。身体が最高にエッチで気持ちよくなる事を、イクって言うのよ」
何も考えられなくなったグレーテルの頭は、耳から入ってくる言葉をそのまま受け止めます。
「い、イク! イクイク! いっちゃううううううう!」
グレーテルはありったけの大声で叫ぶと、ダークメイジの腕の中で陸に打ち上げられた魚のように体を激しく震わせ、荒い息を吐きました。内側をこすられていたおマンコも、ダークメイジの指をきゅうきゅうと締め付けています。ダークメイジはグレーテルの呼吸が整うのを待ってから、その耳に唇を寄せて囁きかけました。
「どう? 気持ちよかったでしょ。でももっと気持ちいい事があるのよ」
そう言うと、ダークメイジはおマンコに差し込んだ人差し指をもう少し深い所まで進めます。グレーテルはイグニスの炎で服を燃やされた時のダークメイジと同じように、小さな喘ぎ声を上げました。
「ねえ、解る? 女の子のおまんこの奥の方にはね、処女膜という物があるの。大好きな男の子の硬くそそり立ったおちんちんでこの処女膜を突き破ってもらって、その奥に精液っていうドロドロした物をびゅーって注ぎ込んでもらうとね、これ以上ないくらい気持ちよくイク事ができるのよ」
「ショジョマク……セーエキ……」
まだイった時の余韻が残っているグレーテルの頭は、耳から入ってくる単語をそのまま記憶に刻み込んでいきます。
「しかもそれだけじゃないの。そうやって精液をおまんこの奥にある子宮にどぷどぷって注ぎ込んでもらうとね、その男の子の赤ちゃんを産むことができるのよ」
「シキュー……あかちゃん……」
そして、ダークメイジはグレーテルの耳に決定的な言葉を注ぎ込みました。
「グレーテル。貴女がいちばん大好きな男の子はだあれ?」
答えはもう決まっています。自分の命と同じくらいかそれ以上にグレーテルを大切に守ってくれた人。そして、グレーテルが自分の命を失う事になっても守りたいと思った人。それは。
「お兄ちゃん!」
グレーテルが叫ぶと同時に、ダークメイジはぱっと両手を放しました。まるで弓から放たれた矢のように、グレーテルは全裸で台所の戸口から駆け出していきます。さっき自分が井戸水を汲んで持ってきたまま戸口に置きっぱなしにしていた桶に足をぶつけ、痛そうな音を立てましたが、グレーテルはそれを気にする余裕さえもなく兄が眠る寝室の方へと走り去っていきました。
『あらら、あんなに慌てて』
イグニスは炎だけの姿で台所の空中に漂いながら、どこか優しげな声で言います。廊下へと消えたグレーテルの頭にはいつの間にか山羊の角を短くしたような物が生え、同じようにお尻からもコウモリのような小さい翼と先がハート型になった短い尻尾が生えていました。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きてよ」
ヘンゼルは、妹が自分を呼ぶ声と脚の圧迫感に目を覚まします。
「んぅ、どうしたんだよグレーテル。こんな夜中に」
おいしいお菓子の夢を見ていたのに。そう思ったヘンゼルは不機嫌な声を出し、目を開けようともしません。
「お兄ちゃん、お腹すいた」
「お腹すいたならそこの壁にかけてあるリースでも齧ったら? 夜中につまみ食いしたらお姉さんに叱られちゃうけど、その時は僕も一緒に謝るから」
「そうじゃないの。胃袋じゃなくてもっと下の方がぺこぺこなの」
「は? 下の方って、一体何の話をして――」
なぞなぞみたいな言葉に戸惑いながら目を開けたヘンゼルは、そこで言葉を失ってしまいました。なぜならグレーテルが一糸まとわぬ姿で自分の脚にのしかかっていたからです。しかもその身体には、胸やお腹など所々に薄い体毛が生えていました。
「おい。寝間着はどうした? それによく見ると頭に……なんだこれ? つの?」
しかし、グレーテルは兄の言葉など聞こえていないかのように続けます。
「お姉さんが教えてくれたの。女の子はいちばん大好きな男の子のおちんちんで、おマンコの奥にあるシキューにセーエキを注ぎ込んでもらうと最高に気持ちよくなるって。それを聞いてから、私のおマンコがお兄ちゃんのおちんちんを欲しいって泣いているの」
グレーテルは夢見心地な顔で、兄のパジャマのズボンに手をかけます。
「あっ、だめ!」
ヘンゼルは慌てて止めようとしましたが間に合わず、はちきれんばかりに膨れ上がったおちんちんが天井に向かってそそり立ちます。
実は、ヘンゼルはお菓子の家のお菓子を初めて食べた次の日辺りから、お腹の下の方がかっと熱くなるのを感じていました。それを意識するとお腹の熱がおちんちんに燃え移っていくように、おちんちんが固くまっすぐになっていきます。ヘンゼルは何か悪い病気なのかと思いましたが他に男の人がいないので誰にも相談できず、とにかく妹を心配させないために必死に隠していました。その感覚はグレーテルの裸を見た時に最高潮になっていたのです。
「お姉さんが言った通りだ。お兄ちゃんのここ、硬くなってる」
グレーテルは誕生日に素敵なプレゼントを貰った時のような声で言いながら、ヘンゼルのおちんちんを掴み、先端を自分のぬるぬるになったおマンコに合わせます。そして、ヘンゼルの腰に向かって一気に体重をかけました。何が起きているのか理解できていないヘンゼルは、それを黙って見ている事しかできません。グレーテルのおマンコのすじが驚くほど大きく広がり、おちんちんを一気に飲みこんだ時。グレーテルの体内にある何かを突き破るような感覚と共に、ヘンゼルの身体を得体のしれない快感が駆け巡り、おちんちんの根元辺りを中心にゾクゾクと甘い痺れが広がりました。
「待って、グレーテル。何かが。何かが出てくる」
「出してお兄ちゃん。いっぱい出して! あっ、イク!」
ヘンゼルもグレーテルも夢中で叫びます。2人の直感通り、ヘンゼルのおちんちんは彼の鼓動に合わせて激しく震えながら、おしっことは違うドロドロとしたものをグレーテルのおマンコの中に噴き出しました。ヘンゼル本人もよく解っていませんが、これが彼の初めての射精、すなわち精通です。グレーテルはその感覚を楽しむように、お腹の下の方を押さえながら、顔を天井に向けています。ヘンゼルの目の前に見える膨らみかけの胸は、興奮からか激しく上下していました。
「お姉さんの、言った、とおりだあ。セーエキをびゅーって、どぷどぷって、注いでもらうの、気持ちいい……」
それからしばらく動かずに息を整えると、グレーテルは顔をヘンゼルの方に向け、情欲に蕩けた目で兄の目をじっと見つめながら言いました。
「お兄ちゃん。魔法使いのお姉さんが教えてくれたの。こうすれば、お兄ちゃんの赤ちゃんを産めるって」
「なんだって?」
ヘンゼルは慌ててグレーテルの両肩に手を添え、妹の身体を引き離そうとしますが、グレーテルがヘンゼルの肩を掴むと全く動かなくなってしまいました。ヘンゼルの知っている妹と同一人物とは全く考えられないほどの力です。
「お兄ちゃん嫌なの? 私がお兄ちゃんの赤ちゃんを産むの、そんなに嫌なの?」
「嫌とか嫌じゃないとかそういう問題じゃない! 昔お父さんが言っていただろ!」
実はヘンゼルは幼い頃、本の挿絵で大人の男女が口づけを交わしている絵に興味を持ち、グレーテルと一緒にそれを真似して遊んでいた事がありました。それを父親に見つかってしまった時、彼は子供達にこう言って叱ったのです。
――いいか? 俺はおまえ達が仲良くするなとは言っていない。俺だって2人が仲良くしてくれるのはとても嬉しいよ。だが、それは兄と妹としてだ。兄妹は結婚する事ができない。大人になったらよそで結婚する相手を見つけてこなきゃいけないんだ。いくらおまえたちの仲が良くても、結婚する相手とするような事だけはやるな。それだけは忘れちゃだめだ。
しかし、グレーテルは納得してくれません。
「そんな事知らないよ。私はお兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいの。お兄ちゃんがいいの。お兄ちゃんじゃなきゃ嫌なの」
そう言いながら涙を流す妹の姿に、ヘンゼルの胸はちくりと痛みます。その時、ヘンゼルの頭の中で、彼の声を借りた何かが語りかけてきました。何を迷う必要がある。目の前に自分の身体を求めてくれる女がいる。自分もその女を愛しいと思っている。それに、さっき思いっ切り精を放った時、頭が真っ白になりそうなほどに気持ちよかったし、グレーテルも気持ちよさそうだったじゃないかと。
確かにその通りだ。ヘンゼルは考えました。グレーテルがどこでどうやってこの怪力を身に付けたのか知りませんが、この力があればヘンゼルの抵抗など無視して強引に続きを行うことだって可能なはずです。なぜそうしないのかなんて、いちいちグレーテルに聞かなくても解ります。こう考えると、妹の必死の願いを踏みにじる事の方が、兄としては罪深い事のように思えてきました。それにグレーテルの話が本当なら、2人は赤ちゃんができてしまうような事を既に1回してしまっているのです。もしこれで赤ちゃんが生まれてしまって、その時に自分が赤ちゃんの父親だと認めなかったら、ますますグレーテルを悲しませてしまうでしょう。そして何より、やっぱりヘンゼルには、自分達が捨てられると知った夜と同じように縋りついてくる妹の目を無碍にすることなどできません。
ヘンゼルはグレーテルの肩から両手を外し、ゆっくりと横に広げました。
「わかった。グレーテル、僕の子供を産んでくれ。一緒に育てよう」
「ありがとうお兄ちゃん。本当にありがとう」
それから、グレーテルは待ちきれなかった気持ちを表すように、激しく腰を上下させ始めました。ヘンゼルはここでようやく、グレーテルのお尻からコウモリの翼と本の挿絵で見た悪魔の尻尾のような物が出てきている事に気づきます。これはレッサーサキュバスという下級の魔物娘の特徴でしたが、そんな事ヘンゼルは知りません。ヘンゼルは妹が魔物になってしまっている事を察しましたが、今の彼にとってはもはや些細な問題でした。グレーテルは魔物になっても人間を殺して食べようとしたりはせず、それどころか人間だった時以上に、妹として兄の愛を求めてくれているのですから。
「お兄ちゃん。私喉も乾いているの。お兄ちゃんのツバが飲みたい」
そう言うと、グレーテルは上半身を屈め、ヘンゼルの唇にキスしました。幼い頃に絵の真似事でやったような、唇で軽く触れるだけのバードキスとは全く違います。グレーテルはヘンゼルと激しく舌を絡め合い、舌で口の内側を擦り、貪欲に兄の唾液をこそぎ取ろうとしました。
さらには、グレーテルは投げ出された兄の左手を掴み、自分の右胸に添えます。ヘンゼルはその意図を察し、右手も同じようにグレーテルの左胸を掴むと、両手で妹の胸を揉みしだきました。
「おにいひゃん。おにいひゃん……!」
ピッタリ合わさった兄妹の唇の隙間からは、歓喜に蕩けた妹の嬌声が漏れてきます。その時、グレーテルは突然唇を離しました。
「あっ。ここ気持ちいいかも」
レッサーサキュバスになったグレーテルは、昨日までオナニーすらした事が無かったにも関わらず、もう自分のおマンコの中でひと際気持ちよく感じる場所を見つけました。早速腰を器用に動かし、ヘンゼルのおちんちんの先でその場所を重点的に擦ります。ヘンゼルの方もおちんちんの先の敏感な部分をグレーテルのおマンコの内側にあるヒダヒダで擦りあげられ、再び甘い痺れが腰に湧き上がってくるのを感じました。
「グレーテル、グレーテルっ!」
ヘンゼルは妹の名を呼びながら、胸に添えていた右手をグレーテルの背中に回し、左手でベッドを突きました。そのまま上半身を起き上がらせます。ヘンゼルは一度手を離し、2人の汗でぐしょぐしょになった上のパジャマを邪魔くさそうに脱ぎ捨てて放り投げました。お互い裸になった上半身で再びグレーテルの身体を抱きしめ、結合がより深くなる方向に力を込めます。ヘンゼルはいちばん大事な瞬間をできるだけグレーテルの奥におちんちんを押し込んだ状態で、そしてできるだけ妹の暖かさを強く感じた状態で迎えたかったのです。
「グレーテル、また出すよ。さっきと同じ物、奥に出すよ」
「お兄ちゃん、私もイク! またイっちゃう」
ヘンゼルがおちんちんをひと際深くグレーテルのおマンコの奥に押し付けた時。視界が真っ白に染まるほどの快感が彼を襲い、おちんちんから最初よりも激しい勢いで精液が吐き出されました。グレーテルのおマンコも、ヘンゼルのおちんちんから少しでも多くの精液を搾り取ろうとするかのように、きゅうきゅうとおちんちんを締め付けます。
ヘンゼルとグレーテルは長い射精が終わり、絶頂の余韻が引くまでの間、ずっと抱き合った姿勢のままぴくりとも動きませんでした。しかし、絶頂の余韻が引き、頭がすっきりしてくると、何も言わなくても2人の身体は示し合わせたように更なる快感を求めて動き始めます。
2人とも気づいていませんでしたが、ヘンゼルもこの時には既に妹と同じように、普通の人間とは異なる肉体になっていました。魔物娘の夫として精を生み出す力を強化された存在、インキュバスに変わっていたのです。
「ああ。ついさっきまで何も知らなかった子供達が、本能に突き動かされて訳も解らずに身体を貪り合う。最っ高にそそるわ。あっ、またイク」
ベッドの上で愛し合う事に夢中になっていたヘンゼルとグレーテルは気づきませんでしたが、寝室の入口ではダークメイジのお姉さんが全裸のままドアに寄りかかり、2人が交わる様子を見ていました。自らも脚をはしたなく広げて右手をおマンコに添え、指を3本も差し込んで淫らな水音を立てながらその内側を掻き回しています。
「ほんと、あんたって随分と大変な趣味をしてるよな」
ダークメイジの隣には、人間の姿を取ったイグニスが立っていました。呆れたように言いながらも、その目はベッドの上で交わる子供達に釘付けになり、おマンコはヘンゼルのおちんちんを欲しがってひくひくと震えながらぬるぬるした液体を垂れ流しています。
「あんただって人の事言えないわよ。ずっと私の計画に乗り気で手伝ってくれたじゃない」
「違いない」
お菓子の家はこの2人が協力して作った物でした。まずダークメイジが自らの魔力を魔法で固めて建材を作り、人間や魔物からだけお菓子として認識されるように幻覚魔法をかけ、イグニスの炎でそれを溶かしてくっつけたりして家を建てたのです。あのお菓子は、実はダークメイジとイグニスの魔力の塊でした。それを食べ、結果的に3つの種族の魔力を溜め込むことになった子供達の肉体は、ヘンゼルの方はインキュバスに、グレーテルの方はレッサーサキュバスへと変化する準備を着実に進めていたのです。後はシャボン玉のようにちょっとした刺激を受けるだけで溜め込んだ魔力を弾けさせ、一気に人ならざる者へとその身を変えてしまう状態でした。
「さて、あの2人にはこの家に来た時の約束をちゃんと果たしてもらわないといけないわね。あれだけたくさんのお菓子をまた魔法で作るとなると、たくさん魔力を溜めこむ必要があるわ」
「ああ。それに私も飲み物や湯煎に使う湯を沸かす時とかに、たっぷり魔力を込めたからな。また家を建て直すためにあれと同じ事をやるんだったら、だいぶ魔力を蓄えておく必要がある。だから――」
「「たっぷり精液を貰わないとね」」
「あっ。グレーテル、また出るっ!」
ヘンゼルの宣言に、ダークメイジとイグニスの目はグレーテルのおマンコに突き刺さった彼のおちんちんに集中しました。既に何回目かの射精にも関わらず、それは力強く震えて妹を孕ませんとその子宮に勢いよく種付けしています。それを見るお姉さん達の目は、森の中でお菓子の家にたどり着いた時の兄妹の目と同じくらい期待に輝いていました。
インキュバスとレッサーサキュバスになったヘンゼルとグレーテルは、もう食べ物を口にしなくてもセックスで精と魔力をやり取りすれば生き長らえる事が可能になります。2人はダークメイジとイグニスのお姉さん達から色々な体位やプレイも含めた性知識を手取り足取りで教わり、その日からお菓子の家は、住人達がお菓子の代わりに魔物娘やインキュバスの肢体を朝から晩まで味わう犯しの家になりました。
厳しい冬が終わり、お菓子の家の修復も完了すると、ヘンゼルとグレーテルは元の家に一旦帰る事にしました。父親の事が心配ですし、まだ生きているなら自分達の結婚をちゃんと報告したいからです。
ダークメイジのお姉さんは家に帰る近道を教えてくれました。途中で大きな川が行く手を阻んでいましたが、親切なハーピーがイグニス以外の3人を順番に、1人ずつ向こう岸へと届けてくれました。
懐かしい家に近づくと、中から何やらごそごそと物音がします。お父さんは無事だったんだ。そう思った兄妹は我先にと家に駆け寄り、玄関を勢いよく開けました。
「ただいまー。……って、お父さん何しているの?」
なんと、2人の父親は玄関で魔物娘と交わっていました。それも2人の魔物娘とです。父親は自らの尻尾をクッションにして仰向けに横たわるラタトスクを正常位で犯しながら、上半身ではスケルトンとしっかり抱き合って熱い口づけを交わしていました。しかも、よく見ると甘い喘ぎ声を上げているラタトスクは、兄妹を森に連れて行った継母です。そしてヘンゼルの声に気付き、彼の父親からゆっくりを顔を離したスケルトンの方はと言うと――
「「お母さん!」」
そう。兄妹が幼い頃に事故で死んでしまったはずの実母だったのです。ヘンゼルとグレーテルは気づいていませんでしたが、ラタトスクの継母がこの家にやってきて兄妹のお父さんと毎晩交わるようになってから、この家には彼女の魔力が少しずつ充満していました。それはヘンゼルとグレーテルの体内にも僅かに蓄積されていたのですが、同時に庭のお墓に埋まっている実母の遺骨にも浸透し、アンデッドの魔物娘へと変化させていたのです。ヘンゼルとグレーテルを2度目に森に連れて行った日の夜、庭で何かが倒れる大きな音がしたかと思うと、様子を見に行った父親にスケルトンが突然襲い掛かったとの話でした。
「誰かがお墓の上から私を呼んだようなした気がして、それから気が付くと何日もかけてお墓から這い上がっていたの。お父さんが来るのが見えた時にはもう魔力が尽きかけて、お父さんを押し倒す事しか考えられなくなっていたんだけどね」
みんなで居間に移動した後、継母はヘンゼルとグレーテルに、これまでの事情を話してくれました。ラタトスクは「情報」を扱う能力に優れた種族で、他の魔物に男性の情報を与えてけしかけたり、男性を魔物の元へ連れ込む事も得意とします。継母はこの能力を使って、性知識の無い子供に1から手ほどきしてみたいと思っていたダークメイジとイグニスに、自分の継子達の情報を流していました。ヘンゼルとグレーテルをインキュバスと魔物娘に変える事で、この兄妹を餓死から救うためです。もちろん森に置き去りにしたのもダークメイジの家に迷い込むようにさせるためで、1度家に戻ってきた時に押し入れに閉じ込めたのも、兄妹が継母を怖がって家に帰ってこれなくなるようにするのが狙いでした。
「私達ラタトスクは、他の種族みたいに特別強い腕力や魔力を持っているわけじゃないの。そういう力を持っていたら、自分の力で貴方達の食い扶持を稼げるのにってずっと悔やんでた。貴方達がやせ細っていくのを見る事しかできない自分が嫌で、お父さんに八つ当たりしてしまった事だって何回もあったわ。貴方達にも怖い思いをさせてしまって、私には貴方達のお母さんを名乗る資格が無いのは解ってる。本当にごめんなさい」
継母の目から、大粒の涙がぼろぼろと流れ落ちてきました。すると、グレーテルは継母をそっと抱きしめました。
「そんなこと無いわ。お義母さんだって私達を助けてくれようとしたんでしょ。それなのにお義母さんを疑ってしまって、謝らなきゃいけないのは私達の方だわ」
「グレーテルの言う通りだよ。お義母さんは自分達の種族の力を使って、僕達を助けてくれようとした。現にグレーテルも僕もこうして元気に生きているし、ダークメイジやイグニスのお姉さんたちとも出会う事ができた。本当のお母さんが帰ってきてくれた事も嬉しいけど、貴女だって僕達の大事なお母さんだ。それを疑ってごめんなさい」
ヘンゼルも妹と同じように継母に抱き付き、3人は固く抱き合ってわんわんと泣き始めました。
「あらあら。すっかり子供達を取られちゃったわね」
スケルトンの実母が拗ねたように言うと、彼女の夫はその肩を抱きしめ、宥めるようにそっと頬にキスしました。
「俺は、2人にこの子達の妹を何人でも産んでほしいと思っている。そして子供達にはどっちが産んだとか関係なく、2人とも自分の母親だと言ってもらえるような家庭を作りたい。それが今の俺の夢だ」
その言葉を聞いたスケルトンのお母さんは、自分の肩を抱きしめる腕に骨と魔力だけでできた手を添え、嬉しそうに夫の腕を撫でました。それから、思い出したように夫の手を取り、彼女の下腹部へと当てます。
「そういえば、前にあの人が言っていたでしょ。私達アンデッドも、夫とたくさん愛し合えば娘を産むことだってできるようになるって」
「確かに言ってたな」
「何日か前くらいからかな。ちょうど子宮の辺りから、私と少し違う魔力の波動を感じるの」
「おい。それって」
驚く夫に、スケルトンのお母さんは頷きました。
「私も、またあの子達の妹を産むのが楽しみになってきたわ」
それからヘンゼルとグレーテルの生みの両親は、身体中で喜びを分かち合い始めました。2人の熱い雰囲気に中てられたダークメイジとイグニスのお姉さん達も、まだ継母と抱き合っていた夫とその小さな第1夫人に後ろから襲い掛かります。こうしてヘンゼルも父親もそれぞれに、愛しい妻たちと濃厚な交わりを楽しみました。その激しさは一通り楽しんで一息ついてからようやく、何日も経過していた事に気づいたほどです。
その年、ある刑部狸が遠くの国からジャガイモという芋を持ち込んできました。寒さに強く、栽培できる時期が長い上に保存もよく効くこの食べ物の話を持ち前の情報力でいち早く聞きつけたラタトスクの継母は、早速その栽培法について書かれた本と種芋の実物を入手し、夫やそのもう1人の妻と一緒にジャガイモの栽培を始めます。
彼女の計画は大成功し、たくさん収穫できたジャガイモで昨年の貧しい生活が嘘だったかのような財産を手にしました。それだけでなく、新しいジャガイモの種芋をこの土地の風土に合わせて独自に改良した栽培法と一緒に広める事で、辺りの地域も不作に悩まされる事が減り、ヘンゼルとグレーテルがかつて恐れたように子供が口減らしされる事もぐんと少なくなったのです。
以前はただ森が広がっていたその地域も、ヘンゼルとグレーテルが大人になる頃には大きな街ができ、2人はダークメイジの奥さんから教わった技術で菓子職人になって家族でお菓子屋さんを開きました。店長の両親が育てたジャガイモと、店長夫人のイグニスやその娘の炎を使って作ったお菓子は大きな評判を呼びました。ヘンゼルはその後、妻達と一緒にその収益を使って、様々な事情で親と一緒に暮らせなくなった子供達を助けたり、年末年始のお祭りの日には孤児院に家の形をしたケーキを寄付したりする活動を行ったそうです(編注:年末の祭りといえば主神教団やサバト、堕落した神の教団、エロス神の祝祭である「クリスマス」が有名ですが、バッカス神の祝祭「ドサクサー」など年末年始には宗教によって異なる祭りが多く開かれているため、最近ではそれを含めて「年末年始の祭り」「楽しい祝日」というようにぼかされた表現が使われる事も増えています)。
・編者あとがき
先代の魔王様の時代、人間社会で飢饉が発生すると、親が自分達だけでも生き残るために子供を捨てたり、人買いに売り払う、あるいは最悪の場合には子供を殺してその人肉で飢えを凌ごうとするといった凄惨な出来事が実際に起きていました。
最近でも魔物の影響が乏しい地域では未だに同様の事態が確認されているという報告もあり、デーモンやデビルのような過激派の魔物娘達の中にはそうした事実を自分達の行動理由として引き合いに出す者も存在します。
このお話も元はそのような時代に書かれた物であり、元のお話では「ヘンゼルとグレーテルの実の両親が口減らしで(あるいはラタトスクに巧みな話術で唆されて)子供達を捨てる」「森に住むダークメイジの老婆がお菓子の幻覚で子供を誘い出し、殺して人肉を食べようとする」「グレーテルが老婆をかまどで焼き殺し、兄と共に老婆の持っていた財宝を持ち帰る」といったように当時の人間や魔物の生活、そしてその関わり方が色濃く反映された内容になっていました。
17/12/05 21:19更新 / bean