図鑑世界童話全集「歌う骨」
昔々、ある国の森にオークの群れが住み着き、辺りに住む人達を困らせていました。このオーク達は畑を荒らし、家畜を囲う柵を打ち壊し、作物や家畜を奪っていったり、時には人間の男の人まで浚っていくのです。やっと声変わりしだしたような子供からお爺さんまで。
困り果てた国の王様はオーク達をやっつけるか国から追い出した者にたくさんの褒美を取らせるとお触れを出しましたが、勇ましくオークの棲む森へ入っていった男達も誰1人として帰ってくる事は無く、とうとう誰も森に近づこうともしなくなってしまいました。
そして王様は遂に、オーク達を倒した者を自分の1人娘であるお姫様と結婚させるとお触れを出したのです。
さて、その国に貧しい木こりの男が2人の息子達と一緒に暮らしていました。男が持つ斧はボロボロに錆び付いて新しく買うお金もなく、買えたとしてもオーク達のせいで森に近づけないのでは仕事になりません。そこで彼の2人の息子がオークと戦う事になりました。欲張りなお兄さんは自分がたくさんの褒美を貰って美しいお姫様と結婚するため、心優しい弟は王様からもらった褒美で父親に新しい斧を買って森の中でまた働けるようにしてあげるために。
「1人は森の西側から、もう1人は森の東側から入っていくといいだろう」
王様からそう言われた2人の兄弟は、兄は森の西側から、弟は森の東側から入っていく事にしました。
弟が森の東側から入ってしばらく歩いていくと、そこに1人のドワーフが倒れていました。
「どうしたの？」
「お腹が空いて動けない……」
かわいそうに思った弟は鞄から水筒とパンを取り出し、ドワーフに分けてあげました。
「ありがとう。おかげで助かったよ。お礼にこれをあげよう」
そう言うと、このドワーフはどこからか黒い槍を取り出して弟に渡しました。
「これは私が作った特別な魔法の槍だ。この槍を持っていればどんな敵が君を傷つけようとしても、槍が必ず君を守ってくれる。でもいいかい？ どんなに敵が怖くても、目を反らしたり背中を向けたりしてはいけないよ。そうするとこの槍はたちまち力を失って、君を守る事ができなくなるからね」
ドワーフから黒い槍を受け取った弟が更にしばらく進んでいくと、オーク達が森の真ん中を切り拓いて作った集落にたどり着きました。
「もう勘弁してつかあさい。何度も言うてきたように、わしには家で帰りを待っている息子夫婦と孫がいるんです」
「そうかい。だったらあんたの息子さんに、新しい妹の姿を見せてあげないとねえ。……おっと、今も私の腹ん中を元気に蹴っているよ！」
「うわーん。おうちに帰りたいよー。パパー。ママー」
「泣きごと言っている暇があったらもっと精を出しな！ 私がママになるんだよ！」
集落の真ん中では大きな広場でオークに浚われたり戦いを挑んで捕まった男達が、それぞれ気に入られたオークに犯されています。そして周りではまだ夫のいないオーク達が遠巻きにして眺めながら、いやらしい笑みを浮かべてお股の下着の中に手を突っ込んでいました。
それを見た弟は思わず逃げ出しそうになりましたが、ドワーフの言葉を思い出し、槍をぎゅっと握ってオーク達の方へ歩き出していきました。
その足音に何人かのオークが気付き、舌なめずりをしながらやってきます。
「おや、また新しい獲物が自分からやってきたのかなぁ？」
「男も武器もずいぶんちっこいなあ」
弟は思わず槍を持つ手が震えましたが、それでも逃げ出さず、じっとオーク達の方を見据えます。
「ほう。度胸は一人前のようだね。気に入った。こいつはあたしが貰う！」
そう叫んで1人のオークが石斧を手に走ってくると、弟はそのオークの方へ槍を構えてしっかり握りしめました。すると、ドワーフが言ったとおり、オークが弟を攻撃する前に槍がオークを貫きました。もちろんドワーフが作った魔法の槍なので魔物を傷つけたりはしませんが、貫かれたオークはお股からぶしっと勢いよく潮を吹き、白目をむいて倒れます。
「へえ。あんた見かけの割になかなかやるじゃないの」
「こうなったら数で一斉にやっちまえ！」
今度は何人ものオークが飛びかかってきましたが、弟はまたもや敵をしっかりと見据え、槍で次々と貫いていきます。その予想外の強さに、残ったオーク達は思わず怯んでしまいます。
「ね、ねえ、どうする？ こいつとんでもなく強いぞ」
そしてオーク達が皆怯んで足を止め、ざわざわと騒ぎ出したその時。そのざわめきを貫くように大きな声がオーク達の後ろから届きました。
「まったく、揃いも揃って情けないね！」
オーク達がざわつきながら道を開けるように2つに別れると、その間から黒い肌とひと際大きい身体に巨大な戦斧を担いだ魔物娘が現れました。オークを束ねる上位種、ハイオークです。
「やっと私専用の雄奴隷にふさわしい、骨のある男が来たってわけだ。あんたらは黙って見てな。速攻でこいつを押し倒して、私をママにするまで絞るモン絞り出してやるのねぇ！」
そう言ったかと思うと、今までのオーク達とも比べ物にならないほどの速さと勢いで、ハイオークが弟に迫ってきました。しかし、それでも弟は逃げ出したい気持ちを抑え、ドワーフに言われたとおりじっとハイオークを見据えてしっかりと槍を構えます。戦斧を振り上げたハイオークの心臓を黒い槍が貫き、ハイオークはその姿勢のまま固まってお股から潮を吹き出すと、崩れ落ちるようにその場に倒れ込みました。
「ボスが……負けた？」
遠巻きに戦いを見ていたオークの1人が不安そうな声を上げました。その時です。
「まだだぁ！」
ハイオークは自分を無理やり元気づけようとするように大声を上げながら立ち上がると、顔を真っ赤にし、息を荒くしながら再び戦斧を振り上げ、弟の方へ迫っていきます。そしてハイオークはドワーフが作った魔法の黒い槍で再び貫かれて倒れ、立ち上がってはまた黒い槍で貫かれるという事が何度も何度も繰り返されました。
「フゴー……フゴー……」
そうしていくうちにハイオークは少しずつ立ち上がる力を失っていき、とうとう四つん這いの姿勢で動かなくなってしまいました。言葉を発する力も失われ、傷ついたイノシシのように荒い鼻息を吐く事しかできません。全身は汗だくで、その脚の間ではとっくの昔に潮と汗を吸いきれなくなっていたパンツがいつの間にかずり下がり、ぐしょぐしょに濡れたおマンコが露わになっています。
その汗と愛液の匂いが漂ってくると、弟の身体にも変化が現れました。ハイオークと同じように目が血走って顔は赤くなり、汗だくで獣のような荒い息を吐き出します。弟はいつしか頭の中までもが獣（けだもの）になってしまったように何も考えられなくなり、気が付けば黒い槍を投げ捨て、勢いよくズボンを下ろしていました。そして今までに無い程に大きく硬くそそり立った肉の槍が天を指し、その穂先からは獲物を前に舌なめずりをするようにヌルリとしたよだれが垂れ落ちます。
そして弟はまるでそうするのが当たり前かのように、四つん這いになったハイオークの腰を掴み、肉の槍でハイオークのおマンコを一気に貫きました。
「プギーッ！」
獣のような叫びと共に、ハイオークのおマンコから痛々しく血が溢れます。しかし、弟はいつもの優しい性格が嘘のように、ハイオークの身体を気遣う様子を見せずに勢いよく腰を動かし続けました。ハイオークも純潔を無理やり奪われ血を流しながらも、その顔はまさしく恋する乙女のような恍惚に満ちておりました。
気が付けばハイオークと同じように弟に黒い槍で貫かれたオーク達も目を覚まし、ぐしょぐしょに濡れたパンツを脱ぎ捨てて弟にお尻を向ける形で横に並んで四つん這いになっています。
「うおおおおおおおお！」
弟は何も考えられない状態のまま獣のような叫び声を上げると、肉の槍でオーク達を次々に貫き、処女膜を突き破っていきました。
その周りでは夫のいないオーク達が同じように発情で顔を真っ赤にして立ち上がる力も無く四つん這いになり、片手を自分のパンツに差し込んで一心不乱にお股をいじっています。そして自分の夫に決めた男を雄奴隷として犯していた既婚のオーク達までもが、犯されながら悦びの声を上げるハイオークの姿と匂いを見て羨ましく思う気持ちで頭がいっぱいになり、さっきまで無理やり犯していた夫を縛る縄を解くと、今までとは反対に自ら夫にお尻を向けて自分を力強く犯すように懇願の言葉を口にします。そしてさっきまでオーク達に無理やり犯されていた男達もそれが嘘のように、自分達の方から自分の妻となったオークを肉の槍で貫いていきました。
さっきまで泣きながら両親を呼んでいた男の子なんかは、真っ赤にした顔にいたずらっぽい笑みを浮かべ、小さい身体で精いっぱい可愛らしく腰を振りながらも、さっきまで自分を無理やり犯していたオークのお尻を真っ赤になるまでパシンパシンと調子よく何度も叩いていくのでした。
ところで西の方から森へ入っていったお兄さんの方はどうなったかと言いますと、何人ものドワーフが大きな小屋に集まってお酒を飲んでいる所に出くわし、一緒にどんちゃん騒ぎをしておりました。弟の事だからオークの姿を見ただけでも一目散に逃げだすだろう。ましてや戦って勝つはずが無い。そう侮っていたのです。
そしてすっかり酔っ払って眠りこけたお兄さんは翌朝、小屋の戸を誰かが叩く音で目を覚ましたのですが、寝ぼけまなこで窓の外を見ると思わず眠気が吹き飛んでしまいました。
頭にイノシシの骨でできた帽子を被り、手に黒い槍を提げた弟が、すっかり大人しくなったハイオークやオーク達、オークに捕まって夫となった男達を引き連れて小屋の前に立っていたのです。
「王様からはオーク達をこの国から追い出せって言われているから、国境の川の向こうに待たせて一緒に報告に行こう。ご褒美のお金でお父さんに新しい斧を買って、兄さんが残りのお金を貰えばいい。お姫様には僕はもう奥さんがいるから結婚できませんって言って、兄さんと結婚してもらえないか頼んでみるよ」
穏やかな笑みを浮かべながらそう語る弟に、まだ事態をうまく理解できないお兄さんが尋ねます。
「それで、お前はどうするんだ」
「僕はオークさん達と一緒に外国に行くよ」
そして弟は兄と一緒にオーク達を国境の川を隔てた国の外に連れて行きました。
「お父さんに新しい斧を買って、兄さんがお姫様と結婚するのをお祝いしたら、必ず戻ってくるからね。大人しく待っているんだよ」
弟はそう言って昨日交わったハイオークやオーク達と順番にキスをすると、兄と一緒に出発しました。
（お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕はオークのみんなと楽しく暮らす。こんなに幸せな事は無いぞ）
しかし、欲張りなお兄さんは弟の言葉を信じていませんでした。
（今はああ言っているが、いざ大金を目の前にしたら全部自分の物にして知らん顔しようって魂胆かもしれないぞ。それにあいつは昨日1日で何人も嫁さんを貰っている。お姫様の事ももう1人新しい嫁に加えるつもりかもしれん）
そして自分の前を歩く弟が国境の橋の上に脚を踏み入れた時。お兄さんは弟に気付かれないように道端の大きな石を持ち上げると、弟を思いっきり殴りつけました。
かわいそうな事に、弟はドワーフから忠告された通り、自分の敵に背中を向けてしまったため、手にした黒い槍もこの時ばかりは弟を守ってくれませんでした。しかし、誰が弟を責められるでしょう。どんなに勇気のある人だって、自分のお兄さんが自分を殺そうとする敵になるだなんて恐ろしい事、考えたいはずもありません。ハイオークから貰ったイノシシの骨の帽子も、お兄さんに殴られた時に粉々に割れてしまい、弟の頭を守る事はできませんでした。
とにかく、弟は頭からたくさんの血を流して倒れてしまいました。昨日お股からたくさんの潮を吹き出したハイオークとは違い、再び立ち上がる様子もありません。
お兄さんは弟の死体を土の中へ埋めると、黒い槍を手にして王様の所へ行き、自分が1人でオーク達をやっつけて国の外まで追い出したとうその報告をしました。
「ふむ……？ たしかお前は、弟と一緒に出発したはずでは？」
「あいつはすぐにビビッてどこかへ走り去って行きましたよ。今はどこにいるのやら」
いけしゃあしゃあと口から出まかせを言って肩をすくめます。
お兄さんの言葉にまんまと騙された王様は、さっそくお姫様との結婚式の準備を始めさせようとしました。しかし、そこで1つ問題が起こります。
「お父様！ なぜ私に断りも無く勝手に話を進めるのですか。私は物を言わない金貨などでは無いのですよ！」
オークの群れをやっつけた者をお姫様と結婚させるというお触れについて、お姫様本人が何も知らされていなかったのです。
しかし、実際にオークの群れを国の外へ追い出した者が現れたとなっては、王様も引き下がるわけにはいきません。
「例え私の娘で姫と言えど、私の命令に従えないなら罰を受けてもらうぞ！」
そしてお姫様は国の外れの方にある石の塔に連れて行かれ、気が変わってお兄さんと結婚すると約束するまで閉じ込められる事になりました。
国境の川の側にある塔に閉じ込められたお姫様は、その中でも来る日も来る日もずっと泣きながらうずくまっていました。そして何日経ったのかも解らなくなった頃、お姫様はふと、塔の外からも誰かが泣いている声が聞こえてくる事に気付きます。お姫様は塔の天井近くにある小さな窓によじ登り、どうにか外の様子を覗きます。すると、ハイオークに何人ものオークや男の人達が川の向こう側で泣いているのが見えました。
どういうわけなのか気になったお姫様は大声でハイオークを呼び、彼女達がなぜ泣いているのか尋ねました。
それから更に数日後。王様の元に、お姫様がとうとう根負けしてお兄さんと結婚する事にしたという報せが届きました。早速結婚式の準備が進められ、お兄さんはお姫様が乗った馬車が戻ってくるのを城の前で今か今かと待ち続けています。そして日が暮れて空が夕陽に赤く染まる頃、ようやく国の紋章が描かれたお姫様の馬車がお城に戻ってきました。
お姫様も既に準備を整えていたらしく、馬車の中からすっかりウエディングドレスに身を包んだ花嫁がゆっくりと降りてきます。
日も暮れてすっかり暗くなってきたという事で、急いで結婚式が執り行われました。
新郎の衣装に身を包んだお兄さんが花嫁と一緒に神父さんの前に並び、神父さんが結婚の誓いの言葉を口にします。
「健やかなるときも病めるときも喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときもこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか？」
神父さんの言葉に花嫁が小さく頷きます。
「それでは、最後に誓いの口づけを」
お兄さんは喜び勇んで、花嫁の顔を覆っていたヴェールを上げます。しかし、その下にある顔を見たお兄さんは驚きのあまりその場で動けなくなってしまいました。
花嫁衣裳の下にあった顔。それは石の塔へ送り出される時に見たお姫様の顔ではありません。
そこにいたのは頭にイノシシの頭蓋骨のような物が付いたスケルトンで、しかも骨に張り付いた魔力で形作られたその顔は、自分にそっくりだったのです。もっと正確に言えば、自分が殺して橋の側に埋めた弟の顔に。
「どうしました、新しい王子様。さあ、誓いの口づけを」
お兄さんの様子を不思議に思った神父さんが、彼に促します。
それでもお兄さんが何も言えずに立ち尽くしていると、スケルトンは小さな声でゆっくりと歌い出しました。
“お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕だけ冷たい土の中。こんなに悲しい事は無い”
お兄さんは慌てて周囲を見回しましたが、夜の暗さの中にろうそくの小さな灯りだけしかないせいか、彼以外は誰も花嫁の異変に気付く様子はありません。この花嫁がお姫様ではない事も、お姫様が小さな声で歌う、お兄さんにとってはこの上なく恐ろしい歌も。
「どうしたのだ。さあ、誓いの口づけを」
今度は神父さんだけでなく、王様までもが促してきました。そしてそうするうちに、花嫁姿をしたスケルトンは再び小さな声で歌い出します。
“お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕だけ冷たい土の中。こんなに悲しい事は無い”
何度も何度も悲しげな調子で歌い続けるスケルトンの歌声に、どうしていいのか解らなくなってしまったお兄さんは、とうとうスケルトンの口を自分の口で塞ぐしかありませんでした。
同じ頃、国境の川を隔てた国の外では、ハイオークが死者に魔力を与え続ける「生け贄」として自らと何人ものオーク達を捧げ、生と死の女神「ヘル」様の力を借りる儀式を執り行い、愛する夫をこの世に呼び戻そうとしていました。
そしてその傍では本物のお姫様が、ハイオークやオーク達が愛する夫と再会する姿を祝福していたそうです。
こうして、いっときの欲のために自分の弟を殺めるという愚かな行いをしたお兄さんは、自分が殺めた弟の骨と共に過ごし続けるという罰を受ける事になりました。アンデッドの魔物娘の夫になった事で「死」という逃げ道さえも塞がれ、永遠に。
・編者あとがき
この話のように、死亡した人間の男性が「男性のアンデッド」と「スケルトン」に別れるという事は実際に起こり得るのか、それは解りません。
しかし、少なくとも人間の女性の死体が肉は「ゾンビ」に骨は「スケルトン」にといったように、別々の魔物娘として蘇るという現象は実際に確認されています。
また、この話についてはジパングでも似たような民話の存在が確認されており、そちらでは長者の娘と結婚するために恋人の女性を裏切って殺害した男のもとに、落武者もしくはしゃれこうべ（こちらの言葉で言うスケルトン）が現れ、男の悪事を歌にして語るという内容になっています。
また、興味深い事に主神教の聖典にもこの民話とよく似た説話として、弟を妬んで殺害した兄が主神から罰を受け追放されるという話があります。そのため生と死の女神「ヘル」の信徒に伝わる聖典の中には、通常は主神教の聖典として認識される「偽りし書物」となっており、アンデッドの魔物娘やその夫が見ると「ヘル」の聖典として認識されるだけでなく、死者への強い未練を抱いた人間が上述した説話のページを読もうとするとこちらの「歌う骨」の話にすり替わり、それを読み終わる頃には死霊魔法そのものへの関心を抑えきれなくなるというような仕組みとなっている書物も存在するようです。
困り果てた国の王様はオーク達をやっつけるか国から追い出した者にたくさんの褒美を取らせるとお触れを出しましたが、勇ましくオークの棲む森へ入っていった男達も誰1人として帰ってくる事は無く、とうとう誰も森に近づこうともしなくなってしまいました。
そして王様は遂に、オーク達を倒した者を自分の1人娘であるお姫様と結婚させるとお触れを出したのです。
さて、その国に貧しい木こりの男が2人の息子達と一緒に暮らしていました。男が持つ斧はボロボロに錆び付いて新しく買うお金もなく、買えたとしてもオーク達のせいで森に近づけないのでは仕事になりません。そこで彼の2人の息子がオークと戦う事になりました。欲張りなお兄さんは自分がたくさんの褒美を貰って美しいお姫様と結婚するため、心優しい弟は王様からもらった褒美で父親に新しい斧を買って森の中でまた働けるようにしてあげるために。
「1人は森の西側から、もう1人は森の東側から入っていくといいだろう」
王様からそう言われた2人の兄弟は、兄は森の西側から、弟は森の東側から入っていく事にしました。
弟が森の東側から入ってしばらく歩いていくと、そこに1人のドワーフが倒れていました。
「どうしたの？」
「お腹が空いて動けない……」
かわいそうに思った弟は鞄から水筒とパンを取り出し、ドワーフに分けてあげました。
「ありがとう。おかげで助かったよ。お礼にこれをあげよう」
そう言うと、このドワーフはどこからか黒い槍を取り出して弟に渡しました。
「これは私が作った特別な魔法の槍だ。この槍を持っていればどんな敵が君を傷つけようとしても、槍が必ず君を守ってくれる。でもいいかい？ どんなに敵が怖くても、目を反らしたり背中を向けたりしてはいけないよ。そうするとこの槍はたちまち力を失って、君を守る事ができなくなるからね」
ドワーフから黒い槍を受け取った弟が更にしばらく進んでいくと、オーク達が森の真ん中を切り拓いて作った集落にたどり着きました。
「もう勘弁してつかあさい。何度も言うてきたように、わしには家で帰りを待っている息子夫婦と孫がいるんです」
「そうかい。だったらあんたの息子さんに、新しい妹の姿を見せてあげないとねえ。……おっと、今も私の腹ん中を元気に蹴っているよ！」
「うわーん。おうちに帰りたいよー。パパー。ママー」
「泣きごと言っている暇があったらもっと精を出しな！ 私がママになるんだよ！」
集落の真ん中では大きな広場でオークに浚われたり戦いを挑んで捕まった男達が、それぞれ気に入られたオークに犯されています。そして周りではまだ夫のいないオーク達が遠巻きにして眺めながら、いやらしい笑みを浮かべてお股の下着の中に手を突っ込んでいました。
それを見た弟は思わず逃げ出しそうになりましたが、ドワーフの言葉を思い出し、槍をぎゅっと握ってオーク達の方へ歩き出していきました。
その足音に何人かのオークが気付き、舌なめずりをしながらやってきます。
「おや、また新しい獲物が自分からやってきたのかなぁ？」
「男も武器もずいぶんちっこいなあ」
弟は思わず槍を持つ手が震えましたが、それでも逃げ出さず、じっとオーク達の方を見据えます。
「ほう。度胸は一人前のようだね。気に入った。こいつはあたしが貰う！」
そう叫んで1人のオークが石斧を手に走ってくると、弟はそのオークの方へ槍を構えてしっかり握りしめました。すると、ドワーフが言ったとおり、オークが弟を攻撃する前に槍がオークを貫きました。もちろんドワーフが作った魔法の槍なので魔物を傷つけたりはしませんが、貫かれたオークはお股からぶしっと勢いよく潮を吹き、白目をむいて倒れます。
「へえ。あんた見かけの割になかなかやるじゃないの」
「こうなったら数で一斉にやっちまえ！」
今度は何人ものオークが飛びかかってきましたが、弟はまたもや敵をしっかりと見据え、槍で次々と貫いていきます。その予想外の強さに、残ったオーク達は思わず怯んでしまいます。
「ね、ねえ、どうする？ こいつとんでもなく強いぞ」
そしてオーク達が皆怯んで足を止め、ざわざわと騒ぎ出したその時。そのざわめきを貫くように大きな声がオーク達の後ろから届きました。
「まったく、揃いも揃って情けないね！」
オーク達がざわつきながら道を開けるように2つに別れると、その間から黒い肌とひと際大きい身体に巨大な戦斧を担いだ魔物娘が現れました。オークを束ねる上位種、ハイオークです。
「やっと私専用の雄奴隷にふさわしい、骨のある男が来たってわけだ。あんたらは黙って見てな。速攻でこいつを押し倒して、私をママにするまで絞るモン絞り出してやるのねぇ！」
そう言ったかと思うと、今までのオーク達とも比べ物にならないほどの速さと勢いで、ハイオークが弟に迫ってきました。しかし、それでも弟は逃げ出したい気持ちを抑え、ドワーフに言われたとおりじっとハイオークを見据えてしっかりと槍を構えます。戦斧を振り上げたハイオークの心臓を黒い槍が貫き、ハイオークはその姿勢のまま固まってお股から潮を吹き出すと、崩れ落ちるようにその場に倒れ込みました。
「ボスが……負けた？」
遠巻きに戦いを見ていたオークの1人が不安そうな声を上げました。その時です。
「まだだぁ！」
ハイオークは自分を無理やり元気づけようとするように大声を上げながら立ち上がると、顔を真っ赤にし、息を荒くしながら再び戦斧を振り上げ、弟の方へ迫っていきます。そしてハイオークはドワーフが作った魔法の黒い槍で再び貫かれて倒れ、立ち上がってはまた黒い槍で貫かれるという事が何度も何度も繰り返されました。
「フゴー……フゴー……」
そうしていくうちにハイオークは少しずつ立ち上がる力を失っていき、とうとう四つん這いの姿勢で動かなくなってしまいました。言葉を発する力も失われ、傷ついたイノシシのように荒い鼻息を吐く事しかできません。全身は汗だくで、その脚の間ではとっくの昔に潮と汗を吸いきれなくなっていたパンツがいつの間にかずり下がり、ぐしょぐしょに濡れたおマンコが露わになっています。
その汗と愛液の匂いが漂ってくると、弟の身体にも変化が現れました。ハイオークと同じように目が血走って顔は赤くなり、汗だくで獣のような荒い息を吐き出します。弟はいつしか頭の中までもが獣（けだもの）になってしまったように何も考えられなくなり、気が付けば黒い槍を投げ捨て、勢いよくズボンを下ろしていました。そして今までに無い程に大きく硬くそそり立った肉の槍が天を指し、その穂先からは獲物を前に舌なめずりをするようにヌルリとしたよだれが垂れ落ちます。
そして弟はまるでそうするのが当たり前かのように、四つん這いになったハイオークの腰を掴み、肉の槍でハイオークのおマンコを一気に貫きました。
「プギーッ！」
獣のような叫びと共に、ハイオークのおマンコから痛々しく血が溢れます。しかし、弟はいつもの優しい性格が嘘のように、ハイオークの身体を気遣う様子を見せずに勢いよく腰を動かし続けました。ハイオークも純潔を無理やり奪われ血を流しながらも、その顔はまさしく恋する乙女のような恍惚に満ちておりました。
気が付けばハイオークと同じように弟に黒い槍で貫かれたオーク達も目を覚まし、ぐしょぐしょに濡れたパンツを脱ぎ捨てて弟にお尻を向ける形で横に並んで四つん這いになっています。
「うおおおおおおおお！」
弟は何も考えられない状態のまま獣のような叫び声を上げると、肉の槍でオーク達を次々に貫き、処女膜を突き破っていきました。
その周りでは夫のいないオーク達が同じように発情で顔を真っ赤にして立ち上がる力も無く四つん這いになり、片手を自分のパンツに差し込んで一心不乱にお股をいじっています。そして自分の夫に決めた男を雄奴隷として犯していた既婚のオーク達までもが、犯されながら悦びの声を上げるハイオークの姿と匂いを見て羨ましく思う気持ちで頭がいっぱいになり、さっきまで無理やり犯していた夫を縛る縄を解くと、今までとは反対に自ら夫にお尻を向けて自分を力強く犯すように懇願の言葉を口にします。そしてさっきまでオーク達に無理やり犯されていた男達もそれが嘘のように、自分達の方から自分の妻となったオークを肉の槍で貫いていきました。
さっきまで泣きながら両親を呼んでいた男の子なんかは、真っ赤にした顔にいたずらっぽい笑みを浮かべ、小さい身体で精いっぱい可愛らしく腰を振りながらも、さっきまで自分を無理やり犯していたオークのお尻を真っ赤になるまでパシンパシンと調子よく何度も叩いていくのでした。
ところで西の方から森へ入っていったお兄さんの方はどうなったかと言いますと、何人ものドワーフが大きな小屋に集まってお酒を飲んでいる所に出くわし、一緒にどんちゃん騒ぎをしておりました。弟の事だからオークの姿を見ただけでも一目散に逃げだすだろう。ましてや戦って勝つはずが無い。そう侮っていたのです。
そしてすっかり酔っ払って眠りこけたお兄さんは翌朝、小屋の戸を誰かが叩く音で目を覚ましたのですが、寝ぼけまなこで窓の外を見ると思わず眠気が吹き飛んでしまいました。
頭にイノシシの骨でできた帽子を被り、手に黒い槍を提げた弟が、すっかり大人しくなったハイオークやオーク達、オークに捕まって夫となった男達を引き連れて小屋の前に立っていたのです。
「王様からはオーク達をこの国から追い出せって言われているから、国境の川の向こうに待たせて一緒に報告に行こう。ご褒美のお金でお父さんに新しい斧を買って、兄さんが残りのお金を貰えばいい。お姫様には僕はもう奥さんがいるから結婚できませんって言って、兄さんと結婚してもらえないか頼んでみるよ」
穏やかな笑みを浮かべながらそう語る弟に、まだ事態をうまく理解できないお兄さんが尋ねます。
「それで、お前はどうするんだ」
「僕はオークさん達と一緒に外国に行くよ」
そして弟は兄と一緒にオーク達を国境の川を隔てた国の外に連れて行きました。
「お父さんに新しい斧を買って、兄さんがお姫様と結婚するのをお祝いしたら、必ず戻ってくるからね。大人しく待っているんだよ」
弟はそう言って昨日交わったハイオークやオーク達と順番にキスをすると、兄と一緒に出発しました。
（お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕はオークのみんなと楽しく暮らす。こんなに幸せな事は無いぞ）
しかし、欲張りなお兄さんは弟の言葉を信じていませんでした。
（今はああ言っているが、いざ大金を目の前にしたら全部自分の物にして知らん顔しようって魂胆かもしれないぞ。それにあいつは昨日1日で何人も嫁さんを貰っている。お姫様の事ももう1人新しい嫁に加えるつもりかもしれん）
そして自分の前を歩く弟が国境の橋の上に脚を踏み入れた時。お兄さんは弟に気付かれないように道端の大きな石を持ち上げると、弟を思いっきり殴りつけました。
かわいそうな事に、弟はドワーフから忠告された通り、自分の敵に背中を向けてしまったため、手にした黒い槍もこの時ばかりは弟を守ってくれませんでした。しかし、誰が弟を責められるでしょう。どんなに勇気のある人だって、自分のお兄さんが自分を殺そうとする敵になるだなんて恐ろしい事、考えたいはずもありません。ハイオークから貰ったイノシシの骨の帽子も、お兄さんに殴られた時に粉々に割れてしまい、弟の頭を守る事はできませんでした。
とにかく、弟は頭からたくさんの血を流して倒れてしまいました。昨日お股からたくさんの潮を吹き出したハイオークとは違い、再び立ち上がる様子もありません。
お兄さんは弟の死体を土の中へ埋めると、黒い槍を手にして王様の所へ行き、自分が1人でオーク達をやっつけて国の外まで追い出したとうその報告をしました。
「ふむ……？ たしかお前は、弟と一緒に出発したはずでは？」
「あいつはすぐにビビッてどこかへ走り去って行きましたよ。今はどこにいるのやら」
いけしゃあしゃあと口から出まかせを言って肩をすくめます。
お兄さんの言葉にまんまと騙された王様は、さっそくお姫様との結婚式の準備を始めさせようとしました。しかし、そこで1つ問題が起こります。
「お父様！ なぜ私に断りも無く勝手に話を進めるのですか。私は物を言わない金貨などでは無いのですよ！」
オークの群れをやっつけた者をお姫様と結婚させるというお触れについて、お姫様本人が何も知らされていなかったのです。
しかし、実際にオークの群れを国の外へ追い出した者が現れたとなっては、王様も引き下がるわけにはいきません。
「例え私の娘で姫と言えど、私の命令に従えないなら罰を受けてもらうぞ！」
そしてお姫様は国の外れの方にある石の塔に連れて行かれ、気が変わってお兄さんと結婚すると約束するまで閉じ込められる事になりました。
国境の川の側にある塔に閉じ込められたお姫様は、その中でも来る日も来る日もずっと泣きながらうずくまっていました。そして何日経ったのかも解らなくなった頃、お姫様はふと、塔の外からも誰かが泣いている声が聞こえてくる事に気付きます。お姫様は塔の天井近くにある小さな窓によじ登り、どうにか外の様子を覗きます。すると、ハイオークに何人ものオークや男の人達が川の向こう側で泣いているのが見えました。
どういうわけなのか気になったお姫様は大声でハイオークを呼び、彼女達がなぜ泣いているのか尋ねました。
それから更に数日後。王様の元に、お姫様がとうとう根負けしてお兄さんと結婚する事にしたという報せが届きました。早速結婚式の準備が進められ、お兄さんはお姫様が乗った馬車が戻ってくるのを城の前で今か今かと待ち続けています。そして日が暮れて空が夕陽に赤く染まる頃、ようやく国の紋章が描かれたお姫様の馬車がお城に戻ってきました。
お姫様も既に準備を整えていたらしく、馬車の中からすっかりウエディングドレスに身を包んだ花嫁がゆっくりと降りてきます。
日も暮れてすっかり暗くなってきたという事で、急いで結婚式が執り行われました。
新郎の衣装に身を包んだお兄さんが花嫁と一緒に神父さんの前に並び、神父さんが結婚の誓いの言葉を口にします。
「健やかなるときも病めるときも喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときもこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか？」
神父さんの言葉に花嫁が小さく頷きます。
「それでは、最後に誓いの口づけを」
お兄さんは喜び勇んで、花嫁の顔を覆っていたヴェールを上げます。しかし、その下にある顔を見たお兄さんは驚きのあまりその場で動けなくなってしまいました。
花嫁衣裳の下にあった顔。それは石の塔へ送り出される時に見たお姫様の顔ではありません。
そこにいたのは頭にイノシシの頭蓋骨のような物が付いたスケルトンで、しかも骨に張り付いた魔力で形作られたその顔は、自分にそっくりだったのです。もっと正確に言えば、自分が殺して橋の側に埋めた弟の顔に。
「どうしました、新しい王子様。さあ、誓いの口づけを」
お兄さんの様子を不思議に思った神父さんが、彼に促します。
それでもお兄さんが何も言えずに立ち尽くしていると、スケルトンは小さな声でゆっくりと歌い出しました。
“お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕だけ冷たい土の中。こんなに悲しい事は無い”
お兄さんは慌てて周囲を見回しましたが、夜の暗さの中にろうそくの小さな灯りだけしかないせいか、彼以外は誰も花嫁の異変に気付く様子はありません。この花嫁がお姫様ではない事も、お姫様が小さな声で歌う、お兄さんにとってはこの上なく恐ろしい歌も。
「どうしたのだ。さあ、誓いの口づけを」
今度は神父さんだけでなく、王様までもが促してきました。そしてそうするうちに、花嫁姿をしたスケルトンは再び小さな声で歌い出します。
“お父さんは新しい斧を買って、兄さんはお姫様と結婚して、僕だけ冷たい土の中。こんなに悲しい事は無い”
何度も何度も悲しげな調子で歌い続けるスケルトンの歌声に、どうしていいのか解らなくなってしまったお兄さんは、とうとうスケルトンの口を自分の口で塞ぐしかありませんでした。
同じ頃、国境の川を隔てた国の外では、ハイオークが死者に魔力を与え続ける「生け贄」として自らと何人ものオーク達を捧げ、生と死の女神「ヘル」様の力を借りる儀式を執り行い、愛する夫をこの世に呼び戻そうとしていました。
そしてその傍では本物のお姫様が、ハイオークやオーク達が愛する夫と再会する姿を祝福していたそうです。
こうして、いっときの欲のために自分の弟を殺めるという愚かな行いをしたお兄さんは、自分が殺めた弟の骨と共に過ごし続けるという罰を受ける事になりました。アンデッドの魔物娘の夫になった事で「死」という逃げ道さえも塞がれ、永遠に。
・編者あとがき
この話のように、死亡した人間の男性が「男性のアンデッド」と「スケルトン」に別れるという事は実際に起こり得るのか、それは解りません。
しかし、少なくとも人間の女性の死体が肉は「ゾンビ」に骨は「スケルトン」にといったように、別々の魔物娘として蘇るという現象は実際に確認されています。
また、この話についてはジパングでも似たような民話の存在が確認されており、そちらでは長者の娘と結婚するために恋人の女性を裏切って殺害した男のもとに、落武者もしくはしゃれこうべ（こちらの言葉で言うスケルトン）が現れ、男の悪事を歌にして語るという内容になっています。
また、興味深い事に主神教の聖典にもこの民話とよく似た説話として、弟を妬んで殺害した兄が主神から罰を受け追放されるという話があります。そのため生と死の女神「ヘル」の信徒に伝わる聖典の中には、通常は主神教の聖典として認識される「偽りし書物」となっており、アンデッドの魔物娘やその夫が見ると「ヘル」の聖典として認識されるだけでなく、死者への強い未練を抱いた人間が上述した説話のページを読もうとするとこちらの「歌う骨」の話にすり替わり、それを読み終わる頃には死霊魔法そのものへの関心を抑えきれなくなるというような仕組みとなっている書物も存在するようです。
20/04/22 22:42更新 / bean