読切小説
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ギャグまもむす日和「がんばれ浦島太郎」
 ある日、浦島太郎という若い漁師が釣り針に引っかかった海和尚を助ける。すると翌日、その海和尚が太郎の元にやってきて「助けてもらったお礼に竜宮城へ招待する」と言ってきたのだが……。




海和尚「見えましたよ浦島さん。あれが竜宮です。乙姫様のお城を中心にして、多くの人間や魔物娘の観光客が訪れる宿泊施設や娯楽施設の集まった水中都市となっており――」
 楽しそうに解説する海和尚。しかしその背中では、浦島太郎が真っ青な顔をして首元を押さえていた。
浦島太郎(海の中でも息ができる魔法を使っているはずなのになんか息苦しいんだけど! 説明はいいから急いでくれ! 死ぬ!)
海和尚「あ、息が苦しかったら私のお尻を叩いてください。すぐにコナン式の人工呼吸をいたします」
浦島太郎(コナン式とか聞いた事ねーよ! いいから急げ!)

 そして、2人は竜宮の都市に入る門の前にたどり着いた。
海和尚「この先は乙姫様の加護により、私のような魔物娘の力を受けていない人間でも呼吸が可能な特殊な空間となっており――」
浦島太郎(だから説明はいいからその特殊な空間に早く入れてくれよ! 死ぬ! 楽園を目の前にして溺れ死ぬ!)
海和尚「あれ。この門を開けてもらう合言葉ってなんだったっけ。1『開けゴマ』か2『あれ。亀甲縛りってこうだったっけ。やばい。変な所が締まってきた。どうしよう』のどっかだったと思うけど……」
浦島太郎(どう考えても1だろ1!)
 必死に右手で数字の1を示す浦島太郎。すると、それを見た海和尚は楽しそうに笑ってこう返した。
海和尚「あ、これ知ってます。確か西の国の有名な演劇で、いー・てぃーとかいう奴でしょ」
 そう言って笑いながら浦島太郎の伸ばされた右手の指先をツンツンとつつく海和尚。次第に顔が本格的にヤバイレベルで真っ青になっていく浦島太郎。

 ジパングの海底に、威勢のいいスパンキングの音が響き渡った。




 そしてようやく竜宮城にたどり着いた浦島太郎と海和尚。
浦島太郎「助かった。助けた亀に殺されるかと思った……」
 そして海和尚は人間の掌の形に赤く腫れた尻をどこか嬉しそうな顔で抑えながら、竜宮城の主である乙姫にこれまでのいきさつを説明する。
海和尚「というわけで、釣り針に引っかかった私を浦島さんが逃がしてくれたんです」
乙姫「そうか……え、というかそれでどうしてその男を連れてくる流れになったのか?」
浦島太郎「え、いや、亀がお礼にって」
乙姫「あ、お礼! そうじゃな。礼として連れてきたんじゃったな」
浦島太郎「あの……もしかして俺って、お邪魔でした?」
乙姫「そ、そんな事無いぞ! 自分で釣り上げておいて逃がしたからお礼してもらおうなんて、そんな、そちを大歓迎するぞ」
浦島太郎「歓迎されてないのか
乙姫「これ、うな子よ、宴の用意をせい」
うな子(鰻女郎)「はい」
浦島太郎「あ、その前に手ぬぐいとか拭く物貸してもらえませんか。亀の魔法が下手くそなせいでずぶ濡れで」
 浦島太郎の足元を見た乙姫は顔をしかめた。
乙姫「うな子。すぐに手ぬぐいの用意を」
うな子(鰻女郎)「はい。ただいま」
浦島太郎(今スッゲー嫌そうな顔をしたぞ)

うな子(鰻女郎)「手ぬぐいをお持ちしました」
浦島太郎「あ、どうも」
乙姫「あ、ちょっとうな子!」
 その時、乙姫がうな子の腕を引っ張って物凄い勢いで廊下の向こうへ消えていった。遠くからでもはっきり聞こえるほどの罵声が浦島太郎の耳に届く。
乙姫「馬鹿かあんた! なんでそんな新品の高級品持ってきたの。汚れるでしょうが。
うな子(鰻女郎)「え、だってお客様だし」
乙姫「もっと古い奴無いの? 昨日ゲロ拭いた奴あるでしょうが! あれで良いから持って来いよ! このバカ!
浦島太郎(せめてこっちに聞こえないようにやってくれよ。てかゲロ拭いた奴持ってこられるのか)

うな子(鰻女郎)「お、オマタセシマシタ……」
 鼻をつまみ、いかにも嫌そうな顔で汚れた布切れを片手に戻ってくるうな子。
浦島太郎(持ってこられたー!)
乙姫「竜宮で1番高級な手ぬぐいだからな。それなりの匂いがするぞ」
浦島太郎(いけしゃあしゃあとあんな事を!)
海和尚「いやー、昨日独りでセルフ緊縛プレイしたら縛り方ミスっちゃって。大丈夫。私のはそんなに汚くないですよ、たぶん」
浦島太郎「お前のゲロかよ!」

 そして、浦島太郎は竜宮城の宴会の間へと通された。
乙姫「歌や踊りを楽しみながら、竜宮料理を堪能していっとくれ」
 浦島太郎の前に食事を乗せた膳が運ばれてくる。
浦島太郎(ご飯に味噌汁に小さな焼き魚……客をもてなすのにこれだけって、意外とこの城って財政が厳しいのかな)
 そして、乙姫の分の膳が運ばれてくる。どう見ても浦島太郎の分とは比べ物にならないほど豪華な膳が。
乙姫「いただきマーメイド♪」
浦島太郎(魚はみ出てる! おかずの小皿多っ! 酒まで付いているじゃないか)
乙姫「そこ、他人の食事をジロジロ見るでない。刑部狸のように欲深なやつめ!」
 ジパングの魔物娘が人間の男性を指して「刑部狸のように欲が深い」と言う場合、大抵は誉め言葉なのだが、この場に限ってはそうでは無いのは火を見るより明らかである。
浦島太郎「明らかにデカいでしょその魚!」
乙姫「魚……ああ。そちの魚はわらわから遠いから小さく見えるが、わらわの魚は目の前にあるから大きく見えるのじゃ」
浦島太郎(なめとんのかコイツ)

乙姫「それでうな子よ、歌と踊りはどうなっておるのじゃ」
うな子(鰻女郎)「はい。竜宮で1番人気の歌劇団の手配を……って、いてててて」
 再び、うな子の腕をひっぱって廊下の向こうへと消えていく乙姫。そして再び聞こえてくる罵声。
乙姫「馬鹿かあんた! お金かかるでしょうが! 私のケチっぷりを舐めとんのかコラ! とにかくもっと安い奴呼べ!
うな子(鰻女郎)「す、すみません……」
浦島太郎(だからせめて聞こえないようにやれって)

 10分後。
うな子(鰻女郎)「乙姫様。その辺を暇そうに歩いていた者を引っ張って……いえ、竜宮で1番人気の踊り子を呼んできました」
 すると、うな子に続いて煙管をくゆらせながらぬらりひょんが宴会の間に入ってきた。
ぬらりひょん「どっこいしょっと」
 当たり前のように浦島太郎の膳の前に座り、当たり前のように彼の食事を平らげていく。
ぬらりひょん「ほう。見た目は質素だが、米も味噌もなかなか良い物を使っておるではないか」
浦島太郎「あの、それ俺の飯……」
乙姫「ちょっと。ぬらりひょんとはいえ、なんじゃその態度は」
浦島太郎(そうだそうだ。あんたもジパング有数の大妖怪なんだから言ったれ言ったれ)
乙姫「こっちは金を払っておるのじゃぞ。歌や踊りを披露せぬか」
ぬらりひょん「ん? なんか言ったかの?」
 しかし、ぬらりひょんはそれをどこ吹く風と言わんばかりの涼しげな態度で聞き流していく。

乙姫「何も言ってないです。すみません
浦島太郎(弱っ!)
ぬらりひょん「さて、せっかくだし久々に歌でも披露するかのう。スゥー、ハァー」
浦島太郎&乙姫((煙管吐いてるだけじゃねーか!))
乙姫「ちょっと。あり得ない。歌ってない。じゃあ歌はもういい。せめて舞でも披露せぬか」
ぬらりひょん「ん? なんか言ったかの?」

乙姫「何も言ってないです。すみません
浦島太郎(だから弱っ!)
ぬらりひょん「さてそろそろ時間かの。延長するか?」
乙姫「いや結構じゃ」
ぬらりひょん「じゃあまた呼んでくれ」
乙姫「絶対呼ばない
優雅な足取りでその場を去っていくぬらりひょん。いい加減嫌気がさしてきた浦島太郎も帰る事にした。
浦島太郎「えっと、それじゃあ俺ももう帰ります。俺ももう絶対来ない
乙姫「あ、帰るのか? よっしゃ! それじゃあ海和尚に送らせようぞ」
浦島太郎(今確実によっしゃって言ったな)

 海和尚と共に竜宮を出る門の前に来た浦島太郎。するとそこに、うな子が玉手箱を持ってやってくる。
うな子(鰻女郎)「あ、浦島さん。これお土産です……って、いてててて、またですか」
 すると、また乙姫がうな子を引っ張って路地裏へと消えていった。そしてまたもや聞こえてくる罵声。
乙姫「馬鹿かあんた! 玉手箱なんか渡したら帰ってくるでしょうが。またあいつをもてなさなきゃならなくなるでしょうが!
浦島太郎(俺、そんなに嫌われる事何かしましたか……?)

乙姫「あの、このお土産あんまりいい奴じゃないんで、別の奴持ってこさせますから」
浦島太郎「いえ、それで構いませんよ。開けずに捨てるから
乙姫「いや、あの、これは……ウ〇コですよ」
浦島太郎(あり得ねぇだろ!)
うな子(鰻女郎)「乙姫様、別の箱持ってきました」
乙姫「どれどれ……」
 浦島太郎に見えないように箱の中身を確かめる乙姫。
乙姫「グッジョブ! よくやったわうな子! てかwwwあんたこれwwwほとんど嫌がらせwww」
 そして笑いをこらえきれない様子を隠しもせずに箱を浦島太郎に差し出す。
乙姫「これwwwお土産ですwww家に帰ってからwww開けてくださいねwww」
浦島太郎(俺、帰る前に2、3回くらい小突いてもいいよな!?)




 そして浦島太郎は玉手箱……ではなく謎の箱を抱え、海和尚に連れられて砂浜へと戻って来た。
海和尚「ねえ、浦島さん。このお土産、何が入っているんですかねぇ」
浦島太郎「どれどれ……何か紙が入っているぞ」

 その海和尚を差し上げます。返品不可。
                うな子

海和尚「どうしたんですか浦島さん。私の顔なんかじっと見つめちゃって。……あ、もしかしてえっちな事考えてます? メッ♪」
 その時、浦島太郎は自分の中で理性の紐が切れる事をはっきりと聞いた。理性は理性でも、堪忍袋の緒とかそんな感じの紐が切れる音を。
浦島太郎「こんなのいるかー!」
海和尚「うわ! 何するんですか!」
 海和尚を砂浜に突き飛ばし、蹴りを入れていく浦島太郎。
浦島太郎「こんにゃろ! こんにゃろ!」
海和尚「痛い痛い! 昨日の釣り針の傷が開いちゃう!」
 その時だった。
???「コラー。誰だ亀をいじめている奴は」
 浦島太郎が振り向くと、怒りを顔に浮かべたマーシャークが海から上がってきていた。
マーシャーク「浜から血の臭いがするから気になってきてみれば、海和尚をいじめるような不届き者がいたとはねぇ」
海和尚「や、やめ……たす……」
マーシャーク「ほら。そいつも嫌がっているじゃないか。さっさと止めないとあんたを海に引きずり込んで……」
海和尚「助けに来ないで! やっと今いいとこだったのに!

浦島太郎&マーシャーク「「……え?」」




うな子(鰻女郎)「今頃亀ちゃんはお楽しみですかねぇ」
乙姫「いやー、わざとお客が怒るように接客するのも疲れるわー」
19/09/15 20:57更新 / bean

■作者メッセージ
 しばらくリアルで色々あって、SSとか書いていなかった内に、以前の感覚が戻らなくなってきた気がするどうしよう。

 ちなみに「コナン式人工呼吸」というのは未来少年コナンでヒロインが海底に引っかかった主人公を助けるために海面で息を吸って海中で口移しした奴に勝手に命名しました。
「コナン」と聞いて見た目は子供、頭脳は大人な蝶ネクタイの名探偵を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれませんが、あっちの方でも劇場版で蘭ねーちゃんが似たような事やってたんであながち間違いでもないです。

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