嫌な顔されながら美少年の弟分に見せてもらいたい
「乾杯」
俺は呟くように言いながら、自分が小隊長を務める部隊の隊員であるマリンとグラスを合わせた。
とは言っても、別に何か祝い事があるわけではない。
数年前、主神教団に属する国家の中でも有数の大国だったレスカティエが魔王軍との戦いで陥落した。
レスカティエの下でおこぼれに与ってきたうちのような小国はどこもたいへんな騒ぎになり、早々に降伏して魔王軍の軍門に下る国もあれば、徹底抗戦の構えを見せてレスカティエと同じ運命をたどる国もあった。
特に長年に渡ってレスカティエに入ってくる交易品や教団信者からの上納品の中継地点として潤っていたうちの国なんかは、最大の収入源を突然失い窮地に立たされた。
そして民衆から対応を迫られたうちの王族や政治家どもはとうとう、うちの国からも軍隊を送ってレスカティエから魔王軍を追い払うと宣言した。
小隊長でしかない俺の立場から見ても、どう考えても無茶な話だ。
そしてその無茶な攻撃で敵の前に立たされるのは、無茶な決定をした爺さん達ではなく俺達というわけである。
というわけで俺は出陣を明日に控えた今夜、ずっと戦場で背中を預けてきた仲間であるマリンと一緒に、教団の神父の説教に出てくる言い回しを借りるなら「最後の晩餐」ならぬ「最後の晩酌」を酒場であおっているわけである。
そして互いにだいぶ酒も回ってきた頃になって、マリンはふと思いついたように話を切り出した。
「隊長、こんな事になるならやっときたかったって事無いですか?」
どういう事かと尋ねる俺に、マリンは更に続ける。
「隊長も今度の戦いで生きて帰ってこれるなんて思ってないですよね? だったらこんな事やりたかったとか無いですか? ……確かに今更言ってもどうにもならない事ですが、ほら、言うだけならタダですよ」
俺も酒が回っていたのだろう。そう言って20歳を過ぎてもまだまだあどけなさの残る顔で急かしてくるマリンの顔を見た俺は、ぽつりとある事を呟いた。
「は、今何と言いました?」
さっきまでの楽しそうだったマリンの顔がみるみるうちに侮蔑と怒りの混じった表情へと変わっていく。その姿を認めながら、俺はさっきと全く同じ言葉を繰り返した。
君のおパンツを見せてほしい、と。
「ふざけんなっ!」
マリンの怒号と共に、グラスの中に入っていた残り少ない酒が俺の頭に降りかかった。
「俺は軍隊に入った頃、女みたいな顔をしていると笑われて、時には無理やり服を脱がされたりもした。それでもあんたは俺をそうやって笑う奴らを諫めて、俺をあんたの小隊に迎えてまでくれた。だから俺はあんたの所で必死に戦ってきたのに、あんたまで腹の中では俺を女みたいだと笑っていたのかよ!」
それだけまくし立てて酒場から走り去る、俺にとって大事な弟のように思っていた男の背中を俺はただ黙って見ている事しかできなかった。
「いつまで追いかけっこを続けるつもりだい? いつまでも逃げられないのは解っているでしょ?」
あざ笑うように飛んでくるサキュバスの声を背に受けながら、俺は必死に走っていた。
この戦は最初から負け戦にしかならないと覚悟していた俺達だったが、いざ敵と遭遇するとそんな認識すらもとても甘い物だったという事を思い知らされた。
これは勝ち負けのある戦ですらなかった。あいつらが俺達という「獲物」を一方的に追い詰めて食い物にする狩りだった。
小隊の仲間は既に殆どが魔物に組み伏せられて犯された。さっきまで背中を預けて共に戦っていた女が目の前で魔物に変わり、その女に犯された奴もいた。
そして俺は、そんな奴らを横目にしながら走って逃げる事しかできなかった。
自分だけが助かるためじゃない。戦いの中でいつの間にか姿を見失ったマリンを探すために。
酔った勢いとはいえ酒場であんな事を口走ってしまって、あいつに悲しい思いをさせてしまって、そのままあいつとお別れするなんて嫌だ。そんな思いだけを胸に抱えながら。
「はーい、残念」
しかし、そんな俺の思いを踏みにじるように、巨大な戦斧を構えたミノタウロスがいつの間にか俺の前方に待ち構えていた。
「ふん!」
ミノタウロスが戦斧を振りかぶる。咄嗟に避けようとして無理な体勢を取った俺は、バランスを崩して地面に思いっきり倒れ込んだ。そんな俺を後ろから追いすがってきたサキュバスが取り押さえる。
「やっと捕まえた」
そう言って楽しそうに笑うサキュバスの姿に、俺は最後の抵抗にと叫ぶ。俺はどうなってもいい。だからマリンにだけは手を出すなと。
「ふうん。そんなにあのマリンって男の事が大事なんだ」
俺の叫びを聞いたサキュバスは俺の耳元に口を寄せると、まさしく悪魔の囁きを俺の耳に吹き込んだ。
「君を見ていると、昔の僕を思い出すよ」
「俺とあんた以外は全滅か」
俺とどうにか合流したマリンが悔しそうに呟いた。俺はマリンにとって直属の上官であるはずだが、昨日の諍いの後で再び2人きりになったとあって、彼の声には敬意がかけらもこもっていない。
「さすがの淫魔どもも、野郎がパンツを見たがるような男と、野郎のパンツを見たがるような変態野郎はお呼びじゃないってか」
完全にやけっぱちになりながら吐き捨てるマリンの姿に、俺はひと言「ごめん」とだけ告げた。
「は? 何を謝って――」
そう言って俺の方を振り向いたマリンの姿が固まり、その目に驚愕の色が浮かぶ。
「おい。その姿、それじゃまるで……」
震えるマリンの目に映る俺の姿、それはさっき俺達の目の前で次々に俺達の仲間を犯していった奴らと同じサキュバスの姿だった。
「どういう事だよ。どうして男であるあんたがサキュバスに変わるんだよ」
俺は思い出す。俺がエバ・ミスティアと名乗るサキュバスから取り押さえられた時、エバは俺にこう告げた。
――人間の男の中には稀に、インキュバスではなくアルプというサキュバスに変化する人がいるんだ。実は、僕もその1人でね。
そしてエバは俺を仰向けに寝かせてズボンを脱がすと、今まで散々見せられた光景や聞かされた声ですっかりガチガチになった愚息を片手で握りながら、もう片方の手を俺の会陰に添えてこう告げた。
――ほら。感じてごらん。君の中にある『子宮』を。
エバは俺の愚息をゆっくりと扱きながら、会陰に添えたもう片方の手で円を描くようにくりくりと刺激してくる。
――ほら。思い浮かべるんだ。君の大好きなマリン君のガチガチに勃起したモノが、君のナカに入ってくる所を。
そう告げるエバの尻尾の先が、俺の尻の穴に入っていく。会陰を擦る指の動きに合わせるように脈打ち、俺の身体の中にある「何か」を呼び覚まそうとする。
――そう。いいよ。僕も興奮してきた。思った通り、君には『素質』があるみたいだ。ほら。最後に想像するんだ。君の大事なマリン君の欲望の証が君の中で弾けて、新しい命が君の中で息づくところを!
俺は自分の尻の中でエバの尻尾の先から何かが噴き出すのを感じるのと同時に射精し、目の前が真っ白になった。そして再び目を覚ますと、エバもミノタウロスも俺の目の前から姿を消していたのだった。
俺の意識が今この場に戻る。俺はマリンの目の前で地べたに頭を擦りつけ、昨日酒場で告げたのと同じ言葉を繰り返した。
君のおパンツを見せてほしい、と。
事態を飲み込めずにしばらく呆然と立ちすくしていたマリンだったが、俺を見下ろすその顔にはだんだんと嫌悪と侮蔑の色が浮かんできた。
「は、それじゃあなにか? あんたは俺のパンツを見るためだけに、サキュバスにまでなったというのか?」
俺が肯定の言葉を口にすると、マリンは更に罵声を投げかけてきた。
「信じらんねえ。野郎のパンツを見るためだけに男である事を捨てるなんて、信じらんねえよ!」
そうして俺を見下していたマリンだったが、しばらくすると観念するように自分の鎧の金具に手をかけた。
「解ったよ。どうせここで断っても俺はもう逃げられないんだ」
今か今かと待ちわびる俺の目の前で鎧がすっかり脱ぎ捨てられ、カチャカチャとベルトの金具が擦れる音が俺の耳に届く。俺はそれだけでも自分の下腹の中で、ついさっきまで存在すらしなかった器官が熱を帯びてくるのを感じた。俺の脚の間でぬるりと生暖かい物が滴る。左右に開いたマリンのズボンの間から、彼の名前によく似合う水色をしたブリーフが姿を現す。俺はマリンのブリーフの中で彼の雄の器官が弾け出しそうに力強く脈打ち、ブリーフの表面にうっすらとカウパーの染みを浮かばせているのを見て取った。
マリンは邪魔くさそうにズボンをすっかり脱ぎ捨てると、俺の肩に手をかけ、地面の上に仰向けに押し倒した。俺のズボンに手をかけ、グショグショになった下着ごとずりおろす。そして隠すものが無くなった俺の両脚に手をかけると、それを勢いよく開かせた。
「外側だけじゃなくてここもマジで女に変わってやがる。どうせここで逃げてもあんたや他のサキュバスに捕まるんだろ? だったらこっちからやってやるよ」
マリンがとうとうパンツを下ろす。脚を開かされた姿勢のまま身じろぎもできずに見上げる俺の身体を肉の槍が一気に貫いた。
「ほらほらどうだ。他の男達が女に犯されている中で、あんただけ女になって男に犯される気分はよお」
俺はさっき形成されたばかりの器官を無理やりこじ開けられる痛みに慄き、目から涙が零れ落ちる。しかし俺の口からは、俺自身にも自分の口から出ているとは信じられないような甘い嬌声が漏れ出していた。俺の内臓の内側で、俺の身体とは違う生き物の一部が暴れ回る。マリンが腰を突き込む度に、俺の内側がカリで擦り上げられ、俺の身体の芯が甘く激しい衝撃に揺さぶられる。
「あんた、自分の状況が、んっ、解ってんのか? 野郎に犯されているというのに、甘えるような声、んっ、出しやがって」
そして程なくして、マリンの身体に変化が現れた。俺の中で陰茎が硬さを増し、その動きが俺の奥を小刻みに探るような動きになり、マリンの顔が興奮で上気して、切羽詰まった息遣いが俺の顔にかかる。俺の男としての記憶とサキュバスになった身体がこれから起こる事を察知し、俺は抑えつけられて身動きできない姿勢のまま懇願の言葉を叫んだ。
「『出すな』じゃなくて、『出せ』ってか……うっ」
マリンがそれだけ呟いた時、俺は自分の中で欲望の塊が勢いよく弾けるのを感じる。俺は目の前で絶頂したばかりのマリンの顔に達成感を覚えながら、結合を深めるように自分の手足をマリンの身体に絡め、胎の奥で彼の逸物が震えて精液が広がっていく感触を楽しんだ。
交わりの余韻が治まり、マリンの腕から解放された俺は、地面に座って自分の腹に手を当てた。身体の内側でマリンの生暖かい新鮮な精液がドロリと滴るのを感じる。俺はエバの言葉を思い出した。これから俺の中で新しい命が息づくのだろうか。マリンによく似た赤ん坊が。そう考えた時俺の胸によぎったのは後戻りできなくなってしまった事への焦りで無ければ、自分が男であるという事を捨ててしまった事への後悔でも無かった。その事に気付いた俺が思わず顔をほころばせた時、マリンの冷たい声が俺の耳に届いた。
「何ニヤニヤ笑ってんだよ」
そして普段は着やせして解りにくいが、兵士として鍛え上げられた腕が再び俺の肩を掴む。
「まさかあれで終わりとか思っちゃいないだろうな?」
俺はうつ伏せに地面に引き倒された。マリンの腕が俺の翼と尻尾を掴み、俺は全身に走る激しい快楽にあえぐ。
「俺もずっとあれだけの物を見せられて溜まってたんだ。この程度で治まると思うなよ」
そして俺の身体の中心を再び激しい衝撃が貫き、俺の口から甘い嬌声が迸った。
こうして俺達の国からレスカティエへの侵攻は失敗に終わり、逆に攻め返された俺達の国は魔界国家レスカティエの支配下に置かれた。
今になってみればそもそも最初の無茶な侵攻を政治家達が決定した事自体、この国に潜り込んだラタトスクやクノイチのスパイによる工作だったという噂も流れているが、真偽のほどは解らない。はっきりしているのは、俺達の生活が大きく変わった事だ。
以前はレスカティエへと運ばれてくる品物の扱いを主な収入源としていたうちの国だが、今ではそれに加えてレスカティエで開発・生産された魔法道具や魔界作物の輸出も扱っている。人間だけでなく狸の魔物やゴブリンの商人も街を行き来するようになった。
俺は相変わらず軍でしがない小隊長として今までと変わらない隊員を率いているが、その仲間達は皆人間ではなくなっている。
そして俺にとって最も重要な変化は、毎朝軍の宿舎で目覚めた時に目に飛び込んでくる物が変わった事だった。
俺は以前使っていた1人部屋を引き払うことになった時の事を思い出す。男だった頃の俺が部屋の中に隠していた秘蔵コレクションを片付け作業の手伝いに来たマリンに見つかってしまう「アクシデント」があった。
「へえ。あんたこういうのが好みだったのかよ」
マリンはそう言ってあざ笑いながらも俺の秘蔵コレクションを食い入るように読みふけり、勃起するたびにそれを処理するために俺の身体をはけ口に使うという屈辱を与えてきた。俺としては事前にわざと見つかりやすそうな場所に移動させておいた甲斐があったと思う。
そして今俺が朝の鳥の声を聞きながら目を開けると、そこにあるのは昨日も激しく俺を犯したとは思えない可愛らしい安らかな寝顔だった。
俺は今すぐにでも眠っているマリンに跨って逸物を咥え込みたいというサキュバスの衝動を必死に抑え、紐付きの小さな鈴を取り出す。レスカティエから輸入された魔法道具の1つ、誘い魔の鈴だ。俺が強く念を込めながら鈴の紐を引っ張ると、耳の中を引っ掻かれるようなけたたましい音が2人部屋の中に響いた。
「またかよ」
マリンは苛立たしそうに目を覚ますと、ベッドの上で膝立ちになって自分の腰に手をかけた。
「パンツが見たいってだけではた迷惑な起こし方しやがって」
そして期待の眼差しを向ける俺の前でゆっくりとパジャマのズボンが下ろされる。内側から朝の生理現象に押し上げられたパンツが姿を現した。
「人が気持ちよく寝ている所にこんな事しやがって。覚悟は出来ているんだろうな」
その言葉を聞いた時、俺は自分の下腹が目の前の男に蹂躙される覚悟を決めるのを感じた。
俺は呟くように言いながら、自分が小隊長を務める部隊の隊員であるマリンとグラスを合わせた。
とは言っても、別に何か祝い事があるわけではない。
数年前、主神教団に属する国家の中でも有数の大国だったレスカティエが魔王軍との戦いで陥落した。
レスカティエの下でおこぼれに与ってきたうちのような小国はどこもたいへんな騒ぎになり、早々に降伏して魔王軍の軍門に下る国もあれば、徹底抗戦の構えを見せてレスカティエと同じ運命をたどる国もあった。
特に長年に渡ってレスカティエに入ってくる交易品や教団信者からの上納品の中継地点として潤っていたうちの国なんかは、最大の収入源を突然失い窮地に立たされた。
そして民衆から対応を迫られたうちの王族や政治家どもはとうとう、うちの国からも軍隊を送ってレスカティエから魔王軍を追い払うと宣言した。
小隊長でしかない俺の立場から見ても、どう考えても無茶な話だ。
そしてその無茶な攻撃で敵の前に立たされるのは、無茶な決定をした爺さん達ではなく俺達というわけである。
というわけで俺は出陣を明日に控えた今夜、ずっと戦場で背中を預けてきた仲間であるマリンと一緒に、教団の神父の説教に出てくる言い回しを借りるなら「最後の晩餐」ならぬ「最後の晩酌」を酒場であおっているわけである。
そして互いにだいぶ酒も回ってきた頃になって、マリンはふと思いついたように話を切り出した。
「隊長、こんな事になるならやっときたかったって事無いですか?」
どういう事かと尋ねる俺に、マリンは更に続ける。
「隊長も今度の戦いで生きて帰ってこれるなんて思ってないですよね? だったらこんな事やりたかったとか無いですか? ……確かに今更言ってもどうにもならない事ですが、ほら、言うだけならタダですよ」
俺も酒が回っていたのだろう。そう言って20歳を過ぎてもまだまだあどけなさの残る顔で急かしてくるマリンの顔を見た俺は、ぽつりとある事を呟いた。
「は、今何と言いました?」
さっきまでの楽しそうだったマリンの顔がみるみるうちに侮蔑と怒りの混じった表情へと変わっていく。その姿を認めながら、俺はさっきと全く同じ言葉を繰り返した。
君のおパンツを見せてほしい、と。
「ふざけんなっ!」
マリンの怒号と共に、グラスの中に入っていた残り少ない酒が俺の頭に降りかかった。
「俺は軍隊に入った頃、女みたいな顔をしていると笑われて、時には無理やり服を脱がされたりもした。それでもあんたは俺をそうやって笑う奴らを諫めて、俺をあんたの小隊に迎えてまでくれた。だから俺はあんたの所で必死に戦ってきたのに、あんたまで腹の中では俺を女みたいだと笑っていたのかよ!」
それだけまくし立てて酒場から走り去る、俺にとって大事な弟のように思っていた男の背中を俺はただ黙って見ている事しかできなかった。
「いつまで追いかけっこを続けるつもりだい? いつまでも逃げられないのは解っているでしょ?」
あざ笑うように飛んでくるサキュバスの声を背に受けながら、俺は必死に走っていた。
この戦は最初から負け戦にしかならないと覚悟していた俺達だったが、いざ敵と遭遇するとそんな認識すらもとても甘い物だったという事を思い知らされた。
これは勝ち負けのある戦ですらなかった。あいつらが俺達という「獲物」を一方的に追い詰めて食い物にする狩りだった。
小隊の仲間は既に殆どが魔物に組み伏せられて犯された。さっきまで背中を預けて共に戦っていた女が目の前で魔物に変わり、その女に犯された奴もいた。
そして俺は、そんな奴らを横目にしながら走って逃げる事しかできなかった。
自分だけが助かるためじゃない。戦いの中でいつの間にか姿を見失ったマリンを探すために。
酔った勢いとはいえ酒場であんな事を口走ってしまって、あいつに悲しい思いをさせてしまって、そのままあいつとお別れするなんて嫌だ。そんな思いだけを胸に抱えながら。
「はーい、残念」
しかし、そんな俺の思いを踏みにじるように、巨大な戦斧を構えたミノタウロスがいつの間にか俺の前方に待ち構えていた。
「ふん!」
ミノタウロスが戦斧を振りかぶる。咄嗟に避けようとして無理な体勢を取った俺は、バランスを崩して地面に思いっきり倒れ込んだ。そんな俺を後ろから追いすがってきたサキュバスが取り押さえる。
「やっと捕まえた」
そう言って楽しそうに笑うサキュバスの姿に、俺は最後の抵抗にと叫ぶ。俺はどうなってもいい。だからマリンにだけは手を出すなと。
「ふうん。そんなにあのマリンって男の事が大事なんだ」
俺の叫びを聞いたサキュバスは俺の耳元に口を寄せると、まさしく悪魔の囁きを俺の耳に吹き込んだ。
「君を見ていると、昔の僕を思い出すよ」
「俺とあんた以外は全滅か」
俺とどうにか合流したマリンが悔しそうに呟いた。俺はマリンにとって直属の上官であるはずだが、昨日の諍いの後で再び2人きりになったとあって、彼の声には敬意がかけらもこもっていない。
「さすがの淫魔どもも、野郎がパンツを見たがるような男と、野郎のパンツを見たがるような変態野郎はお呼びじゃないってか」
完全にやけっぱちになりながら吐き捨てるマリンの姿に、俺はひと言「ごめん」とだけ告げた。
「は? 何を謝って――」
そう言って俺の方を振り向いたマリンの姿が固まり、その目に驚愕の色が浮かぶ。
「おい。その姿、それじゃまるで……」
震えるマリンの目に映る俺の姿、それはさっき俺達の目の前で次々に俺達の仲間を犯していった奴らと同じサキュバスの姿だった。
「どういう事だよ。どうして男であるあんたがサキュバスに変わるんだよ」
俺は思い出す。俺がエバ・ミスティアと名乗るサキュバスから取り押さえられた時、エバは俺にこう告げた。
――人間の男の中には稀に、インキュバスではなくアルプというサキュバスに変化する人がいるんだ。実は、僕もその1人でね。
そしてエバは俺を仰向けに寝かせてズボンを脱がすと、今まで散々見せられた光景や聞かされた声ですっかりガチガチになった愚息を片手で握りながら、もう片方の手を俺の会陰に添えてこう告げた。
――ほら。感じてごらん。君の中にある『子宮』を。
エバは俺の愚息をゆっくりと扱きながら、会陰に添えたもう片方の手で円を描くようにくりくりと刺激してくる。
――ほら。思い浮かべるんだ。君の大好きなマリン君のガチガチに勃起したモノが、君のナカに入ってくる所を。
そう告げるエバの尻尾の先が、俺の尻の穴に入っていく。会陰を擦る指の動きに合わせるように脈打ち、俺の身体の中にある「何か」を呼び覚まそうとする。
――そう。いいよ。僕も興奮してきた。思った通り、君には『素質』があるみたいだ。ほら。最後に想像するんだ。君の大事なマリン君の欲望の証が君の中で弾けて、新しい命が君の中で息づくところを!
俺は自分の尻の中でエバの尻尾の先から何かが噴き出すのを感じるのと同時に射精し、目の前が真っ白になった。そして再び目を覚ますと、エバもミノタウロスも俺の目の前から姿を消していたのだった。
俺の意識が今この場に戻る。俺はマリンの目の前で地べたに頭を擦りつけ、昨日酒場で告げたのと同じ言葉を繰り返した。
君のおパンツを見せてほしい、と。
事態を飲み込めずにしばらく呆然と立ちすくしていたマリンだったが、俺を見下ろすその顔にはだんだんと嫌悪と侮蔑の色が浮かんできた。
「は、それじゃあなにか? あんたは俺のパンツを見るためだけに、サキュバスにまでなったというのか?」
俺が肯定の言葉を口にすると、マリンは更に罵声を投げかけてきた。
「信じらんねえ。野郎のパンツを見るためだけに男である事を捨てるなんて、信じらんねえよ!」
そうして俺を見下していたマリンだったが、しばらくすると観念するように自分の鎧の金具に手をかけた。
「解ったよ。どうせここで断っても俺はもう逃げられないんだ」
今か今かと待ちわびる俺の目の前で鎧がすっかり脱ぎ捨てられ、カチャカチャとベルトの金具が擦れる音が俺の耳に届く。俺はそれだけでも自分の下腹の中で、ついさっきまで存在すらしなかった器官が熱を帯びてくるのを感じた。俺の脚の間でぬるりと生暖かい物が滴る。左右に開いたマリンのズボンの間から、彼の名前によく似合う水色をしたブリーフが姿を現す。俺はマリンのブリーフの中で彼の雄の器官が弾け出しそうに力強く脈打ち、ブリーフの表面にうっすらとカウパーの染みを浮かばせているのを見て取った。
マリンは邪魔くさそうにズボンをすっかり脱ぎ捨てると、俺の肩に手をかけ、地面の上に仰向けに押し倒した。俺のズボンに手をかけ、グショグショになった下着ごとずりおろす。そして隠すものが無くなった俺の両脚に手をかけると、それを勢いよく開かせた。
「外側だけじゃなくてここもマジで女に変わってやがる。どうせここで逃げてもあんたや他のサキュバスに捕まるんだろ? だったらこっちからやってやるよ」
マリンがとうとうパンツを下ろす。脚を開かされた姿勢のまま身じろぎもできずに見上げる俺の身体を肉の槍が一気に貫いた。
「ほらほらどうだ。他の男達が女に犯されている中で、あんただけ女になって男に犯される気分はよお」
俺はさっき形成されたばかりの器官を無理やりこじ開けられる痛みに慄き、目から涙が零れ落ちる。しかし俺の口からは、俺自身にも自分の口から出ているとは信じられないような甘い嬌声が漏れ出していた。俺の内臓の内側で、俺の身体とは違う生き物の一部が暴れ回る。マリンが腰を突き込む度に、俺の内側がカリで擦り上げられ、俺の身体の芯が甘く激しい衝撃に揺さぶられる。
「あんた、自分の状況が、んっ、解ってんのか? 野郎に犯されているというのに、甘えるような声、んっ、出しやがって」
そして程なくして、マリンの身体に変化が現れた。俺の中で陰茎が硬さを増し、その動きが俺の奥を小刻みに探るような動きになり、マリンの顔が興奮で上気して、切羽詰まった息遣いが俺の顔にかかる。俺の男としての記憶とサキュバスになった身体がこれから起こる事を察知し、俺は抑えつけられて身動きできない姿勢のまま懇願の言葉を叫んだ。
「『出すな』じゃなくて、『出せ』ってか……うっ」
マリンがそれだけ呟いた時、俺は自分の中で欲望の塊が勢いよく弾けるのを感じる。俺は目の前で絶頂したばかりのマリンの顔に達成感を覚えながら、結合を深めるように自分の手足をマリンの身体に絡め、胎の奥で彼の逸物が震えて精液が広がっていく感触を楽しんだ。
交わりの余韻が治まり、マリンの腕から解放された俺は、地面に座って自分の腹に手を当てた。身体の内側でマリンの生暖かい新鮮な精液がドロリと滴るのを感じる。俺はエバの言葉を思い出した。これから俺の中で新しい命が息づくのだろうか。マリンによく似た赤ん坊が。そう考えた時俺の胸によぎったのは後戻りできなくなってしまった事への焦りで無ければ、自分が男であるという事を捨ててしまった事への後悔でも無かった。その事に気付いた俺が思わず顔をほころばせた時、マリンの冷たい声が俺の耳に届いた。
「何ニヤニヤ笑ってんだよ」
そして普段は着やせして解りにくいが、兵士として鍛え上げられた腕が再び俺の肩を掴む。
「まさかあれで終わりとか思っちゃいないだろうな?」
俺はうつ伏せに地面に引き倒された。マリンの腕が俺の翼と尻尾を掴み、俺は全身に走る激しい快楽にあえぐ。
「俺もずっとあれだけの物を見せられて溜まってたんだ。この程度で治まると思うなよ」
そして俺の身体の中心を再び激しい衝撃が貫き、俺の口から甘い嬌声が迸った。
こうして俺達の国からレスカティエへの侵攻は失敗に終わり、逆に攻め返された俺達の国は魔界国家レスカティエの支配下に置かれた。
今になってみればそもそも最初の無茶な侵攻を政治家達が決定した事自体、この国に潜り込んだラタトスクやクノイチのスパイによる工作だったという噂も流れているが、真偽のほどは解らない。はっきりしているのは、俺達の生活が大きく変わった事だ。
以前はレスカティエへと運ばれてくる品物の扱いを主な収入源としていたうちの国だが、今ではそれに加えてレスカティエで開発・生産された魔法道具や魔界作物の輸出も扱っている。人間だけでなく狸の魔物やゴブリンの商人も街を行き来するようになった。
俺は相変わらず軍でしがない小隊長として今までと変わらない隊員を率いているが、その仲間達は皆人間ではなくなっている。
そして俺にとって最も重要な変化は、毎朝軍の宿舎で目覚めた時に目に飛び込んでくる物が変わった事だった。
俺は以前使っていた1人部屋を引き払うことになった時の事を思い出す。男だった頃の俺が部屋の中に隠していた秘蔵コレクションを片付け作業の手伝いに来たマリンに見つかってしまう「アクシデント」があった。
「へえ。あんたこういうのが好みだったのかよ」
マリンはそう言ってあざ笑いながらも俺の秘蔵コレクションを食い入るように読みふけり、勃起するたびにそれを処理するために俺の身体をはけ口に使うという屈辱を与えてきた。俺としては事前にわざと見つかりやすそうな場所に移動させておいた甲斐があったと思う。
そして今俺が朝の鳥の声を聞きながら目を開けると、そこにあるのは昨日も激しく俺を犯したとは思えない可愛らしい安らかな寝顔だった。
俺は今すぐにでも眠っているマリンに跨って逸物を咥え込みたいというサキュバスの衝動を必死に抑え、紐付きの小さな鈴を取り出す。レスカティエから輸入された魔法道具の1つ、誘い魔の鈴だ。俺が強く念を込めながら鈴の紐を引っ張ると、耳の中を引っ掻かれるようなけたたましい音が2人部屋の中に響いた。
「またかよ」
マリンは苛立たしそうに目を覚ますと、ベッドの上で膝立ちになって自分の腰に手をかけた。
「パンツが見たいってだけではた迷惑な起こし方しやがって」
そして期待の眼差しを向ける俺の前でゆっくりとパジャマのズボンが下ろされる。内側から朝の生理現象に押し上げられたパンツが姿を現した。
「人が気持ちよく寝ている所にこんな事しやがって。覚悟は出来ているんだろうな」
その言葉を聞いた時、俺は自分の下腹が目の前の男に蹂躙される覚悟を決めるのを感じた。
19/05/19 05:06更新 / bean