白蛇の話(カテゴリ:白蛇、ややシリアス)
昔々ある国に、人々から大変慕われている王様がおりました。この王様は人間に対しても魔物に対しても心優しく、いつも国中の隅から隅まであらゆる人の事を大切にしていると評判でした。
しかし、この王様には1つ奇妙な所がありました。いつも食事を終えて片づけた後、もう1人分の料理を王様の寝室に運んでくるようにと料理人に命じていたのです。そしてこの料理の蓋を王様が開ける姿は、料理人だけでなくお城で働く誰も見た事が無いのでした。
ある時、料理人は王様がなぜこのような事をするのか気になってしまい、料理を王様の寝室に置いた後、部屋から出ていくふりをしてこっそり覗いてみました。するとどうでしょう。天井の板が開いて、そこから小さくて可愛らしい真っ白なラミアの女の子が現れたのです。
料理人は思わずその女の子の前に飛び出してしまい、女の子も突然現れた料理人の姿にびっくりしてしまいましたがすぐに彼を気に入り、2人はその日のうちに恋人同士になりました。
それから料理人が白いラミアの女の子に聞いて知ったのですが、実は王様は若い頃にジパングという遠い東の国に旅し、道中である1件の民家に泊まった事がありました。そしてその家に住む女の人は実は白蛇という魔物娘で、王様に惚れこんで彼の国まではるばる追いかけ、いつの間にか寝室の天井裏に住み着いたのです。そして夜な夜な天井裏から這い出しては王様の枕元に現れるようになり、とうとう卵まで産んだのでした。それが料理人と恋人になった小さな白蛇なのです。
この日から料理人は人目を忍んで小さな白蛇の恋人と逢瀬を重ねるようになりました。しかしそんなある日、王様が大事にしていた指輪を失くしてしまい、こっそり王様の寝室に忍び込んでいる所を目撃された料理人に疑いがかかってしまいました。本当の事を言い出す事もできず、料理人は牢屋に入れられてしまいます。
しかし数日後、王様の隠し子で料理人の恋人でもある小さな白蛇が、髪も服もボロボロの姿で王様の前に現れて言いました。
「お父様。指輪を盗んだのはあの人ではありません。ブラックハーピーが山へ持ち去っていたのです」
そう言って白蛇の娘がそれまでしっかり握っていた手を開くと、王様の大事な指輪がありました。今までお城から出た事の無かった娘が険しい山奥に登り、住処へ勝手に近づく者には容赦のないブラックハーピーと戦って指輪を取り戻してきたのです。恋人を牢屋から救い出す、そのためだけに。
「お父様。あの料理人を……私の恋人を返してください!」
すぐに料理人は牢屋から解放され、王様は料理人を無実の罪で捕えた事を謝りました。そして、それから王様は料理人に言いました。
「娘との結婚を認めようと言いたいところだが、私の娘と結婚するという事はこの国の王子となるという事。そのためには今のこの国の姿を隅から隅まで見てきてもらわなければならん。そういうしきたりなのだ」
「それでしたら、娘さんを旅に連れて行かせてください。あの娘にもこの城の外の様子を見せてあげたいのです」
その望みが認められると、料理人と小さな白蛇は旅に出て、最初に広い海に出ました。すると、浜辺に何かが転がっています。
「だ、誰か助けてくださーい」
それは仰向けにひっくり返った亀の魔物娘でした。
「お母様から聞いたことがあるわ。お母様が昔いたジパングの海に住む、海和尚って魔物娘じゃないかしら」
すると、料理人は仰向けでもがいている海和尚の所に近づいていきました。それを見た小さな白蛇の目つきが鋭くなり、手に青白い魔力の炎が灯ります。
「お兄さん、その娘をどうするつもり? まさか浮気?」
料理人は慌てて否定します。
「まさかそんな。困っているみたいだから助けてあげるだけだよ」
そして彼はその言葉通り、小さな白蛇の冷たい視線にさらされながらも、ひっくり返って動けない海和尚をうつ伏せに返してあげました。
「ありがとうございます。この恩はきっと忘れません」
海和尚はそう言って何度も頭を下げた後、海に帰っていきました。
それから2人が道を進んでいくと、今度は大きな森の中に出ました。すると、草陰で何かが苦しそうな呻き声を上げています。
「どうしよう。このままじゃ、帰れない」
それは転んで足を大怪我してしまったケンタウロスの子供でした。料理人はこのケンタウロスの足を手当てすると、歩けるように肩を貸そうとします。
「いい? 肩を貸すだけよ? それ以上何もしちゃだめだからね?」
そう言って小さな白蛇もケンタウロスに肩を貸してあげて、3人は奇妙な形で連れ立ってケンタウロスを彼女の住む集落まで連れて帰りました。
集落に住むバイコーンがそれを聞いて感動し、ぜひ自分を2人目のお嫁さんにと迫ってきましたが、小さな白蛇のお嫁さんが全力で拒否したので丁重にお断りしました。
そして料理人と小さな白蛇がお城に戻ってくると、王様は料理人に言いました。
「今度はお前がこの国の将来の王となるに相応しい者かテストしなければならん」
そして王様は料理人と娘を海岸に連れて行くと、手から指輪を外して海に放り投げました。
「最初の試練だ。あの指輪を取ってこい」
料理人と小さな白蛇は顔をたちまち真っ青にしてしまいました。
「どうしよう。俺全然泳げないんだけど」
「私だってずっとお城から出た事も無かったのに泳げるわけないわ」
その時です。それまで穏やかに静まり返っていた海が急に激しく波打ってきました。料理人と小さな白蛇が驚いて見ていると、前に浜辺で助けてあげた海和尚が顔を出して言いました。
「指輪、ありましたよ!」
海和尚は2人に助けられた恩返しにと、海に住む仲間の魔物娘達に頼んで指輪を探してくれたのでした。
2人が指輪を王様の所に持っていくと、王様は今度は大きな森の中に彼らを連れていきました。
「次の試練だ。この森で最も大きい魔界獣を仕留めてこい」
料理人と小さな白蛇は再び顔を真っ青にしてしまいました。
「どうしよう。狩りなんてやったことないぞ」
「私だってずっとお城から出た事も無かったのに」
すると、森の奥からケンタウロス達がやってきて2人に言いました。
「あなた達は私達の子供の恩人。今度は私達があなた達をお助けする番です」
そして2人はケンタウロス達の助けを借り、森で最も大きい魔界獣をどうにか仕留めました。
2人が魔界獣の肉を王様の所に持って行くと、王様は2人に言いました。
「よく頑張ったな。いよいよ最後の試練だ。この国のどこかに1本だけ、金色のリンゴの実がなる木がある。そのリンゴを取ってくるんだ」
王様は「この国のどこか」としか教えてくれなかったため、2人は国中の木を1本ずつ調べるしかありません。当然すぐに見つかるはずもなく、2人は深い森の奥で夜を明かす羽目になり、料理人は小さな白蛇の尻尾に包まれるような形で互いに寄り添い合って眠りました。
そして再び朝日が昇ってくると、2人は何やらたくさんの鳥が羽ばたいているような騒がしい物音で目を覚ましました。そして目を開けると2人の周りを何人ものブラックハーピーの群れが取り囲んでいました。王様の指輪を勝手に持ち出し、白蛇に取り返されたたあのブラックハーピー達です。そして、群れのリーダーらしきお姉さんのブラックハーピーがゆっくりと手を差し出します。なんとその手には王様が言っていた金のリンゴが握られているのでした。小さな白蛇は思わず驚きの声を上げます。
「それは」
「この前はごめんなさい。私たちのせいで貴女の夫が大変な事になっているなんて知らなかったの。それと――」
そして、ブラックハーピーは顔を赤くして続けました。
「これで、私達とお友達になってくれる?」
小さな白蛇はお姉さんのブラックハーピーを抱きしめ、その周りでは仲間のブラックハーピー達が喜びの声を上げました。
「おめでとう。これで君は晴れて私の娘の夫、私の後継者となったわけだ」
金色のリンゴを持ってきた料理人を、王様はそう言って優しく迎えます。すると、料理人は申し訳なさそうな顔で言いました。
「あの、本当にこれでよろしかったのでしょうか。私が陛下の出した試練を達成したのは、どれも私の力ではありません。魔物達の助けによるものです」
王様は優しく微笑んでこう返しました。
「それは私とて同じこと。国というものは王だけの力で成り立っているわけではない。国に住む人々が居ればこそ成り立つものなのだ」
そして料理人と小さな白蛇は盛大な結婚式を挙げ、国じゅうのたくさんの人間や魔物娘達がこれを祝福したそうです。
しかし、この王様には1つ奇妙な所がありました。いつも食事を終えて片づけた後、もう1人分の料理を王様の寝室に運んでくるようにと料理人に命じていたのです。そしてこの料理の蓋を王様が開ける姿は、料理人だけでなくお城で働く誰も見た事が無いのでした。
ある時、料理人は王様がなぜこのような事をするのか気になってしまい、料理を王様の寝室に置いた後、部屋から出ていくふりをしてこっそり覗いてみました。するとどうでしょう。天井の板が開いて、そこから小さくて可愛らしい真っ白なラミアの女の子が現れたのです。
料理人は思わずその女の子の前に飛び出してしまい、女の子も突然現れた料理人の姿にびっくりしてしまいましたがすぐに彼を気に入り、2人はその日のうちに恋人同士になりました。
それから料理人が白いラミアの女の子に聞いて知ったのですが、実は王様は若い頃にジパングという遠い東の国に旅し、道中である1件の民家に泊まった事がありました。そしてその家に住む女の人は実は白蛇という魔物娘で、王様に惚れこんで彼の国まではるばる追いかけ、いつの間にか寝室の天井裏に住み着いたのです。そして夜な夜な天井裏から這い出しては王様の枕元に現れるようになり、とうとう卵まで産んだのでした。それが料理人と恋人になった小さな白蛇なのです。
この日から料理人は人目を忍んで小さな白蛇の恋人と逢瀬を重ねるようになりました。しかしそんなある日、王様が大事にしていた指輪を失くしてしまい、こっそり王様の寝室に忍び込んでいる所を目撃された料理人に疑いがかかってしまいました。本当の事を言い出す事もできず、料理人は牢屋に入れられてしまいます。
しかし数日後、王様の隠し子で料理人の恋人でもある小さな白蛇が、髪も服もボロボロの姿で王様の前に現れて言いました。
「お父様。指輪を盗んだのはあの人ではありません。ブラックハーピーが山へ持ち去っていたのです」
そう言って白蛇の娘がそれまでしっかり握っていた手を開くと、王様の大事な指輪がありました。今までお城から出た事の無かった娘が険しい山奥に登り、住処へ勝手に近づく者には容赦のないブラックハーピーと戦って指輪を取り戻してきたのです。恋人を牢屋から救い出す、そのためだけに。
「お父様。あの料理人を……私の恋人を返してください!」
すぐに料理人は牢屋から解放され、王様は料理人を無実の罪で捕えた事を謝りました。そして、それから王様は料理人に言いました。
「娘との結婚を認めようと言いたいところだが、私の娘と結婚するという事はこの国の王子となるという事。そのためには今のこの国の姿を隅から隅まで見てきてもらわなければならん。そういうしきたりなのだ」
「それでしたら、娘さんを旅に連れて行かせてください。あの娘にもこの城の外の様子を見せてあげたいのです」
その望みが認められると、料理人と小さな白蛇は旅に出て、最初に広い海に出ました。すると、浜辺に何かが転がっています。
「だ、誰か助けてくださーい」
それは仰向けにひっくり返った亀の魔物娘でした。
「お母様から聞いたことがあるわ。お母様が昔いたジパングの海に住む、海和尚って魔物娘じゃないかしら」
すると、料理人は仰向けでもがいている海和尚の所に近づいていきました。それを見た小さな白蛇の目つきが鋭くなり、手に青白い魔力の炎が灯ります。
「お兄さん、その娘をどうするつもり? まさか浮気?」
料理人は慌てて否定します。
「まさかそんな。困っているみたいだから助けてあげるだけだよ」
そして彼はその言葉通り、小さな白蛇の冷たい視線にさらされながらも、ひっくり返って動けない海和尚をうつ伏せに返してあげました。
「ありがとうございます。この恩はきっと忘れません」
海和尚はそう言って何度も頭を下げた後、海に帰っていきました。
それから2人が道を進んでいくと、今度は大きな森の中に出ました。すると、草陰で何かが苦しそうな呻き声を上げています。
「どうしよう。このままじゃ、帰れない」
それは転んで足を大怪我してしまったケンタウロスの子供でした。料理人はこのケンタウロスの足を手当てすると、歩けるように肩を貸そうとします。
「いい? 肩を貸すだけよ? それ以上何もしちゃだめだからね?」
そう言って小さな白蛇もケンタウロスに肩を貸してあげて、3人は奇妙な形で連れ立ってケンタウロスを彼女の住む集落まで連れて帰りました。
集落に住むバイコーンがそれを聞いて感動し、ぜひ自分を2人目のお嫁さんにと迫ってきましたが、小さな白蛇のお嫁さんが全力で拒否したので丁重にお断りしました。
そして料理人と小さな白蛇がお城に戻ってくると、王様は料理人に言いました。
「今度はお前がこの国の将来の王となるに相応しい者かテストしなければならん」
そして王様は料理人と娘を海岸に連れて行くと、手から指輪を外して海に放り投げました。
「最初の試練だ。あの指輪を取ってこい」
料理人と小さな白蛇は顔をたちまち真っ青にしてしまいました。
「どうしよう。俺全然泳げないんだけど」
「私だってずっとお城から出た事も無かったのに泳げるわけないわ」
その時です。それまで穏やかに静まり返っていた海が急に激しく波打ってきました。料理人と小さな白蛇が驚いて見ていると、前に浜辺で助けてあげた海和尚が顔を出して言いました。
「指輪、ありましたよ!」
海和尚は2人に助けられた恩返しにと、海に住む仲間の魔物娘達に頼んで指輪を探してくれたのでした。
2人が指輪を王様の所に持っていくと、王様は今度は大きな森の中に彼らを連れていきました。
「次の試練だ。この森で最も大きい魔界獣を仕留めてこい」
料理人と小さな白蛇は再び顔を真っ青にしてしまいました。
「どうしよう。狩りなんてやったことないぞ」
「私だってずっとお城から出た事も無かったのに」
すると、森の奥からケンタウロス達がやってきて2人に言いました。
「あなた達は私達の子供の恩人。今度は私達があなた達をお助けする番です」
そして2人はケンタウロス達の助けを借り、森で最も大きい魔界獣をどうにか仕留めました。
2人が魔界獣の肉を王様の所に持って行くと、王様は2人に言いました。
「よく頑張ったな。いよいよ最後の試練だ。この国のどこかに1本だけ、金色のリンゴの実がなる木がある。そのリンゴを取ってくるんだ」
王様は「この国のどこか」としか教えてくれなかったため、2人は国中の木を1本ずつ調べるしかありません。当然すぐに見つかるはずもなく、2人は深い森の奥で夜を明かす羽目になり、料理人は小さな白蛇の尻尾に包まれるような形で互いに寄り添い合って眠りました。
そして再び朝日が昇ってくると、2人は何やらたくさんの鳥が羽ばたいているような騒がしい物音で目を覚ましました。そして目を開けると2人の周りを何人ものブラックハーピーの群れが取り囲んでいました。王様の指輪を勝手に持ち出し、白蛇に取り返されたたあのブラックハーピー達です。そして、群れのリーダーらしきお姉さんのブラックハーピーがゆっくりと手を差し出します。なんとその手には王様が言っていた金のリンゴが握られているのでした。小さな白蛇は思わず驚きの声を上げます。
「それは」
「この前はごめんなさい。私たちのせいで貴女の夫が大変な事になっているなんて知らなかったの。それと――」
そして、ブラックハーピーは顔を赤くして続けました。
「これで、私達とお友達になってくれる?」
小さな白蛇はお姉さんのブラックハーピーを抱きしめ、その周りでは仲間のブラックハーピー達が喜びの声を上げました。
「おめでとう。これで君は晴れて私の娘の夫、私の後継者となったわけだ」
金色のリンゴを持ってきた料理人を、王様はそう言って優しく迎えます。すると、料理人は申し訳なさそうな顔で言いました。
「あの、本当にこれでよろしかったのでしょうか。私が陛下の出した試練を達成したのは、どれも私の力ではありません。魔物達の助けによるものです」
王様は優しく微笑んでこう返しました。
「それは私とて同じこと。国というものは王だけの力で成り立っているわけではない。国に住む人々が居ればこそ成り立つものなのだ」
そして料理人と小さな白蛇は盛大な結婚式を挙げ、国じゅうのたくさんの人間や魔物娘達がこれを祝福したそうです。
19/01/27 21:49更新 / bean
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