連載小説
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後編
「遅れてすみません」
 私は生徒会室に入りながら何度も頭を下げました。
 屋上で事が終わった後、仰向けに倒れていた私をうつ伏せにひっくり返して起き上がれるようにしてくれた黄瀬さんは、服装を整えると、完全にいつもの副会長に戻った声色で「今日は定例会議の日だから忘れないで」とだけ言って気まずそうに去っていきました。
 私はそれをボーッと聞いていたのですが、人化の術を再び使える程度に落ち着いてきた時になって黄瀬さんの言っていた事をようやく理解し、慌ててここまでやってきたのです。
「気を付けなさい。今朝も制服をだらしなく着ていたし、随分たるんでいるんじゃないの、透子さん」
 赤宮さんが注意してきますが、また私を下の名前で呼びました。今度は誰も噂話をしたりしていませんが、やはり「透子さん」と発した瞬間に生徒会室の空気が少し冷たくなったような気がします。
「会長の言う通りよ。生徒会に参加するならいつも生徒のお手本になる事を意識しなさいって、今朝も会長に言われていたじゃない、透子さん」
 黄瀬さんに至っては随分と棘のある声で付け加えてきました。というか私が遅刻した原因の半分は黄瀬さんにあるはずなんですがね。そう思って私は黄瀬さんの方を非難がましく見たつもりだったんですが、黄瀬さんが鋭く見返してくる眼と視線が交わると、お腹の中で何かがざわつくような感触を覚えてしまいました。
「時間が押しているからとにかく座りなさい。この話は会議が終わった後でするから。それじゃあ最初の議題だけど――」
 椅子に座り、赤宮さんが議題を口にしていく声や書記の方が黒板に皆さんの意見を板書していくチョークの音なんかを聞いていく間も、お腹の中がざわつくような感触は大きくなっていきます。そこで私はようやくその感触の正体に気付きました。胃袋と子宮でまさに今、さっき黄瀬さんに注がれた精が私の身体に染み渡り、私の身体の内側で魔力が溢れているのです。私は思わず自分のお腹を手で抑え、黄瀬さんの方に視線を向けました。さっきの屋上での記憶が脳裏に蘇り、魔物娘としての強い情欲がムラムラと湧き上がってくるのを感じます。
「はあ、はあ……」
「ちょっと大丈夫? なんか汗びっしょりになっているわよ。さっきも遅れて来ていたし、どこか具合悪いんじゃない? 治癒魔法かけてあげようか? それとも保健室に行く?」
 近くに座っていた3年の庶務長の先輩が話しかけてきました。今は人間の姿をしていますが確かユニコーンの方だったと思います。ついでにその隣にいるのは屋上で私を襲った赤宮さんファンクラブのリーダーというワーバットの先輩でした。そのワーバットの先輩も私の様子を気にしているようでしたが、私と目が合うと気まずそうに黒板の方へと視線を移します。
「大丈夫、です」
「本当に? どうしても具合が悪かったらいつでも言うのよ?」
 私は黙って頷きながら、心の中でユニコーンの先輩に平謝りしていました。

「みんなお疲れさま。……あ、透子さんはまだ話があるから残ってちょうだい」
 会議が終わって赤宮さんがそう言うと、生徒会の人達が荷物をまとめて席を立ち、生徒会室を後にしていきます。そのうちの少なくない数の人が部屋を出る前に私と赤宮さんの方をちらちらと伺っていました。
「会長。私は?」
 生徒会室の中に残っているのは私と赤宮さんと黄瀬さんの3人だけになり、黄瀬さんは赤宮さんに尋ねました。赤宮さんは黄瀬さんの顎に手を添えてくいっと持ち上げます。キスをするのかと思ったその時、赤宮さんは黄瀬さんの耳元に口を添えて囁くように言いました。
「黄瀬ちゃんもお疲れさま。あとは私だけでいいわ」
 黄瀬さんも私と同じことを予想していたのか、残念そうに生徒会室を去っていきます。そしてその足音が遠くなっていくと、赤宮さんは私が座っているところまで歩み寄り、今度は私の顎に手を添えて持ち上げてきました。
「単刀直入に聞くわ。あなたまた黄瀬ちゃんとシたでしょ?」
 1番ばれたくないと思った相手からの指摘に、私は戸惑ってしまいます。
「な、なんで?」
「なんでって言われても、お腹を抑えながら黄瀬ちゃんの方を見て恋する乙女オーラ飛ばしていたんですもの。それに」
 そこで言葉が途切れ、赤宮さんの顔が私の方へ一気に接近してきました。唇がふさがれ、口の中にヌルッとした物が入ってきます。
「ん、んぶっ!?」
「ちゅ、くちゅっ、れろっ」
 私が驚いて固まっている間にも、赤宮さんの舌は私の口の中を丹念に蹂躙しました。頬の内側を撫で、歯をなぞり、舌に絡みついてきます。そしてしばらくして赤宮さんの口が私から離れ、唾液の橋が崩れ落ちると赤宮さんは言いました。
「口の中から黄瀬ちゃんの精の匂いがぷんぷんしているんですもの。味もとても濃かったわ。今日はフェラまでしてあげたのね」
「え? でも黄瀬さんの匂いは魔法で……」
「『1人の男の人』として認識する相手にならそうでしょうね。でも、私達みたいに黄瀬ちゃんを『夫』と認識するなら話は別だわ」
 私「達」、と赤宮さんは言いました。黄瀬さんを「夫」と認識するのは自分だけではないと。
「当然、してあげたのはフェラだけじゃないんでしょ?」
 そう言うと赤宮さんは椅子に座る私の太ももへと手を添え、上へと向かってつつ、と滑らせてきます。そしてほっそりとした指がスカートの中へと潜り、ショーツのクロッチをずらして、会議中に発情してからずっとぐしょぐしょになっていた場所へと潜り込んできました。
「んっ、くっ、ああっ!」
「あらあら、随分すんなり入るようになったのね。つい昨日の今頃は私、はじめてなのにぃ、なんて言って苦しそうにいたのに」
 そして、私は赤宮さんの指が自分の内側で暴れまわるのを感じました。黄瀬さんの陰茎で貫かれる時ほどの衝撃はありませんが、その代わりに関節のある指だからこその動きで蹂躙してきます。
「私はまだ吸血でしか黄瀬ちゃんの精を貰う事ができないのに、あなたは何度も黄瀬ちゃんのいちばん美味しい所を思う存分咥えたのね」
 そう言って、赤宮さんは恨めしそうな目つきで私の目を見つめてきました。私は息も絶え絶えになりながらも言葉を絞り出します。
「も、もしかして、怒ってらっしゃいます?」
「うーん、イエスでもあるしノーでもあるかな。あなたに黄瀬ちゃんとエッチするなって言いたいわけじゃないのよ。そもそも私が焚きつけた事だしね。ただ、そんな風に私抜きで仲良くされると燃えてくるの」
「もえて、くる?」
「そう。2人に私の存在を刻みたい。私のものにしたいってね。黄瀬ちゃんだけじゃなく、あなたにも」
 そして赤宮さんの唇が私の首元に寄せられたその時、私の身体に鋭い痛みが走りました。ヴァンパイアの牙を突き立ててきたのでしょう。しかも痛みを感じるという事は吸血のためではなく、純粋に私に傷と痛みを与えるための行為として。
「あああああっ!」
 それを私が認識したその時、私は目の前が真っ白になる程の快楽を感じました。私の体は陸に打ち上げられた魚のように跳ね、椅子からずり落ちてしまいます。そして私は気付けば人化の術が解け、自力では起き上がれない亀の体で仰向けに倒れた状態になっていました。
 なんとかして顔を上げると、赤宮さんは自分のスカートに手を入れ、私に見せつけるようにショーツを抜き取ってきました。そして昨日のように私の頭の上に跨るように陣取り、腰を下ろしてきます。
「ほら。舐めてちょうだい。私の夫の精の味が残っている口で」
 そう言って赤宮さんは、さっきまで私の膣内をいじめていた自分の指をこれ見よがしに舐めてきます。その光景は迫ってくる赤宮さんのスカートとその中の股間に遮られて見えなくなり、彼女の陰唇が私の唇にキスしてきました。
「ちゅっ、くちゅっ、んっ」
 私はやはり昨日のように、海和尚の本能に突き動かされて条件反射のように愛撫していきます。その時、私は自分の陰唇に何やらぬるっとした感触を覚えました。思わず足がびくりと跳ねてしまいます。
「こら。動かないの。舐めにくいでしょ」
 どうやら赤宮さんも私にクンニしようとしているようです。私は赤宮さんの腕が抑えつけてくる動きに従い、両脚をMの字の形に折り曲げました。
「ずっ、じゅるっ、ずずっ」
 赤宮さんはわざとらしく音を立てながら私のそこに吸い付いてきました。ほぼ同時に私の舌先に感じる赤宮さんの陰唇からも、温かくぬめった物が染み出してきます。それを口で受け取めた私も子宮に気持ちいいビリビリとした物が広がり、愛液が溢れてくるのを感じました。赤宮さんの舌のぬるっとした感触が、入り口だけでなく膣の中にも入ってきます。
 いつしか生徒会室の中は、私と赤宮さんのエッチな音と匂いでいっぱいになっていました。すぐに私の身体の内側が震え始め、限界が迫っている事を私に報せてきます。私はそれにお返しするように赤宮さんを愛撫する舌の動きを速めていきました。
「くちゅっ、ちゅっ、れろっ」
「んっ、んんっ、んんんんんっ」
 赤宮さんの身体が私より一足早く絶頂を迎えて私の上でビクビクと震え、私はその振動を感じながら絶頂を迎えました。




「学生寮の黄瀬ちゃんの部屋、知っているわよね?」
 私を起こした後、赤宮さんはショーツを穿きなおしながら聞いてきました。
「はい。3年生が使っている部屋の端の1人部屋ですよね? ……あっ」
 そこで私はようやく気付きます。この部屋割りも黄瀬さんが自分の性別を隠して生活するためにそれとなく配慮されたものだと。そして同時に、この事を別の目的に利用できるという事も。
「あなたにわざわざ話す事でもないけど、うちの寮は普段は門限とか厳しい代わりに休日の前日は結構大目に見てもらえるのよね。外泊許可を申請する娘も多いし。だからその日は夜の点呼の後でこっそり他の生徒の部屋に行ってそこで寝泊まりしても、寮監さんは目をつぶってくれているみたいよ。それで、今日がその金曜日なわけだけど」
 それだけ言うと赤宮さんは言葉を切り、私に淫靡な視線を向けました。私は何も言わずに首を上下に振ります。
「ふふっ、そうこなくっちゃ。あなたにはいっぱい私の目の前で私の夫と『浮気』してもらうわ。私を存分に嫉妬させて。私がもっとあなたとあの子を苛めたくなるようにさせてちょうだい」
 私は今夜へと思いを馳せます。黄瀬さんに襲われて無理やり種付けされる私の姿を見た赤宮さんは、嫉妬を私の身体で発散させようとするでしょう。そして黄瀬さんはその姿を見せつけられ、私への嫉妬と自分も早くインキュバスになって赤宮さんと交わりたいという焦りを募らせて私にぶつけてくるはずです。そうして私はひと晩じゅう、代わる代わるに苛められ続けるのです。
 せっかちな私の下の口の中で、早くもじゅわっとよだれが溢れてきました。
18/09/21 20:42更新 / bean
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■作者メッセージ
数年後、ヴァンパイアの名家として知られる赤宮家のご令嬢が母校にして名門お嬢様学校として名高い聖百合ヶ丘女学院の創始者一族の子息との結婚を発表。夫婦揃って社交界で精力的に活動する事になるが、その陰には公の場でのサポートから私生活のお世話、更には夫と妻両方を相手に性欲処理まで行う可愛らしい秘書さんの姿があったのだとか。

長さ的には長めの短編でも行けたとは思うのですが、今回は前中後編それぞれにプレイの趣が異なるので分割させていただきました。

余談ですが、今回の主要人物3人の名前はそれぞれ百合の花の色や品種をモチーフにしています。
・赤宮会長→赤い百合→花言葉「虚栄心」(花言葉から魔物娘図鑑のヴァンパイア、花言葉の由来とされるキリストの磔刑のエピソードから元ネタのヴァンパイアをイメージ)
・黄瀬副会長→黄色い百合→花言葉「偽り」
・浜浦透子→スカシユリ(別名:ハマユリ)→花言葉「注目を浴びる」

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