連載小説
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前編
 あれは私が生徒会庶務の仕事を終えた後、帰る支度をしている途中で忘れ物に気付き、生徒会室に引き返した時の事でした。
 生徒会室の近くまで来た私は、そこから何やら怪しげな物音が聞こえてくるのに気が付きました。
(まさか……変質者!?)
 生来の臆病な気質のせいで悪い方向に想像してしまった私は、音を立てないようにように気を付けながら生徒会室の扉を少し開け、慎重に中を覗きます。そして、そこで固まって動けなくなってしまいました。
 私が見た光景。それは私がこの学校に入学した時からずっと憧れてきた人が、夕陽を背に女の子と抱き合っている姿だったのです。
 
 と言っても、その憧れの人は男の人ではありません。そもそも私が通っている聖百合ヶ丘女学院はその名の通り女子校であり、私の憧れの人である生徒会長の赤宮さんも当然女性です。
 赤宮さんは魔物娘の「貴族」と呼ばれるヴァンパイアという種族に生まれたいわゆるお嬢様であり、その凛とした佇まいには女性である私から見ても思わずドキッとしてしまうものがありますが、私が赤宮さんに憧れているのはそこだけではありません。ヴァンパイアという種族は魔物娘の中でも大きな力を持つ種族の1つですが、日光の下では人間の少女と同じ程度の力しか出せないそうです。しかし、赤宮さんはそんな状態でも憶する事無く人前に立ち、生徒会長としてみんなの中心になって引っ張っていくという魔物娘の持つ力とは別の強さを持っています。小さな頃から臆病で引っ込み思案だった私にはない強さです。
 私はそんな赤宮さんの強さに憧れました。この学校では1年生の中から希望者が庶務として生徒会役員のお姉さま方のお仕事を手伝い、生徒会の仕事に必要な事をご教示いただくことになっているのですが、私は赤宮さんに近づきたい一心でこの話に飛びついたのでした。

 そんな私が生徒会室の入り口からこっそり様子を伺う中、赤宮さんは相手の女の子の首筋に噛み付きました。ちょうど赤宮さんは沈みゆく夕陽を背にして立っている格好になるので、相手の女の子の姿は私の所からはよく見えません。抱きしめられている背中から下を見てこの学校の制服を着ているとようやく解る程度です。
「いいなあ」
 私は思わずそう呟いてしまいました。ヴァンパイアが精を得るために吸血するのは人間やインキュバスの男の人だけですが、同族の資質があると認めた人間の女性に対しても、相手をヴァンパイアに変えるために吸血すると聞いたことがあります。あの女の子はそれだけのものがあると赤宮さんに認められたのでしょう。正直とても羨ましい事です。
 いや、これも言い訳ですね。仮に私が赤宮さんに認められたとしても、彼女が私の血を吸う事は無いでしょう。私も彼女と同じように、生まれながらの魔物娘なのですから。

 そんな事を考えていた時、赤宮さんに噛み付かれていた女の子の背中がビクッと跳ねました。三つ編みのおさげが大きく揺れます。それを目にした時、相手の女の子が誰なのか気付きました。
「あれってもしかして……副会長?」
 その女の子は生徒会副会長の黄瀬さんでした。三つ編みのおさげに黒縁の眼鏡という、いかにも漫画に出てくる「お堅い学級委員長」がそのまま飛び出してきたような恰好をした人間の方で、生徒会活動の時にはいつも学院の皆から注目を集めている赤宮さんの隣に並んでいるので失礼ですがその、あまり印象に残らないというか地味な感じを受ける方です。しかし、今まで考えた事もありませんでしたがこの学院の生徒の中でいちばん赤宮さんの近くにいるのは誰かと聞かれれば確かにあの人です。そう考えると確かに、彼女なら赤宮さんに同族の資質があると認められていてもおかしな話ではない気がしてきます。

「……ふぅ」
 血を吸い終えたのか、赤宮さんが黄瀬さんの首筋から唇を離しました。同時に窓の外では夕陽が完全に沈み、天井の蛍光灯だけが2人の姿を照らし出します。赤宮さんの頬は赤く染まり、その表情は普段のクールな姿とは似ても似つかないような、とても色っぽいものになっていました。
「赤宮さん、きれい」
 その顔に見惚れていた私は自分の置かれた状況も忘れて思わず身を乗り出してしまいます。
「あっ」
 バランスを崩したと気付いたときにはもう遅く、生徒会室の入り口の引き戸が勢いよく開き、私はその内側に倒れ込んでしまいました。
「誰!?」
 床に突っ伏すような格好になった私が恐る恐る顔を上げると、赤宮さんと目が合いました。赤宮さんに咄嗟に庇うようにして抱きしめられている黄瀬さんも、こちらを見ています。
「あなた1年の、浜浦さん……よね?」
 そう言いながら赤宮さんはこちらにつかつかと歩み寄ってくると、私の前にしゃがみ込んで聞いてきました。
「もしかして、見た?」
「…………」
「そう。見たのね」
 私はどう返答していいか解らずに黙ってしまいましたが、赤宮さんにとってはその反応自体が雄弁な返答になってしまっていたようです。
「悪いけど、あなたが見た物を誰かに喋られると困るのよね」
 そう言うと、赤宮さんは床に倒れていた私の体を眼にも留まらぬ速さで掴み、羽交い絞めにしてきました。
「離してください! 言いません。ここで見た事は、誰にも言いませんから!」
 私は慌てて抵抗しますが、陽が沈んで本来のヴァンパイアの力を取り戻した赤宮さんには到底かないません。そのまま生徒会室の奥へズルズルと引きずられていきます。同時に私がさっきまで隠れていた入り口に黄瀬さんが鍵をかけるのが見えました。
「あなたには私達がさっきまでしていた事の共犯になってもらうから……黄瀬ちゃん」
 赤宮さんが声をかけると、黄瀬さんはスカートのファスナーを下ろしました。すると不思議な事が起こります。黄瀬さんから感じる魔力の「匂い」が大きく変わったのです。
「……え?」
 私は思わず自分の目と鼻を疑いました。黄瀬さんから感じる匂い、そして下ろされたスカートの下から出てきたショーツに覆われた股間の部分。それは男の人のものだったのです。




「私……いや、俺の家はこの聖百合ヶ丘女学院の創設者の家系らしくてね。代々当主の子から誰か1人がこの学校に入り、生徒会役員に立候補するしきたりになっていたんだ。だけど俺の代は3人とも男子だった。理屈はよく解らないけど魔物娘がこの世界にやってきてから、女子しか生まれない魔物娘とバランスを取るように、この世界の人間からは男子が生まれやすくなってきているらしい。それで俺達兄弟の中で俺に白羽の矢が立ったというわけだ。理由は魔法が1番得意で……こんな顔と体格だから」
「は、はあ」
 そう言って両手を広げる黄瀬さんに、私は空返事で答えました。正直私の頭は、黄瀬さんの身の上話をまるでどこか遠い場所の出来事のように認識しています。何世代か前に魔物娘が初めてこの世界にやってきた時、この世界の人間達は「まるでゲームかファンタジー小説のような話だ」とか言っていたなんて話を聞いたことがありますが、ちょうど今の私みたいな心境だったのでしょうか。
「にゅ、入学のための書類とかどうしたんですか」
「この学校の創設者一族のしきたりの問題だし、今の当主である俺の母さんが理事長やってるからね。詳しくは言えないけどうまく手を回したらしい。もちろん入学試験はちゃんと勉強して、不正無しで合格点取ったよ?」
「書類はなんとかなっても、この学校の生徒には私達みたいな魔物娘だってたくさんいるんですよ? よく今まで騒ぎになりませんでしたね」
「さっきも言った通り、俺は魔法が得意でね。君だって人化の術で人間に変身して通っているでしょ? それと似たような物さ」
 さらっと言ってのけましたが、本当なら私が使う人化の術なんて比べ物にならないほど凄まじい変装と魔法の技でしょう。飢えた狼の群れの中を羊が1匹で闊歩して、そのまま無傷で帰ってくるようなものですから。……いや。全くの無傷ではありませんでしたね。今さっき赤宮さんという狼に噛まれていましたっけ。そう考えた時、私の臆病な脳細胞が1つの恐ろしい事実を導きました。
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ赤宮さんと黄瀬さんがさっきしていた事って」
 すると、私を羽交い絞めにしている赤宮さんの方から、楽しそうな声が返ってきます。
「察しが早くて助かるわ。彼女、もとい彼をインキュバスに変えようとしていたの」
「じゃあ、私を共犯にするというのは」
「決まっているじゃない。あなたも黄瀬ちゃんをインキュバスに変える手伝いをしてもらうのよ」
「困ります!」
 私は慌てて身をよじりました。ヴァンパイアのようないくつかの特殊な種族を除けば、魔物娘が人間の男性をインキュバスに変える時に使う手っ取り早い手段はただ1つです。どこか遠い場所の出来事のように思っていた物が、一気に目の前の出来事として現実味を帯びてきました。
「私、処女(はじめて)なのに!」
 もちろん処女でなければ問題ないというわけではないのですが、とにかく私は赤宮さんの腕から逃れようと必死に暴れました。しかし、悲しい事に私は魔物娘の中でもそれほど力の強い種族ではありません。それに対して相手はヴァンパイア。全く敵うはずもありません。そうしている間にも黄瀬さんはショーツを下ろしてきました。黄瀬さんが男性であるという証がショーツの下から勢いよく頭を飛び出させてきます。頭は頭でも名前に「亀」と付く頭を。
「そんな物見せないで!」
「『そんな物』って失礼ね。私が夫にしようとしている相手の大事なモノなのに」
(そもそもお2人が夫婦になろうという問題に、私を巻き込むのがおかしな話なんですってば!)
 私は頭の中で反論しますが、それは声になって口から出てくることはありませんでした。私の純潔を奪おうと勢い良くそそり立つ逸物を目にし、その匂いを嗅いでしまった私の体は、すっかり魔物娘としての本能に火が付いてしまったのです。
「あ。もう力が抜けてきた。ふふっ。さすがは――ね」
 赤宮さんが後ろで何か言っていますが、靄がかかったようになってしまった私の頭はそれをうまく認識できませんでした。下腹部がジンジンと熱くなり、美味しい食べ物を見つけた時の口の中のようにじゅわっと下の口の中によだれが溢れてきます。黄瀬さんが私のスカートをめくり、いつのまにか大きな染みのできたショーツを脱がしていくのにも抵抗できず、それどころか脱がせやすいようにと殆ど無意識のうちに腰を浮かせていました。そして黄瀬さんが私の両脚を抱え、今まで男性を迎え入れた事のない部分を一気に貫いた時、私の意識は激しい痛みと共にこの場に引き戻されました。
「いっ、あああああっ!」
 激しい痛みと快楽が綯い交ぜになったようなものが私の身体の中心を貫きます。私は人化の術を保てなくなり、元の姿に戻りました。背中に大きくて重い甲羅を背負った亀の魔物娘、海和尚の姿に。同時に着衣にかけていた人化の術を応用した魔法も解け、聖百合ヶ丘女学院の制服から海神様に仕える巫女の装束に戻ります。人間に化けた状態で服を着ると何かの拍子に元の姿に戻ってしまった時に破けてしまうので、海和尚の体型に合わせた服を魔法で変化させていたのです。私を羽交い絞めにしていた赤宮さんの腕が離れ、私はゴトリと音を立てて仰向けに寝転がります。これで赤宮さんの腕の拘束は解かれましたが、背中に重い甲羅を付けている海和尚の身体は仰向けに倒れると自力ではなかなか起き上がれなくなってしまうのでどの道動けません。それをいいことに、黄瀬さんは私を激しく攻め立ててきました。
「すげえ、この中。何もしてなくても、ヌルヌルで、締め付けてくる」
「ひっ、いたっ、やめっ」
 さっきまで処女だったものを強引にこじ開けられた私の膣は、カリで引っ掻かれるたびに激しい痛みを訴えてきます。しかし私達海和尚は極度な被虐体質を持つ種族。私の肉体はその痛みを受けている状況さえも強い快楽として受け止めていました。私の口から小刻みに漏れ出してくる悲鳴にも、次第に快楽の色が混ざります。
「まあ、共犯にするというのも正直ただの口実なのよね。私の家ではインキュバスに変わりきっていない男性と交わってはいけないってしきたりがあって、破ると色々うるさく言われちゃうのよ。だから私達2人とも、吸血だけで魔力のやり取りをしていたから正直色々溜まっていたの」
 赤宮さんはそう言うと私の上に跨るようにして立ち、自分のスカートを捲り上げました。いつの間にかショーツは脱ぎ去られていて、陰部の茂みがはっきりと見えます。その茂みの奥にある泉に赤宮さんが自らの指を添えて開くと、泉の中からとろりとした湧水が流れて太股を伝い落ちてきました。
「そんなわけで、私もお願い、ねっ!」
 赤宮さんは腰を落とし、陰唇を私の口に押し当てるような形で私の頭に圧し掛かってきました。
「んぶっ!」
 私は苦痛の声を上げますが、海和尚の肉体はこの苦痛さえも快楽として受け止めます。そして私は犯される事と奉仕する事を望む海和尚の本能に突き動かされ、目の前に押し当てられた性器を――例えそれが女性器であっても――反射的に口で愛撫し始めました。
「ああっ。いいっ。そこっ。もっと舐めてぇっ!」
「くそっ。俺だってまだ、会長のアソコを舐めさせて、もらった事なんか、無いのに」
 黄瀬さんは嫉妬をぶつけるように、私の膣内をえぐる動きを早めてきました。正直とても苦しいのですが、私の膣はこの苦痛に悦んで黄瀬さんの逸物をきゅっきゅっとリズム良く締め付け、同時に私の舌は赤宮さんの陰唇や陰核をますます激しくかつ丁寧に愛撫していきます。
「くっ。出るっ」
「私も、イクっ。ああっ!」
 赤宮さんが私の顔の上で絶頂し、ビクビクと腰を震わせます。同時に黄瀬さんはひと際強く逸物の先を私の身体の奥に押し付け、そこでネバネバした欲望の証を一気に弾けさせました。




「今日はいっぺんに色々な事があったなあ」
 人間の姿に戻った私は、校舎を出て学生寮へと歩きながら呟きました。私が生徒会室に戻ってから起きた事は、今思い出しても正直理解がまだ追い付きません。
 赤宮さんが黄瀬さんの血を吸っていた事、今まで女性だと思っていた黄瀬さんが実は男の人だった事、その黄瀬さんを赤宮さんが自分の夫にしようとしていた事、そして黄瀬さんに処女を奪われ、同時に赤宮さんのアソコも舐めさせられた事。
 ちなみに私はあの後再び人化の術を使えるくらいに落ち着いてくると、赤宮さんと黄瀬さんが性交の痕跡だらけになった生徒会室を掃除するのを手伝おうと申し出たのですが、すげなく断られてしまいました。
――生徒会役員である私達は寮の門限から多少遅れても融通を効かせてもらえるけど、あなたはそうはいかないでしょ。
 ともすると海和尚の被虐体質のせいで変な夢でも見ていたんじゃないかと思いそうになってしまいますが、下腹部の内側に走るひりつくような鈍い痛みと、その奥に感じる生暖かくてドロドロとした感触が、確かにさっきの出来事は現実だったと私に訴えています。
「というか、卵ができちゃったらどうしよう」
 私は下腹部をさすりながら呟きました。学生が妊娠してしまったら退学せざるを得なくなったりしていたという昔とは違い、魔物娘が珍しくなくなった今では私が小学生の時にも妊娠・出産しながら学業を続けている同級生はいましたし、そうした子達をサポートする社会の体制も整っています。
 しかし、ここは本来男子生徒のいない女子校です。男性教師や他校の生徒、実の父親、兄弟といった人達の子供を妊娠する生徒もいないわけではないですが、うちの生徒同士で子供ができてしまったとなったら、赤宮さんや黄瀬さんにとっても非常にまずいことになったりするんじゃないでしょうか。
 私は胸の奥に重苦しい物を感じ、ため息をついてしまいます。しかし、私の中の別の部分には、そんな重苦しささえも悦び、子宮を疼かせる私も確かに存在するのでした。
18/09/27 01:56更新 / bean
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■作者メッセージ
特定の元ネタが無い非パロディ作品としては、初めて魔物娘図鑑SSを投稿した時以来2作目となります。ついでに現代に近い社会を舞台にしたのは初めてですね。

最初は「家の事情で男性である事を隠して女子校に通わざるを得なくなった男の娘が、魔物娘の正体を隠してその女子校に潜伏している女子生徒や女性教師、寮母さんなどに次々に誘惑されてなし崩し的に関係を結んでしまうハーレムもの」を構想していたのですが、具体的なヒロイン達の設定が思いつかず、そんな時にふと「海和尚が人化の術で人間社会に紛れて生活したらどんな感じになるのだろうか」と思いついたらこんな形になりました。
全寮制設定はその時の名残なのでぶっちゃけあまり意味が無いと先に言っておきます。

というわけで後編も海和尚の浜浦ちゃんがなし崩し的に犯されまくる展開が続きます。

※2018/09/27 人間を見下している様子のない赤宮さんが黄瀬さんをインキュバス化させるまでセックスしようとしない理由について解りにくかったので台詞を追加しました。

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