主神教団の勢力の中でも有数の大国であったレスカティエがデルエラ様の侵攻により陥落し、魔界国家へと変貌して間もない頃の事。レスカティエに付き従っていた周りの国々は、そのレスカティエをも魔界に変えてしまったデルエラ様の手勢の力を恐れてあっさりと親魔物領に鞍替えする国と、反対に教団の旗の下で徹底抗戦の構えを見せる国のどちらかに大きく分かれておりました。
　しかしそんな中、ある小さな王国では、どちら側にも属さずに中立の立場を取る事で戦火から距離を置こうとしておりました。

　その国では教団国家時代のレスカティエと同様に、騎士の見習いとして主人となる騎士のサポートをする従騎士（エスクワイア）という役職がありましたが、王族の男性の場合は戦場に出るようになる前に専属の従騎士を決めることになっており、その意味合いは通常の従騎士とは大きく異なっておりました。その国では王族付きの従騎士は事実上の側近として、通常の騎士よりもむしろ高い位置づけになっていたのです。
　そしてその国の王族の男性は従騎士を決める前にその候補となる若い男達を狩人として従え、森の中での狩りを通じて騎士の素質を見極めることとなっており、ある王子様は有力な貴族の息子など12人の狩人を従えておりました。

　その狩人達の中に、王子様のお父上である現国王の従騎士の息子がおりました。彼の父親は何の後ろ盾もない平民の立場から自らの腕っぷしだけを頼りに国王の従騎士にまで上り詰めた豪傑でしたが、国の貴族達からは目の上のたんこぶのような存在として疎まれておりました。そして息子はというと、父親と違って背は小さくて力も気も弱く、他の狩人達からまるで女のようだと笑われることも少なくありませんでした。しかし彼は父親同士の付き合いの関係で王子様とは小さい頃から親しく、他の狩人や彼らを王子様の従騎士に付けようと狙う者達にとってはそれが目障りでした。




　ある日、この国の大臣が王子様に言いました。
「殿下。貴方は12人の狩人を従えていらっしゃるとお思いですか」
「思っているも何も、それが事実ではないのか」
　王子様が答えると、大臣は大きく首を横に振りました。
「それは違います。殿下が12人の狩人と考えていらっしゃるのは、11人の狩人と1人の娘なのです。あの成り上がり者の従騎士は自分の子を殿下の従騎士に付けるため、娘を息子を偽って殿下を欺こうとしておるのです」
　それを聞くと、今度は王子様がうんざりしたように首を横に振りました。
「ふざけた事を言うな。俺とあいつは赤ん坊の頃からの付き合いだ。一緒に風呂に入った事だって何回もある。あいつが男でないなどありえん」
　王子様は大臣をすげなく追い返し、面倒な話もこれで終わりだと考えました。しかし、邪魔者を蹴落としたくてしょうがない大臣は諦めません。大臣は小さな狩人の行動を逐一調べ、やれ「歩き方が男らしくない」だの、「甘い物を好んで食べていた。本当は女だからに違いない」だの、やれ「コップ1杯の酒で酔いつぶれていた。男があんなに酒に弱いはずがない」だのとめちゃくちゃな言いがかりを付けてきます。
「殿下。あの狩人は昼の訓練が終わった後、どこで何をしていたとお考えですか？　あいつは糸紡ぎ部屋で糸紡ぎをしているメイド達と雑談をしておりました。糸紡ぎ部屋で雑談にふけるなど、まさしく女のやる事です」
「いい加減にしろ！」
　王子様もこれにはさすがに頭にきてしまいました。
「もし糸紡ぎ部屋でメイド達と雑談していたのがあいつじゃなくて俺だったら、お前は俺が女だと言っていたか？　言わないだろ。俺が若いメイドに手を出そうとしていたとか考えるんじゃないか？　そもそもだな。誰でもない俺自身が確かにあいつは男だと証言しているんだ。他に何が要る。ましてや俺の大事な友人の交友関係に文句をつけるなど、俺の交友関係に文句を付けているのと同じだ。お前、いつから王子の証言を根拠もなく嘘扱いしたり交友関係に口出しできる立場になった。何月何日何時太陽が何回回った時だ。ほら言ってみろ！」
　王子様のあまりの怒りように大臣はすごすごと退散しましたが、彼はお城の廊下を歩きながら王子様の耳に入らないように小さな声で呟きました。
「この調子だと、王子はあの小さな狩人を従騎士に選びかねないぞ。国中の兵士達の手本となる立場に。あんな男が従騎士になってしまっては、この国じゅうの若い男にあんな風に男らしさのかけらもないような奴になってもいいと許しを与えるのと同じだ。そんなことになったら、この国はすぐに滅んでしまうぞ」




　数日後、王子様の元に王様の伝令がやってきて、レスカティエからの使者が来たので面会するようにとの命令が伝えられました。
「外国からの使節なら、父上か継承者第1位の叔父上が相手をするのが筋じゃないのか」
「それが、殿下に『個人的に』お会いしたいとの話でして」
　王子様はその言葉の意味を理解しました。政略結婚です。
「なるほど。その話を俺に通すとなると父上も、いつまでもこの国がどっちつかずの立場でいるわけにいかないと腹をくくったわけだ。解った。今すぐ向かうと父上に伝えてくれ。狩人達には今日の狩りは中止だとな」

　それからというもの、お城で働く人達の間では、どこに行っても王子様とレスカティエからの使者の噂でもちきりでした。しばらく狩りに連れ出されていなくて訓練ばかりの狩人達も、訓練上がりには着替えながらこの話をしています。
「おい聞いたか。今日は一緒に小舟で湖に出たらしいぞ。こりゃあすっかり決まったんじゃないか」
　王子様がレスカティエからの使者としてやってきたサキュバスと結婚するだろうという意見では皆一致していましたが、彼らには他にもうひとつ気になる事がありました。
「王子が結婚なさるなら、誰を従騎士にするのかお決めになるのもそろそろだろうな」
「俺達12人の争いにようやく決着がつくのか。誰が選ばれても恨みっこ無しだぞ？」
「馬鹿。11人の争いの間違いだろ」
　そう言って体の大きな狩人は、いちばん小さな狩人を馬鹿にするような目で見ました。他の狩人達からも一斉に嘲笑の声が上がります。
　居た堪れなくなった小さな狩人が訓練場を出てお城の廊下を歩いていますと、そこを掃除していたメイドのおばさんが彼の肩を叩きました。
「クヨクヨしなさんな。あんたなら他にいい人が見つかるって」
「はあ。そうですよね。王子様の従騎士になるだけがこの国の働き口じゃないですもんね」
　他の狩人達は皆、例え王子の側近になれなかったとしてもその候補に選ばれたという実績さえあればそれなりの役職に就けるだけの後ろ盾を持っていますが、父親が叩き上げで他の有力者との関係も良くない彼にはそれがありません。小さい狩人はてっきりその話をされたのだろうと思っていましたが、おばさんはその答えに何やら口ごもってしまいました。
「いや、そういう事言いたかったわけじゃないんだけどね……。まあいいや。とにかくこれから頑張るんだよ」

　それから、狩人はお城の庭園を散歩することにしました。ここは彼にとっては小さい頃、毎日のように王子様と一緒に走り回った懐かしい遊び場です。
「あいつらの言い方は酷かったけど、もうすぐこの城に簡単に入れなくなるのは確かだろうな」
　狩人は誰に言うでもなく呟きます。王子様が今でも自分を友達として大切に思ってくれるのは嬉しいけど、従騎士に選ばれるかどうかとは話が別だろうと彼は考えていました。そして、彼は庭園の端の方に植えられている大きなポプラの木の前で足を止めました。見上げると、その枝からは立派なヤドリギが生えています。彼は小さい頃に自分と王子様が、このポプラの木の根元におしっこをかけるいたずらを一緒にした事を思い出しました。
「あの時庭師さんに見つかって、『王子様に変な遊びを教えるな』ってきつく叱られたんだよな。本当は王子様の方から僕を誘ったのに」
　そう呟いて狩人はクスリと笑います。この時、彼は気付いていませんでした。後ろからコウモリのような翼を持った、そしてコウモリではあり得ない大きさのものが自分の方に飛んできている事に。




　その日の夕方、大臣は王子様の書斎に呼び出しを受けました。何事かと思いながら部屋に入ると、王子様は部屋の真ん中に立っていて、大臣の方へすうっと右手を伸ばしてきました。すると、大臣の背後のドアに大きな魔法陣が浮かび上がります。大臣の体が目に見えない大きな力で後ろに引っ張られ、ドアに磔にされた状態になりました。
「殿下、いったい何を……？」
　大臣が驚きに目を見開くと、王子様の後ろから1つの人影が現れました。小さな狩人です。王子様は空いている左手で狩人の肩を抱き寄せると、大臣をいつになく冷たい目つきで睨み、いつになく冷たい声でこう言いました。
「お前、こいつが本当は女なんじゃないかって言い張っていたよな」
　その時、大臣の目が更なる驚きにますます大きく開かれました。王子様の姿が目の前でみるみるうちに変化し、頭にはヤギのようなねじれた角、背中にはコウモリのような翼、そして腰には先がハートのようになった尻尾が現れたのです。そして人化の術が完全に解けると、王子様はこう続けました。
「今からこいつが男だって証拠を見せてやるよ」

「んっ、あっ、どうだっ。これでも、こいつが、女だと、言い張るか？」
　王子様は床の上に押さえつけられた狩人の上に跨って背面騎乗位で犯しながら、大臣に向かって言い放ちました。王子様のお股には本来ついているはずのおちんちんが無く、変わりにおマンコが狩人のおちんちんをずっぽりと咥えています。
（私は悪夢を見ているのではないか。夢なら早く覚めてくれ）
　大臣は心の中でそう叫びましたが、部屋中に響き渡る淫らな水音と喘ぎ声、そして濃密な性の匂いが目の前の光景が紛れもない現実だと彼に突き付けていました。
「で、出ちゃうっ！」
　狩人が叫ぶと同時に、王子様は腰を密着させました。おマンコにがっちりと咥えられたおちんちんがビクビクと震え、勢いよく精子を送り込んでいるのが大臣の目にもはっきりと映ります。王子様が嬉しそうに腰を上げると、おちんちんの抜けたおマンコから血と精液が混じったピンク色のドロドロとした物がこぼれ出しました。
「どうだ。俺のできたばかりのマンコの膜を破って、できたてほやほやの子宮にしっかり種付けをしたこいつが、それでも男じゃないと言い張るか？　ええ？」
「……なんということだ」
　それだけ呟くと、大臣は磔にされた状態のまま、がっくりと気を失ってしまいました。それを見届けた王子様は、今度は狩人の方へと向き合います。
「殿下。いったい何があったんです」
　狩人が問いかけると、王子様は今までの事を話し始めました。王子様がレスカティエからの使者を名乗るサキュバスと最初に対面した時、そのサキュバスは不思議な力を持つペンデュラムを王子様に見せたそうです。
「『お姉様』が取り出したペンデュラムを見た時、俺は自分でもずっと気付かなかったものに気付けたんだ。君を否定する大臣の言葉にどうして嫌な気分になったのか、そして君がメイド達と楽しく雑談していたという話を聞かされた時、どうしてあんなにイライラしたのかをな」
　それから、王子様はサキュバスにペンデュラムの持つ力について説明されました。あれは「この人と結ばれたい」と強く思いを寄せる男の人がいる男性が、アルプという魔物娘に変化して想いを遂げるのを助けるための道具だと。
「それじゃあ、殿下があのサキュバスと一緒にいたのは？」
「俺が『お姉様』と逢瀬を重ねていたのは彼女の夫になるためじゃない。最初から君の妻になるためにやっていたんだ」
　そして、アルプになった王子様は再び狩人のおちんちんをおマンコで咥え、激しく腰を上下させました。
「だからっ、『お姉様』とは、子供が、できるような、事は、していないっ。そうしたいのは、君だけだからっ！」
　狩人はずっと同性の友人だった相手からの告白に戸惑いましたが、心の中では返事はもう決まっていました。ポプラの木の前で思い出に浸っていた彼の背中にアルプと化した王子様が抱きついてきた時、そして人化の術で人間の男性の姿に戻った王子様に抱き寄せられた時、そして彼が女のようだと散々からかわれ続けていた中、王子様だけは自分が男だと言い続けてくれていたことを知った時。狩人はずっと胸の中に温かい物を感じていたのです。
「僕も、殿下と、ずっと、一緒に、いたいっ！」
　狩人はそう叫びながら、下から腰を突き上げました。
「ああっ！　そうだっ。俺を、君専用の、メスにっ、してくれっ。君のっ、子供を、孕ませてくれ」
　そう言って王子様は腰を深く落とし、狩人のおちんちんの先をおマンコの奥にぐりぐりと押し付けました。おマンコが狩人の精を絞り出そうとするように、おちんちんをぎゅっと締め付けます。
「あっ、また、出るっ」
　狩人が呟くと同時に、おマンコの中でさっきよりも多くの精液が勢いよく噴き出しました。アルプになった王子様は嬉しそうに自分のお腹をさすります。
「すげぇ。君のチンチンが、俺の中でビクビク跳ね回ってる。俺の腹の中に、赤ん坊の素がたくさんぶちまけられてるのが、はっきり感じられて、ううっ」
　王子様は気持ち良さそうに身体をびくりと震わせ、それが落ち着くと上半身を屈めて、狩人の頬にそっとキスをしました。
「君のイッているときの顔、最高に可愛かったよ」
　それを聞いて狩人は複雑そうな顔をしました。
「それって喜んでいいのかなあ……」
「いいんじゃないか？　少なくとも俺は、あれを見てますます腹の奥にキュンと来たからな」

　翌朝。レスカティエからの使者として来ていたサキュバスは、この国の王様に言いました。
「どうやらご子息様は失くしていた古くからの大事な鍵を見つけなさったようです。新しい鍵はもう必要無いでしょう」
　そして、彼女は晴れやかな顔でレスカティエに帰っていったそうです。

■作者メッセージ
元ネタ的にはここで終わりなんですが、もうちっとだけ続くんじゃ。
話の途中に出てくるペンデュラムについて詳しく知りたい方は、「ワールドガイド外伝2 サルバリシオン」をお読みください（ダイマ）。