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図鑑世界童話全集「アリとクモ」
 えろい子のみなさんはアントアラクネという魔物娘をご存知でしょうか。この魔物はジャイアントアントという別の魔物娘によく似た姿をしていて、彼女達の巣にこっそり住み着き、巣穴の中でゴロゴロするか夫と交わるかして過ごしています。
 いくら良く似ていると言っても、当然中にはジャイアントアントに気づかれてしまう娘もいるのですが、その後ジャイアントアント達からどのような扱いを受けるかは巣によっていろいろな例があるようです。
 中にはこんな例も……?



アリとクモ
 そのアントアラクネは変わった特技を持っており、自分の糸で弦楽器を作って綺麗な音色を奏でる事ができました。そのためいつも地上に食べ物や男の人を探しに出かけたりせずに巣の中で音楽を奏でておりました。
 すると当然ジャイアントアントの働きアリ達もどこかに「怠け者」が紛れ込んでいることに気づき、いずれあぶり出そうと考えながらも冬に備えてせってと食糧を集めておりました。
 やがて冬になり、働きアリ達が寒い地上に殆ど出ずに地下で巣の掃除や補修作業を主に行う季節になると、それと並行してアリ達の身体検査が行われるようになり、程なくして楽器を持っているアントアラクネは発見されました。
「あ、こいつ楽器持ってるぞ」
「よりによって女王様の寝室の隣の部屋にいる奴だったなんて」
「楽器は没収だ。明日からはあたい達と同じ仕事をしてもらうぞ。じゃないと飯抜きだからな」
 しかし、その報告を聞いた女王アリはアントアラクネに楽器を返し、明日からも他の者と同じ量の食事を与えるようにと働きアリ達に命じました。わけを聞かれると、女王アリは顔を赤くしながら、その場にいる働きアリ達にだけこっそり教えました。
「ここだけの話だぞ。あやつは遊んでいたわけではない。実はあの音楽は特殊な魔法でな。それをうちの人に聞かせるとわらわとの夜伽がその……いつもより激しくなるのじゃ」
 それを聞いた働きアリ達も顔を真っ赤にしてごくりと唾をのみました。



糸くり3匹アリ
 また、別のアントアラクネの話としてこんな話もあります。
 そのアントアラクネは狩りや畑仕事をするジャイアントアントの働きアリ達に地上へと強引に連れ出されていたのですが、毎日仕事をせずに木陰で昼寝をしていました。
 するとある時、アントアラクネが昼寝をしている木陰の近くを王子様が通りました。その人は王子様とは言っても本当にどこかの国の王子というわけではなく、辺りで1番大きな農場を持つ家の御曹司だったので近所の人達からそういうあだ名で呼ばれていました。
 アントアラクネは王子様に面白い話を色々と聞かせ、その日から農場で働く人たちを見回る合間にアントアラクネのいる木の所に立ち寄るのが王子様の日課になりました。
 しかしある日、王子様はジャイアントアント達がせっせと働いているのに彼女だけ昼寝ばかりしている理由が気になって尋ねました。すると、返答に困ったアントアラクネは糸がかかった自分の農具を見ながらこんな出まかせを言いました。
「私はインドア派でね、狩りや畑仕事よりも巣の中で糸を紡ぐ方が好きなんだ。だから女王様に配置換えするよう頼んでいるんだけど中々聞き入れてもらえなくてね。これは抗議のさぼたーじゅ? って奴なんだよ」
 もちろんこれは口から出まかせの冗談だったのですが、真に受けた王子様はこう返しました。
「本当かい? だったらしばらくうちに来てくれないか? ちょうど糸紡ぎが得意な人を探していたんだ」
 アントアラクネが王子様の家に行ってみると、収穫された上等な亜麻が3つの部屋いっぱいに入っていました。
「いつもだったら若い女の人達を何人か短期で雇ってこれを糸にしてもらうんだけど、今年は酷い風邪が流行ってて皆寝込んじゃって困っていたんだ。新しい品種の作物の買い付けで遠くの国に出ている父さんが帰ってくるまでに、少しでも多く糸を作ってて貰えないかな」

 その日から王子様の父親が出張から帰ってくるまでの間、アントアラクネは王子様の家に泊りがけで糸紡ぎの仕事をする事になりました。しかし、そこは糸の扱いが得意なアラクネの仲間といっても単純作業を嫌うアントアラクネ。3日経っても殆ど糸はできていません。
「1人しかいないからって、いくらなんでもペースが遅すぎるよ! こんなんじゃ父さんが帰ってくるまでどころか300年経っても終わらないぞ」
「だって昨夜も王子様が激しくて全然寝かせてくれなかったんだもん。おかげで寝不足で……ふわぁ」
 アントアラクネはよりにもよって王子様に責任を擦り付けてきました。怠け者とはいってもそこは魔物娘。夜に王子様の寝室を襲撃するお仕事だけは頼まれなくても毎日勤勉だったのです。
「……解った。今日からは充分な量の糸を紡げていなかったら、その日の夜は僕の寝室の扉に鍵をかけて寝ることにするよ。君が入ってこれないようにね」
「えぇー。王子様もとても気持ちよさそうにしてたじゃない」
 王子様は顔を赤くしながら答えました。
「だからだよ。女の人と遊ぶのにかまけて糸作りが進んでいないとかなったら、父さんが帰ってきたときに君と結婚するって言いづらいじゃないか」

 王子様が農場の見回りに出ていくと、アントアラクネは糸紡ぎの作業部屋でぼやきました。
「私は亜麻で糸を作るより王子様の精子で卵を作っていたいのに……」
 その時、アントアラクネがいる巣の働きアリの中でも特にガタイのいいお姉さんのアリ達が3人やってきました。彼女達はミノタウロスにも負けないくらいに鍛えた立派な筋肉が自慢でしたが、なかなかその良さを理解してくれる男の人がいないので3人とも独身でした。
 アントアラクネは自分が怠けないように彼女達が見張りに来たのかと思いましたが、実際には違っていました。
「あたい達があんたの分まで糸を繰ってやるから、その代わりあんた達が結婚式をする時にはあんたの姉として参列させてもらうよ」
 そう言うと、ジャイアントアント達は鍛え抜かれた肉体と巧みなチームワークで4人の人間が作業をするよりもはるかに多くの糸を綺麗に紡いでいきました。
 王子様もアントアラクネとその「姉達」の働きに満足し、その日からも寝室に鍵をかけずにベッドに入りました。

 そうして王子様の父親が帰ってくる頃には亜麻の山も全て上等な糸に変わっており、父親も息子の結婚を喜んで承知しました。
 結婚式の日、約束通り新婦の姉として招待された3人のジャイアントアント達は、王子様に自慢の腹筋や上腕二頭筋なんかを見せつけながら言いました。
「私達もインドア派なんですけど、去年の冬の間じゅう糸紡ぎを毎日やっていたらこんなに筋肉が付いたんですよ」
「妹も同じようにすれば来年の春くらいには私達に負けない体型になるんじゃないんですかね」
「なんだったら王子様も一緒にやってみてはどうですか」
 もちろんこれも冗談だったのですが、真に受けた王子様はアントアラクネの花嫁に耳打ちしました。
「……これからは糸紡ぎはほどほどにしてくれよ」
 アントアラクネがこの言いつけをしっかり守った事は言うまでもないでしょう。

 王子様はああ言いましたが、たくさんの参列者の中には彼と好みが異なる独身男性もいたようで、3人のジャイアントアント達が帰る時に彼女達のマッシブな肉体に惹きつけられた男の人達が何人か、フェロモンに誘われるままジャイアントアントの巣へと入っていったそうです。
17/12/05 21:21更新 / bean

■作者メッセージ
ちなみに後半の元ネタはグリム童話の「糸くり三人女」です。元ネタはともかくこっちでは王子様もラストは本当は解っててやっているかもしれないですね。
それと僕は以前ファンタシースターポータブルというPSPのゲームをプレイした時、女性キャラの中で主人公の教官ポジションのライアさんがお気に入りでした。

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