図鑑世界童話全集「赤ずきん」
昔々、あるところに小さなかわいらしい女の子がいました。その子はいつもジパングの花嫁さんみたいに真っ白なずきんを被っていたため、皆から白ずきんちゃんと呼ばれていました。
ある日、白ずきんちゃんのお母さんが急な用事で出かけなければならなくなりました。
「困ったわ。今日は病気のお義母さんにクッキーとホルスタウロスのミルクとお医者様から渡されたお薬を持って行かないといけないのに」
すると、家族思いの白ずきんちゃんは言いました。
「お母さん、それなら私がおばあちゃんの所に持って行ってあげるわ」
しかし、お母さんは躊躇します。おばあさんの家に行くためには、大きな森を突っ切っていかなければならいのですが、最近その森にオオカミと呼ばれている男が隠れているという噂が流れているのです。その男はとても女癖の悪い事で有名で、信じられない事に女の人と関係を持っても責任を取らないのは当たり前。終いには赤ちゃんができたのに堕胎させようとしたとか、オオカミが手を出した女の人達の仲も険悪になって大喧嘩になり、危うく鮮血の結末を迎えそうになったなんて噂も流れていたくらいです。街の人達はとうとうオオカミの名前を聞くのも嫌になり、「そんな事よりナイスなボートの話をしようぜ」なんて言い出す始末でした。
とはいえ、お母さんには両方の用事をいっぺんに解決する方法は他に思いつきませんでした。
「……解ったわ。その代わり、知らないお兄さんを見たら気を付けてね。もしそいつに会っても、決して話をしたり付いていったりしてはだめよ。そして、その時は帰りに包丁のお姉ちゃんかのこぎりのお姉ちゃんの所に行って、お兄さんの居場所を教えてあげるのよ」
白ずきんちゃんはすぐに薬とクッキーとミルクの入った籠を持ち、森へと出かけていきました。友達の魔物娘達とも何度もすれ違い、その度に挨拶を交わしていきます。すると、噂のオオカミが現れて赤ずきんに声をかけました。
「白ずきんちゃん、そんなに大きな籠を持って今からどこに行くんだい?」
すると、白ずきんちゃんはお母さんの忠告を忘れてうっかり返事をしてしまいました。
「おばあちゃんが病気で寝ているから、お薬とクッキーとミルクを持って行ってあげるの」
「1人でかい? 大変だね。おばあちゃんの家はどの辺なの?」
「この森をあっちの方に抜けて行ったところにある村の入り口の所よ。そばに大きな樫の木が3本立っているから遠くからでもよく見えるわ」
白ずきんちゃんは個人情報を簡単に漏らしてはいけないとおばあさんやお父さんお母さんに言い聞かせられていましたが、まだ子供なのでよく解っていませんでした。
オオカミは心の中で考えました。
(噂に聞いていたが、随分とかわいい女の子だな。まだ小さいが、見たところあっちの具合もよさそうだ。こんなかわいい子に手を出さないなんて、そのほうが失礼だぞ)
白ずきんちゃんどころか女の子全般に失礼な事を考えながら、オオカミは2手に分かれている道の片方を指さして言いました。
「そういえば、あっちの道の近くで綺麗な花が咲いていたな。それを花束にして持って行ったら、おばあちゃんも喜んでもっと元気になるんじゃないかな。それに、綺麗な声で鳴く鳥もいたから、ゆっくり見ていくといいよ」
「ほんと? 教えてくれてありがとう」
こうしてオオカミは白ずきんちゃんに遠回りになる道を選ばせ、自分はその間に近道を走っておばあさんの家へと先回りしました。そして家の戸を叩き、女の子のような声を作って言います。
「おばあちゃん、白ずきんよ。お母さんに言われて、お薬とお菓子とミルクを持ってきたわ」
実はオオカミは女の子に変装することのできる特技があり、その特技を使って女の人だけでなく男の人にも何度か手を出していたのです。
「白ずきんかい。そろそろ来るだろうと思って、さっき鍵を開けておいたよ。さあ入っておいで」
オオカミは家に押し入ると、おばあさんに抵抗する暇も与えずに縄で縛って声を出せないように猿ぐつわを噛ませてしまいました。そしておばあさんをクローゼットに閉じ込め、代わりに引っ張り出した替えの服でおばあさんに変装してベッドに潜ります。
そんな事になっているとは知らない白ずきんちゃんは、道端で摘んだ花を籠に入れておばあさんの家にやってきました。
「おばあちゃん、白ずきんよ。お母さんに言われて、お薬とクッキーとミルクを持ってきたわ。途中でお花も摘んできたのよ」
それを聞いたオオカミは、自分がおばあさんから言われたのと同じ言葉を返します。
「白ずきんかい。そろそろ来るだろうと思って、さっき鍵を開けておいたよ。さあ入っておいで」
オオカミは白ずきんちゃんが家の中に入ってくる足音を聞きながら、寝室のベッドの中でニヤニヤと笑いました。
(しめしめ。これで白ずきんのお股にあるまっさらなずきんは俺のものだ。ついでに妊娠したとか言って追っかけてくる女達から姿を隠すのに絶好の隠れ家も手に入れたぞ)
その時、おばあさんの寝室の戸が開く音がしました。オオカミは白ずきんちゃんの方を向きます。
「おばあちゃん、どうして頭までお布団をかぶっているの?」
「それはね、お日様が眩しすぎて目がチカチカするからだよ」
「おばあちゃん、どうしていつもより声が低いの?」
「それはね、病気で喉を痛めているからだよ」
「おばあちゃん、どうしてお布団の下から見える耳がやたら大きいの?」
「それはね、白ずきんの声がよく聞こえるようにしているんだよ」
「おばあちゃん、どうしてお布団の下から見える腕もやたら太いの?」
「それはね、白ずきんをしっかり抱きしめられるようにしたからだよ。さあ、もっとこっちへおいで」
しかし、オオカミはそこで白ずきんちゃんの様子がおかしい事に気づきました。
「……ところで私からも聞くけど白ずきん、どうして汗だくで息を切らしているんだい?」
「それはね、少しでも早くおばあちゃんに会いたくて、森の中を走ってきたからよ」
「白ずきん、どうしてずきん以外はなにも着ていないんだい?」
「それはね、汗だくになったからお風呂を借りようと思ったのよ」
「白ずきん、どうして赤いずきんをかぶっているんだい? さっき……じゃなくていつもは真っ白なずきんなのに」
「それはね、たまにはいつもと違うのにしてみたかったからよ」
「白ずきん、どうして大きな鉈なんて持っているんだい?」
「それはねぇ……」
白ずきんちゃん改め赤ずきんちゃん、すなわちおばあさんの息子とレッドキャップの間に生まれた孫娘は魔界銀で出来た大きな鉈を振り上げながら言いました。
「そんなちゃちな変装で魔物娘を騙せると思っているお馬鹿さんを食っちまうためさ!」
実は少し前に寝室の窓から中を覗いた赤ずきんちゃんがオオカミの企みに気づいてからというもの、彼女が歩いてきた跡には1枚ずつ脱ぎ捨てた服が点々と並び、彼女のあふれ出す欲望と共に赤い液体になって零れ落ちた魔力が小さな川を作っていました。
その液体は今までオオカミが女の人達――と何人かの男の人に流させてきた涙と同じ量だったそうです。
心の中に恐ろしいオオカミを飼っているのは、何も男の人だけだとは限りません。
それに、そうしたオオカミが餌食にしようと狙うのも、必ずしも若くてか弱い娘さんだけとも限りません。
だからこそ性別や年齢に関係なく、誰もがオオカミに食べられてしまわないよう警戒を怠らず、自らも心の中のオオカミに捕らわれないよう気を付ける必要があるのです。
・編者あとがき
このお話は元は先代の魔王様の時代の民話で、当時はか弱い女の子が雄のワーウルフに騙されて食べられてしまうという内容でした。
その後、今の魔王様に代変わりし、親魔物領となった土地では男の子にも結婚する相手に出会うまで他の相手に童貞を奪われないように気を付けるよう教える必要が出てきたことで今の形に改変されたと言われています。
また、別の童話作家がまとめたバージョンでは、この後おばあさんの家の前を通りかかったケンタウロスが激しくベッドの軋む音に気付いてオオカミを発見し、彼の狼藉について何時間もお説教した上で今まで手を出した女の人達の所に連れて行くという結末が追加されています。
ある日、白ずきんちゃんのお母さんが急な用事で出かけなければならなくなりました。
「困ったわ。今日は病気のお義母さんにクッキーとホルスタウロスのミルクとお医者様から渡されたお薬を持って行かないといけないのに」
すると、家族思いの白ずきんちゃんは言いました。
「お母さん、それなら私がおばあちゃんの所に持って行ってあげるわ」
しかし、お母さんは躊躇します。おばあさんの家に行くためには、大きな森を突っ切っていかなければならいのですが、最近その森にオオカミと呼ばれている男が隠れているという噂が流れているのです。その男はとても女癖の悪い事で有名で、信じられない事に女の人と関係を持っても責任を取らないのは当たり前。終いには赤ちゃんができたのに堕胎させようとしたとか、オオカミが手を出した女の人達の仲も険悪になって大喧嘩になり、危うく鮮血の結末を迎えそうになったなんて噂も流れていたくらいです。街の人達はとうとうオオカミの名前を聞くのも嫌になり、「そんな事よりナイスなボートの話をしようぜ」なんて言い出す始末でした。
とはいえ、お母さんには両方の用事をいっぺんに解決する方法は他に思いつきませんでした。
「……解ったわ。その代わり、知らないお兄さんを見たら気を付けてね。もしそいつに会っても、決して話をしたり付いていったりしてはだめよ。そして、その時は帰りに包丁のお姉ちゃんかのこぎりのお姉ちゃんの所に行って、お兄さんの居場所を教えてあげるのよ」
白ずきんちゃんはすぐに薬とクッキーとミルクの入った籠を持ち、森へと出かけていきました。友達の魔物娘達とも何度もすれ違い、その度に挨拶を交わしていきます。すると、噂のオオカミが現れて赤ずきんに声をかけました。
「白ずきんちゃん、そんなに大きな籠を持って今からどこに行くんだい?」
すると、白ずきんちゃんはお母さんの忠告を忘れてうっかり返事をしてしまいました。
「おばあちゃんが病気で寝ているから、お薬とクッキーとミルクを持って行ってあげるの」
「1人でかい? 大変だね。おばあちゃんの家はどの辺なの?」
「この森をあっちの方に抜けて行ったところにある村の入り口の所よ。そばに大きな樫の木が3本立っているから遠くからでもよく見えるわ」
白ずきんちゃんは個人情報を簡単に漏らしてはいけないとおばあさんやお父さんお母さんに言い聞かせられていましたが、まだ子供なのでよく解っていませんでした。
オオカミは心の中で考えました。
(噂に聞いていたが、随分とかわいい女の子だな。まだ小さいが、見たところあっちの具合もよさそうだ。こんなかわいい子に手を出さないなんて、そのほうが失礼だぞ)
白ずきんちゃんどころか女の子全般に失礼な事を考えながら、オオカミは2手に分かれている道の片方を指さして言いました。
「そういえば、あっちの道の近くで綺麗な花が咲いていたな。それを花束にして持って行ったら、おばあちゃんも喜んでもっと元気になるんじゃないかな。それに、綺麗な声で鳴く鳥もいたから、ゆっくり見ていくといいよ」
「ほんと? 教えてくれてありがとう」
こうしてオオカミは白ずきんちゃんに遠回りになる道を選ばせ、自分はその間に近道を走っておばあさんの家へと先回りしました。そして家の戸を叩き、女の子のような声を作って言います。
「おばあちゃん、白ずきんよ。お母さんに言われて、お薬とお菓子とミルクを持ってきたわ」
実はオオカミは女の子に変装することのできる特技があり、その特技を使って女の人だけでなく男の人にも何度か手を出していたのです。
「白ずきんかい。そろそろ来るだろうと思って、さっき鍵を開けておいたよ。さあ入っておいで」
オオカミは家に押し入ると、おばあさんに抵抗する暇も与えずに縄で縛って声を出せないように猿ぐつわを噛ませてしまいました。そしておばあさんをクローゼットに閉じ込め、代わりに引っ張り出した替えの服でおばあさんに変装してベッドに潜ります。
そんな事になっているとは知らない白ずきんちゃんは、道端で摘んだ花を籠に入れておばあさんの家にやってきました。
「おばあちゃん、白ずきんよ。お母さんに言われて、お薬とクッキーとミルクを持ってきたわ。途中でお花も摘んできたのよ」
それを聞いたオオカミは、自分がおばあさんから言われたのと同じ言葉を返します。
「白ずきんかい。そろそろ来るだろうと思って、さっき鍵を開けておいたよ。さあ入っておいで」
オオカミは白ずきんちゃんが家の中に入ってくる足音を聞きながら、寝室のベッドの中でニヤニヤと笑いました。
(しめしめ。これで白ずきんのお股にあるまっさらなずきんは俺のものだ。ついでに妊娠したとか言って追っかけてくる女達から姿を隠すのに絶好の隠れ家も手に入れたぞ)
その時、おばあさんの寝室の戸が開く音がしました。オオカミは白ずきんちゃんの方を向きます。
「おばあちゃん、どうして頭までお布団をかぶっているの?」
「それはね、お日様が眩しすぎて目がチカチカするからだよ」
「おばあちゃん、どうしていつもより声が低いの?」
「それはね、病気で喉を痛めているからだよ」
「おばあちゃん、どうしてお布団の下から見える耳がやたら大きいの?」
「それはね、白ずきんの声がよく聞こえるようにしているんだよ」
「おばあちゃん、どうしてお布団の下から見える腕もやたら太いの?」
「それはね、白ずきんをしっかり抱きしめられるようにしたからだよ。さあ、もっとこっちへおいで」
しかし、オオカミはそこで白ずきんちゃんの様子がおかしい事に気づきました。
「……ところで私からも聞くけど白ずきん、どうして汗だくで息を切らしているんだい?」
「それはね、少しでも早くおばあちゃんに会いたくて、森の中を走ってきたからよ」
「白ずきん、どうしてずきん以外はなにも着ていないんだい?」
「それはね、汗だくになったからお風呂を借りようと思ったのよ」
「白ずきん、どうして赤いずきんをかぶっているんだい? さっき……じゃなくていつもは真っ白なずきんなのに」
「それはね、たまにはいつもと違うのにしてみたかったからよ」
「白ずきん、どうして大きな鉈なんて持っているんだい?」
「それはねぇ……」
白ずきんちゃん改め赤ずきんちゃん、すなわちおばあさんの息子とレッドキャップの間に生まれた孫娘は魔界銀で出来た大きな鉈を振り上げながら言いました。
「そんなちゃちな変装で魔物娘を騙せると思っているお馬鹿さんを食っちまうためさ!」
実は少し前に寝室の窓から中を覗いた赤ずきんちゃんがオオカミの企みに気づいてからというもの、彼女が歩いてきた跡には1枚ずつ脱ぎ捨てた服が点々と並び、彼女のあふれ出す欲望と共に赤い液体になって零れ落ちた魔力が小さな川を作っていました。
その液体は今までオオカミが女の人達――と何人かの男の人に流させてきた涙と同じ量だったそうです。
心の中に恐ろしいオオカミを飼っているのは、何も男の人だけだとは限りません。
それに、そうしたオオカミが餌食にしようと狙うのも、必ずしも若くてか弱い娘さんだけとも限りません。
だからこそ性別や年齢に関係なく、誰もがオオカミに食べられてしまわないよう警戒を怠らず、自らも心の中のオオカミに捕らわれないよう気を付ける必要があるのです。
・編者あとがき
このお話は元は先代の魔王様の時代の民話で、当時はか弱い女の子が雄のワーウルフに騙されて食べられてしまうという内容でした。
その後、今の魔王様に代変わりし、親魔物領となった土地では男の子にも結婚する相手に出会うまで他の相手に童貞を奪われないように気を付けるよう教える必要が出てきたことで今の形に改変されたと言われています。
また、別の童話作家がまとめたバージョンでは、この後おばあさんの家の前を通りかかったケンタウロスが激しくベッドの軋む音に気付いてオオカミを発見し、彼の狼藉について何時間もお説教した上で今まで手を出した女の人達の所に連れて行くという結末が追加されています。
17/12/05 21:21更新 / bean