眠れぬ夜の小会議
「…つまりだな、20を超えると自分の指だけじゃ足りんのだ。他人の指を借りなければならんのだ」
「…」
「なるほどね〜。あ!でもねこさんゆび5ほんないよ!」
「バッキャロー。猫が関係あるかよ。そもそも自分の歳を指で数える必要性が、オレにはわからねぇ」
「…猫の指は…4本…」
「待ちたまえ、それ以前にこの話題自体がおかしい。我々はもともと別の議題について議論しようとしていた筈だ。違うかね、アナタ」
「そ〜だよね〜。あたし、うっかり。えへへへへ」
「うん、そうだったそうだった。俺としたことが、ついカウント談議に花が咲いてしまったな」
「……、…!」
「…カウント談議…カウントダウン…似てる……プフゥ」
「旦那ァ、お前アホか?そもそも花なんて咲いてねぇだろうが」
「うむ、アナタの一方的展開ではあったな」
「ま、気を取り直して…今週は『今年のヒメナへの誕生日プレゼントは何にするか』でいきたいと思う。今年は結婚1年目なので気合い入れていくんで夜露死苦。それではゲストの皆さん、自己紹介を」
「……。……、………。……」
「これはこれは、毎年ご丁寧にありがとうございます。それでは次の方」
「はいは〜い!だんなさま!つぎあたし!あたし!」
「それでは次は…」
「おい旦那ァ」
「何だ?」
「茶番は止めないか、アナタ」
「…茶番、とは?」
「…何故なら……私達は全員……」
「「「「ヒメナの頭の蛇なんだから」」」」
「…。…」
「しかし、ぐっすり寝てるなぁ」
「うむ。この様子なら朝まで起きないだろう。安心していいぞ、アナタ」
「では、安心したところでスタート」
「そもそもだ。プレゼントする本人に訊くってのはどうなんだよ、オイ。もうちょっとワクワクドキドキを演出する気はねぇのか?あァ?」
「え〜?でも、だんなさまのきもちもわからないわけじゃないでしょ〜?」
「………。…」
「あぁ、彼女はアナタに素直じゃないからな」
「…新商品……外はツンツン…中はデレデレ…」
「そうなんだ。正直、毎年プレゼントを渡すは良いが…」
「旦那への返事はいつも同じ。『べ、別にアンタのプレゼントなんか嬉しくないわよ!フーフでしょ!?トーゼンだわ!』…だもんなぁ」
「おお、似てるぞ。まるで本人だ」
「ほんとほんと〜!ね、もーいっか〜い!」
「…アナタ、彼女は本人だ」
「…神……キター……」
「とにかく、評価がよくわからんから心配なんだよ」
「……。…………?」
「あぁ、毎年毎年喜んでるぜ?」
「え、そうなの?マジで?」
「まじまじ〜!おおまじだよ〜!」
「去年だったかな?ほら、アナタは耳飾りをあげたじゃないか」
「あ〜、アレか。うん」
「…『…、…。…………!!……。……、……!!』…………?」
「MA JI KA !?俺に隠れてそんな事言ってたか?!」
「わかったのかよ旦那!?」
「…読者……置いてけぼり……」
「だが実際、毎日着けてただろう?彼女は相当気に入ってたんだ」
「だからね〜…。なくしちゃったとき、ヒメナちゃんかなしそうだったよね〜」
「………」
「それでも、御嬢強がりだからなぁ。『別にぃ?!あんなのそんなに気に入ってなかったし?ま、精々アクセサリーのNO.2位だったし?』…って言うし」
「あぁ。それをと泣き腫らした真っ赤な目プラス涙声で言うから、正直反応に困ったわー」
「彼女が持ってる宝石はゴマンとあるのに、No.2と言ってしまうあたり彼女の本心が垣間見えるな」
「……」
「あのね、だんなさま。ひめなちゃんね?あのよる、ずっとみみかざりさがしてたんだよ?」
「ああ。知ってる」
「知ってるのかよ!旦那は寝てたろ!」
「…俺はアイツより強いんだから。それほど鈍感ではないさ」
「……らぁぶらぶ……てんきょうけーん……」
「だが、それなら彼女が必死に森の地面に這いつくばっている時に傍観していたという事だな?アナタ、それは感心しないぞ」
「…、……!……!」
「そうだよ〜!ひめなちゃん、あさまでずっとがんばってたんだよ〜?!」
「朝までだろ?頑張りが足りん」
「…おい旦那ァ!!御嬢が寝てるからって言っていい事と悪いことがあるぞ!」
「おぉいこらっ。絡むな絡むな。そんなイライラしがちな貴方にはコレっ!」
「「「「「!!」」」」」
「…アナタ…それをどこで…」
「森の中ですが何か?…プレゼントと一緒に渡すかな。…いや、勿体ぶるのは…」
「だんなさますごーい!かっこいー!」
「……なんということでしょう…皆の好感度50アップ……」
「…、………?」
「ん。お前達は知らないかもしれんが、仕事帰りとか時間作って毎日探してたんだよ。ま、見つかったのは今日だがな」
「じゃ、旦那がここしばらく寝不足気味だったのは…」
「あ〜。時間が取れないとどうしても夜、な」
「ひめなちゃん、うわきじゃないかーっていってたよ〜!」
「あぁ。ロール尋問された時はアバラどころか召されるかと思ったわ。一瞬トんだわ」
「…言葉では定義できない……我は我である……」
「正直に言えば、彼女もそんな事はしなかったろうに…」
「……。………?」
「ん〜。まぁほら、好きな人の悲しむ顔とか見たくないじゃん」
「「「「「………」」」」」
「アレ?俺、変な事言った?」
「…流石だアナタ。流石私の夫。惚れなおしたぞ」
「ちっとばっかしクサい気もしなくはねぇなぁ…」
「………!………!」
「だんなさまー!あたしだよー!けっこんしてー!!」
「…俺……帰ったら結婚するんだ……」
「おいこら、絡むなっつーの。散れ散れ」
「で、本題に戻りたいんですが、皆さんよろしいですか?」
「いやー、耳飾り発見の衝撃が凄まじくてお開きにしちまうところだったぜ」
「……世界…耳飾り……発見…ッ…」
「……、…?」
「アナタが今年送るヒメナへのプレゼント、だな」
「あたし、ぬいぐるみがいいー!」
「おいおい、おめぇには訊いてねぇだろうが」
「いや、でもヒメナの一部には変わりないんじゃないかと議長である私は思うわけですが?」
「じゃ旦那、御嬢に送るかい?ぬいぐるみ」
「…名前は……ジュラルミン……?」
「それはなぁ…」
「………、……………、……………。………?」
「ふむ、彼女が言う事にも一理あるな。アナタが送る物なら何でも喜ぶと思うぞ?」
「いやいや、それは去年も一昨年もお前らに訊いたおかげだろ」
「ぷれぜんときにいらなかったからって、ひめなちゃんはそんなことでだんなさまいじめないよ〜?」
「……アナタ」
「ん?」
「彼女の表情は分かりづらいかね」
「…、……?」
「つまりだ、人は嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。表情によって相手の心情を察することができるワケだ。だが、彼女の場合は?すごく嬉しい時は?怒った時は?」
「…顔を真っ赤にして、『何してくれてんのよアンタは!!』だなぁ、御嬢は」
「正解だ。流石私」
「……すれ違いは……ツンデレシナリオで必須……」
「夫婦になって1年とはいえ、他人の心を読むなど土台無理な話だ。こうだろうと思ってかかっても、本当に相手がそう思っているか否かは言葉にしない限りわからない。だがそうすると嘘が交じる可能性もある。…結局探りを入れつつ相手の様子を窺うしかない。まあ、それも夫婦生活の醍醐味だと私は思うがね」
「…すごいな。お前、ヒメナよりも長生きしてないか?」
「旦那ぁ、んなワケ…アレ?どうだっけ。なぁ?」
「ん〜?おねえちゃん〜?わたしたちはみんな『ひめなちゃん』だから〜」
「…全にして個……個にして全…」
「……、……。……」
「いや、そんな真剣に議論しなくていいから」
「…!…………!」
「いや、もみあげの私は末っ子だとかそういうのもいいから」
「ともかくだ、私はアナタのあげる物ならどんな物でもきっと喜ぶと思うぞ。彼女も私も、アナタを愛しているんだから」
「そもそも、アイディアを受けて実際選んでるのは旦那じゃねぇか。あとチョット延長するだけだぜ?」
「そうだよ〜!だんなさまのえらぶものは、どれもみ〜んなすてきだもの〜!」
「………」
「ふーむ、この雰囲気だと今年は『ノーヒントで挑め』という事でよろしいのでしょうか?」
「「「「「(こっくり)」」」」」
「ふむ…そこまで言われちゃあな。じゃ、頑張るとしますか」
「………おい……いとしいしと…」
「ん」
「…自信、持て…きっとヒメナも喜ぶ…」
「おう、ありがとよ」
「あ〜!ずるい〜!あたしもなでなで〜!」
「…!!…!!」
「ったく、ワケわかんない事ばっか言っといて、最後はイイトコ取りかよ」
「まぁまぁ、良いじゃないか。彼女達も彼を愛しているという事で」
「…アナタ」
「ん?なんだお前。まだ起きてたのか?」
「彼女は、もっと素直になるべきだろうか。私のように」
「…」
「…実のところ、彼女も不安なのだ。冷たい態度をとっても、アナタは怒ることなく傍にいてくれる。この当たり前が、当たり前と感じている事が何時か突然なくなりはしないかと恐れているんだ」
「…というと?」
「いつかアナタが、私に愛想を尽かして出て行ってしまう、とね」
「…それはないなぁ」
「そうか?」
「そうさ。第一、ヒメナは十分素直だろ。素直じゃないだけで」
「…矛盾してないか?」
「そんなことない。お前が一番わかってると思うが?」
「…」
「お前がさっき言った事は半分正解だ。ヒメナは嬉しい時も怒った時も顔を真っ赤にする。でもな、それがどちらか分からないってワケじゃないんだぜ」
「そう…なの…?」
「そうさ。俺が心配してるのは、アイツが優しすぎるところさ。どんな小さなプレゼントでもスゲェ嬉しそうに受け取るからな。ホントに気に入ってくれてるのか、それとも気を使ってくれてるのかで不安だったんだ」
「そうだったのか…」
「それに俺がアイツに愛想を尽かすなんてことはありえんよ。行動には筋が通ってるし、本当に理不尽なことはやりもしないし言いもしない。炊事洗濯が得意で、弁当用にリンゴで兎とか作っちゃうトコとかかわいい。しかも『アタシのキャラじゃないわ…』って自分で食っちゃうトコとかもう超かわいい。」
「見てたのか!」
「油断大敵だな。…それに」
「それに?」
「……あの時」
『人間は変よ。あんな長ったらしい文句なんか作って』
『…は?突然何なんだ』
『ほらぁ………言うんでしょう?…病める時も健やかなる時も…』
『……共に歩み、他の者に依らず』
『そ、そうそれよ!』
『愛を誓い、死が二人を分かつまで、愛する者のみに添う事を誓いますか?』
『………何よ、その『誓うって言え』みたいな目は』
『誓いますか?』
『ふっふ〜ん、しょうがないから誓ってあげ…………』
『…?』
『…誓うわ。死が二人を分かつまで、アンタから絶対に離れない。離れてやるもんですか!!』
『………』
『………』
『…指、出せ』
『…えっ?ちょ、何よその指輪!!』
『それを言った後には指輪の交換と決まっているんだ。ま、これはプロポーズ用だったんだがな』
『ちょちょちょ!何!?プロポーズ用!?』
『お前に先に言われちまったけどな。ヒメナ、結婚してくれ』
『……ッ〜〜!?!?』
『それとな』
『な、なによう!アタシ今泣きそうなんだから、余計な事言うんじゃないわよ!』
『俺も誓う。死が二人を分かつまで、絶対に離れない』
「と約束したしな。まぁ、離れようものなら絞殺されるだろうが」
「黙っていれば美しい回想で終わったのに…」
「とにかくよ、ヒメナはそのままで良いのさ。俺はヒメナが好きなんだから」
「…そうか」
「あ、お前のことも好きだぞ。他のヤツも」
「…伝えておくよ。おやすみ、アナタ」
「ん。おやすみ」
…寝た?寝たわよね?
まったく、何てノーテンキなのかしら。メドゥーサの頭の蛇は本体と意識を共有してるけど、そもそも蛇が喋れるわけないじゃない!ぜーんぶアタシが声当ててるの、本気で気付いてないのかしら。ホンットにノーテンキなんだから。キャラ作りも大変なのよ?
しかも何?アタシに黙って森の中をうろついてたわけ?馬鹿じゃないの?誰も頼んでないじゃない!タダでさえ森にははぐれ者が出るんだから、それで怪我でもしたらどうするつもりなのかしら。確かに耳飾りは大切だけど、コイツ以上に大切な物なんかあるわけないじゃない!バカにされてるのかしら!
…別にこれは抱きついてるわけじゃないわ!ただ今日は…。
…………。
………やめた。
…………。
ねぇ、あなた。知ってる?あなたがくれる物は何でも嬉しいのよ。物だけじゃない。あなたの笑顔や優しい言葉、傍にいてくれる事だけでアタシはすごく嬉しいの。
ねぇ、あなた。知ってる?出会って3年だけど、こうやって抱きつくとすっごくドキドキするのは今も変わらないのよ。
ねぇ、あなた。知ってる?いつもは恥ずかしくて言えないけどね、アタシ、あなたが大好きなのよ。
「…」
「なるほどね〜。あ!でもねこさんゆび5ほんないよ!」
「バッキャロー。猫が関係あるかよ。そもそも自分の歳を指で数える必要性が、オレにはわからねぇ」
「…猫の指は…4本…」
「待ちたまえ、それ以前にこの話題自体がおかしい。我々はもともと別の議題について議論しようとしていた筈だ。違うかね、アナタ」
「そ〜だよね〜。あたし、うっかり。えへへへへ」
「うん、そうだったそうだった。俺としたことが、ついカウント談議に花が咲いてしまったな」
「……、…!」
「…カウント談議…カウントダウン…似てる……プフゥ」
「旦那ァ、お前アホか?そもそも花なんて咲いてねぇだろうが」
「うむ、アナタの一方的展開ではあったな」
「ま、気を取り直して…今週は『今年のヒメナへの誕生日プレゼントは何にするか』でいきたいと思う。今年は結婚1年目なので気合い入れていくんで夜露死苦。それではゲストの皆さん、自己紹介を」
「……。……、………。……」
「これはこれは、毎年ご丁寧にありがとうございます。それでは次の方」
「はいは〜い!だんなさま!つぎあたし!あたし!」
「それでは次は…」
「おい旦那ァ」
「何だ?」
「茶番は止めないか、アナタ」
「…茶番、とは?」
「…何故なら……私達は全員……」
「「「「ヒメナの頭の蛇なんだから」」」」
「…。…」
「しかし、ぐっすり寝てるなぁ」
「うむ。この様子なら朝まで起きないだろう。安心していいぞ、アナタ」
「では、安心したところでスタート」
「そもそもだ。プレゼントする本人に訊くってのはどうなんだよ、オイ。もうちょっとワクワクドキドキを演出する気はねぇのか?あァ?」
「え〜?でも、だんなさまのきもちもわからないわけじゃないでしょ〜?」
「………。…」
「あぁ、彼女はアナタに素直じゃないからな」
「…新商品……外はツンツン…中はデレデレ…」
「そうなんだ。正直、毎年プレゼントを渡すは良いが…」
「旦那への返事はいつも同じ。『べ、別にアンタのプレゼントなんか嬉しくないわよ!フーフでしょ!?トーゼンだわ!』…だもんなぁ」
「おお、似てるぞ。まるで本人だ」
「ほんとほんと〜!ね、もーいっか〜い!」
「…アナタ、彼女は本人だ」
「…神……キター……」
「とにかく、評価がよくわからんから心配なんだよ」
「……。…………?」
「あぁ、毎年毎年喜んでるぜ?」
「え、そうなの?マジで?」
「まじまじ〜!おおまじだよ〜!」
「去年だったかな?ほら、アナタは耳飾りをあげたじゃないか」
「あ〜、アレか。うん」
「…『…、…。…………!!……。……、……!!』…………?」
「MA JI KA !?俺に隠れてそんな事言ってたか?!」
「わかったのかよ旦那!?」
「…読者……置いてけぼり……」
「だが実際、毎日着けてただろう?彼女は相当気に入ってたんだ」
「だからね〜…。なくしちゃったとき、ヒメナちゃんかなしそうだったよね〜」
「………」
「それでも、御嬢強がりだからなぁ。『別にぃ?!あんなのそんなに気に入ってなかったし?ま、精々アクセサリーのNO.2位だったし?』…って言うし」
「あぁ。それをと泣き腫らした真っ赤な目プラス涙声で言うから、正直反応に困ったわー」
「彼女が持ってる宝石はゴマンとあるのに、No.2と言ってしまうあたり彼女の本心が垣間見えるな」
「……」
「あのね、だんなさま。ひめなちゃんね?あのよる、ずっとみみかざりさがしてたんだよ?」
「ああ。知ってる」
「知ってるのかよ!旦那は寝てたろ!」
「…俺はアイツより強いんだから。それほど鈍感ではないさ」
「……らぁぶらぶ……てんきょうけーん……」
「だが、それなら彼女が必死に森の地面に這いつくばっている時に傍観していたという事だな?アナタ、それは感心しないぞ」
「…、……!……!」
「そうだよ〜!ひめなちゃん、あさまでずっとがんばってたんだよ〜?!」
「朝までだろ?頑張りが足りん」
「…おい旦那ァ!!御嬢が寝てるからって言っていい事と悪いことがあるぞ!」
「おぉいこらっ。絡むな絡むな。そんなイライラしがちな貴方にはコレっ!」
「「「「「!!」」」」」
「…アナタ…それをどこで…」
「森の中ですが何か?…プレゼントと一緒に渡すかな。…いや、勿体ぶるのは…」
「だんなさますごーい!かっこいー!」
「……なんということでしょう…皆の好感度50アップ……」
「…、………?」
「ん。お前達は知らないかもしれんが、仕事帰りとか時間作って毎日探してたんだよ。ま、見つかったのは今日だがな」
「じゃ、旦那がここしばらく寝不足気味だったのは…」
「あ〜。時間が取れないとどうしても夜、な」
「ひめなちゃん、うわきじゃないかーっていってたよ〜!」
「あぁ。ロール尋問された時はアバラどころか召されるかと思ったわ。一瞬トんだわ」
「…言葉では定義できない……我は我である……」
「正直に言えば、彼女もそんな事はしなかったろうに…」
「……。………?」
「ん〜。まぁほら、好きな人の悲しむ顔とか見たくないじゃん」
「「「「「………」」」」」
「アレ?俺、変な事言った?」
「…流石だアナタ。流石私の夫。惚れなおしたぞ」
「ちっとばっかしクサい気もしなくはねぇなぁ…」
「………!………!」
「だんなさまー!あたしだよー!けっこんしてー!!」
「…俺……帰ったら結婚するんだ……」
「おいこら、絡むなっつーの。散れ散れ」
「で、本題に戻りたいんですが、皆さんよろしいですか?」
「いやー、耳飾り発見の衝撃が凄まじくてお開きにしちまうところだったぜ」
「……世界…耳飾り……発見…ッ…」
「……、…?」
「アナタが今年送るヒメナへのプレゼント、だな」
「あたし、ぬいぐるみがいいー!」
「おいおい、おめぇには訊いてねぇだろうが」
「いや、でもヒメナの一部には変わりないんじゃないかと議長である私は思うわけですが?」
「じゃ旦那、御嬢に送るかい?ぬいぐるみ」
「…名前は……ジュラルミン……?」
「それはなぁ…」
「………、……………、……………。………?」
「ふむ、彼女が言う事にも一理あるな。アナタが送る物なら何でも喜ぶと思うぞ?」
「いやいや、それは去年も一昨年もお前らに訊いたおかげだろ」
「ぷれぜんときにいらなかったからって、ひめなちゃんはそんなことでだんなさまいじめないよ〜?」
「……アナタ」
「ん?」
「彼女の表情は分かりづらいかね」
「…、……?」
「つまりだ、人は嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。表情によって相手の心情を察することができるワケだ。だが、彼女の場合は?すごく嬉しい時は?怒った時は?」
「…顔を真っ赤にして、『何してくれてんのよアンタは!!』だなぁ、御嬢は」
「正解だ。流石私」
「……すれ違いは……ツンデレシナリオで必須……」
「夫婦になって1年とはいえ、他人の心を読むなど土台無理な話だ。こうだろうと思ってかかっても、本当に相手がそう思っているか否かは言葉にしない限りわからない。だがそうすると嘘が交じる可能性もある。…結局探りを入れつつ相手の様子を窺うしかない。まあ、それも夫婦生活の醍醐味だと私は思うがね」
「…すごいな。お前、ヒメナよりも長生きしてないか?」
「旦那ぁ、んなワケ…アレ?どうだっけ。なぁ?」
「ん〜?おねえちゃん〜?わたしたちはみんな『ひめなちゃん』だから〜」
「…全にして個……個にして全…」
「……、……。……」
「いや、そんな真剣に議論しなくていいから」
「…!…………!」
「いや、もみあげの私は末っ子だとかそういうのもいいから」
「ともかくだ、私はアナタのあげる物ならどんな物でもきっと喜ぶと思うぞ。彼女も私も、アナタを愛しているんだから」
「そもそも、アイディアを受けて実際選んでるのは旦那じゃねぇか。あとチョット延長するだけだぜ?」
「そうだよ〜!だんなさまのえらぶものは、どれもみ〜んなすてきだもの〜!」
「………」
「ふーむ、この雰囲気だと今年は『ノーヒントで挑め』という事でよろしいのでしょうか?」
「「「「「(こっくり)」」」」」
「ふむ…そこまで言われちゃあな。じゃ、頑張るとしますか」
「………おい……いとしいしと…」
「ん」
「…自信、持て…きっとヒメナも喜ぶ…」
「おう、ありがとよ」
「あ〜!ずるい〜!あたしもなでなで〜!」
「…!!…!!」
「ったく、ワケわかんない事ばっか言っといて、最後はイイトコ取りかよ」
「まぁまぁ、良いじゃないか。彼女達も彼を愛しているという事で」
「…アナタ」
「ん?なんだお前。まだ起きてたのか?」
「彼女は、もっと素直になるべきだろうか。私のように」
「…」
「…実のところ、彼女も不安なのだ。冷たい態度をとっても、アナタは怒ることなく傍にいてくれる。この当たり前が、当たり前と感じている事が何時か突然なくなりはしないかと恐れているんだ」
「…というと?」
「いつかアナタが、私に愛想を尽かして出て行ってしまう、とね」
「…それはないなぁ」
「そうか?」
「そうさ。第一、ヒメナは十分素直だろ。素直じゃないだけで」
「…矛盾してないか?」
「そんなことない。お前が一番わかってると思うが?」
「…」
「お前がさっき言った事は半分正解だ。ヒメナは嬉しい時も怒った時も顔を真っ赤にする。でもな、それがどちらか分からないってワケじゃないんだぜ」
「そう…なの…?」
「そうさ。俺が心配してるのは、アイツが優しすぎるところさ。どんな小さなプレゼントでもスゲェ嬉しそうに受け取るからな。ホントに気に入ってくれてるのか、それとも気を使ってくれてるのかで不安だったんだ」
「そうだったのか…」
「それに俺がアイツに愛想を尽かすなんてことはありえんよ。行動には筋が通ってるし、本当に理不尽なことはやりもしないし言いもしない。炊事洗濯が得意で、弁当用にリンゴで兎とか作っちゃうトコとかかわいい。しかも『アタシのキャラじゃないわ…』って自分で食っちゃうトコとかもう超かわいい。」
「見てたのか!」
「油断大敵だな。…それに」
「それに?」
「……あの時」
『人間は変よ。あんな長ったらしい文句なんか作って』
『…は?突然何なんだ』
『ほらぁ………言うんでしょう?…病める時も健やかなる時も…』
『……共に歩み、他の者に依らず』
『そ、そうそれよ!』
『愛を誓い、死が二人を分かつまで、愛する者のみに添う事を誓いますか?』
『………何よ、その『誓うって言え』みたいな目は』
『誓いますか?』
『ふっふ〜ん、しょうがないから誓ってあげ…………』
『…?』
『…誓うわ。死が二人を分かつまで、アンタから絶対に離れない。離れてやるもんですか!!』
『………』
『………』
『…指、出せ』
『…えっ?ちょ、何よその指輪!!』
『それを言った後には指輪の交換と決まっているんだ。ま、これはプロポーズ用だったんだがな』
『ちょちょちょ!何!?プロポーズ用!?』
『お前に先に言われちまったけどな。ヒメナ、結婚してくれ』
『……ッ〜〜!?!?』
『それとな』
『な、なによう!アタシ今泣きそうなんだから、余計な事言うんじゃないわよ!』
『俺も誓う。死が二人を分かつまで、絶対に離れない』
「と約束したしな。まぁ、離れようものなら絞殺されるだろうが」
「黙っていれば美しい回想で終わったのに…」
「とにかくよ、ヒメナはそのままで良いのさ。俺はヒメナが好きなんだから」
「…そうか」
「あ、お前のことも好きだぞ。他のヤツも」
「…伝えておくよ。おやすみ、アナタ」
「ん。おやすみ」
…寝た?寝たわよね?
まったく、何てノーテンキなのかしら。メドゥーサの頭の蛇は本体と意識を共有してるけど、そもそも蛇が喋れるわけないじゃない!ぜーんぶアタシが声当ててるの、本気で気付いてないのかしら。ホンットにノーテンキなんだから。キャラ作りも大変なのよ?
しかも何?アタシに黙って森の中をうろついてたわけ?馬鹿じゃないの?誰も頼んでないじゃない!タダでさえ森にははぐれ者が出るんだから、それで怪我でもしたらどうするつもりなのかしら。確かに耳飾りは大切だけど、コイツ以上に大切な物なんかあるわけないじゃない!バカにされてるのかしら!
…別にこれは抱きついてるわけじゃないわ!ただ今日は…。
…………。
………やめた。
…………。
ねぇ、あなた。知ってる?あなたがくれる物は何でも嬉しいのよ。物だけじゃない。あなたの笑顔や優しい言葉、傍にいてくれる事だけでアタシはすごく嬉しいの。
ねぇ、あなた。知ってる?出会って3年だけど、こうやって抱きつくとすっごくドキドキするのは今も変わらないのよ。
ねぇ、あなた。知ってる?いつもは恥ずかしくて言えないけどね、アタシ、あなたが大好きなのよ。
10/05/02 02:43更新 / 八木