中篇
(難易度高すぎだろコレ……難易度高すぎだろ!)
薄暗い部屋の中。アリオンの前には今、ハダリーS3がいる。両手足を縛られ、先程のように顔を床に擦りつけて。
彼はあの告白の後で嫌だと断われるような鬼畜ではない。ないのだが、
「さあ、早く踏んで下さい」
「ど、どこを?」
「顔です。まず顔です。何よりも顔です」
彼は今まさに鬼畜になろうとしていた。不本意だが。できれば止めたいが。
「さあ。さあ」
ハダリーS3はこれ以上ないぐらい興奮した表情で、息を荒くしながら催促する。
(…す、素足で軽く踏めば…)
アリオンが靴を脱ごうとした時だった。ハダリーS3の表情が再び凍る。
「何をしているんです、板金工アリオン」
「え?」
「何故靴を脱ぐんです。よもや、遠慮しているのではないでしょうね」
冷たいその声に、彼は自分が叱責されているのだと気が付いた。
「さ、さすがに靴を履いたままじゃ…」
「ダメです。そのまま踏んで下さい」
「ええ?!」
「御安心を。我々の耐久性は十分です。遠慮なく踏んで下さい。この顔を潰すぐらいに」
「でも」
彼にとっては耐久性云々の問題ではないのだ。だがハダリーS3はなおも続ける。
「殺す気でかまいません。顔に抵抗を感じるのなら腹部を蹴ってもかまいません。乗ってもかまいません。気持ち悪いとお思いでしょう?思う存分罵って、その嫌悪感をぶつけて下さい。どうか」
叱責が指南となり、ついには懇願になった。先程までの彼女からは考えられない位に切迫した声だった。
「へ、変態だ」
それは職場で同僚をおちょくるものとは違う、軽蔑を滲ませた驚愕の言葉だった。
思わず漏れた本音に、しまった、と慌てて口を覆う。すぐに謝ろうとしたのだが、ハダリーS3は身をくねらせながら悦びの声をあげた。
「あぁ…そうです。ハダリーS3は変態なのです。愛しい人に罵られて悦び、踏まれることを望む変態なのです!さあ、踏みつけ、痛めつけて下さい!もっともっとなじって下さい!」
「………ッ」
アリオンは痛いくらいに歯を食いしばる。あたかもこれから踏まれるのは自分であるかのように。
目の前のこれは、いや彼女は自分を愛していると言った。
夜が明ければ、彼女は死ぬと言った。
その彼女が、自分に痛めつけられることを望んでいる。
アリオンは意を決してハダリーS3を跨ぎ、大きく膝を持ちあげた。
そしてそのまま彼女の顔へ…
「………? 板金工、アリオン?」
彼の足は床を踏み鳴らしただけに終わった。そのまま彼女の上に覆いかぶさるようになり、縛られた手をおさえ付けながら口づけた。
舌を絡めることもなく、たった数秒押しつけるような、ただ唇を重ねるだけのキスだった。
「……板金工アリオン、何のつもりですか」
「こ、こう…手足縛られた上に覆いかぶさってキスとかされると、無理矢理っぽくないか?」
しばしの沈黙の後、やっと彼の行動の意味を理解したかのように目を細め、彼女は言った。
つまり。
「踏んではくださらない、と」
一応、彼なりの『鬼畜っぽい』行為のつもりだったのだが。彼女の低い声にアリオンもまた低い声で答える。
「すまねぇな…オレはお前の趣味を受け入れられねえ。…すまん。だが、」
好きだと言ってくれた相手を踏むことはできないんだ。
彼はそう言うと顔をそむけた。
「…嬉しかったんだよ。その…愛してるってのが」
彼にとってそれは生まれて初めて異性から聞く言葉だったのだ。嬉しくないわけがない。それ故に彼女の目的を、彼女の望むやり方で達成させようと思った。いささか無理をしても。
だが、これである。
彼の感じた嫌悪感は決して彼女の性癖に関するもだけではなく、それを受け入れる余地のない自分の小ささにもあったようにも思える。
己を通すか、彼女を通すか。
そのせめぎ合いの結果が、これである。
己を通した。いや、彼女を拒絶してしまった。
アリオンは自分がとてつもなく情けなくなって俯いた。
「本当に、すまん」
「ふ……」
「?」
「ふ、ふふふ。ふふふふふ」
何やら不穏な含み笑い。
おそるおそる顔をあげると、その声には似合わない嬉しそうな表情でハダリーS3が笑っている。
「先程までの貴方の言動から、拒絶する場合は声を荒げるものとばかり思っていたので、意外です」
果たしてこれは非難されているのだろうか、とアリオンは首をかしげる。
オメエはオレがどんな人間だと思ってたんだ、という言葉は一先ず飲み込んでおいた。
「そうですね。私を受け入れていただけないのは、とても残念です。ですが」
「…なんだよ?」
「先程の口づけ…貴方なりに、私を受け入れようとして下さったのですね」
「………」
「その上、拒否の理由が『愛していると言われて嬉しかったから』…。ふ、ふふふふふ。非論理的な理由」
「な、何が可笑しいんだよ」
「いえ。私は貴方の言葉をどこか嬉しく感じているのです」
貴方は優しい、優しすぎるのですねと、ハダリーS3は静かに笑った。
その肩が淡い光に包まれる。青白い、柔らかな光に。
「お、おい」
彼女はアリオンの声に、穏やかな微笑みを浮かべたまま自身の肩に目をやった。それとほぼ同時に光が収束する。
「…設定が書き換えられたようです」
「へ?」
アリオンはまたも素っ頓狂な声をあげた。
「術式の組み合わせと個体の心情によって書き換えが発生してしまうのですね。成程、他の個体にもこのような事が…。しかし管理者権限を超えて根幹部まで書き換えられるとは、予想外です」
どうやら彼の知らぬところで話が進行しているらしい。いわゆる置いてけぼり状態である。
「おい。わかるように言え」
「…お気になさらず。それよりも」
ぶちりと手足を拘束していた縄を引き千切る。
「私もいささか事を焦り過ぎました。貴方に無理をさせてしまいましたね。…謝るべきは私かもしれません」
「いや、俺は…」
そしてすっくと立ち上がると、ハダリーS3はベッドに腰掛けた。先程向かい合っていた時のような機械的な姿勢ではなく、どこか『しな』のある座り方で。
「お尋ねします、板金工アリオン。貴方はどのような形でならば私を抱いてくれますか?」
口調は相変わらずであるものの、その中にはどこか母親が子供に欲しいものを訊くかのようなふうがあった。彼女は小首を傾げ、アリオンの返答を待っている。
アリオンはしばらくそっぽを向き、頭をがしがしとかきむしってから言った。
「…踏むとかそういうんじゃなく…その、文字通りというか、普通に…だな」
「つまり、こうですか?」
ふわりとハダリーS3が動き、ゴーレム本来の力の一万分の一にも満たない力でアリオンの手を引いた。そのまま彼の体を自身の胸の中へと導く。
二人はベッドの上に倒れ込んだ。アリオンも大柄なので下敷きになってしまったハダリーS3が心配になったが、そこはゴーレムである。彼女は気にする素振りをまったく見せず、彼の身体に腕を回した。
手足の長い彼女が抱きしめると、正に彼の体を包み込むような形になる。
アリオンは突然のことに一瞬体を固くしたが、その柔らかな身体と香しい香りに包まれるとすぐに緊張を解いた。
「いかがでしょう、板金工アリオン」
「そ、そうだな、いいと思うぜ。…あ、あと」
「はい」
「板金工アリオンは止めろ。アリオンでいい」
「…わかりました。アリオン」
きゅっと腕の力が強められる中で、アリオンは身じろぎをして顔を彼女に向けた。
もう少し早ければ、彼女の肩が再び光っていたのが見えたはずである。
「お前の事は、何て呼べばいい?型番じゃあ味気ない」
「どうぞご自由に。貴方に呼ばれるならば、どんな名でもかまいません」
「自分で決めろ。オレは知らん」
そんな彼のぶっきらぼうな言葉さえも愛しい、というようにハダリーS3は笑う。
彼女は与えられた知識や記録を瞬時に洗い、己の名を決定する。目の前の、彼に呼んでもらうための名を創造する。
先程とは反対側の肩が光に包まれた。
「それではラティアとお呼び下さい」
「ラティア?」
「はい。古代の伝説にある、意思を持った彫刻達から一文字ずつ拝借しました」
彫刻ねぇ、とアリオンは目をつぶってラティアを抱きしめた。
土からできているが故か、心臓の鼓動も呼吸音も聞こえない。だがその身体には人間と同じ温もりがあった。母に抱かれているような、そんな安らかな気持ちが心に湧いてくる。
「こんなに柔らかいのにねぇ」
ふふふ、とラティアが彼を撫でた。
「アリオン」
「何だよ、ラティア」
「生憎ですが、私には『通常の性交』に関する知識が十分ではありません」
「リードはできんぞ」
「童貞には荷が重いですか」
「うるせぇ。手探りでやるさ」
それではまず、とラティアはアリオンの顔を引き寄せた。
「もう一度、キスから始めるべきだと思います」
「…奇遇だな。オレもそう思うよ」
しばし見つめあった後、彼は目の前の艶やかな唇に自身の唇を優しく重ねた。
(とは言うものの、相変わらず難易度たけえなぁ…)
相変わらず薄暗い部屋の中。ラティアに覆いかぶさりながら、アリオンは思う。
今、彼の目の前に彼女の顔は無い。その代わりに、彼女の羞恥の部分がすぐそこにある。
ぴったりと閉じた秘割。その周囲には産毛すら無く、小麦色のぽってりとした丘があるだけである。クリトリスは包皮に包まれ……とまぁ目のやり場に困ると思いつつも、初めて見る女性器をついつい観察してしまう。
一方のラティアといえば、
「すん…すんすん…。ああ、汗臭くって生臭い…。この匂い、堪りません」
下着を脱いだ彼の股間に顔を埋め、鼻をぴったりとつけてその匂いを嗅いでいた。
踏みつけるよりはと快諾したこの体勢だが、いざ愚息を彼女の前に突きつけるとそれはそれで申し訳ない気分になってくる。だがそんな事、彼女は一切気にかけない。
彼女の鼻頭が肉棒をくにくにと刺激する。それでなくともその吐息や美女が股間に顔を埋めているという状況に、彼の分身は限界以上にその身を固くしていた。
僅かに反り返った肉棒の裏筋からふぐりの方へと鼻がすべり、なぞりあげる。
「くんくん…睾丸の裏も……饐えた匂い」
繰り返すようだがアリオンには女性に嗅がせる趣味もないし、こう言われて喜ぶ趣味もない。何だかいたたまれなくなって口を開いた。
「やっぱり、水浴びして」
「駄目です」
即座に否定された。陰毛を揺らす彼女の息が非常にくすぐったい。
「ああ…貴方はこれを咥えさせるのですね。この、酷い匂いの」
「だからぁ」
「聞き流して下さい。独り言です」
どうやら彼女の中ではそういうシチュエーションであるというふうになっているらしい。
「しかし、酷いと言われちゃ黙ってられ」
「あむ」
うあっ、とアリオンが短く声をあげた。彼の言葉を遮るようにラティアが亀頭を口に含んだのである。
「うっ…あ、あ…!なんだ、これっ!」
傘の部分に唇がひっかけられ、舌で全体を舐めまわされる。
ざらついた舌。温かく、湿った口内。とろりと粘度の高い唾液が絡みつき、くちゅくちゅと音を立てる。
未知の感覚に腰が落ちそうになるが、震える膝で何とかそれを支えた。
「んく……んむ、ん…じゅちゅっちゅるっ」
初めは控えめだった舌の動きが、だんだん活発になってくる。
鈴口をぐりぐりと穿ったかと思うと唇が傘下をきゅっと締め付け、先走りごと亀頭全体が吸い上げられる。そして裏筋を責めると彼の腰が震えることに気がついたのか、重点的にそこを狙うようになった。
「う、うう…。くっ、ああぁっ!」
こみ上げる射精感を何とかごまかそうと、彼は目の前の秘割に手を伸ばした。
「んむ…?ん、ふぁひおん?」
亀頭を咥えたままラティアが喋ると僅かな振動が肉棒を刺激する。唇を噛んでそれを堪え、濡れた陰唇を両手の親指で開いた。
彼女の身体は陽に焼けたような小麦色だが、中の恥肉は鮮やかなピンク色だった。呼吸をするようにひくつくそこはたっぷりの愛蜜にぬめり、部屋の僅かな光を反射しててらてらと光っている。
「ん、くぅん…。アリオン…ど、どうしてそんなところ…」
何かもやもやとした感覚がラティアの中に芽生えた。
彼から逃れるように腰をくねらせるが、それはむしろ彼を誘うような動きになってしまったようである。加えて立ちのぼる雌の香りに中てられたかのように、アリオンは舌を伸ばして蜜を舐めあげる。
不思議な味だった。ほんのりと酸っぱい蜜は、海水と雨上がりの地面の匂いを足して二で割ったような香りがした。
一舐めするころには躊躇いが消え、彼はラティアの足を抱え込むようにして顔を埋め、蜜溜りに舌を沈めた。
「ふぁ?あ、ああ…アリオン、熱い…熱いですぅ…んんっ…」
足元で彼女が耐えかねたように声を絞り出す。アリオンはその声に、嗜虐とはまた別の興奮を覚えた。切れ切れの声からは、ラティアの整った顔が快楽に歪んでいるであろうことが容易に想像できた。
(感じてるんだ。俺の、舌で)
何だか嬉しいような得意なような気分になった彼は、サーモンピンクの粘膜に口づけた。
じゅるるっと音を立てて愛液を啜ると微弱な振動が膣口を震わせ、がくがくと大きく彼女の身体が揺れた。
「あひっ…ん、んぐ、んむぅっ」
対抗するかのように、ラティアが肉棒全体を咥え込んだ。
「くあぁっ!な、なんか、当たってるっ!包まれてるっ!」
アリオンのイチモツは決して大きくないが、ラティアの喉に触れるには十分な長さがあった。
彼女の唇が陰毛に触れるぐらいぐっぷりと飲み込まれ、先端が奇妙な感触の物に包まれる。温かく湿った柔らかなそれは、まるで別の生きもののようにぐにゅぐにゅと蠢く。更に彼女が頬をすぼめると、肉棒全体が肉の沼に埋まったかのようであった。
「んん…じゅ……れる……じゅる、じゅ……」
ゆっくりとしたストロークでラティアが頭を動かし始める。熱い舌を蛇のように絡めて引き、亀頭にたっぷりと唾液を擦り付ける。
「ありおん…んちゅ…れる…きもひ、いいれふかぁ?ん、んむっ」
そして鈴口に口づけると頬の裏の粘膜に擦りつけたり舌でくるんだりしながら頭を進め、根元に達すると頭を揺らして喉奥に押しつける。
「ば、バカっ…咥えたままぁ、くぅ喋るなっ!」
「んふふ…おひに、めひは、ようれふね…んじゅっちゅる、れるん」
彼女は肉棒を咥えたまま嬉しそうに笑ったり、感想を求めたりする。それがさらなる刺激となり、アリオンの腰のわだかまりを大きくする。
激しさは一切なく、あくまでゆっくり、優しく。暴力的な快感を、愛しさに満ち満ちた動きで送りこんでくる。
「チクショウ…おかえしだっ。んむ、じゅるっ」
与えられる快感をそのままラティアにも送り返したい一心で、アリオンは目の前の蜜沼に舌を沈めた。
ぽてっとした恥丘にかぶりついて舌を入れると、目の前に彼女の肛門がはっきりと見えた。
「んんっ…ん、ぐ、むっ…ふっ…んむぅ…」
足元でラティアが小さく呻くたびに小さなすぼまりが、ひく、ひく、とひくつく。その動きが可愛らしくて、舌の愛撫を続けながら蜜を絡ませた中指をあてがい、こねる。
「ひぁっ?…りょうほうは、ん、だめです…それ、ふぁ、だめぇ…っ!」
ペニスから口を離し、ラティアはふるふると身体を震わせる。その言葉とは裏腹に蜜壺からは愛液が溢れだし、淫孔はほぐれて中指を第一関節まで飲み込んでいる。
更にアリオンの舌は、包皮に包まれたクリトリスに向かう。
「ひっ、そ、そこは…剥いてはあっ!くっ、ひいぃ!」
彼女の言葉が終わる前に包皮を剥き上げ、その中の小さな突起を舌先で突っついた。途端に引きしまった尻がビクリと跳ねた。抱え込んだ腕でそれをおさえ付けながら、アリオンは尖った肉芽に吸いついた。
「ひぅっ!ひゃ、うんっ!やあ、あ!くぅ、んんっ!」
舐め転がすごとにラティアが甲高い声をあげ、それに合わせて肉芽がその実を太らせていく。
むっくりと立ち上がった肉芽が徹底的に舌で小突かれ、くるまれ、嬲られる。しまいに強く吸い上げられると、足元のラティアが声にならない叫びをあげて震えた。
あんな澄まし顔をしていたラティアを啼かせているということがひどく楽しく、またそんな声を聞かせてくれる彼女が愛しくもあり、彼は愛撫に没頭した。しようとした。
「…ふぁ、あ!んんっ!…あむ、れる、ちゅ…ちゅうっ!」
「うあ!こ、こら!」
今度はアリオンがびくりと背を反らす。ラティアが彼の睾丸をその温かな口内に含んだのだ。
飴玉を転がすように舌でころころと転がし、時おりちゅうちゅうと吸いたてる。更に両手を駆使して唾液に塗れた竿を擦り、つつつ…と裏筋をなぞり、先走りが溢れだす尿道を穿った。
抑え込まれていた射精感が再び頭をもたげ始めた。かと思うと怒涛の勢いでペニスを駆け上がってくる。
「ら、ラティア…!でる!出るぞ!!」
すかさずラティアが、再び肉棒をぐっぷりと咥え込んだ。同時に手で睾丸をやわやわと揉みあげる。 そしてあの喉奥に達した時…
「あぐ!う、ああああああっ!!」
びゅ!びゅる!びゅく!どぷ、どぷん…
獣じみた咆哮とともにザーメンが吐き出された。
直接喉に叩きこまれるゼリーのように濃厚なそれを、ラティアは咽ることなくこと無く飲み込んでゆく。
びゅ、どく、どぷどぷ、どくん……
「うあ、ああ…とまんねぇ…!ラティアぁ…っ!」
必死に崩れ落ちるのを堪えていた腰にラティアが手を回し、強引に引き寄せた。アリオンがのしかかり、彼女の口にペニスを突き込んでいるかのような形になる。そんなことも気にせず、ラティアは喉を鳴らして精液を貪っている。その構図がとても背徳的に思え、アリオンの分身はラティアの口内で更に大きく跳ねた。
やがて噴出が収まり、彼が腰を引こうとしても彼女はなかなか肉棒から口を離さない。
「んふ……ちゅ、ちゅう…ん…ちゅる」
やっと頭を引き始めても、一滴たりとも残すまいと頬をすぼめて尿道に残った精液を吸いだす。
そして最後に傘下を唇で挟んでひときわ大きく吸った後で、ぽんっと栓を抜いたような音とともにペニスは肉の沼から抜け出した。
(なるほど…エネルギーの採取、か……)
気だるい身体をごろりと返し、アリオンはベッドに転がった。
このままベッドに埋まり込んでしまいそうなくらい身体が重いのに、ペニスは萎えることなく天を衝いている。一回、しかもあれほど出したというのに。
(…ヤローってのは、不便な生きモンだなぁ…)
忌々しげに溜息をついてみた。
「……アリオン」
「あんだよ」
「その…あの…」
彼の横に座ったラティアが、股の間に手を入れたままもじもじと申し訳なさそうに言った。
「あの…貴方がいじるから…」
「……あー。悪い」
「い、いえ、そうではなく。なんであんなことを…?」
なんで。
自分はゴーレムなのに。たった一晩の関係なのに。
彼女の問いを鼻で嗤い、アリオンは目を閉じた。
「恋人なんだろ」
「…え?」
「恋人なら…相手にも気持ち良くなってほしいもんなんだよ」
我ながらクサい台詞だ、と目を閉じたままそっぽを向いて苦笑いをする。
さすが童貞、ロマンチストですね。そんな気恥かしさを紛らわせてくれる台詞を期待していたのだが、聞こえるのは自身の荒い息のみ。後ろで彼女の肩を包む淡い光に、彼は気がつかない。
案外気が効かないな、とまた苦笑いをした彼の顔が温かな物に包まれ、再び天井に向けられた。重い瞼を持ち上げてみると、潤んだ瞳が眼前にあった。
「…アリオン…」
まるで子犬のように鼻頭を擦り付けた後、ラティアはその薄い唇でアリオンの唇に吸いついた。
「アリオン、アリオン…私の、愛しい人」
彼女は艶っぽく鼻を鳴らしながら、ちゅっちゅっと唇を押しつけてくる。
アリオンも僅かに口を開けると、彼女の舌がぬるりと入り込んでくる。互いの思いを確認するかのように舌を絡め合い、交換した唾液を嚥下する。
やがてラティアが唇を離すと、二人の間を銀色の橋がつないだ。
「んはっ……アリオン、もう我慢できません…いいですね?」
小麦色の肌を上気させ、ラティアが彼の上に跨る。
蜜に濡れた秘割をペニスに押し当て、もどかしげに腰をくねらせている。
「…ダメだ」
「えっ!」
「オメエが上なのはダメだ…。吸い尽くされて死んじまう」
「上なのは…?」
彼は重い身体に鞭を打って起き上がり、代わりにラティアを横たえた。最初はポカンとしていたラティアもすぐに嬉しそうにはにかむ。
「…この辺か?」
「もう少し下…そう、そこです」
猛りに猛った肉棒を彼女の指示通りあてがう。
「さあ、来て下さい、アリオン…っ」
抱っこをせがむ子供のように、妖艶な笑みを浮かべたラティアが腕を伸ばしてくる。その腕の中に吸い込まれるようにゆっくりと腰を進めた。
「う……くうぅう…」
「ふあぁ…きてる、入って来てますう…!」
ラティアの口、膣、肛門は全て体内の精液タンクにつながっている。そのため彼女は処女膜は当然のこと、子宮はおろか内臓というものがない。アリオンのペニスは終端のない肉筒にすっぽりと飲み込まれてしまった。
だが処女膜が無くとも、男を受け入れるのが初めてであるというのは変わりない。たっぷりの愛液で潤っていた処女膣にもまだ固さが残っており、ペニスをきゅうきゅうと締め付ける。
いまだ消えぬ気だるさも手伝い、アリオンは挿入後もしばらくは動かずラティアを抱きしめていた。
「ん…いかが、ですか?私の膣内は…気持ちいいですか?」
「ああ。…気持ち良くて、すげえあったけえ。オメエは?痛かったりしねえか?」
私はゴーレムなので、そのような事は。
そう言いかけて彼女は思いとどまった。この言葉は今の自分を表すには相応しくない。
「はい。…私も温かくて、貴方の鼓動が伝わってきます」
これが、愛おしいということなのですね。と彼女は抱きしめる腕に力を込め、甘えるように火照った頬を擦り寄せた。
溶けだした淫泥が、うねうね、くにゅくにゅ、と蠢き、肉棒に絡みつく。
「うぁっ…なか、動いて…」
「ふ…あ…あなた専用になっているんです。アリオンの形を覚えているんです」
彼女の言葉通り、膣内の感覚が見る見るうちに変わっていく。
柔らかくほぐれた膣洞はアリオンを優しく包み込み、亀頭の方から溶かそうとしているようだった。
「私は大丈夫ですから、もっと、もっと貴方を感じさせて下さい」
その言葉に応え、アリオンはぎこちなく腰を動かし始める。
絡みつく淫泥から逃れるように亀頭まで引き抜くと、愛蜜に濡れた肉茎が姿を現した。そしてまた、真っ直ぐ奥まで突き込んでいく。
どんなに荒く突き込んでも、ラティアの膣はぬっちりとペニスを受け止めてくれる。
「ふぁ…あ、は、ぁぁ…」
ラティアが耳元で切なそうに啼いた。それに合わせて膣洞がきゅっ、きゅうっと締め付ける。白く濁った愛蜜を垂れ流し、もっともっととせがむように。
こうなるともう、勝手に腰が動いてしまう。
引き抜き、突き込み、また引き抜き、貫く。
濡れ塗れた膣洞を勃起しきった肉棒が擦り上げる音が薄暗い部屋に響く。アリオンはラティアの両脚を抱え込み、奥の奥まで抉るように突きあげていた。
「ひっ、ひあっ、あ、りおんっ…ありおんんっ…!」
涎を拭う事も忘れたラティアが、蕩けた顔で彼の名を呼ぶ。
大きく張ったエラが淫泥をこね回し、濁った愛蜜をかき出す。奥まで誘い込むように蠢く膣内に、肉棒がいっそう反り返る。時おり結合部分からごぷっと音がしてしぶきが飛び散る。
「ラティア…」
抱えていた両脚を放し、彼女のつつましやかな胸に手を伸ばす。
「あ、ま、まってください…」
表面を覆っていた薄布が取り払われ、小麦色のふくらみが姿を現す。
肌よりも色素が薄い乳輪の中心では、薄桃色の乳首がツンとその身を尖らせていた。
「あう…ち、ちいさいですよね…恥ずかしい…はずかしいっ…!」
最早はっきりと感じるようになった恥ずかしさに耐えかね、手で顔を覆ったラティアがいやいやと首をふる。
「んなこたぁない。かわいいじゃないか」
「そ、そうでしょうか…?」
にっこりと笑ったアリオンは、その乳首に吸いついた。ころころと舌で転がし、舌で甘噛みする。
もう一方の胸にも手を伸ばし、すべすべの肌を撫で、親指の腹で固く尖った乳首を弄ぶ。
「あ…ふ、やあぁぁ…」
溜息のような喘ぎ声と共に、ラティアはふるふると切なげに身体を震わせる。
更にちゅっ、ちゅっと音を立てて乳首を吸い上げると、
「あ、んっ、はぁ、ひゃあっ」
切れ切れの可愛らしい声があがる。
「あ、りおんん!そんなに、すってもぉっ!ぼにゅうはぁ…っ!」
「そうか?なんか甘い気がする」
「もぉっ!ちがうんです。ちがうんですぅ…!」
甘い声をあげたラティアは彼の首に腕を回し、もじもじと腰を押し付ける。
それを合図に、アリオンは再び抽送を開始した。
彼は先程よりも激しく腰を叩きつけ、それに合わせてラティアも腰を動かす。ぐちゃっ、ぬちゃっと粘ついた水音に二人の肌がぶつかり合う音が加わる。
「あぅ、く、あうううぅ、こんな、こんな感覚、知りません…!あぁ、だめ、だめぇっ!」
体中を突き抜ける未知の感覚に、ラティアは声を抑えきれない。
ねとねとに蕩けきった淫泥の中で、アリオンも急激に高まってくる。
充血した亀頭がいっそう膣洞を押し広げた。
「んぅあ!大きくなってる?!あ、ありおん、だすんですね?びゅ、びゅって、だすんですね?」
「ああっ…!もう、げんかいだ…くぅっ!」
「きて!きてください!わたしの、わたしのなかに、たくさん、たくさん!」
アリオンがひときわ大きく突き込むのと、ラティアが足を絡めるのはほぼ同時だった。
腰にたまっていた射精感が臨界点を超え、ペニスを駆け上る。
「ありおん!くる!なにか、はじけてぇっ…うあぁぁあああ!」
ぎゅうっとラティアがしがみつき、大きく啼きながらがくがくと震える。
そして、
「ぐ、ぅううううっ、おおおお!!」
びゅびゅっ!びゅ、びゅるっ!どぷぷっ!どぷん!
膣洞深く突き刺さった肉棒が、先端から灼熱のマグマを噴きあげた。
今日二度目にもかかわらず白濁液はさらに濃く、先程の射精など比にならない量が放たれる。その勢いは膣内の愛液を押し返し、ラティアの中を蹂躙してゆく。
びゅぷっ、びゅくっ、ごぶっ…こぷっ………。
膣洞もまるでペニスごとザーメンを飲み込むかのように顫動し、尿道内に残った最後の一滴まで絞りだそうと肉穴全体で扱きあげる。
「あっ…あったかい…わたしのなかで……ありおん…」
やがて襲ってきた凄まじい疲労に耐えかね、アリオンはラティアに倒れかかる。ぶつかる寸前で最後の力を振り絞って体を支えると、潤んだ瞳が目の前にあった。
どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねる。ゆっくり、ねっとりと互いの舌を絡ませる。
いたわるようにラティアが腕を回してアリオンを抱き寄せると、彼も逆らうことなく汗でぬれた体をぴったりとくっつけて、きつく、きつく抱きあった。
(…あったかいな)
心地よい温かさに包まれながら、アリオンの意識は眠りの沼に沈んでいった。
時間が迫っていた。
規定された時間を迎えると自動的に転移術が発動し、ラティアの身体は本部に戻ってしまう。
「……アリオン」
ベッドに腰掛け、そっと彼の頬を撫でる。初めての性交の疲れもあってか、アリオンはぴくりとも動かない。泥のように眠っている。
精液の採取量は十分とは言えなかったが、彼女はそれ以上彼と交わろうとは思わなかった。むしろ交わる必要はないと思っていた。
これは単に、行為を継続しても精液が得られないから、という判断なのだろうか。
行為の後で彼の汗や諸々の体液を拭い、翌朝の仕事に支障をきたさないように特製のドリンクを用意しておいた。念の為、腰痛に効く塗り薬も枕元に置いておいた。
こうしたアフターケアも、彼女に設定されたことなのだろうか。
「…そうではないと、思いたいものです」
誰に言うでもなく呟き、最後の仕上げに踵で床を軽く叩く。同時に彼女を形作っている術式を一時的に弱め、身体を構成する黄土を僅かばかり落とす。意味はよく分からないが、設定なので従うのが当然である。
与えられた任務の全てをやり遂げた事を確認し、ベッドを離れようとした時だった。
彼女の手を、アリオンが掴んだ。
「………いくな」
「アリオン…」
彼は起きたわけではない。彼の意識は今だに夢と現を彷徨っている。言ってしまえば寝ぼけているのだ。
「……いくなよ…」
「…」
彼女は何かがこみ上げてくるのを感じた。
先程も言ったように、彼女の体内には精液貯蓄タンクとそれに繋がる管が数本あるだけである。肺や心臓も無ければ血液だって無いのだ。
にもかかわらず、彼女は感じた。
胸の苦しさ。
概念上でのみ知る苦しみや悲しみとは違う。彼女という存在の根本に作用する、言葉では言い表せない複合的な感情。
彼女の両肩が淡く光る。
「アリオン…放して下さい」
彼は放さない。
彼女も引き剥がそうとはしない。ハダリーS3がそうすることをラティアが拒んでいる。
「苦しいのです…。辛いのです…。お願いですから」
聞くわけがない。彼は目覚めていないのだから。
「……アリオン…胸が…苦しいのです…!」
彼の手にすがりついた。ハンマーを握り続けた手の皮は厚く、大きく、とても温かかった。
その力は弱々しく、ゴーレムであるハダリーS3にすれば容易く振り払える程度である。
しかしラティアには、いかなるものを持ってしても引き剥がせない力で掴まれているように感じた。
「アリオン…アリオン…っ。嫌です。貴方と、貴方と離ればなれになるなんて…!」
残り2分。今、彼女は真に理解した。
もう彼には会えない。
自分は、死ぬ。
別離の悲しみが、沈黙と共に彼女の背中に大きくのしかかった。
早く部屋を出てさえいれば、出てさえいればこんな感覚を獲得することは無かったろうに。最後まで創造主に与えられた設定に、恋心と逢瀬の余韻に夢見心地のまま任務を全うできたろうに。
しかし、今さら自分に何ができよう?自分は創造されたのだ。創造主に従う宿命なのだ。
そう、私…。
はっと彼女は気が付いた。今、自分は何を考えただろう?
任務を全て達成した、いわば空っぽの彼女の中に何かが芽生える。
私は、何だ?いや、誰だ? 今、私は『自分』の事を何と呼ぼうとした?
確かに、ハダリーS3は創造主の命に従わなければならない。だが、今の自分は?
彼女の中にあった知識が、芽生えた何かと爆発的な速度で結びつく。かつて経験した事もなく、知識にもない巨大な奔流の中に、小さな光が見えた。それはともすれば消えてしまいそうなものだが、賭けてみる価値はあるかもしれない。
『自分』を通す価値があるかもしれない。
彼女は微笑んだ。やろうとしている事の荒唐無稽さを自嘲しているのではない。たった一晩で愛から死への恐怖までを獲得した自分が、可笑しくて仕方ないのだ。そしてそれを授けてくれた目の前の男が、愛おしくてたまらないのだ。
彼の指を優しく剥がす。そこに温もりへの名残惜しさは微塵も感じない。彼女は決意したのだ。もう一度、この手を握る為に帰ってくると。
「…いってきます」
沈黙に背中を押され、彼女は部屋を出た。初めてこの部屋に入った時とは違う、凛とした表情で。
「休眠待機中の全ハダリーシリーズに接続」
薄暗い部屋の中。アリオンの前には今、ハダリーS3がいる。両手足を縛られ、先程のように顔を床に擦りつけて。
彼はあの告白の後で嫌だと断われるような鬼畜ではない。ないのだが、
「さあ、早く踏んで下さい」
「ど、どこを?」
「顔です。まず顔です。何よりも顔です」
彼は今まさに鬼畜になろうとしていた。不本意だが。できれば止めたいが。
「さあ。さあ」
ハダリーS3はこれ以上ないぐらい興奮した表情で、息を荒くしながら催促する。
(…す、素足で軽く踏めば…)
アリオンが靴を脱ごうとした時だった。ハダリーS3の表情が再び凍る。
「何をしているんです、板金工アリオン」
「え?」
「何故靴を脱ぐんです。よもや、遠慮しているのではないでしょうね」
冷たいその声に、彼は自分が叱責されているのだと気が付いた。
「さ、さすがに靴を履いたままじゃ…」
「ダメです。そのまま踏んで下さい」
「ええ?!」
「御安心を。我々の耐久性は十分です。遠慮なく踏んで下さい。この顔を潰すぐらいに」
「でも」
彼にとっては耐久性云々の問題ではないのだ。だがハダリーS3はなおも続ける。
「殺す気でかまいません。顔に抵抗を感じるのなら腹部を蹴ってもかまいません。乗ってもかまいません。気持ち悪いとお思いでしょう?思う存分罵って、その嫌悪感をぶつけて下さい。どうか」
叱責が指南となり、ついには懇願になった。先程までの彼女からは考えられない位に切迫した声だった。
「へ、変態だ」
それは職場で同僚をおちょくるものとは違う、軽蔑を滲ませた驚愕の言葉だった。
思わず漏れた本音に、しまった、と慌てて口を覆う。すぐに謝ろうとしたのだが、ハダリーS3は身をくねらせながら悦びの声をあげた。
「あぁ…そうです。ハダリーS3は変態なのです。愛しい人に罵られて悦び、踏まれることを望む変態なのです!さあ、踏みつけ、痛めつけて下さい!もっともっとなじって下さい!」
「………ッ」
アリオンは痛いくらいに歯を食いしばる。あたかもこれから踏まれるのは自分であるかのように。
目の前のこれは、いや彼女は自分を愛していると言った。
夜が明ければ、彼女は死ぬと言った。
その彼女が、自分に痛めつけられることを望んでいる。
アリオンは意を決してハダリーS3を跨ぎ、大きく膝を持ちあげた。
そしてそのまま彼女の顔へ…
「………? 板金工、アリオン?」
彼の足は床を踏み鳴らしただけに終わった。そのまま彼女の上に覆いかぶさるようになり、縛られた手をおさえ付けながら口づけた。
舌を絡めることもなく、たった数秒押しつけるような、ただ唇を重ねるだけのキスだった。
「……板金工アリオン、何のつもりですか」
「こ、こう…手足縛られた上に覆いかぶさってキスとかされると、無理矢理っぽくないか?」
しばしの沈黙の後、やっと彼の行動の意味を理解したかのように目を細め、彼女は言った。
つまり。
「踏んではくださらない、と」
一応、彼なりの『鬼畜っぽい』行為のつもりだったのだが。彼女の低い声にアリオンもまた低い声で答える。
「すまねぇな…オレはお前の趣味を受け入れられねえ。…すまん。だが、」
好きだと言ってくれた相手を踏むことはできないんだ。
彼はそう言うと顔をそむけた。
「…嬉しかったんだよ。その…愛してるってのが」
彼にとってそれは生まれて初めて異性から聞く言葉だったのだ。嬉しくないわけがない。それ故に彼女の目的を、彼女の望むやり方で達成させようと思った。いささか無理をしても。
だが、これである。
彼の感じた嫌悪感は決して彼女の性癖に関するもだけではなく、それを受け入れる余地のない自分の小ささにもあったようにも思える。
己を通すか、彼女を通すか。
そのせめぎ合いの結果が、これである。
己を通した。いや、彼女を拒絶してしまった。
アリオンは自分がとてつもなく情けなくなって俯いた。
「本当に、すまん」
「ふ……」
「?」
「ふ、ふふふ。ふふふふふ」
何やら不穏な含み笑い。
おそるおそる顔をあげると、その声には似合わない嬉しそうな表情でハダリーS3が笑っている。
「先程までの貴方の言動から、拒絶する場合は声を荒げるものとばかり思っていたので、意外です」
果たしてこれは非難されているのだろうか、とアリオンは首をかしげる。
オメエはオレがどんな人間だと思ってたんだ、という言葉は一先ず飲み込んでおいた。
「そうですね。私を受け入れていただけないのは、とても残念です。ですが」
「…なんだよ?」
「先程の口づけ…貴方なりに、私を受け入れようとして下さったのですね」
「………」
「その上、拒否の理由が『愛していると言われて嬉しかったから』…。ふ、ふふふふふ。非論理的な理由」
「な、何が可笑しいんだよ」
「いえ。私は貴方の言葉をどこか嬉しく感じているのです」
貴方は優しい、優しすぎるのですねと、ハダリーS3は静かに笑った。
その肩が淡い光に包まれる。青白い、柔らかな光に。
「お、おい」
彼女はアリオンの声に、穏やかな微笑みを浮かべたまま自身の肩に目をやった。それとほぼ同時に光が収束する。
「…設定が書き換えられたようです」
「へ?」
アリオンはまたも素っ頓狂な声をあげた。
「術式の組み合わせと個体の心情によって書き換えが発生してしまうのですね。成程、他の個体にもこのような事が…。しかし管理者権限を超えて根幹部まで書き換えられるとは、予想外です」
どうやら彼の知らぬところで話が進行しているらしい。いわゆる置いてけぼり状態である。
「おい。わかるように言え」
「…お気になさらず。それよりも」
ぶちりと手足を拘束していた縄を引き千切る。
「私もいささか事を焦り過ぎました。貴方に無理をさせてしまいましたね。…謝るべきは私かもしれません」
「いや、俺は…」
そしてすっくと立ち上がると、ハダリーS3はベッドに腰掛けた。先程向かい合っていた時のような機械的な姿勢ではなく、どこか『しな』のある座り方で。
「お尋ねします、板金工アリオン。貴方はどのような形でならば私を抱いてくれますか?」
口調は相変わらずであるものの、その中にはどこか母親が子供に欲しいものを訊くかのようなふうがあった。彼女は小首を傾げ、アリオンの返答を待っている。
アリオンはしばらくそっぽを向き、頭をがしがしとかきむしってから言った。
「…踏むとかそういうんじゃなく…その、文字通りというか、普通に…だな」
「つまり、こうですか?」
ふわりとハダリーS3が動き、ゴーレム本来の力の一万分の一にも満たない力でアリオンの手を引いた。そのまま彼の体を自身の胸の中へと導く。
二人はベッドの上に倒れ込んだ。アリオンも大柄なので下敷きになってしまったハダリーS3が心配になったが、そこはゴーレムである。彼女は気にする素振りをまったく見せず、彼の身体に腕を回した。
手足の長い彼女が抱きしめると、正に彼の体を包み込むような形になる。
アリオンは突然のことに一瞬体を固くしたが、その柔らかな身体と香しい香りに包まれるとすぐに緊張を解いた。
「いかがでしょう、板金工アリオン」
「そ、そうだな、いいと思うぜ。…あ、あと」
「はい」
「板金工アリオンは止めろ。アリオンでいい」
「…わかりました。アリオン」
きゅっと腕の力が強められる中で、アリオンは身じろぎをして顔を彼女に向けた。
もう少し早ければ、彼女の肩が再び光っていたのが見えたはずである。
「お前の事は、何て呼べばいい?型番じゃあ味気ない」
「どうぞご自由に。貴方に呼ばれるならば、どんな名でもかまいません」
「自分で決めろ。オレは知らん」
そんな彼のぶっきらぼうな言葉さえも愛しい、というようにハダリーS3は笑う。
彼女は与えられた知識や記録を瞬時に洗い、己の名を決定する。目の前の、彼に呼んでもらうための名を創造する。
先程とは反対側の肩が光に包まれた。
「それではラティアとお呼び下さい」
「ラティア?」
「はい。古代の伝説にある、意思を持った彫刻達から一文字ずつ拝借しました」
彫刻ねぇ、とアリオンは目をつぶってラティアを抱きしめた。
土からできているが故か、心臓の鼓動も呼吸音も聞こえない。だがその身体には人間と同じ温もりがあった。母に抱かれているような、そんな安らかな気持ちが心に湧いてくる。
「こんなに柔らかいのにねぇ」
ふふふ、とラティアが彼を撫でた。
「アリオン」
「何だよ、ラティア」
「生憎ですが、私には『通常の性交』に関する知識が十分ではありません」
「リードはできんぞ」
「童貞には荷が重いですか」
「うるせぇ。手探りでやるさ」
それではまず、とラティアはアリオンの顔を引き寄せた。
「もう一度、キスから始めるべきだと思います」
「…奇遇だな。オレもそう思うよ」
しばし見つめあった後、彼は目の前の艶やかな唇に自身の唇を優しく重ねた。
(とは言うものの、相変わらず難易度たけえなぁ…)
相変わらず薄暗い部屋の中。ラティアに覆いかぶさりながら、アリオンは思う。
今、彼の目の前に彼女の顔は無い。その代わりに、彼女の羞恥の部分がすぐそこにある。
ぴったりと閉じた秘割。その周囲には産毛すら無く、小麦色のぽってりとした丘があるだけである。クリトリスは包皮に包まれ……とまぁ目のやり場に困ると思いつつも、初めて見る女性器をついつい観察してしまう。
一方のラティアといえば、
「すん…すんすん…。ああ、汗臭くって生臭い…。この匂い、堪りません」
下着を脱いだ彼の股間に顔を埋め、鼻をぴったりとつけてその匂いを嗅いでいた。
踏みつけるよりはと快諾したこの体勢だが、いざ愚息を彼女の前に突きつけるとそれはそれで申し訳ない気分になってくる。だがそんな事、彼女は一切気にかけない。
彼女の鼻頭が肉棒をくにくにと刺激する。それでなくともその吐息や美女が股間に顔を埋めているという状況に、彼の分身は限界以上にその身を固くしていた。
僅かに反り返った肉棒の裏筋からふぐりの方へと鼻がすべり、なぞりあげる。
「くんくん…睾丸の裏も……饐えた匂い」
繰り返すようだがアリオンには女性に嗅がせる趣味もないし、こう言われて喜ぶ趣味もない。何だかいたたまれなくなって口を開いた。
「やっぱり、水浴びして」
「駄目です」
即座に否定された。陰毛を揺らす彼女の息が非常にくすぐったい。
「ああ…貴方はこれを咥えさせるのですね。この、酷い匂いの」
「だからぁ」
「聞き流して下さい。独り言です」
どうやら彼女の中ではそういうシチュエーションであるというふうになっているらしい。
「しかし、酷いと言われちゃ黙ってられ」
「あむ」
うあっ、とアリオンが短く声をあげた。彼の言葉を遮るようにラティアが亀頭を口に含んだのである。
「うっ…あ、あ…!なんだ、これっ!」
傘の部分に唇がひっかけられ、舌で全体を舐めまわされる。
ざらついた舌。温かく、湿った口内。とろりと粘度の高い唾液が絡みつき、くちゅくちゅと音を立てる。
未知の感覚に腰が落ちそうになるが、震える膝で何とかそれを支えた。
「んく……んむ、ん…じゅちゅっちゅるっ」
初めは控えめだった舌の動きが、だんだん活発になってくる。
鈴口をぐりぐりと穿ったかと思うと唇が傘下をきゅっと締め付け、先走りごと亀頭全体が吸い上げられる。そして裏筋を責めると彼の腰が震えることに気がついたのか、重点的にそこを狙うようになった。
「う、うう…。くっ、ああぁっ!」
こみ上げる射精感を何とかごまかそうと、彼は目の前の秘割に手を伸ばした。
「んむ…?ん、ふぁひおん?」
亀頭を咥えたままラティアが喋ると僅かな振動が肉棒を刺激する。唇を噛んでそれを堪え、濡れた陰唇を両手の親指で開いた。
彼女の身体は陽に焼けたような小麦色だが、中の恥肉は鮮やかなピンク色だった。呼吸をするようにひくつくそこはたっぷりの愛蜜にぬめり、部屋の僅かな光を反射しててらてらと光っている。
「ん、くぅん…。アリオン…ど、どうしてそんなところ…」
何かもやもやとした感覚がラティアの中に芽生えた。
彼から逃れるように腰をくねらせるが、それはむしろ彼を誘うような動きになってしまったようである。加えて立ちのぼる雌の香りに中てられたかのように、アリオンは舌を伸ばして蜜を舐めあげる。
不思議な味だった。ほんのりと酸っぱい蜜は、海水と雨上がりの地面の匂いを足して二で割ったような香りがした。
一舐めするころには躊躇いが消え、彼はラティアの足を抱え込むようにして顔を埋め、蜜溜りに舌を沈めた。
「ふぁ?あ、ああ…アリオン、熱い…熱いですぅ…んんっ…」
足元で彼女が耐えかねたように声を絞り出す。アリオンはその声に、嗜虐とはまた別の興奮を覚えた。切れ切れの声からは、ラティアの整った顔が快楽に歪んでいるであろうことが容易に想像できた。
(感じてるんだ。俺の、舌で)
何だか嬉しいような得意なような気分になった彼は、サーモンピンクの粘膜に口づけた。
じゅるるっと音を立てて愛液を啜ると微弱な振動が膣口を震わせ、がくがくと大きく彼女の身体が揺れた。
「あひっ…ん、んぐ、んむぅっ」
対抗するかのように、ラティアが肉棒全体を咥え込んだ。
「くあぁっ!な、なんか、当たってるっ!包まれてるっ!」
アリオンのイチモツは決して大きくないが、ラティアの喉に触れるには十分な長さがあった。
彼女の唇が陰毛に触れるぐらいぐっぷりと飲み込まれ、先端が奇妙な感触の物に包まれる。温かく湿った柔らかなそれは、まるで別の生きもののようにぐにゅぐにゅと蠢く。更に彼女が頬をすぼめると、肉棒全体が肉の沼に埋まったかのようであった。
「んん…じゅ……れる……じゅる、じゅ……」
ゆっくりとしたストロークでラティアが頭を動かし始める。熱い舌を蛇のように絡めて引き、亀頭にたっぷりと唾液を擦り付ける。
「ありおん…んちゅ…れる…きもひ、いいれふかぁ?ん、んむっ」
そして鈴口に口づけると頬の裏の粘膜に擦りつけたり舌でくるんだりしながら頭を進め、根元に達すると頭を揺らして喉奥に押しつける。
「ば、バカっ…咥えたままぁ、くぅ喋るなっ!」
「んふふ…おひに、めひは、ようれふね…んじゅっちゅる、れるん」
彼女は肉棒を咥えたまま嬉しそうに笑ったり、感想を求めたりする。それがさらなる刺激となり、アリオンの腰のわだかまりを大きくする。
激しさは一切なく、あくまでゆっくり、優しく。暴力的な快感を、愛しさに満ち満ちた動きで送りこんでくる。
「チクショウ…おかえしだっ。んむ、じゅるっ」
与えられる快感をそのままラティアにも送り返したい一心で、アリオンは目の前の蜜沼に舌を沈めた。
ぽてっとした恥丘にかぶりついて舌を入れると、目の前に彼女の肛門がはっきりと見えた。
「んんっ…ん、ぐ、むっ…ふっ…んむぅ…」
足元でラティアが小さく呻くたびに小さなすぼまりが、ひく、ひく、とひくつく。その動きが可愛らしくて、舌の愛撫を続けながら蜜を絡ませた中指をあてがい、こねる。
「ひぁっ?…りょうほうは、ん、だめです…それ、ふぁ、だめぇ…っ!」
ペニスから口を離し、ラティアはふるふると身体を震わせる。その言葉とは裏腹に蜜壺からは愛液が溢れだし、淫孔はほぐれて中指を第一関節まで飲み込んでいる。
更にアリオンの舌は、包皮に包まれたクリトリスに向かう。
「ひっ、そ、そこは…剥いてはあっ!くっ、ひいぃ!」
彼女の言葉が終わる前に包皮を剥き上げ、その中の小さな突起を舌先で突っついた。途端に引きしまった尻がビクリと跳ねた。抱え込んだ腕でそれをおさえ付けながら、アリオンは尖った肉芽に吸いついた。
「ひぅっ!ひゃ、うんっ!やあ、あ!くぅ、んんっ!」
舐め転がすごとにラティアが甲高い声をあげ、それに合わせて肉芽がその実を太らせていく。
むっくりと立ち上がった肉芽が徹底的に舌で小突かれ、くるまれ、嬲られる。しまいに強く吸い上げられると、足元のラティアが声にならない叫びをあげて震えた。
あんな澄まし顔をしていたラティアを啼かせているということがひどく楽しく、またそんな声を聞かせてくれる彼女が愛しくもあり、彼は愛撫に没頭した。しようとした。
「…ふぁ、あ!んんっ!…あむ、れる、ちゅ…ちゅうっ!」
「うあ!こ、こら!」
今度はアリオンがびくりと背を反らす。ラティアが彼の睾丸をその温かな口内に含んだのだ。
飴玉を転がすように舌でころころと転がし、時おりちゅうちゅうと吸いたてる。更に両手を駆使して唾液に塗れた竿を擦り、つつつ…と裏筋をなぞり、先走りが溢れだす尿道を穿った。
抑え込まれていた射精感が再び頭をもたげ始めた。かと思うと怒涛の勢いでペニスを駆け上がってくる。
「ら、ラティア…!でる!出るぞ!!」
すかさずラティアが、再び肉棒をぐっぷりと咥え込んだ。同時に手で睾丸をやわやわと揉みあげる。 そしてあの喉奥に達した時…
「あぐ!う、ああああああっ!!」
びゅ!びゅる!びゅく!どぷ、どぷん…
獣じみた咆哮とともにザーメンが吐き出された。
直接喉に叩きこまれるゼリーのように濃厚なそれを、ラティアは咽ることなくこと無く飲み込んでゆく。
びゅ、どく、どぷどぷ、どくん……
「うあ、ああ…とまんねぇ…!ラティアぁ…っ!」
必死に崩れ落ちるのを堪えていた腰にラティアが手を回し、強引に引き寄せた。アリオンがのしかかり、彼女の口にペニスを突き込んでいるかのような形になる。そんなことも気にせず、ラティアは喉を鳴らして精液を貪っている。その構図がとても背徳的に思え、アリオンの分身はラティアの口内で更に大きく跳ねた。
やがて噴出が収まり、彼が腰を引こうとしても彼女はなかなか肉棒から口を離さない。
「んふ……ちゅ、ちゅう…ん…ちゅる」
やっと頭を引き始めても、一滴たりとも残すまいと頬をすぼめて尿道に残った精液を吸いだす。
そして最後に傘下を唇で挟んでひときわ大きく吸った後で、ぽんっと栓を抜いたような音とともにペニスは肉の沼から抜け出した。
(なるほど…エネルギーの採取、か……)
気だるい身体をごろりと返し、アリオンはベッドに転がった。
このままベッドに埋まり込んでしまいそうなくらい身体が重いのに、ペニスは萎えることなく天を衝いている。一回、しかもあれほど出したというのに。
(…ヤローってのは、不便な生きモンだなぁ…)
忌々しげに溜息をついてみた。
「……アリオン」
「あんだよ」
「その…あの…」
彼の横に座ったラティアが、股の間に手を入れたままもじもじと申し訳なさそうに言った。
「あの…貴方がいじるから…」
「……あー。悪い」
「い、いえ、そうではなく。なんであんなことを…?」
なんで。
自分はゴーレムなのに。たった一晩の関係なのに。
彼女の問いを鼻で嗤い、アリオンは目を閉じた。
「恋人なんだろ」
「…え?」
「恋人なら…相手にも気持ち良くなってほしいもんなんだよ」
我ながらクサい台詞だ、と目を閉じたままそっぽを向いて苦笑いをする。
さすが童貞、ロマンチストですね。そんな気恥かしさを紛らわせてくれる台詞を期待していたのだが、聞こえるのは自身の荒い息のみ。後ろで彼女の肩を包む淡い光に、彼は気がつかない。
案外気が効かないな、とまた苦笑いをした彼の顔が温かな物に包まれ、再び天井に向けられた。重い瞼を持ち上げてみると、潤んだ瞳が眼前にあった。
「…アリオン…」
まるで子犬のように鼻頭を擦り付けた後、ラティアはその薄い唇でアリオンの唇に吸いついた。
「アリオン、アリオン…私の、愛しい人」
彼女は艶っぽく鼻を鳴らしながら、ちゅっちゅっと唇を押しつけてくる。
アリオンも僅かに口を開けると、彼女の舌がぬるりと入り込んでくる。互いの思いを確認するかのように舌を絡め合い、交換した唾液を嚥下する。
やがてラティアが唇を離すと、二人の間を銀色の橋がつないだ。
「んはっ……アリオン、もう我慢できません…いいですね?」
小麦色の肌を上気させ、ラティアが彼の上に跨る。
蜜に濡れた秘割をペニスに押し当て、もどかしげに腰をくねらせている。
「…ダメだ」
「えっ!」
「オメエが上なのはダメだ…。吸い尽くされて死んじまう」
「上なのは…?」
彼は重い身体に鞭を打って起き上がり、代わりにラティアを横たえた。最初はポカンとしていたラティアもすぐに嬉しそうにはにかむ。
「…この辺か?」
「もう少し下…そう、そこです」
猛りに猛った肉棒を彼女の指示通りあてがう。
「さあ、来て下さい、アリオン…っ」
抱っこをせがむ子供のように、妖艶な笑みを浮かべたラティアが腕を伸ばしてくる。その腕の中に吸い込まれるようにゆっくりと腰を進めた。
「う……くうぅう…」
「ふあぁ…きてる、入って来てますう…!」
ラティアの口、膣、肛門は全て体内の精液タンクにつながっている。そのため彼女は処女膜は当然のこと、子宮はおろか内臓というものがない。アリオンのペニスは終端のない肉筒にすっぽりと飲み込まれてしまった。
だが処女膜が無くとも、男を受け入れるのが初めてであるというのは変わりない。たっぷりの愛液で潤っていた処女膣にもまだ固さが残っており、ペニスをきゅうきゅうと締め付ける。
いまだ消えぬ気だるさも手伝い、アリオンは挿入後もしばらくは動かずラティアを抱きしめていた。
「ん…いかが、ですか?私の膣内は…気持ちいいですか?」
「ああ。…気持ち良くて、すげえあったけえ。オメエは?痛かったりしねえか?」
私はゴーレムなので、そのような事は。
そう言いかけて彼女は思いとどまった。この言葉は今の自分を表すには相応しくない。
「はい。…私も温かくて、貴方の鼓動が伝わってきます」
これが、愛おしいということなのですね。と彼女は抱きしめる腕に力を込め、甘えるように火照った頬を擦り寄せた。
溶けだした淫泥が、うねうね、くにゅくにゅ、と蠢き、肉棒に絡みつく。
「うぁっ…なか、動いて…」
「ふ…あ…あなた専用になっているんです。アリオンの形を覚えているんです」
彼女の言葉通り、膣内の感覚が見る見るうちに変わっていく。
柔らかくほぐれた膣洞はアリオンを優しく包み込み、亀頭の方から溶かそうとしているようだった。
「私は大丈夫ですから、もっと、もっと貴方を感じさせて下さい」
その言葉に応え、アリオンはぎこちなく腰を動かし始める。
絡みつく淫泥から逃れるように亀頭まで引き抜くと、愛蜜に濡れた肉茎が姿を現した。そしてまた、真っ直ぐ奥まで突き込んでいく。
どんなに荒く突き込んでも、ラティアの膣はぬっちりとペニスを受け止めてくれる。
「ふぁ…あ、は、ぁぁ…」
ラティアが耳元で切なそうに啼いた。それに合わせて膣洞がきゅっ、きゅうっと締め付ける。白く濁った愛蜜を垂れ流し、もっともっととせがむように。
こうなるともう、勝手に腰が動いてしまう。
引き抜き、突き込み、また引き抜き、貫く。
濡れ塗れた膣洞を勃起しきった肉棒が擦り上げる音が薄暗い部屋に響く。アリオンはラティアの両脚を抱え込み、奥の奥まで抉るように突きあげていた。
「ひっ、ひあっ、あ、りおんっ…ありおんんっ…!」
涎を拭う事も忘れたラティアが、蕩けた顔で彼の名を呼ぶ。
大きく張ったエラが淫泥をこね回し、濁った愛蜜をかき出す。奥まで誘い込むように蠢く膣内に、肉棒がいっそう反り返る。時おり結合部分からごぷっと音がしてしぶきが飛び散る。
「ラティア…」
抱えていた両脚を放し、彼女のつつましやかな胸に手を伸ばす。
「あ、ま、まってください…」
表面を覆っていた薄布が取り払われ、小麦色のふくらみが姿を現す。
肌よりも色素が薄い乳輪の中心では、薄桃色の乳首がツンとその身を尖らせていた。
「あう…ち、ちいさいですよね…恥ずかしい…はずかしいっ…!」
最早はっきりと感じるようになった恥ずかしさに耐えかね、手で顔を覆ったラティアがいやいやと首をふる。
「んなこたぁない。かわいいじゃないか」
「そ、そうでしょうか…?」
にっこりと笑ったアリオンは、その乳首に吸いついた。ころころと舌で転がし、舌で甘噛みする。
もう一方の胸にも手を伸ばし、すべすべの肌を撫で、親指の腹で固く尖った乳首を弄ぶ。
「あ…ふ、やあぁぁ…」
溜息のような喘ぎ声と共に、ラティアはふるふると切なげに身体を震わせる。
更にちゅっ、ちゅっと音を立てて乳首を吸い上げると、
「あ、んっ、はぁ、ひゃあっ」
切れ切れの可愛らしい声があがる。
「あ、りおんん!そんなに、すってもぉっ!ぼにゅうはぁ…っ!」
「そうか?なんか甘い気がする」
「もぉっ!ちがうんです。ちがうんですぅ…!」
甘い声をあげたラティアは彼の首に腕を回し、もじもじと腰を押し付ける。
それを合図に、アリオンは再び抽送を開始した。
彼は先程よりも激しく腰を叩きつけ、それに合わせてラティアも腰を動かす。ぐちゃっ、ぬちゃっと粘ついた水音に二人の肌がぶつかり合う音が加わる。
「あぅ、く、あうううぅ、こんな、こんな感覚、知りません…!あぁ、だめ、だめぇっ!」
体中を突き抜ける未知の感覚に、ラティアは声を抑えきれない。
ねとねとに蕩けきった淫泥の中で、アリオンも急激に高まってくる。
充血した亀頭がいっそう膣洞を押し広げた。
「んぅあ!大きくなってる?!あ、ありおん、だすんですね?びゅ、びゅって、だすんですね?」
「ああっ…!もう、げんかいだ…くぅっ!」
「きて!きてください!わたしの、わたしのなかに、たくさん、たくさん!」
アリオンがひときわ大きく突き込むのと、ラティアが足を絡めるのはほぼ同時だった。
腰にたまっていた射精感が臨界点を超え、ペニスを駆け上る。
「ありおん!くる!なにか、はじけてぇっ…うあぁぁあああ!」
ぎゅうっとラティアがしがみつき、大きく啼きながらがくがくと震える。
そして、
「ぐ、ぅううううっ、おおおお!!」
びゅびゅっ!びゅ、びゅるっ!どぷぷっ!どぷん!
膣洞深く突き刺さった肉棒が、先端から灼熱のマグマを噴きあげた。
今日二度目にもかかわらず白濁液はさらに濃く、先程の射精など比にならない量が放たれる。その勢いは膣内の愛液を押し返し、ラティアの中を蹂躙してゆく。
びゅぷっ、びゅくっ、ごぶっ…こぷっ………。
膣洞もまるでペニスごとザーメンを飲み込むかのように顫動し、尿道内に残った最後の一滴まで絞りだそうと肉穴全体で扱きあげる。
「あっ…あったかい…わたしのなかで……ありおん…」
やがて襲ってきた凄まじい疲労に耐えかね、アリオンはラティアに倒れかかる。ぶつかる寸前で最後の力を振り絞って体を支えると、潤んだ瞳が目の前にあった。
どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねる。ゆっくり、ねっとりと互いの舌を絡ませる。
いたわるようにラティアが腕を回してアリオンを抱き寄せると、彼も逆らうことなく汗でぬれた体をぴったりとくっつけて、きつく、きつく抱きあった。
(…あったかいな)
心地よい温かさに包まれながら、アリオンの意識は眠りの沼に沈んでいった。
時間が迫っていた。
規定された時間を迎えると自動的に転移術が発動し、ラティアの身体は本部に戻ってしまう。
「……アリオン」
ベッドに腰掛け、そっと彼の頬を撫でる。初めての性交の疲れもあってか、アリオンはぴくりとも動かない。泥のように眠っている。
精液の採取量は十分とは言えなかったが、彼女はそれ以上彼と交わろうとは思わなかった。むしろ交わる必要はないと思っていた。
これは単に、行為を継続しても精液が得られないから、という判断なのだろうか。
行為の後で彼の汗や諸々の体液を拭い、翌朝の仕事に支障をきたさないように特製のドリンクを用意しておいた。念の為、腰痛に効く塗り薬も枕元に置いておいた。
こうしたアフターケアも、彼女に設定されたことなのだろうか。
「…そうではないと、思いたいものです」
誰に言うでもなく呟き、最後の仕上げに踵で床を軽く叩く。同時に彼女を形作っている術式を一時的に弱め、身体を構成する黄土を僅かばかり落とす。意味はよく分からないが、設定なので従うのが当然である。
与えられた任務の全てをやり遂げた事を確認し、ベッドを離れようとした時だった。
彼女の手を、アリオンが掴んだ。
「………いくな」
「アリオン…」
彼は起きたわけではない。彼の意識は今だに夢と現を彷徨っている。言ってしまえば寝ぼけているのだ。
「……いくなよ…」
「…」
彼女は何かがこみ上げてくるのを感じた。
先程も言ったように、彼女の体内には精液貯蓄タンクとそれに繋がる管が数本あるだけである。肺や心臓も無ければ血液だって無いのだ。
にもかかわらず、彼女は感じた。
胸の苦しさ。
概念上でのみ知る苦しみや悲しみとは違う。彼女という存在の根本に作用する、言葉では言い表せない複合的な感情。
彼女の両肩が淡く光る。
「アリオン…放して下さい」
彼は放さない。
彼女も引き剥がそうとはしない。ハダリーS3がそうすることをラティアが拒んでいる。
「苦しいのです…。辛いのです…。お願いですから」
聞くわけがない。彼は目覚めていないのだから。
「……アリオン…胸が…苦しいのです…!」
彼の手にすがりついた。ハンマーを握り続けた手の皮は厚く、大きく、とても温かかった。
その力は弱々しく、ゴーレムであるハダリーS3にすれば容易く振り払える程度である。
しかしラティアには、いかなるものを持ってしても引き剥がせない力で掴まれているように感じた。
「アリオン…アリオン…っ。嫌です。貴方と、貴方と離ればなれになるなんて…!」
残り2分。今、彼女は真に理解した。
もう彼には会えない。
自分は、死ぬ。
別離の悲しみが、沈黙と共に彼女の背中に大きくのしかかった。
早く部屋を出てさえいれば、出てさえいればこんな感覚を獲得することは無かったろうに。最後まで創造主に与えられた設定に、恋心と逢瀬の余韻に夢見心地のまま任務を全うできたろうに。
しかし、今さら自分に何ができよう?自分は創造されたのだ。創造主に従う宿命なのだ。
そう、私…。
はっと彼女は気が付いた。今、自分は何を考えただろう?
任務を全て達成した、いわば空っぽの彼女の中に何かが芽生える。
私は、何だ?いや、誰だ? 今、私は『自分』の事を何と呼ぼうとした?
確かに、ハダリーS3は創造主の命に従わなければならない。だが、今の自分は?
彼女の中にあった知識が、芽生えた何かと爆発的な速度で結びつく。かつて経験した事もなく、知識にもない巨大な奔流の中に、小さな光が見えた。それはともすれば消えてしまいそうなものだが、賭けてみる価値はあるかもしれない。
『自分』を通す価値があるかもしれない。
彼女は微笑んだ。やろうとしている事の荒唐無稽さを自嘲しているのではない。たった一晩で愛から死への恐怖までを獲得した自分が、可笑しくて仕方ないのだ。そしてそれを授けてくれた目の前の男が、愛おしくてたまらないのだ。
彼の指を優しく剥がす。そこに温もりへの名残惜しさは微塵も感じない。彼女は決意したのだ。もう一度、この手を握る為に帰ってくると。
「…いってきます」
沈黙に背中を押され、彼女は部屋を出た。初めてこの部屋に入った時とは違う、凛とした表情で。
「休眠待機中の全ハダリーシリーズに接続」
10/09/15 16:17更新 / 八木
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