読切小説
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葬儀屋 中間
「相変わらず、凄いなこれ・・・・」
ロウはジヴァに渡された紙を見ながらぼやいた。
その紙には、彼の一日の日程が事細やかに書いてあった。
「アヌビス達は自分の夫の行動を管理したがる、か・・・・・」
誰もいない遺跡の広間で彼は諦めのため息をついた、そのため息は静かな
広間を反響し彼の耳に入り、そしてまた彼がため息をつく。
そんな負の連鎖に彼が陥っていると、
「あなたなの?こっちまで気が滅入るようなため息をついてるのは。」
一人の女性が話しかけてきた。当然彼女もこの遺跡に住むアヌビスの一人だが
 他のアヌビス達に比べ少し年上な雰囲気を持っていた。
「ああごめん、聞こえてた?」
「広間がいくら広くても、あんな暗いため息ならいやでも耳に入るわ」
「そんなに暗い声だったか?え〜t」
「エストよ、昨日も会ってるのに酷いわね。
 それともジヴァ以外は覚える気無いの」

(エスト、ジヴァ達の姉的な存在であり、この遺跡の中では最も年長だ。
 ジヴァ達の仕事の管理をしているのもエストであり、実質この遺跡を
 取り仕切っているのは彼女だろう。
 それでも、お堅い印象があるかと思うと姉御肌で仕事から夫の管理の
 仕方まで親身に教えることから、ファラオ様やジヴァ達からの信頼は厚い。
 
 ここまではいい奴なのだが
 茶目っ気があるのか、俺に興味があるのか
 ジヴァにおかしなことを吹き込んで俺にちょっかいを出してきたり
 おかしな儀式に強制参加させたりなど、
 こっちを振り回して楽しむことがよくある。
 それにジヴァもなんだかんだで、エストにはなすがまま状態であり
 夫・振り回される側としては怖い限りだ)
 
「冗談だよ、っで俺になんかようか?」
「依頼がきたわよ」
「依頼ってなんだ」
ここに来て初めて聞く単語だ。
ジヴァからは依頼のことなど聞いていないし、
無論、渡された予定表にも依頼のことについては書いていなかった。
彼の戸惑う表情を見てエストは
「あの子から連絡が無いのは当然よ、
 話が急だったから、
 でも仕事については付き添いの私が教えるから、大丈夫よ」
「ジヴァに話したのか?」
「ええ、二つ返事であなたを貸してくれるって」
「拒否権は?」
「徹底管理されてるし、無いんじゃないの」
「泣けるぜ」



そんなわけで道中にて
ロウはエストから自分の依頼内容・行う事を聞いた。
「最近セクメーラ遺跡を誰かが破壊して、その部分を
 持ち去ってるみたいなの。
 あなたの仕事はその盗人を見つけ次第捕らえて
 セクメーらのアヌビス達に引き渡すこと、
 出来なければ殺してもいいそうよ」
「捕らえるか、殺すっていうのなら
 俺よりそっちのアヌビス達の方が適役なんじゃないのか?」
「普通の相手だったら確かにそうね」
「どういう意味だ」
「なんでも、その盗人はアヌビスの呪文が効かないらしいのよ
 っであなたの出番ってわけ。よく言うじゃない
 『毒を持って毒を制す』って」
「(俺は毒扱いかよ)
 了解。他に情報は無いのか、外見とか特徴とか」
「破壊作業から持ち運びまで、手作業で行うっていうのが特徴で
 外見の方は砂嵐の時にしか、現れないらしくて顔はもちろん、
 性別、人間か魔物かすら解かってないそうよ」
「全部手作業はあり得ないだろ。
 その前に、外見が解からないんじゃ捕まえようがないんじゃないか」
「はりこみしろだってさ」
「冗談だろ」
「冗談じゃないわよ」


セクメーラのアヌビス達、ファラオ様に挨拶もそこそこ、
俺とエストは用意された部屋に入った。
「ここのアヌビス達、なんか冷たいな」
「うちの子達みたいに女同士っていうのは
 嫌みたいだからね。欲求不満なんでしょ」
「早く終わらせないと彼女達に襲われるわよ」
「マジかよ
(まぁ確かにここのアヌビスの視線は明らかに俺の下半身に向いてた)
 っで明日は何時からはりこむんだ」
「明日からじゃなくて今からよ」
「は?」
「砂嵐の時間なんて予想できると思ってるの?
 ほら!さっさと荷物置いて外に出る」
朝のジヴァとのやり取りと似てるなと思いながら
俺はナイフと毛布を持って外に出た。


砂嵐にて
「砂嵐の時に来るっていったよな」
「相手にも都合ってものがあるんじゃない」
「まさかとは思うけど、見つけるまで待機なのか?」
「今ここで引き上げてここのアヌビス達に
 襲われるのと、盗人を見つけるまで待機、どっちがいい」
「待機してます」
(最近やっとジヴァが落ち着く位にまではなってきた、
 でもあの人数とぶっ続けでやったら確実に死ぬ!!)
「よろしい」


〜〜それからしばらく〜〜
盗人は現れたのだが、報告通り素手で
遺跡を破壊、そしてそれを持っていくという見事なまでの脳筋だった。
「あれだな」
「あれね」
「まずは話し合いからでいいよな?」
「何言ってるの。主ではないとはいえ
 ファラオの遺跡を傷つける者に生きる価値なんて無いわ」
「もともと捕まえる気無かっただろ」
「もちろん。
 先手必勝(=不意打)でいくわよ」
(間違ってないけど、間違ってるよな)
苦笑しながら俺はエストに続いた。



エストが気付かれぬように相手に近づき
ガンッ!
少し離れた俺にまで聞こえる鈍い音が鳴った。
(こりゃ、盗人も運が悪いな)と同情していると
バキン!
何か硬い物が折れる音がした、
注意深く見ると
盗人が殴られた姿勢からエストのロッドを足で折っていた。
咄嗟にロッドでガードしたからよかったが、予期せぬ相手の反撃に
エストは一瞬固まってしまった。
不意打ちというのは一撃で決めるものである
一撃で決まった思った時に相手から反撃をくらえば誰でも驚く、
だがその驚いている間に今度は自分が不意打ちをくらうのだ。
そして盗人が遺跡の一部を振り上げるのを見て
俺は手に持ったナイフを投げた。
「ほ!」
「!」
投げたナイフは当たらなかったが、牽制としては役に立った。
「ほら引くぞ」
「え、え?」
混乱してるエストを引きずり俺は盗人と距離をとった。
「なんなのよあいつ不死身なの」
「知るか、それよりも大丈夫か?」
「私は全然だけど、ロッドが〜〜〜」
「泣くなよ、それ貸してくれないか」
「折れてるけど」
「だからだよ」
「?まぁいいけど」
「さんきゅ」


折れて二本になったロッドを構えながら、俺は相手との距離を詰めた。
(遺跡に住んでからはジヴァとの訓練だけだったからな、
 殺されたくないし、殺したくも無い、
 自分で殺した奴を埋葬するなんて面倒はごめんだ)
昔の出来事を思い出しながら俺はロッドを握りなおした。

(こいつ大丈夫か?)
しばらく盗人と戦って俺は奇妙な感覚を覚えた。
相手がまったくガードをしないのだ。
急所は外しているといっても、力を抜いているつもりはない。
もう何度も折れたロッドで殴っているのだが。
(最初のナイフも自分の腕より、遺跡の一部を庇ってた気がするんだよな)
そうやって考えている間にも、また俺のロッドが盗人に当たった。
(頭がおかしいのか解からないけど、楽にしてやるか)
俺が腰からナイフを抜こうとした時

グシャリ
反射だった。相手がつっこんできて、俺は無意識のうちにロッドの柄の部分を相手に向けた。
いつのまにか馬乗りになっていた相手の下腹部にそれは刺さって、
(え?・・・・)
呆然としている俺の前で
ズチョリ
相手は自分でそれを抜き、溢れてくる白い物を見て驚愕した後
逃げ始めた。
「ちょっとロウ、ぼさっとしてないで追うわよ」
「ああ・・・」
馬乗りの時初めてわかったが、盗人は女だった。


盗人は何処から出てきたかという、地下階段を降りその奥へと進んだ。
私とロウもそれに続いた。
地下室に入るとそこには魔術書や工具などが散らばっていた。
「何かの工場なのこれ?」
私の問い掛けを無視してロウは淡々とその工場を見回した。
呼びかけても空返事だったため、私が諦めてしばらくすると。
「ゴーレムを作る場所だな、ここは」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「悪かったよ、無視してたわけじゃなくて、ちょっと色々な」
そう言う彼の顔には憂いがあった。
「今回のことと、この場所って何か関係あるの?」
「ここまでの情報を整理するとここが発端だろうな
 これ嗅いでみろ」
「え?・・・・ッ!!
 馬鹿!何て物嗅がせてくれるのよ!!
 しかもそれ私のロッドじゃない!!!」
「落ち着けよ、これはさっきの盗人の腹に刺さった時についたものだ。
 保存したことは無いから良く解からないけど、相当昔に出したものだろうな」
冷静な彼とは反対に私は鼻が曲がりそうだ。
「でここまでの情報を整理すると」

カキン

彼が手馴れた動作で工場の一部に触れると壁が動いた。
隠し扉というものだ。
情報を消化しきれずにいたが、取り合えず彼に続いた。



ロウのいつもと違う雰囲気に戸惑いながらも歩いて数分
開けた場所に出た思うと、そこには遺跡の一部と干乾びた死体
そしてその死体に覆いかぶさるように先ほどのゴーレム(盗人)がいた。
干乾びた死体や盗人がゴーレムだということより
ロウの探査・推理力に私は驚いた。
「多分このゴーレムは自分を作った主の墓を作りたかったんじゃないか」
「どういう意味」
「戦ってて解かったがこのゴーレムは人間的にいうとほとんど子供だ、
 性行為の為だけにか、無垢な子供であって欲しいからかは知らないが、
 基本的な知識、言葉すら知らなかった」
「・・・・・・・・・」
「この子がゴーレムで、このミイラが作り主なら話の辻褄が合う。
 ゴーレムは生きてるわけじゃないから、呪いは効かない
 それで精液を原動力にして動くから刺さった時、偶然精液の貯蔵庫を柄が貫通
 してついたんだろうな。
 主が死んでから、彼女のエネルギー供給源は無くなった。
 別の男からといっても、どこぞの砂漠で知識は無い子供
 新しい供給源は見つからず、エネルギーは無くなる一方、
 自分が動けなくなる頃を悟った時に偶然遺跡を発見、
 主の墓作りを開始。ってわけだ」
「ただ子供心で取ってみたくなっただけじゃないの、
 子供なら自分の力量も知らずやりそうだわ」
「そうかもしれないな」
彼はあっさりと私の批判的な考えを受け入れた。
「でも、ゴーレムっていうのは何でかは知らないが
 主に先立たれると決まって墓を作り出して
 終わったら、自分の活動が停止するまで
 主の墓の隣に居続ける。そういう奴等なんだよ」
昔を思い出したのか、彼は憂い、悲しみ、後悔などが
入り混じった表情をしていた。
そんな彼に何を言おうと迷っていると
「ま、ここに俺が来たのも何かのめぐり合わせだ」
いきなり明るい声を出し腕を振り始めた。
急な感情の変化に空元気かと思ったがそうでは無かった。
「何をする気なの?」
「本業に戻るだけさ」
彼はにやりと笑うとナイフと先ほどの折れたロッドの先端部分を取り出した。
「ここにある遺跡の一部って戻さなきゃ駄目か」
「(駄目って言えるわけ無いでしょ・・・・)
 無くなったって言えば大丈夫よ」
「さんきゅ」
そういう彼は私の知るロウではなく
葬儀屋のロウだった。




帰りの馬車にて
埋葬も終わり、盗人は始末したということで依頼は
無事?解決して二人で馬車に揺られていると、
「初めてだったな」
「何が?」
「ああ何でもないよ」
「気になるから教えてよ」
「ゴーレムを主と同じ所に埋葬するのが」
「今までしたことないの?」
「ゴーレムにはたくさん会ったことはあるけど
 無いんだよな」
「何で?」
「全員に『主と同じ墓に入りたくは無いか』って聞くと
 『主の墓を守るのも勤めです』って返されて、
 『寂しくないのか』って聞くと
 『主はここにいますから』って下腹部を撫でるんだよ。
 そこまで言われるとこれが完璧な形なのかなって思えてさ」
「今回はどうなの」
「今までのゴーレムの在り方を否定するわけじゃないけど、
 俺は一緒の方がいい気がする」
「私もそう思う。今更だけどお疲れ様」
「ああ、お疲れs」
そう言ってエストの手を握ると
「え?〜〜〜〜!!」
ジヴァが俺の手を引っ張って
「〜〜〜〜〜♪♪♪
 馬車がいきなり揺れるから、ついバランスを崩しちゃったわ」
(↑棒読み)

「いや!お前それは・・・」
「キスくらいスキンシップよ、それに事故よ事故」
「事故って、おまえなぁ」
「嫌だったの?」
そんな捨てられた子犬みたいな顔されて嫌って言えるか
「いやそんなことは無い、本当に、だけどいきなりで驚いたっていうか」
「じゃあ問題はないわね(ニヤリ)」
「(はめられた!!)ジヴァには内緒にしてくれ」
「もちろん♪」



遺跡、エストの部屋にて
「あ、助けてくれたお礼し忘れた。
 う〜〜〜〜ん。
 また今度にすればいいか♪
 (今の『♪』なんなのよ)
 いや別に会えるきっかけがあるから嬉しいとか
 そういうことじゃなくて。
 ただお礼が言えるからすっきりするというか、
 そう、ただすっきりしたいだけ!
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 あ〜〜〜〜〜何かもやもやする。
 でもこのもやもやの原因はロウな気がする。
 とりあへず、からかいに行こっと♪」



ロウが悲鳴をあげるのは、少し後の出来事。



ジヴァと色々あって、エストとも色々あって
三人でも色々あるのはもっと後の出来事。



〜〜途中まで続く〜〜
10/01/10 00:32更新 / GEKO

■作者メッセージ
前作『葬儀屋』を読み返すとやはり
エストについては唐突すぎだなと思えました。
そしてロウの職が空気だと、
と気付き今回は少しだけロウの職について掘り下げてみました。

最後に、読んで下さった方ありがとうございました。
下手ですが今後ともよろしくいただけたら幸いです。
失礼します。

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