気まずい雰囲気が、辺りに漂っていた。
　ちらり、と脇を見やる。そこには、明らかに不満げなメディの姿。
　ちらり、と前方を見る。そこには、顔を真っ赤にしながら視線を下に向けているルイの姿。

「えーっと…」

　言葉が見つからなかったが、とりあえずわだかまりを払拭するためにアレクは発言する。
　二人の視線が、ほぼ同時にこちらに向く。

「…なんか、妙な感じになっちゃったね」

　そうとしか、言い表せなかった。
　おそらく彼女は偶然この場に遭遇してしまって、その場から離れるタイミングが掴めなかったというところだろう。
　先程の情事を覗き見られていたというのは、正直恥ずかしい。
　しかし、男女の情事を見せつけられる羽目になったルイにとっても、居心地が良かったはずはない。
　だからこそメディは不満げで、ルイは物言いたげな表情なのである。

「…悪いのは、そっち。邪魔した、ねこが悪い」
「…にゃおぉ？」

　ぼそり、とメディが呟く。
　ぎろり、とルイがメディを睨みつける。
　
「ま、まあまあ、落ち着いて。たぶん、どっちが悪いってわけじゃないんだから」

　前から分かっていたことだが、この二人はあまり仲が良くない。
　理由がない限り衝突することはないが、双方とも歩み寄るつもりは全くない様子。

「…ともかく」

　メディはおもむろにアレクの右腕を両手で絡めとり、抱き寄せてくる。
　ぴくり、とルイの目尻が小さく動く。

「アレクは、私の。ねこはもう、どっかいって」

　にべもない、メディの拒絶。
　さすがにかちんときたのか、明らかにルイの表情が険しくなる。
　放っておくと噛み付きかねない様子だったので、アレクは慌てて再度二人の間に割って入る。
　アレクの肩越しに、メディとルイは暫し視線をぶつけ合う。そして、同時にふいと目をそらした。
　どうしよう。何だか、どんどん険悪な雰囲気になっていく。

「…ね、アレク」

　くい、と片腕を引かれる感触。
　振り返ると、目と鼻の先に真剣な表情のメディの顔があった。
　思わずアレクが身を引くと、メディはアレクが下がった分だけさらに詰め寄ってきた。　

「この際だから、はっきりさせて」

　今までに見たことがないほどの、真摯な眼差し。紅い瞳が、至近距離でアレクの眼を射貫く。
　その剣幕に、アレクはごくりと息を飲む。
　妙に喉が乾き、どきどきと胸が鳴る。緊張と興奮が混じった、奇妙な心地。
　思いつめたような、そして言いたくないことを口にしようとするような表情で――メディは、それを口にした。

「アレク、は…その。私と、ねこ…どっちが好き、なの？」

　真剣で毅然とした表情とは裏腹に、メディの言葉はひどく小さく、途切れ途切れだった。
　まるで、自らの言葉に全く自信が持てないように。
　事実、彼女は言い終わるやいなや、顔を真っ赤にそめて俯いてしまった。
　そして、静寂が訪れる。

「………」

　いや、なんというか、その。
　色々、限界だった。

「…ぷっ」
「…えっ」

　アレクは、思わず吹き出してしまった。唖然とした表情で、メディは声を漏らす。
　不謹慎なことは分かっている。しかし、こらえることはできなかった。
　先程まではあれほど強気で不機嫌だったメディが、かの質問をする時は此程まで萎縮してしまっていたこと。
　そして、ルイが視界の端で「今更何を言っているんだこいつは」とでも言いたげな眼でこちらを見ていたこと。
　それら諸々と自らの気持ちが合わさって――アレクは、笑ってしまった。

「も、もう、アレク！　わ、わたしは、本気で――」
「ご、ごめ…でも、なんか、おかしくって…！」
「もぉ！　馬鹿！　アレクの、馬鹿！」

　顔を怒りに染めて、メディはポカポカとアレクの胸に拳をぶつける。
　次々に叩きつけられる柔らかいメディの手の感触を感じながら、アレクは目尻に浮かんだ涙を拭う。
　そして、アレクは唐突に、メディを抱きしめた。

「――っ！」　
「うん、ごめんね。はっきりさせなかった、僕の方も悪いよね」

　突然の事に怯み、身体をこわばらせるメディの耳に、アレクは口を近づける。

「――もちろん、メディだよ」
「…え」
「誰よりも、愛してる。…ちょっと恥ずかしいけど、この言葉が一番合ってると思う」

　吟遊詩人の如き、歯の浮いた台詞。誰がどう聞いても、これは愛の告白に他ならない。
　――嗚呼。何を言ってるんだ、僕は。
　今更ながら、頭に血が上ってきた。アレクは気恥ずかしさをごまかすように、より強くメディの体を抱きしめた。

「え。…え、え、え」

　壊れたオルゴールのように、メディがおかしな声をあげる。
　アレクはメディの方に顎を乗せる様に彼女を抱きしめている。そのため、彼女の表情を見ることはできなかった。　
　しかし、なんとなく想像はつく。きっと、元から赤い顔をさらに赤く染めて茫然としている事だろう。
　この後メディは、一体どんな反応をするのだろうか。

「えと、あの、その」

　目で見なくとも、彼女が完全にオーバーヒートしているのが分かる。
　普段は冷たい彼女の体が、徐々にアレクの体温を越えていき、

「…ぷしゅー」

　そんな声をあげながら、メディの体は溶解し始めた。
　ぐにゃりと形をゆがめ始める赤い肢体を見て、アレクはぎょっと目を見張る。
　
「わ、ちょ、ちょっとメディ。とけてるとけてる」
「う？　あ、ご、ごめんなさ、い」

　はっとして、メディはふるふると首を横に振る。たちまち、メディの体が元通りの姿を取り戻す。
　
「本当…に？　本当に、私で、いいの？」
「うん。ていうか、なんでそんなに意外そうなの？」
「え、だ、だって、私…――」

　――スライム、だし。言葉にはなっていなかったが、そうメディの口元は言っていた。
　アレクは一瞬その言葉の意味が分からず首をかしげかけたが、その真意にすぐに気づいた。
　おそらくメディは、この国の『常識』をアレクの記憶から読み取っていたのだろう。
　スライムは魔物であると同時に、ワーキャットなどの他の魔物と比べ下級であると認識されている。
　『人に化けて人を襲う、女を模した下等生物』――ひどい話だが、それがこの国の多くの人々のスライムに対する認識だ。

「…うん。確かに、最初は僕もそう思ってた。メディに会う前は、ね」

　アレクは、不安気にこちらを見上げているメディをしっかりと見据える。
　真剣な視線を受け、どことなくメディの顔がさらに朱色を増した気がした。
　かなり、緊張しているのが見て取れる。

「でも、今は違うよ。なんていうのかな、うまく言葉では説明できないけど…」

　そういうアレクも、実のところかなり頭に血が上っていた。
　熱でも出したかのように頭がぼーっとしていて、上手く言葉を紡ぐことができない。
　言いたいこと、伝えたい言葉があるのに…どうしても、それが喉から出てこない。

「えっと…その」
「………」

　言葉を濁すアレクと、無言でこちらをじっと見つめるメディ。
　いよいよ雰囲気が気まずいものになってきたその時、メディは徐に――目を瞑った。
　
「…え」

　呆然と言葉を漏らしたアレクにも、メディは反応を返さない。
　ただ、メディの頬は以前赤く染まったまま。そしてどことなく、メディはこちらに向けて若干顎を上げているように見える。
　何かを、期待している。そんな、様子。

「…――」

　ごくり、とアレクは息を飲む。やるべきことは、すぐにわかった。
　アレクはゆっくりとメディの顔に近づき――そして、彼女の唇に口付ける。
　ひんやりとした、甘い感触。おそらくこれで二度目の、アレクからのキス。

「…ん」

　満足そうに、メディは息を漏らした。　
　いつもより短い口付けだったが、彼女は心底嬉しそうな笑みをアレクへ向ける。

「ありがと、アレク。大好き、だよ」
「――うん、僕もだよ」

　言葉では伝えられなかったが、気持ちは伝わった。
　思えば、彼女に思いを伝えるのならば、言葉なんて使わない方が良かったのかもしれない。
　メディがまた体を摺り寄せてくる。アレクはそれに、何の躊躇もなく答えようとして、

「…にゃおぅ…」

　その不機嫌そうな声を聞いて、凍りついた。
　はっとして、メディとアレクの眼が声のした方角を見る。
　果たしてそこには、より増して不機嫌そうな顔になったルイの姿。

「あー…」
「えっと、その」

　男女がいちゃついている光景なんてものを目の前で見せられては、ルイも良い気分であるはずが無い。
　アレクとメディは、揃って顔を染めながら俯く。そんな挙措が、さらにルイの心に油を注いでしまったらしい。

「…――にゃあっ！」

　ルイは小さな唸り声をあげながら、徐に前足を揃えると――突如、アレクへ向けて飛びかかってきた。

「わっ！」

　突然の事に対応できるはずもなく、アレクはあっさりとルイに押し倒されて、ベッドに倒れ込んだ。
　
　メディは一瞬だけ茫然と固まっていたが、すぐに正気に戻り鋭い視線をルイに向ける。

「何、を――」
「にゃあ」

　落ち着け、とばかりにルイはメディに顔を近づけながら小さく鳴いた。
　そして、徐にメディの額に、自らのそれを押し付けた。

「――！」

　メディの眼が、小さく見開かれる。
　アレクも、ルイの行動には驚いた。あれほど、水っぽいメディの身体に触れる事を嫌がっていたのに。

「…――」

　額は、すぐに離れた。ルイがにやりと笑い、メディが不機嫌そうに目を細める。
　何かを話した、のだろうか。メディは、不承不承といった様子で引き下がる。
　今の接触――意思疎通で、どうやらメディは納得できる理由を提示されたらしい。
　何やら、嫌な予感がする。
　
「にゃん♪」
「わっ！？」

　こっそりとルイの下から抜け出そうとしたが、あっさり阻止される。
　小柄な肢体に似合わない強い腕力でアレクの両足を抱えて、思いっきり引き寄せられる。
　ふにゃり、と柔らかいものが股間に押し付けられる。ぎょっとして、アレクはルイの方を見る。
　
「わ。ちょ、ルイ。一体何を――」
「にゃぉん♪」
　
　気づけば、アレクはルイによってがっしりと身体をからめとられていた。
　アレクの腰はルイの膝の上にあり、アレクの股間のそれは、しっかりとルイの胸に収まっている。
　ルイが頬を赤く染めながら、この上なく意地悪そうな笑みを浮かべる。そして、両腕でしっかりと自らの胸を抑え込む。

「いっ――！」

　ぐにゃり、とアレクの股間がルイの柔肉によって捏ねられる。
　アレクのそれは、メディとの行為によって程良く滑り、湿っていた。
　ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながらの強烈な責めに、アレクは悶絶する。

「くあっ、ちょ、ルイ、やめて――うくっ！？」

　アレクの言葉を封殺するように、ルイはぬるぬるになった胸で先端部分を包み込む。
　しっかりとアレクを動けないように両肘で固定し、完全に亀頭が見えなくなった状態でぐにぐにと左右交互に胸を擦りつける。
　びくん、とアレクの身体が痙攣する。逃げ場の無い強すぎる快感に、アレクは思わず情けない声をあげてしまった。

「…そういうのが、好きなんだ」
　
　やけに落ち着いた声が聞こえてきて、アレクはさっと青ざめる。
　視線をずらすと、そこには軽蔑するような目でアレクを見つめるメディの姿。
　
「ち、ちが、これは――あくっ…！」
「にゃん♪」

　また強く肉棒を挟みこまれて、アレクは呻き声をあげる。
　そんなアレクを、メディは目を細めながら注視している。
　よく見ると、その眼はどこかアレクの様子を観察しているような印象を受ける。
　そこで、アレクはやっと気づく。メディは、アレクの性癖をルイから学ぼうとしているのだと。
　どの部分が、どの方法が弱いのか――それを教えてやると、ルイはメディにそう言ったのかもしれない。

「んあっ！？」

　ざらり、と強い刺激が亀頭を襲う。思わずのけぞったアレクの眼に、ルイの楽しそうな顔が映る。
　ルイはしっかりと肉棒を胸で包んだまま、胸の間から覗かせた先端に舌を伸ばしていた。
　ざらざらとした舌に敏感な場所を撫でられ、アレクはさらに激しく身体を震えさせてしまった。
　しかし、やはりルイはしっかりとアレクを抱え込んだまま放さない。

「…ずるい」

　我慢の限界に達したらしいメディが、ゆらりと身体を近づけてきた。
　そして徐にアレクの顔に覆いかぶさり――アレクの唇に、自らのそれを重ねてきた。
　
「んむっ！？」

　上気したメディの顔が、アレクの視界を埋め尽くす。まるでルイと競うように、アレクの口内を蹂躙する。
　当然、ルイの胸による刺激も止まる事は無い。むしろ激しさを増して、アレクの肉棒を弄り続ける。
　ルイの行動が直接見えない事で、アレクの快感はさらに増幅される。
　先ほどメディに全て搾り取られたと思ったが、そんなことは無かったらしい。アレクの我慢は、もはや限界だった。

「にゃあ〜♪」

　震える肉棒から限界を察したらしいルイが、怪しげな鳴き声をあげる。
　そしてその直後、止めと言わんばかりに鋭い快感が、アレクを貫いた。
　胸による刺激にまぎれて、尿道口にあのざらりとした感触が押しつけられた。しかも、尿道を押し開くように、強く。
　アレクの頭が、真っ白になる。どくん、とアレクのそれが脈動する。

「にゃ！」
「…ん」

　メディの視線が、ちらりと後ろを向く。しかし、唇はしっかりと押し付けたままだった。
　相変わらず、メディの舌はアレクの口内を動き回っている。そして、ルイの胸による刺激もなお続いている。

「ん…んんっ！　むうぅう…！」
　
　射精を続ける肉棒を、ルイは追い打ちをかける様に責め続ける。
　搾るような動きの胸に加え、さらに敏感になった亀頭の表面でルイの舌がぐるぐるとうねっている。
　アレクはその強すぎる刺激に悲鳴すらあげそうになったが、メディに塞がれた口から漏れ出るのは小さな呻き声のみ。
　身体が震えるのをただ我慢しながら、アレクはルイの責めが終わるのを待った。

「っぷは。…ふにゃあ」

　最後に強く胸で竿を絞り、亀頭に吸いついた後、ルイはやっとアレクの体を解放した。
　同時に、メディもアレクの唇を解放する。ぼやけた視界の中、アレクは猫のようにその場に座り込むルイの姿を見定める。
　顔や手についた精液を舐め取る様はひどく妖艶で――不覚にも、アレクはまたどきりとしてしまった。
　すかさず、メディがギロリとこちらを睨みつけてくる。

「…アレク？」
「え、あ、いやその」
「――にゃあ」

　たじたじになるアレクに、ルイがまた近づいてきた。
　その目は、未だ怪しい光を灯していた。さながらそれは、狩人の眼。
　アレクは思わず後ずさろうとしたが、散々絞られてしまった後では力も出ない。
　あっさりと、アレクはまたルイにのしかかられた。しかし、今度は少し体勢が異なる。
　仰向けになったアレクの腹部の上に座るようにして、ルイはアレクを組み敷いた。

「…にゃあん…♪」

　切なげな鳴き声。散々弄られたせいでいきり立ったままのアレクの肉棒に、尻尾らしい感触が柔々と触れる。
　ルイの意図を知り、アレクはぎょっとしてルイを見つめ、そしてメディを見る。
　メディは不満そうな顔をしながら、しかし何も言わない。

「…えっちは、まあ、許す。でも、キスは、絶対駄目」

　…キスじゃなければ、良いんだ。
　呆気にとられるアレクの両肩を、ルイが両手で押さえつける。
　ゆっくりと腰をあげて、アレクのそれに狙いを定める。

「ちょ、ちょっと、待――」

　止める間もなく、ルイは腰を勢いよく下ろした。
　ず、と湿った音を立てて、アレクの肉棒が彼女の膣に収まる。

「にぃっ…！」
「うっ…！」

　やはり通りというべきか、彼女の膣はきつかった。
　柔らかく、しかし鋭い締め付けに、アレクは声を漏らす。
　人間嫌いだったルイが、こうもあっさりと行為に及んだことには驚いた。
　しかし、アレクは彼女の膣から血が流れ出るのを見咎め、さらに驚いた。

「ル、ルイ…もしかして――っくぅ！」
「にゃあぁっ！」

　ルイは突然鳴き声をあげて、アレクの体にしがみつく。
　激痛のあまりの行動かと思いきや、そうではなかった。
　ルイはしっかりとアレクの背に手を巻き付けたまま、腰を激しく上下し始めた。

「にゃあっ、にゃあっ、にゃああ！」
「うわ――！　ちょっと、ルイ、激しすぎ――！」

　ルイの動きは、まさに獣人ならではといった野性的な動きだった。
　技巧も何もない、ただひたすら本能的な性交。
　しかしだからといって、気持ち良くないはずが無い。
　アレクの分身を咥え込んで離さない彼女の膣は元より、
　胸板に押し付けられている柔らかい感触が、どうしようもなくアレクを興奮させる。
　
「…じー」
「う、…く」

　自ら擬音を呟きながら、メディが冷めた目でアレクを見つめている。
　何とも後ろめたい思いに押しつぶされながら、しかしかといってアレクにはルイを押しのける力もなく、
　結局されるがままとなって、アレクは一方的に責め立てられた。

「にゃあっ、にゃあっ、にゃあっ――！」

　ルイの責めは止まる事を知らず、アレクに主導権を一切握らせまいとしているのは明白だった。
　しかし、ここまで派手な攻勢を続けているにもかかわらず、アレクが達するまでは中々至らない。
　既にアレクの精力が限界なのもある。
　しかし一番の枷となっているのは、傍らでひどく不満そうな顔をしているメディかもしれない。

「――にゃああっ！」
「――っんむっ！？」

　突然、ルイはアレクの頭に手を伸ばし、アレクの頭を胸に掻き抱いた。
　柔らかい感触が顔面に押し付けられ、柔肉によってアレクは鼻と口、そして眼を塞がれる。
　ルイの身長は、アレクのそれよりも大分小さい。正直、若干つらい体勢だった。

「んにゃあ〜♪」

　かすかに見えたルイの顔が、にやりと笑みを形作る。
　次の瞬間、ルイはさらに腰の上げ下ろしをヒートアップさせた。
　きつく締まった膣に激しく絞られ、アレクの肉棒は悲鳴を上げる。

「ん…んん…っ…！」

　そこで、アレクはルイの意図に気づいた。
　胸によって視界を塞がれ、メディの姿が見えなくなった。
　それにより枷が解かれ、アレクの感度が一気に高まる。
　さらに、酸欠のせいで意識が薄れ、我慢が出来なくなってきた。
　
「ん…ぐ…」

　ルイはしっかりとアレクの頭を掻き抱きながら、ぐりぐりと腰を回す。
　激しい締め付けに、アレクは悶絶する。
　揺らぐ意識の中、少しだけアレクの顔が胸からずれ、ルイと眼があった。

「にゃあん♪」

　ルイは、勝ち誇った眼で、アレクを見下ろしていた。
　――さすがに、カチンときた。
　さすがにこれだけやられてばかりというのは、男として恥ずかしい。
　一か八か、アレクは最後の力を込めてルイの腰に両手を回し――そして、勢い良く腰を突き上げた。

「っにぃ―――！？」

　その完全なる不意打ちに、ルイは雷に打たれたかのように激しく硬直した。
　同時に、ルイの膣が急激に締まる。力を使い果たしたアレクに、それを耐えきる事など出来るわけはなく。
　
「ぐ、あ…！」

　どくん、とアレクが快楽に屈服した証が放出される。
　びくびくと、ルイが痙攣しながらそれを膣で受け止める。
　ルイの手が弛緩し、アレクはやっと胸から解放された。
　
「…ぷはっ！　…は、あ…」

　アレクは仰向けに倒れたまま、数回大きく深呼吸する。
　徐々に意識がはっきりしてくる。そして、今更ながら事の重大さに気づく。
　アレクが視線をちらりと脇に向けると、そこには…その、あまり形容したくない表情をして佇むメディの姿。
　アレクが顔を少し上げて胸辺りを見ると、そこには息を荒くしながら抱きついているルイの姿。
　もちろん、二人の体は未だ繋がったまま。

「…――にゃ」

　夢見心地でぼんやりしていたルイの表情が、はっと目が覚めたように精悍さを取り戻す。
　ルイはまず、抱きついているアレクの胸辺りに視線を合わせる。次いで顔を挙げ、アレクに目を向ける。
　
「…にゃあ」
「…え？」

　何事もなかったかのように顔を一度洗ったと思うと、ルイは唐突に起き上がった。
　ず、と何の躊躇も感慨もなくルイはアレクから身体を放し、傍らに座りこむ。
　そして、こちらに手を差し伸べてくる。

「…えーっと」

　意図がつかめぬまま、アレクはルイの手を掴む。
　ルイはアレクが身体を起こすのを手伝った後、突然アレクの頬を一舐めする。

「わ」
「にゃん♪」

　驚くアレクの顔を見て、ルイは楽しそうに笑う。
　そしてその直後、すぐさまルイは踵を返し、ベッドから飛び降りた。
　何の未練もないといった風に、あっさりと、部屋から出ていこうとする。

「え…あ、ル、ルイ？」
「にゃお〜♪」

　アレクは状況についていけぬまま、ただ茫然とベッドの上で硬直する。
　ルイはこちらを振り返って、先ほどまでとは打って変わった無邪気な笑みを浮かべる。
　そして最後に、にやにやとメディを見つめてから、颯爽とどこかへ駆けていってしまった。
　…一体、これはどういうことなのだろうか。
　いや、確かにこの飄々とした感じは、確かに猫っぽいのだが。

「アーレークぅー？」

　この上なく底冷えした声に、アレクはぎくりと硬直する。
　固い表情で、アレクは視線をと向ける。
　メディは、にっくりと笑っていた。明らかに、目は笑っていないままで。

「気持ち良さそう、だったね？」
「あ…その、これは」

　しまった。まんまと逃げられた。
　さすがルイというべきか、危機感知と逃げるタイミングは完璧だった。
　じりじりと近づいてくるメディ。当然、アレクに逃げ道は無い。

「ずるい。少しなら、いいけど、アレク…やりすぎ」
「ご、ごめん。…ほんとに、ごめん」
「だめ、許さない。猫も悪いけど、アレクも悪い。だから――おしおき、する」
「え」

　ゆっくりと近づいていたメディの体が、アレクの体を一気に飲み込んだ。
　何の抵抗も出来ず、アレクはまたもやベッドに押し倒される。…これで、今日は何度目だろうか？
　弁解の余地は無く、抗う気力も無い。アレクは抵抗することなく、メディに身を任せる。
　あっさりと、アレクはメディの軟体に全身を包み込まれた。
　嗚呼、今度は一体、何をされてしまうのか――完全に諦めの境地で、アレクは眼を瞑る。

「……あれ」

　しかし、訪れると思った暴風は、何時まで経っても起こらなかった。
　柔らかく温かい感触が、ただアレクの体を包んでいる。
　そして徐に、アレクの首に何かが優しく絡みついてきた。
　眼を開けると、メディは不機嫌そうな顔で、アレクの首に両腕を絡めていた。

「でも、アレク、今日は疲れてる。だから、また今度」

　メディの体が程よい熱を持って、アレクの体を包み込む。
　感触はお湯に近かったが、まるで羽毛に包まれているかのようだった。
　アレクは暫し呆然としていたが、思わず頬が緩み、感情を抑えきれなくなる。

「…ありがと、メディ。…メディは、優しいね」
「ん。…でも、また今度、お仕置きだから」
「肝に銘じておくよ。でも、これだけは本当だよ」
「ん？」

　きょとんとした様子でこちらを見つめるメディの耳元に、ぼそぼそと二言三言呟く。
　ぼん、とメディの顔が真っ赤に染まる。体を包むメディの体温が、また上がった気がした。

「寒い季節になったら、メディにこう言えば良さそうだね」
「…馬鹿。もう、寝る時間。さっさと、寝る」
「むぐ」

　ぐい、と顔を胸に押し付けられる。ルイに対抗したつもりだろうか。
　顔を包む柔らかい感触に、アレクは体が少しだけ火照るのを感じた。

「明日も、早いんだよ、ね。なら、もう、寝よ？」
　
　優しく頭をなでられる感触。これでは、いつもと逆だ。
　正直、このまま寝るのは恥ずかしい。しかしそんな気持ちよりも、襲ってくる睡魔のほうが強かった。
　経験したことのない、未知の心地。母親に抱きしめられる子供というのは、こういう気持ちなのかもしれない。

「今度は、私にも、…ね」

　小さく耳元に呟かれた一言。
　それを最後に、アレクの意識は溶けるように眠りに落ちた。

■作者メッセージ
忘れた頃に現れる男以下略。もはや忘れられているかもしれませんが、SManと申します。
いやはや…なんというかもう、かなりのスローペースでした。申し訳ない限りです。
とりあえず、サイドストーリーっぽい書きたいモノはそこそこ書けたつもりです。でも、やっぱり甘いって言うよりはエ（ｒｙ
結構勢いで書いたものですから、ちょっと問題があるやも…後ほど見直す予定。
さて、次回はいよいよ本編。出来れば年内に続きを書きたいところ…そろそろアレク関連の焦らしっぷりをどうにかせねば。

何はともあれ、此処まで読んで頂きありがとうございます。
それでは。