序文
戦争は三種類の人間を生み出す。
一つ目は英雄。人間の鑑として後世に語り継がれる存在。名将、知将、軍神、英霊、呼び方も様々だ。戦場で先陣を切って勇ましく闘い、輝かしい武勲を上げた者。巧みな政治手腕で自国民を鼓舞し、敵に敢然と立ち向かった者。敗北必至の状況、誰もが考え得ない奇策を以て、逆転勝利を導いた者。自らの命を顧みず、果敢に戦い、二度と還らなかった者。味方のみならず、破れた敵にも手を差し伸べ、多くの命を救った者。そうした者たちは、戦時記録のみならず、書籍、映像・音声記録、記念碑や銅像といった形で半永久的に語り継がれていく。
最も、この中には時の為政者や民衆たちによって偽りの「事実」を背負わせ、英雄として都合よく利用されてしまう者もいる。
二つ目は悪人。唾棄すべき人間として後世に語り継がれる存在。無能、愚将、敗将、売国奴……罵られ方も多様だ。敗戦国の元首が最もいい例だろう。無謀な戦争を始め、多くの国民に出血を強いた者。自らの保身の為に、部下や仲間、あるいは国を見捨て、売った者。短絡的かつ楽観的な思考で作戦を立案し、多くの犠牲を出した者。兵士、一般市民を区別すること無く害虫を駆除するがごとく殺戮を繰り返した者。彼らもまた、これらの「愚行」と共に、時には誇張された「事実」と共に記録され、ある時は同じ過ちを繰り返さない反面教師として、ある時は憎悪の対象として半永久的に語り継がれていく。
しかし、国や地域、信条や政治思想次第で時として悪人が英雄視され、英雄が悪人として全く逆の認識を持たれていることも珍しくない。
そして三つ目、恐らく戦争を経験した者の9割9分以上がここにあてはまるだろう。
語り継がれることなく忘れ去られる者。語り継がれても、記憶が継承する者も消え、忘れ去られる者。とりわけ輝かしい快挙も、語るのも憚れる愚行を成したわけでもない一介の戦士たち。何千何万という数字で一括にされる犠牲者たち。生きて帰った者たちは親しい人々に語ることで束の間は記憶されるが、やがて語る本人もそれを知る者もこの世も去り、忘れ去られる。記録資料や石碑、墓銘に名前が刻まれるのはまだ良い方だ。だがそれでも戦いの生き様を語り継がれる者はほとんどいない。中には無名戦士として名前すら忘れ去られる者、骨すら拾われることのなく戦場で朽ち果てた者もいる。
資料の片隅に生年月日や出身地、配属部隊や階級といったプロフィールと経歴が簡潔に記されたのみ。それ以上の事実を誰も知る由もない、忘れ去られた人々。彼もまた、その一人だった。少なくとも元いた世界では――
一つ目は英雄。人間の鑑として後世に語り継がれる存在。名将、知将、軍神、英霊、呼び方も様々だ。戦場で先陣を切って勇ましく闘い、輝かしい武勲を上げた者。巧みな政治手腕で自国民を鼓舞し、敵に敢然と立ち向かった者。敗北必至の状況、誰もが考え得ない奇策を以て、逆転勝利を導いた者。自らの命を顧みず、果敢に戦い、二度と還らなかった者。味方のみならず、破れた敵にも手を差し伸べ、多くの命を救った者。そうした者たちは、戦時記録のみならず、書籍、映像・音声記録、記念碑や銅像といった形で半永久的に語り継がれていく。
最も、この中には時の為政者や民衆たちによって偽りの「事実」を背負わせ、英雄として都合よく利用されてしまう者もいる。
二つ目は悪人。唾棄すべき人間として後世に語り継がれる存在。無能、愚将、敗将、売国奴……罵られ方も多様だ。敗戦国の元首が最もいい例だろう。無謀な戦争を始め、多くの国民に出血を強いた者。自らの保身の為に、部下や仲間、あるいは国を見捨て、売った者。短絡的かつ楽観的な思考で作戦を立案し、多くの犠牲を出した者。兵士、一般市民を区別すること無く害虫を駆除するがごとく殺戮を繰り返した者。彼らもまた、これらの「愚行」と共に、時には誇張された「事実」と共に記録され、ある時は同じ過ちを繰り返さない反面教師として、ある時は憎悪の対象として半永久的に語り継がれていく。
しかし、国や地域、信条や政治思想次第で時として悪人が英雄視され、英雄が悪人として全く逆の認識を持たれていることも珍しくない。
そして三つ目、恐らく戦争を経験した者の9割9分以上がここにあてはまるだろう。
語り継がれることなく忘れ去られる者。語り継がれても、記憶が継承する者も消え、忘れ去られる者。とりわけ輝かしい快挙も、語るのも憚れる愚行を成したわけでもない一介の戦士たち。何千何万という数字で一括にされる犠牲者たち。生きて帰った者たちは親しい人々に語ることで束の間は記憶されるが、やがて語る本人もそれを知る者もこの世も去り、忘れ去られる。記録資料や石碑、墓銘に名前が刻まれるのはまだ良い方だ。だがそれでも戦いの生き様を語り継がれる者はほとんどいない。中には無名戦士として名前すら忘れ去られる者、骨すら拾われることのなく戦場で朽ち果てた者もいる。
資料の片隅に生年月日や出身地、配属部隊や階級といったプロフィールと経歴が簡潔に記されたのみ。それ以上の事実を誰も知る由もない、忘れ去られた人々。彼もまた、その一人だった。少なくとも元いた世界では――
20/06/21 21:05更新 / 茶ック・海苔ス
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