戦乙女と過ごすクリスマス・イブ
9:00 自宅
「ほら、どうだ?似合ってるか?」
『おーすごいすごい、かわいいじゃん』
とあるマンションの一室、ヴァルキリーが伴侶の男性に自らの衣装を見せつけている。
「そうだろう?ファッション雑誌とやらで勉強したからな!」
『(あぁ……あの積まれてた雑誌全部ファッション雑誌だったのね……)』
上は身体のラインをひったりと強調する白のタートルネックニット、その上にMA-1を羽織っている。下は青のジーンズ。白のニット帽を被ったコーディネート。全体的に背中から生えている二対の翼を除けば、ごくごく普通の装いである。
「『デート』に限らず、身なりを整えることは大切だからなぁ。いくら他で努力を重ねても見た目が良くなければ全てが水泡に帰してしまう」
『うん、そうだね(正装って言って、甲冑一式装備して外出した頃と比べてホント成長したよなぁ……)』
「さぁ!こうしている間にもクリスマス・イブは刻一刻と過ぎていってる!急ぐぞ!」
『えぇっ!ちょっと!早いって!』
9:30 映画館
「クリスマス限らずデートにすることと言えば……映画だな?」
『まぁそうだけど……何観るの?』
「ふむ……今年は邦画、洋画共にアニメ映画が席巻しているな!」
『しかし、クリスマスらしい映画が少ないかなぁ……』
「そうか?クリスマス関係なく私は何でも構わんぞ?」
『まぁ僕も何でもいいけど』
「そうか!ならば時間も丁度いいし、これにするか!」
『えっ……これホラー映画じゃん……』
少なくともポスターからはクリスマス要素が1ミリも伝わってこない。
「何でも良いと言ったではないか!それにこれ、巷で話題の邦画らしいぞ?」
『デートで観るもの?コレ?』
「ははぁ?さては怖いんだな?大丈夫だ。お前の隣にはいつもこの私がいるだろう?それに、お前を見初めた時、『この私が守ってやる』と言ったのを忘れたか?」
『え、いや……(問題はそこじゃないんだけどなぁ……というか、こういう台詞を恥ずかしげもなく言えるところはヴァルキリーらしいんだから……)』
誇らしげな表情を浮かべるヴァルキリーに対し、彼は呆れた様子である。
「こうしてる間にもいい席が取られてしまう、というわけでいくぞ!」
『あぁ!ちょっと!そんなに急がなくても!』
12:30 クリスマス市
「映画良かったな!やはり私の審美眼に狂いは無かったなぁ!」
『そうですね、はいはい(とてもデートで観るような内容じゃなかったけど、でも面白かったからいいけど)』
「さて、腹も減ったことだし、飯にするか。何処で食うか?」
『あぁ、それだったら今丁度、近くでクリスマス市やってるから、そこで食べようよ』
「ほう、ドイツ料理中心に扱っているのか、我々ヴァルキリーにとって馴染みがある食い物だな」
『あ、うん(確かにワーグナーはドイツだけど……)』
「ほら、そうこうしてる間に売り切れるかもしれん!早く行くぞ!」
『ああっ!だから、手、強く引っ張んないで!』
彼らの住む街ではこの時期になると姉妹都市交流も兼ねてクリスマス市が開催される。そこでは姉妹都市の絶品グルメが振る舞われている。
「はふはふ。はむほらのひらへはべふはーはんほーへーじは、はふべふはな!(寒空の下で食べるジャーマンソーセージは格別だな!)」
『口に含んだまま喋らない!行儀悪いんだから!』
「ほうは、ふはん(そうか、すまん)、ゴクン、ほら、とにかく上手いぞ!お前も食え!」
『はいはい……うん、温かくておいしいね』
彼は彼女が齧り、半分になったソーセージを口に入れた。
「しかし、アイスバインやホットワイン、シュトーレンと本当によりどりみどりだな」
『ホントな、それにここで食べるのはどれも美味しいからね』
「いや、それはちょっと違うぞ、ここで食べるから美味しいのではない」
『え?』
「お前と食うから美味いのだ。大切な人と食べるという、その機会だけは何にも代えがたい一時だ。その充足感と幸福感が味にもたらす影響もまた何にも代えがたいものなのだ」
『……ッ!!(何でこんなこっちが聞いてて恥ずかしくなる台詞をスラスラと言えるかなぁ!?)』
「どうした、顔が赤いぞ?」
「何でもない!」
狙って言っているのか、はたまた、本当に無自覚なのか、彼女はこうして手垢がついたような陳腐な言葉でしばしば彼を赤面させている。
15:00 カフェ
「うむ、デートと言えばスイーツは欠かせんだろう!というわけでパフェ食うぞ!パフェ!」
『そ、そうだね(自分が食べたいだけのような気がするなぁ……)』
「ほうほう、今は“いちごのシャンテパフェ”を期間限定で取り扱っているそうだ。よし!店員さんよ、こちらのテーブルにシャンテパフェを一つ頼むぞ!」
『(今度は聞く耳持たず……やっぱり自分が食べたいだけじゃないか……まぁいちご好きだからいいけど)』
彼女の戦乙女らしからぬ部分を挙げるとしたら、それは甘い物の目がないことと言えるだろう。
「ではまずはこの私が一口……うむ!いちごの甘酸っぱく、刺激的な味を特殊な製法で作られた牛乳による格別まろやかなクリームが見事に包み込んで極上の甘みを演出しておる……クリームといちごという基本中の基本の組み合わせでここまで美味くなるとは……信じられん……!!」
『(ホント幸せそうに食べるよなぁ……でも見てるこっちもいい気分だなぁ)』
世界中からかき集めた幸福を噛みしめているような彼女の笑顔に、彼も思わず顔を綻ばせてしまっている。
「はっ!な、何が可笑しい!?お前が黙って見てるだけだったから、一人で食べ過ぎてしまったではないか!」
『(ひでぇ言いがかり……まぁ間違ってないけど)』
「ほら!口開けろ!食べさせてやる!」
『えっ?そのスプーンで?』
不意に彼女はスポンジ、クリーム、いちごを、先程まで彼女の口にパフェを運んでいたスプーンで器用にすくい取ると、それを彼の眼前に差し出してきた。
「別にいいだろ?私は気にしないぞ?それに『デート』では男女でこうするのはごく普通のことだと聞いておるぞ?それにさっきのソーセージは普通に食ってたではないか?」
『いや、スプーンでやるのはちょっと恥ず……うぐっ!』
彼が口を開けた瞬間、彼の口内へとスプーンを運んだ。僅かな隙を突く当たり、流石武術に秀でたヴァルキリーである。
「ほれ、どうだ?美味いだろ……」
『甘い……』
「そうだろう!?そうだろう!!私の審美眼に狂いは無いからな?」
『(審美眼なんかよりデリカシーを持ってほしいなぁ……)』
二人のやりとりを微笑ましく見守る衆人の視線に彼は今すぐ穴に入りたい気分であった。だがそのいちごパフェは確かに美味しかった。
20:00 イルミネーション会場
ディナーを終え再び街に出た彼らは、冬季限定開催のイルミネーション会場へと足を運んだ。
「美しい……綺麗だ……」
『それ以外の言葉が出こないなぁ……』
あまりの美しさに二人共語彙力が乏しくなる。
周囲には自分たちと同じように魔物娘とインキュバスのカップルで溢れかえっていた。
『いやぁ……すごいなぁ……』
「全くだ」
暫くとりとめもない会話を続けながら、身体を寄せ合い歩いていた二人、だが突然、彼女は彼の前に立ちふさがるように立ち、赤面させた顔で呟いた。
「……なぁ……我々も……アレしないか……」
『アレって?』
「デートの締めにやるアレだぞ……」
『締めって何すんの?』
「ああもう!お前という奴はなんて鈍いのだ!!分からんか!『キス』に決まっておるだろう!」
『だから声がいちいちデカイんだって!!』
周りの視線が気になり、つい見渡してしまう彼。だが視界の中に、口づけを交わすカップルを発見し彼女の思惑を察したのだった。
「す、すまん……だがデートの締めはキスだろう?こちらも恥を偲んでいっておるのに!」
『いや別に家でもいいじゃん……(何で今更恥じらってんの?今までデリカシーの欠片も無かったのに……)』
「駄目だ!美しい思い出には美しいフィナーレが必要なのだ!」
『フィナーレってそんな大げさな……』
「私はやるまで帰らんぞ!やるまで絶対に動かんぞ!」
『あぁわかったよ……じゃあ……』
周囲がお節介を焼いてくれたのか彼らの周りの人はいつの間にか少なくなっていた。その好機を察すると彼は彼女の唇に自らの唇を落としていった。
「んっ……」
『んん……』
唇だけの、そして10秒程度軽いキスであった。目を閉じ、互いに唇から伝わる感触を僅かな時間で感じあっていた。
「お、おう……良かったぞ……これで最高のクリスマスとなった……」
『そうですかい。それはよかった』
先程まで、デリカシーの欠片も無かった彼女が随分としおらしくなっていた。
『あーん』に対しては何の抵抗も無かったが、キスに対しては恥じらいがある。彼女の基準はイマイチよくわからないと彼は困惑していた。
そんな彼女に少し呆れつつも、そんな彼女を可愛らしく思った口元が綻んでいた。
「そ、それとだ……この後9時からの6時間は何と呼ばれてるか知ってるか?」
『え!?さ、さぁ(棒読み)』
彼は咄嗟に嘘をついてしまった。
「そ、そうか……ならいいいんだ……家に戻ったら教えてやる……」
『え゛っ゛!?』
「よし、ならば家でクリスマスデートの続きといくぞ!」
『だから引っ張んの強いって!』
しおらしくなっていた彼女がまた普段に元通りである。この後自宅で行われる『性の6時間』のことを考えると彼は気が気でなかった。
『(まぁ今までも戦乙女の儀礼だの定めだのそれっぽい理由付けられて絞られてきたんですけどね、ははは……)』
二人の夜はまだまだ長くなりそうだ。
おしまい
「ほら、どうだ?似合ってるか?」
『おーすごいすごい、かわいいじゃん』
とあるマンションの一室、ヴァルキリーが伴侶の男性に自らの衣装を見せつけている。
「そうだろう?ファッション雑誌とやらで勉強したからな!」
『(あぁ……あの積まれてた雑誌全部ファッション雑誌だったのね……)』
上は身体のラインをひったりと強調する白のタートルネックニット、その上にMA-1を羽織っている。下は青のジーンズ。白のニット帽を被ったコーディネート。全体的に背中から生えている二対の翼を除けば、ごくごく普通の装いである。
「『デート』に限らず、身なりを整えることは大切だからなぁ。いくら他で努力を重ねても見た目が良くなければ全てが水泡に帰してしまう」
『うん、そうだね(正装って言って、甲冑一式装備して外出した頃と比べてホント成長したよなぁ……)』
「さぁ!こうしている間にもクリスマス・イブは刻一刻と過ぎていってる!急ぐぞ!」
『えぇっ!ちょっと!早いって!』
9:30 映画館
「クリスマス限らずデートにすることと言えば……映画だな?」
『まぁそうだけど……何観るの?』
「ふむ……今年は邦画、洋画共にアニメ映画が席巻しているな!」
『しかし、クリスマスらしい映画が少ないかなぁ……』
「そうか?クリスマス関係なく私は何でも構わんぞ?」
『まぁ僕も何でもいいけど』
「そうか!ならば時間も丁度いいし、これにするか!」
『えっ……これホラー映画じゃん……』
少なくともポスターからはクリスマス要素が1ミリも伝わってこない。
「何でも良いと言ったではないか!それにこれ、巷で話題の邦画らしいぞ?」
『デートで観るもの?コレ?』
「ははぁ?さては怖いんだな?大丈夫だ。お前の隣にはいつもこの私がいるだろう?それに、お前を見初めた時、『この私が守ってやる』と言ったのを忘れたか?」
『え、いや……(問題はそこじゃないんだけどなぁ……というか、こういう台詞を恥ずかしげもなく言えるところはヴァルキリーらしいんだから……)』
誇らしげな表情を浮かべるヴァルキリーに対し、彼は呆れた様子である。
「こうしてる間にもいい席が取られてしまう、というわけでいくぞ!」
『あぁ!ちょっと!そんなに急がなくても!』
12:30 クリスマス市
「映画良かったな!やはり私の審美眼に狂いは無かったなぁ!」
『そうですね、はいはい(とてもデートで観るような内容じゃなかったけど、でも面白かったからいいけど)』
「さて、腹も減ったことだし、飯にするか。何処で食うか?」
『あぁ、それだったら今丁度、近くでクリスマス市やってるから、そこで食べようよ』
「ほう、ドイツ料理中心に扱っているのか、我々ヴァルキリーにとって馴染みがある食い物だな」
『あ、うん(確かにワーグナーはドイツだけど……)』
「ほら、そうこうしてる間に売り切れるかもしれん!早く行くぞ!」
『ああっ!だから、手、強く引っ張んないで!』
彼らの住む街ではこの時期になると姉妹都市交流も兼ねてクリスマス市が開催される。そこでは姉妹都市の絶品グルメが振る舞われている。
「はふはふ。はむほらのひらへはべふはーはんほーへーじは、はふべふはな!(寒空の下で食べるジャーマンソーセージは格別だな!)」
『口に含んだまま喋らない!行儀悪いんだから!』
「ほうは、ふはん(そうか、すまん)、ゴクン、ほら、とにかく上手いぞ!お前も食え!」
『はいはい……うん、温かくておいしいね』
彼は彼女が齧り、半分になったソーセージを口に入れた。
「しかし、アイスバインやホットワイン、シュトーレンと本当によりどりみどりだな」
『ホントな、それにここで食べるのはどれも美味しいからね』
「いや、それはちょっと違うぞ、ここで食べるから美味しいのではない」
『え?』
「お前と食うから美味いのだ。大切な人と食べるという、その機会だけは何にも代えがたい一時だ。その充足感と幸福感が味にもたらす影響もまた何にも代えがたいものなのだ」
『……ッ!!(何でこんなこっちが聞いてて恥ずかしくなる台詞をスラスラと言えるかなぁ!?)』
「どうした、顔が赤いぞ?」
「何でもない!」
狙って言っているのか、はたまた、本当に無自覚なのか、彼女はこうして手垢がついたような陳腐な言葉でしばしば彼を赤面させている。
15:00 カフェ
「うむ、デートと言えばスイーツは欠かせんだろう!というわけでパフェ食うぞ!パフェ!」
『そ、そうだね(自分が食べたいだけのような気がするなぁ……)』
「ほうほう、今は“いちごのシャンテパフェ”を期間限定で取り扱っているそうだ。よし!店員さんよ、こちらのテーブルにシャンテパフェを一つ頼むぞ!」
『(今度は聞く耳持たず……やっぱり自分が食べたいだけじゃないか……まぁいちご好きだからいいけど)』
彼女の戦乙女らしからぬ部分を挙げるとしたら、それは甘い物の目がないことと言えるだろう。
「ではまずはこの私が一口……うむ!いちごの甘酸っぱく、刺激的な味を特殊な製法で作られた牛乳による格別まろやかなクリームが見事に包み込んで極上の甘みを演出しておる……クリームといちごという基本中の基本の組み合わせでここまで美味くなるとは……信じられん……!!」
『(ホント幸せそうに食べるよなぁ……でも見てるこっちもいい気分だなぁ)』
世界中からかき集めた幸福を噛みしめているような彼女の笑顔に、彼も思わず顔を綻ばせてしまっている。
「はっ!な、何が可笑しい!?お前が黙って見てるだけだったから、一人で食べ過ぎてしまったではないか!」
『(ひでぇ言いがかり……まぁ間違ってないけど)』
「ほら!口開けろ!食べさせてやる!」
『えっ?そのスプーンで?』
不意に彼女はスポンジ、クリーム、いちごを、先程まで彼女の口にパフェを運んでいたスプーンで器用にすくい取ると、それを彼の眼前に差し出してきた。
「別にいいだろ?私は気にしないぞ?それに『デート』では男女でこうするのはごく普通のことだと聞いておるぞ?それにさっきのソーセージは普通に食ってたではないか?」
『いや、スプーンでやるのはちょっと恥ず……うぐっ!』
彼が口を開けた瞬間、彼の口内へとスプーンを運んだ。僅かな隙を突く当たり、流石武術に秀でたヴァルキリーである。
「ほれ、どうだ?美味いだろ……」
『甘い……』
「そうだろう!?そうだろう!!私の審美眼に狂いは無いからな?」
『(審美眼なんかよりデリカシーを持ってほしいなぁ……)』
二人のやりとりを微笑ましく見守る衆人の視線に彼は今すぐ穴に入りたい気分であった。だがそのいちごパフェは確かに美味しかった。
20:00 イルミネーション会場
ディナーを終え再び街に出た彼らは、冬季限定開催のイルミネーション会場へと足を運んだ。
「美しい……綺麗だ……」
『それ以外の言葉が出こないなぁ……』
あまりの美しさに二人共語彙力が乏しくなる。
周囲には自分たちと同じように魔物娘とインキュバスのカップルで溢れかえっていた。
『いやぁ……すごいなぁ……』
「全くだ」
暫くとりとめもない会話を続けながら、身体を寄せ合い歩いていた二人、だが突然、彼女は彼の前に立ちふさがるように立ち、赤面させた顔で呟いた。
「……なぁ……我々も……アレしないか……」
『アレって?』
「デートの締めにやるアレだぞ……」
『締めって何すんの?』
「ああもう!お前という奴はなんて鈍いのだ!!分からんか!『キス』に決まっておるだろう!」
『だから声がいちいちデカイんだって!!』
周りの視線が気になり、つい見渡してしまう彼。だが視界の中に、口づけを交わすカップルを発見し彼女の思惑を察したのだった。
「す、すまん……だがデートの締めはキスだろう?こちらも恥を偲んでいっておるのに!」
『いや別に家でもいいじゃん……(何で今更恥じらってんの?今までデリカシーの欠片も無かったのに……)』
「駄目だ!美しい思い出には美しいフィナーレが必要なのだ!」
『フィナーレってそんな大げさな……』
「私はやるまで帰らんぞ!やるまで絶対に動かんぞ!」
『あぁわかったよ……じゃあ……』
周囲がお節介を焼いてくれたのか彼らの周りの人はいつの間にか少なくなっていた。その好機を察すると彼は彼女の唇に自らの唇を落としていった。
「んっ……」
『んん……』
唇だけの、そして10秒程度軽いキスであった。目を閉じ、互いに唇から伝わる感触を僅かな時間で感じあっていた。
「お、おう……良かったぞ……これで最高のクリスマスとなった……」
『そうですかい。それはよかった』
先程まで、デリカシーの欠片も無かった彼女が随分としおらしくなっていた。
『あーん』に対しては何の抵抗も無かったが、キスに対しては恥じらいがある。彼女の基準はイマイチよくわからないと彼は困惑していた。
そんな彼女に少し呆れつつも、そんな彼女を可愛らしく思った口元が綻んでいた。
「そ、それとだ……この後9時からの6時間は何と呼ばれてるか知ってるか?」
『え!?さ、さぁ(棒読み)』
彼は咄嗟に嘘をついてしまった。
「そ、そうか……ならいいいんだ……家に戻ったら教えてやる……」
『え゛っ゛!?』
「よし、ならば家でクリスマスデートの続きといくぞ!」
『だから引っ張んの強いって!』
しおらしくなっていた彼女がまた普段に元通りである。この後自宅で行われる『性の6時間』のことを考えると彼は気が気でなかった。
『(まぁ今までも戦乙女の儀礼だの定めだのそれっぽい理由付けられて絞られてきたんですけどね、ははは……)』
二人の夜はまだまだ長くなりそうだ。
おしまい
20/04/22 17:21更新 / 茶ック・海苔ス