私の初めて〜サプリエート・スピリカ〜
『お、おかえりなさい』
「ただいまもどりました」
『どうでした、今日の研究の進捗は』
「いつも通りです」
『そうですか……』
「はい」
『…………』
「…………」
私の名前はサプリエート・スピリカ。故郷、ポロ−ヴェで精霊学者をしています。
著書でよく【求人広告】を出していると言えば思い当たる方は多いかもしれません。ダークマターと融合して魔物になった後も男性に恵まれず、切なる思いで書いていました。しかし、それに一向に応える男性が現れず、まだ見ぬ伴侶を夢見ながら、4人の闇精霊たちと研究を重ねる日々が続いていました。
ですが一週間前、そんな私の身に信じられないことが起こりました。なんと、私の助手になってくれる男性が現れたのです。しかも、その方は私が何度も著書で書いてきた【求人広告】を読んで下さったとのことでした。私の努力がようやく身を結んだみたいで、外には出しませんでしたが、心の奥底で飛び回って喜んだことは昨日のことのように覚えています。
【求人広告】を発見した彼は何故かその日の内に荷物を纏めてポローヴェへの旅へと出発したそうです。
彼は道中で未婚の魔物娘に襲われぬよう、魔物娘の嫁さんを持つ夫婦の運び屋に載せてもらったそうです。途中の宿は既婚者が経営する所に止まるなど、魔物娘夫婦の協力得ながらの旅という念の入れようだったそうです。
そしてポローヴェに到着するや否や、血眼になって私を探したそうです。あちこちを走り回って右往左往し、その日のうちに街の大部分を廻って、日が傾いてきた頃やっとのことで閉館間際の図書館にて一人で本を読んでいる私を見つけたそうです。
その時の彼の様子は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。肩で息をしながら、パンパンに腫れた両脚をかばいながら、別に偉くもなんともない私に頭をさげながら息を切らした声でこう言いました。
『あなたの本を読んでここに来ました。好きです。僕を旦那じゃなかった……助手にしてください。』
その時の私はと言うと、それが現実とは瞬時に受け入れられず、彼をみたまま、3分程表情1つ変えずに硬直してしまいました。その後やっと自分の置かれている状況が飲めた私は恥ずかしさの余り、持っていた本に顔を埋めながら呪文のように驚きの言葉を呟いていました。顔と耳から火が出るような火照りを感じました。あとで聞いた話ではそのときの私の顔は誰も見たこともない程、紅潮していたようです。
私の【求人広告】を読んで下さったことは素直に嬉しいのですがそこには私の欲望を赤裸々に綴ってしまいました。そのときの私は男性とそういったことがしたい一心に支配され、後先考えずに書いてしまいました。今振り返ると見るに耐えないような内容ばかり書いていたと思います。それを読まれたことを今更ながら後悔していました。
その時はやっと努力を結んだ嬉しさと【求人広告】を読まれた羞恥で上手く言葉を紡げませんでした。そして虫の羽音のような声で
「こんな私で良ければ……」
と一言つぶやいて応えました。
こうして彼は私の助手として働くことになりました。同時に夢にまで見た男性との同居生活も始まりました。
彼は普段は物静かで優しそうな印象の男性でした。私のように人と話すことが苦手なようで、口数はかなり少ない方でした。けれども、まだ人と話すことが苦手な私にとってとても安心できる方でした。
実際、印象に反せず彼はとても優しく、気の利く方でした。私が苦手としていた部屋の掃除や蔵書の片付けなどを、こちらが何も言わぬ間にやってくださいました。おかげで本が散乱して地震直後のように汚かった部屋が☓☓年ぶりに床が見えるほど綺麗になりました。料理の方はあまり得意ではないようですが、基本的なことはできていますし、何より手伝って下さって大助かりです。
学問に関しては得意ではないとおっしゃっていました。精霊学も全くの無知だそうです。けれども、ある日、頭を掻きながら本と向き合っている姿を見かけました。熱意はあるようで私としても嬉しい限りです。
だけど、まだしっかりお話したことがありません。というのも、まだ、男性と共同生活している現実を受け入れられないと共に、男性と面と向かって話すことはどうしても恥ずかしくて私の方から避けてしまっています。それに人との会話は昔から大の苦手でしたので、話そうにも話題が思いつきません。
それから、私が魔物の本性をむき出しにして襲ってしまうような真似をして彼を幻滅させたくありません。彼と初体験をするなら、もう少しお互いの理解を深めて、そして合意してからしたいと思っています。
けれども、魔物である私の身体はそうはいきません。彼が来てからずっと私の身体は欲望に素直です。
彼が側にいると、股間が疼き、じわりと愛液が染み出してきます。乳首もずっと勃ちっぱなしです。体中を微弱電流が流れているかのようにピリピリと震えています。特に暑いわけでもないのに身体は火照り、心臓の鼓動は一層早くなり、人間だった頃のように息苦しく感じることもあります。
ですので、彼が来てからというものの、私は彼を避けるように外出して、その先で仕事することでなるべく接触の機会を減らしてしまっています。家に変えると用事はさっさと済ませてすぐ自室にこもっています。
自室や仕事中には、彼と未だにまともに会話もしない私を自責しつつ、1人で慰めています。自分のダークマターを使ってクリトリスと腟口周辺を弄くり回し、触手を陰茎状にして口に突っ込んだりして気を紛らわせようとしています。しかし、当然そんなことで私の気分が満たされることはありません。この触手が本物の彼の手、彼の身体、彼の性器だったらいいなと何度も思っていました。
そんな一方で私が従えている4人の闇精霊たちは、彼といち早く交わろうと積極的にアプローチを仕掛けています。だけど一線を越えようとしたときは私がいち早く止めてそのまま連れて行ってしまいます。
いくら性に奔放な魔物娘とはいえ、彼の意に反する行為は許しません。……でも、彼女たちの積極性はとても羨ましいなぁって思います。
そして、外での仕事を終えて戻ってきた私は今日も彼から逃げるようにお風呂に行こうとしました。
「じゃあ、私、精霊の娘たちとお風呂に行ってきます」
だけど今日は違いました。
『あっ、待ってください!サプリエートさん!せっかく二人っきりなんですから……』
「?」
『ちょっとお話しません?』
「…………はい」
お風呂にいこうとする私を彼が引き止めました。彼が自分から会話の場を提案するとは思ってもいなかったので驚きました。
「…………」
『あの……えっと』
私は彼の座る今のソファへと座りました。けれども、お互い何も言い出せないまま数分が経過してしまいました。多分、会話の言葉を選んでいるのでしょう。せめてこの場を繕ってくれた彼のために何かお膳立てしなくてはと思いましたが、私の方は話すべきことは何も思い浮かびませんでした。私と彼との間には1人分くらいの隙間を空いていました。
『ぼ、僕のこと、どう思ってますか?』
「……えっ?」
『えっと……助手として、しっかり出来てるかなって……気になりまして……』
「……あっ、えぇ、とても助かっています」
『ああ、なら良かったです』
「はい」
「…………」
『…………』
またしても会話が止まってしまいました。何か話そうかと考えれば考える程、研究以外のこととなるといつもこうなってしまう自分に激しい自己嫌悪を覚えてしまいます。けれども一つ察しましたこの質問はきっと彼が今最も気になるものではないのだと。私の予感は的中しました。
『あと、僕自身は……』
「えっ?」
『いや、大事な本を勝手に本片付けちゃったし、あなたのこと避けちゃってますし……嫌われるようなしちゃいましたから、もしかしたら……』
「そんなことはありません!」
と自分でもびっくりしてしまう程の大声を出してしまいました。そして私は咄嗟に私の右側に座っていた彼の左手と重ねていました。
「私は……!貴方が来て下さったことがとても嬉しかったんです。でも、まだ気持ちの整理がつかず、意識して貴方を避けてしまったのは私の方です!」
『……!?』
思えばこんな風に自分の思いを叫んだことはありませんでした。私自身こんなことができるとは思っていませんでした。
「あ……すみません……私ったら……つい……」
唖然としていた彼の顔を見て私は我に返りました。そして、自分の右手が彼の左手の上に乗ってることに初めて気が付きました。私は咄嗟に手を退けると恥ずかしくなって身体の彼から大きく逸してしまいました。
私と彼との間は半人程になっていました。
また暫く沈黙が続くかと思っていましたが今度はどうしても気になる点があったので自ら話題を振りました。
「あ……あの、貴方が私を避けたって理由は……何なのでしょうか?」
『あの、何というか……まだ知識らしい知識も持ってないのにあなたとお話することにためらいがあるというか……』
私は知っています、貴方が私のために必死で勉強して下さっていることを。けれどもそれは違います。学問の出来不出来は問題ありません。私は単に共に愛し合えるような男性が欲しかっただけです。だけど貴方は思っていたよりずっと優しい方でした。私が一方的に避けていた一方で彼はずって私の事を気遣っていたなんて、こんなにも嬉しく、申し訳ない気持ちです。
悪いのは私の方です。研究のことしか話せる話題もなく、いつまで経っても気持ちの整理がつかず、意識的に貴方を避けてしまった私が悪いのです。
「そんな事は求めていません」
『えっ?』
「その本に私が何を求めているか、何度も書いたはずです」
ソファの前のテーブルには私ととある魔物学者さんとの共著である、『魔界自然紀行』が置いてありました。彼が初めて私の存在を知った本でした。ここに掲載されていた学者さんの助手のリャナンシーの方が描いた挿絵を見たそうです。けれどもあの絵は少しばかり私を美化しているのでちょっと気恥ずかしいです。それにあの本を書いているときはずっと男性の事ばかり考えていたので所々で【求人広告】という体で自分の欲望を書き連ねていました。それに、最初に書いたときには学者さんに窘められています。書いた時は大真面目だったのですが、今となっては恥ずかしい思い出です。
『確かに読みました……けど……』
「けど?どうしました?」
『正直信じられなくてですね』
「何がですか?」
『あなたのような人が本当にこんなこと書くのかなって……』
「あ……それは……私だって魔物ですもの。男性欲しさにそんなことも書きますよ」
自然と自分の心の内が口に出ていました。彼のお陰で話しやすい雰囲気になったからでしょうか。
『ハハハ……初めて生でお会いしたときもそうでしたけど、やっぱり信じられないなぁ……』
「私のことを物静かでミステリアスな深窓の令嬢だとでも思ってました?そうだとしたらそれはただの夢物語です。私も頭の中桃色の魔物ですからHなことの1つや2つ、いや、もっと一杯考えています」
『いや、そんなこと思ってませんけど……』
私自身、こんな冗談を交えられていることに吃驚しています。さっきから驚いてばかりです。彼はちょっと苦笑いを浮かべています。気分が乗ってきた私はいつもよりもすらすらと言葉を紡げました。
「魔物になった際の性格の変化にはですね、個人差があってですね、確かに、気弱な奴隷少女がヘルハウンドになってかつての主人を支配したとか、高飛車で意地悪なジパングの貴族の令嬢が海和尚になって被虐趣味になったとかそういった例は多いんですけどね、私はそんなことなくてですね、ダークマターになった後も性欲が強くなったこと以外はあまり変わらなくてですね、内気な性格や人見知りな部分、話し下手なところとか全然変わっていないんですよ。だからいつも自分の性欲を正直に表現できる場所が著書の中ぐらいしかなくてですね、それで思いついたときにあんな【求人広告】をついつい書いてしまったんですけど……あっ!」
と、ここでハッと我に返りました。学者特有の自分の得意分野となると話が止まらなくなる病を発症してしまいました。しかも、とても早口で聞きづらかったと思います。折角いい感じに話が進んでいたのに私のせいで台無しです。
でもここまで彼に任せっきりではいけません、今度は私が切り出す番です。折角ここまできたんだから私も思い切って訊いてみます。
「……したく……ありませんか?」
『えっ?何を……』
「私と……Hなことです……」
やっぱり、ちょっと踏み込みすぎたでしょうか。彼は決まりが悪そうな顔をしてこちらに向けていた顔を正面に戻して目線をそらしました。そして暫くの沈黙の後、耳が赤くなった顔を小刻みに縦に振りました。
私はちょっと安心しました。彼も私と同じ感じだったんだとわかって少しうれしくなりました。緊張がだいぶ解けて小さく笑ってしまいました。
「ふふっ……良かったです」
『えっ、何が?』
「私も同じようなこと思っていたんです。あなたは特殊な男性ではないかと」
『それってどういう意味ですか?』
「私、男性ってみんな強い性欲持ってるって勝手に思っていたんです。まぁ本等で得た印象ですけどね。だからあなたと共同生活初めてから、官能小説みたいな展開がないかな……って一方的に期待してたのですけど……だからもしかしたらあなたは特別なんじゃないかなって邪推してしまって……すみません、こんな失礼なことばかり考えていて……」
『いや、単にそんなことする度胸がないだけです……』
「いえ、違いますあなたが優しいからです」
彼は照れくさそうに顔を赤らめて顔を逸していました。でもこれでお互いの気持を確かめ合うことができたのでもう迷うことはありません。
もう一度思い切った提案をぶつけてみます。
「で……利害も一致したことですし……しませんか?」
『で、でも……ホントに僕なんかでいいんですか?』
「いいんです。あなたはとっても優しい人です。だからあなたになら抱かれても構いません」
『嬉しいなぁ……でもやっぱり本当に……』
「じゃあこう言えばいいでしょうか?一週間の試用期間は終わりました。あなたを正式に助手に任命します。だから助手の仕事として私を抱いていただけませんか?」
『わかった、わかりました。普通でいいですから。でも、経験ないから期待しないでくださいよ』
「私も同じです、気にしませんよ」
彼は卑屈になっていますが、それが私への優しさの裏返しであることは今回のお話でよくわかりました。だからもう決心しました。私の初めては彼に委ねようと。彼はきまりが悪そうな様子で尋ねてきました。
『じゃあ最初は何すればいいですか……?全くわからないです……』
「そうですね、じゃあギュッってしてください」
『ハグ、ですか?』
「はい」
『わかりました、では……』
彼は手を私の背中に回すと私を彼の身体へと引き寄せました。私と彼の間隔はいつの間にかちょっと動くだけで互いに密着する程にまで縮まっていました。私は両腕を彼の背中に回し、彼の胸元に顔を寄せました。
「あなたの身体……温かいです」
『そ、そう、く、臭く……な、な、ないですか?』
「いえ、全く……」
『よ、良かった……です』
あぁ……私はいま幸福感のみで満たされています。身体を寄せ合うことがここまで心地よいとは想像もしていませんでした。
服の生地越しですが、胸の厚みを始めとする彼の感触、温もり、匂い、心臓の鼓動……私へと伝わってくる彼の全てに愛おしさを感じます。私は胸の中で恍惚としていました。
ただ、彼がプルプルと緊張で震えていることには全く気が付きませんでした。
彼の胸の中でどれ位の時間が過ぎたでしょうか。私の中で新たな欲望が湧いてきました。私は上目遣いで彼に要求しました。
「今度は……キス……しませんか?」
『えっ……き、キス……口臭くないかなぁ……』
「大丈夫ですよ、今のあなたからはいい匂いしかしませんから」
『お、お世辞でも、照れるなぁ……』
「お世辞じゃありません。本当のことです」
彼は口臭を気にする心配性なところ、私の言葉に照れる彼は愛嬌があってとてもかわいらしいと思いました。
キス――それは、愛し合う者同士が互いの唇を重ね合わせる愛情表現の1つ。私が憧れていた行為の1つです。私は長年、キスがどれ程気持ちいいものであるか、ずっと気がかりでした。唇は人体の中でも鋭敏な部類だからと生物学的に快感をもたらす理由はわかっていました。だけどやっぱり体験しないことには確かめようがありません。そして今私は、意中の男性の胸の中です。この最高の機会の中で私は期待で胸を高まらせていました。
『じゃ、い、いいですか、僕からいきますよ』
「はい、お願いします」
私は目を閉じ、小さく口を窄ませました。
私の心臓は拍動の速度を更に速めていきます。ですが、目を閉じて暫くしても私の唇の感触に何の変化もありません。時間にすると数秒程だったのでしょうが、私にはとても長く感じられました。もどかしさのあまり、彼の様子を伺おうとしたその時です。
くちゅり、と柔らかいものが私の唇に触れました。その瞬間、ゾクゾクと背中を痺れたような刺激が走りました。身体がビクビクと痙攣するとともに、今まで味わったことのない快感。その未体験の快楽に私は大きく体を震わせ、軽くオーガズムを感じてしまいました。
快感の涙で潤んだ目をゆっくり開けると、そこには目を閉じたまま私の唇を自らの唇とひっつけている彼の姿がありました。彼も私のキスに夢中なのでしょうか?そうだとしたら嬉しい限りです。
ですが、私の欲望は留まることを知りません。もっと密接に絡み合いたい……もっと彼を味わいたい……そう考えた私は唇を少しだけ開け、その間からゆっくりと舌を伸ばしていきました。彼に気付かれないように、そっと……私の舌は唇の先端に達しました。
ねちょり……
「ひゃうん!」
『ひゃあ!』
突然、私の舌に柔らかく、湿ったものが触れる感触がしました。あまりにも予想外だったので、私は素っ頓狂な声をあげながら後ろへ大きく仰け反ってしまいました。だけど、不思議なことに彼も同じような動作を私とほぼ同時にしていました。
「ご、ごめんなさい!私ったら勝手に舌を伸ばして……」
『ご、ごめん!夢中になってつい舌が……』
「へ?」
『え?』
私たちは見つめ合ったまま暫くぽかんとしていました。互いに何をされたか、一瞬でわからなかったようです。ですが、寸刻の後、状況が分かって私たちは同時に吹き出していました。
『ははは……まさかサプリエートさんが舌を出してくるとは……』
「ふふふ……あなたって意外と積極的なんですね」
私は内心、とても嬉しかったです。私たちが全く同じことを考えている、まるで互いの意思が通じ合っているかのようなことが起こるなんて夢にも思っていませんでした。やっぱり彼が私を訪ねたのも、こうして抱き合ってるのま運命だったのかなって思っています。
「では気を取り直して、もう一度いきましょう……今度は舌を絡めさせて頂きますね……」
『はい』
今度は間髪入れずに唇を合わせました。そしてちょっとだけ私がリードしました。唇同士が触れ合うと同時に彼の口内へと伸びる私の舌。半開きの彼の唇の間を抜け、するりと侵入しました。
真っ先に舌先に触れたのは甘露のように蕩ける甘みを持つ彼の唾液。それは何にも代えがたく、名状しがたい程の美味でした。
蕩けるような甘さのそれは、まだ内気な人間の片鱗を残していた私を、男性を貪る魔物へと完全に変えてしまいました。
「んっ……ううん……じゅるり……ずずず……」
『んっ……ふぅ……』
彼の粘膜、歯茎、歯列、そして舌。そこについている彼の唾液を全て舐め取るように舌を絡めます。ねちょねちょ、じゅるじゅると、あまり上品とは言えない湿った音には気も留めず、彼の口内を満遍なく舌で蹂躙していきます。
でも、それだけでは不公平なので、彼の舌を私の口内へと導きます。彼の性格を反映したように遠慮がちな彼の舌を私の口内で這わせます。彼に私の体内を直接触られる感覚というのは意識が飛びそうなほど、激しいものでした。
「はむぅ……んちゅ……ずじゅ……」
『んっ……ふぅ……うぅ……』
私の舌が彼の柔らかい舌と絡む度、彼の唾液が私の口内に流れ込む度に、私の身体は火照り、欲望は高鳴り、理性は徐々に薄れていきました。
「ふはぁ……」
『ぷはっ……!』
私たちは唇を離しました。私たちの唇の間に一筋の唾液の橋が架り、プツリと切れました。どれ程の間口づけを交わしていたでしょうか。私には数時間のような長い時間に感じられましたが、実際は数分程度だったと思います。ですがお互いの唾液が入れ替わったのではないかと思う程、濃厚なキスだったことは間違いありません。
名状しがたい快楽が余韻となって残っています。キスがこんなにも気持ちよく、幸せな気分になれるものだったなんて……想像だけでは予想もつかないものでした。
でも私の欲望は留まるところを知りません。私の興味は次の所に向いていました。キスをして身体を寄せ合った際、彼の下半身がむくむくと膨らんでいくのがわかりました。私とのキスで興奮してくださったことを素直に嬉しく思うのと同時に、彼のそれで色々なことをしてみたい欲求がふつふつと湧き上がっていきます。
「次はこっちですね……」
『ええ?ちょっと待っ……』
戸惑っている様子の彼を他所に、私は屈んで彼のズボンのベルトに手をかけます。ズボンは下から押し上げられて、山の用な膨らみを作っています。
外面は平生を保ったふりをしていましたが、私はプレゼント箱を開ける子供のように興奮していました。その中のモノが見たくていつもより手早く手を動かしていました。自分のことを魔物らしくないと思っていましたが、性のことに関して、ここまで積極的になってしまう辺り、私は魔物なんだと自覚しました。
ベルトを外すと彼のパンツと一緒に一気に下ろしました。普段のように一枚一枚丁寧に脱がすようなじれったい真似はしません。プレゼント箱を開ける子供が綺麗に包装紙を開けるでしょうか。それと同じことです。
ズボンを全て下ろすと、布で押し止められていた“それ”は勢いよくしなりながら、私の眼前に飛び出してきました。
「これが……男性の……!!」
『は、恥ずかしい……』
顔を赤らめ、横に逸している彼を他所に私はまじまじと眺めていました。カップルの方々が交わっているときに、遠目で見たことはありましたが、こんなに間近で見るのは初めてです。
私は本職の学者のようにじっくり観察していました。
天を仰ぐようにそそり勃つ陰茎、熟した桃のように赤く膨れ上がっている亀頭、茎の部分に蔦が這うように浮き出ている青筋、その禍々しくも、女性を悦ばせるには充分な形をした男性器に感動し、うっとりと心を奪われていました。
男性の精の香りでしょうか。とても良い香りが漂ってきます。
「こんなにもいい匂いがするなんて……あっ……熱い……」
『……っああっ!!』
見ているだけでは我慢できず、思わず指先で触れてしまいました。彼のそれは熱を帯びていて、火傷するのではないかと錯覚し、すぐに手を離してしまいました。
それと同時に彼のそれはビクンっと脈打ち、彼も下半身をビクビクと痙攣させ、上体を大きく仰け反らせていました。
「あっ……!ごめんなさい……私ったらまた……」
『触られたことないから、びっくりしました……』
「それで……何すればいいですか?」
『はい?』
「ズボン下ろした私が訊ねるのもあれですけど……何がいいですか……?」
キスで発情してから、ずっと私が一方的に事を進めていました。だから、今度は彼の要望も聞いてあげなくてはと思い、湧き上がる魔物の欲望をどうにか抑え、彼に伺いました。
『あ……痛いのとか苦しいのとか、そういうのなければ、何でも……』
「わかりました。じゃあフェラチオでいいですか?」
実は初めてお目見えしたその瞬間から、ずっと彼のそれにしゃぶりつきたいと思っていました。結局私の独りよがりになってしまうので後で振り返ってとても申し訳ない気持ちになりました。けれども、その時の私は、普段の一歩後ろに引いた気分もなく、魔物の本能に支配されていました。
『う……汚いし臭いですよ……仮性包茎だし……』
「いえ、とても芳しい香りがしますので大丈夫です。では、はむっ……」
『うっ……あぁぁぁぁ……』
彼の男性器を口に含みました。海綿体でできた彼のそれは弾力はありましたが、私の唇よりもずっと固くて驚きました。深く咥えて歯を立てないように慎重に奥に導いていきます。
「んっ……んん……じゅるるう……」
『あっ……うあぁぁぁ……』
舌先が彼のそれに触れました。触れた瞬間、甘美な風味がした全体に広がりました。その風味をもっと味わいたくて、彼の陰茎に舌を這わせていきました。亀頭の柔らかく、弾力に富んだ舌触り、茎の固くて、青筋の凹凸感のある舌触り、そして部位によって微妙に変化する味。その全てを舌で感じたい一心で、夢中で彼の男性器を舐め回していました。
「んぐんん……んんっ……じゅるり……じゅるるるううう……」
『ふわっ……ふぁぁぁぁ……』
舌が彼の男性器を撫でるたび、彼が小さい声で喘ぎ、上体を捩らせます。舌先から伝わる味覚も、耳から入る彼の喘ぎ声も、目から入る彼の快楽で身体を捩らせる姿全てが愛おしく、私を更に駆り立てていきました。
「んん……じゅるる……」
『うっ……あっ!……ああっ』
雁首のくびれに念入りに舌をなぞらせ、舌先で濡らしていきます。ここに残っていた恥垢はとても濃い男性の香りと味で非常に美味でした。あかなめが気にいるのも納得です。その甘美でいくら舐めても減らない飴はいつまでも舐め続けられても飽きない美味でした。
「んぐ……んぐ……んんっ!?」
『うぅっ……うあぁぁっ……!!』
太いクレヨンで味蕾を塗りつぶすように彼の亀頭を舌で強くなぞりました。茎もムラがないように何度も舌を這わせます。途中、口内で彼の陰茎が何度もビクン、ビクンと跳ねました。それが唇、舌、口内の粘膜を強く押し上げるたび、マッサージと似た心地よさが体中を駆け巡りました。
「はむ、んちゅ、れるっ……」
『そんなところも……あっ……あぁ……』
そして陰茎のみならず、陰嚢にも舌を這わせます。シワが多く、どこよりも凸凹したそこは、彼の子種が生成され、蓄えられている場所です。そう思っただけで、とても愛くるしく感じ、子供を愛でるように優しく、そして急所なので下手に刺激しないように、唇の先で甘噛し、その間から舌を出してゆっくり舐めていきました。
「ぢゅうぅぅ……れろ……」
『うあぁぁ……っああ……!』
再び、彼の陰茎に戻り下から舐め上げます。私の唾液でべっとり濡れていたので最初よりも滑らかに舌が進んでいきました。そして鈴口に舌を這わせたその時でした。
「れろっ……甘いです……ちゅるり……」
『うああっ……!!はぁっ……はあっ……』
甘露のように甘い液体が私の液体に触れました。俗に我慢汁と呼ばれている、カウパー液でした。その甘さに恍惚としていた私は夢中で彼の尿道口付近を集中的に舐め回していました。先走りでこんなにも甘いならば、精液はいったいどんな味なのか、私の期待は高まる一方です。
ですが、彼の反応を見ていると、もっと別の方法でも試したくなってきました。
「じゃあ……次はこちらでさせていただきますね」
『ああ……』
衣装を変化させ、胸の部分を露出させました。私の衣装はダークマターの魔力を変化させて作ったものであるため、このような器用な真似が出来るのです。
それはさておき、このまま口でして、口内に直接注ぎ込まれるのも魅力的だとは思っていました。ですが、彼の剛直を地肌でも触れてみたくなり、また、口だけではなく、折角だから身体の到るところに精液をかけて欲しいなぁ、なんて思いが過りました。そして、彼がどんな反応をするのかも楽しみになったからでもありました。
「では胸の間に挟んで……よいしょ……」
『ううっ……あぁぁぁ……』
私の乳房で彼の男根を包み込みます。その男根は肌で感じてもかなりの熱を帯びており、触れた所が火傷すると錯覚する程でした。むにゅりと乳房を押し付けると彼の形に合わせて凹みました。それはまるで自分の身体に彼を刻みつけているようで視覚的にも感覚的にも強い刺激となって私の身体を震わせました。
「はぁ……とても熱いです……どうですか?気持ち、いいですか?」
『う……うん……はぁぁぁ……』
彼が明確に肯定の意思を示して安心しました。パイズリだと口の自由が効くので口淫よりも意思疎通が取りやすいのが利点です。まずは彼の陰茎を挟み込んだ左右の乳房を強く押し付けては緩める動作を繰り返していきました。彼の硬い陰茎は人間の一部とは思えないほど硬く、押し付けるたび、私の柔肉が彼の形に凹みました。その感触を味わいながら、ゆっくりと乳房を動かしていきました。
「どうですか?どこか痛い所はありませんか?」
『大丈夫……ううっ……ああっ!』
美容師のように尋ねながら乳房を動かしていきます。次は少し動きを変えて、自分から見て前後に、錐揉みする要領で彼の陰茎を転がしていきました。彼の陰茎を彼の男性器は私の唾液でべっとりと濡れていたので、ぐちゃぐちゃと淫靡な水温を奏でながら、私の胸の中でよく滑り転がりました。そして、動きをかえたからでしょうか、彼の喘ぎ声が微妙に変化しました。
「すりすり……んっ……とても激しいです」
『あっ、あっ、あっ……はぁぁぁ……』
谷間の間でも魚のようにビクン、ビクンとうねる彼の陰茎。それを逃さないように左右の乳房を強く押し付けました。そして今度は下から上へ、尿道の中身を押し出すように乳房に圧を加えてきました。
「私……しっかりとできていますか?」
『う、うん、気持ちよすぎて……うぁっ、うぅっ……』
彼の言葉が偽りでないことを示すように尿道口から止めどなくカウパーが溢れ出し、私の乳房をより一層濡らしていきます。ぴちゃぴちゃとした水音は更に湿り気を強めてきました。
「カウパー、いっぱい……溢れてきました……そろそろですか?」
『あぁ……、うん……もう……イキそう……くぁああぁ……』
彼の陰茎がより激しく、不規則に脈動をしていきます。射精の前触れでしょうか。そう思った私は更に乳房を激しく動かし、彼のものを激しく揉みしだきました。
「出したくなったら、思いっきり出してくださいね……」
『うぐう……おおっ!?……おぁああああ……!!』
男性の精液はどんな香りがするのか、そしてどんな味がするのか……。そんな期待を、彼の陰茎を揉みしだく胸と手に込め、その動きを更に加速させていきます。
『ああっ!もうムリ……出る!!』
「いいですよ……出して下さい!思う存分出して下さい!!」
最後は絞り出すように下から上へ激しく、そして素速く手と乳房動かしていきました。恐らく人間のままの私だったら間違いなく腱鞘炎になっているような激しさでした。
『うわああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!』
「ひゃああ!?」
彼が叫んだその時でした。彼の陰茎がびくびくと振動したかと思ったら、突然眼の前が真っ白になり、視界が阻まれました。その直後顔中や乳房にべっとりと生暖かく、粘り気の強い液体が降りかかる感触がしました。
「これが、精液……?」
『はぁっ……はあっ……』
射精によって息を切らしている彼を他所に、私は眼鏡にかかった白い液体――彼の精液に心を奪われていました。男性の精を最も多く含有している分泌液にして、我々魔物にとって最高のご馳走。魔物である私がその芳醇な香りを前にして何もしていられないはずがありません。
眼鏡に付着した精液が滴り落ちないようにゆっくりと慎重に外しました。そしてべっとりと精液がついたレンズ面を平行に傾けると、それにお猪口のように口を付けて彼の精液を口内へと啜っていきました。
「ん……じゅるるるぅ……おいひいれふ……じゅるる……」
魔物になってから様々な魔界動植物やそれを使った美味しい料理を食してきました。しかし、脳を蕩けさせるような濃厚な香り、口の中でねっとりとこびりつく粘り気、いつまでも口内に残り続ける濃厚な風味、それを持ち合わせた精液は何にも優る美味しさがありました。この時初めて、私は魔物が伴侶の男性に耽溺してしまう理由を、身を以て知ったのでした。
眼鏡にこびりついた精液を右のレンズ、左のレンズの順で啜り、あっという間に飲み干してしまいました。当然、それだけでは物足りず、付着した精液を拭い取って、頬についたクリームを舐める子どものように精液を舐めていました。
『あの……サプリエートさん……』
「あああぁ……!すみません!私ったらまた……じゅるっ……」
彼の呼びかけで私はやっと正気に戻りました。それでも尚魔物の本能を抑えきれず、拭った精液を舐りながらでしたが。
『あの、すみません、こんなに汚しちゃって』
「ぢゅるっ……いえ、こちらこそこんなに幸せな体験をさせていただいて……じゅる……」
『あの、申し訳ないのですが……』
「はい……ぢゅる……」
『一回出したのに、全然収まらなくて……それで……』
「はい……」
彼の陰茎に目線を移すと、それは彼の言う通り、強く勃起したままでした。きっと先程のキスとフェラチオとパイズリで私の身体と体液を通じて彼に魔物の魔力を流し込んだことのよる効果が出始めているのでしょう。こうして彼に魔力を流し込み、インキュバスにすることで途切れることなく、何度も性行為を行える……なんていつもの学者思考を巡らせていたその時でした。
「きゃあっ!?」
突然、背中がソファに叩きつけられたかと思うと、彼が私の上に覆いかぶさっていました。彼が私を押し倒したのです。
大きく見開いた目で私を捉え、息を切らし、激しく喘いでいるその姿はまさに獲物を捕らえた獣でした。
『はぁ、はぁ……僕も……もう抑えられません……!!はぁっ……挿れて……いいですか?』
寧ろ私からお願いするべき要求に私は感無量でした。私も精液を舐め取ってから下腹部、つまり子宮がきゅうきゅうと疼いて彼の精液を求めていて男性を襲いたくなる劣情がじわじわと湧き上がっているのを感じていました。しかし、男性が私を襲うという、願ってもないシチュエーションが起こり、私から襲う必要がなくなったことで内心安堵と歓喜をしていました。欲を言うともっと強引でも構わなかったのですが。
「はい……お願いします……!」
『はっ、はっ……痛かったら……言ってくださいよ……はぁ……』
私と彼は正常位の姿勢で性交の準備を整えました。
彼の性欲に支配されながらも、理性を振り絞って私を気遣う姿に心うたれました。こんなに優しい人が自分の伴侶になってくれるなんて、私は世界一の幸せ者です。
『行きますよ……?』
「はい……」
返答と同時に彼の亀頭が陰裂に充てがわれ、くちゅり、という愛液の粘った音がします。それだけで私はビクリと身体を痙攣させてしまいました。
「んぁあああぁぁ……」
彼の陰茎の先端――亀頭が私の肉孔を捉えると、みちみちと音を立てながらゆっくりと私の柔肉をかき分け、奥へ進んでいきます。
「ひゃあぁぁぁ……」
『うぐぅ……んはぁ……』
ダークマターで作った触手とは比べ物にならない硬さ、熱さ、太さ、質感を持ち、私の意思で動かない彼の陰茎が私の膣を温め、形状を変化させる感触は私が行ってきた自慰行為全てを過去のものにしてしまう激しい快楽を伴いました。
「いっ……!!ああぁぁぁあぁぁ……」
処女膜が突き破られ、名実ともに処女で無くなったことを示す激痛が一瞬身体に走りました。ですが、その痛みはもう次の瞬間には彼の陰茎が膣壁を擦る激しい快楽に上書きされていきました。今の私はただ目を潤ませて、喘ぐことしか出来ません。
「うぅあああぁぁぁぁぁぁ……」
『あっ……うあぁぁ……』
愛液と処女血の混じった赤と白のマーブル模様の液体がじっとりと膣口の隙間から溢れ出してきました。彼の陰茎は更に奥へと、くっついている膣壁同士をみちみちと引き剥がすように突き進んでいき。そして――
『くぅっ……!あああっ!!』
「ああぁぁぁぁぁっ!あああああぁぁあぁぁあああああぁぁぁぁっっ!!」
名状しがたい激しい衝撃と快楽が身体中を貫いていきました。彼の陰茎は膣最深部へと到達したのです。彼の亀頭が最深部の膣壁を押し上げ、その衝撃に突き押されるように、堪えていた喘ぎ声が軛を解かれたように私の喉の奥底から絶叫となって飛び出し、私は身体を大きく仰け反らせたのでした。
「はーっ……はーっ……はーっ」
『うぁ……大丈夫……痛く……ないですか?』
最初の挿入で私は絶頂に達してしまいました。
肺の空気を全部使い切る勢いで叫んだため、全力疾走したときのように息を切らしてしまいました。しかし、そんな私に対して彼は、同じような快楽で悶ているのにもかかわらず、それを堪え、私を気遣ってくれます。そんな彼の声すら今では私の快楽で痺れさせる媚薬のようでした。
「はいぃ……もっと……お願いします……」
『じゃあ……動きますよ?』
「……はい」
彼の陰茎が膣壁を擦りながらゆっくりと引き抜かれます。それに呼応するように、拡充された膣壁が元の広さに窄まっていきます。膣壁が擦られる度、ピリピリと微弱な快楽が小刻みに痺れるように全身を駆け巡りました。
「あっ……んぁ……ふぁ……ああっ……ひぐっ……」
やがて陰茎の大半が抜かれ亀頭が膣口付近に達します。私の膣が虚脱感や石標感を感じ、膣壁の感覚細胞が先刻の刺激を求めて疼きだしたその時でした。
「んっ…………んぁあああああ!!……ひゃあっ……あっ……あっ……」
彼の陰茎が再び膣の最深部にまで一気に叩きつけられ、膣壁に激しい刺激が加わります。今度は叩きつけられような強烈な快楽に悶絶したのでした。
「すごい……んんっ……です……うぁぁ……やぁああ……」
彼の陰茎は私の唾液と彼のカウパー液や精液で、私の膣は愛液で濡れていました。それが互いに潤滑液となり、彼の抽挿の速度は徐々に加速していき、快楽を増大させていったのでした。激しい快楽に口元と涙腺が緩み、口からはだらしなく涎が溢れ出し、目は潤んで視界がぼやけてしまっています。
「ひゃうぅ……んぁあ……あうぅ……んん……」
未曾有の快楽の波状攻撃の前にあれこれ考えられる余裕はありませんでした。私の膣を蹂躙する彼の熱を帯びた陰茎は膣壁をどろどろに溶かしてような熱さと錯覚する程でした。その熱は私の思考もどろどろに溶かしてしまい、論理的なことを考える余裕などありませんでした。ただ身体中に走る快楽を受け止め、喘ぎ声に変換することで精一杯でした。
「もっと……もっと……んぁぁ……」
快楽に悶え、左右に揺らしていた頭を据えると、潤んだ目つきで彼を見据えます。そして、辛うじて紡いだ言葉を繋ぎ、甘えるような声色で何かを要求しました。だけど、何が「もっと」なのか自分でも分かりませんでした。ただ、今以上の刺激を求めていたのは確かでした。
「ああっ!……いいです……気持ち……いいです!……ああああぁ!!」
彼は私の開けた乳房に手を伸ばすと、徐に掌で包み込み、右手で左乳、左手で右乳の順に揉みしだいていきます。かなり強く握りしめていたはずなのに、痛みはなく、彼の手の形に押し下げられた所には不思議な心地よさがありました。
しかし彼の追撃はここで終わりませんでした。
「んーっ!?……んむっ……ぅうん……ちゅう……ん……んんっ……」
更に彼は私の顎を手で引くと、唇を落としてきました。予期せぬ奇襲に驚きつつも、次の瞬間には夢中で彼の唇を貪っていました。彼の口内を蹂躙する私の舌。私の膣に絶え間なく打ち付けられる彼の陰茎。上下共に彼と繋がっている快楽は私にこの上ない多幸感をもたらしてくれました。
「はむっ……んん……んちゅ……」
キスによって必然的に私達の距離は更に縮まります。服越しとはいえ、密着した身体から伝わってくる彼の温もりが私に興奮と安心感をもたらしてくれます。その感覚と距離感が愛おしくなり、私はしがみつくように腕と脚を彼に回しました。
「ちゅぱっ…………んんっ……ああっ!」
『はぁ……はぁ……んんぁあ……っはっ、はっ……』
密着したことにより、腰を激しく叩きつける振動がずっと強く伝わってきました。紅潮しきった私の肌は普段よりもずっと感度が増しており、如何なる些細な刺激も忽ち快楽に変えてしまいます。そんな中で激しさを増した振動と服越しに擦れる彼の身体は私に更なる快感をもたらしたのでした。
「ああっ……んんっ……うぁ……ひゃん……」
『あぁ……もう……ぐっ……イキそう……です……あぁ……』
先に声を上げたのは彼の方でした。ですが幾重のも快楽を受け続けた私の身体も限界でした。耳元で喘ぎ、囁く彼の声はまるで名曲のように私を恍惚へと誘っていきます。
その上パンパンと彼の腰が私の腰を打ち付ける音、グチョグチョと互いの湿った性器が擦れ合う水音、私たち2人の振動でギシギシと軋むソファの音。
それらの音が織りなす淫靡な空間に当てられ、心の内がそのまま声となって漏れてしまいました。
「出して……ください!……うぁぁ……いっぱい……ああっ……注いで下さい!……うん……貴方の……精液で私の子宮を……ひゃ……満たして下さい!」
私の声に応えてくださったのか、彼の腰の動きは激しく、加速していきました。
私の膣もこれから吐き出される精液を一滴も逃すまいというかのように彼の陰茎を強く締め付けたました。
「好き……です……貴方の……ことが……ああっ!……好きです……はぅ……だから……これから……んんっ……私を……毎日……抱いて下さい!……っああっあああああっ!!」
気恥ずかしくて言えないような彼への思いが淀みなく溢れてきました。
硬さを増した彼の陰茎が私の膣口で激しく音を立て、私の愛液をかき回し、飛び散らしています。
『僕も……です……あなたのことが……好きです!……ううっ……出るっ……あああっ!』
「好きです……あっ、あっ……イキます……イッちゃいます……はああああああああああっあああああぁぁぁぁあああぁっぁあぁぁ!!」
耳元で囁かれた彼の告白を聞きながら、私は彼と同時に絶頂に達しました。
激しく脈動し、熱い白濁を子宮へと叩き込んでいく、根本まで差し込まれた彼の陰茎。私の全身は快楽で痙攣し、膣内は彼の精液を搾り取るかのように蠕動し、彼の陰茎を絞り上げていきます。
「あっ……まだ……出てます……ああ……すごい……です」
迸っていた精液はやがて、びく、びくと陰茎を不規則に脈動させながら残りを私の子宮に注ぎ込まれていきました。それに呼応するように私の彼の不規則に締め上げています。
「あぁ……幸せ……」
『はぁ……はぁ……はぁ』
やがて射精が止まると、彼はゆっくりと引き抜きました。後にはくちゅり、と粘った音が余韻のように響いていました。
最愛の男性が私に劣情をぶつけ、快楽と子種を注いでくれた、魔物としても女性としても幸せの一時。
私は夢見心地のまま、その余韻に浸っていました。
『大丈夫でしたか……痛く、無かったですか?夢中になりすぎて……』
「いえ、とっても気持ちよくて、幸せでした」
暫くの沈黙の後、荒げていた息を整え、彼が私を気遣ってくれました。そんな彼に胸がときめいてしまい、彼の唇を強請ってしまったのでした。
「あの、もう一度、キス、していただけませんか」
『はい……んんっ』
「んっ……」
今度のキスは唇のみを触れ合う軽いものでした。この唇から感じ取れる彼の感触で先程までの幸せな一時が夢ではなかったことを確証するのでした。
「私、とっても幸せです……いつまでもこうしていたいです……」
『じゃあ、もう一度します?僕も二回も出したのにまだ治まらなくて……』
「私もそうしたいです。ですが……」
すると半開きになっていた扉からひょっこりと4つの顔が出てきました。
「あらあら♡お邪魔しちゃったかしら?」
「オイオイ?いつからそんなに積極的になったんだ?」
「やぁん、マスターたちだけずるい♡」
「私も……欲しいな……ナカに……♡」
お風呂上がりの四大精霊たちが居間に飛び込んできました。何時からかは分かりませんがどうやら私たちが交わっていたのを覗いていたようで、皆顔を赤らめながらニヤニヤとなにか企むように妖しく微笑んでいました。
「彼女たちも私の大切なパートナーです。私と同じように愛を注いであげてください」
『うむむ……流石に持つかな……』
この時、彼を独り占めしたい邪な気持ちは当然ありました。ですが、彼女たちは私と寝食を共にし、共に研究を重ね、ポローヴェを再生させたかけがえのないパートナーです。彼女たちにもこの幸せを分けたあげたいと思いました。
「大丈夫です。先程の性行為で私から大量の魔力があなたに注がれたはずです。ですからあなたはもう抜群の精力を持ったインキュバスになっているはずですから、心配無用です」
『まぁ……頑張ってみますね。ほら、君たちもおいで』
苦笑いを浮かべながらも、彼は優しく彼女たちを誘い入れました。そして私にしたように彼女たちと交わり、精と愛情を注いだのでした。ウンディーネとは包み込む水のような対面座位で、イグニスとは燃え盛る炎のような騎乗位で、シルフとは軽やかに吹く風のような立位で、ノームとは静かに重く構える大地のような後背位で、彼は彼女たちと代わる代わる交わったのでした。
◇ ◇ ◇
『おおぅ……自分でも信じられない程連続で出たけど、やっぱり疲れますね……』
「すみません無理させてしまって、やっぱり、いきなり何度もするのは難しいですよね」
『あの、もっと精力がつく魔界の食べ物とか、薬品とかありますか?』
「そうですね、魔界豚や魔界蜥蜴の肉とかホルスタウロスミルクですとか、ドラゴニア名物の『龍の生き血』など、たくさんありますが……無理だけはなさらないでくださいね」
その後、彼は四大精霊たちと1人2回ずつ交わって力尽きました。まだインキュバスとなって間もないため、向上した精力に対する心身のギャップが原因のようでした。
あの後、私たちは軽くお風呂に入り、お互い、汗や体液でベトベトだった身体を洗い流しました。そして今は昨日までとは異なり、私たちは2人、いえ正確には6人で同じベッドで寝ています。四大精霊たちは初めての性交にすっかり満足したようで既に分体の姿となって寝てしまいました。
私と彼はベッドの中に入って、お互い体を密着させながらお話していました。所謂ピロートークというものです。
「あ、あの……こんなことお願いするも何ですが1ついいですか」
『はい、何ですか?』
「当分の間は難しそうですが、私たちの性行為を研究に反映してもよろしいでしょうか?」
『け、研究!?』
彼は少し裏返った声で驚いていました。【求人広告】にもその旨は書いていましたが確かめておいて良かったです。
「はい、【求人広告】にも書きましたが、私はより多くの方が気持ちよく、幸せに暮らして欲しくて研究しています」
『ああ、そういえば書いてありましたね。でも当分難しいって言うのは?』
「やっぱり、想像していたよりもずっと気持ちよくてですね、慣れるまで研究のことは考えられそうになくてですね、というよりもっとあなたと楽しみたいと思いまして……」
そう言えば、私、初体験のときに確認することや調査することを予めリストアップしていました。今まで調査した性行為関連の事象は全て他者からの伝聞や推定に基づくもので、確証があらず、研究者としてもどかしい気分でした。ですから、我が身を以て確証を得ておきたく、長年その機会を心待ちにしていました。
ですが、いざ本当に経験してみると行為中はそんなこと考える余裕なんてありませんでした。自慰による快楽の時はむしろ頭の回転が上がっていたはずなのですが、性交だと頭の中が快楽で埋め尽くされ、私から思考を完全に奪ってしまうのです。
「それでもやっぱり、あなたと交わって一層、強く思うようになりなした。もっと気持ちよくなる方法を知りたいって、もっとこの幸せをより多くの人々に知ってもらいたいって。嫌なら強要はしませんが……」
彼のいた人間社会の感覚と常識では珍奇なのは分かっています。それでも学者としての私は飽くまで追求する姿勢と魔物としての更に気持ちよくなりたい欲望が私の研究意欲を駆り立てるのです。
『わかりました。いいですよ。一緒に調査していきましょう。ただあんまり恥ずかしいことは書かないでくださいよ』
少し拍子抜けした表情をしていた彼でしたが、優しく微笑んで了承して下さいました。
「ありがとうございます。あと、それから……」
『それから?』
「ずっと、ずっとそばにいてください。読書してるときも、執筆中も調査に行くときもずっと、ずっと……あなたと離れたくありません……少しでも離れたら、きっと、寂しくて……」
男性の精を求める魔物の習性なのか、今まで男性に恵まれなかった反動かわかりませんが、彼のことが恋しくて仕方がありません。彼が来たばかりの頃は欲求不満が少し強まった程度でしたが、今では少しでも離れただけで耐え難い寂寥感を感じて、何事にも手がつけられなくなりそうです。
私は彼の胸に甘えるように顔を埋めました。性交中は心中をそのまま言葉に紡ぐことができましたが、平生だとやはり照れくさくなって、胸が動悸していしまいます。
『はい、いっしょにいましょう、これからずっと、いつまでも……』
「ありがとうございます……温かいです……」
彼は優しい声色で了承すると、包み込むように腕を回してきました。優しく抱きしめられ、顔が軽く彼の胸に押し付けられます。彼の甘美な匂いが私の鼻腔をくすぐり、私を恍惚の境地へと導いていきます。
『みんなで一緒に研究して、もっと魔界を広げて、もっと多くの人を幸せにしましょう』
「私……とっても嬉しいです……」
私は歓喜で胸が詰まり、今にも泣き出しそうでした。
そんな私の頭を彼は優しい手付きで撫でてくれました。
少し落ち着いた私は陳腐だけど他に言葉が見当たらない彼への思いを紡ぐのでした。
「大好きです……愛しています……あなたのことを……」
『僕も愛してます……サプリエートさん……』
優しく返答する彼の胸の中で私は幸福感に浸っていました。
彼の腕の中で、彼の体温と鼓動を感じながら、そしてこの幸せがいつまでも続くことを願いながら、この日は眠りの海へと沈み込んでいったのでした。
【おまけ】
「あの、そう言えば1つ聞きたいことが」
『はい何ですか?』
「あなたは、私の挿絵を見て来てくださったんですよね」
『いやぁ、そうですけど言わないで下さい、恥ずかしいなぁ……』
「それで、挿絵の私と実際の私、比べてどうでしたか?」
『全然違いましたね』
「……やっぱり、そうですよね、あちらの挿絵は魔物学者さんが美化して描いてくださったものですからね」
『挿絵よりもずっと美しくて素敵だと思いましたよ。今も見てもそう思います』
「……もう、何でそんな恥ずかしいセリフが言えるんですか?」
『いや、だって本当のことですし……』
「本物の私が挿絵の私よりも素敵ならば、当然、今日も抱いてくれますよね?」
『挿絵と何の関連性があるかイマイチ分かりませんが、いつもどおり、今日も研究しましょう。ほらっ……』
「きゃっ……♡」
「ただいまもどりました」
『どうでした、今日の研究の進捗は』
「いつも通りです」
『そうですか……』
「はい」
『…………』
「…………」
私の名前はサプリエート・スピリカ。故郷、ポロ−ヴェで精霊学者をしています。
著書でよく【求人広告】を出していると言えば思い当たる方は多いかもしれません。ダークマターと融合して魔物になった後も男性に恵まれず、切なる思いで書いていました。しかし、それに一向に応える男性が現れず、まだ見ぬ伴侶を夢見ながら、4人の闇精霊たちと研究を重ねる日々が続いていました。
ですが一週間前、そんな私の身に信じられないことが起こりました。なんと、私の助手になってくれる男性が現れたのです。しかも、その方は私が何度も著書で書いてきた【求人広告】を読んで下さったとのことでした。私の努力がようやく身を結んだみたいで、外には出しませんでしたが、心の奥底で飛び回って喜んだことは昨日のことのように覚えています。
【求人広告】を発見した彼は何故かその日の内に荷物を纏めてポローヴェへの旅へと出発したそうです。
彼は道中で未婚の魔物娘に襲われぬよう、魔物娘の嫁さんを持つ夫婦の運び屋に載せてもらったそうです。途中の宿は既婚者が経営する所に止まるなど、魔物娘夫婦の協力得ながらの旅という念の入れようだったそうです。
そしてポローヴェに到着するや否や、血眼になって私を探したそうです。あちこちを走り回って右往左往し、その日のうちに街の大部分を廻って、日が傾いてきた頃やっとのことで閉館間際の図書館にて一人で本を読んでいる私を見つけたそうです。
その時の彼の様子は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。肩で息をしながら、パンパンに腫れた両脚をかばいながら、別に偉くもなんともない私に頭をさげながら息を切らした声でこう言いました。
『あなたの本を読んでここに来ました。好きです。僕を旦那じゃなかった……助手にしてください。』
その時の私はと言うと、それが現実とは瞬時に受け入れられず、彼をみたまま、3分程表情1つ変えずに硬直してしまいました。その後やっと自分の置かれている状況が飲めた私は恥ずかしさの余り、持っていた本に顔を埋めながら呪文のように驚きの言葉を呟いていました。顔と耳から火が出るような火照りを感じました。あとで聞いた話ではそのときの私の顔は誰も見たこともない程、紅潮していたようです。
私の【求人広告】を読んで下さったことは素直に嬉しいのですがそこには私の欲望を赤裸々に綴ってしまいました。そのときの私は男性とそういったことがしたい一心に支配され、後先考えずに書いてしまいました。今振り返ると見るに耐えないような内容ばかり書いていたと思います。それを読まれたことを今更ながら後悔していました。
その時はやっと努力を結んだ嬉しさと【求人広告】を読まれた羞恥で上手く言葉を紡げませんでした。そして虫の羽音のような声で
「こんな私で良ければ……」
と一言つぶやいて応えました。
こうして彼は私の助手として働くことになりました。同時に夢にまで見た男性との同居生活も始まりました。
彼は普段は物静かで優しそうな印象の男性でした。私のように人と話すことが苦手なようで、口数はかなり少ない方でした。けれども、まだ人と話すことが苦手な私にとってとても安心できる方でした。
実際、印象に反せず彼はとても優しく、気の利く方でした。私が苦手としていた部屋の掃除や蔵書の片付けなどを、こちらが何も言わぬ間にやってくださいました。おかげで本が散乱して地震直後のように汚かった部屋が☓☓年ぶりに床が見えるほど綺麗になりました。料理の方はあまり得意ではないようですが、基本的なことはできていますし、何より手伝って下さって大助かりです。
学問に関しては得意ではないとおっしゃっていました。精霊学も全くの無知だそうです。けれども、ある日、頭を掻きながら本と向き合っている姿を見かけました。熱意はあるようで私としても嬉しい限りです。
だけど、まだしっかりお話したことがありません。というのも、まだ、男性と共同生活している現実を受け入れられないと共に、男性と面と向かって話すことはどうしても恥ずかしくて私の方から避けてしまっています。それに人との会話は昔から大の苦手でしたので、話そうにも話題が思いつきません。
それから、私が魔物の本性をむき出しにして襲ってしまうような真似をして彼を幻滅させたくありません。彼と初体験をするなら、もう少しお互いの理解を深めて、そして合意してからしたいと思っています。
けれども、魔物である私の身体はそうはいきません。彼が来てからずっと私の身体は欲望に素直です。
彼が側にいると、股間が疼き、じわりと愛液が染み出してきます。乳首もずっと勃ちっぱなしです。体中を微弱電流が流れているかのようにピリピリと震えています。特に暑いわけでもないのに身体は火照り、心臓の鼓動は一層早くなり、人間だった頃のように息苦しく感じることもあります。
ですので、彼が来てからというものの、私は彼を避けるように外出して、その先で仕事することでなるべく接触の機会を減らしてしまっています。家に変えると用事はさっさと済ませてすぐ自室にこもっています。
自室や仕事中には、彼と未だにまともに会話もしない私を自責しつつ、1人で慰めています。自分のダークマターを使ってクリトリスと腟口周辺を弄くり回し、触手を陰茎状にして口に突っ込んだりして気を紛らわせようとしています。しかし、当然そんなことで私の気分が満たされることはありません。この触手が本物の彼の手、彼の身体、彼の性器だったらいいなと何度も思っていました。
そんな一方で私が従えている4人の闇精霊たちは、彼といち早く交わろうと積極的にアプローチを仕掛けています。だけど一線を越えようとしたときは私がいち早く止めてそのまま連れて行ってしまいます。
いくら性に奔放な魔物娘とはいえ、彼の意に反する行為は許しません。……でも、彼女たちの積極性はとても羨ましいなぁって思います。
そして、外での仕事を終えて戻ってきた私は今日も彼から逃げるようにお風呂に行こうとしました。
「じゃあ、私、精霊の娘たちとお風呂に行ってきます」
だけど今日は違いました。
『あっ、待ってください!サプリエートさん!せっかく二人っきりなんですから……』
「?」
『ちょっとお話しません?』
「…………はい」
お風呂にいこうとする私を彼が引き止めました。彼が自分から会話の場を提案するとは思ってもいなかったので驚きました。
「…………」
『あの……えっと』
私は彼の座る今のソファへと座りました。けれども、お互い何も言い出せないまま数分が経過してしまいました。多分、会話の言葉を選んでいるのでしょう。せめてこの場を繕ってくれた彼のために何かお膳立てしなくてはと思いましたが、私の方は話すべきことは何も思い浮かびませんでした。私と彼との間には1人分くらいの隙間を空いていました。
『ぼ、僕のこと、どう思ってますか?』
「……えっ?」
『えっと……助手として、しっかり出来てるかなって……気になりまして……』
「……あっ、えぇ、とても助かっています」
『ああ、なら良かったです』
「はい」
「…………」
『…………』
またしても会話が止まってしまいました。何か話そうかと考えれば考える程、研究以外のこととなるといつもこうなってしまう自分に激しい自己嫌悪を覚えてしまいます。けれども一つ察しましたこの質問はきっと彼が今最も気になるものではないのだと。私の予感は的中しました。
『あと、僕自身は……』
「えっ?」
『いや、大事な本を勝手に本片付けちゃったし、あなたのこと避けちゃってますし……嫌われるようなしちゃいましたから、もしかしたら……』
「そんなことはありません!」
と自分でもびっくりしてしまう程の大声を出してしまいました。そして私は咄嗟に私の右側に座っていた彼の左手と重ねていました。
「私は……!貴方が来て下さったことがとても嬉しかったんです。でも、まだ気持ちの整理がつかず、意識して貴方を避けてしまったのは私の方です!」
『……!?』
思えばこんな風に自分の思いを叫んだことはありませんでした。私自身こんなことができるとは思っていませんでした。
「あ……すみません……私ったら……つい……」
唖然としていた彼の顔を見て私は我に返りました。そして、自分の右手が彼の左手の上に乗ってることに初めて気が付きました。私は咄嗟に手を退けると恥ずかしくなって身体の彼から大きく逸してしまいました。
私と彼との間は半人程になっていました。
また暫く沈黙が続くかと思っていましたが今度はどうしても気になる点があったので自ら話題を振りました。
「あ……あの、貴方が私を避けたって理由は……何なのでしょうか?」
『あの、何というか……まだ知識らしい知識も持ってないのにあなたとお話することにためらいがあるというか……』
私は知っています、貴方が私のために必死で勉強して下さっていることを。けれどもそれは違います。学問の出来不出来は問題ありません。私は単に共に愛し合えるような男性が欲しかっただけです。だけど貴方は思っていたよりずっと優しい方でした。私が一方的に避けていた一方で彼はずって私の事を気遣っていたなんて、こんなにも嬉しく、申し訳ない気持ちです。
悪いのは私の方です。研究のことしか話せる話題もなく、いつまで経っても気持ちの整理がつかず、意識的に貴方を避けてしまった私が悪いのです。
「そんな事は求めていません」
『えっ?』
「その本に私が何を求めているか、何度も書いたはずです」
ソファの前のテーブルには私ととある魔物学者さんとの共著である、『魔界自然紀行』が置いてありました。彼が初めて私の存在を知った本でした。ここに掲載されていた学者さんの助手のリャナンシーの方が描いた挿絵を見たそうです。けれどもあの絵は少しばかり私を美化しているのでちょっと気恥ずかしいです。それにあの本を書いているときはずっと男性の事ばかり考えていたので所々で【求人広告】という体で自分の欲望を書き連ねていました。それに、最初に書いたときには学者さんに窘められています。書いた時は大真面目だったのですが、今となっては恥ずかしい思い出です。
『確かに読みました……けど……』
「けど?どうしました?」
『正直信じられなくてですね』
「何がですか?」
『あなたのような人が本当にこんなこと書くのかなって……』
「あ……それは……私だって魔物ですもの。男性欲しさにそんなことも書きますよ」
自然と自分の心の内が口に出ていました。彼のお陰で話しやすい雰囲気になったからでしょうか。
『ハハハ……初めて生でお会いしたときもそうでしたけど、やっぱり信じられないなぁ……』
「私のことを物静かでミステリアスな深窓の令嬢だとでも思ってました?そうだとしたらそれはただの夢物語です。私も頭の中桃色の魔物ですからHなことの1つや2つ、いや、もっと一杯考えています」
『いや、そんなこと思ってませんけど……』
私自身、こんな冗談を交えられていることに吃驚しています。さっきから驚いてばかりです。彼はちょっと苦笑いを浮かべています。気分が乗ってきた私はいつもよりもすらすらと言葉を紡げました。
「魔物になった際の性格の変化にはですね、個人差があってですね、確かに、気弱な奴隷少女がヘルハウンドになってかつての主人を支配したとか、高飛車で意地悪なジパングの貴族の令嬢が海和尚になって被虐趣味になったとかそういった例は多いんですけどね、私はそんなことなくてですね、ダークマターになった後も性欲が強くなったこと以外はあまり変わらなくてですね、内気な性格や人見知りな部分、話し下手なところとか全然変わっていないんですよ。だからいつも自分の性欲を正直に表現できる場所が著書の中ぐらいしかなくてですね、それで思いついたときにあんな【求人広告】をついつい書いてしまったんですけど……あっ!」
と、ここでハッと我に返りました。学者特有の自分の得意分野となると話が止まらなくなる病を発症してしまいました。しかも、とても早口で聞きづらかったと思います。折角いい感じに話が進んでいたのに私のせいで台無しです。
でもここまで彼に任せっきりではいけません、今度は私が切り出す番です。折角ここまできたんだから私も思い切って訊いてみます。
「……したく……ありませんか?」
『えっ?何を……』
「私と……Hなことです……」
やっぱり、ちょっと踏み込みすぎたでしょうか。彼は決まりが悪そうな顔をしてこちらに向けていた顔を正面に戻して目線をそらしました。そして暫くの沈黙の後、耳が赤くなった顔を小刻みに縦に振りました。
私はちょっと安心しました。彼も私と同じ感じだったんだとわかって少しうれしくなりました。緊張がだいぶ解けて小さく笑ってしまいました。
「ふふっ……良かったです」
『えっ、何が?』
「私も同じようなこと思っていたんです。あなたは特殊な男性ではないかと」
『それってどういう意味ですか?』
「私、男性ってみんな強い性欲持ってるって勝手に思っていたんです。まぁ本等で得た印象ですけどね。だからあなたと共同生活初めてから、官能小説みたいな展開がないかな……って一方的に期待してたのですけど……だからもしかしたらあなたは特別なんじゃないかなって邪推してしまって……すみません、こんな失礼なことばかり考えていて……」
『いや、単にそんなことする度胸がないだけです……』
「いえ、違いますあなたが優しいからです」
彼は照れくさそうに顔を赤らめて顔を逸していました。でもこれでお互いの気持を確かめ合うことができたのでもう迷うことはありません。
もう一度思い切った提案をぶつけてみます。
「で……利害も一致したことですし……しませんか?」
『で、でも……ホントに僕なんかでいいんですか?』
「いいんです。あなたはとっても優しい人です。だからあなたになら抱かれても構いません」
『嬉しいなぁ……でもやっぱり本当に……』
「じゃあこう言えばいいでしょうか?一週間の試用期間は終わりました。あなたを正式に助手に任命します。だから助手の仕事として私を抱いていただけませんか?」
『わかった、わかりました。普通でいいですから。でも、経験ないから期待しないでくださいよ』
「私も同じです、気にしませんよ」
彼は卑屈になっていますが、それが私への優しさの裏返しであることは今回のお話でよくわかりました。だからもう決心しました。私の初めては彼に委ねようと。彼はきまりが悪そうな様子で尋ねてきました。
『じゃあ最初は何すればいいですか……?全くわからないです……』
「そうですね、じゃあギュッってしてください」
『ハグ、ですか?』
「はい」
『わかりました、では……』
彼は手を私の背中に回すと私を彼の身体へと引き寄せました。私と彼の間隔はいつの間にかちょっと動くだけで互いに密着する程にまで縮まっていました。私は両腕を彼の背中に回し、彼の胸元に顔を寄せました。
「あなたの身体……温かいです」
『そ、そう、く、臭く……な、な、ないですか?』
「いえ、全く……」
『よ、良かった……です』
あぁ……私はいま幸福感のみで満たされています。身体を寄せ合うことがここまで心地よいとは想像もしていませんでした。
服の生地越しですが、胸の厚みを始めとする彼の感触、温もり、匂い、心臓の鼓動……私へと伝わってくる彼の全てに愛おしさを感じます。私は胸の中で恍惚としていました。
ただ、彼がプルプルと緊張で震えていることには全く気が付きませんでした。
彼の胸の中でどれ位の時間が過ぎたでしょうか。私の中で新たな欲望が湧いてきました。私は上目遣いで彼に要求しました。
「今度は……キス……しませんか?」
『えっ……き、キス……口臭くないかなぁ……』
「大丈夫ですよ、今のあなたからはいい匂いしかしませんから」
『お、お世辞でも、照れるなぁ……』
「お世辞じゃありません。本当のことです」
彼は口臭を気にする心配性なところ、私の言葉に照れる彼は愛嬌があってとてもかわいらしいと思いました。
キス――それは、愛し合う者同士が互いの唇を重ね合わせる愛情表現の1つ。私が憧れていた行為の1つです。私は長年、キスがどれ程気持ちいいものであるか、ずっと気がかりでした。唇は人体の中でも鋭敏な部類だからと生物学的に快感をもたらす理由はわかっていました。だけどやっぱり体験しないことには確かめようがありません。そして今私は、意中の男性の胸の中です。この最高の機会の中で私は期待で胸を高まらせていました。
『じゃ、い、いいですか、僕からいきますよ』
「はい、お願いします」
私は目を閉じ、小さく口を窄ませました。
私の心臓は拍動の速度を更に速めていきます。ですが、目を閉じて暫くしても私の唇の感触に何の変化もありません。時間にすると数秒程だったのでしょうが、私にはとても長く感じられました。もどかしさのあまり、彼の様子を伺おうとしたその時です。
くちゅり、と柔らかいものが私の唇に触れました。その瞬間、ゾクゾクと背中を痺れたような刺激が走りました。身体がビクビクと痙攣するとともに、今まで味わったことのない快感。その未体験の快楽に私は大きく体を震わせ、軽くオーガズムを感じてしまいました。
快感の涙で潤んだ目をゆっくり開けると、そこには目を閉じたまま私の唇を自らの唇とひっつけている彼の姿がありました。彼も私のキスに夢中なのでしょうか?そうだとしたら嬉しい限りです。
ですが、私の欲望は留まることを知りません。もっと密接に絡み合いたい……もっと彼を味わいたい……そう考えた私は唇を少しだけ開け、その間からゆっくりと舌を伸ばしていきました。彼に気付かれないように、そっと……私の舌は唇の先端に達しました。
ねちょり……
「ひゃうん!」
『ひゃあ!』
突然、私の舌に柔らかく、湿ったものが触れる感触がしました。あまりにも予想外だったので、私は素っ頓狂な声をあげながら後ろへ大きく仰け反ってしまいました。だけど、不思議なことに彼も同じような動作を私とほぼ同時にしていました。
「ご、ごめんなさい!私ったら勝手に舌を伸ばして……」
『ご、ごめん!夢中になってつい舌が……』
「へ?」
『え?』
私たちは見つめ合ったまま暫くぽかんとしていました。互いに何をされたか、一瞬でわからなかったようです。ですが、寸刻の後、状況が分かって私たちは同時に吹き出していました。
『ははは……まさかサプリエートさんが舌を出してくるとは……』
「ふふふ……あなたって意外と積極的なんですね」
私は内心、とても嬉しかったです。私たちが全く同じことを考えている、まるで互いの意思が通じ合っているかのようなことが起こるなんて夢にも思っていませんでした。やっぱり彼が私を訪ねたのも、こうして抱き合ってるのま運命だったのかなって思っています。
「では気を取り直して、もう一度いきましょう……今度は舌を絡めさせて頂きますね……」
『はい』
今度は間髪入れずに唇を合わせました。そしてちょっとだけ私がリードしました。唇同士が触れ合うと同時に彼の口内へと伸びる私の舌。半開きの彼の唇の間を抜け、するりと侵入しました。
真っ先に舌先に触れたのは甘露のように蕩ける甘みを持つ彼の唾液。それは何にも代えがたく、名状しがたい程の美味でした。
蕩けるような甘さのそれは、まだ内気な人間の片鱗を残していた私を、男性を貪る魔物へと完全に変えてしまいました。
「んっ……ううん……じゅるり……ずずず……」
『んっ……ふぅ……』
彼の粘膜、歯茎、歯列、そして舌。そこについている彼の唾液を全て舐め取るように舌を絡めます。ねちょねちょ、じゅるじゅると、あまり上品とは言えない湿った音には気も留めず、彼の口内を満遍なく舌で蹂躙していきます。
でも、それだけでは不公平なので、彼の舌を私の口内へと導きます。彼の性格を反映したように遠慮がちな彼の舌を私の口内で這わせます。彼に私の体内を直接触られる感覚というのは意識が飛びそうなほど、激しいものでした。
「はむぅ……んちゅ……ずじゅ……」
『んっ……ふぅ……うぅ……』
私の舌が彼の柔らかい舌と絡む度、彼の唾液が私の口内に流れ込む度に、私の身体は火照り、欲望は高鳴り、理性は徐々に薄れていきました。
「ふはぁ……」
『ぷはっ……!』
私たちは唇を離しました。私たちの唇の間に一筋の唾液の橋が架り、プツリと切れました。どれ程の間口づけを交わしていたでしょうか。私には数時間のような長い時間に感じられましたが、実際は数分程度だったと思います。ですがお互いの唾液が入れ替わったのではないかと思う程、濃厚なキスだったことは間違いありません。
名状しがたい快楽が余韻となって残っています。キスがこんなにも気持ちよく、幸せな気分になれるものだったなんて……想像だけでは予想もつかないものでした。
でも私の欲望は留まるところを知りません。私の興味は次の所に向いていました。キスをして身体を寄せ合った際、彼の下半身がむくむくと膨らんでいくのがわかりました。私とのキスで興奮してくださったことを素直に嬉しく思うのと同時に、彼のそれで色々なことをしてみたい欲求がふつふつと湧き上がっていきます。
「次はこっちですね……」
『ええ?ちょっと待っ……』
戸惑っている様子の彼を他所に、私は屈んで彼のズボンのベルトに手をかけます。ズボンは下から押し上げられて、山の用な膨らみを作っています。
外面は平生を保ったふりをしていましたが、私はプレゼント箱を開ける子供のように興奮していました。その中のモノが見たくていつもより手早く手を動かしていました。自分のことを魔物らしくないと思っていましたが、性のことに関して、ここまで積極的になってしまう辺り、私は魔物なんだと自覚しました。
ベルトを外すと彼のパンツと一緒に一気に下ろしました。普段のように一枚一枚丁寧に脱がすようなじれったい真似はしません。プレゼント箱を開ける子供が綺麗に包装紙を開けるでしょうか。それと同じことです。
ズボンを全て下ろすと、布で押し止められていた“それ”は勢いよくしなりながら、私の眼前に飛び出してきました。
「これが……男性の……!!」
『は、恥ずかしい……』
顔を赤らめ、横に逸している彼を他所に私はまじまじと眺めていました。カップルの方々が交わっているときに、遠目で見たことはありましたが、こんなに間近で見るのは初めてです。
私は本職の学者のようにじっくり観察していました。
天を仰ぐようにそそり勃つ陰茎、熟した桃のように赤く膨れ上がっている亀頭、茎の部分に蔦が這うように浮き出ている青筋、その禍々しくも、女性を悦ばせるには充分な形をした男性器に感動し、うっとりと心を奪われていました。
男性の精の香りでしょうか。とても良い香りが漂ってきます。
「こんなにもいい匂いがするなんて……あっ……熱い……」
『……っああっ!!』
見ているだけでは我慢できず、思わず指先で触れてしまいました。彼のそれは熱を帯びていて、火傷するのではないかと錯覚し、すぐに手を離してしまいました。
それと同時に彼のそれはビクンっと脈打ち、彼も下半身をビクビクと痙攣させ、上体を大きく仰け反らせていました。
「あっ……!ごめんなさい……私ったらまた……」
『触られたことないから、びっくりしました……』
「それで……何すればいいですか?」
『はい?』
「ズボン下ろした私が訊ねるのもあれですけど……何がいいですか……?」
キスで発情してから、ずっと私が一方的に事を進めていました。だから、今度は彼の要望も聞いてあげなくてはと思い、湧き上がる魔物の欲望をどうにか抑え、彼に伺いました。
『あ……痛いのとか苦しいのとか、そういうのなければ、何でも……』
「わかりました。じゃあフェラチオでいいですか?」
実は初めてお目見えしたその瞬間から、ずっと彼のそれにしゃぶりつきたいと思っていました。結局私の独りよがりになってしまうので後で振り返ってとても申し訳ない気持ちになりました。けれども、その時の私は、普段の一歩後ろに引いた気分もなく、魔物の本能に支配されていました。
『う……汚いし臭いですよ……仮性包茎だし……』
「いえ、とても芳しい香りがしますので大丈夫です。では、はむっ……」
『うっ……あぁぁぁぁ……』
彼の男性器を口に含みました。海綿体でできた彼のそれは弾力はありましたが、私の唇よりもずっと固くて驚きました。深く咥えて歯を立てないように慎重に奥に導いていきます。
「んっ……んん……じゅるるう……」
『あっ……うあぁぁぁ……』
舌先が彼のそれに触れました。触れた瞬間、甘美な風味がした全体に広がりました。その風味をもっと味わいたくて、彼の陰茎に舌を這わせていきました。亀頭の柔らかく、弾力に富んだ舌触り、茎の固くて、青筋の凹凸感のある舌触り、そして部位によって微妙に変化する味。その全てを舌で感じたい一心で、夢中で彼の男性器を舐め回していました。
「んぐんん……んんっ……じゅるり……じゅるるるううう……」
『ふわっ……ふぁぁぁぁ……』
舌が彼の男性器を撫でるたび、彼が小さい声で喘ぎ、上体を捩らせます。舌先から伝わる味覚も、耳から入る彼の喘ぎ声も、目から入る彼の快楽で身体を捩らせる姿全てが愛おしく、私を更に駆り立てていきました。
「んん……じゅるる……」
『うっ……あっ!……ああっ』
雁首のくびれに念入りに舌をなぞらせ、舌先で濡らしていきます。ここに残っていた恥垢はとても濃い男性の香りと味で非常に美味でした。あかなめが気にいるのも納得です。その甘美でいくら舐めても減らない飴はいつまでも舐め続けられても飽きない美味でした。
「んぐ……んぐ……んんっ!?」
『うぅっ……うあぁぁっ……!!』
太いクレヨンで味蕾を塗りつぶすように彼の亀頭を舌で強くなぞりました。茎もムラがないように何度も舌を這わせます。途中、口内で彼の陰茎が何度もビクン、ビクンと跳ねました。それが唇、舌、口内の粘膜を強く押し上げるたび、マッサージと似た心地よさが体中を駆け巡りました。
「はむ、んちゅ、れるっ……」
『そんなところも……あっ……あぁ……』
そして陰茎のみならず、陰嚢にも舌を這わせます。シワが多く、どこよりも凸凹したそこは、彼の子種が生成され、蓄えられている場所です。そう思っただけで、とても愛くるしく感じ、子供を愛でるように優しく、そして急所なので下手に刺激しないように、唇の先で甘噛し、その間から舌を出してゆっくり舐めていきました。
「ぢゅうぅぅ……れろ……」
『うあぁぁ……っああ……!』
再び、彼の陰茎に戻り下から舐め上げます。私の唾液でべっとり濡れていたので最初よりも滑らかに舌が進んでいきました。そして鈴口に舌を這わせたその時でした。
「れろっ……甘いです……ちゅるり……」
『うああっ……!!はぁっ……はあっ……』
甘露のように甘い液体が私の液体に触れました。俗に我慢汁と呼ばれている、カウパー液でした。その甘さに恍惚としていた私は夢中で彼の尿道口付近を集中的に舐め回していました。先走りでこんなにも甘いならば、精液はいったいどんな味なのか、私の期待は高まる一方です。
ですが、彼の反応を見ていると、もっと別の方法でも試したくなってきました。
「じゃあ……次はこちらでさせていただきますね」
『ああ……』
衣装を変化させ、胸の部分を露出させました。私の衣装はダークマターの魔力を変化させて作ったものであるため、このような器用な真似が出来るのです。
それはさておき、このまま口でして、口内に直接注ぎ込まれるのも魅力的だとは思っていました。ですが、彼の剛直を地肌でも触れてみたくなり、また、口だけではなく、折角だから身体の到るところに精液をかけて欲しいなぁ、なんて思いが過りました。そして、彼がどんな反応をするのかも楽しみになったからでもありました。
「では胸の間に挟んで……よいしょ……」
『ううっ……あぁぁぁ……』
私の乳房で彼の男根を包み込みます。その男根は肌で感じてもかなりの熱を帯びており、触れた所が火傷すると錯覚する程でした。むにゅりと乳房を押し付けると彼の形に合わせて凹みました。それはまるで自分の身体に彼を刻みつけているようで視覚的にも感覚的にも強い刺激となって私の身体を震わせました。
「はぁ……とても熱いです……どうですか?気持ち、いいですか?」
『う……うん……はぁぁぁ……』
彼が明確に肯定の意思を示して安心しました。パイズリだと口の自由が効くので口淫よりも意思疎通が取りやすいのが利点です。まずは彼の陰茎を挟み込んだ左右の乳房を強く押し付けては緩める動作を繰り返していきました。彼の硬い陰茎は人間の一部とは思えないほど硬く、押し付けるたび、私の柔肉が彼の形に凹みました。その感触を味わいながら、ゆっくりと乳房を動かしていきました。
「どうですか?どこか痛い所はありませんか?」
『大丈夫……ううっ……ああっ!』
美容師のように尋ねながら乳房を動かしていきます。次は少し動きを変えて、自分から見て前後に、錐揉みする要領で彼の陰茎を転がしていきました。彼の陰茎を彼の男性器は私の唾液でべっとりと濡れていたので、ぐちゃぐちゃと淫靡な水温を奏でながら、私の胸の中でよく滑り転がりました。そして、動きをかえたからでしょうか、彼の喘ぎ声が微妙に変化しました。
「すりすり……んっ……とても激しいです」
『あっ、あっ、あっ……はぁぁぁ……』
谷間の間でも魚のようにビクン、ビクンとうねる彼の陰茎。それを逃さないように左右の乳房を強く押し付けました。そして今度は下から上へ、尿道の中身を押し出すように乳房に圧を加えてきました。
「私……しっかりとできていますか?」
『う、うん、気持ちよすぎて……うぁっ、うぅっ……』
彼の言葉が偽りでないことを示すように尿道口から止めどなくカウパーが溢れ出し、私の乳房をより一層濡らしていきます。ぴちゃぴちゃとした水音は更に湿り気を強めてきました。
「カウパー、いっぱい……溢れてきました……そろそろですか?」
『あぁ……、うん……もう……イキそう……くぁああぁ……』
彼の陰茎がより激しく、不規則に脈動をしていきます。射精の前触れでしょうか。そう思った私は更に乳房を激しく動かし、彼のものを激しく揉みしだきました。
「出したくなったら、思いっきり出してくださいね……」
『うぐう……おおっ!?……おぁああああ……!!』
男性の精液はどんな香りがするのか、そしてどんな味がするのか……。そんな期待を、彼の陰茎を揉みしだく胸と手に込め、その動きを更に加速させていきます。
『ああっ!もうムリ……出る!!』
「いいですよ……出して下さい!思う存分出して下さい!!」
最後は絞り出すように下から上へ激しく、そして素速く手と乳房動かしていきました。恐らく人間のままの私だったら間違いなく腱鞘炎になっているような激しさでした。
『うわああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!』
「ひゃああ!?」
彼が叫んだその時でした。彼の陰茎がびくびくと振動したかと思ったら、突然眼の前が真っ白になり、視界が阻まれました。その直後顔中や乳房にべっとりと生暖かく、粘り気の強い液体が降りかかる感触がしました。
「これが、精液……?」
『はぁっ……はあっ……』
射精によって息を切らしている彼を他所に、私は眼鏡にかかった白い液体――彼の精液に心を奪われていました。男性の精を最も多く含有している分泌液にして、我々魔物にとって最高のご馳走。魔物である私がその芳醇な香りを前にして何もしていられないはずがありません。
眼鏡に付着した精液が滴り落ちないようにゆっくりと慎重に外しました。そしてべっとりと精液がついたレンズ面を平行に傾けると、それにお猪口のように口を付けて彼の精液を口内へと啜っていきました。
「ん……じゅるるるぅ……おいひいれふ……じゅるる……」
魔物になってから様々な魔界動植物やそれを使った美味しい料理を食してきました。しかし、脳を蕩けさせるような濃厚な香り、口の中でねっとりとこびりつく粘り気、いつまでも口内に残り続ける濃厚な風味、それを持ち合わせた精液は何にも優る美味しさがありました。この時初めて、私は魔物が伴侶の男性に耽溺してしまう理由を、身を以て知ったのでした。
眼鏡にこびりついた精液を右のレンズ、左のレンズの順で啜り、あっという間に飲み干してしまいました。当然、それだけでは物足りず、付着した精液を拭い取って、頬についたクリームを舐める子どものように精液を舐めていました。
『あの……サプリエートさん……』
「あああぁ……!すみません!私ったらまた……じゅるっ……」
彼の呼びかけで私はやっと正気に戻りました。それでも尚魔物の本能を抑えきれず、拭った精液を舐りながらでしたが。
『あの、すみません、こんなに汚しちゃって』
「ぢゅるっ……いえ、こちらこそこんなに幸せな体験をさせていただいて……じゅる……」
『あの、申し訳ないのですが……』
「はい……ぢゅる……」
『一回出したのに、全然収まらなくて……それで……』
「はい……」
彼の陰茎に目線を移すと、それは彼の言う通り、強く勃起したままでした。きっと先程のキスとフェラチオとパイズリで私の身体と体液を通じて彼に魔物の魔力を流し込んだことのよる効果が出始めているのでしょう。こうして彼に魔力を流し込み、インキュバスにすることで途切れることなく、何度も性行為を行える……なんていつもの学者思考を巡らせていたその時でした。
「きゃあっ!?」
突然、背中がソファに叩きつけられたかと思うと、彼が私の上に覆いかぶさっていました。彼が私を押し倒したのです。
大きく見開いた目で私を捉え、息を切らし、激しく喘いでいるその姿はまさに獲物を捕らえた獣でした。
『はぁ、はぁ……僕も……もう抑えられません……!!はぁっ……挿れて……いいですか?』
寧ろ私からお願いするべき要求に私は感無量でした。私も精液を舐め取ってから下腹部、つまり子宮がきゅうきゅうと疼いて彼の精液を求めていて男性を襲いたくなる劣情がじわじわと湧き上がっているのを感じていました。しかし、男性が私を襲うという、願ってもないシチュエーションが起こり、私から襲う必要がなくなったことで内心安堵と歓喜をしていました。欲を言うともっと強引でも構わなかったのですが。
「はい……お願いします……!」
『はっ、はっ……痛かったら……言ってくださいよ……はぁ……』
私と彼は正常位の姿勢で性交の準備を整えました。
彼の性欲に支配されながらも、理性を振り絞って私を気遣う姿に心うたれました。こんなに優しい人が自分の伴侶になってくれるなんて、私は世界一の幸せ者です。
『行きますよ……?』
「はい……」
返答と同時に彼の亀頭が陰裂に充てがわれ、くちゅり、という愛液の粘った音がします。それだけで私はビクリと身体を痙攣させてしまいました。
「んぁあああぁぁ……」
彼の陰茎の先端――亀頭が私の肉孔を捉えると、みちみちと音を立てながらゆっくりと私の柔肉をかき分け、奥へ進んでいきます。
「ひゃあぁぁぁ……」
『うぐぅ……んはぁ……』
ダークマターで作った触手とは比べ物にならない硬さ、熱さ、太さ、質感を持ち、私の意思で動かない彼の陰茎が私の膣を温め、形状を変化させる感触は私が行ってきた自慰行為全てを過去のものにしてしまう激しい快楽を伴いました。
「いっ……!!ああぁぁぁあぁぁ……」
処女膜が突き破られ、名実ともに処女で無くなったことを示す激痛が一瞬身体に走りました。ですが、その痛みはもう次の瞬間には彼の陰茎が膣壁を擦る激しい快楽に上書きされていきました。今の私はただ目を潤ませて、喘ぐことしか出来ません。
「うぅあああぁぁぁぁぁぁ……」
『あっ……うあぁぁ……』
愛液と処女血の混じった赤と白のマーブル模様の液体がじっとりと膣口の隙間から溢れ出してきました。彼の陰茎は更に奥へと、くっついている膣壁同士をみちみちと引き剥がすように突き進んでいき。そして――
『くぅっ……!あああっ!!』
「ああぁぁぁぁぁっ!あああああぁぁあぁぁあああああぁぁぁぁっっ!!」
名状しがたい激しい衝撃と快楽が身体中を貫いていきました。彼の陰茎は膣最深部へと到達したのです。彼の亀頭が最深部の膣壁を押し上げ、その衝撃に突き押されるように、堪えていた喘ぎ声が軛を解かれたように私の喉の奥底から絶叫となって飛び出し、私は身体を大きく仰け反らせたのでした。
「はーっ……はーっ……はーっ」
『うぁ……大丈夫……痛く……ないですか?』
最初の挿入で私は絶頂に達してしまいました。
肺の空気を全部使い切る勢いで叫んだため、全力疾走したときのように息を切らしてしまいました。しかし、そんな私に対して彼は、同じような快楽で悶ているのにもかかわらず、それを堪え、私を気遣ってくれます。そんな彼の声すら今では私の快楽で痺れさせる媚薬のようでした。
「はいぃ……もっと……お願いします……」
『じゃあ……動きますよ?』
「……はい」
彼の陰茎が膣壁を擦りながらゆっくりと引き抜かれます。それに呼応するように、拡充された膣壁が元の広さに窄まっていきます。膣壁が擦られる度、ピリピリと微弱な快楽が小刻みに痺れるように全身を駆け巡りました。
「あっ……んぁ……ふぁ……ああっ……ひぐっ……」
やがて陰茎の大半が抜かれ亀頭が膣口付近に達します。私の膣が虚脱感や石標感を感じ、膣壁の感覚細胞が先刻の刺激を求めて疼きだしたその時でした。
「んっ…………んぁあああああ!!……ひゃあっ……あっ……あっ……」
彼の陰茎が再び膣の最深部にまで一気に叩きつけられ、膣壁に激しい刺激が加わります。今度は叩きつけられような強烈な快楽に悶絶したのでした。
「すごい……んんっ……です……うぁぁ……やぁああ……」
彼の陰茎は私の唾液と彼のカウパー液や精液で、私の膣は愛液で濡れていました。それが互いに潤滑液となり、彼の抽挿の速度は徐々に加速していき、快楽を増大させていったのでした。激しい快楽に口元と涙腺が緩み、口からはだらしなく涎が溢れ出し、目は潤んで視界がぼやけてしまっています。
「ひゃうぅ……んぁあ……あうぅ……んん……」
未曾有の快楽の波状攻撃の前にあれこれ考えられる余裕はありませんでした。私の膣を蹂躙する彼の熱を帯びた陰茎は膣壁をどろどろに溶かしてような熱さと錯覚する程でした。その熱は私の思考もどろどろに溶かしてしまい、論理的なことを考える余裕などありませんでした。ただ身体中に走る快楽を受け止め、喘ぎ声に変換することで精一杯でした。
「もっと……もっと……んぁぁ……」
快楽に悶え、左右に揺らしていた頭を据えると、潤んだ目つきで彼を見据えます。そして、辛うじて紡いだ言葉を繋ぎ、甘えるような声色で何かを要求しました。だけど、何が「もっと」なのか自分でも分かりませんでした。ただ、今以上の刺激を求めていたのは確かでした。
「ああっ!……いいです……気持ち……いいです!……ああああぁ!!」
彼は私の開けた乳房に手を伸ばすと、徐に掌で包み込み、右手で左乳、左手で右乳の順に揉みしだいていきます。かなり強く握りしめていたはずなのに、痛みはなく、彼の手の形に押し下げられた所には不思議な心地よさがありました。
しかし彼の追撃はここで終わりませんでした。
「んーっ!?……んむっ……ぅうん……ちゅう……ん……んんっ……」
更に彼は私の顎を手で引くと、唇を落としてきました。予期せぬ奇襲に驚きつつも、次の瞬間には夢中で彼の唇を貪っていました。彼の口内を蹂躙する私の舌。私の膣に絶え間なく打ち付けられる彼の陰茎。上下共に彼と繋がっている快楽は私にこの上ない多幸感をもたらしてくれました。
「はむっ……んん……んちゅ……」
キスによって必然的に私達の距離は更に縮まります。服越しとはいえ、密着した身体から伝わってくる彼の温もりが私に興奮と安心感をもたらしてくれます。その感覚と距離感が愛おしくなり、私はしがみつくように腕と脚を彼に回しました。
「ちゅぱっ…………んんっ……ああっ!」
『はぁ……はぁ……んんぁあ……っはっ、はっ……』
密着したことにより、腰を激しく叩きつける振動がずっと強く伝わってきました。紅潮しきった私の肌は普段よりもずっと感度が増しており、如何なる些細な刺激も忽ち快楽に変えてしまいます。そんな中で激しさを増した振動と服越しに擦れる彼の身体は私に更なる快感をもたらしたのでした。
「ああっ……んんっ……うぁ……ひゃん……」
『あぁ……もう……ぐっ……イキそう……です……あぁ……』
先に声を上げたのは彼の方でした。ですが幾重のも快楽を受け続けた私の身体も限界でした。耳元で喘ぎ、囁く彼の声はまるで名曲のように私を恍惚へと誘っていきます。
その上パンパンと彼の腰が私の腰を打ち付ける音、グチョグチョと互いの湿った性器が擦れ合う水音、私たち2人の振動でギシギシと軋むソファの音。
それらの音が織りなす淫靡な空間に当てられ、心の内がそのまま声となって漏れてしまいました。
「出して……ください!……うぁぁ……いっぱい……ああっ……注いで下さい!……うん……貴方の……精液で私の子宮を……ひゃ……満たして下さい!」
私の声に応えてくださったのか、彼の腰の動きは激しく、加速していきました。
私の膣もこれから吐き出される精液を一滴も逃すまいというかのように彼の陰茎を強く締め付けたました。
「好き……です……貴方の……ことが……ああっ!……好きです……はぅ……だから……これから……んんっ……私を……毎日……抱いて下さい!……っああっあああああっ!!」
気恥ずかしくて言えないような彼への思いが淀みなく溢れてきました。
硬さを増した彼の陰茎が私の膣口で激しく音を立て、私の愛液をかき回し、飛び散らしています。
『僕も……です……あなたのことが……好きです!……ううっ……出るっ……あああっ!』
「好きです……あっ、あっ……イキます……イッちゃいます……はああああああああああっあああああぁぁぁぁあああぁっぁあぁぁ!!」
耳元で囁かれた彼の告白を聞きながら、私は彼と同時に絶頂に達しました。
激しく脈動し、熱い白濁を子宮へと叩き込んでいく、根本まで差し込まれた彼の陰茎。私の全身は快楽で痙攣し、膣内は彼の精液を搾り取るかのように蠕動し、彼の陰茎を絞り上げていきます。
「あっ……まだ……出てます……ああ……すごい……です」
迸っていた精液はやがて、びく、びくと陰茎を不規則に脈動させながら残りを私の子宮に注ぎ込まれていきました。それに呼応するように私の彼の不規則に締め上げています。
「あぁ……幸せ……」
『はぁ……はぁ……はぁ』
やがて射精が止まると、彼はゆっくりと引き抜きました。後にはくちゅり、と粘った音が余韻のように響いていました。
最愛の男性が私に劣情をぶつけ、快楽と子種を注いでくれた、魔物としても女性としても幸せの一時。
私は夢見心地のまま、その余韻に浸っていました。
『大丈夫でしたか……痛く、無かったですか?夢中になりすぎて……』
「いえ、とっても気持ちよくて、幸せでした」
暫くの沈黙の後、荒げていた息を整え、彼が私を気遣ってくれました。そんな彼に胸がときめいてしまい、彼の唇を強請ってしまったのでした。
「あの、もう一度、キス、していただけませんか」
『はい……んんっ』
「んっ……」
今度のキスは唇のみを触れ合う軽いものでした。この唇から感じ取れる彼の感触で先程までの幸せな一時が夢ではなかったことを確証するのでした。
「私、とっても幸せです……いつまでもこうしていたいです……」
『じゃあ、もう一度します?僕も二回も出したのにまだ治まらなくて……』
「私もそうしたいです。ですが……」
すると半開きになっていた扉からひょっこりと4つの顔が出てきました。
「あらあら♡お邪魔しちゃったかしら?」
「オイオイ?いつからそんなに積極的になったんだ?」
「やぁん、マスターたちだけずるい♡」
「私も……欲しいな……ナカに……♡」
お風呂上がりの四大精霊たちが居間に飛び込んできました。何時からかは分かりませんがどうやら私たちが交わっていたのを覗いていたようで、皆顔を赤らめながらニヤニヤとなにか企むように妖しく微笑んでいました。
「彼女たちも私の大切なパートナーです。私と同じように愛を注いであげてください」
『うむむ……流石に持つかな……』
この時、彼を独り占めしたい邪な気持ちは当然ありました。ですが、彼女たちは私と寝食を共にし、共に研究を重ね、ポローヴェを再生させたかけがえのないパートナーです。彼女たちにもこの幸せを分けたあげたいと思いました。
「大丈夫です。先程の性行為で私から大量の魔力があなたに注がれたはずです。ですからあなたはもう抜群の精力を持ったインキュバスになっているはずですから、心配無用です」
『まぁ……頑張ってみますね。ほら、君たちもおいで』
苦笑いを浮かべながらも、彼は優しく彼女たちを誘い入れました。そして私にしたように彼女たちと交わり、精と愛情を注いだのでした。ウンディーネとは包み込む水のような対面座位で、イグニスとは燃え盛る炎のような騎乗位で、シルフとは軽やかに吹く風のような立位で、ノームとは静かに重く構える大地のような後背位で、彼は彼女たちと代わる代わる交わったのでした。
◇ ◇ ◇
『おおぅ……自分でも信じられない程連続で出たけど、やっぱり疲れますね……』
「すみません無理させてしまって、やっぱり、いきなり何度もするのは難しいですよね」
『あの、もっと精力がつく魔界の食べ物とか、薬品とかありますか?』
「そうですね、魔界豚や魔界蜥蜴の肉とかホルスタウロスミルクですとか、ドラゴニア名物の『龍の生き血』など、たくさんありますが……無理だけはなさらないでくださいね」
その後、彼は四大精霊たちと1人2回ずつ交わって力尽きました。まだインキュバスとなって間もないため、向上した精力に対する心身のギャップが原因のようでした。
あの後、私たちは軽くお風呂に入り、お互い、汗や体液でベトベトだった身体を洗い流しました。そして今は昨日までとは異なり、私たちは2人、いえ正確には6人で同じベッドで寝ています。四大精霊たちは初めての性交にすっかり満足したようで既に分体の姿となって寝てしまいました。
私と彼はベッドの中に入って、お互い体を密着させながらお話していました。所謂ピロートークというものです。
「あ、あの……こんなことお願いするも何ですが1ついいですか」
『はい、何ですか?』
「当分の間は難しそうですが、私たちの性行為を研究に反映してもよろしいでしょうか?」
『け、研究!?』
彼は少し裏返った声で驚いていました。【求人広告】にもその旨は書いていましたが確かめておいて良かったです。
「はい、【求人広告】にも書きましたが、私はより多くの方が気持ちよく、幸せに暮らして欲しくて研究しています」
『ああ、そういえば書いてありましたね。でも当分難しいって言うのは?』
「やっぱり、想像していたよりもずっと気持ちよくてですね、慣れるまで研究のことは考えられそうになくてですね、というよりもっとあなたと楽しみたいと思いまして……」
そう言えば、私、初体験のときに確認することや調査することを予めリストアップしていました。今まで調査した性行為関連の事象は全て他者からの伝聞や推定に基づくもので、確証があらず、研究者としてもどかしい気分でした。ですから、我が身を以て確証を得ておきたく、長年その機会を心待ちにしていました。
ですが、いざ本当に経験してみると行為中はそんなこと考える余裕なんてありませんでした。自慰による快楽の時はむしろ頭の回転が上がっていたはずなのですが、性交だと頭の中が快楽で埋め尽くされ、私から思考を完全に奪ってしまうのです。
「それでもやっぱり、あなたと交わって一層、強く思うようになりなした。もっと気持ちよくなる方法を知りたいって、もっとこの幸せをより多くの人々に知ってもらいたいって。嫌なら強要はしませんが……」
彼のいた人間社会の感覚と常識では珍奇なのは分かっています。それでも学者としての私は飽くまで追求する姿勢と魔物としての更に気持ちよくなりたい欲望が私の研究意欲を駆り立てるのです。
『わかりました。いいですよ。一緒に調査していきましょう。ただあんまり恥ずかしいことは書かないでくださいよ』
少し拍子抜けした表情をしていた彼でしたが、優しく微笑んで了承して下さいました。
「ありがとうございます。あと、それから……」
『それから?』
「ずっと、ずっとそばにいてください。読書してるときも、執筆中も調査に行くときもずっと、ずっと……あなたと離れたくありません……少しでも離れたら、きっと、寂しくて……」
男性の精を求める魔物の習性なのか、今まで男性に恵まれなかった反動かわかりませんが、彼のことが恋しくて仕方がありません。彼が来たばかりの頃は欲求不満が少し強まった程度でしたが、今では少しでも離れただけで耐え難い寂寥感を感じて、何事にも手がつけられなくなりそうです。
私は彼の胸に甘えるように顔を埋めました。性交中は心中をそのまま言葉に紡ぐことができましたが、平生だとやはり照れくさくなって、胸が動悸していしまいます。
『はい、いっしょにいましょう、これからずっと、いつまでも……』
「ありがとうございます……温かいです……」
彼は優しい声色で了承すると、包み込むように腕を回してきました。優しく抱きしめられ、顔が軽く彼の胸に押し付けられます。彼の甘美な匂いが私の鼻腔をくすぐり、私を恍惚の境地へと導いていきます。
『みんなで一緒に研究して、もっと魔界を広げて、もっと多くの人を幸せにしましょう』
「私……とっても嬉しいです……」
私は歓喜で胸が詰まり、今にも泣き出しそうでした。
そんな私の頭を彼は優しい手付きで撫でてくれました。
少し落ち着いた私は陳腐だけど他に言葉が見当たらない彼への思いを紡ぐのでした。
「大好きです……愛しています……あなたのことを……」
『僕も愛してます……サプリエートさん……』
優しく返答する彼の胸の中で私は幸福感に浸っていました。
彼の腕の中で、彼の体温と鼓動を感じながら、そしてこの幸せがいつまでも続くことを願いながら、この日は眠りの海へと沈み込んでいったのでした。
【おまけ】
「あの、そう言えば1つ聞きたいことが」
『はい何ですか?』
「あなたは、私の挿絵を見て来てくださったんですよね」
『いやぁ、そうですけど言わないで下さい、恥ずかしいなぁ……』
「それで、挿絵の私と実際の私、比べてどうでしたか?」
『全然違いましたね』
「……やっぱり、そうですよね、あちらの挿絵は魔物学者さんが美化して描いてくださったものですからね」
『挿絵よりもずっと美しくて素敵だと思いましたよ。今も見てもそう思います』
「……もう、何でそんな恥ずかしいセリフが言えるんですか?」
『いや、だって本当のことですし……』
「本物の私が挿絵の私よりも素敵ならば、当然、今日も抱いてくれますよね?」
『挿絵と何の関連性があるかイマイチ分かりませんが、いつもどおり、今日も研究しましょう。ほらっ……』
「きゃっ……♡」
20/04/22 17:21更新 / 茶ック・海苔ス