男を掴むなら胃袋から(みゆきさん√)
私の可愛いゆーじへ♡
福引や懸賞で当たったとか、チケットをお裾分けしてもらったわけでもないんだけど、1週間パパと温泉旅行に行ってきます。
本当はゆーじも連れて行きたかったんだけど、学校と部活があるし、それに久しぶりに昔みたいにパパと二人きりで夫婦水入らずになりたかったの。今回は許してね♡
机の上にお小遣い置いといたから、ご飯代に使ってね♡お菓子ばっかり買ったり、着服したりするのはダメよ?
彼女が出来たら好きなだけ行けばいいからね?お土産期待しててね♡
あなたのママより♡
「あのヴァカップルがぁああああああああ!!!!!」
置手紙を読み終えるなり、雄二は近所一帯に響きわたる程の大声で叫んだ。置手紙と食事代を残し、彼の両親は家から消えていた。どこの温泉街に行ったかは手紙には何ひとつ手がかりはなかった。
今朝の両親といえば、普段通り、朝から盛りあっており、今この時まで旅行のりの字も全く仄めかしていなかった。雄二にとっては完全に想定外の出来事だった。
「だけど結構あるな……」
しかし、雄二に対する両親としての2人の愛情はお小遣いの金額にしっかりと表れていた。少なくとも1週間程度の食事には困りそうにない額だ。
「自炊すれば安く済むけどなぁ……部活でヘトヘトなのにここから料理は面倒くさいしな……あっ!スーパーなら安く済むし、浮いたお金で漫画やゲームが買えるな!決めた!スーパーだ!」
着服はするなとのお達しだが、鬼の居ぬ間ならぬ、サキュバスの居ぬ間だ。どうせばれっこない。雄二は当分スーパーのセール中の惣菜や弁当で済ますと決めると、早速今日の夕食を買いに家を飛び出した。
「あら雄二君、今からお出かけ?」
「あっ、みゆきおばさんこんばんは。ちょっとスーパーに……」
家を飛び出してすぐのところで雄二は、眼鏡をかけた一人の女性と鉢合わせた。ウナギの下半身を持つ魔物娘、鰻女郎であり、彼の隣人である女性、みゆきだった。腕から提げているバッグの中身から食料品の買い出しから帰ってきたところのようだった。
「スーパー……あっ!わかっちゃったわ。今朝ご両親がキャリーバック持って出かけたのを見かけたわ。つまり、ご両親が不在で、ご飯を作ってくれる人がいない。だからスーパーに買い出しって所だけど、雄二君は部活で疲れてるし、自分でご飯を作ることには慣れてない。だから料理用の買い出しじゃない。さしずめスーパーの弁当や総菜で済ませようとしてそれを買いに行く……って勝手に推理しちゃったけど合ってるかしら?」
「すごいやみゆきおばさん……百点満点の回答だ……」
「うふふ。おばさんやって長いのよ?それくらいすぐわかるわ」
みゆきは右目下に泣黒子がある顔に得意げな微笑を浮かべていた。自分自身でもおばさんとは言っているものの、穏やかかつ物腰柔らか雰囲気、どこか未亡人を思わせる儚げな大人の色気を纏ってはいたが、皴のない瑞々しい肌は老いの二文字とは程遠いものであった。
「ダメよ?育ち盛りの君がその程度の食事で済ましちゃ。強くなれないわよ?」
「すみません……」
「そうだわ。よかったら台所貸してくれないかしら?」
「えっ!け、結構ですよ!お気を使わなくても!」
「いいのよ。私もこれから夕食だし、いつも多めに作っちゃうのよ。それに、若い子はいっぱい食べないとね?よし、おばさん張り切っちゃうわよー」
「あっもう作る気満々ですか……」
「さっ、入って入って。お邪魔しますわね」
そう言うとみゆきは雄二を彼の自宅へと押し戻しながら、上がっていった。
「♪〜」
雄二の自宅の台所に立ったみゆきは紺の縦セーターの上に白の割烹着を羽織り、鼻歌を口ずさみながら食材と調理器具を準備していた。年号が二つ以上前の時代が舞台の邦ドラに出てくるお母さんみたいだ、と後ろから眺めていた雄二は思っていた。
「さっ、私は料理作るから、雄二君は宿題とか明日の準備とかして待っててね」
「いや申し訳ないです!僕もお手伝いします!全部みゆきさん任せにするなんてできないです!」
「あらあら、雄二君は本当におりこうね。でもいいのよ。雄二君は自分のことを優先して。それに、料理はできてからのお楽しみだから」
まるで我が子の成長を喜ぶ母のようにみゆきは嬉しそうだった。そんな彼女が何故ここまで嬉しそうなのかよくわからず困惑の表情を隠せない雄二だった。言われた通り、ダイニングから出ようとしたその矢先、何かを思い出したみゆきに呼び止められた。
「あっ雄二君、部活何してるのかしら?」
「ボクシングです」
「あらそう、じゃあ減量とか気にしなきゃダメかしら?」
「あっ気にしなくて大丈夫です。こないだ大会が終わって、次の公式戦は当分先なんで。それにあんなハードな練習じゃ簡単に太らないんで」
「よかった。じゃあいっぱい作るから、呼ぶまで待っててね」
「はい……お言葉に甘えて……」
自分のことで手間をかけることを申し訳なく思いつつも、彼女の期待を裏切っては悪いと、自室のある二階へ上がっていった。去り際、雄二の背からみゆきの上機嫌な鼻歌が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まだかなぁ」
料理への期待から、いつもよりも早く宿題と準備を終わらせた雄二は落ち着かない様子で部屋をぐるぐると回っていた。お隣に住んでいるとはいえ、雄二はみゆきからご馳走して貰うのは初めてだった。みゆきの普段の仕事は種族柄か、ウナギの養殖に関係していることらしい。その関係でよくウナギを土用でも何でもない日にお裾分けしてもらっている。因みに異世界侵略前は絶滅危惧種だったウナギだったが、侵略後はなんだかんだあって生息数が大幅に改善したのみならず、完全養殖が簡易に可能になったため、昔よりはずっと手軽に食べられるようになっている。
「おまたせ〜ゆうじく〜んご飯よ〜」
部屋を飛び出した雄二は脱兎のごとく部屋を飛び出し、軽快に階段を踏み鳴らして駆け下り、ダイニングへと飛び込んだ。
「待ってました……ってうわぁすごい……」
テーブルの上の料理を見て雄二は思わず絶句した。お櫃にいれられたご飯。みゆきの得意料理であり、銘木のような光沢を放つ鰻の蒲焼。これだけでも豪勢なのに、更に黄金の衣をまとった天ぷら。宝石を盛りつけたかのように色鮮やかな筑前煮。金塊の皿に乗せたと見紛うだし巻き卵。ひじきに納豆。お浸し、お豆腐、茶碗蒸しと香の物にお味噌汁、カットフルーツも付いてさながら高級旅館の料理だった。
「ボクシングって筋肉が大事ってイメージあるから、卵とかお豆さんを使ったお料理を増やしてみたんだけど……大丈夫だったかしら?」
「全部おいしそうです!ありがとうございます!」
輝くほどに美しくおいしそうな料理の前に雄二は口内に溢れる唾液をすするのを忘れるほどにしばらく見惚れていた。
「さっ、食べて食べて。あ、それと……私もご一緒していいかしら?」
「そんな!恩人を追い出す真似なんてできません!一緒に食べましょう!!」
「うふふ。ありがと。じゃ、いただきます」
「はい!本当にありがとうございました!いただきます!」
みゆきに促された雄二は電光石火の勢いでお櫃から茶碗へと山盛りご飯をよそい、そのてっぺんにウナギの蒲焼を箸でつまんで一切れ乗せた。更にその上に山椒を一振り振りかけると、それを一気に口の中へとかきこんだ。この間わずか5秒。そしてそれを十数回噛み砕いて口内料理をすると、喉を鳴らして飲み込んだ。飲み込んだ食事が食道を通り抜けると、雄二は大きく溜息をついた。そして一言、純粋な感想を叫んだ。
「うまい!本当にうまい!」
「そんなに喜んでくれるなんて、私も嬉しくなっちゃう」
「本当においしいんです!うまい……うますぎるッ!!」
「焦らなくてもいいのよ。おかわりはいっぱいあるから」
「ありがとうございましゅ……うん、うまい、うまい!うまい!!」
口が、舌が、胃が、腸が、脳が、体中の細胞すべてが、彼女の料理をもっとよこせと叫んでいるようだった。そしてその声に応えるかの如く、雄二は無我夢中で彼女の料理を口内にかきこんだ。
「これもうまい!これもうまい!ああこれも……!!」
食べた料理を咀嚼し、飲み込むと今度は別の料理に箸を伸ばした。みゆきの料理には語彙力を奪う副作用があったかのように、雄二は同じ感想しか呟かなくなっていた。
「おばさん、ご飯お替り!!」
「流石育ち盛り、よく食べるわね〜はいどうぞ」
「ありがとうございます……うんうまい……ご飯が進む……」
雄二は脇目を振ることなく、己の食欲のまま、夢中で食べ続けた。そんな彼を、みゆきが嬉しそうに微笑みながら眺めて食べていることに、雄二は遂に気づくことはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごちそうさまでした……あぁこんなにおいしいご飯は初めてでした……」
「お粗末様でした。誰かに食べてもらうのは久しぶりだったけど、こんなに喜んでもらえるとは思ってなかったわ」
雄二は運動部高校生特有の底なしの胃袋を以てみゆきの料理を残さず全て平らげてしまった。その顔には幸せに満ち溢れた笑みを浮かべおり、腹は平らげた料理で大きく膨らんでいた。みゆきはというと、調理だけでは飽き足らず、後片付けの皿洗いまで雄二の代わりにやっていた。
「こんな親切にしてもらって、何もしないなんて申し訳ありません。何かお礼をさせてください。例えば家の掃除とかお仕事のお手伝いとか……」
「あら別に気にしなくていいのよ。二人分作った方が丁度よかったし、雄二君の喜ぶ顔が見れて、それで満足よ?」
「いやダメです!ここまでしてもらって何もしないのは自分の良心が許しません!何かさせてください!!」
皿洗いは自分でもできると申し出たにもかかわらず、結局全部みゆき任せにしていたことに後ろめたさを感じていた雄二は、両手を机に叩き付け、椅子から立ち上がって大声で懇願していた。そんな真剣な眼差しの雄二を見てみゆきは思わず吹き出していた。
「うふふ、あらそう?じゃあ一つお願いしてもいいかしら?」
「わかりました何ですか?」
「相談に乗ってくれないかしら?一つだけ」
「一つだけ……何でしょうか?期待通りの回答ができるかわかりませんが、それでもよければ……」
「恋愛……についてなんだけど……」
「れ、恋愛!?いや僕童貞……」
雄二の顔は引きつっていた。それもそのはず、雄二は生まれてからこの時まで、恋人というものを持ったことのない童貞であったからだ。しかもこの前までヴァージンズ3と呼ばれた男3人組を結成していたが、一人がアルプ化してもう一人とくっつくという思わぬ形で出し抜かれてからはクラス唯一の未経験男だった。因みに魔物娘の価値観が広まった現在で雄二の年齢で未経験は少数派だという。
「いや……お役に立てるかどうかは保証しませんよ?だって僕恋人いたことないですし……」
「いいの。男の子で、それに若い子の意見が聞きたいから」
「わかりました。できる限りで……」
「うふふ……ありがと」
柔らかく微笑んでいた彼女であったが、椅子に座るとはぁと溜息をついてどこか悩まし気な顔になった。いつもの挨拶するときの笑顔ばかり見ていた雄二にとって、彼女の暗い顔は新鮮に思えた。
「私ね。好きな人がいるの」
「は、はぁ」
「でもね、その人私よりずっと年下なの」
「そ、そうなんですか……」
「告白しようかって思ってるんだけど私、おばさんでしょ?どうしても自信がなくて……」
みゆきは俯きながら言葉を続けた。予想以上に深刻そうな彼女の様子を見て雄二はかける言葉を失い、困惑を隠せなかった。相談と言ったら、明日の献立は何がいいかとか、今度新しく買う服の色は何色がいいかとか、もっと気軽なものかと思っていた。
「好きな人は私よりずっと若い人なの。私みたいなおばさん、きっと興味ないだろうし」
「いやそんなことは……」
「それに私、恋愛らしいこと、まっっったく経験しないままおばさんになっちゃったから……」
「でも僕だって未経験ですよ」
「ごめんなさいでも、どうしても君に聞きたかったの」
初めての恋愛相談への戸惑いから雄二は同じような言葉を返してしまった。それを聞いたみゆきは申し訳なさそうに作り笑いを浮かべながら謝罪しつつも、話を続けた。
「だって、君には私が持ってないものがあるの」
「それは一体……」
「若さよ」
「若さ……」
「そう、若さ……私、雄二君が赤ちゃんの時からずっと働きっぱなしだったの。家に帰るのはいつも夜遅く、土曜も日曜も仕事、少ない休みは家で寝てるだけ……そんな毎日の繰り返しをしていて気がついたら、もう周りみんな結婚して家庭を築いて、雄二君くらいの歳の子供もいる……私だけ置いてきぼり……男の人と出会うこともなく、このまま。残ったのは使い所のない貯金と年老いていくだけの時間だけ……」
「それは……」
魔王軍の侵攻と魔力の流入で過去のものとなった長時間労働。雄二はその話を聞く度に門の向こうの魔王に感謝していたのを思い出した。そして彼女が恋愛に対してここまで深刻に思い悩んでいたのも漸く理解できた。
「その時は、もうこのまま歳を重ねればいいやって思ってたの。あの時までは」
「魔王軍の侵攻……ですか?」
「ええ、そうよ。魔力を浴びて鰻女郎になって、少しだけ若返った時、こう思ったの……これはもう一度チャンスを与えられたんだって、今度こそ恋をしなきゃって……でも、やっぱり怖くて……」
魔王軍の地球侵攻と魔力の流入、物理法則すら書き換えてしまった大規模なパラダイムシフト。それにより地球上の女性の大半が魔物娘へと進化を遂げた。みゆきもその影響を受けた一人だった。雄二も、お隣に住むおばさん程度の認識しかなかったみゆきがある人突然、下半身がウナギになったのみならず若返り、瑞々しく色気を纏うようになり、女性として認識せざるを得なくなったのは昨日のように覚えている。しかしながら、そんな彼女が未経験だと雄二が知ったのは最近のことだったりする。変化前は年齢的にもう結婚しているという決めつけ、変化後もその美貌からもう彼氏や旦那の一人いるものだと勝手に思い込んでいた。この相談が予想外だったことの一因だった。
そんなことを思い返しながらも相変わらず雄二はみゆきにかける言葉を思いつけていなかった。時間稼ぎと彼女の恋愛の実態を探るため、想い人について伺うことにした。
「えっと……失礼承知で伺いますけど、お相手はどんな方ですか」
「その人はね、私ととっても親密って距離感ではないのだけど、会うといつも挨拶してくれるの。それに張り切って作りすぎた料理をお裾分けすると次の日には絶対に、「おいしかった」って教えてくれるの。普段の関わるはそれくらい。でも、そんな彼に毎日ご飯作って喜んでもらえる生活ができたら幸せだろうなって思って」
そんな人身近にいたかなと振り返ってみたがそれらしい男性は思い付かなかった。しかし、こんなに手料理が美味しく気立の良い女性の行為を気づかないなんてとんでもない男だと雄二はかすかに義憤を感じていた。彼女の料理を口にしたからこそ雄二はわかっていた。みゆきには良妻になれる器の持ち主であると。みゆきに惚れられた男は史上の幸福が保証されていると。
「みゆきさん。自信を持ってください。歳なんて関係ないですよ」
「え……」
「向こうの世界だともう3、4桁単位で伴侶のいないドラゴンの女王とか魔王の娘とか珍しくないですし、そもそもみゆきさんは歳とか関係なくとても美しいです」
「本当に?」
「はい!そして何より料理がとっっってもお上手です!みゆきさんのご飯ならどんな男もイチコロですよ。男を掴むなら胃袋です。まずは料理を振る舞って見てはいかがですか?」
「雄二君……」
みゆきの手料理を食べ、彼女の魅力を身をもって味わった雄二はいつも以上に饒舌だった。そして彼女の境遇に気を使い、おばさん呼ばわりはもうしないことにした。
「それでダメなら、そいつはその程度の男だったって、みゆきさんの魅力に気づけないような奴はこっちからお断りしてやればいいんですよ」
「本当に言ってる……?」
「えぇ大丈夫です。自信持ってください。人間だった頃の価値観は捨ててください。みゆきさんのような素敵な女性ならきっと素敵な男性と結ばれますよ」
「よし、いいこと言ったぞ」と雄二は心の中でドヤ顔を決めた。当たり障りのないアドバイスだが、彼女が女性として魅力的なのも、料理がこの上なく美味しいことも事実。それを踏まえた上でのアドバイスだった。それを聞いた彼女はというと
「ありがとう雄二君。それを聞けて安心したわ。私頑張ってみるわね」
その表情から曇りは消え、目を涙ぐませながら、救われたような笑みを浮かべていた。それを見た雄二も内心で達成感を味わいつつも、頭の片隅に残っていた義憤が高まっていった。
「しっかし、その男は誰なんですかね?みゆきさんの魅力気がつかないなんて、とんだ鈍感野郎ですね。何年前のラノベ主人公なんだか……」
「うふふ、知りたい?雄二君もよく知ってる人よ」
「うーん、降参です。わからないです」
「それはね……」
みゆきは腕組みして考えていた雄二の右手を取ると、一言呟いた。
「雄二君、あなたよ」
「なんだ僕かぁ。あっはっはは、それは気がつかないや……ってええええええええええ!!!」
家全体を揺らす程の叫び声だった。決してボケたつもりではなかった。今この瞬間まで、雄二は完全に他人事でみゆきの話を聞いていた。
「だってですよ?僕のどこがいいんですか?みゆきさんのような人に僕なんてもったいないです!! もっといい人がいますって!!」
「もったいない、あら、やっぱり私のこと認めてくれてるのね?」
「あ、だって僕、みゆきさんが期待するほど魅力的でないですし、みゆきさんにしてきたことなんて何も……」
「いいえ。さっきも言ったけど、私、いつも君の挨拶に励まされてたの、お母さんに手を引かれながら挨拶してくれた園児の頃の雄二君、出勤する私に挨拶してくれた登校中の小学生の雄二君、残業で遅くなった私に挨拶してくれた塾帰りで中学生の雄二君、そして今もずっと変わらず挨拶をしてくれる……辛いことがあった時も、憂鬱だった時も、君の笑顔を見るととても元気になれたの。明日も生きてこうって希望を持てたの」
「いや近所の人にはあいさつしなさいって母さんに教わったから……」
握られた手を引こうとした雄二だったが、逃がすまいと言わんばかりにぎゅっと両手の力を入れ彼の右手を強く握りしめた。
「それだけじゃないわ。お裾分けをした翌日に見せてくれる、『ごちそうさま』の一言と笑顔、さっきみたいにとってもおいしそうに嬉しそうに私のごはんを頬張る姿。そんな姿を毎日見れたら幸せだろうなぁって」
雄二の手を取りながら屈託のない笑顔で微笑むみゆき。お隣のおばさん程度の認識しかなかったみゆきに好意を向けられている現実を受け入れ切れていない雄二は返す言葉に詰まっていた。
「ででででも、僕はまだ学生で、学校はバイト禁止で、当分みゆきさんにできることなんて何も……」
「あら、別に気にすることはないのよ。あなたは何もしなくていいの、強いて言うなら……」
そう言いながら徐に席を立ったみゆきは徐に鰻状の下半身をにゅるりと雄二の方へと伸ばし、その魚体を椅子ごと彼の身体に巻き付けた。魚体でがっちりと雄二を拘束したみゆきは背中から彼に耳元で囁いた。
「例えば、授業と部活を終えてヘトヘトになった雄二君が家に帰って玄関を開けると、割烹着?裸エプロン?雄二君はどんな格好が好きかしら?雄二君の好きな衣装を着た私が三つ指ついて玄関先で君を迎えてこう聞くの『おかえりあなた、お風呂にする?ご飯にする?それとも……』って。雄二君は3つの選択肢から1つ選ぶの……」
みゆきは巻き付く強さをゆっくりと強めていった。甘く、妖艶な声、ぐるぐると巻き付いた魚体から伝わる体温、押し付けられる上半身の柔肌とそこから香る甘い色香。先程までとはまるで人が変わったかのような雰囲気のみゆきに雄二は戸惑いを隠せなかった。
「みゆきさん……いつもと違う……」
「あら?人間の頃の常識を捨てなさいって言ったのは君よ?早速捨ててみただけ♡」
「早すぎ……」
「それでね、さっきの続きだけどね、雄二君が『ご飯』って言ったら、出来立てほやほやのあったかいご飯を食べさせてあげるわ。あーんって私の餌付け付きでね♡ふふっ♡『お風呂』って言ったら湧き立てぽかぽかのあっついお風呂に入れてあげるわ。背中も頭も全身も全部私が洗い流してあ・げ・る♡」
みゆきの口から語られる妄想を掻き立てるシチュエーションの数々、残された一つの選択肢、思春期の雄二にはあまりにも強すぎる刺激だった。その刺激は雄二の思春期の身体が耐えられるはずもなく、雄二の意に反して即反応してしまった。
「それでね……3つ目の選択肢だけど……」
そんな雄二の反応をみゆきは見逃さなかった。自らの右手を雄二の股間へと伸ばしつつ、言葉を続けた。
「『わ・た・し♡』を選んだら……どうなるかわかるかしら?♡」
「わからないで……あひゃっ!!!」
みゆきは伸ばした右手を一気に雄二のズボンへと突っ込み、思春期男子の妄想で反り立った雄二の陰茎を掴んだ。
「私を好きなように使っていいの♡ムラムラして勃起したこのおちんちんを、わたしの口、おまんこ、お尻、好きなところに突っ込んで、じゅぽじゅぽって動かして、ザーメンを私の中にびゅーってぶちまけちゃっていいのよ♡君が満足するまで、好きなだけ、好きな時に♡」
「みゆきさ……んあっ……だめっ……そこっ……あああっ!」
みゆきは勃起して敏感になった雄二の男根を握っては、固くなった生地を揉み解すような手つきでそれを弄んだ。雄二は開館と同時に茎の先が冷たくなり、濡れていくのを感じた。と同時に、衣擦れの音のみしかなかった股間からぐちょぐちょと水音が鳴り出した。
「経験はないけど、私、君を悦ばせる自信はあるわ♡こんな感じに……手の先から粘液を出して、ローションみたいにすることもできるの。どう?自分でしごくのより気持ちいい?」
「だめっ……もう……出ちゃう……!!」
亀頭の先を親指で執拗にこねくり回し、親指と人差し指で作った輪っかに雁首を引っ掛けるように竿をしごき、的確に刺激を与えていった。料理で培ったのか、初めてにもかかわらず、その手つきは激しく、びちゃびちゃ、ぐちょぐちょと濁流のような音を奏でていた。
「嬉しい……もうこんなに感じちゃってくれてるのね♡いいわ、ズボンの中で出して♡私が洗ってあげるから。びゅーびゅーって♡」
「うあっ……あっ……うううっ……」
ぴちゃぴちゃと股間の水音が更に勢いを増していく。激しく、かつ優しく痛くない巧みな手つきでみゆきはスパートをかけていく。まだ1分程度しか経っていないにもかかわらず、雄二は限界へと近づいていた。
「さぁ、私が合図するから、それに合わせて出して……3、2……」
「むりっ……うあああああああああ!!!なにこれえぇぇええええ!?」
耳元で囁かれる甘く淫靡な声、みゆきの激しく、優しい股間への手つき、未知の刺激の前に雄二の身体は激しく痙攣し、彼の意に反して精液が尿道から迸った。尿と錯覚するほど激しく溢れ出る精液に思わず情けない声を出してしまう雄二だった。
「ふふ……実はね、私たち鰻女郎の粘液にはね、強い精力増進・回復効果があるの。今日の料理の隠し味にこっそり混ぜてみたんだけど……効果あったみたいね♡こんなにいっぱい出てるもの♡」
「あっ……♡あっ♡しゅごい……♡」
未知の快楽に、雄二は意識がはっきりとせず、呂律が回らなくなっていた。
自分の手淫で想像以上に雄二が感じたことにご満悦のみゆきは嬉しそうに微笑みながら、雄二にのズボンから手を引きぬいた。粘液を使って彼の精液を絡め取ったことにより、彼女の手にはマーブル上の白濁の液体がべっとりこびり付いていた。
「ぢゅるうう……おいひい……じゅるるるうっ……雄二君の匂いがいっぱい♡……ぢゅるぢゅるっ……ぢゅぽっ……くらくらしちゃう……」
「あっ……♡うぁああっ……あっ♡……うううつっ……」
かつてない射精感で雄二の意識は朦朧としていた。その間、みゆきは右手で絡め取った雄二の精液を舐めとっていた。普段の穏やかで上品なみゆきからは似つかわしくない、品性のない音が部屋中に響き渡っていた。
「ぢゅるるうぅ…………はぁ……ごちそうさま♡」
「みゆきさん……」
みゆきは雄二の背後から正面へと上体を移し、まだ快楽の余韻から抜け出せていない雄二に語り掛けた。
「雄二君、これからずうっと、朝昼晩、私がご飯作ってあげるからね。お掃除もお洗濯も全部私に任せていいからね。それと、ムラムラしたらこんな感じで気が済むまですっきりさせてあげるからね。これからよろしくね♡」
自分をおばさんと自嘲し落ち込むみゆき、巧みな性技で男の情欲を弄ぶ妖艶なみゆき、短時間の間に豹変するみゆきを見せつけられて困惑した雄二だったが、優しく微笑みながら語り掛けるみゆきは間違いなくいつものみゆきだった。射精しても収まらない性欲をこらえる中、見慣れた微笑を向けられて、雄二は首を横に振ることはとてもできなかった。
「はい……よろしくお願いします」
「嬉しい……大好き♡ちゅっ♡」
「んっ!?…………ンー!!」
雄二の了承を得るなり、みゆきは自らの唇で雄二の口を塞いだ。そして彼の口内に舌をねじ込むと、自らの唾液を彼の身体に注ぎ込んだ。多少強引に引き出したものの、自らを受け入れてくれたことに感極まっての行為だった。
「…………ぷはっ……これで一晩中楽しめるわ……さぁ、続きはベッドの上で楽しみましょう♡」
「ふぁい……♡」
催淫効果のある甘美な液体を飲まされ、雄二は陶酔していた。魔物娘とはいえ女性のキスがこんなにも甘く愛おしいものだと、雄二は初めて知った。そんなキスを味わせてくれたみゆきの虜になっていた。そんな雄二を脇に抱え、みゆきは雄二の寝室へと移動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んぐ……んちゅ……ぢゅうるるるるぅっ……♡」
「あらあら、こんなに夢中になっちゃって……そんな雄二君もかわいい♡」
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で、雄二は巻いたみゆきの魚体に上体を委ね、彼女の左乳首に吸い付いていた。みゆきはまだ母乳は出ないが、皮膚から分泌した粘液が乳房から乳首まで伝って彼の口に入るため、雄二は疑似的な授乳を体験できた。みゆきはそんな雄二の肉棒をしごいていた。赤ん坊をあやすような、優しい手つきで。
「そろそろかしら……さぁ3回目、びゅー♡びゅうううう♡」
「んあっ……♡あああああああっ♡」
「はーい♡3回目もいっぱい出たね……♡」
3回目の射精だというのに雄二のペニスは萎えることなくその強直を維持し続けていた。その上精液は映画を見終わった後出す尿のように激しく噴き出した。オナ禁1月を達成した後の射精でもここまで激しくなかった。その極上の感覚に憑りつかれた雄二はみゆきの乳房を左右1回ずつ吸い、2回もみゆきの手淫に身体を委ねてしまっていた。
「ねぇ……そろそろこっちも試したくない?」
「こっち……?」
「お・ま・ん・こ♡赤ちゃん作るときにおちんちん差し込んで精液びゅーって出すところ♡」
みゆきは雄二の肉棒を握っていない左手で自らの蜜口を開いた。人間状の上半身と魚体の下半身の境界、たっぷりと蜜をかけられた薄桃色の赤貝のようなそれは、餌を欲しがる鯉のようにひくひくと小さく痙攣していた。その虚を満たすものを恋しがるかのように。
「挿れたい……です……みゆきさん」
「うふふ……そうよね♡やっぱり本来の使い方でいきたいよね……それじゃ私の初めてもらってくれるかしら?」
「はい」
大量の粘液を飲み、絶大な精力と無尽蔵に湧き上がる性欲に支配された雄二の目線はその薄桃色の蜜口に釘付けとなっていた。更には雄二は自身の剛直がみゆきの温もりに触れていないと寂寥感に苛まれる程、心身共に彼女の虜になっていた。そんな雄二がこの誘惑を断れるはずもなかった。
「じゃ、行くわね……」
「はい」
ベッドの上に雄二を横たえると、みゆきは天にそそり立つ剛直へと腰を下ろした。自らの秘孔を限界まで熟れた桃のような亀頭へと宛がったが、ちゅるりと滑ってなかなか照準が定まらない。
「んあ……♡うあ……♡」
「ごめんね、もうちょっとで入るから」
「んああ……♡」
「あはぁっ……♡入った……♡」
2人は同時に嬌声を上げた。5回程滑った後みゆきの大陰唇が雄二の亀頭へと食らいついた。愛しい人の一物をあるべき所に迎え、みゆきは喜悦の笑みを浮かべていた。
「雄二君、奥まで……んっ♡……いれるわね……んんっ!!」
「すごっ……うあああ……♡」
両腕で雄二の腰を抱き留めながらみゆきは腰を沈めていく。まだ何も入れたことのない膣は肉襞同士がぴっちりとひっつき、閉塞していたため、彼女が腰を沈め、雄二のペニスを奥へ奥へと迎える度に、ずぶり、ずぶりと鈍い水音を立てた。
愛しい人の形に押し広げては擦られ、愛しい人の体温で温められる感覚、全方位を愛しい人の体温と柔肉包まれ、飲み込まれる感覚、生涯味わった全ての快感を上書きする激しい快楽に2人は悶えていた。
「みゆき……さん……!!」
「ゆうじ……くぅん♡」
叫び声と共にみゆきの膣口はずぶっと鈍い音を立てて雄二のペニスを包み込んだ。雄二のペニスがみゆきの最奥まで達した。
「夢みたい……私嬉しい……♡」
「僕も、まさかこんなことになるなんて……」
みゆきは潤んだ瞳で雄二を見つめていた。右目下の泣きぼくろが特徴的な、未亡人のような成熟した色気のある容貌。毎朝みかける、よく見慣れた顔ではあったが改めて見ると、やはりこの上ない美人だと雄二は思った。そんな彼女を見ているうちに、彼女の恋心に気づけなかったことと、自分の感じていた彼女の魅力を素直に伝えなかったことに後ろめたさを感じていた。雄二は絶え間ない快楽を堪えながら言葉を紡いだ。
「みゆきさん……んぁ……僕、みゆきさんに相応しい旦那さんになれるよう……頑張ります……ううっ」
「雄二君、やっぱりいい子ね……こんな素敵な子を旦那さんにできて私本当に幸せ……!!んちゅ……ちゅっ……はちゅっ……」
「みゆきさん……!!……れろ、れろ……むちゅ……」
歓喜のあまり、みゆきは雄二の身体のあちこちにキスを落とした。彼が自分のものであることをするかのように。それに応えるように雄二もみゆきの身体を舐めまわした。彼女の粘液を舐めとり、夜通しの逢瀬に耐えうる精力を補充するために。頬、顎、肩、鎖骨、首筋、うなじ、2人は抱き合った姿勢で届く範囲に満遍なく、舌、唇を這わせていった。
「私……動くね……雄二君も好きなように動いていいからね……♡んん……痛かったりしたら言ってね……」
「はい……」
「んんっ……♡あぁっ…♡」
暗い部屋の中、肉のぶつかり合う音と、2人の嬌声が響き渡る。会話の代わりに苦悶のような喘ぎ声が歌のように、ぱちゅぱちゅと、湿った打撃音がスローテンポを刻む打楽器のように、2人の愛を刻む音が1曲の音楽のようになって部屋の静寂を貫いていた。2人はただ思いのままに欲望をぶつけ合っていた。
「はっ……はっ……ちゅう……」
「あっ……♡あっ……♡……んちゅう……」
2人は対面座位の姿勢で交わりあっていた。みゆきは雄二の身体の至る所に唇を這わせては、強く落としてキスマークを、甘噛みして歯形を、自らの証を刻むように彼の体中に刻み付けていた。雄二も彼女の身体から滲み出る粘液を舐めとっていた。肩から腕にかけて、そして胴体の側部から背中にかけて、ウナギの表皮と同じ色をした部位は特にぬめりが強く、彼女の甘美な香りと共に多くの粘液が染み出ていた。
そして貪り合う最中、目と目が合うとキスを交わしては互いの口内を貪り合った。
「っぷはっ……んんっ……くぅうう……うっ……ああっ!!」
「ぷはっ……いいっ……んあああ♡……ああ……♡い゛っ……ああっ!!」
離れた唇と唇の間には幾重もの糸が引いていた。雄二の口の周りはみゆきの粘液でべっとりと濡れていたものだから、唾液と粘液の区別がつかなかった。そして腰の動きを早くしたことにより、2人同時に声が上擦っていた。
「みゆきさん……そろそろ……ああっ!!……出そうです……くっ……!!」
先に限界を迎えようとしていたのは雄二だった。快楽に溺れていた最中、こみ上げる射精感を気が付き、このまま続ける欲望を堪え、みゆきに伝えたのだった。
「いいよ……出して♡……私もイキそうだから……来て♡」
「……ツっ!!」
「……!?んあっ!!激しい……いいわ、そのまま出して!!」
誘うようなみゆきの仕草に刺激された雄二は腰のピストン動作を加速させた。ぴちぴちぴちぴちと打ち付ける音のテンポが更に速くなっていく。みゆきの膣は、きゅうきゅうと締め付きを強め、激しく擦れる雄二のペニスに柔毛が貪欲に絡みついた。絶対に離さないとという意思を持つかのように。
「みゆきさん……ううっ……出るっ……!!」
「雄二くん……!ゆうじくん……!!来てっ……うっ……ああああああああっ!!」
雄二はみゆきの膣内へと子種を解き放った。破裂した消火栓のように、激しく、大量に。みゆきの粘液を摂取し、増強された雄二の精力は人間の限界を超える量の精液を生み出していた。
「あああああああ!!ゆうじくんの……あついのが……いっぱい♡……来てるぅううううううう!!!」
もうオーガズムから10秒も経過しようとしているのに止まらぬ射精。しかしみゆきはそれを喜悦の笑みで自らの子宮内へと迎え入れていた。膣口は一滴も溢すまいという彼女の強い意思の下、巾着袋のようにぎゅっと窄まって、脈動する雄二のペニスを咥え込んでいた。しかし、あまりの強さに間隙からひびの入った水道管のように精液がぷしゃっと吹き出していた。
「みゆきさん……みゆきさん……!!うぁあああああああああっ!!!」
「ゆうじくぅうううううん!!!!」
自身の限界を遥かに上回る絶頂に雄二はただみゆきの名前を叫ぶことしかできなかった。やがて1分が過ぎる頃、その勢いは徐々に弱まり、最後に尿道の残り汁をピュるっと吐き出して止まった。ペットボトル一本分、そのくらいは裕に出したのではないかと雄二は絶頂が引いていく中で感じていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ありがとう……雄二君……」
肩で息をし、絶頂の余韻に浸る雄二の頭をみゆきが優しく撫で回した。再び静寂が戻った部屋の中、コポっと音を立てて、膣とペニスの間隙から精液が溢れた。
「ねぇ雄二君……ここ見て……」
みゆきは下腹部を指差した。雄二が目線を向けると、臍の下あたりが僅かにぽっこりと膨らんでいた。ボテ腹、とまではいかないものの、妊娠の初期、中期くらいの膨らみだった。勿論、膣内射精で数分で妊娠し、胎児が成長するはずもないので、子宮内に詰まっているのは全部雄二の精液である。
「これ、全部雄二の精液よ……」
「ハァハァ……すごいや……こんなにも出たなんて……」
とはいえ、インキュバス化していない人間の射精量はせいぜい5ミリリットル前後である。それを遥かに凌ぐ、何十倍、何百倍もの量の精液を出していたことを、雄二は未だに現実であることを受け入れきれていなかった。その上、
「みゆきさん……僕……まだ収まらないです……もっとしたいです……」
あれだけ出しても尚雄二の勃起は治る気配が無かった。ヒクヒクと脈動しては、締め付けているみゆきの膣壁を押し広げていた。
「大丈夫よ、とっても気持ちよかったし、まだまだ入るわ……それに私ももっと欲しいの……」
「じゃあ、もう一回……」
「もう一回なんて言わず、朝になるまででもいいのよ……明日もずっと……雄二君の気が済むまで……ずっとずうっと……」
「でも明日も学校が……むぐっ!?」
みゆきは話の途中にも関わらず、雄二の口を自らの唇で塞いだ。雄二の理性を再び淫欲で塗り潰すために、余計なことを考えず、2人だけの時間に溺れさせるために。そして雄二の上に覆い被さると、みゆき上位の騎乗位で腰を動かし始めた。
結局2人の交わりは蛇の交尾のように、朝日が登っても続き、再び陽が沈むまでぶっ通しで続けられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌々日……
学校の時計は12時を指していた。授業終了のチャイムと共にカバンから親、または恋人に作って貰った弁当を取り出す者、売り切れる前に人気のパンを買おうと購買へとダッシュする者、様々であった。
「おう雄二!お前にもついに青春が来たんだってな?」
「おめでとう雄二君。本当に良かったねこれでヴァージン3は完全に解消だね」
「えっ?何で知ってんの?」
頬杖をついて外を眺めていた雄二に話しかけたのはかつてアルプ化という斜め上の方法でヴァージン3を出し抜いた登志夫と明だった。
「だって匂いでわかるもん。エルダーな女性の匂いがすっごくする。他の女子もみんな気づいてたよ」
「お前が休むんだからよっぽどのことがあったんだと昨日の時点で察していたぜ。それに、顔と首筋にキスマークと歯型いっぱい付けといて何言ってやがんだ、男でも分かるぞ」
「あ、やっぱ落ちてない?」
雄二の身体のあちこちには1回の風呂と睡眠ではとても落ちきらない程強く、大量にみゆきの痕跡が染み付いていた。ちなみに昨日の雄二は、事後、みゆきと夕食を摂って風呂に入って再び数回交わった後一睡し、今朝は朝の一発交わって朝食を取った後に登校した。
「で、相手どんな人?どこで会ったの?」
「来るはずなんだけど……」
「お弁当は出来立てを学校へ届けるから待っててね」とみゆきが笑顔で雄二を送り出したのが今朝のこと。その言葉通りに、午前中はみゆきが届けに来るのをずっと窓の外を眺めて待っていた。しかし、外を見てもそれらしい人が来た様子がなかった。諦めかけたその時、
「お待たせ〜雄二く〜んお弁当よ」
「あっみゆきさん!!ありが……ん!?」
聞きなれた穏やかな声の方向へ振り返った雄二は絶句してしまった。教室の扉に立っていたのはみゆきでは間違いないが、いつものニット生地の服ではなく、この学校の指定制服であるセーラー服を着ていた。みゆきはそれを特に恥ずかしがる様子もなく、嬉しそうに微笑みながら教室へと入ってきた。
「みゆきさん……その制服……」
「あらこれ?実はね、特別編入許可貰えたの。これで一緒に勉強できるわね♡」
「あ……まさかこの空席……」
「あ、でもね、高校卒業単位はとっくのとうに取得してるから、登下校のタイミングも自由だし、宿題もテストも必要ないから、ご飯や家事の心配はしなくていいからね♡」
「あはは……」
幼いころからみゆきを知る雄二にとって、制服を着たみゆきは少し間のスラングで「うわキツ」という言葉が当てはまりそうな年甲斐もない姿に見えなくもなかった。しかし、本人は満足そうではあるし、ただ少し10代の若者が多いだけで、年齢も外見も多様なクラスメイトの中でみゆきが浮いて見えることもなかった。雄二は即座に考えを改めた。そもそもみゆきに「人間の頃の常識は捨てろ」説いたのは自身だったのだから。
「これで一緒にお弁当食べられるね♡」
「うん、本当にありがとう。みゆきさん」
「みゆき、でいいわよ。それより屋上行きましょ」
そう言うとみゆきは雄二の手を取って魚体を素早く蛇行させ、教室の外を飛び出した。そんな2人を登志夫と明のカップルがニコニコと笑いながら手を振って見送っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ご馳走でした。とってもおいしかったよ。ありがとうみゆきさ……みゆき」
「お粗末様でした」
青春という言葉をそのまま形にしたような白いちぎれ雲が散らばる青空の下、雄二とみゆきは肩を並べて、弁当を食べた。恋人と共に二人っきりで食べる弁当。雄二は青春という言葉がこれほどまでに相応しい自分の状況に身体全体に幸福感が満ち、自ずと出た笑みが顔に張り付いて離れなかった。
「雄二君、本当にありがとう……私こんな青春送るのが夢だったの、これも全部雄二君が私を認めてくれたおかげだよ……ありがとう」
目を潤ませながら見つめていた。正直、励ますつもりでいった言葉でここまで進むとは思っていなかったし関係も結構強引に進んだものだったので、感謝されることをした実感が湧かない雄二だったのだが、そんなみゆきを見て少し照れくさい気分になった。雄二は彼女の左手に自らの右手をそっと重ねるとみゆきの目を見て呟いた。
「僕の方こそありがとう」
今までずっとお裾分けをくれたこと、何のとりえもない自分を好いてくれたこと、夢だった彼女との青春を実現できたこと、様々な事への感謝を込めた言葉だった。
「雄二君……んっ……」
その言葉を聞くなり、みゆきは雄二の唇へと自らの唇を押し付けた。そして両手で彼の頬を支えると彼の口内へ舌を伸ばし、彼の口内へとねじ込んだ。舌を通して否応なしに精力増進効果のある唾液が雄二へと流し込まれる。雄二は心臓の高鳴りが増していくのを感じた。この後、みゆきが唇を話したときに何を言い出すか、おおよそ見当がついた。
「ねぇ?せっかくだからこの後の授業さぼっちゃいましょ?」
唾液が糸を引いたままの唇でみゆきは呟いた。ニヤリと悪だくみを思いついたように笑うみゆきの眼光の奥に情欲の炎が思えているのが雄二には見えた。初夜の時に見た顔と同じ顔だった。
「いや、この後シグリア先生の魔界史だからサボるとヤバ……い゛っ……!?」
「大丈夫、私がなんとかしてあげるから♡サボるのも青春の内よ♡」
断る雄二をみゆきは自慢の魚体でぐるぐる巻きにするとそのまま押し倒した。最早、こうなってしまえば、彼女の拘束から逃れることもできなければ、情欲の炎を鎮火させることも不可能だった。雄二は苦笑いして、青春の1つの形とシグリア先生にこっぴどく叱られる未来を受け入れた。
3日前までは近所のおばさんに過ぎなかったみゆき。そんな彼女が学校ではクラスメイトとして青春を共有し、家では新妻として蜜のように甘い夫婦生活を共にする。雄二の贅沢で新しい日常はこうして始まったのだった。
21/02/10 22:07更新 / 茶ック・海苔ス