読切小説
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幸せな悪夢
―――――間もなく、○○〜○○〜です、お忘れ物の無いよう・・・

「ぅ…」

聞き慣れた最寄りの駅の名を聴覚が捕らえ、重い瞼をこじ開けた。
眠気を振り払いながら足元に置いた通学カバンを持って立ち上がり、扉の前に来る。
ふと腕時計を見ると午後九時、下校時刻のギリギリ限界まで残って勉強していたからこんな時間になるのも覚悟の上だし、何よりほぼ平日はこんな感じの生活を送っているからすっかり慣れてしまっていた。

それに、帰りたくない理由もあった。
出張や接待がないときに父が在宅しているが、その時に限って母と父との間で猛喧嘩が繰り広げられるからだ。
家の構造が吹き抜けなのもあって、そんな状況だと音も振動も筒抜けでそれはそれはもう勉強どころではない。だがもうそんなことを言っていられる状況でもない、眼前まで迫った定期試験に備えるべく、寝る間も惜しんで勉強する必要があった。
元より頭が良い方とは言い難く、人一倍の努力を積んでも尚そこら辺のクラスメイト以下だった、そんな自分が恨めしかった。

駅を出て歩くこと10分、我が家が見えてくる

普通の人…と言うか、クラスメイト達からして『自宅』と言うものに対してどんな印象を抱くだろうか?

心の拠り所、安らぎの場所、家族の団欒が得られる場所…

ありきたりな言葉ではこれぐらいしか思いつかないが、悪いイメージを抱いたりしないのは確かなのだろう…と、思った。

せめてその気分を一度でも味わってみたかった、などと叶わぬ願望を抱いて帰宅する。

「ただいま」

出迎えは、無い
ダイニングテーブルまで行くと、見慣れた文字列のメモ用紙が残されていた

『しばらく留守にします』

…これで何度目だろうか
基本的に夕食は外で何かしら済ませたり自分で作ったりして凌いでいる、最後に母親の手料理を食べた日はもう覚えていない。
何度も試行錯誤を繰り返し、自分の味覚を満足させるまでに至った自身のほうがもう上手くなっているかもしれない。それを確かめさせてくれる人がいないのは残念だったが…
今日は疲れたから風呂に入って寝ようと、給湯のボタンを押した

――――――――――――――


夜中、唐突に目が覚めた。時刻は午前三時、もう一度寝ようとしてもずっと意識が冴えたままで寝つけなかったのでリビングへと降りた。
椅子に座ってコップで汲んだ水道水を飲み干し一息つく、テレビでも点けようかと席を立とうとしたその瞬間だった。
…ふぅーっ

「!?!?!?」
唐突に耳元へ吐息が吹きかけられ、驚いて椅子から転げ落ちてしまった。

「おっとっと…そんなに驚かなくてもいいのに♥」
「ううっ、あ…」
倒れる直前に抱えられ、ゆっくりと床に寝かされる。必死に視線を声のするほうに向けるも電気を消しているから暗くて姿は良く分からないが、声色からして女性のものだと思った。そして視界に飛び込むすらっとした脚、その脇に見えるわずかな光を反射して鈍く輝く鋭利な金属質の物体…暗がりでもそれはすぐに刃物であると理解できた、それもかなり大きな…
この時点で俺は彼女を強盗だと解釈し、大声を出して助けを呼ぼうと試みる。
「っぁ…!」
「大声出しちゃ駄目よ」
彼女が短く一言警告する、だが風を切る音とともに喉元へと刃物があてがわれていた。冷たい感触、死へと直結しかねない感触…気が付くと俺の呼吸は激しく乱れていた、全身から汗が噴き出して一滴が硬直した頬を伝う。恐怖に呑まれ、支配された俺を見てクスリと彼女が笑った。
「心配しないで、私は強盗なんかじゃないわ」
「う、嘘だ…」

いつ喉元を掻っ切られるか分からない状態だったが、それでも何とか反論する。
「嘘じゃない…って言っても、どうせ信じないわよね」
彼女がため息をつく、こんな状況でもその様子にどこか色気を感じる自分が腹立たしく思えた。
「まぁいいわ、どの道ヤることは変わらないし…」
そう言うと刃物を俺の首元から離した
助かったと思ったその時

ザシュッ

胸を縦断する、軽い衝撃と一閃
「…え?」
思わず素っ頓狂な声が俺の口から洩れる。そして胸元を見ると、ぱっくりと裂けた寝間着から生々しい傷口が覗いていた

「―――――――――ッ!!!!!」
傷口を抑えてもがく。やられた、死ぬ、ここで…
「あら、大袈裟ね?…これで斬られたって死なないわよ」
「はぁっ…はぁっ……?」
しばらくして異変に気付いた、傷口は相当深いはずなのに血がちっとも出て来ない…それどころか痛みすら無かった。代わりにその傷に沿って熱を帯び、疼く。
「何を…した…?」
「…この鎌によって斬り付けられた貴方のその傷は、肉の体によるものじゃないの」
言われて気づく刃物の形、それは正しく死神が持っているかのような大鎌だった。
成程、どうやら自分が不摂生な生活ばかり送ってきたから向こうから迎えに来たらしい…と、なぜかそう解釈してしまうと同時にふと気が抜けて余裕が生まれた。そして悟る、死期が近いと。
「あぁそうか…死神の中には女性の奴もいるのか」
「いろいろ飛躍し過ぎよ、落ち着きなさいって」
「落ち着けたからそう思えたんだ、突然目の前に大鎌持ってる奴が現れた…ならそう考えるのは普通じゃないか?」
いつしか恐怖も薄れ、普通に死神と会話している。この異常な状況に順応できている俺自身が逆に恐ろしく感じた
「はぁ…まぁ、その状態じゃ動けないし別にいいわ」
「動けない?……っ!?」
試しに右腕を上げようとするが全く動かない、まるで神経や意志が体外に流れ出してしまうかのようだった
「どう言うことなんだよ…」
「ふふっ…それはね、この鎌の材質がそうさせるのよ♥」
「…は?材質?」
寝耳に水とは正にこの事、特別な力を駆使していたのは本人ではなくその武器…しかも材料によるものだったからだ
「この鎌は魔界銀製、肉体ではなく魔力を傷付けて力を奪うの…無論、命に別状はないわ」
「…RPGで言ったらMPだけすっからかんにするって具合か?」
「そうそう、そんな感じ」
「死神がRPG知ってるなんて初めて聞いたぞ」
と、そんな話をしている間にその死神がかなり近くまで来ていた、暗くてよく見えなかった顔が、体が、自分の視界に入り…
「……」
美しかった、ただただ美しかった
整った顔、無駄のない程よく熟れた肉体、そして何より近くにいることで感じる妖艶とでも言うべき雰囲気…勉強ばかりで女性というものに疎かった全てにおいてあまりにも新鮮だった
「もしかして…見惚れちゃった?」
「っ!?」
どうやら想像していた以上にまじまじと眺めていたらしい、慌てて目をそらす
「図星だったみたいね♥」
「う、うるさい…」
顔が熱くなってくるのを感じて俯いた
「うふふ…ねぇ、もっとよく見せて…貴方の恥ずかしがってるカワイイ顔♥」
ふと、温かい感触が頬に伝わった。手だ、彼女の手…それは優しらと慈しみすら感じられるほどの温もりだった
それがクイっと俺の顔を持ち上げて彼女との視線を合わせ、固定する。必死の思いで目線だけ逸らし続けていた
「頼むから今は見ないでくれ…情けない顔してるだろ、俺」
緊張と恥ずかしさのせいで声まで若干上ずった感じになっている
「一つイイコト教えてあげるわ…私ね、男の子の恥ずかしがってる表情が大好きなの、いろんな角度からジロジロ見まわしちゃいたいくらいにね(ハート)」
「ふざけるなよ、その気になれば…」
「ハイ、そこまで」
頬を抱える手の一つが離れ、自分の口元に人差し指が押し当てられる。声を発することなく『静粛に』と命じられた気がした
「悪いけど、私もうこれ以上待てないの♪」
「いっ…!?」
クスリと微笑む彼女の笑顔に残酷さすら覚え、再び恐怖の渦中へと引きずり込まれてしまった。逃げなければ何をされるか分かったものでは無い、こんなところで死んでたまるかと全力…と言うか死力を尽くして必死に体を動かそうとするが案の定少し上体が起きあがただけだった
「このっ!このォっ!!」
「暴れようとしても無駄無駄…♥」
彼女の人差し指が胸元の傷口をなぞる、傷口が再び痛みの代わりに疼きを訴え、全身がビリビリと痺れて一瞬息すらできなくなる
「はっ、がぁ…!」
「あぁ、もうこんなにビンカンになっちゃってるぅ…お姉さんがしっぽりと絞ってあげなきゃね♪」
笑いながら彼女の指がぱっくり裂けた寝間着の内へと侵入してひたひたと体を触ってきた、高校だと往生際の悪いことで結構有名な自分は気が狂いそうなほどの刺激に揉みくちゃにされながら何とかこの状況を打開しなければと必死に頭を働かせた。だが体は全く動かない、腕一本すら鉛のような重さだった。
「く…そっ……」
やがて考える力すら失い始め、茫然と肉体を彼女のなすがままにされる様を見ているしかできなかった。そして思い立つ


『もし、これが夢だったのなら…』



そこまで来てふと自分の思考力が戻った気がした…そう、この状況はどう考えても現実的ではない、何から何まで常識的な事は一切存在しなかった。
「…」
「〜♪」
まるで小動物のように胸板に顔を擦り付ける彼女は俺に対して全く警戒していない、仕掛けるなら今だ
「…ぅっ」
小さく息を吸う、そして唇を強く噛みしめた
「あら?どうしたの、急にだんまり……ってえぇっ!?」
異変に気付いた彼女が顔を上げ、俺の様子を見て驚いた。読みは大当たりだったらしい、椅子から落ちそうになった時にわざわざ抱えたのは直接強い衝撃を与えようとしないため、魔界銀製の鎌とやらで斬り付けられても痛みがなかったからそれは大丈夫らしい…つまり、自分自身に強い痛みを与えれば…『夢なら覚める』。
「だ、ダメ!やめて!そんなことをしたら貴方が目覚めて…!?」
彼女が悲鳴に近い声を上げる、幸運なことに向こうからどういう事か吐いてくれた。もう十分だ、もう止められない、これで最後だ…
「ふんッ!!」
ブヅっと嫌な感覚と共に唇から鉄の味と痛みが広がる。同時に見ていた景色が一瞬で遠のいて……


――――――――――――――



「…はっ!?」
弾かれたように飛び起きる、自分でも気持ち悪いくらい汗をかいていた…だがここは見慣れた自室の敷き布団の上、胸に傷もなく寝巻も裂けていない。どうやら悪夢から解放されたのは確かなようだ
「ふぅ…今、何時だ?」
枕元の時計を見ようとした瞬間、すぐ脇に何かが横たわっていたのを目にしてしまった。しかもそれは悪夢に出てきた女性の死神にも似て・・・
「うっ!?」
まだ夢の中だったのかと逃げようとするがどうにも様子がおかしい、ずっと頭を押さえて唸っている。しかも下半身が人間のそれではない、まるで馬か何かの胴体そのものだった。混乱する頭を押さえながらとりあえず通報でもしようかと思い立った矢先
「うぅぅぅ…」
「……?」
うめき声が聞こえた、思わず耳を傾ける
「ひ、ひどいよぅ…何もそこまでしなくたって…」
顔は手で隠されていて見えないが声だけで半泣きになっているのがよくわかる、今まで散々やっておいて変な話でもあるが…
「確かに…確かにぃ、ちょっと無理矢理すぎたかもだけど、あぁまでして拒絶されるなんて想定外だよぅ…」
ぶつぶつとうわ言の様につぶやく彼女を見てだんだんと罪悪感が芽生え始めてきた。どうにも俺は泣き落としに弱いらしい…流石に居心地が悪くなって声をかけてみる
「…なぁ」
「ッひぃぃ!!?ごごご…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃっ!!で、出て行きますからっ!出て行きますから許してぇぇぇっ!!!」
…ものすごい勢いで起き上がって部屋の隅に逃げた。震えながらこちらを見る彼女に夢で見た恐ろしさは微塵もない、人間部分の体つきはそのままだが顔つきは自分と同世代かそれ以下の幼さをはらんだモノとなっていた
「う・・・何も、そこまで逃げなくてもいいだろう?」
「だってぇ、あんなに強く拒まれたら…で、出て行きますからぁ」
と、言いながら窓のほうへ歩こうとしたが焦っていたのかこけてしまった。こけると言っても前足が滑ってぺたんとその場に座り込むようで可愛らしいものだったが
「・・・」
「あ、あぅ」
そのまま立ち上がろうとするがうまく足腰に力が入らないらしく、うんともすんとも動かない。その隙に俺は彼女の元へ近づいた
「ひっ…!」
驚き、恐れ、彼女は目を瞑る。それでもお構いなしに真正面まで来てしゃがみ、目線の高さを合わせた
「今この瞬間だけ夢の出来事全部を水に流す、だから話してくれ」
「話すってどこからですか・・・?」
恐る恐る目を開いて潤んだ瞳がこちらを向く
「名前、どこから来たか、何をしに来たか・・・可能なら年齢もだ」
「は、はいぃ…」
彼女はその姿勢のまま想定していた以上にすんなりと受け入れて話し始めた


――――――――――――――


「・・・と言うことなんですけど、理解できました?芝浜 昌暉(シバハマ マサキ)さん」
「正直言って訳が分からないけどな、乙錐 満夜(オトギリ マヤ)さん」
端的に纏めると
・彼女は異世界から来たナイトメアというどちらかと言うと本やネットで見るサキュバスのような魔物娘
・近い内に彼女の生まれ育った『あちら側の世界』で領界拡張作戦が開始され、こちら側の世界に魔物娘が番いを求めてなだれ込むが、彼女はそれよりも先に自らの夫として相応しい男性を探してこちらに来た
・そして今週の初め、下校時の自分を見つけ一目惚れした後、短期間で自分に関する情報を集められるだけ集め、寝静まったのを見計らって家へと入り込んだ
・そして夢の中へ潜り込み、無事に精を搾り取ってから改めて婚約を持ち掛けるつもりあったが自分が無理矢理夢から覚めたことで弾かれて悶えていた

…らしい
「作り話にしか思えない内容だが、そもそもその下半身は何なんだ?作り物か?」
「な、ならこの馬の部分の胴体触ってみます?・・・本物かどうか確かめるために」
と言いながら馬の胴体をこちらに寄せる
「・・・分かった」
恐る恐る、その柔らかそうな毛並みへと手を伸ばして触れた
「う、ぅお・・・」
まるでシルクのように滑らかでありながらふかふかとした手触りで、思わず声が漏れてしまうほど気持ちのいい感触だった。それに定期的なリズムでピクピクと微かに震えて温もりもしっかりと感じる…見紛うことなく、それは体として機能している証拠だった
「・・・認めたくないが、認めるしかないか」
「あの、満足できるまで触っていい・・・ですよ?」
そんなことを言われてしまっては抑えが効かない、あまりにもいい手触りであるからつい撫で続けてしまう…そうしていつしか時間も忘れてもふもふの感触に入り浸ってしまった
「ん…ぅふぁ…」
「…うっ!?」
はっと気づいて手をひっこめた時には五分近く経過していた頃だった。大分手遅れだったようで、上気しきった表情を浮かべて息を少し荒げながらこちらを見つめている。だが確実に『狙われている』と感じながら不思議と恐怖を憶えなかった。それどころか彼女に何をされても恨まないし、むしろ全て受け入れることができるような…そんな気がした。俺もいい具合に狂ってきたらしい
「あの、昌暉さん…私……私ぃ…」
もじもじとしながら上目遣いでこちらを見る彼女の瞳の奥にハートにも似た形が浮かんでいるのが見えた気がした。彼女の望みはただ一つ、交わること…普通なら拒むだろう。だが少なくとも今の自分は違った、夢の中では命を獲られると恐怖をむき出しにして拒んでいたものの、彼女の実態を知ってしまうと壮大な肩透かしを食らい、同時に『その程度なら別にいいか』と余裕も生まれた。結局、物事死ななければなんだって安いものだ。それでも少しの疑惑が脳裏をよぎり、彼女へと問う
「・・・一応最終確認、本気で俺なんだな?間違いとかじゃないな?」
・・・返事はない、代わりにこちらをまっすぐ見据えたまましっかりと頷いた。
それだけで十分だった
「分かった…でも少し、言っておきたいことがある」
「は、はい?」
これだけは伝えなければならない、と再び口を開く
「…痛くはするなよ」
「・・・」
少しの沈黙が流れ
「・・・ぷふっ」
彼女が笑った
「わ、笑うなよ!」
「だ、だってそれって普通女の人のセリフじゃないですかぁ…!」
必死に笑いをこらえながらそういう彼女を見て俺の顔がカーッと熱くなるのを感じた、夢の中ではあったとは言え鎌で思い切り斬り裂かれては多少警戒もしてしまうものだろうと思い言い返そうと口を開く
「だっ…大体、あんな乱暴なことされて何も怖くないって方が」
「…んっ」
「ぅっ…!?!?!?」
一瞬の出来事だった、弁明しようとする口を塞ぐかのように彼女が口付けしてきたのは
「んぅ…れぅ、れろれろ…」
「うぅ゛っ、んむ゛…!」
更にその唇の隙間から舌が口内へと入り込んだ。キスの感触すら知らなかったというのに、甘く温かく柔らかな感触が口の中をくまなく這いずり回って脳がしびれるような気持ちよさに包まれていく
「・・・ぷふぁあ♪」
どれほどの時間がたったかもわからない、ひょっとしたら一分にも満たなかったかもしれないが、俺にとって数十分にも感じられたその甘美な時間は無慈悲に終わりを告げた。自分の唇から伝う半透明の糸を無意識に目で追うと、恍惚とした表情でこちらを見つめる彼女が…満夜が、いた。
「・・・」
「私にとって大切な人に、痛いことする訳無いですよ・・・♥」
・・・正直、頭の奥がチリチリと麻痺して上手く理解ができなくなっていたが、己の感情は少しずつ彼女への欲求に満たされ始めていた。
『もっとだ』
『もっと欲しい』
『その柔らかな舌の温もりが』
『その心まで溶かすほど甘い唾液が』


「・・・欲しい」
気が付くとそう呟いていた、それを聞いた彼女が微かに笑い、こちらの手を取る
「キスだけじゃ、私が満足できないんですよ・・・」
そのまま、服越しに胸へと押し当てた。布一枚隔てていてもしっかりと伝わる体熱と弾力、そのどちらもが絶妙なまでのバランスを以て自分へ快感をもたらした
「う、あ…」
「昌暉さん、私…ずっと貴方と一つになりたかったんです。初めて出会ったその日から…」
胸の内を晒しながら、もぞもぞと手を服の中へと侵させていく。ここまで来て気づいた
「お、お前ブラとかは…!?」
「してないですよ♥」
手が直接、豊満な乳房に触れた。それだけで電撃が走ったかのような快楽が体を駆け巡る
「ぐぁっ!?」
「初めてはどんなふうに襲われちゃうか、とか…どんな体位が一番気持ちよくできるかな、とか…毎日毎日、考えてたんです…でも、昌暉さんを前にいざって時に、『襲われたい』って欲求が『襲いたい』って欲求に負けちゃいました…んっ」
少し上体を倒し、掌に胸を押し付けて来た。壊滅的なまでの柔らかさが掌全体に広がり、指が食い込んで彼女の口から甘い悲鳴が漏れる
「わ、たしっ…気弱で、根暗で、夢の中でしか強気になれないです、けどぉ…それでも、それでも私は貴方が…昌暉さんが欲しいん、ですっ…!」
…愛情
こちらに向けられた一途なまでの強い感情
悪い気はしない…それどころか、もう受け入れる覚悟が出来ていた。
返答代わりに、押し付けられた柔らかな胸を一気に揉みしだいた
「はゃんっ!?き、急に激しぃいっ…!」
可愛らしい声で彼女が鳴く、その声が耳に入れば入るほどもっともっと聞きたくなって無理矢理服を脱がした
「やぅ!み、見えてるぅ…」
彼女の顔ほどの大きさか、或いはそれより少し小さいくらいの胸のふくらみの先端に鮮やかな桃色の乳首が見えた…が、急に恥ずかしがってしまったのか腕で胸を覆い隠してしまった。だがその仕草すら堪らなく愛おしい、その腕をどかして乳首へと吸い付いた
「あぁあっ!乳首ぃっ!そんな吸っちゃぁ!?」
吸い、甘噛みし、舌で先端を転がす度にびくんびくんと彼女の体が震える。しっとりと汗ばんでいた乳首は甘しょっぱくて幾らでも貪れる気がして…
「やぁ・・・もう、らめぇ・・・!」
ふっと彼女の力が抜けて馬の体ごと仰向けに布団へと倒れた
「ま、満夜さん!?」
「あぇ…あ、あひ…」
その時の彼女の表情は言葉にできないほどの妖艶さを醸し出していた、甘く荒い息、じっとりと汗ばんだ小刻みに痙攣する人間と馬の体、そして上気しきった表情にもかかわらずまっすぐにこちらを見続けていた・・・まるで何かを求めるかのように
「昌暉しゃぁん・・・わたしぃ、もう我慢できないですよぅ・・・♥」
彼女が覚束ない様子で服をたくし上げる、人体と馬体の境界部分…人間でいう腎部が曝け出され、そこにはトロトロと蜜を滴らせる全く毛の生えていない彼女の秘裂が覗く
どうすればいいのか、どう動けばいいかを考えるより先に自分の体が、馬体の足の間を通るように彼女の人間の部分へと覆いかぶさっていた
「満夜…さん…」
寝巻を脱ぎ捨て、痛いほど硬くなった逸物が外気に触れる…しかし、いざ入れようとすると彼女の愛液や俺自身の興奮で思ったようにいかない
「な、なんでっ…!」
イラつき始めた自分を見ていた彼女がほんのり笑ったかと思うと、逸物を優しく握ってきた
「うっ!…ま、満夜さん何を…」
「私が…昌暉さんのを、導いてあげます」
そして片手で逸物を、もう片方で秘裂を広げながらゆっくりと優しく彼女は誘導する
そして彼女の中へと先端が沈んだ時点で、まるで逸物が溶けてしまったのかと思うほどの強烈な快感が押し寄せてきた
「うあ、ぁあぁっ!?」
待ち焦がれていたかのように蜜濡れでドロドロになった肉の襞が一斉に絡まってくる、まだ先の部分だけなのに踏ん張らなければ一瞬で射精してしまいそうだった
「昌暉、さん…一つだけお願いしてもいい、ですか?」
「ぁ…?」
唐突に彼女から頼まれる、こっちはもうそれどころでは無いというのに
「……私の事、呼び捨てにして…ください」
「…?」
急に何を言い出すのかと問おうとしたその矢先に彼女は続きを言う
「身勝手かもしれないですけれど…私にとって、貴方は運命の人だったと思うんです…」
恍惚とした表情から一変、急に彼女は恥ずかしがる
「だっ、だから…貴方ともっと深い関係になるためには、お互い呼び捨てにした方がいいかな…なんて」
「満夜さっ……ま、満夜も?」
危うくさん付けにしそうだったのを正す
「はい…」
そして彼女が俺の耳元へと顔を寄せた
「昌暉…きてぇ…♥」
ぼそりと耳元でささやかれて、俺の中で何かが消し飛んだ
「満夜…満夜ぁッ!!」
もう彼女以外何も考えられなかった、勢いよく腰を奥へと叩き込む
「んやあぁぁっ!?」
ふやけた紙を破るような弱い感触が伝わる、多分破瓜だがそんな事すらお構いなしに何度も何度も腰を振りたくった。一番奥まで突き入れるごとに悲鳴が彼女の口から洩れ、接合部の隙間から愛液と血液が飛び散る
「昌暉ぃ!もっと、もっとしてぇ!もうめちゃくちゃにしてぇっ!!」
満夜の腕が俺の体をぐいと抱き寄せる、だが動きやすいよう締め付けは緩い
彼女の腕に抱かれたまま、なおも俺は狂ったように腰を振り動かし続けた。一突きする度に彼女の体が跳ね、逸物へと絡まる肉襞が絡んで限界へと一気に促す。じっとりと汗ばんだ馬体の毛並みが下半身に纏わり付いて何とも言えない気持ち良ささえ感じた
「うっ…くぅ、お…!」
「ひっ…ひぃんっ…あっ、あぁ…!」
互いの体液が、汗の香りが、声が入り交じり、もうどちらが気持ちよくなっているのかすら曖昧になるほど激しく乱れる…これが、これこそが大切なヒトと交わるということか…思考ではなく本能で理解する、その瞬間更に快楽の波が押し寄せて……
「やば、いっ!?」
「わらひもぉ、わらひもうらめぇっ!いくぅっ、ましゃきしゃんのでいっひゃうぅぅぅぅぅっ!!」
どうやらそれは彼女も同じだったようで、完全に呂律が回らなくなった状態でしっかりと抱きしめてきた、更に馬体の足まで使ってがっちりと固めて逃がさない気でいる
「ま、満夜っ!もうダメだ射精るぞっ!!」
「ま、ましゃきしゃぁ…あ、あ、あぁぁぁぁーーーーーーーっ!」
彼女が可憐に哭く、途端に逸物の先端へぶちゅうぅっと何かが強く吸い付いた。途端に意識が真っ白になって全身から集まったかのような滾る熱を蓄えた下半身の、その末端の逸物がついにその時を迎える
「ぐ、がぁあああああああああああああっ!!!」
股間が蕩けてしまったと思った。生まれてこれまで味わった中で一番の快楽は、それほどまで激しく、甘かったから。
「は…はひ…ましゃきしゃんのいっぱひ…」
「う…ぁ…」
全身の力が抜け、満夜の体へしなだれかかるように倒れた。彼女の温もりと鼓動を肌身で感じ取りながら余韻に浸っていると優しく抱きしめられる
「あ…」
「…ありがとう」
「……」
…それが、いったい何に対する感謝なのかは何となく理解できた。今はただ彼女の腕に包まれていたい……まだ夜の筈なのに何やら外が桃色に明るく、妙に騒がしいがそれを気にすることが出来るほどの精神力は残っておらず、ただ彼女の感覚を深く味わいながら寝そべっていた
「…始まりましたね」
すると、彼女の方から口を開く
「何がだ、満夜?」
「新しい世界の誕生日…って感じですね」
「…そっか」
正直、今はどうでも良かった…俺がいて、満夜がいる…それだけで十分だった。だが眠い、射精した後の浮遊感といい、未だに繋がったままの温かさといい、何よりも彼女に抱きしめられた安心感が緩やかに俺を眠りへと誘う
「満夜…俺、眠くなってきた」
「…実は、私もそう感じてきたところで」
どうやらそれは満夜も同じらしい、可愛らしい欠伸が聞こえて俺にもうつる
「…寝るか」
「そうですね」
他愛もない会話、仕草、だがその全てが掛替えの無いものに感じる…あぁ、そうか。
これを幸せと言うんだな
「あ、でも繋がったままで…」
「…いや、このままでいい。君を感じながら眠りたい」
そう率直な思いを伝える、拒まれるかと思ったが抱きしめていた状態で優しく頭を撫でてきた様子からそんな心配も消え去った
「でも…夢には、入らないでくれよ?」
「分かっていますよ…それは明日からです♪」
「そう…か」
そう言いながら、意識がまどろみの中へ溶けていく
「…おやすみなさい、昌暉」
「…おやすみ、満夜」
そう言い残して、俺はこれ以上ない幸せに包まれながら意識を手放した

――――――――――――――――――――――――――――


かれこれ、そんな出会いから三年が経つ

世界は魔物娘たちを迎えて変わった、誰に対しても優しくなったと思う

同時に少しばかり淫らになった気もするが、慣れてしまえば大した問題じゃない

満夜との出会いは俺に生きる意味と理由を与えてくれた、誰かに想われて生きていくのがどれほどまでに素晴らしいものかを気づかせてくれたのは間違いなく彼女だ

自分の為だけでなく、彼女のために作る食事は一人で作って一人で消費していた頃とは比べ物にならないくらい美味く作れた。彼女からも当然好評で、いろいろと教えてあげることもある

勉強もこれまで以上に身につくようになった…が、通っていた高校の女子生徒達や教師が魔物娘になっていたり、そもそもあまり来ていなかったり、仮に来ていたとしても授業中に性交し始めるものも少なくなかった…だが慣れとは恐ろしいもので、嬌声の響く中で数学を解いていけるようになるのにそう掛からなかった。

そして迎えた大学受験、意気込んでいったのは良かったが出題された問題があまりにも簡単に感じ、どの考査も三十分足らずで解き終わってしまった。当然合格も果たして満夜と一緒に喜んでいたが、それ以上に嬉しい知らせが舞い込んだ…

合格通知が届いて間もない頃、封書が届いた。宛先は父と母からのもの、満夜と一緒に中身を確認すると、一つの写真と一つの手紙が入っていた
内容を要約するとこうだ


『昌暉とまだ見ぬ彼の恋人へ、昌暉合格おめでとう。私たちも魔物娘との出会いで身も心も大きく変わり、少し離れた地で再び夫婦としての関係を再建しつつあります。昌暉にしてしまったことは取り返しのつかないことかもしれないが、もし許されるなら結婚して式を挙げた時、その席に加わることを望む。そこからもう一度、家族としてやり直そう。』


そして添えられていた写真には、サテュロスとなった若々しい母と、老衰していた面影がどこにもない威勢のいい父の姿が…それぞれ満面の笑顔で、写っていた

この手紙を読んだ後の記憶はあまり残っていないが、満夜曰く『ボロボロに泣いていて、落ち着くまでかなりの時間がかかった』らしい。傍から見ればあまりにも身勝手な欲求でしかないかも知れない、それでも俺は構わない。もう一度家族として、今度は間違えることなく歩んでいけるのならそれで十分すぎたから。そして満夜も喜んでくれていた、『今度会ったら、お義母さんとお義父さんって呼ばなきゃダメですよね』と少し肩に力が入っている様子だから今の内にリラックスするよう促している、そんな会話ができるのが、また嬉しかった。




出会いこそ数奇だったが、今となっては最愛の人となった彼女を見る度に笑顔がこぼれる。そしてその都度気づく、自分の幸せを、生きる素晴らしさを。



ありがとう、満夜




この人生は覚めることのない夢







君がくれた、幸せな悪夢
18/03/02 02:45更新 / 前が見えねェ

■作者メッセージ
はじめまして、生まれて初めてこう言った物語を書くことになった者ですが思うように行かずにあぁでもないこうでもないと頭を捻らせ、『こうだったらいいな』とか『こんな出会いがしてみたいな』とか『魔界銀製ならこんなことだってできるんじゃねえのか』とかいう欲求を小学生並の文章力に乗せてぶちまけたのがこちらの産物になります。元々他の人の作品を見てるだけで満足しようかと思っていたところ、何を血迷ったのか作ってやろうと奮起して自分でも「これはひでぇ」としか言いようのない出来ですが皆さんの時間つぶしにでもなってくれたなら幸いです。それでは、また機会がありましたらお会いしましょう…魔物娘達よ、永遠なれ。

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