行き遅れで呑んだくれ
「うぅ……街に来れば良い出会いがあると思ったのにぃ……」
夕方の酒場、そこそこに賑わってはいるが、酔い潰れるには少し早すぎる時間。ラミアがカウンターに突っ伏してくだを巻いている。
入店時には既に酔いが回っていたから、どこかの店からハシゴしてきてこの有様なのだろう。
机の上に乗せられた、大きな胸。その上に頭を置いて、枕代わり。
むにゅりとたわむ豊乳は確かに眼福なのだが……
「……虜の果実酒と、虜の果実の盛り合わせです」
この酒場で働いている自分にとっては、あまり有難くない手合いだった。
ペースを考えずに呑んでいる。酔い方も見るからに面倒そうなタイプだ。
出会いが無い、と嘆く彼女に注文の品を差し出す。
絡まれないように、と願いながら。
「……ねぇ、なんか言いなさいよ」
じっとりとした視線。自身の胸を枕代わりにしながら、こちらを半ば睨みつけるかのよう。
「……ご、ご注文でしょうか」
「ちがう……なんか言いなさいって言ったでしょう」
酒場で働いていながら、自分はあまりこういった状況の切り返しが上手くない。
こういう時に気の利いた台詞を返せるような奴は、お客さんと良い雰囲気になって、そのまま宿屋の方で熱い夜を過ごすわけで……自分は売れ残りともとれる。
「あー、その……きっと、良い出会いがありますよ……?」
故郷で学を収めたはいいが、世知辛くも食い扶持にありつけず。途方に暮れていたそんな中、良い場所があるとジパング装束の行商人に紹介されたのが、親魔物派であるこの街。
男に飢えた魔物に身体を売る……という選択肢もあるらしいのだが、流石に男娼やヒモ紛いの生活をする気にもなれず。
健全な店を謳うこの酒場のウェイターだかバーテンダーだかに、独身男性である事を理由で一発採用され……
「……なんで疑問系なのよぉ」
そして今、僕はラミアの女性に絡まれている。目の前の女性に色気はあれども、可愛げは皆無。
酔っ払い特有のめんどくささを遺憾なく発揮している。
ぺしんぺしんと、尻尾が不機嫌そうに床を叩く。
「……す、すみません」
こんな早い時間から呑んだくれるのを、絡み酒するのをやめれば、嫁の貰い手も見つかりましょう。
そんな言葉が喉から出かかるのを押さえ込んで、苦笑い。
「……」
据わった眼で僕を見るラミア。その赤く艷やかな唇の間から、二股の舌がちろちろと、せわしなく出入りする。
「れろ……あむ……」
彼女は突っ伏したまま、小振りな虜の果実を摘み、舌で絡め取って。そのまま、口へと運びこむ。
その間も、据わった眼は変わらず。僕を値踏みするように、じろじろと眺めてくる。
非常に、居心地が悪い。
「……ねぇ」
「はい」
ひとしきり僕の事を眺めたあと、彼女は口を開く。
「わたし、魅力的よね?」
「……ええ、まあ、魅力的だと思います」
目の前の彼女が魅力的か否かと言えば……自分の目には魅力的に映る。
文句無しの美人だし、その豊満な胸は、男であれば心を惹かれないわけがない。
テーブルに置くだけでなく、セルフ乳枕、とでも言うべき事が出来てしまう圧巻の大きさは、控えめに言っても眼福という物で。
ただ……幾ら美人でも、絡み酒を良しとするかと言えば、否。そんな内心が滲んで、どうにも歯切れの悪い返事を返してしまう。言ってしまえば、半分はお世辞だ。
「んふふ、あなたは見る目があるようねぇ……
そうよ、魅力的なのよ、わたしは……
虜の果実だってこんなにたくさん食べてるんだから……」
有難い事に、彼女が僕の内心に気づく様子はない。魅力的という言葉を間に受けて、途端に上機嫌。
突っ伏すのをやめて、虜の果実をつまみに、虜の果実酒を呑み始める。
「……左様、ですね」
案の定、虜の果実尽くしの注文は、虜の果実の美容効果を求めていたらしく。しかし、目の前の彼女は先ほどまで、出会いが無いと、くだを巻いていたわけで。
それを踏まえると、男を捕まえるために必死というか、涙ぐましい努力というか。
『行き遅れ』などという失礼極まりない言葉が思い浮かぶ。が、自分自身も生まれてこのかた色恋沙汰はなく、他人の事は言えない。
「ほら見なさいよ、この鱗のツヤ……他の子なんて目じゃないでしょう……?」
「……綺麗、ですね。
ただ、こうしてラミアの尻尾をじっくり見るのは初めてなので……他の方との比較は」
自慢気に差し出されるのは、蛇尾の先端。むっちりとした蛇腹に、照明を反射する艶やかな鱗。手入れの賜物なのかは分からないが、確かに綺麗だ。
単なる大蛇のそれでなく、女を感じさせる艶かしさが、彼女の尻尾にはあるような気がする。
「んふふー……綺麗よね、そうよねぇ……
でも…………良い出会いがないのよぉ……おかしいわ、こんなの……」
褒められて機嫌を持ち直したかと思いきや。唐突に、がっくりと落ち込みだす。
酔いが回っているせいで、どうにも情緒不安定。
おまけに、話が振り出しに戻ってしまっている。
「あー……あちらの彼とかどうですか」
面倒な事になったな、と思いながらも、適当な同僚を見つけて指差す。
自分と同じく、食うに事欠いてこの街にやってきたらしい後輩は、僕より遥かに愛想良く、お客に接している。
良い出会いを求めているのなら、あの辺りなら気に入ってくれるのではないだろうか。
「タイプじゃないぃ……わたしにも好みぐらいあるわよ……それともなによ、男なら誰でもいいと思ってるの?」
「……ごもっともです」
男なら誰でも良い。そんなつもりで言ったわけではないが、酔っ払いとは得てして面倒なもので。
露骨な不機嫌さを隠しもせず、テーブルを尻尾でぺしぺし叩き始めるラミアを前にして、内心途方に暮れる。
「そもそも売約済みよ、売約済みぃ……そういう匂いがしたもの」
「左様……でしたか……」
どうやら、既に後輩には相手がいたらしい。宿に連れ込まれていた記憶はないのだが、休日の間にでも何かあったのだろうか。
言われてみれば、確かに、カウンターを挟んでサキュバスと談笑する姿はそういう風に見えなくもない。
彼女の言葉が本当なのであれば、魔物の嗅覚とは恐ろしいものだ。
ああ、彼が売約済みになったのであれば、後で統計ノートに書き記しておかねば。
一つ前の休日に事があったなら……平均より早くこの店を辞める事になりそうである。
「……いっつもそうよ……いっつも、先を越されて……はぁぁ……」
「それはまた、巡り合わせが悪いというか……」
頬杖をついて、溜息をついて、愚痴を吐く。そんな彼女に迂闊なことを言えば、まさに藪蛇。
当たり障りのない言葉をなんとかして探し出す。
「そうよ……巡り合わせが悪いの……この前、里に教団兵が攻めてきたときも…………
魔法で手厚く支援してたのよ……?そしたらぁ……そしたらぁぁ……」
「ええと、一体何が……」
しかし、当たり障りの無い言葉が、会話の流れを変える事もなく。
彼女の愚痴は、だんだんと速を上げていく。
「私のお眼鏡に叶うような男はぜーんぶ、他の子が先に捕まえていっちゃったのよぉ……わたしもがんばったのにぃ……助けてあげたのにぃ……」
「それは……あんまり、ですね」
気が付けば、目の前の女性は既に、半ば涙目になっていて。その潤んだ瞳が、物憂げを通り越してどんよりとした眼差しが、自分を見据えていた。
そんな彼女を見ていると、不覚にもいたたまれない気持ちになってしまう。
有り体に言えば可哀想で、同情を誘われる。
「あんまりでしょう……?でも、喜んでるし、水は差せないわよぉ……
早い者勝ちなのはしかたないし、わかってて支援したし、あの子達にも悪気はないし……幸せになってほしいとも思ってたし……わかってたけどぉ……お礼にいろいろもらっちゃったけどぉ……
でも……あんまりよぉ……うぅ……わたしだって、ステキなだんなさまがほしいー……らぶらぶしたいー……」
「あー……気を遣って、割を食ってしまったと」
ただの面倒な酔っ払いだと思っていたのだが、どうやら、そういうわけでも無いらしい。
彼女の様子を見ていると……苦労人であるとか、割を食いがちだとか、そんな不憫な女性に思えて仕方が無い。
これだけ酔って悪口の一つも出て来ないのだから、根は良い人なのだろう。プライドはやたらと高そうだが。
「そんなもんじゃあないけどぉ……うん……そうよ……そうよぉ……」
「災難、ですね……でも、損をしがちなぐらいの方が、素敵だと思いますよ」
肯定してるのか否定しているのかイマイチ分からないが、他人のために我慢の出来る人であるならば……そういう女性は、自分としても好ましい。
特に、他の魔物を見てきた身としては、尚更にそう思う。
「すてき……?」
「はい」
遠慮がちで、控え目で、お人好し。割を食い、損をする筆頭のようなタイプ。だからこそ、そういう人が幸せになるべきだと思うのだ。本音だからこそ、淀みなく肯定する事が出来た。
尤も、彼女がそういうタイプの女性かどうかについては、全く言及していないわけである。
真に迫った反応であるが、酒の場の不運自慢など、あまりアテになるものでないだろう。
「んふふー……わたしのみりょくが分かるなんれぇ……みるめがありゅわぁ……」
「はぁ。ありがとうございます」
自身の魅力を肯定されたのが余程嬉しかったのか、褒められ慣れていないのか、酔っているせいなのか、それとも全部か。
彼女は途端に機嫌をよくして、頬に手を当て身悶え。
もはや半ば、ろれつも回ってない状態。だらしなくも、色艶に満ちた姿。偉そうで自信過剰な所も、それなりに愛嬌というものだろうか。
「んゅふふ……ふゅふふ……あなたがその気ならぁ……どうしれもっていうならぁ……
かわいがっれあげるわよぉ……?」
舌をちろちろと出し入れしながらの、熱っぽい視線。腕を組んで寄せ上げられた乳肉は、たぷんとこぼれんばかりに柔らかそう。
カウンターから身を乗り出し、顔を寄せてきて。
気の強そうな顔立ちは、酒のせいで赤らみ、とろんと蕩けていて。文句無しの美人が、目の前に。
吹きかかる吐息は、酒気を帯びながらも、絡みつくように甘い。
「えっ……あぁ……かわい、がって……?」
夜のお誘い。この街に来てそれなりにもなるが、今までは幸か不幸か、魔物の客に誘われるといっても、せいぜいがからかい半分だった。
しかし、目の前の彼女は……本当に自分を宿に連れ込む気があるように見えて。初めての出来事に狼狽えてしまう。
「その、嬉しいのですが、今は……勤務中、なので……」
魔物と言えど、美人に誘われたのだ。気に入ってくれた事は素直に嬉しいし、彼女に性的な魅力を感じているのも確か。
かといって、初対面の女性と関係を持つ事は出来ない。
初めては新婚初夜に、とまでは言わないにせよ……行為には責任が生じるのだから。
後ろ髪を引かれる思いで、なるべく角が立たないよう、適当な言い訳をつけるが……
「んふ……まじめねぇ……じゃあ……おしごとおわるまれ……まってあげりゅ……」
「え、ええ……いや、さすがにそれは……悪い、ですよ」
「わたしがぁ……いいって……いってるのよぉ……」
「自分が気にします」
「きにしなくていぃー……」
「……そう言われましても」
言い訳を重ねども、彼女はぐいぐいと食らいついてくる。
自分のした事と言えば、少し愚痴を聞いて慰めて、褒めてやっただけ。
たったそれだけで彼女は、自分なんかを相手にその気になってしまっている。
言い方は悪いが、酒が入っている事を考えても、あまりにもちょろい。
余程、出会いに飢えていたのだろう。不憫で仕方がない。もっと良い男がいるだろうに。
「ぁぁぁ、もぅ……このわたしがぁ、かわいがっれあげるんらからぁ……えんりょするなぁ……」
自分を見つめる据わった眼差しは、飢えた蛇の眼差し。
行き遅れの必死さが滲み出ていて、不憫な事この上なく……同時に恐ろしい。
一度捕まえたら離さない。そんな執念深さを感じ、戦慄に背が震える。
「……」
マスター夫妻に目線で助けを求めるが……手を出してしまえと言わんばかりに、にやにやとした笑みが返ってくるだけ。助け舟は期待出来ない。
ああ、何とかこの場を凌がなければ。それが自分のためでもあるし、おそらくは彼女のためでもあるのだから。
「……ふぅ」
結局、其の場凌ぎのやり取りを繰り返しながら酒を勧める事で、彼女は完全に酔い潰れてくれた。
ばったりと眠った彼女は全く起きる気配を見せず。結局、マスターが宿に運び込んで寝かせてくれた。ラミアの身体も軽々と運べるのだから、魔法というものが羨ましい。
「はぁ……」
自室のベッドに倒れこめば、名前も知らない彼女の姿が、やたらと脳裏にちらつく。
彼女の誘いを拒んだ、自身の選択は正しかった。そこに疑いの余地はない。
しかし、そうだとしても、勿体無い事をしてしまった。
豊満な身体つきに、長くぬらついた舌、艶やかな唇……呂律の回らない声も、やけに色っぽく。赤みを帯び、しっとりと上気した肌も堪らなかった。
あの極上の肢体を味わえたであろう事を、女体という物を知れたであろう事を考えると……後悔の念さえ浮かんでしまって。
眠れないまま、夜は更けていく。
「あ……いらっしゃいませ」
夜の更けた頃合い、扉の開く音。その方向に目をやれば、そこには昨日のラミアの姿。
彼女の姿に、昨日の事を思い出す。
酔った彼女に絡まれ、ご機嫌を取っていたら、何故か気に入られて。そして、そのまま宿屋へと連れ込まれそうになり……拒んでしまった、逃げてしまった。
もし、彼女が昨日の事を覚えていたなら……恥ずかしく、気まずく、その上で期待してしまう。
今日もまた、自分の事を誘ってくれないかと。
「……あら」
つい、彼女と目が合う。
理知的な顔立ち、眼差し。いわゆる、知的な美女といった印象で。
酔っている時とは、ずいぶんと違って見える。
「チャーム・ホワイトを頂戴」
彼女は当然のように、自分の目の前の席につく。やはり、昨日の事を覚えているのだろうか。
チャーム・ホワイト。
陶酔の果実による白ワインに、乳白色の虜の果汁、そしてヨーグルト。
なめらかな口当たり、程良い甘さが飲みやすく、こちらの国では人気なカクテルだ。
味だけでなく、魔界の植物による効果も人気の理由である。
陶酔の果実は、その名の通り心地の良い陶酔をもたらす。意中の相手の事だけを考えられるようになるのだとか。
「承りました」
シェイカーを手に取り、カクテルの材料を計り注いでいく。
「ふふ……どうしたの?」
「い、いえ……何も」
ふと、彼女の方を見ると……また、目が合う。
妖しい微笑み、背筋をくすぐる声艶。
酔い潰れた無防備さとは違った色香に、ぞくりとしてしまう。
「んふふ……今日はなかなかカワイイじゃない、貴方。
飲み過ぎちゃってあまり覚えていないけど……昨日はあんなに無愛想だったのに」
「そ、そう、でしょうか」
今日の彼女は、最初から上機嫌。
そして、昨日の事はあまり覚えていないらしい。少なくとも、彼女のご機嫌取りをした辺りについてはすっかりと抜け落ちてしまっている様子。その後の事についても、だろう。
であれば、自分が気に入られるような理由はないはずなのだが……彼女は微笑み、こちらを見つめてくる。話しかけてくる。
覚えていないからといって、なかった事になったわけではないかのように。
そんな彼女の振る舞いが、どうにも不思議でならない。
「ええ、昨日と全然違って見えるわ。まだお酒も入ってないのに」
「……左様、ですか」
割った氷の角を落とし、シェイカーに手早く詰め込んで、蓋を閉める。
彼女の視線は、自分の手元に。カクテル作りの様子をまじまじと見られている。
それ自体は、特に珍しい事でも無いのだが……今回に限っては、彼女に値踏みされているようで、緊張してしまう。
「……」
振り始めはゆっくり、徐々に速度を上げて、速く、短く一定のリズムを刻む。
手首の返しを利かせて、斜め上、斜め下。中身が8の字を描き、よく混ざり合うように。
金属製の容器から伝わる冷たさ。指先で、カクテルが冷えていくのを感じ取る。
「どうぞ」
冷えた頃合いを見計らい、乳白色のカクテルをグラスに注ぐ。そして、彼女へと差し出す。
この乳白色の色彩も、魔物に対する人気の理由……というのはマスターからの受け売りだ。
確かに、白濁した液体を口にしている女性というのは、少し卑猥である。魔物の価値観には、未だに馴染めないが。
「ん……美味しいわ。手馴れてるのね、貴方」
グラスに口をつけ、満足気な微笑み。細長い舌が唇を舐め取る、その光景が艶かしい。
「他が不慣れなだけであって……手慣れているわけでも。入れ替わりが激しい中で、少しばかり長く勤めているだけですよ」
自分の先輩や同期は概ね、婿に貰われる形で店を辞めていった。
独身男性が貴重というこの国の現状や、魔物の好色さには驚くばかりだが、それはさておき。
気が付けば自分は、この店で働く独身男性の中で一番長く勤めている男となった。
それが、他に比べてカクテル作りが手馴れている理由だ。
尤も、一年も勤めていない以上、新米と言えば新米なのだが。
「ふふ……そうなのね」
嬉しそうな、親しみのような物を浮かべた笑顔。同情されている、そんな風に感じない事もない。
「ええ。有り体に言えば売れ残りという奴です」
失礼な事この上ない言い方ではあるが……仲間が居て嬉しいという事なのだろう。
出会いに恵まれないという一点では、確かに自分達は似通っている。
尤も、自分は彼女ほど必死ではないし、現状にも納得しているわけだが。
「む……売れ残りだなんて。自分を卑下するのはダメよ」
「とは言われましても……客観的事実ですので」
「客観的事実って……根拠はあるの?」
自分の言葉を聞いて、彼女は眉をひそめる。
とは言え、自分が売れ残りだというのは紛れも無い事実なのだ。
「……勿論。
男性従業員が就任してから、客に引き取られて退職するまでの日数……これについて統計を取っています。その平均日数は」
学者になる事こそ叶わなかったが、確かに学を修めた身。根拠も無しに自身を売れ残りと称しはしない。
元は興味本位で始めた事であったが、この統計は自分の男性的魅力に対する知見を与えてくれた。
自身の男性的魅力が他と同等であるという仮定は棄却される。そして自分は、それを否定しない。
せめて、己の積み上げてきた物に対しては真摯でありたい。
「ストップ」
「は……はい」
不機嫌そうな声に、ふと我に帰る。気が付けば、彼女は険しい表情を浮かべていた。
ああ、やってしまった。
世の中の大多数の人間……特に女性にとって、この手の話は非常に退屈な物であるのを、つい忘れてしまった。
「……ダメよ、そういうの。哀しくならないの?」
「納得はしていますが……まあ、少しは」
「なら、ダメ。わかった?」
彼女の反応は、自分が想像していた物とは少し違った。
自分の話が退屈であると一蹴するわけでなく、諭すようにこちらを見つめてくる。
「は、はい」
「ふふ……よろしい」
戸惑いながらも頷けば、目の前の彼女は柔らかに笑って。
昨日、呑んだくれていたのと同一人物とは思えない程に、優しい微笑み。
「それに、貴方。……私好みなのだけれど。
私の好みに文句をつけるのも、ダメ、よねぇ?」
「っ……は、はい……ありがとう、ございます……」
にぃ、と口角を吊り上げ、彼女は妖しく笑う。
自然な所作で伸ばされる手。しなやかな指に、頬を撫でられる。
甘く、思わせぶりな言葉。心臓を握られたかのように、ドキドキしてしまう。
「ふふ……私はエモニカ。貴方は?」
「ま、マイザー……です……」
そしてようやく、自分達は名前を教え合う。名前を教え合う、それ自体は特別な事でも無い。
「うふふ、可愛い響き……今日はたっぷりお喋りしてあげるわ、マイザー……」
「お手、柔らかに、お願いします……エモニカ、さん」
視線を交わしながら、確かめるように、艶やかに、名前を呼ばれる。
それは、今まで味わった事の無い、ぞくぞくするような心地良さと高揚をもたらしてくれて。
気づけば自分も、彼女の名前を呼び返していた。
「……と、まあ、食うに事欠いた所を拾われる形で、この店で働く事となり……今現在に至るわけです」
自分は、彼女の言葉通り、殆ど付きっ切りで会話を交わしていた。
昨日とは打って変わって、彼女からは愚痴もなく。延々とお喋りに付き合わされるのかと思っていたが、彼女は自分に質問を投げかけてきて。
その結果として自分は、酒の肴には向きそうもない己の人生について語る事となった。脚色も無く、事実を述べるだけ。
しかし、目の前の彼女は、興味深そうに聞き入り、時折グラスを傾けながらも続きと仔細を催促してきた。
結局、生まれや育ち、交友関係や学に関するまで、自分に関する情報を概ね吐き出し切ってしまった。
平凡な生まれ育ちで、書物が友人。魔法使いに憧れるが、才能には恵まれず。
魔法が駄目ならと、家を出て学を修め、学者を志すも、最終的には食うに事欠く。要約すればその程度の、つまらない話のはずなのだが。
「ふふふ、なるほど……つまり童貞なのね、んふふ……」
そして、話を聞き終えた彼女は、どうにも上機嫌。
童貞である事を笑っているようにも見えるが、その声にからかいや軽蔑の色はなく。ただただ、上機嫌。
きっと、酔いが回ってきているのだろうか。
「まぁ……話した通り……女っ気の無い人生でした、ので。機会に預かれなければ当然、そうなります」
童貞である事は、今更恥じる事でもないのだが……彼女の口からそれを言われれば、それはそれで複雑な気持ちだ。
男として若干の情けなさを感じる反面、彼女のもたらす熱っぽい響きに、ぞくりと来てしまう。
「んふふ……でも、この街に来てからは、幾らでも機会はあったんじゃないかしら……?
イケナイお店で働くとか……ヒモになるとか……」
「それは……まぁ、プライドの問題であるだとか……男であるからには責任を取らなければならないとか……」
「うふふ、そういうの好きよ?マイザー……」
何かが琴線に触れたのか、眼を細めて、ぺろりと舌舐めずり。
唾液に濡れた唇が灯りを反射し、つやつやと煌めく。
満足気に吊り上がった口角に、鋭い眼光。その視線は、まるで絡みつくかのよう。
「あ、ありがとう……ございます」
先にも増して、ぞくりとした感触が背筋を通り抜ける。悪寒めいているのに、気持ち良い。
捕食者めいた彼女の微笑みはとても綺麗で、見惚れてしまった。
エモニカとの談笑の最中、ふと壁の時計を見やる。
気が付いた時には既に、勤務時間の終わりを過ぎていて。
「あ……時間、ですね」
「ふふ……お仕事お疲れさま」
いつもは時間きっかりに上がる自分が、時間を忘れて話し込んでいた。その事実に、少しだけ驚く。
しかし、今日はこのまま部屋に戻ってしまうのも、名残惜しい。
「ん……んく……ふぅ……」
そんな事を考えていると、エモニカは、おもむろにグラスの中身を飲み干して。
空になったグラスをことりと置いて、席を立つ。
そして彼女はカウンターから身を乗り出してきて……
「ねぇ、マイザー……」
「は、はい……」
ねっとりと絡みつくような、甘い囁き。火照った吐息が、耳をくすぐる。
とろけてしまいそうな程に甘美で、熱を帯びた響きが、頭の中を反響していく。
目眩のような恍惚感。名前を呼ばれただけなのに、くらくらして気持ち良い。
「アナタのお酒で酔ってしまったわ……
だから……家まで送っていきなさい……?」
「ぁ……ぜひ……エモニカさん……」
続けざまに囁かれる誘いは、堪らなく魅力的。彼女と、もっと一緒に居られる。それを断る理由は考えもつかず、こくりと頷く。
「んふふ……よろしい。片付けが終わるまで待っててあげる……」
「っ……ぁ……い、いますぐ片づけます……」
含み笑いの妖しい音色だけでなく、舌舐めずりの水音までもが、反響して、繰り返されて。背筋がぞくぞくして、気持ちよくて……今にも食べられてしまいそう。今すぐ食べられてしまいたい。
そんな衝動に駆られ、熱に浮かされながらも、手を動かすのだった。
「………」
月灯りに照らされながらの夜道。肌寒い風が、思考を蝕む熱を冷ましていって。
そうして冷静になって初めて、自身の置かれている状況を本当に理解した。
いや、自分がどんな状況にあるのか、この先どうなってしまうのか、それは分かっていたのだが……すっかりと彼女の声に魅入られてしまっていた。
「んふふ……」
背中に押し当てられる柔らかな感触。上機嫌な含み笑い。回された細腕は、しっかりと自分の身体を捕まえていて。
その手は、鼓動を確かめるかのように胸元に添えられている。
夜道でエモニカと、魔物の女性と二人きり。その上、背後からしっかりと抱きすくめられて、捕まえられてしまっている。
そして何より……自分は、彼女を家に送って行くと約束してしまった。
送っていくとは名ばかりで……自分が彼女に持ち帰られてしまっている、といっても過言ではないのだろう。
「っ……」
彼女はこのまま、自分を家に連れ込むつもりに違いない。そしてその後、どうなるかは想像に難くない。
捕食者めいた彼女の笑みを、妖艶な舌なめずりを思い出せば、それぐらいは分かる。
しかし、押し当てられる柔らかさ、心地良い温もりが、熱烈な抱擁が、否が応にも期待を膨らませる。思わず、生唾を飲んでしまう。
酔った勢いで一夜を共にするなどあってはいけないのに、期待してしまう。
期待に勃ってしまったモノは、邪魔にならないようにそれとなく、ポジションを調整しておく。股間にテントを張っているのを見られでもしたら……もう、どうすればいいかわからない。
「え、エモニカさん……くっつきすぎ、では……」
「はぁ……ん……だって、夜風が寒いんだもの……うふふ」
「あ、あまり、くっつかれると……」
「気持ち良い、わよねぇ……ドキドキしちゃうわよねぇ……?興奮、しちゃうわよねぇ……?
んふふ……ほんとは喜んでるくせに、照れちゃって……」
案の定、彼女は抱きついたまま離れるつもりはなく。かといって、無理やり振り払う気には到底なれない。
魔性の声にそそのかされた結果とは言え、彼女を家まで送って行くと約束してしまったのは、他ならぬ自分なのだから。
それに、彼女の抱擁は気持ちよく、離れるのは名残惜しい。
このまま進めば、いけない事になってしまうと分かっていても……彼女の感触を、好意を喜んでしまう。
「ぅ…………」
図星を突かれてしまうと、言い返せない。魔の囁きがなくとも、手玉に取られてしまう。
女性の扱い方、あしらい方など全く心得ていないのだから、どうしようもない。
彼女の柔らかさを、漂う色香を意識してしまうだけで、途端に考えが回らなくなってしまう。取り戻したはずの理性が、じわじわと蝕まれていく。
「うふふ、カワイイ……はぁん……ますます気に入っちゃったわぁ……」
熱っぽい吐息と共に、抱擁がより一層強まる。まるで、逃がさないと言わんばかり。
滲み出る執念深さに、理性は警鐘を鳴らす。けれども、むにゅむにゅと擦り付けられる魅惑の感触が、それ以上に気持ち良い。
押し付けられるだけでもどうにかなってしまいそうなのに、身体ごとその豊乳を擦り付けてくるのだから、堪らない。
「ん……はぁ……ふふふ、真っ赤なお耳……とっても美味しそう……
ねぇ、急ぎましょう……?身体が冷めちゃう前に……ね?」
彼女もまた、熱に浮かされたように、うっとりとした声色。荒く、艶めかしく息をついて。
彼女の期待が、興奮が、欲望の丈が、ありありと伝わってくる。有無を言わせない程に、呑み込まれてしまいそうな程に深い。
「っ……はい……」
自分は人間で、彼女は魔物。彼女がその気になってしまえば、自分に抗う術は無いのだと、今更になって気づく。
あの甘美な魔声の誘惑には、到底抗える気がしない。蛇体に絡みつかれでもすれば、絶対に逃げられないだろう。
そして彼女は、完全にその気になってしまっている。逃げるような素振りを見せたならば、その場でどうにかされてしまいそう。
本気で彼女を拒めば、見逃してくれるかも知れない。そんな考えが頭に過ぎるが、彼女に惹かれているのは紛れも無い事実だからどうしようもない。
そうでなくとも、まがりなりにも好意を持ってくれている相手に、そんな真似が出来るわけがなく。
つまる所……自分は、彼女に食べられるのを待つだけの、哀れな獲物なのだと悟って。
諦観と理不尽さ、そして何より期待を抱いて、歩調を速めるのだった。
「うふふ……送ってくれてありがと、マイザー……」
「い、いえ……それほどでも……」
変哲のない一軒家。此処が、エモニカの巣。彼女の思惑通りに、獲物である自分はこの場所まで連れてこられてしまった。
玄関の前まで押されるようにして進むと、蛇体が脚に絡みついてきて。そうして、獲物を逃げられないようにしてから……彼女は、家の鍵を開ける。
「さ、あがっていきなさいな……折角送ってくれたんだもの……」
「ええと……夜も遅い、ので……」
「だーめ、遠慮はナシよ……明日は空いてるって言ってたじゃない……」
扉を開けた彼女は案の定、家の中へ入るように促してくる。抱きついてきて、絡みついてきて、逃げる事を許さないまま。
おまけに、酒場の席で言質まで取られてしまっていて、彼女の誘いを断る言い訳すら出来ない。酔っているにも関わらず、計画的なやり口。
「では、少し……だけ……」
「んふふ……よろしい……」
そうして結局、半ば引きずり込まれるようにして、彼女の家へと、住処へと踏み入る羽目になってしまう。
後ろ手に、錠前を閉める音。逃げ道は当然のように塞がれていた。
彼女の家の中を見渡せば、一人で暮らすには広く、閑散としていて。
小綺麗に整頓されている事もまた、静寂感を増す原因となっていた。
「……ふふ、座りなさいな……?」
一直線に案内されたのは、彼女の寝室。甘い香りの満ちた部屋。
そこにあるのは、ラミア用と思わしき大きなベッドと、横付けされた小さなテーブル。
椅子は置いてなく、必然的に座る場所は……彼女のベッドだけ。
「……は、はい」
女性の家にあがり、それだけでなく寝室にまで入り、そして今、ベッドに腰掛けようとしている。こんな事は生まれて初めてで、緊張でどうにかなってしまいそう。
そして……いつ彼女に押し倒されてしまうのか、期待してしまっている。
いつでも、そう、彼女がその気になればいつでも、ベッドに押し倒されてしまう。そんな、危険な立ち位置。心臓が早鐘を打つ。
「んふふ……緊張してるのね……」
「……はい……っ」
ベッドに並んで腰掛けた彼女は、当然のように自分を抱き寄せてくる。
風のない室内、密着する身体。彼女の火照りが、体温が、冷める事なく伝わってくる。
立ち込める濃密な色香、エモニカの匂いにくらくらして、それだけで頭がとろけてしまいそう。
勃ちっぱなしのまま押し込められていた自分のモノに、さらなる熱が集まっていく。
「―――……ふふ、お腹、空いてるでしょう?」
彼女が何か呪文のようなモノを呟くと、バスケットが宙を浮きながら運ばれてきて、目の前のテーブルに着地する。
「あ……ありがとうございます……」
目の前のバスケットに盛られているのは、虜の果実をはじめとした魔界の果物。自分の知らない種類も幾らか見受けられる。
目を惹かれるのは果物だけではなく……息をするように魔法を使う、彼女のその姿に、憧れを抱いてしまっていた。
「はい、あーん……」
そして彼女は間髪入れずに、虜の果実を口元に運んで、食べさせようとしてくる。
カクテルを作る時に果汁の味見ぐらいはした事があるものの、魔界作物を避けて生活してきた自分は、未だに虜の果実を食べた事がない。
虜の果実の基本は美容効果で、媚薬めいた作用があるものでは無いと教わったが……得体が知れないと、結局食べずじまいだった。
「…………あーん……ん……美味しい、ですね」
酔った勢いなのか、まるで恋人のような所業。嬉しさ、恥ずかしさに躊躇いながらも、口元まで運ばれたモノを拒むわけにもいかず、果実を頬張る。
張り詰めた皮に歯を立てれば、ぷるぷるとした果肉と、とろりとした果汁が弾け出て、濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
こんなにも甘い果物は初めて。だというのに、くどさ、しつこさは感じない。口の中がとろけて、すぐに次が欲しくなってしまう。虜の名に違わぬ、魔性の美味しさ。
魔界の産物を食わず嫌いしていた事を、後悔する程。
「んふふ……たっぷり食べなさい……ほら、あーん……」
「あーん……」
「はい、もう一個あげる……」
そして彼女は、自分が果実を飲み込むとすぐさま、つぎの虜の果実を食べさせようとしてきて。
次から次へと、口に放り込まれる虜の果実。餌を貰う雛鳥になったような、むず痒くも甘やかされた心地良さ。
いくら食べても飽きが来ないせいで、中々抜け出せない。
「んふふ……じゃあ、次はこれね……一個しかないから、はんぶんこしましょう?」
彼女が手に取ったのは、青く艶やかな、涙滴型の果実。
あの店では取り扱っていない代物だ。一個だけしか無かった事を考えると、珍しい種類なのだろうか。
食べやすいよう、ナイフで半分に切り分けられたその断面には、真っ白な果肉と黒い種。
滴る果汁、ぷにぷにとした果肉、見るからに美味しそうだが……問題は、その効能。やはり、得体が知れない。
「ええと……」
「はい、あーん……種も甘くて美味しいから、ちゃーんと丸ごと食べるのよ……?」
「あ……あーん………」
その効能を訊く暇も無く、口元に運ばれてくる果実。彼女の甘い囁きは、たとえ魔力が篭っていなくとも、抗い難く。
にんまりとした笑みが、期待に満ちた視線が、有無を言わせない。
結局、促されるがままに、果実を食べてしまう。
果汁の滴るぷにぷにの果肉は、ほのかに甘く。弾力に満ちたその食感が、舌に、歯に、咥内に心地良い。
虜の果実の後に食べたおかげか、そのほのかな甘さが引き立って。
「あ……これも……おいしい……チョコレートみたいで……」
果肉に包まれた種が、舌に触れたと思いきや。とろりと溶けて、チョコレートのような、濃密で上品な甘さと香り、微かな苦味が、舌の上で広がっていく。
ほのかに甘い果肉と、濃厚でとろける種。お互いがお互いのアクセントになり、引き立てあう。
豊かで複雑な、単調ではない味わいは、虜の果実に負けず劣らず、舌を悦ばせてくれる。
中々に好みの味で、自然と?が緩んでしまう。
「あらあら、いいカオ……そんなに気に入ってくれるなら、もっと用意しておけばよかったわ……んふふ」
嬉しそうで、母性さえも感じさせる、満面の笑み。魔界の果実を振舞ってくれた事に、裏はあるのだろうけど……もてなそうとしてくれているのも、また確かなのだろう。
「その代わりじゃないけども……次は、これにしましょうか?
美味しい食べ方、教えてあげちゃうわぁ……おねーさんのとっておき……」
抱き寄せていたのとは反対に、彼女はゆっくりとしな垂れかかってきて。
妖艶な囁きとともに彼女が手に取ったのは、小ぶりの青い果実と、大ぶりな赤い果実。その形は両方ともまん丸で、何処と無く、対のように見えなくもない。同じ果物の品種違いだろうか。
「んふふ……あーん……」
その柔らかい胸を擦り付けながら、彼女は正面に回り込んでくる。
抱きつく代わりに、ぐいぐいと身体を寄せ、体重を預けてきて。吐息が吹きかかるほどの距離で、密着。
視界の大半を埋めるのは、蠱惑的な微笑み。
そんな空間に、彼女の指が滑り込んできて……青い果実が口元に運ばれ、唇に押し付けられる。
「ぁ…………ぁーん…………酸っぱ……っ」
見惚れながらも青い果実を口にすると、今まで食べた果実とは裏腹に、強い酸味。唾液を絞り出された口内は疼き、思わず目には涙が滲む。
「青い方は酸っぱくて、赤い方は甘いの……だから……」
微笑ましそうな目を向け、彼女はそう言うと、赤い果実をこれ見よがしに摘まんで。
「あーん……」
「ぁー……」
またもや、しなやかな指が、果実を運んできて。彼女の甘い声とともに、口元に寄せられる。
同じようにしなさいと教えるように、甘やかすように、上品に、しかし大きく口を開く彼女の姿。
恥ずかしさ以上の心地良さに心を委ね、酸味を中和するために、赤く甘い果実をねだる。大きく口を開けて、食べさせてもらおうとする。
彼女に乗せられ、甘えん坊気分。すっかりと、甘える気持ち良さを覚えてしまった。
「あーんっ……」
「ぇ……?」
しかし彼女は、その果実を彼女自身の口に運び、その長い舌で絡め取り、ぱくりと食べてしまって。
予想外の行動に、疑問符が口をつく。きょとん、としてしまう。
「んふふ……」
彼女の指が、自分の頬に添えられる、顔を挟み込まれる。しっかりと絡みつくように。
そして彼女は、果実を頬張りながら、舌舐めずり。
「っ……?」
何故、果実を食べさせてくれなかったのか。何故、こうして頬を触られているのか。彼女の舌舐めずりの意味は。
予想と期待を外され、頭の中は疑問符だらけ。疑問だけが先走って、考えが回らない。動けない。
「あむっ……ちゅうっ……んっ……」
「――!?」
不意に唇を覆う、艶かしい感触。エモニカの顔は、これ以上なく目の前に。
彼女に唇を奪われてしまったのだと、一呼吸おいてようやく気づく。
そして、気付いた時には既に、隙間無く口を塞がれていて。
驚きの声は声にならず、彼女の唇に押し込められてしまう。
逃げようにも、頬に添えられた彼女の手が、しっかりと捕まえて離してくれない。
「んふ……んっ……れろ……」
にゅるりと侵入してくる、艶かしいモノ。彼女の舌は細長く、恐ろしく器用で。その動きは、まさに蛇のよう。
瞬く間に自分の舌は、彼女の舌に這い寄られて、絡みつかれて、捕まえられてしまう。
絡みついてくる彼女の蛇舌は、まろやかで濃密な甘みを纏っていて。
「ん……ふふ……」
ぐい、と押しかけられる、彼女の重み。背中を抱く、蛇体の感触。優しく、しかし強引に、ベッドへと押し倒されてしまう。
彼女が上で、自分が下。温もりが、柔らかさが、その胸の感触が、余すこと無く押し付けられて。女体の重みが気持ち良い。
「んぅ…………」
舌を伝って流れ込んでくるのは、さっき感じた濃密な甘さ。それは、彼女の口でどろどろになった、赤の果実。
甘く熱烈な、口移しのキス。甘美な給餌は、丁寧に、ねっとりと、一滴もこぼさないように。
酸味に支配されていた味覚が、とろけるような甘みに塗り潰されていく。
「あむっ……ちゅうっ……」
口移しが終われば、唇は、ぷるぷるでふわふわな魅惑の柔らかさに食まれて、吸われて、愛でられて。
強引ながらも、甘くとろける蹂躙。拒むことも抗うことも出来ず、されるがまま。
「れろ、れるっ、んっ……」
二種類の果実に満たされた口内で、絡みつき弄んでくる蛇舌。執拗でねっとりとした舌遣い。
舌の先から根元まで、絶え間なく絡みつかれて、にゅるにゅる、ぐちゅぐちゅと擦り合わされて。
果実に浸された中で味わう彼女の舌は、甘かったり、酸っぱかったり。
「れろぉ……ちゅうっ……」
舌を貪られる最中、赤と青の果実は混ざり合っていって。
二つの味が一緒になっていくにつれて、甘さと酸味のバランスが取れていく。
しつこさを感じていた甘さは、いつもの間にか、まろやかでとろけるかのよう。
舌をちくりと刺すような酸っぱさも、爽やかな酸味となっていた。
「んっ……んふ……れろっ……ちゅっ、あむっ、れろ、るっ、ちゅるっ」
二つの果実が混ざり合ったその味わいは、酸味と甘味が調和していて。それはまさに、果物らしさに溢れた、極上の甘酸っぱさ。
その甘酸っぱさの中で、キスはまだまだ終わらないどころか、激しさを増していく。
彼女の舌によって味覚へと擦り込まれていくその味わいは、ただ口にするよりも深く、鮮烈。
彼女の言葉通り、きっと、ただ食べるよりも遥かに美味しく、気持ち良い。
そして彼女に、果実まみれの舌を味わわれている、貪られてしまっている。
舌の芯までもがじくじくと疼いて、痺れて、堪え難い悦楽。貪られる悦び。たまらず、彼女に抱きついてしまう。
「んう……んん……れろっ……んふふ……」
そして彼女は、果実だけでは飽き足らず、その唾液をも送り込んできて。
ほんのりと甘く、欲望を掻き立て、本能に訴えかけるような味。甘酸っぱさに、蕩けきってしまうような心地が加えられていく。
その量は、溺れて、溢れて、零れてしまいそうな程。
彼女の欲望をたっぷりと注がれて、舌で混ぜ合わされて、どろどろだった果実は、とろとろに。
「っ……ぅ……ん、く……んっ……」
二つの果実と彼女の唾液のカクテルが、口の中を満たし、舌を犯す。
陶酔感のまま、恍惚感のまま、彼女の舌を、唇を受け入れて、キスの悦楽と、至福の味わいに浸り尽くす。
唾液をたっぷりと注ぎ込まれるにつれて、ついに、魅惑のカクテルは、口からこぼれそうになって。
そこで初めて、咄嗟に、魅惑のカクテルを喉に送り込み、飲み下そうとする。
エモニカのカクテルは、喉をするりと通り抜けていくその感触さえも心地良く。一度飲み始めたら、次へ次へと欲しくなって、飲み干してしまいそう。
「じゅるっ、ちゅうっ、んっ、じゅるるっ……」
それをきっかけに、独り占めはいけないとばかりに、彼女はカクテルを吸い上げてきて。
作り上げたカクテルを、二人で一緒に飲み干していく。
「ちゅぅぅぅっ……ぷはぁ…………はぁん……とーっても、おいしかったわぁ……」
「っ……ふぁ……はぁっ、はぁ……はぁ……ぁぁ……」
甘いカクテルを飲み干して、最後に一つ、熱烈な吸い付き。そうしてようやく、唇と唇が離れ、舌が解放される。
あまりにも長く、甘美で、気持ちの良いキス。息も絶え絶えに、余韻に浸る。
彼女もまた、恍惚とした表情でこちらを見下ろしてきて。
「ねぇ、マイザー……とーっても良かったでしょう?」
「ぁ……ふぁぃ……よかった……れす……」
まだまだ余裕たっぷりな彼女の、甘い囁き。促されるがままに、正直に応える。こんなに美味しく、気持ち良い食べ方があっただなんて。
蹂躙され尽くした舌は、痺れきって、蕩けきってしまっていて、呂律が回らない。
「あぁん、もう、とろとろになっちゃって……
とっておきのファーストキス……あげちゃった甲斐があったわぁ……」
「ぇ……ぁ……」
「ぁん……責任感じちゃったかしら……?それとも嬉しい……?
んふふ、両方よねぇ……?」
「っ……ふぁぃ……」
これが彼女の、初めてのキス。彼女の唇の純潔を、貰ってしまった。
彼女のように魅力的な女性にそうまでされて、嬉しくないわけがない。その反面、重大な責任も感じてしまう。
そんな内心は、彼女にすっかりと見透かされてしまっていた。
「あぁ……ワタシからキスしたのに、責任感じちゃうなんて……
そういう所、とっても素敵よ、マイザー……」
「ぁ……」
彼女はシャツの中に手を差し込み、上半身をねっとりとまさぐってきて。尻尾とその両手を巧みに使い、彼女はシャツを脱がせようとしてくる。
その先に待ち受けているであろう行為。それがとても重大な責任を伴う事なのは、蕩けた頭でも分かっている。
拒まなければいけない。僅かに残った理性が、そう告げている。
けれども、彼女の味を知ってしまった。期待と欲望は、はち切れんばかりに膨れ上がっていて。
「ファーストキスの責任は……カラダで取って貰おうかしら……?
ほら、力を抜いて……?脱がせてあげる……」
「ぁっ……ぁ……」
「んふふ、良い子……あぁ……ステキなカラダよ、マイザー……」
そんな自分が、甘い誘いを拒めるはずはなかった。
ファーストキスの責任を取る。そんな甘美な言い訳を与えられてしまっては、もはや完全降伏。
彼女の囁きに身を任せ、誘われるがまま、されるがまま。あっという間に、上半身を裸に剥かれてしまう。
貧相なはずの身体を見て尚、彼女は、うっとりと舌舐めずり。
「すぅ……はぁぁぁ……んぅぅ……たまらないわぁ……
とってもいやらしい、オトコの匂い……おいしそうで、よだれが出ちゃう……
虜の果実のおかげかしら……とっても濃厚……」
「ぃ、いやらしいって……ぁぁっ……」
そして、薄い胸板に頭を預けてきた彼女は、深呼吸。息を荒げて身悶えしながら、ねっとりと愛撫してくる。
浮いたあばらを執拗に指でなぞりながら、胸板に頬擦り。彼女の頬は、吸い付くようなのに、絹よりも滑らかな肌触り。
尻尾の先端は、すべすべとした感触で鎖骨のくぼみを撫で回してくる。
さらさらと流れる美しい髪が肌を擽るその感触もまた、堪らない。
「んふふ……ちゅっ……れろぉ……ズボンも脱がせてあげる……
こんなに立派にテントを張ってぇ……苦しかったわよねぇ……
あむっ、はむっ……はぁん……びくびくしてるわ……今、お外に出してあげる……」
「ぁっ……うぁ……」
頬擦りをやめたと思いきや、胸板に降り注ぐキス。這い回る舌。
キスで高めた興奮は、性感は、期待は冷めることなく、どんどんと募っていく。
そして、彼女の両手はズボンへと伸ばされていて。ベルトを外され、彼女の指はズボンの中に、下着の中に。
柔らかくて温かい指先が、はち切れんばかりになったモノを捕まえて、包み込んできて。
そのまま勢いよく、ズボンと下着がずり下げられて、靴までも一緒に、一息に剥ぎ取られてしまって。ついに、丸裸。
「あぁっ……見れば見るほどステキよ、マイザー……隅から隅までまでしゃぶり尽くしてあげたいわぁ……」
裸に剥いた自分を見下ろし、彼女はうっとりと息を吐く。身体の隅から隅まで、舐め回すようにねっとりとした視線。
その眼は欲望にぎらついて、その言葉は真剣味を帯びている。本当に全身をしゃぶり尽くされてしまうのではないか、そう思ってしまう程。
「はぁぁ……なんていやらしいのかしらぁ……マイザーの、おちんちん……
こんなに立派にそそり立ってぇ……先っぽからおつゆがたっぷり溢れてて……びくびく脈打って……とーっても、物欲しそう……
はぁ……あぁ……ワタシを誘ってるのよねぇ……?食べて欲しいのよねぇ……?」
彼女の視線が止まったのは、ガチガチに硬くなってしまった自分のモノ。
酒場で彼女の相手をしていた時には既に、彼女の思わせぶりな言動に、妖しい仕草に反応してしまっていて。そこから今の今まで、彼女に抱きつかれ、キスをされ、愛撫され、昂りを鎮める暇などは全くなく。
期待と興奮を溜めに溜め込んで、もはや、自分のモノとは思えないほどに硬く、大きく膨れ上がってしまっている。
あのキスで、愛撫で暴発しなかったのが不思議な程。もはや、限界寸前。
そんな自分のモノを、彼女はじっくりねっとりと視姦してきて。そうしながら、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「すぅぅぅぅぅ………………はぁぁぁんっ…………
たまんないわぁ……くらくらしちゃう、病みつきになっちゃう……
これがオトコの、アナタの匂い……こんなに、そそられちゃうだなんてっ……」
そして彼女は、肉棒に鼻先が触れそうな間近で、胸いっぱいに息を吸い込んで。数拍おいてから、ぶるりと身震いしつつ、恍惚の吐息を吐き出す。
「っ……」
自分のモノの匂いを嗅がれてしまっている。そして彼女が、その匂いで恍惚としている。
羞恥と背徳が入り混じり、声も出せない高揚感。
「はぁっ……もうだめ、我慢できないっ……いま、食べてあげるわぁ……んふふ、うふふ……いただきまぁす……れるっ……」
「た、たべ……?ぁっ……ぅぁ……」
脚に絡みつく蛇の尻尾、大股開きの格好で脚を固定されてしまう。同時に、彼女の腕が、腰をがっしりと抱き込んできて。
彼女の唇から、しゅるしゅると長い舌が這い出てくる。唾液にぬらつき、妖しく光を反射して、その先端は二股。
蛇舌が、玉袋をねっとりと舐め上げてくる。射精には繋がらないものの、ぞわぞわとした快楽に強制脱力。
その蛇体で、腕で、蛇舌で、執拗なまでに。逃げられないように、抵抗出来ないようにされてしまう。
「ぁーん…………」
ついにエモニカは、だらりと舌を垂らしながら、大きく口を開け、唇をすぼめる。艶めかしく綺麗な粘膜は、まるで性器のように淫猥。
見るだけで、否が応でも口淫の快楽を、肉棒を口に含まれ、舌を絡められる快楽を想像してしまう。
「んっ……んっ、んぐっ……ちゅうっ……んぅ、ふぅっ…………!」
「っ――!?」
そしてエモニカは、予想よりも遥かに激しく、勢い良く、肉棒を咥え込んできて。
口に含むだけに留まらず、肉棒を根本まで、完全に咥え込んでしまっている。その光景は、もはや股間に顔をうずめているかのよう。
おまけに、腰ごとがっちりと抱き込んできて、食らいつくかのように離れない。
肉棒の先端が押し込まれたのは、彼女の喉奥。狭く滑らかで、熱い空間。ぎゅうぎゅうに締め付けられて、包み込まれて。
肉棒を根本まで咥え込んでなお、彼女はその唇をぐいぐいと押し付け、吸い付いてくる。
上目遣いに見つめてくる彼女は、苦しそうな素振りは全く見せず、まさに夢中といった表情。
奥へ奥へと、うねりくねりながら蠕動する喉奥に、まるで、肉棒を丸呑みされてしまっているかのよう。
蛇舌は竿に巻きつき、扱き上げてくる。その先端は、玉袋にまで伸びて、絡みついて、ぐちゅぐちゅに揉みしだいてきて。
貪り尽くすような、丸呑みめいた、捕食者の口淫。彼女の言葉通り、もはや、肉棒を食べられてしまっているかのよう。
絶頂寸前だったモノに襲いかかるのは、想像すらつかなかった、未知の感覚。肉棒が蕩け落ちてしまいそうな程の、直接的で鮮烈で、魔性の快楽。
我慢に我慢を重ねたところにトドメを刺すには、十分を通り越して過剰な程。頭のなかが真っ白になって、溜まり溜まったモノが爆ぜていく、どくどくと解き放たれていく。
「んぐっ、じゅるっ、れろっ、んっ、んぅぅっ」
「っ、ぁっ、はぁ、ぁっ……!」
彼女の喉奥の蠕動は、射精の脈動に合わせて射精を促すかのよう。
エモニカの喉奥に放った精液は、そのまま、ごくごくと飲み干されていく。肉棒から喉奥へ、精液を搾り取られて、直呑みされてしまう。
今まで味わったことのない、未曾有の放出感。長く、激しく、大量の射精。いつもならすぐに終わってしまうはずの脈動が、終わらない。
彼女の喉奥が、口内が、唇が、舌が、肉棒を責め立て、射精を促してくる。
精液を根刮ぎ吸い尽くされてしまうような、あまりにも甘美な射精感に、腰が融け落ちてしまいそう。口をぱくぱくさせて、まともに声も出せずに、貪られるがまま。
「んふっ、ちゅううっ、れるぅっ、んくっ、んっ」
「ぁ、うぁ、あぁぁ……」
いつもの数倍以上の時間は続いた、爆発的な射精。
その間、彼女は息継ぎ無しで肉棒を咥え込み続ける。射精の最中、肉厚の唇は肉棒の付け根に吸い付いて、片時も離れない。
蛇舌もまた、絶えず肉棒を扱き続けて、玉袋を揉みしだき、甘く締め付け、精液を搾り出そうとしてくる。
射精の勢いが衰え始めても、その執拗で貪欲な口淫は緩まる事なく。
肉棒の脈動が止まってなお、最後の一滴まで搾り出し、飲み干そうと、念入りに快楽を与えてきて。
「んっ、っ、じゅる、ちゅぷっ、ちゅうぅっ……ちゅっ」
射精が完全に止まったのを確認したのか、ようやく、彼女は彼女はゆっくりと頭を引いていく。
ぴっちりと吸い付く唇、絡み付く蛇舌。そんな最中、彼女の口から、ゆっくりと肉棒が引き抜かれていく。
名残惜しそうに続けられる、貪欲な口淫。
彼女の口から引き抜かれた部分は、蛇舌によって舐め磨き尽くされ、唇で丹念に唾液を拭き取られ、すっかり綺麗にしゃぶり尽くされている。
そして彼女の唇は、ついに肉棒の先端へ。念入りな吸い付きの最中、尿道口までもを味わうように、蛇舌がちろちろと舐めまわしてきて。
最後に彼女がくれたのは、射精を労うような、甘く優しく、それでいて熱烈な、鈴口へのキス。
「ぷは……っ、はぁっ……はぁ……ぁあん……」
そうしてようやく、彼女は肉棒を完全に解放し……息継ぎを始める。その表情からは、やはり、息苦しさなどは微塵も感じられず。
目尻はとろんと垂れ下がり、頬はすっかり紅潮して。恍惚に上の空のようでありながら、淫らな笑みとともに、こちらをじっとりと見据えてくる。
「ぁ……はぁ……ぁぁぁ……」
最初から最後まで、腰砕けでは済まないほどの気持ち良さ。
その余韻もまた、格別で。半ば放心状態に浸りながら、彼女と見つめ合う。
「すっごく濃いのが、アナタの味が、喉に灼きついてぇ……
熱いのが、キモチイイのが、五臓六腑に染み渡って、もう、カラダがとろけちゃいそう……
とーっても美味しいわぁ……こんなの、はじめてぇ……」
それは今までになく、蕩け、惚けた表情。どれ程までの悦楽を感じているのか、想像もつかない程。
これ程までに幸せそうな表情を向けられた事は、全くの初めてだった。
「でも、これで終わりじゃないわよぉ……?
堕落の果実を食べたんだもの……まだまだ、せーえき出せるわよねぇ……」
彼女の言葉通り、大量射精を終えてなお、肉棒は硬さを失っておらず。
玉袋から感じるのは、どろどろとした熱の迸り。今まさに、精液が急速に作り出され、充填されつつあるのだと、本能的に理解する。
「はぁん……たーっぷり、せーえきご馳走して貰うから……覚悟しなさい?」
上体を起こした彼女は、うっとりと息を吐きつつ、舐めまわすような視線で見下ろしてきて。
その眼はさっきにも増して、欲望にぎらついている。さっきの貪るような口淫でさえも、ほんの味見だったと言わんばかり。
「んふふ……ほら、見なさい……アナタのせいで、もう、ぐちゃぐちゃ……」
そして彼女は、腰に巻いた布へと手を掛ける。
女体と蛇体の境目に見えるのは、ぐっしょりとした濡れ染み。
薄手の生地は、濡れてぴっとりと張り付き、肌色が透けてしまっている。
彼女の興奮を、欲望を物語る淫らな光景。それをしっかりと見せつけてきて……彼女は、腰布を脱ぎ捨てる。
「ぁ……」
露わになったのは、紛れも無い、女性の秘所。
貞淑なまでにぴっちりと閉じた割れ目とは裏腹に、まるでよだれのように、だらだらと愛液が染み出している。
生まれて初めて目にする、秘密の花園。思わず、目を奪われてしまう。
「はぁん……乳首だって、もう、こんなに……」
そして、続けざまに、彼女は服を脱ぎ捨て、その裸体を惜しげも無く曝け出す。
透き通るように白い肌はシミひとつ見つからず、興奮に赤みがかっている。
大迫力の爆乳は、服の支えがなくとも垂れ下がることなく、美しい形を保って。彼女が身じろぎするたびに、たゆんたゆんと、柔らかそうに揺れる。
瑞々しく艶やかに張り詰めたそれは、まさに男の夢というべき魅惑の果実。
その先端は、綺麗なピンク色。誘うように僅かに膨れた乳輪と、ぷっくりと存在を主張し、固く勃った乳首。
芸術品のように美しい母性の象徴から迸る淫靡さが、視線を釘付けにする。
「んふふ……見惚れちゃって……すっかりワタシの虜ねぇ……」
「ぅ……」
視線を受けた彼女は、それを誇るかのように、自慢気な様子。
その自信満々な言葉に相応しく、彼女の姿は魅力的。
男好きのする場所だけ、むっちりと肉付きの良い、わがままな身体。腰はきゅっと引き締まっていて、その豊乳に負けず劣らず、抱きつきたい衝動を煽り立てる。
その長い金髪は、手入れの賜物か、宝石を糸にしたかのように美しく。欲望を湛えた紫の瞳は、呑み込まれてしまいそうなほどに深い色合い。
見れば見るほど、その身体つきも、顔立ちも、文句無しに美しく。
自慢気で自信に満ちた笑みも、淫蕩な笑みも、捕食者めいた笑みも、どれもが心を掴む。
彼女の言葉を、否定出来ない。抗いがたい魅力を、彼女から感じていた。
「さぁ……待ちに待った子作りよぉ……?マイザー……
今度はこっちのおクチで……食べてあ・げ・る……」
彼女は、潤みきった秘所へと指を伸ばし、その割れ目を開いていく。
粘ついた水音とともに、露わになる粘膜、ぷっくりと膨れ勃った陰核。
その入り口は狭く、綺麗なままで、まさに生娘そのものだというのに。肉襞がいやらしく、淫らに、誘うようにひくつく度に、むせかえるような甘い淫香を放つ蜜が、膣内からどろりと溢れ出してくる。
「っ……」
越えてはいけない一線を越えようとしている。それは分かっているのに、彼女を拒めない。
蜜の滴る秘裂が、肉棒にあてがわれようとする光景を目の前にして、それに見入り、生唾を飲むしか出来ない。
「んふふ……ダメって言わないのねっ……ぁんっ……いただきまぁす……」
勝ち誇ったかのような、それでいて淫蕩な笑み。獲物を前に、舌舐めずり。
肉棒の根元を掴んだ彼女は、その先端に膣口を触れさせ、それだけで感じたように身動ぎして。
「あぁんっ……!」
彼女は、ずぷり、と腰を沈めて。肉棒は、彼女のナカへと、一息に呑み込まれてしまう。
「ぅぁ、ぁっ……」
細やかな肉襞のひしめいた、彼女の膣内。熱くとろけてしまいそうな柔肉の感触に、肉棒を包み込まれてしまう。
肉棒を容易く咥え込んだというのに、そのナカはとてもキツく、狭く、ぎゅうぎゅうに締め付けてきて。
そこはまさに、快楽の坩堝。さっき射精したばかりでなければ、挿入の最中に容易く絶頂してしまっていた程。
「はぁ、ぁぁんっ……おいしいわぁ、きもちいいわぁっ……こんなの、はじめてぇっ……」
肉棒を根元まで咥え込んだ彼女は、恍惚とした笑みを見せつけながら、ゆったりと覆いかぶさってくる。
そして、首に腕を回してきて、熱烈な抱擁。蛇体がしゅるしゅると身体に巻きついてきて、彼女と抱き合い、深く繋がったまま、ぐるぐる巻きにされてしまう。
「これが子作りなのね、マイザー……これが、オンナの幸せ……こんなに素敵だなんてぇ……」
「ぁ、ふぁ……あぁ……」
男女の上下が逆転した正常位。蛇体に抱かれ、身体の自由は奪われてしまっていて。
その大きな胸をむにゅむにゅと押し付け、柔らかさと重量感を味わわせてきながら、エモニカは甘く囁いてくる。
熱を帯びた、ねっとりとした囁き声が、頭の中を反響していく。頭の中が、彼女の声で埋め尽くされていく。
思考を犯す、ラミアの魔声。彼女に魅了されていく事を自覚しながらも、それに悦びを感じてしまう。
「ぁんっ、んふふ……気持ちイイでしょう?カワイイ声、出しちゃって……
ほらぁ、はやくせーえき出しなさい……?もう、子宮がきゅんきゅん疼いてぇ……待ちきれないわぁ……」
「ひぁ、ぁっ、きもちいい、です……」
甘い囁きは止まらないまま、彼女の膣内は、貪欲に蠢き始める。激しくうねり、くねり、吸い付いてきて、肉棒をしゃぶり尽くすかのよう。ひしめいた肉襞は、それぞれが小さな舌のように、肉棒を舐め上げ、絡み付いてきて。
締め付けはよりキツくなり、絶対に逃さないと言わんばかり。
おまけに、深く繋がり、密着したまま、腰をぐりぐりと押し付けてきて。
執拗なまでに与えられる、魔性の快楽。背筋から脳髄までを駆け上がって、思考までを蕩けさせる。
腰回りで膨れ上がる熱量は、あっという間に限界点へと押し上げられていって――
「ぁ、あっ、ぁぁぁっ……」
どくん、どくん、と、至福の射精感。頭の中が真っ白になって、それなのに、エモニカの声だけは響き渡って、もう、どろどろ。
夢のような快楽に身を任せて、エモニカのナカに、精液を吐き出していく。
「はぁんっ、ぁぁんっ……せーえきぃ、きたぁぁ……
ぁん、ぁっ、イっ、ちゃ……ぁぁっ……!」
一際強まる、蛇体の締め付け、熱烈な抱擁。しがみつくかのように回される、彼女の腕。
魔性の快楽をもたらすその膣内は、荒れ狂うように激しく蠢いて。それでいながら、射精の脈動に合わせて、精液を促すように甘く、キツく締め付けてくる。
彼女の最奥、その子宮口は尿道口にぴったり吸い付き、離れないでいて。
エモニカは、精液を余す事なく子宮へと搾り取りながら、快楽に乱れた声をあげる。
その嬌声は彼女の悦びを伝えてきて、それに頭の中を犯されてしまう。
「はぁん、あっ、すごいわぁ、あつくて、きもちよくてぇ、とけちゃうっ、ぜんぶとろけ、ちゃうっ……しあわせぇっ……」
「はぁ、ぁ、ぁぁぁ……」
二回目の射精にも関わらず、一回目にも劣らない、大量の射精。
一回目は、半ば暴発というべきものだったのに対して、彼女のナカでの射精はまさに、精液を搾り取られるというべきもので。
貪欲に求められ、貪られ、しゃぶり尽くされて。射精の全てを、甘く導かれるかのよう。その放出感は、射精快楽は、法悦を極めていた。
「あはぁ……最高よぉ……これがずーっと、ずーっと欲しかったの……」
「ぁっ、ひぁ、えもにか、さぁん……」
さっきの丸呑み口淫で彼女がしたように、もしくはそれ以上に、彼女のナカは貪欲で。
射精の最後の最後まで搾り取るのはもちろん、その最後の一滴まで搾り取ってなお、魔性の快楽を絶やさない。
たった一回の射精では終わらせない、と言わんばかりに、射精の余韻を味わう暇もなく、射精直後の肉棒を責め立ててくる。
休む間もなく与えられる、甘美な快楽。それは、快楽漬けというべきものだった。
「あぁん……もーっと欲しいわぁ、マイザー……
子宮がいっぱいになるまで……ぁん……孕んじゃうぐらい、たーっぷり……
ずーっと、ずーっと、欲しかったんだからぁ……んふふ……ぜーんぶ、搾ってあ、げ、る……」
蕩けきった満足気な口調とは裏腹に、その声色には、どろりとした欲望の響き。
呑み込まれてしまいそうな程に甘く、ねっとりとした囁き。
彼女がどれだけ男に飢えていたのか、どれだけの年月を掛けて、その飢えが醸成されたのか、計り知れない。とても人のモノとは思えない、まさに飢えた蛇のような、底無しの欲望。
そんな彼女の欲望に、本格的に火をつけてしまった。燃え上がらせてしまった。
これからどうなってしまうのか、想像もつかない。
「ぁっ、ひぁ……お、おねがいしま……ぁぁっ」
けれども、そこにあるのは、不安ではなく悦び。
ただ気持ち良いだけでなく、求められる事が、貪られる事が、悦んでくれる事が、嬉しくて仕方ない。
そして……感じた声で。蕩けた声で。幸せな声で。彼女に、甘くねっとりと囁いて欲しい。
彼女の与えてくれる魔性の快楽と、魔声の響き、そして彼女の持つ妖しい魅力に魅了されきってしまい、最早すっかり、彼女の虜だった。
「んふふ……ほんと、ワタシの虜になっちゃって……」
そして、精を受け止めてくれた彼女の声に混じり始める、もう一つの音色。それは、ねっとりと絡みつくような、深い執着。
「ぁん……んふふ……ねぇ、マイザー……
ワタシの大切な、初めてなんだからぁ……セキニン、取らなきゃだめよねぇ……?」
「ひぁ、ぁっ……はぃ……」
そして彼女は、この交わりの重大さを、嬉々として伝えてくる。
彼女の初めてを貰ってしまった。拒む事もせずに、受け入れてしまった。
それがどういう意味を持つのかを思い出させるために、甘く、ねっとりと囁いてくる。
身体だけでは飽き足らず、心まで縛り付けようと、執念深さを露わにする。
しかし、彼女の唇から紡がれるならば、責任の重みさえも、恍惚としてしまう程に心地良い。
逃げられないように、後戻り出来ないように、着々と嵌められていく枷。それに悦びを覚えてしまっていた。
「そうよねぇ……?セキニン取らなきゃダメよねぇ……?
だからぁ……アナタはもう、ワタシだけのモノ……ワタシだけの旦那サマよ……分かった?」
「ひぁ、は、はぃっ……」
独占欲に満ちた声。うっとりとした囁き。
エモニカのモノ。エモニカの夫。それは最早、責任というにはあまりにも甘美な響きだった。
この蜜月が、たった一夜の過ちでは終わらずに、これからも訪れる。それどころか、彼女のように魅力に溢れた女性が、妻となってくれる。それが、堪らなく喜ばしい。
彼女の、甘く温もりに満ちた束縛と、独り身の寂しい自由。どちらを選ぶかなど、答えは明白だ。
「んふふ……ワタシのモノになるならぁ……おいしいせーえき、たーっぷり出しなさぁい……?」
「ぁっ、せきにん、とらせてくださいっ……ぁっ、ひぁ……ぁぁぁ…」
貪欲に蠢き続ける彼女のナカに、またもや限界寸前。三回目の絶頂は、すぐそこに。
それを見透かした彼女は、優しく諭すように、答えをねだってくる。
優しい囁きとは裏腹に、彼女のナカはぐちゃぐちゃに肉棒を責め立ててきて。
もはや彼女を拒もうという気持ちは全く湧き上がってこない。彼女のモノに、彼女の夫にしてもらいたい。
彼女はそんな気持ちを見透かしてなお、念入りに、拒否権を与えない。
抗うことの出来ない魔性の快楽に、三度目の射精へと導かれてしまう。彼女のモノになるという答えを、搾り出されてしまう。
「ぁぁん、はぁっ、ワタシのっ……ぁんっ、ワタシの、旦那サマぁっ……
あはぁっ……おいしいのも、キモチイイのも、わたしだけのモノっ……ぁんっ、んふふっ……ぁぁっ」
「ぁっ、はぁ、ぁあぁぁ……」
彼女の執着と独占欲を一身に受けながら、我慢する事なく、大量の精を吐き出していく。
脈動のたびに感じる、ぞくぞくとした、めまいのような快感。取り返しのつかない事をしてしまっているという、言い知れない高揚感。
彼女のモノになると、夫になると、この身体で応えてしまっている。彼女の子宮に精を注ぐたびに、エモニカに囚われていくかのようで、それが堪らなく気持ち良い。
彼女の執着、独占欲。それは、代え難い程の快楽と恍惚をもたらしてくれていた。
「はぁんっ……んふふ……ワタシのマイザー……ぜーったい、はなさないんだからぁ……
ほらぁ、いくらでも孕んであげるからぁ……もーっと、もーっと……ぜぇんぶ、出しなさぃ……?」
そして彼女は、二度目の精を子宮で受け止め終えると、衰えない貪欲さで、次を強請ってくる。射精直後の肉棒を容赦無く責め立てて、快楽漬けを終わらせない。
蕩けきった囁きが孕んでいるのは、どろどろに滾った底無しの欲望、執着。その甘い響きに魅入られて、身も心も幸福に呑み込まれていくのだった。
「はぁぁん……とーっても良かったわぁ、アナタ……子宮の中、せーえきでいっぱいで……ホントに孕んじゃいそう……
ワタシ達、パパとママになっちゃうかも……うふふ……すてきぃ……」
彼女の貪欲さは底を知らなかった。堕落の果実のおかげで幾らでも射精出来ると思っていたのに、その効果が切れるまで、その上で精が枯れ果ててしまうまで、至福の快楽で搾り尽くされてしまった。それでようやく、彼女は満足してくれた。
一晩だろうか、一日中だろうか、三日三晩だろうか。あまりにも気持ち良すぎて、それさえも曖昧。とても長く、それでいて一瞬のようだった。
「はぁぁ……えもにか……さぁん……」
柔らかく身体を受け止めてくれるのは、彼女の肢体。甘く優しく包み込んでくれる、艶かしい蛇体の抱擁。
精液が枯れ果ててなお肉棒は萎えず、深く繋がりあったまま。
くったりと脱力し、極上の肉布団に身を委ねながら、甘く蕩けきった彼女の囁きに聴き入る。
「んふふ、ごちそうさま……
いっぱい出して、よーくがんばったわね……おかげで、とーってもしあわせ……だぁいすき……」
「ぁぁ……すき……」
彼女は、労いの言葉とともに、慈愛に満ちた手つきで、ゆっくりと頭を撫でてくれる。もう片方の腕は、しっかりと抱きしめてくれながらも、まるで、寝かしつけるように背中をさすってくれる。
その蛇体の抱擁からは、確かな温もり。確かな母性。
そして、深く繋がったままの彼女のナカさえもが、優しく甘やかすように肉棒に絡みついてきて。まるで癒すような快楽に、安心しきった声が漏れる。
「んふふ……さ、おやすみなさい……ワタシのマイザー……あいしてるわよ……」
「おやすみ……なさぃ……」
長く執拗な交わりの果てに、身体の芯まで染み込んだ、彼女の温もり。
彼女の囁き声は、頭の中を優しく、甘く染め上げて、穏やかな眠りへといざなってくれる。
身体に刻み込まれた快楽の記憶さえも、安らぎをもたらしてくれて。
身も心も満たされて、すっかりと蕩けきって、まさに夢見心地。
そして、エモニカの抱擁の中、意識さえも闇に蕩けていった。
「ぅぅ……ん……」
あたたかい。やわらかい。きもちいい。ゆっくりと、意識が浮かび上がっていく。
身体を包む温もり、心地良さ。それに甘えるように、もぞもぞと身体を動かす。
「ぁん……うふふ…………」
母のように優しい含み笑いが、まどろみを甘く彩る。慌てて起きる必要は無いのだと伝えてくれる。
「んぅ……む……すぅ……はぁぁ……」
頭を受け止めてくれる柔らかさは、温もりは、一際心地よく。心を安らかにさせてくれる、ほの甘い香り。
その至福の感触を、芳香を味わおうと、頬を擦り付け、息を吸い込む。
むにゅむにゅに沈み込んで、すべすべなのに、むっちりと頬に吸い付いてきて、優しい匂いに包まれて、温かくて、まさに極上の枕。
「んっ……はぁん……あまえんぼさん……」
抱き締められている。受け止められている。たっぷりと甘やかされている。
そうしてくれているのは……甘い囁きの主。そう、エモニカだ。
「んぁ……え……?」
エモニカの事が頭に浮かんだのをきっかけに、まどろみは終わりを告げる。
シーツにくるまり、重なり合う肌と肌。艶かしい女体の感触が、意識に飛び込む。
寝惚けて甘えていたのは、彼女の胸。裸で抱き合い、胸枕までされてしまっている。
いつもは独りのはずなのに、どうして……
「あ……ぁっ……」
脳裏に浮かぶ、長い、長い、交わりの光景。
今の状況が、エモニカと一線を越えてしまった結果であると、ようやく理解する。
「おはよう、マイザー……うふふ、ぐっすりだったわね……」
「は、はぃ……おはよう、ございます」
眠気はすっかり吹き飛んでしまったが、身体は重く。交わりの疲れは、まだ抜けきっていない。
身体を苛む心地良い脱力感が、己の犯してしまった過ちに現実味を与える。
甘い囁きに負け、彼女と夜を共にしてしまった。一夜の過ちどころでは済まない程に。
身体に染み付いた温もりと快楽は、決して夢では無い。やってしまった。知らないフリは出来ない。
これ程までに気まずい状況は、記憶になかった。
「あんなに頑張ってくれたものね……お腹、空いてるんじゃないかしら?それとも……もっとおっぱい枕してほしい……?」
「あ……はい……おなかが、空きました……」
彼女の酒気はとうに抜けている。自分もまた、魔声の魅了は解けている。自分はまだ寝起きでぼんやりとしているが、彼女と自分は素面……もっと言えば、正気であると言っていい。
そして、自分を気遣ってくれる彼女の声は優しく、好意に溢れていて。それでいて、誘惑を絶やさない。
交わりの最中、たっぷりと囁いてくれた甘い言葉は、それに込められた感情は、酒の勢いによる一過性のものでは無かったのだと教えてくれる。
嬉しいながらも、複雑な気持ち。気まずさ、後ろめたさを覚えているのは自分だけらしい。
「そうねぇ……それなら、朝ごはんにしましょうか……」
「あ……ありがとうございます」
緩められる抱擁。身体は自由になったのに、どこか物寂しい。
ゆっくりと、彼女の上から身体をどかす。目を閉じて、彼女の裸体を目にしないように。
彼女と離れるのが、名残惜しい。あの母性に満ちた乳枕を、もっと堪能していたい。甘えていたい。
そんな気持ちに抗いながらも、彼女から離れて、ベッドに身体を横たえ直す。
「ん、んぅー……はふ……」
しゅるしゅると、ベッドを這い出る音。寝起きに伸びをしているのか、やけに色っぽい声。
「さて……花嫁修業の成果を見せてあげるから、楽しみに待ってなさぁい……?」
「はっ……はい……」
不意に、耳に触れる柔らかい感触。それは、彼女の唇。そのまま、耳孔に直接声を吹き込むように、ねっとりと、絡みつくような囁き。
自信ありげな響きは、美味しい朝食を期待させてくれるが……花嫁修業という言葉に、否応無しに責任の重さを実感させられてしまう。
「ふふ……」
「っ……」
見透かされるような、妖しい笑い声が耳を擽り、しなやかな指に頬を撫でられて。
それを最後に、蛇体の這う音は部屋の外へと消えていく。朝食を作りに行ってくれたらしい。
「……」
ずっと味わい続けていた温もりが途絶えて、やけ肌寒い。シーツにくるまりなおし、頭だけを出す。 ベッドからは、エモニカの匂いがする。
「あぁ……うぅ……」
すっかり眠気も吹き飛んだので、改めて記憶を辿り直す。
エモニカの初めてを貰ってしまった。拒む事をしなかったどころか、喜んで受け取ってしまった。
そして、避妊も全く行っていないまま、大量の精液を注ぎ込んでしまった。もし妊娠でもさせてしまっていたら、本当に一大事だ。
さらに、交わりの最中……責任を取らせてと言ってしまった。彼女のモノに、旦那様になるのだと、言質を取られてしまった。
それだけでなく、何度も何度も、彼女の事を好きだと言ってしまった。愛していると言ってしまったような気もする。
幾ら彼女の魔声に魅了された結果とは言え、事実は事実。これだけ山のように積み上がった事実を、全て彼女のせいにする事など、自分にはとても出来る気がしない。
「責任……」
積み重なった責任で雁字搦め。言い逃れは不可能で、どうしようもない。
恐らく、彼女の思惑通り。酒に酔っていたはずなのに、社会的にも捕縛してくるとは、行き遅れたラミアの恐ろしさを感じずにはいられない。
「うぁー……」
責任。責任を取らなければいけない。やってしまった、という思いで頭が一杯になる。
酒場はおそらく、今頃は無断欠勤。クビになってもおかしくない。つまり、今の自分は推定無職。働き口のアテも当然無い。無いからこの街にやってきたのだ。
責任を取れと言われても、無い袖は振れない。夫として彼女を食わせていくなど到底無理だ。
むしろ、養ってくださいと彼女に頼み込まなければいけないような状況でさえある。蓄えはあるが、あまりにも心許ない。
男として情けなさ過ぎる現状に直面して、途方に暮れるのだった。
「うふふ、お待ちどおさま……朝ごはんよ、アナタ……」
「うぅ……ありがとうござい……ま……す……」
途方に暮れていた所、美味しそうな匂いと共に、意気揚々とエモニカが戻ってくる。
彼女が身に纏っているのは、フリルがたっぷりとあしらわれた、純白のエプロン一枚のみ。
彼女の豊満な胸は、今にもエプロンからこぼれ落ちそうになっている。見事な谷間と眩しい横乳は惜しげも無く曝け出されていて、少し布がずれたなら、乳首が見えてしまいそう。ずれていなくても、乳首が浮き出てしまっている。
エプロンの丈は、蛇体と女体の境目をギリギリ覆い隠す、短いもので。もう少し低い角度から見上げたなら、何かの拍子で布がひらりと動いたならば、見えてしまう。
彼女の裸エプロン姿は、妖艶さと可愛らしさを兼ね備えたとても魅力的なモノで。美味しそうな朝食を運び、柔らかい笑みを浮かべるその姿は、まさに理想の新妻。
男心をがっちりと掴むその姿に、どうしようもなく見惚れてしまう。見ているだけで幸せな気分になれる。まさに、眼福だった。
「ふふ……見惚れちゃって、やっぱり、かーわいいっ……」
「ぅ……」
彼女はベッドに腰掛けながら、ベッド脇のテーブルにトレーを置く。
皿に盛られたのは、見るからにふわふわ、あつあつ出来たての、大きなオムレツ。二人分の大きさが、一つだけ。それに添えられているのは、茹で立てのソーセージ。
そして、もう一つの皿には、サンドイッチ。コップに注がれた飲み物から漂う、甘い芳香。虜の果実のジュース。
グラスに盛り付けられているのは、恐らくデザート。赤い光を帯びた、果実のような何か。ぶよぶよとして、グミのようにも見える。きっとこれも、魔界の食材なのだろう。
豪華な朝食に食欲をくすぐられながら、ベッドに腰掛ける。服を着るのを忘れていたので、シーツにくるまったままだ。
せめて下着だけでも着ておくべきだったと後悔する。やはり、気恥ずかしい。
「んふふ……シーツにくるまってる姿も、そそられちゃうわぁ……
ほら……冷めないうちに召し上がれ?裸エプロンは、いつでも、好きなだけ、見惚れさせてあげるから……ね?」
「は、はい……いただき、ます。あ……美味しい、ですね。ほんとにふわふわで……」
二人並んでベッドに腰掛け、朝食の並べられたテーブルに向かう。すかさず彼女は、べったりと身体を寄せてくる。
食べさせて貰う羽目になるのも恥ずかしいので、先手を打って、早めにスプーンを掴み、オムレツを口に運ぶ。
見た目通りにふわふわとした食感で、口の中でとろけるかのよう。塩加減も完璧で、素朴ながらも飽きの来ない、毎日食べたくなる味。
「ふふ……美味しいでしょう?うん、我ながら良い出来栄え……ほら、他のもどう?」
そう囁きながら、彼女も同じオムレツを口に運ぶ。やはり、二人で一つを食べるつもりらしい。新婚でも中々こんな事はしないだろうに。
「あ、はい…………美味しい」
促されるがままに、今度はソーセージを口に運ぶ。
ぷつん、と弾力を持って切れる、心地良い皮の感触。茹で加減は申し分ない。
皮の中から溢れ出すのは、旨味に溢れた脂。肉の食感はなめらかで柔らかく、ぷりっとしている。
淡く効いたスパイスは、朝食に相応しい。朝からくどくもなく、それでいて食欲を掻き立ててくれる、絶妙な塩梅。
「ジューシーで……凄く、美味しいです。朝から豪華すぎるぐらいに」
ソーセージもまた絶品で、朝からこんなに美味しいものを食べて良いものか、とさえ思えてしまう。
「うふふ……このソーセージ、私の手作りなの……気に入ってくれて嬉しいわぁ……
サンドイッチのパンも、ベーコンも手作りなのよ?ほら、こっちも食べて?」
「……これで手作りなんですね」
料理を褒められ、上機嫌に、自慢気になる彼女。次へ次へと、朝食を勧めてくる声が可愛らしく、愛おしい。
「では、サンドイッチも……いただきます」
ベーコン、トマトと共に、パンにたっぷりと挟まれているのは、見た事の無い葉野菜。花の花弁のようにも見えて、肉厚で瑞々しい。
得体は知れないが、出されたからには食べないわけにもいかない。
促されるがまま、サンドイッチにかぶりつけば、パンはふんわりと柔らかく、レタス代わりの謎の葉野菜は、しゃきしゃきと小気味良い食感を返してくれる。
その葉野菜に苦味はなく、ほのかな甘みと、葉野菜らしからぬ旨味。レタスとは一線を画した味わいが、ベーコンの塩辛さとよく調和している。
彼女の手作りベーコンは、こってりと旨味に溢れていて、トマトの酸味と合わさって良い塩梅だ。
「うん……おいしいです。パンも、ベーコンも……」
「うふふ、そうよね、そうよね……美味しいわよねぇ?」
簡素ながらも、しっかりとまとまった味。文句無しの美味しさに舌鼓を打ちながら、食は進んでいく。
「ん……この果物?も美味しいですね。サンドイッチの野菜にも似てますけど……とっても濃厚な甘みが……」
朝食をすっかりと平らげて、デザートの果実?を口に運ぶ。赤く妖しく光を帯びているのだが、それがやけに美味しそうに見えて、無性に食べたくなってしまっていた。
果実?を噛み潰せば、見た目通りの、グミのような感触。サンドイッチに挟まれていた野菜に似た味だが、その甘みと旨みはとても濃厚で、まるで果実やお菓子のよう。
しかし、葉野菜のさっぱりとした後味が爽やかで、朝食の締めにはふさわしい味だった。
「あら、御名答……あの野菜の芯なのよ。とってもお肌に良いんだから……」
「なるほど。ともかく……ご馳走様でした。
……こんなに美味しい朝食は初めてで、ありがとうございます」
豪華ながらも、すんなりと胃に収まった、彼女の朝食。粗末な食生活を送っていた身としては、軽い感動を覚える程の美味しさだった。
たかが朝食と侮っていたが、朝から美味しいモノが食べられるだけで、随分と満たされた気分になる。
彼女に対する言葉は、嘘偽りやお世辞などではなく、本心からこぼれる言葉だった。
「んふふ……料理上手な妻を持てて幸せでしょう……?ア、ナ、タ……」
「え、エモニカさん……それ……本気……なんですか……」
そして、不意に耳元で囁かれる甘い言葉。ねっとりと絡みつく、粘着質な響き。愛おし気でありながら、深い執着を孕んだ声。悪寒にもにた快楽が、背筋を駆け抜ける。
彼女の好意を嬉しく思う反面、何が何でもモノにしようとする執念深さは、冷静になって考えてみれば、恐ろしい物を感じる。
三日三晩ほどを共にしただけで、お互いの事を知らなさ過ぎる。心の準備など、出来ているはずがない。
彼女に惹かれているのは確かだし、夫婦として生活を送りたい気持ちもある。しかし、一生を共に出来る自信があるかと問われたならば、不安であるのだ。
「本気よぉ……?アナタは私のモノで、私のかわいい旦那様……
アナタが認めて、アナタが望んだ事でもあるのよぉ……?責任取らせて、だなんて……うふふ」
背後から、絡みつくように回される彼女の腕。後ろから、ぎゅっと抱きすくめられてしまう。
エプロン一枚だけを隔てて押し当てられる、胸の感触がたまらない。
彼女は、勝ちほこるかのようにうっとりと、耳元で囁き続ける。その内容は、あまりにも逃れ難い事実だった。
「ぅ……た、確かに……そう、です…………」
彼女の言う通り、あの夜、自分は彼女のモノになると、夫になると認めてしまった。責任を取らせて欲しいと、懇願してしまった。
幾ら魅了され、快楽の最中であったとはいえ、紛れもない事実。
しかも、あの時において、自分はまさに本気だった。本気で彼女のモノになってしまいたいと思っていたし、彼女と夫婦になりたいと思っていた。
そして、魅了が解けた今も、その思いは消えないまま。どうしようもなく、彼女に魅力を感じてしまう。この温もりも、あの快楽も、あの甘い囁きも、抱擁も、何もかもが捨てがたい。
今は、不安や後ろめたさが、その気持ちを邪魔しているだけ。心の準備ができていないだけ。
そう自覚してしまった以上、彼女の言葉を否定する事など出来なかった。
「なら、文句は無いわよねぇ……?」
「しかし……その、いきなりで……」
「だぁめ……せきにん、とりなさぁい……?
上の口も、下の口も、初めてをあげたんだからぁ……逃げるなんて許さないわぁ……うふふ」
しゅるしゅると、蛇体が巻きついてくる。背後も取られて、身動きも取れなくなって、もはや抗う術はない。
またもや自分は、彼女に食べられるのを待つだけ。いや、既に口に含まれ、味わわれているといった状況に等しい。
不満気なのは言葉だけ、その声色はなんとも嬉しそうで。甘い囁きで心を絡め取るその過程を、存分に愉しんでいるに違いない。
「とは言われても……養うのは、無理が」
しかし現実問題、夫として彼女を養おうにも、恐らく酒場はクビで、無職の身だ。
言い訳じみているが、こんな状態では、責任を取りたくても取りようがない。
無い袖は振れない、と彼女に納得してもらおうとするが……
「あら、私を誰だと思ってるの……?アナタ一人養うのなんて簡単よぉ……?
子育てだって万全よ……今すぐ孕ませてくれてもいいんだから」
「ええと……妻子を養うのは夫の義務、責任では」
彼女から返って来るのは、ズレた返事だった。
夫になれば、彼女が自分を養ってくれるのだと、そういう風に聞こえてならない。
自分が稼げない以上、ある意味で現実的な選択肢ではあるのだが……ある意味では非現実的。
もっと将来性なりなんなりのある男ならともかく、自分のような男をわざわざ養うなど、物好きの所業に他ならない。
「あら……そういう意味だったの?ダメよ、そんな責任の取り方…… おとなしく、私に養われなさいな……
一緒に居る時間が減っちゃうじゃない……」
「……物好き、ですね」
「ええ……大好きよ……?アナタの事、愛しいもの……」
「あ、ありがとう、ござい、ます……」
しかし……彼女は大の物好きらしく。その言葉に、嘘はおろか、誤魔化しや冗談が交じる事はなかった。
真剣で、それでいて蜜のように甘い響き。
人間の男として意地を張っていた部分が、ぐずぐずに溶かされていく。それと同時に、肩の荷が下りていく心地。
彼女の囁きに、不安がまた一つ呑み込まれていく。心が堕ちていく。
ああ、しかし、ただ養われるだけでは情けないし、申し訳ない。
「でも……夫の務めは、ちゃんと果たして貰うんだから……んふふ」
そして、そんな内心を見透かすかのように、彼女は言葉を続ける。
夫の務め。それは、情けなさや申し訳なさを払拭してくれる、甘美な言葉だった。
「いろいろあるけど、そうねぇ……お酒には絶対に付き合って貰うわぁ……
アナタが居るんだもの、寂しい独り酒はもう終わりよ、うふふ……
あの時みたいに、美味しいカクテルを二人で作って……アナタごと味わってあ、げ、る……」
うっとりとした様子で、彼女は囁き続ける。思い起こされるのは、一対の果実を口移しで味わった、あの記憶。
普通の夫婦は、お酒を口移しで味わい、キスをしながら混ぜあって、カクテルを作る事などしないだろう。
しかし、彼女の味を知ってしまった今では、この行き過ぎた要求を重荷に感じる事はなかった。
「んふふ……もちろん、子作りは絶対に、絶対に欠かせないわよ……?
美味しい精液を、たーっぷり注いでもらってぇ……赤ちゃん孕ませて貰わなきゃ……
私の求めには、必ず、応えて貰うんだからぁ……そうよ、いつだって、どんな時だって……」
そして、あまりにも貪欲な、"女"の音色。本能と欲望を隠さず、魅せつけるかのように、彼女は言葉を紡ぐ。
耳に唇が触れるか触れないか。その囁きは、余すことなく耳の中に送り込まれて、頭の中へと侵入してくる。声だけでなく、息遣いや吐息までも。
まだ朝なのに、目覚めたばかりなのに、三日三晩は交わったはずなのに。その声は、今すぐにと言わんばかりに、愛の営みを求めている。
そして彼女は、それに応えるのが夫の義務だと言う。
「っ……え、えもにか、さん……」
彼女の夫になれば、彼女の欲望を一身に受け止めなければならない。
その結果、彼女との子供が生まれたならば……それこそ本当に、取り返しがつかない。後戻り出来ない。
自由とは程遠い、夫としての義務と責任に縛られた生活が待っている。
その甘美さは、昨晩の交わりで身体の芯にまで刻み込まれ、教え込まれてしまっていて。義務も責任も、今では魅力的にしか思えない。
もはやすっかり、彼女の虜にされてしまったのだと自覚する。
「それに、妻を求める事も、夫の務めなんだから……
だから、たーっぷり甘えて、可愛くおねだりして、私のカラダにむしゃぶりつくのよ……?」
「っ……」
そして彼女は、ダメ押しと言わんばかりに、さらなる義務を課してくる。
それはもはや、義務や責任とは形ばかりの免罪符で、甘い誘惑。
自分から彼女を求めても良い。甘えても良い。貪っても良い。貪って欲しい時は、ねだっても良い。
夫としての、夢のような特権まで与えられ、彼女の夫になりたいという思いはさらに膨れ上がっていく。
軽率だと、先が見えないと制止する理性は、今にも振り切られてしまいそう。
「私の求めに応えなさい。私を求めなさい。そうして、私を幸せにするの……
それがアナタの責任で、私だけの旦那様としての務め……分かったかしらぁ……?」
「は、はぃ……」
たっぷりと愛情が込められた、熱っぽい囁き。彼女の手が、いやらしく胸板をまさぐってくる。エプロン越しに、その肉感的な身体を擦り付けてくる。
昨晩は魔声に魅了されたから仕方ない、と言えたが、今回は違う。彼女の言葉に頷いてしまえば、今度こそ取り返しがつかない。言い訳が効かない。
彼女が声に魔力を込めないのは、そういった狙いがあるに違いない。
そこまで分かっていて、それでも彼女の言葉に応えてしまう。虜になってしまって、とても抗えなかった。
「んふふ……離さないわよ、アナタ……早速、応えて貰うんだから……あむっ……」
「ひぁ……まだ、朝ですよ……」
彼女のモノだという証を刻むかのように、少しキツ目に、耳を甘噛みされてしまう。
窓の外を見れば、まだ陽は昇りきっておらず、明るいまま。交わって、眠って、目覚めたばかりだというのに、彼女はすっかりその気になってしまっていた。
「さっき食べた、まといの野菜の効果を教えてあげる……
あれには、お肌を活性化させて、綺麗にしてくれる効能があるの。
その芯は効果抜群……身体がむずむずして、火照っちゃって、服なんて着られなくなっちゃって……
服の代わりに、アナタのカラダが欲しくなっちゃう……ちょうど今、効き始めて来た所よ……んふふ……」
「そ、そんな効果が……あぁっ」
息を荒げながら、彼女は濃厚なスキンシップを続けてくる。蛇体にシーツを剥ぎ取られて、丸裸にされてしまう。そのまま蛇体は、縛るのではなく、まとわりつくように絡みついてきて。
巻き付くだけでは足らないと、甘い締め付けとともに、しゅるりしゅるりと身体中を這い回り、擦りあげてくる。
「アナタと出会う前は……綺麗になるためにこれを食べて、必死にオナニーして、とーっても切なかったのよぉ……?
でも、これからは、アナタがぜーんぶ受け止めてくれる……
ぁんっ……なんて素敵なのかしらぁ……これからは、好きなだけ食べちゃうわ……」
「ぁっ、はぁ……」
彼女の身体は、女体も蛇体もすっかり火照り始めていて。蕩けそうな熱が、肌にすり込まれていく。
独身の頃からまといの野菜とやらを食べていたらしいだけあって、彼女の肌は、すべすべつやつやで、しっとりと吸い付くかのような、魅惑の肌触り。蛇体も例外ではなく、鱗に覆われていながらも、しっかりと女体を感じさせてくれる。蛇腹の感触は特に極上で、むっちりとした柔らかさに手足を包まれ、擦りつけられる愛撫は堪らなく気持ち良い。
唯一愛撫を受けていない肉棒も、あっという間にガチガチにそそり立ってしまう。昨晩、散々搾り取られたにも関わらず、だ。
「んふふ……アナタの方も準備万端ね……
あのソーセージも、ベーコンも、魔界豚のお肉で作ったモノなのよぉ……?
栄養満点だもの、食べれば三日三晩はセックスできちゃうわねぇ……んふふ」
「ぇ……ま、また……そんなに……」
「そうよぉ……?アナタが私のモノだという事を、カラダにも心にも刻んで、あ、げ、る……」
あれだけ激しく夜を過ごした後だというのに、もう一度交わるなど、しかもそれが、再び三日三晩に及ぶであろう事などは、予想だにしていなくて。
身体に刻み込まれた快楽に、期待が湧き上がる反面、彼女の底知れぬ貪欲さ、執着心に、戦慄してしまう。
夫となる存在をどれ程までに求めていたのか。独り身の間に、行き遅れている間に熟成されたと思わしき欲望の丈は、もはや想像もつかず、計り知れない。
「はぁん……あれだけ愛し合った後だものね……とってもいやらしい匂い……」
「っぅ……せ、せめて、お風呂だけ……」
首筋に顔を埋めてきて、彼女はうっとりとため息をつく。そんな彼女の行動に、未だ身を清めていない事を思い出す。
幾ら彼女が悦んでくれているとはいえ、匂いをかがれるのは恥ずかしかった。興奮しないといえば嘘になるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
それに、こんなにすぐ、昨晩のような濃密な交わりをしては、どうにかなってしまいそうな気がして、心の準備も欲しかった。
「だぁめ……私は今すぐシたいの……今すぐアナタが欲しいの……分かったかしらぁ……?」
「は、はぃ……」
しかし、彼女はそんな事は御構い無しに、熱烈に過ぎるほど、自分を求めてくれる。彼女の甘い囁きには、どうしようもなく抗えず。
彼女の肢体がもたらす心地良さに、不安はすぐに融かされていく。
そして彼女は、昨晩のように自分を、優しく、しかし情熱的に、ベッドに押し倒してくる。
彼女から逃げられないとわかってしまった今、湧き上がる感情は、貪られる事に対する期待。彼女の底知れない欲望を恐れるのではなく、期待を膨らませてしまっていて。
エモニカの虜になってしまった自分は、されるがままに、彼女に身を委ねるのだった。
「んゅふふ……ねーぇ、あなたぁ……なんかいいなさいよぉ……」
「はいはい、どんなことを言って欲しいんですか……」
ベッドに腰掛け、ふたりきり。愛しの妻は、酔いが回ってすっかりご機嫌。ペースを考えずに呑んで酔っ払うのは、初めて出会った時から変わらないままだった。
絡み酒も相変わらずだが、今はそれが愛おしくて仕方がない。
「わかってるでしょぉ……?しゅきとか、あいしてるとかぁ……」
「ま、またですか……恥ずかしいんですよ、それ……」
「いいからぁ、いいなさいよぉ……」
すっかり真っ赤になった頬。潤んだ瞳に、据わった目。とろんとした表情に、熱っぽい吐息。紅い唇の間からは、蛇舌がちろちろと、せわしなく覗く。
強引に愛の言葉を催促してくる彼女は、可愛らしくも妖艶で。
「あー、うぅ……好き、ですよ。エモニカさんが居ない生活なんて……考えられ、ません」
「んゅふふ……かわいいわねぇ……もっとよぉ……」
彼女に応え、ぎゅっと抱きつきながら、愛の言葉を囁く。愛する人の前では、恥ずかしさも心地良いのだが、それでも恥ずかしい物は恥ずかしく。
多少は酒が入っているにせよ、声に羞恥を隠せない。結婚してから随分と経つが、未だにこうだ。
そんな自分の様子に、エモニカは意地悪く、そして嬉しそうに催促を続ける。彼女曰く、初々しさが残っていて堪らないのだとか。
「……あ、愛してます。エモニカさんの幸せが、自分の幸せ……です」
「もっとぉ……」
「……酔ってる姿も、可愛くて、色っぽくて、大好きですよ。こうやって言わされるのは、やっぱり……恥ずかしいです、けど」
「んゅふふふふー…………わらしも、あいしてりゅ……わらしのものぉ……ちゅぅ、ちゅっ、んっ……」
ぎゅっと抱き返してきて、すりすりと頬ずり。唇に、頬に、首筋に、キスの雨。
普段はしっかりとして、理知的な彼女が見せてくれる、無邪気で、甘えるかのような仕草。素面とのギャップもあいまって、真っ直ぐ過ぎる愛情表現が、堪らなく愛おしい。
「んゅふふ……かくてりゅ、つくるわよぉ……んく……んっ」
そして彼女は、おもむろに、陶酔ワインの瓶を引っ掴み、らっぱ呑み。ぷっくりと頬を膨らませて。
「んむっ……んっ……れるっ……」
「っ……んっ……」
強引なキスと、口移し。たっぷりと送り込まれてくるのは、カクテルのベースとなる、魔界葡萄のワイン。
芳醇な香りが広がって、それだけで心地よい陶酔感。
甘みや酸味をはじめとして、苦味や渋みまでもが、絶妙なバランスで混じり合った複雑な味わい。特筆すべきは、どこまでも堕ちていくようなコクの深さ。
彼女に応え、舌を絡めて味わえば、陶酔感はさらに深く。だんだんと、余計なものが頭の中から抜け落ちていく。彼女だけになっていく。
口移しで味わう事への恥ずかしさは、欠片も残らない。
「ぷは……とろけしろっぷもぉ……ん……」
キスに夢中になり過ぎてしまう前に、どちらからともなく、唇を離す。
彼女から送り込まれたワインは飲み干さず、口に含んだまま。
続けて彼女が手にしたのは、とろけの野菜を使ったシロップ。
液状化した実に、果物のような茎を搾って加え、とろみが出るまで煮詰めた代物。
魔物の魔力に対する抵抗力を徹底的に弱めてしまい、魔界食材の効果などを強烈に増幅させる、魔の液体。彼女はそれを、惜しみなく口に含んで。
「ちゅ……っ……はむっ……れろぉ、ちゅぅっ……」
「っ……」
再び重ねられる唇。二度目の口移し。たっぷりとシロップを絡めながら、蛇の舌が侵入してくる。
そして、シロップとワインをしっかりと混ぜ合わせようと、舌同士をねっとりと絡ませ、掻き回してくる。
それはまさしく、夫婦で行うカクテル作りで。二人揃ってお気に入りの、お酒の愉しみ方。
彼女が上で、自分が下。彼女は口移しで材料を注ぐ。そして、舌で掻き混ぜる。自分は、器としてキスを受け入れ、彼女に応える。カクテルをうっかり呑み干してしまわないように気をつけるのも、立派な仕事。
「れろぉ……はむっ、あむっ、ちゅぅぅぅっ、んぅ……」
「っ……ふぅっ……っ……」
とろけの野菜は、食べ合わせによってその味を変える、魔法の食材。カクテルの材料にはぴったりで。
どろりと濃密なとろけのシロップは、陶酔ワインのコクの深さと、その濃厚で複雑な味わいを、しっかりと引き立ててくれる。
その陶酔感もまた、ワインだけを飲む時の比ではなくて。
めくるめく陶酔感に、世界が急速に狭まっていく。愛しの妻に、収束していく。心が染め上げられていく。
食みあう唇の感触、絡み合う舌、抱き合う温もり。感覚を埋め尽くすのは、エモニカと、エモニカと一緒に味わうこのカクテルだけ。夢中で舌を絡める。
「んっ……ちゅるっ、あむっ……れろぉ、じゅるっ……」
エモニカもまた、無我夢中で唇を重ね、舌を擦り合わせ、そして、たっぷりと唾液を送り込んできて。
甘い陶酔の最中、流れ込んでくるのは彼女の味。そして、とろけのシロップが、彼女の味さえも引き立ててくれる。それは同時に、陶酔ワインとの調和も保ってくれていて。
出来上がっていくのは、愛する人の味が際立つ、渾然一体で極上のカクテル。
舌を絡めれば、その味わいは味覚へと直に擦り込まれていく。彼女を味わって、自分を味わわれて。キスの快楽に耽り、愛の味に酔い痴れて、エモニカに溺れていく。
「ちゅぅ、じゅるっ……んっ、んくっ……じゅるっ、ちゅうぅっ」
「っ……ん……っ」
長いキスの果てに出来上がった、愛のカクテル。水かさを増していくそれが、こぼれてしまいそうになるのをきっかけに、彼女はカクテルを吸い上げ、喉を鳴らして飲み干していく。
それに自分も応えるが、あくまでも自分のペース。こくり、こくりと、丁寧に味わってカクテルを飲み下す。
自然、カクテルの取り分は彼女の方が多くなるが……彼女に貪られる悦びの前には、問題にはならない。
唾液と一緒に混ぜ込まれているのは、彼女の魔力。とろけのシロップが、魔力の効きを格段に高める。
つまり、彼女の唾液は、極上の媚薬と化していて。
カクテルを一口飲み下すだけで、喉が甘く灼けついて、身体の火照りが止まらない。彼女の魔力が染み渡っていく。彼女に染め上げられていく。
「ちゅぅっ、れるっ、ぷはぁ……あなたのかくてりゅ……さいこぉ……」
「んっ……ぷは……ふぁ……ぁぁ……」
全て飲み干し、最後にお互いの口内を舐め回すように味わって、ようやく唇を離す。
絡めあい続けていた舌は既に、快楽と魔力に侵されて、芯まで蕩けきってしまって、ろれつが回らない。
うっとりと、だらりと舌を垂れる彼女の姿に、心を奪われて。
ふわふわとした恍惚感。キスだけで骨抜きにされて、酔い潰されてしまったかのように、足腰が立たない。くったりと、甘い余韻に浸る。
「んゅふふふ……」
力の入らない身体を、蛇体が優しく支えてくれる。そして彼女はおもむろに、服を脱ぎ捨てはじめて。
日々の美容の賜物である、美術品のような裸体を、惜しげも無く魅せつけてくれる。
「あなたも、もっとのみなしゃいよぉ……ほらぁ……」
そして彼女は、ただ裸体を魅せつけるだけに留まらず。だらりと舌を垂らしつつ、その魅惑の谷間に、陶酔ワインを注ぎ始める。
珠の肌を器に、とぷとぷとワインが満たされて、満たされて、ついには谷間から溢れてしまう。それでも彼女は御構い無しに、谷間へとワインを注ぎ続ける。谷間から溢れた赤い液体は、お腹を伝って流れていき……
「ぁん……みてぇ、こーんなに、たっぷりぃ……」
ワインの辿り着く先は彼女の股。もう一つの受け皿。ラミアの身体に脚はなくとも、下腹部と内ももで形作られる女体の窪みは、人と変わらず。当然、液体の流れ出る隙間は存在しない。
そして、魔性の三角地帯は、むっちりと盛り上がった艶かしい蛇腹で縁取られていて。そのおかげで、ただの女体よりも多くの液体を、こぼさずに受け止める事が出来る。
そして、そこは既に、秘所から溢れだした愛蜜が溜まり始め、淫らな香りを放っていて。それに継ぎ足される形で、ワインが流れ込んでいく。
彼女はその身体を酒器に、据わった目でこちらを誘いながら、谷間にワインを注ぎ続けて。ついにはボトルの中身を空にしてしまう。
それだけの液量を、彼女は一滴たりともこぼさず、その身で受け止める。それは、ラミアであり、豊満な肉体を持つ彼女ならでは。
自らの肢体にワインを注ぎ切った彼女は、己の身体を誇るかのように自慢気。
女性の股にお酒を注ぐこの行為を、ジパングではわかめ酒と呼ぶらしい。無毛の場合は、あわび酒とも。
「んゅふふ……わらしのおさけよぉ……ぜぇんぶ……のみなしゃぁぃ……?」
「ぁ……はぃ……いただき……ます……」
そして彼女は、呂律が回らないながらも、たっぷりと魔力を込めて囁いてくる。
とろけのシロップのおかげで、彼女の魔声が、いつも以上に心地良く響く。いつもより深く、心を奪われ、魅了されてしまう。
そして、声に導かれるがままに、胸の谷間へと顔を寄せる。愛しい妻にこうまでしてお酒を勧められては、拒めるはずもなかった。
蒸れた谷間の、甘酸っぱくも優しい匂い。人肌で温められた分だけ、陶酔ワインもよく香る。
息を吸い込むだけで、幸せな酩酊感はさらに深まっていく。
「ん……」
「ぁんっ……んゅふふ……おっぱいワインなんらからぁ……おっぱいもあじわわなきゃ、らーめぇ……」
せっかくの谷間酒をこぼしてしまわないよう、液面にそっと口づけて。なみなみに注がれたワインを、ゆっくりと味わう。視界を埋め尽くす彼女の豊乳と、赤く透き通った先に見える谷間は、極上の肴。
そうして愉しんでいると、彼女は半ば強引に頭を抱きしめ、胸の谷間へとうずめさせてくれて。
その囁きには、魔力が込められたまま。甘く愛しい残響が、頭の中で重なり続けていく。
「……っ……」
「んっ、ぁん、おっぱいおいしぃわよねぇ……?」
むにゅむにゅと柔肉の感触を堪能しながら、舌を這わせて、残りのワインを舐めとっていく。
彼女の胸に甘えながら味わう陶酔ワインの味も、また格別。もぞもぞと位置をずらしながら、谷間を舐め回す。
谷間の奥に舌をねじ込めば、甘く蒸れていて。ただ甘酸っぱいだけでなく、母性溢れる優しい味わい。
酒と一緒に彼女の母性を味わえる谷間酒。そこに彼女の魔声が合わさって、まさに至福の一杯。
「はぁぁ……はぃ……おいしぃれす……」
「はぁん、そうよぉ……ちゃぁんと、きれいに、しなしゃぁぃ……?」
豊乳の上部に溜まった酒を全て舐め取り味わい尽くして、ようやく一息つく。
すると彼女は、上体を反らしながら両手で胸を持ち上げ、下乳の谷間を魅せつけてくる。
「はぃ……っ……ぁぁ……っ」
「んっ、んゅふふ……すてきぃ……」
流れ伝ったワインで濡れた、魅惑の下乳。誘われるがままに、まずは下乳の谷間に顔を埋める。そして、深呼吸。
谷間以上に蒸れきった下乳からは、甘い芳香が、むんわりと広がっていて。陶酔ワインの香りを合わさり、くらくらとした陶酔はさらに深く、深く。
恍惚の中、乳肉を唇で食めば、心奪われる弾力。音を立てないように舌を這わせて、静かに下乳へとむしゃぶりつく。
音を立てないのは、彼女の声に耳を傾けたいから。
「あぁん……おっぱいのつぎはぁ……おにゃかもきれぃにぃ、ぺろぺろしてぇ……?
あんっ、そうよぉ、じょうずぅ……」
甘い声に聞き惚れながら、魅惑の果実を心ゆくまで味わって。その次は、むっちりと肉が付きながらも、要所要所はきゅっと引き締まった彼女のお腹。
下谷間の根本から、綺麗にくぼんだへそまでを繋ぐ、綺麗な縦のライン。ワインが流れ落ちた道筋に沿って、舌を這わせる。
乳肉とは違った引き締まった感触を、たっぷりと舌で愉しむ。
「ひゃん……おへそぉ、ぁん……んゅふふ、いまの、よかったわぁぁ……」
へその中に残っていたワインも、舌を突っ込んで丹念に舐め取って。くすぐったさ半分、気持ちよさ半分の彼女の嬌声。
おもむろにへそにキスをすれば、彼女はご満悦。そのまま、下腹部を流れ落ちたワインの筋も、綺麗に舐め取って……そこで舌を止める。
女体の器にたっぷりと注がれたワインには、まだ口をつけない。わかめ酒を味わうのは、少しだけ我慢。
「んゅふふ……よぉくできましらぁ……」
汗もワインも舐め取り尽くした自分に、彼女は優しく労いの言葉を掛けてくれる。
酔うと甘えてくる彼女だが、甘やかし好きなのは変わらず、普段と違って、わしゃわしゃと頭をなでてくれる。これはこれで、とても心地良い。
「ぁんっ……あまぃの、ほしぃのねぇ……?」
「……あむ」
わかめ酒をとっておく理由も、自分がどうして欲しいかも、愛しの妻はお見通し。
彼女は乳房の先端を寄せ上げて、その先端の膨らみをこれ見よがしに擦り合わせる。
ぷっくり膨れ勃った、彼女の両乳首を、まとめて口に含む。そしてそのまま、おっぱいを横から鷲掴み。
「ほらぁ……ぁんっ、がんばってぇ……たゃーっぷり、きもちよくしてぇ……?」
折角のわかめ酒なのだから、たっぷりの愛蜜を混ぜて味わいたい。彼女はラミアで、アルラウネのような蜜は出るわけではないが、それでも彼女の蜜入りカクテルが飲みたくて仕方ないのだ。
そのためには、彼女をしっかりと気持ち良くしてあげなければならない。
欲望半分、甘えたさ半分で、懸命に彼女の乳房に吸い付いて、揉みしだいて。
「ぁぁん、ぁ、ひゃん……あまえんぼしゃん、にゃんだからぁ……んっ、ぁん……」
すっかり勃起した乳首は、吸うにも甘噛みするにも舐め回すにも、心を洗い流すような心地良い弾力を返してくれる。病み付きになってしまう感触に、片時たりとも、口を離すつもりにはならない。
大迫力の胸は、とても片手ずつには収まりきらず。それどころか、片方を両手で持ったとしても、まだ持て余してしまう。そんな爆乳を揉みしだけば、指が沈み込んで、包み込まれてしまいそうな程。
ふわふわのむにゅむにゅのむちむちでぷるぷるで、女体の柔らかさが余す事なく詰め込まれた夢のような感触は、まさに魅惑の果実。
そして、指に吸い付いてくるような、滑らかでしっとりとした肌触り。あまりの心地良さに、一度揉みしだきはじめてしまえば、指が勝手に動いて、止まらない。
もはや彼女の声からは、魔力が垂れ流しになり始めていて。艶めかしくも舌足らずに誘う嬌声が、頭のなかをぐちゃぐちゃにする。
「んっ、ふぁぁ、あぁっ、にゅふふ、もう、むちゅぅになってりゅ……ぁんっ、かわいぃ……かわいしゅぎるわぁ……」
魅惑の果実と甘い嬌声に魅了されきって、もはや無我夢中。ただひたすらに、愛しの妻のおっぱいを堪能せずにはいられない。
たわわを通り越したそれは、彼女の美容に掛ける努力の結晶。夫婦になってからも、日に日にその美しさを増し、その感触は心地良くなっていく。そして、夫である自分の好みに、大きく育ってくれている。
それを知っているからこそ、その感触がさらに愛おしい。どうしようもなく、虜になってしまっている。
「ひゃん、ぁん、おっぱぃ、しぼっても、まだぁ、おっぱいでないのにぃ、ぁぁん、そんなに、ちゅぅちゅぅ、りゃめぇっ、ぁんっ、しゅきぃっ……」
今はまだ母乳の出ない、彼女のおっぱい。そんな事はお構いなしに、母乳を搾りとるように夢中で手を動かす。一生懸命にひたすらに、二つの乳首にまとめて吸い付いて、乳首の先端を執拗に舐め回す。
エモニカのおっぱいが飲みたい。その一心でたっぷりと甘えて、おっぱいをねだり尽くす。
ないものねだりのわがままをも悦んで受け止めてくれる、淫らな母性。甘やかされるがままに、ねだり続ける。
毎日、彼女を孕ませようと頑張っているが、それよりも早くおっぱいが飲みたい。そんな想いを、絶頂の近づいてきた彼女の身体に懸命に伝える。
「ぁん、あぁっ、んっ、あにゃたっ、あにゃたぁっ、しゅきぃっ、らいしゅきぃっ――!」
淫らながらも、甘くとろけた嬌声。びくん、と彼女の身体が震える。しがみつくように、ぎゅっと抱きすくめられる。
絶頂の最中に紡がれた愛の言葉は、極上の魔声となって、頭のなかを埋め尽くす。幾重にも反響する嬌声の、その残響もまた鮮明。頭の中で、彼女の愛が響き続いて、鳴り止まない。
彼女の悦ぶ声は、興奮を掻き立てながらも、同時に深い安心感を与えてくれる。
「ぁっ、ぁはぁっ、しゅきっ、しゅてきぃ、あいしてりゅっ……」、
絶頂中の彼女のおっぱいに甘え続ければ、彼女はびくびくと身体を跳ねさせ、さらなる嬌声をあげてくれて。
悦んでくれる。それは、甘えても良い、というこれ以上ない意思表示。それに安心を覚え、愛情に甘えて乳搾り。興奮の丈をぶつけて、さらに激しく、さらに熱烈に、揉みしだいて、吸い付いて。
「ぁんっ、しゅごいっ、またイっちゃ、ぁっ、しゅきぃっ、しゅきぃっ……!」
愛しの妻は甘えられて、がくがく、びくびくと、幸せそうによがって、乱れて。素面では中々聴く事のできない、剥き出しの愛の叫び。
その声に魅了されるがまま、心を奪われるがまま。絶頂の最中、さらなる絶頂を迎える彼女に、しゃぶりつき続ける。
「ぁん、あぁっ、らめよぉ、もう、あふれちゃう、おしゃけがこぼれちゃうかりゃ、らぁめぇっ……」
彼女の声に突然交じる、切ない響き。もっと甘えて欲しい、けれどもいけない。そんな板挟みを感じさせる声。
どうすればいいのか分からなくなって、母乳をねだるのを止める。
「はぁ……はぁ……っ……むちゅぅに、なりしゅぎよぉ……もう、かわぃぃんらからぁ………わらしのおさけぇ……できらのにぃ……」
「ぁ……」
絶頂から降りつつある彼女に説明されてようやく、お酒の事を思い出す。愛蜜たっぷりのカクテルを作るために、おっぱいに甘えていたはずなのに。途中からすっかり夢中になってしまっていたらしい。
「わらしのおさけをのまないなんれぇ……らめなんらから……でも、あまえんぼ、らぁいしゅき……」
ぷっくりと頬を膨らませ、不機嫌なフリをする彼女。口元は嬉しそうに緩みきっていて、可愛らしくて仕方がない。
「……」
そして、彼女の股へと、淫らな酒器へと目を落とす。ゆらめく液面に、明らかに増えたわかめ酒の水かさ。随分と余裕があったはずなのに、もはやこぼれ出る寸前。
それほどまでに大量に、愛の蜜が溢れだしていたという事。彼女が止めてくれなかったら、折角のわかめ酒が台無しになっても、延々と甘えていたに違いない。
彼女は絶頂の最中であっても、お酒をこぼさないように頑張ってくれていたらしい。その健気さには、心を鷲掴みされるばかり。
「はぁ……っ……んゅふふ……みれぇ……?」
もはや彼女は、辛抱たまらない、といった様子で息を荒げていて。酒をこぼさないようにしながらも、いやらしく身悶え。
身体に絡みついた蛇体は、催促するようにぎゅっと締め付けてくる。
「はぁ……とても……きれぃ、れす……」
紅く澄みきった陶酔ワイン。その奥で層を形作るのは、砂糖を煮詰めたかのように透明な、彼女の欲望と愛の蜜。
彼女のカクテルは、ワインと蜜の二層構造。濁りは少なく、しっかりと底まで見通す事が出来る。
器の底にあるのは、溢れ出る蜜の源泉。幾多の交わりを経てもなお、生娘のように綺麗なままの割れ目。その入り口はぴっちりと閉じながらも、いやらしくひくついている。
愛しい妻の極上の女体を、赤と透明、二層の液体が華やかに彩る。
たっぷりと注がれたワイン。それに釣り合う量の愛蜜が、欲情の程をはっきりと物語る。
美しくもいやらしいその光景は、もはや芸術。
今までなんども目の当たりにしているのに、今回も、どうしようもなく魅入られて、見惚れてしまう。
「さぁ……めしあられぇ……?」
「はぃ……いたらき……ます……」
そして彼女は、その尻尾の先端で酒と蜜をかき回し、混ぜ合わせて。美しい二層構造が崩れる代わりに、薄赤色のカクテルが出来上がっていく。
とろりとした液面。甘くむせかえるような女の匂いに、陶酔ワインの複雑な香りが加わって。出来上がったのは、ただ濃密なだけでなく、底が見えない程に深く淫らな芳香。
惹きつけられて、抗えない。誘われるがままに、口を寄せる。
「っ……んく……んっ……ん……」
「んゅふふ……」
その味わいは、口移しのカクテルよりも遥かに濃厚。甘酸っぱさが舌に絡みついて、味覚を征服されるかのよう。とろりと濃い飲み口が、喉に気持ち良い。
一度口をつければ、止まれない。彼女自慢のカクテルは、病み付きになってしまう魔性の味。
お酒はゆっくりじっくりと味わうのが好みだが、このカクテルは別格で。こぼさないように気をつけながらも、ぐいぐいと喉を鳴らして飲み進んでしまう。どうしようもなく欲望を掻き立てられて、無我夢中で貪ってしまう。
視線を釘付けにするのは、彼女の花園。その割れ目から、透明な愛蜜が今もなお溢れ出すその光景を、食い入るように見つめる。
「っ……んっ……」
「はぁ……いいのみっぷりよぉ……」
身体中に沁み渡っていく彼女の魔力。その魔力の量は、唾液とは比べ物にならない。宙に浮かぶような昂揚感。
陶酔ワインの効果も合わさって、愛しい人にずぶずぶと浸っていくような感覚。
一口ごとに、くらりと、彼女以外の世界が揺らぐ。心地良い酩酊感に呑まれて、身体が熱くとろけていく。
「……っ、じゅる……っ……っ……」
「ぁんっ、そうよぉ……はぁん……ぁんっ……」
減っていく水かさに合わせ、彼女という杯に、さらに深く顔をうずめる。
舌を這わせて舐め取りながらもカクテルを飲み干していけば、ついに辿り着くのは彼女の秘所。陶酔ワインが滴り、蜜の溢れるその場所にしゃぶりついて、わかめ酒を最後まで味わい尽くす。
彼女の手に頭を押さえられて、腰をぐりぐりと押し付けられながら、割れ目の間まで、しっかりと綺麗に舐めとろうとする。しかし、溢れ出る蜜はとめどなく、終わりが見えない。
溢れる蜜を、延々と舐め取り続ける。
「ぅ……ぁ……」
しかし……気が付けば、身体に力が入らない。気持ち良くて良い気分なのに。
たっぷりとカクテルを飲まされて、酔いに酔って、もはやろくに動けなくなってしまっていた。
「あらあらぁ……つぶれちゃっらわねぇ……?
んゅふふぅ……くったり、かわぃぃんらからぁ……かいほー、してあげりゅぅ……」
「ぁ……」
この時を待っていた、と言わんばかりの嬉しそうな声。抱き上げられて、ベッドに横たえられて、覆い被さられて、慣れた手つきで裸に剥かれてしまう。
彼女に、酒の弱さを咎める素振りはない。それどころか、愛おしげな囁き。彼女は呑んだくれだけども、自分の酒に弱い所も、しっかりと愛してくれる。飲めば喜び、飲めなくなれば愛でてくれる。だからこそ、彼女との酒盛りはやめられなかった。
どくどくと心臓が高鳴っているのに、聴こえるのはエモニカの奏でる音だけ。
見える景色は霞んで、歪んで、それなのにエモニカの姿だけは、はっきりと視える。もはや、エモニカしか視えない。
頭の中もすっかり染め上げられて、彼女一色。
たちこめるのは、淫らで甘い色香。いつまでも包み込まれていたい。
「んゅふふ……さぁて……たべてあげりゅ……」
耳元で欲望に満ちた囁き。それはまさに、捕食者の響きで。
もはや既に、自分はエモニカの虜なのに。魅了され尽くしているのに。彼女はさらに魅了を重ねようとしてくる。酔った彼女は限度を知らず、未だに魔声を止めはしない。
「いたらきまぁすっ……はぁぁぁんっ……」
覆い被さったまま、身体を密着させたまま。胸を押し付けたまま、耳元に口を寄せたまま。
彼女は、巧みに腰を使って……肉棒は、ぬぷりと?み込みこまれてしまう。
「ぁっ、ぁぁぁ……」
ぐちゅぐちゅに潤みきった、準備万端の彼女の膣内。肉棒にぴったり馴染んで絡みつき、吸い付いてくる、自分専用の名器。弱点を知り尽くし、的確に責め尽くす激しい蠢き。欲望の坩堝と言うべき、狂おしい熱。愛しい妻の身体は、まさに極上。
もはや、病み付きという言葉では到底言い表す事のできない、魔性の快楽。彼女無しではもう生きられないとさえ思えてしまう程。
しかも、今の自分は、彼女の愛蜜を、魔力を飲み干して、媚薬漬けとも言うべき状態で。
身も心も、既にぐちゅぐちゅのどろどろだというのに、天国のような快楽に、さらに甘く融かされていく。
「ぁぁんっ、せーえき、れてりゅっ、おぃしぃ、しゅきっ、さいこぉっ……
もっとぉ、もっとちょうらいっ……しゅきぃ、しゅきよっ、あにゃたぁっ……」
「ぁひ、ぁっ、あぁぁ……えもにか、しゃんっ……」
当然、挿れただけで絶頂に導かれ、恍惚の中、精を搾り取られて。一滴も逃さず、孕みたがりの子宮に飲み干されていって。
この世の物とは思えない程の快楽と、身を包み込む優しい温もり、底なしの欲望と愛情に、どっぷりと浸かる。
精を飲み干しながら囁かれる彼女の魔声は、とびきり甘く、熱っぽく、蕩けていて。彼女の感じる悦楽を、頭に直接教え込まれるかのよう。頭の中で反響する声に聴き惚れて、夢のような陶酔感。理性も何もかもが、彼女の囁きと快楽に塗りつぶされていく。
宙に浮かぶような酩酊感の中、陶酔に陶酔を、魅了に魅了を重ねられて、考えるのは、エモニカの事だけ。感じるのは、彼女だけ。エモニカだけが全てで、世界は彼女と二人きり。
今日も酒浸りに、ただひたすらに愛し合う。お互いにどこまでも酔い痴れて、どこまでも幸せに溺れていくのだった。
夕方の酒場、そこそこに賑わってはいるが、酔い潰れるには少し早すぎる時間。ラミアがカウンターに突っ伏してくだを巻いている。
入店時には既に酔いが回っていたから、どこかの店からハシゴしてきてこの有様なのだろう。
机の上に乗せられた、大きな胸。その上に頭を置いて、枕代わり。
むにゅりとたわむ豊乳は確かに眼福なのだが……
「……虜の果実酒と、虜の果実の盛り合わせです」
この酒場で働いている自分にとっては、あまり有難くない手合いだった。
ペースを考えずに呑んでいる。酔い方も見るからに面倒そうなタイプだ。
出会いが無い、と嘆く彼女に注文の品を差し出す。
絡まれないように、と願いながら。
「……ねぇ、なんか言いなさいよ」
じっとりとした視線。自身の胸を枕代わりにしながら、こちらを半ば睨みつけるかのよう。
「……ご、ご注文でしょうか」
「ちがう……なんか言いなさいって言ったでしょう」
酒場で働いていながら、自分はあまりこういった状況の切り返しが上手くない。
こういう時に気の利いた台詞を返せるような奴は、お客さんと良い雰囲気になって、そのまま宿屋の方で熱い夜を過ごすわけで……自分は売れ残りともとれる。
「あー、その……きっと、良い出会いがありますよ……?」
故郷で学を収めたはいいが、世知辛くも食い扶持にありつけず。途方に暮れていたそんな中、良い場所があるとジパング装束の行商人に紹介されたのが、親魔物派であるこの街。
男に飢えた魔物に身体を売る……という選択肢もあるらしいのだが、流石に男娼やヒモ紛いの生活をする気にもなれず。
健全な店を謳うこの酒場のウェイターだかバーテンダーだかに、独身男性である事を理由で一発採用され……
「……なんで疑問系なのよぉ」
そして今、僕はラミアの女性に絡まれている。目の前の女性に色気はあれども、可愛げは皆無。
酔っ払い特有のめんどくささを遺憾なく発揮している。
ぺしんぺしんと、尻尾が不機嫌そうに床を叩く。
「……す、すみません」
こんな早い時間から呑んだくれるのを、絡み酒するのをやめれば、嫁の貰い手も見つかりましょう。
そんな言葉が喉から出かかるのを押さえ込んで、苦笑い。
「……」
据わった眼で僕を見るラミア。その赤く艷やかな唇の間から、二股の舌がちろちろと、せわしなく出入りする。
「れろ……あむ……」
彼女は突っ伏したまま、小振りな虜の果実を摘み、舌で絡め取って。そのまま、口へと運びこむ。
その間も、据わった眼は変わらず。僕を値踏みするように、じろじろと眺めてくる。
非常に、居心地が悪い。
「……ねぇ」
「はい」
ひとしきり僕の事を眺めたあと、彼女は口を開く。
「わたし、魅力的よね?」
「……ええ、まあ、魅力的だと思います」
目の前の彼女が魅力的か否かと言えば……自分の目には魅力的に映る。
文句無しの美人だし、その豊満な胸は、男であれば心を惹かれないわけがない。
テーブルに置くだけでなく、セルフ乳枕、とでも言うべき事が出来てしまう圧巻の大きさは、控えめに言っても眼福という物で。
ただ……幾ら美人でも、絡み酒を良しとするかと言えば、否。そんな内心が滲んで、どうにも歯切れの悪い返事を返してしまう。言ってしまえば、半分はお世辞だ。
「んふふ、あなたは見る目があるようねぇ……
そうよ、魅力的なのよ、わたしは……
虜の果実だってこんなにたくさん食べてるんだから……」
有難い事に、彼女が僕の内心に気づく様子はない。魅力的という言葉を間に受けて、途端に上機嫌。
突っ伏すのをやめて、虜の果実をつまみに、虜の果実酒を呑み始める。
「……左様、ですね」
案の定、虜の果実尽くしの注文は、虜の果実の美容効果を求めていたらしく。しかし、目の前の彼女は先ほどまで、出会いが無いと、くだを巻いていたわけで。
それを踏まえると、男を捕まえるために必死というか、涙ぐましい努力というか。
『行き遅れ』などという失礼極まりない言葉が思い浮かぶ。が、自分自身も生まれてこのかた色恋沙汰はなく、他人の事は言えない。
「ほら見なさいよ、この鱗のツヤ……他の子なんて目じゃないでしょう……?」
「……綺麗、ですね。
ただ、こうしてラミアの尻尾をじっくり見るのは初めてなので……他の方との比較は」
自慢気に差し出されるのは、蛇尾の先端。むっちりとした蛇腹に、照明を反射する艶やかな鱗。手入れの賜物なのかは分からないが、確かに綺麗だ。
単なる大蛇のそれでなく、女を感じさせる艶かしさが、彼女の尻尾にはあるような気がする。
「んふふー……綺麗よね、そうよねぇ……
でも…………良い出会いがないのよぉ……おかしいわ、こんなの……」
褒められて機嫌を持ち直したかと思いきや。唐突に、がっくりと落ち込みだす。
酔いが回っているせいで、どうにも情緒不安定。
おまけに、話が振り出しに戻ってしまっている。
「あー……あちらの彼とかどうですか」
面倒な事になったな、と思いながらも、適当な同僚を見つけて指差す。
自分と同じく、食うに事欠いてこの街にやってきたらしい後輩は、僕より遥かに愛想良く、お客に接している。
良い出会いを求めているのなら、あの辺りなら気に入ってくれるのではないだろうか。
「タイプじゃないぃ……わたしにも好みぐらいあるわよ……それともなによ、男なら誰でもいいと思ってるの?」
「……ごもっともです」
男なら誰でも良い。そんなつもりで言ったわけではないが、酔っ払いとは得てして面倒なもので。
露骨な不機嫌さを隠しもせず、テーブルを尻尾でぺしぺし叩き始めるラミアを前にして、内心途方に暮れる。
「そもそも売約済みよ、売約済みぃ……そういう匂いがしたもの」
「左様……でしたか……」
どうやら、既に後輩には相手がいたらしい。宿に連れ込まれていた記憶はないのだが、休日の間にでも何かあったのだろうか。
言われてみれば、確かに、カウンターを挟んでサキュバスと談笑する姿はそういう風に見えなくもない。
彼女の言葉が本当なのであれば、魔物の嗅覚とは恐ろしいものだ。
ああ、彼が売約済みになったのであれば、後で統計ノートに書き記しておかねば。
一つ前の休日に事があったなら……平均より早くこの店を辞める事になりそうである。
「……いっつもそうよ……いっつも、先を越されて……はぁぁ……」
「それはまた、巡り合わせが悪いというか……」
頬杖をついて、溜息をついて、愚痴を吐く。そんな彼女に迂闊なことを言えば、まさに藪蛇。
当たり障りのない言葉をなんとかして探し出す。
「そうよ……巡り合わせが悪いの……この前、里に教団兵が攻めてきたときも…………
魔法で手厚く支援してたのよ……?そしたらぁ……そしたらぁぁ……」
「ええと、一体何が……」
しかし、当たり障りの無い言葉が、会話の流れを変える事もなく。
彼女の愚痴は、だんだんと速を上げていく。
「私のお眼鏡に叶うような男はぜーんぶ、他の子が先に捕まえていっちゃったのよぉ……わたしもがんばったのにぃ……助けてあげたのにぃ……」
「それは……あんまり、ですね」
気が付けば、目の前の女性は既に、半ば涙目になっていて。その潤んだ瞳が、物憂げを通り越してどんよりとした眼差しが、自分を見据えていた。
そんな彼女を見ていると、不覚にもいたたまれない気持ちになってしまう。
有り体に言えば可哀想で、同情を誘われる。
「あんまりでしょう……?でも、喜んでるし、水は差せないわよぉ……
早い者勝ちなのはしかたないし、わかってて支援したし、あの子達にも悪気はないし……幸せになってほしいとも思ってたし……わかってたけどぉ……お礼にいろいろもらっちゃったけどぉ……
でも……あんまりよぉ……うぅ……わたしだって、ステキなだんなさまがほしいー……らぶらぶしたいー……」
「あー……気を遣って、割を食ってしまったと」
ただの面倒な酔っ払いだと思っていたのだが、どうやら、そういうわけでも無いらしい。
彼女の様子を見ていると……苦労人であるとか、割を食いがちだとか、そんな不憫な女性に思えて仕方が無い。
これだけ酔って悪口の一つも出て来ないのだから、根は良い人なのだろう。プライドはやたらと高そうだが。
「そんなもんじゃあないけどぉ……うん……そうよ……そうよぉ……」
「災難、ですね……でも、損をしがちなぐらいの方が、素敵だと思いますよ」
肯定してるのか否定しているのかイマイチ分からないが、他人のために我慢の出来る人であるならば……そういう女性は、自分としても好ましい。
特に、他の魔物を見てきた身としては、尚更にそう思う。
「すてき……?」
「はい」
遠慮がちで、控え目で、お人好し。割を食い、損をする筆頭のようなタイプ。だからこそ、そういう人が幸せになるべきだと思うのだ。本音だからこそ、淀みなく肯定する事が出来た。
尤も、彼女がそういうタイプの女性かどうかについては、全く言及していないわけである。
真に迫った反応であるが、酒の場の不運自慢など、あまりアテになるものでないだろう。
「んふふー……わたしのみりょくが分かるなんれぇ……みるめがありゅわぁ……」
「はぁ。ありがとうございます」
自身の魅力を肯定されたのが余程嬉しかったのか、褒められ慣れていないのか、酔っているせいなのか、それとも全部か。
彼女は途端に機嫌をよくして、頬に手を当て身悶え。
もはや半ば、ろれつも回ってない状態。だらしなくも、色艶に満ちた姿。偉そうで自信過剰な所も、それなりに愛嬌というものだろうか。
「んゅふふ……ふゅふふ……あなたがその気ならぁ……どうしれもっていうならぁ……
かわいがっれあげるわよぉ……?」
舌をちろちろと出し入れしながらの、熱っぽい視線。腕を組んで寄せ上げられた乳肉は、たぷんとこぼれんばかりに柔らかそう。
カウンターから身を乗り出し、顔を寄せてきて。
気の強そうな顔立ちは、酒のせいで赤らみ、とろんと蕩けていて。文句無しの美人が、目の前に。
吹きかかる吐息は、酒気を帯びながらも、絡みつくように甘い。
「えっ……あぁ……かわい、がって……?」
夜のお誘い。この街に来てそれなりにもなるが、今までは幸か不幸か、魔物の客に誘われるといっても、せいぜいがからかい半分だった。
しかし、目の前の彼女は……本当に自分を宿に連れ込む気があるように見えて。初めての出来事に狼狽えてしまう。
「その、嬉しいのですが、今は……勤務中、なので……」
魔物と言えど、美人に誘われたのだ。気に入ってくれた事は素直に嬉しいし、彼女に性的な魅力を感じているのも確か。
かといって、初対面の女性と関係を持つ事は出来ない。
初めては新婚初夜に、とまでは言わないにせよ……行為には責任が生じるのだから。
後ろ髪を引かれる思いで、なるべく角が立たないよう、適当な言い訳をつけるが……
「んふ……まじめねぇ……じゃあ……おしごとおわるまれ……まってあげりゅ……」
「え、ええ……いや、さすがにそれは……悪い、ですよ」
「わたしがぁ……いいって……いってるのよぉ……」
「自分が気にします」
「きにしなくていぃー……」
「……そう言われましても」
言い訳を重ねども、彼女はぐいぐいと食らいついてくる。
自分のした事と言えば、少し愚痴を聞いて慰めて、褒めてやっただけ。
たったそれだけで彼女は、自分なんかを相手にその気になってしまっている。
言い方は悪いが、酒が入っている事を考えても、あまりにもちょろい。
余程、出会いに飢えていたのだろう。不憫で仕方がない。もっと良い男がいるだろうに。
「ぁぁぁ、もぅ……このわたしがぁ、かわいがっれあげるんらからぁ……えんりょするなぁ……」
自分を見つめる据わった眼差しは、飢えた蛇の眼差し。
行き遅れの必死さが滲み出ていて、不憫な事この上なく……同時に恐ろしい。
一度捕まえたら離さない。そんな執念深さを感じ、戦慄に背が震える。
「……」
マスター夫妻に目線で助けを求めるが……手を出してしまえと言わんばかりに、にやにやとした笑みが返ってくるだけ。助け舟は期待出来ない。
ああ、何とかこの場を凌がなければ。それが自分のためでもあるし、おそらくは彼女のためでもあるのだから。
「……ふぅ」
結局、其の場凌ぎのやり取りを繰り返しながら酒を勧める事で、彼女は完全に酔い潰れてくれた。
ばったりと眠った彼女は全く起きる気配を見せず。結局、マスターが宿に運び込んで寝かせてくれた。ラミアの身体も軽々と運べるのだから、魔法というものが羨ましい。
「はぁ……」
自室のベッドに倒れこめば、名前も知らない彼女の姿が、やたらと脳裏にちらつく。
彼女の誘いを拒んだ、自身の選択は正しかった。そこに疑いの余地はない。
しかし、そうだとしても、勿体無い事をしてしまった。
豊満な身体つきに、長くぬらついた舌、艶やかな唇……呂律の回らない声も、やけに色っぽく。赤みを帯び、しっとりと上気した肌も堪らなかった。
あの極上の肢体を味わえたであろう事を、女体という物を知れたであろう事を考えると……後悔の念さえ浮かんでしまって。
眠れないまま、夜は更けていく。
「あ……いらっしゃいませ」
夜の更けた頃合い、扉の開く音。その方向に目をやれば、そこには昨日のラミアの姿。
彼女の姿に、昨日の事を思い出す。
酔った彼女に絡まれ、ご機嫌を取っていたら、何故か気に入られて。そして、そのまま宿屋へと連れ込まれそうになり……拒んでしまった、逃げてしまった。
もし、彼女が昨日の事を覚えていたなら……恥ずかしく、気まずく、その上で期待してしまう。
今日もまた、自分の事を誘ってくれないかと。
「……あら」
つい、彼女と目が合う。
理知的な顔立ち、眼差し。いわゆる、知的な美女といった印象で。
酔っている時とは、ずいぶんと違って見える。
「チャーム・ホワイトを頂戴」
彼女は当然のように、自分の目の前の席につく。やはり、昨日の事を覚えているのだろうか。
チャーム・ホワイト。
陶酔の果実による白ワインに、乳白色の虜の果汁、そしてヨーグルト。
なめらかな口当たり、程良い甘さが飲みやすく、こちらの国では人気なカクテルだ。
味だけでなく、魔界の植物による効果も人気の理由である。
陶酔の果実は、その名の通り心地の良い陶酔をもたらす。意中の相手の事だけを考えられるようになるのだとか。
「承りました」
シェイカーを手に取り、カクテルの材料を計り注いでいく。
「ふふ……どうしたの?」
「い、いえ……何も」
ふと、彼女の方を見ると……また、目が合う。
妖しい微笑み、背筋をくすぐる声艶。
酔い潰れた無防備さとは違った色香に、ぞくりとしてしまう。
「んふふ……今日はなかなかカワイイじゃない、貴方。
飲み過ぎちゃってあまり覚えていないけど……昨日はあんなに無愛想だったのに」
「そ、そう、でしょうか」
今日の彼女は、最初から上機嫌。
そして、昨日の事はあまり覚えていないらしい。少なくとも、彼女のご機嫌取りをした辺りについてはすっかりと抜け落ちてしまっている様子。その後の事についても、だろう。
であれば、自分が気に入られるような理由はないはずなのだが……彼女は微笑み、こちらを見つめてくる。話しかけてくる。
覚えていないからといって、なかった事になったわけではないかのように。
そんな彼女の振る舞いが、どうにも不思議でならない。
「ええ、昨日と全然違って見えるわ。まだお酒も入ってないのに」
「……左様、ですか」
割った氷の角を落とし、シェイカーに手早く詰め込んで、蓋を閉める。
彼女の視線は、自分の手元に。カクテル作りの様子をまじまじと見られている。
それ自体は、特に珍しい事でも無いのだが……今回に限っては、彼女に値踏みされているようで、緊張してしまう。
「……」
振り始めはゆっくり、徐々に速度を上げて、速く、短く一定のリズムを刻む。
手首の返しを利かせて、斜め上、斜め下。中身が8の字を描き、よく混ざり合うように。
金属製の容器から伝わる冷たさ。指先で、カクテルが冷えていくのを感じ取る。
「どうぞ」
冷えた頃合いを見計らい、乳白色のカクテルをグラスに注ぐ。そして、彼女へと差し出す。
この乳白色の色彩も、魔物に対する人気の理由……というのはマスターからの受け売りだ。
確かに、白濁した液体を口にしている女性というのは、少し卑猥である。魔物の価値観には、未だに馴染めないが。
「ん……美味しいわ。手馴れてるのね、貴方」
グラスに口をつけ、満足気な微笑み。細長い舌が唇を舐め取る、その光景が艶かしい。
「他が不慣れなだけであって……手慣れているわけでも。入れ替わりが激しい中で、少しばかり長く勤めているだけですよ」
自分の先輩や同期は概ね、婿に貰われる形で店を辞めていった。
独身男性が貴重というこの国の現状や、魔物の好色さには驚くばかりだが、それはさておき。
気が付けば自分は、この店で働く独身男性の中で一番長く勤めている男となった。
それが、他に比べてカクテル作りが手馴れている理由だ。
尤も、一年も勤めていない以上、新米と言えば新米なのだが。
「ふふ……そうなのね」
嬉しそうな、親しみのような物を浮かべた笑顔。同情されている、そんな風に感じない事もない。
「ええ。有り体に言えば売れ残りという奴です」
失礼な事この上ない言い方ではあるが……仲間が居て嬉しいという事なのだろう。
出会いに恵まれないという一点では、確かに自分達は似通っている。
尤も、自分は彼女ほど必死ではないし、現状にも納得しているわけだが。
「む……売れ残りだなんて。自分を卑下するのはダメよ」
「とは言われましても……客観的事実ですので」
「客観的事実って……根拠はあるの?」
自分の言葉を聞いて、彼女は眉をひそめる。
とは言え、自分が売れ残りだというのは紛れも無い事実なのだ。
「……勿論。
男性従業員が就任してから、客に引き取られて退職するまでの日数……これについて統計を取っています。その平均日数は」
学者になる事こそ叶わなかったが、確かに学を修めた身。根拠も無しに自身を売れ残りと称しはしない。
元は興味本位で始めた事であったが、この統計は自分の男性的魅力に対する知見を与えてくれた。
自身の男性的魅力が他と同等であるという仮定は棄却される。そして自分は、それを否定しない。
せめて、己の積み上げてきた物に対しては真摯でありたい。
「ストップ」
「は……はい」
不機嫌そうな声に、ふと我に帰る。気が付けば、彼女は険しい表情を浮かべていた。
ああ、やってしまった。
世の中の大多数の人間……特に女性にとって、この手の話は非常に退屈な物であるのを、つい忘れてしまった。
「……ダメよ、そういうの。哀しくならないの?」
「納得はしていますが……まあ、少しは」
「なら、ダメ。わかった?」
彼女の反応は、自分が想像していた物とは少し違った。
自分の話が退屈であると一蹴するわけでなく、諭すようにこちらを見つめてくる。
「は、はい」
「ふふ……よろしい」
戸惑いながらも頷けば、目の前の彼女は柔らかに笑って。
昨日、呑んだくれていたのと同一人物とは思えない程に、優しい微笑み。
「それに、貴方。……私好みなのだけれど。
私の好みに文句をつけるのも、ダメ、よねぇ?」
「っ……は、はい……ありがとう、ございます……」
にぃ、と口角を吊り上げ、彼女は妖しく笑う。
自然な所作で伸ばされる手。しなやかな指に、頬を撫でられる。
甘く、思わせぶりな言葉。心臓を握られたかのように、ドキドキしてしまう。
「ふふ……私はエモニカ。貴方は?」
「ま、マイザー……です……」
そしてようやく、自分達は名前を教え合う。名前を教え合う、それ自体は特別な事でも無い。
「うふふ、可愛い響き……今日はたっぷりお喋りしてあげるわ、マイザー……」
「お手、柔らかに、お願いします……エモニカ、さん」
視線を交わしながら、確かめるように、艶やかに、名前を呼ばれる。
それは、今まで味わった事の無い、ぞくぞくするような心地良さと高揚をもたらしてくれて。
気づけば自分も、彼女の名前を呼び返していた。
「……と、まあ、食うに事欠いた所を拾われる形で、この店で働く事となり……今現在に至るわけです」
自分は、彼女の言葉通り、殆ど付きっ切りで会話を交わしていた。
昨日とは打って変わって、彼女からは愚痴もなく。延々とお喋りに付き合わされるのかと思っていたが、彼女は自分に質問を投げかけてきて。
その結果として自分は、酒の肴には向きそうもない己の人生について語る事となった。脚色も無く、事実を述べるだけ。
しかし、目の前の彼女は、興味深そうに聞き入り、時折グラスを傾けながらも続きと仔細を催促してきた。
結局、生まれや育ち、交友関係や学に関するまで、自分に関する情報を概ね吐き出し切ってしまった。
平凡な生まれ育ちで、書物が友人。魔法使いに憧れるが、才能には恵まれず。
魔法が駄目ならと、家を出て学を修め、学者を志すも、最終的には食うに事欠く。要約すればその程度の、つまらない話のはずなのだが。
「ふふふ、なるほど……つまり童貞なのね、んふふ……」
そして、話を聞き終えた彼女は、どうにも上機嫌。
童貞である事を笑っているようにも見えるが、その声にからかいや軽蔑の色はなく。ただただ、上機嫌。
きっと、酔いが回ってきているのだろうか。
「まぁ……話した通り……女っ気の無い人生でした、ので。機会に預かれなければ当然、そうなります」
童貞である事は、今更恥じる事でもないのだが……彼女の口からそれを言われれば、それはそれで複雑な気持ちだ。
男として若干の情けなさを感じる反面、彼女のもたらす熱っぽい響きに、ぞくりと来てしまう。
「んふふ……でも、この街に来てからは、幾らでも機会はあったんじゃないかしら……?
イケナイお店で働くとか……ヒモになるとか……」
「それは……まぁ、プライドの問題であるだとか……男であるからには責任を取らなければならないとか……」
「うふふ、そういうの好きよ?マイザー……」
何かが琴線に触れたのか、眼を細めて、ぺろりと舌舐めずり。
唾液に濡れた唇が灯りを反射し、つやつやと煌めく。
満足気に吊り上がった口角に、鋭い眼光。その視線は、まるで絡みつくかのよう。
「あ、ありがとう……ございます」
先にも増して、ぞくりとした感触が背筋を通り抜ける。悪寒めいているのに、気持ち良い。
捕食者めいた彼女の微笑みはとても綺麗で、見惚れてしまった。
エモニカとの談笑の最中、ふと壁の時計を見やる。
気が付いた時には既に、勤務時間の終わりを過ぎていて。
「あ……時間、ですね」
「ふふ……お仕事お疲れさま」
いつもは時間きっかりに上がる自分が、時間を忘れて話し込んでいた。その事実に、少しだけ驚く。
しかし、今日はこのまま部屋に戻ってしまうのも、名残惜しい。
「ん……んく……ふぅ……」
そんな事を考えていると、エモニカは、おもむろにグラスの中身を飲み干して。
空になったグラスをことりと置いて、席を立つ。
そして彼女はカウンターから身を乗り出してきて……
「ねぇ、マイザー……」
「は、はい……」
ねっとりと絡みつくような、甘い囁き。火照った吐息が、耳をくすぐる。
とろけてしまいそうな程に甘美で、熱を帯びた響きが、頭の中を反響していく。
目眩のような恍惚感。名前を呼ばれただけなのに、くらくらして気持ち良い。
「アナタのお酒で酔ってしまったわ……
だから……家まで送っていきなさい……?」
「ぁ……ぜひ……エモニカさん……」
続けざまに囁かれる誘いは、堪らなく魅力的。彼女と、もっと一緒に居られる。それを断る理由は考えもつかず、こくりと頷く。
「んふふ……よろしい。片付けが終わるまで待っててあげる……」
「っ……ぁ……い、いますぐ片づけます……」
含み笑いの妖しい音色だけでなく、舌舐めずりの水音までもが、反響して、繰り返されて。背筋がぞくぞくして、気持ちよくて……今にも食べられてしまいそう。今すぐ食べられてしまいたい。
そんな衝動に駆られ、熱に浮かされながらも、手を動かすのだった。
「………」
月灯りに照らされながらの夜道。肌寒い風が、思考を蝕む熱を冷ましていって。
そうして冷静になって初めて、自身の置かれている状況を本当に理解した。
いや、自分がどんな状況にあるのか、この先どうなってしまうのか、それは分かっていたのだが……すっかりと彼女の声に魅入られてしまっていた。
「んふふ……」
背中に押し当てられる柔らかな感触。上機嫌な含み笑い。回された細腕は、しっかりと自分の身体を捕まえていて。
その手は、鼓動を確かめるかのように胸元に添えられている。
夜道でエモニカと、魔物の女性と二人きり。その上、背後からしっかりと抱きすくめられて、捕まえられてしまっている。
そして何より……自分は、彼女を家に送って行くと約束してしまった。
送っていくとは名ばかりで……自分が彼女に持ち帰られてしまっている、といっても過言ではないのだろう。
「っ……」
彼女はこのまま、自分を家に連れ込むつもりに違いない。そしてその後、どうなるかは想像に難くない。
捕食者めいた彼女の笑みを、妖艶な舌なめずりを思い出せば、それぐらいは分かる。
しかし、押し当てられる柔らかさ、心地良い温もりが、熱烈な抱擁が、否が応にも期待を膨らませる。思わず、生唾を飲んでしまう。
酔った勢いで一夜を共にするなどあってはいけないのに、期待してしまう。
期待に勃ってしまったモノは、邪魔にならないようにそれとなく、ポジションを調整しておく。股間にテントを張っているのを見られでもしたら……もう、どうすればいいかわからない。
「え、エモニカさん……くっつきすぎ、では……」
「はぁ……ん……だって、夜風が寒いんだもの……うふふ」
「あ、あまり、くっつかれると……」
「気持ち良い、わよねぇ……ドキドキしちゃうわよねぇ……?興奮、しちゃうわよねぇ……?
んふふ……ほんとは喜んでるくせに、照れちゃって……」
案の定、彼女は抱きついたまま離れるつもりはなく。かといって、無理やり振り払う気には到底なれない。
魔性の声にそそのかされた結果とは言え、彼女を家まで送って行くと約束してしまったのは、他ならぬ自分なのだから。
それに、彼女の抱擁は気持ちよく、離れるのは名残惜しい。
このまま進めば、いけない事になってしまうと分かっていても……彼女の感触を、好意を喜んでしまう。
「ぅ…………」
図星を突かれてしまうと、言い返せない。魔の囁きがなくとも、手玉に取られてしまう。
女性の扱い方、あしらい方など全く心得ていないのだから、どうしようもない。
彼女の柔らかさを、漂う色香を意識してしまうだけで、途端に考えが回らなくなってしまう。取り戻したはずの理性が、じわじわと蝕まれていく。
「うふふ、カワイイ……はぁん……ますます気に入っちゃったわぁ……」
熱っぽい吐息と共に、抱擁がより一層強まる。まるで、逃がさないと言わんばかり。
滲み出る執念深さに、理性は警鐘を鳴らす。けれども、むにゅむにゅと擦り付けられる魅惑の感触が、それ以上に気持ち良い。
押し付けられるだけでもどうにかなってしまいそうなのに、身体ごとその豊乳を擦り付けてくるのだから、堪らない。
「ん……はぁ……ふふふ、真っ赤なお耳……とっても美味しそう……
ねぇ、急ぎましょう……?身体が冷めちゃう前に……ね?」
彼女もまた、熱に浮かされたように、うっとりとした声色。荒く、艶めかしく息をついて。
彼女の期待が、興奮が、欲望の丈が、ありありと伝わってくる。有無を言わせない程に、呑み込まれてしまいそうな程に深い。
「っ……はい……」
自分は人間で、彼女は魔物。彼女がその気になってしまえば、自分に抗う術は無いのだと、今更になって気づく。
あの甘美な魔声の誘惑には、到底抗える気がしない。蛇体に絡みつかれでもすれば、絶対に逃げられないだろう。
そして彼女は、完全にその気になってしまっている。逃げるような素振りを見せたならば、その場でどうにかされてしまいそう。
本気で彼女を拒めば、見逃してくれるかも知れない。そんな考えが頭に過ぎるが、彼女に惹かれているのは紛れも無い事実だからどうしようもない。
そうでなくとも、まがりなりにも好意を持ってくれている相手に、そんな真似が出来るわけがなく。
つまる所……自分は、彼女に食べられるのを待つだけの、哀れな獲物なのだと悟って。
諦観と理不尽さ、そして何より期待を抱いて、歩調を速めるのだった。
「うふふ……送ってくれてありがと、マイザー……」
「い、いえ……それほどでも……」
変哲のない一軒家。此処が、エモニカの巣。彼女の思惑通りに、獲物である自分はこの場所まで連れてこられてしまった。
玄関の前まで押されるようにして進むと、蛇体が脚に絡みついてきて。そうして、獲物を逃げられないようにしてから……彼女は、家の鍵を開ける。
「さ、あがっていきなさいな……折角送ってくれたんだもの……」
「ええと……夜も遅い、ので……」
「だーめ、遠慮はナシよ……明日は空いてるって言ってたじゃない……」
扉を開けた彼女は案の定、家の中へ入るように促してくる。抱きついてきて、絡みついてきて、逃げる事を許さないまま。
おまけに、酒場の席で言質まで取られてしまっていて、彼女の誘いを断る言い訳すら出来ない。酔っているにも関わらず、計画的なやり口。
「では、少し……だけ……」
「んふふ……よろしい……」
そうして結局、半ば引きずり込まれるようにして、彼女の家へと、住処へと踏み入る羽目になってしまう。
後ろ手に、錠前を閉める音。逃げ道は当然のように塞がれていた。
彼女の家の中を見渡せば、一人で暮らすには広く、閑散としていて。
小綺麗に整頓されている事もまた、静寂感を増す原因となっていた。
「……ふふ、座りなさいな……?」
一直線に案内されたのは、彼女の寝室。甘い香りの満ちた部屋。
そこにあるのは、ラミア用と思わしき大きなベッドと、横付けされた小さなテーブル。
椅子は置いてなく、必然的に座る場所は……彼女のベッドだけ。
「……は、はい」
女性の家にあがり、それだけでなく寝室にまで入り、そして今、ベッドに腰掛けようとしている。こんな事は生まれて初めてで、緊張でどうにかなってしまいそう。
そして……いつ彼女に押し倒されてしまうのか、期待してしまっている。
いつでも、そう、彼女がその気になればいつでも、ベッドに押し倒されてしまう。そんな、危険な立ち位置。心臓が早鐘を打つ。
「んふふ……緊張してるのね……」
「……はい……っ」
ベッドに並んで腰掛けた彼女は、当然のように自分を抱き寄せてくる。
風のない室内、密着する身体。彼女の火照りが、体温が、冷める事なく伝わってくる。
立ち込める濃密な色香、エモニカの匂いにくらくらして、それだけで頭がとろけてしまいそう。
勃ちっぱなしのまま押し込められていた自分のモノに、さらなる熱が集まっていく。
「―――……ふふ、お腹、空いてるでしょう?」
彼女が何か呪文のようなモノを呟くと、バスケットが宙を浮きながら運ばれてきて、目の前のテーブルに着地する。
「あ……ありがとうございます……」
目の前のバスケットに盛られているのは、虜の果実をはじめとした魔界の果物。自分の知らない種類も幾らか見受けられる。
目を惹かれるのは果物だけではなく……息をするように魔法を使う、彼女のその姿に、憧れを抱いてしまっていた。
「はい、あーん……」
そして彼女は間髪入れずに、虜の果実を口元に運んで、食べさせようとしてくる。
カクテルを作る時に果汁の味見ぐらいはした事があるものの、魔界作物を避けて生活してきた自分は、未だに虜の果実を食べた事がない。
虜の果実の基本は美容効果で、媚薬めいた作用があるものでは無いと教わったが……得体が知れないと、結局食べずじまいだった。
「…………あーん……ん……美味しい、ですね」
酔った勢いなのか、まるで恋人のような所業。嬉しさ、恥ずかしさに躊躇いながらも、口元まで運ばれたモノを拒むわけにもいかず、果実を頬張る。
張り詰めた皮に歯を立てれば、ぷるぷるとした果肉と、とろりとした果汁が弾け出て、濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
こんなにも甘い果物は初めて。だというのに、くどさ、しつこさは感じない。口の中がとろけて、すぐに次が欲しくなってしまう。虜の名に違わぬ、魔性の美味しさ。
魔界の産物を食わず嫌いしていた事を、後悔する程。
「んふふ……たっぷり食べなさい……ほら、あーん……」
「あーん……」
「はい、もう一個あげる……」
そして彼女は、自分が果実を飲み込むとすぐさま、つぎの虜の果実を食べさせようとしてきて。
次から次へと、口に放り込まれる虜の果実。餌を貰う雛鳥になったような、むず痒くも甘やかされた心地良さ。
いくら食べても飽きが来ないせいで、中々抜け出せない。
「んふふ……じゃあ、次はこれね……一個しかないから、はんぶんこしましょう?」
彼女が手に取ったのは、青く艶やかな、涙滴型の果実。
あの店では取り扱っていない代物だ。一個だけしか無かった事を考えると、珍しい種類なのだろうか。
食べやすいよう、ナイフで半分に切り分けられたその断面には、真っ白な果肉と黒い種。
滴る果汁、ぷにぷにとした果肉、見るからに美味しそうだが……問題は、その効能。やはり、得体が知れない。
「ええと……」
「はい、あーん……種も甘くて美味しいから、ちゃーんと丸ごと食べるのよ……?」
「あ……あーん………」
その効能を訊く暇も無く、口元に運ばれてくる果実。彼女の甘い囁きは、たとえ魔力が篭っていなくとも、抗い難く。
にんまりとした笑みが、期待に満ちた視線が、有無を言わせない。
結局、促されるがままに、果実を食べてしまう。
果汁の滴るぷにぷにの果肉は、ほのかに甘く。弾力に満ちたその食感が、舌に、歯に、咥内に心地良い。
虜の果実の後に食べたおかげか、そのほのかな甘さが引き立って。
「あ……これも……おいしい……チョコレートみたいで……」
果肉に包まれた種が、舌に触れたと思いきや。とろりと溶けて、チョコレートのような、濃密で上品な甘さと香り、微かな苦味が、舌の上で広がっていく。
ほのかに甘い果肉と、濃厚でとろける種。お互いがお互いのアクセントになり、引き立てあう。
豊かで複雑な、単調ではない味わいは、虜の果実に負けず劣らず、舌を悦ばせてくれる。
中々に好みの味で、自然と?が緩んでしまう。
「あらあら、いいカオ……そんなに気に入ってくれるなら、もっと用意しておけばよかったわ……んふふ」
嬉しそうで、母性さえも感じさせる、満面の笑み。魔界の果実を振舞ってくれた事に、裏はあるのだろうけど……もてなそうとしてくれているのも、また確かなのだろう。
「その代わりじゃないけども……次は、これにしましょうか?
美味しい食べ方、教えてあげちゃうわぁ……おねーさんのとっておき……」
抱き寄せていたのとは反対に、彼女はゆっくりとしな垂れかかってきて。
妖艶な囁きとともに彼女が手に取ったのは、小ぶりの青い果実と、大ぶりな赤い果実。その形は両方ともまん丸で、何処と無く、対のように見えなくもない。同じ果物の品種違いだろうか。
「んふふ……あーん……」
その柔らかい胸を擦り付けながら、彼女は正面に回り込んでくる。
抱きつく代わりに、ぐいぐいと身体を寄せ、体重を預けてきて。吐息が吹きかかるほどの距離で、密着。
視界の大半を埋めるのは、蠱惑的な微笑み。
そんな空間に、彼女の指が滑り込んできて……青い果実が口元に運ばれ、唇に押し付けられる。
「ぁ…………ぁーん…………酸っぱ……っ」
見惚れながらも青い果実を口にすると、今まで食べた果実とは裏腹に、強い酸味。唾液を絞り出された口内は疼き、思わず目には涙が滲む。
「青い方は酸っぱくて、赤い方は甘いの……だから……」
微笑ましそうな目を向け、彼女はそう言うと、赤い果実をこれ見よがしに摘まんで。
「あーん……」
「ぁー……」
またもや、しなやかな指が、果実を運んできて。彼女の甘い声とともに、口元に寄せられる。
同じようにしなさいと教えるように、甘やかすように、上品に、しかし大きく口を開く彼女の姿。
恥ずかしさ以上の心地良さに心を委ね、酸味を中和するために、赤く甘い果実をねだる。大きく口を開けて、食べさせてもらおうとする。
彼女に乗せられ、甘えん坊気分。すっかりと、甘える気持ち良さを覚えてしまった。
「あーんっ……」
「ぇ……?」
しかし彼女は、その果実を彼女自身の口に運び、その長い舌で絡め取り、ぱくりと食べてしまって。
予想外の行動に、疑問符が口をつく。きょとん、としてしまう。
「んふふ……」
彼女の指が、自分の頬に添えられる、顔を挟み込まれる。しっかりと絡みつくように。
そして彼女は、果実を頬張りながら、舌舐めずり。
「っ……?」
何故、果実を食べさせてくれなかったのか。何故、こうして頬を触られているのか。彼女の舌舐めずりの意味は。
予想と期待を外され、頭の中は疑問符だらけ。疑問だけが先走って、考えが回らない。動けない。
「あむっ……ちゅうっ……んっ……」
「――!?」
不意に唇を覆う、艶かしい感触。エモニカの顔は、これ以上なく目の前に。
彼女に唇を奪われてしまったのだと、一呼吸おいてようやく気づく。
そして、気付いた時には既に、隙間無く口を塞がれていて。
驚きの声は声にならず、彼女の唇に押し込められてしまう。
逃げようにも、頬に添えられた彼女の手が、しっかりと捕まえて離してくれない。
「んふ……んっ……れろ……」
にゅるりと侵入してくる、艶かしいモノ。彼女の舌は細長く、恐ろしく器用で。その動きは、まさに蛇のよう。
瞬く間に自分の舌は、彼女の舌に這い寄られて、絡みつかれて、捕まえられてしまう。
絡みついてくる彼女の蛇舌は、まろやかで濃密な甘みを纏っていて。
「ん……ふふ……」
ぐい、と押しかけられる、彼女の重み。背中を抱く、蛇体の感触。優しく、しかし強引に、ベッドへと押し倒されてしまう。
彼女が上で、自分が下。温もりが、柔らかさが、その胸の感触が、余すこと無く押し付けられて。女体の重みが気持ち良い。
「んぅ…………」
舌を伝って流れ込んでくるのは、さっき感じた濃密な甘さ。それは、彼女の口でどろどろになった、赤の果実。
甘く熱烈な、口移しのキス。甘美な給餌は、丁寧に、ねっとりと、一滴もこぼさないように。
酸味に支配されていた味覚が、とろけるような甘みに塗り潰されていく。
「あむっ……ちゅうっ……」
口移しが終われば、唇は、ぷるぷるでふわふわな魅惑の柔らかさに食まれて、吸われて、愛でられて。
強引ながらも、甘くとろける蹂躙。拒むことも抗うことも出来ず、されるがまま。
「れろ、れるっ、んっ……」
二種類の果実に満たされた口内で、絡みつき弄んでくる蛇舌。執拗でねっとりとした舌遣い。
舌の先から根元まで、絶え間なく絡みつかれて、にゅるにゅる、ぐちゅぐちゅと擦り合わされて。
果実に浸された中で味わう彼女の舌は、甘かったり、酸っぱかったり。
「れろぉ……ちゅうっ……」
舌を貪られる最中、赤と青の果実は混ざり合っていって。
二つの味が一緒になっていくにつれて、甘さと酸味のバランスが取れていく。
しつこさを感じていた甘さは、いつもの間にか、まろやかでとろけるかのよう。
舌をちくりと刺すような酸っぱさも、爽やかな酸味となっていた。
「んっ……んふ……れろっ……ちゅっ、あむっ、れろ、るっ、ちゅるっ」
二つの果実が混ざり合ったその味わいは、酸味と甘味が調和していて。それはまさに、果物らしさに溢れた、極上の甘酸っぱさ。
その甘酸っぱさの中で、キスはまだまだ終わらないどころか、激しさを増していく。
彼女の舌によって味覚へと擦り込まれていくその味わいは、ただ口にするよりも深く、鮮烈。
彼女の言葉通り、きっと、ただ食べるよりも遥かに美味しく、気持ち良い。
そして彼女に、果実まみれの舌を味わわれている、貪られてしまっている。
舌の芯までもがじくじくと疼いて、痺れて、堪え難い悦楽。貪られる悦び。たまらず、彼女に抱きついてしまう。
「んう……んん……れろっ……んふふ……」
そして彼女は、果実だけでは飽き足らず、その唾液をも送り込んできて。
ほんのりと甘く、欲望を掻き立て、本能に訴えかけるような味。甘酸っぱさに、蕩けきってしまうような心地が加えられていく。
その量は、溺れて、溢れて、零れてしまいそうな程。
彼女の欲望をたっぷりと注がれて、舌で混ぜ合わされて、どろどろだった果実は、とろとろに。
「っ……ぅ……ん、く……んっ……」
二つの果実と彼女の唾液のカクテルが、口の中を満たし、舌を犯す。
陶酔感のまま、恍惚感のまま、彼女の舌を、唇を受け入れて、キスの悦楽と、至福の味わいに浸り尽くす。
唾液をたっぷりと注ぎ込まれるにつれて、ついに、魅惑のカクテルは、口からこぼれそうになって。
そこで初めて、咄嗟に、魅惑のカクテルを喉に送り込み、飲み下そうとする。
エモニカのカクテルは、喉をするりと通り抜けていくその感触さえも心地良く。一度飲み始めたら、次へ次へと欲しくなって、飲み干してしまいそう。
「じゅるっ、ちゅうっ、んっ、じゅるるっ……」
それをきっかけに、独り占めはいけないとばかりに、彼女はカクテルを吸い上げてきて。
作り上げたカクテルを、二人で一緒に飲み干していく。
「ちゅぅぅぅっ……ぷはぁ…………はぁん……とーっても、おいしかったわぁ……」
「っ……ふぁ……はぁっ、はぁ……はぁ……ぁぁ……」
甘いカクテルを飲み干して、最後に一つ、熱烈な吸い付き。そうしてようやく、唇と唇が離れ、舌が解放される。
あまりにも長く、甘美で、気持ちの良いキス。息も絶え絶えに、余韻に浸る。
彼女もまた、恍惚とした表情でこちらを見下ろしてきて。
「ねぇ、マイザー……とーっても良かったでしょう?」
「ぁ……ふぁぃ……よかった……れす……」
まだまだ余裕たっぷりな彼女の、甘い囁き。促されるがままに、正直に応える。こんなに美味しく、気持ち良い食べ方があっただなんて。
蹂躙され尽くした舌は、痺れきって、蕩けきってしまっていて、呂律が回らない。
「あぁん、もう、とろとろになっちゃって……
とっておきのファーストキス……あげちゃった甲斐があったわぁ……」
「ぇ……ぁ……」
「ぁん……責任感じちゃったかしら……?それとも嬉しい……?
んふふ、両方よねぇ……?」
「っ……ふぁぃ……」
これが彼女の、初めてのキス。彼女の唇の純潔を、貰ってしまった。
彼女のように魅力的な女性にそうまでされて、嬉しくないわけがない。その反面、重大な責任も感じてしまう。
そんな内心は、彼女にすっかりと見透かされてしまっていた。
「あぁ……ワタシからキスしたのに、責任感じちゃうなんて……
そういう所、とっても素敵よ、マイザー……」
「ぁ……」
彼女はシャツの中に手を差し込み、上半身をねっとりとまさぐってきて。尻尾とその両手を巧みに使い、彼女はシャツを脱がせようとしてくる。
その先に待ち受けているであろう行為。それがとても重大な責任を伴う事なのは、蕩けた頭でも分かっている。
拒まなければいけない。僅かに残った理性が、そう告げている。
けれども、彼女の味を知ってしまった。期待と欲望は、はち切れんばかりに膨れ上がっていて。
「ファーストキスの責任は……カラダで取って貰おうかしら……?
ほら、力を抜いて……?脱がせてあげる……」
「ぁっ……ぁ……」
「んふふ、良い子……あぁ……ステキなカラダよ、マイザー……」
そんな自分が、甘い誘いを拒めるはずはなかった。
ファーストキスの責任を取る。そんな甘美な言い訳を与えられてしまっては、もはや完全降伏。
彼女の囁きに身を任せ、誘われるがまま、されるがまま。あっという間に、上半身を裸に剥かれてしまう。
貧相なはずの身体を見て尚、彼女は、うっとりと舌舐めずり。
「すぅ……はぁぁぁ……んぅぅ……たまらないわぁ……
とってもいやらしい、オトコの匂い……おいしそうで、よだれが出ちゃう……
虜の果実のおかげかしら……とっても濃厚……」
「ぃ、いやらしいって……ぁぁっ……」
そして、薄い胸板に頭を預けてきた彼女は、深呼吸。息を荒げて身悶えしながら、ねっとりと愛撫してくる。
浮いたあばらを執拗に指でなぞりながら、胸板に頬擦り。彼女の頬は、吸い付くようなのに、絹よりも滑らかな肌触り。
尻尾の先端は、すべすべとした感触で鎖骨のくぼみを撫で回してくる。
さらさらと流れる美しい髪が肌を擽るその感触もまた、堪らない。
「んふふ……ちゅっ……れろぉ……ズボンも脱がせてあげる……
こんなに立派にテントを張ってぇ……苦しかったわよねぇ……
あむっ、はむっ……はぁん……びくびくしてるわ……今、お外に出してあげる……」
「ぁっ……うぁ……」
頬擦りをやめたと思いきや、胸板に降り注ぐキス。這い回る舌。
キスで高めた興奮は、性感は、期待は冷めることなく、どんどんと募っていく。
そして、彼女の両手はズボンへと伸ばされていて。ベルトを外され、彼女の指はズボンの中に、下着の中に。
柔らかくて温かい指先が、はち切れんばかりになったモノを捕まえて、包み込んできて。
そのまま勢いよく、ズボンと下着がずり下げられて、靴までも一緒に、一息に剥ぎ取られてしまって。ついに、丸裸。
「あぁっ……見れば見るほどステキよ、マイザー……隅から隅までまでしゃぶり尽くしてあげたいわぁ……」
裸に剥いた自分を見下ろし、彼女はうっとりと息を吐く。身体の隅から隅まで、舐め回すようにねっとりとした視線。
その眼は欲望にぎらついて、その言葉は真剣味を帯びている。本当に全身をしゃぶり尽くされてしまうのではないか、そう思ってしまう程。
「はぁぁ……なんていやらしいのかしらぁ……マイザーの、おちんちん……
こんなに立派にそそり立ってぇ……先っぽからおつゆがたっぷり溢れてて……びくびく脈打って……とーっても、物欲しそう……
はぁ……あぁ……ワタシを誘ってるのよねぇ……?食べて欲しいのよねぇ……?」
彼女の視線が止まったのは、ガチガチに硬くなってしまった自分のモノ。
酒場で彼女の相手をしていた時には既に、彼女の思わせぶりな言動に、妖しい仕草に反応してしまっていて。そこから今の今まで、彼女に抱きつかれ、キスをされ、愛撫され、昂りを鎮める暇などは全くなく。
期待と興奮を溜めに溜め込んで、もはや、自分のモノとは思えないほどに硬く、大きく膨れ上がってしまっている。
あのキスで、愛撫で暴発しなかったのが不思議な程。もはや、限界寸前。
そんな自分のモノを、彼女はじっくりねっとりと視姦してきて。そうしながら、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「すぅぅぅぅぅ………………はぁぁぁんっ…………
たまんないわぁ……くらくらしちゃう、病みつきになっちゃう……
これがオトコの、アナタの匂い……こんなに、そそられちゃうだなんてっ……」
そして彼女は、肉棒に鼻先が触れそうな間近で、胸いっぱいに息を吸い込んで。数拍おいてから、ぶるりと身震いしつつ、恍惚の吐息を吐き出す。
「っ……」
自分のモノの匂いを嗅がれてしまっている。そして彼女が、その匂いで恍惚としている。
羞恥と背徳が入り混じり、声も出せない高揚感。
「はぁっ……もうだめ、我慢できないっ……いま、食べてあげるわぁ……んふふ、うふふ……いただきまぁす……れるっ……」
「た、たべ……?ぁっ……ぅぁ……」
脚に絡みつく蛇の尻尾、大股開きの格好で脚を固定されてしまう。同時に、彼女の腕が、腰をがっしりと抱き込んできて。
彼女の唇から、しゅるしゅると長い舌が這い出てくる。唾液にぬらつき、妖しく光を反射して、その先端は二股。
蛇舌が、玉袋をねっとりと舐め上げてくる。射精には繋がらないものの、ぞわぞわとした快楽に強制脱力。
その蛇体で、腕で、蛇舌で、執拗なまでに。逃げられないように、抵抗出来ないようにされてしまう。
「ぁーん…………」
ついにエモニカは、だらりと舌を垂らしながら、大きく口を開け、唇をすぼめる。艶めかしく綺麗な粘膜は、まるで性器のように淫猥。
見るだけで、否が応でも口淫の快楽を、肉棒を口に含まれ、舌を絡められる快楽を想像してしまう。
「んっ……んっ、んぐっ……ちゅうっ……んぅ、ふぅっ…………!」
「っ――!?」
そしてエモニカは、予想よりも遥かに激しく、勢い良く、肉棒を咥え込んできて。
口に含むだけに留まらず、肉棒を根本まで、完全に咥え込んでしまっている。その光景は、もはや股間に顔をうずめているかのよう。
おまけに、腰ごとがっちりと抱き込んできて、食らいつくかのように離れない。
肉棒の先端が押し込まれたのは、彼女の喉奥。狭く滑らかで、熱い空間。ぎゅうぎゅうに締め付けられて、包み込まれて。
肉棒を根本まで咥え込んでなお、彼女はその唇をぐいぐいと押し付け、吸い付いてくる。
上目遣いに見つめてくる彼女は、苦しそうな素振りは全く見せず、まさに夢中といった表情。
奥へ奥へと、うねりくねりながら蠕動する喉奥に、まるで、肉棒を丸呑みされてしまっているかのよう。
蛇舌は竿に巻きつき、扱き上げてくる。その先端は、玉袋にまで伸びて、絡みついて、ぐちゅぐちゅに揉みしだいてきて。
貪り尽くすような、丸呑みめいた、捕食者の口淫。彼女の言葉通り、もはや、肉棒を食べられてしまっているかのよう。
絶頂寸前だったモノに襲いかかるのは、想像すらつかなかった、未知の感覚。肉棒が蕩け落ちてしまいそうな程の、直接的で鮮烈で、魔性の快楽。
我慢に我慢を重ねたところにトドメを刺すには、十分を通り越して過剰な程。頭のなかが真っ白になって、溜まり溜まったモノが爆ぜていく、どくどくと解き放たれていく。
「んぐっ、じゅるっ、れろっ、んっ、んぅぅっ」
「っ、ぁっ、はぁ、ぁっ……!」
彼女の喉奥の蠕動は、射精の脈動に合わせて射精を促すかのよう。
エモニカの喉奥に放った精液は、そのまま、ごくごくと飲み干されていく。肉棒から喉奥へ、精液を搾り取られて、直呑みされてしまう。
今まで味わったことのない、未曾有の放出感。長く、激しく、大量の射精。いつもならすぐに終わってしまうはずの脈動が、終わらない。
彼女の喉奥が、口内が、唇が、舌が、肉棒を責め立て、射精を促してくる。
精液を根刮ぎ吸い尽くされてしまうような、あまりにも甘美な射精感に、腰が融け落ちてしまいそう。口をぱくぱくさせて、まともに声も出せずに、貪られるがまま。
「んふっ、ちゅううっ、れるぅっ、んくっ、んっ」
「ぁ、うぁ、あぁぁ……」
いつもの数倍以上の時間は続いた、爆発的な射精。
その間、彼女は息継ぎ無しで肉棒を咥え込み続ける。射精の最中、肉厚の唇は肉棒の付け根に吸い付いて、片時も離れない。
蛇舌もまた、絶えず肉棒を扱き続けて、玉袋を揉みしだき、甘く締め付け、精液を搾り出そうとしてくる。
射精の勢いが衰え始めても、その執拗で貪欲な口淫は緩まる事なく。
肉棒の脈動が止まってなお、最後の一滴まで搾り出し、飲み干そうと、念入りに快楽を与えてきて。
「んっ、っ、じゅる、ちゅぷっ、ちゅうぅっ……ちゅっ」
射精が完全に止まったのを確認したのか、ようやく、彼女は彼女はゆっくりと頭を引いていく。
ぴっちりと吸い付く唇、絡み付く蛇舌。そんな最中、彼女の口から、ゆっくりと肉棒が引き抜かれていく。
名残惜しそうに続けられる、貪欲な口淫。
彼女の口から引き抜かれた部分は、蛇舌によって舐め磨き尽くされ、唇で丹念に唾液を拭き取られ、すっかり綺麗にしゃぶり尽くされている。
そして彼女の唇は、ついに肉棒の先端へ。念入りな吸い付きの最中、尿道口までもを味わうように、蛇舌がちろちろと舐めまわしてきて。
最後に彼女がくれたのは、射精を労うような、甘く優しく、それでいて熱烈な、鈴口へのキス。
「ぷは……っ、はぁっ……はぁ……ぁあん……」
そうしてようやく、彼女は肉棒を完全に解放し……息継ぎを始める。その表情からは、やはり、息苦しさなどは微塵も感じられず。
目尻はとろんと垂れ下がり、頬はすっかり紅潮して。恍惚に上の空のようでありながら、淫らな笑みとともに、こちらをじっとりと見据えてくる。
「ぁ……はぁ……ぁぁぁ……」
最初から最後まで、腰砕けでは済まないほどの気持ち良さ。
その余韻もまた、格別で。半ば放心状態に浸りながら、彼女と見つめ合う。
「すっごく濃いのが、アナタの味が、喉に灼きついてぇ……
熱いのが、キモチイイのが、五臓六腑に染み渡って、もう、カラダがとろけちゃいそう……
とーっても美味しいわぁ……こんなの、はじめてぇ……」
それは今までになく、蕩け、惚けた表情。どれ程までの悦楽を感じているのか、想像もつかない程。
これ程までに幸せそうな表情を向けられた事は、全くの初めてだった。
「でも、これで終わりじゃないわよぉ……?
堕落の果実を食べたんだもの……まだまだ、せーえき出せるわよねぇ……」
彼女の言葉通り、大量射精を終えてなお、肉棒は硬さを失っておらず。
玉袋から感じるのは、どろどろとした熱の迸り。今まさに、精液が急速に作り出され、充填されつつあるのだと、本能的に理解する。
「はぁん……たーっぷり、せーえきご馳走して貰うから……覚悟しなさい?」
上体を起こした彼女は、うっとりと息を吐きつつ、舐めまわすような視線で見下ろしてきて。
その眼はさっきにも増して、欲望にぎらついている。さっきの貪るような口淫でさえも、ほんの味見だったと言わんばかり。
「んふふ……ほら、見なさい……アナタのせいで、もう、ぐちゃぐちゃ……」
そして彼女は、腰に巻いた布へと手を掛ける。
女体と蛇体の境目に見えるのは、ぐっしょりとした濡れ染み。
薄手の生地は、濡れてぴっとりと張り付き、肌色が透けてしまっている。
彼女の興奮を、欲望を物語る淫らな光景。それをしっかりと見せつけてきて……彼女は、腰布を脱ぎ捨てる。
「ぁ……」
露わになったのは、紛れも無い、女性の秘所。
貞淑なまでにぴっちりと閉じた割れ目とは裏腹に、まるでよだれのように、だらだらと愛液が染み出している。
生まれて初めて目にする、秘密の花園。思わず、目を奪われてしまう。
「はぁん……乳首だって、もう、こんなに……」
そして、続けざまに、彼女は服を脱ぎ捨て、その裸体を惜しげも無く曝け出す。
透き通るように白い肌はシミひとつ見つからず、興奮に赤みがかっている。
大迫力の爆乳は、服の支えがなくとも垂れ下がることなく、美しい形を保って。彼女が身じろぎするたびに、たゆんたゆんと、柔らかそうに揺れる。
瑞々しく艶やかに張り詰めたそれは、まさに男の夢というべき魅惑の果実。
その先端は、綺麗なピンク色。誘うように僅かに膨れた乳輪と、ぷっくりと存在を主張し、固く勃った乳首。
芸術品のように美しい母性の象徴から迸る淫靡さが、視線を釘付けにする。
「んふふ……見惚れちゃって……すっかりワタシの虜ねぇ……」
「ぅ……」
視線を受けた彼女は、それを誇るかのように、自慢気な様子。
その自信満々な言葉に相応しく、彼女の姿は魅力的。
男好きのする場所だけ、むっちりと肉付きの良い、わがままな身体。腰はきゅっと引き締まっていて、その豊乳に負けず劣らず、抱きつきたい衝動を煽り立てる。
その長い金髪は、手入れの賜物か、宝石を糸にしたかのように美しく。欲望を湛えた紫の瞳は、呑み込まれてしまいそうなほどに深い色合い。
見れば見るほど、その身体つきも、顔立ちも、文句無しに美しく。
自慢気で自信に満ちた笑みも、淫蕩な笑みも、捕食者めいた笑みも、どれもが心を掴む。
彼女の言葉を、否定出来ない。抗いがたい魅力を、彼女から感じていた。
「さぁ……待ちに待った子作りよぉ……?マイザー……
今度はこっちのおクチで……食べてあ・げ・る……」
彼女は、潤みきった秘所へと指を伸ばし、その割れ目を開いていく。
粘ついた水音とともに、露わになる粘膜、ぷっくりと膨れ勃った陰核。
その入り口は狭く、綺麗なままで、まさに生娘そのものだというのに。肉襞がいやらしく、淫らに、誘うようにひくつく度に、むせかえるような甘い淫香を放つ蜜が、膣内からどろりと溢れ出してくる。
「っ……」
越えてはいけない一線を越えようとしている。それは分かっているのに、彼女を拒めない。
蜜の滴る秘裂が、肉棒にあてがわれようとする光景を目の前にして、それに見入り、生唾を飲むしか出来ない。
「んふふ……ダメって言わないのねっ……ぁんっ……いただきまぁす……」
勝ち誇ったかのような、それでいて淫蕩な笑み。獲物を前に、舌舐めずり。
肉棒の根元を掴んだ彼女は、その先端に膣口を触れさせ、それだけで感じたように身動ぎして。
「あぁんっ……!」
彼女は、ずぷり、と腰を沈めて。肉棒は、彼女のナカへと、一息に呑み込まれてしまう。
「ぅぁ、ぁっ……」
細やかな肉襞のひしめいた、彼女の膣内。熱くとろけてしまいそうな柔肉の感触に、肉棒を包み込まれてしまう。
肉棒を容易く咥え込んだというのに、そのナカはとてもキツく、狭く、ぎゅうぎゅうに締め付けてきて。
そこはまさに、快楽の坩堝。さっき射精したばかりでなければ、挿入の最中に容易く絶頂してしまっていた程。
「はぁ、ぁぁんっ……おいしいわぁ、きもちいいわぁっ……こんなの、はじめてぇっ……」
肉棒を根元まで咥え込んだ彼女は、恍惚とした笑みを見せつけながら、ゆったりと覆いかぶさってくる。
そして、首に腕を回してきて、熱烈な抱擁。蛇体がしゅるしゅると身体に巻きついてきて、彼女と抱き合い、深く繋がったまま、ぐるぐる巻きにされてしまう。
「これが子作りなのね、マイザー……これが、オンナの幸せ……こんなに素敵だなんてぇ……」
「ぁ、ふぁ……あぁ……」
男女の上下が逆転した正常位。蛇体に抱かれ、身体の自由は奪われてしまっていて。
その大きな胸をむにゅむにゅと押し付け、柔らかさと重量感を味わわせてきながら、エモニカは甘く囁いてくる。
熱を帯びた、ねっとりとした囁き声が、頭の中を反響していく。頭の中が、彼女の声で埋め尽くされていく。
思考を犯す、ラミアの魔声。彼女に魅了されていく事を自覚しながらも、それに悦びを感じてしまう。
「ぁんっ、んふふ……気持ちイイでしょう?カワイイ声、出しちゃって……
ほらぁ、はやくせーえき出しなさい……?もう、子宮がきゅんきゅん疼いてぇ……待ちきれないわぁ……」
「ひぁ、ぁっ、きもちいい、です……」
甘い囁きは止まらないまま、彼女の膣内は、貪欲に蠢き始める。激しくうねり、くねり、吸い付いてきて、肉棒をしゃぶり尽くすかのよう。ひしめいた肉襞は、それぞれが小さな舌のように、肉棒を舐め上げ、絡み付いてきて。
締め付けはよりキツくなり、絶対に逃さないと言わんばかり。
おまけに、深く繋がり、密着したまま、腰をぐりぐりと押し付けてきて。
執拗なまでに与えられる、魔性の快楽。背筋から脳髄までを駆け上がって、思考までを蕩けさせる。
腰回りで膨れ上がる熱量は、あっという間に限界点へと押し上げられていって――
「ぁ、あっ、ぁぁぁっ……」
どくん、どくん、と、至福の射精感。頭の中が真っ白になって、それなのに、エモニカの声だけは響き渡って、もう、どろどろ。
夢のような快楽に身を任せて、エモニカのナカに、精液を吐き出していく。
「はぁんっ、ぁぁんっ……せーえきぃ、きたぁぁ……
ぁん、ぁっ、イっ、ちゃ……ぁぁっ……!」
一際強まる、蛇体の締め付け、熱烈な抱擁。しがみつくかのように回される、彼女の腕。
魔性の快楽をもたらすその膣内は、荒れ狂うように激しく蠢いて。それでいながら、射精の脈動に合わせて、精液を促すように甘く、キツく締め付けてくる。
彼女の最奥、その子宮口は尿道口にぴったり吸い付き、離れないでいて。
エモニカは、精液を余す事なく子宮へと搾り取りながら、快楽に乱れた声をあげる。
その嬌声は彼女の悦びを伝えてきて、それに頭の中を犯されてしまう。
「はぁん、あっ、すごいわぁ、あつくて、きもちよくてぇ、とけちゃうっ、ぜんぶとろけ、ちゃうっ……しあわせぇっ……」
「はぁ、ぁ、ぁぁぁ……」
二回目の射精にも関わらず、一回目にも劣らない、大量の射精。
一回目は、半ば暴発というべきものだったのに対して、彼女のナカでの射精はまさに、精液を搾り取られるというべきもので。
貪欲に求められ、貪られ、しゃぶり尽くされて。射精の全てを、甘く導かれるかのよう。その放出感は、射精快楽は、法悦を極めていた。
「あはぁ……最高よぉ……これがずーっと、ずーっと欲しかったの……」
「ぁっ、ひぁ、えもにか、さぁん……」
さっきの丸呑み口淫で彼女がしたように、もしくはそれ以上に、彼女のナカは貪欲で。
射精の最後の最後まで搾り取るのはもちろん、その最後の一滴まで搾り取ってなお、魔性の快楽を絶やさない。
たった一回の射精では終わらせない、と言わんばかりに、射精の余韻を味わう暇もなく、射精直後の肉棒を責め立ててくる。
休む間もなく与えられる、甘美な快楽。それは、快楽漬けというべきものだった。
「あぁん……もーっと欲しいわぁ、マイザー……
子宮がいっぱいになるまで……ぁん……孕んじゃうぐらい、たーっぷり……
ずーっと、ずーっと、欲しかったんだからぁ……んふふ……ぜーんぶ、搾ってあ、げ、る……」
蕩けきった満足気な口調とは裏腹に、その声色には、どろりとした欲望の響き。
呑み込まれてしまいそうな程に甘く、ねっとりとした囁き。
彼女がどれだけ男に飢えていたのか、どれだけの年月を掛けて、その飢えが醸成されたのか、計り知れない。とても人のモノとは思えない、まさに飢えた蛇のような、底無しの欲望。
そんな彼女の欲望に、本格的に火をつけてしまった。燃え上がらせてしまった。
これからどうなってしまうのか、想像もつかない。
「ぁっ、ひぁ……お、おねがいしま……ぁぁっ」
けれども、そこにあるのは、不安ではなく悦び。
ただ気持ち良いだけでなく、求められる事が、貪られる事が、悦んでくれる事が、嬉しくて仕方ない。
そして……感じた声で。蕩けた声で。幸せな声で。彼女に、甘くねっとりと囁いて欲しい。
彼女の与えてくれる魔性の快楽と、魔声の響き、そして彼女の持つ妖しい魅力に魅了されきってしまい、最早すっかり、彼女の虜だった。
「んふふ……ほんと、ワタシの虜になっちゃって……」
そして、精を受け止めてくれた彼女の声に混じり始める、もう一つの音色。それは、ねっとりと絡みつくような、深い執着。
「ぁん……んふふ……ねぇ、マイザー……
ワタシの大切な、初めてなんだからぁ……セキニン、取らなきゃだめよねぇ……?」
「ひぁ、ぁっ……はぃ……」
そして彼女は、この交わりの重大さを、嬉々として伝えてくる。
彼女の初めてを貰ってしまった。拒む事もせずに、受け入れてしまった。
それがどういう意味を持つのかを思い出させるために、甘く、ねっとりと囁いてくる。
身体だけでは飽き足らず、心まで縛り付けようと、執念深さを露わにする。
しかし、彼女の唇から紡がれるならば、責任の重みさえも、恍惚としてしまう程に心地良い。
逃げられないように、後戻り出来ないように、着々と嵌められていく枷。それに悦びを覚えてしまっていた。
「そうよねぇ……?セキニン取らなきゃダメよねぇ……?
だからぁ……アナタはもう、ワタシだけのモノ……ワタシだけの旦那サマよ……分かった?」
「ひぁ、は、はぃっ……」
独占欲に満ちた声。うっとりとした囁き。
エモニカのモノ。エモニカの夫。それは最早、責任というにはあまりにも甘美な響きだった。
この蜜月が、たった一夜の過ちでは終わらずに、これからも訪れる。それどころか、彼女のように魅力に溢れた女性が、妻となってくれる。それが、堪らなく喜ばしい。
彼女の、甘く温もりに満ちた束縛と、独り身の寂しい自由。どちらを選ぶかなど、答えは明白だ。
「んふふ……ワタシのモノになるならぁ……おいしいせーえき、たーっぷり出しなさぁい……?」
「ぁっ、せきにん、とらせてくださいっ……ぁっ、ひぁ……ぁぁぁ…」
貪欲に蠢き続ける彼女のナカに、またもや限界寸前。三回目の絶頂は、すぐそこに。
それを見透かした彼女は、優しく諭すように、答えをねだってくる。
優しい囁きとは裏腹に、彼女のナカはぐちゃぐちゃに肉棒を責め立ててきて。
もはや彼女を拒もうという気持ちは全く湧き上がってこない。彼女のモノに、彼女の夫にしてもらいたい。
彼女はそんな気持ちを見透かしてなお、念入りに、拒否権を与えない。
抗うことの出来ない魔性の快楽に、三度目の射精へと導かれてしまう。彼女のモノになるという答えを、搾り出されてしまう。
「ぁぁん、はぁっ、ワタシのっ……ぁんっ、ワタシの、旦那サマぁっ……
あはぁっ……おいしいのも、キモチイイのも、わたしだけのモノっ……ぁんっ、んふふっ……ぁぁっ」
「ぁっ、はぁ、ぁあぁぁ……」
彼女の執着と独占欲を一身に受けながら、我慢する事なく、大量の精を吐き出していく。
脈動のたびに感じる、ぞくぞくとした、めまいのような快感。取り返しのつかない事をしてしまっているという、言い知れない高揚感。
彼女のモノになると、夫になると、この身体で応えてしまっている。彼女の子宮に精を注ぐたびに、エモニカに囚われていくかのようで、それが堪らなく気持ち良い。
彼女の執着、独占欲。それは、代え難い程の快楽と恍惚をもたらしてくれていた。
「はぁんっ……んふふ……ワタシのマイザー……ぜーったい、はなさないんだからぁ……
ほらぁ、いくらでも孕んであげるからぁ……もーっと、もーっと……ぜぇんぶ、出しなさぃ……?」
そして彼女は、二度目の精を子宮で受け止め終えると、衰えない貪欲さで、次を強請ってくる。射精直後の肉棒を容赦無く責め立てて、快楽漬けを終わらせない。
蕩けきった囁きが孕んでいるのは、どろどろに滾った底無しの欲望、執着。その甘い響きに魅入られて、身も心も幸福に呑み込まれていくのだった。
「はぁぁん……とーっても良かったわぁ、アナタ……子宮の中、せーえきでいっぱいで……ホントに孕んじゃいそう……
ワタシ達、パパとママになっちゃうかも……うふふ……すてきぃ……」
彼女の貪欲さは底を知らなかった。堕落の果実のおかげで幾らでも射精出来ると思っていたのに、その効果が切れるまで、その上で精が枯れ果ててしまうまで、至福の快楽で搾り尽くされてしまった。それでようやく、彼女は満足してくれた。
一晩だろうか、一日中だろうか、三日三晩だろうか。あまりにも気持ち良すぎて、それさえも曖昧。とても長く、それでいて一瞬のようだった。
「はぁぁ……えもにか……さぁん……」
柔らかく身体を受け止めてくれるのは、彼女の肢体。甘く優しく包み込んでくれる、艶かしい蛇体の抱擁。
精液が枯れ果ててなお肉棒は萎えず、深く繋がりあったまま。
くったりと脱力し、極上の肉布団に身を委ねながら、甘く蕩けきった彼女の囁きに聴き入る。
「んふふ、ごちそうさま……
いっぱい出して、よーくがんばったわね……おかげで、とーってもしあわせ……だぁいすき……」
「ぁぁ……すき……」
彼女は、労いの言葉とともに、慈愛に満ちた手つきで、ゆっくりと頭を撫でてくれる。もう片方の腕は、しっかりと抱きしめてくれながらも、まるで、寝かしつけるように背中をさすってくれる。
その蛇体の抱擁からは、確かな温もり。確かな母性。
そして、深く繋がったままの彼女のナカさえもが、優しく甘やかすように肉棒に絡みついてきて。まるで癒すような快楽に、安心しきった声が漏れる。
「んふふ……さ、おやすみなさい……ワタシのマイザー……あいしてるわよ……」
「おやすみ……なさぃ……」
長く執拗な交わりの果てに、身体の芯まで染み込んだ、彼女の温もり。
彼女の囁き声は、頭の中を優しく、甘く染め上げて、穏やかな眠りへといざなってくれる。
身体に刻み込まれた快楽の記憶さえも、安らぎをもたらしてくれて。
身も心も満たされて、すっかりと蕩けきって、まさに夢見心地。
そして、エモニカの抱擁の中、意識さえも闇に蕩けていった。
「ぅぅ……ん……」
あたたかい。やわらかい。きもちいい。ゆっくりと、意識が浮かび上がっていく。
身体を包む温もり、心地良さ。それに甘えるように、もぞもぞと身体を動かす。
「ぁん……うふふ…………」
母のように優しい含み笑いが、まどろみを甘く彩る。慌てて起きる必要は無いのだと伝えてくれる。
「んぅ……む……すぅ……はぁぁ……」
頭を受け止めてくれる柔らかさは、温もりは、一際心地よく。心を安らかにさせてくれる、ほの甘い香り。
その至福の感触を、芳香を味わおうと、頬を擦り付け、息を吸い込む。
むにゅむにゅに沈み込んで、すべすべなのに、むっちりと頬に吸い付いてきて、優しい匂いに包まれて、温かくて、まさに極上の枕。
「んっ……はぁん……あまえんぼさん……」
抱き締められている。受け止められている。たっぷりと甘やかされている。
そうしてくれているのは……甘い囁きの主。そう、エモニカだ。
「んぁ……え……?」
エモニカの事が頭に浮かんだのをきっかけに、まどろみは終わりを告げる。
シーツにくるまり、重なり合う肌と肌。艶かしい女体の感触が、意識に飛び込む。
寝惚けて甘えていたのは、彼女の胸。裸で抱き合い、胸枕までされてしまっている。
いつもは独りのはずなのに、どうして……
「あ……ぁっ……」
脳裏に浮かぶ、長い、長い、交わりの光景。
今の状況が、エモニカと一線を越えてしまった結果であると、ようやく理解する。
「おはよう、マイザー……うふふ、ぐっすりだったわね……」
「は、はぃ……おはよう、ございます」
眠気はすっかり吹き飛んでしまったが、身体は重く。交わりの疲れは、まだ抜けきっていない。
身体を苛む心地良い脱力感が、己の犯してしまった過ちに現実味を与える。
甘い囁きに負け、彼女と夜を共にしてしまった。一夜の過ちどころでは済まない程に。
身体に染み付いた温もりと快楽は、決して夢では無い。やってしまった。知らないフリは出来ない。
これ程までに気まずい状況は、記憶になかった。
「あんなに頑張ってくれたものね……お腹、空いてるんじゃないかしら?それとも……もっとおっぱい枕してほしい……?」
「あ……はい……おなかが、空きました……」
彼女の酒気はとうに抜けている。自分もまた、魔声の魅了は解けている。自分はまだ寝起きでぼんやりとしているが、彼女と自分は素面……もっと言えば、正気であると言っていい。
そして、自分を気遣ってくれる彼女の声は優しく、好意に溢れていて。それでいて、誘惑を絶やさない。
交わりの最中、たっぷりと囁いてくれた甘い言葉は、それに込められた感情は、酒の勢いによる一過性のものでは無かったのだと教えてくれる。
嬉しいながらも、複雑な気持ち。気まずさ、後ろめたさを覚えているのは自分だけらしい。
「そうねぇ……それなら、朝ごはんにしましょうか……」
「あ……ありがとうございます」
緩められる抱擁。身体は自由になったのに、どこか物寂しい。
ゆっくりと、彼女の上から身体をどかす。目を閉じて、彼女の裸体を目にしないように。
彼女と離れるのが、名残惜しい。あの母性に満ちた乳枕を、もっと堪能していたい。甘えていたい。
そんな気持ちに抗いながらも、彼女から離れて、ベッドに身体を横たえ直す。
「ん、んぅー……はふ……」
しゅるしゅると、ベッドを這い出る音。寝起きに伸びをしているのか、やけに色っぽい声。
「さて……花嫁修業の成果を見せてあげるから、楽しみに待ってなさぁい……?」
「はっ……はい……」
不意に、耳に触れる柔らかい感触。それは、彼女の唇。そのまま、耳孔に直接声を吹き込むように、ねっとりと、絡みつくような囁き。
自信ありげな響きは、美味しい朝食を期待させてくれるが……花嫁修業という言葉に、否応無しに責任の重さを実感させられてしまう。
「ふふ……」
「っ……」
見透かされるような、妖しい笑い声が耳を擽り、しなやかな指に頬を撫でられて。
それを最後に、蛇体の這う音は部屋の外へと消えていく。朝食を作りに行ってくれたらしい。
「……」
ずっと味わい続けていた温もりが途絶えて、やけ肌寒い。シーツにくるまりなおし、頭だけを出す。 ベッドからは、エモニカの匂いがする。
「あぁ……うぅ……」
すっかり眠気も吹き飛んだので、改めて記憶を辿り直す。
エモニカの初めてを貰ってしまった。拒む事をしなかったどころか、喜んで受け取ってしまった。
そして、避妊も全く行っていないまま、大量の精液を注ぎ込んでしまった。もし妊娠でもさせてしまっていたら、本当に一大事だ。
さらに、交わりの最中……責任を取らせてと言ってしまった。彼女のモノに、旦那様になるのだと、言質を取られてしまった。
それだけでなく、何度も何度も、彼女の事を好きだと言ってしまった。愛していると言ってしまったような気もする。
幾ら彼女の魔声に魅了された結果とは言え、事実は事実。これだけ山のように積み上がった事実を、全て彼女のせいにする事など、自分にはとても出来る気がしない。
「責任……」
積み重なった責任で雁字搦め。言い逃れは不可能で、どうしようもない。
恐らく、彼女の思惑通り。酒に酔っていたはずなのに、社会的にも捕縛してくるとは、行き遅れたラミアの恐ろしさを感じずにはいられない。
「うぁー……」
責任。責任を取らなければいけない。やってしまった、という思いで頭が一杯になる。
酒場はおそらく、今頃は無断欠勤。クビになってもおかしくない。つまり、今の自分は推定無職。働き口のアテも当然無い。無いからこの街にやってきたのだ。
責任を取れと言われても、無い袖は振れない。夫として彼女を食わせていくなど到底無理だ。
むしろ、養ってくださいと彼女に頼み込まなければいけないような状況でさえある。蓄えはあるが、あまりにも心許ない。
男として情けなさ過ぎる現状に直面して、途方に暮れるのだった。
「うふふ、お待ちどおさま……朝ごはんよ、アナタ……」
「うぅ……ありがとうござい……ま……す……」
途方に暮れていた所、美味しそうな匂いと共に、意気揚々とエモニカが戻ってくる。
彼女が身に纏っているのは、フリルがたっぷりとあしらわれた、純白のエプロン一枚のみ。
彼女の豊満な胸は、今にもエプロンからこぼれ落ちそうになっている。見事な谷間と眩しい横乳は惜しげも無く曝け出されていて、少し布がずれたなら、乳首が見えてしまいそう。ずれていなくても、乳首が浮き出てしまっている。
エプロンの丈は、蛇体と女体の境目をギリギリ覆い隠す、短いもので。もう少し低い角度から見上げたなら、何かの拍子で布がひらりと動いたならば、見えてしまう。
彼女の裸エプロン姿は、妖艶さと可愛らしさを兼ね備えたとても魅力的なモノで。美味しそうな朝食を運び、柔らかい笑みを浮かべるその姿は、まさに理想の新妻。
男心をがっちりと掴むその姿に、どうしようもなく見惚れてしまう。見ているだけで幸せな気分になれる。まさに、眼福だった。
「ふふ……見惚れちゃって、やっぱり、かーわいいっ……」
「ぅ……」
彼女はベッドに腰掛けながら、ベッド脇のテーブルにトレーを置く。
皿に盛られたのは、見るからにふわふわ、あつあつ出来たての、大きなオムレツ。二人分の大きさが、一つだけ。それに添えられているのは、茹で立てのソーセージ。
そして、もう一つの皿には、サンドイッチ。コップに注がれた飲み物から漂う、甘い芳香。虜の果実のジュース。
グラスに盛り付けられているのは、恐らくデザート。赤い光を帯びた、果実のような何か。ぶよぶよとして、グミのようにも見える。きっとこれも、魔界の食材なのだろう。
豪華な朝食に食欲をくすぐられながら、ベッドに腰掛ける。服を着るのを忘れていたので、シーツにくるまったままだ。
せめて下着だけでも着ておくべきだったと後悔する。やはり、気恥ずかしい。
「んふふ……シーツにくるまってる姿も、そそられちゃうわぁ……
ほら……冷めないうちに召し上がれ?裸エプロンは、いつでも、好きなだけ、見惚れさせてあげるから……ね?」
「は、はい……いただき、ます。あ……美味しい、ですね。ほんとにふわふわで……」
二人並んでベッドに腰掛け、朝食の並べられたテーブルに向かう。すかさず彼女は、べったりと身体を寄せてくる。
食べさせて貰う羽目になるのも恥ずかしいので、先手を打って、早めにスプーンを掴み、オムレツを口に運ぶ。
見た目通りにふわふわとした食感で、口の中でとろけるかのよう。塩加減も完璧で、素朴ながらも飽きの来ない、毎日食べたくなる味。
「ふふ……美味しいでしょう?うん、我ながら良い出来栄え……ほら、他のもどう?」
そう囁きながら、彼女も同じオムレツを口に運ぶ。やはり、二人で一つを食べるつもりらしい。新婚でも中々こんな事はしないだろうに。
「あ、はい…………美味しい」
促されるがままに、今度はソーセージを口に運ぶ。
ぷつん、と弾力を持って切れる、心地良い皮の感触。茹で加減は申し分ない。
皮の中から溢れ出すのは、旨味に溢れた脂。肉の食感はなめらかで柔らかく、ぷりっとしている。
淡く効いたスパイスは、朝食に相応しい。朝からくどくもなく、それでいて食欲を掻き立ててくれる、絶妙な塩梅。
「ジューシーで……凄く、美味しいです。朝から豪華すぎるぐらいに」
ソーセージもまた絶品で、朝からこんなに美味しいものを食べて良いものか、とさえ思えてしまう。
「うふふ……このソーセージ、私の手作りなの……気に入ってくれて嬉しいわぁ……
サンドイッチのパンも、ベーコンも手作りなのよ?ほら、こっちも食べて?」
「……これで手作りなんですね」
料理を褒められ、上機嫌に、自慢気になる彼女。次へ次へと、朝食を勧めてくる声が可愛らしく、愛おしい。
「では、サンドイッチも……いただきます」
ベーコン、トマトと共に、パンにたっぷりと挟まれているのは、見た事の無い葉野菜。花の花弁のようにも見えて、肉厚で瑞々しい。
得体は知れないが、出されたからには食べないわけにもいかない。
促されるがまま、サンドイッチにかぶりつけば、パンはふんわりと柔らかく、レタス代わりの謎の葉野菜は、しゃきしゃきと小気味良い食感を返してくれる。
その葉野菜に苦味はなく、ほのかな甘みと、葉野菜らしからぬ旨味。レタスとは一線を画した味わいが、ベーコンの塩辛さとよく調和している。
彼女の手作りベーコンは、こってりと旨味に溢れていて、トマトの酸味と合わさって良い塩梅だ。
「うん……おいしいです。パンも、ベーコンも……」
「うふふ、そうよね、そうよね……美味しいわよねぇ?」
簡素ながらも、しっかりとまとまった味。文句無しの美味しさに舌鼓を打ちながら、食は進んでいく。
「ん……この果物?も美味しいですね。サンドイッチの野菜にも似てますけど……とっても濃厚な甘みが……」
朝食をすっかりと平らげて、デザートの果実?を口に運ぶ。赤く妖しく光を帯びているのだが、それがやけに美味しそうに見えて、無性に食べたくなってしまっていた。
果実?を噛み潰せば、見た目通りの、グミのような感触。サンドイッチに挟まれていた野菜に似た味だが、その甘みと旨みはとても濃厚で、まるで果実やお菓子のよう。
しかし、葉野菜のさっぱりとした後味が爽やかで、朝食の締めにはふさわしい味だった。
「あら、御名答……あの野菜の芯なのよ。とってもお肌に良いんだから……」
「なるほど。ともかく……ご馳走様でした。
……こんなに美味しい朝食は初めてで、ありがとうございます」
豪華ながらも、すんなりと胃に収まった、彼女の朝食。粗末な食生活を送っていた身としては、軽い感動を覚える程の美味しさだった。
たかが朝食と侮っていたが、朝から美味しいモノが食べられるだけで、随分と満たされた気分になる。
彼女に対する言葉は、嘘偽りやお世辞などではなく、本心からこぼれる言葉だった。
「んふふ……料理上手な妻を持てて幸せでしょう……?ア、ナ、タ……」
「え、エモニカさん……それ……本気……なんですか……」
そして、不意に耳元で囁かれる甘い言葉。ねっとりと絡みつく、粘着質な響き。愛おし気でありながら、深い執着を孕んだ声。悪寒にもにた快楽が、背筋を駆け抜ける。
彼女の好意を嬉しく思う反面、何が何でもモノにしようとする執念深さは、冷静になって考えてみれば、恐ろしい物を感じる。
三日三晩ほどを共にしただけで、お互いの事を知らなさ過ぎる。心の準備など、出来ているはずがない。
彼女に惹かれているのは確かだし、夫婦として生活を送りたい気持ちもある。しかし、一生を共に出来る自信があるかと問われたならば、不安であるのだ。
「本気よぉ……?アナタは私のモノで、私のかわいい旦那様……
アナタが認めて、アナタが望んだ事でもあるのよぉ……?責任取らせて、だなんて……うふふ」
背後から、絡みつくように回される彼女の腕。後ろから、ぎゅっと抱きすくめられてしまう。
エプロン一枚だけを隔てて押し当てられる、胸の感触がたまらない。
彼女は、勝ちほこるかのようにうっとりと、耳元で囁き続ける。その内容は、あまりにも逃れ難い事実だった。
「ぅ……た、確かに……そう、です…………」
彼女の言う通り、あの夜、自分は彼女のモノになると、夫になると認めてしまった。責任を取らせて欲しいと、懇願してしまった。
幾ら魅了され、快楽の最中であったとはいえ、紛れもない事実。
しかも、あの時において、自分はまさに本気だった。本気で彼女のモノになってしまいたいと思っていたし、彼女と夫婦になりたいと思っていた。
そして、魅了が解けた今も、その思いは消えないまま。どうしようもなく、彼女に魅力を感じてしまう。この温もりも、あの快楽も、あの甘い囁きも、抱擁も、何もかもが捨てがたい。
今は、不安や後ろめたさが、その気持ちを邪魔しているだけ。心の準備ができていないだけ。
そう自覚してしまった以上、彼女の言葉を否定する事など出来なかった。
「なら、文句は無いわよねぇ……?」
「しかし……その、いきなりで……」
「だぁめ……せきにん、とりなさぁい……?
上の口も、下の口も、初めてをあげたんだからぁ……逃げるなんて許さないわぁ……うふふ」
しゅるしゅると、蛇体が巻きついてくる。背後も取られて、身動きも取れなくなって、もはや抗う術はない。
またもや自分は、彼女に食べられるのを待つだけ。いや、既に口に含まれ、味わわれているといった状況に等しい。
不満気なのは言葉だけ、その声色はなんとも嬉しそうで。甘い囁きで心を絡め取るその過程を、存分に愉しんでいるに違いない。
「とは言われても……養うのは、無理が」
しかし現実問題、夫として彼女を養おうにも、恐らく酒場はクビで、無職の身だ。
言い訳じみているが、こんな状態では、責任を取りたくても取りようがない。
無い袖は振れない、と彼女に納得してもらおうとするが……
「あら、私を誰だと思ってるの……?アナタ一人養うのなんて簡単よぉ……?
子育てだって万全よ……今すぐ孕ませてくれてもいいんだから」
「ええと……妻子を養うのは夫の義務、責任では」
彼女から返って来るのは、ズレた返事だった。
夫になれば、彼女が自分を養ってくれるのだと、そういう風に聞こえてならない。
自分が稼げない以上、ある意味で現実的な選択肢ではあるのだが……ある意味では非現実的。
もっと将来性なりなんなりのある男ならともかく、自分のような男をわざわざ養うなど、物好きの所業に他ならない。
「あら……そういう意味だったの?ダメよ、そんな責任の取り方…… おとなしく、私に養われなさいな……
一緒に居る時間が減っちゃうじゃない……」
「……物好き、ですね」
「ええ……大好きよ……?アナタの事、愛しいもの……」
「あ、ありがとう、ござい、ます……」
しかし……彼女は大の物好きらしく。その言葉に、嘘はおろか、誤魔化しや冗談が交じる事はなかった。
真剣で、それでいて蜜のように甘い響き。
人間の男として意地を張っていた部分が、ぐずぐずに溶かされていく。それと同時に、肩の荷が下りていく心地。
彼女の囁きに、不安がまた一つ呑み込まれていく。心が堕ちていく。
ああ、しかし、ただ養われるだけでは情けないし、申し訳ない。
「でも……夫の務めは、ちゃんと果たして貰うんだから……んふふ」
そして、そんな内心を見透かすかのように、彼女は言葉を続ける。
夫の務め。それは、情けなさや申し訳なさを払拭してくれる、甘美な言葉だった。
「いろいろあるけど、そうねぇ……お酒には絶対に付き合って貰うわぁ……
アナタが居るんだもの、寂しい独り酒はもう終わりよ、うふふ……
あの時みたいに、美味しいカクテルを二人で作って……アナタごと味わってあ、げ、る……」
うっとりとした様子で、彼女は囁き続ける。思い起こされるのは、一対の果実を口移しで味わった、あの記憶。
普通の夫婦は、お酒を口移しで味わい、キスをしながら混ぜあって、カクテルを作る事などしないだろう。
しかし、彼女の味を知ってしまった今では、この行き過ぎた要求を重荷に感じる事はなかった。
「んふふ……もちろん、子作りは絶対に、絶対に欠かせないわよ……?
美味しい精液を、たーっぷり注いでもらってぇ……赤ちゃん孕ませて貰わなきゃ……
私の求めには、必ず、応えて貰うんだからぁ……そうよ、いつだって、どんな時だって……」
そして、あまりにも貪欲な、"女"の音色。本能と欲望を隠さず、魅せつけるかのように、彼女は言葉を紡ぐ。
耳に唇が触れるか触れないか。その囁きは、余すことなく耳の中に送り込まれて、頭の中へと侵入してくる。声だけでなく、息遣いや吐息までも。
まだ朝なのに、目覚めたばかりなのに、三日三晩は交わったはずなのに。その声は、今すぐにと言わんばかりに、愛の営みを求めている。
そして彼女は、それに応えるのが夫の義務だと言う。
「っ……え、えもにか、さん……」
彼女の夫になれば、彼女の欲望を一身に受け止めなければならない。
その結果、彼女との子供が生まれたならば……それこそ本当に、取り返しがつかない。後戻り出来ない。
自由とは程遠い、夫としての義務と責任に縛られた生活が待っている。
その甘美さは、昨晩の交わりで身体の芯にまで刻み込まれ、教え込まれてしまっていて。義務も責任も、今では魅力的にしか思えない。
もはやすっかり、彼女の虜にされてしまったのだと自覚する。
「それに、妻を求める事も、夫の務めなんだから……
だから、たーっぷり甘えて、可愛くおねだりして、私のカラダにむしゃぶりつくのよ……?」
「っ……」
そして彼女は、ダメ押しと言わんばかりに、さらなる義務を課してくる。
それはもはや、義務や責任とは形ばかりの免罪符で、甘い誘惑。
自分から彼女を求めても良い。甘えても良い。貪っても良い。貪って欲しい時は、ねだっても良い。
夫としての、夢のような特権まで与えられ、彼女の夫になりたいという思いはさらに膨れ上がっていく。
軽率だと、先が見えないと制止する理性は、今にも振り切られてしまいそう。
「私の求めに応えなさい。私を求めなさい。そうして、私を幸せにするの……
それがアナタの責任で、私だけの旦那様としての務め……分かったかしらぁ……?」
「は、はぃ……」
たっぷりと愛情が込められた、熱っぽい囁き。彼女の手が、いやらしく胸板をまさぐってくる。エプロン越しに、その肉感的な身体を擦り付けてくる。
昨晩は魔声に魅了されたから仕方ない、と言えたが、今回は違う。彼女の言葉に頷いてしまえば、今度こそ取り返しがつかない。言い訳が効かない。
彼女が声に魔力を込めないのは、そういった狙いがあるに違いない。
そこまで分かっていて、それでも彼女の言葉に応えてしまう。虜になってしまって、とても抗えなかった。
「んふふ……離さないわよ、アナタ……早速、応えて貰うんだから……あむっ……」
「ひぁ……まだ、朝ですよ……」
彼女のモノだという証を刻むかのように、少しキツ目に、耳を甘噛みされてしまう。
窓の外を見れば、まだ陽は昇りきっておらず、明るいまま。交わって、眠って、目覚めたばかりだというのに、彼女はすっかりその気になってしまっていた。
「さっき食べた、まといの野菜の効果を教えてあげる……
あれには、お肌を活性化させて、綺麗にしてくれる効能があるの。
その芯は効果抜群……身体がむずむずして、火照っちゃって、服なんて着られなくなっちゃって……
服の代わりに、アナタのカラダが欲しくなっちゃう……ちょうど今、効き始めて来た所よ……んふふ……」
「そ、そんな効果が……あぁっ」
息を荒げながら、彼女は濃厚なスキンシップを続けてくる。蛇体にシーツを剥ぎ取られて、丸裸にされてしまう。そのまま蛇体は、縛るのではなく、まとわりつくように絡みついてきて。
巻き付くだけでは足らないと、甘い締め付けとともに、しゅるりしゅるりと身体中を這い回り、擦りあげてくる。
「アナタと出会う前は……綺麗になるためにこれを食べて、必死にオナニーして、とーっても切なかったのよぉ……?
でも、これからは、アナタがぜーんぶ受け止めてくれる……
ぁんっ……なんて素敵なのかしらぁ……これからは、好きなだけ食べちゃうわ……」
「ぁっ、はぁ……」
彼女の身体は、女体も蛇体もすっかり火照り始めていて。蕩けそうな熱が、肌にすり込まれていく。
独身の頃からまといの野菜とやらを食べていたらしいだけあって、彼女の肌は、すべすべつやつやで、しっとりと吸い付くかのような、魅惑の肌触り。蛇体も例外ではなく、鱗に覆われていながらも、しっかりと女体を感じさせてくれる。蛇腹の感触は特に極上で、むっちりとした柔らかさに手足を包まれ、擦りつけられる愛撫は堪らなく気持ち良い。
唯一愛撫を受けていない肉棒も、あっという間にガチガチにそそり立ってしまう。昨晩、散々搾り取られたにも関わらず、だ。
「んふふ……アナタの方も準備万端ね……
あのソーセージも、ベーコンも、魔界豚のお肉で作ったモノなのよぉ……?
栄養満点だもの、食べれば三日三晩はセックスできちゃうわねぇ……んふふ」
「ぇ……ま、また……そんなに……」
「そうよぉ……?アナタが私のモノだという事を、カラダにも心にも刻んで、あ、げ、る……」
あれだけ激しく夜を過ごした後だというのに、もう一度交わるなど、しかもそれが、再び三日三晩に及ぶであろう事などは、予想だにしていなくて。
身体に刻み込まれた快楽に、期待が湧き上がる反面、彼女の底知れぬ貪欲さ、執着心に、戦慄してしまう。
夫となる存在をどれ程までに求めていたのか。独り身の間に、行き遅れている間に熟成されたと思わしき欲望の丈は、もはや想像もつかず、計り知れない。
「はぁん……あれだけ愛し合った後だものね……とってもいやらしい匂い……」
「っぅ……せ、せめて、お風呂だけ……」
首筋に顔を埋めてきて、彼女はうっとりとため息をつく。そんな彼女の行動に、未だ身を清めていない事を思い出す。
幾ら彼女が悦んでくれているとはいえ、匂いをかがれるのは恥ずかしかった。興奮しないといえば嘘になるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
それに、こんなにすぐ、昨晩のような濃密な交わりをしては、どうにかなってしまいそうな気がして、心の準備も欲しかった。
「だぁめ……私は今すぐシたいの……今すぐアナタが欲しいの……分かったかしらぁ……?」
「は、はぃ……」
しかし、彼女はそんな事は御構い無しに、熱烈に過ぎるほど、自分を求めてくれる。彼女の甘い囁きには、どうしようもなく抗えず。
彼女の肢体がもたらす心地良さに、不安はすぐに融かされていく。
そして彼女は、昨晩のように自分を、優しく、しかし情熱的に、ベッドに押し倒してくる。
彼女から逃げられないとわかってしまった今、湧き上がる感情は、貪られる事に対する期待。彼女の底知れない欲望を恐れるのではなく、期待を膨らませてしまっていて。
エモニカの虜になってしまった自分は、されるがままに、彼女に身を委ねるのだった。
「んゅふふ……ねーぇ、あなたぁ……なんかいいなさいよぉ……」
「はいはい、どんなことを言って欲しいんですか……」
ベッドに腰掛け、ふたりきり。愛しの妻は、酔いが回ってすっかりご機嫌。ペースを考えずに呑んで酔っ払うのは、初めて出会った時から変わらないままだった。
絡み酒も相変わらずだが、今はそれが愛おしくて仕方がない。
「わかってるでしょぉ……?しゅきとか、あいしてるとかぁ……」
「ま、またですか……恥ずかしいんですよ、それ……」
「いいからぁ、いいなさいよぉ……」
すっかり真っ赤になった頬。潤んだ瞳に、据わった目。とろんとした表情に、熱っぽい吐息。紅い唇の間からは、蛇舌がちろちろと、せわしなく覗く。
強引に愛の言葉を催促してくる彼女は、可愛らしくも妖艶で。
「あー、うぅ……好き、ですよ。エモニカさんが居ない生活なんて……考えられ、ません」
「んゅふふ……かわいいわねぇ……もっとよぉ……」
彼女に応え、ぎゅっと抱きつきながら、愛の言葉を囁く。愛する人の前では、恥ずかしさも心地良いのだが、それでも恥ずかしい物は恥ずかしく。
多少は酒が入っているにせよ、声に羞恥を隠せない。結婚してから随分と経つが、未だにこうだ。
そんな自分の様子に、エモニカは意地悪く、そして嬉しそうに催促を続ける。彼女曰く、初々しさが残っていて堪らないのだとか。
「……あ、愛してます。エモニカさんの幸せが、自分の幸せ……です」
「もっとぉ……」
「……酔ってる姿も、可愛くて、色っぽくて、大好きですよ。こうやって言わされるのは、やっぱり……恥ずかしいです、けど」
「んゅふふふふー…………わらしも、あいしてりゅ……わらしのものぉ……ちゅぅ、ちゅっ、んっ……」
ぎゅっと抱き返してきて、すりすりと頬ずり。唇に、頬に、首筋に、キスの雨。
普段はしっかりとして、理知的な彼女が見せてくれる、無邪気で、甘えるかのような仕草。素面とのギャップもあいまって、真っ直ぐ過ぎる愛情表現が、堪らなく愛おしい。
「んゅふふ……かくてりゅ、つくるわよぉ……んく……んっ」
そして彼女は、おもむろに、陶酔ワインの瓶を引っ掴み、らっぱ呑み。ぷっくりと頬を膨らませて。
「んむっ……んっ……れるっ……」
「っ……んっ……」
強引なキスと、口移し。たっぷりと送り込まれてくるのは、カクテルのベースとなる、魔界葡萄のワイン。
芳醇な香りが広がって、それだけで心地よい陶酔感。
甘みや酸味をはじめとして、苦味や渋みまでもが、絶妙なバランスで混じり合った複雑な味わい。特筆すべきは、どこまでも堕ちていくようなコクの深さ。
彼女に応え、舌を絡めて味わえば、陶酔感はさらに深く。だんだんと、余計なものが頭の中から抜け落ちていく。彼女だけになっていく。
口移しで味わう事への恥ずかしさは、欠片も残らない。
「ぷは……とろけしろっぷもぉ……ん……」
キスに夢中になり過ぎてしまう前に、どちらからともなく、唇を離す。
彼女から送り込まれたワインは飲み干さず、口に含んだまま。
続けて彼女が手にしたのは、とろけの野菜を使ったシロップ。
液状化した実に、果物のような茎を搾って加え、とろみが出るまで煮詰めた代物。
魔物の魔力に対する抵抗力を徹底的に弱めてしまい、魔界食材の効果などを強烈に増幅させる、魔の液体。彼女はそれを、惜しみなく口に含んで。
「ちゅ……っ……はむっ……れろぉ、ちゅぅっ……」
「っ……」
再び重ねられる唇。二度目の口移し。たっぷりとシロップを絡めながら、蛇の舌が侵入してくる。
そして、シロップとワインをしっかりと混ぜ合わせようと、舌同士をねっとりと絡ませ、掻き回してくる。
それはまさしく、夫婦で行うカクテル作りで。二人揃ってお気に入りの、お酒の愉しみ方。
彼女が上で、自分が下。彼女は口移しで材料を注ぐ。そして、舌で掻き混ぜる。自分は、器としてキスを受け入れ、彼女に応える。カクテルをうっかり呑み干してしまわないように気をつけるのも、立派な仕事。
「れろぉ……はむっ、あむっ、ちゅぅぅぅっ、んぅ……」
「っ……ふぅっ……っ……」
とろけの野菜は、食べ合わせによってその味を変える、魔法の食材。カクテルの材料にはぴったりで。
どろりと濃密なとろけのシロップは、陶酔ワインのコクの深さと、その濃厚で複雑な味わいを、しっかりと引き立ててくれる。
その陶酔感もまた、ワインだけを飲む時の比ではなくて。
めくるめく陶酔感に、世界が急速に狭まっていく。愛しの妻に、収束していく。心が染め上げられていく。
食みあう唇の感触、絡み合う舌、抱き合う温もり。感覚を埋め尽くすのは、エモニカと、エモニカと一緒に味わうこのカクテルだけ。夢中で舌を絡める。
「んっ……ちゅるっ、あむっ……れろぉ、じゅるっ……」
エモニカもまた、無我夢中で唇を重ね、舌を擦り合わせ、そして、たっぷりと唾液を送り込んできて。
甘い陶酔の最中、流れ込んでくるのは彼女の味。そして、とろけのシロップが、彼女の味さえも引き立ててくれる。それは同時に、陶酔ワインとの調和も保ってくれていて。
出来上がっていくのは、愛する人の味が際立つ、渾然一体で極上のカクテル。
舌を絡めれば、その味わいは味覚へと直に擦り込まれていく。彼女を味わって、自分を味わわれて。キスの快楽に耽り、愛の味に酔い痴れて、エモニカに溺れていく。
「ちゅぅ、じゅるっ……んっ、んくっ……じゅるっ、ちゅうぅっ」
「っ……ん……っ」
長いキスの果てに出来上がった、愛のカクテル。水かさを増していくそれが、こぼれてしまいそうになるのをきっかけに、彼女はカクテルを吸い上げ、喉を鳴らして飲み干していく。
それに自分も応えるが、あくまでも自分のペース。こくり、こくりと、丁寧に味わってカクテルを飲み下す。
自然、カクテルの取り分は彼女の方が多くなるが……彼女に貪られる悦びの前には、問題にはならない。
唾液と一緒に混ぜ込まれているのは、彼女の魔力。とろけのシロップが、魔力の効きを格段に高める。
つまり、彼女の唾液は、極上の媚薬と化していて。
カクテルを一口飲み下すだけで、喉が甘く灼けついて、身体の火照りが止まらない。彼女の魔力が染み渡っていく。彼女に染め上げられていく。
「ちゅぅっ、れるっ、ぷはぁ……あなたのかくてりゅ……さいこぉ……」
「んっ……ぷは……ふぁ……ぁぁ……」
全て飲み干し、最後にお互いの口内を舐め回すように味わって、ようやく唇を離す。
絡めあい続けていた舌は既に、快楽と魔力に侵されて、芯まで蕩けきってしまって、ろれつが回らない。
うっとりと、だらりと舌を垂れる彼女の姿に、心を奪われて。
ふわふわとした恍惚感。キスだけで骨抜きにされて、酔い潰されてしまったかのように、足腰が立たない。くったりと、甘い余韻に浸る。
「んゅふふふ……」
力の入らない身体を、蛇体が優しく支えてくれる。そして彼女はおもむろに、服を脱ぎ捨てはじめて。
日々の美容の賜物である、美術品のような裸体を、惜しげも無く魅せつけてくれる。
「あなたも、もっとのみなしゃいよぉ……ほらぁ……」
そして彼女は、ただ裸体を魅せつけるだけに留まらず。だらりと舌を垂らしつつ、その魅惑の谷間に、陶酔ワインを注ぎ始める。
珠の肌を器に、とぷとぷとワインが満たされて、満たされて、ついには谷間から溢れてしまう。それでも彼女は御構い無しに、谷間へとワインを注ぎ続ける。谷間から溢れた赤い液体は、お腹を伝って流れていき……
「ぁん……みてぇ、こーんなに、たっぷりぃ……」
ワインの辿り着く先は彼女の股。もう一つの受け皿。ラミアの身体に脚はなくとも、下腹部と内ももで形作られる女体の窪みは、人と変わらず。当然、液体の流れ出る隙間は存在しない。
そして、魔性の三角地帯は、むっちりと盛り上がった艶かしい蛇腹で縁取られていて。そのおかげで、ただの女体よりも多くの液体を、こぼさずに受け止める事が出来る。
そして、そこは既に、秘所から溢れだした愛蜜が溜まり始め、淫らな香りを放っていて。それに継ぎ足される形で、ワインが流れ込んでいく。
彼女はその身体を酒器に、据わった目でこちらを誘いながら、谷間にワインを注ぎ続けて。ついにはボトルの中身を空にしてしまう。
それだけの液量を、彼女は一滴たりともこぼさず、その身で受け止める。それは、ラミアであり、豊満な肉体を持つ彼女ならでは。
自らの肢体にワインを注ぎ切った彼女は、己の身体を誇るかのように自慢気。
女性の股にお酒を注ぐこの行為を、ジパングではわかめ酒と呼ぶらしい。無毛の場合は、あわび酒とも。
「んゅふふ……わらしのおさけよぉ……ぜぇんぶ……のみなしゃぁぃ……?」
「ぁ……はぃ……いただき……ます……」
そして彼女は、呂律が回らないながらも、たっぷりと魔力を込めて囁いてくる。
とろけのシロップのおかげで、彼女の魔声が、いつも以上に心地良く響く。いつもより深く、心を奪われ、魅了されてしまう。
そして、声に導かれるがままに、胸の谷間へと顔を寄せる。愛しい妻にこうまでしてお酒を勧められては、拒めるはずもなかった。
蒸れた谷間の、甘酸っぱくも優しい匂い。人肌で温められた分だけ、陶酔ワインもよく香る。
息を吸い込むだけで、幸せな酩酊感はさらに深まっていく。
「ん……」
「ぁんっ……んゅふふ……おっぱいワインなんらからぁ……おっぱいもあじわわなきゃ、らーめぇ……」
せっかくの谷間酒をこぼしてしまわないよう、液面にそっと口づけて。なみなみに注がれたワインを、ゆっくりと味わう。視界を埋め尽くす彼女の豊乳と、赤く透き通った先に見える谷間は、極上の肴。
そうして愉しんでいると、彼女は半ば強引に頭を抱きしめ、胸の谷間へとうずめさせてくれて。
その囁きには、魔力が込められたまま。甘く愛しい残響が、頭の中で重なり続けていく。
「……っ……」
「んっ、ぁん、おっぱいおいしぃわよねぇ……?」
むにゅむにゅと柔肉の感触を堪能しながら、舌を這わせて、残りのワインを舐めとっていく。
彼女の胸に甘えながら味わう陶酔ワインの味も、また格別。もぞもぞと位置をずらしながら、谷間を舐め回す。
谷間の奥に舌をねじ込めば、甘く蒸れていて。ただ甘酸っぱいだけでなく、母性溢れる優しい味わい。
酒と一緒に彼女の母性を味わえる谷間酒。そこに彼女の魔声が合わさって、まさに至福の一杯。
「はぁぁ……はぃ……おいしぃれす……」
「はぁん、そうよぉ……ちゃぁんと、きれいに、しなしゃぁぃ……?」
豊乳の上部に溜まった酒を全て舐め取り味わい尽くして、ようやく一息つく。
すると彼女は、上体を反らしながら両手で胸を持ち上げ、下乳の谷間を魅せつけてくる。
「はぃ……っ……ぁぁ……っ」
「んっ、んゅふふ……すてきぃ……」
流れ伝ったワインで濡れた、魅惑の下乳。誘われるがままに、まずは下乳の谷間に顔を埋める。そして、深呼吸。
谷間以上に蒸れきった下乳からは、甘い芳香が、むんわりと広がっていて。陶酔ワインの香りを合わさり、くらくらとした陶酔はさらに深く、深く。
恍惚の中、乳肉を唇で食めば、心奪われる弾力。音を立てないように舌を這わせて、静かに下乳へとむしゃぶりつく。
音を立てないのは、彼女の声に耳を傾けたいから。
「あぁん……おっぱいのつぎはぁ……おにゃかもきれぃにぃ、ぺろぺろしてぇ……?
あんっ、そうよぉ、じょうずぅ……」
甘い声に聞き惚れながら、魅惑の果実を心ゆくまで味わって。その次は、むっちりと肉が付きながらも、要所要所はきゅっと引き締まった彼女のお腹。
下谷間の根本から、綺麗にくぼんだへそまでを繋ぐ、綺麗な縦のライン。ワインが流れ落ちた道筋に沿って、舌を這わせる。
乳肉とは違った引き締まった感触を、たっぷりと舌で愉しむ。
「ひゃん……おへそぉ、ぁん……んゅふふ、いまの、よかったわぁぁ……」
へその中に残っていたワインも、舌を突っ込んで丹念に舐め取って。くすぐったさ半分、気持ちよさ半分の彼女の嬌声。
おもむろにへそにキスをすれば、彼女はご満悦。そのまま、下腹部を流れ落ちたワインの筋も、綺麗に舐め取って……そこで舌を止める。
女体の器にたっぷりと注がれたワインには、まだ口をつけない。わかめ酒を味わうのは、少しだけ我慢。
「んゅふふ……よぉくできましらぁ……」
汗もワインも舐め取り尽くした自分に、彼女は優しく労いの言葉を掛けてくれる。
酔うと甘えてくる彼女だが、甘やかし好きなのは変わらず、普段と違って、わしゃわしゃと頭をなでてくれる。これはこれで、とても心地良い。
「ぁんっ……あまぃの、ほしぃのねぇ……?」
「……あむ」
わかめ酒をとっておく理由も、自分がどうして欲しいかも、愛しの妻はお見通し。
彼女は乳房の先端を寄せ上げて、その先端の膨らみをこれ見よがしに擦り合わせる。
ぷっくり膨れ勃った、彼女の両乳首を、まとめて口に含む。そしてそのまま、おっぱいを横から鷲掴み。
「ほらぁ……ぁんっ、がんばってぇ……たゃーっぷり、きもちよくしてぇ……?」
折角のわかめ酒なのだから、たっぷりの愛蜜を混ぜて味わいたい。彼女はラミアで、アルラウネのような蜜は出るわけではないが、それでも彼女の蜜入りカクテルが飲みたくて仕方ないのだ。
そのためには、彼女をしっかりと気持ち良くしてあげなければならない。
欲望半分、甘えたさ半分で、懸命に彼女の乳房に吸い付いて、揉みしだいて。
「ぁぁん、ぁ、ひゃん……あまえんぼしゃん、にゃんだからぁ……んっ、ぁん……」
すっかり勃起した乳首は、吸うにも甘噛みするにも舐め回すにも、心を洗い流すような心地良い弾力を返してくれる。病み付きになってしまう感触に、片時たりとも、口を離すつもりにはならない。
大迫力の胸は、とても片手ずつには収まりきらず。それどころか、片方を両手で持ったとしても、まだ持て余してしまう。そんな爆乳を揉みしだけば、指が沈み込んで、包み込まれてしまいそうな程。
ふわふわのむにゅむにゅのむちむちでぷるぷるで、女体の柔らかさが余す事なく詰め込まれた夢のような感触は、まさに魅惑の果実。
そして、指に吸い付いてくるような、滑らかでしっとりとした肌触り。あまりの心地良さに、一度揉みしだきはじめてしまえば、指が勝手に動いて、止まらない。
もはや彼女の声からは、魔力が垂れ流しになり始めていて。艶めかしくも舌足らずに誘う嬌声が、頭のなかをぐちゃぐちゃにする。
「んっ、ふぁぁ、あぁっ、にゅふふ、もう、むちゅぅになってりゅ……ぁんっ、かわいぃ……かわいしゅぎるわぁ……」
魅惑の果実と甘い嬌声に魅了されきって、もはや無我夢中。ただひたすらに、愛しの妻のおっぱいを堪能せずにはいられない。
たわわを通り越したそれは、彼女の美容に掛ける努力の結晶。夫婦になってからも、日に日にその美しさを増し、その感触は心地良くなっていく。そして、夫である自分の好みに、大きく育ってくれている。
それを知っているからこそ、その感触がさらに愛おしい。どうしようもなく、虜になってしまっている。
「ひゃん、ぁん、おっぱぃ、しぼっても、まだぁ、おっぱいでないのにぃ、ぁぁん、そんなに、ちゅぅちゅぅ、りゃめぇっ、ぁんっ、しゅきぃっ……」
今はまだ母乳の出ない、彼女のおっぱい。そんな事はお構いなしに、母乳を搾りとるように夢中で手を動かす。一生懸命にひたすらに、二つの乳首にまとめて吸い付いて、乳首の先端を執拗に舐め回す。
エモニカのおっぱいが飲みたい。その一心でたっぷりと甘えて、おっぱいをねだり尽くす。
ないものねだりのわがままをも悦んで受け止めてくれる、淫らな母性。甘やかされるがままに、ねだり続ける。
毎日、彼女を孕ませようと頑張っているが、それよりも早くおっぱいが飲みたい。そんな想いを、絶頂の近づいてきた彼女の身体に懸命に伝える。
「ぁん、あぁっ、んっ、あにゃたっ、あにゃたぁっ、しゅきぃっ、らいしゅきぃっ――!」
淫らながらも、甘くとろけた嬌声。びくん、と彼女の身体が震える。しがみつくように、ぎゅっと抱きすくめられる。
絶頂の最中に紡がれた愛の言葉は、極上の魔声となって、頭のなかを埋め尽くす。幾重にも反響する嬌声の、その残響もまた鮮明。頭の中で、彼女の愛が響き続いて、鳴り止まない。
彼女の悦ぶ声は、興奮を掻き立てながらも、同時に深い安心感を与えてくれる。
「ぁっ、ぁはぁっ、しゅきっ、しゅてきぃ、あいしてりゅっ……」、
絶頂中の彼女のおっぱいに甘え続ければ、彼女はびくびくと身体を跳ねさせ、さらなる嬌声をあげてくれて。
悦んでくれる。それは、甘えても良い、というこれ以上ない意思表示。それに安心を覚え、愛情に甘えて乳搾り。興奮の丈をぶつけて、さらに激しく、さらに熱烈に、揉みしだいて、吸い付いて。
「ぁんっ、しゅごいっ、またイっちゃ、ぁっ、しゅきぃっ、しゅきぃっ……!」
愛しの妻は甘えられて、がくがく、びくびくと、幸せそうによがって、乱れて。素面では中々聴く事のできない、剥き出しの愛の叫び。
その声に魅了されるがまま、心を奪われるがまま。絶頂の最中、さらなる絶頂を迎える彼女に、しゃぶりつき続ける。
「ぁん、あぁっ、らめよぉ、もう、あふれちゃう、おしゃけがこぼれちゃうかりゃ、らぁめぇっ……」
彼女の声に突然交じる、切ない響き。もっと甘えて欲しい、けれどもいけない。そんな板挟みを感じさせる声。
どうすればいいのか分からなくなって、母乳をねだるのを止める。
「はぁ……はぁ……っ……むちゅぅに、なりしゅぎよぉ……もう、かわぃぃんらからぁ………わらしのおさけぇ……できらのにぃ……」
「ぁ……」
絶頂から降りつつある彼女に説明されてようやく、お酒の事を思い出す。愛蜜たっぷりのカクテルを作るために、おっぱいに甘えていたはずなのに。途中からすっかり夢中になってしまっていたらしい。
「わらしのおさけをのまないなんれぇ……らめなんらから……でも、あまえんぼ、らぁいしゅき……」
ぷっくりと頬を膨らませ、不機嫌なフリをする彼女。口元は嬉しそうに緩みきっていて、可愛らしくて仕方がない。
「……」
そして、彼女の股へと、淫らな酒器へと目を落とす。ゆらめく液面に、明らかに増えたわかめ酒の水かさ。随分と余裕があったはずなのに、もはやこぼれ出る寸前。
それほどまでに大量に、愛の蜜が溢れだしていたという事。彼女が止めてくれなかったら、折角のわかめ酒が台無しになっても、延々と甘えていたに違いない。
彼女は絶頂の最中であっても、お酒をこぼさないように頑張ってくれていたらしい。その健気さには、心を鷲掴みされるばかり。
「はぁ……っ……んゅふふ……みれぇ……?」
もはや彼女は、辛抱たまらない、といった様子で息を荒げていて。酒をこぼさないようにしながらも、いやらしく身悶え。
身体に絡みついた蛇体は、催促するようにぎゅっと締め付けてくる。
「はぁ……とても……きれぃ、れす……」
紅く澄みきった陶酔ワイン。その奥で層を形作るのは、砂糖を煮詰めたかのように透明な、彼女の欲望と愛の蜜。
彼女のカクテルは、ワインと蜜の二層構造。濁りは少なく、しっかりと底まで見通す事が出来る。
器の底にあるのは、溢れ出る蜜の源泉。幾多の交わりを経てもなお、生娘のように綺麗なままの割れ目。その入り口はぴっちりと閉じながらも、いやらしくひくついている。
愛しい妻の極上の女体を、赤と透明、二層の液体が華やかに彩る。
たっぷりと注がれたワイン。それに釣り合う量の愛蜜が、欲情の程をはっきりと物語る。
美しくもいやらしいその光景は、もはや芸術。
今までなんども目の当たりにしているのに、今回も、どうしようもなく魅入られて、見惚れてしまう。
「さぁ……めしあられぇ……?」
「はぃ……いたらき……ます……」
そして彼女は、その尻尾の先端で酒と蜜をかき回し、混ぜ合わせて。美しい二層構造が崩れる代わりに、薄赤色のカクテルが出来上がっていく。
とろりとした液面。甘くむせかえるような女の匂いに、陶酔ワインの複雑な香りが加わって。出来上がったのは、ただ濃密なだけでなく、底が見えない程に深く淫らな芳香。
惹きつけられて、抗えない。誘われるがままに、口を寄せる。
「っ……んく……んっ……ん……」
「んゅふふ……」
その味わいは、口移しのカクテルよりも遥かに濃厚。甘酸っぱさが舌に絡みついて、味覚を征服されるかのよう。とろりと濃い飲み口が、喉に気持ち良い。
一度口をつければ、止まれない。彼女自慢のカクテルは、病み付きになってしまう魔性の味。
お酒はゆっくりじっくりと味わうのが好みだが、このカクテルは別格で。こぼさないように気をつけながらも、ぐいぐいと喉を鳴らして飲み進んでしまう。どうしようもなく欲望を掻き立てられて、無我夢中で貪ってしまう。
視線を釘付けにするのは、彼女の花園。その割れ目から、透明な愛蜜が今もなお溢れ出すその光景を、食い入るように見つめる。
「っ……んっ……」
「はぁ……いいのみっぷりよぉ……」
身体中に沁み渡っていく彼女の魔力。その魔力の量は、唾液とは比べ物にならない。宙に浮かぶような昂揚感。
陶酔ワインの効果も合わさって、愛しい人にずぶずぶと浸っていくような感覚。
一口ごとに、くらりと、彼女以外の世界が揺らぐ。心地良い酩酊感に呑まれて、身体が熱くとろけていく。
「……っ、じゅる……っ……っ……」
「ぁんっ、そうよぉ……はぁん……ぁんっ……」
減っていく水かさに合わせ、彼女という杯に、さらに深く顔をうずめる。
舌を這わせて舐め取りながらもカクテルを飲み干していけば、ついに辿り着くのは彼女の秘所。陶酔ワインが滴り、蜜の溢れるその場所にしゃぶりついて、わかめ酒を最後まで味わい尽くす。
彼女の手に頭を押さえられて、腰をぐりぐりと押し付けられながら、割れ目の間まで、しっかりと綺麗に舐めとろうとする。しかし、溢れ出る蜜はとめどなく、終わりが見えない。
溢れる蜜を、延々と舐め取り続ける。
「ぅ……ぁ……」
しかし……気が付けば、身体に力が入らない。気持ち良くて良い気分なのに。
たっぷりとカクテルを飲まされて、酔いに酔って、もはやろくに動けなくなってしまっていた。
「あらあらぁ……つぶれちゃっらわねぇ……?
んゅふふぅ……くったり、かわぃぃんらからぁ……かいほー、してあげりゅぅ……」
「ぁ……」
この時を待っていた、と言わんばかりの嬉しそうな声。抱き上げられて、ベッドに横たえられて、覆い被さられて、慣れた手つきで裸に剥かれてしまう。
彼女に、酒の弱さを咎める素振りはない。それどころか、愛おしげな囁き。彼女は呑んだくれだけども、自分の酒に弱い所も、しっかりと愛してくれる。飲めば喜び、飲めなくなれば愛でてくれる。だからこそ、彼女との酒盛りはやめられなかった。
どくどくと心臓が高鳴っているのに、聴こえるのはエモニカの奏でる音だけ。
見える景色は霞んで、歪んで、それなのにエモニカの姿だけは、はっきりと視える。もはや、エモニカしか視えない。
頭の中もすっかり染め上げられて、彼女一色。
たちこめるのは、淫らで甘い色香。いつまでも包み込まれていたい。
「んゅふふ……さぁて……たべてあげりゅ……」
耳元で欲望に満ちた囁き。それはまさに、捕食者の響きで。
もはや既に、自分はエモニカの虜なのに。魅了され尽くしているのに。彼女はさらに魅了を重ねようとしてくる。酔った彼女は限度を知らず、未だに魔声を止めはしない。
「いたらきまぁすっ……はぁぁぁんっ……」
覆い被さったまま、身体を密着させたまま。胸を押し付けたまま、耳元に口を寄せたまま。
彼女は、巧みに腰を使って……肉棒は、ぬぷりと?み込みこまれてしまう。
「ぁっ、ぁぁぁ……」
ぐちゅぐちゅに潤みきった、準備万端の彼女の膣内。肉棒にぴったり馴染んで絡みつき、吸い付いてくる、自分専用の名器。弱点を知り尽くし、的確に責め尽くす激しい蠢き。欲望の坩堝と言うべき、狂おしい熱。愛しい妻の身体は、まさに極上。
もはや、病み付きという言葉では到底言い表す事のできない、魔性の快楽。彼女無しではもう生きられないとさえ思えてしまう程。
しかも、今の自分は、彼女の愛蜜を、魔力を飲み干して、媚薬漬けとも言うべき状態で。
身も心も、既にぐちゅぐちゅのどろどろだというのに、天国のような快楽に、さらに甘く融かされていく。
「ぁぁんっ、せーえき、れてりゅっ、おぃしぃ、しゅきっ、さいこぉっ……
もっとぉ、もっとちょうらいっ……しゅきぃ、しゅきよっ、あにゃたぁっ……」
「ぁひ、ぁっ、あぁぁ……えもにか、しゃんっ……」
当然、挿れただけで絶頂に導かれ、恍惚の中、精を搾り取られて。一滴も逃さず、孕みたがりの子宮に飲み干されていって。
この世の物とは思えない程の快楽と、身を包み込む優しい温もり、底なしの欲望と愛情に、どっぷりと浸かる。
精を飲み干しながら囁かれる彼女の魔声は、とびきり甘く、熱っぽく、蕩けていて。彼女の感じる悦楽を、頭に直接教え込まれるかのよう。頭の中で反響する声に聴き惚れて、夢のような陶酔感。理性も何もかもが、彼女の囁きと快楽に塗りつぶされていく。
宙に浮かぶような酩酊感の中、陶酔に陶酔を、魅了に魅了を重ねられて、考えるのは、エモニカの事だけ。感じるのは、彼女だけ。エモニカだけが全てで、世界は彼女と二人きり。
今日も酒浸りに、ただひたすらに愛し合う。お互いにどこまでも酔い痴れて、どこまでも幸せに溺れていくのだった。
15/11/09 19:27更新 / REID