二夜目:ラミア 後編
「残念ねぇ……ラジィちゃん。あんなに楽しみにしてたのに……」
「…そうですね」
玄関ホールの隅っこでキセルの紫煙をくゆらせるクラウディアと、その隣に立つマルク。今日も賑わうお客の出入りを見つめながら、恐らく本日で一番の幸運を掴んだお客を待っているのだった。
しかし、どことなくマルクの表情は晴れない。その頭の中では、ぐるぐると様々な憶測が飛び交っていた。
おかしい、おかしすぎる。こんなに都合の良いことがあっても良いものだろうか。
そう考えてしまうのも当然である。何しろ、ラジィとミラは同じ職場で、さらにミラは魔術や薬のエキスパート。嫌な想像しか浮かんでは来なかった。
「急に熱が出たって、びっくりしちゃうわよねぇ。変な病気が流行らないといいけど。マルクちゃんも、気を付けなきゃダメよ?人間ってすぐに死んじゃうんだから」
「は、はぁ……あっ、それじゃクラウディアさん、また後で!」
店に入ったミラの姿を見つけて、マルクは小走りに駆け出した。アークのカウンターで手続きを終えたところで横から彼女の顔を見上げた。
「お待ちしていました、ミラさん。本日は当店の御利用、ありがとうございます」
「あら、迎えに来てくれたのね。ありがとう、マルク君」
そう言って微笑むミラは、夜は身体が冷えるのかケープを肩に羽織っていた。しかし、やたら生地が薄くて内側のビキニがスケスケ。逆に扇情的で見ている方が恥ずかしくなってしまう。
「あらあら、どこを見ているのかしら?もう我慢出来ない?」
「うっ……す、すみません……」
どうやら視線の向きがバレてしまったらしい。顔を真っ赤にして俯いてしまうマルクの手を、重ねるようにミラがきゅっと握ってきた。
「さぁ、お部屋に行きましょうか。夜は長いんだもの。いつも頑張ってる分、いっぱい甘えさせてあげるからね……」
「こ、こちらです……どうぞ」
もはや何百人と身体を重ねてきたマルクも、ミラの前では完全にその余裕を失ってしまう。確認したいことも聞けず、カチカチに身体を強張らせて部屋へと向かっていく二人を、アークは他の客の対応をしながら横目で見つめていた。
「大丈夫かな、アイツ……ああいうタイプ、苦手みたいだしなぁ……」
マルクは甘えてくる相手の甘やかし方は誰よりも心得ているが、逆に面倒見の良い真面目な性格が災いして甘え方というものに疎いところがある。ミラはまさに、彼にとってある意味苦手なタイプと言えた。
「ほう……マルクはあのような包容力のある女に弱いのか。やっと、ここで下働きをしている甲斐があったというものだな」
カウンターの中からひょっこりと顔を出し、ローレットもマルクとミラを見送る。マルク攻略の糸口を見つけたようで、御満悦の御様子である。
「タイプっていうか、単に苦手なだけだぞ。アイツ、根が真面目すぎて甘え方ってやつを単純にわかってねぇんだよ」
「む、そうなのか?ならば、あの女にマルクを寝盗られることはまずなさそうだな。よし、早速部屋を覗きにーーー」
「ローレットちゃ〜ん、ルキア君とレシィ君のお部屋にお食事を持っていってちょうだーい」
敵情視察へ出向こうとしたところで、都合の悪いところへクラウディアから声が掛かる。今夜はいつにも増して盛況で、ローレットも用心棒専任とはいかない状況であった。
無論、今はそれどころではないのだが、歯向かったところで得るものは何も無し。それどころか、店に出禁にされてマルクの傍にいられなくなる可能性も十分に考えられた。
それらを考慮すると、もはやローレットに選択肢が残されているはずもない。
「ぐぬぬ……ええい、すぐに行く!」
「あと、三階の廊下とクロエ君のお部屋のお掃除。倉庫の整理とお部屋に足りなくなった備品とお薬を補充して、それからーーー」
「一つずつ言え!やる気が削げるだろうが!」
カウンターから飛び出すや否や、マルクの心配をする暇もなく、バタバタと慌ただしくローレットは走り去っていったーーー
「はぁ……美味しかった。ここのお料理、一度食べたら何度でも来たくなっちゃうわねぇ」
満足そうに言って、ミラは口元を紙ナプキンで拭った。テーブルの上には彼女のオーダーした料理が盛られていた皿が並び、いずれも空になっていた。
銀雪館の料理は、全てクラウディアがどこぞで雇ってきた料理人によって作られている。その質は魔王城で出されるものと遜色無いものが出されると評判で、男娼を頂くついでに料理を堪能するというのが銀雪館の通の楽しみ方となっていた。もちろん、それだけ値も張るのだが。
「マルク君が羨ましいわぁ。いつも、こんなに美味しいお料理を食べられるのよね?」
「あはは……そんなことないですよ。こうしてお客様と一緒に頂いたりすることもありますけど、ガツガツ食べるわけにはいきませんから。それに休憩時間もあまりありませんから、基本的にはすぐに食べられるパンとスープだけ、というのがほとんどなんです」
「あら……そうなの?ダメよ、成長期なんだからちゃんと食べないと……」
「僕はまだ買って下さる方が多いので食事を口にする機会があるんですけど、来たばかりでリピーターのお客様がいない子は、少し物足りないかもしれませんね。でも、そういう子にはクラウディアさんも気遣って量を増やしたりしてくれますから、大丈夫なんですよ」
椅子に腰掛けたミラの膝、ではなく蛇体の上に跨がるように抱かれてながら、マルクは彼女に身体を預けていた。
細かい鱗に包まれたミラの蛇体はしっとりと濡れたような感触で思いの外柔らかく、柔らかいついでに言うと後頭部辺りに押し付けられた膨らみもまた、心地よい感触である。さらに、彼女の香水らしい甘い香りが、マルクの身体をいつになくリラックスさせていた。
「そう……でもお姉さん、ちょっと心配だわ……」
ぎゅっと、マルクを抱くミラの腕に少し力がこもる。口元には微笑みを浮かべているものの、その眼差しは本心からマルクを心配している様子が見て取れた。
「ミラさん、お店に来られるのは久しぶりですよね。僕が最後にお相手したのは……確か、二ヶ月半前くらいでしたっけ?」
「ええ、そのくらいになるかしら。本当はちょこちょこ顔を出していたんだけど、マルク君の予約がなかなか取れなかったのよね。だから、本当に今回は幸運だったわぁ。ラジィさんには、ちょっと悪いと思うけど」
「あ、あはは……そうですね、本当に……」
果たして、真相を聞いても良いものだろうか。恐る恐る、マルクはミラの顔を見上げた。
しかし、ラジィに毒を盛ったのか、と尋ねて正直に答えてくれるとは思えない。とはいえ、このまま真実を闇に葬っても良いものかと思うと疑問が残る。
まさに今、修羅場を迎えつつあるマルクの脳内。どうしたものかと頭を悩ませていたところへ、彼の身体を抱え込むようにミラが顔を寄せてきた。
「あっ……ミラさん……?」
「…次にいつ会えるかわからないから、言っちゃうわね。私、ずっとマルク君と……こうしていたいって思ってたの。マルク君が……欲しいの」
マルクの耳元で、ミラは囁いた。もう二度と離すまいと彼の身体をひしと抱きしめ、彼の膝から足下に掛けて彼女の太く長い身体が自由を奪うように巻き付いていく。
「ミラさん……お気持ちは、とても嬉しいです。でも、僕はまだ……クラウディアさん達に……」
「ええ、知ってるわ。マルク君が、お店の人達に拾ってくれた恩を返そうと思ってること。でもね……それなら、マルク君はいつ幸せになれるの?」
身体に回されたミラの腕が服の裾から中に入り込み、細い指先が薄い胸板を撫でていく。その手が、マルクの左胸で止まった。早鐘を打つ心臓の鼓動から、彼の本心を探るように。
「私がマルク君に初めて会った時、マルク君はちょうどお客さんを送るために外へ出てきてたの。マルク君も、お客さんも、とっても良い笑顔に見えたんだけど……マルク君だけ、なんだか無理をしているように見えたの。この子の、本当の笑顔が見たい。そう、思ったのよ」
「ぁっ……んん……ミラさん、待って……っ」
ミラの指先が胸の上で踊り、爪で擦るように乳首を引っ掛かれる。彼女の指が淫靡に踊る度に、マルクの未成熟な肢体は敏感に震え、身悶えした。
そんな様子の彼を、ミラは微笑みながら見下ろしていた。情欲を微塵も感じられない、優しさに満ちた表情で。
「でもね……今日、ローレットさんと話してたマルク君の顔を見た時……お姉さん、嫉妬しちゃった。だって、マルク君とっても嬉しそうで、満たされてて……私の入る隙間が無くなったように感じちゃったのよ」
「ミラさん……僕は……くぅぅッ!?」
擽られていた乳首を思い切りつまみ上げられ、マルクの口からは悲鳴にも近い声が洩れた。すぐに手は離れたものの、ピリピリとした痛みが真っ赤になった乳首に残っていた。
「かはっ……ぁ……痛……っ」
「だから、お姉さん……今夜で、マルク君を私のものにするつもり。その笑顔を、私だけのものにしたいの。ローレットさんには……負けたくないの。はむ、ん……」
なすがままマルクの身体がぐるりと反転し、ミラと向かい合う体勢に。直後、食らい付くように彼の唇にミラが唇を重ねた。
「んっ、んんっ、ぁ……あ……っ」
何度も角度を変えて重なりあう唇の隙間から、マルクのくぐもった喘ぎ声が洩れる。
ラミアの常人離れした二又の舌は少年の唇の隙間から侵入し、口内で渦を巻くように蹂躙する。
「んっ、ぅ……んぐぅッ!?」
一方的な接吻に息苦しさから涙を溢すマルクの瞳が極限まで見開かれた。口内だけでは飽きたらず、ミラの舌は喉奥からさらに食道までを通過。それは遂に胃にまで達し、つい先ほどマルクが口にした食物を味わうかのように掻き回した。
体内まで舐め尽くされるかのような感覚から逃れようとするマルクだったが、不思議なことに全身が弛緩して指先一つ動かすことが出来なくなっていた。全身が部屋に充満する甘い香の匂いに包まれ、この息苦しさまでもが彼の脳に直接痺れるような快感をもたらしていたのだった。
「ぅ……かはァッ!!はーっ…はーっ……!」
マルクの限界を察したか、にゅるりと一気にミラの舌が引き抜かれた。
やっと満足に呼吸をすることを許され、力の入らない身体をミラに預けて荒々しく呼吸をするマルク。そんな彼を優しく抱いたまま、ミラはごくりと舌先で絡め取ったマルクの胃の内容物を嚥下した。
「んっ……やっぱり、ここのお食事は美味しいわね。マルク君の味も、とっても美味しいわ……」
「ひっ……く……うぅ……っ」
頭を撫でられながら、これまでに未体験の感覚に恐怖を覚え、嗚咽を洩らして涙するマルク。身体を小刻みに震わせながら泣きじゃくる少年を、ミラは自らの胸に甘えさせるように強く抱きしめた。
「あらあら……ごめんなさい、マルク君。あんまりマルク君が可愛いから、お姉さんイジワルしちゃった。でも、今度はマルク君を気持ち良くさせてあげる……」
そう囁き、ミラはマルクを抱いて立ち上がった。
ズルズルと床を這い、辿り着いたのはあらゆるお客に対応出来る巨大なベッド。マルクを抱えたままミラはベッドの上でとぐろを巻き、その中心に彼の腰を据えた。
端から見ると、揺り籠に乗せられた赤ん坊とそれを見下ろす母親のよう。そしてそれを体現するかのようにミラはケープとビキニの紐を解き、豊かな水蜜桃をマルクの前に晒した。
二つの巨大な乳房は、まるで練乳で出来ているかのように白く輝いており、薄いピンク色の突起はピンと立ってマルクの視線を釘付けにする。
「マルク君、おっぱい大好きよね?お姉さんのおっぱい、吸ってくれる?」
「は……い……」
言われるがまま、マルクはミラの左の乳房に吸い付いた。そのまま普段のように舌先で転がそうとしたところ、突然彼女が身体を離し、ちゅぽんと音を立てて乳房から口が離れた。
「あ……なん、で……?」
「ダメよ、マルク君。赤ちゃんはそんなイヤらしい吸い方はしないの。もっとチュウチュウ吸ってみて?」
少し怒ったような口調でそう言って、ミラは再び顔を寄せる。マルクも既に理由を考える余裕もないのか、言われるがまま彼女の乳房を口に含んだ。
ミラの乳房は張りと弾力に満ち、ほんのりと甘味を感じる。マルクは様々なお客によって仕込まれた女性を悦ばせる技術も忘れ、出るはずもないミルクを求めて赤ん坊のように吸い付いていた。
「ふふっ……上手よ、マルク君。ミルクは出ないけど……代わりに、良いものをあげる……」
「んくっ……ん……ぁ……?」
口の端から僅かにマルクの口内に入り込む、蜜のように甘い液体。少し視線を上げるとミラは自身の胸に小瓶を傾け、中身のトロリとした透明な液体を乳房を伝わらせてマルクに飲ませているのであった。
「大丈夫だから、お姉さんのミルクと思って飲んでみて。マルク君を元気にしてくれる、美味しいお薬だから、ね……?」
「んむ、く……ふぁい……」
マルクは口を大きく開け、水蜜桃に滴る甘い液体を吸い、舌を伸ばしてすくい取る。ミラはマルクの様子を見下ろしてゾクゾクと身震いし、充実感のようなものを感じているようであった。
「上手、上手よマルク君。こっちも……ふふっ、とっても元気……」
「んんっ……」
夢中になって乳房を吸うマルクのズボンが引き剥がされ、年相応サイズのぺニスが冷えた外気に触れた。相変わらず何百という女性の手によって弄られてなお、完全に勃起しているにも関わらず剥がすことの出来ない薄皮の鎧をすっぽりと頭まで被っている。
「あらあら……相変わらず恥ずかしがりやさんなのねぇ」
「うう……」
指先でチョンチョンと皮の余るぺニスの先端を弄くられながら、マルクは涙すら浮かべながら恥ずかしさのあまり顔から発火するのではないかというほどに赤面した。
何故、自分を抱く女性は皆そこを第一に気にするのか。皮を気にするのならば、せいぜいカバンか財布ぐらいにして欲しいものである。
「マルク君のここ、とってもかたぁい……私も、マルク君のミルク飲んでもいいかしらぁ……?」
健気にも自己主張しているマルクのぺニスを包み込むように握り込み、ミラは軽く上下させる。
先ほど口にした薬のせいか、それだけで背中へ突き抜けるかのような快感がマルクの身体を駆け巡る。ミラの口元から顔を出した二又の長い舌に、彼の期待に満ちた視線が注がれていた。
「ふふっ……聞くまでもなかったみたい。じゃあ……いただきまぁす……」
じっくりとマルクに見せつけるような緩慢な動作で、ミラは大きく口を開けて彼のぺニスに顔を近付けていく。彼女の乳房がマルクの腹の上で圧倒的な質量と共に形を変えて潰れ、彼の期待をさらに昂らせていった。
「……はぁむ」
「んっ、ぅあ……っ」
遂に、マルクの怒張が生温かく湿った感触に包まれた。
じゅるっ、ずっ、れるぅ……
ぱっくりとぺニスをくわえこんだミラの口元から淫靡な水音が洩れ、マルクを聴覚からも犯し始めた。
唾液で滑る口腔粘膜が余すところなく肉棒を包み、強烈なバキュームと共に扱き上げる。
しかも、それだけではない。ミラの口内でマルクのぺニスを異常に長い彼女の舌がきつく巻き付き、根元から先端へ向けてねっとりと、まるで牛の乳でも搾るように蠢いていた。
決して人間では得られぬ、強烈な人外の魔技。ピンと伸ばされたマルクの爪先はピクピクと細かく痙攣し、腰は無意識の内にミラへさらなる快楽を求めるように突き出されていた。
「ぅあ、あ……いいよぅ……気持ち、良いよ……ミラさぁん……」
真っ暗な天井を見上げてうわ言のように呟くマルクを横目に、ミラは妖しく笑う。その直後、唇で圧迫しながら舌による締め付けを強め、顔ごと上下に動かして本格的に射精を促しに掛かった。
「ひっ!?ああぁっ!ひぁっ、や、やめてぇ!で、でちゃ、でちゃう、ぅう〜〜……っ!」
なんとも呆気なく、真っ白な粘液がミラの口内で弾けた。その射精は恐ろしく長く、どぷどぷと音が聞こえるほどに彼女の口内に放っていく。
「んっ、ふ……んくっ、んむぅ……」
それほどの量を受け止めながら、ミラは薄く瞳を閉じ、命の味を堪能するかのように舌の上で混ぜ合わせ、飲み込んでいく。その間にも、ぺニスに巻き付いた舌は上下に動き、一滴残らず出しきるように搾り上げてきた。
「ふぁ、ぁぁ……」
やっと射精の嵐が収まり、強烈な余韻にマルクは夢うつつといった感覚の中で脱力する。一滴残らず精液を搾り、入念に幹まで舐めしゃぶった後、ミラはゆっくりと口を離した。
「はぁぁ……っ、マルク君の精液、とっても濃くて元気な味……やみつきになっちゃいそう……」
恍惚の表情を浮かべて、ミラはマルクの味を思い出すように長い舌を口内で踊らせる。
だが、マルクはそれどころではなかった。性欲旺盛なお客三人は満足させられるほどの精液を搾り取られたのだ。その疲労感は凄まじく、ぺニスも役目を終えたと硬度を失いつつあった。
「はぁ……はぁ……すみません、ミラさん……少し、休ませて下さーーー」
「あら、そんなのダメよ」
マルクの懇願もあっさりと却下。さらにマルクは仰向けの体勢から波打つミラの身体の上で転がされ、二人は向かい合って抱きつくような体勢に。
「だって……お姉さん、今度はここに欲しくなっちゃったんだもの」
ミラが人差し指と中指でピースをするように広げてみせたのは、ちょうど上半身と蛇の下半身の境目。ピンク色の秘裂がぱっくりと口を開けていた。
淡い肉色の秘唇は、とろりと半透明の粘液を滴らせている。マルクの目の前で内側の肉壁はモグモグと咀嚼するかのように蠢いており、くちゅくちゅと微かに卑猥な音をさせていた。
「で、でも、ミラさん……僕、少し休まないとこれ以上出ないと思うんです。だから……」
「あら……そうなの?じゃあ……」
やっと、願いを聞き届けてくれた。ホッと笑みを浮かべるマルクに、ミラも同じように笑顔を返してーーー
「…元気になるお薬、追加してあげましょうか」
「え……っ!?あ、うわぁああっ!」
突然ミラの身体がマルクに巻き付き、肩から爪先までをギチギチと締め上げる。彼がまったく身動きの取れなくなったことを確認すると僅かに身体を動かし、ぺニスだけが拘束の外に出るように調節した。
「たぁ〜ぷり、お薬あげるからねぇ。気持ち良くて、気持ち良くて、もうそれしか考えられなくなるくらいに……」
「い、いやぁ、あ……もう薬……いやだ……っ」
小瓶に入っていた僅な分量を口にしただけで、これほどの効果のある代物である。そんな薬が、ミラの手の中になんと五本。彼女はその全てを自らの手の中にこぼし、小さな水溜まりを形成した。
「このお薬ね……飲ませるより、もっと良い効果のある使い方があるの……それはね……」
「ひ……っ!?」
マルクのぺニスが、冷たい感触に包まれた。それが薬をたっぷりと纏ったミラの手だと気付くのに、そう時間は要しなかった。
「直接、元気にしたいところに塗ってあげること……♪」
「やだっ!いやだぁっ!壊れちゃう!そんなに、したら……ぁ、ああ……!」
ぐちゅぐちゅと薬まみれの手でマッサージを受けたぺニスが燃えるほどの熱を持ち、先ほどまでの萎えた様子が嘘と思えるほど痛いくらいに膨張した。
熱くて、熱くて仕方がない。一刻も早く中に溜まるものを出してしまわなければ、気が狂ってしまいそうなほどの熱がぺニスを包み込んでいた。
だが、動きを封じられたマルクにそれを発散する手立てはない。唯一彼を救うことの出来るミラはたっぷりと薬を塗り込んだ後に手を離し、何をするでもなく彼を見下ろして微笑みを浮かべていた。
「はぁっ、ぁ……ミラ、さ……早く、早く、出させて……!」
「え〜……?だって、マルク君が休みたいって言ったんじゃない。無理をすると、身体に毒よ?」
その毒を与えたのは、一体どこの誰なのか。
そう言い放ってやりたい衝動に駆られたが、最高の快楽を求めて、どんどん頭から思考能力が失われていく。早く出したい、それだけがマルクの思考を埋め尽くし、カクカクと腰を突き出してしまう。
「も、もういいから!だから早く、続き……!」
「でも、マルク君つらそうよ?やっぱり休んでた方がいいんじゃないかしらぁ?」
「いいってばぁっ!おかしく、なっちゃいそうだから……!」
「んもぅ、仕方ないわねぇ。じゃあ、私にどうして欲しいのかしら?」
「い、挿れさせて……!ミラさんの中に、イれたいぃ……っ!」
「中って、どこの?お口?それともお胸の中かしらぁ?」
「ち、ちがっ……み、ミラさんの……ぅ……」
「あらあら、なぁに?よく聞こえないけれど……?」
「みっ……!ミラさんのにっ、僕のオチン○ン、根元まで挿れさせーーー」
「はぁい、よくできまし……たっ」
美少年が性欲に負けて悶々とする姿に満足したか、ミラは巻き付いたマルクの身体を引き寄せ、限界まで勃起したぺニスを一気に根元まで導いた。
「ひぅあぁぁああーーーーーッ!!」
蛇体の発達した筋肉によって柔らかく熱い膣壁ごとキツク締め上げられ、マルクは白い喉を晒しながら絶叫し、射精していた。
その勢い、量共に先ほどとは比べ物にならない。身体の芯から力が抜けていくような射精が続けられる間もミラの中は吐き出される精を奥へ奥へと波打つように動き、吸い上げていく。
「あぁ……すごい、美味しい……マルク君、好き……大好きなの……」
小さな身体を懸命に震わせて射精する腕の中の少年が愛しくて堪らない。もっと近くに、もっと密着してその体温と存在を感じたいとミラは蛇体を締め付け、ぺニスを包む肉壁を揉み擦るように収縮させる。
「ぅあ……止まら、ない……怖いよ、ミラさん……!」
「大丈夫……大丈夫よ、マルク君。全部出しちゃえば、すぐ楽になるからね……ずっと、抱き締めててあげるから……」
胸の中にすっぽりと収まるマルクの頭を撫で、抱きしめたままミラは静かに瞳を閉じた。
こうして一緒にいられる時間が、ずっと続いてくれればいいのに。ミラはそう願いながら、二人は繋がったまま夜明けを迎えるのであったーーー
「…………」
「…………」
かなりハードな一夜が明けて、マルクの部屋は痛いくらいの沈黙に包まれていた。
もうすぐ、ミラがチェックアウトする時間が近い。にもかかわらず、二人はベッドの端と端に腰掛けたまま、一言も言葉を発せずにいたのだった。
というのも、マルクはミラの本心を知ってしまったが故の複雑な心境、そしてミラはその本心を知られたが故の気まずさがあったためだろう。
「あ、あの……」
「ま、マルクく……」
意を決して口を開いたタイミングもまさかの同時。余計に言葉を発しにくい状況になってしまい、マルクは頭を抱えたくなった。
(もう……どうしたんだよ、僕は……)
こういう時こそ、気の利いた台詞で場を和ませなければならないのに、肝心の台詞が全くと言っていいほど出てこない。
好きという言葉は、仕事柄聞き飽きたくらい言われ続けたし、自分でも口にしてきた。だが、ミラが口にしたその言葉は冗談半分に笑って済ませられるほど軽いものではなく、真剣に向き合わなければと考えてしまうのだった。
「…あのね、マルク君……」
「は、はいっ!」
いろいろ考えている内に、完全に不意を突かれた。だが、おかげでこの沈黙とも別れを告げられそうである。
「私、ね……本当は、今日でお店に来るの、止めようと思ってたの……」
「え……っ」
思わず、マルクの口から驚きの声が洩れる。
自分ではその表情はわからないものの、きっと悲壮感に溢れた顔をしていたのだろう。慌てたように、ミラは顔を左右に振った。
「ち、違うのよ?このお店が嫌いになったわけじゃないの。お店の人達も優しいし、マルク君もいるし……じゃなくて!」
あの知的溢れる御姉様だと思っていたミラが、顔を真っ赤にして慌てふためいている。
なんとなく微笑ましく思えて笑ってしまいそうになるが、ここで笑ってはミラを傷付けてしまうに違いない。マルクは寸前のところで、自分の尻をつねりあげた。
「その、ね……もうマルク君にはローレットさんがいるから、私はもう諦めようって。今夜でマルク君とは最後にしようって……そう思ってたんだけど……でも!」
「う、うわぁッ!?」
蛇体をバネのように伸ばし、ミラはマルクに抱き付いた。さらに身体をマルクに巻き付け、全身を使って彼の小さな身体を抱擁する。
「出来なかったの!思い出にしようとしたけど、そう思うと胸が痛くて、苦しくて……最後になんかしたくない!マルク君が好きな気持ちに、嘘つくことなんて出来なかったの!だから……」
マルクの首に埋めた顔を上げ、ミラは真っ直ぐに彼を見つめた。ポロポロと宝石のような涙の雫を溢れさせながら、澄んだ瞳でマルクの瞳を覗き込む。
「だから……お願い……お姉さんにも、チャンスをちょうだい。マルク君を好きなままで、いさせて……諦めたく、ないの……」
「ミラさん……」
マルクは腕を伸ばし、自らミラを抱き寄せる。ビクッと、彼女の肩が大きく跳ねた。
「…僕は、幸せ者です。こんなに、僕のことを想ってくれる人達に囲まれて……僕も、その想いに気付かないフリをするんじゃなくて、ちゃんと応えていきたいと、そう思ってます」
「マルク君、じゃあ……!」
嬉々とした表情で、ミラは顔を上げた。マルクは彼女の頬に残る涙の痕を指先でそっと掬い上げ、微笑みを浮かべた。
「今すぐには、答えを出すことは出来ません。でも……僕も、ミラさんのことは大好きですよ。ローレットさんや、クラウディアさん、アークさんに……このお店に関わる人達と同じくらい、僕はミラさんのことも大好きなんです。でも……お薬を使ってズルをするのは、今回だけにしてくださいね?」
「ま、マルク君……マルク君!」
三度、ミラはマルクに抱き付いた。全身を巻き付けて愛情表現をしつつ、彼の薄い胸板に顔を埋めて子供のように泣きじゃくった。
「…………」
二人のやり取りを、部屋の外で聞いている者達の姿があった。扉の横の壁に寄り掛かるローレット、そして彼女に気まずそうな視線を送るクラウディアとアークの三人である。
「…ローレットちゃん、いいの?マルクちゃん、ミラちゃんに取られちゃうかもしれないわよ?」
心配そうに、クラウディアは尋ねた。
ローレットの性格上、烈火の如く怒り狂って部屋に突撃していくものと思われたが、意外にも今の彼女は冷静である。腕組みをしながら、考え込んでいるかのように床の絨毯の赤を見つめていた。
「俺達は、マルクの奴が幸せになれるよう全面的に応援していくつもりだが……お前の気持ちも無視はしたくない。お前はどうしたいって考えているんだ?」
「ふん……どうも何も、私の答えは変わらん」
ローレットは溜め息をつき、壁から離れる。そして、クラウディア達に固く握りしめた拳を突き出した。
「マルクは、必ず私のものにする。だが、恋の障害というものがあれば、よりマルクとの絆は深まっていくことだろう。あの女には、せいぜい好きにさせておくさ」
「ローレットちゃん……」
本能のままに生きている彼女が、このような一面を持っていたとは。
クラウディア達のすっかり感心しきった眼差しを受けて余裕綽々に胸を張ってみせたローレットだが、そこへ微かに室内の声が聞こえてきた。
「じゃあ、マルク君……もう一回、いいかしら?」
「えっ?だ、ダメですよミラさん。もうすぐ時間になっちゃいますし……」
「ふふっ、大丈夫よ。こうして、ペロペロして……すぐ出させてあげるから」
「あっ……ミラさん、ダメ……っ」
「あらあら……もうこんなに元気……♪」
ぷちっ。
ローレットの額から何かが切れるような音が。そして、そこからが早かった。
「貴様ァッ!!もうとっくに時間が過ぎているぞ!さっさとマルクから離れろっ!」
「うわぁ!?ろ、ローレットさん!?」
「やだ、貴方もしかして聞いてたの?いやねぇ、男と女の逢瀬に聞き耳立てる女って。浅ましいというか、デリカシーがないというか……」
「な、なんだと貴様ッ!貴様など、今後一切出入り禁止だ!店から出ていけーーーーッ!!」
「ただの雇われ用心棒風情にそんな権限があるとお思い?それとも、欲惚けした頭じゃ、その程度の考える力も無いのかしらぁ?」
「上等だ……ッ!そんなに死に急ぐならば、ここで即刻息の根を止めてくれるわァッ!!」
「ああ止めて!部屋で暴れないで下さい!だ、誰か助けてーッ!!」
しんみりとした雰囲気から一転、室内はまるで大戦争さながらのドンチャン騒ぎ状態。しばらく部屋の様子を窺っていたクラウディア達だったが、急にその場でくるりと踵を返した。
「…まぁ、好きにさせとくか。どうせ、今日マルクは休みだしな」
「そうねぇ。他のお仕事も片付けないといけないし……ああ、今日も忙しいわねぇ」
「だ、誰か……あああーーーーーーーーーーッ!!」
背後でマルクの絶叫が聞こえても、保護者の二人の歩みが止まることはなかった。それはもう、無情にもーーー
「…そうですね」
玄関ホールの隅っこでキセルの紫煙をくゆらせるクラウディアと、その隣に立つマルク。今日も賑わうお客の出入りを見つめながら、恐らく本日で一番の幸運を掴んだお客を待っているのだった。
しかし、どことなくマルクの表情は晴れない。その頭の中では、ぐるぐると様々な憶測が飛び交っていた。
おかしい、おかしすぎる。こんなに都合の良いことがあっても良いものだろうか。
そう考えてしまうのも当然である。何しろ、ラジィとミラは同じ職場で、さらにミラは魔術や薬のエキスパート。嫌な想像しか浮かんでは来なかった。
「急に熱が出たって、びっくりしちゃうわよねぇ。変な病気が流行らないといいけど。マルクちゃんも、気を付けなきゃダメよ?人間ってすぐに死んじゃうんだから」
「は、はぁ……あっ、それじゃクラウディアさん、また後で!」
店に入ったミラの姿を見つけて、マルクは小走りに駆け出した。アークのカウンターで手続きを終えたところで横から彼女の顔を見上げた。
「お待ちしていました、ミラさん。本日は当店の御利用、ありがとうございます」
「あら、迎えに来てくれたのね。ありがとう、マルク君」
そう言って微笑むミラは、夜は身体が冷えるのかケープを肩に羽織っていた。しかし、やたら生地が薄くて内側のビキニがスケスケ。逆に扇情的で見ている方が恥ずかしくなってしまう。
「あらあら、どこを見ているのかしら?もう我慢出来ない?」
「うっ……す、すみません……」
どうやら視線の向きがバレてしまったらしい。顔を真っ赤にして俯いてしまうマルクの手を、重ねるようにミラがきゅっと握ってきた。
「さぁ、お部屋に行きましょうか。夜は長いんだもの。いつも頑張ってる分、いっぱい甘えさせてあげるからね……」
「こ、こちらです……どうぞ」
もはや何百人と身体を重ねてきたマルクも、ミラの前では完全にその余裕を失ってしまう。確認したいことも聞けず、カチカチに身体を強張らせて部屋へと向かっていく二人を、アークは他の客の対応をしながら横目で見つめていた。
「大丈夫かな、アイツ……ああいうタイプ、苦手みたいだしなぁ……」
マルクは甘えてくる相手の甘やかし方は誰よりも心得ているが、逆に面倒見の良い真面目な性格が災いして甘え方というものに疎いところがある。ミラはまさに、彼にとってある意味苦手なタイプと言えた。
「ほう……マルクはあのような包容力のある女に弱いのか。やっと、ここで下働きをしている甲斐があったというものだな」
カウンターの中からひょっこりと顔を出し、ローレットもマルクとミラを見送る。マルク攻略の糸口を見つけたようで、御満悦の御様子である。
「タイプっていうか、単に苦手なだけだぞ。アイツ、根が真面目すぎて甘え方ってやつを単純にわかってねぇんだよ」
「む、そうなのか?ならば、あの女にマルクを寝盗られることはまずなさそうだな。よし、早速部屋を覗きにーーー」
「ローレットちゃ〜ん、ルキア君とレシィ君のお部屋にお食事を持っていってちょうだーい」
敵情視察へ出向こうとしたところで、都合の悪いところへクラウディアから声が掛かる。今夜はいつにも増して盛況で、ローレットも用心棒専任とはいかない状況であった。
無論、今はそれどころではないのだが、歯向かったところで得るものは何も無し。それどころか、店に出禁にされてマルクの傍にいられなくなる可能性も十分に考えられた。
それらを考慮すると、もはやローレットに選択肢が残されているはずもない。
「ぐぬぬ……ええい、すぐに行く!」
「あと、三階の廊下とクロエ君のお部屋のお掃除。倉庫の整理とお部屋に足りなくなった備品とお薬を補充して、それからーーー」
「一つずつ言え!やる気が削げるだろうが!」
カウンターから飛び出すや否や、マルクの心配をする暇もなく、バタバタと慌ただしくローレットは走り去っていったーーー
「はぁ……美味しかった。ここのお料理、一度食べたら何度でも来たくなっちゃうわねぇ」
満足そうに言って、ミラは口元を紙ナプキンで拭った。テーブルの上には彼女のオーダーした料理が盛られていた皿が並び、いずれも空になっていた。
銀雪館の料理は、全てクラウディアがどこぞで雇ってきた料理人によって作られている。その質は魔王城で出されるものと遜色無いものが出されると評判で、男娼を頂くついでに料理を堪能するというのが銀雪館の通の楽しみ方となっていた。もちろん、それだけ値も張るのだが。
「マルク君が羨ましいわぁ。いつも、こんなに美味しいお料理を食べられるのよね?」
「あはは……そんなことないですよ。こうしてお客様と一緒に頂いたりすることもありますけど、ガツガツ食べるわけにはいきませんから。それに休憩時間もあまりありませんから、基本的にはすぐに食べられるパンとスープだけ、というのがほとんどなんです」
「あら……そうなの?ダメよ、成長期なんだからちゃんと食べないと……」
「僕はまだ買って下さる方が多いので食事を口にする機会があるんですけど、来たばかりでリピーターのお客様がいない子は、少し物足りないかもしれませんね。でも、そういう子にはクラウディアさんも気遣って量を増やしたりしてくれますから、大丈夫なんですよ」
椅子に腰掛けたミラの膝、ではなく蛇体の上に跨がるように抱かれてながら、マルクは彼女に身体を預けていた。
細かい鱗に包まれたミラの蛇体はしっとりと濡れたような感触で思いの外柔らかく、柔らかいついでに言うと後頭部辺りに押し付けられた膨らみもまた、心地よい感触である。さらに、彼女の香水らしい甘い香りが、マルクの身体をいつになくリラックスさせていた。
「そう……でもお姉さん、ちょっと心配だわ……」
ぎゅっと、マルクを抱くミラの腕に少し力がこもる。口元には微笑みを浮かべているものの、その眼差しは本心からマルクを心配している様子が見て取れた。
「ミラさん、お店に来られるのは久しぶりですよね。僕が最後にお相手したのは……確か、二ヶ月半前くらいでしたっけ?」
「ええ、そのくらいになるかしら。本当はちょこちょこ顔を出していたんだけど、マルク君の予約がなかなか取れなかったのよね。だから、本当に今回は幸運だったわぁ。ラジィさんには、ちょっと悪いと思うけど」
「あ、あはは……そうですね、本当に……」
果たして、真相を聞いても良いものだろうか。恐る恐る、マルクはミラの顔を見上げた。
しかし、ラジィに毒を盛ったのか、と尋ねて正直に答えてくれるとは思えない。とはいえ、このまま真実を闇に葬っても良いものかと思うと疑問が残る。
まさに今、修羅場を迎えつつあるマルクの脳内。どうしたものかと頭を悩ませていたところへ、彼の身体を抱え込むようにミラが顔を寄せてきた。
「あっ……ミラさん……?」
「…次にいつ会えるかわからないから、言っちゃうわね。私、ずっとマルク君と……こうしていたいって思ってたの。マルク君が……欲しいの」
マルクの耳元で、ミラは囁いた。もう二度と離すまいと彼の身体をひしと抱きしめ、彼の膝から足下に掛けて彼女の太く長い身体が自由を奪うように巻き付いていく。
「ミラさん……お気持ちは、とても嬉しいです。でも、僕はまだ……クラウディアさん達に……」
「ええ、知ってるわ。マルク君が、お店の人達に拾ってくれた恩を返そうと思ってること。でもね……それなら、マルク君はいつ幸せになれるの?」
身体に回されたミラの腕が服の裾から中に入り込み、細い指先が薄い胸板を撫でていく。その手が、マルクの左胸で止まった。早鐘を打つ心臓の鼓動から、彼の本心を探るように。
「私がマルク君に初めて会った時、マルク君はちょうどお客さんを送るために外へ出てきてたの。マルク君も、お客さんも、とっても良い笑顔に見えたんだけど……マルク君だけ、なんだか無理をしているように見えたの。この子の、本当の笑顔が見たい。そう、思ったのよ」
「ぁっ……んん……ミラさん、待って……っ」
ミラの指先が胸の上で踊り、爪で擦るように乳首を引っ掛かれる。彼女の指が淫靡に踊る度に、マルクの未成熟な肢体は敏感に震え、身悶えした。
そんな様子の彼を、ミラは微笑みながら見下ろしていた。情欲を微塵も感じられない、優しさに満ちた表情で。
「でもね……今日、ローレットさんと話してたマルク君の顔を見た時……お姉さん、嫉妬しちゃった。だって、マルク君とっても嬉しそうで、満たされてて……私の入る隙間が無くなったように感じちゃったのよ」
「ミラさん……僕は……くぅぅッ!?」
擽られていた乳首を思い切りつまみ上げられ、マルクの口からは悲鳴にも近い声が洩れた。すぐに手は離れたものの、ピリピリとした痛みが真っ赤になった乳首に残っていた。
「かはっ……ぁ……痛……っ」
「だから、お姉さん……今夜で、マルク君を私のものにするつもり。その笑顔を、私だけのものにしたいの。ローレットさんには……負けたくないの。はむ、ん……」
なすがままマルクの身体がぐるりと反転し、ミラと向かい合う体勢に。直後、食らい付くように彼の唇にミラが唇を重ねた。
「んっ、んんっ、ぁ……あ……っ」
何度も角度を変えて重なりあう唇の隙間から、マルクのくぐもった喘ぎ声が洩れる。
ラミアの常人離れした二又の舌は少年の唇の隙間から侵入し、口内で渦を巻くように蹂躙する。
「んっ、ぅ……んぐぅッ!?」
一方的な接吻に息苦しさから涙を溢すマルクの瞳が極限まで見開かれた。口内だけでは飽きたらず、ミラの舌は喉奥からさらに食道までを通過。それは遂に胃にまで達し、つい先ほどマルクが口にした食物を味わうかのように掻き回した。
体内まで舐め尽くされるかのような感覚から逃れようとするマルクだったが、不思議なことに全身が弛緩して指先一つ動かすことが出来なくなっていた。全身が部屋に充満する甘い香の匂いに包まれ、この息苦しさまでもが彼の脳に直接痺れるような快感をもたらしていたのだった。
「ぅ……かはァッ!!はーっ…はーっ……!」
マルクの限界を察したか、にゅるりと一気にミラの舌が引き抜かれた。
やっと満足に呼吸をすることを許され、力の入らない身体をミラに預けて荒々しく呼吸をするマルク。そんな彼を優しく抱いたまま、ミラはごくりと舌先で絡め取ったマルクの胃の内容物を嚥下した。
「んっ……やっぱり、ここのお食事は美味しいわね。マルク君の味も、とっても美味しいわ……」
「ひっ……く……うぅ……っ」
頭を撫でられながら、これまでに未体験の感覚に恐怖を覚え、嗚咽を洩らして涙するマルク。身体を小刻みに震わせながら泣きじゃくる少年を、ミラは自らの胸に甘えさせるように強く抱きしめた。
「あらあら……ごめんなさい、マルク君。あんまりマルク君が可愛いから、お姉さんイジワルしちゃった。でも、今度はマルク君を気持ち良くさせてあげる……」
そう囁き、ミラはマルクを抱いて立ち上がった。
ズルズルと床を這い、辿り着いたのはあらゆるお客に対応出来る巨大なベッド。マルクを抱えたままミラはベッドの上でとぐろを巻き、その中心に彼の腰を据えた。
端から見ると、揺り籠に乗せられた赤ん坊とそれを見下ろす母親のよう。そしてそれを体現するかのようにミラはケープとビキニの紐を解き、豊かな水蜜桃をマルクの前に晒した。
二つの巨大な乳房は、まるで練乳で出来ているかのように白く輝いており、薄いピンク色の突起はピンと立ってマルクの視線を釘付けにする。
「マルク君、おっぱい大好きよね?お姉さんのおっぱい、吸ってくれる?」
「は……い……」
言われるがまま、マルクはミラの左の乳房に吸い付いた。そのまま普段のように舌先で転がそうとしたところ、突然彼女が身体を離し、ちゅぽんと音を立てて乳房から口が離れた。
「あ……なん、で……?」
「ダメよ、マルク君。赤ちゃんはそんなイヤらしい吸い方はしないの。もっとチュウチュウ吸ってみて?」
少し怒ったような口調でそう言って、ミラは再び顔を寄せる。マルクも既に理由を考える余裕もないのか、言われるがまま彼女の乳房を口に含んだ。
ミラの乳房は張りと弾力に満ち、ほんのりと甘味を感じる。マルクは様々なお客によって仕込まれた女性を悦ばせる技術も忘れ、出るはずもないミルクを求めて赤ん坊のように吸い付いていた。
「ふふっ……上手よ、マルク君。ミルクは出ないけど……代わりに、良いものをあげる……」
「んくっ……ん……ぁ……?」
口の端から僅かにマルクの口内に入り込む、蜜のように甘い液体。少し視線を上げるとミラは自身の胸に小瓶を傾け、中身のトロリとした透明な液体を乳房を伝わらせてマルクに飲ませているのであった。
「大丈夫だから、お姉さんのミルクと思って飲んでみて。マルク君を元気にしてくれる、美味しいお薬だから、ね……?」
「んむ、く……ふぁい……」
マルクは口を大きく開け、水蜜桃に滴る甘い液体を吸い、舌を伸ばしてすくい取る。ミラはマルクの様子を見下ろしてゾクゾクと身震いし、充実感のようなものを感じているようであった。
「上手、上手よマルク君。こっちも……ふふっ、とっても元気……」
「んんっ……」
夢中になって乳房を吸うマルクのズボンが引き剥がされ、年相応サイズのぺニスが冷えた外気に触れた。相変わらず何百という女性の手によって弄られてなお、完全に勃起しているにも関わらず剥がすことの出来ない薄皮の鎧をすっぽりと頭まで被っている。
「あらあら……相変わらず恥ずかしがりやさんなのねぇ」
「うう……」
指先でチョンチョンと皮の余るぺニスの先端を弄くられながら、マルクは涙すら浮かべながら恥ずかしさのあまり顔から発火するのではないかというほどに赤面した。
何故、自分を抱く女性は皆そこを第一に気にするのか。皮を気にするのならば、せいぜいカバンか財布ぐらいにして欲しいものである。
「マルク君のここ、とってもかたぁい……私も、マルク君のミルク飲んでもいいかしらぁ……?」
健気にも自己主張しているマルクのぺニスを包み込むように握り込み、ミラは軽く上下させる。
先ほど口にした薬のせいか、それだけで背中へ突き抜けるかのような快感がマルクの身体を駆け巡る。ミラの口元から顔を出した二又の長い舌に、彼の期待に満ちた視線が注がれていた。
「ふふっ……聞くまでもなかったみたい。じゃあ……いただきまぁす……」
じっくりとマルクに見せつけるような緩慢な動作で、ミラは大きく口を開けて彼のぺニスに顔を近付けていく。彼女の乳房がマルクの腹の上で圧倒的な質量と共に形を変えて潰れ、彼の期待をさらに昂らせていった。
「……はぁむ」
「んっ、ぅあ……っ」
遂に、マルクの怒張が生温かく湿った感触に包まれた。
じゅるっ、ずっ、れるぅ……
ぱっくりとぺニスをくわえこんだミラの口元から淫靡な水音が洩れ、マルクを聴覚からも犯し始めた。
唾液で滑る口腔粘膜が余すところなく肉棒を包み、強烈なバキュームと共に扱き上げる。
しかも、それだけではない。ミラの口内でマルクのぺニスを異常に長い彼女の舌がきつく巻き付き、根元から先端へ向けてねっとりと、まるで牛の乳でも搾るように蠢いていた。
決して人間では得られぬ、強烈な人外の魔技。ピンと伸ばされたマルクの爪先はピクピクと細かく痙攣し、腰は無意識の内にミラへさらなる快楽を求めるように突き出されていた。
「ぅあ、あ……いいよぅ……気持ち、良いよ……ミラさぁん……」
真っ暗な天井を見上げてうわ言のように呟くマルクを横目に、ミラは妖しく笑う。その直後、唇で圧迫しながら舌による締め付けを強め、顔ごと上下に動かして本格的に射精を促しに掛かった。
「ひっ!?ああぁっ!ひぁっ、や、やめてぇ!で、でちゃ、でちゃう、ぅう〜〜……っ!」
なんとも呆気なく、真っ白な粘液がミラの口内で弾けた。その射精は恐ろしく長く、どぷどぷと音が聞こえるほどに彼女の口内に放っていく。
「んっ、ふ……んくっ、んむぅ……」
それほどの量を受け止めながら、ミラは薄く瞳を閉じ、命の味を堪能するかのように舌の上で混ぜ合わせ、飲み込んでいく。その間にも、ぺニスに巻き付いた舌は上下に動き、一滴残らず出しきるように搾り上げてきた。
「ふぁ、ぁぁ……」
やっと射精の嵐が収まり、強烈な余韻にマルクは夢うつつといった感覚の中で脱力する。一滴残らず精液を搾り、入念に幹まで舐めしゃぶった後、ミラはゆっくりと口を離した。
「はぁぁ……っ、マルク君の精液、とっても濃くて元気な味……やみつきになっちゃいそう……」
恍惚の表情を浮かべて、ミラはマルクの味を思い出すように長い舌を口内で踊らせる。
だが、マルクはそれどころではなかった。性欲旺盛なお客三人は満足させられるほどの精液を搾り取られたのだ。その疲労感は凄まじく、ぺニスも役目を終えたと硬度を失いつつあった。
「はぁ……はぁ……すみません、ミラさん……少し、休ませて下さーーー」
「あら、そんなのダメよ」
マルクの懇願もあっさりと却下。さらにマルクは仰向けの体勢から波打つミラの身体の上で転がされ、二人は向かい合って抱きつくような体勢に。
「だって……お姉さん、今度はここに欲しくなっちゃったんだもの」
ミラが人差し指と中指でピースをするように広げてみせたのは、ちょうど上半身と蛇の下半身の境目。ピンク色の秘裂がぱっくりと口を開けていた。
淡い肉色の秘唇は、とろりと半透明の粘液を滴らせている。マルクの目の前で内側の肉壁はモグモグと咀嚼するかのように蠢いており、くちゅくちゅと微かに卑猥な音をさせていた。
「で、でも、ミラさん……僕、少し休まないとこれ以上出ないと思うんです。だから……」
「あら……そうなの?じゃあ……」
やっと、願いを聞き届けてくれた。ホッと笑みを浮かべるマルクに、ミラも同じように笑顔を返してーーー
「…元気になるお薬、追加してあげましょうか」
「え……っ!?あ、うわぁああっ!」
突然ミラの身体がマルクに巻き付き、肩から爪先までをギチギチと締め上げる。彼がまったく身動きの取れなくなったことを確認すると僅かに身体を動かし、ぺニスだけが拘束の外に出るように調節した。
「たぁ〜ぷり、お薬あげるからねぇ。気持ち良くて、気持ち良くて、もうそれしか考えられなくなるくらいに……」
「い、いやぁ、あ……もう薬……いやだ……っ」
小瓶に入っていた僅な分量を口にしただけで、これほどの効果のある代物である。そんな薬が、ミラの手の中になんと五本。彼女はその全てを自らの手の中にこぼし、小さな水溜まりを形成した。
「このお薬ね……飲ませるより、もっと良い効果のある使い方があるの……それはね……」
「ひ……っ!?」
マルクのぺニスが、冷たい感触に包まれた。それが薬をたっぷりと纏ったミラの手だと気付くのに、そう時間は要しなかった。
「直接、元気にしたいところに塗ってあげること……♪」
「やだっ!いやだぁっ!壊れちゃう!そんなに、したら……ぁ、ああ……!」
ぐちゅぐちゅと薬まみれの手でマッサージを受けたぺニスが燃えるほどの熱を持ち、先ほどまでの萎えた様子が嘘と思えるほど痛いくらいに膨張した。
熱くて、熱くて仕方がない。一刻も早く中に溜まるものを出してしまわなければ、気が狂ってしまいそうなほどの熱がぺニスを包み込んでいた。
だが、動きを封じられたマルクにそれを発散する手立てはない。唯一彼を救うことの出来るミラはたっぷりと薬を塗り込んだ後に手を離し、何をするでもなく彼を見下ろして微笑みを浮かべていた。
「はぁっ、ぁ……ミラ、さ……早く、早く、出させて……!」
「え〜……?だって、マルク君が休みたいって言ったんじゃない。無理をすると、身体に毒よ?」
その毒を与えたのは、一体どこの誰なのか。
そう言い放ってやりたい衝動に駆られたが、最高の快楽を求めて、どんどん頭から思考能力が失われていく。早く出したい、それだけがマルクの思考を埋め尽くし、カクカクと腰を突き出してしまう。
「も、もういいから!だから早く、続き……!」
「でも、マルク君つらそうよ?やっぱり休んでた方がいいんじゃないかしらぁ?」
「いいってばぁっ!おかしく、なっちゃいそうだから……!」
「んもぅ、仕方ないわねぇ。じゃあ、私にどうして欲しいのかしら?」
「い、挿れさせて……!ミラさんの中に、イれたいぃ……っ!」
「中って、どこの?お口?それともお胸の中かしらぁ?」
「ち、ちがっ……み、ミラさんの……ぅ……」
「あらあら、なぁに?よく聞こえないけれど……?」
「みっ……!ミラさんのにっ、僕のオチン○ン、根元まで挿れさせーーー」
「はぁい、よくできまし……たっ」
美少年が性欲に負けて悶々とする姿に満足したか、ミラは巻き付いたマルクの身体を引き寄せ、限界まで勃起したぺニスを一気に根元まで導いた。
「ひぅあぁぁああーーーーーッ!!」
蛇体の発達した筋肉によって柔らかく熱い膣壁ごとキツク締め上げられ、マルクは白い喉を晒しながら絶叫し、射精していた。
その勢い、量共に先ほどとは比べ物にならない。身体の芯から力が抜けていくような射精が続けられる間もミラの中は吐き出される精を奥へ奥へと波打つように動き、吸い上げていく。
「あぁ……すごい、美味しい……マルク君、好き……大好きなの……」
小さな身体を懸命に震わせて射精する腕の中の少年が愛しくて堪らない。もっと近くに、もっと密着してその体温と存在を感じたいとミラは蛇体を締め付け、ぺニスを包む肉壁を揉み擦るように収縮させる。
「ぅあ……止まら、ない……怖いよ、ミラさん……!」
「大丈夫……大丈夫よ、マルク君。全部出しちゃえば、すぐ楽になるからね……ずっと、抱き締めててあげるから……」
胸の中にすっぽりと収まるマルクの頭を撫で、抱きしめたままミラは静かに瞳を閉じた。
こうして一緒にいられる時間が、ずっと続いてくれればいいのに。ミラはそう願いながら、二人は繋がったまま夜明けを迎えるのであったーーー
「…………」
「…………」
かなりハードな一夜が明けて、マルクの部屋は痛いくらいの沈黙に包まれていた。
もうすぐ、ミラがチェックアウトする時間が近い。にもかかわらず、二人はベッドの端と端に腰掛けたまま、一言も言葉を発せずにいたのだった。
というのも、マルクはミラの本心を知ってしまったが故の複雑な心境、そしてミラはその本心を知られたが故の気まずさがあったためだろう。
「あ、あの……」
「ま、マルクく……」
意を決して口を開いたタイミングもまさかの同時。余計に言葉を発しにくい状況になってしまい、マルクは頭を抱えたくなった。
(もう……どうしたんだよ、僕は……)
こういう時こそ、気の利いた台詞で場を和ませなければならないのに、肝心の台詞が全くと言っていいほど出てこない。
好きという言葉は、仕事柄聞き飽きたくらい言われ続けたし、自分でも口にしてきた。だが、ミラが口にしたその言葉は冗談半分に笑って済ませられるほど軽いものではなく、真剣に向き合わなければと考えてしまうのだった。
「…あのね、マルク君……」
「は、はいっ!」
いろいろ考えている内に、完全に不意を突かれた。だが、おかげでこの沈黙とも別れを告げられそうである。
「私、ね……本当は、今日でお店に来るの、止めようと思ってたの……」
「え……っ」
思わず、マルクの口から驚きの声が洩れる。
自分ではその表情はわからないものの、きっと悲壮感に溢れた顔をしていたのだろう。慌てたように、ミラは顔を左右に振った。
「ち、違うのよ?このお店が嫌いになったわけじゃないの。お店の人達も優しいし、マルク君もいるし……じゃなくて!」
あの知的溢れる御姉様だと思っていたミラが、顔を真っ赤にして慌てふためいている。
なんとなく微笑ましく思えて笑ってしまいそうになるが、ここで笑ってはミラを傷付けてしまうに違いない。マルクは寸前のところで、自分の尻をつねりあげた。
「その、ね……もうマルク君にはローレットさんがいるから、私はもう諦めようって。今夜でマルク君とは最後にしようって……そう思ってたんだけど……でも!」
「う、うわぁッ!?」
蛇体をバネのように伸ばし、ミラはマルクに抱き付いた。さらに身体をマルクに巻き付け、全身を使って彼の小さな身体を抱擁する。
「出来なかったの!思い出にしようとしたけど、そう思うと胸が痛くて、苦しくて……最後になんかしたくない!マルク君が好きな気持ちに、嘘つくことなんて出来なかったの!だから……」
マルクの首に埋めた顔を上げ、ミラは真っ直ぐに彼を見つめた。ポロポロと宝石のような涙の雫を溢れさせながら、澄んだ瞳でマルクの瞳を覗き込む。
「だから……お願い……お姉さんにも、チャンスをちょうだい。マルク君を好きなままで、いさせて……諦めたく、ないの……」
「ミラさん……」
マルクは腕を伸ばし、自らミラを抱き寄せる。ビクッと、彼女の肩が大きく跳ねた。
「…僕は、幸せ者です。こんなに、僕のことを想ってくれる人達に囲まれて……僕も、その想いに気付かないフリをするんじゃなくて、ちゃんと応えていきたいと、そう思ってます」
「マルク君、じゃあ……!」
嬉々とした表情で、ミラは顔を上げた。マルクは彼女の頬に残る涙の痕を指先でそっと掬い上げ、微笑みを浮かべた。
「今すぐには、答えを出すことは出来ません。でも……僕も、ミラさんのことは大好きですよ。ローレットさんや、クラウディアさん、アークさんに……このお店に関わる人達と同じくらい、僕はミラさんのことも大好きなんです。でも……お薬を使ってズルをするのは、今回だけにしてくださいね?」
「ま、マルク君……マルク君!」
三度、ミラはマルクに抱き付いた。全身を巻き付けて愛情表現をしつつ、彼の薄い胸板に顔を埋めて子供のように泣きじゃくった。
「…………」
二人のやり取りを、部屋の外で聞いている者達の姿があった。扉の横の壁に寄り掛かるローレット、そして彼女に気まずそうな視線を送るクラウディアとアークの三人である。
「…ローレットちゃん、いいの?マルクちゃん、ミラちゃんに取られちゃうかもしれないわよ?」
心配そうに、クラウディアは尋ねた。
ローレットの性格上、烈火の如く怒り狂って部屋に突撃していくものと思われたが、意外にも今の彼女は冷静である。腕組みをしながら、考え込んでいるかのように床の絨毯の赤を見つめていた。
「俺達は、マルクの奴が幸せになれるよう全面的に応援していくつもりだが……お前の気持ちも無視はしたくない。お前はどうしたいって考えているんだ?」
「ふん……どうも何も、私の答えは変わらん」
ローレットは溜め息をつき、壁から離れる。そして、クラウディア達に固く握りしめた拳を突き出した。
「マルクは、必ず私のものにする。だが、恋の障害というものがあれば、よりマルクとの絆は深まっていくことだろう。あの女には、せいぜい好きにさせておくさ」
「ローレットちゃん……」
本能のままに生きている彼女が、このような一面を持っていたとは。
クラウディア達のすっかり感心しきった眼差しを受けて余裕綽々に胸を張ってみせたローレットだが、そこへ微かに室内の声が聞こえてきた。
「じゃあ、マルク君……もう一回、いいかしら?」
「えっ?だ、ダメですよミラさん。もうすぐ時間になっちゃいますし……」
「ふふっ、大丈夫よ。こうして、ペロペロして……すぐ出させてあげるから」
「あっ……ミラさん、ダメ……っ」
「あらあら……もうこんなに元気……♪」
ぷちっ。
ローレットの額から何かが切れるような音が。そして、そこからが早かった。
「貴様ァッ!!もうとっくに時間が過ぎているぞ!さっさとマルクから離れろっ!」
「うわぁ!?ろ、ローレットさん!?」
「やだ、貴方もしかして聞いてたの?いやねぇ、男と女の逢瀬に聞き耳立てる女って。浅ましいというか、デリカシーがないというか……」
「な、なんだと貴様ッ!貴様など、今後一切出入り禁止だ!店から出ていけーーーーッ!!」
「ただの雇われ用心棒風情にそんな権限があるとお思い?それとも、欲惚けした頭じゃ、その程度の考える力も無いのかしらぁ?」
「上等だ……ッ!そんなに死に急ぐならば、ここで即刻息の根を止めてくれるわァッ!!」
「ああ止めて!部屋で暴れないで下さい!だ、誰か助けてーッ!!」
しんみりとした雰囲気から一転、室内はまるで大戦争さながらのドンチャン騒ぎ状態。しばらく部屋の様子を窺っていたクラウディア達だったが、急にその場でくるりと踵を返した。
「…まぁ、好きにさせとくか。どうせ、今日マルクは休みだしな」
「そうねぇ。他のお仕事も片付けないといけないし……ああ、今日も忙しいわねぇ」
「だ、誰か……あああーーーーーーーーーーッ!!」
背後でマルクの絶叫が聞こえても、保護者の二人の歩みが止まることはなかった。それはもう、無情にもーーー
16/03/16 17:57更新 / Phantom
戻る
次へ