三夜目:ヘルハウンド(時々ドラゴン) 後編
予想外の乱入者に、繋がったまま沈黙するマルクとグレア。そんな彼らの気も余所に、ローレットは平然とした様子でベッドへと歩み寄ってきた。
「ろ、ローレットさん……どうして、ここに……?」
「なぁに、発情した雌犬の匂いを感じたのでな。よもやと思い追ってみると……案の定といったところだ」
ローレットはベッドに乗ると、物珍しそうにマルクとグレアを見下ろした。
「ほう……なかなか良い趣向だな、駄犬。このようなマルクも……ふふっ、そそるものがある」
「て、テメェ……何が言いたい?何が望みだ?」
本当ならば、マルクはお客を取らない日。それを破って強行に及んだとなれば、何かしら罰が与えられるのは確実だろう。
その罰により、マルクと引き離されることを何より恐れるグレアは、彼を離すまいと抱き締めながらキッとローレットを睨み付けた。
「ふっ……私の望みだと?いいだろう、頭と下の弛い発情犬に教えてやる。私の望みはーーー」
緊張に固まるマルク達の目の前で、おもむろに、服に手を掛けるローレット。直後、何一つ躊躇うことなく力任せにそれを破り捨てた。
「私も、そこに混ぜろーーーッ!!」
「ちょ、待てお前……うおぉおおッ!?」
「うわぁああッ!?」
全裸で飛び掛かってきたローレットに押し潰されて悲鳴を上げるマルクとグレア。特に、マルクはいろいろと豊満な二人の体重を小柄の身体で受け止め、泣きそうな表情を浮かべている。
「て、テメェバカか!?ここは普通クラウディアにバラすところじゃねぇのかよ!」
「そんな勿体無いことができるか。来る日も来る日もあの女に何かしら用事を言い付けられ、マルクとはずいぶん御無沙汰でな。この機を逃す手はないだろう」
「で、でもローレットさん、もし見付かったら怒られますよ!」
「その辺は心配不要だ。あの女ならば酔い潰して旦那に預けてきた。今頃向こうも逢瀬を楽しんでいるのではないか?」
なんという用意周到さ。仮にグレアにその気が無かったとしても、元からマルクの寝込みを襲うつもりだったのかもしれない。
そんな思考を巡らせるマルクにローレットはグレアの肩口から顔を覗かせ、手を伸ばすとそっと指先で彼の頬を撫でた。
「まぁ、そういうわけだ。もう少し頑張ってもらうぞ、マルク」
「……はい」
ここまで想われて、一体誰が拒絶できようか。マルクは苦笑いを浮かべながら、頷いてみせた。
「お、おい……本当に、この体勢でヤんのか?」
やはり、このような展開は初めてなのだろう。不安そうな言葉を呟きながら、グレアはローレットを見下ろした。
現在の状況を簡単に説明すると、ローレットが下、マルクが中、グレアが上。ローレットの腰の下に敷かれた枕と毛布によって高さが調節され、ちょうど膝立ちしたグレアの腰の位置にマルクの腰、そしてマルクの腰がローレットの腰に合わせられた体勢である。
「仕方あるまい。どこぞの駄犬のおかげで、マルクが腰が立たんと言うのだからな。責任を取るのは当然だろう」
「す、すみません、グレアさん……」
「ああ、マルクは気にすんな。アタシのせいみたいなもんだからな。だがよ……テメェの態度はもう少しなんとかならねぇか?」
さんざん駄犬呼ばわりされて、さすがのグレアもお冠の御様子。睨み合うグレアとローレットに挟まれ、マルクも戦々恐々といった様子である。
「はっ、他人様の男に噛み付く駄犬には妥当な態度だろう?マルクと私の逢瀬に加えてやるだけありがたく思うのだな」
「おいコラ、マルクが誰の男だって?それに、加えてやったのはこっちだろうが。お情けで入れてやったんだよ」
「さぁて、なんのことやら。私はマルクと楽しむだけだからな。その後ろの駄犬など、初めから眼中になどない」
「言ったな、テメェ……泣くまでよがらせてやるから覚悟しろよ」
「ケモノごときにそれが出来るのか見物だな。もっとも、私が気をやる前に、駄犬の種が無くなりそうだが」
「ち、ちょっと二人とも……」
何やら雲行きが妖しくなってきたが、二人の仲裁に入るマルク。しかし、前と後ろ、同時に肩を掴まれた。
「マルク、さっさとその駄犬から搾り取ってしまえ。その後はゆっくりと、私がお前の相手をしてやろう」
「しっかり腰に力入れてろよ、マルク。アタシが腰を使ってやるから、その女泣かせちまえ」
「あ、あのっ、二人とも!?なんだか僕ばっかり損な役回りのような……」
「んじゃ、いくぜぇ……」
マルクの嘆きも虚しく、ピタリと菊門にグレアの猛る怒張が押し付けられ、ローレットの手によってマルクのペニスが彼女の秘裂に狙いを定めた。
さすがのマルクも、ちょっとした恐怖から冷や汗が額に滲んだ。
「ぐ、グレアさん、もう少しだけ、待っ……ぅあああッ!」
グレアの巨根に、一息で貫かれた。背後からの衝撃にマルクはローレットに身体を預ける形になり、同時にペニスが彼女の秘裂に飲み込まれた。
「はっ、ぁあ……久々だ、この感覚……っ!マルク、私の中はどうだ……?」
「あ、あつ、くて……きつくて、気持ち……いいです……っ」
浅く、早く呼吸をしながら、マルクはぎこちない笑みを浮かべて自分の身体を抱くローレットを見上げた。
力任せに前立腺を押し潰され、腰がガクガクと震えている。早くもローレットの中に精液を洩らしてしまったようで、敢えて口にしないがローレットも至福といった表情を浮かべていた。
「っ、はぁ……やっぱ……やべぇ、病み付きになるかもしれねぇ。おいトカゲ野郎、マルクの腰を軽く浮かせてやりな。寄っ掛かったままじゃ、テメェも味わえねぇだろ」
「言われずともわかっている。マルク、お前はそのまま楽にしていろ」
「ふぇ……?」
頭をローレットの胸に埋めながら、腰に巻き付いた何かによってペニスが引き抜かれるギリギリのところまで引き上げられる。恐らく、感触からローレットの尻尾だろう。
「よーっし……んじゃ、こっから本気だァッ!」
「ひゃあああっ!?」
グレアはおもいっきり腰を引き、再び勢い良く突き入れる。反り返った幹とエラの張った亀頭に容赦なく腸壁を抉られ、媚薬スライムで何倍にも引き上げられた快楽がマルクを襲う。
しかも、待ち受けるのはローレットの膣。熱い膣壁がペニスをきつく握りしめて扱き上げるかのような感触
を同時に味わい、マルクの思考は一瞬でスパークする。なんとか意識だけは失うまいと、ぎゅっとシーツを握りしめた。
「ンッ……なるほど。駄犬らしい荒々しさだ。だが、この程度ではいくら腰を振ったところで徒労だな」
グレアの腰を叩き付けた衝撃はローレットにも伝わり、その口元から甘い吐息が洩れる。しかし、彼女を絶頂に至らせることは叶わず、グレアに妖しい笑みが浮かんだ。
「まだまだ、こんなもんじゃねぇよ。マルク、気絶すんじゃねぇぞ!」
「ひぁっ、んんっ!んぅううーーーっ!!」
一切の間を置かず、連続してグレアの腰が叩き付けられ、口一杯に食べ物を詰め込まれたかのような圧迫感とその何倍もの快楽が頭の中を埋め尽くすが、悲鳴すら上げさせまいと押し付けられたローレットの唇に口を塞がれ、口内を長く滑った舌が蹂躙する。
その構図は、まさに一つの餌を奪い合う獣の様。マルクという極上の餌を巡って二人の魔物が精を食らい尽くしていった。
「はぁっ、うぉぉ……っ!ど、どうだトカゲ野郎!アタシの腰振りに、そろそろイッちまいそうな面じゃねぇか」
「ぐっ、ぬぅぅ……っ!ま、まだだ!貴様こそ、もう限界そうな顔だぞ……!」
「いゃ、ぁああんっ!もうイヤ、しんじゃ、しんじゃうぅううーーーーッ!!」
お互いに競い合う両者だが、一方のマルクは既に死に体といった有り様である。前と後ろを激しく責め立てられながら、壊れた玩具のように悲鳴をあげ続けていた。
ゴリゴリと音を立てて抉られる腸壁はグレアの動きに合わせて下腹部を膨らませ、何度も扱き上げられたローレットの膣内からは注がれた精液が溢れていた。
二人の魔物に挟まれた状態で与えられる、苛烈な責め。永遠にも続くものかと思われたその宴にも、遂に終焉を迎えようとしていた。
「くっ、う……ああ、くそっ、限界だ……!」
「ふっ、う……んん、ぁあ……だ、駄犬、ごときに……っ」
長らく我慢を競いあっていたローレット達の表情に、焦りと限界の色が見え隠れする。一方、とうの昔に限界を迎えていたマルクは既に悲鳴すら上げる余裕もなく、もはやされるがままに身体を揺すられていた。
そんな彼を余所に、二人は一気にラストスパートを掛ける。ローレットは膣内を締め付けながらお人形状態のマルクを抱きしめ、グレアは腰の動作を小刻みに、大粒の汗をマルクの身体に落としながら腰を叩き付けた。
そしてーーー
「ぁ、も……んんん……っ!」
「う……うぉおおおーーーーッ!!」
二人は、同時に達した。ローレットは白い喉をさらけ出しながら背を逸らし、グレアは獣のような咆哮を上げて精液をマルクの中に注ぎ込んだ。
糸の切れた人形のように、グレアはマルクの上に倒れ込む。しばらく、三人の荒い息遣いだけが薄暗い室内に響いていた。
「…やるではないか、駄犬。生半可な覚悟で、マルクを欲するわけではないということか」
「へっ……テメェもなかなかのもんだったぜ。このアタシが、ここまで乱されちまうとはな」
ムクリと、ローレットとグレアはベッドから起き上がる。そして、ガシリと固く握手を交わした。
「これまでの非礼、詫びよう。貴様こそ、私の好敵手に相応しい」
「なんだよ、むず痒いこと言うんじゃねぇって。慣れてねぇから、よわっちまうぜ……」
なにやら良い雰囲気の二人。完全に除け者状態のマルクはベッドの上に横たわったまま、ピクリともせずに虚空を見つめていた。
犬猿の仲であった二人が仲良くなってくれたことは喜ばしいことなのだが、そのワンクッションとなった自分の扱いが酷すぎるような気がする。
もはや精根尽き果て、グレアの精液が重いくらい腹を満たしていた。
しかし、ここで水を差すような無粋なことはしない。このまま疲労に身を任せ、泥のように眠りについてーーー
「なぁ、今度はアタシが下でいいか?そろそろマルクの精を味わってみてぇ」
「ふむ……そうだな。ならば、私が上になろう。マルクの尻はまだ体験したことがなかったしな。ちょうど……よし、薬もあるな」
「…………」
まだまだ、マルクの夜は長くなりそうであった。
そして、新しい朝がやってきた。今日も変わらずスタッフが広い店内を駆け回り、男娼達も客を迎えるべく部屋の支度を始めている。
そんな店内の、一際往来の多い廊下の隅っこに、とある二人が正座を余儀なくされていた。
それは、なんとローレットとグレア。膝の上には重石代わりの水入りバケツが置かれており、彼女達の正面には完全復活のクラウディアが腕組みをして二人を見下ろしていた。
二人は現在、休日のマルクを襲った罪で大絶賛お仕置き中。結局明け方まで続いた三人の交わりは今朝方マルクの様子を見に来たアークによって発見され、隠蔽工作をする暇もなく捕まってしまったのだった。
「…なぁ、そろそろ良いだろう?」
「アタシも……そろそろ戻らねぇと子分が好き勝手始めちまうし……」
恐る恐るローレット達が許しを乞うも、クラウディアの睨み一つによって一蹴。ますます、二人は居づらそうに肩を縮込ませた。
「…ローレットちゃん、仮にもお店の関係者なんだから、規則を知らないわけじゃないわよねぇ?おかげでマルクちゃんは今日もお休み。予約してくれてたお客さんにどう説明すればいいのかしら?」
「むぅ……」
「グレアちゃんも、マルクちゃんのことが大切なんじゃないの?お腹が膨れるまで、あんなに一杯中に出しちゃって。貴方の精液は全部魔力の塊なのよ?なんとか掻き出せたけど、マルクちゃんがインキュバスになっちゃったらどうするの?ねぇ、教えてちょうだい」
「う、うぅ……」
もはや、ぐぅの音も出ない。しかし、ローレットは一発逆転とクラウディアの顔を見上げた。
「だ、だが、これはマルクの同意の上だ!私達も悪かったのは確かだが、少しは情状してはもらえないだろうか……?」
「そ、そうだよ!ムリヤリなんて、アタシ達がするわけないじゃないか!」
「あら、そうなのマルクちゃん?」
くるりと振り返ったクラウディアの目線の先には、扉の隙間から顔を出したマルクの姿。相当搾られたと見えて、どことなく顔色が悪そうである。
マルクはしばらく恨むような視線をローレット達に送り、おもむろに口を開いた。
「…目が覚めたら、グレアさんに腕を縛られてました。そのまま襲われて、途中からローレットさんも加わってきて……あとは、朝までされちゃいました」
「な……っ!?」
「うぐ……っ!?」
嘘はついていない。恐らく、マルクのフォローを期待していたのだろう。ローレット達の表情に苦悶の色が浮かんだ。
「あら、そぅ……辛かったわね。あとは、全部私に任せてちょうだい。マルクちゃんは、ゆっくりお部屋で休んでて」
「すみません……そうさせて頂きます。では、また後で……」
「お、おいマルク!マルクぅっ!」
「は、はは……また遠くなっちまった……」
焦るローレット、絶望するグレアの呟きを背に、マルクはパタリと扉を閉めた。
あとは、クラウディアが全部やってくれるだろう。ベッドに腰掛け、マルクはぼんやりと天井を見上げた。
自分の過去。今回は、それを強く意識させられたような気がする。
あまり、良い思い出の無い過去。今まで、なるべく思い出さないようにしていたが、時には感傷に浸るのも良いかもしれない。なにしろ、母親はもう、自分の記憶の中にしか居ないのだから。
そう考えたマルクはごろりと仰向けになると、ベッドのクッションに手を差し入れた。
ごそごそと探り、見つけたのは金色の小さな鍵。それを手にクローゼットへと歩み寄ったマルクは最下段の引き出しの鍵穴に鍵を挿し、開けた。
そこには、数少ない自分の私物が収められている。木彫りの玩具に、汚れた絵本。そして、母親の遺品が。
その中からマルクが取り出したのは、真っ白なシルクのローブ。顔を押し付けると、懐かしい母親の匂いが胸一杯に広がってくる。その脳裏に、光降り注ぐ聖堂の中で、手を合わせていた母親の姿が蘇った。
「…母さん……母さんは、今の僕を見たらどう思うかなぁ……やっぱり、悪い子に見えるのかなぁ……」
ローブに顔を埋めたまま、マルクは呟く。
「でも……僕には、これしか出来ないんだ。これしか……皆に恩を返せないんだ。だから……ごめんね、母さん。大丈夫、神様だって、きっと許してくれるよ。だって……神様は、僕達を助けてくれなかったじゃないか」
マルクは顔を上げて、手元のローブを見つめた。無地のローブに施された、金と銀の豪奢な刺繍。レスカティエ教国の証、ホーリークロスの刺繍をーーー
「ろ、ローレットさん……どうして、ここに……?」
「なぁに、発情した雌犬の匂いを感じたのでな。よもやと思い追ってみると……案の定といったところだ」
ローレットはベッドに乗ると、物珍しそうにマルクとグレアを見下ろした。
「ほう……なかなか良い趣向だな、駄犬。このようなマルクも……ふふっ、そそるものがある」
「て、テメェ……何が言いたい?何が望みだ?」
本当ならば、マルクはお客を取らない日。それを破って強行に及んだとなれば、何かしら罰が与えられるのは確実だろう。
その罰により、マルクと引き離されることを何より恐れるグレアは、彼を離すまいと抱き締めながらキッとローレットを睨み付けた。
「ふっ……私の望みだと?いいだろう、頭と下の弛い発情犬に教えてやる。私の望みはーーー」
緊張に固まるマルク達の目の前で、おもむろに、服に手を掛けるローレット。直後、何一つ躊躇うことなく力任せにそれを破り捨てた。
「私も、そこに混ぜろーーーッ!!」
「ちょ、待てお前……うおぉおおッ!?」
「うわぁああッ!?」
全裸で飛び掛かってきたローレットに押し潰されて悲鳴を上げるマルクとグレア。特に、マルクはいろいろと豊満な二人の体重を小柄の身体で受け止め、泣きそうな表情を浮かべている。
「て、テメェバカか!?ここは普通クラウディアにバラすところじゃねぇのかよ!」
「そんな勿体無いことができるか。来る日も来る日もあの女に何かしら用事を言い付けられ、マルクとはずいぶん御無沙汰でな。この機を逃す手はないだろう」
「で、でもローレットさん、もし見付かったら怒られますよ!」
「その辺は心配不要だ。あの女ならば酔い潰して旦那に預けてきた。今頃向こうも逢瀬を楽しんでいるのではないか?」
なんという用意周到さ。仮にグレアにその気が無かったとしても、元からマルクの寝込みを襲うつもりだったのかもしれない。
そんな思考を巡らせるマルクにローレットはグレアの肩口から顔を覗かせ、手を伸ばすとそっと指先で彼の頬を撫でた。
「まぁ、そういうわけだ。もう少し頑張ってもらうぞ、マルク」
「……はい」
ここまで想われて、一体誰が拒絶できようか。マルクは苦笑いを浮かべながら、頷いてみせた。
「お、おい……本当に、この体勢でヤんのか?」
やはり、このような展開は初めてなのだろう。不安そうな言葉を呟きながら、グレアはローレットを見下ろした。
現在の状況を簡単に説明すると、ローレットが下、マルクが中、グレアが上。ローレットの腰の下に敷かれた枕と毛布によって高さが調節され、ちょうど膝立ちしたグレアの腰の位置にマルクの腰、そしてマルクの腰がローレットの腰に合わせられた体勢である。
「仕方あるまい。どこぞの駄犬のおかげで、マルクが腰が立たんと言うのだからな。責任を取るのは当然だろう」
「す、すみません、グレアさん……」
「ああ、マルクは気にすんな。アタシのせいみたいなもんだからな。だがよ……テメェの態度はもう少しなんとかならねぇか?」
さんざん駄犬呼ばわりされて、さすがのグレアもお冠の御様子。睨み合うグレアとローレットに挟まれ、マルクも戦々恐々といった様子である。
「はっ、他人様の男に噛み付く駄犬には妥当な態度だろう?マルクと私の逢瀬に加えてやるだけありがたく思うのだな」
「おいコラ、マルクが誰の男だって?それに、加えてやったのはこっちだろうが。お情けで入れてやったんだよ」
「さぁて、なんのことやら。私はマルクと楽しむだけだからな。その後ろの駄犬など、初めから眼中になどない」
「言ったな、テメェ……泣くまでよがらせてやるから覚悟しろよ」
「ケモノごときにそれが出来るのか見物だな。もっとも、私が気をやる前に、駄犬の種が無くなりそうだが」
「ち、ちょっと二人とも……」
何やら雲行きが妖しくなってきたが、二人の仲裁に入るマルク。しかし、前と後ろ、同時に肩を掴まれた。
「マルク、さっさとその駄犬から搾り取ってしまえ。その後はゆっくりと、私がお前の相手をしてやろう」
「しっかり腰に力入れてろよ、マルク。アタシが腰を使ってやるから、その女泣かせちまえ」
「あ、あのっ、二人とも!?なんだか僕ばっかり損な役回りのような……」
「んじゃ、いくぜぇ……」
マルクの嘆きも虚しく、ピタリと菊門にグレアの猛る怒張が押し付けられ、ローレットの手によってマルクのペニスが彼女の秘裂に狙いを定めた。
さすがのマルクも、ちょっとした恐怖から冷や汗が額に滲んだ。
「ぐ、グレアさん、もう少しだけ、待っ……ぅあああッ!」
グレアの巨根に、一息で貫かれた。背後からの衝撃にマルクはローレットに身体を預ける形になり、同時にペニスが彼女の秘裂に飲み込まれた。
「はっ、ぁあ……久々だ、この感覚……っ!マルク、私の中はどうだ……?」
「あ、あつ、くて……きつくて、気持ち……いいです……っ」
浅く、早く呼吸をしながら、マルクはぎこちない笑みを浮かべて自分の身体を抱くローレットを見上げた。
力任せに前立腺を押し潰され、腰がガクガクと震えている。早くもローレットの中に精液を洩らしてしまったようで、敢えて口にしないがローレットも至福といった表情を浮かべていた。
「っ、はぁ……やっぱ……やべぇ、病み付きになるかもしれねぇ。おいトカゲ野郎、マルクの腰を軽く浮かせてやりな。寄っ掛かったままじゃ、テメェも味わえねぇだろ」
「言われずともわかっている。マルク、お前はそのまま楽にしていろ」
「ふぇ……?」
頭をローレットの胸に埋めながら、腰に巻き付いた何かによってペニスが引き抜かれるギリギリのところまで引き上げられる。恐らく、感触からローレットの尻尾だろう。
「よーっし……んじゃ、こっから本気だァッ!」
「ひゃあああっ!?」
グレアはおもいっきり腰を引き、再び勢い良く突き入れる。反り返った幹とエラの張った亀頭に容赦なく腸壁を抉られ、媚薬スライムで何倍にも引き上げられた快楽がマルクを襲う。
しかも、待ち受けるのはローレットの膣。熱い膣壁がペニスをきつく握りしめて扱き上げるかのような感触
を同時に味わい、マルクの思考は一瞬でスパークする。なんとか意識だけは失うまいと、ぎゅっとシーツを握りしめた。
「ンッ……なるほど。駄犬らしい荒々しさだ。だが、この程度ではいくら腰を振ったところで徒労だな」
グレアの腰を叩き付けた衝撃はローレットにも伝わり、その口元から甘い吐息が洩れる。しかし、彼女を絶頂に至らせることは叶わず、グレアに妖しい笑みが浮かんだ。
「まだまだ、こんなもんじゃねぇよ。マルク、気絶すんじゃねぇぞ!」
「ひぁっ、んんっ!んぅううーーーっ!!」
一切の間を置かず、連続してグレアの腰が叩き付けられ、口一杯に食べ物を詰め込まれたかのような圧迫感とその何倍もの快楽が頭の中を埋め尽くすが、悲鳴すら上げさせまいと押し付けられたローレットの唇に口を塞がれ、口内を長く滑った舌が蹂躙する。
その構図は、まさに一つの餌を奪い合う獣の様。マルクという極上の餌を巡って二人の魔物が精を食らい尽くしていった。
「はぁっ、うぉぉ……っ!ど、どうだトカゲ野郎!アタシの腰振りに、そろそろイッちまいそうな面じゃねぇか」
「ぐっ、ぬぅぅ……っ!ま、まだだ!貴様こそ、もう限界そうな顔だぞ……!」
「いゃ、ぁああんっ!もうイヤ、しんじゃ、しんじゃうぅううーーーーッ!!」
お互いに競い合う両者だが、一方のマルクは既に死に体といった有り様である。前と後ろを激しく責め立てられながら、壊れた玩具のように悲鳴をあげ続けていた。
ゴリゴリと音を立てて抉られる腸壁はグレアの動きに合わせて下腹部を膨らませ、何度も扱き上げられたローレットの膣内からは注がれた精液が溢れていた。
二人の魔物に挟まれた状態で与えられる、苛烈な責め。永遠にも続くものかと思われたその宴にも、遂に終焉を迎えようとしていた。
「くっ、う……ああ、くそっ、限界だ……!」
「ふっ、う……んん、ぁあ……だ、駄犬、ごときに……っ」
長らく我慢を競いあっていたローレット達の表情に、焦りと限界の色が見え隠れする。一方、とうの昔に限界を迎えていたマルクは既に悲鳴すら上げる余裕もなく、もはやされるがままに身体を揺すられていた。
そんな彼を余所に、二人は一気にラストスパートを掛ける。ローレットは膣内を締め付けながらお人形状態のマルクを抱きしめ、グレアは腰の動作を小刻みに、大粒の汗をマルクの身体に落としながら腰を叩き付けた。
そしてーーー
「ぁ、も……んんん……っ!」
「う……うぉおおおーーーーッ!!」
二人は、同時に達した。ローレットは白い喉をさらけ出しながら背を逸らし、グレアは獣のような咆哮を上げて精液をマルクの中に注ぎ込んだ。
糸の切れた人形のように、グレアはマルクの上に倒れ込む。しばらく、三人の荒い息遣いだけが薄暗い室内に響いていた。
「…やるではないか、駄犬。生半可な覚悟で、マルクを欲するわけではないということか」
「へっ……テメェもなかなかのもんだったぜ。このアタシが、ここまで乱されちまうとはな」
ムクリと、ローレットとグレアはベッドから起き上がる。そして、ガシリと固く握手を交わした。
「これまでの非礼、詫びよう。貴様こそ、私の好敵手に相応しい」
「なんだよ、むず痒いこと言うんじゃねぇって。慣れてねぇから、よわっちまうぜ……」
なにやら良い雰囲気の二人。完全に除け者状態のマルクはベッドの上に横たわったまま、ピクリともせずに虚空を見つめていた。
犬猿の仲であった二人が仲良くなってくれたことは喜ばしいことなのだが、そのワンクッションとなった自分の扱いが酷すぎるような気がする。
もはや精根尽き果て、グレアの精液が重いくらい腹を満たしていた。
しかし、ここで水を差すような無粋なことはしない。このまま疲労に身を任せ、泥のように眠りについてーーー
「なぁ、今度はアタシが下でいいか?そろそろマルクの精を味わってみてぇ」
「ふむ……そうだな。ならば、私が上になろう。マルクの尻はまだ体験したことがなかったしな。ちょうど……よし、薬もあるな」
「…………」
まだまだ、マルクの夜は長くなりそうであった。
そして、新しい朝がやってきた。今日も変わらずスタッフが広い店内を駆け回り、男娼達も客を迎えるべく部屋の支度を始めている。
そんな店内の、一際往来の多い廊下の隅っこに、とある二人が正座を余儀なくされていた。
それは、なんとローレットとグレア。膝の上には重石代わりの水入りバケツが置かれており、彼女達の正面には完全復活のクラウディアが腕組みをして二人を見下ろしていた。
二人は現在、休日のマルクを襲った罪で大絶賛お仕置き中。結局明け方まで続いた三人の交わりは今朝方マルクの様子を見に来たアークによって発見され、隠蔽工作をする暇もなく捕まってしまったのだった。
「…なぁ、そろそろ良いだろう?」
「アタシも……そろそろ戻らねぇと子分が好き勝手始めちまうし……」
恐る恐るローレット達が許しを乞うも、クラウディアの睨み一つによって一蹴。ますます、二人は居づらそうに肩を縮込ませた。
「…ローレットちゃん、仮にもお店の関係者なんだから、規則を知らないわけじゃないわよねぇ?おかげでマルクちゃんは今日もお休み。予約してくれてたお客さんにどう説明すればいいのかしら?」
「むぅ……」
「グレアちゃんも、マルクちゃんのことが大切なんじゃないの?お腹が膨れるまで、あんなに一杯中に出しちゃって。貴方の精液は全部魔力の塊なのよ?なんとか掻き出せたけど、マルクちゃんがインキュバスになっちゃったらどうするの?ねぇ、教えてちょうだい」
「う、うぅ……」
もはや、ぐぅの音も出ない。しかし、ローレットは一発逆転とクラウディアの顔を見上げた。
「だ、だが、これはマルクの同意の上だ!私達も悪かったのは確かだが、少しは情状してはもらえないだろうか……?」
「そ、そうだよ!ムリヤリなんて、アタシ達がするわけないじゃないか!」
「あら、そうなのマルクちゃん?」
くるりと振り返ったクラウディアの目線の先には、扉の隙間から顔を出したマルクの姿。相当搾られたと見えて、どことなく顔色が悪そうである。
マルクはしばらく恨むような視線をローレット達に送り、おもむろに口を開いた。
「…目が覚めたら、グレアさんに腕を縛られてました。そのまま襲われて、途中からローレットさんも加わってきて……あとは、朝までされちゃいました」
「な……っ!?」
「うぐ……っ!?」
嘘はついていない。恐らく、マルクのフォローを期待していたのだろう。ローレット達の表情に苦悶の色が浮かんだ。
「あら、そぅ……辛かったわね。あとは、全部私に任せてちょうだい。マルクちゃんは、ゆっくりお部屋で休んでて」
「すみません……そうさせて頂きます。では、また後で……」
「お、おいマルク!マルクぅっ!」
「は、はは……また遠くなっちまった……」
焦るローレット、絶望するグレアの呟きを背に、マルクはパタリと扉を閉めた。
あとは、クラウディアが全部やってくれるだろう。ベッドに腰掛け、マルクはぼんやりと天井を見上げた。
自分の過去。今回は、それを強く意識させられたような気がする。
あまり、良い思い出の無い過去。今まで、なるべく思い出さないようにしていたが、時には感傷に浸るのも良いかもしれない。なにしろ、母親はもう、自分の記憶の中にしか居ないのだから。
そう考えたマルクはごろりと仰向けになると、ベッドのクッションに手を差し入れた。
ごそごそと探り、見つけたのは金色の小さな鍵。それを手にクローゼットへと歩み寄ったマルクは最下段の引き出しの鍵穴に鍵を挿し、開けた。
そこには、数少ない自分の私物が収められている。木彫りの玩具に、汚れた絵本。そして、母親の遺品が。
その中からマルクが取り出したのは、真っ白なシルクのローブ。顔を押し付けると、懐かしい母親の匂いが胸一杯に広がってくる。その脳裏に、光降り注ぐ聖堂の中で、手を合わせていた母親の姿が蘇った。
「…母さん……母さんは、今の僕を見たらどう思うかなぁ……やっぱり、悪い子に見えるのかなぁ……」
ローブに顔を埋めたまま、マルクは呟く。
「でも……僕には、これしか出来ないんだ。これしか……皆に恩を返せないんだ。だから……ごめんね、母さん。大丈夫、神様だって、きっと許してくれるよ。だって……神様は、僕達を助けてくれなかったじゃないか」
マルクは顔を上げて、手元のローブを見つめた。無地のローブに施された、金と銀の豪奢な刺繍。レスカティエ教国の証、ホーリークロスの刺繍をーーー
15/10/09 07:01更新 / Phantom
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