連載小説
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前編
 今日で病院に通い続けて、三週間になる。
 毎日通い続けることは迷惑ではないかと聞いたこともある。彼女の口からは、「別に。」とだけ。氷柱女らしいクールな返答。ただ、そのときの彼女の表情はどことなく寂しそうで。
「章則です。入るよ。」
 そう短く告げ、返答を待たずドアに手をかける。目に飛び込んできたのは、淡雪を想起させる白髪、涼しげな目元、陶磁器のような透き通った肌。ベットから上体だけを起こし、由紀は今日も本を読んでいた。
「不愉快だわ」
 章則に一瞥もせず、その口元から発せられた言葉は深々と心に突き刺さる。由紀の機嫌は今ひとつらしい。
「まぁ、そういわないでよ。クラスメイトのよしみでさ」
 章則は申し訳なさそうに呟く。
「入学して数回しか登校したことのない人間にクラスメイトなんているのかしら。」
 彼女は読んでいた本を脇に置き、皮肉っぽく尋ねる。ここまで不機嫌なのは、初めてだった。いつもなら、学校、読んでる本、趣味、家族とかを話題にして、1時間ほど過ごす。ただそれだけ。だから今は正直面を食らっている。
「何かあった?」
 章則は注意を払いながら、おずおずと尋ねる。
「別に。また退院の時期がずれただけ」
 由紀が冷たく呟く。由紀は氷柱女という魔物娘らしい。魔物娘はその強靱な肉体と魔力によって、病気とは無縁であるかのようなイメージだが、何にでも例外はある。彼女は先天性の臓器不全で、入退院を繰り返しこの春入学した高校にもまとも登校できていない。
「そうか....」
 彼女の立場に立って、心情を慮る。そんなことできるわけがなかった。普通に学校に行って、普通に友達をつくって、普通に遊んで、勉強して。それらを普通と捉え章則と由紀の境遇はあまりもかけ離れていた。
 立ち尽くす章則を見て由紀は
「ごめんなさい。」
と伏し目がちに声をかける。
「章則は何も悪くないのに。こんな私を見捨てずに、毎日お見舞いに来てくれているのに。お医者様に昨日まで来月退院って言われてたから、すこし...。ほら、今日もお話しを聞かせて。私、この前言ってた妹さんについて聞きたいわ。」
 先ほどとはうって変わって、由紀は明るい口調で話し始める。必死に明るく振る舞おうとしている。これが本来の彼女だ。思いやりがあって、礼儀正しくて、純粋で。ただ純粋すぎるから、その姿がより悲痛に思えた。
「由紀さんは兄弟とかっている?うちの妹はさ...」
 由紀にとってすこしでも楽しい時間になれば。妹がケーキを食べ過ぎた話や英語で赤点を取ったなんていうくだらない話がちょっぴりでも彼女の笑顔なるなら。一日でも早く元気になって、一緒に学校へ通えたら。願望ばかりが胸の内にあふれ、章則は必死に口を動かす。時に身振り手振りを交えながら。その話に耳を傾け、嬉しそうに眺める由紀。これが二人の日常であった。
19/05/27 03:03更新 / ヤーコブ
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■作者メッセージ
小説の書き方とかよくわからないですけど、思うがままに書いてみました。
アドバイスや反応お待ちしております。
先の展開はこれから考えます。

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