落ちないアイツとカオリさん
「ひっ、そ、それは…っ!」
夕暮れの教室から、一聞すれば何か傷害事件や疚しいことが起こりかけているのではないかと勘違いしてしまいそうな驚きと怯えの混じった悲鳴とも近い少女の声が響いた。
その少女は額に脂汗を垂らしながら、しまった!という顔をすると、わたわたと口を自分の両手で覆う。
恐らく先ほど口に出てしまった言葉は自分の意志には反して出てしまったものなのだろう。
少女と1口に言っても沢山の性格や雰囲気があるが、その少女は「the 少女」といった感じであった。
非力そうで、華奢な体型。髪はミディアム程で、艶のある綺麗な髪質。
服装はいかにも中学生高学年最大限の背伸びと言った感じで、まだ幼さの残るお洒落をしていた。
依然口に手を当て、同じ轍を踏まないよう体を緊張させつつ、泳ぐ眼で精一杯目に見えている憧憬を見詰める。
見据えた先に立っていたのは、二人の男女だった。
片方は20代後半だろうか、黒のスーツをしっかり着こなし、真面目そうで誠実そうで謙虚そうな、誰に聞こうと口を揃えて好青年だと紹介しそうな青年だ。
もう片方は先程紹介した少女よりも幾分大人びているように見える。それは黒い髪を腰あたりまで垂らし、どこか不思議な雰囲気を漂わせているからだろうか。
大和撫子という言葉がドンのピシャでマッチする、少女というよりも女性と表す方がしっくりくる。そんな子である。
一つ違うとすれば彼女に人間の足らしきものはなく、そこには白蛇の尻尾が存在しているということだろうか。
…まぁ、この世界では些細なことである。
そんな子探せばいくらでも居るし、それを説明するのは野暮というか。白蛇を白蛇だと説明するのは、水はH2Oですと説明しているような当たり前さだと感じる。
それくらいもう魔物娘が周知の世界なのだ。
「知っていますよぉ。」
白蛇の彼女が口を開く。
焦りに焦りまくっていた少女と違って、まったく落ち着いた様子で男へ伝える。
「知っていて、言っているんです。」
落ち着いた様子の奥には確固たる芯がある様な、澄んだ声色とアンバランスだと感じる程に重い思いが込められている言葉だった。
彼女の目に迷いはなく、貫くように相手を見つめている。
常人であればその覇気に怖気付き、いかなる状況でもyesと答えてしまいそうな程だった。
空気が凍てついている。
教室の黒板の横にかけられた、Canonの時計の秒針が進む音だけが聞こえる。
「もうすぐ完全下校だぞ。」
これもまた常人であれば息が詰まって最悪の場合死に至るであろう程凍てついていた空気を話の脈略を無視する形でいとも簡単にその男性は破って見せた。
なんだかもう慣れてしまっているような、それどころか余裕までありそうな素振りで受け答えをして見せた。
「またはぐらかすんですかぁ? …告白はこれで6度目ですよ?」
「嘘をつけ、もう2桁は越えているだろう。」
実際慣れていた。
2人が会話をすると、凍てついた空気は徐々に溶け始め、しばらくすると元の教室へと戻っていった。
「もう暗くなってしまったぞ、早く帰れ。」
男が窓の底をちらと見ると、そこは夕暮れから一変して星が見えるほどに暗くなってしまっていた。
少女は先程までの空気に疲れ果てたのか椅子に座り、ぐったりと机に体を伏せていた。
その様子も男は確認しつつ、「あんまり友達に迷惑をかけるなよ」と釘を指しながら帰る事を押し付けるように言って見せた。
「…お返事はいつになりますかぁ?」
それでも彼女は懲りない。
いくらか圧を失っていようと、力が抜けていようと、聞くセリフの根底は変わらない。
「毎度言っているだろう…」
呆れた様子で彼はため息をつく。
これを言うのも何度目だ、と天を仰ぐように視線を上へ向けてから、彼女へと戻す。
「俺にはもう嫁が居るんだ。」
完全下校を知らせるチャイムが、教室に響いた
夕暮れの教室から、一聞すれば何か傷害事件や疚しいことが起こりかけているのではないかと勘違いしてしまいそうな驚きと怯えの混じった悲鳴とも近い少女の声が響いた。
その少女は額に脂汗を垂らしながら、しまった!という顔をすると、わたわたと口を自分の両手で覆う。
恐らく先ほど口に出てしまった言葉は自分の意志には反して出てしまったものなのだろう。
少女と1口に言っても沢山の性格や雰囲気があるが、その少女は「the 少女」といった感じであった。
非力そうで、華奢な体型。髪はミディアム程で、艶のある綺麗な髪質。
服装はいかにも中学生高学年最大限の背伸びと言った感じで、まだ幼さの残るお洒落をしていた。
依然口に手を当て、同じ轍を踏まないよう体を緊張させつつ、泳ぐ眼で精一杯目に見えている憧憬を見詰める。
見据えた先に立っていたのは、二人の男女だった。
片方は20代後半だろうか、黒のスーツをしっかり着こなし、真面目そうで誠実そうで謙虚そうな、誰に聞こうと口を揃えて好青年だと紹介しそうな青年だ。
もう片方は先程紹介した少女よりも幾分大人びているように見える。それは黒い髪を腰あたりまで垂らし、どこか不思議な雰囲気を漂わせているからだろうか。
大和撫子という言葉がドンのピシャでマッチする、少女というよりも女性と表す方がしっくりくる。そんな子である。
一つ違うとすれば彼女に人間の足らしきものはなく、そこには白蛇の尻尾が存在しているということだろうか。
…まぁ、この世界では些細なことである。
そんな子探せばいくらでも居るし、それを説明するのは野暮というか。白蛇を白蛇だと説明するのは、水はH2Oですと説明しているような当たり前さだと感じる。
それくらいもう魔物娘が周知の世界なのだ。
「知っていますよぉ。」
白蛇の彼女が口を開く。
焦りに焦りまくっていた少女と違って、まったく落ち着いた様子で男へ伝える。
「知っていて、言っているんです。」
落ち着いた様子の奥には確固たる芯がある様な、澄んだ声色とアンバランスだと感じる程に重い思いが込められている言葉だった。
彼女の目に迷いはなく、貫くように相手を見つめている。
常人であればその覇気に怖気付き、いかなる状況でもyesと答えてしまいそうな程だった。
空気が凍てついている。
教室の黒板の横にかけられた、Canonの時計の秒針が進む音だけが聞こえる。
「もうすぐ完全下校だぞ。」
これもまた常人であれば息が詰まって最悪の場合死に至るであろう程凍てついていた空気を話の脈略を無視する形でいとも簡単にその男性は破って見せた。
なんだかもう慣れてしまっているような、それどころか余裕までありそうな素振りで受け答えをして見せた。
「またはぐらかすんですかぁ? …告白はこれで6度目ですよ?」
「嘘をつけ、もう2桁は越えているだろう。」
実際慣れていた。
2人が会話をすると、凍てついた空気は徐々に溶け始め、しばらくすると元の教室へと戻っていった。
「もう暗くなってしまったぞ、早く帰れ。」
男が窓の底をちらと見ると、そこは夕暮れから一変して星が見えるほどに暗くなってしまっていた。
少女は先程までの空気に疲れ果てたのか椅子に座り、ぐったりと机に体を伏せていた。
その様子も男は確認しつつ、「あんまり友達に迷惑をかけるなよ」と釘を指しながら帰る事を押し付けるように言って見せた。
「…お返事はいつになりますかぁ?」
それでも彼女は懲りない。
いくらか圧を失っていようと、力が抜けていようと、聞くセリフの根底は変わらない。
「毎度言っているだろう…」
呆れた様子で彼はため息をつく。
これを言うのも何度目だ、と天を仰ぐように視線を上へ向けてから、彼女へと戻す。
「俺にはもう嫁が居るんだ。」
完全下校を知らせるチャイムが、教室に響いた
17/06/13 05:12更新 / みゅぅんさん
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