古城風宿泊施設の管理人
一人の男が一台のワゴン車の中で、片手にはメモ帳を、もう片方にはペンを持ち、一つ一つにチェックを入れていく。
「えーっと、郵便局止めの荷物は取った。買出しリストの飲食料――は全部買った。車のガソリンは入れて満タンだし。じゃあ、家に帰るとしますか」
ブレーキを踏みながら、車の鍵を軽く捻って車のエンジンに火を入れる。するとメーターに光が灯り、エンジンが動き出す振動音が車内に。
そしてカーステレオからオート設定で組み込んだ音楽が、エンジンの振動音を消すように流れ出す。
シートベルトを締めて、ミラーの確認をしてから、サイドブレーキを下ろし、ギアを入れる。
周りに人が居ない事を確認して、男はブレーキから足を離すと、巧みなアクセルワークで駐車場を出て、車道を走り始める。
「〜〜〜♪〜〜♪」
カーステレオの音楽に合わせて鼻歌を歌いつつ、大通りを法定速度で程よく進むと、左に曲がって一つ路地に入る。
そのまま直進していくと、ビジネスホテル並にでかい古城のような建物が見えてきた。
看板には『ホテル・ディエンドロック』とでかでかと書かれてあり、その下にお品書きのように『ご休憩』と『ご宿泊』との項目が並んでいる。
所謂ラブホテルというヤツである。
そんな恋人や妻と一緒に来るべき場所に、荷物を満載した男一人のワゴン車が、真昼間からウィンカーを出して駐車場へと入っていくというのは、一種不思議な光景である。
するすると駐車場内を移動し、直通エレベーターのある場所の近くへとすんなり車を止める。ずいぶんとこの場所に馴れているように見える。
「はぁ〜。台車があるって言っても、重労働だなこりゃ」
ワゴンのエンジンを切って、後部ドアを開けてぎっしりと詰まった荷物を前に、男は溜息を吐き出しながら、展開した台車にえっちらおっちらと荷物を載せていく。
やがて台車に乗せきれないぐらい乗せて、ワゴンの後部ドアを閉めると、鍵の遠隔操作でドアをロックする。そして台車をガラガラと押しながら、エレベーターの前まで歩くと、上へと行くためのボタンを押す。
やや待ち、ちーんという電子音と共に開いたエレベーターに台車事乗ると、男は車の鍵に付いていた別の鍵をエレベーターの鍵口に差し込み回してから、最上階のボタンを押した。
下から上へと登るため、少々の重力を体感しながら、男は数字が変わっていく文字盤に目をやっている。
程なくして最上階へと辿り着いたエレベーターの扉が開く。
開いた先に広がっていた光景は、廊下ではなくやや広めのマンション玄関のような場所。
そこへガラガラと台車を押して男が降りる。
「ただいまー」
台車を横に置き、男は靴を脱ごうとしながら、そう言葉を奥の空間へと投げかける。
すると廊下の先から、水色の服を来た女性が音もなく、すすっと男の前に滑るように突進してきた。
「お帰りなさい。真咲〜♪」
がばっと男へと抱きついたのは、胸やお尻が豊満で腰が細い水色の服の女――いや、水色の服に見えるが、それは布ではなく半流動体で出来ているため、どうやら彼女はスライムのようだ。しかも頭にティアラのような飾りがあることから、クィーンスライムだという事が分かる。
その彼女が男に抱きつき、さらには頬擦りまでする有様である。
「わ、ちょ、ツモイ。帰ってきて、行き成り抱きつくなよ」
「だってだって、真咲が居なくて寂しかったんだもの」
「二時間ぐらいだろう、離れてたのは」
「二時間『も』離れてたの。もうちょっとで真咲分が足りなくて、死んじゃうところだったんだから」
「仕方ないだろう。ツモイが外に出れないから、俺がお使いで出てきたんだろうに。第一、こんなに買い込まなきゃ、もっと短い時間で帰って来れたんだぞ?」
「だってぇ。買い込まないと、頻繁に真咲と離れなきゃいけないじゃない。そんなの耐えられない〜」
「ああ、もう、分かったから。その台車の分の他に、まだ車の中にあるんだから、取ってこないといけないから」
「大丈夫。この建物の中なら、私の領域だもの。みんなー、よろしくね〜〜」
「「「はい。畏まりました」」」
言い合いをしていた二人の側から、にゅるりとスライムが五体出てきた。顔立ちが似ている事から、ツモイの分身体だと予想が付く。
その分身体は台車の上の荷物を、まるで空箱を扱うようにして、次々と廊下の先へと運んでいく。
「では、下の荷物を取りに行きますので、鍵を拝借致したいかと」
「ああ、よろしく」
「か、畏まりました」
「あー、いいなー。頭ナデナデ〜」
両手を差し出して鍵を受け取ろうとした分身体が可愛らしかったからか、男――真咲は分身体の頭を撫でてやった。すると分身体は照れたように俯きつつ、真咲の手の感触に身を任せ、本体であるはずのクィーンスライム――ツモイは羨ましそうにそれを見ている。
二度三度と撫でた手を真咲が分身体の頭から放した時、ちょっとだけその分身体が名残惜しそうな表情を浮べたが、一礼してにゅるりとその場に溶けて居なくなってしまった。
すると直ぐに、エレベーターがするすると地下の駐車場へと下りていく。どうやらもう駐車場にて、荷物の搬出が始まっているらしい。彼女らがどうやって駐車場へ移動したのか疑問ではある。
「はい、じゃぁ、真咲の用事も終わった事だし、これからはずーっと、私とのイチャイチャタイムね♪」
「おいおい。俺は一応このホテルの管理人だぞ。仕事しなきゃ」
「大丈夫。前管理人の私――の分身体が、滞りなく終わらせるから。真咲は何にも心配しないで、私といちゃいちゃしてればいいの〜」
と喋った途端に、抱きついていたツモイの輪郭がぐじゅりと溶けて、真咲の服の隙間から彼の体の上を這っていく。
「ちょっと、ツモイ!」
「ああん、もうこんなに外の空気に汚れて。これはもうお風呂に入るしかないわよね?」
「……お風呂に入って欲しいなら、直接そう言えよ。拒否なんかしないから」
「うふふ、流石私の旦那様。じゃあ早速お風呂に行きましょう♪」
「何が流石なんだか」
やれやれと言いたげに真咲が風呂場へと歩いていく。むろんツモイが引っ付いたままなのだが、その足取りに重さは感じない。
どうやらツモイは圧し掛かっているわけではなく、ただぺったりと真咲に張り付きながら、廊下の上を滑るように移動しているようだ。
「は〜い、お風呂場ですよ〜。脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
「って、もうほぼ全部脱がせてるじゃんかよ」
「廊下を歩いているときに、お風呂場に着いたら全部脱がせられる様に、こっそりとボタンとかチャックとかを外してました〜。はい、貴女は真咲の服を洗濯してね」
「畏まりました」
また廊下の上から溶け出るようにして現れた一つの分身体に、ツモイは脱がした真咲の服を押し付ける。
すると分身体は渡された服を手に取ると、もぐもぐと食べ始めた。やがて上着も下着も全部食べ終えると、分身体のお腹の中に服がぷかぷかと浮いている状態になった。
そのまま分身体のお腹の中で、洋服がぐにぐにと揉まれ洗われていく。心なしか、分身体の頬が上気しているようにも見える。
「毎度思うけど。その洗濯方法って、見た目変態的だよな」
「衣服に染み出た真咲の汗も、私たちにとってはご馳走だもの。水洗いするなんて勿体無いじゃない」
「そういうものかね」
何か腑に落ちないものを感じている節のある真咲だったが、ツモイに押されて脱衣場から浴槽へと向かって歩いてしまう。
通されたお風呂場の浴槽は、やはりラブホテルに作られた生活スペースだけあり、大の大人が両手足を広げて入れるほどに大きい。しかしそこには、一滴の水も入っていない。いや、それどころか蛇口すらこの風呂場には無かった。
これではどうやってお風呂に入るのかと、誰もが首を捻りたくなる。
「はーい。スライム風呂、用意しますね〜」
そんな疑問を晴らすかのように、浴槽の中に入って立ったツモイの足元から、湧き出る様に水色のスライム体が広い浴槽一杯になるまで現れた。
まさかそこに入るのかと常人なら思いそうだが、真咲は慣れた様子でそこに足を突っ込み、そしてずぶずぶと身体を中へと沈めていく。
腰を浴槽の底へと着けた真崎の背中に、湯船のスライムと腹から下の半身を同化したツモイが、彼の肩に乳房を乗っけるようにして抱きついた。
「お湯加減は、いかがでしょう?」
「う〜ん……最近寒いし、もうちょっと熱めでも良いかな?」
「だ〜め。寒い日はちょっと温めの温度で、長時間入っているのが良いの」
「本当に?」
「情報番組で、ミノ(タウロス)さんがそう言ってたもの」
「本当は?」
「なが〜く、真咲とお風呂場でイチャイチャした〜い」
「お風呂でイチャイチャするのは別に良いけど、その前に――」
「は〜い。バッチィお外で汚れたお体を、綺麗にしま〜す。はい、ずぶずぶずぶ〜〜♪」
「おい、コラ。力ずくで沈めようとするな。自分から入るっ――」
ツモイは真咲の両肩に両手を当てて、思いっきり体重を掛けて、彼をスライムの風呂の中へ沈めようとし始める。
ワタワタと抵抗するように真咲が風呂の中で暴れるものの、流石に風呂の中のスライムもツモイの体の一部だからか、暴れようとする手足にスライムが絡み付き、ツモイの両手と合わせて真咲を湯船の中へと沈めようとしていく。
見るもの全員が溺れるのではと真っ青になりそうな状況の中、真咲は別段なんていうことは無いといった涼しげな顔で、顔がまだスライムの水面上にあるうちに大きく息を吸うと、自分からスライム風呂の中へと沈んでいった。
さて真咲の体が全部沈んだスライム風呂の中では、満たされているスライムがゆっくりとした動きで、真咲の身体を満遍なく――毛穴を一つずつをも洗い流すようにして撫でていく。
その最中に、スライム風呂の中の真咲の正面にツモイの顔が形作られたかと思えば、その顔が真咲の唇に口付けをする。真咲は抵抗無くそれを受け入れると、彼の肺の中へとツモイの口から空気が送られ吸われ、スライム風呂の中でも難なく真咲が呼吸できるようにしている。
その呼吸を邪魔しない程度に、彼を悦ばそうとするかのように、ツモイが真咲の口の中を弄っていのは、口の中の歯や舌や粘膜をツモイの舌で磨くためである。
スライム風呂の外では無音の光景が広がり、二人の間では口内が奏でる音が頭に響く中、そんな調子で真咲の身体を洗っていると、スライム風呂の中で存在感を増し始めた物体があった。
それは身体を丁寧に洗われ、口の中も磨かれて、気持ちよくなってしまった真咲の、気持ち良さのバラメーターである彼の陰茎。
その怒張している様子を、体の一部でもある風呂を満たしているスライムから感じ取ったのか、ツモイはキスをしたままで笑みの形に唇を曲げると、風呂の中のスライムをまた違った風に動かしていく。
身体を洗うためにするすると撫でる動きだったそれは、真咲の乳首や内腿に尻の穴の周り、果ては真咲の耳の穴の中に至るまで、彼が気持ちよくなるであろう場所を舌で舐めるような、ねっとりと粘りつくようなものへ。そして陰茎部分はというと、鈴口部分をチロチロと舐め、亀頭部分は段差部分を中心にぐりぐりと撫で回し、竿の部分をしゅっしゅっと上下に扱き、玉袋はぐにぐにと玉転がししながら揉むかのようにスライムが動いていく。
真咲の耳の中で動くスライムが耳垢を舐めとるような、ぴちゃぴちゃという音が耳から頭へと響く中、真咲はしょうがないなと言いたげな風に眉を潜めると、両手を動かし難いスライム風呂の中でどうにか動かして、目の前にいるツモイの頭を抱き締めようとする。
その真咲の行為が嬉しいのか、ツモイは真咲にかき寄せられるようにして集められるスライムの中で、満面の笑みを浮べながら口付けをもっと激しく、愛撫も丁寧かつ強い刺激を与えるものに変えていく。
全身の性感帯を隈なく愛撫され、陰茎も場所事に違う刺激を加えられていた真咲は、スライム風呂の中で全身を射精のために硬直させ、しかし静かに陰茎の先から白い精液をスライムの中へと放った。
飛び出てきた精液は、最初はスライムの中を漂っていたものの、次の瞬間には食べらるかのようにスライムの中に拡散して消える。しかもスライムは、陰茎の先からまだ出てくるであろう精液を強請るように、真咲の陰茎を揉むように刺激しつつ、尿道から出てくる手助けをするかのように、鈴口を吸うような動きをし始める。
その動きに合わせてか、真咲の陰茎の先からは尿道を駆け上がった追加の精液が放たれる。びくびくと震える陰茎から更に精液を出そうと、スライムも動きが活発になる。
そんな快楽の循環で真咲は大量の精液を、ツモイに口付けされながらも気持ち良さそうな顔つきで、スライム風呂の中へと放ち続ける。スライムはその白い液体を、咀嚼するかのように中に拡散させて吸収していく。
やがて真咲の陰茎から白い液体が出なくなってきて、それでももう出ないのと強請る様にスライムが名残惜しそうに真咲の陰茎を弄る中、真咲は目の前のツモイの頭を手で撫でるような動きをする。
するとツモイはちょっとだけ残念そうな表情を浮べた後で、真咲の上半身をスライム風呂の水面の上へと持ち上げる。
「――ぷはぁ!あー……射精し過ぎと体が温まり過ぎて、体がぐったりする」
「ご馳走様でした〜♪と〜〜っても、美味しくて、お腹がい〜っぱい♪」
肩から上をスライムから出して、疲れたかの様な表情で真咲が呟き、此方も肩から上をスライムから形作ったツモイが、真咲の顔に名残惜しくへばりつく自分の欠片を、形作った手で拭って回収していく。
それを肌で感じつつ真咲は、首で自分の頭を支えるのも億劫なのか、顎をスライムの水面上に置く。普通の水ならば真咲の頭は沈むのだろうが、ツモイの分身だけあって真咲の考えを汲み取ったのか、スライムは軽く彼の頭の重みを受け止めながら、しかしその中に沈ませるような事はしなかった。
「御免なさい。ちょっと無理させちゃったわね」
「とか言って、まだスライムが俺の股間を撫で回しているんだが?」
「……てへっ♪」
「イヤイヤ、それで誤魔化されたりしないからな」
そう言って逃げるようにスライム風呂から出ようとする真咲だったが、急にスライムが固まったかのように体が動かなくなり、真咲は湯船の中からの脱出を失敗してしまう。
「だ〜め。まだ頭は洗っている途中なの。それにぃ、真咲の目をぺろぺろするのしてないし」
「俺、目を舐められるの苦手だって言わなかったか?」
「だめよ。外に出ると、目にゴミが付着するんだから、綺麗にしないと。大丈夫、目薬みたいなものだから。それに痛くないでしょ?」
「痛くは無いし、確かにドライアイが改善されたけど。元々目薬射すの苦手だったし、やっぱりその、視界の直ぐ側で舌が動くのは……」
「問答無用〜♪」
「ぐあ、止め。真面目に、怖いんだって!!」
頭を洗っていたスライムを硬くさせて真咲の頭を動かないようにし、先ずは真咲の右上下目蓋を指で優しく広げたツモイは、ゆっくりと舌を真咲の右眼球に下ろしていく。
「ひぁっ、ひぁッ!!」
降りてくる舌から逃げようとするかのように、真咲の口からは悲鳴が、眼球の黒目が上に向けられるが、構わずにツモイは舌を真咲の眼球にくっ付け、そして舐めていく。
「ぺろぺろぺろ〜」
「ひゃあぁぁあぁぁ!!」
真咲が悲鳴を上げる中、ツモイは眼球を真咲の亀頭であるかのように、丁寧に優しく愛撫するかのようにして、眼にあるゴミを舐め取っていく。
無論、左目も同じように舌で綺麗にするわけなのだが、右目を舐められているときに悲鳴を上げ疲れたのか、真咲は左目の時にはぐったりと体の力を抜いて、ツモイにされるがままにされていた。
浴室から上がった真咲は、リビングにあるソファーの上にぐったりと身を投げ出していた。
「精神的にガッツリ疲れた……」
そんな真咲の情けない姿を見て、その横に座ったツモイはふふふっと忍び笑いを漏らしている。
「あんなに激しく抵抗するから疲れるの。目を舐めるなんて、ちょっとしたプレイみたいなものでしょ」
更にからかう為か、真咲の目へと舌を伸ばしていく。
それを冷ややかな目で見つめていた真咲の口から、ぼそりと言葉が漏れた。
「……なんでこんなのに捕まっちまったかなぁ」
その言葉にツモイは、頬をぷく〜っと膨らませる。
「なんでって。もぅ、あんな衝撃的な出会いしたのに忘れちゃったの?」
「何が衝撃的だよ。付近のビジネスホテルに空室が無かったから、止む無くこのラブホに一人で泊まった俺を無理矢理に襲ってきただけだろう」
「だってぇ。タヌキさんにこのホテルの管理人命じられてから、ずーっと他の人のイチャラブ見てて堪らなかったんだもん。そんな時に、良い雄の匂いを放つ、誰の匂いも付いてない男が居たら、魔物娘なら誰でも襲っちゃうもの」
「ラブホテルなら相手持ちの魔物娘しか居ないから大丈夫と、高を括った過去の俺を殴り飛ばしてやりたい」
「もぅ、なんでそんな意地の悪い事ばっかり言うの。私の事、そんなに嫌い?」
「嫌い――ではないけど、ちょっと個人的に思うこともあってだな」
嫌いの部分で一瞬だけ言葉を途切れさせた途端、ツモイの表情は絶望したようなものになりかけ、その後に真咲の言葉が続いたのを聞いて、安堵の表情へと移り変わる。
「ほっ。良かった。私の事嫌いじゃないのよね」
「嫌いだったら、このラブホ覆えるぐらいにツモイの体積が大きくなるほど、交わるわけが無いから」
「それって、私が好きって事よね。も〜ぉ、真咲ってば、私を不安にさせないでよ〜」
そこで漸く心から安心したのか、ツモイは真咲にべったりと身体をくっつける。否、くっ付けるだけでは飽き足らず、服の隙間から自分の半流動の体を進入させていた。
そんなツモイを抱き寄せて撫でながら、しょうがないなといった感じの溜息を吐く真咲。
「真咲、だ〜い好き……あ、そう言えば、真咲の思う事って何?」
真咲の胸に頬を摺り寄せていたツモイはハッと思い出すと、真咲の下から覗き込むようにして彼の顔を見る。
そんな純粋な疑問を向けるツモイに対し、ちょっとだけ言いにくそうに真咲は頬を指で掻く。
「いやそのだな……働きに出たいかな〜、なんて」
「なんで?真咲に不自由させてないと思うけど。あ、もしかしてお小遣い足りなかったかしら。言ってくれれば直ぐに出すのに。幾ら?」
「いやいや。日がな一日中、家でツモイと過ごす俺に、どう金を使えと?」
「ネットショッピングで買いたいものがあって、お金が足りないんじゃないの?」
「いやいや。何するわけでも無く、月に二十万も貰えば十分足りるし。というか余るし」
「じゃあ、もっと美味しいご飯食べたいの?それとも、もっと広い所に住みたいの?宝石とか時計とか欲しかったり?あ、高級外車とか?」
「いやいや。今の生活水準に不満は無いって。てか、ラブホの最上階って言えど、ワンフロアーぶち抜きのここより広い場所ってよっぽどだぞ」
「じゃあ、何が不満なの。改善できるところなら、改善するから〜」
べったりと引っ付きながら、貴方のお願いなら何でも叶えてあげると言いたげなツモイ。
そんなツモイを見た真咲は、聞き入れてくれるとは思えないといった目をしつつも、駄目元でといった感じの声で言葉を紡ぐ。
「いや、そういうことじゃなくて。ツモイの財力当てにしてヒモになるのは、男としてどうかと……」
「なんで?クィーンスライムは、夫に可愛がってもらう代わりに、身の回りのぜーんぶを世話するんだよ。だから真咲が欲しいと思った全てを与えるのは当然の事だし、するべきことなのに」
「いやだからって、平日に家の中でずーっと居るのは……」
「むうぅぅ〜〜〜!やっぱり真咲は、私の事嫌いなんだ。仕事で外に出るって言って、外で他の女作るつもりなんだ〜〜〜!!」
「ち、違うって、誤解だ!」
「じゃあ何が問題なの!?ご飯も住む所も私にも不満がある訳じゃくて、欲しいものもないのなら、真咲の求めるのは何なの!!?」
人間の常識が魔物娘に通用しないように、魔物娘の常識が人間に伝わり難いというのは、往々にしてあるもの。
この場合の、真咲の世間体での見栄などという常識も、クィーンスライムの『夫に尽くし、愛してもらう』と言う常識を持つツモイにとって、理解出来無い物である。
それこそ百万言費やしたとて、真咲の言い分など『それはアナタを愛するのに必要な物なの?』と、ツモイに一蹴されてしまうだろう。
そしてそれを真咲も薄々気が付いていたのだろう、胸の中にあるちっぽけなプライドを吐き出すように溜息を吐いてから、ツモイの頭を二度ほど撫でる。ツモイは言い争いをしていたのから一転して、真咲の優しげなその行動に思考が追いつかないのか、きょとんと彼の顔を見ている。
「悪かったよ。妻が働いているのに、自分だけ遊んでいるのはどうかなと思っただけだったんだ。言い争いするまでのことじゃない」
「良いの、良いの。私の方も強い言い方して御免なさい。私が働いている云々って、真咲は私の事を気遣ってくれたんでしょ。なのに私ったら、真咲に嫌われたんじゃないかって勝手に不安がって……」
「はい、そこまで。暗い顔のツモイは、らしくないからな」
「もう、なにそれ。私が何時も考え無しに笑っているように聞こえるけど」
「違うよ。そうやって怒った表情や、嬉しそうに笑う表情、恥ずかしそうにはにかむ表情が、俺が好きってだけの話」
真咲はそこで言葉を切ると、ゆっくりとツモイの頭に軽く爪を立てながら、撫で下ろしていく。
「あん♪もう、そうやって、頭撫でて誤魔化すんだから。でも誤魔化されてあげるから、もっともっと〜〜」
「はいはい」
ツモイの求めに応じて、彼女のスライムの頭を梳りながら、真咲はその額に口付けをする。
真咲の唇が付いた途端に、そこから喜びが全身に伝播するかのように、ツモイの体の表面に額を中心にした波紋が広がった。そしてツモイの表情は、微笑む妻の笑顔から一気に発情した雌のそれに変わった。
それに気付きながらも気付きたくないのか、真咲は頭を撫でながらツモイの顔を見ない様に、彼の胸板へと彼女の顔を押し付ける。
「これで良いか?」
しかしツモイも魔物娘の一人である。湧き上がった情欲を抑えられるわけも無い。
にゅるりとツモイの頭全体の形が動き、真咲が腕で押さえつけて板のにも拘らず、胸に埋めていた彼女の顔はいつの間にか彼を見上げるものに変わっている。
そしてその発情しきった顔を、愛しい雄の真咲に向けながら、ツモイは甘えた口調で言葉を掛ける。
「だ〜め。もっともっと〜。きす〜、あいぶ〜、おまんこ〜」
「要求が口を開くたびに、段々とエスカレートしてるんだが?」
「だめなの〜?」
「いや流石に、さっきアレだけ射精したから」
どうにか休憩を挟みたいといった真咲の希望は、彼の目の前に持ってきたツモイの手の上に、彼女謹製のスライムゼリーが乗せられている事で粉々に打ち砕かれる。
要するに、疲れているのならこれを食べて元気になって、という事である。何処が元気になるかなんていうのは、言わぬが花だろう。
「ぐぬぬぅ〜」
「おいしいよ?」
「いや、美味しいのは分かっているんだが……」
これを食べたらどうなるかなど、真咲は記憶を攫うまでも無く思い出せるのだろう。二の足を踏みつつ、そのスライムゼリーをどうするかに頭を悩ませている。
しかしスライムゼリーの目に見える模様と、ツモイの二つの目にじっと見つめられて、真咲は消極的ながら覚悟を決めたようだ。
「あ〜〜、はぐッ。もぐもぐ」
大口を開けて、真咲はスライムゼリー全部を一口で口に入れた。そしてもぐもぐと噛み砕いていく。ツモイはそんな彼の様子を、わくわくと言った表情で見ている。
やがてごくりと真咲の喉が嚥下の音を奏でる。その途端、真咲は顔は俯きながら体はブルブルと震え出す。それは体の内側から爆発しそうな何かを、抑えているように見えた。
やや間を置いて、がばりとツモイへと顔を上げた真咲の目には、理性の欠片も残っていなかった。
「ふおぉおぉおぉおぉおおーーーー!!!」
真咲は意味不明な雄たけびを上げると、風呂上りで着替えたばかりの衣服を脱ぎ散らし、ツモイへと襲い掛かった。
「いや〜ん♪真咲がケダモノになっちゃった〜〜♪」
「ふおぉお、ふぉおおぉおお!!」
「あぁん♪私、真咲に食べられちゃう〜〜♪」
自分が仕掛けた事なのに棚上げし、ツモイは仰向けに真咲に力強くソファーに押し付けられながら、そんな悲痛を装って喋る。
しかしそんなツモイの声が聞こえているのかいないのか、獣性を呼び覚ました様子の真咲は、続いて彼女の胸をパン生地を捏ねるかのように力強く揉んでいく。
「あんッ。そんな、力強く、おっぱい揉まれちゃうと、形が保てない……」
「ふぉぉお?」
「ああん、止めないで。痛いんじゃないの、嬉しいの〜。だから私をぐちゃぐちゃにするほど、もっと力強く揉んでぇ〜♪」
獣性に支配されていたとしても、そこは矢張り魔物娘の夫だからか、ツモイが苦しげな声を漏らすと真咲の揉む手つきが柔らかになる。
しかしその苦しげに聞こえたものは、悩ましげなそれであったようで、ツモイは弱くなった真咲の手を自分の胸に押し付けるようにして、もっと力強くとおねだりする。
それに応えてか、真咲の手は再度力強いものへと戻る。
「ああんッ。そう、そのかん、じぃいい゛!!?」
ツモイが胸に意識を集中させているのを見計らって、予想外の場所を責め立てる為にか、真咲の怒張した陰茎がツモイの膣を一気に貫き入っていた。
「そ、そん、な、行き、成りだ、なんてぇ〜〜」
全身スライムで、何処にでも突き入れられる特性を持っているが、矢張り膣に陰茎を捻りこまれるというのは魔物娘であるから格別なのか、ツモイは顔を背けるようにして身体に襲い掛かってきた性感を耐えようとしている。
だがそんなツモイの様子を見て更に獣性に火が点いたのか、真咲の顔ににやりとした笑みが浮かぶ。
「ふおぉおぉおお!!!」
「あ、ひゃ、うひぃ、そん、な。はげ、しいぃい゛!」
ツモイの豊満な乳房を鷲づかみにしながら、奥を突き解しながら抉る様にして、真咲は正常位の体勢で腰を激しく前後に振っていく。
陰茎が体内で動く度に、えもいわれぬ快楽が走るのか、ツモイの体の表面がぷるぷると震え、下腹――子宮の場所を中心に波紋が全身へと走っていく。
「ふぉおお、ふおぉお!!」
「あッ、んぅ、はぅ、ひぃぅ。そ、こはぁん、だめ、じゃないの、もっと、ぉお゛!」
ぱんぱんと体と体がぶつかる音が部屋に木霊し、真咲の変な雄たけびとツモイの艶っぽい嬌声がそれに負けじと響く。
更に奥を抉りかき回し責める真咲。それを受けて全身の震えと波紋が加速していくツモイ。
お互いがお互いを高めあいながら、やがてその行為の終わりがやってくる。
「ふおぉおおぉおおおおぉおんッ!!」
「いぎゅぃいいぃい゛い゛い゛!!」
乳房を握り締めて引き寄せつつ、奥深くで陰茎の先から白いものを迸らせながら、真咲は腰を痙攣するかのように震わせる。
余りにも力強く真咲が握り締めたからか、つぷんと真咲の手を乳房が飲み込みながら、ツモイは全身を震わせ絶え間なく波紋を生み出しつつ絶頂の嬌声を上げる。
びゅるびゅると吐き出される精液は、先ほど食べたスライムゼリーの影響か、止まる事を知らずにツモイの中へと吐き出され溜まっていく。
「おぉぉぉ゛……」
「イってるのぉ、イって切なくなるから、動かさないでぇ〜〜……」
ツモイの体内に溜まった精液の所為で、射精の勢いが滞るのが許せないのか、真咲はカクカクと腰を前後させて、ツモイの奥へと精液を押し込みながら射精してく。
しかしされるツモイの方にとっては、体内を駆け巡る精液と前後する陰茎からの感触が、絶頂が治まっていない敏感な体内を刺激し、彼女の身体に許容出来ない程の快楽を生んでいるようだ。
そんな風に呻くツモイを気遣ったのか、真咲はずりずりとゆっくりツモイの体内から陰茎を抜こうとしているようだった。
「あひ、あぁぅ〜」
ゆっくりと抜かれる陰茎の感触にやや高い声で啼きながら、ツモイは少しだけホッとしたような、しかし一寸だけ寂しそうな表情を浮べる。
そんなツモイの顔を見て、真咲の獣性が何かを思いついたのか、にんまりと笑みを浮べる。そしてツモイの足と腰を掴むと、ぐるりとその場で横回転させた。
「ひへ?」
絶頂で少しだけ自失していたツモイは、体が動かされた事に驚きの声を少しだけ上げる。
そして自分の体勢が真咲へお尻を向けている後背位の形であり、そして先ほど射精したばかりだというのに、真咲の陰茎が音を立てそうなほどに怒張しているのを見て、真咲がこの次に如何する心算かを察したのだろう。水色の顔を器用な事に、好色と期待の赤と悲痛と恐怖の青で塗る。
「ま、待ってぇええぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
ツモイの静止の言葉を聞きながらも聞き入れずに、真咲は陰茎をずぶずぶとツモイの体内へと再度挿入れていく。
そして根元まで入れてから、先ほどと同じように高速で腰を前後させていく。
「あひ、あひ。まだ、イってたの。直ぐ、イっちゃうのぉ!」
「ふほぉおぉお!!」
ぱつぱつとツモイの尻スライムと真咲の腰が奏でる音に、先ほどの精子と形を保てなくなり流動するスライムの混合液が、ぐじゅぐじゅと掻き回され合わされる音が混じる。
更にツモイの体は、もう何処にも波紋が走っている部分が無いほどに、全身がぷるぷると震えている。
「ひぃぅ、ひぃぉ。ごめんなしゃい、ごめん、なしゃい。ひゃぁ、ひゃぃ、スライム、ぜりー食べさせて、ごめんなしゃい〜!」
「ふほぉ、ふほぉおぉおおお!!」
「だから、だからぁ。もう、イって。もうイ、ってよぉ。じゃないと、また、また、いくうぅううぅうう!!!」
全身で絶頂しているのが辛いのか、遂にツモイの口から謝罪の声が漏れてしまう。だがそんな事はお構い無しに、真咲は前後の腰運動をもっと高速化させる。
そして高速化していくことに従い、ツモイの身体はぷるぷるからビクビクと振るわせる強さを変える。
「えぁぁぅ……おぁぁぅ……」
それに伴い、ツモイの口からはもう絶頂によるうめき声しか出なくなっていく。
ツモイのそんな様子を見て満足したのか、それとも限界だったのか、真咲の陰茎に射精の前段階である震えが走る。
「ふぅうううぐうぅうう!!」
「ぅぁぁぅ……」
再度びゅるびゅると発射される真咲の精液は、自失してしまっているツモイには受け止め切れなかったのか、本来の彼女ならありえない程に、二人が繋がっている部分から零れ落ちていく。
気持ちよく射精している真咲にはそんな事は気にならないのか、更に射精時の気持ちよさを加速させるために、遠慮無しに腰を前後に振ってツモイの膣を使って陰茎を扱いている。
「あ……あ……」
「ふぅぅぅぅうぅ〜〜」
ぐったりとソファーに身体を投げ出しながら小さく呻き、その輪郭までも融けかかったツモイに、最後の一吐きをし終えた真咲は、満足そうに陰茎を膣からずるりと抜き放つ。
溶けたスライムと吐き出した白いものが陰茎にへばりつくそれが抜き放たれ、一瞬の間を置いてツモイの膣からごぼりとスライムと精液の混合液が溢れ出て、ソファーに大きな青と白が混ざった水溜りを作る。
そんな扇情的な光景を見たからか、まだまだスライムゼリーの効力が納まっていないのか、真咲は三度陰茎を固くすると、ツモイの尻の間にある菊門へと舌を伸ばして解し始める。
「あひゃぁ……うぅぃ゛……」
「ご主人様。荷物の搬入及び整頓が終わったとご報告に……」
そこに作業を終えたツモイの分身体が、真咲に褒めてもらおうと現れた。そしてぐったりと輪郭が溶けて横たわる本体と、その尻穴を今犯そうとしている真咲を見て、言葉を失ったように固まる。
新たな獲物を見つけたからか、それとも溶けた尻穴は魅力が無かったのか、真咲は手をツモイから離して分身体へと視線を向ける。
「うぐるるうぅう!!」
「ひあぁぁぁああぁ!!」
そして次の瞬間にはその分身体に飛び掛っていた。
「ふんふん!!」
「おこぉおぉお、おひり、おひりのあなが〜!きもひいいいぃいー!!」
「フンフンフンフン!!」
「しゅごい、しゅごい、ごしゅじんしゃま〜〜!もっともっと、躾けてくだしゃぃ〜〜!!」
こうしてスライムゼリーの効力が切れるまで、真咲はツモイの分身体をとっかえひっかえしながら、その尻穴を犯し続けた。
その横で意識を取り戻したツモイが、こっそりと股間から零れ落ちてしまっていた真咲の精液を、気絶した振りをしながら回収しつつ、分身体の様子を伺いながら、新しい分身体を生み出していたのだが。
果てさて、真咲とツモイのどちらが上手い役者だったのかは、言わなくても分かるようなものであった。
12/12/01 21:07更新 / 中文字