連載小説
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ハーレムの主と、バイコーンさんの、淫らな牧場生活


 此処は途轍もなく広い丘陵地帯。
 そこに一つの大きな建物が存在していた。
 その建物の周りには柵が設けられているため、何かを育てる牧場だと素人目にも判る。
 確かに太陽が燦々と降り注ぐ草花が茂る丘があり、近くには小川が流れる森が点在するというこの土地は、何を育てるにしても、牧場に適した場所だと思われる。
 しかしそんな広大で利用価値のある土地には、先ほどの建物一つだけしかない。それが初めて見た者には、やや異様な光景に映る事だろう。
 これは知る者ならば知っている事だが、この土地の直ぐ先には魔界が広がっており、こんな場所で酪農などしようものならば、三日と待たずに経営者は魔物娘の餌食になってしまう。そのため牧場の価値のある場所は、この喉から手が出るほどに魅力的なものの、だれも移り住もうとはしないのである。
 そんな危険な土地に、なぜ一つだけ牧場が存在しているのかと言うと、それは此処の経営者――というか持ち主が魔物娘だからに他ならない。
 魔物娘の持ち物となれば、その他の魔物娘は縄張り意識に影響されて、この牧場へはやってこないのだった。
 さて件の経営者がどんな魔物娘かというと、彼女は今まさに牧場の片隅に作った畑で、土弄りをしている真っ最中。

「ふぅ……今日も良いお野菜が取れそうですわ」

 日に焼けた褐色の肌に伝わる汗を拭いながら、青々としたキャベツを見て嬉々と呟いたのは、銀髪頭の上には黒い二本の角を持ち、下半身に黒い毛並みの馬の体を持つ、一般的にはユニコーンから変化したとされる、バイコーンという魔物娘。
 彼女こそこの牧場の持ち主であり、彼女は自身の夢のためにこの牧場を作ったのだ。
 それにしても馬体が黒いのは毛並みだから置いておくとして、頭に被ったレースや人間の身に付けている衣服が黒いのは、畑仕事に向いていない気がする。しかも身に付けている衣服が、花嫁衣裳を思わせるデザインなため、より一層畑弄りに適しているようには見えない。
 現に黒い手袋が土に塗れているのだが、しかし当の本人は気にしていないのか、鼻歌を歌いながら畑に出来た野菜を収穫し、近くにおいてあった籠へと入れていく。
 そんな作業をしていた彼女の顔の横にある馬耳が、遠くの音を聞きつけたようでぴくぴくと反応した。

「あら。今回は随分と、お早い到着ですわね」

 そして彼女は畑仕事を止め、手にふっと魔法の息を吹きかける。すると手袋にへばり付いていた土が跡形もなく消え去り、新品同様の綺麗さを取り戻した黒手袋が彼女の手を覆っていた。
 程なくして人間の耳でも、バイコーンのではない馬の蹄の音と、その馬が引いているであろう馬車の車輪が回る音が聞こえてくる。
 
「おーい、コジールさん。商品持ってきたよ!」

 名前はコジールというらしいバイコーンは、彼女に向かって手を振ってくる馬車の手綱を握る男に向かって、にこやかに手を振り返しつつ正門へ向かい、柵の扉を開けて牧場への訪問者を出迎る。
 馬車はするりとその扉の中を通り抜け、勝手を知っているように牧場内を進み、建物の脇に設けられた通用口まで進むと、止まった。
 コジールは柵の扉をきっちりと閉めてから、商人の馬車に近づく。

「こんにちは商人さん。景気はいかがかしら?」
「なかなか上々だよ。これもそれもコジールさんのお陰だね。もっともこんな事をうちの街中で言った日にゃ、私の首が飛んでしまいますが」

 がははと笑う商人に、彼の様子がおかしい様子でくすくすと笑い返すコジール。
 その話の内容から察するに、どうやらこの商人住んでいるのは反魔物領のようだ。
 魔界に近づく毎に、魔物娘に襲われる危険性が上がるというのに。危険を押してまでこの牧場まで来るとは、ここにはそれほど魅力的な取引材料があるのだろうか。
 
「それで商人さん。お品物の内容は?」
「何時も通りに少しの酒と穀物の粉が二袋に干し肉がそれなりだな。後は前に要望貰った通りに、様々な野菜の種をたんまりと持ってきた。それと売れ残りの魔物奴隷が二匹だね」
「あら、今回も奴隷がありますのね。前も一人売れ残りを持って来ていらっしゃってたのに」
「俺は本業じゃないんで詳しくは知らないですがね。魔物の奴隷が街中に増えた所為か、何故か売れ行きが余り良くないんだそうで。ちょっと問題があると、それを理由に売れ残っちまうんですよ。そんで俺に泣き付いてくるんですよ。『仕入れ値でいいから引き取ってくれ』って」

 立て板に水が流れるように、随分とぺらぺらと口の上手な商人だと舌を巻きそうになる。
 しかしこれで彼が此処に来る理由の一つが明らかとなった。
 つまりは食料品を出しにして、売れ残りの魔物娘をコジールに売りつけるつもりなのだ。
 魔物娘が金を出してまで他種の魔物娘を買うのかという疑問はあるものの、前にもこの商人がこの牧場に奴隷を持ってきたとコジールが言った事から、彼女は前にもこの商人から魔物娘を買った事があるのだと推測出来る。
 しかし魔物娘を買ったとして、コジールに何の得があるのだろうか。
 牧場の従業員を増やすためなのか、それとも売れ残った魔物娘を解き放つためなのか。
 コジールの思惑が何であれ、売れ残りが多少でも高く売れるとなれば、商人にとってこれほどありがたいものは無いのだろう。現にコジールになんとしてでも売れ残りを売りつけたいといった感じで、商人は揉み手にすり手でご機嫌を取ろうとしている。

「そうなの……じゃあお品物の状態の確認ついでに、奴隷の子たちも見せてもらおうかしら?」
「はい。では馬車の後ろへ来てくださいませ。あっと、一匹生きが良すぎるのでご注意してください」

 暗闇で貴族の足先をカンテラで照らす小僧かと思うほど、商人はコジールの前に腰を屈めて立ち、先導するように馬車の後ろへと案内する。
 風に頭のベールをふわりと浮かされながらも、ぱかぱかと蹄を鳴らして馬車の後ろへと歩いていったコジールは、そこで二つの檻とその中に入った魔物娘を見た。
 一つは頑丈そうな鉄の檻の中に、口に猿轡をされ両手足に木の枷をはめられ、商人を見た瞬間に檻を壊そうと暴れる、ぼさぼさの長い髪に埋もれている犬耳を持つ、二十歳前後に見える、出るところは出ているグラマラスな女――ワーウルフ。
 もう一つはあまり丈夫そうには見えない木の檻の中に、手足に枷をはめられてはいないものの、鎖付きの首輪をはめられた、狐の三角耳を頭にフワフワな一つの尻尾を尻に持つ、力なく蹲る体の凹凸が少ない少女――服装は奴隷用の粗末な物だし、表情も沈んでいるため、妖狐か稲荷かは判別出来ない狐娘。

「ワーウルフに子狐が残り物とは、珍しいですわね」

 チラリと二匹の様子を見たコジールはそう呟きつつも、一目見ただけで興味を失ったかのように、檻の脇にある彼女の要望で持って来てもらった、野菜の種を見始めた。
 自分と同じ魔物娘であるコジールが、商人と仲良さげに話しているのが気に食わないのか、檻の中のワーウルフの暴れる強さが増す。余りにも大きな音を出すので馬車馬が怯えてしまっている。

「ワーウルフと狐は人気があるんで、普通なら直ぐに高値で売れるんですがね。こっちの犬っころはご覧の通りに、余りにも気性が激しすぎて買い手が付かなかったんで。こっちの狐っ子は、捕まえた奴がヘボ助でね。捕まえるのに何を思ったか弓矢を射掛けて、ご覧の通りに、左耳を欠けさせて、更には右脇腹に矢傷を拵えてしまいやがって、奴隷商と値段の折り合いが付かなかったんだ。そんで俺の方に持ちこまれたといった按配で」

 しかし商人の方は此処に運ぶまでで慣れたのか、ワーウルフの五月蝿さに眉一つ動かさず、コジールにあれこれと植物の種の商品説明ついでに、そんな裏事情を話した。
 そんな事情を何とはなしに聞いている風のコジールは、粗方の商品を見定めて満足したのか、商品を手に取るのを止めて馬車から少しだけ体を離した。

「種も食料品も異常は無いですわね。お代は何時もの通りに、チーズと羊毛に魔法薬で良いかしら。ついでにあの二人も貰いましょう」
「毎度。しかしまあ、これで何匹目ですか。随分と旦那様は好き者なご様子で、うらやま……」

 物々交換とはいえ商談がまとまって調子に乗った商人が、ついつい街中でする営業用の台詞を吐き駆けて、誰に向かって言っているのかを思い出し、さっと顔色が青くなった。
 さび付いた風見鶏の様に、ギリギリと音が出るようなぎこちなさで、商人がコジールの方へと顔を向けると、彼女は相変わらずにこやかに笑っている。

「その二人で、調度二十人目ですわ」

 だがその目が笑っていない様に見える。それは気のせいだと思いたい様子の商人だが、でもその思いとは裏腹にコジールはパカパカと蹄を鳴らして商人に近づくと、黒手袋に包まれた手が商人の胸元へと伸び、そしてそっと商人の胸の上に服越しに掌が置かれる。
 ただ手が胸元に置かれているだけなのに、商人は自分の心臓を掴まれたように感じたのか、より一層顔色が青く変化した。

「反魔物領の商人さん。魔物である私にも、色々と便宜を図ってくださる貴方の事、嫌いではないのですよ。でも私の旦那様をあんまり愚弄すると、そこいらの森に住む魔物の餌にしますわよ?」
「へ、へ、へへへ。嫌だな、冗談ですよ。冗だ――」
「冗談でも、ですわ」

 どうにか笑って済まそうとした商人に、コジールは底冷えのするような笑顔でそう告げる。
 そうなるともう商人も首を上下に振るしかない。もしこれ以上減らず口を叩けば、コジールが本当に言った事を実行すると判っているから。

「ふふふっ。少々こちらも冗談が過ぎましたわね。お詫びといってはなんですが、今回は羊毛が多く取れましたので、多少多めにお譲りしますわ。ですから……」
「え、ええ。またのご贔屓を期待してますです」

 取引材料を取るためか、商人から離れて建物の中へと入って行ったコジールの背に、彼女の掌が胸から離れて安堵しつつも、商人は彼女の迫力に言わされるようにそう言葉に出した。
 そして商人はコジールから品物を受け取ったら直ぐに出られる様にか、大慌てで馬車の中の商品を下ろして勝手口の横へと積み上げていく。そして魔物の奴隷も檻から出して、積み上げた商品の近くへと持ってくる。もっとも逃げないようにするために、脱力香という魔法の香を焚いて二人の四肢に力が入らないようにしてからだ。
 そんな諸々をし終えた頃、コジールがタイミングを計ったかの様に勝手口から出てきた。

「はい。商人さん、これらで代金は大丈夫かしら?」
「ええ、大丈夫……というか、多少多い気も……」

 コジールが持ってきたのは、彼女が入り込めそうなほどに大きな麻袋にぎゅうぎゅうに詰められた、明らかに一級品だと判る艶やかさを持つ羊毛一袋と、魔法薬が入っていると思われるワイン用の瓶が三本に、大人が腕で抱えても前方が見えないほどに大きな円形のチーズ。
 仮にコジールが持ってきた全てが卸値だったとしても、明らかに商人が持ってきた物との取引とは釣り合っていない。
 商人が住む街中であったのならば、ワイン用の瓶に入った魔法薬一本と大きな円形のチーズだけで、此処までの運賃と持ってきた食料品と種の全部が買える。
 そして売れ残りの奴隷二人など、コジールが持って来た半分の量の羊毛でもお釣りがくる。もし売れ残ってなくても、二人が人気の種族だとしても、二人の取引価格は羊毛一袋と魔法薬二瓶の価値は流石に無い。

「ですから、先ほど無礼を働いたお詫びですわ」
「まあ、コジールさんが良いって言うんだったら、それはそれで」
 
 多少何か腑に落ちないものを感じながらも、商人は受け取った品々の価値を頭で計算しているのか、先ほどの青い顔とは打って変わり、ニコニコ笑顔で品代を乗せた馬車に乗り込むと、ガラガラと車輪の音を響かせて牧場から去っていった。

「さて、ではこの荷物を一人で運ぶのは骨ですので、そこのお二人にも参加してもらいましょう」

 香の効果でぐったりしている二人に向かって、魔法の吐息を吹きかけるコジール。
 変化したといえ大元がユニコーンであるバイコーンだからか、たったそれだけで香の効力を打ち消し、奴隷二人の四肢の力を戻してしまった。
 すると力が入る事を知ったボサボサ頭のワーウルフは、両手足に枷を嵌められているとは思えないほどの俊敏さを見せて飛び上がると、コジールから一定の距離を開けた場所へと降り立ち、威嚇するようにぐるぐると喉を鳴らす。
 その余りの迫力に、狐の方の小さな魔物娘は思わずといった感じで、コジールの馬の体の影に隠れてしまう。

「あらあら。折角奴隷の身から開放して差し上げたのですから、私に一言ぐらいお礼でも言っても、罰は当らないと思うのですけれど?」
「ぷぁ……誰が礼など言うか。奴隷商人と取引する裏切り者なんかに!」

 建物の窓枠を使って器用に猿轡を外したワーウルフは、そうコジールに悪態を吐いた。
 その言葉が意外だったのか、理解が出来ない風に首を傾げるコジール。

「何かおかしいかしら。私が魔物の奴隷を買うのが?」
「当たり前だ。奴隷は男を見つけるための魔物の手段なのに、同じ魔物が買ったのでは意味が無いだろう!」
「でも売れ残っているのを見ますと、奴隷という身分で男を見つけるのは、貴女の本意では無いのでしょう?」
「そうだ。俺は群れに帰らなきゃいけないんだ!」
「もしかして旦那様が居るたりするのですか。でも貴女の匂いは処じ――」
「居るか、そんなもの!!」

 コジールを最後まで言わせない様に、ワーウルフは言葉をかぶせて止める。
 伴侶が居るのなら納得といった感じだったコジールだったが、そうでは無いと知ると更に困惑さが増したような顔つきになる。

「片思いの相手が居るとかかしら?」
「だから、そんなものは居ないって言ってるだろ!」
「でしたら、何でそんなに故郷に帰りたいのか窺っても宜しいかしら?」
「俺は群れのリーダーだ。仲間が心配で、群れに戻ろうとして何が悪い!」

 そんなワーウルフの返答を聞いて、心底どうでも良いと思ったのか、コジールは呆れ顔へと変わる。

「本気でそんな事を考えているのだとしたら、随分と間抜けな思考回路をお持ちになってますわね」
「なんだと!!」

 コジールが貶す言葉を吐いたと誤解した様子のワーウルフは、枷を嵌められている手足に力を込めてコジールへと飛び掛る。
 自身の影に隠れている狐を庇いながらも、馬の体を持つ巨躯とは思えないほどに素早い体捌きでもって、その攻撃をコジールは見切ってかわす。

「だってそうではありませんの。人間に易々と捕まってしまう長など、群れは必要としていないのではなくて?それに貴女が居なくなって何日経っているかは存じ上げませんけれど、普通は新しい長を早々に決めて楽しく暮らしているはずでしょう?」
「五月蝿いぞ。俺は群れに戻るんだ!!」

 再度飛び掛らんと気勢を発するワーウルフに、コジールはため息を吐く。

「そこまで仰るのならば、止めは致しませんわ」
「……なんだ、随分物分りが良いじゃないか」
「ただし、この荷物を中に運んでくださらないかしら。そうしたらその手足の枷も外して差し上げますわ」
「うぐ……まぁ、それぐらいなら良いか」

 商人との物々交換を見ていて、コジールが身請け代を払っているのを知っているからか、ワーウルフは大人しくコジールの言い分に従う様子を見せた。
 とりあえずワーウルフの方は片が付いたと判断したコジールは、続いて怯えている狐の娘に声をかける。

「それで貴女はどうするのかしら。奴隷の売れ残りと言う事は、人間の男を得ようと奴隷になったわけでは無いですわよね?」

 ワーウルフに対しての話し方より、随分と柔らかい口調――それこそ自分の娘に話しかける母のような、そんな気遣いが溢れる物言いだった。
 対する狐の子供は何がそんなに怖いのか、ビクビクとした態度は崩さずに、しかしコジールの質問に答えようとたどたどしい言葉遣いで口を開く。

「わたし……怖いんです……」
「何が、かしら。商人さんは此処にはもういませんわよ」
「あの、その……男の人……わたしに、弓矢を……」

 そこまで口に出して、急にまた怖くなったのか、コジールの馬の体をギュッと抱きしめる狐の子供。
 狐の子供の断片的なその情報では予想は困難だが、恐らくこの狐の子供は魔物の性に従って、興味本位で住処の近くに来た男に近づき、その男は奴隷狩りであったために矢を射掛けられ、左耳の先と右脇腹に矢傷を付けられたたのだろう。
 そのために魔物の心の奥底に刻み付けられている『人間の男が大好き』という部分を、その恐怖体験が『人間の男は怖い』という様に上書してしまったのだろう。あたかも初恋の相手に手ひどく扱われて、男性不信に陥る乙女の様に。

「そうだったの。大変だったわね」

 そんな狐っ娘の痛みが判ったのか、コジールはそっと彼女の手を引いて体の前に持ってくると、ぎゅっと豊満な胸の谷間に彼女の顔を埋めるようにして抱きしめた。
 最初は突然の事に驚いた様子の狐っ娘だったが、コジールの身に纏う優しい雰囲気に安心したのか、コジールの体に腕を回して唐突に大声で泣き始めた。
 そんな狐娘をコジールは胸元が彼女の涙と鼻水で汚れようと気にせず、愛しい娘をあやす母親の様にそっとその背中を撫でてやる。
 やがて散々泣いて心の澱が少し取り除けたのか、随分とすっきりした様子で体を離す狐娘。しかしコジールの大きく開いた胸元が、自分が出した涙と鼻水の混ざった液体がくっ付いてしまっている事を恥じているのか、真っ赤な顔つきで俯いてしまう。

「そんなに気にしなくても良いですわよ。これはこうすれば……」
 
 自分の胸元にコジールが息を吹きかけると、土いじりで汚れていた手袋の汚れが落ちたように、彼女の胸元を濡らしていた液体が消え、あっという間にさらさらつやつやの胸元へと戻る。

「すごーい……」
「これくらいどうって事ありませんわよ。しかし男性恐怖症とは難儀ですわね……そうだ、私の旦那様にお会いしてみれば、恐怖なんか飛んでいってしまうかもしれませんわ!」
「でも……男の人、怖い……」
「大丈夫ですわ。私の旦那様はとってもお優しいお方ですので、心配しなくても良いのです。もしかしたら余りの優しさと格好良さに、貴女も一目惚れしてしまうかもしれませんわよ?」

 茶目っ気たっぷりに告げるコジールに、狐娘もそんな風に彼女が言う旦那様がどんな男性なのか気になったようで、男性恐怖症のために恐々ながらも彼女の提案に頷きを持って答えた。
 それを魔物の性が恐怖症に勝ってきたと判断したのか、コジールは回復の兆しに嬉しそうに狐娘の頭を撫でてやる。

「おーい。もうそろそろ、この荷物何処に運ぶのか教えてくれよ。俺は直ぐにでも群れに帰りたいんだ」

 そんな二人の様子を遠巻きに見ていたワーウルフは、痺れを切らせたようにそう口に出す。
 折角良い雰囲気だったのにまったく困ったものだといった表情になったコジールだが、何時までも勝手口の表に買った物を出しているのもどうかと判断したのか、勝手口を開けてワーウルフにどこら辺に置けばいいかを指示した後、狐娘を伴ってコジールは置きっぱなしになっていた籠を取りに畑へと足を向けた。



 荷物運びも畑の収穫も終えたバイコーンのコジールと、ワーウルフに狐娘三人は、勝手口からぐるりと建物を回って正面の扉へとやってきた。

「なぁ、さっさと枷外してくれないか?」
「あら。私の旦那様がどんなお方なのか、気にならないのかしら?」
「いや、気にはなるんだが。枷外してからでもいいだろ」
「……私には外せませんわ」

 その言葉に騙されたと思ったワーウルフは、毛を逆立てて怒りを露にした。
 そんなワーウルフを落ち着かせるためか、逆立った毛を撫で付けて戻したコジールは、足りなかった言葉を付け加える。

「鍵開けは旦那様の特技でしたので、私は覚えていないのですわ」
「つまりはあんたの夫にしか、これは外せないと?」
「その枷だけではなく、この子の首輪もですわ」

 そっと手を回して狐娘を抱き寄せるコジール。
 狐娘もこの短時間ですっかりコジールに懐いたのか、嬉しそうに彼女の腰に手を回して抱きつき返している。

「じゃあさっさと対面させてくれよ。こっちはこの忌々しい枷を、外したくてしょうがないんだから」
「そう慌てなくても大丈夫ですわ。この扉の向こうに、旦那様はいらっしゃいますから」

 そう言葉に出した後で、コジールが大きな引き戸を横へとずらすと、中の空気が噴出すように三人の体に浴びせかけられる。
 信じがたいほどの量の魔物の魔力と、そして魔物娘が発する男を虜にする甘い香り。それらを覆うほどの濃い男の精の匂いが混ざるその空気。
 思わず三人の魔物娘の体が反応し、コジールはうっとりとした表情を浮かべ、ワーウルフは発情した吐息を漏らしながら股間を愛液で濡らし、狐娘は幼い体を得も知れぬ期待感で震わせる。
 そんな三人にさらに扉から漏れ聞こえてきたのは、魔物娘のものと思われる艶っぽい喘ぎ声と、粘度の高い粘液が何かを離すまいと纏わり付く音に、男のものと思われる愛の言葉を紡ぐ低い声。

「もっとぉ、もっと膣内に射精してぇ〜。気絶するまで犯してぇー!」
「毛を刈る前は眠姦大好きな大人しい娘なのに、毛を刈った後は信じられない程の淫乱になるね、メーチュは」
「淫乱でも変態でも何でもいいから、射精してよぉ。子宮が寂しいってキュンキュン泣いてるのぉ〜」

 責められて嬉しそうな羊の魔物娘――ワーシープを、藁敷きの床に押し付けて腰を振る男。
 恐らくあの男がコジールの夫だと判る。なにせこの牛舎を思わせるほどの大きく広い建物内に、男は彼一人しか居ないのだから。
 しかし愛し合う二人から目を離してこの建物中を見てみれば、物凄く酷く淫らで厭らしい光景が広がっているのが見えてしまう。
 まず目に入ってくるのは、男とワーシープの直ぐ近くに折り重なるようにして失神している二人のホルスタウロス。二人とも大きな乳房の天辺から母乳を、前の穴と後ろの穴から精液を漏らしてぐったりしているものの、その表情は緩んで幸せそうである。
 そこから視野を広げて見てみると、何匹かの魔物娘は藁敷きの床の上で股間から精を漏らしながら脱力していたり、逆にまだ股間に精を受けていない魔物娘はというと、周りの魔物娘が犯されているのを見て高ぶっているのか、欲情した目つきをしながらも愛してもらえない寂しさから股間に手が伸びている。
 具体的な例を挙げると。
 双子なのか瓜二つの二人の堕天使は、顔といわず股間といわず全てが精液塗れになり失神しているミノタウロスの、その股間から溢れ出てきてしまっている精を、勿体無いと舌で舐め啜り味わいながら、自分の順番が来るまでの準備のためか、ミノタウロスの体にある精液を手で掬い取って自分の平坦な体に塗りたくっている。 
 この建物の隅に居るグリズリーはというと。順番が待ちきれないのか、自分の掌に纏わり付いている蜜をぺろぺろと舐めつつ、反対の手では股間を弄って何時でも男根を咥え込めるように準備している。
 犯されているのとは別の二匹のワーシープは、たっぷりと精を貰っているのか、もこもこの毛並みに埋もれ、その近くに居るオークとゴブリンに白っぽい頭髪のインプを、眠りの魔力に巻き込みながら、幸せそうに惰眠を貪っている。
 その他にも、発育しすぎな感じのするマンドラゴラが自分の根っこと水とで薬を作っていたり、床の上で発酵しかけている精液を舐めているベルゼバブが居たり、お互いの準備を手伝っているフェアリーとラージマウスが可愛らしい声を上げて居たり、口から精液を飲んでぽっこりと膨れたお腹を撫でている大物魔物娘であるダークマターの姿があったりする。
 流石にハーレムを作る事に定評のあるバイコーンとはいえ、これは少々大所帯に過ぎる気もするが、ワーウルフと狐娘がこの建物の中に入ってきたというのに、他の魔物娘から苦情が漏れていないことから考察するに、もしやこれでもまだコジールの夫には余裕があるのかもしれない。

「旦那様……ロンメート、お客さんを連れてきましたわよ」

 そんな性的に酒池肉林に近い装いの空間にもコジールは慣れているのか、『旦那様』で反応しなかった彼女の夫を、名前であるロンメートを使って再度呼びかける。
 そこで漸くコジールが居る事を理解したのか、ロンメートは振り返ってコジールとその近くに居る二人の魔物娘に視線を向ける。

「こんにちは可愛らしいお嬢さん方。じゃぁ一旦止めて――」
「待ってぇ、まだ途中なのぉ。ここで止められたら、オカシクなっちゃうぅ」
「――というわけだから、ちょっと待ってて」

 離れたくないワーシープのメーチュのおねだりを聞き届けて、腰振りを再開しつつ唇を重ねるロンメート。
 それに腹が立ったのか、それとも二人の行為がまだまだ終わりそうに無いからか、コジールはロンメートと抱かれているワーシープに近づくと、その場に座り両手を伸ばす。

「それでは手伝って差し上げますわ」

 伸びたコジールの手指は、片方の手の人差し指はロンメートの菊門の中に入り込み前立腺を刺激し、もう一方の手の中指と薬指はメーチュの尻穴に入ると、裏側から彼女の子宮を刺激する。

「ちょっと待て、そこは反則、うッ!!」
「きたぁ、おちんぽみるくぅぅうぅ〜〜!」

 ビクビクと射精するロンメートに、それを子宮を腸壁越しに愛撫されて絶頂しつつ受けるメーチェ。
 しかしながらこのハーレムの主であり、もうインキュバスになって長いロンメートの射精の量は半端ではなく、一回の射精で大食らいである魔物娘の子宮に入りきらないほどの精液が鈴口から発射され、収まりきらなかったものが結合部分の脇から漏れ出て、下に引いた藁に零れ落ちた。

「はい、これで一旦休憩ですわね」
「お話が終わるまで待てるかい?」
「うん、大人しく待ってる……」

 お腹一杯に精を注ぎ込まれてワーシープの魔力が増えたからか、メーチェは眠そうにそういった後で、すうすうと寝息を立てながら寝てしまった。
 ずるりと寝ているメーチェの膣からゆっくりと抜かれたロンメートの男根は、彼の股間から臍までの長さと手指三本分ほどの太さを持ち、先ほど精を吐き出したばかりだというのに雄雄しく起立している様を、コジールとその隣にいるワーウルフに狐娘へと見せる。
 その余りの立派さに、思わず魔物の体が反応したワーウルフの喉がごくりと鳴る。しかし狐娘はというと、向き直ったロンメートから、彼女を襲った魔物狩りを連想したのか、ビクリと体を硬直させてコジールの陰に隠れてしまう。
 そんな二人の魔物娘の様子を見たロンメートは、まずどっちに挨拶をするべきかを判断したのか、警戒させないようにゆっくりとした足取りで、コジールの影に居る狐娘へと近づいた。

「こんにちは、小さく綺麗な、狐のお嬢さん」

 そう気障な台詞を吐きながら、目線を狐娘のものと合わせつつ、ロンメートはとすっと彼女へと手を差し出す。
 しかしその手は彼女の何処にも触れる事無く、彼女の直ぐ近くの空間の中へ漂わせている。彼女から触れるのを待つように。
 そんなロンメートの気遣いが判っているのか、それとも無害そうな笑みを浮かべる彼を少しは信じても良いと思ったのか、狐娘はおずおずとながらではあるものの、ゆっくりとその小さく可愛らしい手を差し出し、怖々ながらそっと触れるようにロンメートの手の上へ。
 そんな狐娘の勇気を称えるかの様に、騎士が姫へとする最上の挨拶を真似ているのか、彼女の手の甲にそっと口付けを行った。
 まさかロンメートが、行き成りそんな事をするとは思わなかったのか、顔中を真っ赤に染めて、コジールの後ろへと隠れてしまう。

「失敗したかな。嫌われちゃった?」
「そんな事はありませんわよ。ただちょっと恥ずかしいだけですわよね?」
「――//」

 こちらもまさかそんな反応を返されるとは思っていなかったのか、ロンメートは後頭部をぽりぽりと掻きながら、懐いているように見える彼の妻へそう尋ねる。コジールはそんな夫を手助けするかのように、陰に隠れながらもロンメートが気になるのか、狐娘はチラチラと彼の顔を窺っている。

「なぁ。早く、枷を外してくれよ。俺は、群れに帰るんだから……」

 微笑ましい様子を見せる三人の輪の外から、発情して頬を朱に染めたワーウルフが、手足に嵌められた枷をロンメートに見せながら呟いた。
 しかしロンメートの体から立ち上る体臭を効きの良い鼻で嗅ぎつつ、内股を擦り付け合いながら何かを我慢している様は、明らかに言葉と体が合っていない証拠。






 そんなワーウルフの様子を見て、ロンメートはチラリと目でコジールに合図を送る。するとコジールはそっと狐娘を胸元に抱き寄せて視界を塞ぎ、ついでに耳も回した手で塞いでしまう。
 その様子を見て安心したように、ロンメートはワーウルフに近づくと、彼女の首にある枷に手を伸ばした。そしてそれを掴んでぐっと引き寄せ、開いている方の手では、ぐっしょりと愛液で濡れたワーウルフの股間を弄り回しつつ、狐娘やコジールに聞こえない位の声量でもって、その耳元で言葉を呟く。

「本当に外していいのか。拘束されたまま犯して欲しいんだろ、発情期の雌犬が」
「はひぅ!そんな、あんッ!」

 魔物娘のハーレムを築いている主だからか、相対しているワーウルフの本質をすぐさま見抜き、狐娘と話していたときとは打って変わった、ロンメートの絶対的強者を思わせる高圧的な物言いと、首輪を通して感じる雄らしい力強さ、そして体から立ち上る雄臭さに、ワーウルフが持っていた『群れの主』という認識は、『強い雄に従う雌』という物へと変えてしまう。
 その証拠に、先ほどまでは空気に当てられても多少は締まりのあった表情が、自分の主となるべき人を見つけた喜びからか、ワーウルフの目元口元がサキュバスの様に淫らで緩んだものに変わり、尻尾も詰られて喜んでいるのか左右に力強く振り回している。
 ワーウルフの嬉しそうに緩んだ表情を見たコジールは、あんな風に自分も責められたらと想像したのか、頬を朱に染めながら熱を含んだ吐息を漏らした。そして胸に抱かれている狐娘は、そんなコジールを不思議そうに、コジールの胸の谷間から彼女の顔を見つめている。
 狐娘の視線を感じたからか、コジールは慌てて表情を取り繕うと、狐娘の後頭部を一つ二つ撫でてから胸元から開放し、ロンメートの方へとそっと弱く押しやる。
 すると少しの間だけ、ロンメートとコジールの二人を交互に見ていた狐娘だったが、魔物娘の性が勝ったのか、とてとてとロンメートの方へと近づくと、ぎゅっと彼の腰に腕を回して抱きつく。

「それじゃあ、コジール。この子達のことは任せて」
「頼みましたわ。そうそう、二日後、楽しみにしてますわ」
「じゃあ二日後に、お酒と食べ物よろしくね」

 笑い会いながら、そう言葉を交わした二人。
 ロンメートはその後直ぐに、側のワーウルフに「待て」と命令を下してから、優しげな手つきで狐娘の体を弄りつつ、左耳の欠けた部分を食みながら、ゆっくりと彼女の性感を高める作業を始める。
 ロンメートの手つきでうっとりとしている狐娘を笑顔で見ながら、コジールは建物の引き戸から外に出ると、作業途中だった畑へと蹄の足音高く歩いていった。


12/06/02 21:43更新 / 中文字
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■作者メッセージ



あー、やっと長い前振りが終わりました。
次で漸くハーレムの主と、バイコーンのコジールさんとの絡みです。

ちなみに、ハーレムの内訳はというと、

ワーウルフ1 妖狐1 バイコーン1
ホルス2 グリズリー1 ミノタウロス1
ワーシープ3 オーク1 ゴブリン1
ダークエンジェル(愛神の使徒)2
インプ1 マンドラゴラ1
フェアリー1 ラジマ1 ダークマター1

の計二十名です。

いやぁ、集めも集めたりって感じです。w

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33