読切小説
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とある国での、転換期の騒動記

 ジパングのとある地方。大きなお城が目立つ、昔から戦で土地を拡張してきたとある国。
 その国がいま親妖怪派に傾くか、反妖怪派に傾くかの瀬戸際に立たされていた。
 もともと戦闘力の高い妖怪は戦で活躍する者が多く、民草の間では妖怪と共に暮らす事は当たり前だったのだが、事が国を動かす重役となると話は変わる。国を淫欲で満たそうとする妖怪を、国の中枢に入れれば国が崩壊すると渋る者と、戦場で活躍し国の拡張に貢献した功績を鑑みて、国の中枢に妖怪を入れるべきだという者とに別れていた。
 しかも悪い事にこの国の殿は、先日崩御なされた先代に代わったまだ歳若い少年であり、彼に物事を解決する鶴の一声を発する事は出来よう筈が無い。それでも幼いみぎりから妖怪と接してきた彼は親妖怪派であり、このまま彼が元服を向かえれば国は親妖怪派に完全に移行できることだろう。
 しかしながらそうは物事が簡単には片付かない。 
 どうやってその殿に取り入ったのかは不明だが、後見人になった男――名前を鳴条鱒克(めいじょう ますかつ)という、足軽から拝領持ちの武将にまで成り上がった家系の嫡男で、つい先日家督を継いだばかりの青年が問題なのだ。
 彼は足軽という妖怪と釜の飯を共にする間柄の家柄出身というのに、妖怪嫌いとして界隈で有名だった。
 普通ならば、家の女中に一人や二人ぐらい妖怪を雇っているのだが、彼は一切の妖怪を屋敷に入れることは無く。むしろ彼が家督を継いでからは、幼い頃から働いていた女中にさえ暇を無理やり取らせて屋敷から追い払ったという噂が、ここいらの住民の間に流れている。
 しかしその彼が若殿の後見人になり、国から妖怪を追い出そうと躍起になればなるほど、それに反発するように城の重鎮は元々が妖怪嫌いだった者たちも含めて、ほぼ全てが親妖怪派へと流れてしまい。いまや彼だけが反妖怪派といった有様である。
 このまま殿が成人なされば、鳴条めを失脚させると息巻く重鎮と、失脚させられてたまるかとばかりに、廻船問屋を抱え込んで大金を動かし、国を牛耳ろうとする鳴条鱒克との闘争という筋書きの芝居が、今や町人の間で大名物演目となっている。
 そんな件の有名人物の暗殺がクノイチの里にもたらされたのは、ついさっきのことだった。

「この大物を仕留められるのは、この里で今ではお前だけだろう。見事に果たしてみよ」
「ハッ」

 天井裏に潜みながら指令を受けたクノイチは、そのままの足で鳴条鱒克の屋敷へと向かった。


 たどり着いて見ると、流石に拝領持ちというだけあり、立派な造りの広いお屋敷。しかしクノイチは気配を消しながら塀の上に陣取り、屋敷の様子を見渡して、少し違和感を感じた。
 噂通りの賢しい人物ならば、命を狙われる危険性を認識しているだろうに、なのに屋敷を見回る者が異様に少ないのだ。
 噂が偽りだったのか、それとも何かの罠なのか。
 どちらにせよクノイチにとって、対象の暗殺こそが重要。罠があろうと無かろうと、今宵この時に暗殺を完了するのが、暗殺指令を受け取ったクノイチのしなければならない事なのだから。
 覚悟を決めたのか、クノイチは塀から飛び上がると、石灯篭や踏み石などの踏んでも音が出ない物を足場に飛びまわる。そして庭から屋敷へとたどり着くと、見回りの男をかわすために一時天板に張り付きやり過ごした。
 素早く音も無く廊下を駆け抜け、暗殺対象である鳴条鱒克が居ると思わしき離れへと続く廊下へ足を踏み出そうとして、クノイチは足を止めた。そしてその場にしゃがみ込むと、何を思ったのか床板をほんの軽く手で押す。
 軽く触れるほどの力加減なので大きくは無いが、廊下は古い床板を踏んだときのような軋み音を上げる。つまりこれは防犯用の鴬張りの鳴り廊下。
 道理で見回りがこの床の上を歩かないわけだと納得した様子のクノイチは、先ほどと同じように天板に張り付くと、天井を蜘蛛の様に這い進んでいく。
 やがて程なくして離れの一室――明かりの点いた部屋へとたどり着いたクノイチは、暗殺対象を襲おうと逆さのままで障子に手を掛けたが、中の声が耳に入った。どうやら暗殺対象は一人ではないようだ。
 一旦障子に触れていた手を引っ込めたクノイチは、廊下に下りることなく、離れの屋根へと逆上がりの要領で上ると、静かにゆっくりとした動作で屋根瓦を外し、その下の板を背負っていた忍者刀でくり貫くと、するりと天井裏へと潜り込んだ。
 そして暗殺対象の居るはずの部屋の上の天板を少しだけずらし、中の様子をそっと伺う。

「あんぁ! 鳴条さま、お情けを、お情けを下さいまし」
「だめだ。まだ夜は始まったばかりではないか」
「ぅんッ、あぃひゅ、そんな、鳴条さまはいけずですぅう!!」

 天板の隙間から覗いた部屋に広がる光景は、暗殺対象である全裸の鳴条鱒克が女に覆い被さるようにして腰を振り、時折腰を休ませるように首筋や乳房を舐めて愛撫する。美女と言って差し支えのない組み敷かれている女の方は、広がった女物の着物の上で股座に鳴条鱒克の魔羅を咥え込み、膣内をその棒でなぶられて嬌声を上げつつ、嬉しそうな緩んだ顔つきで鳴条鱒克の行為を受けているという、男と女の情事の現場であった。
 まさかクノイチが覗いていると思ってはいないのだろう、その情事は殊更に熱っぽく溶け合うような交わりで、この二人の間柄が一夜の恋などでは無いことを物語っている。
 まさか暗殺するべき鳴条鱒克が女と事に及んでいる事など予想していなかったのか、それとも暗殺対象に他の女が居た事に衝撃を受けているのかは、その口布と無表情ゆえに分からないが、クノイチはその二人の睦み合いから目が離せなくなっている様子。
 
「鳴条さま、そこはぁぁあぁんッ! そこは効きすぎます〜ぅうぅ!」
「もっとその可愛い声を聞かせてくれ」

 ぐりぐりと女の奥を穿り返すように汗の浮かんだ漢の背中が躍動し、その一動きの度に女はいやいやをする様に首を振りつつ、しかし決して逃げようとはせずに男の行為を受け入れている。
 そんな生々しい情事を目の当たりにして、暗殺――鳴条鱒克を虜にする任務を受けているはずのクノイチは、二人の行為に割って入ろうとするわけでも無く、誰も居ない屋根裏で一人股間の下穿きを愛液で濡らしていた。
 もしや二人の行為を終わるのを待っているのかと思われたが、攻められている女に自己を投影しているかのように、ゆっくりと指が股間の割れ目を撫で始めるのを見て、どうやら睦み合う二人の淫気に中てられたようだ。

「奥を小突きながら、うぁん。乳房を、弄らないで、下さいまし」
「す〜……はぁ……相変わらず、良い匂いのする谷間だ」

 腰の動きはそのままに、鳴条鱒克は女の豊満な胸の谷間に顔を埋めて女の香りを堪能し、さらにはその柔肉の形を歪ませる力加減で揉みしだく。女は鳴条鱒克体勢が動いた為に違う場所に魔羅が当たるようになったからか、寄り一層乱れたように胸に顔を付けている鳴条鱒克の頭をかき抱く。
 クノイチも鳴条鱒克にその女と同様に攻められていると想定してか、服の上からではあるが、自分の胸をゆっくりと揉みながら、割れ目を擦る手指を早める。

「こんなにもぴんと立ち上がって、厭らしくも可愛いやつめ」
「んっぅぅうううぅうぅーーー!!」

 カリリと胸の頭頂部で起立していた乳首を鳴条鱒克が歯を立てて噛むと、口を噤みつつも感極まったような声が女の喉からあふれ出た。
 クノイチも自分の乳首に爪で傷を付ける一歩手前まで力を込めたが、しかし女と受けていた快楽の差で達することは出来なかったようだ。

「もう達してしまったのか。相変わらず堪え性の――」
「お願いします。お願いします。お情けを、お情けを……」

 性感が極まった所為だろうか、ぼろぼろと目から涙を流して懇願する女。
 そんな女の様子が心地よいのか、鳴条鱒克は唇の端を上げて獰猛な笑みを浮かべると、女の唇にむしゃぶりついて来た。
 天井裏までは聞こえないが、その情熱的な口付けから察するに、二人の口内では二人の舌がお互いを貪る様に絡ませあい、二人の脳内ではそれによって奏でられる卑猥な音が響いていることだろう。
 激しく奪うような口付けをしあう二人を見たクノイチも、そっと自分の指を口の中に入れようとして、顔に巻きつけている顔布に邪魔をされた。
 そこでハッと自分のしていた事に気がついたクノイチは、首を振って体にまとわりつく淫気を追い払おうとしたが、足下から聞こえてきた声と音に、またその視線が愛し合う二人に注いでしまう。

「本当に可愛いやつめ。どれ、お前の好きな体位にしてやろう」
「今のままでも十分に――」
「遠慮するな。お前は後ろから犯されるのが一番好きなのは、知っておるぞ」
「そんあぁぁぁ、深いぃぃいぃいぃーー!!」

 女の足を掴んだと思えば、鳴条鱒克はぐるりと女の体制を仰向けからうつ伏せにし、そして手で腰を持ち上げて女を膝立ちに無理やりすると、抜きかかっていた魔羅をゆっくりとじらすかのような動きで、ずぶずぶと女の中へと埋没させていった。
 そんな鳴条鱒克な乱暴な行動にも女の体は確りと喜びを表し、魔羅が奥へと突き進む度に、背骨が独りでに動いているかのように、背中の至る場所が痙攣しているかのように打ち震えていた。

「ほれほれ、此処が良いのだろう!」
「鳴条さま、そ、そんな、弱い、ところばかり、せ、攻められてはぁ、直ぐに果ててぇえ!」

 男の下腹と女の尻肉とが打ち合わせ合って、拍手のような音が部屋中に木霊し、女の股座と男の魔羅が絡み合う粘ついた音が、その間を繋ぐように部屋に響く。
 恐らく女は鳴条鱒克が達するまで達するのを堪えるつもりなのだろう、背中の筋肉が快楽で跳ね回りながらも、床に敷いてある着物をぎゅっと握り締めて、その身に襲い掛かる性感を耐えようと奮闘している。
 しかし男は逆に女を先に果てさせたいのか、執拗なまでに女の弱い場所だけを魔羅で擦り上げていく。
 男を一方的に虜にする術を学んできたクノイチだが、そんな男と女の攻防が存在するとは知らなかったのか、見入った様に部屋の中の情景を凝視している。
 
「今日は随分と頑張るではないか」
「今日こそは、鳴条さまと同時に、果てたいので、ございます、んぅッ!!」
「本当にいじらしいまでに可愛いやつめ。分かった。今日は共に果てよう」
「鳴条さま、鳴条さま……」

 まさか鳴条鱒克がそんな優しい言葉を掛けるとは思わなかったのか、女はぼろぼろと嬉泣きをし、鳴条鱒克はそんな女を安心させるかのように覆い被さり、腰の動きも激しく攻め立てるものから、ゆっくりと愛し合うものへと変わる。

「もうそろそろ射精すぞ。準備はよいか?」
「はぃ、こちらも、もう、我慢の、げんかいですぅ……」

 そう言葉を交わしてから、鳴条鱒克はそのまま腰を魔羅が女の膣から出るぎりぎりまで引くと、女の膣奥に思いっきり突き立てる様に打ち付ける。
 
「ひぃぅぅううぅうぅう!!」
「ふぅぅうぅ……」

 そして女は極まった声を喉を震わせてあたりに振りまきながら、背中や腰とは言わずに全身を震わせて絶頂し、鳴条鱒克は震える女の腹に腕を回して引き寄せながら、その最奥へ精を吐き出している。
 吐き出した精が膣肉の横から少し漏れたのか、クノイチの居る天井裏にふわりと精の匂いが届き、暗殺対象の精の匂いをかいだクノイチは、再開していた割れ目弄りとその匂いとで、背中を少し震わせてほんの軽くだが達する。

「鳴条さま」
「ああ、分かっている」

 折り重なっている二人はそう言葉を掛け合うと、女は首を横にし鳴条鱒克は首を回して口付けを交わす。
 そして情事を名残惜しむようにゆっくりと二人の顔が離れると、鳴条鱒克の手が翻った。
 キラリと行灯の火が鳴条鱒克の手から放たれた物に跳ね返ったのを、クノイチの目が確認できた時には、もう既にそれをかわす事は叶わない。
 天板の隙間から入り、クノイチの太ももの部分に刺さったのは、小柄と呼ばれる小さい投げ刀。
 だが今まで厳しい訓練を積んだクノイチである彼女に、その程度の痛みなど些細な事。ここで引くにしても押し入るにしても、こんな小柄など対した影響は無い。
 いや、無いはずだった。不意にクノイチの小柄の刺さった部分に、快楽交じりの痺れが走る前は。
 はっとしてクノイチが小柄をまじまじと見ると、自身の太ももに埋まっていない部分に、やや鈍く光る液体の色を見て、それが毒――しかも大百足の毒液だと察する。いち早くその小柄を抜こうとして、しかし痺れがすぐさま全身に達したクノイチは、誤って天板を踏み抜いてしまい、部屋の中へ派手な音を響かせて落ちてしまう。

「まさか球磨(くま)が土産に持ってきた毒が早速役に立つとは」
「お褒めに預かり、恐悦至極に存じます♪」

 お礼のように傍らの球磨と呼んだ女の頭を撫でつつ、落ちてきた曲者を一瞥した鳴条鱒克は、部屋の壁に掛けられた槍を掴むと鞘を払った。
 ギラリと行灯の火を照り返して光る槍先に、クノイチは表情を変えないまでも、その槍先に死の匂いを感じて視線を向けざるを得なかった。
 この状況だけでも絶体絶命だというのに、この離れの鴬張りの廊下が鳴り、誰かがこの部屋へ向かっている事が分かる。
 もう命は無いのだと諦めかけた雰囲気のクノイチだったが、鳴条鱒克のその槍を繰り出した方向に驚きを隠せない様子だった。

「鳴条様、大事はありま――!!」

 鳴条鱒克は目にも留まらぬ素早い槍の突き出しで障子を突き破ると、廊下にいる人物の喉元にその槍先を押し当てる。そして片手一本だけで支えているとは考えられないような、空中に固定されているかのようにその槍は小揺るぎすらしていない。
 明らかに名のある道場の免許皆伝――いや、それ以上の腕前である。

「誰か知らぬが、この離れに誰も来るなと、俺は厳命してあったはずだが」
「しかし、異常な物音が」

 さらに言い募ろうとした聞き分けの無いその人物に、鳴条鱒克は苛立たしげにため息を吐くと、槍を先ほどと同じ神速で引き戻すと、今度はその人物の目のあるであろう場所の障子を突き刺した。

「ひぃ!」

 小さな悲鳴の後、どたどたと慌てて廊下を這いずり下がるような音が、穴の開いた障子の向こうからした。

「何か言いたい事があるのか。他愛の無い事なら、次は抉るぞ」
「もももも、もう、申し訳ありませぬ!!」

 鴬張りだというのに牛が走っているかのような足音を立てて、障子の向こうにいた人物は去っていった。
 しかしこの鳴条鱒克の行動に、クノイチにも少し奇妙に写ったようだ。
 仮に自分の愛する女の柔肌を、誰かに曝すのが許せなかったにしては、いささか鳴条鱒克の行動は突飛に過ぎた。
 もしやクノイチの存在がばれるのが不味いのかとも思ったが、別に鳴条鱒克は襲われただけで、障子の向こうにいた人物を部屋に入れない理由にはならない。
 
「お前は少し眠っていてもらおう」

 槍の石突で後頭部を強かに打たれたクノイチは、意識を失ったかのように体の力を抜く。
 鳴条鱒克はそんなクノイチの体を軽く石突で突付き、意識が飛んでいる事を確かめ、そして二人はクノイチの尖った耳と、尻から伸びたしなやかな尻尾を眺める。

「しかしクノイチに狙われるとは、不味い事になりましたね、鳴条さま」
「大体の目標が達成されたいま、遅かれ早かれこうなると考えてはいたが」

 球磨は意識を失ったクノイチの衣服を脱がして武装解除しつつ、鳴条鱒克も槍先をクノイチの方に向けて、万が一クノイチが飛び起きても対処できるようにしながら呟き合う。

「しかし、クノイチの里にはもうこの様な者しか残っていないのか?」
「由々しき事態ですね」

 一糸纏わぬ姿にひん剥かれたクノイチを見て、鳴条鱒克と球磨はそう感想を交わす。
 意識を失い、武器どころか衣服や顔布すらも剥ぎ取られたクノイチの姿は、胸も尻も薄く括れも殆ど無い、歳若すぎる少女のモノだった。



 ハッと目を覚ましたクノイチは、その耳に粘ついた音が響いているのに気がついた。
 ゆっくりと視線を音の方向へ向けると、着物を着流した鳴条鱒克の股座に、着物を身に着けた球磨がしゃぶり付いている光景だった。

「起きたな。ほれ球磨よ、もう良いだろう」
「らめれふ、もうひょっとられ」
「球磨。聞き分けろ」
「むぅ〜〜〜……分かりましたよ」

 名残惜しそうに鳴条鱒克の魔羅を口から放した球磨は、口の端に出来ていた涎の跡を懐紙で拭った。
 そんな二人の様子をクノイチは黙って見ているしかなかった。なぜならば二人の後ろに牢屋の格子が見え、そして手足を縄で括られて身動きが取れないのだから。

「さて童女よ、名をなんと言う」
「その腕の中でなら答える」

 クノイチの口調は感情の篭っていない固い響きでありながら、今でも鳴条鱒克を狙っていると明確に告げた。
 
「まぁ呆れた。こんな状況でよくもまぁ」
「どんな状況だ? こんな縄では役不足だ」

 ブツリと縄から音が発せられる。はっとした様子で球磨が見ると、縄を切ったのは硬質化したクノイチの尻尾の先端。
 縄から解き放たれたクノイチは裸体を恥じることなく、武器も何も身につけていない無防備な鳴条鱒克へ飛び掛る。

「俺も大分見くびられたものだな」

 ぱしりとクノイチの腕を掴んだ鳴条鱒克は、座ったまま体勢を動かし、軽くその腕を捻ってクノイチを宙に浮かせると、そのまま畳敷きの床に投げ落とした。

「くぁッ――」

 肺の空気が床に打ち付けられた衝撃で漏れ出て、感情を露にしない筈のクノイチの口から苦悶の声が漏れた。

「戦場を駆け回ってきた祖父に、幼少から甲冑組み手と槍の手ほどきを受けた俺に、そんな直線的なモノが通じるわけが無いだろう」

 力の差を見せ付けるかのように、鳴条鱒克はクノイチの腕を放すとその場に座り直す。
 いまの攻防で無手では鳴条鱒克に勝てないと悟ったのか、クノイチは視線を回りに巡らす。しかし目に入るのは極太の木の格子の扉と、厚つそうな漆喰が塗られた白壁。どちらも鳴条鱒克の目を掻い潜って破壊するには無理があった。

「まあそう警戒するな。といっても直ぐには無理だろうし、まずはこちらが敵でない事を知ってもらうか。球磨よ」
「はいな。ぽんぽこりんっと」

 どろりと煙が球磨の周りを巡ると、球磨の頭とお尻に獣の耳と尻尾が生えた。その形と縞模様からして狸のように見える。

「鳴条さまの計らいで、廻船問屋を仕切らせてもらってます。刑部狸の球磨でございます」
「そして俺が球磨と睦み合っているという事は、どういうことか分かるな?」

 行き成りの状況に理解が追いついていないのか、クノイチは無表情のまま固まってしまっていた。
 そんなクノイチの様子に、二人は顔を見合わせて苦笑しあうと、クノイチに自身の事を含めた状況を説明し始める。

「鳴条さまは元々――というより、生まれてこのかた、妖怪のお好きな方なのですよ」
「そもそもおかしいと思わなかったのか? 妖怪好きの若に、ぽっと出の妖怪嫌いが後見人になるという事に。しかもそいつの出身が、妖怪と同じ釜の飯を食べる間柄の足軽の家系だというのに」

 確かに説明されるとおかしい事が多すぎた。
 成り上がったとはいえ、妖怪と共に過ごす時間の多い足軽の家系の跡取りであった鳴条鱒克に、祖父と父が妖怪の事を悪し様に言うはずが無い。となると鳴条鱒克が何時妖怪嫌いになったのか。妖怪に悪戯されて嫌いになったという可能性はあるが、だが妖怪に悪戯されれば骨抜きにされるが定石。嫌悪など抱きようが無い。
 それに元々後見人の家系ならいざ知らず、成り上がりの足軽風情が若殿の後見人になった事自体、異様としか言いようが無い。
 そして一番の障害であるはずの鳴条鱒克を、今の今まで放っておいたこともおかしい。誰が依頼をしているかは謎だが、最大の障害の排除を真っ先にクノイチへ依頼するのが筋だというのに。

「前殿と若はこの国を、妖怪と人間が仲良く暮らせる場所にしたいとお望みになられていたのだ。しかし武将の家系の石頭どもは、我々は殿あっての我々という本分を忘れ、自分たちの家と石高のことばかり考えている」
「そこで鳴条さまへと、前殿さまが御病状に臥せって居られていたときに、命を託されたのです。我が命無き後、若君と共にこの国を妖怪と人間が仲良く暮らせるようにせよと」

 そうつまりは芝居だったのだ。しかもこの国全ての人間を騙すほどの大芝居。
 まずは鳴条鱒克が反妖怪派の急先鋒と名乗り出で、重臣どもを親妖怪と反妖怪とに二分する。
 そして鳴条鱒克はわざと親妖怪派の人物はそのまま干渉せず、成り上がりの家系である鳴条鱒克に反発して親妖怪に乗り換えればそれでよし。
 頑なな反妖怪派と、若殿の後見人である鳴条鱒克に擦り寄って口先だけでも反妖怪を名乗ってくる輩には、鳴条鱒克が方々手を回して親妖怪派に成って貰う。金で片付くのならば、球磨の廻船問屋の資金を使い。そうでなければ奥方や子女が妖怪になったり、当人が骨抜きにされて妖怪に操られたりといった方法で。

「その点において、お主の里は活躍してくれた。この場にてすまぬが、礼を言う。大変に助かった」

 頭を下げて礼を言う鳴条鱒克の姿と、ここまでの話を聞いて、裸にされている歳若い見た目のクノイチは呆然としていた。
 つまりはクノイチの里もこの国の住民も重臣ですら、何も知らなさそうな若殿とこの鳴条鱒克に目的のために弄ばれ、そしてものの見事に手の上で踊らされたのだ。
 
「なぜいまこの場でその事を明かす。吾にその事を話しても何もなるまいに」

 クノイチの口調こそ落ち着いた大人のものだが、声色が少女のそれであるので、幼子が背伸びして大人の真似をしているような珍妙さに、思わず鳴条鱒克と球磨の顔がほころんでしまう。
 自分の見た目と口調がどういうものか判っているのだろう、クノイチは咳払いをして二人に話を先に進めるようにと急かす。

「クノイチの里に俺の暗殺依頼が来た事が重要なのだ」

 そうクノイチの暗殺任務は、人間の忍の暗殺とは訳が違う。依頼されれば必ず仕留めるというのは同じだが、その狙った人物が『生きている』事が肝要。
 反妖怪派に人死にを出してしまうと、妖怪はこの国の乗っ取りを考えているのではと噂になり、親妖怪に傾いている流れが一気に反妖怪へと向かってしまう可能性がある。なので暗殺された人物が生きたままで、親魔物派の先鋒に立ってもらわねば、若殿と鳴条鱒克の目指す国にはならない。
 だからこそのクノイチである。
 そしてそのクノイチの暗殺には確実性をも求められる。
 恐らくだが今回クノイチの里に鳴条鱒克を依頼した人物は、元は反妖怪派で今は親妖怪派へ鞍替えした重臣の大多数が、クノイチの暗殺によって操られている事を知っているはず。そしてクノイチの暗殺の確実性と有用性に目を付け、クノイチの実力を試す意味を込めて、今現在唯一にして最大の障害であると言っていい鳴条鱒克の暗殺依頼を出したのだろう。
 もし今日この暗殺が失敗したとなると、その人物はクノイチの確実性に疑いを持ち、もっと直接的な――派的に言ってしまえば、鳴条鱒克の殺害手段を講じる事を念頭に入れるだろう。すると武家社会は察する社会。その人物の部下が『天誅』という名の元に暴走する危険が孕んでしまう。
 今更鳴条鱒克一人がどうなろうと、親妖怪派へ国が固まるのは止め様が無く、鳴条鱒克自身もこの計画の当初から命を捨てる覚悟など在るだろうが、それでも計画が頓挫する可能性を完全に潰しておきたいというのが、鳴条鱒克の素直な心情なのだ。
 そして理由がもう一つ。

「そして将来この国が親妖怪派に纏まった時、反妖怪派の国からの反発をいなす際に、クノイチが活躍してもらわねば困る」

 この計画の未来において鳴条鱒克は、今回の計画の責任から役職を罷免されて市井の人になっているため、彼には未来の若殿を守る事が出来ない。
 そのために今後もクノイチが反妖怪派の国に同調しうる自国の要人を暗殺して周り、火種を極力消して回って欲しいのだ。そして必要とあれば国外への暗殺もこなして欲しい。
 その時の暗殺依頼をするのは、今回のように秘密裏に鳴条鱒克がするのではない。城の中で行われる重臣の会議において締結し、若殿の名前で出さねばならない。
 そんな諸々の理由から、クノイチの暗殺の成功率をほんの厘でも削ぐわけにはいかないのだ。

「それゆえに是が非でもお主には、俺の暗殺を成功してもらわなければならぬのだ」
「……」
「しかし一つ誤算があるとすれば、最終仕上げの俺の暗殺任務をお主のような子供にさせねばならぬほどに、クノイチの人員が足りぬとは想像も出来なかった」
 
 あまりにも一方的かつ勝手な言い分に呆れているのか、クノイチは無表情のまま押し黙ってしまう。
 そんな調子のクノイチに、先に痺れを切らしたのは鳴条鱒克ではなく、隣に控えていた球磨だった。

「ちょっと、なんかお言いよ」
「貴女は……貴女はそれでいいのか?」
「なんのことだい?」
「吾とそこの方が良い仲になるのがだ」

 何を言い出すのかと思えばと、球磨はため息に紛れ込ませて言葉を吐くと、警戒していない足取りでクノイチに近づき、そして後ろに一つに括った髪を掴んで引っ張った。

「私の惚れた男なんだ。他に女の一人や二人こさえた所で、喜びこそすれ悲しんだりはしないさ。それともなにかい。私の良い人はそんな甲斐性は無いって言いたいのかい? 舐めんじゃないよ!」
「そんな心算では」

 球磨は口ではそう言いつつも、その内面では女としての心情と、妖怪としての性とが入り混じった感情が渦巻いていてもおかしくは無い。
 そしてその渦巻いた感情が目に表れているのだろう、あまりの迫力にクノイチは二の句が継げなくなっていた。
 クノイチを睨む球磨の肩に、そっと鳴条鱒克が触れる。

「球磨、あまり叱ってやるな。その歳で暗殺任務をこなすのだ。今宵この時までの生涯を、忍びの訓練と任務で費やしたのだろう。男女の機微など分かるまい」

 そこでようやく自分の行為を恥じたのか、球磨はクノイチの髪から手を放すと、そっと鳴条鱒克の胸へ体を預け、鳴条鱒克は球磨の内情を察してか、そっとその肩を抱いてやる。
 そんな二人の何気ない行為に、クノイチはこの二人の間に確りとした絆がある事を知るのと同時に、思わずその絆を自分にも築けるのかという疑問がわいてきたようだ。

「では球磨。手はず通りに」
「分かってますよ。ちゃんとお殿様に繋ぎを付けておきます。ではごゆるりと」

 そっと球磨が離れ、そしてこの座敷牢の唯一の出入り口である場所から出ると、そのままいずこへと消えていってしまった。
 そして取り残されるように二人っきりにされたクノイチは、すっと目を細めて鳴条鱒克を睨む。

「どうして二人だけにする?」
「どうして? クノイチは暗殺対象以外に感情を見せるのは恥だと、そう聞いていたから気を使ったのだぞ」
「その余裕な態度が感に触る」

 人を魅了するには起伏の乏しい体を見せびらかせるようにして立ち上がると、クノイチは音も無く鳴条鱒克へ近づく。

「ではクノイチのお手並み拝見させてもらおうか」
「直ぐにその口、閉じさせる」

 トンと胸を押して鳴条鱒克をその場に寝かせる。
 本来ならばその程度の力で横たわらせることなど出来るわけは無いのだが、鳴条鱒克はこの時だけは狼に狙われる兎のごとくの無力を演るようだ。
 そんな鳴条鱒克の様子に少しだけ眉根を寄せながらも、クノイチは鳴条鱒克の体に跨ると、尻尾を魔羅に巻きつけて硬くする。そしてそれをそのまま自分の小さな割れ目へ付ける。

「前戯もないのか? 情緒も味気もない」
「暗殺に、情緒や愛憎などあるわけがない」

 さほど濡れてもいない所へ無理矢理入れ、小さな膣穴が押し開かれる小さな音がクノイチの体内に響くが、やがてその小さな場所に鳴条鱒克の魔羅の全てを飲み込んだ。
 するとそれが合図であったかのように、じわりと愛液が膣穴に溢れ出て、二人の結合部を濡らしていく。

「んッ……」

 やがてそれらが満遍なく濡れると、クノイチは鳴条鱒克の胸に手を当てて支えとし、ゆっくりと腰を上下に降り始める。
 小さく狭い膣肉が魔羅を締め付けながらもグニグニと動いて刺激すると、言い知れぬ快楽が鳴条鱒克の腰の辺りに生まれた。

「確かにこれは、妖怪の味を知らぬものなら、虜にされるであろうな」
「んッ、はぁぅ、んッ……」

 しかし球磨という愛する妖怪のいる身では、その人外の快楽も慣れたものなのか、鳴条鱒克はいまだに余裕顔でクノイチの行為を受け入れている。
 逆にクノイチの方は散々訓練を積んだというのに、球磨の膣で磨かれた鳴条鱒克の魔羅がたまらないのか、段々と無表情だった顔が快楽で緩み始め、口からも押し殺した声が漏れてしまう。
 
「どうしたどうした。段々と顔つきが歳相応に可愛らしくなってきたぞ?」
「うるさい。まだ、んッ、これから、あんッ」
「どれ、俺が動かしてやろう」
「それは、させない」

 トスリと畳の上に何かが刺さる音がした途端、鳴条鱒克の四肢は指一本すら自由に出来なくなっていた。
 何が起きたのかと視線を巡らすと、鳴条鱒克の影の上にクノイチの尻尾の先端が刺さっていた。

「これが忍びの技か。面妖ながら、なかなかに面白い」

 俗に言う影縫いの術を受けて体の自由を奪われれば、普通ならば狼狽えるのが人というものだが。国中全ての人を欺こうとしている鳴条鱒克は流石に豪胆なのか、鳴条鱒克は恐れるどころか興味深そうに自分の見に起きている事を味わっている。
 相変わらず余裕の顔つきを崩さない鳴条鱒克に、クノイチは焦れたように腰の動きを止め、胸の前で手指を組んで印を紡いでいく。
 そして短くクノイチが気合を入れたかと思うと、彼女の周りに彼女と全く同じ姿形の人物が四つ現れる。

「忍法・分身の術」
「おお!これが噂に聞く分身か。本当に瓜二つのが、なんと四人も!?」
「じっくりと吾の術、味わってもらう」

 再度腰の動きを開始させるクノイチに会わせ、周りにいる分身も動き出す。
 一体は喜び驚いている鳴条鱒克の口を口で塞ぎ、もう一体は乳首に吸い付きながら片手でもう一つの乳首を弄ぶ。次の一体はじっくりと手指を嘗め回しつつ体を腕にこすり付け、最後の一体は手で鳴条鱒克の太ももを手で愛撫しながら、睾丸を口の中に入れて舌で転がす。

「んぅーー!?」
「流石のお前も、これはきついだろう?」

 初めて反応らしい反応が鳴条鱒克から得られた事で、ようやく調子を取り戻したかのように、クノイチの腰の動きに妖艶さが加わる。
 ぐりんぐりんと腰をくねらせ動かす本体に会わせ、口の中を蹂躙する舌の動きも活発になり、乳首を弄ぶ手つきと口の動きが粘つきはじめ、手指を甘噛みしながら按摩するかのように腕を撫で回し、睾丸を一つは舌で愛撫しながらもう片方を手で少し強めに揉み込んでいく。
 それらの動作一つ一つに、四肢を動かせない鳴条鱒克は逃げようとするかのように身を捩る。

「どうだ体のいたる所を蹂躙されるのは。ふふ、魔羅が膣内で硬く大きくなってきたぞ?」

 先ほどまでの余裕が消えた事が嬉しいのか、出会ったときの無表情からは想像付かないほどに、クノイチは生き生きと鳴条鱒克を攻め立てていく。
 しかし調子に乗ると碌な事にならないのが暗殺者のお約束。
 入り乱れて体を交わらせていたために、行灯の火で生み出されていた鳴条鱒克の影から、クノイチの尻尾がずれてしまった。
 四肢の動きが戻った事を知った鳴条鱒克は、畳に刺さっているクノイチの尻尾を掴むと、それを乳首を舐めている分身体の尻の穴に突っ込んだ。

「「ひゃふッ!?」」

 本体は尻尾を掴まれた衝撃で、分身は尻に突っ込まれた快楽で、口から可愛らしい声が漏れてしまった。
 しかし畳みに刺さるほどの硬質化していたものを、尻穴深くに突っ込まれて大丈夫なのかと思いきや、どうやらちゃんとした肉体を持っていないのか、尻穴の衝撃で風景に溶け込むように消え去ってしまった。
 それを見て、鳴条鱒克はにやりと笑うと再度クノイチの尻尾を掴むと、口を吸っている分身から顔を背けて口を離す。

「よくも弄んでくれたな」

 衝撃を与えれば消えると分かった鳴条鱒克は獰猛な笑みを浮かべつつ、しかし分身を殴りつけるような無粋な真似はせず、再度分身体と口付けを交わす。
 先ほどまではされるがままであったが、今度は逆に鳴条鱒克が攻め立てる様に分身の口内を蹂躙していく。
 訓練で散々していたとはいえ、初めて雄から口内を蹂躙される体験をしたのだろう、最初は驚いた顔つきになり、次にとろんとした目つきで鳴条鱒克の舌を受け入れる分身体。
 やがて口に溢れんばかりの快楽を舌で叩き込まれた分身は、口を合わせたまま軽く体を震わせて達すると、満足したような笑みを浮かべてさらさらと空気に溶けてしまう。
 
「次はお前だ。何時までも指を舐めているのも飽きただろう?」

 そっと愛撫されている片手を引いて顔の近くに座らせると、その腰を手で寄せて股の間に顔を埋める鳴条鱒克。
 目の前の割れ目に舌を割り込ませると、ぺろりと一つ舐め上げる。
 すると分身は体に電撃が走ったかのように背筋をピンと伸ばす。
 
「直ぐに消えては勿体無かろう? 出来る限り我慢だぞ」

 手で誘導して分身に自分の顔を跨がせると、そっと腰を抑えながら膣口を舐め吸っていく。
 あまりにも男らしい舌使いから一転して優しげに陰核を吸う鳴条鱒克の口使いに、分身は腰砕けになって体を震わせている。
 強くすると直ぐに消えてしまうと思ったのか、ゆっくりと抑えている分身の腰も手で愛撫しながら、舌を膣内を穿り返すものから弱点を弱く突付いて焦らす動きに変える。
 しかしそれでも一度受けた快楽の波が増幅していくのか、分身の腰が段々とガクガクと震え始めた。
 限界が近いと悟ったのか、鳴条鱒克は分身の体を高めるだけ高めると、陰核を多少強めに甘噛みする。
 すると全身を硬直させた分身は、先の二体と同じように虚空に解け消えてしまう。

「ほれ、玉遊びしている方。尻をこっちに向けろ。あと跨っている方、腰が止まっておるぞ?」

 四体も居た分身が次々と消え去っていくことに、唖然としているクノイチを嗜めた鳴条鱒克は、自分の睾丸を舐めている尻尾を掴むとぐいっと引っ張って、その尻を自分の手の近くへ持ってこさせると、その膣内に指を滑り込ませて愛撫をはじめ。
 そしてずっと握りぱなしだったクノイチ本体の尻尾を咥えると、犬歯を使った多少痛みが走る噛みかたで愛撫する。

「ひゃんッ……うぅぅ……」

 尻尾に噛みつかれて思わず声が出た自分を恥じるように、本体は腰の動きを再開させる。

「あんッ。そこは、弱いのぉ。もっと加減してぇ……」
「ほへなはとほは?」
「そんなぁ、おくのほうを、弱くなでないでぇ。切なくなるぅ」
 
 分身体の方はもう鳴条鱒克の指に陥落されたのか、鳴条鱒克の睾丸を手で弄り回しながらも、口からは甘えるような声でどう膣を扱って欲しいかを伝えている。
 他の分身や本体とは違って素直なこの分身が気に入ったのか、鳴条鱒克は殊更に優しげな手つきで膣内を撫で、そう安々と達しさせないように気をつけているようだ。
 そんな情けない自分の分身が癇に障ったのか。突然クノイチの本体は鳴条鱒克の魔羅をぎゅっと締め付けながら、ぱつぱつと音が鳴るほどに鳴条鱒克の腰へ激しく腰を上下させて打ち付け始めた。
 しかしそんなクノイチの行動を、どうやら鳴条鱒克は変な風に受け取ったらしく、今の今まで可愛がっていた分身を激しく指で攻め立てながら、もう一方の手指で陰核を撫で回す。

「そんなに、いきなり激しくしたら、だめぇえぇええ!!」

 叫び声を上げ、ぷしゅぷしゅと膣から潮を吹きつつ達した分身は、ぐったりと畳の上に体を横たえさせた後で、その畳に溶け込むかのように形を失い消えていった。それに合わせ、噴出した潮も跡形もなく消える。
 
「さて随分待たせたが、これで残るは本体のみだな?」

 尻尾を口から離して手で掴み直した鳴条鱒克は、そう告げたあとで尻尾に舌を這わせていく。
 激しく上下に動かしていたクノイチの腰が、尻尾からの痺れるような快楽でへなへなと腰砕けになってしまう。
 しかしそれがまた殊更に癇に障ったのか、クノイチは快楽から震える手を胸元に持ってくる。

「分身など、また作れば――」
「させぬよ」

 がばりと上体を起こした鳴条鱒克は、そのままクノイチに覆いかぶさると、尻尾を掴んでいない片手でもって、クノイチを万歳の格好で畳に縫いとめてしまう。
 慌ててその手を外そうとするクノイチだが、ガッチリとはまり込んだ金属の枷のように、その手は動こうとはしない。
 思わずギリリとクノイチは歯噛みしてしまう。

「やはりお前は子供よな」
「吾の体を侮辱するとは……」

 やはり自分の体が暗殺任務を受けるに至った今でも、未だに子供じみていることを気にしていたのか、クノイチはキッと鳴条鱒克の方を睨む。
 そんな様子に思わず鳴条鱒克は笑ってしまう。あたかもこちらが放った言葉の意味を、間違って受け止めて勘違いしている子供が可笑しいかのように。

「体の事ではない。暗殺などと言葉を変えて教育されておるからか、お前は男と女の愛し方の知らぬと言いたいのだ」
「そんな事は無い。吾はしかと印可を貰い受けて――」
「その様な物、意味がない事を教えて進ぜよう」
 
 鳴条鱒克はクノイチの唇を奪うように口付けをすると、しかし舌使いは優しげにクノイチの口内を舐めていく。
 決して蹂躙はせず、ただただ愛しい人の味を優しく覚えようとするかのようなそれに、クノイチの体は歓喜の声を上げる。
 それはいままでクノイチが暗殺の訓練で体験してきた口付けとは一線を画す、それこそ男と女が共に堕落していく切欠に相応しい、甘く蕩けながらも切望せずにはいられない口付けだった。
 思わずクノイチもうっとりと表情を緩ませると、舌先で突付いてきた鳴条鱒克の舌に自分の舌を絡みつかせて、鳴条鱒克に自分の感じている一部でも味わせてやろうとするかのように、ねっとりとした口付けを返そうとする。
 しかしその時、鳴条鱒克の口がお預けするように離れ始め、急に口に感じていた温かみが逃れるのが嫌なのか、クノイチの舌は限界まで鳴条鱒克の舌に絡み付いていたが、解けてしまった。

「どうだ。男女の口付けの味は。格別であったろう?」
「吾が間違っていたって認める。認めるからぁ……」

 初めての男女の口付けの虜になってしまっているのか、それともそれでクノイチの本能に目覚めたのか、クノイチは届かない鳴条鱒克の口を求めるように舌を伸ばして、再度その口を味わいたいと訴える。
 鳴条鱒克はそんなクノイチの要求に応えるのかと思いきや、にやりと口を歪めて笑うと繋がっている部分以外はすっと体を離してしまう。

「この身長の差だと、挿入れたままでは此方は腰が痛くなるからな。口付けはまた今度までのお預けだ。その代わりに良い物をくれてやろう」
「くひゅぅ!?」

 ぐりっと魔羅で膣内を押し上げられてクノイチの口から可愛らしい声が漏れる。そして背骨を中心に走った快楽により、クノイチの体の至るところはぴくぴくと痙攣を始める。
 それが面白いのか、鳴条鱒克は押し上げたままに腰を円を描くように動かし、クノイチの子宮の口を苛めながら、クノイチがどんな反応を返すかを見て楽しんでいる。

「くにゅぅ……同じ所ばかりを……」
「どうだ。ここから出る白いもの。欲しくは無いか?」

 程よく子宮の口がほぐれた所で、鳴条鱒克止めを差すかのように、クノイチの耳元に顔を寄せてそう呟いた。
 
「はー……はー……」

 白いものが何なのか本能的に悟ったのか、クノイチの口からは上手そうな肉を見た獣のように、荒い吐息しか放ってはいない。だがしかし、その膣はその白いものを得ようとするかのように、ぎゅっぎゅっと力強く鳴条鱒克の魔羅を締め上げる。
 口ではなく膣での返答に満足したのか、鳴条鱒克は尖った耳を舐めながら次のように語った。

「ではまず、お前の名を教えろ。教えなければ」
「教える。教えるから抜かないで!」

 見た目ではほんの少しだけ鳴条鱒克が腰を引いたようにしか見えないが、クノイチにとっては千里の距離にでも感じたのか、慌てたように自由な両足で逃さないようにがっしりと鳴条鱒克の胴体を挟み込む。

「ではお前の名は?」
「名は……水月と、云う」
「水月……夜に映える、いい名だ。気に入ったぞ、水月」

 水月と名乗ったクノイチの耳元で、彼女の名前を愛情をたっぷりと含ませた物言いで呼ぶ鳴条鱒克。
 その言葉の魔力に取り付かれたのか、水月の背中にゾクゾクとした喜びに似た何かが這い回る。

「止めて。そんな優しく呼ばないでぇ……」
「それがお前の素なのか。こっちの口調の方が柔らかくて俺の好みだぞ、水月」
「ずっとこの口調にするから、耳元で優しくしゃべらないでぇ……」

 もうその背中の感覚に耐えられないのか、クノイチらしい難い口調からそこらに居る女の様な普通の口調になりつつも、身をよじってどうにか鳴条鱒克の口から耳を離そうと努める水月。
 さんざんぱら苛めたので満足したのか、水月の願いを聞き入れるように顔を離した鳴条鱒克。しかし今度は水月の括れの薄い腰を掴むと、魔羅をもっと深くまで入れようとするように、自分の腰へと引き付ける。

「――――!!」

 まさか今までので既に一杯だったのに、もっと奥を押し突かれる事になるとは思わなかったのか、水月は背中を海老反りさせて声無き歓喜の悲鳴を上げた。
 肉付きの薄い腹は、限界まで鳴条鱒克の魔羅をくわえ込んでいるため、その形に少し盛り上がってしまっている。
 しかしその行為で顔つきは少女のそれであるのに、表情が快楽で蕩け果てた雌のものへと成り果ててしまっていた。

「どうやら女の喜びを知ったようだな」
「いやぁ。みないでぇ……」

 初めて心の奥底から感じる妖怪の雌としての喜びに戸惑っているのか、水月は鳴条鱒克に卑しい雌の表情を見られまいと腕で顔を隠してしまった。
 逆にその乙女のような可愛らしい行為が鳴条鱒克の琴線に触れたのか、なにやら嬉しそうな顔つきになると、水月の腕を力任せに解こうとはせずに、緩やかに腰を前後に振り始める。

「待って、待ってよぉ……さっき果てたばかりなのぉ……動かれたらぁ」
「悪いようにはせん。そのまま体を任すだけで良い」

 相変わらず顔を覆ったままの水月だが、鳴条鱒克のゆっくりと動く魔羅に膣壁を撫でられて、懇願するような甘い声で鳴いてしまう。
 しかし鳴条鱒克は、ゆっくりとだが力強い腰の動きを止めようとはせず、さらには水月の膣内を探るように擦り上げる場所を変えていく。
 腰の前後運動が十を数え終わり、十一回目の引き戻しの時に、水月の弱い部分を撫で上げたのか、一際大きく彼女の体が仰け反る。しかし嬌声を出すのが恥ずかしいのか、それほどに反応しているというのに、水月の口は噤まれてしまっている。

「そうか、此処がいいのだな?」
「んぅううぅう〜〜〜!」

 貝のように噤んでしまった水月の口を開かせようと、今さっき発見したばかりの弱い部分を、鳴条鱒克は傘の括れを使って小刻みに擦り上げる。するとたまらず水月の閉じた口から、押し留められなかった声がくぐもって漏れ、体のほうもその場所を擦られまいと逃げようとする。
 しかし逃がさぬとばかりに、鳴条鱒克の大きな手は水月の腰を確りと力強く掴み、幾ら水月が身を捩ろうと二人の繋がっている腰から下は動く気配すらない。

「そんなに良いのなら、俺が達するまでずーっと擦ってやろう」
「んぅぅ〜〜〜……ふぅーーんッ……」

 クノイチとしての矜持なのか、意地でも口から声を出すことはしないつもりな様で、鳴条鱒克から与えられる快楽から生まれる嬌声を、必死に鼻でする呼吸に混ぜて逃がす水月。
 鳴条鱒克と褥を共にする球磨は、快楽を受ける度に殊更に大きく鳴くので、水月のこんな反応が目新しいのか、鳴条鱒克は面白そうに顔を笑みの形に歪めながら、小刻みに弱点を攻め立てつつも、時折奥深くまで押し入って子宮を苛めていく。
 そんな調子で十分も経てば、もうすっかりと鳴条鱒克に参ってしまった水月の体は、魔羅で膣道を擦られるたびに子宮を持ち上げられるたびに、大なり小なり達し続ける有様になってしまっていた。
 しかしながら首から上は、必死になって鳴条鱒克の快楽に抗おうとするように、一向に口が開く様子も顔を覆う腕が解かれる様子も無い。
 男女の睦み合いを教えているつもりの鳴条鱒克は、こんな水月の頑なな様子にほとほと困り果てたのか、一旦腰を止めてしまう。

「そんなに意固地になることもあるまい。女が責められて声を上げるのは、普通の事だろうに」
「…………」
「口を開いたと単に動かす様な卑劣な真似はせんよ。安心して何ぞ言うてみろ」

 疑うような視線を向ける水月だったが、しかして鳴条鱒克の目が真摯な様子だったためか、顔にある腕はそのままだが閉じていた口を開いた。

「……こんなの……じゃない」
「ん?」

 快楽で痺れきってしまったのか、弱弱しい声が水月の口から漏れ出てきた。
 そんな小さな声だとは思わなかった鳴条鱒克は聞き逃してしまい、もう一度と催促するように水月の顔に耳を寄せる。

「こんなの、クノイチの暗殺とは違う。吾が虜にされちゃうのは、暗殺じゃない……」

 恥を忍んで告白しているような、自分の価値観を覆させられるのに抵抗するような声色で、水月はそんな可愛らしい事を言葉にした。
 男女の交わりに任務だ何だと言うのは邪魔なだけだというのに、体を絶頂感で震わせても嬌声を出すまいとしていたのは、そんな子供っぽい意地を通そうとしているためだった。
 そう知った鳴条鱒克は、しかし怒るのでも叱るのでもなく、くしゃりとただ頭を手で撫でてやっただけ。

「そうか。俺を虜にしようと必死だったのだな」
「クノイチは男を虜にするのが、生まれ持っての悲願だ」

 そうと言葉にする一瞬だけ、顔を覆っている腕の隙間からクノイチの表情を見せる水月。
 なるほど体型は小さいものの、クノイチとしての一端の矜持は持ち合わせているのだと鳴条鱒克は理解した。

「判った。そこまで言うのなら、手番を水月に渡そう。ただし俺が達した後にだ。それでも良いな?」
「……」
「そう警戒せずとも、今の今まで長々としていたのだ。直ぐに達する」

 先ほどまで開いていた口を再度硬く閉じ直した水月の様子を見て、鳴条鱒克は思わず苦笑してしまう。
 しかしその水月の行動で、彼女が責めを耐え切るつもりだとも察した鳴条鱒克は、そんな意地を吹き飛ばしてもみたくなり、腰元に渦巻く性感に任せて水月の膣を掘り返す事にしたようだ。
 現に、今まで行っていたゆっくりとした動きや、小刻みに弱点だけを責める動きは鳴りを潜め、弱点を責めながらも膣全体を捲り返そうとするような激しい腰つきで、水月の膣中にある魔羅を出し入れしていく。

「んんッぅううぅう〜〜〜〜!!」

 静止からの激しい魔羅の動きに体が付いていっていないのか、水月の体は快楽から面白いように畳の上を跳ね回る。
 しかし相も変わらず、鳴条鱒克の掌は水月の腰を保持し、さらには自分の腰へと引きつける様に動かしているため、どう体を捻ってやっても弱点を魔羅から逸らす事は出来ず、ただただその身に激しい快楽を叩き込まれる結果になっている。
 そんな様子を嬉しそうに見つつも、腰の辺りから立ち上ってくるものを感じた鳴条鱒克は、そっと水月の顔の横に口を持ってくる。

「もうそろそろ出すぞ。何処に出して欲しい?」
「んうぅぅ〜〜……」

 口を開けず腕で顔を覆っているので視線でも答えられない水月に対して、そんな意地悪とも取れる事を告げた鳴条鱒克だったが、水月は彼の腰に回している両の足でぐっと彼の体を引き寄せて回答する。
 口や理性ではこんな交わりはクノイチのものでは無いと文句を言いつつも、しかしてその体と本能は精の溢れる子種は子宮の中に欲しいとは、妖怪の体は難儀なもの。
 しかしそんな事ですら可愛らしく映ったのか、鳴条鱒克の腰の動きは寄り一層速まり、魔羅の奥に渦巻く精を放とうと躍起になっていた。
 やがて魔羅を割って出るような精の迸りを感じ取ったのか、鳴条鱒克は腰を巧みに動かして鈴口を子宮の口へとくっ付けると、更にはそれを押し上げるように深く魔羅を膣内へ埋没させる。

「確と受け取れッ!」
「ふッんぅぅうぅううぅう〜〜〜〜!!」

 奥深くへと精を放たれた水月は、口を噤みながらも他の妖怪がそうであるように、嬌声を上げながら膣で魔羅を締め上げて、より多くの精をその身に取り込もうとしていた。
 そんな力任せに締め付ける初々しい膣の様子を堪能しながら、鳴条鱒克はその求めに応じるように、魔羅の躍動に合わせて次々と精を子宮の中へと放っていく。そして水月の体は精を受け取る度に、妖怪の体が歓喜の声を上げて、下腹がビクビクと動いてしまっていた。
 水月の子宮が子種で満杯になった頃に、漸く躍動が終わった魔羅を鳴条鱒克が引き抜くと、小さな膣口から子宮に収まりきらなかった精がどろりと零れ落ちた。

「ふぅ……さて手番を渡す前に、水月の極まった顔を見せてもらおうか」

 そう鳴条鱒克が水月の顔を覆っている腕を解こうとすると、巌の様だったそれがただの布切れに変わったかのごとく、するりと解けてその中にある水月の顔を明らかにした。
 何度も何度も絶頂し、さらには男の精をもその身に受けたためか、出会った頃は意思が強い切れ長に見えたその目は、性感で緩みに緩んで垂れ目の様になり、冷血な感じを与える無表情から朱に染まった頬を緩ませた女の顔へと変化している。
 それらの変化はそれはそれは劣情を催す程に可愛らしく、鳴条鱒克の股間も吐き出したばかりだというのに半萎えからいきり立ってしまっていた。
 
「ほれ、水月の手番だぞ」

 ぐっと水月の手を引いて上体を起こさせた鳴条鱒克は、いきり立った魔羅を達した反動でぼんやりとしている水月の顔に押し当てる。精と愛液が混ざり合った液体が、水月の顔を淫らに濡らした。
 すると魔羅の暖かさと、顔に付けられた淫液に意識を呼び戻されたのか、急に水月は顔にある魔羅にしゃぶり付くと頭を上下に振り始め、そして鳴条鱒克の太ももを両手で抱き寄せて、諸手刈りの要領で鳴条鱒克に尻餅をつかせた。
 一体何をするつもりかと思えば、股間から垂れる精液など意に反さぬように、水月はゆらりと立ち上がると、尻尾を魔羅の根元に巻き付けてギュッと締める。そしてうっ血してより一層大きくなったその魔羅の上に、自分の割れ目を押し当てつつ、そっと鳴条鱒克に耳打ちをする。
 
「では主様。今度は吾が、主様が吾にしてくださったように、クノイチの技で虜にして差し上げます」

 愛液と精液の混ざった液体を潤滑油に、水月は鳴条鱒克の魔羅を下の口で飲み込んでいく。
 すると先ほどまではただ単に狭いだけの幼さの目立つ膣だったのに、鳴条鱒克の精を受けたからか、それとも魔羅の形を膣が覚えたからか、もしかしたら暗殺任務というくび木から心が解き放たれたからか、きつさは同じでも魔羅に与える快楽の種類が変わっていた。
 それはまるで数千のミミズがその中で蠢いているような、もしくは膣襞が魔羅に抱きつき放すまいとするような、球磨という妖怪を抱いていた鳴条鱒克も今まで味わった事の無い異様な感覚。
 先ほど射精したというのに、埋没する過程で再度射精してしまいそうになるほどに、その味は格別の物に感じられる。

「愛しています主様。だから吾から離れられないように、この魔羅を躾けて差し上げます」
「俺も水月の事が愛しく思う。では、本気の水月の味、堪能させてもらおうか」

 そう愛の言葉にしては少々剣呑なものを交わし、戦いの開始を知らせる法螺貝に口を付けるが如く、二人の唇が合わさる。
 その後先ほどまで主導権を握られていたとは思えない程、水月は巧みな手練手管を用い、鳴条鱒克にクノイチの技の奥深さと、愛するものを持った雌妖怪の激しさを一昼夜をかけて教え込み、見事要人暗殺という任務を成し遂げた。



 時はクノイチ水月と鳴条鱒克が出会って肌を重ねてから、三年の月日が経過した。
 この間、鳴条鱒克がクノイチに暗殺されたと知った重臣たちは、これで目の上のたんこぶが取れたと安心すると共に、鳴条鱒克が握っていた利権を得ようと動こうとした。しかしあの計画を主導していた若殿は、そんな重臣たちの動きに先んじてその利権を全て手中に収めた結果、血筋と権力を手にし聡明さをも発揮し始めた若殿に、誰も逆らう事が出来なくなってしまっていた。
 一方の鳴条鱒克は、あの計画の通りに国を騒がせた責任として、家督を弟へと譲らされて家を追放され、鳴条家の拝領も十分の一の規模の場所に変えられる処置をとらされた。
 もっとも減らされた拝領地は、刑部狸の球磨が予め唾を付けていた、金や銅の鉱脈が眠る山であったため、設備投資は必要だが将来の実入りは倍に増えることになるだろう。それは主君であった若殿でさえ、今はその事を知らない。

 それではその三年の後に、鳴条――いや、ただの鱒克がどうなっているのかの一幕をお見せしよう。
 彼は国の端の端にある、街道からも離れた山の中にある庵にて、歳若いながらも楽隠居の生活をしている。
 無論彼の側には、廻船問屋を妹に譲り、千両箱四つを嫁入り道具として引っさげてきた球磨の姿。

「そんな、鳴条さま。これでは、お昼の仕度が、あんッ!」
「早く子が欲しいと言っておっただろう。それともう鳴条では無いと言っているだろうに」
「鱒克さま。包丁を持って、危険です。だからだから」

 土間で包丁を握り大根を切っていた球磨の裾を捲り、下穿きをずらして魔羅を挿入した鱒克は、球磨の言葉に耳を貸さずに腰を振りながらも、尻から伸びる縞の入った丸い尻尾を手で撫でたり摩ったりと弄り回す。
 そんな無理矢理の性交も、球磨は内心では嫌ではないのか、手にある包丁を転がらない場所へと置くと、台に手を付いて腰をやや突き出し、鱒克が腰を振りやすいようにしてやる。
 段々と球磨もその気になってきたのを察し、鱒克は寄り一層激しく腰を振り、ぱんぱんと土間に音が響く。

「主様。獣を仕留めて……またですか?」

 土間へと上がりこみつつやれやれといった表情を口布で隠しているのは、出会った少女のような姿から、背や胸と尻も成長し鱒克好みの豊満な女の体つきになった水月の姿。
 飛びクナイや手裏剣が刺さった野鳥や兎の数羽が、足元を水月の尻尾で括られてぶら下がっている。

「おお水月。早かったな」
「ああんッ、鱒克さま。腰を止めないで下さいまし」

 水月へ挨拶するために腰の振りが弱くなった鱒克を責める様に、もしくは水月に見せ付けるように、球磨は腰をくねらせて催促をする。
 そんな球磨を少しだけ睨んだ後、クノイチらしい無表情になった水月は炊事場に獲物を置くと、畳敷きの部屋へ上がる為か草鞋を脱いで桶の水で足を拭いていく。
 
「なあ水月よ。毎度毎度言っているが、お前も混ざって良いのだぞ? 夜だけではお前も満足してはおるまい」
「夜に二人っきりでお相手してくださるのなら、昼にしていただかなくても結構です」

 腰を振りつつの鱒克の尋ねにそんな返しを言いながらも、彼女の夫であり主君である鱒克だけが判る程度の瞳の揺らぎがある。
 それは嘘や秘め事がある証拠。今回のこの場合は、夜だけでは満足出来ていないと思っているという事。

「なにも恥ずかしがる事はあるまい。三年も経ち、水月も球磨とは知らぬ間柄では無いだろうに」
「三人でするのは、私は大賛成なんですけど。でも水月が嫌がって……」
「主様以外の目に痴態を曝すのを嫌うのは、クノイチの習性です!」

 その怒気を孕んだ口調はクノイチらしいくないと気が付いたのか、はっとして表情を固く引き締めた水月は、奥へと引っ込んでしまう。

「三年かけても、あの調子とは。先が長そうですわね、鱒克さま」
「なに、三年であれほど柔らかくなったのだ。もう三年もすれば、褥を三人で共に出来るだろう」

 そう言い合うと、どちらとも無く唇を合わせて舌を絡ませる。そして子宮口へと叩きつけた鱒克の魔羅の先から放たれた白い子種は、球磨の子宮の吸い付きによって子宮の中へと飲み込まれていく。
 そんな二人の様子をそっと襖の影から見つつ、三人が始めた会ったあの日のように、水月はこっそりと自分の股間の割れ目を指でなぞっていた。


12/05/11 21:19更新 / 中文字

■作者メッセージ


はい、というわけで、ジパングの魔物二種――クノイチさんと刑部狸さんのお話でしたー。
一応、大百足さんも毒だけだけど登場しておりますけどね。

果てさてSSはどうでしたでしょうか。
長い?エロくない?どちらか一方にしろ?
ええ、仰るとおりです。弁明のしようもございません。

まあこんなバッティングというか、ダブルブッキング的な事もありえるかなーという話だと理解してくださいませ。w

ちなみにうちの刑部狸さんは、全員デフォで関西弁は喋りませんので、「関西弁以外の刑部狸は認めない!」と言う方はごめんなさい。
諦めて違う方のSSをお読みになって、満足してくださることを、切に願います。

それでは中文字でした ノシ

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