読切小説
[TOP]
サキュバスの親は、魔物の性を乗り越えられるのか?

床の上でけたたましい音を立てて皿が割れた。
皿を落とした主の背中からは羽根が、頭には硬そうな角、尻からは尻尾が生えていることから判るように、彼女は人間ではなく魔物の一種であるサキュバス。
しかしそのサキュバスは信じられないといった顔付きで、自分の手元とその先にある床の上で粉々に割れた皿に視線を向けていた。

「母さん大丈夫?」

皿が割れる音を響かせた炊事場に、心配そうに顔を出したのはまだまだ自立するには歳若い一人の青年。
例のサキュバスを母と呼んだ事から察するに、彼女がまだ人間の時に生んだ子なのか、それとも夫となった男の連れ子なのだろうか。
その青年が見ていると判ったサキュバスは、明るい調子でその青年に向き直った。

「えへ〜失敗しちゃった♪ちょ〜っと手が滑っただけだから、疲れているんだからユーヴェちゃんは座ってて♪」
「……大丈夫ならいいんだけどさ」

炊事場から顔を一時は引っ込めたユーヴェと呼ばれた青年は、続いて鉄鍋が床に落ちた音が響き渡った炊事場に再度顔を出した。

「やっぱり僕も手伝おうか?」
「いいの!私がやるって言ってるの!」

なにかこのサキュバスの気に触れたのか、途端にサキュバスは激昂してユーヴェに怒鳴りつける。
しかしユーヴェは怒鳴られても相変わらず心配そうな表情を崩す事は無く、逆にそんなユーヴェの表情を見たサキュバスがその視線から逃れるかのように顔を背ける羽目になった。

「……何かあったら直ぐ言ってよ、手伝うから」

ユーヴェはサキュバスの心情を推し量ったのか、そう言葉を掛けた後に炊事場から出て行った。
ユーヴェの歩み去る音を後ろに聞きながら、サキュバスは首に掛けていた魔界銀製のロケットを手に取ると、蓋を開けてそこに描かれている絵を見つめる。
そこにはサキュバスの顔の横には一人の男の顔。

「貴方、どうして私を残して死んでしまったの……」

そうサキュバスが呟いた通り、その男は数年前不慮の事故で死んでしまった彼女の夫の姿だった。



まだユーヴェが物の分別も付かないような子供の頃、彼の父親は一人のサキュバス――ミレーナと再婚した。
最初は知らない人を行き成り母親だと言われても、納得できなかったユーヴェに四苦八苦した彼の父親とミレーナだったが、時間を経ることによって段々とユーヴェはミレーナの事を母親だと認識する事が出来るようになった。
そんな折、ユーヴェの父は暴走した馬車の車輪に巻き込まれ、変わり果てた姿で二人の目の前に帰ってきた。
何処を如何叩きつけられたのか、手足が無残に曲がった姿で息絶えた父親に縋り付き泣くユーヴェを見て、ミレーナは一人心の中で決意した。
育てようと。
このまだ一人では生きていく事が出来ない子供を、無き夫に立派に一人立ちできる頃まで育て上げるのだと。



そうミレーナが決意した通りユーヴェはミレーナの手ですくすくと成長を続け、今ではこの町で小間使いとしてだが料理屋で働かせてもらっている。
しかし彼が立派に一人立ちし生活出来るのは、年齢的にも料理の腕前的にもあと二・三年は必要だろう。

「でも、もうそろそろ限界みたいね……」

自室のベッドの上に座り、ただ手を握り開く。そんな簡単な動作をするのにも、ミレーナの体は負担を感じてしまっていた。
それもそうだろう、ミレーナの体の中の魔力は生命がギリギリ維持できる程度の少なさなのだから。
普通は並みの魔物以上に魔力を保持しているサキュバスなのに、どうしてミレーナの魔力が枯渇寸前なのか不思議に思うかもしれないが、魔物は一度伴侶を決めてしまえばそれ以外の男の精には見向きもしないという特徴があり、特にサキュバス種には顕著に現れ――伴侶以外の精を一切受け付けなくなるのだ。
そのためミレーナは夫を失って数年間、蓄えてあった魔力を切り崩しながらのみで今迄その生命を保っていたのだった。
しかしとうとうそれも限界になり、このままだとあと一月以内にミレーナは魔力が枯渇して死に至る事になるのは明白。
そんな絶対的な絶望といえる死を目前にしているというのに、ミレーナの頬には笑みが浮んでいた。

「でも、あなたの所へ行けると思えば、不思議と怖くないものね……」

ロケットの中の亡き夫の肖像画を撫でるその手つきは、未だにミレーナの中にその夫への想いが残っている様子がありありと見て取れる。
だがそんなミレーネの部屋の前には、ミレーネの独り言を聞いたのか扉をノックする前の形で固まったユーヴェの姿があった。



寝ているだけでも魔力を消費するのか、ミレーネはベッドの上から起き上がるのも億劫な有様になっていた。
のろのろとベッドのシーツから起き抜けたミレーネは、一つ伸びをした後で体の倦怠感を追い出そうというのか、ニッコリとサキュバスに似合った卑猥な笑みを浮かべた。
そしてその顔のままでサキュバス特有の扇情的な衣服で身を包むと、自室の扉を開けて廊下に出て一目散にユーヴェの寝室へと向かうと、思いっきり力強くその扉を開け放った。

「ほ〜ら朝だよ〜、お〜き〜ろ〜♪」

何時もユーヴェを起こす様に誘惑するかの様な声色で部屋の中に声を掛けたミレーネだったが、そこ部屋の中にはユーヴェの姿は無かった。
もしかして寝過ごしたかとミレーネがチラリと視線をドワーフ製の時計に向けたが、指し示しているのは何時もなら寝坊助なユーヴェが眠っている時間。
ミレーネが滅多に無い事態に不思議に思っていると、その鼻に香しい多数の野菜が煮込まれる匂いが触れた。
その匂いに導かれるようにミレーネは廊下を歩いて炊事場まで向かってみると、そこには朝食の用意をしているユーヴェの姿。

「おはよう、母さん」

ちらりとミレーネの姿を横目で見たユーヴェは、視線を小鍋の中で暖めているスープに移し変えると、ゆっくりとその中身をかき回す。

「もう、ユーヴェちゃんのご飯の用意は私がやるって何時も言っているのに〜」

口では何時もユーヴェに言う様な言葉を紡いだが、恐らくミレーネの体の方は料理を作るなどという重労働を免除されて喜んでいる事だろう。

「今日は早く目が覚めちゃってね。どうせだから料理の修行ついでに、僕の料理の腕前を母さんに披露しようと思ってね」
「もう、しょうがないわね」

嬉々として料理をしているユーヴェの姿を見て、ミレーネが溜息混じりにそう言葉を放つと椅子に腰を掛け、そのまましばらくユーヴェの料理姿を眺めながらぼんやりしていたミレーネだったが、炊事場から漂ってくる美味しそうな匂いにミレーネのお腹が反応し小さく鳴った。
はしたない自分の様子に赤面するミレーネだったが、その音を聞き逃さなかったユーヴェの苦笑の表情を見て、更に赤面の度合いを強くしつつむくれてしまうのだった。

「くくっ――はい、出来たよ」
「……むぅ、親を笑うな〜」
「ごめんって」

視線をユーヴェから彼が運んできた料理に視線を向けたミレーネは、少し驚いたような顔をしてから、再度ユーヴェに視線を戻した。

「これって……」
「なんか最近、母さんの体調が優れないみたいだったからね。栄養満点にしてみました」
「そんな気を使わなくてもいいのに……」

木のお椀に盛られているのは良い香りのする、野菜がゴロゴロと入っている白濁色のスープ。恐らくはホルスタウロスのミルクを使用したクリームシチューだろう。
そしてそれに添えられているのは小麦だけで作られた甘みの強い白パンと、栄養価の高い穀物を小麦に混ぜて作られた茶色いパン。
この二人の経済状況からしてご馳走の類に当たるそれらを、ミレーネの体調が悪そうだと言う理由だけで作ってくれたユーヴェに対し、ミレーネの目頭に熱いものがこみ上げてきている様子。

「ほら、冷めないうちに食べようよ」
「ぐすっ……そうね、折角ユーヴェちゃんが作ってくれたんだから、暖かいうちに食べないとね」

二人とも魔王への感謝の祈りを捧げた後、静々と二人は食べ始めた。
流石に料理店で修行しているだけあって、ユーヴェのクリームシチューは絶品で、ミレーネの動かすのも億劫だった腕が独りでにシチューを口まで運ぶ程。
完璧に抜かれてしまった料理の腕に、女性としても母親としても複雑な思いを抱いているミレーネだが、それとは別の不思議な感覚をシチューが口に運ばれる度にミレーネは感じ取った。
心の中が暖かくなるような、もしくは胃の底から力が溢れてくるようなそんな例えようの無い感覚。
遠い昔に感じた事があったような気もするその感覚が何なのか判らない内に、ミレーネの木椀の中身は空になってしまった。

「まだあるから持ってくるよ」

奪い取るような素早さでユーヴェはミレーネのお椀を取ると、席を立って炊事場の方へと歩み去っていってしまう。
ミレーネがお代わりを欲していると確信しているようなユーヴェのそんな行動に、そんなに物欲しそうな顔をしていたのかと手を頬に当てて考えるミレーネ。
そこにユーヴェがお代わりのシチューの入った椀を置くと、ミレーネは思考を停止して体の欲するままにシチューの中身を食べ進めていく。
そしてそのお椀の中身が空になり、パンも白パンと茶色のパンをぺろりと食べてしまったミレーネは、栄養満点の食事を取ったからなのか体のだるさが幾分軽減したようで、その度合いは朝に彼女がベッドから抜け出た時と比べれば死人と生人程の差。

「満足してもらえた様で何よりです」
「本当に美味しかったわ。これならもう直ぐ店を持てるんじゃない?」
「ははッ、お世辞でも嬉しいよ」

ユーヴェはそのまま自分の使った食器とミレーネのとを一緒に持って、炊事場まで持っていこうと席を立ちかける。

「あ!片付けは私がやるから、ユーヴェちゃんはもうお店に行かないと」
「昨日シェフに母さんの体調が悪そうだって相談したら、『馬鹿野郎、そう言うことは早く言え!明日は手伝いはいいから確り母親看病してろ』って怒られちゃって。だから今日は強制的にお休みなの」

そのままユーヴェは食器を持って炊事場へと歩いていった。
ミレーネはユーヴェの働き先のシェフが魔物の妻帯者だと思い出し、ユーヴェに余計な事を言っては居ないかと内心勘繰りながらも、此処しばらく感じたことの無かった満腹感と満足感にスーッと目蓋が落ちていき、最終的には椅子に座ったまま寝息を立ててしまった。



窓から差し込んできた光に目蓋を焼かれたミレーネは、少しむずがりながら目を開けた。
直後に瞳の奥へと突き進んできた陽の光を手で遮ぎったミレーネは、体に薄い毛布を掛けられているのを見て、これじゃあどっちが子供か判らないと言いたげな溜息を吐くと椅子から体を起こし、そこでふと体の中の魔力量が朝起きたときより増えている事に気が付いた。
ホルスタウロスのミルクのおかげなのかと首をかしげるミレーネに、彼女のお腹の虫が餌を寄越せと大きく鳴いた。視線を壁掛け時計に向けると、まだ昼食には早い時間。
あんなに朝食を食べたのに、どうしてもうお腹が空いているのかと不思議に思うミレーネだったが、お腹の虫に突き動かされるようにフラフラと炊事場へと向かう。するとそこにはまだ中身の残っているシチュー鍋。
こんな事はいけないのにと思いつつも、それが背徳感となってミレーネの背中を押してくる。
左右を見てユーヴェがいないを確認したミレーネは、新しい木の椀にその中身を注ぎ、そしてスプーンでそれを口に運んだ。
流石に朝食べた時のように熱々ではなく、すこし温くなってしまっていたシチューだったが、それでもミレーネの口を楽しませるのには十分で、二口三口と食べ進めてしまう。
やがてお椀の中身が空になりかけ、ミレーネの腹がこなれて来た時、ミレーネの鼻はとある匂いをシチューに感じ取った。
最初はその匂いが何なのか判らずに、スプーンに乗せたシチューに鼻を近づけてみてもその正体は判らなかったミレーネは、次にシチュー鍋に顔を近づけて匂いを嗅いでみた。
魔物の嗅覚は敏感とはいえ、数々使用している料理の材料から目当ての匂いを嗅ぎ取るのは難しいのか二度三度と鼻を鳴らし、そして一度大きく息を吐いてから大きく鼻から息を吸い込む事でようやく目当ての匂いを嗅ぎ取る事が出来た。
そしてその匂いが脳内の記憶を刺激し、その匂いの元と鳴るモノをミレーネの脳裏に浮かび上がらせる。

「えッ……嘘よ……」

その匂いの正体に愕然としたミレーネは顔色を青くし、一目散に洗面所へと向かって走っていく。
そしてもう直ぐ洗面所という所で、ミレーネの体を誰かが掴んで彼女がその先に行くのを止める。ミレーネが振り向いた先に居たのは、もちろんこの家に住むもう一人であるユーヴェ。
その彼の顔には悪戯がばれた子供のような、少し怯えを含みつつも好奇心が押さえられないというような表情が浮んでいた。

「母さん。何処に行く気?」
「放して!洗面所に行って――」
「僕が丹精込めて作ったシチューを吐き出すってわけだね?」

ミレーネの言葉尻を継ぐ形で言葉を放ったユーヴェは、ミレーネの両手を掴むと彼女の体を廊下の壁に押し付けた。
あのシチューで多少は回復していると言えども本調子には程遠いミレーネは、ユーヴェの膂力に対抗できる程の力は出せず、縫いとめられたように壁から体を離す事が出来なくなってしまった。

「くぅ!――まさか、ユーヴェちゃんがあんな事をするなんて……」
「あんな事?クリームシチューに、僕の精液を入れた事かな?」
「そうよ!どうして精液なんか入れたの!?」
「『なんか』って酷いなぁ、あんなに美味しい美味しいって喜んでいたのに……」

答えになっていない答えを返したユーヴェは、押し付けているミレーネの匂いを嗅ごうとするかのように彼女の顔の脇に顔を寄せた。
そんなユーヴェの行為を虫唾が走るかのように身震いしつつも、受け入れるしかないミレーネ。

「止めなさい!今ならまだ許して上げるから」
「止めるわけ無いじゃないか。それに母さんから嫌われるのは、シチューを作った時から覚悟してたし」
「それってどういう……」
「母さん死ぬつもりなんだろ?父さんに操を立てて、僕を見捨ててね」

ミレーネの耳の直ぐ傍で、ユーヴェは優しい声色を使ってそう呟いた。ミレーネはその呟きの中に、ユーヴェがミレーネに対して断罪するかのような響きを感じ取った。

「ユーヴェちゃんを見捨ててなんか……」
「同じ事だよ。ねぇ、母さんは知っていた?日に日に弱っていく母さんを見ていた僕の、何の役にも立てない遣る瀬無い気持ち。死んじゃった父さんの墓前で、どうして母さんを残して死んだのかと心の中で問い詰め続けざるを得ない僕の気持ちを」

独白のようにミレーネの耳元で呟き続けるユーヴェに、思わずミレーネは顔を向けてしまう。そんな事など露ほども知らなかったという表情を付け加えて。
そんなミレーネの表情を見たユーヴェは苦々しく笑った。

「やっぱり母さんは知らないよね。何時も何時でもそのロケットに入っている、死んだ父さんの肖像画を眺めていたからね。だから!」

片手をミレーネから離したユーヴェは、ミレーネの胸元に光る魔界銀製のロケットを掴み、無理やり引きちぎった。
何時も胸の上に乗っていたロケットが自分から離れていく様子を呆然と眺めていたミレーネだったが、それが廊下の隅へと投げ捨てられそうになっているのを察して我に返り、ユーヴェの腕に縋りついて取り戻そうとする。

「か、返して!返しなさ、ぐぅぁ!!?」

再度ミレーネを壁に押し付けたユーヴェは、無理やりミレーネの腕から自分の腕を引き抜くと、手の内にあったロケットを廊下の隅へと投げ捨て、そしてミレーネの顎を掴んで引き寄せた。

「だから母さんから父さんの痕跡を消してあげる。僕の精で塗りつぶしてあげるよ」
「止め、むぐぅぅうぅ!?」

顔をぶつけるかの様にユーヴェはミレーネの唇を奪う。
それは何かを奪い返そうとする様に荒々しく、そしてまだ女性を知らない青々しさが溢れていた。
壁に押し付けられ強要されているミレーネだが、ユーヴェの唇がミレーネの唇を覆うたびに、舌が口内に侵入しようとするかのように歯茎を舐めまわす度、心のどこかでそれを受け入れろという声が響く。
しかしその都度、ミレーネは脳裏に今は亡き夫の姿を思い浮かべて耐えた。
幾ら粘っても口内へと侵入できない事に焦ったのか、ユーヴェはミレーネの体を押さえつけている手をずらし、ミレーネの豊満な乳房の上に持ってくると、力任せにそれを掴んだ。

「むぅうううぅう!!」

久しぶりに感じる他者からの痛みと性感に思わずミレーネのの魔物の体が反応し、その口から痛みの呻きとも快楽の叫びとも取れない悲鳴が漏れ、そしてその悲鳴の間を縫うようにして、ユーヴェの舌がミレーネの口内へと侵入する。
一度入ってしまえばこっちの物と言いたげに、ユーヴェの舌は遠慮なくミレーネの口内を蹂躙していく。
最初に上あごを舐め上げ、そして歯の一本一本を丁寧に舐め取り、次にミレーネの舌の裏に潜り込んだ後、蛇が得物を締め付けるような舌使いでミレーネの舌に絡みつかせていく。
その荒々しく若々しいその舌使いと唾液の中に含まれている雄の精に、ミレーネの体は歓喜の叫びを上げ続け、最終的にはミレーネの腰がガクガク震えて落ちそうになり、彼女の思考と認識力もゆっくりと蕩け始める。
幾ら持ち直そうと頑張ってみても、これは夫の舌ではないと言い聞かせても、ミレーネの体は目の前に居る歳若い雄の体を欲して止まない。
やがて立っているのも無理なほどに性感の震えが膝まで達した頃、ようやくユーヴェは口をミレーネから放し、乳房を玩んでいた手も離した。
ようやく訪れたユーヴェから逃げ出す機会だったが、ミレーネの体はもうすっかりユーヴェの若い肉体を受け入れる準備を完了し、脳裏の片隅にもユーヴェに体の隅々まで蹂躙されるのを待ち焦がれる感情が芽生えていたために、ミレーネはその場に座り込んだまま動けずにいた。

「キスだけで腰砕けになるなんて、母さんは本当に敏感なんだね」
「そ、そんな事、無いわよ。ちゃんと立てるわ」
「ふーん、そうなんだ……」

するりとユーヴェの手がミレーネの股間を覆っている布地の内側に滑り込むと、充満していたベトベトの愛液を掻き分けて膣の入り口まで指を進ませた。

「な、何をするつもり?」
「いや、立つのなら手伝ってあげようかなって」

口ではそう言いながら、ユーヴェは人差し指と中指の中ほどまでをミレーネの膣の中へと突き刺した。
思わず口から嬌声が飛び出そうになったミレーネは、きつく口を閉じてそれを押し留めると、意固地になって座り込んでいた場所から立ち上がろうと膝に力を入れる。

「大丈夫?膝が生まれ立ての鹿みたいにガクガクしてるけど?」
「ふぅふうぅぅうんぁ!!」

ユーヴェは股間に入れている掌は立ち上がるのを手助けするように持ち上げようとしつつも、膣内に入っている指は膣の敏感な場所を抉って膝に力を入れさせないようにする。
するとミレーネは膝の震えで立ち上がりきれず、かといってユーヴェの手に邪魔されて座り込む事も出来ずに、中腰の体制のままユーヴェの腕に縋りついてただただユーヴェのされるがままにされてしまう。

「うぅ゛ぅ、い゛うぅぅ……」

ミレーネの股間の布の中でグチャグチャと粘ついたくぐもった音が響く中、ミレーネは終に耐えられなかったのか、ユーヴェの腕をきつく手で握り締めながら、ユーヴェの指を膣で締め上げて軽く達してしまう。
そして足の力が本格的に入らなくなったのだろう、ふらふらとユーヴェの胸元へとミレーネは飛び込んでしまった。

「――もうそろそろいいかな?」

ユーヴェはの胸元へ来たミレーネを片手で抱き寄せつつ、もう片方の手でミレーネの股間の布をずり下ろした後で、ミレーネの片足を持ち上げてその布を足から抜いてしまう。そして持ち上げたミレーネの足はそのまま肩に担ぎ、体勢を崩してこけそうになるミレーネを三度廊下の壁へと押し付けて押し留めさせた。
立ち上がったまま踵をユーヴェの肩に掛けたまま壁に押し付けられたミレーネだが、数年間は感じる事が無かった雄の感触に魔物の体は、頭と心の芯から蕩けてしまってまともな状況判断を下せずにいた。
しかしユーヴェのズボンの股間部分から、凶悪なまでに反り立った陰茎が姿を現したのを見て喜び勇む体とは裏腹に、ミレーネの頭と心は急速に冷静さを取り戻していった。
そしてユーヴェの陰茎がミレーネの膣口に付けられた頃には、それが何を意味しているのか理解したミレーネの脳が悲鳴を上げる。

「や、止めて頂戴。い、いや、嫌ーーー!!」
――ズニュゥゥウウゥ

ミレーネの懇願と悲鳴がない交ぜになった声の中、ユーヴェは容赦無く自分の一物をミレーネの奥へと叩き込んだ。

「どう?自分が育ててきた息子チンコの味は」
「うぅぅううぅ――」
「気に入ってくれた様で何よりだよ」

余裕ぶっているユーヴェだが、初めて体感した女性の膣内――しかも名器揃いの魔物の中でも極上のモノを持つサキュバスのソレに挿入したのだから、実際に余裕があるわけではない。
少しでも気を緩めれば、容赦なく巻き付くサキュバスの肉壁と、軽く動かすだけでも腰が砕けそうになる蠢く膣道に、あっという間に射精してしまうであろう事は火を見るよりも明らか。

「抜いてぇ……あの人以外のは、要らないのぉ……」

しかし耳元で聞こえたミレーネのその言葉に、ユーヴェの心の中に彼が今までの人生の中で感じたことの無いどす黒い感情が芽生え、それが射精感に支配されそうになっていた体に活力を戻らせた。

「そんな言葉、言えなくしてあげるよ」
「うぅふぁぅ――うあぁぁはぁんッ!」

ゆっくりとユーヴェの陰茎が膣から引き抜かれていく程に、口から漏れ出て来そうになる嬌声をミレーネは噛み殺しつつ耐えていたが、膣口まで引き抜かれたソレが一気に膣道を通り子宮口へ叩き付けられた時、耐え切れなくなった性感に喉が震えた。

「動かさないでぇ……抜いてよぉ、お願いだからぁ」
「楽しまないと、母さんだけが辛いだけだよ」
「ひぁぅ、ふぁあッ、あひゃぁんッ!」

一度出てしまえば押さえが利かなくなるのか、ミレーネはユーヴェが腰を前後させて陰茎を出し入れさせる度に、子宮口に鈴口をくっ付けたまま腰を乱暴に円運動させて捏ね繰り回す度に、その口からは嫌悪感の無い甘い響きが漏れ廊下に響き渡る。
反応が返ってきたことに気を良くしたのか、ユーヴェは先ほどまで童貞だったとは思えないほどに執拗な腰使いでミレーネの膣を弄りつつ、腰を突き上げるたびに揺れる乳房にむしゃぶりつくと、乳首と乳輪を嘗め回した後に、赤ん坊がそうする様に音を立てて吸い付きながら、片手で形が変わるほどに力強く揉み立てる。

「止めてぇ、先っぽ弱いのぉ……おまんこと同時に責められたらあ」

しかしそのミレーネの言葉とは裏腹に、ユーヴェの背中に珠の汗が浮ぶほどに責め立てているのにもかかわらず、責めても責めてもある一定の場所以外には到達しないように呪いが掛けられているかのように、ミレーネは一向に絶頂に達する気配が無い。
そんなミレーネの状態に長々と付き合えるほどユーヴェの余力は無く、ユーヴェは込み上げて来た精液が尿道を駆け上ってきているのを知りつつも、それが鈴口から発射されるまで腰を振り続ける。

「うあぅぅう゛うぅう゛うぅ!!!」
「はあぁぅんッ……」

ユーヴェは精液が陰茎から発射された一瞬の後に、ミレーネの体をきつく抱き寄せて体の奥にある子宮へと精液を注ぎ込む。
ミレーネは数年ぶりに感じる精液の感触に体が震えるものの、それは過去に夫と交わした情事の時と比べれば一際以上に劣るもので、腰に伝わる甘い痺れも何処か余所余所しく感じていた。

「ねぇユーヴェちゃん。もう気が済んだでしょう……」

ミレーネは自分の体を抱き寄せながら射精し続ける聞き分けの無い息子に対し、優しい声色で諭すようにそう告げた。
荒い息を吐きながらも、精液の最後の一滴も零さないようにしているかのようにくっ付いて離れなかったユーヴェは、そのミレーネの言葉に彼女を抱き寄せていた腕に力を抜いた。
ようやく判ってくれたのかとミレーネが気を抜いたその時、ユーヴェの手はミレーネの尻へと伸び、そこに生えている艶やかで滑らかな尻尾を握り締めた。

「きゃんッ!!」

気を抜いていた所に突然強い刺激を感じたミレーネは吃驚し、思わず膣を締め付けてユーヴェの陰茎を刺激してしまう。
するとユーヴェの心の内を表すかのように、半萎えだった一物に再度力が戻る。そしてユーヴェはミレーネに自分の分身を突き刺したまま、ミレーネの寝室へと歩き出し、そして部屋に入るとミレーネをベッドの上に横たえつつその上に覆いかぶさった。

「まだだ。絶対母さんを僕のモノにしてみせる!」
「んッ……はぁふぅ……ふぅぁ……」

正常位の体位で情熱的に腰を振り始めたユーヴェに対し、ミレーネはユーヴェにさせるがままにさせながらも、その頭の中は冷静だった。
先ほどユーヴェの精を受けてミレーネが実感したのは、ユーヴェの精と夫の精が全くの別物であるという事。
夫以外の精液に対して抱くという嫌悪感こそ無いものの、ユーヴェの精液は過去に彼女が夫から受けた精液に比べれば格段の差があった。ユーヴェの精をただ野菜と肉を煮た汁に例えるなら、亡きミレーネの夫の精は料理人が手間隙を惜しまず作ったブイヨンに例えられるほどに、ミレーネの体に駆け巡る充足感に違いがあった。

「ちくしょう、ちくしょう!」

それをユーヴェも薄々感じているのか、腰を振りながらミレーネの弱点であるはずの場所を責めながら、そう言葉が口に出てしまう。
どうにもならない事実に駄々をこねている幼子の様に、半泣きしながら腰を振っているユーヴェの様子に、ミレーネは母親の余裕を見せて心の隅でユーヴェの気の済むまでやらせようと考えてしまう。

「絶対、死なせてなんか、やるもんか!」

そして次に出て来たユーヴェの言葉に、ミレーネは心を軽く掴まれた。

「母さんに嫌われても良い!僕を殺すほど程に怨んでくれても構わない!だけど、だから、絶対に、死なせるもんか!」

それはユーヴェの本心から出た言葉。
父親を失った傷心からようやく立ち直り掛けた時に、母親も失うかもしれないと理解して再度悲しみに突き落とされた子供の心の声。
それを聞いたミレーネは今更ながらに、どうしてユーヴェがこんな行為に出たのかを理解した。
ユーヴェは怖かったのだ。血の繋がりのある人がこの世から居なくなり、唯一の家族である血の繋がらない魔物もこの世から消えてしまうかもしれないことに。

「ユーヴェちゃん……」

そう考えるとミレーネの行いはいかに独りよがりだった事だろうか。
死んだ夫の事を常に想い、生きている息子であるユーヴェのことは二の次に追いやっていた。もしかしたらミレーネ自身が気が付かなかっただけで、夫の後を追えなくなった理由の一因のユーヴェを憎んでさえいたのかもしれない。
そして極めつけは先日の魔力の枯渇をしょうがないと受け入れ、対抗策を取ろうとせずに死のうとした。
その結果がユーヴェを今日のような行動に突き動かした原因であり、子に心配をさせないはずの親が犯した罪であった。

「ユーヴェちゃん。私が悪かったわ」

流れ出る涙を押さえる事もせずに腰を振り続けていたユーヴェを抱き寄せ、その顔を双丘の間に埋めたミレーネは、鳴いている幼子を慰めるかのようにそっとユーヴェの後頭部を撫でた。
最初はその手の動きが何なのかわからない様子のユーヴェだったが、何度と無く繰り返し撫でられると段々とその瞳に涙が溜まり、遂にはミレーネの胸の谷間に顔を深く潜り込ませて泣き出した。

「うぅ〜〜……ふぐぅうぅう〜〜〜……」
「御免ね、駄目な親で御免ね……」

それに釣られるようにミレーネの瞳にも涙が溢れ、そして目じりから頬に掛けて流れ落ちる。
そのまま二人で嗚咽を抑えつつ静かに泣いた。
やがて二人の瞳から零れ落ちていた涙が止まり、頬に流れていた跡も消え去った頃、ユーヴェはゆっくりとミレーネの胸の谷間から顔を上げると、もうそこには切羽詰った子供の顔は無く、今までの行為を恥じている青年の顔付きになっていた。

「ごめんよ母さん。でも――」
「それ以上は無し」

ユーヴェの唇に人差し指を当てて言葉を止めたミレーネは、ユーヴェの頬に両手を当てた後に引き寄せ、唇が軽く触れ合うだけの優しいキスをした。
行き成りそんな事をされるとは思ってもみなかったのか、ユーヴェは石になったかのように固まり、視線だけでミレーネにどういうつもりかを問うていた。

「私はユーヴェちゃんの奥さんにはなれないわ。でもこの際だから、未来のユーヴェちゃんの奥さんの為に手解きしてあげる」
「え、でも……」
「あら?もしかして今日みたいにするつもりなのかしら?こういうプレイも好きな娘もいると思うけど、やっぱり基本は確りマスターしないとだめなのよ」

本気とも冗談とも取れないミレーネの調子に、ユーヴェの瞳は白黒している。
そんな性に対しての無知さを露呈する羽目になったユーヴェの可愛らしい様子に、ミレーネは手招きするようにユーヴェを誘導していく。

「まずはキスと前戯の仕方からね。優しく教えてあげるから心配しないで」
「うん……がんばってみる」

三度合わせた二人の体は、今までの体は熱く心が離れていたものとは違い、静かながらも内に秘めた熱い思いで繋がっているようだった。




初めての性行為で無理やりのと同意のも通算して六発も出したユーヴェは、ミレーネの横ですやすやと寝息を立てている。
そんな可愛らしい息子の頭を優しく撫でながら、ミレーネは体に流れる魔力に意識を向けてみた。
そこにあるのは枯れ果てかけた夫の精ではなく、若々しくも未だに違和感が拭えない息子の精で得た魔力。
しかし文献にあるような吐き気を催すほどのモノではない。
それは夫と血の繋がった子だからなのか、もしくはミレーネに育てられその魔力に順応した子だからなのか、それとも恋人の愛ではなく家族の愛で繋がれた関係だからなのか。そのどれかはミレーネには判断がつかないが、安心したように眠るユーヴェの姿にどうでも良い事だと結論を付けた。
そして回復した魔力を使用して、部屋の向こうの廊下の隅にあるロケットを魔法で手の中へと引き寄せ、そして蓋を開く。
中にある死んだ夫の肖像画は昨日と変わっていないはずなのに、ミレーネには苦笑いしているように見えた。

「御免なさいアナタ。私はまだ死ねないわ。怨むんだったら、アナタに似て強引な息子を恨んでね。あ!ゴーストとかスケルトンとかのアンデッドになって蘇ってくるってのもありよ♪」

肖像画に唇を付けてからロケットの蓋を閉じると、お尻から生えた尻尾を掴まれる感触を感じた。
顔を横に向けると、ミレーネの体温が離れた事に感づいたのか、ユーヴェが消え去りそうなミレーネの体温を奪回しようと尻尾に抱きついていた。

「もうユーヴェちゃんたら……今日は一緒に寝ましょうか」

まだまだ陽が高いけどこういう日もあって良いかと言外に含ませながら、ミレーネは布団に潜り込むとユーヴェを抱き寄せて目を瞑った。


11/11/27 10:10更新 / 中文字

■作者メッセージ



はい、というわけでサキュバスさんSSでした。如何で御座いましたでしょうか?

このSSを書こうと思ったのは、ポリフォニカのブラックシリーズ(通称:黒ポリ)を読み返していた時、

『あれ?魔物娘が伴侶の精の味を覚えてそれ以外受け付けなくなったら、もしその伴侶が不慮の事故で死んだら、魔物娘って魔力枯渇に苦しみ抜いた末に死ぬのか?』

とふと思ったので、こんな風な一例があれば救いだなあと思い立ち書いた所存に御座います。

そいではまた次のSSでお会いしましょう。
中文字でした!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33