読切小説
[TOP]
マールさんの初めての恋

「「「「かんぱーい!」」」」
 ここは学生食堂。
 その中には今年卒業した学生達と、彼ら彼女らに縁の深かった後輩に、多少の教師達が混ざり、卒業記念立食パーティーが開かれていた。
 そしてこの場所の一角に、この物語の主役になったホブゴブリンのマールが、大皿料理が減っていないか眼を配っていた。
「えーっと、あの料理は大丈夫でしょ。アレはもうそろそろ作り始めないと、無くなっちゃうかなぁ……」
 ホブゴブリンの特性上、人間に比べればやや頭の緩そうな印象はあるものの、他の会場を走り回っている部下のゴブリン達と比べても、確りした印象を回りに与えている。
「まぁーるぅーさーん!」
 そしてそのマールの背丈に似合わない程に膨らんだ胸に飛び込んだのは、今年の最優秀生徒の一人であるリャナンシーのアーリィ。
 アーリィがマールの胸は持ち前の弾力性で、アーリィの突進力を柔らかく受け止めると、程よく波打ち、ついにはアーリィの感じる衝撃をゼロにした。
「アーちゃんどうしたの、顔まっかっかですよ?」
「えへへ〜。果実酒があったの〜〜」
 そんなマーベラスな胸に顔を埋めて幸せそうなアーリィに、周りの男どもが思う事は唯一つ。
(『そこのリャナンシー、俺と代われ!』『ここは俺が行く、お前らは援護を!』『へっ。お前だけに格好付けさせられるかよ』)
 ……要約して、アーリィのようにマールの豊満な胸に顔を埋めたいと思っていた。
 そんなことを知ってかしらずか、マールは大地母神のような柔らかな笑顔を浮かべて、アーリィのさせるがままにさせていた。
「済みませんマールさん、俺のツレが。ほらアーリィ、おいで」
 苦笑いしながらそう謝罪するのは、もう一人の最優秀生徒であるアルフェリド。
「アルフェリドのお胸ぇ〜〜〜」
 マールの胸から脱出したアーリィは、アルフェリドの胸までふよふよと飛ぶと、すっぽりと胸に収まり、そこで寝息をたてて寝てしまった。
 しょうがないなあと、アルフェリドはアーリィを起こさないように手で支えると、もう一度頭を下げてマールにお詫びとお礼を言う。
「アーリィの件では、本当に、マールさんにはお世話になりました」
 そんな二人の熱々な様子に、マールは恋人が出来た息子を見つめるような、優しい微笑みを携えていた。
「もう、アルちゃんとアーちゃんったら。出会って間もないっていうのに、すでにお熱いんですね〜」
 羨ましいな〜と表情に出しながら告げたマールの言葉に、顔を真っ赤にしながら頭を掻くアルフェリド。
「羨ましいから、私もアルちゃんをお婿さんにしようかなぁ」
 悪戯っぽく笑いながらそう言ったマールに、アルフェリドは思わず笑ってしまう。
「またまたご冗……」
「そうっすよ!ウチらはてっきり」「料理長とアルフェリドさんが」「くっ付くと思ってたんだけどねぇ」
 会話に割り込むように登場したのは、マールの部下である三人のゴブリン達。
「もう、みんな何言い出すんですか。ただの冗談ですよ」
「だってねえ」「絵とか貰って嬉しそうでしたし」「もう、これはほの字だとぅ」
「な、何言ってるんですか!アルちゃんに絵を貰ったときはたしかに嬉しかったですけど、それは母親が息子に絵をプレゼントされたようなもので……。そもそも寮生みなさんは、私にとって子供といいますか、弟や妹の様な存在なので、そんな感情はありませんよ」
 わたわたと弁明をするマールのその言葉に、息子やら弟と表現された男の寮生の大多数は、ぐっさりと心を傷つけられて俯いてしまっていた。
 しかしながら彼女がいるからなのか、アルフェリドはまったく意に介した様子は無い。
「それなら俺もマールさんの事を、第二の母親だと思ってます」
「だったらアルちゃん、私の事ママって呼んでもいいですよ〜」
 さらにはそんな気障な事まで付け足すアルフェリドに、更に冗談でお返するマール。
 種族もばらばらな二人が、本当に仲の良い姉弟か母子のように見えてしまうから不思議である。
「こんなにお似合いだってーのに」「どうしてくっ付かなかったのでしょうか」「謎ですねぇ」
 部下ゴブリンたちは首を捻る。ここまで仲がよければ、魔物の性でくんずほぐれつな関係になっていないと、おかしいはずなのだと。
「皆さんご存じないんですか?マールさんには、思い人がいらっしゃいますよ」
「「「「「えええ!!」」」」
 唐突に告げられたアルフェリドの言葉に、こっそり聞き耳を立てていた人たちも含めて、全員が驚きの声を上げる。
 全員が驚愕してしまうほどに、マールの身辺には男の匂いは無かったからだった。
「もう、アルちゃんてば、それは内緒って……」
「誰でやんすか!」「何処のどいつですか!」「初めてききましたよぉ」
「「「そこんところ詳しく!」」」
 詰め寄ってきた部下や卒業生に寮生と一人二人の教師達。
 お前らどれだけマールの事好きなんだよ。ロリ巨乳だからか、ロリ巨乳だからなのか。
「えーっとですね。……あっ、お料理作らないと!」
「大丈夫っす!」「料理でしたら!」「ここにたんまりとぉ」
 何時の間に用意したのか、大量の料理がテーブルの上に並べられていた。
「私の恋話なんて聞いても面白くないでしょう?」
「「「いいえ、めちゃめちゃ興味ありまくります!」」」
 困ったように笑いながら逃げようとするものの、全員からそう言われてしまうと、人の良いマールは無視する事が出来なくなる。
 もうしょうがないですねっと言葉を加えた後に語り始めた。
 昔々のホブゴブリンの恋話を。






 昔々、といってもまあ学生さん達が子供の頃ぐらいの昔ですが、私は大盗賊団の首領をやっていたんですよ〜。
 え、そんなに意外ですか?
 これでも根城界隈では『ゼンカイのマール』って言われて、ちょっとした有名人だったんですよ。
 ……まあ私は襲撃の際にはドジばっかりで、主な仕事は手下たちのご飯を作るのが役割でしたので、実際は部下のゴブリンたちが優秀だったんですけどね。
 ええ、その当時から料理作るのは好きでしたよ。
 部下ゴブリン達が美味しい美味しいと食べてくれるのが、嬉しくて嬉しくって。
 え? 彼女達は今の部下の子たちとは違うゴブリンですよ。
 そういえば彼女達は元気でしょうか、今では商会を開いて手広く稼いでいると聞きましたけど……
 ああ、そうでしたね私の思い人のお話でしたね。
 そんな風に面白おかしく暮らしていたわけですけど、やっぱり悪い事をしていたから天罰が下ったんでしょうか、唐突に高熱と全身の痛みに襲われまして、薬を飲んでも沢山栄養のあるものを食べても治らなくて、『もうこれはだめだろうな』と諦めていた時に、部下が一人の男性を連れてきたんです。
 彼は旅のお医者さんらしくて、たまたま私の根城の近くを通りかかったときに、部下達に見つかって連れて来られたらしいんです。
 えへへ〜。そうですよ、その人が私の思い人です。
 何でいま一緒にいないのかですか?
 それはお話の続きを聞けば判りますよ。
 それではお話しを続けますよ……





 パチパチと薪が炎に熱せられ弾ける音がする。
 その炎の前にいるのは一人の年若そうな男と一人のホブゴブリン――少女時代のマール。
「病人が居るって聞いてきたが、お前がその病人か?」
 ぶっきらぼうにそう尋ねた男に、ホブゴブリンは喋るのも身体を動かすのもつらいのか、僅かだけ首を立てに振った。
「ふむ。ちょっと手を取るぞ」
 男はマールの手を取って手首に指を当てる。
 その指は男のものというよりかは、女性のようなほっそりとしていて長い指だった。
「身体の内は健康だし、外にも悪い箇所は見られないな。なんか毒のありそうなものでも食べたか?」
 その男の言葉に、首を横に少しだけ振るマール。
 食事を一手に引き受けていたのはマール自身なので、彼女に思い当たる節は無かった。
「ふむっ。これは参ったな、病が判らん」
 ああ医者でも判らないのかと落胆するマール。
 もうこのまま死んでしまうのかと思うと、マールの瞳からは涙が零れ落ちてしまう。
「こ、こら泣くな。別に死ぬと決まったわけでは……」
 そこでマジマジとマールを見つめる男。
「お前、外の連中とは若干見た目が違うな。突然変異種か?」
 突然変異種という耳慣れない言葉に、マールは疑問の色を瞳に宿す。
「突然変異種というのは、ごく稀に生まれてくる種族のことで、お前がそうかと聞いたのだよ」
 判りやすく教えてくれた男に、言葉の意味を理解したマールはこくりと極小さく首を縦に振った。
「そうか、ならば病が判るぞ」
 そうマールに告げた男は、鞄から薬を取り出して調合を始めた。
 本当にわかったのだろうかと不安になるマール。
 確かに見ず知らずの人を信用しろというのは、流石に魔物といえども難しいだろう。
 不安そうに揺れるマールの瞳を察したのか、男は調合の手を休めることなく口を開く。
「お前のその病気はおそらく、ホルスタウロス族がよく罹る病気だろう」
 なぜホルスタウロスの病気が、ホブゴブリンのマールに罹るのだろうと不思議に思うマール。
「まあ疑問に無理は無い。そもそもこの病は、変異種だけしか罹らん病気なのだよ」
 次々と薬草を取り出して調合し続けていた男だったが、目的の物が見当たらないのか、鞄をひっくり返して中身を全部出してしまった。
「何でも一代前の魔王の時代からあった病気らしくてな。突然変異した魔物の身体が元になった種族へと戻ろうし、その時に身体が高温を発し、全身に痛みが走るのだそうだ。最も魔王が代替わりした今では、大多数の魔物が滅多に罹ることも無い、罹っても一生に一度罹るだけの麻疹みたいなものだな。あちゃ、しまったな」
 男が取り出したのは空になった薬ビン。
 その中にあった物が必要なものなのだろう、もし手に入るものならば部下に取ってきて貰おうとマールは考えていたが、男は突如マールに背中を向けるともぞもぞとし始めた。
 何をしているのだろうとマールが見ていると、男は首だけマールに振り返り嘆願する表情をしていた。
「恥ずかしいので、しばらく壁の方を向いていてはもらえんだろうか……」
 何をするか知らないが、治療するのに必要なのだろうと思い、マールは痛む身体を叱咤して壁へ顔を向ける。
 するともぞもぞしていた男から、しゅっしゅと何かを擦る音が発せられ、それと共に部屋の中に濃いオスの匂いが充満し始める。
 やがてはぁはぁと呼吸していた男の口から、ウッと呻き声が発せられると、部屋の中の匂いはオスのもの一色に染まっていた。
「なにを、したの?」
「え、いやそのな……」
 再度ごそごそと何かを仕舞う様な物音を立てていた男は、マールのその言葉に正直に答えるかどうかを悩んでいる様子。
 しかし患者に不信感を抱かせるのは、医者としてはしてはいけない事と判断したのか、男は正直に何をしていたのかを答え始めた。
「この薬には男の精を入れる必要があってな、本来ならば生成した精があるんだが、たまたま切らしてしまって、今回は緊急避難行為だと思って許してくれ」
「精、ですか?」
 部下達は旅人を襲って得た事もあったが、マールは精液の匂いだけは良いと思ってはいたものの、あの牛乳が腐ったようなにゅるにゅるする液体を如何しても体内に入れることは抵抗があった。
 それに加えて狡賢い部下達がマールに男をやらないために、精よりもマールが作った料理の方が美味しいと言うものだから、人の良いマールはそれを真に受けて、男の精など受け入れなくても良いと思っていたのだった。
「必要、なんですよね?」
「そうだ。これを飲めば二・三日で回復するぞ」
 自信満々な様子でそう胸を張って言う男に、マールは信用する事にした。
「あーん」 
「いや、自分で食べてはくれんのか?」
 口を開けて薬を食べさせてもらおうとしたマールの様子を見て、男は鼻白んだようだった。
「だって、からだ、痛いんですよ……」
「だからといってなぁ」  
「なら、飲みません」
 ぷぃっと横を向いたマールに、あれやこれやとどうにかマール自身で飲んでもらおうと男はしたのだが、マールの方も何故か意固地になって男に薬を飲まさせてもらう事を要求していた。
「しょ、しょうがない……口を開けなさい」
「あーん♪」
 一匙分の薬を口に含ませて貰ったマールは、薬の苦さに顔をしかめていたが、やがて薬の中にある男の精の味がマールの舌の上を掠めると、余りのその精の美味しさに吃驚した。
 もっとその精の味と匂いを確かめるように、マールは舌の上で転がすものの、精の味は薬の苦さの中へ直ぐに消えてしまった。
 もっと欲しいとマールは思い、さらに薬を貰おうと口を開けようとしたとき、薬の中の精の匂いと男が発する匂いが大変似ている事に気が付いたマールは、何か思いついたようだった。 
「飲みにくいので、身体を起こしてください。あとそのままだと倒れちゃうので、抱きかかえてくださいね」
「え!そ、それは」
「嫌なら飲みませんっ」
「……はぁ、了解した。ほらこれでいいのか?」
 一先ず薬の入った御碗を床の上に置いた男は、マールの寝ていた場所に胡坐をかくと、膝上にマールを乗せて倒れないようにと片手でお腹の辺りを支え、マールが男の身体に体重を預けられるようにした。
(ああ、やっぱり良い匂いです)
 しかしながらマールが考えていたのは、男の発する匂いを堪能する事であり、男の身体の感触を楽しむ事であった。
「約束だぞ、薬を飲め」
「はーい。あ〜ん♪」
「ほら、あーん……」
 そうしてマールは幸せな気持ちをいっぱいにして、苦い薬を飲みつつも、そのまま男に身体を預けたまま寝てしまったのだった。




 この時既にあの人に私は惚れていたんだと思います。
 もしかしたら出会ったときには既に……。
 もう、急に何を言い出すんです。私がその時にあの人を襲ったりするわけ無いですよ。
 私は病人だったんです。そんなこと出来る訳無いじゃないでしょう。
 ……確かにちょっとだけ、そう思わなかった訳じゃないですけど。
 はわわ、いえ何も言ってませんよ!?
 ちゃ、茶化さないでください! 話に戻りますよ、もぅ……。
 一日二日経つ度に、私の身体は回復に向かいました。
 あの人も献身的に私を看病してくれて。
 もう私は、あの人以外は目に入らないほど入れ込んでいました。
 そして薬がいらないぐらいに回復した、あの日の晩のことです。






 ぱくぱくとマールの手料理を食べる、医者の男。
「おお、旨いなこれ。あんなモノからこんな美味い料理が出来るとは。マールの腕前は流石だな」
「そんなに褒めても、これ以上お料理ありませんよ♪」
 テレテレとしつつも、嬉しそうに男の食事風景を楽しむマール。
 もうこの時には、マールはこの男との新婚生活を夢見るほどに、この男にぞっこんだった。
 それもまあ無理も無いこと。
 惚れっぽい魔物にあって、しかも稀な病気から救ってくれた命の恩人ともなれば、マールでなくても惚れるというものだろう。
 そんなことを考えていたマールだったが、今日はまだ例の薬を貰っていなかったため、マールは急に口寂しくなった。
 愛しい人の精を獲たいと思うのは魔物の性であり、色恋事を知ったマールにはそれの性が顕著に出てきていた。
「それで、今日のお薬はまだですか?」
「もういらんだろう。それだけ回復しているんだ、普通の食事で良いぞ」
 そう食事を食べ終えてお腹をさすりながら放った男の言葉に、マールは一瞬頭の中が固まった。
「え、だからお薬は……」
「大丈夫。もう病の気は無い。後は普通に養生すれば治る」
 突き放すようにそう告げた男に、マールはこの世の終わりのような気がした。
 そもそも男は旅の医者だ。マールが病気で無くなれば、この場を離れて別の場所へと旅立っていってしまう事だろう。
 そうなればもう二度と男と会う事はなくなってしまうと、この時のマールは考えていた。
 どうしようかと考えていたマールの脳内に、閃く一つの回答。
 この男を逃げられないほどに、マールの身体を使って骨抜きにしてしまえば良い。
 そうすればこの男とこのねぐらの中で、しっぽりとした新婚生活を送れる。
 それはなんと甘い響きのする答えだろうと思い、マールはそれを早速実行する事にした。
「じゃあ、普通の養生をしますね♪」
 寝転がっていた男の腰に擦り寄ると、マールは男のズボンを脱がしにかかった。
「な、何をする」
「何って、お食事ですよ。魔物の食べ物は、男性の精だってしってるでしょ〜」
 にこにこと笑いながら、持ち前の怪力で男が逃げないようにがっしりと押さえ込むと、マールはズボンを取り払い、男の陰茎をまじまじと見つめる。
 マールに攻め寄られて興奮していたのか、硬く柔らかい半勃起の状態の男根がそこにあった。
 そしてそこから立ち上る匂いは、マールが薬を服用した時に感じていたものよりも、何倍ほども濃いものを感じさせた。
「えへへ〜、食べちゃうぞ〜♪」
 かぷりと男根を口に含んだ。
 その樹脂のような舌触りに、薄っすらとしょっぱいような味は、あまり美味しいものだとはいえなかったものの、マールの口の中には言いようの無い幸福感が溢れた。
 それは男根から立ち上る匂いが、マールの口腔内を犯していたこともそうだが、まだ直接味わった事の無い精液の味が、ほんのりと鈴口の辺りから発せられていた事が原因だった。
「ちゅぷちゅぷ……れぇろ〜、ろうれすか? はむはむ、ひもひいいれふか?」
 魔物の本能に刻まれた教本通りに、口の中で亀頭を愛撫し、舌で竿の部分を舐め、裏スジを甘噛みして奉仕するマール。
 そんなマールの行いにもうすでに男の一物は半勃起ではなくなり、ガチガチのギンギンな勃起状態になっていた。
「な、なんで、こんな事を」
「なんれって、わらひのくひから、いわへるふもりれふか」
 片手で陰茎を扱きながら、陰嚢に入っている睾丸を口に吸い込み入れて、舌上でころころさせつつも、男の疑問にマールはあいまいに答えた。
「ちゅぱ……ビクビクしてきましたね。もうちょっとでイクかなぁ」
「や、止めろ……」
「いやです。やめませ〜ん」
 再度口の中に男根を入れたマールは、口の内壁で亀頭を磨いて快楽を高め、唇を窄めて陰茎を扱き上げて射精間を高め、両手で睾丸を軽く揉んで精液の量を高める。
 程なくして男は我慢が出来なくなったのだろうか、トロトロとガマン汁が流れ出し、さらには僅かずつその中に精液の漏れ出す量が増えてくる。
 そして限界ももう直ぐ近くなのだろう、陰茎がより一層膨らみ、精液の通り道を大きくし始めた。
「うぐぅあ!」
「じゅじゅじゅるる〜〜〜〜♪」
 果ててしまった男の鈴口から飛び出す精液を手助けするかのように、マールは力いっぱい吸い上げながらも、両手は睾丸を揉んでより沢山の精液を搾り取ろうとしていた。
「ふうぅう!」
 睾丸に走る気持ちよさとマールの吸い付きで、男は程なくして二度目の精を放つ。
 しかしマールの小さめの口の中は、一回目の男の出した精液で満杯になってしまっていた。
「こきゅ、こきゅ……」
 本当はもっと味わっていたいと思っていたマールだったが、これ以上溜めると口の端から零れ落ちてしまうと判ったのか、しょうがないといった感じで喉を鳴らして精液を飲み込み、二回目の精液が溜まる場所を開ける。
 だが精が喉を通るたびに、食道を精液が撫で上げているような快感が走り、そして胃の中に落ちると胃の隅々まで精液が拡散し、満腹感と幸福感がマールの胃を支配する。
 やがて男根が精液を吐き出すのを止めた事を知ったマールは、軽く吸い上げて尿道に残っていた全ての精を口の中へと押し込めた。
「ちゅぽん……かにゅかにゅ、もぐもぐ――――♪」
 そしてマールは美味しそうに口の中の精液と、自分の唾液を噛み混ぜ合わせながら、確りとその味を楽しみながら覚えていく。
(これが私の愛しい人の味なんだ……)
 飲み込むのが惜しいほどに美味しいそれを、名残惜しむように喉の奥へと送るマール。
「すーー……はぁ〜……」
 そして口の中に残った男の精の匂いを、空気をいっぱいに吸い込むことによって肺の内面へ刷り込み着け、空気を吐き出してちゃんと肺が男の匂いで侵されたことを確認したマールは、嬉しそうに頬を緩めた。
「次は、私の自慢のおっぱいで〜」
「待て。これ以上は許さんぞ」
 チューブトップ状の上着を脱ごうとしたマールを押し留めた男には、まだ確りとした意識の光があった。
「どうしたんですか。私のふわふわなおっぱいは嫌いですか?」
 悲しそうにそう言うマールに、多少はぐらりと来た様子の男だったが、危ういところで持ち直したようだった。
「申し訳ないが、これ以上お前と事を進める気はないぞ」
「そんなこと言っても、ここは正直ですよ〜」
 マールがさわりと撫でた男根は、もうすでに臨戦態勢だった。
「それに愛してもいない相手とは……」
「私はあなたを愛してますよ〜。それこそココが切なくなるぐらいです」
 マールは手で自分の下腹を撫で回す。
 その下にある部分が寂しくて仕方が無いとばかりに。
「ならなおさら、これ以上進めるわけにはいかないな!」
 唐突に男の手に握られていた何かがマールに振りかけられると、マールは体中に痺れが走り、その場に倒れてしまった。
「ろ、ろうひてれすか〜」
 マールが動こうとしても動けないと知っているのか、男はマールの手から逃れると、ささっと身だしなみを整えてしまった。
「助けてやったというのに、お前は仇で返すのだな」
「ひがうの、ほんろうに、わらひはあらたのころがふひなの……」
 男の勘違いを正そうと、痺れの回った舌で必死に弁明をするマール。
 どうにかマールの言いたいことが判ったのか、男は険のあった表情を多少は緩めた。
「もしお前の言葉に嘘が無いとしても、お前と一緒になるのはごめんだな」
 しかしながら続けざまに男から放たれた言葉に、マールは愕然としてしまう。
「こちらは傷ついた人を治す医者で、お前は人を傷つける盗賊だ。相容れるはずが無いだろう」
「いい子になりまふから、らから、きらわないへ」
 涙目になりつつそう懇願するマールに、男は追加の痺れ粉を吹き付けた。
「一応はお前の言う事を信じよう。ならばお前が心を入れ替え、その行いがこの耳に入ったのならば、迎えにいってもいい」
「ほ、ほんろうに?」
「本当だ……実を言えば、お前の事は嫌いでは無かったからな」
 そう男は告げると、マールの額に軽く誓いの口付けをして、そのままこのねぐらを後にした。
 これ以降マールはこの男と会ってはいない。




 私はその人の言葉を信じ、盗賊を止めて、魔物に寛容な国で暮らし始めました。
 最初は空回りして、周りの人に迷惑をかけてしまい、落ち込んだ事もありましたが、しかし私は唯一まともに出来る料理で、人々の役に立とうと頑張りました。
 そして以来十年間この学校で料理を作り学生寮を守る傍らで、あの人の情報を探しましたが、しかしいくら探しても、あの人の情報は手に入りません。
 だけど私は諦めませんでした。
 私が一所懸命この仕事を頑張れば、きっとあの人の耳に私の事が伝わると信じて……




 マールが語り終えると、会場の空気静まり返ったものになっていた。
「ちょ、ちょっと皆さん、何で黙ってるんですか。笑うなりしてくださいよ……」
 この空気に居た堪れなくなったマールは、茶化したようにそう言うと、近くにいた生徒の目からほろりと涙が零れ落ちた。
 それを皮切りに、この会場内でマールの話を聞いていた人たちの目から、ぽろぽろと涙が地面へと落ちていく。
「料理長に過去にゃ」「そんな悲恋のお話が」「あったのですねぇ」
 三人抱き合って泣き出す、マールの部下ゴブリンたち。
「マールさん!俺、マールさんのその思い人探します!」
「ずっけーぞ手前ぇ!マールさんマールさん、俺も俺も!」
「それなら、俺も俺も!」
「「どうぞどうぞ」」
「よっしゃあ、じゃあ俺がマールさんの愛しい人を探す係りね」
「「はっ。た、謀ったな貴様!!」」
「ふっ、騙されるほうが悪い」 
 そして涙を拭い終えた卒業生と寮生の皆も、マールの力になろうと誓い合っている。
 ワイワイガヤガヤと、何故かどうやってマールの思い人を探すのかという話題で、会場が盛り上がってしまっていた。
「え、あの、皆さん?」
 一人置いていかれる形になったマールは、ぽかーんと間抜けな表情をしてしまう。
 そんなマールに、そっと差し出されるコップに入った水。
 マールが顔を向けると、眠るリャナンシーを懐に抱いているアルフェリドだった。
「良かったですねマールさん。みんな協力してくれるみたいですよ」
「……元を正せばアルちゃんの所為じゃない」
 むすっとした表情で、差し出された水を飲むマール。
 語りで渇いていた喉には心地が良い。
「本当は俺一人だけでも、大恩あるマールさんの思い人を探そうと思っていたのですが。みんな手伝ってくれるようで安心しました」
「アルちゃん、まさかワザとこうなる様に、あの話題を私に振ったんですか?」
「さて、どうだったですかね」
 意地悪そうな笑みを浮かべたアルフェリドは、マールに手を振ってこの会場を後にした。
 そんなアルフェリドの態度に憮然とした後、マールはこの会場にいる皆の顔を見渡す。
 皆が皆、マールの役に立ちたいと一生懸命に話し合いをしていた。
(もう、私って本当に幸せ者ですね)
 こんなに真剣に自分の事を考えてくれている人が、こんなにもいたのだと、いまさらながらにマールは嬉しさがこみ上げてきた。
「マールさんこっちに来て、その人の詳しい特徴教えてください!」
「マールさんこっちもお願いします!」
「料理は心配しなくいいっすよ」「私達が全力で作りますから」「安心して皆のとこへ行ってくださいねぇ」
 その皆から発せられる嬉しい言葉に思わずマールは、料理しているときよりも嬉しそうな笑顔で応えてしまうのだった。




 この後卒業生の働きでマールの思い人が見つかったのか。それとも見つからなかったのか。
 ホブゴブリンの初恋が実ったのか。それとも通例のように実らなかったのか。
 いまだ誰も知らないこのお話は、このお話とはまた別のお話。
 それはまた機会があればまた語るとして。
 今回のお話――沢山の子供を持ったホブゴブリンの初恋のお話は、ここでおしまいでございます。
 



11/08/18 22:16更新 / 中文字

■作者メッセージ
はてさて、人気者のマールさんのお話でしたが、いかがだったでしょうか?

俺のマールさんは、これじゃないロボ!
もっとエロを!一心不乱のエロを!
もっと蜂蜜をぶちまけて甘くしろ!

などというご意見もございましょうが、私の想像力ではこれ以上は無理でした。

唯一の心残りは、マールさんのマシュマロのようなふわふわおっぱいで胸コキできなかったことです。
だれか、私に巨乳の書き方を教えてください。(貧乳派なのですよ私は)
それが私の望みです。

それでは次の作品でまた会いましょう!


あと誰だ!私に陵辱系の電波を流したの!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33