読切小説
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魔物娘に時代劇っぽいことさせてみた。
鬼平犯科帳

 いつの世にも、悪は尽きない……

「大変だ! 魔物どもに我々主神教団特務部隊の潜入が露見したっ!」
「なんだとっ!? おのれっ、これではこの親魔物領にある幼稚園の送迎馬車を襲って、攫った子どもらに反魔物思想を教え込むという作戦が──」

 どっぱああああああああんっ──!!

 次の瞬間、アジトにしていた廃屋の雨戸が勢いよく吹きとばされ、武装した魔物娘たちが一斉に駆け込んできた。

「くそっ! 手が回ったっ!」
「早過ぎるだろっ!? チクショウっ!」
「これが話の都合ってやつかああっ!」

 たちまち取り囲まれる男たち。
 ずらりと居並ぶ魔物娘騎士。漆黒の鎧を身に纏って腰に大刀を佩き、首がポロっと外れ落ちないように専用のチョーカーを巻いた、デュラハンたちだ。
 そのセンターに立つ、ショートヘアの凛々しい美少女が、剣を片手に名乗りを上げる。

「コホン、火付盗賊改方、長谷川──もといっ、魔王軍親魔物領派遣隊でああ〜るっ! おとなしく縛につけ! …………歯向かう者は、お婿さんだっ!」
「「「…………」」」

 残念な子を見るような周囲の視線もなんのその。ノリノリで剣の切っ先を教団兵らに突きつける。

「くううっ、一度言ってみたかったのよね〜このセリフっ♪」
「隊長、首の繋ぎ目ずれてますよ……」
「おとなしく縛についてもお婿さんだろ……」

 このあと全員三々九度ののち、嫁に連れられ市中引き回しと相成った。



銭形平次

「大変だ! 魔物どもに我々主神教団特務部隊の潜入が露見したっ!」
「なんだとっ!? おのれっ、これではこの親魔物領の貯水池に、住人を反魔物思想へと目覚めさせる聖水を投げ込むという作戦が──」

 どっぱああああああああんっ──!!

 次の瞬間、アジトにしていた倉庫の鉄扉が勢いよく吹きとばされ、スク水着の上から羽織を着て、腰に巻いた帯に十手を手挟んだ河童娘が、スキュラに海和尚、サハギンといった水陸両用魔物娘の捕り方たちとともになだれ込んできた。

「ちょっと水陸両用魔物娘って何っ? アタシらはゴッグか? ズゴックか?」
「スキュラどのスキュラどの、今回のテーマは時代劇だから、そういうの置いといて」
「…………アッガイ(ぼそっ)」

 ひそひそ言い合う後ろも、とりあえず置いといて。
 河童娘は腰を浮かした男たちをぐるりと睨みつけ、一歩前に踏み込むと、

「おうてめえらっ、こそこそ隠れて悪だくみしてんじゃねえっ! たとえ魔王様が見逃しても、あたしらの目の黒いうちは、ここの水辺に好き勝手な真似はさせねえぜっ!」

 威勢よく啖呵を切り、流し目とドヤ顔で見得を切った。

「……ちっ!」

 教団兵のひとりが舌を打ち、それを合図に他の連中が腰の剣に手をかける。
 それに気づいた河童娘は、腰に吊るした穴あき銭を素早く抜き取ると、彼らの手首に向けて投擲した。
 水切り石の速さで投げつけられたそれは、教団兵たちの手をことごとく打ち、同時に背後の捕り方たちが得物の刺又や大槌を振りかざし、一斉に襲いかかる──

 ……と思ったら、いきなり横から人影がとび込んできて、投げ銭を口や手足の指の間ではっしと受け止め、勢いのまま床でくるっと一回転して膝着いた姿勢で両腕を翼のように広げてポーズをきめた。

「な……っ!?」
「ま、まさか勇者かっ!?」
「いや違うっ、奴は──」

 その人影はゆっくりと立ち上がり、河童娘の顔をビシッと指差すと、

「あんた何さらしとんねんっ!? ええか、一銭をムダにするもんは一銭に泣く! 小銭やからゆうてポンポン放ったりするなんて真似、たとえ魔王さんが見逃しても、ウチの目ぇの黒いうちは絶対に許せへんでぇっ!」

 威勢よく啖呵を切り、流し目とドヤ顔で見得をきめた。

「…………」
「…………」
「……と、ゆうわけでコレみんなもろとくわな〜♪」
「「「空気読めこの守銭奴狸っ!!」」」
「「「緊迫感返せコノヤローッ!!」」」


 ホクホク顔を浮かべる通りすがりの刑部狸に、敵味方から一斉にツッコミが入った。



水戸黄門

「大変だ! 魔物どもに我々主神教団(以下略)」
「なんだとっ!? おのれっ、これではこの親魔物領の魔物娘に変装して子どもらのお菓子を奪い取り、その罪をなすりつけるという作戦がっ──」

 どっぱああああああああんっ──!!

 次の瞬間、アジトにしていた廃教会のドアが勢いよく吹きとばされ、三つの小柄な人影がゆっくりと入ってきた。
 ひとりはもふもふロリッこファミリア、もうひとりはセクファンシーな衣装に身を包んだお子さま魔女。
 そしてその二人の間で、杖を片手に仁王立ちしているのは──

「えーいものどもひかえーい! ひかえおろー!」
「え、えっと……(ごそごそ)こ、こちらにおわすおかたを、だっ、だれと、こころ、えろっ。じゃなかった、こころ、えるっ。……あー、お、おそれ〜、おおくも──」
「ちょっとあんた、メモ見ながら言うのやめなさいよ」
「だって〜、ファミリアちゃんと違ってセリフ長いんだもんっ」
「ええいお主ら何ぐだぐだやっておる! 見ろ、お兄ちゃんたちが皆、目を点にして固まっておるではないかっ」
「「あ……」」

 やり直し。

「えーいものどもひかえーい! ひかえおろー!」
「こ、こちらにおわすお方を、誰とこころえるっ。お、おそれおおくも、魔王さま第99番目ご息女のお世話係、バフォメットのミトミッツさまにあらせられるぞっ。……はぁ〜っ、言えたぁ〜」
「よくできたのじゃ♪ 褒美にあとで飴をやろうなのじゃ」
「わ〜い」

 しかし、偉いんだか偉くないんだかよくわからない立ち位置なためか、二人の間で踏ん反り返っているちびっ子バフォメットにおそれいる者は、この場には誰一人いなかった。
 そもそも教団兵にとって、魔物娘の役職だの地位だのどうでもいいことである。だから……

「ええいだまりゃ! マロはおそれ多くも教皇さまより司教の位を賜わった身じゃ! すなわち主神さまのシモベであって魔王の家来ではおじゃらん! そのマロの部隊に狼藉をはたらくとは言語道断! このこと直ちに教皇さまに言上し、きっとそちらの領主に抗議してくれるゆえ、心しておじゃれ!」

 お貴族様っぽい小隊長が全力の顔芸とともに、金切り声でわめき散らす。まわりの教団兵らも、子どもなのはどうせ見た目だけだと割り切ったのか、一斉に抜刀して構えをとった。

「はぁあ……余所の国に武装した兵士を黙って大勢送り込んでおいて、よく言うわ」

 ここにも儂のお兄ちゃんはおらなんだか……とつぶやくと同時に、彼女──バフォメットの目が据わった。

「せっかく穏便に済ませてやろうと思うたのに……助さん格さん、ちと懲らしめてやるのじゃ!」
「やっぱり力技になったか……」

 それだと儂らが毎回肉体言語で解決してるように聞こえるのじゃ〜、というバフォ様のわめき声をスルーして拳をボキボキ鳴らし、脚を前後に開いて構えをとるファミリア。その横で魔女っ子も、どこからともなく出したホウキを逆持ちで正眼に構えた。

「ねえねえ、やっぱりファミリアちゃんが格さんなのかな?」
「なんで?」
「だって、素手で戦うのは格さんでしょ? 力だすき、いる?」
「いらないわよ……」



鉄板のあれ

「おおっ、初い奴じゃ初い奴じゃ♪ 蒼い肌をほんのり赤う染めおって……」
「お戯れを…………あっ、い、いやっ! な──何をなさいますっ!?」
「ほぉれ、もっと近う……近う寄れっ」
「だ、駄目ですっ! そ、そこは──」
「ふふふ、良いではないか、良いではないかぁ〜」
「お、おやめください旦那さま。ああっ、そんな、そんなご無体なぁぁ……」
「ええい、良いではないかと申しておるにっ。……そーれっ!」

「あああ〜れえええ〜っ! お助けえええええええええぇ〜っ!!」

 てな具合に、酔った勢いで夫と帯回しプレイに挑んだアオオニさんだったが…………



 …………回されすぎてその場でリバースした。



遠山の金さん

「つまり貴方は、今回の件に関して全く身におぼえがない──そう言いたいのですね?」

 そう言って、彼女は顔にかけていた眼鏡を直した。

「ああそうだよ。店の中に教団兵がいたのは、連中がいきなり押し込んできたからだ……こっちは被害者なんだよ。だからとっとと帰してくれないかな」

 今、主神教団の特務部隊を手引きした容疑で、ひとりの男がお白州で取り調べられていた。
 正面の一段高いところには、長い髪を引っ詰めにして、かちっとした真紅のレディススーツを身に着けた堅物そうな取調官の女性。その奥の机には調書をとる男性の書記官。男の背後にはリザ子……もといリザードマンの衛士が無表情で突っ立っている。
 男は十年以上も前からこの親魔物領に住む交易商。
 商売自体は真っ当だが、時おり魔物娘を見下すような発言をすることがある。
 なのに親魔物領に店を構えているのは、単にここが交通の要所で取引に便利だからだとか。

「しかしながら、逃げてきた教団兵らを貴方がかくまい、別の悪だくみの相談までしていたとの証言がありますが──」
「何度も申しますけど、こっちはあいつらとは一切関わりないですから。……ま、そんなにおっしゃるのなら、その証言をしたお方を連れてきてくださいよ、今すぐ」

 そう言いながら、彼は腹の中でほくそ笑む。
 主神教団のスリーパーとして、今まで疑われることなく作り上げてきた交易商という表の顔≠利用し、攫った人間を国外へ運び出す算段を付けたり、逆に聖水──洗脳用の魔法薬を国外から持ち込んだり、武器や防具だけでなく変装用のコスプレ衣装(笑)なども密かに用立てたりしてきたが、いずれも足がつかないよう細心の注意を払ってきた。

 ──だから証拠なんて存在しないし、証人なんてのもハッタリだ……そうに決まってる。

 そう、魔物娘たちの手入れ≠ゥら逃げてきた連中をかくまう時も、誰にも見られないように裏口から中に入れ、店の者とも一人として顔を合わせてはいない──

 いや待てよ。あの時、確か……

「いましたよね。サクラという名の、遊び人風の女の人が──」
「……!」

 取調官の女性が、まるで心を読んだかのように問いかけてきた。
 違う。そんなはずはない。ちゃんと人払いしていたはず…………けどなんだろう? あの時、自分たちのそばに誰かがいたような気が……

「さ、さあ誰ですかそのサクラとかいう人? そもそもそんな得体の知れない女の証言、信じられるとでも──」
「…………」

 彼は取調官の射抜くような視線から目をそらし、笑みを浮かべようとしたが、その口元は意に反して不自然に引きつってしまう。
 そんな男の様子に気づいたのか、彼女は右の肩をぐりっと回し、眼鏡を外してテンプルの端を咥えると、首を傾げて目を細め、ニッと嗤った。

「おやおや、つれないねぇ」
「……!?」

 一転、婀娜っぽい口調になったかと思うと、口の端にあった眼鏡がいつの間にか長煙管にすり替わっていた。
 さっきより赤みを増した口元に目がいくと、そこからふうっと吐き出された紫煙が黒く染まり、男の視界を覆い尽くす……そしてそれが晴れると、目の前の女性は引っ詰めてあった髪を背中に流し、素肌に黒の単衣を纏って赤い帯を前で締めた、ジパングの遊女みたいな姿に変わっていた。

「な……な……」
「ふふっ、どうしたのさ? ほれ、あたしのココに見憶えあるってんだろ? ……見忘れたなんて言わさねえぜぇ〜」

 肌蹴た胸元から片乳と、その桜色した乳首を見せつける取調官……否、魔物娘ぬらりひょんのサクラ。
 男は顔を赤らめながらも、がたがたと震えだした。
 そうだ、この女だ……逃げてきた教団兵たちを店の離れに連れていき、そこでこれからどうするか相談していたら、いつの間にか窓際にあった椅子に腰掛けて、さっきからずっと居てましたよって顔をして茶を啜っていた奴だ。
 訝しんだのは一瞬だけ。その後は誰も気にも留めずに……否、煙管を吸う口元と肌蹴た胸元をチラ見しながら、「街のあちこちに火を放ち、その混乱に紛れて脱出しよう」と教団兵の誰かが言い出したところで、衛士たちに踏み込まれて──

「お前さんがなかなか尻尾つかませてくれないから、ちょいとお邪魔させてもらったのさ」

 彼女はそう言いながら、ふわりと浮かび上がるように立ち上がったかと思うと、一瞬で男の鼻先に顔を近づけ、その顎に手をやった。

「お前さん、ここでずーっと商いやって暮らしてたんだろ? 長いこと居てりゃあ知り合いもできるし、中には気心知れた奴もいたんじゃないかい? ……おっと、任務だとか芝居だとか言いっこなしだよ。確かに最初はそうだったかもしれないだろうけど、五年十年も経ちゃあ、ウソもホントに化けちまうってもんだ。特にお前さんは、一から十まできっちりしてなきゃいられない性分みたいだしね──」
「あ……、あ……」

 知り合いや店の人間を巻き込んじまう──って心のどこかで思っちまったから、その隙間にあたしが入り込めたのさ……

 がくりと肩を落とし、観念した男はリザードマンの衛士に引っ立てられていった。
 その後ろ姿を見送り元の位置に戻ると、サクラはニマッと笑みを浮かべて煙管を指先でくるっと回し、いつの間にかそばに置かれていた煙草盆に、火皿の部分をコンと当てた。

「これにて一件落着♪」

 ──さぁて、あとはそちらにおまかせいたしますよぅ……



暴れん坊将軍

「大変だ! 魔物どもに全ての特務部隊が全滅させられた! 潜入工作員との連絡もつかない!」
「なんだとっ!? おのれっ、これでは彼らに呼応してこの親魔物領から魔物どもを一掃し、しかるのちに領民を教化、徴兵して我らが祖国を奪い返すという計画がっ──」

「ふ〜んなるほど……捕まった連中はみんな、あなたたちから目を逸らさせるための囮だったってわけね」

 どこからともなく女性の声が聞こえてきて、聖騎士の鎧を着た男とその副官は、「誰だ!?」と叫んであたりを見回した。
 ここは別宅という触れ込みで、潜入工作員が用意していたセーフハウス。その庭の暗がりから人影がひとり、ゆっくりと近づいてくる。

「何奴っ!?」
「ふふふ、私の顔に見憶えなくて? レスカティエ教国奪還派の聖騎士さん♪」
「「……!!」」

 そう言って聖騎士と副官の前に現れたのは、胸元を強調した濃紫のドレスを身に纏い、腰にカタナを下げた美女。
 銀の髪と紅い瞳、頭に黒曜石のように黒光りする一対の角。腰からは髪の毛と同じ色の翼膜と、先端がハートマークのような形になった尻尾が生えている。

 リリム──魔王の娘たる、サキュバスの最上位種。

「「…………」」

 彼らは口を半開きにして惚けたようにその顔を見つめ、無意識に右手を股間へともっていきかけたが、二の腕に刻印された対淫魔用防御神紋が自動的に発動し、その聖なる力で正気を取り戻す。
 だが、二人は改めて彼女の顔を見て、驚愕の表情を浮かべた。

「お、お、お前は……っ! 大淫魔デルエラっ!?」
「な、なんでこんなところにっ!?」

 淫魔デルエラ。魔王の四女。神聖国家レスカティエ教国を、たったひとりで一夜のうちに魔界へと墜とした世界一有名なリリム。
 しかし、それ以降表舞台に現れることはほとんどなく、姿形はともかくその実情を知る者は少ない。そのため「教国攻略時に自らが魔物娘化した連中が、いろいろフリーダム過ぎてその尻拭いに忙殺されている」などと、まことしやかに囁かれている……

「いかにもリリムのデルエラよ。……ねえ、もし今ここで手を引いてくれたなら、奥さんや恋人がいる人だけは見逃してあげるわ。どう?」

 余裕綽々の態度で両手を当てた腰をくねらせ、艶然と微笑む白き淫魔。
 ともあれ、ひと山いくらの勇者や聖騎士如きが太刀打ちできる存在ではない……

「くくく……くはははは……は〜はははははははははっ!!」
「……え?」

 だが、聖騎士の男は突然イっちゃったような顔で三段笑いをぶちかまし、デルエラの目が点になる。
 そしてひとしきり笑い声を上げ続けると、彼は目の前にいる怨敵をビシッと指差し、ヤケクソ気味に叫んだ。

「デルエラだと? わはは、あのデルエラともあろう者がっ、こんな酒の席で思いつかれたネタSSになど、出てくるはずがないっ! ええいものども出合え出合えぇっ! この不届きなニセモノを始末するのだっ!! うわああああ〜んっ!!」

 そうっ、ここにいる聖騎士たちは……自分も含めて全員独り身のDTだっ! 文句あっかちっくしょおおおおおっ!!

「あんた、何メタいこと言いながらマジ泣きしてんのよ……」



鉄板のあれ=iその2)

「おおっ、初い奴じゃ初い奴じゃ♪ 肌をほんのり赤う染めおって……」
「…………」
「ほぉれ、もっと近う……近う寄れっ」
「…………」
「ふふふ、良いではないか、良いではないかぁ〜」
「…………」
「ええい、良いではないかと申しておるのにっ。……そーれっ!」
「…………」
「…………」
「……………………で?」



 重量級のソルジャービートルさんで帯回しは、さすがに無理だった……

「超信地旋回……」

 だから無理するなって──



必殺仕事人

 ところ変わって、とある反魔物領。
 時刻は夜。三人の高位神官たちが、王侯貴族御用達の看板を掲げる高級料理店の離れで、年代物のワインが注がれたグラスを手に談笑していた。

「親魔領への潜入部隊、勇者様≠ヘ何人投入されました?」
「さて……ひとつの部隊につき三、四人はおるじゃろうから、皆で十人少しというあたりかの」
「一度に十人! それは凄いっ。かの教国の再来だっ」
「ふふふ……」「ふははは……」「ははははは……」

 三人は手にしたワイングラスの縁を軽く合わせ、肩を震わせる。そして、耐えきれなくなったように笑い声を上げた。

「……で、今回の作戦はどうなったのかの?」

 ひとしきり笑い合うと、神官のひとりが尋ねた。

「ダメに決まってますでしょう。勇者とは名ばかりの雑兵ども、小隊長は世間知らずのへっぽこ貴族たちですぞ」
「後詰めの聖騎士どもも、未だに『レスカティエを取り戻す!』とか喚いている時代錯誤な連中だしな」

 残りのふたりが口々にそう言って、ワインに口をつける。

「しかしまあ、多少は粘ってもらわんと格好がつかぬ」
「生活苦の若い者に勇者の神託を適当に授けて徴兵し、ろくな訓練も装備もなしにいきなり最前線とはちと酷じゃがの」
「実地訓練ですぞ、実地訓練。それに最初から聖剣など与えてしまっては、それを自分の力だと過信してしまう……これも勇者様≠スちのためですぞ」
「その勇者用に下賜された聖剣や防具を地下マーケットに横流ししおって……罰当たりめが」
「教会総本部からの勇者育成資金を着服しているお二方には、言われたくないですな」
「違いない。うわははははははは── ……!?」

 笑い声を途切れさせた次の瞬間、突然天井からアラクネの少女が飛び降りてきて、入れ違いにナマグサ神官のひとりが彼女の糸に引き上げられ、宙吊りになった。

「うわああっ!?」
「まっ、魔物ぉっ!?」

 驚く残りふたりを尻目に、蜘蛛娘は手前に引いた糸を空いている手の指で軽く弾いた。

「ほぐぅあっ!」

 宙吊りにされた神官は、首に纏わりついた糸から伝わった快感に奇声を上げ、ブルっと痙攣したかと思うと、股間から大量の白濁をぶちまけた。

「ぎ、ぎゃあああああああっ!!」

 上から落ちてくる白いモノに恐怖と気色悪さをおぼえて後ずさったもうひとりの神官は、いつの間にか忍び寄っていた小柄な影──バンプモスキート娘に背後から顔と腕をつかまれ、彼女が口に咥えていた針をうなじに突き刺されてしまう。

「うぎゅおっ!」

 そこから背筋を一気に駆け下りた快感にその身を反らせ、彼は屹立した逸物から凄まじい勢いで射精する。立て続けに放たれたそれは着ていた法衣を突き抜けて、天井からぶら下げられたまま失神している神官の顔に命中した。

 プツッ──

 糸が解かれ針が抜かれ、折り重なるように自ら放った白濁の上に倒れ臥す二人の神官。
 あっという間に(知らない者が見たら)アッ────! な現場のできあがりである。

「う、うあ、あ……助け──」

 彼らを見捨てて部屋をとび出した三人目の神官は、足をもつれさせて倒れこみ、廊下に手をついた。
 ふと顔を上げ、向こうから誰かが近づいてきたのに気付く。

「……む、どうなされた?」
「お、おお……っ、ヴァ、ヴァルキリー殿っ!」

 波打つ黄金色の髪と湖水のような蒼い瞳、均整のとれた肢体を鎧に包み、背中に純白の翼を持つ天界の騎士。魔物を滅するために主神より遣わされた戦乙女。
 神官は身を起こして彼女──ヴァルキリーにあわてて駆け寄ると、連れたちが魔物に襲われたことを息も絶え絶えに訴えた。

「た、たすけ──助けてくれっ」
「わかりました。貴方は後ろに下がって。ここはわたしが……」

 戦乙女は神官が逃げてきた方を睨み付けると、彼を背中にかばい、腰の剣を抜き払った。
 そしてそれを逆手に持ち直すと…………自分の翼越しに、その切っ先を後ろにいる神官の腹に深々と突き刺した。

「……っ!?」

 白い羽根が数枚、花びらのように舞い散った……

「なっ……な、何を──」
「いい加減、主神の名の下に甘い汁を吸ってきたツケを払う時だと気づかないのか? おめでたい奴だ……」

 顔を歪めて翼にしがみついてくる男を目の端でちらっと見て、ヴァルキリーは切っ先をさらに抉りこませる。
 息を絞り出すようにうめき声……否、刺された部位から身体中に染みてくる快楽に喘ぎ声を上げた神官は、彼女の剣が魔界銀製であることに気付いて目を剥いた。

「ば、馬鹿……な…………だ、堕落していない身、でっ、……な、何故、魔物、どもの……武器、がっ、つ……使え、る──っ?」
「さあな。ま、いずれ我が身も闇に堕ちるだろう……だが、お前たちと同じところへ堕ちるのだけはご免こうむる」

 生まれたての子鹿のようにガクガクと脚を震わせ、三人目の神官は下半身から精液と小便をぼたぼたと垂れ流すと、腰から崩れ落ちて失神した。

「…………」

 ヴァルキリーは剣を鞘に収め、何事もなかったかのように翼を翻してその場を立ち去った。



桃太郎侍

 ドタドタと足音を響かせて、聖騎士の鎧を身に着けた男たちが白き淫魔──デルエラを取り囲む。
 そして腰の剣を一斉に抜き放ち、その切っ先を彼女に突きつけた。

「はああ仕方ないわね……いいわ、今すぐ楽にしてあげる──」

 ぐるりとまわりを見回しそうつぶやくと、デルエラは腰に下げた魔界銀製のカタナに手をやった。

「……う、うわあああああああ〜っ!!」

 腕に施された対淫魔神紋から、リリムの魅了に抗えるよう断続的に送られてくるキンタマ蹴っとばされたようなキモい痛みに耐えられなくなったのか、正面にいた騎士が絶叫とともに剣を振りかぶる。
 しかしデルエラはその直前に前へと踏み込み、腰のカタナを抜き放ちながら、がら空きになったそいつの胴を居合でなぎ払った。

「ぐああっ──!」
「ひとぉつ……」

 血飛沫の代わりに白濁をまき散らして倒れ臥す騎士を尻目に、左右から同時に襲ってきた相手をいなし、流れるような太刀捌きで二人とも斬り捨てる。

「……人の世、ざあめんを啜り──」

 そのまま騎士たちの間を流れるように動き、瞬く間に数人を斬り倒すと、カタナを正眼に構える。

「ふたぁつ、ふしだら淫業ざんまい──」

 背後から襲ってきた騎士の鼻先に、右手一本で持ったカタナの切っ先を突きつけて牽制、好機とばかりに前から斬りかかってきた別の騎士の剣を、腰の後ろに手挟んでいた小太刀を左手で素早く抜き払って受け止める。
 そしてそのまま押し返し、後ろにのけ反ったところを袈裟斬りにする。

「みっつ短いDTチンポ、(性的に)退治てくれよう、魔物娘っ!」

 二刀を巧みに操って残った聖騎士たちを白濁の海に沈め、両脚を開いて胸を張ると、白き淫魔は流し目で見得を切った。

「お……おのれっ! ヤラせはせん、ヤラせはせんぞおおっ! 我ら主神教団の輝ける栄光を、再びかの地に取り戻すまではあああっ!!」
「その教団の栄光とやらがなくなって、生活苦の親に棄てられて貧民街を彷徨う子どもたちも、子どもを戦争に取られて絶望する親たちもいなくなったんだけどねえ……」

 ぶるぶる震える切っ先を向けてくる三段笑いの男──聖騎士たちのリーダーに、無双タイムを終えたデルエラは、溜め息混じりにそう返した。

「う、う……うっ、う──」

 そして男は言葉に窮し、ついに小学生レベルのNGワードを口にしてしまう。「……う、うるさいうるさいうるさいっ! この年増のババアビッチっ!!」

「あ"? ……今なんつった?」

 このあと魔界銀製のカタナで滅多斬りにされ、彼は半年ほど射精が止まらなくなったという……



「……いやぁ、ひさびさに暴れられてスッキリした♪ あ、でもあの聖騎士たちが急に二の腕押さえて『うおおっ、鎮まれ、鎮まれ俺の左腕ぇっ!』って一斉に声揃えて叫び出した時は、さすがの私もマジで引いたわー」

 そんなことやってませんし言ってません。……思いつきで変な小ネタぶっこまないでください、デルエラ様。
17/05/28 21:33更新 / MONDO

■作者メッセージ
 ところでデルエラ様、「桃太郎侍」って始まった当初は、口上も数え歌もなかったってご存知でした?

「あらそうなの? 般若の面と薄衣被ってくるくるくる〜っ、ばば〜んっ! て印象が強いんだけど」

 最初は人情時代劇だったんですが、主題歌を歌っているお客様は神様ですの人に「お地味ですね」って言われて、ああなったらしいですよ。

「なるほど、かの人のひと言がきっかけだったから、衣装なんかもド派手になったわけなのね〜」

 実際に衣装や立ち回りのアイデアを出したのは、桃太郎の人だったそうです。数え歌も十(とお)まで考えたけど、全部歌い終わるまでに立ち回りが終わっちゃうから三つになったんだとか。

「ナニソレ……? でも一度聴いてみたいわね、フルで♪」

 …………

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33