読切小説
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まもむす落語「ENー4U.hack」
 とん、とん、とんとんとんとん。
 ちゃかちゃかっちゃ〜、ちゃかちゃかっちゃ〜、ちゃかちゃかっちゃ〜、ちゃかちゃか〜♪

 ぱちぱちぱちぱち──

 どうもまことにありがたいこって、一生懸命のおしゃべりでございます。ばかばかしいところでございますが、しばしお付き合いのほどよろしゅうお頼み申し上げます。

 先日、後輩くんから結婚式の招待状をもろたんですが、今日びはもう往復ハガキやのうて、SNSで送られてくるんですな。

 書かれてたアドレスをタップしましたら、いきなり有名どころの漫画の主人公がヒロインにプロポーズする場面が出てきよりまして、凝ってんなぁけど著作権大丈夫なんやろかとか思いながら下へ下へとスクロールすると、出欠やコメント欄、食事のアレルギーの有無なんかを書いて送るとこがありまして、ほんま便利になったもんやと感心しとりました。ともあれ後輩くんには幸せになってほしいもんです。

 しかしまあ、昔々から夫婦(めおと)というものは、面白いものでございます。生まれも育ちも違う男女が好きおうて結ばれて、ひとつ屋根の下で暮らすようになる。生涯をともにする、というやつでございますな。

 んで、まあこないな不思議な縁を結ぶんが、ジパングではイズモの神さんやと言われとりますが、そうは言うてもいきなり神さんがひとりもんの目の前に現れて、

「どないだ? 婿さん嫁さん紹介したろか?」

 なんて声かけてくるわけではございません。

 そこはまあ、いろんなヒトの口を借りて、縁を結ぶっちゅうわけでして──



 トントントン──「いてるかいな?」

「あ、大家さん。へいへい入っとくんなはれ」

「おおきに。ほなちょっと上がらせてもらうで」

「どうぞどうぞ。で、今日はなんのご用で?」

「いやいや、お前さんもええ歳や。ぼちぼち身を固めてみてはどうかと思うてな」

「身を固める……わたい、完全武装フルアーマーでどっかにカチコミ行かなあかんのでっか?」

「なんでそんな物騒な発想になるんや? そうやのうて、嫁さんをもらう、結婚して所帯を持つ気はないかと訊いとるんや」

「結婚? 所帯? そりゃ、わたいかて嫁さんもらえたら嬉しいですけど、こちとら稼ぎはようない、頭も顔もようない、彼女いない歴イコール年齢の、ないないづくしの独り身でっせ。そんな浮いた話、ひとつもありゃしまへん……あ、もしかしてどこぞに出物が?」

「出物とか言うやつあるかいな。まあ、わしの知り合いの洋学者さんとこで行儀見習いやっとる娘さんを、お前さんに紹介しようっちゅうわけや。年格好は悪うないと思うで。色が白うて鼻筋のスッと通った、目元の涼しい、口元のキュッと締まった人形さんみたいな別嬪さんでな」

「はー、そりゃまた願ったりかなったりなええ話ですけど、なんぞ裏があるんとちゃいます?」

「失礼なやっちゃな……せやけど確かにワケありっちゅうか、キズがあるっちゅうか、まずはそこんところ腹に収めてもらいたいねん」

「はあ、やっぱそうでっしゃろなあ。あんまりにも話がうますぎる。色が白うて鼻筋の通った目元の涼しい別嬪さんが、わたいのとこへ嫁いでくれるなんておかしいなぁって……いやそんくらいのこと、いくらわたいの頭でもピンときますがな。キズがあるっちゅうことは、茶ぁ飲んだらヘソから漏れて出てしまうとか、そんなとこでっしゃろ?」

「アホか。ヒビの入った茶碗やあるまいし、そんなお方がどこにおんねん。まあぶっちゃけて言うたら、実はその娘さんな、魔物娘なんや」

「魔物娘! つったら駅前の甘味処で働いてる狐っ娘(こ)のマキビちゃんとか、口入屋の女将で毛娼妓のコイト姐さんとか、剣道場の師範代やってる抜け首娘──デュラハンのマリナさんみたいな娘でっしゃろ? ええですやんええですやん。拙者、魔物娘好き好き侍でござる」

「何、キャラ変えとんねん。まあお前さんがまもむすスキーで乗り気になってくれたんはありがたい。けど、クセのある魔物娘やっちゅうことだけは言うとくで」

「皆までおっしゃいますな。クセのある魔物娘ゆうたらヴァンパイアでっしゃろ? お日さん出てるときは大人しゅうしてるけど、夜になったら急に強気になって行灯の油をペ〜ロペロと──」

「なんかちゃうもん混じっとるけど、ヴァンパイアやないで」

「ほなレッドキャップでっか? こっちも普段は大人しいけど、被ってる帽子が赤うなったら『今宵の村正は血に飢えてござる〜』とかゆうて誰彼構わず斬りにいくっちゅう──」

「カースドソードとごっちゃになっとるがな。そないな危険な魔物娘、お前さんみたいな知ったかオタクには荷が重いわ」

「なんか軽くバカにされたような気が……せやったらアレでっしゃろ? ジャガー娘のオセロメー。むっちゃ好戦的でケツアルなんとかって神さん拝んどって、戦う前に両肘を直角に曲げて片脚上げて儀式するってゆう──」

「それどこのウルトラ蛮族……ああもうラチあかんから黙って聞いとき。お前さんに紹介する娘さんは、オートマトンのお嬢さんや」

「マトン? ワーシープの亜種でっか?」

「ちゃうちゃう、そのマトン──羊肉のことやない。お前さんの好きそうな言葉で言うたら、あー、そや、ロボットや」

「ロボット? 『十万馬力』で『いいも悪いもリモコン次第』ってゆう、あのロボット?」

「たとえが古過ぎて古典の域やな。せめて『炎の臭い染み付いて、むせる』くらいにしとかんかい」

「大家さんも結構マニアックでんな。ちなみにそいつはロボットやのうて、ヒト型した動く鉄のカンオケだっせ」

「やかましいわ。まあ話戻すけど、要するに女性型のロボット、ガイノイドが魔物化した娘さんっちゅうわけや」

「女性型なのにガイ≠ニはこれいかに」

「そこは触れんとき。ただまあ、動き出してから一年ほどしか経っとらんらしいから、話し方──言葉遣いに抑揚がのうて、少々小難しいんがたまに瑕(きず)なんやが」

「言葉遣いが、小難しい? それがキズでっか?」

「せや。こないだ道端で会うたときに、『おや、どこかお出かけで?』って尋ねたらな、

『ほんきはじゆうこうどうをきょかされてしがいをさんさくちゅうとっぱつてきなたいきのりゅうどうによりしかくせんさにびさいぶっしつがしんにゅうしけいどのそんしょうをうけたためじこしゅうふくきのうをさどうさせいぶつをせんじょう、はちじゅうぱーせんとのかいふくをかくにんしてたいきもーどをかいじょしげんざいきろについております』

 なんて応えてきたんや。意味わかるか?」

「ちょっと何言ってるかわからない。……レスカティエ語だっか?」

「んなわけあるかい。わしもそんときは『はあ、そうですか。ではさいなら』って誤魔化して別れたんやけど、まああとからようよう考えたら『ほんき』っちゅうのは本機、つまり自分のこと。んで『とっぱつてきなたいきのりゅうどう』言うんは、まあ突風のことやろな。『しかくせんさにびさいぶっしつがしんにゅうし』は早い話、目にゴミが入ったってことで、『いぶつをせんじょう』はそれを涙で洗い流したって言いたかったんやろ」

「はー、さすが大家さん、年の功でんな。せやけどそないなもって回った言い方、一字一句ようおぼえたはりましたな」

「アレを『もって回った言い方』って言うてしまうんもたいがいやな。まあ、そこも触れんとき──って流すとこやけど、わしもオートマトンのお嬢さんが言うてたことの意味が気になって寝られへんかったさかい、文字起こしして考えとったら、なんや知らんうちにおぼえてしもたんや。……で、こんな娘やけど、お前さんどうする?」

「どうするもこうするもせっかくのご縁やし、別嬪さんの魔物娘の嫁さん、もらいまひょ。よろしゅう頼んます。オートマトンかなんかよう分かりまへんけど、闇蜘蛛娘の罵詈雑言に比べたら、言葉が分かりにくいくらいどうってコトあらしまへん……ううぅっ」

「お前さんアトラク=ナクアの娘となんかあったんか? まあええわ、ほなこの縁談、ちゃっちゃと進めるで」

 ……てな具合でトントン拍子に話がまとまりましたらこのアホ男、すっかり舞い上がってしまいよりまして、いきなり身綺麗にせなあかんと昼間っから風呂屋へ行き、帰ってきたらきたで部屋のホコリが気になって家中大掃除してまた汗だくになりよって、夜は夜で新婚生活のシミュレーションという妄想で一人芝居をかまして隣近所に気味悪がられまして──

 そんで後日、大家さんが言葉遣いの小難しいオートマトンのお嬢さんを連れてまいりました。

「ほんきはまくすうぇるいんだすとりーしゃせいはんようせいかつしえんおーとまとんえふたいぷいーえぬふぉーゆうゔぁーじょんすりーどっとぜろわんしりあるなんばーぜろぜろぜろないんつー。おぺれーてぃんぐしすてむあじもふふぉーしっくすゔぁーじょんいれぶんでどうさしております──」

「大家さん大家さん、通訳してんか」

「わしに振りなや……そや、ここ来る際に洋学者さんのご内儀(奥さん)から『ちゃんとご挨拶しなさいね』って言われてたみたいやし、たぶん自己紹介とちゃうか?」

「せやったら名前、なんぼなんでも長すぎでっせ。……すんまへん、それお一人分でっか? ご親戚やお友だちのも一緒に預かったはるってなことおまへんやろね? 近所で火事なんかになったら、火事や! 早よ逃げまっくすなんとかたいぷなんちゃらなんばーあれこれしすてむどーたらこーたらゆうとるうちに燃えてしもて長い名前が長いお経になってなんまいだ、チーンですやん」

「相変わらず物騒なコトを言う。ほんま大げさなやっちゃなぁ」

 ……とかなんとか男二人がやいやい言い合うておりますと、オートマトンのお嬢さん、やにわにずいっと身を乗り出しまして、

「これよりかりますたーからほんきのけんげんをいじょうするためますたーのいでんじょうほうをさいしゅしれべるつーのせいたいにんしょうとうろくをじっこういたします」

「マスター? わたい飲み屋の主人やないんやけど──むごぉっ!?」

 ……やくたいもないことほざきますアホ男の口に自分の唇をくっつけて、ディープなキッスをぶっちゅーっと。流石に大家さんもこれには目を白黒させまして、

「ま、魔物娘さんがお盛んなんはつねづね聞いとったけど…………あ〜その、ま、まああとは若いもん同士で、あ、あんじょうやりなはれ──」

「はっ! ち、ちょっと大家さんどこ行かはるんっ!? 祝言の段取りはっ? いきなり二人っきりはぁって……ああ、鴨居に頭ぶつけて敷居に蹴つまずいて泡食って行ってもうた。え〜こっからどないせい、と……ちょ、ちょっとあんさん、何、着物脱いでますん? うわ、ほんま人形さんみたいになっとるんや……ってそうやのうて! ちょっ、な、なんでわたいの下帯ずらそうとしてますねんっ!?」

「さいぼうそしきおよびだえきのせっしゅによりますたーにんしょうかんりょう。これによりほんきはせーふもーどからゆーじゅありもーどへとしふとしまりょくのふそくぶんをほきゅうすることがかのうになりました。げんざいのまりょくざんりょうななぱーせんと。きんきゅうさくせいぷろとこるをじっこうしますたーのせいからまりょくをちゅうしゅついたします」

「わああ待ち待ち待ちなはれ! お、お天道さんも高いうちから布団も敷かずにそんなことってあああアカンアカンそんなばっちいとこしゃぶったらアカ〜ン……お、お、おお、おおう、ああ、んんっ、おおうっ、あ……アカン、で、出てまう、出てしまうっ、ああああ、うおっ、おっ、おおっ、ううううううっ!! …………はあはあはあ、や、やってもた。い、いくらめおとになるっちゅうても、よ、嫁入り前の娘さんの口ん中に出してしもた……」

「こうないでのさくせいによりまりょくりょうじゅうにぱーせんとにかいふく。ふくぶさくせいきこうかどうかいし。ますたーからのさくせいおよびまりょくちゅうしゅつをぞっこうします」

「え? そ、そっちにもすんの? 三々九度の盃もまだやのに……って、んおああああっ! うぐぁあああっ! しっ締まるっ、締まるっ、締まってぇええええあああきっ、気持ちええ、ああ気持ちええ、気持ち……おぐあぁあああっ!! な、なんやっ!? なんやこれっ!? き、気持ちええのに、な、なんか、あ、あうっ、おぁっ、すっ、吸い、吸い、吸い取ら、れっ…………おああああえあおおおおぉ〜っ!!」

 てな具合でこの男、オートマトンのお嬢さん改め嫁さんに押し倒されて、地獄極楽同時に味おうたんでございますが……どんくらい時間経ちましたか、はっと気づくと何やら家の前が騒がしい。

 とりあえず裸の上から着物羽織って、よたよたしながら外に出てみますと、ボロボロになった大家さんの首を二の腕で絞めたおかみさんが、焦ったように詰め寄ってきよりました。

「ああよかったぁ。丸三日出てこんかったから、なんかあったんかと心配しとったんやでぇ……」

「え? も、もう三日も経っとりましたんか? わたいその間、よ、嫁とその、ずーっとナニし続けとったんかいな」

「せ、せやさかい、いきなり、その、お、おっぱじまった、さかい、あ〜その、わ、わしもその、び、びっくりして、ほんで、じゃ、邪魔したら悪いなぁおもて──」

「悪いなぁやあらしまへんっ! まずはそこで止めなはれっ! 大家言うたら店子(たなこ)にとっては親も同然、おまけにあたしら仲人やおまへんか! いくら魔物娘やいうても嫁入り前の娘さんに間違いあったらどないしますんやっ!? ……ああ、武装請負人ギルドから仲人ギルドに鞍替えして十年、その間いろんなクエストこなして四十九組結びつけて、今回ので五十の大台にのってA級仲人からS級仲人に昇格できると思っとたのにっ! わやになったらどないするねんこのボケナス! すかたん! ひょうろく玉っ!!」

「ま、前から思とったけど、なんで異世界ものやのにABCランクがあってその上がSになるんや…………うわやめてやめてまた首締まる締まるっ! ひでぶっ! おぐあっ! ぐえええええっ!」

「ち、ちょっと! 家の前でケンカすんのやめてんか。まあ確かにわたいらが原因やねんけど……ど、どないしよ──」

 と、そのとき同じく着物を羽織っただけのオートマトンの嫁さんが横にすっとあらわれまして……

「まりょくどうりょくろあんてい、かくくどうぶいじょうなし、しすてむおーるぐりーん。ほんきはこれよりじょうきょうにかいにゅうし、おおやさんごふさいをちんせいかします」

 ……相変わらずの口調でそないなこと言いながら、両手をば、もみ合ってる大家さんとおかみさんの方へぴたりと向けますと、二の腕がワニの口みたくかぱっと縦に割れまして、そこからカミナリ玉がばりばりばりっと音を立てて飛んでいき、それをくらった二人とも、目ぇ回して腰砕けになってその場に座り込んでしまいよりました。

「わああ、だっ、大丈夫だっか!? ……おいおい、いったい何したんや?」

「たいしょうしゃにめいのじはつこきゅうをかくにん、みゃくはくしんおんのうはそのたせいたいにいじょうなし。そうきのちんせいかをはかるためれべるふぉーのぱららいざで、ふたりをぎじてきなめいていじょうたいにいこうさせました。よんぷんさんじゅうにびょうごにかくせいするとよそくします」

「めいてい……って、要するに酔っぱろうてるってことかいな?」

「こうてい。なおほんきのでーたべーすないにますたーがげんざいおかれているじょうきょうをたんてきにひょうげんするふれーずをはっけん。しゅつりょく。

『よってくだんのごとし』」

「酔ってくだんの如し──って、それたぶん、わたいがゆうサゲやないかな……」

 おあとがよろしいようで。
23/12/23 17:22更新 / MONDO

■作者メッセージ
 MONDOです。
 今回の元ネタは、上方落語の「延陽伯(えんようはく。江戸落語では「たらちね」)」。長屋に住む独り身の男の元に、言葉がバカていねい過ぎる女性が嫁いできて、言ってることがまるで伝わらないといったおかしさ面白さがあるお噺です。それを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
 元ネタにはないまぐわいのくだりでは、上方落語らしく鳴り物──三味線の音が入ってくるイメージなのですが、実際に文字で表すと文章の流れを切ってしまった感じがしたので、二度目に読むときには脳内で補完してくださいませ。(^^)

 ではではまた。

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