妖精の君と僕
朝起きて感じるのは、体を突き抜けてくこの清涼な空気。
このバルコニーから太陽を望んで、黄緑色に輝く森を感じて初めて、新しい一日が始まるような気がするんだ。
──
森奥に潜むようにして建つこの屋敷にある物と言えば、天井まで突き抜けるほどの大きな棚と『本』。
もちろん木製の温かみのある調度品もいくつかあるけれど…特筆すべきはこれらおびただしい量の『本』だろう。
到底読み切れないような──実際はきっと、ヒトでも読み切れてしまうのだろうけど──壁一面にびっしりと敷き詰められた本の数々。
ここは所謂『私立図書館』というもので、僕はここの住み込みバイト。…とは言うものの、恥ずかしながら実際は、居候的な面の方が強いかも。
「ミス・ネネラ！おはようございます！」
「おはよう、ピネリオ。今日もよろしくね。」
杖で探りながら、器用に螺旋階段を下りてくる館の主・ネネラさん。
生まれつき目の見えない彼女だけれど、そんなハンデを全く感じないほど器用な妖精で、杖や五感・時に魔力をも使い、今まで独りで生活を送ってきたらしい。
そんなネネラさんに僕みたいな「ヒト」が手伝える事なんて無いと思ってたけど…ひょんなことから迷い込んでしまった僕に『小間使い』として居場所を作ってくれたのは、紛れもないネネラさんだった。
聞けばネネラさん、昔に本の整頓をしていたところ、突如倒れ込んできた棚に羽を潰され動かなくなってしまったらしい。
すぐに相応の手当てをしてもらえばよかったものを、「隠遁生活を送る口実として、これ以上のものは無いわ」とか言って、飛べないままで過ごしてるんだとか…飛べない証拠に、フェアリーならば魔力でキラキラと光っているはずの背中の羽でも、ネネラさんのはしゅんと萎び、褪せた灰色をしている。
ともかくそんなことがあったから、身の回りの世話をしてくれる、丈夫な手伝いさんが欲しかったんだそう。
それに「歩行移動が主の建築になってるワタシの屋敷なら、ヒトでも都合が良いでしょう。」と言ってくれた通り、その辺りも僕には丁度良かった。
そして何より、『紙書籍』！僕は"本"が好きだった。今もだけれど、当時はもの凄く興味があって…だから僭越ながら、自分に何ができるかも分からなかったけれど、ネネラさん家に居候──こと、雇っていただくことになった。
何でも一人でやってしまえるネネラさんだけど、まだまだ不便は多いらしい。普段は紅茶淹れやら、本棚の整頓やら、たまに来る来客への対応──これは結構厄介で、いっつも体と頭を使う羽目になるんだけど──やら…簡単なことでしか助力のできない僕だけど、丈夫なヒトということもあってか、探し物や運び物、お使い役として重宝してもらっている。
そして、今日はそんなネネラさんの誕生日。もちろんプレゼントは用意してあるけれど…
階段を半ばにして、ネネラさんは立ち止まってこう尋ねた。
「ねえピネリオ。今日が何の日か、分かる？」
「はい！ミス・ネネラの誕生日です。」
そう答えると、ネネラさんは可愛らしく口元を緩ませた。
「ふふふ。正解。覚えていてくれて嬉しいわ…。
──じゃあピネリオ、お誕生日のレディのお願い。聞いてくれるわよね？」
いつもは年上のお姉さん然とした人だけど、こうして見ると同い年の女の子みたいだ。
「はい、もちろん！なんでもお応えしますよ。」
ネネラさんが一瞬いたずらっぽくニヤリと笑ったように見えた。
「ふうん…何でも？
では…まず、今日は図書館を閉めることにします。そして、昼餉を告げる鐘が鳴ったらワタシの部屋まで来てちょうだい。良いかしら？」
「…？もちろん構いませんが…お菓子とか、そういうのは要らないんですか？」
「ふふふ、お菓子よりももっと欲しいものがあるの。
…それじゃあ、またお昼にね。」
そう言い残してネネラさんは、下ったばかりの階段をまた上って行った。
それだけを言いに来たらしい…けれど、後ろ姿は心なしか楽しそうだ。
…誕生日。
ここに居候に来てもうすぐ2年。これが二人の間で三度目の"誕生日"だった。
前回はお互いの誕生日に二人だけのパーティーを開いて、ささやかなサプライズを用意したり、色々なことを夜通し語り明かしたりしたけれど…今回は、少し違うみたいだ。
とりあえず、目下できることをしようと足を向けた。
プレートをひっくり返して『閉店』を知らせたり、梯子を使って棚の上まで掃除をしてみたり、誰もいないということは時間が空くので、なかなか手が付けられなかった地下の書庫で探し物をしてみたり…そうこうしているうちに、あっという間に昼餉の時間になった。
頃合いかな？と思い、おずおず地下から顔を出してみると、長針は"1"を指し…ということは、鐘はとうに鳴り終わってる！
焦って階段を駆け上り、そうしてゼエゼエ、息も絶え絶えになりながらネネラさんの部屋の前に立つと、少し考えたのち、ゆっくりとノックをした。
「み、ミス・ネネラ…！遅れてすみません…ピネリオです！」
「はあ…全く。地下にでも入っていたのでしょう？今日はワタシの誕生日なのだから。いい加減、探し物もほどほどに……なんてね。
良いわ、どうぞ、入って。」
ネネラさんのお許しを受け、ノブを捻り開けるとそこには────
フリルのついた豪華な柄の白いクッションや大きなぬいぐるみ達に囲まれ、真っ白な愛らしいワンピースにくるまれた…小さなミス・ネネラの姿があった。
彼女はこちらを恥ずかしそうに見て──こちらは見えていないだろうに──頬を赤らめながら、右手でちょいちょいと手招きする。
「ワタシが欲しいのは…ピネリオ、貴方なの。
…我慢できなかった…今まで…男の「ヒト」なんて、知らなかったから…。」
ネネラさんの告白。それは、あまりに衝撃的で。
なんと言ったら良いのか…その言葉を受け止めて、考えて立ち尽くしているうちに、僕は思わず顔のみならず、耳まで、いや指先までを真っ赤にしてしまう。
うまく答えられないでいて、口をパクパクしていると、ネネラさんは重ねて、
「変…かしら。…昔から、ワタシはみんなと違って退屈的なフェアリーだったから。本ばっかりで皆とうまく遊べなかった…。」
「なのに貴方はそんなワタシにも優しくしてくれるし──貴方のお陰で色々な人と出会えたの。
図書館を開いたら良いって、そう提案してくれたのは貴方でしょう？…そんな貴方と一緒に、これからも過ごしていきたくて。」
「だから…ワタシと一緒に、これからも…いつまでも、ここで一緒に居てほしい…なんて。」
一気にそう言い切ると、僕が何も言えないのを気にしてか、身を縮ませながら、「変、かしら…」と呟き、顔を背けてしまった。
そんな彼女が妙に愛おしくて、いじらしくて。
数歩。
急に近づきすぎないよう、ゆっくりとその絢爛なベッドへ歩み寄り、
「…変なんかじゃ、ないですよ。
僕も…僕も、ネネラさんが好きです。おかしな世界へ迷い込んだ僕を受け入れてくれたのはネネラさん…貴女です。優しくて、どこか達観していて、けれどやっぱり、どこか諦観もしていて…そんな貴女を見るのは哀しかった。いつも貴女に何かできないかと思っていました。
ですから──僕と一緒に居ることで、貴女が幸せになるのなら。僕は一生ネネラさんの傍にいます！」
「…ピネリオ…ありがとう。
──なら、ワタシもピネリオのためにできることを…さあ、傍に来てちょうだい。」
ネネラさんは僕にベッドへ来るよう呼びつけると、そこに横たわらせた。
いわゆる"ロココ調"の広いベッドは小さな僕たちが眠っても十分に余りのある立派な代物で、僕とネネラさんはお互いに向き合い、照れ笑いした。
「ワタシ、貴方の一生懸命なところが好き…。
さっきだってほら、地下の書庫で探してたんでしょう。アルラからお願いされたレシピを…。」
「ねえ、ピネリオ。一生私といてくれるのよね？
だったらね？ワタシ…──貴方と交わってみたい。
ねえ、お願い。貴方の精が、欲しくて欲しくて…」
そう言うと、ネネラさんは手さぐりで僕の体を探し当て、顔をまさぐり、頬から少しズレた口づけをしてきた。間髪入れず、次へ、次へ…唇で位置を確かめるようにキスの雨を浴びせてくる。
そんなネネラさんが愛おしくなって、僕の方からもネネラさんに接吻を乗せた。不意打ちに柔らかい唇から嬌声が漏れる。それがまた可愛くて、段々止められなくなっていく。
「ああ…ピネリオ、好きよ…。ずっとこうしていたかった…。」
「僕も、です…ミス・ネネラ。」
彼女を抱きかかえ、仰向けになった僕の身体の上に乗せてやると、ネネラさんはおもむろに首筋へ寄ってきて匂いを嗅いだ。それが妙にこそばゆくて、微かに体をよじってしまう。
「はぁ…良い匂い…。貴方とこうしていられるだなんて、この上無いくらい幸せ…。」
とろんと蕩けた表情が伺える。いつも凛としている彼女が、こんなに愛らしい顔をするだなんて。そう思うとまた愛おしくなり、頭を抱いてくしゅくしゅに撫でた。
「ふあ…子供じゃないのに…。ん…お返しするしかないわね。」
なんとネネラさんはおもむろに僕のズボンのベルトへ手をかけた。
「えぇっ！？ちょ、な、なに、するんですか！？」
驚いて素っ頓狂な声を出してしまったが、彼女の盲目と思えないほど手慣れた手つきに、思わず身を任せてしまう。
「何って…──…やっぱり、見た目通りうぶなんだ…可愛い♥」
ズボンを脱がされたと思いきや、下着までもがすっかり奪われてしまっていた。その手早さはどこから来るのだろう…普段から抜け目無いが、こんなに積極的だったなんて。
「ふぅ…ずっと、ずぅっと、思い焦がれていたの…貴方のドクン、ドクンって脈打つ、熱い陰茎に触れられたら…それに舌を這わせられたらって。だってワタシ…"魔物"だもの♥
さあ、いただきまぁす…♪」
「…ふぁ、ッ！？あ、ぁあ、ネネラ、ひゃ…ンぁあ！」
「……ぷは。 反応を見るまでもなく、きっと初体験でしょう？はじめての口淫の感触はどう…？」
貪るような上下運動に、端から端まで舐め尽くすストローク、僕の体が反応する箇所ばかりが的確に責められ、そのテクニックにあらゆる体液が吸い尽くされるようだった。
唐突に喉奥に突っ込まれ、そのうねりに呑まれた頃には、思わず腰が跳ね、歯止めをかける暇もなく精液を放出してしまう始末で。
頬の柔いぬるぬるとした感触にぬるい体温、濃厚な唾液が心地よく、羊水の中にいる様な心地よさを思わせる。
けれど、ストロークが緩やかになろうが舌技に歯止めがかかることはなく。堪らない箇所を念入りに刺激され続け、連続で絶頂を迎えさせられてしまい、早くも精根尽き果てかけていた。
「ピネリオの精、すっごく美味しい♥だからまだまだへばらせない…♥」
「…あ、ぁ…も、もう無理です…ネネラさ…！」
「まだまだこんなに元気だもの…無理なんてことはないはずよ？」
楽し気に笑うネネラさんは、唾液でテラテラ光る陰茎に向かってゆっくりと腰を下ろした。あっという間に彼女の膣内に収められてしまった情けない僕の愚息。ネネラさんが激しく上で跳ねる度、限界近かった気力が恐ろしいスピードで回復していく。
「貴方とこうしていたかった♥ずぅっと♥何度も夢見てきたの…こうして一緒になれることを♥時には君の夢にまで現れたりして…♥
夢ではもっと積極的だったけれど…でも、今の君もとってもステキ…♥」
「いっぱい射精して、貴方を感じさせて♥ワタシの膣内、貴方の精でいっぱいにしてほしいの♥」
激しい水音が鳴り響く。
互いの肌がぶつかり合う音、ネネラさんの上げる悦びに満ちた可愛らしい嬌声、二人の激しい呼気、ベッドの軋み…それら全てが作用し合い、互いの興奮と一体感を強く高めていた。
そういえば、度重なる淫夢の夜。不埒だがその度、僕は胸の焦がれを昂らせていた。デジャブは感じていたけれど、よもやそれが意図的なものだったなんて。信じられないけれど、こうして実際に繋がることができて本望だと強く思う。それほど悦びに満ちたまぐわいで、彼女の温かなうねりに抱かれている最中に何度射精してしまっても、ネネラさんは最奥の恩寵で優しく受け止めてくれていた。
目覚めるとそこは真っ白な天蓋付きのベッド…つまるところ、ネネラさんの寝具の上だった。
どうやら僕はネネラさんと抱き合ったまま、彼女の長い白髪に包まれながら──深く、深く眠っていたようだった。気づけば体には力がみなぎっている。
手に握らされていた小さな光る小瓶は、昨晩と同じように輝いている。
熟睡しているネネラさんの横顔を見つめ、眼鏡にかかった白髪をそっとのけてあげる。安らかな目元…口元。柔らかそうな桃色の唇がいじらしくて、薔薇色の頬にそっと口づけをした。
このバルコニーから太陽を望んで、黄緑色に輝く森を感じて初めて、新しい一日が始まるような気がするんだ。
──
森奥に潜むようにして建つこの屋敷にある物と言えば、天井まで突き抜けるほどの大きな棚と『本』。
もちろん木製の温かみのある調度品もいくつかあるけれど…特筆すべきはこれらおびただしい量の『本』だろう。
到底読み切れないような──実際はきっと、ヒトでも読み切れてしまうのだろうけど──壁一面にびっしりと敷き詰められた本の数々。
ここは所謂『私立図書館』というもので、僕はここの住み込みバイト。…とは言うものの、恥ずかしながら実際は、居候的な面の方が強いかも。
「ミス・ネネラ！おはようございます！」
「おはよう、ピネリオ。今日もよろしくね。」
杖で探りながら、器用に螺旋階段を下りてくる館の主・ネネラさん。
生まれつき目の見えない彼女だけれど、そんなハンデを全く感じないほど器用な妖精で、杖や五感・時に魔力をも使い、今まで独りで生活を送ってきたらしい。
そんなネネラさんに僕みたいな「ヒト」が手伝える事なんて無いと思ってたけど…ひょんなことから迷い込んでしまった僕に『小間使い』として居場所を作ってくれたのは、紛れもないネネラさんだった。
聞けばネネラさん、昔に本の整頓をしていたところ、突如倒れ込んできた棚に羽を潰され動かなくなってしまったらしい。
すぐに相応の手当てをしてもらえばよかったものを、「隠遁生活を送る口実として、これ以上のものは無いわ」とか言って、飛べないままで過ごしてるんだとか…飛べない証拠に、フェアリーならば魔力でキラキラと光っているはずの背中の羽でも、ネネラさんのはしゅんと萎び、褪せた灰色をしている。
ともかくそんなことがあったから、身の回りの世話をしてくれる、丈夫な手伝いさんが欲しかったんだそう。
それに「歩行移動が主の建築になってるワタシの屋敷なら、ヒトでも都合が良いでしょう。」と言ってくれた通り、その辺りも僕には丁度良かった。
そして何より、『紙書籍』！僕は"本"が好きだった。今もだけれど、当時はもの凄く興味があって…だから僭越ながら、自分に何ができるかも分からなかったけれど、ネネラさん家に居候──こと、雇っていただくことになった。
何でも一人でやってしまえるネネラさんだけど、まだまだ不便は多いらしい。普段は紅茶淹れやら、本棚の整頓やら、たまに来る来客への対応──これは結構厄介で、いっつも体と頭を使う羽目になるんだけど──やら…簡単なことでしか助力のできない僕だけど、丈夫なヒトということもあってか、探し物や運び物、お使い役として重宝してもらっている。
そして、今日はそんなネネラさんの誕生日。もちろんプレゼントは用意してあるけれど…
階段を半ばにして、ネネラさんは立ち止まってこう尋ねた。
「ねえピネリオ。今日が何の日か、分かる？」
「はい！ミス・ネネラの誕生日です。」
そう答えると、ネネラさんは可愛らしく口元を緩ませた。
「ふふふ。正解。覚えていてくれて嬉しいわ…。
──じゃあピネリオ、お誕生日のレディのお願い。聞いてくれるわよね？」
いつもは年上のお姉さん然とした人だけど、こうして見ると同い年の女の子みたいだ。
「はい、もちろん！なんでもお応えしますよ。」
ネネラさんが一瞬いたずらっぽくニヤリと笑ったように見えた。
「ふうん…何でも？
では…まず、今日は図書館を閉めることにします。そして、昼餉を告げる鐘が鳴ったらワタシの部屋まで来てちょうだい。良いかしら？」
「…？もちろん構いませんが…お菓子とか、そういうのは要らないんですか？」
「ふふふ、お菓子よりももっと欲しいものがあるの。
…それじゃあ、またお昼にね。」
そう言い残してネネラさんは、下ったばかりの階段をまた上って行った。
それだけを言いに来たらしい…けれど、後ろ姿は心なしか楽しそうだ。
…誕生日。
ここに居候に来てもうすぐ2年。これが二人の間で三度目の"誕生日"だった。
前回はお互いの誕生日に二人だけのパーティーを開いて、ささやかなサプライズを用意したり、色々なことを夜通し語り明かしたりしたけれど…今回は、少し違うみたいだ。
とりあえず、目下できることをしようと足を向けた。
プレートをひっくり返して『閉店』を知らせたり、梯子を使って棚の上まで掃除をしてみたり、誰もいないということは時間が空くので、なかなか手が付けられなかった地下の書庫で探し物をしてみたり…そうこうしているうちに、あっという間に昼餉の時間になった。
頃合いかな？と思い、おずおず地下から顔を出してみると、長針は"1"を指し…ということは、鐘はとうに鳴り終わってる！
焦って階段を駆け上り、そうしてゼエゼエ、息も絶え絶えになりながらネネラさんの部屋の前に立つと、少し考えたのち、ゆっくりとノックをした。
「み、ミス・ネネラ…！遅れてすみません…ピネリオです！」
「はあ…全く。地下にでも入っていたのでしょう？今日はワタシの誕生日なのだから。いい加減、探し物もほどほどに……なんてね。
良いわ、どうぞ、入って。」
ネネラさんのお許しを受け、ノブを捻り開けるとそこには────
フリルのついた豪華な柄の白いクッションや大きなぬいぐるみ達に囲まれ、真っ白な愛らしいワンピースにくるまれた…小さなミス・ネネラの姿があった。
彼女はこちらを恥ずかしそうに見て──こちらは見えていないだろうに──頬を赤らめながら、右手でちょいちょいと手招きする。
「ワタシが欲しいのは…ピネリオ、貴方なの。
…我慢できなかった…今まで…男の「ヒト」なんて、知らなかったから…。」
ネネラさんの告白。それは、あまりに衝撃的で。
なんと言ったら良いのか…その言葉を受け止めて、考えて立ち尽くしているうちに、僕は思わず顔のみならず、耳まで、いや指先までを真っ赤にしてしまう。
うまく答えられないでいて、口をパクパクしていると、ネネラさんは重ねて、
「変…かしら。…昔から、ワタシはみんなと違って退屈的なフェアリーだったから。本ばっかりで皆とうまく遊べなかった…。」
「なのに貴方はそんなワタシにも優しくしてくれるし──貴方のお陰で色々な人と出会えたの。
図書館を開いたら良いって、そう提案してくれたのは貴方でしょう？…そんな貴方と一緒に、これからも過ごしていきたくて。」
「だから…ワタシと一緒に、これからも…いつまでも、ここで一緒に居てほしい…なんて。」
一気にそう言い切ると、僕が何も言えないのを気にしてか、身を縮ませながら、「変、かしら…」と呟き、顔を背けてしまった。
そんな彼女が妙に愛おしくて、いじらしくて。
数歩。
急に近づきすぎないよう、ゆっくりとその絢爛なベッドへ歩み寄り、
「…変なんかじゃ、ないですよ。
僕も…僕も、ネネラさんが好きです。おかしな世界へ迷い込んだ僕を受け入れてくれたのはネネラさん…貴女です。優しくて、どこか達観していて、けれどやっぱり、どこか諦観もしていて…そんな貴女を見るのは哀しかった。いつも貴女に何かできないかと思っていました。
ですから──僕と一緒に居ることで、貴女が幸せになるのなら。僕は一生ネネラさんの傍にいます！」
「…ピネリオ…ありがとう。
──なら、ワタシもピネリオのためにできることを…さあ、傍に来てちょうだい。」
ネネラさんは僕にベッドへ来るよう呼びつけると、そこに横たわらせた。
いわゆる"ロココ調"の広いベッドは小さな僕たちが眠っても十分に余りのある立派な代物で、僕とネネラさんはお互いに向き合い、照れ笑いした。
「ワタシ、貴方の一生懸命なところが好き…。
さっきだってほら、地下の書庫で探してたんでしょう。アルラからお願いされたレシピを…。」
「ねえ、ピネリオ。一生私といてくれるのよね？
だったらね？ワタシ…──貴方と交わってみたい。
ねえ、お願い。貴方の精が、欲しくて欲しくて…」
そう言うと、ネネラさんは手さぐりで僕の体を探し当て、顔をまさぐり、頬から少しズレた口づけをしてきた。間髪入れず、次へ、次へ…唇で位置を確かめるようにキスの雨を浴びせてくる。
そんなネネラさんが愛おしくなって、僕の方からもネネラさんに接吻を乗せた。不意打ちに柔らかい唇から嬌声が漏れる。それがまた可愛くて、段々止められなくなっていく。
「ああ…ピネリオ、好きよ…。ずっとこうしていたかった…。」
「僕も、です…ミス・ネネラ。」
彼女を抱きかかえ、仰向けになった僕の身体の上に乗せてやると、ネネラさんはおもむろに首筋へ寄ってきて匂いを嗅いだ。それが妙にこそばゆくて、微かに体をよじってしまう。
「はぁ…良い匂い…。貴方とこうしていられるだなんて、この上無いくらい幸せ…。」
とろんと蕩けた表情が伺える。いつも凛としている彼女が、こんなに愛らしい顔をするだなんて。そう思うとまた愛おしくなり、頭を抱いてくしゅくしゅに撫でた。
「ふあ…子供じゃないのに…。ん…お返しするしかないわね。」
なんとネネラさんはおもむろに僕のズボンのベルトへ手をかけた。
「えぇっ！？ちょ、な、なに、するんですか！？」
驚いて素っ頓狂な声を出してしまったが、彼女の盲目と思えないほど手慣れた手つきに、思わず身を任せてしまう。
「何って…──…やっぱり、見た目通りうぶなんだ…可愛い♥」
ズボンを脱がされたと思いきや、下着までもがすっかり奪われてしまっていた。その手早さはどこから来るのだろう…普段から抜け目無いが、こんなに積極的だったなんて。
「ふぅ…ずっと、ずぅっと、思い焦がれていたの…貴方のドクン、ドクンって脈打つ、熱い陰茎に触れられたら…それに舌を這わせられたらって。だってワタシ…"魔物"だもの♥
さあ、いただきまぁす…♪」
「…ふぁ、ッ！？あ、ぁあ、ネネラ、ひゃ…ンぁあ！」
「……ぷは。 反応を見るまでもなく、きっと初体験でしょう？はじめての口淫の感触はどう…？」
貪るような上下運動に、端から端まで舐め尽くすストローク、僕の体が反応する箇所ばかりが的確に責められ、そのテクニックにあらゆる体液が吸い尽くされるようだった。
唐突に喉奥に突っ込まれ、そのうねりに呑まれた頃には、思わず腰が跳ね、歯止めをかける暇もなく精液を放出してしまう始末で。
頬の柔いぬるぬるとした感触にぬるい体温、濃厚な唾液が心地よく、羊水の中にいる様な心地よさを思わせる。
けれど、ストロークが緩やかになろうが舌技に歯止めがかかることはなく。堪らない箇所を念入りに刺激され続け、連続で絶頂を迎えさせられてしまい、早くも精根尽き果てかけていた。
「ピネリオの精、すっごく美味しい♥だからまだまだへばらせない…♥」
「…あ、ぁ…も、もう無理です…ネネラさ…！」
「まだまだこんなに元気だもの…無理なんてことはないはずよ？」
楽し気に笑うネネラさんは、唾液でテラテラ光る陰茎に向かってゆっくりと腰を下ろした。あっという間に彼女の膣内に収められてしまった情けない僕の愚息。ネネラさんが激しく上で跳ねる度、限界近かった気力が恐ろしいスピードで回復していく。
「貴方とこうしていたかった♥ずぅっと♥何度も夢見てきたの…こうして一緒になれることを♥時には君の夢にまで現れたりして…♥
夢ではもっと積極的だったけれど…でも、今の君もとってもステキ…♥」
「いっぱい射精して、貴方を感じさせて♥ワタシの膣内、貴方の精でいっぱいにしてほしいの♥」
激しい水音が鳴り響く。
互いの肌がぶつかり合う音、ネネラさんの上げる悦びに満ちた可愛らしい嬌声、二人の激しい呼気、ベッドの軋み…それら全てが作用し合い、互いの興奮と一体感を強く高めていた。
そういえば、度重なる淫夢の夜。不埒だがその度、僕は胸の焦がれを昂らせていた。デジャブは感じていたけれど、よもやそれが意図的なものだったなんて。信じられないけれど、こうして実際に繋がることができて本望だと強く思う。それほど悦びに満ちたまぐわいで、彼女の温かなうねりに抱かれている最中に何度射精してしまっても、ネネラさんは最奥の恩寵で優しく受け止めてくれていた。
目覚めるとそこは真っ白な天蓋付きのベッド…つまるところ、ネネラさんの寝具の上だった。
どうやら僕はネネラさんと抱き合ったまま、彼女の長い白髪に包まれながら──深く、深く眠っていたようだった。気づけば体には力がみなぎっている。
手に握らされていた小さな光る小瓶は、昨晩と同じように輝いている。
熟睡しているネネラさんの横顔を見つめ、眼鏡にかかった白髪をそっとのけてあげる。安らかな目元…口元。柔らかそうな桃色の唇がいじらしくて、薔薇色の頬にそっと口づけをした。
21/02/05 23:24更新 / モジ宮