精の力
「ただいま〜……」
「あっ!フェザーさん!おかえ……えぇー!?」
俺が研究所に帰ると真っ先に驚かれた。そりゃそうだろう……。
「ど、どうしたんですか!?ゆっくり歩いて行くって言ってたのに、汗だくじゃないですか!」
「ちょっと、町中にあるトラップに引っ掛からないようにしてました」
「は、はぁ……ってそうじゃなくて!今すぐお湯を沸かしてきますねっ!」
「いや、シャワーだけでいいっすよ……」
研究所で留守番をしていたマリーナさんは、トテトテと小走りで部屋を出ていった。
この研究所は、衛生管理が結構しっかりしてる。マリーナさんが向かったのは「シャワー室」なるもので、研究員全員分ある。
そう……研究員全員分「は」ある。だが、俺は正式な研究員じゃないから、早いうちに使うか、みんなが使った後に使わないといけない。
ちなみに「浴室」も用意されており、これも研究員全員分ある。
まったく……今日は本当についてない。いつもならみんなもっと寝てるのに、なんでこんなときに限って……。
「おぉ、帰ったか!思ったよりも遅かったの!」
「あんたが行ってればもっと早く済んだだろ……っ!」
湯が沸くまでイスに座って待とうとしたとき、ニヤついた顔のメノットが話しかけてきた。
「何で俺に頼んだんだよ……」
「分からん」
「即答かよっ!」
「ワシの記憶は一期一会、一つ一つの思い付きを大事にしていきたいんじゃよ!」
「前に自分が言ったことを忘れてたら、その思い付きが生かされないだろ……」
まったく……俺はため息をついて腕を伸ばす。メノットの思い付きに付き合わされるのは慣れているとはいえ、毎度毎度疲れることばっかりだ。俺、このままだと絶対いつか死ぬ……
「フェザーさん!お湯、出せるようになりましたよ!」
「ありがとうございます。マリーナさん」
丁度良いタイミングでシャワーの準備が出来たみたいだ。俺はリリから渡されたキノコの束を袋ごとメノットに渡してシャワー室に向かった。
ーーーフェザーがシャワーを浴びている頃
「まったく!何故マリーナには敬語で話して、育ての親であるワシにはタメ口なんじゃ!」
「は、はぁ……」
「誰に似たんじゃあいつは!」
「メノットさんだ」なんて、口が裂けても言えません……。
「そもそも、あいつが普段から買い出しに行かんからこうなるんじゃ!長い道を歩いて折角店に入ったと思ったら『なんだ、お前か』の連発じゃぞ!?ええのうええのう!あいつは!」
「は、はぁ……(汗」
あぁ、また始まってしまいました。メノットさんの愚痴が……。メノットさん、フェザーさんのこととなるとすぐに機嫌が悪くなってしまうんですよねぇ……
……でも、私はメノットさんが羨ましいです。私も、タメ口で……自然に話してもらいたい……「お兄ちゃん」って言ってみたいです……。
気にせずそう呼べば良いのですけど、それは昔からのことでなかなか変わることは出来ません。
そう……フェザーさんが5歳の時から、ずっとお互い優しく話していました。
私が昔の出来事を懐かしんでいると、メノットさんの表情が曇っていることに気がつきました。下を向きながら何かを言っているようです……なんでしょうか?
「…また……増えておる………」
「……?メノットさん?」
私はメノットさんが呟いたことが気になってしまい、声を掛けてしまいました。
「む……?なんじゃ、聞いておったのか……」
「どうかされましたか?」
メノットさんはこう言っては失礼ですが、普段から考え事が少ない方でした。しかし最近、フェザーさんを見るたびに、何処か心配しているような眼差しを向けている……私には、そう見えていました。
「なに、大したことではない。気にするな!」
「……本当にそうなんですか?研究所ではいつもそのような顔をされていますけど……?」
私の指摘に、メノットさんの作った笑顔に影が差してしまいました。
「やっぱり、何かあったんですね?」
私がそう訪ねると、メノットさんは都合が悪そうな顔になり、目を背けてしまいました。なので私はもう一言、確認するようにメノットさんに問いかけました。
「……それは、フェザーさんのことですか?」
「………」
メノットさんには珍しく、黙ったまま何も言わなかった事に私は少し驚きを感じました。数十秒ほど経って、メノットさんは何かを決心したように軽く頷き、私の顔をしっかりと見据えて話し始めました。その時の表情は、研究をするときですら見たことがない。真剣な表情でした。
「……最近、あいつの体から出る『精の力』が増えておるんじゃ」
「え……?」
精の力が増えている……それは、さほど珍しい事ではありません。
生き物には各々特有の「エネルギー」があり、大雑把に言うと、私たち魔物娘は「魔の力」人間は「精の力」を持っている。
それらの力は成長と共に増減していくことは、メノットさんも知っている筈……というよりも、これはメノットさんが発見した事なんですから、知らない筈がありません。
「精の力が成長するということは良い事ではないですか」
「いや、明らかに異常じゃ」
「……?一体、何が異常なんですか?」
「フェザーの中にある精の力が、日に日に増していっておるーーー12歳を越えたときからな……今では元の3倍程の大きさになっておる」
「さ、3倍ですか!?」
仰天するあまり大声を出してしまいました……。
フェザーさんが12歳になったのは、つい一週間ほど前……それから、フェザーさんの精の力が3倍になっている……確かに、異常なことです。
「それは、フェザーさんに話したんですか?」
「いいや、今のところワシとお主しか知らん筈じゃ」
「……もし、このまま精の力が増え続ければ、フェザーさんはどうなるんですか……?」
ハッキリ言ってしまうと、このときの私は嫌な予感がしていました……。
知らない方が幸せだったのかもしれない……。そう考えてしまいました……。
「体に許容量以上の力が溜まり続ければ、力のコントロールが出来なくなり、良くて寝たきり状態に、最悪の場合ーーー死ぬ」
「っ!?」
……えっ?
フェザーさんが……「死ぬ」?
頭の中が、グルグルと回転しているかのような状態に、私は足から崩れ落ちてしまった。
「有余は、持って『一ヶ月』といったところか……それまでに何としても治療しなくてはいけない……悲しんでいる暇など……無いのじゃ」
メノットさんの話を聞いた途端、私の中にあった暗い靄のようなものが一瞬にして吹き飛んでいきました。
残された時間は「一ヶ月」……。私は、あの人の事が好きです……大好きです!
好きな人を守るために、私は頑張らなくちゃいけないんです!
「原因は何か分かっているんですか?」
「……確信はできんが、予想はできておる」
私は自然と笑みが溢れていたんでしょう。メノットさんが咳払いをしたお陰で、それに気づくことが出来ました。
予測が出来ているのなら試してみる。
これはメノットさんがよく言っていた「研究員のモットー」です。
「それは……?」
「それはーーー」
「あいつがつけておる……『羽根の髪飾り』じゃ」
「あっ!フェザーさん!おかえ……えぇー!?」
俺が研究所に帰ると真っ先に驚かれた。そりゃそうだろう……。
「ど、どうしたんですか!?ゆっくり歩いて行くって言ってたのに、汗だくじゃないですか!」
「ちょっと、町中にあるトラップに引っ掛からないようにしてました」
「は、はぁ……ってそうじゃなくて!今すぐお湯を沸かしてきますねっ!」
「いや、シャワーだけでいいっすよ……」
研究所で留守番をしていたマリーナさんは、トテトテと小走りで部屋を出ていった。
この研究所は、衛生管理が結構しっかりしてる。マリーナさんが向かったのは「シャワー室」なるもので、研究員全員分ある。
そう……研究員全員分「は」ある。だが、俺は正式な研究員じゃないから、早いうちに使うか、みんなが使った後に使わないといけない。
ちなみに「浴室」も用意されており、これも研究員全員分ある。
まったく……今日は本当についてない。いつもならみんなもっと寝てるのに、なんでこんなときに限って……。
「おぉ、帰ったか!思ったよりも遅かったの!」
「あんたが行ってればもっと早く済んだだろ……っ!」
湯が沸くまでイスに座って待とうとしたとき、ニヤついた顔のメノットが話しかけてきた。
「何で俺に頼んだんだよ……」
「分からん」
「即答かよっ!」
「ワシの記憶は一期一会、一つ一つの思い付きを大事にしていきたいんじゃよ!」
「前に自分が言ったことを忘れてたら、その思い付きが生かされないだろ……」
まったく……俺はため息をついて腕を伸ばす。メノットの思い付きに付き合わされるのは慣れているとはいえ、毎度毎度疲れることばっかりだ。俺、このままだと絶対いつか死ぬ……
「フェザーさん!お湯、出せるようになりましたよ!」
「ありがとうございます。マリーナさん」
丁度良いタイミングでシャワーの準備が出来たみたいだ。俺はリリから渡されたキノコの束を袋ごとメノットに渡してシャワー室に向かった。
ーーーフェザーがシャワーを浴びている頃
「まったく!何故マリーナには敬語で話して、育ての親であるワシにはタメ口なんじゃ!」
「は、はぁ……」
「誰に似たんじゃあいつは!」
「メノットさんだ」なんて、口が裂けても言えません……。
「そもそも、あいつが普段から買い出しに行かんからこうなるんじゃ!長い道を歩いて折角店に入ったと思ったら『なんだ、お前か』の連発じゃぞ!?ええのうええのう!あいつは!」
「は、はぁ……(汗」
あぁ、また始まってしまいました。メノットさんの愚痴が……。メノットさん、フェザーさんのこととなるとすぐに機嫌が悪くなってしまうんですよねぇ……
……でも、私はメノットさんが羨ましいです。私も、タメ口で……自然に話してもらいたい……「お兄ちゃん」って言ってみたいです……。
気にせずそう呼べば良いのですけど、それは昔からのことでなかなか変わることは出来ません。
そう……フェザーさんが5歳の時から、ずっとお互い優しく話していました。
私が昔の出来事を懐かしんでいると、メノットさんの表情が曇っていることに気がつきました。下を向きながら何かを言っているようです……なんでしょうか?
「…また……増えておる………」
「……?メノットさん?」
私はメノットさんが呟いたことが気になってしまい、声を掛けてしまいました。
「む……?なんじゃ、聞いておったのか……」
「どうかされましたか?」
メノットさんはこう言っては失礼ですが、普段から考え事が少ない方でした。しかし最近、フェザーさんを見るたびに、何処か心配しているような眼差しを向けている……私には、そう見えていました。
「なに、大したことではない。気にするな!」
「……本当にそうなんですか?研究所ではいつもそのような顔をされていますけど……?」
私の指摘に、メノットさんの作った笑顔に影が差してしまいました。
「やっぱり、何かあったんですね?」
私がそう訪ねると、メノットさんは都合が悪そうな顔になり、目を背けてしまいました。なので私はもう一言、確認するようにメノットさんに問いかけました。
「……それは、フェザーさんのことですか?」
「………」
メノットさんには珍しく、黙ったまま何も言わなかった事に私は少し驚きを感じました。数十秒ほど経って、メノットさんは何かを決心したように軽く頷き、私の顔をしっかりと見据えて話し始めました。その時の表情は、研究をするときですら見たことがない。真剣な表情でした。
「……最近、あいつの体から出る『精の力』が増えておるんじゃ」
「え……?」
精の力が増えている……それは、さほど珍しい事ではありません。
生き物には各々特有の「エネルギー」があり、大雑把に言うと、私たち魔物娘は「魔の力」人間は「精の力」を持っている。
それらの力は成長と共に増減していくことは、メノットさんも知っている筈……というよりも、これはメノットさんが発見した事なんですから、知らない筈がありません。
「精の力が成長するということは良い事ではないですか」
「いや、明らかに異常じゃ」
「……?一体、何が異常なんですか?」
「フェザーの中にある精の力が、日に日に増していっておるーーー12歳を越えたときからな……今では元の3倍程の大きさになっておる」
「さ、3倍ですか!?」
仰天するあまり大声を出してしまいました……。
フェザーさんが12歳になったのは、つい一週間ほど前……それから、フェザーさんの精の力が3倍になっている……確かに、異常なことです。
「それは、フェザーさんに話したんですか?」
「いいや、今のところワシとお主しか知らん筈じゃ」
「……もし、このまま精の力が増え続ければ、フェザーさんはどうなるんですか……?」
ハッキリ言ってしまうと、このときの私は嫌な予感がしていました……。
知らない方が幸せだったのかもしれない……。そう考えてしまいました……。
「体に許容量以上の力が溜まり続ければ、力のコントロールが出来なくなり、良くて寝たきり状態に、最悪の場合ーーー死ぬ」
「っ!?」
……えっ?
フェザーさんが……「死ぬ」?
頭の中が、グルグルと回転しているかのような状態に、私は足から崩れ落ちてしまった。
「有余は、持って『一ヶ月』といったところか……それまでに何としても治療しなくてはいけない……悲しんでいる暇など……無いのじゃ」
メノットさんの話を聞いた途端、私の中にあった暗い靄のようなものが一瞬にして吹き飛んでいきました。
残された時間は「一ヶ月」……。私は、あの人の事が好きです……大好きです!
好きな人を守るために、私は頑張らなくちゃいけないんです!
「原因は何か分かっているんですか?」
「……確信はできんが、予想はできておる」
私は自然と笑みが溢れていたんでしょう。メノットさんが咳払いをしたお陰で、それに気づくことが出来ました。
予測が出来ているのなら試してみる。
これはメノットさんがよく言っていた「研究員のモットー」です。
「それは……?」
「それはーーー」
「あいつがつけておる……『羽根の髪飾り』じゃ」
16/06/10 17:28更新 / 鞘笛
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