天恵
辺りに焦げ臭い煙が漂っている。ただ木材が燃えているだけなら良いのだが、これは明らかに有機物が不完全燃焼している匂いだ。
「...」
村の惨状には言葉すら出なかった。建物は皆打ち壊されるか焼かれてしまい、抵抗したものは片端から殺していったのだろう。道端には剣や槍が刺さった焼死体がいくつも転がっていた。
「クソっ、私がもっと早く駆けつけていれば...！」
駆けつけていれば、どうなったろうか。いくら私がヴァルキリーとはいえ...
私はそんな思考を振り払うように焼け野原を進んでいった。
「だれか...」
わかってはいる。生存者などいないとわかってはいるものの、心のどこかで、誰か生き残っていないかと願ってしまう。
私が魔物の魔力に犯され、天界を追放されて以来、人間界を旅する内に、こんな情景を何度も見てきた。この村はそんな私の素性を知った上で私に良くしてくれた人たちの村だ。今朝、本当に今朝私を送り出してくれるまでは賑やかな村だったのだ。それが、同じ人間の手によって、全ての営みを奪われてしまった。この村の人たちは、何の罪もない善良な市民だったのに、なぜこんな惨い目に会わなければならなかったのか。私はそんな行き場の無い怒りを抑えつつ、焼けて崩れた建物など一つ一つていねいに見て回った。
「ぅ...」
一瞬の呻き声を、私は聞き逃さなかった。声を頼りに瓦礫を退けていくと、五歳ほどの男の子が倒れていた。
「...！」
私はその男の子を抱き寄せる。幸いなことに、目立った怪我は無さそうだった。
「ぅ、あ...？」
男の子の意識が戻り、うっすらと目を開けた。
「ありがとう、生きていてくれて...」
私は男の子を再び抱擁する。そしてこの子だけは何としても護らなくては、と強く決意したのであった。
.........
.....
...
町外れの見晴らしの良い野原で、春先の心地よい風とともに二人の男女が剣戟を演じていた。
「なかなか腕を上げたな、アレス！」
アレスと呼ばれた青年は、打ち出された力強い打撃を剣で受け、ガァン！と大きな音がした。
「そりゃイレーネ師匠直伝ですからね」
アレスは受けた私の剣をそのままはじき返した。
「よし。今日の鍛錬はこれで終わりにしよう」
「はい」
私が額の汗を腕で拭っていると、アレスが水筒を渡してきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
冷たい水が喉を通っているのがわかる。
「ぷはぁ」
全く稽古上がりの冷水ほど素晴らしいものはそうないな。隣ではアレスが座って自分の水筒に口を付けていた。あの日から13年。今日で18になり元服を迎える。立派に逞しく育ってくれたのは、素直に誇らしいことだ。
「それじゃあ、そろそろ帰って夕飯の支度しましょうか」
そう言ってアレスは立ち上がった。
「ああ、そうだな」
私も後を追うように付いて、私たちの住むセントリアルの街へと帰って行った。
.........
.....
...
「夕飯、何にしますかね」
街のメインストリートを歩きながらアレスは聞いてきた。今日の当番は彼だからだ。
「そういえば、今日はお前の誕生日だろう?奮発してステーキにでもしよう」
「本当ですか！やったぁ！！」
アレスは嬉々としてマーケットへと足を早める。
「ほらほら、早く行かないと良いお肉無くなっちゃいますよ」
急ぐ彼を少し抑えながら、私たちはマーケットへ向かった。
マーケットは肉や野菜、服飾品に家具まで幅広いく品が揃えられている。少し探せば地方の珍味や特産品なんかも扱っている。流石はこのフィンツェル連邦の中枢都市だ。人で賑わいを見せる商店街を少し進むと、いつも世話になっている肉屋が見えてきた。
「おっ、イレーネさんとアレスじゃねえか。夕飯の買い物かい」
そう話しかけて来たのは肉屋の店主のリュークさんである。
「ええ、今日はアレスの18歳の誕生日なのでステーキを買いに」
「おお！アレスも遂に元服かぁ、おめでとさん！ならとっておきのを出さなきゃなぁ！」
そう言ってリュークさんは店の奥へ行って、なにかの包みを持ってきた。
「今朝入った貴重な品でなぁ。ドラゴニア直送だぞぉ」
持ってきた包みを開けると、そこには一匹の魔界蜥蜴があった。
「うわぁ...！初めて見ました」
アレスが興奮気味に呟く。そういえば何度か名前を聞いたことはあるものの、実物を見るのは初めてだ。魔界蜥蜴といえば竜皇国ドラゴニアの特産料理『ドラゴンステーキ』に使われる肉。肉質もよく、とてもおいしいが、ドラゴニア以外では滅多に流通しない貴重な肉である。
「これを普段の半額にしてやろう。どうだい、イレーネさんよ」
アレスは目を輝かせている。まぁ今回は元服という人生に一度きりの機会だし、多少は目を瞑るとしよう。
「じゃあこれを二人前お願いできるか」
「まいどあり！じゃあ直ぐに切ってくるから少し待ってろ」
少しして、二人前に切り分けられた蜥蜴の肉が竹の葉に包まれてやってきた。私は店主に料金を渡し、肉を受け取った。
「ほいほい。んじゃアレスもイレーネさん大切にしてやれよ？」
彼は最後、アレスにそんな意味深長なことを伝えてニヤリと笑っていた。この時は大して気には止めなかったものの、この言葉の意味を後に思い知る事になるのである。
.........
.....
...
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
アレスは水を飲み、私は口元を拭って食事を終える。
「いやぁ美味しかったですね。噂に聞くだけはある」
「あ、ああ。確かに、旨かったな...」
歯切れの悪い私の返答に、彼は首を傾げた。...それも仕方がない。先程から身体が火照って仕方がないのだ。この肉に、何か混ざっていたのだろうか。長年魔物の魔力にじわじわと犯され続けている私は、高潔である事を良しとするヴァルキリーの規範を守るために力の一部を使って湯水の如く沸いてくる性欲---男と交わりたいという衝動---を押さえ込んできた。だが、それも今はかなり揺らいでいる。火照っただけならば自分でいくらでも処理できよう。しかし、よりにもよって目の前に想い人がいるのが余計に質が悪い。いつからだったか、私はアレスを男として好いてしまった。日々逞しく育っていく彼に対する劣情を抑えるのも、もう限界に近かったのだ。
「大丈夫ですか師匠。なんだか調子が悪そうですが...」
アレスが心配そうに顔を近づけてきた。彼の匂いが鼻孔を突いて、一瞬思考が真っ白になる。私は自制が利かなくなる前に素早く距離を取ってから
「大丈夫。私は、大丈夫だから。先にシャワーを浴びてくると良い」
そう言い残して、私はなんとか二階の自室まで辿り着いたのだった。
.........
.....
...
「はぁ、迂闊な事はするもんじゃないな...」
さっきから俺の下半身はギンギンにいきり立っていた。師匠の様子がおかしいからって、顔は近付けるべきじゃなかったんだ。近くに寄っただけで、彼女の香りに陶酔しかけてしまった。
「でも」
あんな、匂いだったっけ。確か、最後に一緒に寝たのが五年前だ。とても良い匂いだった。女性は皆ああなんだろうか。
「あ、だめだだめだ」
いやらしい思考を振り切ろうと、頭をぶんぶんと振る。考えれば考えるほど股ぐらがいきり立ってしまう。なぜか、食事を終えてからやけに昂っているのだ。
「一回抜いてから、見に行くか」
さっきの師匠も大分顔色悪かったし、何かあってはいけない。そう思った俺はトイレに駆け込み、抜く事にしたのだが...
「...だめだ、師匠の匂いが忘れられない」
物心付いたときから、側には師匠がいた。彼女の背中を見て育った俺が、惚れないわけがなかったのだ。仕方なく、俺は幾度と無くオカズにしてきた師匠を想像して抜いた。今日はやたらと多く出たので驚いたが。
「ふぅ。取り敢えずは落ち着いたし、濡れタオルぐらい用意していくか」
自慰を処理し終えた俺は井戸で水を汲み、桶とタオルを持って二回へ向かった。
二階は廊下が一本延びていて、手前が師匠、奥が俺の部屋になっている。師匠の部屋の前に着いた俺は、部屋の中の声に気が付いた。どうやら師匠が俺の名前を呼んでいるらしいが、どうも呼吸も激しいし様子がおかしい。
「師匠、入りますよ」
幸い、いや彼女にとっては不幸その物だっただろう。部屋の鍵は掛かっておらず、俺はそのまますんなりと部屋へ入れた。しかし、俺の視界に飛び込んできたのは、俺の名を呼びながら自分の秘所を擦る、師匠のあられもない姿であった。
.........
.....
...
「はぁ、はぁ、アレスっ...」
部屋に入るや否や、私は身体をベッドに投げ出して自慰を始めた。もちろんアレスの事を考えて。
「ッ...くふぅ」
一度絶頂して、愛液で濡れた手を見つめる。彼に愛撫してもらったらどれほど気持ちいいだろうか。ああ、彼の欲望のままに犯されたい。ぐちゃぐちゃにしてほしい。想えば想うほど、私の恥部は濡れ、子宮が疼いてまた自慰をする。さっきからこの繰り返しだ。
「なんでっ...！」
今日に限っていつもより魔物の魔力が強く作用している。ヴァルキリーの力を持ってしても抑えきれないほどに。
「あっ、アレス。もっと、もっと犯して...」
ガチャリ、とドアが開いた。そこに立っていたのは
「アレス...」
「す、済みませんでした！」
「あ...」
踵を返して部屋を出て行こうとする彼の腕を掴んで部屋に引き入れた。
「うわぁ！」
バランスを崩したアレスは、そのまま私に多い被さるように倒れ込んだ。
「っ！」
アレスと目が合った。彼は咄嗟に視線を逸らし、目を瞑った。
「...見られて、しまったな。聞いていたと思うが、私は、お前の事が好きだ。男として愛している」
彼は押し黙ったままだ。嫌われて、しまったのだろうか。こんな淫らな私を。
「済まない、今のは全部忘れてくれ。全部...」
気が付くと、頬を涙が伝っていた。泣いたのは、初めてだった。なによりも、こんな形で、私の恋は...
「どうして...」
黙っていた彼が、急に口を開いた。
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか」
「え...？」
「あなたは狡い人だ。自分の想いだけを伝えて、俺のことは、俺の気持ちは聞いてくれない」
私は、思考が追いつかなかった。
「俺だって、ずっとあなたの事が好きでした。でも、俺なんかじゃ釣り合わないし迷惑だろうって、ずっと思ってました。でも、あなたが俺を想っていてくれたんなら、俺と結婚して...んむっ！？」
考えるより先に手が出ていた。アレスの胸元を掴んで引き寄せ、半ば強引に唇を重ねさせる。最初は戸惑っていた彼も、だんだん舌を絡めてくるようになった。
「んっ...む...ぷはっ」
一瞬のようで、永遠のようにも感じられた口づけ。甘くて、優しい、彼のファーストキス。思考もなにもかもまとまりが無くなった私は、蕩けた表情でアレスを見る。しかし、このまま彼の思うままに犯されてしまうのだろうという覚悟と期待で満たされた私は少し拍子抜けしてしまった。なんと彼はひょいと私をお姫様抱きでベッドまで連れて行ったのだ。
私をベッドに寝かし、アレスは再び跨ってズボンを脱ぎ始めた。
「あ...」
私はそそり勃つソレから目を逸らすことが出来なかった。
（こんなに、大きいなんて...）
これが今から私の中に入るのかと思うと期待で胸が高鳴った。
「本当に、良いんですね」
「ああ、早く来てくれ」
最後の確認。師弟として、育ての親子関係の最後を。
その直後、アレスはその大きく逞しい肉棒を私の蜜壺に突き入れた。
「はぁっ♥♥♥♥♥♥」
「あっ...くぅっ」
アレスの肉棒が私の降りきった子宮口を突いた瞬間、反射的に膣がキュッと引き締まり私と彼はほぼ同時に絶頂した。
どくどくと注がれる彼の精に、私は完全に蕩けきっていた。
「あ...♥」
むくむくと私の中で肉棒が再び大きくなっているのが分かる。少しずつ、膣を慣らすようにピストンを再開し始めた。
「あっ♥うっ♥♥はぁ、んっ♥♥」
どんどんピストンが激しくなっていく。奥を突かれる度に身体が魔物の魔力に犯され、より淫らにより敏感になっていった。今までこんな気持ちのいい事を知らなかった。なにより、愛する人に抱かれることがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。最早ベッドの上にいるのはかつて高潔を良しとしたヴァルキリーではなく、ただひたすらに夫を求める一匹の雌だった。それほどまでに、私は彼を欲していたのだ。
「ああっ♥♥いいっ♥だいすき♥♥アレスっ♥もっと、はげしくして♥♥♥」
「ああ、俺も愛してるよイレーネ」
アレスは急に耳元でそんな事を囁いた。敏感になっていた私は突然の愛の言葉に、思わず膣を締め付ける。
「急に...!くっ、はぁっ」
アレスのモノもビクビクとし、ピストンは更に早くなった。そろそろイキそうなのだろう。私は再びあの子宮に直接精が吐き出される陶酔感を味わえるのかと胸が高鳴った。
「そろそろ出すよイレーネっ」
「きてっ♥いっぱいだして♥♥わたしを母にしてくれっ♥♥♥」
アレスがスパートをかける。
「あああぁぁぁ----っ♥♥♥♥♥♥」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ、くぅ」
私の降りきった子宮に熱い精が注ぎ込まれる。意識は混濁としているが、身体は感覚を子宮に集中させていた。１回目より勢い良く、多くて長い射精を全身で味わっていた。まるで、世界が彼に染め上げられていくように。
「はぁ、はぁ、はぁ」
私もアレスも、絶頂後の余韻を味わっていた。
それが落ち着いてから、彼は未だ膨らんだままの肉棒を引き抜こうとした。
「っ...!?んぁぁぁっ♥♥♥♥♥」
引き抜かれた途端、私は突然の快感に襲われて潮を吹いてしまった。
「ぁぁぁぁ...♥」
そんな腰砕け状態でなさけない声をあげる私の頬を、アレスは優しく撫でて微笑んだ。
「これからもよろしくおねがいしますね。イレーネ」
「ああ、私の方こそよろしく頼むぞ。アレス♥」
私たちは唇を合わせる。夫婦として初めてのキス。それはとても甘美で優しくて、言い表しようのないほど幸せだった。私たちはそのまま同じベッドで眠りにつく...訳もなく、結局一晩中交わり続けた。長年抑圧してきた感情を解放した二人がたった二回で満足できるはずがなかったのだ。夫婦の優しいセックスから獣の交尾のように激しいセックスまで、実に様々な体験をした。
私の意識がしっかりと戻ったのは翌日の朝。混濁していたとはいえ、昨夜の余韻を思い出し、下腹部をさすっていた。
隣を見ると、アレスが寝ている。しかし、私の視線は直ぐに彼が掛けている毛布の膨らみを見つめていた。私は彼の掛ける毛布に潜り込み、膨らみの正体と出会った。凛々しくそそり勃つ彼の摩羅。
「ふふ、朝からこんなにおっ立てているとは。我が夫ながら末恐ろしいな...♥♥」
蒸れた肉棒が放つ強い雄の匂いに理性を飛ばされた私は、アレスが起きるまでの間ずっとそれをしゃぶり続けたのだった。
.........
.....
...
「ふぅ、今日も絶好の洗濯日和だな」
俺は洗い終えた洗濯物を庭に干していく。空になった洗濯カゴを持って家に帰ると、妻のイレーネが食器を洗っていた。
「ああ、ダメだよイレーネ。それはちゃんと俺がやるから、座って暖かくしてて」
「むぅ。私を誰だと思ってるんだ」
「はいはい。イレーネ・オーリエルム。俺の最愛の妻で妊婦さんでしょ」
俺は大きく膨らんだ彼女のお腹を撫でながら安楽椅子に座らせ、お腹に毛布を掛けた。イレーネに妊娠が発覚したのは初夜から約三ヶ月後のこと。まぁ、あの日以来一週間ほどの間は食ってセックスして寝るといった日々を送っていたので当然の結果であるが。そして約一年が経過し、新たな春を迎えようとした頃、子どもの出産予定日が分かったのだ。
「ありがとう。でも流石に心配性すぎるんじゃないか」
「心配しなさすぎるよりはマシでしょ。ここで大人しくしてて」
イレーネは安楽椅子に腰掛けてお腹をさすっている。
「あ、動いた」
そう言って、彼女は俺の手をお腹に触れさせる。そこには、確かに新しい命が鼓動を鳴らしていた。
「ほら、この子もありがとうって言っているぞ」
「きっとイレーネ似の可愛い子だろうね。将来は美人さんになるんだろうな」
「もしかしたらアレス似のかっこいい子かもしれないぞ」
二人は互いに目を合わせ、笑い合う。
こんなかけがえのない日々が、いつまでも末永く続きますように。
「...」
村の惨状には言葉すら出なかった。建物は皆打ち壊されるか焼かれてしまい、抵抗したものは片端から殺していったのだろう。道端には剣や槍が刺さった焼死体がいくつも転がっていた。
「クソっ、私がもっと早く駆けつけていれば...！」
駆けつけていれば、どうなったろうか。いくら私がヴァルキリーとはいえ...
私はそんな思考を振り払うように焼け野原を進んでいった。
「だれか...」
わかってはいる。生存者などいないとわかってはいるものの、心のどこかで、誰か生き残っていないかと願ってしまう。
私が魔物の魔力に犯され、天界を追放されて以来、人間界を旅する内に、こんな情景を何度も見てきた。この村はそんな私の素性を知った上で私に良くしてくれた人たちの村だ。今朝、本当に今朝私を送り出してくれるまでは賑やかな村だったのだ。それが、同じ人間の手によって、全ての営みを奪われてしまった。この村の人たちは、何の罪もない善良な市民だったのに、なぜこんな惨い目に会わなければならなかったのか。私はそんな行き場の無い怒りを抑えつつ、焼けて崩れた建物など一つ一つていねいに見て回った。
「ぅ...」
一瞬の呻き声を、私は聞き逃さなかった。声を頼りに瓦礫を退けていくと、五歳ほどの男の子が倒れていた。
「...！」
私はその男の子を抱き寄せる。幸いなことに、目立った怪我は無さそうだった。
「ぅ、あ...？」
男の子の意識が戻り、うっすらと目を開けた。
「ありがとう、生きていてくれて...」
私は男の子を再び抱擁する。そしてこの子だけは何としても護らなくては、と強く決意したのであった。
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町外れの見晴らしの良い野原で、春先の心地よい風とともに二人の男女が剣戟を演じていた。
「なかなか腕を上げたな、アレス！」
アレスと呼ばれた青年は、打ち出された力強い打撃を剣で受け、ガァン！と大きな音がした。
「そりゃイレーネ師匠直伝ですからね」
アレスは受けた私の剣をそのままはじき返した。
「よし。今日の鍛錬はこれで終わりにしよう」
「はい」
私が額の汗を腕で拭っていると、アレスが水筒を渡してきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
冷たい水が喉を通っているのがわかる。
「ぷはぁ」
全く稽古上がりの冷水ほど素晴らしいものはそうないな。隣ではアレスが座って自分の水筒に口を付けていた。あの日から13年。今日で18になり元服を迎える。立派に逞しく育ってくれたのは、素直に誇らしいことだ。
「それじゃあ、そろそろ帰って夕飯の支度しましょうか」
そう言ってアレスは立ち上がった。
「ああ、そうだな」
私も後を追うように付いて、私たちの住むセントリアルの街へと帰って行った。
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「夕飯、何にしますかね」
街のメインストリートを歩きながらアレスは聞いてきた。今日の当番は彼だからだ。
「そういえば、今日はお前の誕生日だろう?奮発してステーキにでもしよう」
「本当ですか！やったぁ！！」
アレスは嬉々としてマーケットへと足を早める。
「ほらほら、早く行かないと良いお肉無くなっちゃいますよ」
急ぐ彼を少し抑えながら、私たちはマーケットへ向かった。
マーケットは肉や野菜、服飾品に家具まで幅広いく品が揃えられている。少し探せば地方の珍味や特産品なんかも扱っている。流石はこのフィンツェル連邦の中枢都市だ。人で賑わいを見せる商店街を少し進むと、いつも世話になっている肉屋が見えてきた。
「おっ、イレーネさんとアレスじゃねえか。夕飯の買い物かい」
そう話しかけて来たのは肉屋の店主のリュークさんである。
「ええ、今日はアレスの18歳の誕生日なのでステーキを買いに」
「おお！アレスも遂に元服かぁ、おめでとさん！ならとっておきのを出さなきゃなぁ！」
そう言ってリュークさんは店の奥へ行って、なにかの包みを持ってきた。
「今朝入った貴重な品でなぁ。ドラゴニア直送だぞぉ」
持ってきた包みを開けると、そこには一匹の魔界蜥蜴があった。
「うわぁ...！初めて見ました」
アレスが興奮気味に呟く。そういえば何度か名前を聞いたことはあるものの、実物を見るのは初めてだ。魔界蜥蜴といえば竜皇国ドラゴニアの特産料理『ドラゴンステーキ』に使われる肉。肉質もよく、とてもおいしいが、ドラゴニア以外では滅多に流通しない貴重な肉である。
「これを普段の半額にしてやろう。どうだい、イレーネさんよ」
アレスは目を輝かせている。まぁ今回は元服という人生に一度きりの機会だし、多少は目を瞑るとしよう。
「じゃあこれを二人前お願いできるか」
「まいどあり！じゃあ直ぐに切ってくるから少し待ってろ」
少しして、二人前に切り分けられた蜥蜴の肉が竹の葉に包まれてやってきた。私は店主に料金を渡し、肉を受け取った。
「ほいほい。んじゃアレスもイレーネさん大切にしてやれよ？」
彼は最後、アレスにそんな意味深長なことを伝えてニヤリと笑っていた。この時は大して気には止めなかったものの、この言葉の意味を後に思い知る事になるのである。
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「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
アレスは水を飲み、私は口元を拭って食事を終える。
「いやぁ美味しかったですね。噂に聞くだけはある」
「あ、ああ。確かに、旨かったな...」
歯切れの悪い私の返答に、彼は首を傾げた。...それも仕方がない。先程から身体が火照って仕方がないのだ。この肉に、何か混ざっていたのだろうか。長年魔物の魔力にじわじわと犯され続けている私は、高潔である事を良しとするヴァルキリーの規範を守るために力の一部を使って湯水の如く沸いてくる性欲---男と交わりたいという衝動---を押さえ込んできた。だが、それも今はかなり揺らいでいる。火照っただけならば自分でいくらでも処理できよう。しかし、よりにもよって目の前に想い人がいるのが余計に質が悪い。いつからだったか、私はアレスを男として好いてしまった。日々逞しく育っていく彼に対する劣情を抑えるのも、もう限界に近かったのだ。
「大丈夫ですか師匠。なんだか調子が悪そうですが...」
アレスが心配そうに顔を近づけてきた。彼の匂いが鼻孔を突いて、一瞬思考が真っ白になる。私は自制が利かなくなる前に素早く距離を取ってから
「大丈夫。私は、大丈夫だから。先にシャワーを浴びてくると良い」
そう言い残して、私はなんとか二階の自室まで辿り着いたのだった。
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「はぁ、迂闊な事はするもんじゃないな...」
さっきから俺の下半身はギンギンにいきり立っていた。師匠の様子がおかしいからって、顔は近付けるべきじゃなかったんだ。近くに寄っただけで、彼女の香りに陶酔しかけてしまった。
「でも」
あんな、匂いだったっけ。確か、最後に一緒に寝たのが五年前だ。とても良い匂いだった。女性は皆ああなんだろうか。
「あ、だめだだめだ」
いやらしい思考を振り切ろうと、頭をぶんぶんと振る。考えれば考えるほど股ぐらがいきり立ってしまう。なぜか、食事を終えてからやけに昂っているのだ。
「一回抜いてから、見に行くか」
さっきの師匠も大分顔色悪かったし、何かあってはいけない。そう思った俺はトイレに駆け込み、抜く事にしたのだが...
「...だめだ、師匠の匂いが忘れられない」
物心付いたときから、側には師匠がいた。彼女の背中を見て育った俺が、惚れないわけがなかったのだ。仕方なく、俺は幾度と無くオカズにしてきた師匠を想像して抜いた。今日はやたらと多く出たので驚いたが。
「ふぅ。取り敢えずは落ち着いたし、濡れタオルぐらい用意していくか」
自慰を処理し終えた俺は井戸で水を汲み、桶とタオルを持って二回へ向かった。
二階は廊下が一本延びていて、手前が師匠、奥が俺の部屋になっている。師匠の部屋の前に着いた俺は、部屋の中の声に気が付いた。どうやら師匠が俺の名前を呼んでいるらしいが、どうも呼吸も激しいし様子がおかしい。
「師匠、入りますよ」
幸い、いや彼女にとっては不幸その物だっただろう。部屋の鍵は掛かっておらず、俺はそのまますんなりと部屋へ入れた。しかし、俺の視界に飛び込んできたのは、俺の名を呼びながら自分の秘所を擦る、師匠のあられもない姿であった。
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「はぁ、はぁ、アレスっ...」
部屋に入るや否や、私は身体をベッドに投げ出して自慰を始めた。もちろんアレスの事を考えて。
「ッ...くふぅ」
一度絶頂して、愛液で濡れた手を見つめる。彼に愛撫してもらったらどれほど気持ちいいだろうか。ああ、彼の欲望のままに犯されたい。ぐちゃぐちゃにしてほしい。想えば想うほど、私の恥部は濡れ、子宮が疼いてまた自慰をする。さっきからこの繰り返しだ。
「なんでっ...！」
今日に限っていつもより魔物の魔力が強く作用している。ヴァルキリーの力を持ってしても抑えきれないほどに。
「あっ、アレス。もっと、もっと犯して...」
ガチャリ、とドアが開いた。そこに立っていたのは
「アレス...」
「す、済みませんでした！」
「あ...」
踵を返して部屋を出て行こうとする彼の腕を掴んで部屋に引き入れた。
「うわぁ！」
バランスを崩したアレスは、そのまま私に多い被さるように倒れ込んだ。
「っ！」
アレスと目が合った。彼は咄嗟に視線を逸らし、目を瞑った。
「...見られて、しまったな。聞いていたと思うが、私は、お前の事が好きだ。男として愛している」
彼は押し黙ったままだ。嫌われて、しまったのだろうか。こんな淫らな私を。
「済まない、今のは全部忘れてくれ。全部...」
気が付くと、頬を涙が伝っていた。泣いたのは、初めてだった。なによりも、こんな形で、私の恋は...
「どうして...」
黙っていた彼が、急に口を開いた。
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか」
「え...？」
「あなたは狡い人だ。自分の想いだけを伝えて、俺のことは、俺の気持ちは聞いてくれない」
私は、思考が追いつかなかった。
「俺だって、ずっとあなたの事が好きでした。でも、俺なんかじゃ釣り合わないし迷惑だろうって、ずっと思ってました。でも、あなたが俺を想っていてくれたんなら、俺と結婚して...んむっ！？」
考えるより先に手が出ていた。アレスの胸元を掴んで引き寄せ、半ば強引に唇を重ねさせる。最初は戸惑っていた彼も、だんだん舌を絡めてくるようになった。
「んっ...む...ぷはっ」
一瞬のようで、永遠のようにも感じられた口づけ。甘くて、優しい、彼のファーストキス。思考もなにもかもまとまりが無くなった私は、蕩けた表情でアレスを見る。しかし、このまま彼の思うままに犯されてしまうのだろうという覚悟と期待で満たされた私は少し拍子抜けしてしまった。なんと彼はひょいと私をお姫様抱きでベッドまで連れて行ったのだ。
私をベッドに寝かし、アレスは再び跨ってズボンを脱ぎ始めた。
「あ...」
私はそそり勃つソレから目を逸らすことが出来なかった。
（こんなに、大きいなんて...）
これが今から私の中に入るのかと思うと期待で胸が高鳴った。
「本当に、良いんですね」
「ああ、早く来てくれ」
最後の確認。師弟として、育ての親子関係の最後を。
その直後、アレスはその大きく逞しい肉棒を私の蜜壺に突き入れた。
「はぁっ♥♥♥♥♥♥」
「あっ...くぅっ」
アレスの肉棒が私の降りきった子宮口を突いた瞬間、反射的に膣がキュッと引き締まり私と彼はほぼ同時に絶頂した。
どくどくと注がれる彼の精に、私は完全に蕩けきっていた。
「あ...♥」
むくむくと私の中で肉棒が再び大きくなっているのが分かる。少しずつ、膣を慣らすようにピストンを再開し始めた。
「あっ♥うっ♥♥はぁ、んっ♥♥」
どんどんピストンが激しくなっていく。奥を突かれる度に身体が魔物の魔力に犯され、より淫らにより敏感になっていった。今までこんな気持ちのいい事を知らなかった。なにより、愛する人に抱かれることがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。最早ベッドの上にいるのはかつて高潔を良しとしたヴァルキリーではなく、ただひたすらに夫を求める一匹の雌だった。それほどまでに、私は彼を欲していたのだ。
「ああっ♥♥いいっ♥だいすき♥♥アレスっ♥もっと、はげしくして♥♥♥」
「ああ、俺も愛してるよイレーネ」
アレスは急に耳元でそんな事を囁いた。敏感になっていた私は突然の愛の言葉に、思わず膣を締め付ける。
「急に...!くっ、はぁっ」
アレスのモノもビクビクとし、ピストンは更に早くなった。そろそろイキそうなのだろう。私は再びあの子宮に直接精が吐き出される陶酔感を味わえるのかと胸が高鳴った。
「そろそろ出すよイレーネっ」
「きてっ♥いっぱいだして♥♥わたしを母にしてくれっ♥♥♥」
アレスがスパートをかける。
「あああぁぁぁ----っ♥♥♥♥♥♥」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ、くぅ」
私の降りきった子宮に熱い精が注ぎ込まれる。意識は混濁としているが、身体は感覚を子宮に集中させていた。１回目より勢い良く、多くて長い射精を全身で味わっていた。まるで、世界が彼に染め上げられていくように。
「はぁ、はぁ、はぁ」
私もアレスも、絶頂後の余韻を味わっていた。
それが落ち着いてから、彼は未だ膨らんだままの肉棒を引き抜こうとした。
「っ...!?んぁぁぁっ♥♥♥♥♥」
引き抜かれた途端、私は突然の快感に襲われて潮を吹いてしまった。
「ぁぁぁぁ...♥」
そんな腰砕け状態でなさけない声をあげる私の頬を、アレスは優しく撫でて微笑んだ。
「これからもよろしくおねがいしますね。イレーネ」
「ああ、私の方こそよろしく頼むぞ。アレス♥」
私たちは唇を合わせる。夫婦として初めてのキス。それはとても甘美で優しくて、言い表しようのないほど幸せだった。私たちはそのまま同じベッドで眠りにつく...訳もなく、結局一晩中交わり続けた。長年抑圧してきた感情を解放した二人がたった二回で満足できるはずがなかったのだ。夫婦の優しいセックスから獣の交尾のように激しいセックスまで、実に様々な体験をした。
私の意識がしっかりと戻ったのは翌日の朝。混濁していたとはいえ、昨夜の余韻を思い出し、下腹部をさすっていた。
隣を見ると、アレスが寝ている。しかし、私の視線は直ぐに彼が掛けている毛布の膨らみを見つめていた。私は彼の掛ける毛布に潜り込み、膨らみの正体と出会った。凛々しくそそり勃つ彼の摩羅。
「ふふ、朝からこんなにおっ立てているとは。我が夫ながら末恐ろしいな...♥♥」
蒸れた肉棒が放つ強い雄の匂いに理性を飛ばされた私は、アレスが起きるまでの間ずっとそれをしゃぶり続けたのだった。
.........
.....
...
「ふぅ、今日も絶好の洗濯日和だな」
俺は洗い終えた洗濯物を庭に干していく。空になった洗濯カゴを持って家に帰ると、妻のイレーネが食器を洗っていた。
「ああ、ダメだよイレーネ。それはちゃんと俺がやるから、座って暖かくしてて」
「むぅ。私を誰だと思ってるんだ」
「はいはい。イレーネ・オーリエルム。俺の最愛の妻で妊婦さんでしょ」
俺は大きく膨らんだ彼女のお腹を撫でながら安楽椅子に座らせ、お腹に毛布を掛けた。イレーネに妊娠が発覚したのは初夜から約三ヶ月後のこと。まぁ、あの日以来一週間ほどの間は食ってセックスして寝るといった日々を送っていたので当然の結果であるが。そして約一年が経過し、新たな春を迎えようとした頃、子どもの出産予定日が分かったのだ。
「ありがとう。でも流石に心配性すぎるんじゃないか」
「心配しなさすぎるよりはマシでしょ。ここで大人しくしてて」
イレーネは安楽椅子に腰掛けてお腹をさすっている。
「あ、動いた」
そう言って、彼女は俺の手をお腹に触れさせる。そこには、確かに新しい命が鼓動を鳴らしていた。
「ほら、この子もありがとうって言っているぞ」
「きっとイレーネ似の可愛い子だろうね。将来は美人さんになるんだろうな」
「もしかしたらアレス似のかっこいい子かもしれないぞ」
二人は互いに目を合わせ、笑い合う。
こんなかけがえのない日々が、いつまでも末永く続きますように。
18/02/09 21:11更新 / Kisaragi