大砲とフジツボ
青い空、白い雲、爽やかな潮の香り、そして…………
むせるほど濃密な汗と男臭さ……。
窓のない船室でこれは相当堪えた、剰りのきつさに頭の芯がクラクラしてくる。まぁ、自分もその臭いの発生源の一つなのだろうからあまり強くは言えないのだが……。
ここは戦列艦の砲列デッキであり俺の職場だ。六〇門級戦列艦“アヴェンジャー”の第一層砲列デッキには窓もなく密閉されているので凄まじく臭い。ここには常に十数人の人間が乗り込んでいて蠢いているので仕方がないのだがどうにかならないもんだろうか……。
ヒトと魔物が暮らすこの世界で俺は親魔物の都市に生まれ、生まれた時から魔物と接しながら生きてきた。当然のごとく魔物の存在に抵抗はないし、初恋の人も魔物だった。残念な事にその子は今別の男の所に嫁いで幸せそうにしている。まぁ、彼女が幸福であるのならそれでいいのだけど。
そんなこんなで俺は今とある宗教団体に所属している。あ、言っておくけど危ない所でも魔物嫌いで有名な“教団”でも無いからな?
“サバト”と言う大きな宗教団体だ。教義? ははは、魔物を愛することさ。うん、別に間違った事は言っちゃいない。
「シュガルさん、お水どうぞ。暑いですねぇ」
「あ、どうもすいませんハーシーさん」
自分の頬がだらしなく垂れるのを感じた、手渡された椀に入った水の冷たさが心地よい。
俺に水を手渡し、それ以上に爽快な笑いを投げかけてくれたのは体が半透明に透き通った美しい女の子だ。長く艶かな淡い青色の髪が濁った空気の中でも輝いている。ハーシーさんはウンディーヌという精霊が魔力に汚染されて生まれた魔物で、水を司っている。
その特性からウンディーヌは水を操る事が出来るので、真水が貴重な船では重宝されている。なにせ海水を真水に変える事もできるのだから当然だ。大抵の親魔物派の船には水係として乗り込んでいる、無論強制してではなく船に相方が居るか、頼み込んでだ。
で、このハーシーさんは前者だ。第三砲列デッキに居る砲手のアスって男の嫁さんなのである。畜生、どこでこんな美人みつけやがったんだよ。
やけ気味に椀の水を煽ると冷たく冷えていて気持ちよかった、わざわざ気を遣って冷たくしてくれていたのだろう。俺はできるだけ愛想良く笑って礼を言うと彼女に椀を返した。小脇に水瓶を入れているのでまだ他の船員にも配らなければならないのだろう。
しかし、水を飲んで少しマシになったがすごく暑い……干からびて死んでしまいそうだ。首からかけているタオルで額の汗を拭ったが、そろそろ飽和して汗が染み出してくるんじゃないか、このタオル。
ちょっと変えようかなと思っていると、隣の砲をみていた年かさの男性、先輩のジョスさんが俺を見て笑いながらこう言った。
「おう、坊主。ちょっと甲板で涼んできたらどうだ。肝心の時にぶっ倒れたらたまったもんじゃ無いぜ?」
「ジョスさん、まだ休止じゃないですよ?」
「アホたれが、肝心の時に役立たずになっていられると困るつってんだよ。いいからちょっと体冷やしてきやがれ」
半ば追い出されるようにしてデッキにでてきた。三本の立派なマストに貼られた帆が風をはらんで揺れている、どうやら船足はそこそこ早くなっているようだ。
数人の甲板作業員がマストにとりついて作業をしている、ずいぶんと忙しそうだ。それにしても、よくあんなに高い所にいて目が眩まないものだな。俺ならまず無理だ。
デッキの縁に出て海を眺めると近くに大きな船が浮いていた。マストは同じく三本だが、アヴェンジャーの物と比べるとずっと太くて大きいが、側面に砲蓋を備えていないことからその艦が輸送艦であることが分かる。
船体の側面には大きく“スプリンター”と目立つ色で名前が塗られている。大型の輸送艦で南洋の島々から運んできた果実や工芸品を大量に積んでいる我らの護衛対象だ。
他にも視線を巡らせると艦がいくつも見える。合計で居並ぶ戦列艦は五隻、全て六〇門級の小型艦。輸送艦はスプリンターと同じ等級の物が三隻あった。
サバトは支部ごとで活動資金は自前で調達しないといけないのだが、家の支部は主に貿易で稼いでいた。南洋に続く都市の港を借り受け、そこから出発して物を買う。輸送に時間をかけると価値が落ちたり関税が高くつく物は転移術で直に支部へ送り、それ以外は港まで船に持って帰ってそこから短距離転移術なり馬車なりで持っていくのだ。
多分サバトの中でもトップクラスの収益を上げていると思う。何せ俺のような下層の構成員で船の人足をやっていても一月に金貨を一枚も給金として貰えるのだから。因みに、金貨が一枚あれば中流の五人家族が有に一月食えて少しなら貯蓄も出来る。
その船団を眺めながら深呼吸する、肺に籠もっていた古い酸素が吐き出され頭がすっとする。蒸された体が風に吹かれて冷えていくのが心地よかった。でも余りに心地よすぎて今から砲列デッキに戻ると思うと泣きたくなってくる程だ。せめて臭いだけでもマシだったらなぁ……。
そろそろ戻るかなと思っていたらマストの上から心地よい歌声が聞こえてきた。上を向くと小さな女の子がマストの天辺に起用に立って歌っていた。
女の子は魔物だった。手は翼に変質しており、足も鳥のそれである。長い髪を二つに分けて根本でくくり、その下にある顔は幼くてとても愛らしい。胸を覆う小さいシャツから延びるぼっこりとしたお腹のラインと短い半ズボンから続く健康的な足が眩しい。
桜色の唇から漏れるのは丘の恋人を思う男の恋歌。少々下品な内容だけれども、彼女が歌っていると教団の賛美歌よりも神々しく聞こえる。
「ああ、恋人よ。愛しい人よ、貴女の柔らかな肌に身を埋めた日々が忘れられない。優しい胸に埋もれて見る夢をもう一度」
少々歌詞が変えられていた。本来は優しい胸、ではなくふくよかな胸だった筈だ。まぁ、そうなっているのには理由があるんだけど。歌い手自身が大変慎ましやかな胸をしているのもあるが、それは関係ない。サバトの教義によるものだろう。
「君の髪の香りを思い出して櫂を漕ごう。甘い思い出を反芻して錨を上げよう。たとえ風雨に巻かれ、海の女神の腕に抱かれようとも君を忘れない」
甘美な歌声に頭の芯が甘く痺れてくる。彼女はセイレーンという魔物で、その歌声には強力な魔術が込められていて人を惑わすのだ。
だが、惑わすだけでなく力を与える事も出来る。今の歌に込められているのは疲れを和らげる魔術だろう、僅かな痺れがその証だ。
距離があるから痺れとしか感じられないが、近くで聞いたなら痺れが一種の恍惚に代わり体が軽くなったように感じられる筈だろう。
彼女はこの船付きの歌姫で名前はミカという。確かコックの嫁さんだったと思う。全く持って羨ましいことだ。
さてと……いい具合に汗も退いてきたし、そろそろ戻るかな。あんまりうだうだしてたら怒られそうだし。
のろのろとデッキに戻って砲席に戻った。相変わらず過ごしにくく、イヤになるような環境に耐え続ける、自分の当直が終わるまで…………。
翌日、昼の大休止で船はとある場所の沿岸に錨を降ろしていた。毎日全速で走っていると皆バテるので偶に沿岸に寄って走り、たっぷりと休みを取ることがあるのだが、今日がその日だったのだ。
穏やかな陽光の下同僚の多くが艦の下に艀を浮かべてその近くで泳いでいる、涼しげでずいぶんと楽しそうだ。
デッキの縁からその様を何となく眺める。混ざらないのかって? ちょっと疲れてるから泳ぐ気になれないだけさ。
それに……嫁さんと戯れてる連中の中に紛れて遊んでも空しくなるだけだ。
その同僚の中で青色の肌をした女性と戯れている男が目に入った。昨日隣に座っていたジョスさんだ。あの女性はジョスさんの嫁さんでネレイスという魔物だ。
小さな背に幼い体型、胸には密やかな膨らみしかなく、丸みのある顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。長い髪が海中に漂い、手足の小さな鰭でバランスをとっているのが見えた。
羨ましいなぁ……まぁ、確かにいい人だし、あんな美人の嫁さんが居ても不思議じゃないけどさ。
ん? なんで悉く幼児体型やら幼い人ばっかりなのかって?
……サバトの教義だからだ。サバトの教義は幼い容姿を愛でることで、教義に従った者には若返りと長寿が約束されている。まぁ、男は若返ると色々仕事上で面倒が起こるからたいてい長寿だけを受け取る事が多いんだけど、女性はみんな若返って幼い容姿で固定されるんだ。
女は魔物化するか、元から魔物の女の人が若返り、男はインキュバスになって長生きして嫁さんといちゃいちゃする。まぁ、そういう集まりだ。
ロリコン? 言うな、俺はただの可愛い物好きなだけだ。小さければなお良いってのは認めるけど。
まぁ、そのサバトには独り身の構成員だっているから、そんな連中の相手を見つけるためのお見合いパーティーもあるんだが……未だに良い相手は見つかっていない。
なんて言うかこう……運命的な物を感じる人が居ないんだ。向こうもそうらしく俺とくっつこうとする人も少ない。大抵一目惚れから永遠の愛に発展する事が多いんだ。
俺にもきっといつか良い人が現れるさ、そう思いながら休みが終わるまで戯れる同僚を眺めていた…………
あの日から四日後、艦隊は凄まじく厄介な目にあっていた。
俺たちは親魔物派の都市の艦隊で、転移術や魔物の手助けもあって莫大な利益を上げている。だからヒトが治める反魔物派の国家や都市からは恨まれている事が多いのだ。それ故に私掠船、簡単に言えば国家運営の海賊に狙われる事が多い。
面倒くさい逆恨みだが、向こうが向かって来るなら避けようが無い。向こうは軽装の快速船だがこちらは重砲を満載した戦列艦だ、船足で大きく負けるのでまず逃げきれない。
なので鉄量を以て押し返すしか無い。敵は装甲も薄く搭載している砲数も少ない。両舷で一〇に満たない物に戦列艦は負けはしない、その為の艦なのだから。
「装填良いか!? まだ撃つなよ!」
デッキの中を砲術長が忙しく駆け回っていた。俺も同僚と協力して砲に弾を装填し終えた所だ。手も顔も火薬まみれになっている。
どうやら輸送艦は遠くに下がったようだった、今は頃戦列艦を盾にして風を捕まえようとしている頃だろう。輸送艦は戦列艦よりかなり大型で物資を多く積んでいるが、巨大なマストを有している為ずっと速く航行できるのだ。
「ようし! テェッ!!」
火蓋を開いて火縄を差し込むと砲が火を噴いた。右舷全二八砲門が同時に火を吹いたので世界が割れたかと錯覚するほどの炸裂音が轟く。
進退機で押し出していた砲門が帰ってくるので俺はそれを掴んで押さえ、相方が裂薬と砲弾を装填しさく杖でそれを押し固める。これで装填は完了だ、もう一度火縄を押し込むと撃てる。
さぁ、進退機を押し出して……。
そう思った時だ、轟音が響いた。
何だ? どっかの馬鹿が早まって撃ったか? ん?
何だか目が見えない、丁度強い光を見たときのような……あれ……? 壁が無いぞ? 壁はどこいった?
やっと目が慣れたと思って開くと、目の前には何にも遮られていない外の光景が見えた。
あれ……?
何が起こったか良く分からない内に俺は水面に叩きつけられた…………
戦闘が終わった後の第一砲列デッキ。愚かにも襲いかかってきた私掠船は無数の砲で無惨に引き裂かれ、甲板には脱出出来た無数の捕虜が縄で数珠繋ぎにされていた。見殺しにするのは忍びないので救出し、後で国軍に突きだして賞金をもらうのだ。
その賞金は大抵船員で分配するので、戦勝の後デッキは勝利に沸くのだが……デッキは静かに沈んでいた。
シュガルの隣に着いていた砲手、ジョスは自分の砲の隣に座って組んだ腕に顔を埋めていた。その表情は伺えないが、雰囲気は暗い。
「……ジョス」
砲術長が声をかけるが、彼は何も言わなかった。皆も同じく何も言わない。
「あいつは……まだ一七だった」
口から吐き出される呻きのような言葉。
「俺に倅がいたら丁度あれくらいだろうな……だってのによぉ……」
伏せられた顔の下、火薬滓で汚れた床に小さな濡れ跡がいくつもつけられていた。跡はゆっくりと増えていく。
「落ちていくときな……進退機を押しだそうとしてたんだろうなぁ……何であのタイミングで弾が当たったんだよ……」
ジョスの砲の隣には何も無かった。砲を突き出す穴を埋める蓋もろとも壁が抉れてなくなっており、砲もどこかへ失せている。
シュガルが砲を押し出そうとした丁度その時、殆ど打ち砕かれた私掠船が最後の一刺しとして放った砲がシュガルの居る砲の壁を吹き飛ばしたのだ。
着弾のショックで目が眩んだシュガルはそのまま砲を押し出してしまい、砲が落ちないように船内につないでいた縄も破片で切れて……砲ごと海に飛び出してしまったのだ。
これが普段であったならば、水生の魔物が救出してくれたかもしれないが、戦闘に巻き込まれるのを恐れて魔物はその場から避難していた。そして、戦闘が終わるまでは危険なので捜索も出来ず、戦闘が終わった頃には彼が海に落ちてから三〇分程が過ぎ去っていた。
この海域は鮫も出ないし波も穏やかだが……生存は絶望的であった。
この日、艦隊は一日中艀を浮かべ、所属する魔物達は海中を探し回ったが結局シュガルは見つからず、夜明けを以て艦隊は目的地への航海へと復帰した…………
冷たい水の感覚。人々の熱気や砲が発する熱で普段以上の地獄と化した砲列デッキとは対照的な感覚。それどころか骨の芯から凍り付いてしまいそうなほど寒い。
ここは何処だろう……俺はどうなったんだ……? 最後に見えたのは海面だった。つまり海に落ちたのか?
だったら冷たいのは納得だった、温かい南洋の海でも長く漬かれば寒くもなる。何処かに流されたのだろうか……何にせよ……帰れないかも……。
ぴちゃり……。
海水を飲んだせいか酷く塩っ辛い味が残ってイガイガしていた口に爽やかな感覚が伝わる。塩味が流されていき、口の中が随分楽になった。
真水……? でも俺は流されているんじゃ……。
不意に、体に感覚が蘇ってきた。体は冷えているが水に漬かってはない。背には確かに硬い感覚がある。
運良く流された先で陸地に上がったのか、それともあの世に居るのか……どちらにせよ目を開けよう。
目を開けると入ってきたのは眩しい光と……大きな目をぱちくりさせた可愛らしい少女の貌だった。
「……ここは天国か?」
体に感覚が蘇るのと同時に、えも言えぬ恍惚感が俺を包んだ。風呂に入っているような暖かさと下半身に走る不思議な快感。これが天国って奴の感覚なのか? 親魔物派の俺が行けそうな所じゃ無いと思ってたんだけど……
「えっと……あたしのおうちです」
「おうち……?」
「その……すいこんだら……はいってきて……つめたかったし……おなかすいてたから……」
しどろもどろと話す少女、どうやら俺は生きているらしい。徐々にぼやけていた思考もすっきりしてきた。
どこか岩山の洞窟のようなごつごつした壁面のドーム、その大して広くない個室に俺は横たわり、少女がその上に乗っている。あ、やわらかい……。
「あっためようとおもって……あと、みずも……」
水はこの子が飲ませてくれたのか……。おや、でも天国じゃないってのに腰の快感は消えない。何だろう、凄く気持ちいいのにむず痒くて物足りないというか……
「だから……えっと……ごめんなさい」
謝ると少女は体をおこ……え……?
少女は裸だった。真っ平らな胸も、少女特有の少しぽっこりと出たお腹も、しなやかな手足にも糸一本纏っていない。大きな目が愛らしい顔は少し困惑しているようだが確かに微笑んでいた。
視線を下げていくと、なだらかな腹から股へと降りていき……自分の裸の腹と、彼女の顕わになった秘所が見えた。桜色で初々しい限りのそこは目一杯開き、透明な雫と何か大きな肉色の物体……すなわち俺のモノを根本までズップリと咥えていた。
これは……。
頭に無数の、しかも取り留めもなく乱雑な考えが飛び交っている。性交、エッチ、SEX、交わい、睦言、交尾、言い方は幾らでもあるがこれは俗に言う生殖行動で……いかん、ホント何言ってるか分かんなくなってきた……。
「はじめてだからよくわからないけど……でもがんばりますから……」
健気な事を言って少女が腰の上下を始めた。小さく控えめな水音が接合部から零れ始める。
「うああっ!?」
腰が痺れるような感覚、あまりの快楽に脳がそれを処理しきれずに体が腰だけになってしまったように感じる……これが……魔物と睦み合うって事なのか……?
俺は早々に彼女の中に放っていた、あまりに強すぎる快楽で自分が射精してしまった事にも気付けない。ただ頭が意識するのは自分のモノと、それに絡みつく何にも例えようが無いほど甘美で柔らかな媚肉の感覚だけ……。
「ふぁぁぁ……おいしい……」
少女の顔が蕩けた。小さな口はだらしなく開かれ、端から涎が一筋零れた。それを抑えるように右手が口に添えられるが、小指が端に引っかかっているだけで余計エロティックになっている。幼いが、巷の娼婦よりずっと淫らな痴態、見ているだけで絶頂を覚えそうな程だ……。
「もっと……もっとおいしいのちょうだい……?」
少女は顔を蕩けさせたまま焦点の定まらぬ目で此方を見つめ、譫言のように呟いて腰を動かし続ける。左手は腹に添えられてバランスを取っているが、口に持って行っている右手は唾液でぬらぬらと肉感的に輝いていた。
「あっ……ああっ! ああ!」
口から零れるのは意味のない声、強いて言うなら快楽を得ていると自白する言葉。意味は無くともそれには意志が込められているように思えた。
幾度も精を放つ、脳が焼け付くような快楽の渦に巻き込まれ、痺れるような快感で最早頭はまともに稼働していない。最初は少女が腹に乗り動いていたが、今は俺が体を起こして少女を抱きしめ、座り込んで向かい合う形で交わっていた。
腰を叩きつけるように上下し、お互い息を合わせて体を動かしていた。多分長い間一緒に砲手をやっていた相棒より動きは合っていると思う。
少女の小さい体に合わせて体を屈め、唇を深く合わせた状態で腰を律動させているが、結構無理が来ているのか腰が痛かった。だが、そんな事よりも快感の方が強い、全く気にならない程だ。
互いにの背に手を回し、ひたすらに快楽を貪り合う。性器も舌も溶けて混ざってしまうのではないかと思うほど気持ちよく、どれがどちらの物かの境界も曖昧になり始めている。
俺は少女の中に幾度も精を放ち、少女はその度に体を震わせて絶頂に達する。汗や精液に愛液、もうお互いの体は濡れていないところが何処にもなかった。
疲労のせいか頭にまた霧がかかったような感覚がやって来るが、腰が止められない。まるで止まれば死んでしまう魚になってしまったようだ。
深くあわされた唇から漏れるのは意味を成さない獣の呻き、快楽に耐えるその声はどちらからともなく高まっていき……弾けた。
これが最後と言わんばかりにモノが律動して命の奔流を放ち、少女の媚肉がもっとと求めるように収縮する。
強い快感の連続に、遂に俺の頭は駄目になたようだ、何かが切れた音がした。体が傾いでいく。
地面に背がついた、視界を出来るだけ腹にやると、少女はまだ胡座を組んだ足の上に乗っており、背筋を目一杯伸ばして快楽に打ち震えていた。
ふと目にに入った手首、そこは普通の人間のような柔らかな関節ではなく、無骨な岩のような物に覆われていた。どこかで聞いたことがある魔物の特徴と一致する……
まてよ……? 岩のドーム……手首の岩のような物……ああ……やっと思い出した……。
「カリュブ……ディス……」
海に潜むフジツボと酷似した巣に住む魔物。その巣はミミックのような特殊な空間になっており、時折渦を起こして人を引きずり込む……。
どうやら俺は引き上げられた訳ではなく、呑み込まれたようだ。助かったと言えば助かったのだが……。
そこまで考えた所で緊張の糸が完全に切れ、俺の意識は再び深い所へ消えていった…………。
再び目を覚ました時、俺は相変わらず全裸だったが体は清められていた。流石に目覚めて汗や精液まみれだったら相当嫌だったので有り難かった。
「あの……あたし……ねーるっていいます……」
目覚めるまでずっと付き添っていてくれたのか、彼女は俺の横で水差しを持って心配そうに佇んでいた。大丈夫だと答えるとぱぁっと笑顔に変わったので俺も知らずの内に相貌を崩している。ああ、可愛いなぁ……。
ネールは比較的若い個体なのか、どうやら引きずり込んだのは俺が初めてで、精を味わったのも初めてだそうだ。だから加減が出来ず、あのような激しい行為が限界を超えるまで行われてしまったらしい。俺も初めてだから色々と衝撃的だったな……。
その事について本当に申し訳なさそうに頭を下げるので気にしないで欲しいと言うと、彼女はまた笑ってくれた。いかん、鼻血出そう。
暫く俺たちは取り留めの無いことを話していたが、その内彼女は恥ずかしそうにぼそぼそと言い始める。目は伏せられ、顔を合わせるのも恥ずかしいというように床に向けられていた。
「えっと……その……よかったら……あたしと……んと……」
ああ、もう駄目だ、可愛すぎる。
我慢の限界が来た俺は彼女を抱きしめるとドームの壁が崩れんばかりに叫んだ。
「俺のお嫁さんになってください!」
結果……? ちょっと後に海の神官、シービショップさんをネールが呼んでくれたからささやかな結婚式をしたよ。腰が痛くなったけどな。
その後は色んな人の助けもあって俺は何とか都市に帰ることが出来た。長い間行方不明やってたし、状況が状況だったから帰ったら俺の墓があったのは中々新鮮だったな。生きた内に自分の墓を見られたんだから。
仲間にはボッコボコにされた。心配かけたのと、知らないうちに美人の嫁さんこさえて帰ってきたからだ、特に独り身の仲間から受けた攻撃が酷かったな、奥歯が一本欠けちまったけど甘んじて受けておこう。だって幸せだし。
俺の親父つーかそんな感じに近いジョスさんと、ジョスさんの奥さんは本当に我が子の事に様に喜んでくれた。でも、相当心配してくれたのかジョスさんの歓迎は独り身仲間の物よりずっと激しかったけど。顎が砕けるかと思った。
いや、嬉しいけど結婚早々嫁さんを未亡人にする気かよと思わないでも無かったけど、泣かれたら仕方ないよな……。
あれから俺は前と同じようにアヴェンジャーで砲手をやっている。配置は前と同じ場所だ、吹き飛ばされた壁はすっかり綺麗に直されていた。
修復された壁を撫でつつ思う。運命の出会いってのは何処であるかよくわかんねーもんだな、と。
それこそ死にかけたせいで俺はこんな可愛らしくて素敵な嫁さんもらえたんだからさ。
「えっとね……そろそろあかちゃんほしいなー……っておもってるんだけど……どう……かな?」
頬を染めて恥ずかしいけど嬉しい事を言ってくれる嫁さんを抱きしめてキスをした。俺はこのフジツボの中から離れる事はないだろう。仕事で出ることがあっても、俺が帰る場所は此処だ。
とりあえず、粋な出会いを用意してくれた運命とやらと、我等が魔王陛下に乾杯!
むせるほど濃密な汗と男臭さ……。
窓のない船室でこれは相当堪えた、剰りのきつさに頭の芯がクラクラしてくる。まぁ、自分もその臭いの発生源の一つなのだろうからあまり強くは言えないのだが……。
ここは戦列艦の砲列デッキであり俺の職場だ。六〇門級戦列艦“アヴェンジャー”の第一層砲列デッキには窓もなく密閉されているので凄まじく臭い。ここには常に十数人の人間が乗り込んでいて蠢いているので仕方がないのだがどうにかならないもんだろうか……。
ヒトと魔物が暮らすこの世界で俺は親魔物の都市に生まれ、生まれた時から魔物と接しながら生きてきた。当然のごとく魔物の存在に抵抗はないし、初恋の人も魔物だった。残念な事にその子は今別の男の所に嫁いで幸せそうにしている。まぁ、彼女が幸福であるのならそれでいいのだけど。
そんなこんなで俺は今とある宗教団体に所属している。あ、言っておくけど危ない所でも魔物嫌いで有名な“教団”でも無いからな?
“サバト”と言う大きな宗教団体だ。教義? ははは、魔物を愛することさ。うん、別に間違った事は言っちゃいない。
「シュガルさん、お水どうぞ。暑いですねぇ」
「あ、どうもすいませんハーシーさん」
自分の頬がだらしなく垂れるのを感じた、手渡された椀に入った水の冷たさが心地よい。
俺に水を手渡し、それ以上に爽快な笑いを投げかけてくれたのは体が半透明に透き通った美しい女の子だ。長く艶かな淡い青色の髪が濁った空気の中でも輝いている。ハーシーさんはウンディーヌという精霊が魔力に汚染されて生まれた魔物で、水を司っている。
その特性からウンディーヌは水を操る事が出来るので、真水が貴重な船では重宝されている。なにせ海水を真水に変える事もできるのだから当然だ。大抵の親魔物派の船には水係として乗り込んでいる、無論強制してではなく船に相方が居るか、頼み込んでだ。
で、このハーシーさんは前者だ。第三砲列デッキに居る砲手のアスって男の嫁さんなのである。畜生、どこでこんな美人みつけやがったんだよ。
やけ気味に椀の水を煽ると冷たく冷えていて気持ちよかった、わざわざ気を遣って冷たくしてくれていたのだろう。俺はできるだけ愛想良く笑って礼を言うと彼女に椀を返した。小脇に水瓶を入れているのでまだ他の船員にも配らなければならないのだろう。
しかし、水を飲んで少しマシになったがすごく暑い……干からびて死んでしまいそうだ。首からかけているタオルで額の汗を拭ったが、そろそろ飽和して汗が染み出してくるんじゃないか、このタオル。
ちょっと変えようかなと思っていると、隣の砲をみていた年かさの男性、先輩のジョスさんが俺を見て笑いながらこう言った。
「おう、坊主。ちょっと甲板で涼んできたらどうだ。肝心の時にぶっ倒れたらたまったもんじゃ無いぜ?」
「ジョスさん、まだ休止じゃないですよ?」
「アホたれが、肝心の時に役立たずになっていられると困るつってんだよ。いいからちょっと体冷やしてきやがれ」
半ば追い出されるようにしてデッキにでてきた。三本の立派なマストに貼られた帆が風をはらんで揺れている、どうやら船足はそこそこ早くなっているようだ。
数人の甲板作業員がマストにとりついて作業をしている、ずいぶんと忙しそうだ。それにしても、よくあんなに高い所にいて目が眩まないものだな。俺ならまず無理だ。
デッキの縁に出て海を眺めると近くに大きな船が浮いていた。マストは同じく三本だが、アヴェンジャーの物と比べるとずっと太くて大きいが、側面に砲蓋を備えていないことからその艦が輸送艦であることが分かる。
船体の側面には大きく“スプリンター”と目立つ色で名前が塗られている。大型の輸送艦で南洋の島々から運んできた果実や工芸品を大量に積んでいる我らの護衛対象だ。
他にも視線を巡らせると艦がいくつも見える。合計で居並ぶ戦列艦は五隻、全て六〇門級の小型艦。輸送艦はスプリンターと同じ等級の物が三隻あった。
サバトは支部ごとで活動資金は自前で調達しないといけないのだが、家の支部は主に貿易で稼いでいた。南洋に続く都市の港を借り受け、そこから出発して物を買う。輸送に時間をかけると価値が落ちたり関税が高くつく物は転移術で直に支部へ送り、それ以外は港まで船に持って帰ってそこから短距離転移術なり馬車なりで持っていくのだ。
多分サバトの中でもトップクラスの収益を上げていると思う。何せ俺のような下層の構成員で船の人足をやっていても一月に金貨を一枚も給金として貰えるのだから。因みに、金貨が一枚あれば中流の五人家族が有に一月食えて少しなら貯蓄も出来る。
その船団を眺めながら深呼吸する、肺に籠もっていた古い酸素が吐き出され頭がすっとする。蒸された体が風に吹かれて冷えていくのが心地よかった。でも余りに心地よすぎて今から砲列デッキに戻ると思うと泣きたくなってくる程だ。せめて臭いだけでもマシだったらなぁ……。
そろそろ戻るかなと思っていたらマストの上から心地よい歌声が聞こえてきた。上を向くと小さな女の子がマストの天辺に起用に立って歌っていた。
女の子は魔物だった。手は翼に変質しており、足も鳥のそれである。長い髪を二つに分けて根本でくくり、その下にある顔は幼くてとても愛らしい。胸を覆う小さいシャツから延びるぼっこりとしたお腹のラインと短い半ズボンから続く健康的な足が眩しい。
桜色の唇から漏れるのは丘の恋人を思う男の恋歌。少々下品な内容だけれども、彼女が歌っていると教団の賛美歌よりも神々しく聞こえる。
「ああ、恋人よ。愛しい人よ、貴女の柔らかな肌に身を埋めた日々が忘れられない。優しい胸に埋もれて見る夢をもう一度」
少々歌詞が変えられていた。本来は優しい胸、ではなくふくよかな胸だった筈だ。まぁ、そうなっているのには理由があるんだけど。歌い手自身が大変慎ましやかな胸をしているのもあるが、それは関係ない。サバトの教義によるものだろう。
「君の髪の香りを思い出して櫂を漕ごう。甘い思い出を反芻して錨を上げよう。たとえ風雨に巻かれ、海の女神の腕に抱かれようとも君を忘れない」
甘美な歌声に頭の芯が甘く痺れてくる。彼女はセイレーンという魔物で、その歌声には強力な魔術が込められていて人を惑わすのだ。
だが、惑わすだけでなく力を与える事も出来る。今の歌に込められているのは疲れを和らげる魔術だろう、僅かな痺れがその証だ。
距離があるから痺れとしか感じられないが、近くで聞いたなら痺れが一種の恍惚に代わり体が軽くなったように感じられる筈だろう。
彼女はこの船付きの歌姫で名前はミカという。確かコックの嫁さんだったと思う。全く持って羨ましいことだ。
さてと……いい具合に汗も退いてきたし、そろそろ戻るかな。あんまりうだうだしてたら怒られそうだし。
のろのろとデッキに戻って砲席に戻った。相変わらず過ごしにくく、イヤになるような環境に耐え続ける、自分の当直が終わるまで…………。
翌日、昼の大休止で船はとある場所の沿岸に錨を降ろしていた。毎日全速で走っていると皆バテるので偶に沿岸に寄って走り、たっぷりと休みを取ることがあるのだが、今日がその日だったのだ。
穏やかな陽光の下同僚の多くが艦の下に艀を浮かべてその近くで泳いでいる、涼しげでずいぶんと楽しそうだ。
デッキの縁からその様を何となく眺める。混ざらないのかって? ちょっと疲れてるから泳ぐ気になれないだけさ。
それに……嫁さんと戯れてる連中の中に紛れて遊んでも空しくなるだけだ。
その同僚の中で青色の肌をした女性と戯れている男が目に入った。昨日隣に座っていたジョスさんだ。あの女性はジョスさんの嫁さんでネレイスという魔物だ。
小さな背に幼い体型、胸には密やかな膨らみしかなく、丸みのある顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。長い髪が海中に漂い、手足の小さな鰭でバランスをとっているのが見えた。
羨ましいなぁ……まぁ、確かにいい人だし、あんな美人の嫁さんが居ても不思議じゃないけどさ。
ん? なんで悉く幼児体型やら幼い人ばっかりなのかって?
……サバトの教義だからだ。サバトの教義は幼い容姿を愛でることで、教義に従った者には若返りと長寿が約束されている。まぁ、男は若返ると色々仕事上で面倒が起こるからたいてい長寿だけを受け取る事が多いんだけど、女性はみんな若返って幼い容姿で固定されるんだ。
女は魔物化するか、元から魔物の女の人が若返り、男はインキュバスになって長生きして嫁さんといちゃいちゃする。まぁ、そういう集まりだ。
ロリコン? 言うな、俺はただの可愛い物好きなだけだ。小さければなお良いってのは認めるけど。
まぁ、そのサバトには独り身の構成員だっているから、そんな連中の相手を見つけるためのお見合いパーティーもあるんだが……未だに良い相手は見つかっていない。
なんて言うかこう……運命的な物を感じる人が居ないんだ。向こうもそうらしく俺とくっつこうとする人も少ない。大抵一目惚れから永遠の愛に発展する事が多いんだ。
俺にもきっといつか良い人が現れるさ、そう思いながら休みが終わるまで戯れる同僚を眺めていた…………
あの日から四日後、艦隊は凄まじく厄介な目にあっていた。
俺たちは親魔物派の都市の艦隊で、転移術や魔物の手助けもあって莫大な利益を上げている。だからヒトが治める反魔物派の国家や都市からは恨まれている事が多いのだ。それ故に私掠船、簡単に言えば国家運営の海賊に狙われる事が多い。
面倒くさい逆恨みだが、向こうが向かって来るなら避けようが無い。向こうは軽装の快速船だがこちらは重砲を満載した戦列艦だ、船足で大きく負けるのでまず逃げきれない。
なので鉄量を以て押し返すしか無い。敵は装甲も薄く搭載している砲数も少ない。両舷で一〇に満たない物に戦列艦は負けはしない、その為の艦なのだから。
「装填良いか!? まだ撃つなよ!」
デッキの中を砲術長が忙しく駆け回っていた。俺も同僚と協力して砲に弾を装填し終えた所だ。手も顔も火薬まみれになっている。
どうやら輸送艦は遠くに下がったようだった、今は頃戦列艦を盾にして風を捕まえようとしている頃だろう。輸送艦は戦列艦よりかなり大型で物資を多く積んでいるが、巨大なマストを有している為ずっと速く航行できるのだ。
「ようし! テェッ!!」
火蓋を開いて火縄を差し込むと砲が火を噴いた。右舷全二八砲門が同時に火を吹いたので世界が割れたかと錯覚するほどの炸裂音が轟く。
進退機で押し出していた砲門が帰ってくるので俺はそれを掴んで押さえ、相方が裂薬と砲弾を装填しさく杖でそれを押し固める。これで装填は完了だ、もう一度火縄を押し込むと撃てる。
さぁ、進退機を押し出して……。
そう思った時だ、轟音が響いた。
何だ? どっかの馬鹿が早まって撃ったか? ん?
何だか目が見えない、丁度強い光を見たときのような……あれ……? 壁が無いぞ? 壁はどこいった?
やっと目が慣れたと思って開くと、目の前には何にも遮られていない外の光景が見えた。
あれ……?
何が起こったか良く分からない内に俺は水面に叩きつけられた…………
戦闘が終わった後の第一砲列デッキ。愚かにも襲いかかってきた私掠船は無数の砲で無惨に引き裂かれ、甲板には脱出出来た無数の捕虜が縄で数珠繋ぎにされていた。見殺しにするのは忍びないので救出し、後で国軍に突きだして賞金をもらうのだ。
その賞金は大抵船員で分配するので、戦勝の後デッキは勝利に沸くのだが……デッキは静かに沈んでいた。
シュガルの隣に着いていた砲手、ジョスは自分の砲の隣に座って組んだ腕に顔を埋めていた。その表情は伺えないが、雰囲気は暗い。
「……ジョス」
砲術長が声をかけるが、彼は何も言わなかった。皆も同じく何も言わない。
「あいつは……まだ一七だった」
口から吐き出される呻きのような言葉。
「俺に倅がいたら丁度あれくらいだろうな……だってのによぉ……」
伏せられた顔の下、火薬滓で汚れた床に小さな濡れ跡がいくつもつけられていた。跡はゆっくりと増えていく。
「落ちていくときな……進退機を押しだそうとしてたんだろうなぁ……何であのタイミングで弾が当たったんだよ……」
ジョスの砲の隣には何も無かった。砲を突き出す穴を埋める蓋もろとも壁が抉れてなくなっており、砲もどこかへ失せている。
シュガルが砲を押し出そうとした丁度その時、殆ど打ち砕かれた私掠船が最後の一刺しとして放った砲がシュガルの居る砲の壁を吹き飛ばしたのだ。
着弾のショックで目が眩んだシュガルはそのまま砲を押し出してしまい、砲が落ちないように船内につないでいた縄も破片で切れて……砲ごと海に飛び出してしまったのだ。
これが普段であったならば、水生の魔物が救出してくれたかもしれないが、戦闘に巻き込まれるのを恐れて魔物はその場から避難していた。そして、戦闘が終わるまでは危険なので捜索も出来ず、戦闘が終わった頃には彼が海に落ちてから三〇分程が過ぎ去っていた。
この海域は鮫も出ないし波も穏やかだが……生存は絶望的であった。
この日、艦隊は一日中艀を浮かべ、所属する魔物達は海中を探し回ったが結局シュガルは見つからず、夜明けを以て艦隊は目的地への航海へと復帰した…………
冷たい水の感覚。人々の熱気や砲が発する熱で普段以上の地獄と化した砲列デッキとは対照的な感覚。それどころか骨の芯から凍り付いてしまいそうなほど寒い。
ここは何処だろう……俺はどうなったんだ……? 最後に見えたのは海面だった。つまり海に落ちたのか?
だったら冷たいのは納得だった、温かい南洋の海でも長く漬かれば寒くもなる。何処かに流されたのだろうか……何にせよ……帰れないかも……。
ぴちゃり……。
海水を飲んだせいか酷く塩っ辛い味が残ってイガイガしていた口に爽やかな感覚が伝わる。塩味が流されていき、口の中が随分楽になった。
真水……? でも俺は流されているんじゃ……。
不意に、体に感覚が蘇ってきた。体は冷えているが水に漬かってはない。背には確かに硬い感覚がある。
運良く流された先で陸地に上がったのか、それともあの世に居るのか……どちらにせよ目を開けよう。
目を開けると入ってきたのは眩しい光と……大きな目をぱちくりさせた可愛らしい少女の貌だった。
「……ここは天国か?」
体に感覚が蘇るのと同時に、えも言えぬ恍惚感が俺を包んだ。風呂に入っているような暖かさと下半身に走る不思議な快感。これが天国って奴の感覚なのか? 親魔物派の俺が行けそうな所じゃ無いと思ってたんだけど……
「えっと……あたしのおうちです」
「おうち……?」
「その……すいこんだら……はいってきて……つめたかったし……おなかすいてたから……」
しどろもどろと話す少女、どうやら俺は生きているらしい。徐々にぼやけていた思考もすっきりしてきた。
どこか岩山の洞窟のようなごつごつした壁面のドーム、その大して広くない個室に俺は横たわり、少女がその上に乗っている。あ、やわらかい……。
「あっためようとおもって……あと、みずも……」
水はこの子が飲ませてくれたのか……。おや、でも天国じゃないってのに腰の快感は消えない。何だろう、凄く気持ちいいのにむず痒くて物足りないというか……
「だから……えっと……ごめんなさい」
謝ると少女は体をおこ……え……?
少女は裸だった。真っ平らな胸も、少女特有の少しぽっこりと出たお腹も、しなやかな手足にも糸一本纏っていない。大きな目が愛らしい顔は少し困惑しているようだが確かに微笑んでいた。
視線を下げていくと、なだらかな腹から股へと降りていき……自分の裸の腹と、彼女の顕わになった秘所が見えた。桜色で初々しい限りのそこは目一杯開き、透明な雫と何か大きな肉色の物体……すなわち俺のモノを根本までズップリと咥えていた。
これは……。
頭に無数の、しかも取り留めもなく乱雑な考えが飛び交っている。性交、エッチ、SEX、交わい、睦言、交尾、言い方は幾らでもあるがこれは俗に言う生殖行動で……いかん、ホント何言ってるか分かんなくなってきた……。
「はじめてだからよくわからないけど……でもがんばりますから……」
健気な事を言って少女が腰の上下を始めた。小さく控えめな水音が接合部から零れ始める。
「うああっ!?」
腰が痺れるような感覚、あまりの快楽に脳がそれを処理しきれずに体が腰だけになってしまったように感じる……これが……魔物と睦み合うって事なのか……?
俺は早々に彼女の中に放っていた、あまりに強すぎる快楽で自分が射精してしまった事にも気付けない。ただ頭が意識するのは自分のモノと、それに絡みつく何にも例えようが無いほど甘美で柔らかな媚肉の感覚だけ……。
「ふぁぁぁ……おいしい……」
少女の顔が蕩けた。小さな口はだらしなく開かれ、端から涎が一筋零れた。それを抑えるように右手が口に添えられるが、小指が端に引っかかっているだけで余計エロティックになっている。幼いが、巷の娼婦よりずっと淫らな痴態、見ているだけで絶頂を覚えそうな程だ……。
「もっと……もっとおいしいのちょうだい……?」
少女は顔を蕩けさせたまま焦点の定まらぬ目で此方を見つめ、譫言のように呟いて腰を動かし続ける。左手は腹に添えられてバランスを取っているが、口に持って行っている右手は唾液でぬらぬらと肉感的に輝いていた。
「あっ……ああっ! ああ!」
口から零れるのは意味のない声、強いて言うなら快楽を得ていると自白する言葉。意味は無くともそれには意志が込められているように思えた。
幾度も精を放つ、脳が焼け付くような快楽の渦に巻き込まれ、痺れるような快感で最早頭はまともに稼働していない。最初は少女が腹に乗り動いていたが、今は俺が体を起こして少女を抱きしめ、座り込んで向かい合う形で交わっていた。
腰を叩きつけるように上下し、お互い息を合わせて体を動かしていた。多分長い間一緒に砲手をやっていた相棒より動きは合っていると思う。
少女の小さい体に合わせて体を屈め、唇を深く合わせた状態で腰を律動させているが、結構無理が来ているのか腰が痛かった。だが、そんな事よりも快感の方が強い、全く気にならない程だ。
互いにの背に手を回し、ひたすらに快楽を貪り合う。性器も舌も溶けて混ざってしまうのではないかと思うほど気持ちよく、どれがどちらの物かの境界も曖昧になり始めている。
俺は少女の中に幾度も精を放ち、少女はその度に体を震わせて絶頂に達する。汗や精液に愛液、もうお互いの体は濡れていないところが何処にもなかった。
疲労のせいか頭にまた霧がかかったような感覚がやって来るが、腰が止められない。まるで止まれば死んでしまう魚になってしまったようだ。
深くあわされた唇から漏れるのは意味を成さない獣の呻き、快楽に耐えるその声はどちらからともなく高まっていき……弾けた。
これが最後と言わんばかりにモノが律動して命の奔流を放ち、少女の媚肉がもっとと求めるように収縮する。
強い快感の連続に、遂に俺の頭は駄目になたようだ、何かが切れた音がした。体が傾いでいく。
地面に背がついた、視界を出来るだけ腹にやると、少女はまだ胡座を組んだ足の上に乗っており、背筋を目一杯伸ばして快楽に打ち震えていた。
ふと目にに入った手首、そこは普通の人間のような柔らかな関節ではなく、無骨な岩のような物に覆われていた。どこかで聞いたことがある魔物の特徴と一致する……
まてよ……? 岩のドーム……手首の岩のような物……ああ……やっと思い出した……。
「カリュブ……ディス……」
海に潜むフジツボと酷似した巣に住む魔物。その巣はミミックのような特殊な空間になっており、時折渦を起こして人を引きずり込む……。
どうやら俺は引き上げられた訳ではなく、呑み込まれたようだ。助かったと言えば助かったのだが……。
そこまで考えた所で緊張の糸が完全に切れ、俺の意識は再び深い所へ消えていった…………。
再び目を覚ました時、俺は相変わらず全裸だったが体は清められていた。流石に目覚めて汗や精液まみれだったら相当嫌だったので有り難かった。
「あの……あたし……ねーるっていいます……」
目覚めるまでずっと付き添っていてくれたのか、彼女は俺の横で水差しを持って心配そうに佇んでいた。大丈夫だと答えるとぱぁっと笑顔に変わったので俺も知らずの内に相貌を崩している。ああ、可愛いなぁ……。
ネールは比較的若い個体なのか、どうやら引きずり込んだのは俺が初めてで、精を味わったのも初めてだそうだ。だから加減が出来ず、あのような激しい行為が限界を超えるまで行われてしまったらしい。俺も初めてだから色々と衝撃的だったな……。
その事について本当に申し訳なさそうに頭を下げるので気にしないで欲しいと言うと、彼女はまた笑ってくれた。いかん、鼻血出そう。
暫く俺たちは取り留めの無いことを話していたが、その内彼女は恥ずかしそうにぼそぼそと言い始める。目は伏せられ、顔を合わせるのも恥ずかしいというように床に向けられていた。
「えっと……その……よかったら……あたしと……んと……」
ああ、もう駄目だ、可愛すぎる。
我慢の限界が来た俺は彼女を抱きしめるとドームの壁が崩れんばかりに叫んだ。
「俺のお嫁さんになってください!」
結果……? ちょっと後に海の神官、シービショップさんをネールが呼んでくれたからささやかな結婚式をしたよ。腰が痛くなったけどな。
その後は色んな人の助けもあって俺は何とか都市に帰ることが出来た。長い間行方不明やってたし、状況が状況だったから帰ったら俺の墓があったのは中々新鮮だったな。生きた内に自分の墓を見られたんだから。
仲間にはボッコボコにされた。心配かけたのと、知らないうちに美人の嫁さんこさえて帰ってきたからだ、特に独り身の仲間から受けた攻撃が酷かったな、奥歯が一本欠けちまったけど甘んじて受けておこう。だって幸せだし。
俺の親父つーかそんな感じに近いジョスさんと、ジョスさんの奥さんは本当に我が子の事に様に喜んでくれた。でも、相当心配してくれたのかジョスさんの歓迎は独り身仲間の物よりずっと激しかったけど。顎が砕けるかと思った。
いや、嬉しいけど結婚早々嫁さんを未亡人にする気かよと思わないでも無かったけど、泣かれたら仕方ないよな……。
あれから俺は前と同じようにアヴェンジャーで砲手をやっている。配置は前と同じ場所だ、吹き飛ばされた壁はすっかり綺麗に直されていた。
修復された壁を撫でつつ思う。運命の出会いってのは何処であるかよくわかんねーもんだな、と。
それこそ死にかけたせいで俺はこんな可愛らしくて素敵な嫁さんもらえたんだからさ。
「えっとね……そろそろあかちゃんほしいなー……っておもってるんだけど……どう……かな?」
頬を染めて恥ずかしいけど嬉しい事を言ってくれる嫁さんを抱きしめてキスをした。俺はこのフジツボの中から離れる事はないだろう。仕事で出ることがあっても、俺が帰る場所は此処だ。
とりあえず、粋な出会いを用意してくれた運命とやらと、我等が魔王陛下に乾杯!
10/09/22 00:17更新 / 霧崎