読切小説
[TOP]
翼竜乗りの災難
 広い石室があった。
 丁寧な造りで整えられた石造りの部屋は玉座の間だ。最奥の高く造られた場所に流麗にして華美な装飾をなされた玉座が二つ並んで鎮座している。
 一つは背が高く、かつ腰を降ろす面も広い椅子であり、左隣の物は二回りほど小さく、また装飾も若干だが控えめの物だ。恐らく大きい方が王座であり小さい方はその后が座る物であろう。
 その玉座の間、かつては王と皇后が座し、その両脇に陪臣が控えていたであろう空間には何もない、ただ一人の女性を除いて。
 玉座に座するのは身の丈二メートルはあろうかという長身の女性、並の男よりもずっと高い身を気怠げに玉座に降ろしている。
 その女性はただのヒトではなかった。四肢は雄大で太く、かつ鈍く輝く鱗をそなえており、その先端には鋭利な爪がある。臀部の割れ目、その合間からは長大な尾も生えていた。そして極めつけは肩胛骨の合間より伸びる翼だ。骨格の間に翼膜を張らせたそれは蝙蝠の羽根のようでもある。
 魔物、彼女はそう呼ばれるヒトに似たヒトではない生物。そしてその中でも最強と呼ぶに相応しい種族の一個体であった。
 鋭いつり目は柔らかく伏せられている。
 玉座に身を横たえ眠りに身を浸す異形の女王、光源の一切無い玉座の間にて彼女は長く眠り続けている。理由は特にない、起きていてもする事がないからである。
 昔は良かった。ヒトも血気盛んであり、武勇の誉れの為に数えきれぬほどの騎士や勇士が己の元に武器を携えて現れたものだ。それらを屠り斃すのは血が滾って大層面白いものだった。
 蓄えた財宝を狙う盗賊を追いかけ回すのもまた、楽しかった。身に余る金銀を抱えて滑稽に逃げ回る様は酷く笑いを誘う物だ。
 自分の種族はヒトを傷つける事を嫌うが、何故か自分はそうではなかった。むしろ逆である。どうやら自分は古き者共の血が濃いようだ。闘争と血に精神が高ぶる気質なのだ。
 深い微睡みに亀裂が入った、耳に触る音が聞こえる。ガラスを擦り合わせるような不愉快な音だ。
 彼女はそっと瞼を開いた、暗い部屋に流れたばかりの動脈血よりも赤い、否、紅い瞳が小さく輝く。今は何時であろうか。
 少しばかり意志を集中し、己の中にある魔力を解き放つ。イメージするのは火だ。すると玉座の間にぶら下げられた数十ものシャンデリアに一斉に火が灯る。
 灯が灯り露わになった玉座の間、そこには無数に輝く様々な物が転がっていた。金細工の装身具、豪奢な飾りのついた甲冑、王が腰に下げるような飾剣。無数の金貨や銀貨、つみあげられた黄金のインゴット、宝石の類は種類を上げることさえ馬鹿らしい程ある。
 全てかき集めれば一国が買える程の財宝が、何とも無造作に打ち棄てられていた。まるで何の価値もないと言わんばかりに。
 よく見ると、財宝の合間に輝く白い物があった。白骨である。長きに渡り放置され、肉が完全に腐り落ちたヒトの亡骸だ。それらは殆ど皆手に剣や槍を持ち、甲冑を着込んでいる。この財宝や彼女の首に目が眩んでやってきた愚か者共の成れの果てであった。
 騒ぎの元は上より聞こえる、翼竜の鳴き声であろう。犬と同等か、それより少し上の知能を持つ爬虫類。空を飛び小型の獣や鳥を啄む彼女の下僕である。
 ヒトや他の種族には分からぬであろう、意志が込められた叫びを聞くと、何かが来る! 何かが来ている! そう頻りに騒いでいた。
 侵入者であろうか、彼女の体が数年ぶりの闘争の期待に漲った。鱗が戦慄き尾が揺れる。
 玉座から跳ね上がると彼女は財宝と白骨を蹴散らして自分の数倍の大きさがある扉に向かった。何事にも代え難い楽しみがやってきたのかを確認するために…………










 彼女の住処は打ち棄てられた古い城だ。城主が殺され、家臣が逃げ出し夜盗が住み着いていた小さな山城を数百年前に奪い取って住処にしていたのだ。
 戦の為に作られた建物は長きに渡って放置され、風雨に晒されその身を削られながらもしっかりと立っている。全体的に平らで、箱を思わせる造りの城はその頂に何も備えて居らず、迫り来る敵に弓平が矢を射かける為だけの無駄に広い空間がある。
 そこは翼竜共の巣になっていた。草や木の枝を寄せ集めて作った巣が一面に広がり、その中には卵や幼い翼竜が親を待って佇んでいる。
 合間を縫って縁まで向かうと、遙か東の空に小さな影が見えた。
 翼竜である。
 だが、この城に住み着いている物ではない、体色が違う。この周辺に住む翼竜は森にとけ込む為に鮮やかな緑色をしているが、あの翼竜は岩の如き茶色をしていた。恐らく山岳地帯の竜を調教した物だろう。
 そして、そのしなやかな両翼には白い塗料で帯のような物が敷かれていた。あれはヒトの軍隊が味方に誤射されぬように翼竜に書き付ける識別帯だ。
 やはりヒトだ……。
 最早彼女にはそれが只の偵察か、彼女を狩るためにやってきた者かの違いはどうでもよかった。ただ、己の暇を潰せるのであれば…………








 男、岩石色の翼竜に跨り眼下を眺めている騎手は鬱蒼とした気分で竜を左に旋回させた。特に目に入る物は無い、秋に入りかけて僅かに緑から色を褪せさせた森の木々が延々と続いている。
 本来男はこんな所で翼竜を飛ばしてる筈ではなかった。そもそも、彼はこの国における最北国境守備隊に所属していた翼竜兵だったのだ。ここはどちらかと言えば南寄りの暖かい地域と言える。
 何故そんな所で慣れぬ気候に愛竜と共に耐えているかというと、全くの不運としか言えなかった。
 彼の所属する軍隊では翼竜はあまり重視されていない。やはり戦場の華は砲兵と魔術師なのだ。軍全体で翼竜乗りをかき集めても二百とは居ない。
 そして、最近この近辺では大規模な夜盗が跋扈しており、軍はその討伐に乗り出したのだが……。全く理に適わぬ運用をされた翼竜兵分隊(一個分隊は四騎で構成される)があっという間に狩り殺され、その補充に自分は遠く離れた国元からここに送り込まれた。
 翼竜は頭が良い、そして幼竜の時分から育てぬと人には懐かないので換えがない。故に己の愛竜とここに来たが、正直今すぐにでも逃げ出してしまいたかった。
 確かに空からの偵察は沢山の情報が拾えるが、それは平野か譲歩しても山地などで。しかも大軍を相手にする場合にのみ限られる。敵に攻撃されぬ高度で飛べば人一人のような小さい物が見えないのは道理であった。
 おまけに単騎で扱われては堪った物ではない。自分が落ちれば情報はどこにも辿り着かず、己と竜が何処かで何時かに死んだということしか伝わらないのだ。
 上の無能さを嘆きながら男は分厚い面覆いの位置を直した。息が籠もって苦しい。
 流石に秋になりかかっているような時期、空は冷える。高速で飛んでいるので思いつく限りの許可されている軍装を着込んでも皮膚が凍り付きそうな冷え込みだ。これが冬ならもっとキツイのだが。
 さっさと回れる場所を回って……
 そう思った時だ、己の竜がヒトの耳からすると極めて不快な鳴き声を上げた。緊迫したような短く連続した鳴き声が伝えるのは……。
 背後を振り返ると一頭の翼竜が居た。緑色の森翼竜だ。クソッ、夜盗はアレで分隊を……。
 そう思ったが、その考えは即座に改めさせられた。翼竜に跨っているのはヒトではなかったからだ。翼や鱗、そして爪を携えた美女。それは魔物であった。
 しかも、決して手を出してはいけないと本能が叫びを上げる程の上位の。
 「ああ、畜生っ!! 何てついてないんだ俺は!!」
 悪態を付きながら男は翼竜の首を両足で強く締め付けた。すると竜は不快そうな鳴き声を上げて翼を折りたたむ、空気の抵抗が失せる事で速度がグンと上がるが、それに併せて高度も下がり始めた。
 彼は良くも悪くも諦めが悪かった。例え最強とされる魔物、ドラゴンであろうともあくまで“地上の王”だ。乗竜を叩き落としてやれば……。
 鞍のポーチに収められていた武器を抜く。無骨なグリップと基部、そして弓柄を有した武具、単装のボウガンだ。
 普通のボウガンならまず撃っても当たらない。自分も相手も高速で移動しているし、風の流れに攫われて真っ直ぐ飛ぶことすら出来ないだろう。だが、このボウガンなら話は別だ。
 手綱は話さず、体を大きく捻って敵を狙い、大まかな場所に当たりをつけて放つ。張りつめた弦は固定具が外された事によって凄まじい勢いで弾かれ、装填されていた矢が猛然と突き進む。
 矢には、不思議な輝きがあった。緑色の淡い輝きが。
 このボウガンには簡単な魔術が込められていた。一つは弦が外れると自動で固定具まで戻されること、これは騎乗した状態で装填出来るようにするためであり、もう一つは風の加護を付与することであった。
 風の加護を受けた矢は、如何なる暴風にも屈せず直進する事が出来るのだ。
 だが、不確かな体勢と大まかな狙いで放たれた矢は翼竜の遙か下をすり抜けて何処かへ消えていった。
 最初から期待はしていない、そもそも翼竜乗りは翼竜同士での戦いなぞ意識していないのだ。無理が過ぎるし、何よりも非効率的だからだ。ボウガンは自衛の為の物に過ぎず、撃墜するための物ではない。
 諦めずに次弾を装填せんとした時、彼の目を閃光が焼いた…………。










 ドラゴンはちょっとした驚きと共に翼竜の騎手へ賞賛の意を送っていた。
 驚きは反撃と、魔術付与されたボウガンが翼竜兵に持てる程の小型化。そして勇気ある反撃。
 賞賛は見事な操竜による自分が放った火球の回避に送る物だ。結構な速度で放ったのだが、避けられるとは思っていなかった。
 速度を上げるために相手の翼竜は翼を折りたたんでおり、そのせいで高度は下がっている。狙いは森に紛れての遁走だろう、昨期のようにボウガンを幾度放とうとまともには当たるまい。それこそ己のように豪風でさえ無視するほどの高速で撃ち出す火球でもない限り。
 ドラゴンは翼竜に命じて高度を上げさせた。上を取ることは絶対的優位を得る事だ、打ち下ろしであれば狙いやすいし、風の影響も少ない。少々引き離されても私の火球なら問題なく追いつき、相手を燃やす筈だ。
 そら、今だ!
 距離はあるが高さは充分、相手の竜の背が見えるほどの高度に達した瞬間、ドラゴンは必殺の火球を放った…………










 どうやら相手は自分が思っていたように動いてくれたようだ。軽く振り返って確認すると相手は高度を上げている、そのお陰で距離も稼げていた。
 正直な話、土地勘も無ければ下は深い森だ。どう足掻こうとも逃げようが無いし、男の竜は既に20リーグ(1リーグで約4km)程飛んでいるので体力が有り余っているとは言えない。追撃線になれば必ず此方が先にへたばって終わりだ。
 遊びの様に狩り殺されてたまるか、私はそんな事の為に翼竜兵になったんじゃない。
 そう考えつつ男は待った、唯一であろう勝利を掴む為の機会を。
 そして、その機会は直ぐにやってきた。
 大気が焼ける音と切り裂かれる音が聞こえる、火球が放たれた音だ。
 今っ…………
 振り返りながら火球の位置を大まかに確認、丁度良いと思った瞬間、男は翼竜の機首を大きく擡げさせた。
 世界が裏返る、地が天に、天が地に、そして背面が正面に。背中が焼けるかと思うほどギリギリの位置で避けたが、自分の狙いが全く上手くいった事に男は面覆いの下の口を邪悪に歪めて喜んだ。暴力的な何かが腹の中を渦巻いている。
 逆さまになった翼竜から振り落とされぬように足に力を入れ、左手で首根っこにしがみつく。そして、右手に握ったボウガンを突きだしてしっかりとドラゴンを狙った。
 正確にはドラゴンではなく翼竜の首の辺りだ。翼は薄い翼膜なので撃っても大したダメージはないし、矢一本程度の穴で落ちるものではない。殺さなければ意味がない。
 今二騎はお互いに近づいて高度差がある状態ですれ違う位置だ、矢を打ち上げる事になるが問題は…………
 無いっ……!
 矢は真っ直ぐに飛んでいき……。
 残念なことに着弾するであろう瞬間にはすれ違って確認出来なかった。
 何時までも逆さまを向いているといい加減落ちるので元に戻す。急に動かすとやっぱり落ちるのでそっと表に向き直る、バランスの維持に少し難儀したが上手く復帰する事が出来た。
 「ふぅ……撃墜スコア更新だな……給料上げてもらわねぇと」
 最後に一度背後を振り返ると、あの森翼竜がフラフラとどこかへ逃げて行くのが見えた。どうやら思ったより早くすれ違ったせいで首ではなく足に当たったようだ。
 それでも背にはもう誰も乗っていない。足に矢が刺さった際に翼竜が暴れてドラゴンを振り落としたのだろう、少々狙いとは違ったが、まぁ良かろう。目的は果たしたのだ、生きて帰れ……
 そう思った瞬間、凄まじい衝撃が首に走り男は空中に投げ出された。見やると鐙が千切れている、腰に巻いていた救命帯も何か鋭利な物で切断されていた。
 それだけでなく、首を何かに捕まれている。骨が粉になるかと思うほど強い力でだ。
 何が、と振り返ると、そこには自分の首根っこ片手で楽々と掴んだ手があり、微かに赤い光が見えた。
 己の身に起こった事を考える暇も与えられず、男は森に突っ込んだ衝撃で気絶した…………










 「あいたたた……」
 深い深い森の中で、ドラゴンの女が木に捕まっていた。折り重なった梢だけでは落下の勢いを殺せず、巨木の側面にナイフの如き爪を突き立てて勢いを殺し事なきを得ていたのだ。
 手にはあの翼竜の騎手を掴んでいる、一応は死んでいない。まだ心臓の脈動があった。
 ドラゴンは翼竜からはじき飛ばされる寸前に背から跳躍し、男の方に向かって跳んでいた。そして見事に首根っこを捕まえて叩き落とす事に成功したのだ。かなりの荒技だが、背中の翼は飛ぶことさえ出来ずとも滑空程度ならどうとでもできるのだ。
 「全く……人間だというのに凄まじいね。落とされたのは初めてだ」
 そう言うドラゴンの頬にはどこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
 「新しい宝物だな」
 いや、それは楽しげではなく、明らかに愉悦の笑みだった。
 女はドラゴンだ、最強の名を恣にする陸上の王者、無論討ち果たされた事は一度たりとも無かった。矢は鱗を弾き、剣は肌に通らない。彼女は大凡敗北といえる物を味わった事が一度もなかったのだ。
 それなのに今自分は負けた、翼竜から叩き落とされるのは十二分に負けと言えるだろう。今はこの男を手中に収めているが、負けは負けだ。
 ゆっくりと刃を進ませて地面に降りる、木には深々と爪の痕が残されていた。そうそう枯れはしないだろうが、ドラゴンは謝罪の意味を込めて立派な幹を一撫でし、その場から姿を消した。
 男を抱えたまま…………










 冷たい感覚、例えるなら石室の床に放置されているような……。
 ふと目を開くとそこは例えではなく本物の石室だった。広い広い部屋、灯りが無いそこには雑然と何かが積み上げられているが、男にはそれが何だか良く分からなかった。
 「ここはっ……」
 「私の住処だ」
 凜と響く硬質だが美しい声、それに反応すると、そこには玉座があった。壮麗に飾り立てた支配者の座だ。そこに座するのはあのドラゴン、気怠げに足を組んで男を睥睨している。
 「ようこそ……とでも言っておこうか私の宝物君」
 「何を言って……」
 「知らないのか? ドラゴンは己の住処に宝物をため込む事が趣味なのだ」
 ドラゴンは大仰な仕草で腕を広げてそう言った。目はさも楽しげにたわめられている。
 「それが何だ……」
 「宝とは自分が価値を見いだした物の事でもある。分かるか?」
 静かに、そして優雅に立ち上がるとドラゴンはその巨躯にしなを作りながら男に歩み寄る、無意識に男が一歩退いたが……まだ意識がしっかりとしていないのか不確かな足取りは途中で縺れ、背後にあった何かの山に背から倒れた
 細かい物の山に突っ込んだせいで背に鈍い痛みが走った。ごりごりと何かの角が体中にめり込む、これは一体……
 一つつまんでみるとそれは古い金貨だった。今では使われていないが、純度が高く今の金貨よりずっと価値のある物だ。
 「金貨のベッドが、中々趣があるな。そう思わんか?」
 「くっ……」
 気がつくとドラゴンは男の目の前にいた。そのまま覆い被さり、金貨の山に横たわる無防備な体を爪で撫でる。鋭い先端が幾重にも纏った服を全て切り裂いていく。それでも、皮膚には傷一つついていないのはドラゴンが器用であるからだろうか、それとも男に対する気遣いなのかはうかがい知れない。
 「よせっ……」
 「私に命令するなヒトの子よ。“動くな”」
 頭に響く不思議な声、それを聞くと男の体はまるで他人の物になったかのように動かなくなる。自由が効くのは首から上と口だけだ。
 「魔術かっ!?」
 「ああ、そうだ。大人しくしていろ。何、私が満足すればそれまでだ」
 ドラゴンが器用に男の被服を果物の皮のように爪で剥いていく。首を振って何とか抵抗しようとしたが、男は数秒と立たずに素裸に剥かれてしまった。鍛え上げられた体が冷えた部屋の空気に晒されにわかに泡だった。
 「ほぉ……中々どうして立派じゃないか」
 「くっ……」
 裸の男、その股で隆起する物は凄まじい大きさを誇っていた。浅黒いそれは軽く20cm程の長さを誇り、太さも4cm以上はあった。硬度は西洋人故か足りず、柔らかかったが、それでも十分過ぎるほどの剛剣である。
 「どうした、無理矢理で勃つのか……変態だな」
 「五月蠅いっ!!」
 魔物とはいえドラゴンは美女であった。それもまたとない極上の美女だ。王侯貴族がその身と等しい重量の金と交換したといっても大げさではない美人にのし掛かられれば、反応しない男は少ないだろう。しかも、男は軍属であるが故に相当の間女を断たれていたので尚更だ。
 「前戯は必要なさそうだな……お互いに」
 腰布に隠されたドラゴンの秘所はしとどに濡れそばっていた、魔物としての性が精の臭いを放つ男根を見て刺激されたのだ。好物を目にした子供のように秘裂からは粘性の液体が涎の如く垂れ流されている。
 「よせっ!? 止めろっ!?」
 「往生際が悪いな。あの躁竜のような潔さと大胆さを見せてみろ。私とて竜だぞ?」
 悪戯に微笑み、ドラゴンは秘所に男根を添える。微かに触れるだけだというのに入り口は貪るように先端に吸い付き、その感覚に男は堪らず背を振るわせる。例え自由にならずとも体は快楽に素直だった。
 「行くぞ……」
 「頼む、やめっ……」
 大きく開かれた腰が降ろされ、長い剛剣がぬるりと秘裂に呑み込まれた。騎乗位での交わりにドラゴンは満足気に息をつくが、男はそれどころではない。
 下唇を噛んで必死に快楽に耐えている。長い間女を味わっていなかったというのもあるのだが、ドラゴンのそこは普通のヒトのそれとは別格だった。火のように熱く、柔らかい媚肉は繊細であり、また大胆に男のモノにまとわりつく。腰は動いておらず、肉の顫動だけで絶頂に押しやられてしまいそうな程だ。
 声にならぬ声を上げる男を見下ろし、ドラゴンは強い笑みを浮かべた。
 「どうした、もう限界か? 別に好きに果てて構わんぞ。私が満足するまで勝手に続けるだけだ」
 言い終えるとドラゴンは腰を男根が抜けるギリギリまで浮かし……一息に降ろした。
 「うあっ……」
 情けない呻きと共に白い奔流が吐き出される。女陰の中に吐き出される命の元は長い禁欲生活で半ば固形物と化すほど濃密だ。
 「くぅぅぅ……。効くなぁ……濃すぎて気をやってしまうかと思ったぞ……」
 さっきまでは上気していても、その怜悧な美貌にはどこか余裕のような物があったが、一度精を受けるとそれは消え失せた。つり上がった瞳が蕩け、口は軽く開かれており、そこから鮮やかな舌が覗いた。
 「ふふふ……これは存外良い拾い物だ……殺してしまわなくてよかったな」
 感じ入り、楽しむようにしてゆっくりと腰を揺らす。膣の中で暴れるモノをじっくりと味わうような細やかな動き、精に反応してか女陰は頻りに集束を繰り返し、もっと寄越せと言わんばかりに顫動を繰り返す。
 「あっ……まだ出したばかりなのにっ…………」
 「言っただろう? 私が満足するまでんっ……終わらんっ……」
 ドラゴンの声にも甘い物が混ざり始めていた。強い快感を味わっているのは男だけではないのだ、ドラゴンの脳も確実に快楽に溶かされつつある。
 腰がそろそろと上下する、浅い動作だが男の眉根には深い皺が刻まれ、ドラゴンも感じ入ったように目を閉じて熱い息をついている。
 「あっ……深い……もっと……もっと奥っ……」
 「うああっ、きっ……気持ちいい……」
 最早両者共意識ははっきりせず、妄言を口から漏らすだけ。緩やかだった腰の運動は次第に激しさを増し、今や叩きつけるような激しい動きに変わっている。
 いつの間にか魔術も切れたのか、男は感極まってドラゴンの尻たぶを両手で強く掴み、腰を己の元にもっと深く寄るように掴み寄せる。一層強くなった交合の音が玉座の間に響き渡った。肉同士がぶつかる音と、濡れた物が擦れ合う粘質な湿った響き、そのどちらも淫猥であり、もしも聞く者がいれば行為の激しさに頬を赤らめるであろう大きさである。
 「もうっ……無理だっ……! また出るっ……!!」
 「ああっ! 出せっ……! そのままっ……くうっっっっっ!!」
 今際の際、絶頂の瞬間にドラゴンは甲高い声を上げて背を目一杯逸らした。目尻からは快感のあまり涙が零れている。
 一方男はより強く腰を抱き、己のモノを女陰の最奥より更に奥。入り込む所が出来ない場所にまで差し込もうとするように押しつけて二回目だというのに一度目より更に濃く、大量の子種を吐き出した。
 背を逸らして快楽に悶えるドラゴンの脇腹が知らずの内に痙攣して震えていた。それが絶頂の深さを教えている。
 やがてドラゴンは男の上に倒れ込む、何の反応も無いのでどうやら快感のあまり気絶してしまったようだ。身長差のせいでその頭は男の頭より少し上に倒れ込んだが、鈍い動作で顔を近づけると震える唇でこう囁いた。
 「気持ちよかったぞ……ふふっ……。もう逃がさんからな……私の財宝……」
 触れるような優しいキスをして、ドラゴンは男の髪に顔を埋めて眠りについた…………










 数ヶ月後、何も変わらずドラゴンはあの玉座に座っている。変わった事と言えば皇后の座に……
 「おい! だから産んだら産みっぱなしにするなと言っているだろうっ!!」
 皇后の座の近くに山ほどの毛布やら布が固めて置かれ、その中に無数の卵が収まっていた。その卵は全て子供の胴ほどの大きさがあり、硬質で鈍い光を放っている。
 「だからなぁ……ドラゴンの卵はそんなにヤワじゃないぞ。放っておいても勝手に孵る」
 「自分の子供だからもっと丁寧に扱えっ!!」
 そういってあの男、翼竜兵だった男が城の何処かから調達してきた服を着て胸に抱えた大きな卵を毛布の塊に仕舞った。
 あの後二人は番になった。男は愛竜を失い、ドラゴンは男を放す気は無いらしく、暫くはなんとかして逃げだそうとしていたが一月もするともう諦めていた。城から逃げ出しても屋上にいる翼竜からドラゴンに報せが行くのだからどうしようもなかったのだ。
 その翼竜の群れの中にかつての愛竜が居て、卵を暖めていたような気もしたが気にしないことにする。
 「口やかましい宝物だ……」
 「口やかましく言われたくないならしっかりしてくれ持ち主」
 卵の上に毛布を掛けてやっと男は皇后の座に着く、専らここが男の居場所であった。雑多に散らかされた財宝はある程度片付けはしたが、やはりまだ寝具を運び込める程のスペースは無いので、その近くで眠るしかないのだ。
 何だかんだ言いながらも、男は今の生活を結構気に入っていた。安月給できつい仕事の軍に居るより今の生活の方がマシだと気付き、楽しみを見いだしているのだ。その楽しみの一つは……
 「とおたま、とおたま!」
 足下をころころと転がる小さな子供。ドラゴンと男の子だ。卵から孵った彼の第一子は見事な鱗と爪、そしてまだ小さい尻尾を備えている。
 「どうした?」
 「だっこ!」
 短くも鋭い爪が生えた腕が差し出されたので脇に手を差し込んで持ち上げてやり、膝の上に載せると小さな暴君は嬉しそうに笑い始めた。
 ドラゴンの子供は成長が早く、僅か一月で簡単な会話を始め、玉座の間を所狭しと這い回るようになった。卵の期間を合わせて三ヶ月で一歳児並の活発さだ、大人になるのはどれほどの速さなのだろうか。
 一体どうした物かか……このペースだと直ぐにこんな広くても物だらけの部屋じゃ……
 「ふぎゃぁ……ふぎゃぁ……」
 そんな事に頭を悩ませていると、不意に小さな鳴き声が聞こえた。隣の毛布の塊の中からだ。
 「お、産まれた」
 何でも無いかのように言う己の配偶者を見やりつつ、男は目頭をつまみ上げながら己の不運さと呪って呟いた。
 「これに幸せを感じる私はきっとおかしいんだろうな……」
 不運の終わりはまだ、やってこない……………………
10/09/01 00:41更新 / 霧崎

■作者メッセージ
 そういう訳で霧崎です。リハビリがてら短編一本書いてみました。エロ久しぶりだなぁ…… まぁ全然エロくなかったけど。

 研究は一段落しましたが……PCクラッシュの傷は癒えません……書きためてた短編も結構吹っ飛んでたし……

 そして今までで多分一番長いかな 一万文字越えだし。多分次は長編やると思うんで良かったら待っててやってくださいな。

 誤字脱字、日本語の修正。感想等々お待ちしております。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33