読切小説
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梅の花の咲く頃に
 誰かがこう言った。
 世界とはある暖かい春の日、神が午睡の中に見た儚い夢のような物であると。
 この話を聞いたのは幾つの頃であったであろうか。寺小屋か道場であったのは何とも無しに覚えている。だがそのどちらであったかは定かではない。
 確かにその通りではないかと思う。人は簡単に壊れるし、長くは生きられない。我々は誠に夢の中に存在する生き物では無いのかとも思える。
 そう。穏やかな日の光が降り注ぐ春の初め。慎ましやかに咲き誇る梅の花を眺め、その香りに鼻を楽しませながら落ちた眠りのような。
 この世には良い事も悪い事もある。正に夢のようではないか。
 そうは思いはしないかね?













 真夜中、酷く冷え込む枯れススキが虚しく屍を晒す丘で我等は激しく斬り合っていた。
 己の手に握るのは長さ二尺三寸の太刀。どこにでもある無銘の刀だ。ただ戦働きにも耐えられるよう、厚い造りをしている。
 まぁ刀で武装し、髷を結っている事から分かるが私は武士だ。だがあくまでただの武士だ。
 諸大夫と呼ばれる下級貴族でも、侍と呼ばれる上級貴族でも何でもない。それでも広義的には侍と呼ばれる身分である。下々の物にはそんな違いは分からないし気にもなるまい。所詮大名に従い扶持米を喰らう偉い剣豪としか認識されていないのもまた事実。
 私とて石高僅か一二〇〇石の小普請組の旗本に過ぎない。精々働かずとも日々が楽である程度の不精者だ。戦もない太平のこの世に如何ほどの価値があろうか。
 同僚には武士道がどうだの、死兵がどうだのと宣う輩が大勢いるが、正直普段見ていて連中にそんな気概があるかといえば全くあるまいて。それこそ、その様な誇りがあるのならば酔って暴れなどすまい。奴らから出てくる物と言えば精々無精から出た埃程度のものであろう。
 話を現状に戻すとするか。
 一応私は幕臣の端くれなので奉行所にて見回りの手伝いなどはしている。今日のこれもそうだ。
 そして見回りの際に急ぎ働きをした賊を偶然見かけ、この街の外れにまで追いつめた。以上説明終わりだ。
 ここまで長い追いかけっこであったが、奴らは嵩張る千両箱や骨董品、果ては値の張りそうな大太刀まで抱えていたのでそうそう逃げ切れる物ではない。長く保った方だがここいらが限界のようだ。奪った宝を放って逃げる度胸も懐も無いらしく、ここで対峙する覚悟を決めたようだ。
 「てめぇら殺しゃ問題はなんにも」
 殿(しんがり)、今は先頭に位置する賊の誰ぞかが言いかけていたが無視して斬った。小脇に壺か何かの入った箱を抱え、前に突き出した刀は剣先が震えているような素人、目を瞑っていても斬れるわ。
 賊は全部で六人。最初は一五人ほど居たが追撃に耐えきれず脱落し斬られて果て、ここまで数が減った。恐らく先頭を駆けていたのが頭領であろう。
 大上段から袈裟懸けに叩き斬ったので盛大に血が噴出し私を汚す。目を瞑って横に避け血が来ない事を確認し再び目を開ける。
 背後の仲間三人も賊に斬りかかっていた。
 かく言う我々も最初はもっと人数が居たが、脱落者を確保したり、体力が尽きて脱落したりと今や私を含め四人しか居ない有様だ。
 右に居た平助が一人斬った。が、左に居た亮次郎が一人斬ったと思えば、斬った賊の背後に居た別の賊に斬られて倒れた。首をやられたのであれはもう助かるまい。
 続いて真ん中、私の前に出た源一郎が威勢良く上段に構え斬りかかったと思えば、叫びも半ばと言うところで盆の裏(首の裏にある少しくぼんだ部位)から刀を生やして死んだ。一瞬血を浴びそうになったが反射的に避けたので事なきを得る。
 間抜けめ、油断しているか圧倒的に格下の相手以外に大上段で斬りかかって殺せる物か。
 源一郎は私が斬った賊のような雑魚ではなく、獲物を地面に投げ捨てて、腰を据え刀を構えた賊に斬られていた。
 こいつはそこそこ出来る。
 刀を突き出し、今度は私の首を突こうとしてきたので左半歩前に出て回避。お誂え向きに突き出された両の腕を半ばから断ち切り、返す刀で私の背後を狙っていた亮次郎を斬った賊を逆袈裟に斬り捨てる。
 後一人。
 そう思った次の瞬間だ。怪鳥の如き叫びを上げて斬りかかった平助だったが、最後の賊、頭領らしき壮年の男に首を切られて死んだ。根本から断ち切られた首は一瞬宙を舞い、私の足下に転がった。
 「最近のわけぇモンは足腰がなってねぇ」
 頭領はそう言うと顔の血潮を拭った。年期を得て皺が刻まれたその顔には相当苦労したのか凄まじい苦みといえばいいのか、何かそういう物が感じ取れる。
 だが盗人の苦労など知った事か。どうせ逃亡が殺しの計画であろう。今日も大きな米問屋を襲い一家五人と奉公人を一二人殺している。その中に老人が一人、子供が四人も居た。
 人を殺す奴は畜生だが、国の礎を築いた老人と国の未来を作る子供を斬るような奴ぁそれを上回る外道だ。斬って捨て、首を晒してやる以外に道は無い。
 互いにあと一人。しかしこいつは相当出来る。かなりの修羅場を潜っているんだろう。
 命を捨てても相手を斬る、そういう気迫ではない。作業の如く淡々と斬る、そんなねばっこくて嫌な殺気だ。
 剣を青眼に構える。静より動、後より先、先手必勝。
 「ちぇりゃぁぁぁぁ!」
 何も考えず斬る。叫びはただ肺腑からひねり出す意味の無い物。振りは小さく、それでも速く、相手に時間を与えない。
 「あめぇよガキがぁ!」
 私の一太刀よりも更に速い一撃。通常よりも短い刀、恐らく小太刀であろう。それを全身の捻りを用いて素早く横薙ぎに振る、いかん、このままでは胴を打たれる。
 「むぅっ!?」
 咄嗟に反応した私は太刀筋を変え、頭領の太刀筋に合流させる。
 しかし、ただ受けようとしても到底間に合わないので柄でだが。これを茎受けと言う。
 刃は柄頭から斬り込み、柄の半ばまでを断ち割ったところで止まった。たが、完全に止めるには至らず、剣先が私の腹に突き立った。
 「ぐっ…」
 苦痛に顔が歪み、声が漏れるが無視し、刀が刺さったままの剣を突き出し渾身で頭領の目を、突く。
 「むぐっ…」
 降り注ぐ鮮血、それを身に浴びながら私と頭領は地にどっと伏せた。敵を斬る事は出来たが私も怪しいなこれは…思ったよりも傷が深い。血が流れて行くせいで体が冷えていくのがありありと分かる。
 「む、う」
 小さく唸り、刀を抜くために仰向けになる。しかし刀は抜けたが返って出血が酷くなってしまった。
 仰向けで仰ぐ空は酷く静かで冷たい。無数の星々や薄白い月が、まるで地上を睥睨し愚かな我々人間を観察しあざ笑っているように見える。
 今日は満月か。美しいな。
 丸くて、静かで、白くて…
 意識が…薄れて………









満月の夜の散歩は何か良いことがあると聞く。
 何かの本で読んだが、誰かの寝物語に聞いたか。そんな事は忘れてしまったがとにかくそう聞いた。
 良い物と言えば油揚げやいなり寿司を思い出す。私の名を冠した大層上手い寿司だ。
 まぁ拾った寿司を喰らう等という下賤なマネはしないが。
 こう、美しい翡翠の首飾りや縞瑪瑙の髪かざり、そういう物に憧れる
 しかし現実はそうともいかない。
 皆もそうは思わないかい?







 真夜中。暇を持てあました私は枯れススキが寂しく揺れる丘を当てもなく散策していた。
 何故か眠れず、かといって油を使うのも勿体なかったので暇を飽かして家から出てきたのだ。
 狐火を使えば良かったが、あれはあれで疲れるのでやめておいた。
 それにこんなにも月が綺麗なのだ。せっかくだし軽く散歩してみてもいい。流石に少し冷えるが、雪の降り積もる真冬程ではない。ここより南の方ではもう春の足音が聞こえるくらいになっているそうであるし。
 「おや…」
 少し歩いた先で鼻腔を擽る僅かな臭い。この不愉快な感じは…血だ。錆びには無い特有の生臭さを感じる。
 元は…北か。
 少しだけ歩いて臭いの元を探してみると、そこには斬り合って果てた九つの骸。黒に染め上げた野袴に頭巾、それと無地紬に浅葱羽織。大方野党か盗人、そしてそれを追いかけていったお役人といった所だろう。開けた所だから見つけられずそのまま朽ちるなんて事は無いと思うが、明日には烏共の朝食であろうなぁ。
 む…一人だけだが息があるな。中々の美男子、ふむ、若いし精も悪くなさそうだ。手当でもしてやるか。
 よっこら…思ったより重いのうこやつ。細身に見えるが相当肉が詰まっているんだろう。
 さて、ここから私の庵まで大して遠くは無い。死にかけが死体になる前に治してやるとするかね。







 ふむ、こんなものかね。
 私は血に塗れた手を湿らせたボロキレで拭い、傍らで眠る男に視線を落とす。
 やはり傷は大して深くはなかったが、軽いものでも無かった。恐らく放置していれば後四半刻(約三〇分)辺りで失血し死んでいたであろう。
 助かった要因は斬られた刀が短く威力が弱かった事と、分厚い筋肉の鎧を纏っていたからだ。着物を脱がせた体は一部の隙も無く鍛え上げられ、無駄につけたのではなく、必要な所に必要なだけつけたといった具合に筋肉で覆われていた。
 うむ、良い体だ。これは期待できそうだの。
 褌にはまだ手を掛けてはいないが盛り上がりは中々に大きい。悪くない拾い物だったかもしれんのぉ。
 さて、お楽しみお楽しみ。力を使わせたんだから何時までも寝かしておく程私は優しくは無いぞ? 力分の埋め合わせはさせてもらうからな?
 ではまず口を吸うところから始めようかの。
 ん………







 暖かい。布団よりもずっと柔らかい何かにくるまれているようだ。心地よい感覚が全身を包んでいる。
 それだけでなく何故か口が滑る。何か良く分からないが何か柔らかい物でかき回されている。口を吸われているようだが、そんな訳は無いよな。私はあの丘で死んだのだから。
 ならばここは涅槃か? いや、涅槃に行けるような人間ではないな私は。ならば地獄か?
 いや、私はまだ三途の川も賽の河原も見ていない。
 と、言うことは私はまだ死んでいないのか?
 そこまで考えた所でぱっと目が覚めた。
 目に映るのは目を伏せ、顔を真っ赤にして私の口を吸っている美女の相貌。悩ましげに眉を潜め小さな呻きを断続的に上げている。僅かに水気を顎の辺りに感じるので相当涎が零れているようだ。
 月のほのかな明かりにてらされた白磁のような肌に、すっと通った美しい切れ目。高く筋のはっきりした鼻に金糸で作ったかのような髪と、そこから除く大きな一対の獣の耳。これは…人間ではない?
 何故こんな事に…もしや死の間際に見る夢かこれは。人は死に瀕すると子孫を残そうとする本能のせいで淫夢を見たりすると聞く。これが正しくそれなのか?
 それとも獣にでも化かされているのだろうか。
 「おお、気が付いたのか」
 私の目が開いているのに気がついたらしく、彼女は顔を話してそう言った。口の端からたれる涎が酷く淫靡である。
 「あ、ああ。ここは何処だ」
 「ここは私の庵だ。ただ永き時を生きた稲荷、月音の住処さ」
 稲荷。人里やその近くに住む高い霊力を誇る妖。耳から分かるように狐の経立(ふった。長い年月を経て揚力を得た獣の化性)であり、人に害を与える存在ではない。魔物が女しか居なくなる前から存在する有名な種族だ。
 見たところ尾の数は五本。人伝に聞いた話だが、余分な尻尾一本につき約二〇〇歳と計算するとおおよその年齢が分かるそうだ。
 要するに、油の乗った全盛の美女にしか見えないがこの御仁、概算で御年八〇〇ウン歳の御狐様であるらしい。
 恐らく力とはそのまま妖の術であろう。霊力なりなんなりを用い超常の術を…んぶっ。
 稲荷、月音が再び私の唇に吸い付いてきた。甘露のような唾液と、巧みな舌の動きが私の思考を徐々に壊していく。
 そういえば稲荷に限らない話だが、魔物は総じて酷く好色で人の精を糧に生きると聞く。つまりこれが彼女にとっての食事なのか。
 「ん、むちゅ。ずず…あんたも舌動かしなよ」
 そう言いつつも彼女は私の下に手を伸ばす。いつの間にか褌は結びを解かれ、ただ腰にかぶさっているだけになっていた。何時の間に脱がされたのだろうか。
 「へぇ…いい物もってるね。さぞ遊郭じゃもてるだろ兄さん」
 顔をいやらしく撓め、艶っぽい笑いを零しながら私の逸物を握り、軽く擦る。不思議と体が言うことを聞かない。これは何かの呪いか?
 「遊郭など行った事は無い。あのような悪所に行ったと知られれば私は父に手打ちにされる」
 同じ小普請組の連中はよく通っているらしいが、私は父から禁じられていたので行った事は無い。第一、農民が汗水垂らして修めた年貢から賄われる扶持で売春宿に通うなど考えられぬわ。アホ臭い。
 「何だ、初物か。これは思わぬ役得」
 今度は少々下品な笑いを浮かべ、腰に顔を埋め…うっ。
 確かに言われた通り私はまだ女を知らない。婚姻を結ぶまで女を抱いてはならぬと父に硬く言い聞かせられていたから、というのもあるが、色々と面倒だったので二十を目前としながらも色恋の一つもしたことが無い。正直好いた惚れた等という感情が分からないのだ。
 「あ…ああ…あ」
 ぬめぬめとした舌が這う度に背筋が震え、腰に甘い痺れが走る。まるで体の芯が抜けてしまったかのようで、力が入らない。
 「ん、んむ。ちゅ、くちゅ。ぷはっ。しかし大きいな、今までで一番かもしれん」
 彼女は腰にまたがり、私の胸板に手を突き不敵に笑んだ。
 「むふふ、優しくしてやるから安心するといい。極楽に連れていってやろう」
 ふと思う。それは男の台詞では…
 「うあっ!?」
 一気に腰が落ちると、私の逸物は一息に彼女の中に飲み込まれてしまった。そして、口で嬲られていたせいもあったが情けなくもその瞬間に達し、彼女の中に盛大に精を放った。
 「ん…濃くて良い精だ。力が漲る」
 背筋をピンと伸ばし、射精の感覚に打ち震え精を受ける彼女の姿は酷く淫靡で、何よりも美しく見えた。
 庵の丸窓から差し込む月の光が、はだけた小振袖から除く白く艶やかな彼女肌を照らし出している様は、足跡一つ無い雪原のようで酷く美しい。
 「おお、一度出していながら全く萎えていないとは。ふふふ、これは中々」
 腰がそろそろと上下に動き始め、達したばかりで敏感な私を柔らかな媚肉が責め立てる。痛い程気持ちいいのに達しそうには無い、なんと厳しい責めか。
 女に興味は無くとも、仲間内で酒を飲めば嫌でも交わりの話は出てくる。やれ、どこの遊郭の女の物は蚯蚓が千匹はっているようだとか、天井の辺りが数の子のようで気をやってしまいそうになるほど気持ちいいだとか、そんな話をよく聞いたが…これはそんな生やさしい物ではない。
 きつすぎない摩擦、暖かな肉が間断無く物を揉みほぐし、しとどに濡れたそこは貪欲に精を欲するが如く、より奥深くに導くように顫動し続けている。
 「あ…ああっ、ああっ!」
 「達してしまいそうなら我慢しなくていいぞ。どうせ私が満足するまで終わらんしな」
 ぞっとしない言葉を聞きながら、私は早くも達してしまった…








 あれからどの程度絞り続けただろうか。一〇から先は数えていないが、何より数ヶ月以上は一切吸わなくても我慢出来るほど上質で大量の精が手に入った。
 あまりの精の多さに私の寝床も来ていた小振袖もどろどろだ。束ねた髪にまで精が及ぶ程行為は激しかった。精の多さで力を蓄えた尻尾が増えるかと思う程だ。
 にしても、今は疲れ果てて眠っているが良い拾い物をした。これは八〇〇年近く生きてきた中でも一番の質だ。
 顔も良いし、何より初物だったのが好ましい。清純である所から嫁を貰えば大切にする性質であろう。
 正に我が夫に相応しき逸材。
 ふふふふふ、近い内に天気雨が降るであろうな。楽しみ楽しみ。
 あどけない寝顔を晒して油断しているが、そんな事では性質の悪い獣に喰われてしまうぞ?
 もう遅いか、ふふふふふ…









 あれから三月ばかりの時が過ぎた。
 今はそろそろ春になろうかという時期で、私の家では庭の桃の花が盛りを迎えている。
 ほのかに甘い上品な芳香が鼻を擽り、穏やかな日差しが縁側で茶を啜る私を眠りの世界に誘おうとしている。
 「お前様(ニュアンス的には旦那様)、お茶のお代わりは?」
 「いただこう」
 端的に言おう。私は祝言を挙げた。
 あの夜私を救った稲荷の月音とだ。
 父は当初反対したが、断ると言うのなら不貞の責任に腹を詰める(切腹する)と脅しをかけたら暫く悩んだ末認めてくれた。母は終始笑顔であったが、その後で月音になにやら私に関するよろしくない事を吹き込みまくっていたので嫁姑間の中は良好であるらしい。
 因みに、よろしくない事ととは具体的に私が子供の頃にやらかした人には聞かれたくない話。まぁいわゆる弱みだ。全く家の女共ときたら。
 何故そんな事になったのかと言うとだ、ただ交わったからではない。
 命を助けられたからでもない。
 あの夜、月明かりの下で見た彼女に私は既に囚われていた。体だけではない。彼女という存在そのもののに虜にされていた。
 今更ながらこれが惚れるという事なのであろうか。二十手前にして初めて恋を知るとは思いもせなんだ。
 「はい、どうぞ」
 「ああ」
 空になった湯飲みの月音が温めに煎れた緑茶を注ぐ。私は猫舌で熱い茶は飲めないのだ。
 彼女はそのまま私の隣に腰を降ろすと、楽しげに微笑んで私の肩に頭を降ろしそっと瞑目する。
 「春の側 桃花(とうか)の香り そそぐ陽に」
 「………誘われ落ちる 午睡のうつつ」
 戯れに詠み捨てる詩はここ最近大量に増えた。詩を詠むのが趣味であったが、彼女も詩を詠むのが趣味であったらしくどちらからか詩を詠み、それに返歌するのが最近の習慣になっている。
 誠にこの世は神が見た午睡の夢の如し。
 されど、それこそが誠に面白くあり、故に楽しくもある。
 この夢が覚める事が無ければよい。私はただそう思う。
10/02/04 19:19更新 / 霧崎

■作者メッセージ
 予告した通り稲荷の短編を上げさせていただきます。ぐだぐだな上に時代小説でも読んで無ければイマイチ分かりにくいくだりや、臭い何かがありますが是非とも微妙な笑いと共にスルーしてやってください。

 そして短い話は難しいですね。簡潔で分かりやすい文章に纏めないといけないので大変です。何より短いせいでキャラが安定しない………

 そして無茶してエロくも何ともないエロをやってしまった… かの分かる人には分かるエロ文豪川端康成の如く、淡泊でありつつもエロティシズム溢れる文章を書けるようになりたいもんです。

 補足〜 小振袖ってのは未婚の女性の礼装で、振袖の袖が短い物です。一般的に成人式で着られるような振袖は中振袖、舞妓さんが着るような足下まで付くくらい長いのは大振袖と言います。

 多分近い内に女郎蜘蛛のSSも上げます。

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