12語目 ソレゾレール(それぞれ+レール)- 前編 -
物音一つしない静かな公園
傾いていく夕日が、そこに佇む四つの影を伸ばしていく。
そこに加わる新たな影二つ。
近寄るわけではなく、かといって避けるわけでもなく
間合いを取っているのが一目でわかる、そんな距離。
「三日ぶりだね、根本大樹くん。そして尾形千彰くん」
瑞季は悪びれもなく、まるで俺たちが友達であるかのように振る舞う。
「この世界にいるアンサーはもはや三人」
邪悪な笑みを浮かべながら一人一人を指差す
「そして今日、この祝祭での唯一が決定する・・・・・覚悟はいいよね?」
急に語調を低め威圧してくる瑞季
俺はそれを真っ向から見つめ返した。
以前の自分ならすくみ上がっていただろうが、今の俺には通用しない。
「ははっ、その大きな何かを成し遂げようとする目。壊したくなるよ」
俺は瑞季から目を離さない。
ただじっと、戦いの火蓋が切られるのを待つ。
「それにしても4対2か・・・流石に分が悪いかな」
――――――と!
瑞季と黒羽が一瞬点滅したように見えた。
「ぐっ・・・」 「くぅ・・・っ」
直後
俺の隣で、呻き声と地面の砂が崩れ落ちる何かを受け止める音が響く。
「千彰っ!!」 「蓮さんっ!!」
「僕は好きなモノを先に食べたい主義でね、ちょっとの間眠ってもらったよ」
横たわる千彰と蓮を見て、俺の頭が沸騰しかける
この・・・・野郎っ!!
(・・・・いけません)
そんな俺を心に留め置いていた青葉の忠告が諫めてくれる
「おいおい、そんな恐い顔で見ないでよ。大丈夫、1時間もしないうちに起きるって」
にやにやとした下劣な笑みを浮かべ、こちらをこの期に及んで蔑んでいる目
そんな瑞季の態度が逆に俺に冷静さを保たせてくれた。
「さて、時間もないことだしそろそろ始めよう」
瑞季と黒羽の両手に光が収束し始め、やがてそれは剣の形を成した。
「君たちを1時間で片づけるつもりだからねっ!」
その言葉と同時に瑞季が突っ込んでくる
俺は動かない。
どんどん距離が詰まっていく
どんどん、どんどん、どんどん・・・・・今っ!!
俺は足で大地を踏み鳴らした!
バヒュゥゥゥゥゥゥーーーーンッ!!
俺を中心にして大きな波動が放たれる!
「なにっ・・・・!」「きゃっ・・・・!」
瑞季は後方に吹き飛び、土埃が舞う。
背後の悲鳴は恐らく黒羽
二手に別れて俺を討とうと画策したらしいが、全方位に及ぶ波紋に死角はなかった。
俺は正面に吹き飛んだ瑞季にゆっくりと歩み寄る
「青葉、そっちは頼んだ」
視線を少しだけ青葉に向け、合図した
「はい、お任せ下さい」
そう言って青葉は俺と反対方向、黒羽に向かってに歩き始める
ざっざっざっざっざっざっざっざ
「へぇ・・・考え、た、ね・・・げほっ・・・僕たちを、引きつけるなんてさぁ・・・・」
瑞季はその場に膝を着きながら起きあがり、歩み寄る俺を見上げる。
「勝つ自信はなくても、お前に負けない自信がある」
「ふふ・・・・いい目だ。せいぜい、楽しませてくれよ!」
=======================================
「また戦えて嬉しいよ、青葉♪」
無邪気な笑顔をこちらに向けてきます。
なぜこのような状況でこんなにも楽しそうに振る舞えるのでしょうか?
「この前はボロ負けだったからね♪」
「今回も、負かせて差し上げます」
アンサーとメイドが別行動なので武器の選択は望めないでしょう
私はただ、与えられたモノを最大限に生かすまでです。
・・・・・早速、ですね
私が宙を掴むと、その手には薙刀が握られました。
黒羽が掴んだのは・・・・両剣、ですか
「薙刀かぁ・・・リーチが長いけど、扱いにくいよね♪」
確かに
そのリーチの長さ故に、刃先の撓りなどを考慮しなければなりません。
しかも、振り抜いた後出来る隙を埋めるのも技術が必要です。
ですが・・・
「問題ありません。どんな状況であろうと私は負けませんから」
これは自らへの傲りではなく、勝利するために誓った強くあるための言葉です。
絶対に私は負けるわけにはいかないですから
「なら、見せてもらおうかなっ!」
ギャリィン!
黒羽の上方から放たれた斬撃を眼前に翳した薙刀で受け止めます。
「はっ、はっ、えいっ」
続けて右と左に振り下ろしてきたところを半身でかわし
下から振り上がってくる刃を、速度が上がる前に足で押さえ付けました。
「えっ・・・」
「ふっ、ふっ、せあっ!」
戸惑い、防御を怠っている黒羽。
その隙に石突きで胸部・下腹部・鳩尾を素早く突きます!
「かはっ・・・・」
ずざざーーーーーーーーーっ
地を滑りながら吹き飛ぶ黒羽に追いつき、首元に刃先を向け宣告します
「壱」
これは古来より伝承される威圧の一種で
私がその気になれば既に決着がついている、というのを多くを語らずに提示する方法です。
「げほっ、げほっ・・・・・ま、まだまだぁ!」
黒羽が後方に跳躍し体勢を立て直すと、両剣を持っていたはずの手に槍が握られていました
あちらのイメージが変わったということは、こちらもそろそろでしょうか
「はっ!」
槍から繰り出される鋭い突きを捌いていきます
突きは鋭いですが、放った後の動作にまだ余裕があるので避けられないものではありません。
「はっ!はっ!」
突きのスピードが上がってきました。
私は無理に避けようとはせず、薙刀で防げる範囲を見極めながらかわしていきます
・・・・と
どうやらこちらもイメージを変更するようです
ガキン!
攻撃を少し強めに弾き返し、相手が蹌踉けたところで薙刀を振り捨て宙を掴みました。
・・・刀ですね。ふふ、大樹様も上手くやっているようです
私が教えた戦術を守って下さっているのが分かり、とても嬉しくなりました。
「刀じゃこっちまで届かないでしょ、ほらっ!」
ヒュンッ!
私は放たれた槍を脇腹に挟み、動かないようにしっかりと固定します
「し、しまった」
「兵法、敵との相違は懐の深きに達す」
私は瞬時に間合いを詰め、剣先を再び黒羽の首元に突きつけます。
「弐」
・・・・・・。
時が止まったかのような沈黙の後
ガシャンと黒羽は槍をその場に落としました。
「やっぱし、あんたには敵わないよ・・・」
悔しそうでしたが、どこか清々しい表情をしている黒羽
どうやら、決着は着いたようですね。
「良かったです。貴女を斬るような事にならなくて」
私は刀身を鞘に収めます。
こちらは終わりましたよ?
あとは大樹様・・・・お願いしますね。
「・・・・・・・だから、奥の手を使っちゃおうかな♪」
「っ!!」
私は耳を疑いました。
奥の、手・・・・?
なぜ!今まさに決着がついたではありませんか?!
もう一度、私は刀の柄に手を掛けます
「主が目の前で苦痛に悶えるのを眺めているだけなんて、悲しいと思わない?」
「何をする気ですかっ!」
「ふふ、こうするの♪」
黒羽がゆっくりと手の平を前方に差し出すと、その手をじわじわと握っていきました
すると突然
「ぐああああっ!!」
後方から大樹様の叫びが聞こえたのです
「どうされましたかっ?!」
私は戦いの最中にも関わらず、大樹様の方を思い切り振り返ってしまいました
「熱いっ!ぅあっ・・・皮膚が、焼け、る・・・」
「黒羽ーーーーーーーっ!!」
熱さに悶える大樹様を見た瞬間、形容しがたいほどの殺意が込み上げ
私の手はいつの間にか抜刀し、黒羽に向かって斬りかかっていました。
「いいの?私にそんなことして」
ぐっ、と再び黒羽の手に力が入ります
「うああああああっ!!!」
「くっ!・・・・卑怯な!!」
アンサーを人質に取るなんて、卑怯にも限度があります
「私たちは光を操れる。太陽から放たれる紫外線の量を変化させる事で、魔物に比べて繊細な人間の皮膚を色付くだけに留まらず焼く事ができるって訳」
そん・・・・な・・・・
私が、足手纏いになっているのですか・・・?
絶対にお護りすると誓ったのに、私が大樹様を苦しめてしまっているのですか?
「青葉が抵抗したら、大樹を焼き肉にしちゃうからね♪」
抵抗出来るはずがありません
私は武器を手放し、全身の力を抜きます
そしてこの後行われるであろう事に備え、外部との接触を完全にシャットアウトしました。
大樹様・・・・どうかご無事で・・・・
←〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜CHANGE〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜→
ガキィィィィィン!!
薙刀と両剣がぶつかり合い、激しい衝突音を発する。
互いに一歩も譲らず、均衡した戦いが続いていた。
「瑞季、お前だけは絶対に許さない!」
「へぇ〜、よくわからないけど君がその気になってくれたならそれでいいよ!」
そう、瑞季達は憶えているはずがない
木原のことも、オリヴィエの事も。
それでも俺はこの怒りをぶつけずにはいられなかった。
「それにしても強くなったねぇ、息切れもしなければ技の精度も格段に上がっている」
「それは、どうも」
ギャリィィィィッ!!
「彼女のおかげかなっ?」
「そういうこと!」
カァンッ!
「ふぅ・・・・流石に両剣じゃ戦いにくいかな」
そう言うと瑞季はそれを振り捨て、新たに宙を掴む
その手には槍が握られた。
「これで、射程範囲はいっしょかな?」
「だといいな!」
俺は瑞季に向かって走りながら、青葉に習った戦術を思い出していた。
『武器の射程を相手と変えるのは有効です。相手が短いなら長くし寄せ付けなければいいですし、相手が長いなら短くして懐に向かって突っ込めば良いのです』
『え?でもそれができないから、対等の条件で戦おうとするんじゃないの?』
『いいえ、この事を意識するのとしないのでは大きな違いがあります。それは戦い方を固定出来るという点です。”こう来たらどうしよう”、”ああ攻めたら返り討ちになるかも”などと考えなくても、一つのことに集中し実行することが出来ます。』
『へぇ』
『忘れないで下さい、私と大樹様は一心同体です。無責任かも知れませんが、私の命はあなた様が握っておられるのです。』
『うん』
『どうぞこの訓練が私と、そしてあなた様の未来の命を繋ぐ助けになりますように・・・』
一心、同体!
俺は薙刀を振り捨て、宙を掴む
握られたのは刀。
「はああっ!」
俺は抜刀し、素早く斬り込む!
「くっ・・・!」
槍の柄で俺の斬撃を受け止めた瑞季は、そちらに気を取られるあまり腹部がガラ空きだった
どごっ!
「ぶ・・・・・っ」
瑞季は吹き飛び、地面との摩擦によって止まる。
負けられない!負けられないんだ!!
・・・・と
ビリビリと、まるで体が雷にうたれたような激痛が皮膚を駆けめぐる!
「ぐああああっ!!」
いたい、いたい、いたい、いたい!!
何が起こっているのかさっぱり分からなかった
「どうされましたかっ?!」
背後から聞こえる青葉の声
どうしたのか、自分でも全く分からない
「熱いっ!ぅあっ・・・皮膚が、焼け、る・・・」
そうだ、熱いんだ
自然に出た自分の言葉に納得する。
神経が一本一本焼き切られていくような感覚。
とてもじゃないが耐えられない
一瞬、その熱さがまるで嘘だったかのように消えたが
「うああああああっ!!!」
再び俺を襲う
あまりの痛さに俺の足から力が抜け、その場に膝をつく
一体、何が・・・・
「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
ザクッと地面に刀を突き立て、体勢を立て直す。
俺は今優勢だ、ここで倒れて流れを止めるわけにはいかない!
「ごほっ・・・ごほっ、ごほっ!」
咳き込む音と共に、土煙の向こうで立ち上がる瑞季の姿が窺える。
「おい、瑞季・・・・そんな、もん、か?」
無くなったのか麻痺したのかはわからないが、皮膚の痛みは感じなくなった。
「言ってくれるねぇ・・・・」
「次は、俺から行くぞ」
「来なよ」
俺は刀を鞘に収め、一歩一歩しっかりとした足取りで瑞季に近づいていく。
これもまた訓練の中で青葉に習った技の一つだ
そして今までやった技の中で、一番自信のある技。
「へぇ・・・居合い切りか」
「・・・・・・。」
そして完全に瑞季の槍の射程圏に入る
「ほら、やってみせてよ!」
突きが体の真ん中に向かって飛んでくる
それを何とか回避し、その時を待つ。
瑞季が突きだした槍を戻し始めた・・・・・・その時!
「はあっ!」
抜刀!
「くっ・・・」
刃は瑞季の額を掠め、そこを浅く斬った
すると瑞季は予想通りに後方へ蹌踉ける。
俺の技はまだ終わっていなかった。
鞘をしっかりと握り、渾身のアッパースイング!
見事に狙っていた瑞季の顎先に的中した。
「いぎぃ・・・っ」
どさっ
瑞季はその場に尻餅をつく
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ざ、残念だったねぇ、もう少し踏み込めば斬れたのに」
・・・・この技の真の狙いは
「よいしょ・・・・・・っ?!」
どさっ
瑞季は立ち上がろうとして、再び尻餅をつく。
「な・・・に・・・?」
そう、あの技の真の狙いはこの『脳震盪』にあった。
意識はあるが、思ったように体が動かなくなるのだ。
「当分動けないよ」
そう言って、俺は何気なく振り返る。
目の前の戦いが停止し、周りを見る余裕が出来たから本当に何となく
「なん、で・・・・・」
そこには信じられない光景が広がっていた。
まるでボロ雑巾のように何の抵抗もせず、サンドバックのように攻撃を受け続けるその姿。
目から生気は失せ、口元にもわずかではあるが血が滲んだその姿。
全て俺の最愛の人、青葉その人の姿だった。
「青葉ぁぁぁぁぁぁっ!!」
足が勝手に動き出す。
走る速度はどんどん上がっていき、それにつれ黒羽に対しての憎悪が膨らんでいった。
「あああああああっ!!」
青葉に攻撃を加え続けている黒羽に向かって刀を振りかざす!
「っ?!」
黒羽が俺の叫びで接近に気付いたときには、既に刀が振り下ろされ
スパッ!
その右角を切り落とした
「きゃあああああああっ」
「はぁ、はぁ、と、青葉!」
角を切断され狼狽える黒羽
その隙に青葉の意識を戻そうと呼びかける。
「青葉!俺だよ、わかる?」
「・・・・・・・。」
「もうすぐだよ。もうすぐだから、頑張ろう」
「・・・・・・・。」
一切の反応を示さない。
くそ、時間がない。どうにか起こさないと!
「ん・・・・・」
なぜか俺は青葉の唇に自分の唇を重ねていた。
白雪姫じゃあるまいし、こんなので目を覚ますはずない・・・
すると
ゆっくりと、青葉の瞳が開いていく
「青葉っ?!」
目が合う
「なっ・・・・」
ギラギラと輝く獰猛な灼眼と。
ドカッ!
「ぐあっ・・・」
顔を覗き込んでいた俺は腕で薙ぎ払われ吹き飛んだ。
すると、何事もなかったかのように青葉は立ち上がり黒羽に詰め寄っていく
「大樹様を傷つける障害物・・・・・殺します」
「そ、それ以上近づいたら!大樹を焼くよ?!」
負傷をものともせず堂々と正面を歩いてくる青葉に黒羽も驚き、手を前に出す仕草をして脅す
だが青葉はそれに全く動揺しない。
「ほ、本気だよっ?!」
「・・・・・やれるものなら」
黒羽は拳に力を込めようとするが、全身が震えるだけでままならない
ヒタ・・・
「ひっ・・・?!」
その間にも青葉は距離を縮め、既に黒羽の拳を触れるまでの距離に達していた。
「どうしたんですか・・・・・すごく震えてますよ?」
「ぁ・・・・やっ、ちが・・・・」
「私が止めて差し上げますね」
途端
ゴギボギッ!バキバキッミシミシ・・・・
生々しい破砕音が聞こえる
何か厚いものの中に包まれたモノが砕ける、そんな音。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁ!!」
黒羽が絶叫する
その手に目立った外傷はなかったが、指の折れ方や位置が明らかにおかしくなっていた
俺から見ても分かる、”彼女”は青葉じゃない。
「うるさいですね、静かにして下さい」
ぼこっ!
「あぐっ・・・」
どかっ!ばきっ!どごっ!ごすっ!
青葉は一発目で既に倒れている黒羽を尚も殴り続ける
黒羽は完全に気絶していて、無抵抗なのが一目瞭然だった。
「ねぇ・・・・青葉・・・・」
「・・・・・・・。」
「青葉っ!!」
これ以上見てられなくなった俺は、思わず青葉にしがみつく。
「もう、いいでしょ?!完全に意識飛んでるって!」
こうしたらきっとやめてくれるんだと、そう思っていた。
俺は青葉の主だし、言うことを聞いてくれるんだと・・・・・でも
バシッ!
「うわっ!」
俺の腕はいとも簡単に振り払われ、尻餅をついた俺を青葉が見下ろす
「何です?私のしていることに何か問題でも?」
「問題でも?じゃないよ!!青葉、どうしちゃったんだよ・・・」
「先程から”青葉、青葉”と馴れ馴れしいですね」
まさか、俺が誰だか分からないのか?
「俺が誰か、分からないの?」
「・・・・・・・。」
どうやら本当に分からないらしい
「大樹だよ、根本大樹」
そういった途端
青葉の殺気らしきものが一気に膨れあがった。
「・・・・大樹様の名を侮辱する者は、殺します!!」
どすっ!
「ぐあっ!」
腹部に強烈な圧迫感が生まれ、直後に土煙を上げながら仰向けで地面の上を滑る
ようやく止まったのも束の間
青葉に上からマウントをとられてしまった。
「目を、覚ませ・・・・青葉」
「大樹様のため、大樹様のため!貴方を殺します!!」
ズッドンッ!
もの凄い速さの拳が、顔面すれすれで地面に突き刺さる
これ喰らったら、絶対死ぬ・・・
「俺を、護ってくれるんじゃ、なかったの・・・?」
「くっ!・・・知ったような口をきくなぁぁぁぁっ!!」
ごすっ
「ぐっ・・・・」
先程とは違い、テンプルを横殴りにされる。
やべ・・・・意識、飛びそうだった。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
今の一発で完全に狂ってしまった青葉は、両手を組み合わせその大きな拳を振り降ろす。
俺は死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑った。
攻撃を寸止めしてくれるのを願って。届け、俺の言葉!
「子供産んでくれるんだろぉぉぉぉ?!俺の嫁ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
・・・・・・・・。
ごすっ
「痛っ!!」
普通に額に拳が当たった。
でも・・・・
俺は目を開ける
「青葉・・・・」
青葉をじっと見つめる
するとその瞳の色は薄れていき、橙色を通過しやがて金色を取り戻した。
「青葉、おかえり」
「はぃ・・・ぐすっ・・・ただい、まっ、戻りました・・・・っ」
元の色を取り戻した目からはボロボロを涙が零れ、俺の頬を伝う
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!血だ、血だぁぁぁぁぁ!!」
「「!!!」」
少し遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
どうやら脳震盪が治ったらしい、瑞季は立ち上がり奇声を発している。
「青葉、行こう」
「はい!」
俺たちは立ち上がると、瑞季の方に向き直った。
「この鉄の匂い、最高だよ!あはは、君たちの血の匂いも嗅がせてくれないか?」
「少なくとも、お前と同じ臭いは嫌だな」
「すぐにわかるさ、本気でいくから。」
傾いていく夕日が、そこに佇む四つの影を伸ばしていく。
そこに加わる新たな影二つ。
近寄るわけではなく、かといって避けるわけでもなく
間合いを取っているのが一目でわかる、そんな距離。
「三日ぶりだね、根本大樹くん。そして尾形千彰くん」
瑞季は悪びれもなく、まるで俺たちが友達であるかのように振る舞う。
「この世界にいるアンサーはもはや三人」
邪悪な笑みを浮かべながら一人一人を指差す
「そして今日、この祝祭での唯一が決定する・・・・・覚悟はいいよね?」
急に語調を低め威圧してくる瑞季
俺はそれを真っ向から見つめ返した。
以前の自分ならすくみ上がっていただろうが、今の俺には通用しない。
「ははっ、その大きな何かを成し遂げようとする目。壊したくなるよ」
俺は瑞季から目を離さない。
ただじっと、戦いの火蓋が切られるのを待つ。
「それにしても4対2か・・・流石に分が悪いかな」
――――――と!
瑞季と黒羽が一瞬点滅したように見えた。
「ぐっ・・・」 「くぅ・・・っ」
直後
俺の隣で、呻き声と地面の砂が崩れ落ちる何かを受け止める音が響く。
「千彰っ!!」 「蓮さんっ!!」
「僕は好きなモノを先に食べたい主義でね、ちょっとの間眠ってもらったよ」
横たわる千彰と蓮を見て、俺の頭が沸騰しかける
この・・・・野郎っ!!
(・・・・いけません)
そんな俺を心に留め置いていた青葉の忠告が諫めてくれる
「おいおい、そんな恐い顔で見ないでよ。大丈夫、1時間もしないうちに起きるって」
にやにやとした下劣な笑みを浮かべ、こちらをこの期に及んで蔑んでいる目
そんな瑞季の態度が逆に俺に冷静さを保たせてくれた。
「さて、時間もないことだしそろそろ始めよう」
瑞季と黒羽の両手に光が収束し始め、やがてそれは剣の形を成した。
「君たちを1時間で片づけるつもりだからねっ!」
その言葉と同時に瑞季が突っ込んでくる
俺は動かない。
どんどん距離が詰まっていく
どんどん、どんどん、どんどん・・・・・今っ!!
俺は足で大地を踏み鳴らした!
バヒュゥゥゥゥゥゥーーーーンッ!!
俺を中心にして大きな波動が放たれる!
「なにっ・・・・!」「きゃっ・・・・!」
瑞季は後方に吹き飛び、土埃が舞う。
背後の悲鳴は恐らく黒羽
二手に別れて俺を討とうと画策したらしいが、全方位に及ぶ波紋に死角はなかった。
俺は正面に吹き飛んだ瑞季にゆっくりと歩み寄る
「青葉、そっちは頼んだ」
視線を少しだけ青葉に向け、合図した
「はい、お任せ下さい」
そう言って青葉は俺と反対方向、黒羽に向かってに歩き始める
ざっざっざっざっざっざっざっざ
「へぇ・・・考え、た、ね・・・げほっ・・・僕たちを、引きつけるなんてさぁ・・・・」
瑞季はその場に膝を着きながら起きあがり、歩み寄る俺を見上げる。
「勝つ自信はなくても、お前に負けない自信がある」
「ふふ・・・・いい目だ。せいぜい、楽しませてくれよ!」
=======================================
「また戦えて嬉しいよ、青葉♪」
無邪気な笑顔をこちらに向けてきます。
なぜこのような状況でこんなにも楽しそうに振る舞えるのでしょうか?
「この前はボロ負けだったからね♪」
「今回も、負かせて差し上げます」
アンサーとメイドが別行動なので武器の選択は望めないでしょう
私はただ、与えられたモノを最大限に生かすまでです。
・・・・・早速、ですね
私が宙を掴むと、その手には薙刀が握られました。
黒羽が掴んだのは・・・・両剣、ですか
「薙刀かぁ・・・リーチが長いけど、扱いにくいよね♪」
確かに
そのリーチの長さ故に、刃先の撓りなどを考慮しなければなりません。
しかも、振り抜いた後出来る隙を埋めるのも技術が必要です。
ですが・・・
「問題ありません。どんな状況であろうと私は負けませんから」
これは自らへの傲りではなく、勝利するために誓った強くあるための言葉です。
絶対に私は負けるわけにはいかないですから
「なら、見せてもらおうかなっ!」
ギャリィン!
黒羽の上方から放たれた斬撃を眼前に翳した薙刀で受け止めます。
「はっ、はっ、えいっ」
続けて右と左に振り下ろしてきたところを半身でかわし
下から振り上がってくる刃を、速度が上がる前に足で押さえ付けました。
「えっ・・・」
「ふっ、ふっ、せあっ!」
戸惑い、防御を怠っている黒羽。
その隙に石突きで胸部・下腹部・鳩尾を素早く突きます!
「かはっ・・・・」
ずざざーーーーーーーーーっ
地を滑りながら吹き飛ぶ黒羽に追いつき、首元に刃先を向け宣告します
「壱」
これは古来より伝承される威圧の一種で
私がその気になれば既に決着がついている、というのを多くを語らずに提示する方法です。
「げほっ、げほっ・・・・・ま、まだまだぁ!」
黒羽が後方に跳躍し体勢を立て直すと、両剣を持っていたはずの手に槍が握られていました
あちらのイメージが変わったということは、こちらもそろそろでしょうか
「はっ!」
槍から繰り出される鋭い突きを捌いていきます
突きは鋭いですが、放った後の動作にまだ余裕があるので避けられないものではありません。
「はっ!はっ!」
突きのスピードが上がってきました。
私は無理に避けようとはせず、薙刀で防げる範囲を見極めながらかわしていきます
・・・・と
どうやらこちらもイメージを変更するようです
ガキン!
攻撃を少し強めに弾き返し、相手が蹌踉けたところで薙刀を振り捨て宙を掴みました。
・・・刀ですね。ふふ、大樹様も上手くやっているようです
私が教えた戦術を守って下さっているのが分かり、とても嬉しくなりました。
「刀じゃこっちまで届かないでしょ、ほらっ!」
ヒュンッ!
私は放たれた槍を脇腹に挟み、動かないようにしっかりと固定します
「し、しまった」
「兵法、敵との相違は懐の深きに達す」
私は瞬時に間合いを詰め、剣先を再び黒羽の首元に突きつけます。
「弐」
・・・・・・。
時が止まったかのような沈黙の後
ガシャンと黒羽は槍をその場に落としました。
「やっぱし、あんたには敵わないよ・・・」
悔しそうでしたが、どこか清々しい表情をしている黒羽
どうやら、決着は着いたようですね。
「良かったです。貴女を斬るような事にならなくて」
私は刀身を鞘に収めます。
こちらは終わりましたよ?
あとは大樹様・・・・お願いしますね。
「・・・・・・・だから、奥の手を使っちゃおうかな♪」
「っ!!」
私は耳を疑いました。
奥の、手・・・・?
なぜ!今まさに決着がついたではありませんか?!
もう一度、私は刀の柄に手を掛けます
「主が目の前で苦痛に悶えるのを眺めているだけなんて、悲しいと思わない?」
「何をする気ですかっ!」
「ふふ、こうするの♪」
黒羽がゆっくりと手の平を前方に差し出すと、その手をじわじわと握っていきました
すると突然
「ぐああああっ!!」
後方から大樹様の叫びが聞こえたのです
「どうされましたかっ?!」
私は戦いの最中にも関わらず、大樹様の方を思い切り振り返ってしまいました
「熱いっ!ぅあっ・・・皮膚が、焼け、る・・・」
「黒羽ーーーーーーーっ!!」
熱さに悶える大樹様を見た瞬間、形容しがたいほどの殺意が込み上げ
私の手はいつの間にか抜刀し、黒羽に向かって斬りかかっていました。
「いいの?私にそんなことして」
ぐっ、と再び黒羽の手に力が入ります
「うああああああっ!!!」
「くっ!・・・・卑怯な!!」
アンサーを人質に取るなんて、卑怯にも限度があります
「私たちは光を操れる。太陽から放たれる紫外線の量を変化させる事で、魔物に比べて繊細な人間の皮膚を色付くだけに留まらず焼く事ができるって訳」
そん・・・・な・・・・
私が、足手纏いになっているのですか・・・?
絶対にお護りすると誓ったのに、私が大樹様を苦しめてしまっているのですか?
「青葉が抵抗したら、大樹を焼き肉にしちゃうからね♪」
抵抗出来るはずがありません
私は武器を手放し、全身の力を抜きます
そしてこの後行われるであろう事に備え、外部との接触を完全にシャットアウトしました。
大樹様・・・・どうかご無事で・・・・
←〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜CHANGE〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜→
ガキィィィィィン!!
薙刀と両剣がぶつかり合い、激しい衝突音を発する。
互いに一歩も譲らず、均衡した戦いが続いていた。
「瑞季、お前だけは絶対に許さない!」
「へぇ〜、よくわからないけど君がその気になってくれたならそれでいいよ!」
そう、瑞季達は憶えているはずがない
木原のことも、オリヴィエの事も。
それでも俺はこの怒りをぶつけずにはいられなかった。
「それにしても強くなったねぇ、息切れもしなければ技の精度も格段に上がっている」
「それは、どうも」
ギャリィィィィッ!!
「彼女のおかげかなっ?」
「そういうこと!」
カァンッ!
「ふぅ・・・・流石に両剣じゃ戦いにくいかな」
そう言うと瑞季はそれを振り捨て、新たに宙を掴む
その手には槍が握られた。
「これで、射程範囲はいっしょかな?」
「だといいな!」
俺は瑞季に向かって走りながら、青葉に習った戦術を思い出していた。
『武器の射程を相手と変えるのは有効です。相手が短いなら長くし寄せ付けなければいいですし、相手が長いなら短くして懐に向かって突っ込めば良いのです』
『え?でもそれができないから、対等の条件で戦おうとするんじゃないの?』
『いいえ、この事を意識するのとしないのでは大きな違いがあります。それは戦い方を固定出来るという点です。”こう来たらどうしよう”、”ああ攻めたら返り討ちになるかも”などと考えなくても、一つのことに集中し実行することが出来ます。』
『へぇ』
『忘れないで下さい、私と大樹様は一心同体です。無責任かも知れませんが、私の命はあなた様が握っておられるのです。』
『うん』
『どうぞこの訓練が私と、そしてあなた様の未来の命を繋ぐ助けになりますように・・・』
一心、同体!
俺は薙刀を振り捨て、宙を掴む
握られたのは刀。
「はああっ!」
俺は抜刀し、素早く斬り込む!
「くっ・・・!」
槍の柄で俺の斬撃を受け止めた瑞季は、そちらに気を取られるあまり腹部がガラ空きだった
どごっ!
「ぶ・・・・・っ」
瑞季は吹き飛び、地面との摩擦によって止まる。
負けられない!負けられないんだ!!
・・・・と
ビリビリと、まるで体が雷にうたれたような激痛が皮膚を駆けめぐる!
「ぐああああっ!!」
いたい、いたい、いたい、いたい!!
何が起こっているのかさっぱり分からなかった
「どうされましたかっ?!」
背後から聞こえる青葉の声
どうしたのか、自分でも全く分からない
「熱いっ!ぅあっ・・・皮膚が、焼け、る・・・」
そうだ、熱いんだ
自然に出た自分の言葉に納得する。
神経が一本一本焼き切られていくような感覚。
とてもじゃないが耐えられない
一瞬、その熱さがまるで嘘だったかのように消えたが
「うああああああっ!!!」
再び俺を襲う
あまりの痛さに俺の足から力が抜け、その場に膝をつく
一体、何が・・・・
「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
ザクッと地面に刀を突き立て、体勢を立て直す。
俺は今優勢だ、ここで倒れて流れを止めるわけにはいかない!
「ごほっ・・・ごほっ、ごほっ!」
咳き込む音と共に、土煙の向こうで立ち上がる瑞季の姿が窺える。
「おい、瑞季・・・・そんな、もん、か?」
無くなったのか麻痺したのかはわからないが、皮膚の痛みは感じなくなった。
「言ってくれるねぇ・・・・」
「次は、俺から行くぞ」
「来なよ」
俺は刀を鞘に収め、一歩一歩しっかりとした足取りで瑞季に近づいていく。
これもまた訓練の中で青葉に習った技の一つだ
そして今までやった技の中で、一番自信のある技。
「へぇ・・・居合い切りか」
「・・・・・・。」
そして完全に瑞季の槍の射程圏に入る
「ほら、やってみせてよ!」
突きが体の真ん中に向かって飛んでくる
それを何とか回避し、その時を待つ。
瑞季が突きだした槍を戻し始めた・・・・・・その時!
「はあっ!」
抜刀!
「くっ・・・」
刃は瑞季の額を掠め、そこを浅く斬った
すると瑞季は予想通りに後方へ蹌踉ける。
俺の技はまだ終わっていなかった。
鞘をしっかりと握り、渾身のアッパースイング!
見事に狙っていた瑞季の顎先に的中した。
「いぎぃ・・・っ」
どさっ
瑞季はその場に尻餅をつく
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ざ、残念だったねぇ、もう少し踏み込めば斬れたのに」
・・・・この技の真の狙いは
「よいしょ・・・・・・っ?!」
どさっ
瑞季は立ち上がろうとして、再び尻餅をつく。
「な・・・に・・・?」
そう、あの技の真の狙いはこの『脳震盪』にあった。
意識はあるが、思ったように体が動かなくなるのだ。
「当分動けないよ」
そう言って、俺は何気なく振り返る。
目の前の戦いが停止し、周りを見る余裕が出来たから本当に何となく
「なん、で・・・・・」
そこには信じられない光景が広がっていた。
まるでボロ雑巾のように何の抵抗もせず、サンドバックのように攻撃を受け続けるその姿。
目から生気は失せ、口元にもわずかではあるが血が滲んだその姿。
全て俺の最愛の人、青葉その人の姿だった。
「青葉ぁぁぁぁぁぁっ!!」
足が勝手に動き出す。
走る速度はどんどん上がっていき、それにつれ黒羽に対しての憎悪が膨らんでいった。
「あああああああっ!!」
青葉に攻撃を加え続けている黒羽に向かって刀を振りかざす!
「っ?!」
黒羽が俺の叫びで接近に気付いたときには、既に刀が振り下ろされ
スパッ!
その右角を切り落とした
「きゃあああああああっ」
「はぁ、はぁ、と、青葉!」
角を切断され狼狽える黒羽
その隙に青葉の意識を戻そうと呼びかける。
「青葉!俺だよ、わかる?」
「・・・・・・・。」
「もうすぐだよ。もうすぐだから、頑張ろう」
「・・・・・・・。」
一切の反応を示さない。
くそ、時間がない。どうにか起こさないと!
「ん・・・・・」
なぜか俺は青葉の唇に自分の唇を重ねていた。
白雪姫じゃあるまいし、こんなので目を覚ますはずない・・・
すると
ゆっくりと、青葉の瞳が開いていく
「青葉っ?!」
目が合う
「なっ・・・・」
ギラギラと輝く獰猛な灼眼と。
ドカッ!
「ぐあっ・・・」
顔を覗き込んでいた俺は腕で薙ぎ払われ吹き飛んだ。
すると、何事もなかったかのように青葉は立ち上がり黒羽に詰め寄っていく
「大樹様を傷つける障害物・・・・・殺します」
「そ、それ以上近づいたら!大樹を焼くよ?!」
負傷をものともせず堂々と正面を歩いてくる青葉に黒羽も驚き、手を前に出す仕草をして脅す
だが青葉はそれに全く動揺しない。
「ほ、本気だよっ?!」
「・・・・・やれるものなら」
黒羽は拳に力を込めようとするが、全身が震えるだけでままならない
ヒタ・・・
「ひっ・・・?!」
その間にも青葉は距離を縮め、既に黒羽の拳を触れるまでの距離に達していた。
「どうしたんですか・・・・・すごく震えてますよ?」
「ぁ・・・・やっ、ちが・・・・」
「私が止めて差し上げますね」
途端
ゴギボギッ!バキバキッミシミシ・・・・
生々しい破砕音が聞こえる
何か厚いものの中に包まれたモノが砕ける、そんな音。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁ!!」
黒羽が絶叫する
その手に目立った外傷はなかったが、指の折れ方や位置が明らかにおかしくなっていた
俺から見ても分かる、”彼女”は青葉じゃない。
「うるさいですね、静かにして下さい」
ぼこっ!
「あぐっ・・・」
どかっ!ばきっ!どごっ!ごすっ!
青葉は一発目で既に倒れている黒羽を尚も殴り続ける
黒羽は完全に気絶していて、無抵抗なのが一目瞭然だった。
「ねぇ・・・・青葉・・・・」
「・・・・・・・。」
「青葉っ!!」
これ以上見てられなくなった俺は、思わず青葉にしがみつく。
「もう、いいでしょ?!完全に意識飛んでるって!」
こうしたらきっとやめてくれるんだと、そう思っていた。
俺は青葉の主だし、言うことを聞いてくれるんだと・・・・・でも
バシッ!
「うわっ!」
俺の腕はいとも簡単に振り払われ、尻餅をついた俺を青葉が見下ろす
「何です?私のしていることに何か問題でも?」
「問題でも?じゃないよ!!青葉、どうしちゃったんだよ・・・」
「先程から”青葉、青葉”と馴れ馴れしいですね」
まさか、俺が誰だか分からないのか?
「俺が誰か、分からないの?」
「・・・・・・・。」
どうやら本当に分からないらしい
「大樹だよ、根本大樹」
そういった途端
青葉の殺気らしきものが一気に膨れあがった。
「・・・・大樹様の名を侮辱する者は、殺します!!」
どすっ!
「ぐあっ!」
腹部に強烈な圧迫感が生まれ、直後に土煙を上げながら仰向けで地面の上を滑る
ようやく止まったのも束の間
青葉に上からマウントをとられてしまった。
「目を、覚ませ・・・・青葉」
「大樹様のため、大樹様のため!貴方を殺します!!」
ズッドンッ!
もの凄い速さの拳が、顔面すれすれで地面に突き刺さる
これ喰らったら、絶対死ぬ・・・
「俺を、護ってくれるんじゃ、なかったの・・・?」
「くっ!・・・知ったような口をきくなぁぁぁぁっ!!」
ごすっ
「ぐっ・・・・」
先程とは違い、テンプルを横殴りにされる。
やべ・・・・意識、飛びそうだった。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
今の一発で完全に狂ってしまった青葉は、両手を組み合わせその大きな拳を振り降ろす。
俺は死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑った。
攻撃を寸止めしてくれるのを願って。届け、俺の言葉!
「子供産んでくれるんだろぉぉぉぉ?!俺の嫁ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
・・・・・・・・。
ごすっ
「痛っ!!」
普通に額に拳が当たった。
でも・・・・
俺は目を開ける
「青葉・・・・」
青葉をじっと見つめる
するとその瞳の色は薄れていき、橙色を通過しやがて金色を取り戻した。
「青葉、おかえり」
「はぃ・・・ぐすっ・・・ただい、まっ、戻りました・・・・っ」
元の色を取り戻した目からはボロボロを涙が零れ、俺の頬を伝う
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!血だ、血だぁぁぁぁぁ!!」
「「!!!」」
少し遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
どうやら脳震盪が治ったらしい、瑞季は立ち上がり奇声を発している。
「青葉、行こう」
「はい!」
俺たちは立ち上がると、瑞季の方に向き直った。
「この鉄の匂い、最高だよ!あはは、君たちの血の匂いも嗅がせてくれないか?」
「少なくとも、お前と同じ臭いは嫌だな」
「すぐにわかるさ、本気でいくから。」
11/02/20 19:27更新 / パっちゃん
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