10語目 セツナミダ(切ない+涙)
「来るなっ!」
オリヴィエは手を横に伸ばし、駆け寄ろうとする俺を制する。
「何言ってるんだ!俺はオーナーだろ?!」
「だからだ・・・・だから、来るな」
「い、意味が分から」
ごすっ
「くあっ・・・・」
俺と話している間にも、オリヴィエに対して攻撃が飛ぶ
当たり所が悪かったらしく、オリヴィエは膝から崩れてしまった。
「オリヴィエ!!」
「く・・・・来る、な」
本当に来てほしくないなら、もっと嫌そうな顔してくれよ
なんでそんな・・・・泣きそうなんだよ
「気丈だねぇ、オリヴィエ。そして強い。僕のメイドにしたかったよ」
「貴様のメイドなど・・・・」
見下ろす瑞季を、オリヴィエが鋭い眼光で睨み付ける
と、
どすっ
「ぁっ・・・・・」
どすっ、ごっ、ぼこっ、ずんっ、ぼすんっ、どごっ
黒羽は夢中になって横たわっているオリヴィエを蹴り始めた
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
俺はイメージで具現化したバズーカを黒羽に向けて放つ
ドンッ!
強い反動と共に放たれた攻撃は
ッズドン!!
確かに命中した
ヒッティングポイントから血が滴ってる。
だが、それでも黒羽は執拗に蹴撃を繰り返す。
「瑞季、私だけ見て。壊れてく”お気に入り”を見て。瑞季、私だけを・・・・」
狂ってる、止めなきゃ!どうにかしないと!!
そう思った途端、体が勝手に動いていた
「おおおおおおおおおおおっ!!」
ずんっ!
黒羽に渾身のタックルをかます。
体が大きい故に威力は絶大。黒羽を後方に吹き飛ばした。
「オリヴィエ!俺、足手纏いかもしんないけど、目の前にいる女を放っておけるほど、俺は、根性無しになりたくないんだよっ!!」
「巳継・・・」
俺はイメージを伝える
そして・・・・・・掴む!
攻撃こそ最大の防御なら、その逆もまた然り。
ランス。鉄壁の盾にして貫きの原点。
「オリヴィエ、立てる?」
「ん、心配されるまでもない。か、勘違いするなよ?!心配されても嬉しくなど」
「なら、行こう!オリヴィエ」
「・・・・・ああ。私はいつも、お前と共に!」
俺たちは矛盾を構え、相手の攻撃を迎え撃った!
=====================================
くそっ、くそっ、くそっ!!
どうしてすぐ気付かなかった!なんで油断した!!
今日攻めてこない保証なんて、どこにもなかったじゃないか!!
「大樹様、あまりご自分を責めないで下さい。今は一刻も早くお二人を探しましょう」
「そうだ・・・そうだね!」
気持ちを切り替えろ、俺
今は木原とオリヴィエを探すのが先決だ。
それ以外、余計なことは考えるな
出来るだけ「無」でいるんだ。
「とは、いっても」
この町を隈無く探すには相当の時間がかかる
何か手がかりはないだろうか・・・・
留守番電話、木原の声、それ以外の、音・・・・
「チャルメラ・・・」
そうだ、確か留守番電話のバックでチャルメラの音がしていた気がする。
今時チャルメラと言えば、あのくそ不味いラーメン屋台以外無い
しかも特定の場所しか動かないから、それを手がかりにすれば・・・・
「青葉、チャルメラの”音”って、どこからか聞こえる?」
もしかしたら、それはテレビCMの音でしかないのかもしれない
それでも、俺たちはこれにかけるしかなかった。
「少々お待ちください」
そう言って青葉は目を閉じる
「・・・はい、南東の方角から確かに。」
「よし、そこに行こう!」
「何か手がかりでも?」
「留守電のバックで、鳴っていたような気がするんだ」
「わかりました」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ
走る、走る、走る、走る
南東を目指してひたすら走る
チャ〜〜ラ〜〜〜〜
近い!
自然に走るスピードが速まる。
もうすぐ、もうすぐ・・・・・・・・・見えた!
スピーカー付きの屋台を引いているおっさんが、ゆっくりと歩いている。
「青葉、ここら辺を探そう!」
「はい!」
本来なら手分けして探した方が効率的だが、なんせ通信手段がない
故に一緒に行動せざるを得ないかった。
俺たちは疲れた体に鞭打って、町中を全力疾走で駆けめぐる!
==================================
こ、これが・・・・第二世代教育<光>(イルズ・マトネス)
手も、足も、出ない
「な〜んだ、まだ一回しか本気出してないのに」
「う・・・ごけ・・な・・・」
何が起こったのか、全く解らなかった
ただ、瑞季と黒羽が一瞬点滅したように見えただけ。
直後に全身を殴られたような痛みが襲い、その場に倒れ込んでしまった。
体が、動かない
「あははっ、精子〜精子〜♪」
黒羽が隈語を連呼しながらこちらに歩いてくる。
なんだ、こいつ、頭イっちゃってるぞ?
じゃり
地面の高さとほぼ変わらない俺の視界を、2本の薄桃色の柱が遮る
「はぁ・・・はぁ・・・さ、せん、ぞ」
「オリ、ヴィエ・・・・」
俺を庇うなんて無理だ!同じ攻撃をさっきオリヴィエも受けたばかりだろ!!
「やめ、ろ・・・・オリヴィ」
「んふふ、じゃ〜ま♪」
ッズッッッドガァン!!
「・・・・・ぅはっ・・・」
黒羽の蹴りを食らったオリヴィエは吹き飛ばされ、轟音と共にコンクリート壁に突っ込む
その後をすぐさま黒羽が追跡し、コンクリート壁にめり込んでいるオリヴィエの腹部に拳を当てた。
「んふふ、瑞季はねぇ、わたしのものなの♪」
どすっ!
「はっ・・・・・」
黒羽の振るった拳の威力は、ひび割れたコンクリートを揺るがすほどで
生身の人間が喰らっていたら内臓がいくつか逝っていただろう。
早く、立って・・・・・イメージを・・・・
「くうっ!・・・・・・・ぐっ」
しかし無常にも肢体に力は入らない。
ただひたすらに、横転している視界でオリヴィエの流血する様を眺めているだけ。
どうしたら、助けられる?!
どうしたら、動けるようになる?!
どうしたら
「無駄だよ」
いつの間にか、俺の顔を瑞季が覗き込んでいた。
全てを見透かしたような、そんな瞳で俺に諭す。
「例え君が動いたところで、また停止させるまで。彼女を助けたところで、また窮地に立たせるだけ。君たちに勝ちの目は無いよ。」
瑞季の言葉が重く心にのしかかる。
確かにそうだ
俺が動いたところで、オリヴィエを助けたところで
結局その場凌ぎでしかない。
なら、どうすれば
「君たちの選択肢は一つ、忘却だよ。君は彼女を忘れ、何事もなかったかのように当たり前の日常を過ごすことになる。覚えているのは僕たちだけ。君は何も知らず、誰を忘れたのかすら忘れ、そのまま一生を終える。それが唯一無二、絶対的選択肢さ。」
聞けば聞くほど、俺たちの関係が風前の灯火である事を痛感させられる
混沌。
きっと今の俺の思考状態をそう呼ぶに違いない。
ああ、俺、なにやってんだろ
もう、めんどくさくなってきた
早く終わらないかな・・・・・
「はぁ・・・・はぁ・・・・・巳継!!」
ボロボロの彼女は、瑞季を突き飛ばし俺の前に背を向け立ちはだかる
オリヴィエ、もう無理だよ。勝てない。
俺は動けないし、オリヴィエだってボロボロじゃないか・・・・
「だい、じょうぶだ・・・・私が、私が、護、る」
「な・・・・んで・・・・」
なんでだよ・・・・このままだったら、オリヴィエが
「・・・・・くらい、なら」
「・・・・・・ぇ?」
「・・・・お前に、忘れられるくらいなら!」
オリヴィエは、まるで声を絞り出すように
「死んだ私を、お前に想われる方がマシだ!!」
強い語調で高らかに宣言する!
「忘れたか!私がお前に注意したことを!!」
目頭と鼻の奥が熱くなる
それが何かのスイッチのように、俺の肢体に自然と力を入る
「お前の悪いところは、その諦めが早いところと、面倒臭がりなところだとな!!」
左手、右手、左足、右足
順番に力が入る。
「お前は何度!私に注意させるつもりだ!!」
四つん這いの状態から震える両足で
「立って、私を支えるくらい、してみたらどうだ!!」
立ち上がる!
低かった視点が見慣れた高さになり、ようやくオリヴィエの表情が確認できた。
「はぁ・・・はぁ・・・待った?」
「遅すぎるぞ・・・・バカ」
なんでだろう、なぜか俺は立ち上がった。
自分でもよくわからない。
だけど、
これは理屈で説明することの出来ない力だと、確かにそう感じた。
「・・・・・。」
不意に、俺の頭の中にイメージが流れ込んできた。
これが技イメージ?
「巳継、これでいこう」
「お、オケ」
このイメージ通りに動けばいいのだろうか?
俺は右手でオリヴィエの左手を握る
そして二人でもう一方の手の平を前方、相手に向けた。
「「・・・・・・・」」
ここまで来ると、もはやアイコンタクトだけで充分だった
二人で頷き合い、イメージをより鮮明にしていく。
前方に出した手に風が収束しているのを感じる。
そして
俺たちは両手に意識を集中させ
ぎゅっ
握る力を強めるのと同時に、俺たちの手から高密度の風が吹き荒れた!
=================================
「何だって強い風なんだ」
建物と建物の間を強烈な突風が吹き抜け、その風は一向に止む気配がない。
俺たちはその風に逆らわず、身を委ねて進んで行くことにした。
”風”
恐らくこれが、二人のもとに導いてくれると直感したからだ。
「もしかすると、お二人はこのような強い力を使わなければいけないほど窮地なのでは?」
その可能性はある。
だからこそ一刻も早く辿り着きたいところだが、慎重に進まなければ他の追い風に飛ばされてしまう危険性があった。
だから、このジョギング程度の速度が限界なのだ。
「無事でいてくれ」
体が吸い寄せられる感覚を覚え始めた事から、確実に近づいていることが解る。
もう少しだ・・・・・
と、
急に、風が止んだ。
「青葉!」
「はいっ!」
胸騒ぎ。
急に止んだ風で俺たちは確信した、先程の風が二人の力だということを。
そしてそれが急に止んだとなれば・・・・
今は無きあの吸い寄せられる感覚を思い出し、その方角へ走る
「っ?!」
そして見つける
コンクリート壁に囲まれた広い路地裏で。
傷ついた二人と、それを見下ろす二人を。
「木原!オリヴィエ!」
二人に向けて叫ぶが反応はない。
木原に目立った外傷はないが、オリヴィエの方はボロボロ
メイド服は血と土埃にまみれ、破れ、所々肌が外気に晒されていて、服の原形を留めているとは言い難い状態だった。
それでも近くで確認しないことには・・・
そう思った俺は、倒れている二人に駆け寄ろうと
「だ〜め〜だ〜ぞ♪」
それをいつの間にか俺たちの前に現れた黒羽に阻まれた。
その間にも瑞季は倒れた二人にゆっくりと歩み寄っていく
「突破する!」
俺と青葉は剣を掴む。
ここに来る前に青葉から教えられた剣の構え
こんなにも早く実戦することになるなんて・・・・
俺は上段、青葉は下段に構える。
「はああっ!」
構えから剣で突きを放ち!
さらにその位置から下方に振り下ろす!
俺の斬撃が黒羽の剣と激しい衝突音を鳴らす
力では優っているものの技量の違いか、攻めきる前にイナされる。
「甘いよん♪」
黒羽は刀身を翻し、まだ体勢が戻りきらない俺の背を切り上げる!
それを青葉が弾き
黒羽の刀身の中腹を自らの剣の刀身の中腹で絡め取る!
すると、ギチギチと互いの剣をゼロ距離で押し合う一騎打ちの体勢となった。
「ふふ、護ってるだけじゃ勝負にならないよん?」
「そうですね、残念ですが全く勝負になりません」
青葉の余裕に不信感を感じた頃には、既に俺たちの術中だった。
先程まで青葉の剣だったはずのものが、ロープのように黒羽の剣に絡みつきその刃を埋め尽くす。
「何コレ?!」
「イメージの順応性の無さ。それがメイドの単独行動の弱点ですよ?」
それを確認した俺は、すぐさま黒羽の懐に入る!
「えっ?!」
驚いている彼女を他所に、その鳩尾を剣の柄で強めに突く
「ぐっ・・・・」
必然的に黒羽の頭が下がる
その首裏を青葉が手刀で叩くと
どさ・・・・
黒羽はそのまま地面に倒れ意識を失った。
「木原!」
俺の呼びかけに僅かに反応するが、もはや動く力が残っていないらしい
でもこのままじゃ
「逃げろ!死ぬのなら後でも出来るんだから、今は死ぬ気で立って走れ!!」
どっちみち、今から俺が瑞季に走り込んで攻撃したところで間に合わない
だからもうこうして叫ぶしかない
「・・・・・・」
木原に俺の言葉は届いたんだろうか、なぜか・・・・笑ってる
「・・・・・・」
口が、動いているような気がする
「青葉!木原の口の動きを読み取って!」
「はい!」
・・・る・・・・ねもと・・・これ・・
俺には全然解らない。
「青葉」
「はい、『やられる前に、根本の手でコレを』と」
キン・・・
木原が腕を振るったかと思うと、俺たちの足下にはエメラルド色の水晶が転がった。
まさか
「俺の手で・・・・壊せってこと・・・?」
「・・・・・はい」
「出来るわけないだろっ!!」
普通なら接点なんて無かった二人。
そんな二人が交わった”点”を取り除くなんて
せっかくここまで編んできたのに、ここまで紡いできたのに
それを、ほどいて・・・・また二本の真っ直ぐな糸に戻しちゃうのか?
しかも、二人のモノを、俺一人で・・・・
「諦めんなよっ!!」
「『オリヴィエは死ぬつもりだ。だから、気を失っている間に』」
「だけどっ!」
「『あいつに記憶を浚われるなら、せめて根本に託したい』」
「・・・・っ」
確かに、木原の言う通りかもしれない
それでも・・・・俺には・・・・・
「やっぱ・・・・出来ないよ・・・・・」
目の前の糸をほどくことは出来なかった。
・・・・・と
突然俺の剣を持つ手が握られる
「・・・・大樹様、失礼します!」
「なっ・・・」
俺の剣は軽く振り上げられ
ジャキィィィン!!
エメラルドの雫を貫き、地面に深々と突き刺さる!
ありがとう
気絶する寸前、木原は確かにそう言った。
粉々になった光は、そのまま夕焼けに昇華していく。
その様子を俺はただ呆然と見ていることしか出来ない
光を目で追って、無駄だと解っていても、それを掴もうとすることしか・・・・
「あ〜あ、僕がトドメ刺そうと思ったのに。」
退屈そうに言うと、瑞季は倒れた黒羽のもとへと歩いてくる
「青葉・・・」
地面に刺さった剣はキチキチと震え、青葉の涙がアスファルトを濡らす。
青葉、ごめん。
俺の荷まで背負わせちゃって、こんなにも重い荷を・・・・
「よいしょっと」
瑞季は気を失った黒羽を抱え
「僕たちが戦うのは三日後だ。楽しみにしてるよ、根本大樹君」
俺たちに背を向け去っていった。
ドン
それと同時に扉が現れ、重々しく開かれる
「ズイブン、痛々シイ姿ダ」
「名誉ノ傷トアラバ、我ラハ敬意ヲ表スノミ」
扉から出てきた門番二体は各々感想を口にし、オリヴィエを担ぎ上げる。
「なあ」
「ン?」
自然と言葉が口に上り、扉を潜らんとする門番を呼び止めた。
「そいつ、オリヴィエを。俺たちにくれないか?」
俺は門番の肩に担がれているオリヴィエを指差す
すると自分の名前を呼ばれたのに気付いたのか、うっすらとオリヴィエの目が開かれた。
「コノ祭ノ掟ヲ汝モ知ッテイヨウ?」
「我ラガ糧トスル人間ノ分際デ、強欲ナ」
あからさまに嫌悪感を示す門番を後目に俺は言う
「いずれ俺たちが、魔物を糧にしてみせる」
不思議そうな顔でこちらを見つめる門番たち
一応自分の中では、向こうの話し方に合わせて的確に答えたつもりだった。
間違って、る?
そんな疑問が浮かんだのと同時くらいに、前方から失笑が聞こえた。
「オモシロイ奴ダ。我ラヲ糧ニスルト言ウカ」
「ソノ強欲、実ニ興味深イ。気ニ入ッタゾ人間」
門番たちは朗らかに笑う。
そんな中、目を覚ましたオリヴィエの動きに気づき、門番はその体を降ろした
「立ッテ、歩ケルナ?」
「ああ、問題ない・・・・・・・根本大樹」
俺を見つめるオリヴィエの瞳は、悲しみに動揺している
「必ず勝て。そして、そこで”倒れている奴”を連れて魔界に会いに来い」
それでも”奴”を見つめる目は優しくて、それだけでとても愛されている事がひしひしと伝わってきた。
「約束するよ」
「ならば、もう何も言うまい。これが”あいつ”の決定なのだからな」
オリヴィエはこちらに背を向け、扉に向かって歩き出した
その後ろを門番が従う。
「しばしの別れだ!・・・・・”巳継”、私が馳せる最愛の主よ」
俺はその後ろ姿を、一分一秒でも多く憶えておきたかった
だから俺はその扉が閉まり始めてから、隙間が線のように細くなる瞬間まで焦点を合わせ続ける
ドン
扉が見えなくなった後も、俺の焦点が変わることはなかった。
何もない場所に焦点があり、その背景は未だぼやけたまま
ぽろ・・・・
・・・・ああ、そういうことか
もう焦点はとっくに戻っていたんだ
焦点が合ってないように”見せられてた”だけ、だったんだね
「大樹様・・・・」
振り返ると、そこにいた青葉もぼやけて見えた。
「青葉も?」
「はい」
上を向いたり、目を閉じたりするが、ただ溢れそうになるだけで
決してソレは戻ってくれそうにない。
「あー・・・・無理っぽいね」
「そうですか、では仕方ありませんね」
「ああ」
「全く、困ったセツナミダ・・・です、ね・・・・・っ」
「・・・・・ぁぁ・・・」
その日の夕焼けは
まるで万華鏡で覗いたようにキラキラと輝いているように見えて
夕日の朱色が
俺たちの悲しみの緋色を覆ってくれた、そんな気がした。
オリヴィエは手を横に伸ばし、駆け寄ろうとする俺を制する。
「何言ってるんだ!俺はオーナーだろ?!」
「だからだ・・・・だから、来るな」
「い、意味が分から」
ごすっ
「くあっ・・・・」
俺と話している間にも、オリヴィエに対して攻撃が飛ぶ
当たり所が悪かったらしく、オリヴィエは膝から崩れてしまった。
「オリヴィエ!!」
「く・・・・来る、な」
本当に来てほしくないなら、もっと嫌そうな顔してくれよ
なんでそんな・・・・泣きそうなんだよ
「気丈だねぇ、オリヴィエ。そして強い。僕のメイドにしたかったよ」
「貴様のメイドなど・・・・」
見下ろす瑞季を、オリヴィエが鋭い眼光で睨み付ける
と、
どすっ
「ぁっ・・・・・」
どすっ、ごっ、ぼこっ、ずんっ、ぼすんっ、どごっ
黒羽は夢中になって横たわっているオリヴィエを蹴り始めた
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
俺はイメージで具現化したバズーカを黒羽に向けて放つ
ドンッ!
強い反動と共に放たれた攻撃は
ッズドン!!
確かに命中した
ヒッティングポイントから血が滴ってる。
だが、それでも黒羽は執拗に蹴撃を繰り返す。
「瑞季、私だけ見て。壊れてく”お気に入り”を見て。瑞季、私だけを・・・・」
狂ってる、止めなきゃ!どうにかしないと!!
そう思った途端、体が勝手に動いていた
「おおおおおおおおおおおっ!!」
ずんっ!
黒羽に渾身のタックルをかます。
体が大きい故に威力は絶大。黒羽を後方に吹き飛ばした。
「オリヴィエ!俺、足手纏いかもしんないけど、目の前にいる女を放っておけるほど、俺は、根性無しになりたくないんだよっ!!」
「巳継・・・」
俺はイメージを伝える
そして・・・・・・掴む!
攻撃こそ最大の防御なら、その逆もまた然り。
ランス。鉄壁の盾にして貫きの原点。
「オリヴィエ、立てる?」
「ん、心配されるまでもない。か、勘違いするなよ?!心配されても嬉しくなど」
「なら、行こう!オリヴィエ」
「・・・・・ああ。私はいつも、お前と共に!」
俺たちは矛盾を構え、相手の攻撃を迎え撃った!
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くそっ、くそっ、くそっ!!
どうしてすぐ気付かなかった!なんで油断した!!
今日攻めてこない保証なんて、どこにもなかったじゃないか!!
「大樹様、あまりご自分を責めないで下さい。今は一刻も早くお二人を探しましょう」
「そうだ・・・そうだね!」
気持ちを切り替えろ、俺
今は木原とオリヴィエを探すのが先決だ。
それ以外、余計なことは考えるな
出来るだけ「無」でいるんだ。
「とは、いっても」
この町を隈無く探すには相当の時間がかかる
何か手がかりはないだろうか・・・・
留守番電話、木原の声、それ以外の、音・・・・
「チャルメラ・・・」
そうだ、確か留守番電話のバックでチャルメラの音がしていた気がする。
今時チャルメラと言えば、あのくそ不味いラーメン屋台以外無い
しかも特定の場所しか動かないから、それを手がかりにすれば・・・・
「青葉、チャルメラの”音”って、どこからか聞こえる?」
もしかしたら、それはテレビCMの音でしかないのかもしれない
それでも、俺たちはこれにかけるしかなかった。
「少々お待ちください」
そう言って青葉は目を閉じる
「・・・はい、南東の方角から確かに。」
「よし、そこに行こう!」
「何か手がかりでも?」
「留守電のバックで、鳴っていたような気がするんだ」
「わかりました」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ
走る、走る、走る、走る
南東を目指してひたすら走る
チャ〜〜ラ〜〜〜〜
近い!
自然に走るスピードが速まる。
もうすぐ、もうすぐ・・・・・・・・・見えた!
スピーカー付きの屋台を引いているおっさんが、ゆっくりと歩いている。
「青葉、ここら辺を探そう!」
「はい!」
本来なら手分けして探した方が効率的だが、なんせ通信手段がない
故に一緒に行動せざるを得ないかった。
俺たちは疲れた体に鞭打って、町中を全力疾走で駆けめぐる!
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こ、これが・・・・第二世代教育<光>(イルズ・マトネス)
手も、足も、出ない
「な〜んだ、まだ一回しか本気出してないのに」
「う・・・ごけ・・な・・・」
何が起こったのか、全く解らなかった
ただ、瑞季と黒羽が一瞬点滅したように見えただけ。
直後に全身を殴られたような痛みが襲い、その場に倒れ込んでしまった。
体が、動かない
「あははっ、精子〜精子〜♪」
黒羽が隈語を連呼しながらこちらに歩いてくる。
なんだ、こいつ、頭イっちゃってるぞ?
じゃり
地面の高さとほぼ変わらない俺の視界を、2本の薄桃色の柱が遮る
「はぁ・・・はぁ・・・さ、せん、ぞ」
「オリ、ヴィエ・・・・」
俺を庇うなんて無理だ!同じ攻撃をさっきオリヴィエも受けたばかりだろ!!
「やめ、ろ・・・・オリヴィ」
「んふふ、じゃ〜ま♪」
ッズッッッドガァン!!
「・・・・・ぅはっ・・・」
黒羽の蹴りを食らったオリヴィエは吹き飛ばされ、轟音と共にコンクリート壁に突っ込む
その後をすぐさま黒羽が追跡し、コンクリート壁にめり込んでいるオリヴィエの腹部に拳を当てた。
「んふふ、瑞季はねぇ、わたしのものなの♪」
どすっ!
「はっ・・・・・」
黒羽の振るった拳の威力は、ひび割れたコンクリートを揺るがすほどで
生身の人間が喰らっていたら内臓がいくつか逝っていただろう。
早く、立って・・・・・イメージを・・・・
「くうっ!・・・・・・・ぐっ」
しかし無常にも肢体に力は入らない。
ただひたすらに、横転している視界でオリヴィエの流血する様を眺めているだけ。
どうしたら、助けられる?!
どうしたら、動けるようになる?!
どうしたら
「無駄だよ」
いつの間にか、俺の顔を瑞季が覗き込んでいた。
全てを見透かしたような、そんな瞳で俺に諭す。
「例え君が動いたところで、また停止させるまで。彼女を助けたところで、また窮地に立たせるだけ。君たちに勝ちの目は無いよ。」
瑞季の言葉が重く心にのしかかる。
確かにそうだ
俺が動いたところで、オリヴィエを助けたところで
結局その場凌ぎでしかない。
なら、どうすれば
「君たちの選択肢は一つ、忘却だよ。君は彼女を忘れ、何事もなかったかのように当たり前の日常を過ごすことになる。覚えているのは僕たちだけ。君は何も知らず、誰を忘れたのかすら忘れ、そのまま一生を終える。それが唯一無二、絶対的選択肢さ。」
聞けば聞くほど、俺たちの関係が風前の灯火である事を痛感させられる
混沌。
きっと今の俺の思考状態をそう呼ぶに違いない。
ああ、俺、なにやってんだろ
もう、めんどくさくなってきた
早く終わらないかな・・・・・
「はぁ・・・・はぁ・・・・・巳継!!」
ボロボロの彼女は、瑞季を突き飛ばし俺の前に背を向け立ちはだかる
オリヴィエ、もう無理だよ。勝てない。
俺は動けないし、オリヴィエだってボロボロじゃないか・・・・
「だい、じょうぶだ・・・・私が、私が、護、る」
「な・・・・んで・・・・」
なんでだよ・・・・このままだったら、オリヴィエが
「・・・・・くらい、なら」
「・・・・・・ぇ?」
「・・・・お前に、忘れられるくらいなら!」
オリヴィエは、まるで声を絞り出すように
「死んだ私を、お前に想われる方がマシだ!!」
強い語調で高らかに宣言する!
「忘れたか!私がお前に注意したことを!!」
目頭と鼻の奥が熱くなる
それが何かのスイッチのように、俺の肢体に自然と力を入る
「お前の悪いところは、その諦めが早いところと、面倒臭がりなところだとな!!」
左手、右手、左足、右足
順番に力が入る。
「お前は何度!私に注意させるつもりだ!!」
四つん這いの状態から震える両足で
「立って、私を支えるくらい、してみたらどうだ!!」
立ち上がる!
低かった視点が見慣れた高さになり、ようやくオリヴィエの表情が確認できた。
「はぁ・・・はぁ・・・待った?」
「遅すぎるぞ・・・・バカ」
なんでだろう、なぜか俺は立ち上がった。
自分でもよくわからない。
だけど、
これは理屈で説明することの出来ない力だと、確かにそう感じた。
「・・・・・。」
不意に、俺の頭の中にイメージが流れ込んできた。
これが技イメージ?
「巳継、これでいこう」
「お、オケ」
このイメージ通りに動けばいいのだろうか?
俺は右手でオリヴィエの左手を握る
そして二人でもう一方の手の平を前方、相手に向けた。
「「・・・・・・・」」
ここまで来ると、もはやアイコンタクトだけで充分だった
二人で頷き合い、イメージをより鮮明にしていく。
前方に出した手に風が収束しているのを感じる。
そして
俺たちは両手に意識を集中させ
ぎゅっ
握る力を強めるのと同時に、俺たちの手から高密度の風が吹き荒れた!
=================================
「何だって強い風なんだ」
建物と建物の間を強烈な突風が吹き抜け、その風は一向に止む気配がない。
俺たちはその風に逆らわず、身を委ねて進んで行くことにした。
”風”
恐らくこれが、二人のもとに導いてくれると直感したからだ。
「もしかすると、お二人はこのような強い力を使わなければいけないほど窮地なのでは?」
その可能性はある。
だからこそ一刻も早く辿り着きたいところだが、慎重に進まなければ他の追い風に飛ばされてしまう危険性があった。
だから、このジョギング程度の速度が限界なのだ。
「無事でいてくれ」
体が吸い寄せられる感覚を覚え始めた事から、確実に近づいていることが解る。
もう少しだ・・・・・
と、
急に、風が止んだ。
「青葉!」
「はいっ!」
胸騒ぎ。
急に止んだ風で俺たちは確信した、先程の風が二人の力だということを。
そしてそれが急に止んだとなれば・・・・
今は無きあの吸い寄せられる感覚を思い出し、その方角へ走る
「っ?!」
そして見つける
コンクリート壁に囲まれた広い路地裏で。
傷ついた二人と、それを見下ろす二人を。
「木原!オリヴィエ!」
二人に向けて叫ぶが反応はない。
木原に目立った外傷はないが、オリヴィエの方はボロボロ
メイド服は血と土埃にまみれ、破れ、所々肌が外気に晒されていて、服の原形を留めているとは言い難い状態だった。
それでも近くで確認しないことには・・・
そう思った俺は、倒れている二人に駆け寄ろうと
「だ〜め〜だ〜ぞ♪」
それをいつの間にか俺たちの前に現れた黒羽に阻まれた。
その間にも瑞季は倒れた二人にゆっくりと歩み寄っていく
「突破する!」
俺と青葉は剣を掴む。
ここに来る前に青葉から教えられた剣の構え
こんなにも早く実戦することになるなんて・・・・
俺は上段、青葉は下段に構える。
「はああっ!」
構えから剣で突きを放ち!
さらにその位置から下方に振り下ろす!
俺の斬撃が黒羽の剣と激しい衝突音を鳴らす
力では優っているものの技量の違いか、攻めきる前にイナされる。
「甘いよん♪」
黒羽は刀身を翻し、まだ体勢が戻りきらない俺の背を切り上げる!
それを青葉が弾き
黒羽の刀身の中腹を自らの剣の刀身の中腹で絡め取る!
すると、ギチギチと互いの剣をゼロ距離で押し合う一騎打ちの体勢となった。
「ふふ、護ってるだけじゃ勝負にならないよん?」
「そうですね、残念ですが全く勝負になりません」
青葉の余裕に不信感を感じた頃には、既に俺たちの術中だった。
先程まで青葉の剣だったはずのものが、ロープのように黒羽の剣に絡みつきその刃を埋め尽くす。
「何コレ?!」
「イメージの順応性の無さ。それがメイドの単独行動の弱点ですよ?」
それを確認した俺は、すぐさま黒羽の懐に入る!
「えっ?!」
驚いている彼女を他所に、その鳩尾を剣の柄で強めに突く
「ぐっ・・・・」
必然的に黒羽の頭が下がる
その首裏を青葉が手刀で叩くと
どさ・・・・
黒羽はそのまま地面に倒れ意識を失った。
「木原!」
俺の呼びかけに僅かに反応するが、もはや動く力が残っていないらしい
でもこのままじゃ
「逃げろ!死ぬのなら後でも出来るんだから、今は死ぬ気で立って走れ!!」
どっちみち、今から俺が瑞季に走り込んで攻撃したところで間に合わない
だからもうこうして叫ぶしかない
「・・・・・・」
木原に俺の言葉は届いたんだろうか、なぜか・・・・笑ってる
「・・・・・・」
口が、動いているような気がする
「青葉!木原の口の動きを読み取って!」
「はい!」
・・・る・・・・ねもと・・・これ・・
俺には全然解らない。
「青葉」
「はい、『やられる前に、根本の手でコレを』と」
キン・・・
木原が腕を振るったかと思うと、俺たちの足下にはエメラルド色の水晶が転がった。
まさか
「俺の手で・・・・壊せってこと・・・?」
「・・・・・はい」
「出来るわけないだろっ!!」
普通なら接点なんて無かった二人。
そんな二人が交わった”点”を取り除くなんて
せっかくここまで編んできたのに、ここまで紡いできたのに
それを、ほどいて・・・・また二本の真っ直ぐな糸に戻しちゃうのか?
しかも、二人のモノを、俺一人で・・・・
「諦めんなよっ!!」
「『オリヴィエは死ぬつもりだ。だから、気を失っている間に』」
「だけどっ!」
「『あいつに記憶を浚われるなら、せめて根本に託したい』」
「・・・・っ」
確かに、木原の言う通りかもしれない
それでも・・・・俺には・・・・・
「やっぱ・・・・出来ないよ・・・・・」
目の前の糸をほどくことは出来なかった。
・・・・・と
突然俺の剣を持つ手が握られる
「・・・・大樹様、失礼します!」
「なっ・・・」
俺の剣は軽く振り上げられ
ジャキィィィン!!
エメラルドの雫を貫き、地面に深々と突き刺さる!
ありがとう
気絶する寸前、木原は確かにそう言った。
粉々になった光は、そのまま夕焼けに昇華していく。
その様子を俺はただ呆然と見ていることしか出来ない
光を目で追って、無駄だと解っていても、それを掴もうとすることしか・・・・
「あ〜あ、僕がトドメ刺そうと思ったのに。」
退屈そうに言うと、瑞季は倒れた黒羽のもとへと歩いてくる
「青葉・・・」
地面に刺さった剣はキチキチと震え、青葉の涙がアスファルトを濡らす。
青葉、ごめん。
俺の荷まで背負わせちゃって、こんなにも重い荷を・・・・
「よいしょっと」
瑞季は気を失った黒羽を抱え
「僕たちが戦うのは三日後だ。楽しみにしてるよ、根本大樹君」
俺たちに背を向け去っていった。
ドン
それと同時に扉が現れ、重々しく開かれる
「ズイブン、痛々シイ姿ダ」
「名誉ノ傷トアラバ、我ラハ敬意ヲ表スノミ」
扉から出てきた門番二体は各々感想を口にし、オリヴィエを担ぎ上げる。
「なあ」
「ン?」
自然と言葉が口に上り、扉を潜らんとする門番を呼び止めた。
「そいつ、オリヴィエを。俺たちにくれないか?」
俺は門番の肩に担がれているオリヴィエを指差す
すると自分の名前を呼ばれたのに気付いたのか、うっすらとオリヴィエの目が開かれた。
「コノ祭ノ掟ヲ汝モ知ッテイヨウ?」
「我ラガ糧トスル人間ノ分際デ、強欲ナ」
あからさまに嫌悪感を示す門番を後目に俺は言う
「いずれ俺たちが、魔物を糧にしてみせる」
不思議そうな顔でこちらを見つめる門番たち
一応自分の中では、向こうの話し方に合わせて的確に答えたつもりだった。
間違って、る?
そんな疑問が浮かんだのと同時くらいに、前方から失笑が聞こえた。
「オモシロイ奴ダ。我ラヲ糧ニスルト言ウカ」
「ソノ強欲、実ニ興味深イ。気ニ入ッタゾ人間」
門番たちは朗らかに笑う。
そんな中、目を覚ましたオリヴィエの動きに気づき、門番はその体を降ろした
「立ッテ、歩ケルナ?」
「ああ、問題ない・・・・・・・根本大樹」
俺を見つめるオリヴィエの瞳は、悲しみに動揺している
「必ず勝て。そして、そこで”倒れている奴”を連れて魔界に会いに来い」
それでも”奴”を見つめる目は優しくて、それだけでとても愛されている事がひしひしと伝わってきた。
「約束するよ」
「ならば、もう何も言うまい。これが”あいつ”の決定なのだからな」
オリヴィエはこちらに背を向け、扉に向かって歩き出した
その後ろを門番が従う。
「しばしの別れだ!・・・・・”巳継”、私が馳せる最愛の主よ」
俺はその後ろ姿を、一分一秒でも多く憶えておきたかった
だから俺はその扉が閉まり始めてから、隙間が線のように細くなる瞬間まで焦点を合わせ続ける
ドン
扉が見えなくなった後も、俺の焦点が変わることはなかった。
何もない場所に焦点があり、その背景は未だぼやけたまま
ぽろ・・・・
・・・・ああ、そういうことか
もう焦点はとっくに戻っていたんだ
焦点が合ってないように”見せられてた”だけ、だったんだね
「大樹様・・・・」
振り返ると、そこにいた青葉もぼやけて見えた。
「青葉も?」
「はい」
上を向いたり、目を閉じたりするが、ただ溢れそうになるだけで
決してソレは戻ってくれそうにない。
「あー・・・・無理っぽいね」
「そうですか、では仕方ありませんね」
「ああ」
「全く、困ったセツナミダ・・・です、ね・・・・・っ」
「・・・・・ぁぁ・・・」
その日の夕焼けは
まるで万華鏡で覗いたようにキラキラと輝いているように見えて
夕日の朱色が
俺たちの悲しみの緋色を覆ってくれた、そんな気がした。
11/01/31 17:00更新 / パっちゃん
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