海神の襷

〜 海神の宮殿 〜


 宮殿の一間に一人。王座に座し、物思いにふける女性がいた。

 いつからだろうか・・・
 私の力は全盛期に比べ損なわれすぎた・・・

「時が来たのやも知れぬ・・・」

 女が「おい」と声をかけると壁一枚隔てた部屋の向こうから二匹のシー・ビショップが現れる。

「「お呼びでしょうか」」

 彼女たちは声を合わせ女の前に頭を垂れる。

「お前達をようやく地上へと向かわせるときが来た。・・・この意味がわかるな?」

「承知しております。」

 女の左に控えるシー・ビショップが淡々とした口調で答える。

「必ずやご子息をお守り致します。」

 それに続いて右に控えるシー・ビショップはもう一人とは真逆な抑揚のあるハキハキとした口調で女の問いかけに愚問とばかりに答える。

「うむ。お前達には期待しているぞ。さぁ行け!」

「「はっ!」」

 彼女たちは再度声を揃えると遙か上に見える小さな光のする方に向かって泳ぎだした。


 〜 地上 〜


 人ひとりいない海浜を波打ち際に沿って歩く青年。
 彼はそこから見えるはずのない自らの故郷を思い出しながら物思いにふける。

「母上・・・あなた様は今、ご健在でしょうか?」

 誰に言うわけでもなく呟く。

ーーーーーーと、

コポッコポプクッ

 水面に気泡が浮き上がる。
 青年はそれを見逃さず、気泡の浮く一点を見つめ続ける。

「何か・・・来る?」

 気泡が大きくなってきたかと思うと

ドッッパァァーーーーン

 激しい水飛沫が起こり反射的に腕で顔を覆い水がかかるのを回避する。
 しばらくすると水飛沫は収まった。
 それを確認し、青年はその原点を見つめる。
 そこにはシー・ビショップが2匹。彼に近づいてくる。

「海神の命により参りました。名はオルエと申します。」

 オルエと名乗るシー・ビショップは淡々とした口調でそう告げる。
 あまり表情を表に出さないタイプのようで、可愛いというより美しいという形容が相応しい。そんな顔立ちをしていた。

「私はミルエと申します、海神様よりこれを。」

 ミルエはオルエと違い抑揚のあるハキハキとした口調をしていて、その表情は溢れんばかりの元気さと温和さに満ちておりシー・ビショップのお手本のような可愛らしい顔立ちをしていた。
 青年はミルエから差し出された石版のようなものを受け取る。
 そこにはこう記されていた。


ーーーーー我が息子アギよ。

 お前が地上で生活し人間を理解すると言い宮殿を旅立ってから既に10年が経過した。この文を読んでいるということは達者なのだろうな。

 さて、今回文を書き送ったのは他でもない。王座の継承についてだ。

 私は近頃自分の魔力の衰えを強く感じるようになってきた。

 潮時・・・ということなのだろう。

 そこで近いうちに宮殿にて継承の儀式を行い、お前に王位を継承することにした。

 しかし急なこともありお前も戸惑いを隠せないことと思う。

 そこにこの石版を届けに来た双子のシー・ビショップがいるだろう。

 お前達にはしばしの猶予を与えようと思う。

 その間に地上で共に行動し良い信頼関係を築き上げ、お前は神として。彼女たちはお前の側近として。

 ふさわしいものになれることを願っている。

 お前達新世代を担う者達に大海原の加護と祝福があらんことをーーーーーー。


 私は一通り内容を読み終えると深い喪失感に見舞われた。

「あの偉大な母上が・・・衰退だって?」

 足に力が入らなくなり力なく膝から崩れ落ちた。
 声を出すのもやっとだ。
 
 私の尊敬し目標でもあった母。
 それが今自分の限界を悟り王位を私に譲ろうとして下さっている。
 
 譲り受けるべきなのか否か。
 
 答えはとうに出ていた。
 しかし私はその事実を受け入れたくないと、そう思っている。
 私はどうすれば・・・

「「アギ様。」」

 二人に名前を呼ばれると、すぐさま現実世界に回帰した。

「迷っている場合ではございません。」

「私たちには今やるべきことがある、そうですよね?」

 オルエの一喝とミルエの笑顔に支えられ私は再び立ち上がる。

やるべきこと・・・

「そうだ・・・私たちにはやるべき事がある。今その務めを全力で果たそう!共に。」

「はい。」「はいっ!」

 この人だったらやってくれる・・・
 二人はそんな安心感を抱くのだった。


 〜 地上 - 都市 - 〜


「ここが人間の築き上げた都市だ。伝統はないものの人間が短期間で爆発的に発展させ生活の便を良くした場所だ。今の地上界を理解する上で大いに助けになると思う。」

 「「へぇ〜」」と感嘆を漏らす二人。
 私の説明を聞きながらも二人はキョトンとした顔でキョロキョロと辺りを見回す。
 私たちの行く先々には多くの野次馬によって人集りが出来、私たち3人を興味津々に見つめてくる。
 それもそのはず。

ーーーーーーー数時間前。

 私は文の内容を二人に伝えると

「全て海神様より聞き及んでおります。」

 そう言ってこちらに近づいてくるオルエ。
 彼女の尾びれが地上に触れる。
 すると、一つの尾びれだった部分が人間のような細くて白い二本の足になった。
 続いてミルエが上陸し私の目の前に来ると

「どこまでもお供致しますね」

 そう言って満面の笑みを浮かべた。

「ああ、とても心強い。それで先程述べたとおり、母上は私たちが良い信頼関係を築くことを望まれている。それでまず二人についての必要最低限の情報が欲しい。一人ずつ自己紹介してくれ。」

「はいっ!私からしますっ!」

 元気いっぱいに手を挙げたのはミルエ。
 私は彼女を指名し紹介を促す。

「先日成人を迎えました。現海神様の側近であるグレース・B・クラナディアの娘ミルエ・B・クラナディアと申します。趣味は裁縫で、特技は・・・ひ・み・つ♪」

「ミルちゃん。はしゃぎ過ぎよ。」

「えへへ〜」

 オルエはミルエを制するものの、いつもの事だから仕方ないかと言わんばかりに小さなため息をつく。
 それを知ってか知らずかミルエは「ゴメン〜」と全く悪びれた表情を見せずにオルエに謝る。
 この仕草からわかるのは、、、
 この二人の信頼関係は申し分ないということだ。

「次は私ですね。私オルエ・B・クラナディアはグレースの娘であるのと同時に、隣にいますミルエ・B・クラナディアと双子の姉妹でもあります。姉はミルエ、妹は私になります。」

 しっかりした妹さんだ。
 姉がしっかりしているかどうかはまだ定かではないのだが・・・

「「以後よろしくお願いします」」

 最後に彼女たちは深々と頭を下げる。
 その後タイミングを見計らって口を開く。

「よし。早速だが二人に課題を与える。」

「「なんなりと」」

 二人は再度頭を垂れる。

「二人の自己紹介により私たちは歳が近いことを確認した。あくまで信頼関係を築くようにとのお達しから、今から敬語を禁止し丁寧語を許容範囲とする。」

「・・・!」「・・・♪」

 宣言の後二人の顔を窺うと、
 オルエは驚愕の表情をし、ミルエは待ってましたと清々しいまでの笑顔を浮かべていた。

「ではとりあえず私の住まいに行こう。その途中大きな都市を通ることになるが・・・ふたりとも、、、その服装しかないのか?」

 ミルエは笑顔のまま、オルエは私の問いかけに冷静さを取り戻したようだ。
 二人は自分の服装を確認し小首をかしげる。

「そうですよ〜?」

「何か問題でも?」

・・・それは目立つだろう。
 二人が着ていたのは白を基調とした宮殿の神官服。
 頭には白に金をあしらった可愛らしい帽子。
 上に羽織っている白い服の生地はとても薄く胸元が大きく開いて、更に丈の短いスカートが他を圧倒するほどの艶やかさを醸し出している。
 この世界でいう「コスプレ」に近いだろう。
 だが着替えるといっても私が女性用の服を持っている訳もなく、
 それ以上彼女たちを追求する事は出来ず、これから生活するであろう私の住まいを目指して歩き始めた。


ーーーーーそれで今に至っている。

「アギ様・・・私・・・すごく恥ずかしいです。」

 オルエは人目を避けるように私の後ろに隠れる。
 足と足を摺り合わせ、短いスカートを精一杯下に引っ張っている。
 一応・・・生地が足りていないことに自覚はあるようだ。

「オルちゃんは恥ずかしがりすぎだよ〜、私たちは立派なもの持ってるんだから大丈夫〜」

 ミルエは自身の発育した胸をドンとたたく。
 するとその手が沈み込み、その胸の柔らかさを強調する。

「そ、そういう問題じゃなくて・・・」

 オルエは顔を赤くしながら俺の服の後ろをつかむ手に力を込める。
 若干胸が当たっているのが気になるが、この際良しとしよう。

 そんな事を考えていると
 私たちの行く道に、柄の悪そうな男三人が立ちふさがる。

ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ

 砂混じりのコンクリートを蹴る音を響かせながらその内の一人がこちらに近づいてくる。
 そして私の前で立ち止まると

「随分可愛い娘たち連れてんじゃん?どっちか置いてけよ。」

 そういってガンを飛ばしてくる。
 身長は180cmくらいだろうか。
 私と同じくらいの背丈で、後ろに控えている男達も大体そのくらいだろう。

「断る。」

 私はそう言い放つと再度歩を進める。

「っ!!てめぇ!待てコラッ!」

 男が私の肩を掴んだ

ーーーーーーと、同時に

「その手を放しなさい。」

 普段の様子からは想像できないほどの真剣なミルエの声が聞こえたかと思うと、
 私の肩を掴んだ男にミルエはチョークスリーパーをきめていた。

「がっがぁ・・・ぐがぁぎっ・・・」

「あ、兄貴!」

 控えていた二人の男が駆け寄ろうとする・・・
 が、
 その行く手にオルエが立ちはだかる。
 先程まで羞恥に頬を染めていた彼女と同一人物とは思えないほどの殺気を放っていた。

「行かせませんよ?あなたたちの相手は私です。」

 そう言い放つと彼女は驚くべき速さを見せ、二人の男の首を両脇に抱えるとそれを絞めあげる。

「「ぎっ・・・ぎゃっぐっ・・・ぐぎっ」」

 私は忘れていた。
 彼女たちはいくら弱そうに見えても次期海神の側近候補なのだということを。
 海神の側近は万能が基本。
 よって彼女たちが文武両道であることは当たり前だ。

「この男どうします?・・・・・折りますか?」

ぎゅゅゅうううぅぅ

 いつも穏やかなミルエからは笑顔が消え、無表情そのものだった。
 彼女は首にあり得ない方向へと力を加えようとする。
 悲鳴はより大きくなり、見物していた周囲の人間は目の前で起こるであろう惨事に恐怖していた。
 
 オルエの方を見やると抱えられた男はすでに気絶しビクビクと痙攣しているところだった。
 彼女の表情はいつも以上に険しく、男達を蔑んだ目で見つめる。

・・・これ以上彼女たちの手を汚すわけにはいかないな。
・・・何より彼女たちが立ち直れないほど後悔してからでは手遅れだ。

 私は心の中で唱える


ーーーーーーー静寂。我それを求めん。


 音が消える。
 聞こえるのは自分の呼吸と彼女たちの呼吸だけ。

・・・時が止まった。

「オルエ。ミルエ。行くぞ。」

 私の声にビクッと肩を震わせると、ようやく我に返った。
 後ろから駆け寄ってくる気配を感じると、私は再び歩き始めた。

「あ、・・・あの・・・私・・・取り乱してしまって。」

 オルエは涙を堪えているような、少し上擦った声をしている。

「ご・・・ごめん・・・なさい・・・」

 ミルエも涙声だ。
 
 それから少し歩き、
 人の気がなさそうな丘にたどり着いて術式を解くと、私は彼女たちの方に振り返る。

「時は移っても、二人は私の側近以前に海の魔物が尊敬する神官シー・ビショップだ。その振る舞いは他の魔物にも影響を与えることを忘れてはいけない。」

 私の言葉に彼女たちはもはや涙を我慢するのがやっとのようで、首だけ振って返事をする。

「・・・だが」

 私は続ける。

「二人の想い。二人の決意。二人の後悔。この胸に確かに届いた。私を守ってくれてありがとう。」

「は・・・ぃ・・・」

「・・・よか・・・った・・・」

 私は彼女たちに歩み寄ると
 頭を帽子の上から撫で、小刻みに震える小さな肩を抱き寄せた。
 二人は驚いた顔をしたがそれも一瞬。
 彼女たちはせき止めていた涙をすでに抑えることが出来ず私の胸にしがみつき
・・・泣いた。
 その時の声はあまりにも悲痛で、私は彼女たちを抱き寄せる腕の力を強めた。
 
 彼女たちが悔いたことが全て洗い流され
 彼女たちがまた明日から笑っていられるようにと願いながら。


〜 アギ宅 〜


 随分と長い間泣いていた二人は既に泣きやみ、いつもの調子に戻りつつあった。

「宮殿に比べ非常に簡素だが、一応リビング・・・宮殿でいう『集いの間』と一人一部屋は割り当てる事が出来る。自由に使ってくれ。」

 次に彼女たちを脱衣所に連れて行く。

「浴槽もあるがシー・ビショップが尾びれをのばす程の広さはない。そこら辺も注意しておく。」

「あの・・・」

 恐る恐るといった感じでミルエが手を挙げる。

「どうした?」

「えっと・・・その・・・部屋なんですけど、オルちゃんと二人で一部屋を使っちゃだめでしょうか?」

 ミルエらしくない弱々しい発言。

「オルエはそれでいいのか?」

 私が聞くと、オルエも少し落ち着かない表情でコクコクと頷く。
 何か隠しているような気がしたが今詮索しなくても時機に分かるときが来るだろう。

「それでも構わない。」

 その言葉に二人の表情がパァッと明るくなる。

「「ありがとうございます。」」

 彼女たちの頬が少し上気しているように見えるのは気のせいだろうか。
・・・
 それにしても人間の姿で力を使うのは普通以上に疲れる。
 しかも最近使ってないこともあって今日はもうダメそうだ。
ーーーーー宣言通り
 食事を終え風呂からあがり布団に身を投げ出すと、私はそのまま意識を失った。

・・・・・・

・・・





〜 国営プール 〜


 今日は彼女たちの要望により、自宅から電車で30分の所にある国営プールに来ていた。
 今私たち三人はこの施設の一番深い場所に潜っている。
 係員によると水深は3m50cmだそうだ。
 海で暮らすものにしては浅いが、プールとしてはなかなか良いと思う。
 そんな深いプールを利用する客は皆無で
 いわゆる貸し切り状態である。

「しかしなんだ・・・泳ぎ方を忘れてしまったような気がする。」

 私は首を傾げながらプールの底を歩く。
 長年地上で生活していたため、水中での呼吸は自然に出来たものの
 泳ぎ方をすっかり忘れてしまっていた。
 こんな事では海神どころか宮殿での生活が思いやられる。
ーーーーそんな事を考えていると

「お教えしましょうか?」

 オルエが話しかけてきた。
 すごくありがたい。
 ありがたいのだが・・・それにしても。
 
「その格好はいささか刺激が強すぎやしないか?」

「?」


ーーーーーー受付にて


 彼女たちは神官服での遊泳を希望した。
 しかし係員が「服での入場はちょっと・・・」と言ったため、下着姿での遊泳になった。

 
 上は溢れそうな胸をかろうじて防いでるようなもので、下は黒の俗にいうTバックってやつだ。
 私も半神ではあるが健全な一男子である。
 彼女たちの姿に何も感じないわけがない。

「どうしました?」

 オルエは心配そうな顔でこちらを見つめている。

「い、いや・・・なんて事はない、ではお願いしようか。」

 そう言うと彼女は嬉しそうに「はい」と頷きミルエを手招きして呼ぶ。
 オルエがミルエに事情を話すと、ミルエも嬉しそうに頷き
「いっぱいご奉仕しますね♪」
 とか訳の分からないことを言いレッスンが始まった。

・・・・・・・・・・・

 レッスンはある意味地獄だった。
 私が勘を取り戻さずあのまま二人の手ほどきを受けていたら今頃どうなっていたことか・・・
 恐らく
 理性が崩壊していただろう。
 胸が当たるわ、足に挟まれるわ、抱きつかれるわの大惨事。
 オルエは事が起きるたびに顔を赤くして謝りながら真剣な表情で指導してくれていた。
・・・一方のミルエはこの状況をとても楽しんでいるように見えた。
 わざとらしく体を当ててきたり何やりと散々だった。

「・・・疲れた」

 思わず声に出してしまう。
 泳ぐことに疲れたのではない。
 肉体というよりどちらかというと精神面でだ。
 だが、
 こうして二人と一緒にいると退屈はしない。
 きっとそれは順調に信頼関係が築かれていっている証なのだろう。
 そう考えると、私は例えようのない充実感に満たされ自然と笑みがこぼれた。

「どうかしたんですか〜?」

 ミルエは私の笑みを見て尋ねる。

「ふふ・・・いや、ただどうしようもなく嬉しくなっただけだ。」

「??」

 こんな穏やかな気持ちがいつまでも続けばどんなに嬉しいことか。
 そう思いながら私は水の静かさに身を委ねるのだった。


 〜 帰りの電車 〜

ガタンガタンッーーーーガタンガタンッーーーーガタンガタンッ

 行きは満員だった電車には今私たち以外に誰も乗っていない。

「すぅ〜・・・すぅ〜・・・」

 左肩の方から規則的な呼吸が聞こえる。
 そこにはこちらにもたれ、眠り込んでいるミルエ。
 今日の疲れからか電車に乗車した途端、私の左肩に頭を預け眠りに落ちた。

ガタンガタンッーーーーガタンガタンッーーーーガタンガタンッ

 右隣を見るとウトウトしながらも寝るまいと頑張っているオルエ。
 ミルエと違い彼女はもたれることに抵抗があるようで一人で必死に耐えている。
 私は彼女の頭の後ろからゆっくりと手を回し
 その必死な頭を抱き寄せる。
 彼女は「あ・・・」と声を漏らすと、されるがままに頭を私の右肩に預ける。
 頭に触れていると彼女の体温が急に熱くなるのを感じる。

「疲れただろう。今は寝ろ。」

「・・・はい・・・」

 私の囁きに小さな声で答えると、彼女は目を閉じた。

ガタンガタンッーーーーガタンガタンッーーーーガタンガタンッ

「アギ様は・・・母のグレースを覚えていますか?」

 寝たと思っていたオルエが唐突に口を開く。

「ああ。とても厳しい人だった。」

 彼女の声からすると眠たいのは確かだ。
 だからこの話に付き合ってゆっくり寝かせてやることにした。

「はい・・・では、私たちの家に来たことは覚えていますか・・・?」

「いや、覚えていないな。」

 残念ながら記憶にない。

「そうですか・・・実はあなた様は一度・・・来たことがあります」

「そうか・・・」

「はい・・・その時私たちは初めて・・・あなた様を目にしました・・・」

「・・・」

 ここからは口を挟まず聞くのがいいだろう。

「・・・あなた様は覚えていないかも知れませんが・・・あなたが家に来た時の第一声が・・・あの『敬語禁止。丁寧語は許容範囲だ』・・・でした。」

 なるほど。
 それであの時二人は驚き喜んだのか。

「・・・真っ直ぐなその眼差し・・・凛々しいお顔・・・私たちはそれを見た時決意しました・・・将来この方にお仕えするんだ。と・・・」

 二人は私の記憶の外で私を想い、私を慕ってくれていたのだ。

「・・・私たち二人はその時から・・・次期海神側近選抜試験に向けて切磋琢磨し・・・ようやくたどり着きました・・・あなた様の元に・・・」

 声が段々小さくなっていく。

「私たち・・・頑張りました・・・よ・・・ね・・・」

「ああ。」

 私はオルエとミルエの帽子を取り、そっと二人の頭を撫でた。

「よ・・・かっ・・・た・・・」

ガタンガタンッーーーーガタンガタンッーーーーガタンガタンッ

 その言葉を最後にオルエは寝てしまったようだ。
 肩にかかる負担が大きくなったことからもその事が窺える。
・・・・海神側近選抜試験。 
 オルエは口にしなかったが、選抜試験はとても過酷なのだという。
 何万人と戦い、何千人を蹴落とし、何百人も踏み台にする。
 きっとその中で二人は辛い経験を何度もしただろう。
 だが
 彼女たちは今こうしてここにいる。
 そして私の前で笑う。私の前で喜ぶ。私の前で泣く。そしてまた
 笑う。
 彼女たちにとって私と過ごす時間は

ーーーーずっと見ていた夢の時なのだ。


〜 帰り道 〜


「「ありがとうございました」」

 私の後方を歩く二人は、私に向かって感謝の言葉を投げかける。

「礼を言われるほどの事じゃない。気にするな。」

 その言葉に二人は「言うと思った」と言わんばかりに破顔する。

「今日一日、私たちの希望を叶えてくださって。更に先程まで私たちを・・・その・・・あやして

くださいました・・・感謝するのは当然です。」

「はい♪とても心地よかったです♪」

「・・・」

 まあでも・・・礼を言われるのも悪くはないか。

「その感謝。ありがたく受け取っておく。」

 そう言うと、またも「そう言うと思った」というような顔をする。

「・・・その顔も信頼の証として受け取っておこう」

 少し困った顔をする私を見て二人は笑う。
 私もつられて笑う。
 この笑顔もまた、二人の夢・・・なのだろう。




ーーーーーーーそれから私たちの地上での生活は一ヶ月を迎えようとしていた。





「・・・・ゅっ・・・・ちっ・・・・ふ・・・」

 それは何の変哲もない夜のこと。
 私は奇妙な音に目を覚ました。
 音はとても小さく、壁でいうなら3、4枚隔てたところから聞こえてきそうな程微かだった。
・・・気になる。
 私は音の出所を調べるべく部屋の襖を開ける。

「ちゅっ・・・ぴち・・・・・っ」

 音が大きくなってきている。
 出所が近いことは確かだ。
 台所かとは思ったがそれにしては不規則でイマイチ連想できるものではなかった。
 周囲を見渡す。
 すると
 ある一室から薄明かりが漏れているのに気付いた。
 この部屋は・・・二人の部屋か?
 最初に声をかける手もあったがあえてそれをせず、隙間から室内を覗く。
 
「!!」

 私は絶句した。
 二人の少女・・・いや、女性が。
 全裸で抱き合い熱い接吻を交わしていた。
 その口づけは実に情熱的で、薄明かりが少女のはずの彼女たちを女性と形容出来るほどの妖艶さを醸しだしていたのである。
 
「ん、んぁ、はむっ・・・くちゅっ、ちゅっ」

 その口づけは激しさを増していくのが分かる。
 さらに
 彼女たちの慣れた手つきなどから”これ”を習慣にしていたことも窺い知れた。
・・・このまま放置しておいて良いだろうか?
 私は少々迷ったが、実際のところこのままでは自分の理性を抑えることが出来ないような気がして、
 私は思い切って襖を開け放つ。

スパァァーーーーン!

「人の住まいで随分と淫らなことをしてくれるな。」

「「・・・っ!!」」

 抱き合っていた二人はそのまま体を硬直させ、顔だけをこちらに向ける。
 口元はいやらしく濡れ、表情は強張り、顔は真っ青だ。

「説明してくれるな?」

「あ・・・あぁ・・・」

「こ、・・・これ・・・は」

 オルエは嗚咽に似た声を漏らし、ミルエは必死に声を振り絞っているようだ。
 彼女たちは恐れているのだろう。
 私が怒っているであろうと。
 私が軽蔑したであろうと。
 この一ヶ月という期間で築いた信頼関係が崩れると。

「あぁ・・・・・」

 オルエの頬に一筋の涙が伝う。
 決して私から目を反らそうとはせず、ただハラハラと涙を流す。

「ふぅ、きっとお前達はこう思っているのだろう。私が怒り、軽蔑し、信頼を失ったと。」

 私の言葉に二人とも肩を震わせる。

「それは私が言ったのか?それとも私はそれほどまで信頼されていなかったということか?」

 二人は大きくかぶりを振る。
 彼女たちは話せなくても、今できる手段の全てをもって否定する。

「ならば私は今一度お前達に言おう。」

 私はその場に膝をつき両手を広げる。

「ミルエ。オルエ。私のお前達に対する信頼はこれしきでは揺るがない。」

 はっきりと言い聞かせるように

「そうだろ?」

 彼女たちは今にも泣き出しそうな顔をすると、そのまま私の胸に飛び込んできた。
 私はそれを受け止めると彼女たちの肩を抱き寄せる。
 二人の肩は信じられないほど冷たくなっていた。

「こわ・・・怖かった・・・」

 オルエは震えた声で私の胸に顔を埋める。

「ご、誤解・・・なんです」

 ミルエが口を開く。
 私に触れることで安心したのか、言葉に余裕が出来てきた。

「私たちは神官といえど魔物娘であることには変わりなくて・・・精の衝動には耐えられないんです・・・ましてや同じ屋根の下に長い間好意を寄せていた人がいると思うと・・・なおさら」

 ミルエも顔を更に押しつけてくる。

「だから少しでも欲求を満たそうと、こうして毎晩習慣にしていたんです・・・変だと分かっていながら」

 そうか・・・
 最初の晩。部屋を割り当てるとき。同じ部屋が良いという理由はこれだったのか。

「ごめんなさいっ・・・ごめんなさい・・・ごめん・・・なさい」

 ミルエは謝罪を繰り返す。
 オルエは静かに涙を流す。

・・・私は何をしていたんだ・・・

 彼女たちは気付いて欲しかったんだ。
 寂しいことに。苦しんでいることに。
 今頃気付いた。
 いや、気付かされた。
 彼女たちの涙に。彼女たちの震えに。彼女たちの低下した体温に。

「寂しかったんだな。」

 私は二人の耳元で囁く。

「だがもう寂しがる必要はない。」

 二人は上目遣いで私の顔を覗き込む。

「今日から私が・・・相手をしよう。」





ーーーーー「私の自己紹介覚えていますか?」

「なんのことだ?」

「特技ですよ〜、と・く・ぎ♪」

 ミルエは悪戯っぽく笑う。

「精一杯ご奉仕させて頂きます。」

 オルエは小さく礼をする。
 彼女たちはすっかり元の調子に戻ったようで、私と交わることになり随分積極的だ。

「口でのご奉仕が、私の特技です♪」

 そういうとミルエは私の生殖器を下から上へと舐めあげた。
 横たわっている私の体に例えようもない奇妙な感覚が起こる。
ーーーーーそんな中
 オルエが頬を上気させながら顔の横に座る

「私は、お口で。」

 その言葉と同時に唇にキス。
 最初は短いキス。
 次に長いキス。
 唇を強く押しつけられ、オルエの熱く荒くなり始めた鼻息を浴びる。
 その温かさに心地よさを感じていると、
 突然。
 オルエは私の口内に舌を突っ込んできた。
 普段の性格からは想像できないほどの激しさと熱さ。
 舌はどんどん動きを激しくしていき、互いの唾液を交換することで、なんともいやらしい音を立て始める。

「くちゅっ、ちゅっ、んんっ・・・じゅ、んちゅ、ぐちゅ」

 オルエが口内を本格的に犯し始めた頃。
 下半身に更なる衝撃が襲う。

「あはっ♪・・・大きくなってきましたぁ」

 ミルエは右手で生殖器を優しく締め付け、左手で袋を揉み、舌で亀頭部分を撫でるように舐め回す。

「れへぇ〜・・・ぴちゃ、んくっ、れろぃ、れぇ〜」

 既に陰茎からは痺れを感じ、いつ射精衝動がきてもおかしくないほどだ。

「まだ逝っちゃダメですよ〜、これからなんですから♪」

 彼女は生殖器を亀頭の部分までくわえ込む。
 そして頭をゆっくり上下に動かし、緩急をつけた快感を与えてくる。
 生殖器の含まれている口内では舌がゆっくりと淫靡に動く。
 
「ふっ、ん、しゅっ、ふぁ、んぐ、んぅ」

 鈴口に舌先がねじ込まれ、剥けたはずの包皮と矛の間を隅々まで舐め、唇に力を入れることで未だ見ぬ膣を連想させる。

 快感は下半身からだけではない。
 オルエは私に馬乗りになり、腰を上に浮かせながら全体重をもって口内を犯す。
 胸板には彼女の豊満な胸が押し当てられ、心地よい圧迫感が生まれる。
 視界いっぱいにうっとりとしたオルエの顔が映し出され、互いに見つめ合う。
 すると
 オルエの動きは更に激化。
・・・本当にオルエか?

「ぐちゃ、にちぇ、じゅぶっ・・・はにゅ、えはっ、んん・・・ぐじゅ」

ーーーーー!!

 ここで一度目の射精衝動。
 ミルエに知らせようにも口が塞がっていて伝えられない。
 そうこうしているうちに
 痙攣。
 腰が跳ね上がる。
 ミルエは驚くと思いきや、吸飲。
 オルエの馬乗りでミルエを見ることは出来ないが、吸飲をするところから彼女の喜びに満ちた表情が目に浮かぶ。
ーーーーー波が去る。
 ミルエは生殖器から、オルエは口から口を離す。

「んはぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・はぁ・・・」

「んく・・・ちゅぁ、ちゅっ・・・んはぁ・・・」

 二人は荒い息を整える。

「はぁ・・・んふ、とってもおいしかったですよ〜アギ様の♪」

「んは・・・あぁ・・・こちらも、とても」

 二人ともうっとりと感想を述べる。
 よくそんな恥ずかしいことを言えるものだ。

「終わりでいいのか?」

 私がそう聞くとオルエが首を横に振る。

「いいえ。アギ様には私たちの”初めて”をもらって頂きます。」

「その通り♪」

 ミルエが賛同する。

「そうか・・・まぁ、覚悟の上だ。」

「私からでいいよね、オルちゃん?」

「む・・・さっきからミルちゃんばっかりずるいよ、”アギ様の”独り占めして。」

かすかに不機嫌な顔をするオルエ。

「えぇ〜、いいでしょぉ〜?」

「・・・こういうときは本人に聞きましょう?アギ様。」

こちらに向き直る。

「・・・なんだ」

 質問の内容は分かっていた。
 とても答えにくい質問だ。

「先にどちらと逝きたいですか?」

 ギャップが可愛くない事もないが
 オルエ。お前・・・興奮しすぎて性格変わってないか?

「交代ですればいいだろう?」

「答えて下さい。」

 オルエは低い声でそう言うと生殖器を掴み、力を込めていく。

「・・・わかった。手を離してくれ。」

 オルエはそれを離す。
 握りつぶされるところだった。

「・・・とりあえず二人とも初めてなんだろう?なら一回膜を破れ。それからなら指でも舌でも使

って同時にやってやる。」

「「えっ?!」」

 二人は顔を見合わせる。

「本当・・・ですか?」

「ああ。」

「・・・」



・・・・・・・



「あああぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 悲鳴をあげながらも二人は処女膜を破った。
 先にやったオルエの出血は既にひいたようだ。

「止血の早いオルエが舌。それでいいな。」

「・・・はい。」「はぁ〜い!」

 恥ずかしそうに返事をするオルエ。意気揚々といった感じのミルエ。
 私の舌はなぜかとても長い。
 股間のものに匹敵するほどの長さだ。
 私はそれに力を入れ立てる。

「い、いきます・・・」

 オルエの膣に・・・挿入。

「ふあぁ!んぁ・・・はぁ、はぁ」

 オルエが私の舌の感覚に喘いでいると

「よいしょ〜♪」

 腰に重みがかかる。

「あはぁ・・・んふぅ、えへへ〜」

 ミルエの膣に挿入されたらしい。
 下半身にとてつもない快感が襲う。

「じゃあ、いっきますよ〜」

 ミルエは腰を激しく動かし始めた。

「あんっ、んっ、んっ、んぁ、あぁ、ん、ひゃぁっ」

 腰に一定間隔でかかる重み。
 内部ではだんだん膣が締まってきているのがよくわかる。

 一方オルエは喘いだまま動かない。
 試しに舌を一度抜き、再度突き刺す。

「んあぁん!!あっ・・・ア、ギ、さま・・んぅ!」

 喘ぎながら私に語りかけてくる。

「んんーっ!・・・ぁ・・・ま、だ・・・何も、んぁっ・・・してないのに、逝っちゃい、ああぁっ、そうです・・・んっ」

 そんなに気持ちが良いのだろうか。
 その時

「あんっ、あぅ、へぁ、ぅん、ん、ああっ!い、逝きそうっ」

 突然のミルエの声と同時に私にも二度目の射精衝動。
 オルエを共にと思い舌先を器用に使い膣内を舐め回す。

「いやぁっっ!だっ、ひゃぅ、だめ、ですっ、んあぁ、逝っちゃいっ、ますっ」

 私は耐えきれずミルエの膣内に射精。

「「あぁぁぁぁーーーーっっ・・・・」」

 声を出したのは二人同時。
 オルエも絶頂を迎えたようだ。
 二人ともそれぞれが刺さったままで、しばし余韻に浸る。


・・・・・・・・


 私の横ではミルエが熟睡している。
 とても気持ちよさそうに。
・・・そんな私をじーーーっと見つめるオルエ。

「どうした?」

「アギ様。わがままを言ってもよろしいですか?」

「ふふふ・・・ああ、初夜に限り許す。」

「・・・もう一度挿してはもらえませんか?・・・次はそっちで」

 オルエは恥ずかしそうに私の生殖器を指さす。

「だって・・・ずるいんですもん、ミルちゃんだけ。・・・ダメ・・・ですか?」

 膨れっ面をしたと思ったらすぐに上目遣い。
 今夜のオルエはとても生き生きしているように見える。
 いや、している。一目瞭然だ。
 普段物静かなのはこういう時のためのものなのだろうか?

「構わないぞ。」

「!!・・・うれしいです。」

 すると彼女は股の間に膝をつき”それ”を舐め始める。

「ここからでいいですよね。」

 こうして3人の初夜は更けていった。


〜 海神の宮殿 〜

「男海神という異例の継承ではあるが。我が長子アギ=ランケークに王位を継承する事をここに宣言する!」

 母上は私の頭に冠を乗せる。
 両脇にはミルエとオルエがひざまずいていて、その胸に側近としての証が付けられる。
 私は群衆の前に歩み出ると

「我が名はアギ=ランケーク。我導くところ平安あることをここに宣言する。」

 群衆から盛大な拍手が送られる。
 後ろから二人が私にそっと近づく。

「民よ!聞いて欲しい。我と接する機会はこれから格段に増えることであろう。」

 群衆は静かに聞き入っている。

「その時この言葉を是非肝に銘じ、事ある毎に思い出すように。」

 二人は顔を見合わせ微笑んだ。
 次に口にするであろう言葉がわかったからだ。

「我と語るときーーーー」

((敬語は禁止。丁寧語を・・・))

「ーーーー許容範囲とする。以後肝に銘じよ!」

 群衆は先程の拍手以上に盛大な祝福をする。



 謙遜で、誇り高き王の誕生をその目に見つめながら


fin


この長文を最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回、男が海神になるという作品になりましたが
もし、魔物娘の世界観に合わないようでしたら削除していただいて構いません。

ご理解してくれる人が出来るだけ多いことを願っています。

10/08/06 12:43 パっちゃん

/ 感想 / 投票 / RSS / DL

top

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33