一枚の恩
母さんとのお買い物の帰り道、僕はあの子に出会った
綺麗な羽の付いた女の人の手を握りながら、うねうねと脚を動かして、眠そうに目を半目にしながら歩いていた。
だけど、母さんと女の人がすれ違う時にその子は急にぱっちりと眼を開いた。
そして涎を垂らしながら、僕の食べていた母さんお手製のクッキーを見ていた。
その子は何も言わなかったけど、たぶん僕のクッキーが欲しいんだと思って一つあげたら、ちっちゃな爪で器用にもぐもぐと食べていた。
食べ終わった女の子は、またさっきみたいに半目になったけど、うねうねと僕に近づいたと思ったらそのたくさんあるちっちゃな爪でボクにくっつきながらボクのほっぺたに頬ずりしてきた。
その時、母さんと女の人が何か楽しそうに話してたのを今でも覚えてる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「維人〜?ど〜したの〜?」
目玉焼きをフライ返しで皿の上に乗せながら昔のことを思い出していた僕に、リビングから声がかかる。
「いや、僕たちが出会ってから随分と経ったなぁって思ってさ」
トレーに作った物を乗せテーブルに持ってくる。
「4年と11カ月と29日だよ〜。こんなに大切なことを忘れるなんてはくじょ〜もの〜」
内容はトーストと目玉焼き、そしてサラダのシンプルな朝食。
彼女、幼馴染の緑はそれを見るとさっきまで半目だった目をパチリと開き、瞳をキラキラさせる。
僕には手の込んだ料理は作れないが、何故か彼女は僕の作る朝食を求めて毎朝僕の家に来る。
「よくそんなに細かく覚えてるね」
「私がいつも食べてばかりのおバカさんだと思ったら大間違いなのだ〜、いただきま〜す」
そう言いながらむしゃむしゃとサラダをフォークで食べる。
僕と彼女の家は随分と前から家族ぐるみの付き合いで、『うちの娘がそちらによくご飯を食べに行くので』と、我が家には彼女の家から送られてくる食材が用意されてたりする。
何故僕が彼女の朝食を作るようになったかと言うと、僕たちが出会ったばかりのころ、彼女にべったりとくっつかれた状態でご飯を作って欲しいとねだられたからだ。それから僕は彼女の朝食を作るようになった。
そんな事を考えつつ僕も朝食を食べ始めると、ふと気づいた。
「あっ、てことは明日で5年経つんだ」
「そのと〜り〜、そんなわけで〜私から維人に明日はプレゼントがありま〜す」
「プレゼント?記念品的な?」
もぐもぐとトーストを頬張りながら首をゆっくり縦に振る。
「そうそう〜今までありがと〜これからもよろしく〜みたいな〜」
ちゅるちゅると白身からまとめて目玉焼きを飲み込むと、手を合わせた。
「ごちそうさまでした〜。そんなわけで、明日はちゃ〜んとあけてあるよね〜?」
「ああ、母さんがずっと前から明日から暫くは予定入れるなって言ってたのはそうだったのか」
「私からお母様に伝えてたのだ〜、ちょっとしたサプライズ〜」
えへん、胸を逸らしながらドヤ顔をする彼女
「嬉しいなぁ、明日が楽しみだよ!」
「私も楽しみ〜……♥」
その時の彼女の眼には、普段はない感情が込められていたように感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「は〜い、じゃあこれ付けてね〜」
約束通り朝早くに彼女の家に集まった僕たち。
彼女の両親は今日いないらしく随分と静かだった。
そして今の僕の状況はと言うと、着いてそうそう目隠しを着けるように言われている。
「サプライズプレゼントだからね〜、びっくり〜って感じにしないと〜」
暫くして目隠しを着け終わると、音で彼女が僕の前に立ったのを感じた。
「じゃあプレゼントを用意するよ〜」
サプライズプレゼントか……彼女のことだから食べ物に関するものだろうか、レストランの招待券とか?もしくはありったけのお菓子とかかもしれない。
どんなもの……ん?
真っ暗な視界の中でプレゼントを考えていたがその思考が中断される。
なにせ衣擦れの音が聞こえてきたからだ
箱を開けてる音……?いや、僕の前から動いたようには……
「は〜い、目隠し取っていいよ〜」
言われるまま僕は目隠しを取る。
そして、真っ先に目に入ってきたのは、一糸まとわぬ彼女の姿だった。
「なっ!?なんで脱いでるの!?」
慌てて手で目を隠してしまう。
「それはね〜プレゼントは私だからだよ〜♥」
そう言いながら僕に近づき、目を隠す腕に爪を乗せる。
「ね〜私、維人に見て欲しいな〜♥維人が育ててくれた私の体、維人に一番見て欲しいよ〜♥」
普段とは違う、緩いだけじゃなく甘ったるさもある言葉に、僕は抵抗できずに目をゆっくりと開いた。
彼女は確かな情欲を燻らせた瞳で開かれた僕の眼を僕を見つめると、ぎゅっと抱き着いてくる。
ふにふにとした体に抱き着かれ、全身の力が抜けてしまう。
「ん〜♥今までの分、いっぱい気持ちよくしてあげるね〜♥」
彼女が僕の胸に顔を擦りつけていると、どんどん彼女から糸のようなものが広がり、そのまま僕たちは繭に包まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ピシリと入った亀裂から、陽の光が入ってくる。
一気に亀裂は広がり繭が砕けていく。
繭の周りには、行為が始まる前に着ていた服が散乱していた。
おそらく、繭の中で脱いだ時に外に排出されたのだろう。
ひとまずシャツとパンツだけ着て、スマホで今の時間を確認する。
そして、現在時刻を見て僕は驚いてしまった。
「三日も経ってる……そんなに続けてたのか……」
周りの状況が分からぬまま快楽に飲まれ続けていた。
かなり時間が経ってることは察しがついていたが、まさかこれほどとは思わなかった。
「あっ学校!どうしよ……」
「大丈夫だよあなた、ちゃんとそのことも事前に伝えておいたから♥」
突如背中から抱き着かれムニムニとした感触が押し付けられる
もちろん誰かは分かっている。何せこの声もこの体も、あの繭の中でたっぷりと教え込まれたのだから。
「この一週間はお休みするって連絡しておいたから安心してね♥」
振り返るとそこにいるのは、幼馴染ではなく妻となった緑。
母親譲りの美しい羽と、グリーンワームの時とは違う豊満な胸。身長も伸び僕よりも少し高くなっていた。
そして、太陽のような笑みで僕を見ている。
「そうだったんだ」
それを聞いてホッとした、どうやらズル休みにはなってないようだ。
暫く立ったままこれからどうしようかと考えてたが、ひとまず食事をとらないかと提案した。
すると彼女は意外なことを言ってきた。
「実は、羽化してからあなたに最初に食べて欲しい物を決めてあるの」
なるほど、彼女の手料理か。
実は僕は彼女の作った料理を食べたことが無かった。
まぁ実際あの手で料理は難しそうだし、パピヨンになって作れるようになったということだろうか?
とにもかくにも、緑の料理が食べれるというのなら是非とも食べたかった。
「分かった、じゃあ待ってるよ」
着替え終わった後、僕はリビングからキッチンを覗き見ていた。
そして、彼女が作っていたのはクッキーだった。
甘い匂いが部屋いっぱいに広がり、完成への期待がどんどん高まっていく。
そして、遂にテーブルにいっぱいのクッキーが乗せられた皿が置かれる。
彼女はそのまま僕の隣に座ると、ニッコリと笑った。
「は〜いどうぞ、いっぱい食べてね♥」
早速一番上にあるクッキーを手に取る。
焦げ目一つない綺麗な円形のクッキーで、デコレーションなどは一切付いていなかった。
食べてみるとサクリ、と程よい感触が心地よく、またとても甘い。
彼女が料理を作ってるところは見たことが無かったので、まさかこれほどの物を作るとは驚いた。
しかし、何より驚いたのは。
「……これって、母さんのクッキー?」
「正解!実は、こっそりあなたのお母様に作り方を教えてもらってたの。練習まで付き合ってもらっちゃって、とっても助かったな〜」
そう、リビングから見てた時の作り方も、この見た目も、そしてこの味も、僕が小さい時から食べていた母さんのクッキーだった。
「あなたが私にくれた最初のクッキー。あなたへの一番最初のお返しとしてぴったりだと思ったの、どう?」
「お返しだなんて、僕はただ、緑が欲しそうと思ったからあげただけだよ」
やっぱりあなたはやさしいね。そう笑いながら彼女は続ける。
「あの時、私とっても嬉しかったんだ〜、それから、あなたが私にくれるご飯はどんなものよりも美味しくて、お母さんに言ったら『それは緑があの子のことを好きになったからだよ』って教えてくれて、それから私いっぱい勉強したの、あなたの人生を幸せに出来るお嫁さんになれるように……♥」
「あなたが私にご飯を作ってくれたから、あなたが私にあの時クッキーをくれたから、そして、あなたが私と一緒に居てくれたからこんなに綺麗なパピヨンになれたの。だからね」
そっと僕の手を彼女は両手でぎゅっと包むと、満開の笑みを見せた。
「これからずっと一緒に居てあげる♥あなたのこと、ずっと幸せにしてあげるからね♥」
綺麗な羽の付いた女の人の手を握りながら、うねうねと脚を動かして、眠そうに目を半目にしながら歩いていた。
だけど、母さんと女の人がすれ違う時にその子は急にぱっちりと眼を開いた。
そして涎を垂らしながら、僕の食べていた母さんお手製のクッキーを見ていた。
その子は何も言わなかったけど、たぶん僕のクッキーが欲しいんだと思って一つあげたら、ちっちゃな爪で器用にもぐもぐと食べていた。
食べ終わった女の子は、またさっきみたいに半目になったけど、うねうねと僕に近づいたと思ったらそのたくさんあるちっちゃな爪でボクにくっつきながらボクのほっぺたに頬ずりしてきた。
その時、母さんと女の人が何か楽しそうに話してたのを今でも覚えてる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「維人〜?ど〜したの〜?」
目玉焼きをフライ返しで皿の上に乗せながら昔のことを思い出していた僕に、リビングから声がかかる。
「いや、僕たちが出会ってから随分と経ったなぁって思ってさ」
トレーに作った物を乗せテーブルに持ってくる。
「4年と11カ月と29日だよ〜。こんなに大切なことを忘れるなんてはくじょ〜もの〜」
内容はトーストと目玉焼き、そしてサラダのシンプルな朝食。
彼女、幼馴染の緑はそれを見るとさっきまで半目だった目をパチリと開き、瞳をキラキラさせる。
僕には手の込んだ料理は作れないが、何故か彼女は僕の作る朝食を求めて毎朝僕の家に来る。
「よくそんなに細かく覚えてるね」
「私がいつも食べてばかりのおバカさんだと思ったら大間違いなのだ〜、いただきま〜す」
そう言いながらむしゃむしゃとサラダをフォークで食べる。
僕と彼女の家は随分と前から家族ぐるみの付き合いで、『うちの娘がそちらによくご飯を食べに行くので』と、我が家には彼女の家から送られてくる食材が用意されてたりする。
何故僕が彼女の朝食を作るようになったかと言うと、僕たちが出会ったばかりのころ、彼女にべったりとくっつかれた状態でご飯を作って欲しいとねだられたからだ。それから僕は彼女の朝食を作るようになった。
そんな事を考えつつ僕も朝食を食べ始めると、ふと気づいた。
「あっ、てことは明日で5年経つんだ」
「そのと〜り〜、そんなわけで〜私から維人に明日はプレゼントがありま〜す」
「プレゼント?記念品的な?」
もぐもぐとトーストを頬張りながら首をゆっくり縦に振る。
「そうそう〜今までありがと〜これからもよろしく〜みたいな〜」
ちゅるちゅると白身からまとめて目玉焼きを飲み込むと、手を合わせた。
「ごちそうさまでした〜。そんなわけで、明日はちゃ〜んとあけてあるよね〜?」
「ああ、母さんがずっと前から明日から暫くは予定入れるなって言ってたのはそうだったのか」
「私からお母様に伝えてたのだ〜、ちょっとしたサプライズ〜」
えへん、胸を逸らしながらドヤ顔をする彼女
「嬉しいなぁ、明日が楽しみだよ!」
「私も楽しみ〜……♥」
その時の彼女の眼には、普段はない感情が込められていたように感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「は〜い、じゃあこれ付けてね〜」
約束通り朝早くに彼女の家に集まった僕たち。
彼女の両親は今日いないらしく随分と静かだった。
そして今の僕の状況はと言うと、着いてそうそう目隠しを着けるように言われている。
「サプライズプレゼントだからね〜、びっくり〜って感じにしないと〜」
暫くして目隠しを着け終わると、音で彼女が僕の前に立ったのを感じた。
「じゃあプレゼントを用意するよ〜」
サプライズプレゼントか……彼女のことだから食べ物に関するものだろうか、レストランの招待券とか?もしくはありったけのお菓子とかかもしれない。
どんなもの……ん?
真っ暗な視界の中でプレゼントを考えていたがその思考が中断される。
なにせ衣擦れの音が聞こえてきたからだ
箱を開けてる音……?いや、僕の前から動いたようには……
「は〜い、目隠し取っていいよ〜」
言われるまま僕は目隠しを取る。
そして、真っ先に目に入ってきたのは、一糸まとわぬ彼女の姿だった。
「なっ!?なんで脱いでるの!?」
慌てて手で目を隠してしまう。
「それはね〜プレゼントは私だからだよ〜♥」
そう言いながら僕に近づき、目を隠す腕に爪を乗せる。
「ね〜私、維人に見て欲しいな〜♥維人が育ててくれた私の体、維人に一番見て欲しいよ〜♥」
普段とは違う、緩いだけじゃなく甘ったるさもある言葉に、僕は抵抗できずに目をゆっくりと開いた。
彼女は確かな情欲を燻らせた瞳で開かれた僕の眼を僕を見つめると、ぎゅっと抱き着いてくる。
ふにふにとした体に抱き着かれ、全身の力が抜けてしまう。
「ん〜♥今までの分、いっぱい気持ちよくしてあげるね〜♥」
彼女が僕の胸に顔を擦りつけていると、どんどん彼女から糸のようなものが広がり、そのまま僕たちは繭に包まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ピシリと入った亀裂から、陽の光が入ってくる。
一気に亀裂は広がり繭が砕けていく。
繭の周りには、行為が始まる前に着ていた服が散乱していた。
おそらく、繭の中で脱いだ時に外に排出されたのだろう。
ひとまずシャツとパンツだけ着て、スマホで今の時間を確認する。
そして、現在時刻を見て僕は驚いてしまった。
「三日も経ってる……そんなに続けてたのか……」
周りの状況が分からぬまま快楽に飲まれ続けていた。
かなり時間が経ってることは察しがついていたが、まさかこれほどとは思わなかった。
「あっ学校!どうしよ……」
「大丈夫だよあなた、ちゃんとそのことも事前に伝えておいたから♥」
突如背中から抱き着かれムニムニとした感触が押し付けられる
もちろん誰かは分かっている。何せこの声もこの体も、あの繭の中でたっぷりと教え込まれたのだから。
「この一週間はお休みするって連絡しておいたから安心してね♥」
振り返るとそこにいるのは、幼馴染ではなく妻となった緑。
母親譲りの美しい羽と、グリーンワームの時とは違う豊満な胸。身長も伸び僕よりも少し高くなっていた。
そして、太陽のような笑みで僕を見ている。
「そうだったんだ」
それを聞いてホッとした、どうやらズル休みにはなってないようだ。
暫く立ったままこれからどうしようかと考えてたが、ひとまず食事をとらないかと提案した。
すると彼女は意外なことを言ってきた。
「実は、羽化してからあなたに最初に食べて欲しい物を決めてあるの」
なるほど、彼女の手料理か。
実は僕は彼女の作った料理を食べたことが無かった。
まぁ実際あの手で料理は難しそうだし、パピヨンになって作れるようになったということだろうか?
とにもかくにも、緑の料理が食べれるというのなら是非とも食べたかった。
「分かった、じゃあ待ってるよ」
着替え終わった後、僕はリビングからキッチンを覗き見ていた。
そして、彼女が作っていたのはクッキーだった。
甘い匂いが部屋いっぱいに広がり、完成への期待がどんどん高まっていく。
そして、遂にテーブルにいっぱいのクッキーが乗せられた皿が置かれる。
彼女はそのまま僕の隣に座ると、ニッコリと笑った。
「は〜いどうぞ、いっぱい食べてね♥」
早速一番上にあるクッキーを手に取る。
焦げ目一つない綺麗な円形のクッキーで、デコレーションなどは一切付いていなかった。
食べてみるとサクリ、と程よい感触が心地よく、またとても甘い。
彼女が料理を作ってるところは見たことが無かったので、まさかこれほどの物を作るとは驚いた。
しかし、何より驚いたのは。
「……これって、母さんのクッキー?」
「正解!実は、こっそりあなたのお母様に作り方を教えてもらってたの。練習まで付き合ってもらっちゃって、とっても助かったな〜」
そう、リビングから見てた時の作り方も、この見た目も、そしてこの味も、僕が小さい時から食べていた母さんのクッキーだった。
「あなたが私にくれた最初のクッキー。あなたへの一番最初のお返しとしてぴったりだと思ったの、どう?」
「お返しだなんて、僕はただ、緑が欲しそうと思ったからあげただけだよ」
やっぱりあなたはやさしいね。そう笑いながら彼女は続ける。
「あの時、私とっても嬉しかったんだ〜、それから、あなたが私にくれるご飯はどんなものよりも美味しくて、お母さんに言ったら『それは緑があの子のことを好きになったからだよ』って教えてくれて、それから私いっぱい勉強したの、あなたの人生を幸せに出来るお嫁さんになれるように……♥」
「あなたが私にご飯を作ってくれたから、あなたが私にあの時クッキーをくれたから、そして、あなたが私と一緒に居てくれたからこんなに綺麗なパピヨンになれたの。だからね」
そっと僕の手を彼女は両手でぎゅっと包むと、満開の笑みを見せた。
「これからずっと一緒に居てあげる♥あなたのこと、ずっと幸せにしてあげるからね♥」
21/11/14 22:05更新 / ゆうさん