コトの始まり
「…ふぅ〜…。」
季節は春。
晴れて高校を卒業した彼は、自室の窓際で煙草をくわえて黄昏ていた。
「就職かぁ…。今となっちゃ、まもむすのお陰で就職率は安定したけど…。そうなってくると何をしたいのか…何をすればいいのか…悩むよなぁ…。」
高校を卒業したのはいいが、彼は未だに就職先も決められずにいた。
「大学行ける程の学なんかないしなぁ…。調子こいて一人暮らしなんか始めちまったけど…。フリーターじゃキツいしな…。」
1人ブツブツと呟く彼、高坂知宏(こうさかともひろ)は、愛煙しているアメスピの火を消すのであった。
人生を一発で決めてしまう出来事が待っていることも知らずに…________
魔物娘が姿を表してから約10年。
今まで身を潜めてきた彼女達は、突如としてこの世界へと侵攻した。
侵攻と言っても、争いというような類は起こらず、バフォメット達を束ねるサバトを中心として、あらゆる魔物娘達が日常へと侵入し世界を桃色へと変えていった。
そして10年の月日が流れた。
今となっては魔物娘がいる事は日常であり、当たり前の事として人々は魔物娘を受け入れ、魔物娘は人々に溶け込んだのだった…。
「いらっしゃいませぇ〜!」
「高坂君、雑貨終わったら次カート回収とペットと酒の前出しだ!頼むぞ!」
「ハイっ、わかりました!」
翌日、知宏はスーパーのアルバイトに来ていた。
主任であるアヌビスのファトラさんの指示にテキパキと仕事をこなしていく。
「品出し終わりました!」
「よし、休憩に入っていいぞ。」
「うぃっす!」
「よぉ〜、お前やっと休憩か〜。」
知宏が昼食を購入し、休憩室に入ると、同僚が昼食をとっていた。
「ああ、今日は珍しく混んでて皆てんてこ舞いだな。」
「そうだよなぁ〜。ホント、これが午後も続くなんて…。勘弁してくれよ…。」
「泣き言言うなって、これで飯食えてんだから。それに主任さんのお陰で俺らの仕事だってハードなりにも一番体力として効率のいいシフトと指示貰ってんだから。それだけでもありがたいと思えって。」
「そりゃわかるけどさぁ〜…。」
仕事への愚痴を漏らす同僚を相手に、知宏はパクパクと惣菜と弁当をたいらげる。
「そういやさ、主任といえば、あの人結婚するらしいで。」
「マジで?」
同僚の言葉に少なからず驚く知宏。
「なんかね、ちょっと前に知り合った人がいてさ。あの人、惚れちゃったらしくて。猛烈に追っかけてたらしいよ。あの主任が。」
「あの主任がねぇ〜…。」
「そう、あの主任が。そんで、挙句耐えられずに主任から襲ってしまい、一晩で堕ちましたとさ。」
「…詳しいな…。どっからの情報だ?」
「一緒に働いてるシェーラさん。」
「だろうな。」
シェーラは、知宏達と同じ職場で働くスフィンクスだ。
「あの人もよくクビにされないな。」
「まあ、あんなでも一応主任の友達らしいからなぁ…。簡単にはやめさせられんのでしょ。」
「かもなぁ〜。」
「しっかしまぁ、お前は何時になったら彼女が出来るんだ?」
同僚の言葉にギクッとする知宏。
彼はこの世界においてなお、彼女いない歴=年齢の男なのだ。
「俺でさえ彼女が出来たんだぜ?おかしくね?お前俺よりも顔よくて体力とかもスゲェじゃん?なんでやねん。」
同僚の言葉が逐一胸に刺さる。内心、本人も全く心当たりはないのだ。
何故か知宏は友達は多いが、そこまで深い仲になるような女付き合いは一度もなかった。魔物ですら、何故か身を引くのである。
「俺でさえ全く心当たりないね…。てか黙れクソリア充が、破裂しろ。お前もう時間だろがい、はよいけや。」
「スマソスマソ〜。でもなぁ…。」
納得のいかない同僚は、唸りながらも休憩室を後にした。
一人きりとなった知宏はイスに寄りかかり、考えにふけった。
「俺だって知らねってーの…。ったく。」
……やくそく…だよ…
(…どこだ…ここ…。)
…かならず…あいにいくからねっ…
(…ああ、昔通ってた保育園か…。)
…またねっ…うわきしたらだめだからねっ…!
(この子は……)
「んぁ…ぁ…夢…?」
昼食をたいらげ、午前の疲れの為かいつの間にか寝てしまっていた知宏。
ショボショボする目を擦りながらノビをし、今見た夢を思い返す。
(…随分と懐かしい夢を見たもんだ…。)
知宏が見た夢、それは知宏の保育園時代、親の都合で引っ越すことになったある少女が知宏と交わした最後の会話であった。
「もう…名前も思い出せないな…。」
1人呟き、チラリと時計を確認する。
「はぁっ!?もう30分も過ぎてんじゃねーか!!誰か起こしてくれよ!!」
慌てて駆け出す知宏。その後は主任にこってりと絞られ、ボロボロになりながらも午後の仕事をこなすのであった…______
「フゥー…今日はいろんな意味で疲れた…。」
バイトからの帰り道。人気の少ない暗い住宅街を1人、知宏は煙草をくわえながら自宅へと歩っていた。
「主任…怒ると強すぎだから…。」
寝坊で遅刻した事で主任に絞られた事がよっぽど効いたらしく、1人ブツブツと愚痴りながら歩を進める。
(今…あの子はどうしてるんだろな…。俺の事なんか忘れてるだろうなぁ…。)
昼間見た夢を思い出し、昔の記憶に思いを馳せる。
「フゥー…。」
(いきなりの引越しだもんな…。どこに行ったかもわからないし…。まぁ…今そんなこと考えても仕方ないか…。)
…うわきしたらだめだからねっ…!
「…浮気もなにも…魔物一人近づかねーよ…。」
一人悲しく呟く知宏。
だが、そのつぶやきに聞き耳を立て、知宏の寂しそうな背中をそそくさと追いかける怪しい影が1つ。
「当たり前ですよ…。ちゃぁんと、私が匂いをつけてマーキングして差し上げましたからねぇ…////やっと見つけましたよ…私の旦那様…/////」
影が知宏に聞こえない程度に荒い息で呟く。
知宏は全く気づく様子はなく。
そのまま、まっすぐと影を引き連れ、自宅の目の前に来てしまう知宏。
すると、怪しい影はそっと知宏の後ろに忍び寄ると、
「…はっ!…んぐぅ…んん……。」
「すみません…。これも…旦那様が私だけの旦那様である為に必要なのです…。」
その言葉を最後に、知宏の意識は闇に沈むのであった…______
「…ん…んん…」
ジャラジャラッ
「…ん…んあ…?」
目を覚ました知宏は、自分の手足の異変を朦朧とする意識の中で感じ取った。
そして、先程の事を思い出し、飛び起きようとする。が、
「…ハッ!!」
ジャリンッ!!
手足がベッドに手錠で繋がれているのだった。
「目が覚めましたか…?」
「!?」
状況が読めずに戸惑う知宏に、女の声が響く。
「だ、誰だ!!」
「…やはり…憶えてらっしゃらないのですか…。」
心底残念そうな声とともに、その声の主が、暗闇から姿を表したのだった。
「っ…!?お前は…!?」
「えっ!まさか!憶えてらっしゃるのですか!!」
その顔は、正に昔の記憶に出てきた少女そのものだったのだ。
だが、その頭には記憶にはない、狐らしき耳や尻尾等が生えている。
「君はっ…保育園の時に…引っ越した…!」
「そうです!!時雨です!!嬉しい…!/////憶えててくれましたのですね…/////」
時雨と名乗った女は涙目になりながら喜んでいる。
「どうして君がここに!?それにその姿っ…。」
「私はあれからずぅっと…貴方様一人をお慕いしておりました…/////恋焦がれ…貴方様を探し続け、やっと…見つけました…。この日を…この日をどれだけ待ち望んだ事か…。」
「じゃあ…その姿は…!?」
「私は、元々魔物として生まれ、魔物娘の存在が公になるまで人間に化け、人として過ごしておりました。ちなみに、私は稲荷という種族の魔物娘です。」
いきなりの発言に唖然とする知宏。そして、知宏は一番重大な事を思い出すのであった。
「で、でもこれは一体!?」
ジャリンッ
「それは…旦那様が…私の旦那様である為に…必要なのです…。」
「そんなこと言われたって!納得できないよ!外してくれ!」
ジャリンッジャリンッ
「それはできません…。」
「どうして!?」
「そうしないと…貴方に悪い虫がついてしまうやもしれません…。」
「悪い虫!?」
「はい。旦那様は…私のものです…誰にも渡しません…。」
その言葉を発する時雨の目は、完全にケモノであった。
ギラギラと独占欲を滾らせ、このオスを自分だけのモノにしようとするケモノの目。
知宏は恐怖を覚えた。
「怖がらなくても大丈夫ですよ…?ふふ…すぐに私がいないと満足できない身体にして差し上げます…/////」
そう言うと、ゆっくりと知宏に近づく時雨。
そして、仰向けで固定され、動けない知宏の上に跨るのであった…_______
季節は春。
晴れて高校を卒業した彼は、自室の窓際で煙草をくわえて黄昏ていた。
「就職かぁ…。今となっちゃ、まもむすのお陰で就職率は安定したけど…。そうなってくると何をしたいのか…何をすればいいのか…悩むよなぁ…。」
高校を卒業したのはいいが、彼は未だに就職先も決められずにいた。
「大学行ける程の学なんかないしなぁ…。調子こいて一人暮らしなんか始めちまったけど…。フリーターじゃキツいしな…。」
1人ブツブツと呟く彼、高坂知宏(こうさかともひろ)は、愛煙しているアメスピの火を消すのであった。
人生を一発で決めてしまう出来事が待っていることも知らずに…________
魔物娘が姿を表してから約10年。
今まで身を潜めてきた彼女達は、突如としてこの世界へと侵攻した。
侵攻と言っても、争いというような類は起こらず、バフォメット達を束ねるサバトを中心として、あらゆる魔物娘達が日常へと侵入し世界を桃色へと変えていった。
そして10年の月日が流れた。
今となっては魔物娘がいる事は日常であり、当たり前の事として人々は魔物娘を受け入れ、魔物娘は人々に溶け込んだのだった…。
「いらっしゃいませぇ〜!」
「高坂君、雑貨終わったら次カート回収とペットと酒の前出しだ!頼むぞ!」
「ハイっ、わかりました!」
翌日、知宏はスーパーのアルバイトに来ていた。
主任であるアヌビスのファトラさんの指示にテキパキと仕事をこなしていく。
「品出し終わりました!」
「よし、休憩に入っていいぞ。」
「うぃっす!」
「よぉ〜、お前やっと休憩か〜。」
知宏が昼食を購入し、休憩室に入ると、同僚が昼食をとっていた。
「ああ、今日は珍しく混んでて皆てんてこ舞いだな。」
「そうだよなぁ〜。ホント、これが午後も続くなんて…。勘弁してくれよ…。」
「泣き言言うなって、これで飯食えてんだから。それに主任さんのお陰で俺らの仕事だってハードなりにも一番体力として効率のいいシフトと指示貰ってんだから。それだけでもありがたいと思えって。」
「そりゃわかるけどさぁ〜…。」
仕事への愚痴を漏らす同僚を相手に、知宏はパクパクと惣菜と弁当をたいらげる。
「そういやさ、主任といえば、あの人結婚するらしいで。」
「マジで?」
同僚の言葉に少なからず驚く知宏。
「なんかね、ちょっと前に知り合った人がいてさ。あの人、惚れちゃったらしくて。猛烈に追っかけてたらしいよ。あの主任が。」
「あの主任がねぇ〜…。」
「そう、あの主任が。そんで、挙句耐えられずに主任から襲ってしまい、一晩で堕ちましたとさ。」
「…詳しいな…。どっからの情報だ?」
「一緒に働いてるシェーラさん。」
「だろうな。」
シェーラは、知宏達と同じ職場で働くスフィンクスだ。
「あの人もよくクビにされないな。」
「まあ、あんなでも一応主任の友達らしいからなぁ…。簡単にはやめさせられんのでしょ。」
「かもなぁ〜。」
「しっかしまぁ、お前は何時になったら彼女が出来るんだ?」
同僚の言葉にギクッとする知宏。
彼はこの世界においてなお、彼女いない歴=年齢の男なのだ。
「俺でさえ彼女が出来たんだぜ?おかしくね?お前俺よりも顔よくて体力とかもスゲェじゃん?なんでやねん。」
同僚の言葉が逐一胸に刺さる。内心、本人も全く心当たりはないのだ。
何故か知宏は友達は多いが、そこまで深い仲になるような女付き合いは一度もなかった。魔物ですら、何故か身を引くのである。
「俺でさえ全く心当たりないね…。てか黙れクソリア充が、破裂しろ。お前もう時間だろがい、はよいけや。」
「スマソスマソ〜。でもなぁ…。」
納得のいかない同僚は、唸りながらも休憩室を後にした。
一人きりとなった知宏はイスに寄りかかり、考えにふけった。
「俺だって知らねってーの…。ったく。」
……やくそく…だよ…
(…どこだ…ここ…。)
…かならず…あいにいくからねっ…
(…ああ、昔通ってた保育園か…。)
…またねっ…うわきしたらだめだからねっ…!
(この子は……)
「んぁ…ぁ…夢…?」
昼食をたいらげ、午前の疲れの為かいつの間にか寝てしまっていた知宏。
ショボショボする目を擦りながらノビをし、今見た夢を思い返す。
(…随分と懐かしい夢を見たもんだ…。)
知宏が見た夢、それは知宏の保育園時代、親の都合で引っ越すことになったある少女が知宏と交わした最後の会話であった。
「もう…名前も思い出せないな…。」
1人呟き、チラリと時計を確認する。
「はぁっ!?もう30分も過ぎてんじゃねーか!!誰か起こしてくれよ!!」
慌てて駆け出す知宏。その後は主任にこってりと絞られ、ボロボロになりながらも午後の仕事をこなすのであった…______
「フゥー…今日はいろんな意味で疲れた…。」
バイトからの帰り道。人気の少ない暗い住宅街を1人、知宏は煙草をくわえながら自宅へと歩っていた。
「主任…怒ると強すぎだから…。」
寝坊で遅刻した事で主任に絞られた事がよっぽど効いたらしく、1人ブツブツと愚痴りながら歩を進める。
(今…あの子はどうしてるんだろな…。俺の事なんか忘れてるだろうなぁ…。)
昼間見た夢を思い出し、昔の記憶に思いを馳せる。
「フゥー…。」
(いきなりの引越しだもんな…。どこに行ったかもわからないし…。まぁ…今そんなこと考えても仕方ないか…。)
…うわきしたらだめだからねっ…!
「…浮気もなにも…魔物一人近づかねーよ…。」
一人悲しく呟く知宏。
だが、そのつぶやきに聞き耳を立て、知宏の寂しそうな背中をそそくさと追いかける怪しい影が1つ。
「当たり前ですよ…。ちゃぁんと、私が匂いをつけてマーキングして差し上げましたからねぇ…////やっと見つけましたよ…私の旦那様…/////」
影が知宏に聞こえない程度に荒い息で呟く。
知宏は全く気づく様子はなく。
そのまま、まっすぐと影を引き連れ、自宅の目の前に来てしまう知宏。
すると、怪しい影はそっと知宏の後ろに忍び寄ると、
「…はっ!…んぐぅ…んん……。」
「すみません…。これも…旦那様が私だけの旦那様である為に必要なのです…。」
その言葉を最後に、知宏の意識は闇に沈むのであった…______
「…ん…んん…」
ジャラジャラッ
「…ん…んあ…?」
目を覚ました知宏は、自分の手足の異変を朦朧とする意識の中で感じ取った。
そして、先程の事を思い出し、飛び起きようとする。が、
「…ハッ!!」
ジャリンッ!!
手足がベッドに手錠で繋がれているのだった。
「目が覚めましたか…?」
「!?」
状況が読めずに戸惑う知宏に、女の声が響く。
「だ、誰だ!!」
「…やはり…憶えてらっしゃらないのですか…。」
心底残念そうな声とともに、その声の主が、暗闇から姿を表したのだった。
「っ…!?お前は…!?」
「えっ!まさか!憶えてらっしゃるのですか!!」
その顔は、正に昔の記憶に出てきた少女そのものだったのだ。
だが、その頭には記憶にはない、狐らしき耳や尻尾等が生えている。
「君はっ…保育園の時に…引っ越した…!」
「そうです!!時雨です!!嬉しい…!/////憶えててくれましたのですね…/////」
時雨と名乗った女は涙目になりながら喜んでいる。
「どうして君がここに!?それにその姿っ…。」
「私はあれからずぅっと…貴方様一人をお慕いしておりました…/////恋焦がれ…貴方様を探し続け、やっと…見つけました…。この日を…この日をどれだけ待ち望んだ事か…。」
「じゃあ…その姿は…!?」
「私は、元々魔物として生まれ、魔物娘の存在が公になるまで人間に化け、人として過ごしておりました。ちなみに、私は稲荷という種族の魔物娘です。」
いきなりの発言に唖然とする知宏。そして、知宏は一番重大な事を思い出すのであった。
「で、でもこれは一体!?」
ジャリンッ
「それは…旦那様が…私の旦那様である為に…必要なのです…。」
「そんなこと言われたって!納得できないよ!外してくれ!」
ジャリンッジャリンッ
「それはできません…。」
「どうして!?」
「そうしないと…貴方に悪い虫がついてしまうやもしれません…。」
「悪い虫!?」
「はい。旦那様は…私のものです…誰にも渡しません…。」
その言葉を発する時雨の目は、完全にケモノであった。
ギラギラと独占欲を滾らせ、このオスを自分だけのモノにしようとするケモノの目。
知宏は恐怖を覚えた。
「怖がらなくても大丈夫ですよ…?ふふ…すぐに私がいないと満足できない身体にして差し上げます…/////」
そう言うと、ゆっくりと知宏に近づく時雨。
そして、仰向けで固定され、動けない知宏の上に跨るのであった…_______
15/04/30 03:18更新 / 稲荷の伴侶
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