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―翌日 早朝 野営地のテント内 (ん・・朝か・・・) 俺が起きると、テントの反対側で寝ていたはずのミミィはいなかった。もう既に起きたらしい。 目をこすりながらテントを出ると、2人は朝食を食べていた。 「おお、やっと起きたか。今ミミィに起こしに行ってもらおうかと考えていた所だ。朝食もできてるぞ。とりあえず何か食べんと始まらんだろう?」 そう言ってロムルは手招きした。たき火に近づくと、昨日の鍋には新しく緑色のスープが入っており、いい匂いがした。 「私が作ったんだが、まあまあいけると思うぞ。パンもあるからな」 「ありがとう」 俺は礼を言って食べ始めた。スープは素朴な味でとても美味しかった。 結局朝食も一番食べたのは体の一番小さいミミィで、一人で鍋の半分ほどを平らげていた。 (ミミィ、そんなに食べて大丈夫か?) ふとそう思ったが、どこからか‘大丈夫だ、問題ない’という声が聞こえてきた気がしたので、特に気にしないことにした。 朝食を食べ終えテントを片付けることになったが、俺が手伝おうとすると、 「そんな必要ないよ。だって旦那が一瞬でやっちゃうから」 そうミミィに言われた。一体どういうことかと不思議に思っていると、ロムルはテントに向かって何か呟いた。 するとボンッという軽い爆発音とともにテントが消え、そこには野球ボールほどの大きさの黒い玉があった。ロムルはそれを拾って腰のベルトにはめると俺の方を向いて言った。 「驚いたか?これは封密玉と言ってな。さっきのテントのような大きくてかさばる物を携帯できる大きさに圧縮する便利な魔具だ」 俺は初めて見た魔具に驚かされつつ、他にも色々な魔具があるのだろうと期待を膨らませてもいた。 「よし、片付けも終わったし、出発するぞ」 彼はそう言うと、どんどん森の出口らしき方向へと歩き始めた。ミミィもすぐ後に続いた。 (できれば早く街に着くといいな・・・) そう思いながら俺も彼らの後に続いて歩き始めた。 ―同日 3時間後 時の森・最北部付近 ようやく森を抜けることに成功した俺たちはとりあえず一旦休憩をとることになった。 森を抜ける途中、俺は何度かゾンビ娘や(おそらく)スケルトン娘を木立の中などに見かけたが、どうしてかあちらが俺やロムル、ミミィに気づくことはなかった。 ロムルは切り株に座ると、俺とミミィに水を渡しながら言った。 「心配するな。ここまでくればあと2〜30分ほどで[テスク]に着くぞ」 テスクというのがこれから向かう街の名前のようだ。なんでもミミィによるとこの大陸では最も大きい街で他の大陸などとの交易が盛んらしい。 「よし急ぐぞ。街に着いてからはミツキ、君は色々と忙しくなるだろうからな」 そう言ってロムルは座っていた切り株から立ち上がると、俺とミミィもそれぞれ座っていた丸太から腰を上げ、彼に続いた。俺やミミィはともかく、ロムルは大きな長剣を背負っていたが、歩くペースが一番早かった。・・・重そうなのに疲れないのだろうか。 数分して、木々もまばらになってきた木立を抜けると、一面緑色の草原が広がっていた。少し遠くにはこれから向かう街、テスクも見えた。 森の中からは見えなかったが、空は一面青く澄み渡っており、吹く風もなんだか心地よかった。 膝ほどもある芝のような草の中を抜け、俺たちは街道に出た。 街道沿いには一面の草原を生かして牧場らしき建物が点々といくつか見えた。他にも宿屋や、店を開いている行商人もおり、また、街道には街へ向かったり、街から離れていくヒトや魔物、馬車もあった。 俺は何だか居心地の悪さを感じた。・・というのも、行き交う人や魔物たちと俺の服装はあまりにも異なっていて、俺だけ浮いている気がしたのだ。 (そんなことを気にしていてもしょうがないな) そう思い、ロムルとミミィの後についていくと、しばらくして街の入り口に到着した。 ロムルは門番に何かを見せると、門番は頷いて俺たちを街の中に通した。 「ここがこの北西大陸の中心都市、テスクだ」 ロムルはそう言った。 街の中の通りはどこも石でできたタイルが敷き詰められており、その通りの両側には世界史で言う中世ごろのヨーロッパを彷彿とさせるレンガ造りの家が規則正しく並んでいた。また、今俺がいる大通りには所々に細い街灯が建っていた。 大通りからは、細い小道が垂直に何本も伸び、複雑に交差していたりするようだ。街の中は、先ほど通ってきた街道よりもヒトや魔物で賑わっていた。 「はぐれるなよ。今日はちょうど貿易船が港に到着したから、普段より通りなどが混んでいるからな」 「・・・わかった」 とは言ったものの、ここはまるで東京ディ○ニーランドのように混みあっており、俺はロムルについて行くのがやっとだった。 そうしてどんどん街の中心へ進んでいくと、大きな噴水が中央にある広場に出た。ここに東西南北から大通りがつながっており、実質ここが街の中心に当たるのだ、とロムルは説明してくれた。 「今俺たちが来たのは西門からだから・・ここを右だ」 そう呟いてロムルは俺から見て右上の大通りに向かって歩いていく。それについて行き先に少し進むと、左手にゴシック建築の教会がそびえ立っていた。周りにある家々より遥かに大きい。 「ここがギルド北西大陸本部だ」 ロムルは教会の重々しい扉を開けながら言った。 中へ入ると、たくさんの魔物やヒトでガヤガヤと賑わっていた。 内部は教会のようにこぎれいに長椅子が並んでいるわけではなく、入って左側は木製のカウンターが設置されていて、酒場になっているようだ。某RPGのようにちゃんとマスターもいた。 対して左側がギルドの受付になっているようで、酒場と同じようなカウンターには魔女の格好をした少女がちょこんと座っており、所々にある丸い机の周りには物騒な武器を背負ったヒトや魔物が大勢いた。 「とりあえず少しここで待っていてくれ。私は依頼完了の報告をしてくる」 俺とミミィはロムルに近くにあったイスに座らされ、彼を少し待つことになった。 「この街のことを教えてくれないか?」 俺はミミィに気になっていたことを訊ねた。 「うん。えっと、テスクは街の周りで作られた麦とかお米、それと牧場で作った乳製品とかを他の大陸の街と交換して色んな物が揃ってるの。それで、街の北東には大市場があって、そこにたくさん物が売ってるよ」 「それで東には港があって、南にはこの教会を改築してできたギルドと酒場、向かいには宿屋もあるんだよ」 「そうなんだ。・・それにしても賑やかだな」 向こうの酒場では大男が魔物の女の子(おそらくアカオニのようだ)と腕相撲をしており、その周りに集まった観衆がワーワー叫んでいた。 大男は冷や汗をかくほど力を込めているようだが、女の子の方は顔をしかめているものの、まだ余裕があるようだった。 少しすると、女の子はふん、と一気に力を込め、大男の手をねじ伏せた。それに合わせ、観衆もどっと歓声を上げた。女の子はまんざらでもないような顔をして、机に置いてあったひょうたんから酒らしきものをごくごく飲んでいた。 (魔物の娘はみんなあんなに強いのだろうか・・・) そう思っていると、ロムルがカウンターから戻ってきた。 「待たせたな。ミツキ、ギルドマスターがお待ちかねだ。ここからは君一人で二階の一番奥の部屋に行ってくれ」 「了解。じゃまた、ミミィ、ロムル」 俺は彼らにそう告げると、入口から見て正面の階段へ向かった。 正面の壁は元教会の名残か、大きなステンドグラスになっていた。そこには、色々な種類の魔物とヒトが描かれており、どれも神聖な雰囲気を醸し出しているように思えた。 途中で壁伝いに曲がった階段を登り終え、廊下を進んでいくと、一番奥に物々しい、というかマガマガしい紫色をした一際怪しいドアがあった。 扉の横のプレートには大きく「ぎるどますたー」となぜかひらがなで書かれている。 俺は深呼吸して緊張を抑えつつ、扉のノブに手をかけた・・・・
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