後編 死闘、そして・・・
注意
今回の小説ではブレイズとフレンのダブル視点で進めて、バトルでは作者視点も交えて書きます。
それではお楽しみください。
−−−フレン視点−−−
「・・・・・・」
ブレイズさんがギルドから出て行き、数分が経過しても僕は何が起こったのか分からずにただただ放心してへたり込んでいた。
頬の出血は血が乾きはじめたのか既に止まっていた。
「・・・追いかけなきゃ」
無意識に僕はこの言葉を言っていた。
今のブレイズさんは明らかにいつもと様子が違っていた。
もし、仮に追いついたとしても・・・恐らくはブレイズさんが言ったとおりに僕は襲われる可能性が高い。
・・・・・・だけど、このまま追いかけなかったら、僕は一生後悔してしまう、そんな気がしたのかもしれない。
僕は急いで自分の部屋に駆け込み、装備を整えてギルドから飛び出していた。
ブレイズさんを止めるために。
−−−ブレイズ視点−−−
「ここを抜ければ、人目にはつかないはず」
私が今居る場所は元北の居住地区と中央地区をつなぐ入り口前だ。
なんでも、何ヶ月か前にアイビスカからやってきた教団の潜入兵士がこの地区の住人を秘密裏に惨殺したらしく、今では無人の地区になってしまったらしい。そのおかげで今はこの入り口にバリケートと立ち入り禁止の立て札をおいてるために人はまったくと言って良いほどに来ない、まるで私のために用意されたのではないかと思ってしまうほどにだ。
入り口に当たる北の関所は硬く門を閉ざされていると聞くがそれはなんとかなるだろう。
「とりあえずはさっさとここを抜けるとしようか」
私はバリケートを跨いで通過して北の無人地区を進んでいく。
今日は満月だなとのんきに考えて歩いていると異変が私を襲った。
「グッ!?頭が・・・ぐっ!・・・ば、馬鹿な、まだ、出てくるには早いはずなのに!?・・・や、やめろ!出てくるな!!!・・・ヴッ、ウワアアアアアアアアアア!!!!!」
激しい頭痛が私を襲う中、自分の意識が薄れていくのが分かった。
誰にも聞こえないのは知っているがそれでも願わずにはいられなかった。
誰か!私を止めてくれ!!!
−−−フレン視点−−−
ギルドを出てすぐにブレイズさんがどこに言ったのか分からずに悩んでいると突然ブレイズさんの悲鳴が聞こえた。
「今のブレイズさんの・・・あっちか!」
僕は全速力で駆け出して北の無人地区を目指していく。
バリケートがあったけどそれを無視して飛び越えて通過すると道の真ん中に見知った姿が見えた。
「ブレイズさん!!!」
「・・・・・・・・・」
声を掛けてもうずくまって返事をしてくれないブレイズさんに僕は疑問を覚えて、さらに近寄って声を掛けようとした。
「ブレ・・・!?」
チャキ
突然ブレイズさんが立ち上がったと思ったら、背中に背負っていた大剣を抜き放って、こっちにゆっくりと振り返ってきた。
「ブレイズさん?」
「・・・フフフ、ハハハハハ!!!まさかいきなり獲物に出会えるなんてな、俺はなんて運がいいのかな?なあ・・・フレン」
「え、獲物?な、何言ってるんですか!?」
「そのままの意味さ。お前は俺に狩られる可愛い獲物だよ」
ブレイズさんがそう告げるのと同時に尻尾に炎が灯りどんどん大きくなっていくのが分かる。
「まさか、最初にお前が狩れるとは思ってなかったからな凄い興奮してきたよ」
「あなたは本当にブレイズさんなんですか?」
「ああ、俺はブレイズだ。全ての破壊を望み、全てを拒絶する戦闘狂火竜のブレイズ=ソラリスさ」
「そんな・・・嘘だ!!!」
僕の知っているブレイズさんはこんな事を言う人じゃない、ブレイズさんはたしかに戦闘狂だ。でも、嬉々として人を殺そうなんて人じゃなかったはずだ。
この人は僕が知っているブレイズさんじゃない!
「お前はいったい誰だ!?」
「・・・フフフ、確かに俺はお前が知っているブレイズじゃない。俺はもう一人のブレイズさ」
「もう一人?」
「俺は過去のトラウマによって出来たあいつの自己防衛本能みたいなものだ。だが何がキッカケかは知らないが、俺に俺という人格ができた。あいつも戦闘が好きって所は俺と対して変わらんがそれでも人を殺す事を極端に拒絶しやがったんだ。おかげであいつが過去のトラウマを思い出さない限り出てこれなくなっちまったんだ。だがやっとのことで出てこれたがな」
「なんであなたは破壊を望むんですか?」
「それは今から死ぬお前には関係の無い事だ」
「・・・・・・」
「・・・まあ、冥土の土産に教えてやろう。俺は俺以外の奴が嫌いなんだよ。どいつもこいつもこの顔を見れば、人を化け物扱いしやがった。親父は俺の事を裏切ろうとしやがった。誰も俺を見ようとしない!外面だけ見て、中身を見ようとしない!さらには、俺の生きる場所を奪った盗賊連中、ただ幸せになりたかっただけなのに何一つ幸せは訪れない・・・だからあの時決めたのさ。
もう誰も信用しない、誰にも頼らない、信用できるのは自分自身のみ、自分は孤独に幸せに生きてやるってな」
「そんな、だからってもう一人のブレイズさんの気持ちは知っているはずですよね!?なのに!」
「黙れ!!!お前に何がわかる!一握りの幸せすら握らせてくれない、こんな糞ったれな世界のために俺は何度も死に掛けたんだ!!!他人にちやほやされて呑気に育ったお前なんかに俺の気持ちが分かるのか!!!!!」
僕はこの時初めてブレイズさんの本心に気がついた。
恐らくブレイズさんはそのトラウマが原因で人を信じられなくなり、世界を憎んだ。たぶん、それがこのブレイズさんなのだろう。
もう一人のいつものブレイズさんは過去と決別して前を向いて歩こうとしていたのだろう。
だけどその過去を未だに引きずっているんだ。
僕には想像も出来ない世界だ。
恐らく言葉で何を言おうが通じない。
今のブレイズさんは憎しみと破壊の権化だ。
言葉を届かせるには・・・
チャキ スゥー フォン!
戦うしかない!
「ブレイズさん、僕にはあなたの苦しみを完全に理解してあげる事はできません。ですが、今あなたと戦う事はできる。もう一人のブレイズさんがよく言っていました。戦士には言葉は不要、剣で語り合えと・・・今がその時と考えます」
「分かってるじゃないか、さすがはもう一人の俺が見込んだだけの事はある。・・・俺は手加減をすることができねえ。簡単に死ぬなよ」
「そこまで柔じゃないですよ」
−−−作者視点−−−
静かな無人の地区に二人の人影がぽっかりと浮かび上がる。
一人は戦闘狂火竜の異名を持つブレイズ=ソラリス。
右手に両手で持たなければ持てなさそうな赤い大剣を持ち、刀身と尻尾から炎が燃え上がり、彼女の興奮度を表していた。
もう一人は勇者の肩書きを持つフレン=ユーフ。
刃がまったく無い細身の両手剣を落ち着いた様子で正眼に構えていた。
互いに言葉は発さず、どう動くのか様子を見合っていた。
にらみ合いが続き、時々風が強く吹いて二人に対して風をぶつけていくがまったく動じない。
ブレイズがピクリと右手を動かし、それに微妙に反応するフレン。
だがまったく動かない両者。
「ちっ、腰抜けがそっちが来ないなら俺からいくぜ!!!」
ブレイズが痺れを切らしたといわんばかりに言葉を吐き、戦闘態勢を作る。
だが、今のフレンには普段感じる隙が見当たらなく正直攻めあぐねていた。
だから微妙に攻撃するぞというフェイントを見せて隙を作ろうとしたがまったくと言って良いほどに隙は出来なかった。
だからこそ、ブレイズにしては珍しく様子見をしていたのだが元々我慢強く無いほうだったために抑えきれなくなり乱戦に持ち込もうと考えたのだ。
ブレイズは地面を思いっきり蹴り、一瞬にしてフレンの横を通り過ぎ、後ろを取る。
大剣を両手で掴み、遠慮なく人間では到底出せないと思われる剣速で切りかかっていた。
ガスン!!!
刀身が思い切り石畳の地面に叩きつけられ、砂埃が舞い上がる。
「手ごたえ無し・・・かわされたか」
ブレイズが言うとおり振り下ろした刀身にはなんの手ごたえも無く、振り下ろした場所にもフレンは居なかった。
砂埃が消え去ると真正面にこちらを向き、冷静な表情で正眼に構えるフレンがそこに居た。
「俺のスピードに反応するとはな、さすがに毎回もう一人の俺に戦いを挑んでるだけはあるな」
そう言いつつ、再び地面を蹴り一瞬で間合いを詰めるブレイズ。
「だけど、マグレはそう何度も続くものじゃないんだよ」
無常にも大剣は横薙ぎに振るわれ、直撃すれば確実に胴体が泣き別れる斬撃が襲い掛かる。
しかし、ここで初めてフレンが動いた。
なんと襲い掛かってくる大剣を物ともせずに前に動いたのだ。
それも真正面にいるブレイズに向かって突きをするために。
その攻撃に危機感を感じたのか咄嗟に横に避けつつ攻撃をするが既にフレンはブレイズを通り過ぎていたために当たらずに空を切る、フレンは即座にこちらに向きなおしてまた正眼の構えを取る。
「・・・どうやらマグレではなさそうだね」
「・・・・・・」
「そういえば、一度した失敗は2度としないんだったね」
そう、この攻防は既にフレンは経験済みだったのだ。
神速に近い横薙ぎをどうすれば対処できるのか、彼は考えに考えて対処方法を確立していたのだ。
神速のそれも大剣というリーチの長い武器をたとえ回避できたとしてもそれは大きな隙になるのはこの一ヶ月で理解していたフレンは逆に考えたのだ。後ろや横に回避するのでは無く、前に突撃すればいいのだと。
結果として、フレンは正眼という前面に対する鉄壁の構えを取り、隙を無くしていったのだ。
もちろんこの方法にはリスクも存在する。
失敗すればたちまち攻撃を受けてしまうため普通ならばこの方法は使わない方がいいのだが、ブレイズという戦闘狂に人間である自分が勝つにはギリギリの綱渡りをするしかないとフレンは悟っていた。
実際今の反撃も体にしみこませた考えが無意識にうちに動かしたために起きた事でもある。
そのため、心中では冷や汗・・・いや滝のような冷や汗と膨大なプレッシャーの前にフレンは今にもここを逃げ出したかった。
だが、その気持ちを殺してフレンは冷静を装っていた。
表情に出せばつけこまれると理解していたからだ。
「大したものだな、1ヶ月前とはまるで別人じゃないか・・・本当にお前はフレンか?」
さっきの趣向返しのつもりなのか、フレンがブレイズに聞いた言葉を言う。
「・・・僕は間違いなくフレンです。あなたを食い止めようとしてる勇者のフレン=ユーフですよ」
フレンも似たような台詞言い、いかにも余裕があるように見せる。
「・・・気に入らないねその余裕」
癇に障ったのかブレイズの表情がさらに険しくなる。
先ほどよりも強烈な殺気がフレンに襲いかかるがそれを必死に耐える。
「・・・・・・」
「俺の殺気を受けても怯まないか・・・ますます気に入らない・・・気にいらねえんだよ!!!!!」
ブレイズが怒声を上げるのと同時に全身から炎を噴出させ、刀身の炎は赤い炎から青い炎へと切り替わる。
ブレイズから距離は離れているにもかかわらず、異常な熱風がフレンの体にぶつかり通り過ぎてゆく。
「本気で行くぜ!灼熱の業火で骨の髄まで燃やし尽くしてやる!!!!!」
ブレイズは大剣を両手で掴み、首の後ろにまわして力を溜めるような体勢を取る。
「いくぜ!これが俺の全力全開の技だ!『青火竜の化身』!!!(セイカリュウのケシン)」
大剣を振り下ろすのと同時に青白い炎がほとばしり、フレンに向かって襲い掛かってゆく。
その炎はまるで竜の形を取ったように見え、炎の先端が竜が口を大きく開けて襲い掛かってくるようにも見える。
実際に炎は地面スレスレを通過して、その衝撃波に耐え切れずに浮き上がった石畳の石を巻き込み、竜が石を噛み砕いてるように見えるほどだからだ。
「くっ!?」
繰り出された炎に反応したフレンは即座に横っ飛びをして回避を試みるが。
ジュッ!
「アチッ!?」
あまりに早い速度で飛来する青火竜の化身を避けきる事が出来ずに足の先端がわずかに巻き込まれてしまう。
あまりの熱さに地面を転げてしまうフレン。
当然その隙をブレイズが見逃すわけが無く、仕留めようと自慢の脚力を利用して、転げまわるフレンの元まで間を詰める。
「これで終わりだ!!!」
その間を詰めたスピードを維持して突きを繰り出すブレイズ。
刀身が青白く燃える大剣がフレンを捕らえようとした瞬間だった。
『スパーク・コート!!!』
フレンの体から雷が放電され、一瞬でブレイズの視界から消え去る。
ガズン!!!
大剣は地面に突き刺さるだけでフレンの体を貫く事は無かった。
「何!?何処へいった!?」
ブレイズはこの戦いにおいて初めてフレンの姿を見失っていた。
『スパーク・ソード!!!』
突如真上から声が聞こえ、上を見上げると体に雷を纏い、さらに剣にまで雷を纏わせるフレンの姿が見えた。
その姿はまさに勇者にふさわしい姿としてブレイズの瞳に移っていた。
だが、見とれるのも一瞬にして即座にフレンに向かって青火竜の化身を放つ体勢に入る。
「雷魔法か・・・さすがは勇者といったところだが、空に飛び上がったのは失敗だったな!!!」
普通なら誰しもがこの選択を失敗と考え、顔に焦りの表情の一つも浮かべるものだが、フレンは顔色一つ変えず、むしろ何かある種の覚悟を背負ったような表情をしており、まったくといって良いほどに迷いは無かった。
「今度こそ消し炭にしてやるぜ!!!『青火竜の化身!!!』」
『雷(いかずち)よ、我は願う、我の敵となる者を打ち滅ぼす力を授けたまえ!!!【ラ・スパーク!!!】』
【ラ・スパーク】
呪文を唱えて相手の頭上に魔方陣を展開して雷を落とす上級魔法のことでこの魔法が使える者は勇者としては一人前と言われるほどの威力を誇る。
「ラ・スパーク・・・勇者が使えるという上級雷魔法か。何を考えているのか知らんがそこで打てば先に貴様に当たるぞ!」
ブレイズが言うとおり、フレンはブレイズの真上にいるためどう考えても先に当たってしまうのはフレンなのだ
雷は上空に展開された魔方陣から放たれ、真っ直ぐにフレンに向かって落ちていく。
下からはブレイズの青火竜の化身も襲い掛かってきている。
誰がどう見ても自殺にしか見えないこの状況、しかしこれはフレンの狙い通りの展開だった。
とっさに思いついた策とは言えこれが一番彼女に対抗するには良いと判断したからだ。
いち早く雷がフレンに直撃しその勢いのまま、青火竜の化身に向かって落ちていく。
「やはりな、最後は俺の技で死ぬより自分で断つことを選んだわけか・・・」
あとわずかで当たる寸前に信じられない事が起きた。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
フレンが突然雄たけびを上げながら、落下し青火竜の化身に向かって剣を振り下ろしていたのだ。
ザン!
そんな音が聞こえ、一瞬にして灼熱の炎を一刀両断してブレイズの元まで雷の速度で切りかかっていた。
「グアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
雷を受けたまま、切りかかったことによりブレイズにラ・スパークの威力とスパーク・ソードの威力が合わさり、強烈な電撃をブレイズに与えていたのだ。
もちろん剣は刃が無いため、切り傷は無い。
肩ひざをつき、大剣を支えに倒れるのを拒否するブレイズ。
「な、なぜだ・・・な、にがおこった・・・」
意識が朦朧としかけながらも、ブレイズは疑問を投げかける。
フレンはゆっくりとブレイズに向き直った。
「ラ・スパークを利用して、雷の速度を使ってスパーク・ソードを使用しただけです」
「・・・そんなこと、すれば・・・おまえの・・・からだが・・・」
「確かに、生身では受けた瞬間に死んでしまいます。だから、スパーク・コートをかけたんです。あれは、雷を纏って身体能力を上げる魔法ですが若干雷の耐久力も上がるんです」
「・・・しっぱいすれば・・・しぬってのに」
「僕がブレイズさんに勝つには命を懸けたギリギリの綱渡りをするしかないって前から考えていたんです。この作戦は咄嗟に考えたものですけど、ブレイズさん自身言ってた事ですから」
「・・・なにをだ?」
「自分より強い相手に攻撃を当てる場合は正攻法では無理だと、だが生半可な奇襲は失敗すると、どうすれば当てられるか?それは・・・相手の予想を裏切る攻撃をすればいいって」
「・・・それで・・・だした、こたえが・・・あれか」
「はい」
「ははは、そうか・・・たしかに、うらぎられたよ・・・あんなばかげたこうげき・・・ふつうなら・・・しないだろうからな」
「・・・・・・」
「おれの、まけだ・・・とどめをさせ」
「!?」
「おれは、たぶん・・・このきずが、なおれば・・・またあばれだすとおもう」
「・・・・・・」
「そうしたくは、ないだろう?だったら・・・ころすこと、しか・・・とめるほうほうはない」
「・・・・・・」
「さあ、はやく・・・おれのくび・・・おまえにくれてやるから」
「・・・・・・」
「おまえになら、くれてやっても、いいんだ・・・だから、はやく」
「嫌です」
「なに?」
「嫌です!」
「なぜだ?・・・おれをいかせば・・・また、あばれるかも、しれないんだぞ」
「その時は、また僕が全力で止めます!」
「・・・・・・」
「僕は、ブレイズさんを殺したくはありません!」
「どうしてだ?・・・おれをころせば、へいわが・・・えられるん、だぞ?」
「大好きな人を殺してまで平和なんか欲しくなんかありません!!!!!」
突然のフレンの告白宣言にブレイズは朦朧としかけた意識を呼び戻すのには十分な威力だった。
「なっ!?何を言い出すんだ!?」
「僕は本気です!本気でブレイズさんが好きなんです!!!」
「お、お前正気か?俺はお前を殺そうとしたんだぞ!?」
「それでも、好きなんです。最初はたしかに厄介な人が来たと思っていました。でも・・・戦っているときのブレイズさんの心の底から楽しそうに笑っている表情に・・・僕は自分でも訳が分からないくらい動悸が激しくなって、気がついたときにはもう好きになってたんです!」
「・・・・・・」
「だから・・・だから何度も、何度も戦いを挑んだんです。不慣れな戦闘もブレイズさんの笑顔を見るためならどんなに痛くても耐えられた。ブレイズさんがつまらなさそうな表情をしたときは心の底から胸が締め付けられる思いになりました。もう僕は・・・ブレイズさんがいない世界にはいられない。ブレイズさんがいないと・・・僕・・・駄目なんです!!!」
「・・・・・・」
フレンの目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていた。
「お願いします!!!あなたが暴れたい時はいくらでも僕が相手をします。だから、だから・・・死ぬなんて言わないでください!!!」
一世一代の告白にブレイズは困惑していた。
今までの人生にこれほど自分を見てくれた存在がいただろうか?
それも、戦っているときの笑みに惚れただけなんていうちっぽけな理由で。
「俺は・・・見ての通り、普通の魔物とは違う存在だぞ?顔の半分は本当に化け物みたいだし、戦闘能力も化け物じみてるんだ。・・・本当にそんな俺で良いのか?」
「決まってるじゃないですか!僕はもう、ブレイズさん無しでは生きていく自身がありません!情けないかもしれないけど、やっぱり・・・僕はブレイズさんが好きです!!!」
フレン自身かなり混乱しているのか、もうほとんど好きという単語しか出せていない様子だった。
「・・・フッ、クックック、ハッハッハッハッハッハ、アーッハッハッハッハ!!!!!」
「ど、どうしたんですか?」
突然笑い出したブレイズにめちゃくちゃ困惑するフレン。まさか気を悪くしたのかと青ざめ始める始末だ。
「まさか、俺に惚れる奴がいるなんてな・・・いや正確にはもう一人の俺か。
なあ、さっき言った言葉間違いないんだな?」
「えっ?」
「好きってことさ」
「あ、いや、その、えっと・・・・」
「なんだちがうのか?」
顔を真っ赤にして口ごもるフレンに対して、わざとらしくガッカリした態度を見せるブレイズ。
「い、いえ違います!違います!・・・その・・・です」
「良く聞こえなかったな、もう一度」
「う、うー」
「言わないんなら・・・」
「ああ、言います、言います!!!」
さっきのお返しといわんばかりにフレンをからかい始めるブレイズ。
先ほどからかなり楽しそうな表情している。
「ぼ、僕は!ブレイズさんが!!!大好きです!!!!!」
「そうかい・・・」
告白を聞いたブレイズはフレンを抱き寄せて、そっと耳打ちする。
「俺も今好きになったぜ。お前の事をよ。これから先もう一人の俺の事をよろしく頼むな」
「それって・・・」
「言ったろ、俺はあいつの自己防衛本能だって、ようやくあいつに春が訪れたんだ。邪魔者は退散するべきだろうよ」
「そんな、それじゃあなたは・・・」
「心配すんな、俺は消えやしねえよ。たまにこいつが欲求不満にでもなったらまたひょっこり出てきてやるさ。そんときにはよろしく頼むぜ」
「ブレイズさん!!!」
顔を離すとブレイズは目を瞑っており、途端に意識が無くなったように崩れ始める。
慌てて抱きかかえるとブレイズはすうすうと寝息を立てていた。
フレンはとりあえずギルドに戻る事を決めて、懇親の力でお姫様抱っこを実施して帰っていった。
−−−ブレイズの部屋−−−
「ん、ふわー、良く寝た。ってあれここは?ギルドの部屋」
時刻は朝、ブレイズが目を覚ますとそこは1ヶ月過ごしていたギルドの自分の部屋だった。
「あれ?なんで私、昨日たしか・・・そうだ!私途中で人格が入れ替わっちゃって・・・えっと・・・あっ!?そういえば、かすかにだけど覚えてる。私フレンに告白されたのよね?・・・告白・・・告白!?」
急にボンと言う音を立てて、真っ赤になるブレイズ。
「こ、告白・・・ど、どうしよう、わ、わたし。どうすれば・・・」
相当テンパッていたが、動こうとした時に何かがぶつかりそちらに目を向けると。
「!!!!!・・・フ、フレン・・・・・・」
ベットに前のめりになるようにして寝ているフレンがそこに居た。
「フレン、こんなボロボロになってまで」
良く見てみるとフレンの顔や防具が傷がついたり、熱風で溶けかかっていたり、雷による火傷も見られた。
「ハア、ハア、ハア、どうしよう・・・今までこんなに誰かが愛しいなんて思った事ないのに・・・凄く体が疼く。本当に私も君のことを好きになっちゃったよ。起きたらどうしてくれようかな♪」
告白は成功し、一人の不運な女性の運命を切り開く事にも成功したフレン。
しかし、このあと待っているのは何十年分と溜まった性欲を開放する一人の雌蜥蜴の相手をすることだった。
果たしてフレンはこの難関を乗り越える事が出来るのだろうか?
いや、問題はないだろう。
何故なら彼と彼女の幸せへの道のりが切り開かれたのだから。
今回の小説ではブレイズとフレンのダブル視点で進めて、バトルでは作者視点も交えて書きます。
それではお楽しみください。
−−−フレン視点−−−
「・・・・・・」
ブレイズさんがギルドから出て行き、数分が経過しても僕は何が起こったのか分からずにただただ放心してへたり込んでいた。
頬の出血は血が乾きはじめたのか既に止まっていた。
「・・・追いかけなきゃ」
無意識に僕はこの言葉を言っていた。
今のブレイズさんは明らかにいつもと様子が違っていた。
もし、仮に追いついたとしても・・・恐らくはブレイズさんが言ったとおりに僕は襲われる可能性が高い。
・・・・・・だけど、このまま追いかけなかったら、僕は一生後悔してしまう、そんな気がしたのかもしれない。
僕は急いで自分の部屋に駆け込み、装備を整えてギルドから飛び出していた。
ブレイズさんを止めるために。
−−−ブレイズ視点−−−
「ここを抜ければ、人目にはつかないはず」
私が今居る場所は元北の居住地区と中央地区をつなぐ入り口前だ。
なんでも、何ヶ月か前にアイビスカからやってきた教団の潜入兵士がこの地区の住人を秘密裏に惨殺したらしく、今では無人の地区になってしまったらしい。そのおかげで今はこの入り口にバリケートと立ち入り禁止の立て札をおいてるために人はまったくと言って良いほどに来ない、まるで私のために用意されたのではないかと思ってしまうほどにだ。
入り口に当たる北の関所は硬く門を閉ざされていると聞くがそれはなんとかなるだろう。
「とりあえずはさっさとここを抜けるとしようか」
私はバリケートを跨いで通過して北の無人地区を進んでいく。
今日は満月だなとのんきに考えて歩いていると異変が私を襲った。
「グッ!?頭が・・・ぐっ!・・・ば、馬鹿な、まだ、出てくるには早いはずなのに!?・・・や、やめろ!出てくるな!!!・・・ヴッ、ウワアアアアアアアアアア!!!!!」
激しい頭痛が私を襲う中、自分の意識が薄れていくのが分かった。
誰にも聞こえないのは知っているがそれでも願わずにはいられなかった。
誰か!私を止めてくれ!!!
−−−フレン視点−−−
ギルドを出てすぐにブレイズさんがどこに言ったのか分からずに悩んでいると突然ブレイズさんの悲鳴が聞こえた。
「今のブレイズさんの・・・あっちか!」
僕は全速力で駆け出して北の無人地区を目指していく。
バリケートがあったけどそれを無視して飛び越えて通過すると道の真ん中に見知った姿が見えた。
「ブレイズさん!!!」
「・・・・・・・・・」
声を掛けてもうずくまって返事をしてくれないブレイズさんに僕は疑問を覚えて、さらに近寄って声を掛けようとした。
「ブレ・・・!?」
チャキ
突然ブレイズさんが立ち上がったと思ったら、背中に背負っていた大剣を抜き放って、こっちにゆっくりと振り返ってきた。
「ブレイズさん?」
「・・・フフフ、ハハハハハ!!!まさかいきなり獲物に出会えるなんてな、俺はなんて運がいいのかな?なあ・・・フレン」
「え、獲物?な、何言ってるんですか!?」
「そのままの意味さ。お前は俺に狩られる可愛い獲物だよ」
ブレイズさんがそう告げるのと同時に尻尾に炎が灯りどんどん大きくなっていくのが分かる。
「まさか、最初にお前が狩れるとは思ってなかったからな凄い興奮してきたよ」
「あなたは本当にブレイズさんなんですか?」
「ああ、俺はブレイズだ。全ての破壊を望み、全てを拒絶する戦闘狂火竜のブレイズ=ソラリスさ」
「そんな・・・嘘だ!!!」
僕の知っているブレイズさんはこんな事を言う人じゃない、ブレイズさんはたしかに戦闘狂だ。でも、嬉々として人を殺そうなんて人じゃなかったはずだ。
この人は僕が知っているブレイズさんじゃない!
「お前はいったい誰だ!?」
「・・・フフフ、確かに俺はお前が知っているブレイズじゃない。俺はもう一人のブレイズさ」
「もう一人?」
「俺は過去のトラウマによって出来たあいつの自己防衛本能みたいなものだ。だが何がキッカケかは知らないが、俺に俺という人格ができた。あいつも戦闘が好きって所は俺と対して変わらんがそれでも人を殺す事を極端に拒絶しやがったんだ。おかげであいつが過去のトラウマを思い出さない限り出てこれなくなっちまったんだ。だがやっとのことで出てこれたがな」
「なんであなたは破壊を望むんですか?」
「それは今から死ぬお前には関係の無い事だ」
「・・・・・・」
「・・・まあ、冥土の土産に教えてやろう。俺は俺以外の奴が嫌いなんだよ。どいつもこいつもこの顔を見れば、人を化け物扱いしやがった。親父は俺の事を裏切ろうとしやがった。誰も俺を見ようとしない!外面だけ見て、中身を見ようとしない!さらには、俺の生きる場所を奪った盗賊連中、ただ幸せになりたかっただけなのに何一つ幸せは訪れない・・・だからあの時決めたのさ。
もう誰も信用しない、誰にも頼らない、信用できるのは自分自身のみ、自分は孤独に幸せに生きてやるってな」
「そんな、だからってもう一人のブレイズさんの気持ちは知っているはずですよね!?なのに!」
「黙れ!!!お前に何がわかる!一握りの幸せすら握らせてくれない、こんな糞ったれな世界のために俺は何度も死に掛けたんだ!!!他人にちやほやされて呑気に育ったお前なんかに俺の気持ちが分かるのか!!!!!」
僕はこの時初めてブレイズさんの本心に気がついた。
恐らくブレイズさんはそのトラウマが原因で人を信じられなくなり、世界を憎んだ。たぶん、それがこのブレイズさんなのだろう。
もう一人のいつものブレイズさんは過去と決別して前を向いて歩こうとしていたのだろう。
だけどその過去を未だに引きずっているんだ。
僕には想像も出来ない世界だ。
恐らく言葉で何を言おうが通じない。
今のブレイズさんは憎しみと破壊の権化だ。
言葉を届かせるには・・・
チャキ スゥー フォン!
戦うしかない!
「ブレイズさん、僕にはあなたの苦しみを完全に理解してあげる事はできません。ですが、今あなたと戦う事はできる。もう一人のブレイズさんがよく言っていました。戦士には言葉は不要、剣で語り合えと・・・今がその時と考えます」
「分かってるじゃないか、さすがはもう一人の俺が見込んだだけの事はある。・・・俺は手加減をすることができねえ。簡単に死ぬなよ」
「そこまで柔じゃないですよ」
−−−作者視点−−−
静かな無人の地区に二人の人影がぽっかりと浮かび上がる。
一人は戦闘狂火竜の異名を持つブレイズ=ソラリス。
右手に両手で持たなければ持てなさそうな赤い大剣を持ち、刀身と尻尾から炎が燃え上がり、彼女の興奮度を表していた。
もう一人は勇者の肩書きを持つフレン=ユーフ。
刃がまったく無い細身の両手剣を落ち着いた様子で正眼に構えていた。
互いに言葉は発さず、どう動くのか様子を見合っていた。
にらみ合いが続き、時々風が強く吹いて二人に対して風をぶつけていくがまったく動じない。
ブレイズがピクリと右手を動かし、それに微妙に反応するフレン。
だがまったく動かない両者。
「ちっ、腰抜けがそっちが来ないなら俺からいくぜ!!!」
ブレイズが痺れを切らしたといわんばかりに言葉を吐き、戦闘態勢を作る。
だが、今のフレンには普段感じる隙が見当たらなく正直攻めあぐねていた。
だから微妙に攻撃するぞというフェイントを見せて隙を作ろうとしたがまったくと言って良いほどに隙は出来なかった。
だからこそ、ブレイズにしては珍しく様子見をしていたのだが元々我慢強く無いほうだったために抑えきれなくなり乱戦に持ち込もうと考えたのだ。
ブレイズは地面を思いっきり蹴り、一瞬にしてフレンの横を通り過ぎ、後ろを取る。
大剣を両手で掴み、遠慮なく人間では到底出せないと思われる剣速で切りかかっていた。
ガスン!!!
刀身が思い切り石畳の地面に叩きつけられ、砂埃が舞い上がる。
「手ごたえ無し・・・かわされたか」
ブレイズが言うとおり振り下ろした刀身にはなんの手ごたえも無く、振り下ろした場所にもフレンは居なかった。
砂埃が消え去ると真正面にこちらを向き、冷静な表情で正眼に構えるフレンがそこに居た。
「俺のスピードに反応するとはな、さすがに毎回もう一人の俺に戦いを挑んでるだけはあるな」
そう言いつつ、再び地面を蹴り一瞬で間合いを詰めるブレイズ。
「だけど、マグレはそう何度も続くものじゃないんだよ」
無常にも大剣は横薙ぎに振るわれ、直撃すれば確実に胴体が泣き別れる斬撃が襲い掛かる。
しかし、ここで初めてフレンが動いた。
なんと襲い掛かってくる大剣を物ともせずに前に動いたのだ。
それも真正面にいるブレイズに向かって突きをするために。
その攻撃に危機感を感じたのか咄嗟に横に避けつつ攻撃をするが既にフレンはブレイズを通り過ぎていたために当たらずに空を切る、フレンは即座にこちらに向きなおしてまた正眼の構えを取る。
「・・・どうやらマグレではなさそうだね」
「・・・・・・」
「そういえば、一度した失敗は2度としないんだったね」
そう、この攻防は既にフレンは経験済みだったのだ。
神速に近い横薙ぎをどうすれば対処できるのか、彼は考えに考えて対処方法を確立していたのだ。
神速のそれも大剣というリーチの長い武器をたとえ回避できたとしてもそれは大きな隙になるのはこの一ヶ月で理解していたフレンは逆に考えたのだ。後ろや横に回避するのでは無く、前に突撃すればいいのだと。
結果として、フレンは正眼という前面に対する鉄壁の構えを取り、隙を無くしていったのだ。
もちろんこの方法にはリスクも存在する。
失敗すればたちまち攻撃を受けてしまうため普通ならばこの方法は使わない方がいいのだが、ブレイズという戦闘狂に人間である自分が勝つにはギリギリの綱渡りをするしかないとフレンは悟っていた。
実際今の反撃も体にしみこませた考えが無意識にうちに動かしたために起きた事でもある。
そのため、心中では冷や汗・・・いや滝のような冷や汗と膨大なプレッシャーの前にフレンは今にもここを逃げ出したかった。
だが、その気持ちを殺してフレンは冷静を装っていた。
表情に出せばつけこまれると理解していたからだ。
「大したものだな、1ヶ月前とはまるで別人じゃないか・・・本当にお前はフレンか?」
さっきの趣向返しのつもりなのか、フレンがブレイズに聞いた言葉を言う。
「・・・僕は間違いなくフレンです。あなたを食い止めようとしてる勇者のフレン=ユーフですよ」
フレンも似たような台詞言い、いかにも余裕があるように見せる。
「・・・気に入らないねその余裕」
癇に障ったのかブレイズの表情がさらに険しくなる。
先ほどよりも強烈な殺気がフレンに襲いかかるがそれを必死に耐える。
「・・・・・・」
「俺の殺気を受けても怯まないか・・・ますます気に入らない・・・気にいらねえんだよ!!!!!」
ブレイズが怒声を上げるのと同時に全身から炎を噴出させ、刀身の炎は赤い炎から青い炎へと切り替わる。
ブレイズから距離は離れているにもかかわらず、異常な熱風がフレンの体にぶつかり通り過ぎてゆく。
「本気で行くぜ!灼熱の業火で骨の髄まで燃やし尽くしてやる!!!!!」
ブレイズは大剣を両手で掴み、首の後ろにまわして力を溜めるような体勢を取る。
「いくぜ!これが俺の全力全開の技だ!『青火竜の化身』!!!(セイカリュウのケシン)」
大剣を振り下ろすのと同時に青白い炎がほとばしり、フレンに向かって襲い掛かってゆく。
その炎はまるで竜の形を取ったように見え、炎の先端が竜が口を大きく開けて襲い掛かってくるようにも見える。
実際に炎は地面スレスレを通過して、その衝撃波に耐え切れずに浮き上がった石畳の石を巻き込み、竜が石を噛み砕いてるように見えるほどだからだ。
「くっ!?」
繰り出された炎に反応したフレンは即座に横っ飛びをして回避を試みるが。
ジュッ!
「アチッ!?」
あまりに早い速度で飛来する青火竜の化身を避けきる事が出来ずに足の先端がわずかに巻き込まれてしまう。
あまりの熱さに地面を転げてしまうフレン。
当然その隙をブレイズが見逃すわけが無く、仕留めようと自慢の脚力を利用して、転げまわるフレンの元まで間を詰める。
「これで終わりだ!!!」
その間を詰めたスピードを維持して突きを繰り出すブレイズ。
刀身が青白く燃える大剣がフレンを捕らえようとした瞬間だった。
『スパーク・コート!!!』
フレンの体から雷が放電され、一瞬でブレイズの視界から消え去る。
ガズン!!!
大剣は地面に突き刺さるだけでフレンの体を貫く事は無かった。
「何!?何処へいった!?」
ブレイズはこの戦いにおいて初めてフレンの姿を見失っていた。
『スパーク・ソード!!!』
突如真上から声が聞こえ、上を見上げると体に雷を纏い、さらに剣にまで雷を纏わせるフレンの姿が見えた。
その姿はまさに勇者にふさわしい姿としてブレイズの瞳に移っていた。
だが、見とれるのも一瞬にして即座にフレンに向かって青火竜の化身を放つ体勢に入る。
「雷魔法か・・・さすがは勇者といったところだが、空に飛び上がったのは失敗だったな!!!」
普通なら誰しもがこの選択を失敗と考え、顔に焦りの表情の一つも浮かべるものだが、フレンは顔色一つ変えず、むしろ何かある種の覚悟を背負ったような表情をしており、まったくといって良いほどに迷いは無かった。
「今度こそ消し炭にしてやるぜ!!!『青火竜の化身!!!』」
『雷(いかずち)よ、我は願う、我の敵となる者を打ち滅ぼす力を授けたまえ!!!【ラ・スパーク!!!】』
【ラ・スパーク】
呪文を唱えて相手の頭上に魔方陣を展開して雷を落とす上級魔法のことでこの魔法が使える者は勇者としては一人前と言われるほどの威力を誇る。
「ラ・スパーク・・・勇者が使えるという上級雷魔法か。何を考えているのか知らんがそこで打てば先に貴様に当たるぞ!」
ブレイズが言うとおり、フレンはブレイズの真上にいるためどう考えても先に当たってしまうのはフレンなのだ
雷は上空に展開された魔方陣から放たれ、真っ直ぐにフレンに向かって落ちていく。
下からはブレイズの青火竜の化身も襲い掛かってきている。
誰がどう見ても自殺にしか見えないこの状況、しかしこれはフレンの狙い通りの展開だった。
とっさに思いついた策とは言えこれが一番彼女に対抗するには良いと判断したからだ。
いち早く雷がフレンに直撃しその勢いのまま、青火竜の化身に向かって落ちていく。
「やはりな、最後は俺の技で死ぬより自分で断つことを選んだわけか・・・」
あとわずかで当たる寸前に信じられない事が起きた。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
フレンが突然雄たけびを上げながら、落下し青火竜の化身に向かって剣を振り下ろしていたのだ。
ザン!
そんな音が聞こえ、一瞬にして灼熱の炎を一刀両断してブレイズの元まで雷の速度で切りかかっていた。
「グアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
雷を受けたまま、切りかかったことによりブレイズにラ・スパークの威力とスパーク・ソードの威力が合わさり、強烈な電撃をブレイズに与えていたのだ。
もちろん剣は刃が無いため、切り傷は無い。
肩ひざをつき、大剣を支えに倒れるのを拒否するブレイズ。
「な、なぜだ・・・な、にがおこった・・・」
意識が朦朧としかけながらも、ブレイズは疑問を投げかける。
フレンはゆっくりとブレイズに向き直った。
「ラ・スパークを利用して、雷の速度を使ってスパーク・ソードを使用しただけです」
「・・・そんなこと、すれば・・・おまえの・・・からだが・・・」
「確かに、生身では受けた瞬間に死んでしまいます。だから、スパーク・コートをかけたんです。あれは、雷を纏って身体能力を上げる魔法ですが若干雷の耐久力も上がるんです」
「・・・しっぱいすれば・・・しぬってのに」
「僕がブレイズさんに勝つには命を懸けたギリギリの綱渡りをするしかないって前から考えていたんです。この作戦は咄嗟に考えたものですけど、ブレイズさん自身言ってた事ですから」
「・・・なにをだ?」
「自分より強い相手に攻撃を当てる場合は正攻法では無理だと、だが生半可な奇襲は失敗すると、どうすれば当てられるか?それは・・・相手の予想を裏切る攻撃をすればいいって」
「・・・それで・・・だした、こたえが・・・あれか」
「はい」
「ははは、そうか・・・たしかに、うらぎられたよ・・・あんなばかげたこうげき・・・ふつうなら・・・しないだろうからな」
「・・・・・・」
「おれの、まけだ・・・とどめをさせ」
「!?」
「おれは、たぶん・・・このきずが、なおれば・・・またあばれだすとおもう」
「・・・・・・」
「そうしたくは、ないだろう?だったら・・・ころすこと、しか・・・とめるほうほうはない」
「・・・・・・」
「さあ、はやく・・・おれのくび・・・おまえにくれてやるから」
「・・・・・・」
「おまえになら、くれてやっても、いいんだ・・・だから、はやく」
「嫌です」
「なに?」
「嫌です!」
「なぜだ?・・・おれをいかせば・・・また、あばれるかも、しれないんだぞ」
「その時は、また僕が全力で止めます!」
「・・・・・・」
「僕は、ブレイズさんを殺したくはありません!」
「どうしてだ?・・・おれをころせば、へいわが・・・えられるん、だぞ?」
「大好きな人を殺してまで平和なんか欲しくなんかありません!!!!!」
突然のフレンの告白宣言にブレイズは朦朧としかけた意識を呼び戻すのには十分な威力だった。
「なっ!?何を言い出すんだ!?」
「僕は本気です!本気でブレイズさんが好きなんです!!!」
「お、お前正気か?俺はお前を殺そうとしたんだぞ!?」
「それでも、好きなんです。最初はたしかに厄介な人が来たと思っていました。でも・・・戦っているときのブレイズさんの心の底から楽しそうに笑っている表情に・・・僕は自分でも訳が分からないくらい動悸が激しくなって、気がついたときにはもう好きになってたんです!」
「・・・・・・」
「だから・・・だから何度も、何度も戦いを挑んだんです。不慣れな戦闘もブレイズさんの笑顔を見るためならどんなに痛くても耐えられた。ブレイズさんがつまらなさそうな表情をしたときは心の底から胸が締め付けられる思いになりました。もう僕は・・・ブレイズさんがいない世界にはいられない。ブレイズさんがいないと・・・僕・・・駄目なんです!!!」
「・・・・・・」
フレンの目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていた。
「お願いします!!!あなたが暴れたい時はいくらでも僕が相手をします。だから、だから・・・死ぬなんて言わないでください!!!」
一世一代の告白にブレイズは困惑していた。
今までの人生にこれほど自分を見てくれた存在がいただろうか?
それも、戦っているときの笑みに惚れただけなんていうちっぽけな理由で。
「俺は・・・見ての通り、普通の魔物とは違う存在だぞ?顔の半分は本当に化け物みたいだし、戦闘能力も化け物じみてるんだ。・・・本当にそんな俺で良いのか?」
「決まってるじゃないですか!僕はもう、ブレイズさん無しでは生きていく自身がありません!情けないかもしれないけど、やっぱり・・・僕はブレイズさんが好きです!!!」
フレン自身かなり混乱しているのか、もうほとんど好きという単語しか出せていない様子だった。
「・・・フッ、クックック、ハッハッハッハッハッハ、アーッハッハッハッハ!!!!!」
「ど、どうしたんですか?」
突然笑い出したブレイズにめちゃくちゃ困惑するフレン。まさか気を悪くしたのかと青ざめ始める始末だ。
「まさか、俺に惚れる奴がいるなんてな・・・いや正確にはもう一人の俺か。
なあ、さっき言った言葉間違いないんだな?」
「えっ?」
「好きってことさ」
「あ、いや、その、えっと・・・・」
「なんだちがうのか?」
顔を真っ赤にして口ごもるフレンに対して、わざとらしくガッカリした態度を見せるブレイズ。
「い、いえ違います!違います!・・・その・・・です」
「良く聞こえなかったな、もう一度」
「う、うー」
「言わないんなら・・・」
「ああ、言います、言います!!!」
さっきのお返しといわんばかりにフレンをからかい始めるブレイズ。
先ほどからかなり楽しそうな表情している。
「ぼ、僕は!ブレイズさんが!!!大好きです!!!!!」
「そうかい・・・」
告白を聞いたブレイズはフレンを抱き寄せて、そっと耳打ちする。
「俺も今好きになったぜ。お前の事をよ。これから先もう一人の俺の事をよろしく頼むな」
「それって・・・」
「言ったろ、俺はあいつの自己防衛本能だって、ようやくあいつに春が訪れたんだ。邪魔者は退散するべきだろうよ」
「そんな、それじゃあなたは・・・」
「心配すんな、俺は消えやしねえよ。たまにこいつが欲求不満にでもなったらまたひょっこり出てきてやるさ。そんときにはよろしく頼むぜ」
「ブレイズさん!!!」
顔を離すとブレイズは目を瞑っており、途端に意識が無くなったように崩れ始める。
慌てて抱きかかえるとブレイズはすうすうと寝息を立てていた。
フレンはとりあえずギルドに戻る事を決めて、懇親の力でお姫様抱っこを実施して帰っていった。
−−−ブレイズの部屋−−−
「ん、ふわー、良く寝た。ってあれここは?ギルドの部屋」
時刻は朝、ブレイズが目を覚ますとそこは1ヶ月過ごしていたギルドの自分の部屋だった。
「あれ?なんで私、昨日たしか・・・そうだ!私途中で人格が入れ替わっちゃって・・・えっと・・・あっ!?そういえば、かすかにだけど覚えてる。私フレンに告白されたのよね?・・・告白・・・告白!?」
急にボンと言う音を立てて、真っ赤になるブレイズ。
「こ、告白・・・ど、どうしよう、わ、わたし。どうすれば・・・」
相当テンパッていたが、動こうとした時に何かがぶつかりそちらに目を向けると。
「!!!!!・・・フ、フレン・・・・・・」
ベットに前のめりになるようにして寝ているフレンがそこに居た。
「フレン、こんなボロボロになってまで」
良く見てみるとフレンの顔や防具が傷がついたり、熱風で溶けかかっていたり、雷による火傷も見られた。
「ハア、ハア、ハア、どうしよう・・・今までこんなに誰かが愛しいなんて思った事ないのに・・・凄く体が疼く。本当に私も君のことを好きになっちゃったよ。起きたらどうしてくれようかな♪」
告白は成功し、一人の不運な女性の運命を切り開く事にも成功したフレン。
しかし、このあと待っているのは何十年分と溜まった性欲を開放する一人の雌蜥蜴の相手をすることだった。
果たしてフレンはこの難関を乗り越える事が出来るのだろうか?
いや、問題はないだろう。
何故なら彼と彼女の幸せへの道のりが切り開かれたのだから。
12/01/24 23:37更新 / ミズチェチェ
戻る
次へ