前編 2人の出会い
「あそこに噂の奴が・・・」
遠く目で街が視認できる高台でサラマンダーが一人呟いていた。
彼女の名はブレイズ=ソラリス、全世界で指名手配を受けている戦闘狂で以前はバトルクラブにも所属していたほどの腕前だ。
今はもっと強くなるためにバトルクラブを抜けて旅をしている。
「どれほど強いのかな?楽しみにしているよ・・・勇者君♪」
ブレイズの目的は噂に聞こえたとある勇者と戦うことだった。
たまたま聞こえたその噂を信じてブレイズは勇者の行方を追っていた。
全ては楽しい戦いをするために・・・
−−−要塞貿易都市エリエール南関所前−−−
「エリエールか・・・また厄介なとこに来てるものだね・・・でも、難関が多ければ多いほど楽しみも増えるしいいか♪」
要塞貿易都市エリエールとは街の周りを高い防壁で囲み外敵の侵入を拒む要塞と化した貿易都市で要塞が出来て以来外敵の侵入を許したことが無いまさに無敵の都市である。
ブレイズはそんな街に今から襲いに行こうというのに物凄く気楽に歩いて関所に近づいていた。
関所には数人の兵士が待機していて目を光らせていた。
「待て、わが都市に何用だ!」
ブレイズが近づくと兵士が気づき通行を止めようとする。
「いやね、噂の勇者君がここに居るって聞いてね。ちょっと戦ってくれないかなと思ってね♪」
「勇者?何のことかは知らないがわが都市に争いごとを持ち込まれては困る!早々にお引取り願いたい」
「そう言っても、遥々会いにやってきたんだから、探すだけ探させてよ。ね、お願い♪」
「駄目なものは駄目だ!」
「・・・そう、それなら」
そういうとブレイズはさっきまでとは明らかに違う表情をしていた。
「強引に通るね♪」
「な、なに!!?・・・を・・・」
兵士の腹部にブレイズのボディブローが炸裂していた。
多少警戒していたはずの兵士に気づかせることも無いまま攻撃していたのだ。
「き、貴様!何をする!」
離れてみていた兵士達が近寄り声を荒げて剣を構える。
「何って・・・ただボディにパンチ入れただけよ?通してくれないからちょっと気絶させたのだけど、それがどうかした?」
「どうかじゃない!我々に攻撃するということはこの街を襲うと同じことだ!」
「・・・そうね、目的の勇者君に会うためならこの際人の一人や二人くらい殺してもいいかもね」
「何!?貴様、本当に魔物か!?」
「魔物ね・・・たしかに普通の魔物とはちょっと違うかもね・・・私、戦うことしか愛せていないのだから」
ブレイズの目は先ほどの穏やかな眼光から一変して戦闘狂がよくする狂喜の目に変わっていた。
兵士達の間に緊張が走り、ごくりと唾を飲み込んだ。
一触即発、そんな緊張感が漂う中とある声が響いた。
「やめろ!お前達!」
関所の中からそんな声が届き、兵士達は唐突に動きを止めて後ろを見る。
「た、隊長・・・」
「何故止めるんですか!?」
「馬鹿者!相手の力量も分からんのかお前達は!!!」
その一括に兵士達は縮こまり剣を下ろし始める。
「へえー・・・エリエールでも指折りの使い手であるあなたに出会えるなんてね、なんてラッキーなのかしら♪・・・ねえ南関所守備隊隊長ケーニッヒ=グラン」
「私のことを知っていてもらえるとは光栄だね。戦闘狂火竜さん」
グランの一言にその場にいた兵士達に緊張が走っていた。
全世界で指名手配を受けている犯罪者が目の前に居るのだ。
緊張しない方がおかしい。
「グランさん、私はただ噂に聞こえた勇者君と戦ってみたいだけなんだけど・・・中に入れろとまでは言わないから連れてきていただけないかしら?」
「・・・冗談を言ってもらっては困る。第一、この街にそのような人物はいないとさっき兵士にも言われていただろう?」
「私の情報網を侮ってもらっては困りますね。たしかな筋の情報でこの街に勇者君が来ているっていう情報を手にしているんです。この街の領主に面会するためだという情報をね」
「・・・・・・知らんものは知らん」
「なら、捜索するだけさせてください。街の人に危害は加えないと約束しましょう。なんなら、武器を預けてもいいですよ?」
「・・・・・・無理だな。貴様は犯罪者だ。そのような者が平気で街を歩けると思っているのか?」
「そうですか・・・なら」
「と言いたいところだが私としても無駄な血が流れるのは避けたい。そこでだ。私と戦い勝てたならその人物とやらの所に案内してやろう」
「本当ですか?」
「本当だ。私とてリザードマンだ、強い者の噂を聞けば戦いたくもなる。気持ちは分からなくも無い、だが・・・私の仕事の都合上タダでは通せないという話なだけでな、悪くない条件だと思うがな?」
しばらくブレイズは考え込み、答えを出した。
「ええ!その条件でいいですわ♪強い人とそれも同じ魔物とも戦えるのだもの文句は無いわ♪」
「ならば追加条件がある。武器はこちらが用意した木剣を使ってもらうこと、それから、負けた場合は素直に捕まることだ。それでもいいか?」
普通に考えれば理不尽な条件でしかないのだがブレイズは迷うことなく答えを決めていた。
「いいわ。それでやりましょう♪」
「本当に戦いが好きなのだな・・・」
同じ戦闘好きのリザードマンが思わず呆れるくらいなのだからその異常性は計り知れないモノがある。
お互いに木剣を構えて、距離を取る二人。
静寂に包まれ、緊張感が漂い始める。
ヒュン カツーン!
何が切欠となったのかお互いに地面を蹴り中央で木剣同士がぶつかり合う!
所謂鍔迫り合いになったのだ。
グランが押し負けないように力を込めていると唐突にブレイズが笑い、フッと剣から感じる力が無くなり、わずかによろけてしまう。
この時ブレイズはグラン以上の力で押し込んでいたが必死に押し返そうとするグランの力を利用するためにワザと力を抜いて真横に移動したのだ。
マズイと感じて即座に対応しようとしたがそれも間に合わず、グランはわずかに前によろけてしまったのだ。
「まだまだですね」
「くっ!?」
真横に移動したブレイズはそのままよろけたグランの手元を狙い真っ直ぐに振り下ろしていた。
しかし、グランも意地があるのか寸でのところで体を強引にひねり、攻撃をかわしてそのひねった勢いも利用して右足で体勢を整えてそのまま叩きつけようとするが。
「なっ!?うがぁ!!!」
叩きつけようとした場所にはすでに誰もおらず、かわりに背中に強烈な攻撃が当たり、成す術も無く吹っ飛ばされるグラン。
「いけないですよ?相手が何処に居るのかも確かめないで攻撃するのは・・・まあ、あの体制から攻撃をかわして反撃に移ったのは見事ですが」
「くっ、な、何が?」
「何故吹き飛ばされたのか分からないという顔をしてますね?これを使ったんですよ」
そういってブレイズは尻尾を動かしてその存在を示す。
「・・・なるほど、死角に避け様尻尾を使って攻撃をしたというわけか」
「良く出来ました♪それで、まだ続けますか?」
立ち上がったグランを見て再び剣を構えるブレイズ、その顔は笑ってはいるが顔の右半分の目は得物を見つめる捕食者の目になっていた。
グランは最初に剣を構えなおしたが、やがて何かを諦めるように剣を放り投げて降参のポーズを取っていた。
「いや、私の負けだ。あれが実戦なら私はそのまま剣で斬られていたはずだからな、完敗だよ。約束どおりにその噂の勇者君とやらに合わせてやろう」
「ありがとう♪」
「ただし、私も監視としてお前に同行する。もしもこの街で殺人などやろうとすれば命を懸けてでも止めに入るからな」
「私は一度した約束は守る主義ですよ。心配なさらずに」
「一応武器はこちらで預からせてもらうからな」
「いいですよ、はい♪」
そう言ってブレイズは愛剣をグランに預ける。
「たしかに預かった。それでは向かうとしようか」
「お願いしますね♪」
グランとブレイズは関所の中へと消えていった。
残された兵士達はあまりに一瞬の出来事にただただ呆然とするしかなく手にした剣を忌々しげに見ていた。
−−−領主の城・レオンの私室−−−
「そうですか・・・まったく知らないのですか」
「ああ、さすがのオレでも魔王のことは知らねえし、俺の先祖のこともあまり興味がねえから特に調べたこともねえんだ」
現在私室で話をしているのはこの街の領主でもありギルドマスターでもあるレオンと。
「しかし、わざわざこのオレに話を聞きに来るだなんて、お前さんも相当変わっているな。一応勇者なんだろう?いいのかい魔物も住んでいるこの街にやってきて?」
「たしかに僕は勇者ですが、別に好き好んでなったわけではありません。たまたま神の加護を受けてしまったのでなったに過ぎません。それに僕は元来争いごとを好みません、だから魔物をどうこうしようとか考えたことはありません情報を集めているのは少しでも勇者としての行動を取っておかないと僕自身が危ないからです。ただでさえ平和ボケした勇者などと言われていますからね」
「なるほどね」
そう今レオンと話している人物こそがブレイズが探していた勇者その人であり、名をフレン=ユーフという。
「でもよ、お前さんの噂は俺の耳にも届いてるぜ?100年に一度の逸材とか神に愛された少年とかいろいろとよ」
「それはあくまで僕の勇者としての名を広めて教団派の人間にまだ希望があると伝えるためです。実際のところ僕自身確かに努力もして、神の加護も受けたせいか、能力は普通の人よりは高いと思いますが・・・それでも魔王を倒せるなんて考えたこともないし、むしろ何故倒さなくてはならないのか疑問に思っているくらいです」
「反魔物派の人間にもそんな考えの奴はいるんだな」
「そりゃそうですよ。全員が全員同じ考えなわけないじゃないですか。中には魔物に助けられて、教団の教えに疑問を持つ人物もいます」
「ふ〜ん、なかなか有益な情報だな。それにしてもよ・・・」
コンコン
レオンがさらに話を聞こうとした矢先だった。突然ノック音が響き渡り話を中断さぜるを得なくなったのだ。
「誰だ?」
『南関所警備隊長 ケーニッヒ=グランです。実は勇者様に会いたいという者がいまして、面会願えませんか?』
レオンはまゆを上げて訝しげな顔をしたが。
「・・・いいだろう入れ」
グランが連れてきたのだから問題は無いと判断して入室を許可した。
『失礼します』
ガチャ ギイイイイ
扉が開き姿を現したのはグランと、手配書で見た覚えのあるサラマンダーがそこにいた。
「グランどういうことか説明してもらえるか?」
「ハッ!レオン様もご存知の通りこの者は指名手配されている身ですがこの者の目的はそちらにおられる勇者様と戦いたいということでして、一度はお帰り願いましたが本人の強い希望により条件付で連れてまいった次第です」
「その条件とは?」
「まず殺害の禁止です。そしてちゃんと本人がいいと言ったらという条件の下来ていただきました。武器はすでに預かっているのでいくら彼女といえど無茶は出来ません」
「・・・なるほどね、でどうするフレン君?」
「・・・その、何故僕と戦いたいんですか?」
今までの説明を聞いていたのか当然の疑問を口にするフレン。
それに対して、ブレイズはニコリと笑って告げる。
「君が強いという噂を聞いてね、私は強い奴と戦うのが好きでさ♪そういう噂を聞くといてもたってもいられなくなるんだ」
「はあ、でも僕は噂ほど強くは無いと思いますよ?」
「・・・そうかもしれないけどさ、なんていうか、ここまで来たら後には引けないし、それに私の本能を押さえ込むのもそろそろ限界に近いんだよね・・・さっきから暴れたくて仕方が無いんだ。もう君が強い強くないなんて言おうが関係ないの。大丈夫、最近はかなり安定しているから殺すことは無いと思うから」
ブレイズの言うことは常識をぶち破りまさに戦闘狂にふさわしい言葉を放っていた。
その狂喜を孕んだ台詞にフレンだけでなく、グランやレオンですら冷や汗をかいていた。
その沈黙を破ったのはフレンだった。
「では僕が戦えば、あなたの気は住むのですね?」
「そういうこと♪」
「わかりました。その勝負受けましょう」
フレンがこの異常な戦闘狂の勝負を受けることを告げるとブレイズはさらに笑みを深めた。
「ありがとう♪それじゃさっそくやろうよ♪」
「ま、待て待て、ここでおっぱじめようとするんじゃねえ!」
その場でファイティングポーズを取り始めたので慌ててレオンが横から口を挟む。
「戦うなら良いとこがあるからそこに案内してやるよ」
突然の止められたことにブレイズは不機嫌な顔になりファイティングポーズを渋々解く。
「なら、さっさと案内してよ」
「おう!ついてきな」
レオンは自分の私室を壊されてはたまらないという思いから二人をとある場所に案内するのだった。
−−−賭博闘技場−−−
「ここなら、どんだけ暴れても問題ねえから遠慮なくやってくれ!審判はコイツにやってもらうから」
レオンが親指を向けた先に立っていたのは何時の間にいたのか黒い鱗が目立つドラゴンがそこにいた。
「レオン様、いきなり我を呼び出して審判をやれだなんて、何を考えているのですか?」
「だってよ、イカロスなら公平な立場で勝敗を見切れるだろうこれ以上の適任はいないだろ」
「呼ばれた我が迷惑だと言っているのですが」
このドラゴンはエリエール軍守備隊長を務めており、同時にレオンの秘書も兼任しているほどの人材で普段は仕事をサボるレオンを良く追い掛け回している。
「まあ、あまり騒ぎ大きくせずに済ますにはこれが一番みたいだし、何より本人が勝負を引き受けたんだ。なるべく大事が起こらないようにサポートするしかねえだろう?」
「・・・はあー、事情がさっぱり分かりませんがとにかく審判をやればいいのですね」
「そういうこった。頼むぜ」
「承知しました」
レオンがイカロスの説得が終わったことにより、待っている二人に近づきそれぞれに木剣を渡す。
「とりあえず、審判の用意もできた。ルールはこの木剣かもしくは体術で相手を戦闘不能もしくは降参宣言をさせれば勝ちだ。それで文句は無いか?」
「はい!」
「全然構わないわ♪」
「よし、それじゃあ後は頼むぜイカロス」
レオンは言うだけ言うとその場を離れてグランと一緒に見物を決め込んでいた。
「それでは、お二人とも準備はよろしいですか?」
二人は無言で剣を構え始め、合図を待った。
「それでは、はじめ!!!」
合図がなったのと同時にフレンは飛び出していた。
剣を両手で持ち、脇を絞るように構えていつでも突きができる体勢で真っ直ぐにブレイズに突っ込んでいく。
ブレイズは片手で剣を持ち、半身になってフレンを待ち受ける体勢になっていた。
「てやー!」
自分の攻撃圏内に到達した瞬間にフレンは迷い無くブレイズの喉元に剣を突きたてようとするが、ブレイズはわずかに体を動かしただけでこれをかわして、そのまま剣をフレンに突き立てる。
フレンも首を動かしてブレイズの突きをかわす。
フレンはすぐさま横に飛びのき一時的に距離を作る。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
「どうしたんだい?まだ、始まったばかりで息が乱れるにはまだ早いと思うんだけど」
フレンは始まったばかりなのにもかかわらず、肩で息を切らしており額には汗がじんわりと滲んでいた。
木剣とはいえまったく迷いの無い一撃にフレンは恐ろしさを感じていた。
フレンの攻撃を自然な動作でかわし、なおかつ息を吸うかのように自然と首を突こうとしてきたのだ。
たしかにフレンも首に突きを放ったがそれは本名ではなく、あくまで第2撃を放つための言わば捨てた攻撃だったのだ。だからフレン自身本当に首を突く気は無く避けた後に首の裏に一撃を叩き込み気絶させようとしていただけにブレイズが皮一枚で避けての反撃が信じられなかったのだ。
「な、何故あんなギリギリで避けたのですか?」
「何故って?あんな当てる気も無い一撃にビビって避ける必要は無いと思ったからよ」
見破られていたことにフレンはショックを覚えていた。
今までの相手ならこの攻撃は危険と判断して横に飛んで回避しようとしていただけにその常識が一切通用していないということにもショックを受けていた。
「なんだい?まさか今のでもう戦う気力がなくなったのかい?だとしたらがっかりだよ」
「・・・」
「こんな子供だから、能力が高いだけの勇者かと思えば能力もそんなに高くない、おまけに戦術も大したこともないし、その上度胸も無さ過ぎる。期待はずれすぎてつまらないわ」
ブレイズが言いたいだけ言って、背を向けようとした瞬間だった。
「待ってください!!!」
「・・・なんだい、へなちょこ坊や?」
「あ、あなたが言いたいことはもっともだと思います!ですが、まだ勝負も終わっていないのにどこに行こうというのですか!?」
「つまらんないから、帰ろうと思ったのだけれど、それが何か?」
「僕にだって、プライドがあります!こんなふうに相手にされないのは我慢できません!帰るならちゃんと僕を倒してからにしてください!」
「・・・なんだ、ちゃんと怒れるじゃないか。初めからその気持ちを出してくれないと、今度は殺す気でかかってきなさい」
「いきます!!!はあー!!!」
フレンは生まれて初めて他人に対して怒りをぶつけ、怒りのままに突撃を始めたのだった。
怒りが身体能力に変わったのか、先ほどよりも速いスピードで突っ込んで今度は第2撃を放つことは考えずにこの一撃を当てることに全力を出していた。
半身に構えているため突きを諦めてジャンプをして落下の勢いを利用してけさ斬りで攻撃を行うフレン。
ガッツン!!!
しかし、その攻撃はブレイズの剣で受け止められてしまう。
「くっ!」
「さっきよりは良い攻撃だけど、こんな正直な攻撃じゃ私には一太刀も浴びせられないよ。それと不用意に飛ばない方がいいよ、反撃を食らってしまう・・・こんなふうにね」
「えっ?ぐはっ!!!?」
ブレイズは開いている右手でフレンのボディにパンチを入れていた。
たまらず声を上げて地面に落下するフレン。
ブレイズは素早くパンチを戻すと今度はフレンの後ろに回りこみ、フレンの首に腕を回して首を絞め始めていた。
「さあ、降参する?降参すればもう痛い目にあわなくてすむわよ」
「ぐ!がはぁ・・・ぎぃ・・・!!!」
フレンは首を完全に絞められてしまい、その体は空中に浮きいくらじたばたしても足が届かないのだ。
次第にフレンの目からは光が無くなりはじめ、抵抗も少なくなりついに気絶してしまったのだ。
「勝負ありですね。離してあげてください」
「わかってるわ・・・」
ブレイズはフレンの首から腕を離して、ゆっくりと地面に横たえてあげる。
「はあー、本当に期待はずれ、何しにここまでやってきたのかわからないわ本当に」
「世の中あなたのように戦闘好きというお方ばかりではありません。それに何故あなたはそこまで戦闘を好むのですか?いくら戦闘好きとはいえ、それで指名手配犯になっては元も子もないではないですか。何故、あなたは人を殺したのですか?」
「・・・・・・それはちょっと言えないかな・・・」
「そうですか・・・」
「分かってるんだ、私が普通じゃないって事くらい・・・」
「・・・・・・」
「本当になんで私は生まれてきてしまったのかな?」
「・・・・・・そういうことは口にしてはいけません。何があろうとも」
「・・・・・・ごめんなさい」
この時のブレイズは本当に指名手配犯なのかと言えるくらいにその戦闘狂の面影は消え去り、自分でもどうしたらいいのかわからないと悩む一人の女性にしか見えなかった。
このフレンとの出会いが後のブレイズの人生を変えることになるとはこの場に居た者達も含めて、誰一人想像することは出来なかった。
遠く目で街が視認できる高台でサラマンダーが一人呟いていた。
彼女の名はブレイズ=ソラリス、全世界で指名手配を受けている戦闘狂で以前はバトルクラブにも所属していたほどの腕前だ。
今はもっと強くなるためにバトルクラブを抜けて旅をしている。
「どれほど強いのかな?楽しみにしているよ・・・勇者君♪」
ブレイズの目的は噂に聞こえたとある勇者と戦うことだった。
たまたま聞こえたその噂を信じてブレイズは勇者の行方を追っていた。
全ては楽しい戦いをするために・・・
−−−要塞貿易都市エリエール南関所前−−−
「エリエールか・・・また厄介なとこに来てるものだね・・・でも、難関が多ければ多いほど楽しみも増えるしいいか♪」
要塞貿易都市エリエールとは街の周りを高い防壁で囲み外敵の侵入を拒む要塞と化した貿易都市で要塞が出来て以来外敵の侵入を許したことが無いまさに無敵の都市である。
ブレイズはそんな街に今から襲いに行こうというのに物凄く気楽に歩いて関所に近づいていた。
関所には数人の兵士が待機していて目を光らせていた。
「待て、わが都市に何用だ!」
ブレイズが近づくと兵士が気づき通行を止めようとする。
「いやね、噂の勇者君がここに居るって聞いてね。ちょっと戦ってくれないかなと思ってね♪」
「勇者?何のことかは知らないがわが都市に争いごとを持ち込まれては困る!早々にお引取り願いたい」
「そう言っても、遥々会いにやってきたんだから、探すだけ探させてよ。ね、お願い♪」
「駄目なものは駄目だ!」
「・・・そう、それなら」
そういうとブレイズはさっきまでとは明らかに違う表情をしていた。
「強引に通るね♪」
「な、なに!!?・・・を・・・」
兵士の腹部にブレイズのボディブローが炸裂していた。
多少警戒していたはずの兵士に気づかせることも無いまま攻撃していたのだ。
「き、貴様!何をする!」
離れてみていた兵士達が近寄り声を荒げて剣を構える。
「何って・・・ただボディにパンチ入れただけよ?通してくれないからちょっと気絶させたのだけど、それがどうかした?」
「どうかじゃない!我々に攻撃するということはこの街を襲うと同じことだ!」
「・・・そうね、目的の勇者君に会うためならこの際人の一人や二人くらい殺してもいいかもね」
「何!?貴様、本当に魔物か!?」
「魔物ね・・・たしかに普通の魔物とはちょっと違うかもね・・・私、戦うことしか愛せていないのだから」
ブレイズの目は先ほどの穏やかな眼光から一変して戦闘狂がよくする狂喜の目に変わっていた。
兵士達の間に緊張が走り、ごくりと唾を飲み込んだ。
一触即発、そんな緊張感が漂う中とある声が響いた。
「やめろ!お前達!」
関所の中からそんな声が届き、兵士達は唐突に動きを止めて後ろを見る。
「た、隊長・・・」
「何故止めるんですか!?」
「馬鹿者!相手の力量も分からんのかお前達は!!!」
その一括に兵士達は縮こまり剣を下ろし始める。
「へえー・・・エリエールでも指折りの使い手であるあなたに出会えるなんてね、なんてラッキーなのかしら♪・・・ねえ南関所守備隊隊長ケーニッヒ=グラン」
「私のことを知っていてもらえるとは光栄だね。戦闘狂火竜さん」
グランの一言にその場にいた兵士達に緊張が走っていた。
全世界で指名手配を受けている犯罪者が目の前に居るのだ。
緊張しない方がおかしい。
「グランさん、私はただ噂に聞こえた勇者君と戦ってみたいだけなんだけど・・・中に入れろとまでは言わないから連れてきていただけないかしら?」
「・・・冗談を言ってもらっては困る。第一、この街にそのような人物はいないとさっき兵士にも言われていただろう?」
「私の情報網を侮ってもらっては困りますね。たしかな筋の情報でこの街に勇者君が来ているっていう情報を手にしているんです。この街の領主に面会するためだという情報をね」
「・・・・・・知らんものは知らん」
「なら、捜索するだけさせてください。街の人に危害は加えないと約束しましょう。なんなら、武器を預けてもいいですよ?」
「・・・・・・無理だな。貴様は犯罪者だ。そのような者が平気で街を歩けると思っているのか?」
「そうですか・・・なら」
「と言いたいところだが私としても無駄な血が流れるのは避けたい。そこでだ。私と戦い勝てたならその人物とやらの所に案内してやろう」
「本当ですか?」
「本当だ。私とてリザードマンだ、強い者の噂を聞けば戦いたくもなる。気持ちは分からなくも無い、だが・・・私の仕事の都合上タダでは通せないという話なだけでな、悪くない条件だと思うがな?」
しばらくブレイズは考え込み、答えを出した。
「ええ!その条件でいいですわ♪強い人とそれも同じ魔物とも戦えるのだもの文句は無いわ♪」
「ならば追加条件がある。武器はこちらが用意した木剣を使ってもらうこと、それから、負けた場合は素直に捕まることだ。それでもいいか?」
普通に考えれば理不尽な条件でしかないのだがブレイズは迷うことなく答えを決めていた。
「いいわ。それでやりましょう♪」
「本当に戦いが好きなのだな・・・」
同じ戦闘好きのリザードマンが思わず呆れるくらいなのだからその異常性は計り知れないモノがある。
お互いに木剣を構えて、距離を取る二人。
静寂に包まれ、緊張感が漂い始める。
ヒュン カツーン!
何が切欠となったのかお互いに地面を蹴り中央で木剣同士がぶつかり合う!
所謂鍔迫り合いになったのだ。
グランが押し負けないように力を込めていると唐突にブレイズが笑い、フッと剣から感じる力が無くなり、わずかによろけてしまう。
この時ブレイズはグラン以上の力で押し込んでいたが必死に押し返そうとするグランの力を利用するためにワザと力を抜いて真横に移動したのだ。
マズイと感じて即座に対応しようとしたがそれも間に合わず、グランはわずかに前によろけてしまったのだ。
「まだまだですね」
「くっ!?」
真横に移動したブレイズはそのままよろけたグランの手元を狙い真っ直ぐに振り下ろしていた。
しかし、グランも意地があるのか寸でのところで体を強引にひねり、攻撃をかわしてそのひねった勢いも利用して右足で体勢を整えてそのまま叩きつけようとするが。
「なっ!?うがぁ!!!」
叩きつけようとした場所にはすでに誰もおらず、かわりに背中に強烈な攻撃が当たり、成す術も無く吹っ飛ばされるグラン。
「いけないですよ?相手が何処に居るのかも確かめないで攻撃するのは・・・まあ、あの体制から攻撃をかわして反撃に移ったのは見事ですが」
「くっ、な、何が?」
「何故吹き飛ばされたのか分からないという顔をしてますね?これを使ったんですよ」
そういってブレイズは尻尾を動かしてその存在を示す。
「・・・なるほど、死角に避け様尻尾を使って攻撃をしたというわけか」
「良く出来ました♪それで、まだ続けますか?」
立ち上がったグランを見て再び剣を構えるブレイズ、その顔は笑ってはいるが顔の右半分の目は得物を見つめる捕食者の目になっていた。
グランは最初に剣を構えなおしたが、やがて何かを諦めるように剣を放り投げて降参のポーズを取っていた。
「いや、私の負けだ。あれが実戦なら私はそのまま剣で斬られていたはずだからな、完敗だよ。約束どおりにその噂の勇者君とやらに合わせてやろう」
「ありがとう♪」
「ただし、私も監視としてお前に同行する。もしもこの街で殺人などやろうとすれば命を懸けてでも止めに入るからな」
「私は一度した約束は守る主義ですよ。心配なさらずに」
「一応武器はこちらで預からせてもらうからな」
「いいですよ、はい♪」
そう言ってブレイズは愛剣をグランに預ける。
「たしかに預かった。それでは向かうとしようか」
「お願いしますね♪」
グランとブレイズは関所の中へと消えていった。
残された兵士達はあまりに一瞬の出来事にただただ呆然とするしかなく手にした剣を忌々しげに見ていた。
−−−領主の城・レオンの私室−−−
「そうですか・・・まったく知らないのですか」
「ああ、さすがのオレでも魔王のことは知らねえし、俺の先祖のこともあまり興味がねえから特に調べたこともねえんだ」
現在私室で話をしているのはこの街の領主でもありギルドマスターでもあるレオンと。
「しかし、わざわざこのオレに話を聞きに来るだなんて、お前さんも相当変わっているな。一応勇者なんだろう?いいのかい魔物も住んでいるこの街にやってきて?」
「たしかに僕は勇者ですが、別に好き好んでなったわけではありません。たまたま神の加護を受けてしまったのでなったに過ぎません。それに僕は元来争いごとを好みません、だから魔物をどうこうしようとか考えたことはありません情報を集めているのは少しでも勇者としての行動を取っておかないと僕自身が危ないからです。ただでさえ平和ボケした勇者などと言われていますからね」
「なるほどね」
そう今レオンと話している人物こそがブレイズが探していた勇者その人であり、名をフレン=ユーフという。
「でもよ、お前さんの噂は俺の耳にも届いてるぜ?100年に一度の逸材とか神に愛された少年とかいろいろとよ」
「それはあくまで僕の勇者としての名を広めて教団派の人間にまだ希望があると伝えるためです。実際のところ僕自身確かに努力もして、神の加護も受けたせいか、能力は普通の人よりは高いと思いますが・・・それでも魔王を倒せるなんて考えたこともないし、むしろ何故倒さなくてはならないのか疑問に思っているくらいです」
「反魔物派の人間にもそんな考えの奴はいるんだな」
「そりゃそうですよ。全員が全員同じ考えなわけないじゃないですか。中には魔物に助けられて、教団の教えに疑問を持つ人物もいます」
「ふ〜ん、なかなか有益な情報だな。それにしてもよ・・・」
コンコン
レオンがさらに話を聞こうとした矢先だった。突然ノック音が響き渡り話を中断さぜるを得なくなったのだ。
「誰だ?」
『南関所警備隊長 ケーニッヒ=グランです。実は勇者様に会いたいという者がいまして、面会願えませんか?』
レオンはまゆを上げて訝しげな顔をしたが。
「・・・いいだろう入れ」
グランが連れてきたのだから問題は無いと判断して入室を許可した。
『失礼します』
ガチャ ギイイイイ
扉が開き姿を現したのはグランと、手配書で見た覚えのあるサラマンダーがそこにいた。
「グランどういうことか説明してもらえるか?」
「ハッ!レオン様もご存知の通りこの者は指名手配されている身ですがこの者の目的はそちらにおられる勇者様と戦いたいということでして、一度はお帰り願いましたが本人の強い希望により条件付で連れてまいった次第です」
「その条件とは?」
「まず殺害の禁止です。そしてちゃんと本人がいいと言ったらという条件の下来ていただきました。武器はすでに預かっているのでいくら彼女といえど無茶は出来ません」
「・・・なるほどね、でどうするフレン君?」
「・・・その、何故僕と戦いたいんですか?」
今までの説明を聞いていたのか当然の疑問を口にするフレン。
それに対して、ブレイズはニコリと笑って告げる。
「君が強いという噂を聞いてね、私は強い奴と戦うのが好きでさ♪そういう噂を聞くといてもたってもいられなくなるんだ」
「はあ、でも僕は噂ほど強くは無いと思いますよ?」
「・・・そうかもしれないけどさ、なんていうか、ここまで来たら後には引けないし、それに私の本能を押さえ込むのもそろそろ限界に近いんだよね・・・さっきから暴れたくて仕方が無いんだ。もう君が強い強くないなんて言おうが関係ないの。大丈夫、最近はかなり安定しているから殺すことは無いと思うから」
ブレイズの言うことは常識をぶち破りまさに戦闘狂にふさわしい言葉を放っていた。
その狂喜を孕んだ台詞にフレンだけでなく、グランやレオンですら冷や汗をかいていた。
その沈黙を破ったのはフレンだった。
「では僕が戦えば、あなたの気は住むのですね?」
「そういうこと♪」
「わかりました。その勝負受けましょう」
フレンがこの異常な戦闘狂の勝負を受けることを告げるとブレイズはさらに笑みを深めた。
「ありがとう♪それじゃさっそくやろうよ♪」
「ま、待て待て、ここでおっぱじめようとするんじゃねえ!」
その場でファイティングポーズを取り始めたので慌ててレオンが横から口を挟む。
「戦うなら良いとこがあるからそこに案内してやるよ」
突然の止められたことにブレイズは不機嫌な顔になりファイティングポーズを渋々解く。
「なら、さっさと案内してよ」
「おう!ついてきな」
レオンは自分の私室を壊されてはたまらないという思いから二人をとある場所に案内するのだった。
−−−賭博闘技場−−−
「ここなら、どんだけ暴れても問題ねえから遠慮なくやってくれ!審判はコイツにやってもらうから」
レオンが親指を向けた先に立っていたのは何時の間にいたのか黒い鱗が目立つドラゴンがそこにいた。
「レオン様、いきなり我を呼び出して審判をやれだなんて、何を考えているのですか?」
「だってよ、イカロスなら公平な立場で勝敗を見切れるだろうこれ以上の適任はいないだろ」
「呼ばれた我が迷惑だと言っているのですが」
このドラゴンはエリエール軍守備隊長を務めており、同時にレオンの秘書も兼任しているほどの人材で普段は仕事をサボるレオンを良く追い掛け回している。
「まあ、あまり騒ぎ大きくせずに済ますにはこれが一番みたいだし、何より本人が勝負を引き受けたんだ。なるべく大事が起こらないようにサポートするしかねえだろう?」
「・・・はあー、事情がさっぱり分かりませんがとにかく審判をやればいいのですね」
「そういうこった。頼むぜ」
「承知しました」
レオンがイカロスの説得が終わったことにより、待っている二人に近づきそれぞれに木剣を渡す。
「とりあえず、審判の用意もできた。ルールはこの木剣かもしくは体術で相手を戦闘不能もしくは降参宣言をさせれば勝ちだ。それで文句は無いか?」
「はい!」
「全然構わないわ♪」
「よし、それじゃあ後は頼むぜイカロス」
レオンは言うだけ言うとその場を離れてグランと一緒に見物を決め込んでいた。
「それでは、お二人とも準備はよろしいですか?」
二人は無言で剣を構え始め、合図を待った。
「それでは、はじめ!!!」
合図がなったのと同時にフレンは飛び出していた。
剣を両手で持ち、脇を絞るように構えていつでも突きができる体勢で真っ直ぐにブレイズに突っ込んでいく。
ブレイズは片手で剣を持ち、半身になってフレンを待ち受ける体勢になっていた。
「てやー!」
自分の攻撃圏内に到達した瞬間にフレンは迷い無くブレイズの喉元に剣を突きたてようとするが、ブレイズはわずかに体を動かしただけでこれをかわして、そのまま剣をフレンに突き立てる。
フレンも首を動かしてブレイズの突きをかわす。
フレンはすぐさま横に飛びのき一時的に距離を作る。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
「どうしたんだい?まだ、始まったばかりで息が乱れるにはまだ早いと思うんだけど」
フレンは始まったばかりなのにもかかわらず、肩で息を切らしており額には汗がじんわりと滲んでいた。
木剣とはいえまったく迷いの無い一撃にフレンは恐ろしさを感じていた。
フレンの攻撃を自然な動作でかわし、なおかつ息を吸うかのように自然と首を突こうとしてきたのだ。
たしかにフレンも首に突きを放ったがそれは本名ではなく、あくまで第2撃を放つための言わば捨てた攻撃だったのだ。だからフレン自身本当に首を突く気は無く避けた後に首の裏に一撃を叩き込み気絶させようとしていただけにブレイズが皮一枚で避けての反撃が信じられなかったのだ。
「な、何故あんなギリギリで避けたのですか?」
「何故って?あんな当てる気も無い一撃にビビって避ける必要は無いと思ったからよ」
見破られていたことにフレンはショックを覚えていた。
今までの相手ならこの攻撃は危険と判断して横に飛んで回避しようとしていただけにその常識が一切通用していないということにもショックを受けていた。
「なんだい?まさか今のでもう戦う気力がなくなったのかい?だとしたらがっかりだよ」
「・・・」
「こんな子供だから、能力が高いだけの勇者かと思えば能力もそんなに高くない、おまけに戦術も大したこともないし、その上度胸も無さ過ぎる。期待はずれすぎてつまらないわ」
ブレイズが言いたいだけ言って、背を向けようとした瞬間だった。
「待ってください!!!」
「・・・なんだい、へなちょこ坊や?」
「あ、あなたが言いたいことはもっともだと思います!ですが、まだ勝負も終わっていないのにどこに行こうというのですか!?」
「つまらんないから、帰ろうと思ったのだけれど、それが何か?」
「僕にだって、プライドがあります!こんなふうに相手にされないのは我慢できません!帰るならちゃんと僕を倒してからにしてください!」
「・・・なんだ、ちゃんと怒れるじゃないか。初めからその気持ちを出してくれないと、今度は殺す気でかかってきなさい」
「いきます!!!はあー!!!」
フレンは生まれて初めて他人に対して怒りをぶつけ、怒りのままに突撃を始めたのだった。
怒りが身体能力に変わったのか、先ほどよりも速いスピードで突っ込んで今度は第2撃を放つことは考えずにこの一撃を当てることに全力を出していた。
半身に構えているため突きを諦めてジャンプをして落下の勢いを利用してけさ斬りで攻撃を行うフレン。
ガッツン!!!
しかし、その攻撃はブレイズの剣で受け止められてしまう。
「くっ!」
「さっきよりは良い攻撃だけど、こんな正直な攻撃じゃ私には一太刀も浴びせられないよ。それと不用意に飛ばない方がいいよ、反撃を食らってしまう・・・こんなふうにね」
「えっ?ぐはっ!!!?」
ブレイズは開いている右手でフレンのボディにパンチを入れていた。
たまらず声を上げて地面に落下するフレン。
ブレイズは素早くパンチを戻すと今度はフレンの後ろに回りこみ、フレンの首に腕を回して首を絞め始めていた。
「さあ、降参する?降参すればもう痛い目にあわなくてすむわよ」
「ぐ!がはぁ・・・ぎぃ・・・!!!」
フレンは首を完全に絞められてしまい、その体は空中に浮きいくらじたばたしても足が届かないのだ。
次第にフレンの目からは光が無くなりはじめ、抵抗も少なくなりついに気絶してしまったのだ。
「勝負ありですね。離してあげてください」
「わかってるわ・・・」
ブレイズはフレンの首から腕を離して、ゆっくりと地面に横たえてあげる。
「はあー、本当に期待はずれ、何しにここまでやってきたのかわからないわ本当に」
「世の中あなたのように戦闘好きというお方ばかりではありません。それに何故あなたはそこまで戦闘を好むのですか?いくら戦闘好きとはいえ、それで指名手配犯になっては元も子もないではないですか。何故、あなたは人を殺したのですか?」
「・・・・・・それはちょっと言えないかな・・・」
「そうですか・・・」
「分かってるんだ、私が普通じゃないって事くらい・・・」
「・・・・・・」
「本当になんで私は生まれてきてしまったのかな?」
「・・・・・・そういうことは口にしてはいけません。何があろうとも」
「・・・・・・ごめんなさい」
この時のブレイズは本当に指名手配犯なのかと言えるくらいにその戦闘狂の面影は消え去り、自分でもどうしたらいいのかわからないと悩む一人の女性にしか見えなかった。
このフレンとの出会いが後のブレイズの人生を変えることになるとはこの場に居た者達も含めて、誰一人想像することは出来なかった。
12/01/14 23:32更新 / ミズチェチェ
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