連載小説
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復讐を誓うアマゾネスVS最強のドラゴン
「ついにこの時が来た。40年・・・長かったけどやっと復讐を果たすことができる」

バトルクラブの控え室で彼女はそう静かに呟いていた。
すると背中から一本の剣を抜きとり、じっと刀身を見つめ始める。

「お前と愛を誓い合ったこの剣に私は今一度誓う。必ずお前の仇を取ると!」

静かに殺気を散らしながら、剣に誓いを立てるこの女性。
名前をヒュウキ・カザキと言い、40年前に何者かに夫を殺されたという噂を聞き、その仇を探し出し旅をしていたアマゾネスだ。
どうやら目的の仇はこのバトルクラブに居るという情報を手にして参加をしているようだ。

「お前の仇を討つために各地を回り、必死に修行を積み、そしてお前を殺した奴の情報を手にすることができた」

ヒュウキが語るとおりヒュウキの体にはいくつもの傷が出来ており、並大抵の修行ではなかったことを語っていた。
さらにヒュウキの背中、腰には合計で10本ほど剣が装備されていた。
明らかに多すぎる剣の数。しかし、ヒュウキはなんら重みを感じておらず、さもそれが当然といわんばかりだった。

「覚悟して待っているのだな。・・・デルフィニア!!!」

−−−バトルクラブ闘技場−−−

「おいお前聞いたか?今回あのデルフィニア様がバトルするらしいぜ」
「ああ、命知らずな奴もいたもんだな」
「違いねえ、今までデルフィニア様に戦いを挑んだものはほとんどが再起不能レベルまでやられているのにな」
「どんな奴なのかねえ?」

闘技場では観客が今回のバトルについて噂をしていた。
やはり評判はかなりのもので、誰もが無謀だと考えているらしい。


ドッカーン!!!


突如として闘技場で爆発が起こり、周りに土煙がたちこめる。
煙が晴れたころにはその中心にヒュウキ・カザキの姿が現れていた。
その異様な装備の数と有無を言わさないほどの殺気に観客の誰もが息を呑んだ。

「・・・お前は?」

殺気を撒き散らしながら、ヒュウキは目の前にいたバフォメットに質問を投げかける。

「今回の特別審判を勤めるバフォメットのミレーヌじゃ」
「審判か。・・・デルフィニアはまだ来ないのか?」
「そう逸るでない、もうすぐ来るはずじゃ・・・ほれ噂をすればなんとやらじゃ」
「!?」

ヒュウキは言われた方向を見上げて息を呑んでいた。
空中を漆黒の翼を使い優雅に飛びながら滑空するドラゴンがいたのだ。
そう、いわずと知れたバトルクラブの主である最強のドラゴン。
デルフィニアの姿が。

「貴様か?我に挑戦しせし者は・・・名はなんと言う?」
「だまれ、貴様のような奴に語る名など持ち合わせてはいない。夫の仇今こそ取らせてもらうぞ!!!」
「仇討ちか?やめておけ復讐などのためにつまらない戦いをするものではないぞ」
「つまらない・・・だと・・・ふざけるな!!!」
「・・・」
「貴様の手によって殺された私の夫の仇討ちをつまらないなどの言葉で片付けるのはやめろ!!!」
「・・・貴様の夫がどんな人物かは我は知らぬがここバトルクラブで戦う以上死ぬ覚悟は絶対に必要だ。そして我が貴様の夫を手にかけたと言っているが我は久しく殺すなどの行為はしておらん」
「!?嘘をつくな!たしかに貴様が私の夫を殺したと聞いたんだ!!!」
「・・・まあ、いいだろう。その言葉を信じたいのなら好きにするが良い。これ以上観客を待たせるのは我の趣味ではない、さっさと始めよう」
「わかったのじゃ。両者、ルールは知っての通り先に戦闘不能にした方の勝ちじゃ、ワシが戦闘不能と判断したらすぐに止めるからそのつもりでのぉ」
「ああ」
「わかっている」
「では両者少し距離を取るのじゃ」

ミレーヌに言われ、お互いに距離を取る。

「試合開始じゃ!!!」

合図とともにヒュウキは腰に挿してある剣を二つほど抜き放ち二刀流で構えを取る。体は半身になり左手を前に出して剣を横に構え、右手は腰の位置に固定して剣は相手に向けている。
対してデルフィニアは腕を組んだまま特に構えは取らずにただ佇んでいるだけだった。

「貴様私を舐めているのか!?」
「別に、我は構えなどといったものを取らないだけでこれが戦う時の基本なのだ」
「そうか、ならば何も言うまい。いくぞ!!!」

そういうとヒュウキはその場から姿を消し、瞬時にデルフィニアの背後を取っていた。
取った!ヒュウキはそう考えていたが、突然したから何かが勢いよく襲ってくることに気づき瞬時にバックステップをする。
するとヒュウキの居た場所を狙い済ましたかのようにデルフィニアの尻尾が通過していたのだ。

「ほう、よくかわした」
「貴様あのスピードが見切れたのか?」
「まさか、さすがの我でも貴様のスピードは見切れなかった。どういうカラクリかは知らぬが、ただ魔物だからという理由では説明がつくまい。まあそれはともかく、何故貴様が現れるポイントがわかったのかといえば、答えは単純だ」
「・・・」
「それは殺気だ」
「!?」
「我は闘いを熟知している。いかに殺気を隠そうとも攻撃の瞬間にはかならず殺気は生まれるもの、それさえわかれば反撃にしろ、かわすにしろ、いくらでも対処は可能だ」
「くっ!」
「どうした?まだまだ最初の段階だぞ。この程度で危機を感じているわけではあるまい」
「黙れ!!!」

ヒュウキは心の動揺を無理やり押さえ込み、自身を鼓舞するかのように叫び声を上げてデルフィニアに突っ込んでいく。
両腕を交差させて、一辺に横に切り裂く攻撃を放つが皮一枚の所で攻撃をかわされ、逆に一瞬で距離を詰められる。
ヒュウキは驚愕の表情になり、目の前にいるデルフィニアは獲物を捕らえたかのような表情をしていた。
デルフィニアが唐突に体を回し後ろを向いてしまうところ見届けた後、ヒュウキの体は鋭い痛みと共に吹っ飛ばされていた。

「ぐあっ!」

吹き飛ばされたヒュウキは地面に激突する寸前で受身を取り、空中で一回転してから着地をする。

「ほう、意識を失わずに受身を取るとは」
「私に何を・・・そうか、それで吹き飛ばされたのか」

ヒュウキの目に映ったのはデルフィニアの尻尾だった。
考えてみればデルフィニアは腕を組んだままだったし、突然体を回したことから考えても尻尾か足を使われたのは間違いはないはず、現に最初の一撃の時も尻尾を使っていたのだから。

「・・・ヒビが入ったか」

今の一撃でヒュウキの肋骨にどうやらヒビが入ってしまったらしい。

「覚悟はしていたつもりだったが、とんでもない化け物だ。やはり通常の攻撃では勝ち目はなさそうだ」
「どうした?今の一撃でもう参ってしまったのか?だったら早めに降参することだな」
「心配はいらない、それよりも貴様の身の心配をしておいた方がいいと思うがな」
「その心配は無用だ。問題が無いのならさっさと掛かって来い、まだは我は尻尾しか使っておらんのだぞ」
「言われなくとも、使わせてやるさ」

そういうとヒュウキは腰に挿してある6本の剣を順に空中に放り投げ始める。

『私の魔力を用いて命ずる、重力よ、今ひと時だけ力を貸し与えたまえ【グラビティ】

ヒュウキが呪文を唱えると空中に放り投げられた剣は空中で動きを止める。
そして、それぞれが剣先を上に向けてヒュウキの周辺に集まる。

「魔法か、ただのアマゾネスが魔法を使えるわけが無い。さては貴様は元人間だな」
「そのとおりさ、私は元は人間の魔法剣士として生きていた。まあ、今はこの通り魔物に変えられてしまったがな」
「大体の現場が想像できるな」
「おかげで、愛しい夫を手にすることが出来たから私は魔物になったことを後悔したことはなかった。だが、その大事な夫を・・・」
「無駄口はそれぐらいでいいだろう。・・・仇が取りたいというなら全力で来い」
「いくぞ!!!」

ヒュウキは重力を操り、6本の剣先を一斉にデルフィニアに向ける。
そしてヒュウキ自身も背中に装備しているバスターソードとランスソードを構える。
そして空中に浮いている剣と共にデルフィニアに突っ込んでいく。

ここで一つ解説を入れる。
グラビティは重力を操ることを目的とした上級魔法で本来の用途は相手の動きを封じたりするために使うものである。
しかし、ヒュウキはそれを自分が有利になるように使っているのだ。
剣を浮かせるのはもちろんのこと、自分の重力を限りなく無くして体を限界まで軽くしているのだ。そのためにデルフィニアでも直視不可能なスピードになっているのだが、この使用方法にはデメリットもあり、少しでも調節を間違えれば体は無重力状態になり体が意思に反して浮いてしまったり、逆に身動きが取れなくなり混乱してしまう恐れもあるのだがヒュウキは見事にこの微妙な重力の調節を行っていた。
剣の動きもそれぞれの剣の重力を操り、浮かしているわけだが、自分の体だけでもミリ単位の繊細な調節が必要なのだ。剣を1本動かすだけでも相当の集中力が要るのだが、ヒュウキは特に集中することも無くまるで息をするかのごとく6本の剣を操っているのだ。
これだけでも、ヒュウキが凄まじい才能を持っていることが証明されるわけだが。

「うおおおお!!!」

ヒュンヒュン ヒュヒュヒュヒュン ヒュヒュヒュヒュヒュン

そのヒュウキの怒涛の攻撃は・・・

「その程度か?」

何事も無いかのようにすべてをかわしていた。

四方八方から空中に浮かぶ剣で攻撃をされ、ヒュウキ自身も体を軽くして、その異常なスピードで攻撃を加えているのにもかかわらず、デルフィニアはまるで風と戯れているかのように全ての攻撃を皮一枚の所でかわしていた。
もちろん中にはかろうじて当たりそうな攻撃もあったが、それも尻尾のなぎ払いによって弾かれていた。

「くそ!何故当たらない!」
「隙ありだ」

ヒュウキが全身から凄まじい汗を出して攻撃をしている最中だった。
わずかな隙を見つけたデルフィニアが尻尾を使いテールスマッシュを繰り出していた。
まるで吸い込まれるようにまたもや左わき腹に当たるが、今度は吹っ飛ばされずにその場に残るヒュウキ【グラビティ】を使って吹き飛ばされないようにしたのだ、しかし、その表情は苦痛に支配され必死に歯を食いしばっていた。

「くっ!漸く捕まえた!」
「何?」

ヒュウキは両手の武器を離して片腕で尻尾を掴み、空中に浮いていた剣を掴み尻尾を切り落とそうとすばやく振り下ろしていた。

「なるほど、己の体を犠牲にしてまで我の動きを止め、攻撃を仕掛けるか」
「!?」
「だが、少々甘いな」

気づけばデルフィニアが両腕を自由にして、剣を受け止めていた。

「我に腕を使わせたのは何年ぶりのことかな?久しく本気が出せそうで我も嬉しいぞ」
「ぐっ!離せ!」
「先ほどの一撃でさらに肋骨にヒビが入っているのによくぞこれだけの一撃が出せた。並みのものならとっくにやられているはずだ」
「離さないなら!」
「たしか、このあたりだったかな?」

ヒュン ボグン バキッ!

「ああああああああ!!!!!」

唐突にデルフィニアが左わき腹目掛けてパンチを繰り出していた。
当たった瞬間に激しくめり込むと同時に骨が砕ける嫌な音も響いていた。

「なんだ、軽く殴ったくらいでそのような悲鳴をあげるな」

サディスティックな笑みを浮かべて、ヒュウキの腕を掴み殴っても飛ばさないようにするデルフィニア。

「うぐ!は、離せ!」
「離しては逃げられてしまうではないか、さて・・・同じところを続けて攻撃するというのもいささか卑怯というものだろう。別のところも攻撃してみようか」

すると今度は顔面目掛けてパンチを放つデルフィニア。
ヒュウキは折れている肋骨の痛みに耐えながら、尻尾を抱えている片腕を離し横にずれることでパンチを回避するが。

「そら、わき腹がお留守だぞ」

ヒュン ドガ! バッキン!

「ぐああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

自由になった尻尾を再び動かし、折れた肋骨の箇所を打ち抜くデルフィニア。
あまりの激痛に気を失いそうになり倒れこみそうになるがデルフィニアがそれを許さない。

「どうした?その程度で気を失うのか?貴様が言う夫の仇討ちとはその程度のものだったのか?その程度の復讐心しかないのなら素直に降参して戦士であることをやめろ。そして、亡くなった夫とやらのことを忘れて平和な日々をすごすのだな」

その言葉を聞き、ヒュウキの目に再び闘志が湧き目の光を取り戻していた。

「じょ、冗談、じゃない、私は、夫の、ことを忘れる、なんて、できない!・・・絶対に、あきらめない!!!」
「死んでもか?」
「と、当然だ!!!」
「・・・ならば、貴様にチャンスをやろう。貴様がもっとも得意とする必殺技を使い我を攻撃する。その攻撃で我を倒しきれば、素直にこの首を渡してやろう。だが、倒しきれなければその時は・・・貴様の命を我が譲り受ける。どうだ?悪くない条件であろう」
「・・・ほ、本気か?」
「我は契約を違える気は無い。竜化をせずにこの状態で受けてやろう。このデルフィニア・バース・ドラグーンの名にかけてな」
「・・・わかった」
「貴様、回復魔法は使えるのか?」
「使えるが・・・くっ!」
「ふむ、やはり折れた骨が邪魔か・・・ミレーヌ」
「なんじゃ?」
「こいつの折れた骨を魔法で直してやれ」
「良いのか?」
「構わん、我が許す」

ミレーヌはヒュウキの右わき腹に手をかざして詠唱を始める。

『癒しの力よ、この者痛みを取り除き、傷を癒したまえ【ホーリーヒール】

すると見る見るうちに右わき腹のどす黒くなっていた内出血は消え、内部の肋骨も直っていった。

「これで大丈夫じゃろう」
「・・・すまない」
「何ワシは指示に従っただけじゃからな」
「さあ、これで心置きなくやれるだろう?」

正直なところヒュウキは目の前のドラゴンが本当に夫を殺した人物なのかどうか、疑心に包まれていた。
だが、それと同時に明らかに自分よりも格上、それも想像や噂以上の強さを持つこのドラゴンに自分の持つ最高の攻撃が通じるのかどうかという方に興味が傾き始めていた。

(おかしいな・・・あれほど憎んでいたはずなのにいつのまにか私の心からこのドラゴンに対する憎しみが消え失せ始めている。普通なら、あれだけの攻撃にさらされたら憎しみが増加するか、恐怖に怯えるかの二択しかないのに何故か別の感情が高ぶっている。これは多分、高みを目指す戦士の高揚、勝てないと分かっていても闘いたくなるこの衝動、夫に闘いを挑んで以来だな、本当に不思議なドラゴンだよ、まったく)

「何故かな?さっきまでは貴様を殺すということしか頭になかったのに、貴様のせいで変な気分になってしまったよ。普通、敵の全開の攻撃を受けるなんて馬鹿げた事をいうか?しかも回復までさせて」
「我は別に相手を完膚なきまでに叩きのめすのが好きというわけではない、相手の本当の意味での全開の攻撃を見たいだけだ。貴様の場合、普通に殺りあえば我にかすり傷一つつけることすら難しいだろう。すでにあの時、我は貴様への興味は失せていた。だが、貴様の心は折れなかった。ならば貴様が見せられる全開を出せる状況を作ってやるのが一番と判断したまでだ」
「つまりは、貴様の趣味のためだと解釈していいのか?」
「そう取ってもらって結構だ」
「・・・本当に変わってるなあんた」
「知り合いには良く言われるよ」
「ハハハハハ!可笑しいな本当に命を掛けた戦いのはずなのに、何故か笑いがでてくるよ。・・・手加減はできないからな」
「無論だ」

ヒュウキは一度距離を取り、周囲に落ちた剣とまだ装備している剣を【グラビティ】で自身の周りに浮かせる。

『我が10本の剣よ、汝らの主が命じる。今一度一つに合わさり真の姿を我に示せ【ブレードフュージョン】

それぞれの剣が光り輝き、一つまた一つ合成を開始する。
魔力を集中させているヒュウキは先ほどよりも膨大な魔力を消費して全身から汗を出している。

「これは合成魔法じゃな。しかしこのような大規模の合成魔法は見たことが無いぞ」
「なるほど、これが貴様の全開というわけか」

10本の剣が一つに合わさりその姿がはっきりと見え始めた。
基本大剣の形だが大きさが通常の大きさの2倍ほどになっていた。
そして柄も通常よりも長く槍を持つかのような長さになっていた。
刀身からはヒュウキの魔力に反応して炎、冷気、雷とまるで荒れ狂う空間のように噴出しており、刀身の根元には禍々しいドクロマークが浮き出ている不思議な大剣が出来ていた。

「はあ、はあ、待たせたな。これが私の最高の奥義【ブレードフュージョン】またの名を【総力斬】だ」
「・・・いいか。チャンスは1回きりだ。良く狙うがいい」
「ああ」

ヒュウキは合成した大剣を持ち、【グラビティ】で体を軽くして準備を整える。

「いくぞ!!!」
「来い!!!」

ヒュウキは思い切り地面を蹴り、一気にデルフィニアに近づき大剣を振り上げる。そして、振り下ろすのと同時に【グラビティ】で大剣に重力を乗せて、一気に切り下ろしていた。





静まりかえる闘技場、まるで時間が止まったような感覚が続いた。

「・・・フッ、見事な一撃だ」
「・・・・・・」
「だが、一歩及ばなかったようだな」
「そのようだな」

ヒュンヒュンヒュン・・・・・・ ザン!

折れた刀身が地面に深く突き刺さり、ヒュウキの敗北を物語っていた。

「だが、まさか・・・」
「デルフィニア、お主」

ビシャアアアア ドサ

「我の腕を切り落とすとは思わなかったよ」

攻撃を受けたデルフィニアの右腕が鱗のついている腕の部分から綺麗に切り落としていたのだ。

「私の負けだ。剣を失った以上もう闘えない。この命貴様にくれてやる」

ヒュウキは目を瞑り、自然と死を受け入れていた。

「そうか、ならば」

デルフィニアはゆっくりと、ヒュウキに近づいていく。
そして左腕を動かし。

ガシッ

何故かヒュウキを抱きしめていた。
てっきり死ぬとばかり思っていたヒュウキは驚きに目を見開きデルフィニアを見た。

「ならば今日より、貴様には我の部下として働いてもらうぞ」

突然の部下宣言に困惑するヒュウキ。

「いきなり何を?」
「我は貴様の命を譲り受けるといったのだぞ。別に貴様の命を奪うとは言ってはいない」
「し、しかし、私は貴様の命を狙っていたのだぞ?」
「貴様の意思など知ったことではない。我が部下になれと言っているのだ。おとなしくその命令に従え馬鹿者が」
「・・・・・・」
「まったく、素直ではないのぉ〜」
「何か言ったかミレーヌ」
「い〜や〜、なんも言うてはおらんぞ」
「・・・本当に可笑しなドラゴンだ」
「さ〜て、審判らしい仕事もしっかりこなさねばのぉ〜。・・・こほん、【勝者 デルフィニア】

その瞬間会場が拍手喝さいが起こり、割れんばかりの歓喜の声が響き渡った。

「デルフィニア、ほれ右腕を出すのじゃ!まったく無茶しおってからに」
「頼む」

ミレーヌがデルフィニアの右手を取り、回復魔法を使い傷口を繋げていく。

「まったくお主というやつは、普通にやっておれば勝てる闘いを何故あのような無茶な闘いをするのじゃ」
「別に、ただあの者の本気が見たかっただけといったであろうが」
「・・・ワシの目はごまかされんぞ、おそらくお主、あの者の復讐心を取り除いてやりたかったのじゃろう?」
「・・・・・・」
「不器用なお主のことじゃ、最初は恐怖で忘れさせようとしたが失敗し、仕方なくその復讐心を受け止めることにしたのじゃろう」
「・・・・・・」
「お主はたしかに残酷じゃが、それでも簡単に人を殺すほど残酷でないのをワシは知っておるのだぞ、おそらく今回のことはまったく見に覚えがないはずじゃ」
「・・・どうかな?」
「なに?」
「我はある意味ではあの者の夫を奪っておるかもしれんのだ」
「どういうことじゃ?」
「それは、秘密だ」
「えええええ!?ずっこいのじゃ!教えるのじゃ!」
「嫌だ」

一方そのころ、ヒュウキは。
折れた大剣が魔法の効力を失い、元の剣に戻り始めたのを見てある一つの剣を探していた。

「あった。これだけ、折れずにいたのか」

その剣は何の変哲も無いただの剣だったが、それでもヒュウキにとっては大事なものだった。

「私は負けてしまった。お前以外の奴に負けるなんて考えたこともなかった。きっと復讐のことばかり考えていたからこんな気持ちも忘れていたのね。お前が生きていたらなんていうのかな」

『復讐心なんて持っているからですよ。回りのことを常に冷静に把握しなくては勝てるものも勝てませんからね』

その一剣を持ち、ヒュウキは亡くなった人物のことを考えて剣を見つめていた。
その剣にはこう刻まれていた。

【愛しいヒュウキへ 君に一生の愛を誓うとこの剣に誓う ジャッジ=カザキ】

ここはとある地下にある闘技場。
己の全てをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。

End of story thanks for reading
12/01/03 02:22更新 / ミズチェチェ
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■作者メッセージ
皆様あけましておめでとうございます。
一応今回で最終回ということで書かせていただきましたがいかがでしたでしょうか?
本当はもう少し続けたいという気持ちもありますが、今回のクロス様のガイドラインを見て俺自身の覚悟が決まりました。
結構過激な表現もあるし、中には人間しか闘ってねえよという内容のものもあり、「よし、次回で最後にするか!」と決心しました。
今まで応援してくださった方々、そしてゲストの投稿をしてくださった方々には本当に感謝いたします。
俺もゲストを投稿をしたかったという読者の皆様には非常に申し訳ありませんとしか言いようがありませんが、また別の機会にゲスト投稿形の小説を書こうとも思っています。
また現在連載中のラジオの方でもゲストキャラは募集していますのでそちらの方にでも投稿してくださればがんばって書きますのでよろしくお願いします。

最後になりますが、本当にこのSSを応援してくださって本当にありがとうございます!これが永遠の別れというわけではないので、また別の作品を投稿した際には是非とも読んでいただけるとありがたいです。

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